(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】成形品、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221021BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20221021BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20221021BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C08L101/00
G01N23/18
C08K3/08
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2017174516
(22)【出願日】2017-09-12
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】510090346
【氏名又は名称】株式会社アレステクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】595027549
【氏名又は名称】アラム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】柳川 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】吉富 進吾
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005293(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101430941(CN,A)
【文献】特開2012-012519(JP,A)
【文献】特開2001-040143(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225567(WO,A1)
【文献】特開2014-237786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00-101/14
G01N 23/18
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部分が、
熱可塑性樹脂を成形してなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂に酸化タングステン粉末が5質量%~25質量%分散されている
成形品で構成されたことを特徴とする食品製造装置用部品。
【請求項2】
食品の製造に使用される食品製造用高分子製品において、
少なくとも一部分が、熱可塑性樹脂を成形してなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂に酸化タングステン粉末が5質量%~25質量%分散されている成形品で構成されたことを特徴とする食品製造用高分子製品。
【請求項3】
前記酸化タングステン粉末の割合が10質量%~25質量%であることを特徴とする請求項1に記載の食品製造装置用部品。
【請求項4】
前記酸化タングステン粉末の割合が10質量%~25質量%であることを特徴とする請
求項2に記載の
食品製造用高分子製品。
【請求項5】
少なくとも一部分が、熱可塑性樹脂を成形してなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂にタングステン粉末が3質量%~25質量%分散されている
成形品で構成されたことを特徴とする食品製造装置用部品。
【請求項6】
食品の製造に使用される食品製造用高分子製品において、
少なくとも一部分が、熱可塑性樹脂を成形してなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂にタングステン粉末が3質量%~25質量%分散されている成形品で構成されたことを特徴とする食品製造用高分子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゴムまたは合成樹脂に、顔料および強磁性ステンレス粉が分散して混入されたゴムまたは合成樹脂製成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品の製造や加工を行なう製造ラインにおいては、搬送用ベルト、パッキン、調理器具、手袋等のさまざまな高分子(ゴム、合成樹脂等)製の製品が用いられているが、劣化等により製品の砕片が食品内へ混入する可能性がある。
【0005】
食品内へ混入した砕片の検知は、金属探知機を用いる方法が主流であったが、食品への異物混入を確実に防止するため、近年ではX線検査装置が用いられるようになってきている。しかしながら、強磁性ステンレス粉はX線検査装置により検知することができないため、特許文献1に記載の発明ではX線検査装置を用いた検査に対応することができないという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、成形品の砕片をX線検査装置により容易に検知することができる成形品、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る成形品は、例えば、高分子材料を成形してなる成形品であって、前記高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末が分散されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る成形品によれば、高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を分散して成形する。これにより、成形品の砕片を、X線検査装置によって容易に検知することができる。また、酸化タングステン粉末は淡色であるため、高分子材料に酸化タングステン粉末が分散される場合には成形品を様々な色に着色することができる。
