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特許7162303流路デバイス、発電デバイス、センサー、発電方法及びセンシング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】流路デバイス、発電デバイス、センサー、発電方法及びセンシング方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221021BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221021BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20221021BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20221021BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221021BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20221021BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20221021BHJP
【FI】
H01M4/86 M
G01N37/00 101
G01N27/327 353U
G01N27/28 321F
G01N27/327 353F
H01M4/90 Y
H01M8/16
H01M8/0258
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019024868
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020135975
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・研究集会名 平成29年度福井大学工学系研究科繊維先端工学専攻修士論文公聴会 開催場所 福井大学 文京キャンパス 開催日 平成30年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】坂元 博昭
(72)【発明者】
【氏名】天谷 諭
(72)【発明者】
【氏名】末 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】里村 武範
(72)【発明者】
【氏名】高村 映一郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 丈紘
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071559(JP,A)
【文献】特開2008-059800(JP,A)
【文献】特開2011-243353(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057387(WO,A1)
【文献】特開平01-216260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 4/86
H01M 4/90
G01N 27/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元反応の基質を含む溶液を流す流路と、作用極と、対極とを備え、
2段階以上の酸化還元酵素反応に関与する酵素が反応順に、前記流路に沿って固定化されており、
前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とが別々の電極として、かつ互いに近接して形成されており、
前記酵素が固定化された電極の一方は、前記作用極または前記対極の層に対して積層されていることを特徴とする流路デバイス。
【請求項2】
前記酵素が固定化されている電極は、櫛歯形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記酵素が固定化されている電極は、前記溶液が流れる隙間を形成するように互いに対向していることを特徴とする請求項1に記載の流路デバイス。
【請求項4】
前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とは、互いに異なる材質で形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載の流路デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流路デバイスを備え、当該流路デバイスにおいて前記基質から抽出された電子を外部へ出力することを特徴とする発電デバイス。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流路デバイスを備え、当該流路デバイスにおいて前記基質から抽出された電子を検出することを特徴とするセンサー。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流路デバイスを用いた発電方法であって、
前記流路に前記基質を含む溶液を供給する工程と、
前記各電極に固定化された酵素によって前記基質から電子を抽出する工程とを含むことを特徴とする発電方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流路デバイスを用いたセンシング方法であって、
前記流路に検出対象物質としての前記基質を含む溶液を供給する工程と、
前記各電極に固定化された酵素によって前記基質から電子を抽出する工程と、
前記電子を検出することにより、前記検出対象物質を検出する工程とを含むことを特徴とするセンシング方法。
【請求項9】
酸化還元反応の基質を含む溶液を流す流路と、作用極と、対極とを備え、
