(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】体温調整機能の評価装置、空気処理装置、及び体温調整機能の評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20221021BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20221021BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20221021BHJP
【FI】
A61B5/16 200
A61B5/00 N
A61B5/16 110
F24F11/63
(21)【出願番号】P 2020184686
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】繪本 詩織
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
(72)【発明者】
【氏名】坂田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 美帆
(72)【発明者】
【氏名】森戸 勇介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-248293(JP,A)
【文献】特開2019-086223(JP,A)
【文献】特開2017-225489(JP,A)
【文献】特開2011-212306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
F24F 11/00-11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の自律神経指標をコンピュータが取得する工程と、
前記対象者の発汗指標を前記コンピュータが取得する工程と、
前記対象者の前記自律神経指標と前記対象者の前記発汗指標とを用いて、前記対象者の体温調整機能を前記コンピュータが評価する評価工程と
を含
み、
前記コンピュータは、前記取得された前記対象者の前記自律神経指標と前記発汗指標との指標組について、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値により区分された指標組毎の体温調整機能の評価結果と対応付けることで、前記対象者の体温調整機能を評価し、
前記自律神経指標は、心拍変動指標又は脈拍変動指標を含み、
前記発汗指標は、皮膚コンダクタンス又は発汗量を含む
ことを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項2】
請求項1
において、
前記評価工程では、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値に基づいて前記体温調整機能の評価結果を複数のパターンに分類した分類情報(Z)をさらに用いて、前記対象者の体温調整機能が評価されることを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項3】
請求項2
において、
前記複数のパターンは、それぞれ、複数の指標組と対応付けられ、
前記複数の指標組の各々は、前記閾値により区分された範囲を有する前記自律神経指標と前記発汗指標との組み合わせで構成され、
前記評価工程では、前記複数の指標組のうち、前記対象者の自律神経指標と前記対象者の発汗指標とを含んだ範囲を有する指標組が選択され、前記複数のパターンのうち、前記選択された指標組と対応付けられるパターンが、前記対象者の体温調整機能に該当すると評価されることを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3
において、前記自律神経指標、及び/又は前記発汗指標に対して設定される閾値が、互いに異なる温度毎に設定されること特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項5】
請求項2又は請求項3
において、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値が、前記体温調整機能を評価される直前に前記対象者が置かれていた環境を表す環境指標に基づいて設定されること特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項6】
請求項2又は請求項3
において、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値が、気温に対する対象者の性質を考慮して設定されること特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項7】
請求項2から請求項6
のいずれか1項において、
前記評価工程で評価された前記対象者のパターンが前記複数のパターンのうちの所定パターンに該当し、前記対象者が前記所定パターンに該当する状態が所定の期間継続すると、所定の情報を外部に報知する工程をさらに含むことを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項8】
請求項1から
請求項7のいずれか1項において、
前記評価工程での評価結果に基づいて、前記対象者が存在する室内の温度を空気処理装置(400)が制御する制御工程をさらに含むことを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項9】
請求項8
において、
前記制御工程では、
前記対象者の体温調整機能が第1パターンに評価される場合、室内の温度が所定の第1温度になるように前記空気処理装置(400)が動作し、
前記対象者の体温調整機能が前記第1パターンとは異なる第2パターンに評価される場合、前記室内の温度が前記所定の第1温度よりも低い所定の第2温度になるように低下した後、前記所定の第1温度に上昇するように前記空気処理装置(400)が動作することを
特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項10】
請求項8
において、
前記制御工程では、
前記対象者の体温調整機能が第1パターンに評価される場合、室内の温度が所定の第1温度になるように前記空気処理装置(400)が動作し、
前記対象者の体温調整機能が前記第1パターンとは異なる第2パターンに評価され、かつ、前記室内の温度が所定温度以上になる場合、前記室内の温度が前記所定の第1温度よりも低い所定の第2温度になるように低下した後、前記所定の第1温度に上昇するように前記空気処理装置(400)が動作することを特徴とする体温調整機能の評価方法。
【請求項11】
対象者の自律神経指標を取得する第1取得部(310)と、
前記対象者の発汗指標を取得する第2取得部(320)と、
前記対象者の前記自律神経指標と前記対象者の前記発汗指標とを用いて、前記対象者の体温調整機能を評価する評価部(350)と
を備え
、
前記評価部(350)は、前記取得された前記対象者の前記自律神経指標と前記発汗指標との指標組について、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値により区分された指標組毎の体温調整機能の評価結果と対応付けることで、前記対象者の体温調整機能を評価し、