【0009】
ここで、前記高分子材料がゴムであり、前記タングステン粉末又は前記酸化タングステン粉末の割合が略25質量%以下であってもよい。これにより、高分子材料にゴムを用いたときに高分子材料の破断強度を高く保つことができる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る成形品は、高分子材料を成形してなる成形品であって、前記高分子材料に酸化タングステン粉末が略5質量%~略25質量%分散されていることを特徴とする。これにより、固体の食品等に成形品の破片が混入したときに確実に除去したい破片の大きさである略φ2mm以上の成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。
【0011】
ここで、前記酸化タングステン粉末の割合が略10質量%~略25質量%であってもよい。これにより、成形品の破片が略φ1mm程度と小さい場合であっても、成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る成形品は、高分子材料を成形してなる成形品であって、前記高分子材料にタングステン粉末が略3質量%~略25質量%分散されていることを特徴とする。これにより、成形品の破片が略φ1mm程度と小さい場合であっても、成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る食品製造装置用部品は、例えば、少なくとも一部分が、請求項1から5のいずれか一項に記載の成形品で構成されたことを特徴とする。上記課題を解決するために、本発明に係る食品製造用高分子製品は、例えば、食品の製造に使用される食品製造用高分子製品において、少なくとも一部分が、請求項1から5のいずれか一項に記載の成形品で構成されたことを特徴とする。これにより、食品の製造、加工過程において食品に混入した砕片を、X線検査装置により容易に検知することができる。また、酸化タングステン粉末は淡色であるため、高分子材料に酸化タングステン粉末が分散される場合には食品製造装置用部品や食品製造用高分子製品を様々な色に着色することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形品の砕片をX線検査装置により容易に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の成形品を適用した板状部材が用いられたコンベア装置1の一例を示す図である。
【
図3】本発明の成形品を適用した食品製造装置用部品であるOリング2の一例を模式的に示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のD-D断面図である。
【
図4】本発明の成形品を適用した食品製造用高分子製品のうちの調理器具であるヘラ3の一例を模式的に示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のE-E断面図である。
【
図5】高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を混ぜたときの成形品の破断強度を示すグラフであって、高分子材料に対するタングステン粉末又は酸化タングステン粉末の割合を変化させたときの成形品の破断強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の成形品は、高分子材料を成形してなる成形品であって、高分子材料に磁性体粉末及びX線遮蔽粉末(本実施の形態では、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末)が分散されたものである。
【0017】
この成形品は、食品製造装置用部品や食品製造用高分子製品に適用可能である。食品製造装置用部品は、食品の製造に使用される食品製造装置に使用される部品であり、特に限定されるものではないが、例えば板状部材、Oリング、パッキンである。食品製造用高分子製品は、食品の製造に使用される製品であり、特に限定されるものではないが、例えば調理器具、エプロン、手袋である。
【0018】
図1は、本発明の成形品を適用した板状部材が用いられたコンベア装置1の一例を示す図である。コンベア装置1は、食品や医薬品等の小物を搬送する用途として使用される食品製造装置であり、板状部材は、コンベア装置1の部品であるベルト11に用いられる。
【0019】
コンベア装置1は、主として、図示しないコンベヤフレームの先端側及び後端側にそれぞれ設けられるヘッドプーリ12、テールプーリ13と、ヘッドプーリ12とテールプーリ13との間に張設されるベルト11と、図示しない駆動源により回転駆動されるドライブプーリ14と、を有する。ドライブプーリ14が回転駆動されると、ベルト11が、ヘッドプーリ12とテールプーリ13との間を周回駆動する。
【0020】
図2は、ベルト11の断面を模式的に示す図である。
図2では、ベルト11を長手方向と略直交する方向に沿って切断している。また、
図2では、説明のため拡大表示している。ベルト11は、本発明の成形品を用いた板状部材15の間に、金属の線材を織って形成された金網16が挟まれている。なお、板状部材15の間に挟まれるのは金網16に限定されない。
【0021】
なお、本発明の成形品を適用した板状部材は、ベルト11以外、例えば食品製造機械近傍に設けられる間仕切り等にも用いることができる。
【0022】
図3は、本発明の成形品を適用した食品製造装置用部品であるOリング2の一例を模式的に示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のD-D断面図である。Oリング2は、全体が本発明の成形品で構成される。
【0023】