2段階以上の酸化還元酵素反応に関与する酵素が反応順に、前記流路に沿って固定化されており、
前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された構造体と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とが別々の構造体として、かつ互いに近接して形成されており、
前記構造体の一部は、前記作用極または前記対極の層に対して積層されていることを特徴とする流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電デバイス、センサー及びこれらを構成する流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の化石燃料の枯渇や原子力の危険性の問題から、安全かつ再生可能なエネルギーが求められており、次世代エネルギーの一つとしてバイオ電池(発電デバイス)が注目されている。バイオ電池は、生体触媒である酵素を用いて、グルコース、アルコール等の生物がエネルギーとして利用できる物質を燃料とする電池である。
【0003】
バイオ電池は、常温で作動可能、小型化が容易、取り扱いが安全、低コストといった利点を持つため、携帯機器のバッテリーやバイオセンサー等のマイクロデバイス用の低出力電源、及びペースメーカー等の体内埋め込み型デバイス用電源としても期待されている。
【0004】
非特許文献1には、複数種類の酸化還元酵素を利用して連続的な反応を行うことで電子を取り出すバイオ燃料電池が記載されている。このバイオ電池では、電極基板上に数種類の酵素を配置し、多段階反応を起こすことで、電子の抽出効率を高めている。
【0005】
上述のようなバイオ電池に利用される技術は、バイオセンサーにも利用されている。特許文献1、及び特許文献2には、酵素反応を利用したバイオセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2003-529770号公報
【文献】特表2010-526311号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】E. Kjeang et. al., “Strategic enzyme patterning for microfluidic biofuel cells”, Journal of Power Sources 158 (2006) 1-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の文献には、基質から電子を抽出する一連の酸化還元反応が複数種類の酵素によって触媒される場合に当該酵素反応の効率を高める手段については開示されていない。
【0009】
本発明の一態様は、基質から電子を抽出する一連の酸化還元反応が複数種類の酵素によって触媒される場合に当該酵素反応の効率を高めることができる流路デバイス、発電デバイスおよびセンサーを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一様態に係る流路デバイスは、酸化還元反応の基質を含む溶液を流す流路と、作用極と、対極とを備え、2段階以上の酸化還元酵素反応に関与する酵素が反応順に、前記流路に沿って固定化されており、前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とが別々の電極として、かつ互いに近接して形成されており、前記酵素が固定化された電極の一方は、前記作用極または前記対極の層に対して積層されている。
【0011】
上記の構成により、基質から電子を抽出する一連の酸化還元反応が複数種類の酵素によって触媒される場合にも、これらの酵素反応を効率的に行うことができる。
【0012】
前記酵素が固定化されている電極は、櫛歯形状を有していることが好ましい。櫛歯電極のそれぞれに異種の酵素を固定化することにより、これらの酵素を近接配置することができる。前記酵素が固定化されている電極は、前記溶液が流れる隙間を形成するように互いに対向していることが好ましい。対向電極のそれぞれに異種の酵素を固定化することにより、これらの酵素を近接配置することができる。
【0013】
前記流路デバイスにおいて、前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とは、互いに異なる材質で形成されていることが好ましい。上記の構成により、前記別々の電極それぞれに、異なる種類の酵素を容易に固定化することが可能となる。
【0014】
前記流路デバイスを備え、当該流路デバイスにおいて前記基質から抽出された電子を外部へ出力する発電デバイス、及び前記流路デバイスを備え、当該流路デバイスにおいて前記基質から抽出された電子を検出するセンサーも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0015】
本発明の一態様に係る前記流路デバイスを用いた発電方法は、前記流路に前記基質を含む溶液を供給する工程と、前記各電極に固定化された酵素によって前記基質から電子を抽出する工程とを含む。
【0016】
本発明の一態様に係るセンシング方法は、前記流路デバイスを用いたセンシング方法であって、前記流路に検出対象物質としての前記基質を含む溶液を供給する工程と、前記各電極に固定化された酵素によって前記基質から電子を抽出する工程と、前記電子を検出することにより、前記検出対象物質を検出する工程とを含む。
【0017】
