(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】アクチュエータ、シャッタ装置、流体制御装置およびスイッチ
(51)【国際特許分類】
H02N 13/00 20060101AFI20221021BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221021BHJP
H01H 59/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
H02N13/00 Z
B81B3/00
H01H59/00
(21)【出願番号】P 2019151218
(22)【出願日】2019-08-21
(62)【分割の表示】P 2015530840の分割
【原出願日】2014-07-30
【審査請求日】2019-08-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2013165166
(32)【優先日】2013-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】森 昭登
(72)【発明者】
【氏名】橋口 原
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達彦
(72)【発明者】
【氏名】今本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】大場 正利
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 久幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和徳
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】熊谷 健治
【審判官】窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-311783(JP,A)
【文献】特開昭53-126147(JP,A)
【文献】特開2013-27143(JP,A)
【文献】特開2006-353081(JP,A)
【文献】特開2005-335052(JP,A)
【文献】特開2012-57692(JP,A)
【文献】特開2011-188182(JP,A)
【文献】特開平5-272457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N13/00
B81B3/00
H01H59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面配置された一対の固定電極および可動電極を含む二組の電極構造を備える静電駆動機構と、
前記可動電極が設けられ、前記静電駆動機構により駆動される第1可動部と、
前記二組の前記電極構造の一方と、前記二組の前記電極構造の他方との間に配置され、前記固定電極に対して前記可動電極が同一面内でスライド移動可能なように、前記第1可動部を弾性支持する第1弾性支持部と、
前記静電駆動機構の前記各電極構造の前記固定電極および前記可動電極の少なくとも一方に形成された正・負極いずれか一方のエレクトレットと、
前記静電駆動機構への電圧印加を制御する駆動制御部と、を備えるアクチュエータであって、
前記アクチュエータには、前記エレクトレットに起因する静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う位置に、またはその近傍に設定された位置に、前記第1可動部が位置決めされる安定位置が複数設定されていて、
前記第1弾性支持部の前記弾性力の大きさは、前記二組の電極構造のうちの一組の電極構造における前記可動電極の前記固定電極に対する挿入量がゼロとなった位置において、前記二組の電極構造のうちのもう一組の電極構造の前記可動電極と前記固定電極との間で生じる前記エレクトレットによる静電力の大きさ未満であり、
前記駆動制御部は、前記静電駆動機構の前記電極構造の一方に、前記固定電極および前記可動電極の一方に形成されたエレクトレットと逆極性の電圧を印加することにより該静電駆動機構の静電力を一時的に弱めて、前記第1弾性支持部の前記弾性力により前記第1可動部を任意の安定位置に移動させ、前記電極構造の他方に、前記固定電極および前記可動電極の一方に形成されたエレクトレットと逆極性の電圧を印加することにより該静電駆動機構の静電力を一時的に弱めて、前記第1弾性支持部の前記弾性力により前記第1可動部を任意の安定位置から他の安定位置へ移動させ、
前記静電駆動機構は、前記二組の電極構造のうち少なくとも一組の電極構造が、前記固定電極としての固定櫛歯電極および前記可動電極としての可動櫛歯電極を備える櫛歯駆動部を有するとともに、前記固定櫛歯電極に対する前記可動櫛歯電極の挿入量が変化する方向と前記スライド移動の方向とが一致し、
前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の少なくとも一方に、前記エレクトレットが形成され、
前記可動櫛歯電極が前記固定櫛歯電極と歯合している状態で、前記可動櫛歯電極の挿入量が変化する方向の前記エレクトレットによる静電力が一定である、アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記静電駆動機構の前記二組の前記電極構造の一方は、
第1固定櫛歯電極、および該第1固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第1可動櫛歯電極を有する第1櫛歯駆動部を備え、
前記静電駆動機構の前記二組の前記電極構造の他方は、
前記第1固定櫛歯電極に対して間隔を空けて対向配置される第2固定櫛歯電極、および該第2固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第2可動櫛歯電極を有する第2櫛歯駆動部を備え、
前記第1可動部は、前記第1固定櫛歯電極と前記第2固定櫛歯電極との間に配置されるとともに、前記第1可動櫛歯電極および第2可動櫛歯電極が設けられ、
前記第1弾性支持部は、前記第1および第2固定櫛歯電極に対する前記第1および第2可動櫛歯電極の各挿入量が変化する方向にスライド移動可能なように前記第1可動部を弾性支持し、