図4は、本発明の成形品を適用した食品製造用高分子製品のうちの調理器具であるヘラ3の一例を模式的に示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のE-E断面図である。ヘラ3の持ち手3aは、金属製の芯材31を本発明の成形品を用いた成形部32が覆うように構成される。ただし、芯材31は、金属に限らず、高強度樹脂(例えば、高強度ナイロン)を用いてもよい。なお、ヘラ3は調理器具の一例であり、スクレイパー、刷毛等も調理器具に含まれる。
【0024】
このように、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品は、全体が本発明の成形品で構成されてもよいし、少なくとも一部分が本発明の成形品で構成されてもよい。
【0025】
本発明の成形品、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品は、射出成形、紫外線硬化樹脂成形、熱硬化性樹脂成形等様々な方法で製造することができる。ただし、高分子材料の配向、X線遮蔽粉末の分散に有利な押出成形で製造することが望ましい。
【0026】
なお、本発明の成形品は、食品加工プラントで使用される部品、道具、衣類等にも適用することができる。食品加工プラントとは、食品を扱う工場全般を指し、食品を加工・調理するだけでなく、食品を選別したり、包装したりするだけの工場を包含する。ここで、食品加工プラントで扱う食品にはサプリメント、ビタミン剤等を含む。また、本発明の成形品は、医薬品製造装置用部品及び医薬品製造用高分子製品にも適用することができる。
【0027】
図2、
図3(B)、
図4(B)に模式的に示すように、本発明の成形品は、高分子材料AにX線遮蔽粉末Bが均等に分散される。以下、成形品について詳細に説明する。
【0028】
高分子材料の例としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、弾性を有する材料(ゴム)等があげられる。これらの高分子材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アラミド樹脂、エラストマーが挙げられる。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂が挙げられる。ゴムの例としては、ウレタンゴム、シリコンゴム、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NR(天然ゴム)が挙げられる。
【0030】
次にX線遮蔽粉末について説明する。成形品等の破片が食品に混入した際に、X線検査装置で破片を検出可能とするために、X線遮蔽粉末を高分子材料に混ぜる。X線遮蔽粉末は、タングステン(W)粉末又は酸化タングステン(WO3)粉末であり、粒子径は略0.1~50μmである。X線遮蔽粉末の粒子径が小さくなればなるほど高分子材料の中にX線遮蔽粉末が均等に分散されやすくなるが、製造の容易さ等を考慮すると、X線遮蔽粉末の粒子径を略1~5μmとすることが望ましい。
【0031】
酸化タングステン粉末は、酸化状態では淡色(例えば白色)であるため、様々な色の成形品、食品製造装置用部品及び食品製造用高分子製品を製造することができる。
【0032】
<物性の評価>
ここで、高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を分散させて、これを成形して得られた成形品の機械的性質について説明する。
図5は、高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を混ぜたときの成形品の破断強度を示すグラフであって、高分子材料に対するタングステン粉末又は酸化タングステン粉末の割合を変化させたときの成形品の破断強度の変化を示すグラフである。
図5では、高分子材料として水素化ニトリルゴム(HNBR)を用いたときの結果を示している。
図5の横軸は、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の配合比(質量%)であり、
図5の縦軸は、高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を配合した成形品の破断強度であり、高分子材料のみの成形品の破断強度を100としたときの値である。ここで破断強度とは、試験片を引っ張ったときに試験片が耐えられる最大の力(引張強さ)である。
【0033】
図5に示すように、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の割合が略25質量%以下のときは、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜたとしても、高分子材料のみの成形品の破断強度と大きな変化はない。それに対し、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の割合が略25質量%を越えると、高分子材料にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を混ぜた成形品の破断強度が急激に低下する。したがって、高分子材料の破断強度を高く保つという観点から、高分子材料に混ぜるタングステン粉末又は酸化タングステン粉末の割合を略25質量%以下とすることが望ましい。
【0034】
また、高分子材料にタングステン粉末を混ぜたときと、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜたときとを比較すると、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の配合割合が略25質量%以下の領域において、高分子材料にタングステン粉末を混ぜた成形品は、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜた成形品よりも破断強度が高い。また、高分子材料にタングステン粉末を混ぜた成形品は、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜた成形品よりも、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の配合割合を増やしたときの破断強度の減衰量が小さい。したがって、成形品の破断強度という観点からは、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜることが望ましい。