本発明の一様態に係る流路デバイスは、酸化還元反応の基質を含む溶液を流す流路と、作用極と、対極とを備え、2段階以上の酸化還元酵素反応に関与する酵素が反応順に、前記流路に沿って固定化されており、前記基質の酸化反応を担う酵素が固定化された構造体と、前記酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素が固定化された電極とが別々の構造体として、かつ互いに近接して形成されており、前記構造体の一部は、前記作用極または前記対極の層に対して積層されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、基質から電子を抽出する一連の酸化還元反応が複数種類の酵素によって触媒される場合にも、これらの酵素反応を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1に係る流路デバイスを備える発電デバイスの構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る流路デバイスの構成を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態1に係る流路デバイスの構成を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態1に係る流路デバイスの対極及びカーボン電極が形成されている部分を拡大した断面図である。
図5】本発明の実施形態1に係る流路デバイスの第3電極及び第2電極、または第5電極及び第4電極が形成されている部分を拡大した図である。
図6】本発明の実施形態1に係る流路デバイス上で起こる反応を説明する図である。
図7】流路デバイス及び参考例としてディスク電極の電流密度を示すグラフである。
図8】(a)~(h)は、本発明の実施形態1に係る流路デバイスの電極の作成方法を説明する断面図である。
図9】(a)~(e)は、第2反応領域または第3反応領域の別の形態を示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態1に係る発電デバイスの構成を示すブロック図である。
図11】(a)は本発明の実施形態2に係る流路デバイスの構成を示す概略図であり、(b)は、(a)のX-X´矢視断面図である。
図12】本発明の実施形態3に係るセンサーの外観の一例を示す図である。
図13】本発明の実施形態3に係るセンサーの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図1図7を用いて詳細に説明する。図1は、流路デバイス10を備える発電デバイス1の構成を示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態1に係る発電デバイス1は、流路デバイス10を備え、流路デバイス10において基質から抽出された電子を外部へ出力する。
【0021】
発電デバイス1は、酸化反応を起こし、電子を抽出するアノード2、アノード2から移動した電子を利用し還元反応を起こすカソード3、電子の移動により電力を取り出すための電力取り出し部4、基質を含む溶液(以下、反応液)を貯蔵する貯留槽5、及び基質をアノード2に供給するための送液パイプ6を備えている。発電デバイス1は、アノード2として流路デバイス10を備えており、流路デバイス10に反応液を流すことで、基質から電力を取り出す。
【0022】
貯留槽5からアノード2へ基質が供給されると、当該基質は、アノード2に配置された酸化還元酵素により酸化され、電子が抽出される。抽出された電子は、カソード3へ移動し、カソード3に配置された酵素、例えばMCO(Multi copper oxidase)によって、酸素を還元するために利用される。上記のような電子の移動に伴い、電力取り出し部4から電力が得られる。
【0023】
また、図1に示すように、発電デバイス1に、電極ごとの温度が、各電極における酵素反応を起こすための最適温度となるように制御する温度調節部7を設けてもよい。温度調節部7は、流路デバイス10が備える、後述する酵素が固定化された電極、及びカソード3の温度を調節できる。この構成により、各電極での酵素反応効率を向上させることができる。なお、温度調節部7は、本発明にとって必須の構成要素ではないため、省略してもよい。
【0024】
(流路デバイス10の構造)
図2は、流路デバイス10の構造を示す概略図である。また、図3は、流路デバイス10の構造を示す断面図である。図2に示すように流路デバイス10は、作用極20、対極30、参照電極40、流路構造50及びカーボン電極33を備えている。図3に示すように、これらの電極及び流路構造50は、基板としてのガラス基板80上に設けられている。流路デバイス10の基板は、ガラスに限定されず、他の材質からなる絶縁基板であってもよい。また当該基板は、電極及び流路構造50が形成される側の表面が絶縁膜処理されていてもよく、この場合、当該基板の材質は特に限定されない。
【0025】
作用極20は、発電デバイス1の作動時に酸化電位をかけられる電極であり、金で形成されている。後述するように、作用極20を介して電子が抽出される。抽出された電子は、カソード3へ送られる。図2に示すように、作用極20は、その一部に第1電極21、第3電極22、及び第5電極23を備えている。なお、第1電極21、第3電極22、及び第5電極23は、連結されている必要はなく、それぞれが独立していてもよい。この場合には、第1電極21、第3電極22、及び第5電極23は、外部配線により互いに接続されていればよい。
【0026】
第1電極21は、金で形成された電極であり、当該電極上に、LPDH(色素依存型L-プロリン脱水素酵素:L-Proline dehydrogenase)が固定化されている。流路デバイス10は、2段階以上の酸化還元酵素反応を担う、各段階の酵素または酵素群が反応順にそれぞれ固定化された複数の反応領域(第1~第3反応領域)を備えており、第1電極21は、第1反応領域24に相当する。
【0027】