前記自律神経指標は、心拍変動指標又は脈拍変動指標を含み、
前記発汗指標は、皮膚コンダクタンス又は発汗量を含む
ことを特徴とする体温調整機能の評価装置。
【請求項12】
請求項11
に記載の体温調整機能の評価装置(300)を備えることを特徴とする空気処
理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体温調整機能の評価装置、空気処理装置、及び体温調整機能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のリスク判定装置は、被験者の末梢血流に関連する生理指標を計測する計測部と、前記生理指標の揺らぎ(血流量の揺らぎ)の大きさを取得し、前記揺らぎの大きさから体温調節機能の異常のリスクを判定する解析部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のリスク判定装置は、血流量の揺らぎが一定以下になった際に体温調節機能の異常のリスクがあると判定しているが、そのときには既に体温調節機能は破綻直前の状態であり、体温調節機能の異常が既に発生している可能性があった。
【0005】
本開示の目的は、対象者の体温調節機能の働き度合いを出力することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、体温調整機能の評価方法を対象とする。体温調整機能の評価方法は、対象者の自律神経指標を取得する工程と、前記対象者の発汗指標を取得する工程と、前記対象者の前記自律神経指標と前記対象者の前記発汗指標とを用いて、前記対象者の体温調整機能を評価する評価工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
第1の態様では、対象者の体温調整機能の働き度合いを出力することができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記自律神経指標は、心拍変動指標及び脈拍変動指標のうちの少なくとも一つを含み、前記発汗指標は、皮膚コンダクタンス及び発汗量のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0009】
第2の態様では、心拍変動指標と、皮膚コンダクタンス又は発汗量とを用いて、対象者の体温調整機能を評価できる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様において、前記評価工程では、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値に基づいて前記体温調整機能の評価結果を複数のパターンに分類した分類情報(Z)をさらに用いて、前記対象者の体温調整機能が評価されることを特徴とする。
【0011】
第3の態様では、分類情報を用いて対象者の体温調整機能を評価できる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第3の態様において、前記複数のパターンは、それぞれ、複数の指標組と対応付けられ、前記複数の指標組の各々は、前記閾値により区分された範囲を有する前記自律神経指標と前記発汗指標との組み合わせで構成され、前記評価工程では、前記複数の指標組のうち、前記対象者の自律神経指標と前記対象者の発汗指標とを含んだ範囲を有する指標組が選択され、前記複数のパターンのうち、前記選択された指標組と対応付けられるパターンが、前記対象者の体温調整機能に該当すると評価されることを特徴とする。
【0013】
第4の態様では、対象者の体温調整機能を複数のパターンのうちから決定できる。
【0014】
本開示の第5の態様は、第3の態様又は第4の態様において、前記自律神経指標、及び/又は前記発汗指標に対して設定される閾値が、互いに異なる温度毎に設定されること特徴とする。
【0015】
第5の態様では、温度が異なると自律神経の状態及び発汗量も異なるという人の生理現象を考慮して、自律神経指標、及び/又は発汗指標の閾値を設定することができる。
【0016】
本開示の第6の態様は、第3の態様又は第4の態様において、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値が、前記体温調整機能を評価される直前に前記対象者が置かれていた環境を表す環境指標に基づいて設定されること特徴とする。
【0017】
第6の態様では、環境指標に基づいて、自律神経指標及び発汗指標の各々の閾値を設定できる。
【0018】
本開示の第7の態様は、第3の態様又は第4の態様において、前記自律神経指標及び前記発汗指標の各々に対して設定される閾値が、気温に対する対象者の性質を考慮して設定されること特徴とする。
【0019】
第7の態様では、気温に対する対象者の性質を考慮して、自律神経指標及び発汗指標の各々の閾値を設定できる。
【0020】
本開示の第8の態様は、第3の態様から第7の態様のうちのいずれか1つにおいて、前記評価工程で評価された前記対象者のパターンが前記複数のパターンのうちの所定パターンに該当し、前記対象者が前記所定パターンに該当する状態が所定の期間継続すると、所定の情報を外部に報知する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0021】
第8の態様では、対象者が所定パターンに該当する状態が所定の期間継続していることを報知できる。
【0022】
本開示の第9の態様は、第1の態様から第8の態様のうちのいずれか1つにおいて、前記評価工程での評価結果に基づいて、前記対象者が存在する室内の温度を空気処理装置(400)が制御する制御工程をさらに含むことを特徴とする。
【0023】
第9の態様では、対象者の体温調整機能の評価結果を考慮して、空気処理装置の動作を制御できる。
【0024】
本開示の第10の態様は、第9の態様において、前記制御工程では、前記対象者の体温調整機能が第1パターンに評価される場合、室内の温度が所定の第1温度になるように前記空気処理装置(400)が動作し、前記対象者の体温調整機能が前記第1パターンとは異なる第2パターンに評価される場合、前記室内の温度が前記所定の第1温度よりも低い所定の第2温度になるように低下した後、前記所定の第1温度に上昇するように前記空気処理装置(400)が動作することを特徴とする。
【0025】
第10の態様では、対象者の体温調整機能の評価結果のパターンに応じて空気処理装置の制御内容を構成できる。
【0026】
本開示の第11の態様は、第9の態様において、前記制御工程では、前記対象者の体温調整機能が第1パターンに評価される場合、室内の温度が所定の第1温度になるように前記空気処理装置(400)が動作し、前記対象者の体温調整機能が前記第1パターンとは異なる第2パターンに評価され、かつ、前記室内の温度が所定温度以上になる場合、前記室内の温度が前記所定の第1温度よりも低い所定の第2温度になるように低下した後、前記所定の第1温度に上昇するように前記空気処理装置(400)が動作することを特徴とする。
【0027】
第11の態様では、対象者の体温調整機能の評価結果のパターンに応じて空気処理装置の制御内容を構成できる。
【0028】