前記エレクトレットは、前記第1固定櫛歯電極および前記第1可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第1エレクトレットと、前記第2固定櫛歯電極および前記第2可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第2エレクトレットと、を有し、
前記複数の安定位置として、
前記第2可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで前記第1可動櫛歯電極が前記第1固定櫛歯電極に吸引されて、前記第1エレクトレットに起因する第1静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、
前記第1可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで前記第2可動櫛歯電極が前記第2固定櫛歯電極に吸引されて、前記第2エレクトレットに起因する第2静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定され、
前記駆動制御部は、
前記第1櫛歯駆動部に前記第1静電力を弱める第1電圧を印加し、前記第1可動部を前記第1安定位置から前記第2安定位置へ移動させ、
前記第2櫛歯駆動部に前記第2静電力を弱める第2電圧を印加し、前記第1可動部を前記第2安定位置から前記第1安定位置へ移動させる、アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記静電駆動機構は、前記二組の電極構造のうち一組の電極構造が前記櫛歯駆動部を有し、前記二組の電極構造のうちもう一組の電極構造が、
前記第1可動部のスライド方向であって、該第1可動部を挟むように前記固定櫛歯電極とは反対側に設けられた固定電極板と、
前記固定電極板と対向配置され、前記第1可動部に設けられた可動電極板と、を備え、
前記エレクトレットは、前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第1エレクトレットと、対向配置された前記固定電極板および前記可動電極板の少なくとも一方に設けられた第2エレクトレットと、を備え、
前記複数の安定位置として、
前記可動櫛歯電極が前記固定櫛歯電極に挿入されるように吸引されて、前記第1エレクトレットに起因する第1静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、
前記固定櫛歯電極に対する前記可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで前記可動電極板が前記固定電極板側に吸引されて、前記第2エレクトレットに起因する第2静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定され、
前記駆動制御部は、
前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極との間に前記第1静電力を弱める第1電圧を印加して、前記第1可動部を前記第1安定位置から前記第2安定位置へ移動させ、
前記固定電極板と前記可動電極板との間に前記第2静電力を弱める第2電圧を印加して、前記第1可動部を前記第2安定位置から前記第1安定位置へ移動させる、アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアクチュエータにおいて、
前記静電駆動機構、前記第1可動部および前記第1弾性支持部のそれぞれは、同一シリコン基板を加工することにより形成されている、アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のアクチュエータと、
前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して光路に挿脱され、光源からの光を通過状態および非通過状態のいずれかに切換えるシャッタ部材と、を備え、
前記第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると前記通過状態とされ、前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると前記非通過状態とされるシャッタ装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアクチュエータと、
流路が形成された流路形成体と、
前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して前記流路を開閉する弁体と、を備え、
前記弁体は、前記第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると前記流路を開き、前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると前記流路を閉じる流体制御装置。
【請求項7】
複数の流路が形成された流路形成体と、
前記複数の流路の各々に設けられた、請求項1または2に記載のアクチュエータと、
前記複数の流路毎に設けられ、該流路に対応する前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して該流路を開閉する複数の弁体と、を備え、
前記複数の弁体の各々は、該弁体と一体に移動する前記第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると前記流路を開き、前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると前記流路を閉じる流体制御装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の流体制御装置において、
前記流路は、入口側の第1流路と出口側の第2流路とを有し、
前記流路に対応した前記弁体には、前記第1流路と前記第2流路とを連通する連通部と、前記第1および第2流路の一方を塞いで非連通状態とする遮蔽部とが形成されている流体制御装置。
【請求項9】
第1流路および複数の第2流路が形成された流路形成体と、
前記複数の第2流路の各々に設けられた、請求項1または2に記載のアクチュエータと、
前記複数の第2流路毎に設けられ、該第2流路に対応する前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して該第2流路と前記第1流路との連通および非連通を切り換える複数の弁体と、を備え、