第3電極22は、金で形成された電極であり、当該電極上に、酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素であるプロリン脱水素酵素複合体(PDH)が固定化されている。プロリン脱水素酵素複合体は、L-プロリン脱水素酵素とNADH(Nicotinamide adenine dinucleotide)脱水素酵素とをサブユニットに含む複合体である(NADH dehydrogenase)。第5電極23は、金で形成された電極であり、当該電極上に酸化反応によって生じた還元物からメディエータへ電子を移動させる酵素であるPDHが固定化されている。
【0028】
対極30は、作用極20と対になる電極であり、作用極20に酸化電位をかけたときに、作用極20と対極30との間に電流が流れる。対極30は、金で形成されている。なお、対極30は、連結されている必要はなく、第1電極21、第3電極22、及び第5電極23に対応する部分が独立していてもよい。この場合には、独立した各部は、外部配線により互いに接続されていればよい。
【0029】
カーボン電極33は、カーボンで形成された電極であり、その一部に第2電極31及び第4電極32を備える。また、カーボン電極33は、第2電極31及び第4電極32に酵素を固定化する際に電圧をかけるための電極取り出し口を有している。このカーボン電極33(複数の電極の一部)は、作用極20及び対極30とは別の電極として形成されている。なお、第2電極31及び第4電極32は、連結されている必要はなく、それぞれが独立していてもよい。この場合には、第2電極31及び第4電極32は、外部配線により互いに接続されていればよい。
【0030】
図4は、流路デバイス10の対極30及びカーボン電極33が形成されている部分を拡大した断面図である。本実施形態では、カーボン電極33の上に対極30が積層される。すなわち、酵素が固定化された電極の一方であるカーボン電極33は、対極30の層に対して、その一部が積層されている。そのため、ショートの発生を防止するため、カーボン電極33と対極30との間にアルミナによる絶縁層35が作製される。なお、酵素が固定化された電極の層を作用極20の層に対して積層してもよい。
【0031】
第2電極31は、カーボンで形成された電極であり、当該電極上に基質の酸化反応を担う酵素であるP5CDH(ピロリン-5-カルボン酸脱水素酵素:Pyrroline-5-carboxylate dehydrogenase)が固定化されている。第4電極32は、カーボンで形成された電極であり、当該電極上に、基質の酸化反応を担う酵素であるGDH(グルタミン酸脱水素酵素:L-Glutamate dehydrogenase)が固定化されている。
【0032】
第2電極31に固定化されたP5CDHが触媒する反応と、第3電極22に固定化されたPDHが触媒する反応とが連続的に起こることにより、一連の酸化還元酵素反応が起こる。第3電極22及び第2電極31は、前記複数の反応領域のうちの第2反応領域60に相当する。第2反応領域60において、第2電極31と第3電極22とは別々の構造体として形成されている。
【0033】
また、第4電極32に固定化されたGDHが触媒する反応と、第5電極23に固定化されたPDHが触媒する反応とが連続的に起こることにより、一連の酸化還元酵素反応が起こる。第5電極23及び第4電極32は、前記複数の反応領域のうちの第3反応領域70に相当する。第3反応領域70において、第4電極32と第5電極23とは別々の構造体として形成されている。
【0034】
このように、第2電極31と第3電極22と、または第4電極32と第5電極23とを別々の構造体として、異なる材質で形成することにより、目的とする電極にのみ電位をかけることが可能となり、互いに近接している電極のそれぞれに異なる種類の酵素を固定化することが容易となる。
【0035】
なお、第2電極31または第3電極22に電位をかけずに酵素を固定化する場合には、第2電極31と第3電極22とは、同一の材質で形成されていてもよい。第4電極32の材質は、第2電極31の材質と同様であり、第5電極23の材質は、第3電極22の材質と同様である。
【0036】
第1電極21、第3電極22及び第5電極23の材質は、金に限定されず、例えば白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、またはオスミウム等所望の導電性を有する材質であってもよい。第2電極31及び第4電極32の材質は、カーボンに限定されず、例えば白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、またはオスミウム等所望の導電性を有する材質であってもよい。また第2電極31及び第4電極32の材質は、酵素を固定化できるものであればよく、例えば、合成樹脂またはガラスであってもよい。また、第1電極21、第2電極31、第3電極22、第4電極32及び第5電極23を、導体の表面を絶縁膜で被覆した電極としてもよい。さらに、基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極である第2電極31及び第4電極32は、厳密には電極である必要はなく、当該酵素が固定化された構造体であってもよい。すなわち、基質の酸化反応を担う酵素が固定化された電極については、便宜上「電極」という表現を用いているが、作用極20または対極30に対して積層された積層構造体の一部であればよい。
【0037】
図5は、第2反応領域60が形成されている部分を拡大した図である。図5に示すように、第2反応領域60では、第2電極31及び第3電極22がそれぞれ櫛歯形状を有する電極として形成されている。具体的には、第2反応領域60は、2つの櫛歯型電極の歯が互い違いになるように配置されることで形成されている。櫛歯型電極の歯1本分の幅(図5のW1及びW3で示す幅)、及び歯の間の幅(図5のW2で示す幅)は、それぞれ100nm~10μmである。W2で示す幅は、第2電極31における酵素反応と、第3電極22における酵素反応とが連続的に効率良く行われるように設定されればよい。
【0038】