本開示の第12の態様は、体温調整機能の評価装置を対象とする。体温調整機能の評価装置は、対象者の自律神経指標を取得する第1取得部(310)と、前記対象者の発汗指標を取得する第2取得部(320)と、前記対象者の前記自律神経指標と前記対象者の前記発汗指標とを用いて、前記対象者の体温調整機能を評価する評価部(350)とを備えることを特徴とする。
【0029】
第12の態様では、対象者の体温調整機能の働き度合いを出力することができる。
【0030】
本開示の第13の態様は、空気処理装置を対象とする。空気処理装置は、体温調整機能の評価装置(300)を備えることを特徴とする。
【0031】
第13の態様では、体温調整機能の評価装置による対象者の体温調整機能の評価結果を考慮して、空気処理装置の動作を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る体温調整機能の評価システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、縦軸を心拍変動指標とし、横軸を時間とする座標系に表示されるグラフを示す。
【
図3】
図3は、縦軸を皮膚コンダクタンスとし、横軸を時間とする座標系に表示されるグラフを示す。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係る体温調整機能の評価システム構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、空気処理装置の動作の一例を示すフロー図である。
【
図7】
図7は、第1処理が行われるときの皮膚コンダクタンスと室内の温度とを示す図である。
【
図8】
図8は、第2処理が行われるときの皮膚コンダクタンスと室内の温度とを示す図である。
【
図9】
図9は、環境指標と、第1閾値と、第2閾値とを対応付けた環境対応情報を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付し、詳細な説明及びそれに付随する効果等の説明は繰り返さない。
【0034】
―第1実施形態―
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る体温調整機能の評価システム(10)について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る体温調整機能の評価システム(10)の構成を示すブロック図である。以下では、体温調整機能の評価システム(10)のことを評価システム(10)と記載することがある。
【0035】
―全体構成―
図1に示すように、評価システム(10)は、第1センサ(100)と、第2センサ(200)と、体温調整機能の評価装置(300)とを備える。以下では、体温調整機能の評価装置(300)のことを評価装置(300)と記載することがある。
【0036】
第1センサ(100)は、対象者に装着され、対象者の自律神経系が関わる制御系の活動状態を示す物理量を測定する。第1実施形態では、第1センサ(100)は、当該物理量の一例である対象者の心拍数を測定する。第1センサ(100)は、例えば、心電センサを含む。
【0037】
第2センサ(200)は、対象者に装着され、対象者の発汗指標を測定する。発汗指標は、皮膚表面において発汗によって変化する物理量を示す。発汗指標には、皮膚電位(Skin Potential Activity:SPA)、皮膚コンダクタンス(Skin Condactance Change:SC)等の皮膚電気活動(Electro Dermal Activity:EDA)、発汗量等がある。第1実施形態では、発汗指標として皮膚コンダクタンス(SC)を採用する。この場合、第2センサ(200)は、皮膚コンダクタンス測定デバイスを含み、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)を測定する。なお、発汗指標として発汗量を採用してもよい。この場合、第2センサ(200)は、発汗計のような発汗量計測デバイスを含み、対象者の発汗量を測定する。
【0038】
評価装置(300)は、例えば、スマートフォン、及び、PC(Personal Computer)のような端末を含む。評価装置(300)は、第1取得部(310)と、第2取得部(320)と、報知部(330)と、記憶部(340)と、評価部(350)とを備える。評価装置(300)は、対象者の体温調整機能を評価することで、対象者の体温調整機能の働き度合いを示す情報を出力する。体温調整機能は、熱ストレスに対して、放熱(発汗する等)、産熱(体を震えさせる等)等を適宜行うことで体温を維持する機能を示す。熱ストレスは、温熱環境から人が受ける負荷(例えば、体温の維持を妨げる温冷刺激)を示す。体温調整機能の働き度合いは、自律神経を通じた中枢から末端への体温調節機能に関わる指示に対して、発汗する動作、体を震えさせる動作、及び、血管を拡張又は収縮させる動作のような体温調節のための動作がどれ位の頻度で行われているかで定義する。
【0039】
第1取得部(310)は、第1センサ(100)と通信を行うためのデバイスを含む。第1取得部(310)は、第1センサ(100)により測定された心拍間隔を示す情報を取得する。第1取得部(310)は、第1センサ(100)と有線又は無線により通信可能に接続される。第1取得部(310)は、例えば、無線通信(Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)(Wireless Fidelity)、インターネット通信等)を行うためのデバイス(無線LANモジュール等)と、有線通信を行うためのデバイス(通信ケーブルが接続される通信ポート等)とのうちの少なくとも一方を含む。
【0040】
第1取得部(310)は、プロセッサーをさらに含む。第1取得部(310)のプロセッサーは、第1取得部(310)の測定結果に基づいて、自律神経指標を算出する。自律神経指標は、自律神経系が関わる制御系の活動状態を捉える指標を示す。第1実施形態では、自律神経指標は、心拍の活動状態を捉える心拍変動指標(LF/HF)を示す。第1取得部(310)のプロセッサーは、第1センサ(100)の測定結果である心拍数に基づいて、心拍変動指標(LF/HF)を算出する。心拍変動指標(LF/HF)は、例えば、心拍間隔から周波数解析により算出できる。すなわち、心拍変動(R-R間隔の変動)をフーリエ変換、ウェーブレット変換等の手法を用いて周波数解析(スペクトル解析)することにより、主に交感神経機能を反映する(一部副交感神経を含む)0.05から0.15Hzまでの低周波成分(LF)、副交感神経機能を反映する0.15から0.4Hzまでのの高周波成分(HF)、及び、心拍変動指標である低周波成分/高周波成分の比(LF/HF)を取得することができる。また、脈波の波形を2次微分して加速度脈波を算出し、得られた加速度脈波の波形から心電図のR-R間隔の変動に対応するa-a間隔(脈拍間隔)の変動を求め、このa-a間隔の時間変動を周波数解析し、その結果から心拍変動指標(LF/HF)を求めることもできる。
【0041】
なお、第1実施形態では、第1取得部(310)が心拍変動指標(LF/HF)を算出する処理を行ったが、本発明はこれに限定されない。第1センサ(100)が心拍変動指標(LF/HF)を算出する処理を行い、第1取得部(310)が第1センサ(100)からの心拍変動指標(LF/HF)を取得するように構成してもよい。
【0042】
