(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】X線解析用セル、及びX線解析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20033 20180101AFI20221021BHJP
G01N 23/085 20180101ALN20221021BHJP
【FI】
G01N23/20033
G01N23/085
(21)【出願番号】P 2017219102
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-11-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業「放射光を中心とした先端計測技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【復代理人】
【識別番号】100194869
【氏名又は名称】榎本 慎一
(73)【特許権者】
【識別番号】593001624
【氏名又は名称】株式会社米倉製作所
(72)【発明者】
【氏名】君島 堅一
(72)【発明者】
【氏名】木村 正雄
(72)【発明者】
【氏名】浅原 大司
(72)【発明者】
【氏名】大西 康弘
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1310548(KR,B1)
【文献】特開平01-260353(JP,A)
【文献】実開昭48-018184(JP,U)
【文献】特開昭63-274685(JP,A)
【文献】特開2015-129708(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102590253(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のX線回折及びX線吸収微細構造を、同時に、前記試料の同視野で測定可能なX線解析用セルであって、
前記試料が保持される空間を備え、前記試料を加熱する焦点型加熱器を有する炉と、
前記炉に設けられ、前記試料に照射されるX線が入射する第一窓と、
前記炉に設けられ、前記試料に照射されたX線が出射する第二窓と、
前記炉に設けられ、前記試料を視認するとともに前記試料より放射された蛍光X線を通す第三窓と、
前記空間に前記試料を位置決めするホルダとからなり、
さらに、
前記空間が、2つの回転楕円体を回転軸方向に合体した形状で、かつ前記2つの回転楕円体のそれぞれ2つの焦点の内の1つの焦点を前記2つの回転楕円体で共有する形状の空間で、その内面に赤外線を反射するミラーが備えられ、共有された焦点位置に前記試料が配置され、共有されない他方のそれぞれの焦点に前記焦点型加熱器である第一、第二加熱装置の赤外線ランプがそれぞれ配置され、
前記空間に連通し、前記空間にガスをフローするためのガス注入部と、前記ガスを排出するガス排出部を備え、
前記試料を1000℃以上の超高温に加熱した状態で、
前記第二窓の外で前記試料のX線回折を、前記第三窓から前記試料のX線吸収微細構造を、同時に測定可能にすることを特徴とするX線解析用セル。
【請求項2】
前記ホルダが、前記炉に挿抜可能なことを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
【請求項3】
前記炉内に、前記炉を冷却する流体が流れる流路を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
【請求項4】
前記ホルダが、前記試料を載置し、前記空間に位置するステージと、
前記ステージに接続する中空のセラミック製の棒と、
前記棒の前記ステージの反対側に接続し、前記炉に嵌着するアダプタと、
前記棒内部に配線され、前記ステージに接続する熱電対とからなり、