このように、第2反応領域60では、第2電極31及び第3電極22が互いに近接している構成である。そのため、第2電極31及び第3電極22での一連の反応を高効率に起こすことが可能である。第3反応領域70での第4電極32及び第5電極23の関係についても同様である。
【0039】
参照電極40は、発電デバイス1の作動時に作用極20に対する基準となる電位を持つ電極であり、銀及び塩化銀で処理されている銀-塩化銀電極41を有している。
【0040】
流路構造50は、酸化還元反応の基質を含む溶液を流すための微細流路を形成する構造体である。図2及び図3に示すように、流路構造50は、ガラス基板80の上に配置されており、各電極の表面上を一定の方向に向かって反応液が流れるように形成されている。流路構造50は、反応液を供給するための開口部である供給口51、及び基質が反応した後の生成物を排出するための開口部である排出口52を備えている。流路構造50は、例えばシリコン樹脂(ポリジメチルシロキサン(Poly dimethyl siloxane :PDMS))で形成されている。
【0041】
なお、本実施形態では、流路デバイス10はアノードとして利用されているが、カソードとして利用してもよくその場合は、アノードから得た電子を利用して、基質を還元する反応系に関する酵素が各反応領域に固定化される。
【0042】
また、流路デバイス10では、供給する基質としてL-プロリンを使用している。しかしながら、流路デバイス10では、酵素を利用した酸化還元反応を起こすことができる基質であれば利用可能であり、供給する基質はL-プロリンに限られない。流路デバイス10に供給する基質としては、システイン、カテコール、メトリブジン、ドーパミン、L-アスコルビン酸、チロシン、S-アルキル-L-システインスルホキシド、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、グルコース、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、ラクトース、尿素、コレステロール、アミノ酸、尿酸、リン脂質、モノアミン、ショ糖、中性脂肪(中性脂質)、ペニシリン、アルコール、有機酸、マルトース、ガラクトース、エタノール、フェノール、ピルビン酸、L-アミノ酸、D-アミノ酸、L-グルタミン酸、L-チロシン、L-リジン、L-フェニルアラニン、L-メチオニン、アミグダリン、クレアチニン、過酸化水素、リン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、水銀イオン、ヘモグロビンエーワンシーケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、βOHD)等が挙げられる。
【0043】
これらの物質を多段階酵素反応の最初の酵素反応の基質として流路デバイス10に供給し、当該基質に対応する酵素を各電極に固定化することにより、当該基質から電子を効率的に抽出することができる。
【0044】
(流路デバイス10での反応の流れの一例)
以下、流路デバイス10で起こる反応について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の実施形態1に係る流路デバイス10上で起こる反応を説明するための図である。
【0045】
まず、基質の材料としてとして食品廃棄物、または家庭ごみ等のバイオマスに含まれるゼラチンが使用される。バイオマスに含まれるゼラチンをプロテアーゼで分解し、L-プロリンを生成する。生成されたL-プロリンを含む溶液が、反応液として流路デバイス10に供給される。このとき、電源8(図10参照)から作用極20に酸化電位がかけられた状態で反応液が供給される。
【0046】
流路デバイス10の供給口51から供給された反応液は、流路構造50を流れ、第1電極21で第1の反応が起こる。第1の反応とは、L-プロリンが、第1電極21に固定化されているLPDHと反応し、ピロリン-5-カルボン酸が生成する反応である。また、上記反応に伴い2電子が抽出される。抽出された2電子は、メディエータを介して作用極20に受け渡される。
【0047】
次に、上記反応で生成したピロリン-5-カルボン酸は、第2電極31での第2-1の反応の基質となる。第2-1の反応とは、ピロリン-5-カルボン酸が、NADを補酵素として、第2電極31に固定化されているP5CDHと反応し、これによりL-グルタミン酸が生成する反応である。補酵素として利用されたNADは還元され、還元物であるNADHが生成する。
【0048】
NADHは、そのままでは電極に電子を受け渡すことが困難であるため、第3電極22に固定化されているPDHによって酸化され、この反応に伴って酸化型メディエータが還元される(第2-2の反応)。つまり、PDHは、NADHからメディエータへ電子を移動させる。還元されたメディエータから2電子が第3電極22(作用極20)に受け渡される。酸化され生成したNADは、第2電極31における第2-1の反応で再利用される。また、電子を受け渡したことで酸化型となったメディエータは、第3電極22における第2-2の反応で再利用される。
【0049】
次に、上記反応で生成したL-グルタミン酸は、第4電極32で、第3-1の反応の基質となる。第3-1の反応とは、L-グルタミン酸が、第4電極32に固定化されているGDHによって酸化され、2-オキソグルタル酸が生成する反応である。補酵素として利用されたNADは還元され、還元物であるNADHが生成する。
【0050】
NADHは、そのままでは電極に電子を受け渡すことが困難であるため、第5電極23においてPDHによって酸化され、この反応に伴って酸化型メディエータが還元される(第3-2の反応)。つまり、PDHは、NADHからメディエータへ電子を移動させる。還元されたメディエータから2電子が第5電極23(作用極20)に受け渡される。NADHが酸化され生成したNADは、第4電極32における第3-1の反応で再利用される。また、電子を受け渡したことで酸化型となったメディエータは、第5電極23における第3-2の反応で再利用される。