第2取得部(320)は、第2センサ(200)と通信を行うためのデバイスを含む。第2取得部(320)は、第2センサ(200)により測定された皮膚コンダクタンス(SC)を示す情報を取得する。第2取得部(320)は、第2センサ(200)と有線又は無線により通信可能に接続される。第2センサ(200)は、例えば、無線通信を行うためのデバイスと、有線通信を行うためのデバイスとのうちの少なくとも一方を含む。
【0043】
報知部(330)は、所定の情報を報知する。報知部(330)は、例えば、報知音を発するスピーカ、所定の情報を表示するディスプレイ、及び/又は、所定の情報を外部の端末(スマートフォン等)に送信する通信デバイスを含む。所定の情報の説明は後述する。
【0044】
記憶部(340)は、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)のような主記憶装置(例えば、半導体メモリ)を含み、補助記憶装置(例えば、ハ-ドディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)、SD(Secure Digital)メモリカード、又は、USB(Universal Seral Bus)フラッシメモリ)をさらに含んでもよい。記憶部(340)は、評価部(350)及び第1取得部(310)のプロセッサーによって実行される種々のコンピュータープログラムを記憶する。
【0045】
記憶部(340)は、分類情報(Z)を記憶する。分類情報(Z)の説明は後述する。
【0046】
評価部(350)は、CPU及びMPUのようなプロセッサーを含む。評価部(350)は、記憶部(340)に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、評価装置(300)の各要素を制御する。
【0047】
―試験結果の説明―
図2及び
図3を参照して、本願発明者により行われた試験結果について説明する。
【0048】
図2は、縦軸を心拍変動指標(LF/HF)とし、横軸を時間とする座標系に表示されるグラフ(G1)を示す。一般に、心拍変動指標(LF/HF)が大きくなる程、ストレスが大きくなる。
【0049】
図3は、縦軸を皮膚コンダクタンス(SC)とし、横軸を時間とする座標系に表示されるグラフ(G2)を示す。グラフ(G1)及びグラフ(G2)の各々は、本試験の結果を示す。一般に、皮膚コンダクタンス(SC)が大きくなる程、発汗量が多くなる。
【0050】
本試験では、気温が常温(26℃)と高温(36℃)とに設定された2つの部屋を対象者が交互に移動し、さらに、試験期間中は常時、対象者の心拍変動指標(LF/HF)と皮膚コンダクタンス(SC)とが計測された。そして、試験の実施時間と、対象者の心拍変動指標(LF/HF)とを対応付けたグラフ(G1)(
図2参照)が作成される。また、試験の実施時間と、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)とを対応付けたグラフ(G2)(
図3参照)が作成される。
【0051】
図2及び
図3に示すように、本試験では、時間0~時間t1、時間t2~時間t3、時間t4~時間t5、時間t6~時間t7、及び時間t8以降の期間は、26℃の常温期間である。時間t1~時間t2、時間t3~時間t4、時間t5~時間t6、及び時間t7~時間t8の期間は、36℃の高温期間である。
【0052】
【0053】
グラフ(G1)に示すように、常温期間では、対象者の心拍変動指標(LF/HF)が現状維持又は低下する傾向にある。高温期間では、対象者の心拍変動指標(LF/HF)が上昇する傾向にある。
【0054】
【0055】
グラフ(G2)に示すように、常温期間では、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)が低下する傾向にある。高温期間では、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)が上昇する傾向にある。
【0056】
図2及び
図3を参照して、心拍変動指標(LF/HF)と皮膚コンダクタンス(SC)との関係について説明する。
【0057】
図2及び
図3に示すように、1回目の高温期間(時間t1~時間t2)では、他の高温期間に比べて、心拍変動指標(LF/HF)のピーク値(pa)が低く、皮膚コンダクタンス(SC)のピーク値(qa)が高い。つまり、発汗機能をつかさどる交感神経の活性状態も過剰になっていなくとも、十分な発汗量があることから、体温調節機能への負荷は高いが、余力をもって体温調節ができている状態であると解釈できる。
【0058】
2回目の高温期間(時間t3~時間t4)では、心拍変動指標(LF/HF)のピーク値(pb)が1回目の高温期間のピーク値(pa)よりも高いことから(pb>pa)、体温調節機能をつかさどる交感神経と、それに対して拮抗作用を持つ副交感神経のバランスが崩れてきていることが考えられる。その一方で、皮膚コンダクタンス(SC)のピーク値(qb)が1回目の高温期間のピーク値(qa)と同等である(qb≒qa)ことから、体温調節機能は維持できていると考えられる。したがって、体温調節機能への負荷が継続したため、余力は少なくなったが、体温調節機能は維持できている状態であると解釈できる。
【0059】
3回目の高温期間(時間t5~時間t6)では、心拍変動指標(LF/HF)のピーク値(pc)が2回目の高温期間と同様に高い状態であるが、皮膚コンダクタンス(SC)のピーク値(qc)が2回目の高温期間のピーク値(qb)よりも低下していることから、自律神経バランスの崩れと共に、発汗に関わる末梢の生理的な機構が疲弊することで、十分な発汗が行えなくなってきていることが予想される。この状態は2回目と比べて、体温調節機能が疲弊している状態であると解釈できる。
【0060】
4回目の高温期間(時間t7~時間t8)では、心拍変動指標(LF/HF)のピーク値(pd)が2回目の高温期間及び3回目の高温期間と同様に高い状態であるが、皮膚コンダクタンス(SC)のピーク値(qd)が3回目の高温期間のピーク値(qc)よりもさらに低下することで対象者の発汗量がさらに低下していることから、さらに体温調整機能が疲弊して体温調節が難しくなってきている状態であると解釈できる。
【0061】
上記の試験では、対象者は暑熱環境(36℃)と常温環境(26℃)に交互に20分ずつ滞在することで、徐々に体温調節機能に関わる指標が悪化するという結果が得られた。
【0062】
本願発明者は、上記の試験結果から、長時間の暑熱負荷の暴露や繰り返し暴露によって起きる、温調節機能に関わる自律神経バランスの崩れや、末梢の発汗機能の低下といった、体温調節機能の疲労状態を心拍変動指標(LF/HF)や発汗指標となる皮膚コンダクタンスの状態から体温調節機能の状態を段階的に評価する手法を開発した。
【0063】
―分類情報―
図1~
図4を参照して、記憶部(340)に記憶される分類情報(Z)について説明する。
図4は、分類情報(Z)を示す図である。
【0064】
分類情報(Z)は、自律神経指標及び発汗指標の各々に設定された閾値に基づいて体温調整機能の評価結果を複数のパターンに分類した情報である。複数のパターンは、それぞれ、複数の指標組と対応付けられる。複数の指標組の各々は、閾値により区分された範囲を有する自律神経指標と発汗指標との組み合わせで構成される。
【0065】
以下では、自律神経指標に設定される閾値を第1閾値と記載し、発汗指標に設定される閾値を第2閾値と記載することがある。