前記ステージを前記棒とともに回転可能な温接点とすることを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のX線解析用セルと、X線回折検出器と、X線吸収微細構造測定用検出器とからなり、X線回折及びX線吸収微細構造を同時に測定することを特徴とするX線解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の構造・化学状態変化の測定に関し、より詳しくは、材料のX線回折(XRD)及びX線吸収微細構造(XAFS)を、同時に、前記材料の同視野で測定可能にするX線解析用セル、及びX線解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折は、文献1などに開示されているように、物質にX線を照射して、その回折パターン((以下、XRDパターンともいう)取得、解析して結晶構造を決定するものである。他方、X線吸収微細構造測定は、文献2,3に開示されているように、物質にX線を照射して、透過率(X線吸収スペクトル(以下、XAFSスペクトルともいう))からX線吸収原子の電子状態やその周辺構造(隣接原子までの距離やその個数)などの情報を得るものである。
【0003】
しかながら、材料のX線回折とX線吸収微細構造を、超高温で同時に測定可能にするX線解析用セル、及びそれを用いて、材料のX線回折とX線吸収微細構造を、超高温で同時に、前記材料の同視野(同位置)で測定するX線解析装置は知られていない。
【0004】
それは、XAFS測定用の光学系は点(0次元)であるが、XRD測定用の光学系は線ないし面(1ないし2次元)での検出が必要になるのが最大の理由である。また、異なる検出器と光学配置が必要であるが、これらの光学系と試料を超高温まで加熱させることの両立(試料の保持、加熱、断熱、加熱容器の冷却)を実現することは非常に困難でありその方法が提供されていなかった。
【0005】
特に、超高温加熱については、炉を断熱材で覆い、内部の真空度を高め、熱の外部伝達を防ぐ必要があり、窓の位置制限、大きさ、素材についても種々の制限があった。例えば、超高温まで試料を加熱させ、かつXAFSとXRDの測定を行うためには、炉に2種類の測定に対応したX線透過窓を配置しつつ、加熱する必要があった。さらに、実用的な加熱速度を確保しつつ、窓を確保することができる、試料保持手段が無かった。
【0006】
また、従来のように、別個にX線回折とX線吸収微細構造を測定する方法では、微小領域である同一箇所の測定は実質的に不可能であった。別個で、同一箇所を測定できないために、微小領域における局所的な不可逆反応を評価することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-132977号公報(XRD)
【文献】特開2017-053826号公報(XRD)
【文献】特開2006-162506号公報(XAFS)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、材料(試料)のX線回折及びX線吸収微細構造を、同時に、前記試料の同視野で測定可能にするX線解析用セル、及びX線解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)
試料のX線回折及びX線吸収微細構造を、同時に、前記試料の同視野で測定可能なX線解析用セルであって、
前記試料が保持される空間を備え、前記試料を加熱する焦点型加熱器を有する炉と、
前記炉に設けられ、前記試料に照射されるX線が入射する第一窓と、
前記炉に設けられ、前記試料に照射されたX線が出射する第二窓と、
前記炉に設けられ、前記試料を視認するとともに前記試料より放射された蛍光X線を通す第三窓と、
前記空間に前記試料を位置決めするホルダとからなり、
さらに、
前記空間が、2つの回転楕円体を回転軸方向に合体した形状で、かつ前記2つの回転楕円体のそれぞれ2つの焦点の内の1つの焦点を前記2つの回転楕円体で共有する形状の空間で、その内面に赤外線を反射するミラーが備えられ、共有された焦点位置に前記試料が配置され、共有されない他方のそれぞれの焦点に前記焦点型加熱器である第一、第二加熱装置の赤外線ランプがそれぞれ配置され、
前記空間に連通し、前記空間にガスをフローするためのガス注入部と、前記ガスを排出するガス排出部を備え、
前記試料を1000℃以上の超高温に加熱した状態で、
前記第二窓の外で前記試料のX線回折を、前記第三窓から前記試料のX線吸収微細構造を、同時に測定可能にすることを特徴とするX線解析用セル。
(2)