【0051】
上記反応で生成した2-オキソグルタル酸を含んだ溶液は、排出口52から排出される。
以上の反応により、流路デバイス10において、6電子を抽出することが可能である。このように発電デバイス1では、第1反応領域24、第2反応領域60及び第3反応領域70が、反応液の流れの上流から下流に沿って、当該反応領域における酵素反応の順に配列されているため、複数段階の酵素反応を効率良く行うことができる。
【0052】
以上のように、発電デバイス1を用いた発電方法では、流路デバイス10の流路構造50に基質を含む溶液を供給することにより前記基質から電子を抽出し、これによって発電を行う。すなわち、発電デバイス1を用いた発電方法は、作用極20に酸化電位をかける工程と、流路構造50に基質を含む溶液を供給する工程と、各電極に固定化された酵素によって基質から電子を抽出する工程とを含む。
【0053】
流路デバイス10で用いられる酵素は、上述のものに限定されず、供給される基質に応じて適切な酵素が選択されればよい。特に、基質から抽出した電子を直接電極に受け渡すことができる酵素を用いてもよい。
【0054】
(流路デバイス10の効果)
流路構造50を用いて基質を含む反応液を流すことで、第1電極21で第1の反応を行い、上記反応の生成物がさらに流れることで、第2反応領域60において第2-1の反応及び第2-2の反応が起きる。さらに、第2-1の反応の生成物が流れることで第3反応領域70において第3-1の反応及び第3-2の反応が起きる。このように、各反応が起きる電極を流路上に順に配置することで、一連の反応を連続的に効率良よく起こすことができる。
【0055】
また、第2反応領域60では、図6に示すように、材質が異なり、かつ互いに近接する2種類の櫛歯型電極の一方に、第2-1の反応に関与する酵素を固定化し、第2-2の反応に関与する酵素を他方に固定化しているため、連続的に行われるべき酵素反応を効率良く起こすことができる。なお、本実施形態では、第2反応領域60は2種類の櫛歯型電極を有しており、一連の反応として2つの反応が起こるが、第2反応領域60が3種類以上の櫛歯電極を有する構成としてもよい。上記構成によれば、一連の反応が3以上の反応を含む場合も流路デバイス10に適用できる。上記事項については、第3反応領域70における第3-1の反応及び第3-2の反応についても同様である。
【0056】
流路デバイス10を使用し、電流密度を計測した。図7は、流路デバイス10及び参考例としてのディスク電極の電流密度を示すグラフである。
【0057】
図7のA1を付した曲線は、流路デバイス10にL-プロリン及びNADを加えた条件(条件A)で計測を行った結果を示す。図7のB1を付した曲線は、流路デバイス10にL-プロリン及びNADを加えない条件(条件B)で計測を行った結果を示す。図7のCを付した曲線は、金製のディスク上に各酵素をランダムに固定化したディスク電極にL-プロリン及びNADを加えない条件(条件C)で計測を行った結果を示す。図7のD1を付した曲線は、上記ディスク電極にL-プロリン及びNADを加えた条件(条件D)で計測を行った結果を示す。上記実験は異なる条件で2回行い、それぞれ1度目の結果を図7のA1、B1、C1、D1、2度目の結果を図7のA2、B2,C2、D2で示している。
【0058】
図7に示すように、A1>B1であり、A2>B2であった。この結果から、流路デバイス10において、一連の酸化還元反応が効率良く行われていることが確認された。また、条件Aでは、従来のデバイスに対応する条件Dと比較すると、およそ21倍の電流密度が計測された。
【0059】
(流路デバイス10の電極作製方法の一例)
流路デバイス10の電極は、公知の方法、例えばフォトリソグラフィによって作製することができる。以下、具体的な方法について、図8の(a)~(h)を用いて説明する。図8の(a)~(h)は、流路デバイス10の電極の作製方法を説明するための断面図である。
【0060】
まず、図8の(a)に示すように、スピンコートによりガラス基板80上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層90を作製する。次に、カーボン電極33の形状を描写したマスクをガラス基板80上に配置し、紫外光を照射する。次に、図8の(b)に示すように、ガラス基板80を現像液に浸すことで、感光した部分のフォトレジストをフォトレジスト層90から除去する。次に、図8の(c)に示すように、ガラス基板80上にカーボンをコーティングし、カーボン層91を作製する。次に、図8の(d)に示すように、残ったフォトレジスト層90を除去する。これにより、図8の(b)に示す段階でフォトレジスト層90が除去された部分のみにカーボン層91が残る。以上の方法でカーボン電極33が作製される。
【0061】
次に、カーボン層91における、第2電極31及び第4電極32となる以外の部分にアルミナをコーティングし、アルミナからなる層(図4に示す絶縁層35)を作製する。
【0062】
続いて、図8の(e)に示すように、ガラス基板80及びカーボン層91上にフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層90を作製する。次に、フォトレジスト層90から、作用極20、対極30、及び参照電極40の形状を描写したマスクをガラス基板80上に配置し、紫外光を照射する。次に、図8の(f)に示すように、ガラス基板80を現像液に浸すことで、感光した部分のフォトレジストを除去する。次に、図8の(g)に示すように、ガラス基板80上に金をコーティングし、金層92を作製する。次に、図8の(h)に示すように、残ったフォトレジスト層90を除去する。これにより、図8の(f)に示す段階でフォトレジスト層90が除去された部分のみに金層92が残る。以上の方法で作用極20、対極30、及び参照電極40が作製される。