【0066】
第1実施形態では、分類情報(Z)は、自律神経指標の一例である心拍変動指標(LF/HF)と、発汗指標の一例である皮膚コンダクタンス(SC)とを用いて、体温調整機能の評価結果を複数のパターンに分類する。
【0067】
第1実施形態では、体温調整機能の評価結果が4つのパターン(A)~(D)に分類される。パターン(A)は、体温調節への負荷が低く、体温調節機能が疲労していない正常な状態状態を示す。パターン(B)は、体温調節の負荷が高いが、まだ余力があるような体温調節機能の疲労が低い状態を示す。パターン(C)は、体温調節の負荷が高く、余力が少ないような体温調節機能の疲労が中程度の状態を示す。パターン(D)は、体温調節の負荷が高く、体温の維持が難しくなるような体温調節機能の疲労が高い状態を示す。パターン(A)、パターン(B)、パターン(C)、及びパターン(D)の順番に、体温調整機能の評価結果が悪くなる。
【0068】
第1実施形態では、心拍変動指標(LF/HF)に対しては、第1閾値Vが設定される(
図2参照)。皮膚コンダクタンス(SC)に対しては、第2閾値Wが設定される(
図3参照)。
【0069】
図4に示す分類情報(Z)おいて、心拍変動指標(LF/HF)の欄に記載の「大」は、第1取得部(310)により取得された心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値V以上であることを示す。心拍変動指標(LF/HF)の欄に記載の「小」は、第1取得部(310)により取得された心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値Vよりも小さいことを示す。皮膚コンダクタンス(SC)の欄に記載の「大」は、第2取得部(320)により取得された皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値W以上であることを示す。皮膚コンダクタンス(SC)の欄に記載の「小」は、第2取得部(320)により取得された皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値Wよりも小さいことを示す。
【0070】
第1実施形態では、パターン(A)は、第1閾値Vよりも小さい範囲を有する心拍変動指標(LF/HF)と、第2閾値Wよりも小さい範囲を有する皮膚コンダクタンス(SC)との組み合わせで構成される。パターン(A)に示すように、心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値Vよりも小さく、かつ、皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値Wよりも小さい場合、体温調節への負荷が低く、体温調節機能が疲労していない正常な状態と評価できる。
【0071】
第1実施形態では、パターン(B)は、第1閾値Vよりも小さい範囲を有する心拍変動指標(LF/HF)と、第2閾値W以上の範囲を有する皮膚コンダクタンス(SC)との組み合わせで構成される。パターン(B)に示すように、心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値Vよりも小さく、かつ、皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値W以上の場合、自律神経系は正常に作用して、多量の発汗を行っているため、体温調節の負荷が高いが、まだ余力があるような体温調節機能の疲労が低い状態と評価できる。
【0072】
第1実施形態では、パターン(C)は、第1閾値V以上の範囲を有する心拍変動指標(LF/HF)と、第2閾値W以上の範囲を有する皮膚コンダクタンス(SC)との組み合わせで構成される。パターン(C)に示すように、心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値V以上であり、かつ、皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値W以上の場合、体温調節機能をつかさどる自律神経が過剰に活動して、多量の発汗を行っているため、体温調節の負荷が高く、余力が少ないような体温調節機能の疲労が中程度の状態と評価できる。
【0073】
第1実施形態では、パターン(D)は、第1閾値V以上の範囲を有する心拍変動指標(LF/HF)と、第2閾値Wよりも小さい範囲を有する皮膚コンダクタンス(SC)との組み合わせで構成される。パターン(D)に示すように、心拍変動指標(LF/HF)が第1閾値V以上であり、かつ、皮膚コンダクタンス(SC)が第2閾値Wよりも小さい場合、体温調節機能をつかさどる自律神経が過剰に活動しているが、それに応答する発汗機能が低下しているため、体温調節の負荷が高く、体温の維持が難しくなるような体温調節機能の疲労が高い状態と評価できる。
【0074】
―評価部(350)の処理内容の一例―
図2~
図4を参照して、評価部(350)の処理内容の一例について説明する。
【0075】
図2~
図4に示すように、第1実施形態では、1回目の高温期間(時間t1~時間t2)の終わり頃の第1時期(N1)に、心拍変動指標(LF/HF)がピーク値(pa)になり、皮膚コンダクタンス(SC)がピーク値(qa)になる。第1時期(N1)では、心拍変動指標(LF/HF=pa)が第1閾値Vよりも小さく、かつ、皮膚コンダクタンス(SC=qa)が第2閾値W以上になる。この場合、評価部(350)(
図1参照)は、対象者の体温調整機能がパターン(B)に該当すると評価する。
【0076】
第1実施形態では、2回目の高温期間(時間t3~時間t4)の終わり頃の第2時期(N2)に、心拍変動指標(LF/HF)がピーク値(pb)になり、皮膚コンダクタンス(SC)がピーク値(qb)になる。第2時期(N2)では、心拍変動指標(LF/HF=pb)が第1閾値V以上になり、かつ、皮膚コンダクタンス(SC=qb)が第2閾値W以上になる。この場合、評価部(350)(
図1参照)は、対象者の体温調整機能がパターン(C)に該当すると評価する。
【0077】
第1実施形態では、3回目の高温期間(時間t5~時間t6)の終わり頃の第3時期(N3)に、心拍変動指標(LF/HF)がピーク値(pc)になり、皮膚コンダクタンス(SC)がピーク値(qc)になる。第3時期(N3)では、心拍変動指標(LF/HF=pc)が第1閾値V以上になり、かつ、皮膚コンダクタンス(SC=qc)が第2閾値Wよりも小さくなる。この場合、評価部(350)(
図1参照)は、対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当すると評価する。
【0078】
第1実施形態では、4回目の高温期間(時間t7~時間t8)の終わり頃の第4時期(N4)に、心拍変動指標(LF/HF)がピーク値(pd)になり、皮膚コンダクタンス(SC)がピーク値(qd)になる。第4時期(N4)では、心拍変動指標(LF/HF=pd)が第1閾値V以上になり、かつ、皮膚コンダクタンス(SC=qd)が第2閾値Wよりも小さくなる。この場合、評価部(350)(
図1参照)は、対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当すると評価する。
【0079】
―第1実施形態の効果―
以上、
図1~
