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  • 特許-加圧削孔システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】加圧削孔システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 21/06 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
E21B21/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021023256
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125587
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2022-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390016469
【氏名又は名称】株式会社ユビロン・フアクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 明久
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-232571(JP,A)
【文献】特開2008-095404(JP,A)
【文献】特開2008-231682(JP,A)
【文献】特開2008-069531(JP,A)
【文献】特開2005-139890(JP,A)
【文献】特開平08-189284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0288821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を削孔する掘削手段と、
前記掘削手段に掘削水を供給する給水手段と、
地盤の削孔により発生した排泥水を排水する排水手段と、
前記給水手段と前記排水手段との間に介設された排泥処理手段と、を備える削孔システムであって、
前記排泥処理手段は、加圧下において前記排泥水をスライムと前記掘削水とに分離して、前記掘削水を前記給水手段に供給し、
前記削孔システム全体が加圧下の状態で地山を削孔することを特徴とする、削孔システム。
【請求項2】
地盤を削孔する掘削手段と、
前記掘削手段に掘削水を供給する給水手段と、
地盤の削孔により発生した排泥水を排水する排水手段と、
前記給水手段と前記排水手段との間に介設された排泥処理手段と、
前記排泥処理手段の内部に設けられた圧力計と、
前記排泥処理手段の内部の圧力を調整するための圧力調整弁と、
前記排水手段と前記排泥処理手段との接合部に設けられた排水側弁と、
前記給水手段と前記排泥処理手段との接合部に設けられた給水側弁と、
前記圧力計の測定値に応じて前記排水側弁、前記給水側弁および前記圧力調整弁を開閉する制御手段と、を備える削孔システムであって、
前記排泥処理手段は、加圧下において前記排泥水をスライムと前記掘削水とに分離して、前記掘削水を前記給水手段に供給することを特徴とする、削孔システム。
【請求項3】
前記掘削手段、前記排水手段および前記排泥処理手段が、トンネル坑内に設けられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の削孔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧削孔システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の地下構造物の施工において、地盤改良工等を目的として、地下構造物内から被圧状態の地盤を削孔する場合がある。被圧状態の地盤を削孔すると、削孔口より地下水の噴出に伴って土砂が必要以上に排出され周辺地盤に影響を及ぼし地表面の地盤沈下のおそれがある。そのため、被圧状態の地盤を削孔する際には、削孔内の水圧を周辺地盤の地下水圧と同等以上に保つことで、地下水に伴って排出される土砂の量を制御して周辺地盤への影響を防止する方法が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、被圧状態の地盤を削孔する削孔システムとして、掘削手段と、掘削手段に掘削水を供給する給水手段と、削孔により生じる排泥水を排出するための排水手段と、給水手段が供給する給水量および排水手段から排出される排水量を制御する制御手段を備えたものが開示されている。