前記ホルダが、前記炉に挿抜可能なことを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
(3)
前記炉内に、前記炉を冷却する流体が流れる流路を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
(4)
前記ホルダが、前記試料を載置し、前記空間に位置するステージと、
前記ステージに接続する中空のセラミック製の棒と、
前記棒の前記ステージの反対側に接続し、前記炉に嵌着するアダプタと、
前記棒内部に配線され、前記ステージに接続する熱電対とからなり、
前記ステージを前記棒とともに回転可能な温接点とすることを特徴とする請求項1に記載のX線解析用セル。
(5)
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のX線解析用セルと、X線回折検出器と、X線吸収微細構造測定用検出器とからなり、X線回折及びX線吸収微細構造を同時に測定することを特徴とするX線解析装置。
とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記構成であるので、材料(試料)のX線回折とX線吸収微細構造を、同時に、前記材料の同視野(試料同位置)で測定することができる。その際、試料温度を室温(例えば20℃)~加熱可能で、装置の耐熱性の範囲内で超高温(例えば1000℃以上、1500℃以上、さらには1800℃以上)に加熱し、測定することもできる。さらに、セルを冷却すること、また、試料設置空間にガスを注入することもできる。加えて、試料は、ホルダを用いて、試料設置空間に断熱的に、挿抜して、設置でき、試料の設置、交換が極めて容易である。
【0011】
そして、炉2に冷却機能を配置することにより、第一窓6を試料に近づけることが可能になる。さらに、試料設置空間にガスを充填、フローすることで、従来は困難であった、試料のガス雰囲気および温度を一定に保ったまま、試料中の特定の微少部位にX線を照射した状態で、X線回折及びX線吸収微細構造を高温で同時に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明であるX線解析用セルの(A)正面左側、(B)正面右側からの斜視模式図である。
【
図2】
図2は、本発明であるX線解析用セルの(A)背面左側、(B)背面右側からの斜視模式図である。
【
図3】
図3は、本発明であるX線解析装置の構成図、及びX線解析用セルの
図1のA-A矢視に対応する断面図である。
【
図6】
図6は、試料Yb
2Si
2O
7焼結体の700,1100,1500℃におけるXAFSスペクトルである。
【
図7】
図7は、
図6のXAFSスペクトルから抽出したXAFS振動スペクトルグラフである。
【
図8】
図8は、
図6の
XAFSスペクトルの取得と同時にX線照射して得た温度別の試料Yb
2Si
2O
7焼結体のXRDパターンである。
【
図9】
図9は、XRD及びXAFSの同時測定時の試料の昇温カーブである。
【
図10】
図10は、本発明であるX線解析用セルの超高温域(1500℃付近)での、温度保持特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
<X線解析用セル>
図1-5に示すように、本発明であるX線解析用セル1は、炉2と、炉2に設けられた第一窓6、第二窓7、第三窓8と、炉2内の空間3aに試料20を位置決めするホルダ10とから
なり、試料20(材料)のX線
回折及びX線吸収微細構造を同時に、試料20の同視野で測定可能にする。
【0015】
炉2は、ここでは、加熱部3と、加熱部3に嵌合、連結し、各窓6-8が設置される第一ブロック5a及び第二ブロック5bとからなる。第一ブロック5a及び第二ブロック5bで、窓保持部5を形成する。
【0016】
加熱部3は、試料20が保持される空間3aを備えた容器3bと、試料20を挟み直線上で、試料20に焦点が位置して加熱する第一加熱装置4a及び第二加熱装置4bと、第一、第二加熱装置4a、4bをそれぞれ保持して、容器3bに嵌合する第一基部3c及び第二基部3dとからなる。なお、第一加熱装置4a及び第二加熱装置4bは焦点型加熱器(例えば、ランプ式の赤外線集光ヒーター)である。