【0035】
<X線の遮蔽効果の評価>
以下に、X線遮蔽粉末の効果について具体的に説明する。なお、以下に示す材料、配合比、製造方法等は、これに限定されるものではない。
【0036】
1.X線遮蔽粉末が酸化タングステン粉末である場合
高分子材料として水素化ニトリルゴムを用い、水素化ニトリルゴムに酸化タングステン粉末を混ぜて成形材料を生成した。ここでは、酸化タングステン粉末の割合が異なる5通りの成形材料を生成した。パターン1は、水素化ニトリルゴムが略95質量%、酸化タングステン粉末が略5質量%であり、パターン2は、水素化ニトリルゴムが略90質量%、酸化タングステン粉末が略10質量%であり、パターン3は、水素化ニトリルゴムが略85質量%、酸化タングステン粉末が略15質量%であり、パターン4は、水素化ニトリルゴムが略80質量%、酸化タングステン粉末が略20質量%であり、パターン5は、水素化ニトリルゴムが略75質量%、酸化タングステン粉末が略25質量%である。
【0037】
このパターン1~5の成形材料を押出機の加熱シリンダーの中で溶融、流動化させ、加熱シリンダー内の成形材料をスクリューで連続的に前進させ、スクリューの回転と内圧で口金を通って連続的に押し出す押出成形により成形品を製造した。
【0038】
得られた成形品を略球形にしたテストピースを形成し、テストピースをX線検査装置内部のベルトに貼付し、テストピースにX線を照射した結果を測定した。テストピースの大きさは、直径が1mm(粒径φ1mm)、2mm(粒径φ2mm)、3mm(粒径φ3mm)の3通りである。
【0039】
パターン1~5の成形材料は、それぞれ、無着色のもの(白)と、青、黄、赤のそれぞれに着色したものと、の合計4通りの色で作成した。今回は、成形前の成形材料に顔料を用いて着色を行った。顔料は、有機系のものでもよいし、無機系のものでもよい。
【0040】
表1、2は、パターン1~5の成形材料のそれぞれについてφ1~3mmのテストピースを作成し、これらをX線検査装置を用いて検査した結果を示す。検査には、アンリツインフィビス株式会社製のX線検査装置、型式KD7405AWHを用いた。なお、X線検査装置はアンリツインフィビス株式会社製の型式KD7405AWHに限らず、φ0.3mmの金属球が検出可能な検出感度を有するX線検査装置を用いることができる。
【0041】
表1は、管電圧が30kV、管電流が4.1mA、ベルト速度が20m/分の条件下における検出結果であり、表2は、管電圧が30kV、管電流が3.3mA、ベルト速度が30m/分の条件下における検出結果である。
【0042】
【0043】
【0044】
テストピースに含まれる酸化タングステン粉末の量が多ければ多いほど、X線検査装置での検出が容易である。したがって、高分子材料に対する酸化タングステン粉末の割合が多い方がX線検査装置での検出が容易である。言い換えれば、パターン1~5の中では、パターン1が最も検出が困難な条件であり、パターン5が最も検出が容易な条件である。また、テストピースの大きさが大きい方がX線検査装置での検出が容易となる。言い換えれば、テストピースの粒径がφ1mmの場合が最も検出が困難な条件であり、粒径がφ3mmの場合が最も検出が容易な条件である。
【0045】
テストピースの粒径がφ2mm以上の場合には、表1、2のどちらの条件であっても、パターン1~5の全てにおいてテストピースが検出された。すなわち、高分子材料に酸化タングステン粉末が略5質量%以上分散された成形品については、成形品の破片がφ2mm以上の大きさであれば破片をX線検査装置で検出可能である。
【0046】
テストピースの粒径がφ1mmの場合には、表1の条件ではパターン1~5の全てにおいてテストピースが検出された。しかしながら、ベルト速度が早く、X線検査装置での検出がより困難な表2の条件では、テストピースの粒径がφ1mmの場合に、パターン1の成形品のテストピースが検出できなかった。つまり、高分子材料に酸化タングステン粉末が略10質量%以上分散された成形品については、φ1mm程度のより小さい破片についても検出可能である。
【0047】
また、表1、2共に、テストピースの色による差異は見られなかった。すなわち、成形品にどのような着色を行ったとしても、酸化タングステン粉末のX線の遮蔽効果は変わらなかった。
【0048】
2.X線遮蔽粉末がタングステン粉末である場合
高分子材料として水素化ニトリルゴムを用い、水素化ニトリルゴムにタングステン粉末を混ぜて成形材料を生成した。ここでは、タングステン粉末の割合が異なる8通りの成形材料を生成した。パターン6は、水素化ニトリルゴムが略99質量%、タングステン粉末が略1質量%であり、パターン7は、水素化ニトリルゴムが略98質量%、タングステン粉末が略2質量%であり、パターン8は、水素化ニトリルゴムが略97質量%、タングステン粉末が略3質量%であり、パターン9は、水素化ニトリルゴムが略95質量%、タングステン粉末が略5質量%であり、パターン10は、水素化ニトリルゴムが略90質量%、タングステン粉末が略10質量%であり、パターン11は、水素化ニトリルゴムが略85質量%、タングステン粉末が略15質量%であり、パターン12は、水素化ニトリルゴムが略80質量%、タングステン粉末が略20質量%であり、パターン13は、水素化ニトリルゴムが略75質量%、タングステン粉末が略25質量%である。タングステン粉末は濃灰色~黒色であるため、パターン6~13の成形材料を黒色に着色した。
【0049】