特許文献1の削孔システムによれば、制御手段により給水量と排水量を制御しているため、給水量に応じて排泥水を排出することで、地下水位の低下を抑制する。また、特許文献1の削孔システムは、土砂分離槽において土砂が分離された水を掘削水として再利用することで、掘削水を循環させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-069531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の削孔システムでは、排泥水が掘削手段から大気中の土砂分離槽に排出されるため、掘削手段と土砂分離槽との気圧差も相まって、削孔時に緩められた周辺地盤の土砂も排出されるおそれがある。地盤内から余分な土砂が排出されると、地中に空洞が形成されるおそれがある。地中に空洞が形成されると、空洞に充填する充填材が増加し、施工の手間および費用が増加するおそれがある。
【0006】
このような観点から、本発明は、地盤削孔時の地下水圧、掘削水圧および排水圧をバランスさせることを可能とした削孔システムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、地盤を削孔する掘削手段と、前記掘削手段に掘削水を供給する給水手段と、地盤の削孔により発生した排泥水を排水する排水手段と、前記給水手段と前記排水手段との間に介設された排泥処理手段とを備える削孔システムである。前記排泥処理手段は、加圧下において前記排泥水を掘削土砂又は掘削残土(以下、スライムと呼ぶ)と前記掘削水とに分離して、前記掘削水を前記給水手段に供給し、前記削孔システム全体が加圧下の状態で地山を削孔する。
なお、削孔システムは、前記排泥処理手段の内部に設けられた圧力計と、前記排泥処理手段の内部の圧力を調整するための圧力調整弁と、前記排水手段と前記排泥処理手段との接合部に設けられた排水側弁と、前記給水手段と前記排泥処理手段との接合部に設けられた給水側弁と、記圧力計の測定値に応じて前記排水側弁、前記給水側弁および前記圧力調整弁を開閉する制御手段とをさらに備えているのが望ましい。
【0008】
かかる削孔システムによれば、掘削手段から排水された排泥水が、加圧下において排泥水をスライムと掘削水とに分離する排泥処理手段に供給されるため、地盤内の地下水圧と排泥処理手段との間で水圧をバランスさせることができる。すなわち、削孔時に緩められた掘削孔の周辺地盤から土砂や地下水が取り込まれることを最小限に抑えることができる。そのため、地盤内に空洞が形成されることを抑制することができる。
【0009】
前記削孔システムが、トンネル坑内から地盤を削孔するものである場合には、前記掘削手段、前記排水手段および前記排泥処理手段をトンネル坑内に設けるとよい。このようにすると、掘削水のみをトンネル坑外の排泥処理を行うプラント(以下、プラントと呼ぶ)に送水すればよいため、排泥水をトンネル坑外まで排水する場合に比べて、小さい径の送水管(送泥管)を使用することができる。また、掘削手段からプラントまでの距離が長い場合であっても、プラントまでの送水に使用するポンプの省略あるいは小規模化が可能となり、経済的である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の削孔システムによれば、地盤削孔時の地下水圧、掘削水圧および排水圧のバランスを安定させることで、掘削孔からの地下水および土砂の取り込みを必要最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る削孔システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、ウォータータイトトンネル(トンネルT)の施工中に、トンネルT坑内から地盤Gを削孔して掘削孔Hを形成する場合の削孔システム1について説明する。本実施形態のトンネルTは、シールドトンネルであって、地盤Gを掘削するとともにセグメントを配設することにより形成されている。
本実施形態の削孔システム1は、図1に示すように、掘削手段2と、排水手段3と、排泥処理手段4と、給水手段5と、制御手段6を備えている。
【0013】
掘削手段2は、地盤Gを削孔する装置であって、トンネル坑内に設けられている。本実施形態の掘削手段2は、掘削機本体21と、ケーシングパイプ(または削孔ロッド)22と、ビット23と、止水ボックス24とを備えている。
掘削機本体21は、ケーシングパイプ22に回転力を付与するとともに、給水手段5から供給された掘削水(泥水W)をケーシングパイプ22に供給する。
【0014】