【0017】
各部材は、ボルトで連結等して、部材間はOリングを介在させて、気密を確保する。空間3aは、
図3の点線を回転軸とする2つの回転楕円体が回転体軸方向に合体したような形状で、かつ、2つ
の回転楕円体の回転軸上に位置する、それぞれ2つの焦点の内の1つの焦点を2つの回転楕円体で共有する形状の空間で、その内面には赤外線を反射するミラー3fを備えている。共有された焦点位置に試料20が配置され、共有されない他方のそれぞれの焦点に焦点型加熱器である第一、第二加熱装置4a、4bの赤外線のランプがそれぞれ配置される。第一、第二基部3c、3dには、流体循環、ファンによる送風などの冷却機能を備えるのが好ましい。
【0018】
図3に詳述されているように、第一窓6は、ここでは、第二ブロック5bの側面の外と空間3aを連通する貫通孔5cの外側端部に設けられ、試料20に照射されるX線が入射する窓である。第一窓6は、X線が試料に到達するだけの隙間があれば十分で、実施例では、X線ビームの太さが約20umであったので、光軸9の位置決め作業の効率を考えて8mmとした。なお、ビームの太さは使用するビームラインや設定に依存する。
【0019】
全ての窓6-8の共通事項として、基本的には窓は大きい方が良いが、窓が大きいと、ミラー3fの面積が小さくなるため、昇温効率が悪くなる。
【0020】
第二窓7は、ここでは、第一ブロック5aの側面の外と空間3aを連通する第二スリット5dの外側端部に設けられ、試料20に照射されたX線が出射し、X線の光路である光軸9のX線の進行方向先の外に配置したX線回折検出器40で試料20のX線回折を測定可能にする窓である。第二窓7は、試料20からの回折角度方向に見込み角度が大きければ充分であるので、例えば長方形型、もしくは幅細の円筒型とするとよい。
【0021】
スリット5dは、
図4に示すように、試料20を中心として、光軸9から上方45°、光軸9から下方に2°の角度範囲で溝を形成されている。第一窓6と第二窓とはX線の光軸9上にあり、試料20も光軸9上に配置される。さらに、スリット5dの幅を狭くすることでX線解析測定に不要なX線散乱の影響を小さくすることができる。
【0022】
第三窓8は、ここでは、第二ブロック5bの側面の外と空間3aを連通するチャンネル5eの外側端部に設けられ、試料20を視認でき、X線吸収微細構造測定用検出器50で試料20のX線吸収微細構造を測定可能にする窓である。
チャンネル5eは、試料20を頂点として、四角の第三窓8まで四角柱状の空間である。第三窓8は光軸9に対して、平面において、90°の方向に位置するのが最も測定精度が高い(S/N(S/B)がよくなる)。なお、第三窓8は、X線吸収微細構造測定用検出器50の受光面積を考慮しつつ、試料20を見込む立体角度を備えればよい。
【0023】
ホルダ10は、
図5に詳細に示すように、試料20を載置するステージ10aと、ステージに接続する棒10bと、棒10bを内部に挿入するアダプタ10cと、アダプタ10cと棒10bとの気密性を確保するOリング10dと、アダプタ10cのステージ10aがある側と反対の端部の溝に嵌る冶具10eと、冶具10eに接触し、空間3aの気密性を確保するパッキン10fと、パッキン10fを冶具10eとともにサンドして圧迫する押さえ10gと、押さえ10gでパッキン10fを圧迫させるとともに、押さえ10gをアダプタ10c固定するネジ10hと、ステージ10aに接続し、棒10b内部を通り、アダプタ10c、冶具10e、パッキン10f、押さえ10gの穴に挿通して、外部温度表示器に接続し、試料20の温度を計測する熱電対10iとからなる。
【0024】
例えば、棒10bをアルミナ製とすることで、試料20を光軸9上の空間中に保持し、熱伝導による放熱を避けつつ試料20を加熱することができる。その他、使用条件に耐久性があり、熱伝導が小さい材料であればアルミナ以外の材料でもよく、特に制限されない。
【0025】
他方、ステージ10aの素材は、使用環境への耐久性があれば特に制限はない。後述の実施例では、白金製を用いた。そして、Pt素線とPt/Rh線を接続することで、ステージ10a自体を熱電対10iの温接点にすることでき、ステージ10aの温度、ひいては試料20の温度をより正確に測定することができる。
【0026】