図4を参照して説明したように、評価部(350)は、対象者の自律神経指標である心拍変動指標(LF/HF)と、対象者の発汗指標である皮膚コンダクタンス(SC)とを用いて、対象者の体温調整機能を評価する。その結果、
図4の(A)~(D)に示すような対象者の体温調節機能の働き度合いを示す情報を、体温調整機能の評価結果として出力することができる。また、対象者の体温調整機能の働き度合いを確認できることで、対象者に適した環境を提供することができる。また、対象者の体温調整機能の働き度合いを確認できることで、対象者の体温調整機能が疲弊する前に、対象者が存在する空間の環境が対象者にとって快適な環境になるように空間の温度等を制御することができる。
【0080】
―第2実施形態―
図5を参照して、本発明の第2実施形態に係る評価システム(20)について説明する。
図1は、本発明の第2実施形態に係る評価システム(20)の構成を示すブロック図である。
【0081】
―全体構成―
図5に示すように、評価システム(20)は、第1センサ(100)と、第2センサ(200)と、空気処理装置(400)とを備える。
【0082】
空気処理装置(400)は、室内の温度を調整する機能を有する機器である。空気処理装置(400)は、例えば、空気調和機を含む。
【0083】
空気処理装置(400)は、室内機(410)と、室外機(420)とを含む。
【0084】
室内機(410)は、室内に設置される。室内機(410)は、温度センサ(411)と、記憶部(412)と、評価装置(300)と、制御部(413)とを含む。温度センサ(411)は、室内の温度を検出する。記憶部(412)は、フラッシュメモリ、ROM、及びRAMのような主記憶装置を含み、補助記憶装置をさらに含んでもよい。記憶部(412)は、制御部(413)によって実行される種々のコンピュータープログラムを記憶する。制御部(413)は、CPU及びMPUのようなプロセッサーを含む。第2実施形態では、評価装置(300)は、室内機(410)の筐体に内蔵又は外付けされる電子部品である。
【0085】
制御部(413)は、記憶部(412)に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、空気処理装置(400)の各要素を制御する。制御部(413)は、例えば、室内機(410)に設けられるファン、室外機(420)に設けられる圧縮機等を制御することで、空調制御を行い、室内の温度を制御する。なお、空気処理装置(400)の制御部(413)は、評価装置(300)の評価部(350)(
図1参照)の機能を兼ねていてもよい。また、空気処理装置(400)の記憶部(412)は、評価装置(300)の記憶部(340)の機能を兼ねていてもよい。
【0086】
―空気処理装置(400)の動作の一例―
図1、及び
図5~
図8を参照して、空気処理装置(400)の動作の一例について説明する。
図6は、空気処理装置(400)の動作の一例を示すフロー図である。
【0087】
第2実施形態では、
図6に示す処理は、空気処理装置(400)の制御部(413)が空調制御を行っている状態で開始される。例えば、空気処理装置(400)の制御部(413)は、PMV制御を行う。PMVは、人の感じる温熱感覚を定量的に扱うための指標である。PMV制御は、PMVを大多数の人が快適と感じる値に保つ制御である。
【0088】
図6に示す処理の開始時において、例えば、空気処理装置(400)の制御部(413)は、室内の温度が開始温度(暑い温度)となるように室内の空調制御を行っている。開始温度は、例えば、PMVが+1以上になるように空調制御が行われるときの室内の温度を示す。また、
図6に示す処理は、対象者が室内に存在している状態で行われる。
【0089】
図1、
図5及び
図6に示すように、ステップS10において、第1センサ(100)により対象者の心拍数が測定される。評価装置(300)の第1取得部(310)は、対象者の心拍数を第1センサ(100)から取得し、取得した対象者の心拍数に基づいて、対象者の心拍変動指標(LF/HF)を算出する。その結果、評価装置(300)の第1取得部(310)が、対象者の心拍変動指標(LF/HF)を取得する。
【0090】
ステップS20において、第2センサ(200)により対象者の皮膚コンダクタンス(SC)が測定される。評価装置(300)の第2取得部(320)は、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)を第2センサ(200)から取得する。
【0091】
ステップS10及びステップS20において、略同時刻に測定された心拍変動指標(LF/HF)と皮膚コンダクタンス(SC)とが取得される。なお、ステップS10に示す処理及びステップS20に示す処理の順番は特に限定されず、例えば、ステップS20及びステップS10の順番に行われてもよく、又は、同時に行われてもよい。
【0092】
ステップS30において、評価装置(300)の評価部(350)は、ステップS10で取得された心拍変動指標(LF/HF)と、ステップS20で取得された皮膚コンダクタンス(SC)と、分類情報(Z)(
図4参照)とに基づいて、対象者の体温調整機能を評価する。第2実施形態では、対象者の体温調整機能は、パターン(A)~(D)のうちのいずれかのパターンに評価される。
【0093】
対象者の体温調整機能がパターン(A)と評価された場合は、処理がステップS40に移行する。対象者の体温調整機能がパターン(B)と評価された場合も、処理がステップS40に移行する。対象者の体温調整機能がパターン(C)(第1パターン)と評価された場合は、処理がステップS50に移行する。対象者の体温調整機能がパターン(D)(第2パターン)と評価された場合は、処理がステップS60に移行する。
【0094】
ステップS40において、空気処理装置(400)の制御部(413)が、現在の空調制御(
図6に示す処理の開始時から行っている空調制御)を継続して行う。第2実施形態では、空気処理装置(400)の制御部(413)は、室内の温度を開始温度(PMVを+1以上)に制御する空調制御を継続する。ステップS40に示す処理が終了すると、処理が終了する。
【0095】
ステップS50において、空気処理装置(400)の制御部(413)は、第1処理を行う。第1処理は、室内の温度が所定の第1温度(快適温度)になるように空調制御を行うことを示す。第1温度は、例えば、PMVが-0.5以上、+0.5以下になるように空調制御が行われるときの室内の温度を示す。第1温度は、開始温度よりも低い。
【0096】
図7は、第1処理が行われるときの皮膚コンダクタンス(SC)と室内の温度とを示す図である。
図7に示すように、第1処理が行われることで室内の温度が開始温度から第1温度に低下すると、対象者の発汗量が低減し、皮膚コンダクタンス(SC)が低下する。そして、対象者の汗が止まると、皮膚コンダクタンス(SC)が一定値に収束する。皮膚コンダクタンス(SC)が一定値に収束した状態が一定期間継続することで、対象者の体温調整機能がパターン(A)又はパターン(B)と評価されるように、対象者の体温調整機能を改善させることができる。ステップS50に示す処理が終了すると、処理が終了する。
【0097】
図1、
図5及び