ケーシングパイプ22は、パイプ材により構成されている。ケーシングパイプ22は、形成する掘削孔Hの深さに応じて、パイプ材を適宜連結して所定の長さにする。ケーシングパイプ22の先端にはビット23が固定されている。掘削機本体21から供給された泥水Wは、ケーシングパイプ22内を通ってビット23に供給される。
【0015】
ビット23は、ケーシングパイプ22の先端に固定されていて、ケーシングパイプ22の回転に伴って回転する。ビット23には、複数の噴射孔(図示せず)が形成されていて、ケーシングパイプ22を介して供給された泥水Wを地盤Gに向けて噴射する。また、ビット23には、逆止弁25が設けられていて、噴射孔を介して地下水Wがケーシングパイプ22内に逆流することが防止されている。なお、逆止弁25は必ずしもビット23に設けられている必要はなく、逆止弁25の取付け個所は限定されない。
【0016】
止水ボックス24は、掘削孔Hの孔口に設けられている。止水ボックス24には、ケーシングパイプ22が挿通される。止水ボックス24は、地盤Gに沿って形成された隔壁S(本実施形態ではトンネルTのセグメント)に固定されている。止水ボックス24は、掘削孔Hの基端部(孔口の開口部分)を覆っていて、掘削孔Hとケーシングパイプ22との隙間を通り、ケーシングパイプ22に沿って排出された排泥水(濁水)Wを収集する。止水ボックス24は、排水手段3に接続されていて、掘削孔Hから排出された排泥水Wを排水手段3に供給する。
【0017】
排水手段3は、掘削手段2と排泥処理手段4との間に設けられた管路であって、地盤Gの削孔により発生した排泥水(濁水)W(ズリ、地下水Wおよび泥水W等の混合体)を排泥処理手段4に輸送する。すなわち、排水手段3は、トンネルTの坑内に設けられた管路である。排水手段3には、止水ボックス24との接続部に第一弁61が設けられていて、排泥処理手段4との接続部に第二弁62が設けられている。第一弁61および第二弁62は、排水手段3の流路を開閉する弁であって、本実施形態では、制御手段6により集中制御されている。
【0018】
排泥処理手段4は、排水手段3と給水手段5との間に介設されていて、排泥水Wをスライムと分離水W(掘削水)とに分離する。本実施形態の排泥処理手段4は、トンネルTの坑内に設けられている。排泥処理手段4は、密閉可能に構成されていて、加圧下において排泥水Wをスライムと分離水Wとに分離する。このような排泥処理手段4を構成する装置は、加圧状態で排泥水Wを分離水Wとスライムに分離することが可能なものであれば限定されるものではなく、例えば、密閉可能(内部を加圧可能)に構成された土砂分離機、沈殿槽等が使用可能である。
【0019】
図1に示すように、排泥処理手段4には、第二弁62を介して排水手段3が接続されていて、第三弁63を介して給水手段5に接続されている。また、本実施形態の排泥処理手段4には、内部の圧力を調整するための圧力調整弁64が取り付けられている。
【0020】
給水手段5は、掘削手段2に掘削水を供給する。給水手段5は、トンネル坑内に設けられていてもよいし、トンネル坑外に設けられていてもよい。本実施形態の給水手段5は、図1に示すように、ポンプ51と作泥タンク52と送水管53とを備えている。給水手段5と排泥処理手段4との接合部には、第三弁63が設けられている。
【0021】
排泥処理手段4から供給された分離水Wは、送水管53を介して作泥タンク52に供給される。作泥タンク52では、分離水Wと加泥材とを混合して泥水W(掘削水)が生成される。作泥タンク52において生成された泥水Wは、ポンプ51を介して掘削手段2に送水される。
【0022】
制御手段6は、第一弁61~第三弁63および圧力調整弁64を制御する。すなわち、制御手段6は、排泥処理手段4内に設けられた圧力計(図示せず)の測定値に応じて、第一弁61,第二弁62、第三弁63および圧力調整弁64を開閉し、削孔システム1の圧力状態を自動的に調整する。
【0023】
削孔システム1が作動すると、掘削手段2による地山の削孔が開始される。このとき、給水手段5から掘削手段2に掘削水(泥水)が供給される。すなわち、掘削手段2は、地盤Gに泥水W(掘削水)を供給するとともに、ケーシングパイプ22を回転させることでビット23により地盤Gを切削する。
【0024】
掘削手段2により地盤Gを削孔すると、削孔により発生したズリが地下水W等とともに排泥水Wとして掘削孔Hから排水される。排泥水Wは、排水手段3を介して排泥処理手段4へ供給される。このとき、第一弁61および第二弁62は開いた状態とし、第三弁63は閉じた状態とする。こうすることで、排泥処理手段4内を排泥水(掘削水およびスライム)により充填させる。
【0025】