このようにしてなるホルダ10は、第一ブロック5aの受け5fに挿抜可能に嵌められ、試料20を空間3aに断熱的に位置させるとともに、アダプタ10cを回転させることで、ステージ10a、ひいては試料20を回転させ、XAFSとXRD測定を両立させるX線の最適な入射角度調整、保持することができる。
【0027】
そして、ホルダ10を赤外線集光ヒーターの焦点に配置して、試料20を加熱させることで、各窓への熱負荷を減らすことができ、ベリリウムや窒化ホウ素結晶など実験に制限がある窓材では無く、ポリイミドフィルム(カプトン(登録商標))など高温に弱い素材も使用することができる。また、ステージ10aを板状にすれば、試料20を切断以外の特殊な前処理を必要とせずに、X線解析測定に用いることができる。
【0028】
さらに、炉2には、試料20の加熱による熱から炉2を保護するため、炉2を冷却する流体が流れる流路11a(一部のみ掲載、他は図示省略)が穿設される。そして、ここでは、流路11aに連通する流体注入部11が、第二ブロック5bの側面に設けられている。なお、流体の排出部は所望の位置で流路11aに接続すればよく、ここでは図示を省略した。炉2を冷却することで、また、試料20をステージ10aに載置することで、より高温での試料20のX線解析を可能にする。
【0029】
また、炉2には、空間3aにガスを充填もしくはフローするためのガス注入部12と、ガスを排出するガス排出部(図示省略、サービスポート3eを用いてもよい、サービスポート3eは、空間3aにアクセスできるもので、後日の機能付加等に利用することができる)を備える。ここでは、ガス注入部12は、第一ブロック5aの側面の外と空間3aを連通する貫通孔12aの外側端部に設けられる。これにより、空間3aを真空からガス雰囲気下に制御でき、さらに高温(例えば、1500℃以上)、ガス雰囲気下で、試料20の化学反応を含め、X線解析ができる。
【0030】
超高温で、XAFSとXRDを同時に、試料同位置で測定するためには、試料を加熱しつつ、XAFSおよびXRD測定用の窓を配置する必要があった。しかし、従来の技術の延長では、試料を超高温に加熱するためには、ヒーターの熱をX線解析用セル外に伝導させないように断熱処理を施す必要があるため、測定用の窓を確保することができなかった。
【0031】
他方、本発明では、焦点型加熱器(第一、第二加熱装置4a、4b)及びホルダ10を採用することで、X線解析用セル1の断熱処理が緩和され、炉2に第二窓7、第三窓8を設けることができるようになった。
【0032】
そして、第二窓7、第三窓8は、XAFSとXRDを同時に、試料同位置で測定に必要な光学系を保証する位置に配置することができた。その結果、XAFSとXRDを同時に、試料同位置で測定可能になった。
【0033】
また、本発明の第二窓7、第三窓8の位置、形状であれば、XAFSとXRDの互いの測定が干渉せず、高精度な測定が可能である。
【0034】
<X線解析装置>
図3-4に示すように、本発明であるX線解析装置30は、X線解析用セル1と、第二窓7の外に位置し、試料20に照射されたX線の
回折を検出するX線
回折検出器40と、第三窓
8の後方に位置し、X線が照射された試料20のX線吸収スペクトルを検出するX線吸収微細構造測定用検出器50とからなる。
【0035】
試料20にX線を照射することで、同じ試料20について、同時に、同一場所のX線回折及びX線吸収微細構造を測定することができる。
【0036】
X線回折検出器40は、比例計数管、CCD検出器、イメージングプレートなど、X線回折の検出に用いられる、既存の市場に流通する検出器を採用することができる。X線吸収微細構造測定用検出器50も、蛍光法XAFS用ライトル検出器、蛍光法XAFS用シリコンドリフト検出器、19素子Ge-SSD検出器など市場に流通している、既存の検出器を利用することができる。
【0037】
<測定手順>
ここで、X線は、使用するX線は、シンクロトロン放射(以下、放射光)、実験室用X線発生装置(X線管球等)からのX線のいずれも使用可能であるが、XAFSの測定には放射光の使用が望ましい。X線が光軸9にくるように、X線解析用セル1は配置される。
【0038】