【0063】
このように複数の電極の一部を、他の電極とは別の層として形成することにより、複数の電極を、積層構造を利用して容易に形成することができる。
【0064】
(酵素固定化方法)
次に、流路デバイス10の電極上に各酵素を固定化する方法について説明する。流路デバイス10の電極上に固定化される各酵素には、適切な配向で固定化されるように設計されたヒスチジンタグが付与されている。
【0065】
まず、第1電極21、第3電極22及び第5電極23上に、末端にニトリロ三酢酸(NTA)基をもった100μMのC2-NTA(3,3'-Dithiobis[N-(5-amino-5-carboxypentyl)propionamide-N',N’-diacetic acid] dihydrochloride)を滴下し、3時間室温で静置することで、自己組織化単分子膜(SAM:Self-assembled monolayer)を形成した。
【0066】
次に、50mMのカリウムリン酸緩衝液(pH7.2)で未結合のC2-NTAを洗浄し、100mMの硫酸ニッケルに電極を浸し10分間静置することでC2-NTAの末端のNTA基にニッケル原子を配位させた。
【0067】
次に、再び50mMのカリウムリン酸緩衝液(pH7.2)で未配位のニッケルを洗浄した後、第1電極21にLPDHを、第3電極22及び第5電極23にPDHをそれぞれ50μl電極上に滴下し30分間、室温で静置することでそれらの酵素のヒスチジンタグを介してC2-NTAに配向的に固定化した。最後に50mMのカリウムリン酸緩衝液(pH7.2)で洗浄した。以上の操作により、第1電極上にLPDHが、第3電極22及び第5電極23上にPDHがそれぞれ固定化された。
【0068】
続いて、カーボン電極33において、2.5%二クロム酸カリウムと10%硝酸の混合液中で、カーボン電極33の電極取り出し口を作用極として+1.2Vの電位を30秒間、掛けることによりカーボン電極33上にカルボキシル基を導入した。超純水で洗浄した後、第2電極31及び第4電極32上に200mMのEDC、50mMのNHSを含む50mMのMES-NaOH緩衝液を滴下し、30分間室温で静置することで活性化させ、スクシンイミド(NHS)基を形成させた。
【0069】
次いで、第2電極31にP5CDHを、第4電極32にGDHをそれぞれ50μl滴下し、30分間室温で静置することで第2電極31及び第4電極32上のNHS基に各酵素を共有結合により固定化した。なお、それぞれの酵素は電極上での分子個数が概ね同じになるように濃度を調整して用いた。
【0070】
第1電極21、第2電極31、第3電極22、第4電極32、及び第5電極23に対する各酵素の固定化は、反応液の流れによって各電極から酵素が脱離しない程度に固定化できるものであればよく、上述したように電極表面に形成されたSAMとヒスチジンタグとの相互作用(アフィニティ結合)によって当該固定化を実現してもよいし、共有結合による固定化であってもよい。
【0071】
(変形例)
本発明の流路デバイス10が備える第2反応領域60、または第3反応領域70の変形例について、図9の(a)~(e)を用いて説明する。図9の(a)~(e)は、第2反応領域60または第3反応領域70の別の形態を示す斜視図である。以降、第2反応領域60を代表として説明するが、第3反応領域70についても同様の形態とすることが可能である。なお、図9の(a)~(e)の矢印は、反応液が流れる箇所及び方向を示している。
【0072】
上述の実施形態1において、流路デバイス10の第2反応領域60は、図9の(a)に示すように、櫛歯型の形状である。
【0073】
これを、図9の(b)に示すように、第2反応領域60の第3電極22b及び第2電極31bが、突起部37を有する構成としてもよい。突起部37を設けることで、第2反応領域60の表面積が大きくなり、より反応の効率を向上させることが可能となる。
【0074】
また、図9の(c)に示すように、第2反応領域60が備える第3電極22c及び第2電極31cを上下に配置し、これらの電極の間に反応液が流れる隙間流路を形成する構成としてもよい。
【0075】
また、図9の(d)に示すように、第3電極22d及び第2電極31dを、櫛歯形状でなく板状の電極とし、これらの電極の間に反応液が流れる隙間(隙間流路)を形成するように対向する電極としてもよい。上記のような構成とした場合、第3電極22d及び第2電極31dの距離を近づけることで、毛細管現象を利用して反応液を流すことも可能となる。
【0076】
また、図9の(e)に示すように、対極30eを、第3電極22及び第2電極31の上部に設ける構成としてもよい。上記のような構成とした場合、第2反応領域での反応により抽出された電子を作用極20に効率良く受け渡すことができる。
【0077】
(発電デバイス1の機能的構成)
図10は、発電デバイス1の構成を示すブロック図である。図10に示すように、発電デバイス1は、電子を抽出するアノードとしての流路デバイス10、流路デバイス10において抽出された電子を利用して還元反応を起こすカソード3、電子の移動により電力を取り出すための電力取り出し部4、基質を含む反応液を貯蔵する貯留槽5、反応液を流路デバイス10に供給する送液パイプ6、及び作用極20に酸化電位をかける電源8を備えている。また、発電デバイス1は、酵素が固定化された電極の温度を調節する温度調節部7を備えていてもよい。なお、発電デバイス1が発電している状態において、流路デバイス10の対極30は特に機能していない。
【0078】
電力取り出し部4には、任意の電気機器が通電可能に接続され、発電デバイス1によって抽出された電子を、当該電気機器が利用できる。
【0079】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0080】
グルコースを基質として供給する場合には、解糖系およびTCA(Tricarboxylic acid)サイクルに含まれる全ての酵素を、反応順に各電極に固定化することにより、グルコースから24電子を抽出することができる。