このパターン6~13の成形材料を押出機の加熱シリンダーの中で溶融、流動化させ、加熱シリンダー内の成形材料をスクリューで連続的に前進させ、スクリューの回転と内圧で口金を通って連続的に押し出す押出成形により成形品を製造した。そして、得られた成形品を粒径φ1mm、φ2mm、φ3mmの略球形にしたテストピースを形成し、テストピースをX線検査装置内部のベルトに貼付し、テストピースにX線を照射した結果を測定した。このときの検査結果を表3に示す。検査には、酸化タングステン粉末の場合と同様、アンリツインフィビス株式会社製のX線検査装置、型式KD7405AWHを用いたが、φ0.3mmの金属球が検出可能な検出感度を有するX線検査装置を用いることができる。
【0050】
【0051】
テストピースに含まれるタングステン粉末の量が多ければ多いほど、X線検査装置での検出が容易である。したがって、高分子材料に対するタングステン粉末の割合が多い方がX線検査装置での検出が容易である。言い換えれば、パターン6~12の中では、パターン6が最も検出が困難な条件であり、パターン12が最も検出が容易な条件である。また、テストピースの大きさが大きい方がX線検査装置での検出が容易となる。言い換えれば、テストピースの粒径がφ1mmの場合が最も検出が困難な条件であり、粒径がφ3mmの場合が最も検出が容易な条件である。
【0052】
テストピースの粒径がφ3mm以上の場合には、パターン6~12の全てにおいてテストピースが検出された。つまり、高分子材料にタングステン粉末が略1質量%以上分散された成形品については、成形品の破片がφ3mm以上の大きさであれば破片をX線検査装置で検出可能である。
【0053】
しかしながら、テストピースの粒径がφ1mmの場合には、パターン6、7の成形品のテストピースが検出できなかった。つまり、高分子材料にタングステン粉末が略3質量%以上分散された成形品については、φ1mm程度のより小さい破片についても検出可能である。
【0054】
本実施の形態によれば、成形品にタングステン粉末又は酸化タングステン粉末が分散されているため、成形品の破片が食品等に誤って混入しても、X線検査装置により容易に検知することができる。X線検査装置は、食品の検査に一般的に用いられるため、特別な検査工程を増やすことなく、成形品の破片を検出することができる。
【0055】
特に、食品製造装置用部品であるコンベア装置1のベルト11には、直接食品が載置されるため、食品へ破片が混入しやすい。また、食品製造用高分子製品である調理器具や手袋は、直接食品に触れる製品であるため、破片が食品に付着しやすい。したがって、これらの製品を磁性体粉末及びX線遮蔽粉末が高分子材料に分散された成形品を用いて構成することで、食品へ混入した破片を容易に検知することができる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、高分子材料に混ぜる粉末がタングステン粉末のみ又は酸化タングステン粉末のみであるため、X線遮蔽粉末を複数用意する必要がなく、成形材料の作成が容易である。
【0057】
また、本実施の形態によれば、酸化タングステン粉末は淡色であるため、様々な色に着色した成形品を生成することができる。例えば、高分子材料にタングステン粉末を混ぜる場合には、タングステン粉末が視認できないように、タングステン粉末の色(濃灰色~黒色)よりも濃い色、例えば黒色の成形品しか生成することができない。それに対し、高分子材料に酸化タングステン粉末を混ぜる場合には、様々な色の成形品に対応することができる。したがって、例えば、製造ライン毎に異なる色の成形品を用いた食品製造装置用部品や食品製造用高分子製品を用いたり、製造工程毎に異なる色の成形品を用いた食品製造装置用部品や食品製造用高分子製品を用いたりすることも可能となる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、高分子材料に酸化タングステン粉末を略5質量%以上の割合で混ぜることで、固体の食品等に成形品の破片が混入したときに確実に除去したい破片の大きさである略φ2mm以上の成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。また、高分子材料に酸化タングステン粉末を略10質量%以上の割合で混ぜることで、液体やゲル状の食品等に成形品の破片が混入したときに確実に除去したい破片の大きさである略φ1mm以上の成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、高分子材料にタングステン粉末を混ぜることで、略φ3mm以上の成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。また、高分子材料にタングステン粉末を略3質量%以上の割合で混ぜることで、略φ1mm以上の成形品の破片をX線検査装置により検知することができる。タングステン粉末の比重は19.3であり、酸化タングステン粉末の比重である7.16より大きいため、X線遮蔽粉末としてタングステン粉末を用いる場合には、X線遮蔽粉末として酸化タングステン粉末を用いる場合よりも少ない混合割合で同様のX線遮蔽効果を得ることができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、高分子材料にゴムを用い、ゴムにタングステン粉末又は酸化タングステン粉末を略25質量%以下の割合で混ぜることで、ゴムの破断強度を高く保つことができる。また、ゴムにタングステン粉末を混ぜた成形品は、ゴムに酸化タングステン粉末を混ぜた成形品よりも、タングステン粉末又は酸化タングステン粉末の配合割合を増やしたときの破断強度の減衰量が小さく、ゴムに酸化タングステン粉末を混ぜることで高強度の成形品を提供することができる。
【0061】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、本発明において、「略」とは、厳密に同一である場合のみでなく、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。
【符号の説明】
【0062】
1 :コンベア装置
2 :Oリング
3 :ヘラ
3a :持ち手
11 :ベルト
12 :ヘッドプーリ
13 :テールプーリ
14 :ドライブプーリ
15 :板状部材
16 :金網
31 :芯材
32 :成形部
A :高分子材料
B :X線遮蔽粉末