図6に示すように、ステップS60において、空気処理装置(400)の制御部(413)は、第2処理を行う。第2処理は、室内の温度が所定の第2温度(寒い温度)になる状態を所定期間継続した後、室内の温度が所定の第1温度(快適温度)となるように空調制御を行うことを示す。第2温度は、例えば、PMVが-1以下になるように空調制御が行われるときの室内の温度を示す。第2温度は、第1温度よりも低い。
【0098】
図8は、第2処理が行われるときの皮膚コンダクタンス(SC)を示す図である。
図8に示すように、第2処理が行われることで室内の温度が開始温度から第2温度に所定期間低下した後、第1温度に上昇する。対象者に対して第2温度(寒い温度)の環境を提供することで、対象者の発汗量を迅速に低減させた後、対象者に対して第1温度(快適温度)の環境を提供できる。これにより、皮膚コンダクタンス(SC)が一定値に収束した状態(対象者の発汗が略無い状態)を一定期間継続させることができるので、対象者の体温調整機能がパターン(A)又はパターン(B)と評価されるように、対象者の体温調整機能を改善させることができる。なお、所定期間(室内の温度が第2温度になるように空調制御が行われる期間)は、例えば、皮膚コンダクタンス(SC)が所定値以下になるまでの期間、皮膚コンダクタンス(SC)が一定値に収束するまでの期間、又は、皮膚コンダクタンス(SC)が一定値に収束してから所定の時間が経過するまでの期間を示す。ステップS60に示す処理が終了すると、処理が終了する。
【0099】
対象者の体温調整機能がパターン(D)まで悪化すると、皮膚コンダクタンス(SC)を早急に低下させて、対象者の体温調整機能を迅速に改善することが好ましい。従って、第2処理(ステッップS60)において、室内の温度を第1温度(快適温度)にする前に、第2温度(寒い温度)にして、対象者の皮膚コンダクタンス(SC)を早急に低下させている。その結果、対象者の体温調整機能を迅速に改善させることができる。
【0100】
なお、第2処理において、第1処理と同様の処理(室内の温度を開始温度から第1温度に低下させる処理)が行われてもよい。また、第1処理(ステッップS50)において、第2処理と同様の処理(室内の温度を開始温度から第1温度に低下させた後、第2温度に上昇させる処理)が行われてもよい。
【0101】
―第2実施形態の効果―
以上のように、空気処理装置(400)は評価装置(300)を備える。これにより、評価装置(300)による対象者の体温調整機能の評価結果を考慮して、空気処理装置(400)の動作を制御できる。
【0102】
《その他の実施形態》
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう(例えば、(1)~(9))。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0103】
(1)第1実施形態及び第2実施形態では、自律神経指標として、心拍の活動状態を捉える心拍変動指標(LF/HF)が用いられる。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、自律神経指標として、脈拍の活動状態を捉える脈拍変動指標が用いられてもよい。この場合、第1センサ(100)は、脈波センサを含む。
【0104】
(2)評価装置(300)の評価部(350)は、対象者の体温調整機能がパターン(D)(所定パターン)に該当すると評価し、さらに、対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当する状態が所定期の間継続したと判定した場合、報知部(330)(
図1参照)を制御して、所定の情報(当該判定の結果から一般的に導かれる結論を示す情報)を外部に報知するように構成してもよい。この場合、評価装置(300)の評価部(350)は、例えば、対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当する状態が所定期の間継続した場合、対象者が熱中症であると判定する。そして、報知部(330)により、所定の情報の一例として、対象者が熱中症であることを示す情報が報知される。その結果、評価装置(300)を熱中症対策に用いることができる。
【0105】
(3)第2実施形態では、評価装置(300)の評価結果を用いて空調制御が行われる。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、評価装置(300)の評価結果を用いて飲水リコメンドが行われてもよい。
【0106】
(4)第1実施形態及び第2実施形態では、自律神経指標(心拍変動指標(LF/HF))を区分するための第1閾値、及び発汗指標(皮膚コンダクタンス(SC))を区分するための第2閾値の各々が一定値(第1閾値V、及び第2閾値W)に設定される(
図3参照)。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0107】
第1閾値が互いに異なる温度毎に設定されてもよい。この場合の温度は、詳細には、対象者が存在している空間の温度を示す。この場合、例えば、温度が36℃のときには第1閾値が9(=LF/HF)に設定され、温度が31℃のときには第1閾値が8.5(=LF/HF)に設定される。これにより、温度が異なると自律神経の状態も異なるという人の生理現象を考慮して、温度毎に自律神経の状態に合わせた第1閾値を設定することができる。その結果、第2閾値をより精度よく設定できる。
【0108】
図1を参照して、温度毎に第1閾値を設定するための装置構成の一例について説明する。
図1に示すように、この場合、評価システム(10)には、温度を検出する温度センサ(不図示)がさらに備えられる。記憶部(340)には、第1対応情報が記憶される。第1対応情報は、例えば、温度毎に第1閾値を対応付けたテーブル、又はグラフで構成される。評価部(350)は、温度センサから温度を示す情報を取得すると、第1対応情報において、取得した温度と対応付けられる第1閾値を選択する。評価部(350)は、選択した第1閾値を用いて、分類情報(Z)(
図4参照)の心拍変動指標(LF/HF)の大小の区分を行い、当該区分された分類情報(Z)を用いて対象者の体温調整機能を評価する。
【0109】
また、第2閾値が互いに異なる温度毎に設定されてもよい。この場合の温度は、詳細には、対象者が存在している空間の温度を示す。この場合、例えば、温度が36℃のときには第2閾値が2(=SC)に設定され、温度が31℃のときには第2閾値が1.5(=SC)に設定される。これにより、温度が異なると発汗量も異なるという人の生理現象を考慮して、温度毎に発汗量に合わせた第2閾値を設定することができる。その結果、第2閾値をより精度よく設定できる。
【0110】
図1を参照して、温度毎に第2閾値を設定するための装置構成の一例について説明する。
図1に示すように、この場合、評価システム(10)には、温度を検出する温度センサ(不図示)がさらに備えられる。記憶部(340)には、第2対応情報が記憶される。第2対応情報は、例えば、温度毎に第2閾値を対応付けたテーブル、又はグラフで構成される。評価部(350)は、温度センサから温度を示す情報を取得すると、第2対応情報において、取得した温度と対応付けられる第2閾値を選択する。評価部(350)は、選択した第2閾値を用いて、分類情報(Z)(
図4参照)の皮膚コンダクタンス(SC)の大小の区分を行い、当該区分された分類情報(Z)を用いて対象者の体温調整機能を評価する。
【0111】