【0081】
図11の(a)は、本発明の実施形態2に係る流路デバイス10aの構成を示す概略図であり、図11の(b)は、図11の(a)のX-X´矢視断面図である。
【0082】
流路デバイス10aでは、基質及び一連の反応の一例として、グルコースを基質として使用し、解糖系及びTCAサイクルに関する反応を起こすものを示す。図11の(a)に示すように、流路デバイス10aは、第1反応領域201、第2反応領域202、第3反応領域203、第4反応領域204、第5反応領域205、第6反応領域206、第7反応領域207、第8反応領域208、第9反応領域209、及び第10反応領域210を備えている。また、流路デバイス10aは、流路デバイス10と同様の流路構造50(不図示)を備えている。
【0083】
流路デバイス10a上で起こる反応における反応物(基質)、上記反応による生成物、及び上記反応に使用される酵素について、表1に示した。第1反応領域201には、グルコースを基質としてピルビン酸を生成する解糖系反応に関連する各酵素が固定化されている。以下、同様に、流路デバイス10aの第2反応領域202から第10反応領域210には、表1の番号2から10に図示されるTCAサイクルに関する反応に関連する各酵素が、反応の順に、各々別々の電極または構造体上に固定化されている。なお、表1中の反応物の欄における、NAD、CoA、CoA-SH、及びユビキノン(Q)は、各反応に使用される補酵素である。
【0084】
【表1】
【0085】
上記構成により、基質として供給されたグルコースは流路デバイス10aの各反応領域における反応を経て、結果としてグルコースから24電子が抽出される。
【0086】
(別の実施例)
表2は、グルコース及びATPを基質として使用し、一連の反応が4段階である反応系(エントナ-ドウドルフ経路(ED経路))における反応物(基質)、生成物、及び酵素の例を示す表である。
【0087】
【表2】
【0088】
本発明の流路デバイス10b(図示せず)では、表2に示した各酵素が、その反応順に、流路に沿って第1~4反応領域の各電極に固定化されていてよい。これにより、グルコース1分子を基質として、ピルビン酸が2分子生成される。
【0089】
グルコースを出発物質とする解糖系の代謝サイクルとしては、ED経路のほかに、エムデン-マイヤーホフ経路(EM経路)やペントースリン酸経路(PP経路)も知られている。そこで、本発明の流路デバイス10bでは、EM経路やPP経路の各酵素が、その反応順に、流路に沿って別々の電極または構造体に固定化されている構成としてもよい。
【0090】
(別の実施例)
ED経路は、表1の番号1に示される解糖系反応に相当する。そこで、本発明の流路デバイス10c(図示せず)においては、第1反応領域201を4つの別々の電極または構造体に分けて構成し、解糖系(第1反応領域201で行われる反応系)に係る4つの酵素が反応順に異なる電極上または構造体上に固定化された構成とし、グルコースからピルビン酸を得てもよい。
【0091】
(別の実施例)
さらに異なる実施例を示す。本発明の流路デバイス10d(図示せず)では、第1反応領域に、EM経路の反応酵素の各々が同一または別々の電極または構造体上に固定化され、第2反応領域202から第10反応領域210に、表1の番号2から10に図示されるTCAサイクルに関する反応を起こす各反応酵素が固定化された、人工ミトコンドリア様の流路デバイスとして構成してもよい。
【0092】
なお、上述した実施例に示した反応系に含まれる全ての酵素を電極または構造体上に固定化する必要はなく、当該反応系に含まれる一部の連続する酵素反応を担う一連の酵素を固定化してもよい。
【0093】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0094】
図12は、本発明の実施形態3に係るセンサー100の外観の一例を示す概略図であり、図13は、センサー100の構成を示すブロック図である。図13に示すように、センサー100は、センサー電極110(アノード)、カソード3及び検出部140を備えている。センサー電極110として、流路デバイス10を用いる。また、センサー100は、図12に示すように、測定結果等を表示するための表示部120及びユーザによる操作を行うための操作部130を備えていてもよい。
【0095】
作用極20に酸化電位をかけた状態のセンサー電極110を、検出対象物質を含む溶液中に浸すことにより、当該溶液中に存在する検出対象物質を基質とする酵素反応が、実施形態1と同様に第1反応領域24において起こり、これに続く酵素反応が、第2反応領域60及び第3反応領域70において起こる。これらの酵素反応によって抽出された電子がカソードに移動する時に、検出部140で当該電流の値を測定することで、当該溶液中に含まれている検出対象物質の濃度を測定する。
【0096】
すなわち、センサー100を用いたセンシング方法では、センサー電極110としての流路デバイス10の作用極20に酸化電位をかける工程と、検出対象物質としての基質を含む溶液を供給する工程と、流路デバイス10において検出対象(基質)から抽出された電子を検出部140が検出することにより、当該検出対象を検出する工程とを含む。
【0097】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 発電デバイス
2 アノード
3 カソード
10 流路デバイス
20 作用極
21 第1電極
22 第3電極
23 第5電極
24 第1反応領域
30 対極
31 第2電極
32 第4電極
33 カーボン電極
50 流路構造(流路)
60 第2反応領域
70 第3反応領域
100 センサー
110 センサー電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13