試料20をステージ10a上に配置する。ホルダ10を回転させて、試料20がX線光軸9中に配置されるようにする。さらに、ホルダ10はXRDおよびXAFS測定の両方を実現するために試料20と入射X線の角度を適切な角度に設定する。
【0039】
第一、第二加熱装置4a、4bによる赤外線の照射により試料20は加熱される。ホルダ10は、アルミナ等のセラミック製の棒10bで断熱的に保持されている。照射赤外線により加熱することで熱のロスを小さくして試料20を加熱することができる。
【0040】
X線光軸9に対して平面内垂直方向(水平面方向、90°が望ましいが限定されない)に蛍光検出器を配置してXAFSの測定を行う。光軸9に対して鉛直面内垂直方向に角度分解検出器(1ないし2次元X検出器もしくは、ゴニオメータに設置したX線検出器。以下、角度分解検出器等)を配置して、XRD測定をする。
【0041】
第一窓6を通して、X線を試料20に対して照射する。
試料20から放射される蛍光X線を、第三窓8を通して蛍光検出器で検出することによりXAFSスペクトルを測定することができる。他方、光軸9方向に回折されるX線を、第二窓7を通して角度分解検出器等を用いて検出することによりXRDを測定することができる。
【0042】
均一に進行しない反応~局所的に進行する変化を測定・評価するためには、同時に同一視野を測定する技術が必要である。さらに、加熱等によって不可逆な変化が生じる場合には、個別に測定することは無意味である。
【0043】
<測定結果>
以下、Yb2Si2O7焼結体(8×8×0.5mm)を試料20として、設定温度1500℃として、加熱し、XRDおよびXAFSの測定を行った。
【0044】
図6に、試料Yb
2Si
2O
7焼結体の700,1100,1500℃におけるXAFSスペクトルを示す。約8.9keVに、YbLIII
吸収端が確認できる。なお、
図6横軸がエネルギー/eVで、縦軸が規格化した吸光度(μt)である。
【0045】
図7に、
図6のXAFSスペクトルから抽出したXAFS振動グラフを示す。温度が上昇するにつれ、振動強度が変化していることが明確に観察されている。なお、
図7横軸が波数、縦軸が振動強度である。
【0046】
図8に、
図6の
XAFSスペクトルの取得と同時にX線照射して得た温度別の試料Yb
2Si
2O
7焼結体のXRDパターンを示す。
【0047】
図6-8から、本発明のX線解析用セル1で、約1500℃で、試料のX線
回折及びX線吸収微細構造を、同時に、同視野(試料同位置)で測定することができることが証明される。もちろん、試料20を、室温としても、他方
、X線解析用セル
1の部品が耐える
ことができる1500℃以上の温度で
も、XRD及びXAFSの同時測定時も可能である。
【0048】
図9は、XRD及びXAFSの同時測定時の試料の昇温カーブである。
図9に示された結果から、本発明のX線解析用セル1は、実用に耐える昇温スピードを実現していることが分かる。具体的には、室温(25℃)から1500℃まで、500℃/分の速度で加熱できている。なお、
図9の横軸が経過時間(分)、縦軸がステージ上の試料温度(℃)であり、
図10も同様である。
【0049】
また、
図10は、本発明であるX線解析用セル1の超高温域(1500℃付近)での、温度保持特性を示すグラフである。
図10に示された結果から、
試料温度は、設定温度を高精度で保持していることが分かる。具体的には、
試料温度は、設定温度1500℃に到達後、1500℃±3.9℃で、30分間、温度保持ができている。
【符号の説明】
【0050】
1 X線解析用セル
2 炉
3 加熱部
3a 空間
3b 容器
3c 第一基部
3d 第二基部
3e サービスポート
3f ミラー
4 焦点型加熱器
4a 第一加熱装置
4b 第二加熱装置
5 窓保持部
5a 第一ブロック
5b 第二ブロック
5c 貫通孔
5d スリット
5e チャンネル
5f 受け
6 第一窓
7 第二窓
8 第三窓
9 光軸
10 ホルダ
10a ステージ
10b 棒
10c アダプタ
10d Oリング
10e 冶具
10f パッキン
10g 押さえ
10h ネジ
10i 熱電対
11 流体注入部
11a 流路
12 ガス注入部
12a 貫通孔
20 試料
30 X線解析装置
40 X線回折検出器
50 X線吸収微細構造測定用検出器