以上のように、自律神経指標に対して設定される第1閾値、及び/又は、発汗指標に対して設定される第2閾値が、互いに異なる温度毎に設定される。その結果、対象者の体温調整機能をより精度よく評価できる。
【0112】
(5)対象者が第1センサ(100)及び第2センサ(200)による測定を行われる直前(体温調整機能を評価される直前)に対象者が置かれていた環境を表す環境指標に基づいて、第1閾値及び第2閾値が設定されてもよい。環境指標は、人の寒暑感に影響を与える指標を示し、例えば、温度、湿度、及び/又は、風速を示す。
【0113】
図1及び
図9を参照して、環境指標に基づいて第1閾値及び第2閾値を設定するための装置構成の一例について説明する。
図9は、環境指標と、第1閾値と、第2閾値とを対応付けた環境対応情報(J)を示す図である。
【0114】
本実施形態では、環境対応情報(J)において、環境指標の第一例である温度(体温調整機能を評価される直前に対象者が置かれていた環境の温度)と、第1閾値と、第2閾値とが対応付けられる。
【0115】
本実施形態では、環境対応情報(J)において、環境指標の第一例である温度が大きくなる程、第1閾値、及び第2閾値の各々が大きくなる。
【0116】
図1に示すように、評価システム(10)には、環境指標を検出する検出部(不図示)がさらに備えられる。本実施形態では、検出部は、温度センサを含む。記憶部(340)には、環境対応情報(J)が記憶される。検出部である温度センサは、体温調整機能を評価される直前に対象者が置かれていた環境の温度を検出する。評価部(350)は、検出部の検出結果(体温調整機能を評価される直前に対象者が置かれていた環境の温度)を取得すると、環境対応情報(J)において、取得した温度と対応付けられる第1閾値と第2閾値とを選択する。例えば、検出部の検出結果が34℃の場合、心拍変動指標(LF/HF)として「8.6」が選択され、皮膚コンダクタンス(SC)として「1.6」が選択される。評価部(350)は、選択した第1閾値を用いて、分類情報(Z)(
図4参照)の心拍変動指標(LF/HF)の大小の区分を行い、選択した第2閾値を用いて、分類情報(Z)の皮膚コンダクタンス(SC)の大小の区分を行い、当該区分された分類情報(Z)を用いて対象者の体温調整機能を評価する。その結果、対象者の体温調整機能をより精度よく評価できる。
【0117】
(6)第1閾値及び第2閾値が、気温に対する対象者の性質を考慮して設定されてもよい。以下、第1閾値及び第2閾値が設定される手順を説明する。
【0118】
対象者が存在している場所の気温が常温であり、かつ、対象者が安静な状態で、対象者の心拍変動指標(LF/HF)及び皮膚コンダクタンス(SC)が取得される。このような状態(常温かつ対象者が安静な状態)で取得された拍変動指標(LF/HF)及び皮膚コンダクタンス(SC)は、気温に対する対象者の性質を反映している。そして、取得された心拍変動指標(LF/HF)及び皮膚コンダクタンス(SC)に基づいて、第1閾値及び第2閾値が設定される。例えば、取得された心拍変動指標(LF/HF)のα倍の値が第1閾値に設定され、取得された皮膚コンダクタンス(SC)のβ倍の値が第2閾値に設定される。α及びβの各々は、正の実数である。α及びβの各々は、一定値であり、αは、例えば、1.2であり(α=1.2)であり、βは、例えば、3である(β=3)。
【0119】
(7)対象者等が所望の第1閾値及び第2閾値を評価装置(300)に入力することで、第1閾値及び第2閾値が設定されてもよい。
図1に示すように、この場合、評価装置(300)が、第1閾値及び第2閾値の入力を受け付ける入力部(タッチパネル、キーボード、マウス等)(不図示)を備える。また、この場合、既に設定済みの第1閾値及び第2閾値を、入力部から変更(調整)することで再設定できるように構成してもよい。
【0120】
(8)
図6に示す第2処理(ステップS60参照)の変形例について説明する。第2実施形態では、ステップS30において、評価部(350)(
図1参照)により対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当すると評価されると、第2処理が行われる。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0121】
ステップS30において、評価部(350)(
図1参照)により対象者の体温調整機能がパターン(D)(第2パターン)に該当すると評価され、さらに、温度センサ(411)により検出された温度が所定の不快温度以上(例えば、30℃以上)になる場合に、空気処理装置(400)の制御部(413)が第2処理を行ってもよい。所定の不快温度は、対象者が不快に感じる可能性のある温度を示す。所定の不快温度は、第1温度(快適温度)よりも高い温度を示す。
【0122】
例えば、室内が常温(例えば、26℃)であり、対象者が室内の温度を特に負担に感じていない状態(発汗が少ない状態)で仕事に集中している場合、発汗指標(皮膚コンダクタンス(SC))が小さい状態で、自律神経指標(心拍変動指標(LF/HF))が大きくなることがある。この場合、パターン(D)に該当すると評価されて、空気処理装置(400)が第2処理を行うと、対象者が室内の温度を特に負担に感じていない状態で、室内に第2温度(寒い温度)の風が送られるので(
図8参照)、対象者が寒い風を負担に感じる可能性がある。
【0123】
しかしながら、上記のように、パターン(D)に該当すると評価されるだけでなく、さらに、温度センサ(411)により検出された温度が所定の不快温度以上になる場合に第2処理を行うように構成することで、室内が常温(所定の不快温度未満)の状態で、対象者が仕事に集中している場合(自律神経指標が大きいが、室内の温度を特に負担に感じていない場合)に、第2処理が行われることを回避できる。
【0124】
なお、上記のように、評価部(350)(
図1参照)により対象者の体温調整機能がパターン(D)に該当すると評価され、さらに、温度センサ(411)により検出された温度が所定の不快温度よりも低い場合、例えば、ステップS40に示す処理(現在の制御を継続する処理)が行われる。
【0125】
(9)第1実施形態、及び第2実施形態では、
図4に示す分類情報(Z)において、1つの第1閾値V(
図2参照)と、1つの第2閾値W(
図3参照)とが設定されることで、体温調整機能の評価結果が2×2の4つのパターン(パターン(A)~パターン(D))に分類される。しかし、本発明はこれに限定されない。第1閾値及び/又は第2閾値を複数設定することで、体温調整機能の評価結果を4つよりも多いパターンに分類してもよい。例えば、2つの第1閾値を設定することで、心拍変動指標(LF/HF)を、大、中、小の3つの範囲に区分し、2つの第2閾値を設定することで、皮膚コンダクタンス(SC)を、大、中、小の3つの範囲に区分する。これにより、体温調整機能の評価結果を3×3の9つのパターンに分類してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上説明したように、本開示は、体温調整機能の評価装置、空気処理装置、及び体温調整機能の評価方法について有用である。
【符号の説明】
【0127】
10 体温調整機能の評価システム
300 体温調整機能の評価装置
310 第1取得部
320 第2取得部
330 報知部
340 記憶部
350 評価部
400 空気処理装置
Z 分類情報