なお、排泥処理手段4内が排泥水Wで満たされる前の段階では、圧力調整弁64を開放しておき、排泥処理手段4内の空気を排気する。そして、排泥処理手段4内が排泥水Wで満たされたら、圧力調整弁64を閉じて、排泥処理手段4内を加圧状態とする。このとき、排泥処理手段4内は、地盤Gの地下被圧と同等以上になるようにする。こうすることで、削孔システム1内の圧力、掘削孔H内の圧力および地盤G内の地下被圧のバランスが確保されて、地盤の緩みが抑制された状態で、掘削孔Hの削孔を行うことができる。
【0026】
排泥処理手段4が排泥水Wで満たされたら(排泥処理手段4内の圧力が地盤Gの地下被圧と同等になったら)、第三弁63を開放して、排泥処理手段4から分離水Wを排出する。このとき、排泥処理手段4内において分離されたスライムは、排泥処理手段4内又は付属の装置(図示せず)に貯留させておく。
【0027】
排泥処理手段4から排水された分離水Wは、給水手段5に供給される。給水手段5では、作泥タンク52において分離水Wに加泥して泥水Wを生成する。作泥タンク52において生成された泥水Wは、ポンプ51を介して掘削手段2に供給される。このように、本実施形態の削孔システム1は、掘削孔Hの削孔に使用する掘削水を循環させる。
【0028】
排泥処理手段4内又は付属の装置に貯泥されたスライムは、掘削孔Hの削孔が完了してから除去する。なお、スライムを除去するタイミングは限定されるものではなく、例えば、一日の作業の終わりに行ってもよい。
【0029】
以上、本実施形態の削孔システム1によれば、掘削手段2による削孔に伴って排水された排泥水Wが、加圧下においてスライムと分離水Wとに分離する排泥処理手段4に供給されるため、地盤G内の地下水圧と排泥処理手段4との間で水圧をバランスさせることができる。すなわち、掘削孔H内と掘削孔Hの周囲の地盤Gとの間で圧力のバランスが確保されているため、削孔時に緩められた掘削孔Hの周辺地盤から土砂や地下水Wが取り込まれることを最小限に抑えることができる。そのため、地盤G内に空洞が形成されることを抑制することができ、空洞を充填する充填工等の補助工法を省略できる。
【0030】
また、掘削手段2、排水手段3および排泥処理手段4がトンネル坑内に設けられているため、掘削水のみをトンネル坑外の給水手段5(プラント)に送水すればよいため、排泥水Wをトンネル坑外まで排水する場合に比べて、排水手段3として小さい径の送水管(送泥管)を使用することができる。また、掘削手段2から給水手段5までの距離が長い場合であっても、給水手段5までの送水に使用するポンプの省略あるいは小規模化が可能となり、経済的である。
【0031】
掘削水の流れや削孔システム1内の圧力の調整は、制御手段6により第一弁61,第二弁62,第三弁63および圧力調整弁64等を自動的に調整することにより行うため、手動で行う場合に比べて、作業性に優れている。また、制御手段6を介して圧力のバランスを確保しているため、地下水Wや排泥水W等の噴出を抑制できる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、掘削水として泥水Wを使用する場合について説明したが、掘削水は泥水Wに限定されるものではなく、清水であってもよい。この場合には作泥タンク52を省略して、分離水Wをそのまま掘削水として使用すればよい。
【0033】
また、前記実施形態では、トンネル坑内から掘削孔Hを削孔する場合について説明したが、本発明の削孔システム1を使用する場所は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、排泥処理手段4がトンネル坑内に配設されている場合について説明したが、排泥処理手段4は、トンネル坑外に配設されていてもよい。また、給水手段5は、トンネル坑外に配設されているものとしたが、給水手段5もトンネル坑内に配設してもよい。
【0034】
また、ケーシングパイプ22には、二重管を使用してもよい。ケーシングパイプ22が二重管の場合には、内管と外管との隙間から掘削水を供給しつつ内管の内空部分から排泥水Wを排水してもよいし、内管の内空部分から掘削水を供給しつつ内管と外管との隙間から排泥水Wを排水してもよい。
また、排水手段3および給水手段5には、必要に応じて圧力検出器を設けてもよい。このようにすれば、より確実に圧力を調整することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 削孔システム
2 掘削手段
3 排水手段
4 排泥処理手段
5 給水手段
51 ポンプ
52 作泥タンク
6 制御手段
61 第一弁
62 第二弁
63 第三弁
64 圧力調整弁
G 地盤
H 掘削孔
T トンネル
泥水(掘削水)
排泥水
分離水(掘削水)
図1