前記複数の弁体の各々は、該弁体と一体に移動する前記第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると対応する第2流路と前記第1流路とを連通状態とし、前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると対応する第2流路と前記第1流路とを非連通状態とする流体制御装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載のアクチュエータと、
高周波信号入力用の信号線が接続される第1接点と、
入力された高周波信号を出力するための信号線が接続される第2接点と、
前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、前記第1接点と前記第2接点との間の導通および非導通を切り換える可動接点と、を備え、
前記可動接点は、前記第1可動部が複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると前記第1および第2接点間が導通とされ、前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると前記第1および第2接点間が非導通とされるスイッチ。
【請求項11】
請求項1または2に記載のアクチュエータと、
高周波信号入力用の第1信号線が接続される第1および第2接点と、
入力された高周波信号を出力するための第2信号線が接続される第3接点と、
入力された高周波信号を出力するための第3信号線が接続される第4接点と、
前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、前記第1および第3接点間の導通および非道通を切り換える第1可動接点と、
前記アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、前記第2および第4接点との導通および非道通を切り換える第2可動接点と、を備え、
前記第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると、前記第1および第3接点間が導通とされるとともに前記第2および第4接点間が非導通とされ、
前記第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると、前記第2および第4接点間が導通とされるとともに前記第1および第3接点間が非導通とされるスイッチ。
【請求項12】
平面配置された固定櫛歯電極および前記固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する可動櫛歯電極を備える静電駆動機構と、
前記可動櫛歯電極が設けられ、前記静電駆動機構により駆動される可動部と、
前記可動部を弾性支持する弾性支持部と、
前記静電駆動機構の前記固定櫛歯電極に形成された正・負極いずれか一方のエレクトレットと、
前記静電駆動機構への電圧印加を制御する駆動制御部と、を備えるアクチュエータであって、
前記アクチュエータには、前記エレクトレットに起因する静電力と前記弾性支持部の弾性力とが釣り合う位置に、またはその近傍に設定された位置に、前記可動部が位置決めされる安定位置
である第1安定位置が設定されていて、
前記駆動制御部による前記静電駆動機構への電圧が印加されていない状態で、前記可動櫛歯電極の先端は前記固定櫛歯電極の先端から所定のギャップだけ離間され、ギャップが殆どゼロの位置においては、フリンジ電界による静電力が前記弾性支持部の弾性力よりも大きく設定され、
前記駆動制御部は、前記静電駆動機構の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極間に前記エレクトレットによる静電力を強める第1電圧を印加することにより前記可動部を前記固定櫛歯電極側に移動させ、前記可動櫛歯電極を前記固定櫛歯電極に挿入して
前記第1安定位置に移動させ、前記固定櫛歯電極に前記第1電圧と逆極性の第2電圧を印加することにより、前記固定櫛歯電極に形成されたエレクトレットによる静電力を一時的に弱めて、前記弾性支持部の前記弾性力により前記可動部を
前記第1安定位置から、前記固定櫛歯電極に対する前記可動櫛歯電極の挿入量がゼロであって、前記エレクトレットに起因する前記固定
櫛歯電極の前記フリンジ電界による静電力と前記弾性支持部の弾性力とが釣り合う位置、またはその近傍に設定された
安定位置である
第2安定位置へ移動させ、
前記可動櫛歯電極が前記固定櫛歯電極と歯合している状態で、前記可動櫛歯電極の挿入量が変化する方向の前記エレクトレットによる静電力が一定である、アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットが形成された櫛歯電極を備えて複数の安定位置への移動が可能なアクチュエータ、そのアクチュエータを備えたシャッタ装置、流体制御装置、スイッチおよび2次元走査型センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットを備えて双安定構造のアクチュエータとしては、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の静電リレーでは、シーソー運動可能な可動板を挟むように固定側駆動電極とエレクトレットが配置され、固定側駆動電極に電圧を印加することにより、可動板をシーソー運動させて接点のオンオフを行わせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、可動板がシーソー運動する構成であるため、シーソー運動ができる程度の高さ方向空間が必要である。そのため、静電リレーの高さ寸法が大きくなるという欠点があった。また、可動板が形成された可動側基体を上側および下側の固定側基体で挟むように結合する構成であるため、正確な位置合わせが必要であると共に、工数が増えるという欠点もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によると、アクチュエータは、平面配置された一対の固定電極および可動電極を含む二組の電極構造を備える静電駆動機構と、前記可動電極が設けられ、前記静電駆動機構により駆動される第1可動部と、前記二組の前記電極構造の一方と、前記二組の前記電極構造の他方との間に配置され、前記固定電極に対して前記可動電極が同一面内でスライド移動可能なように、前記第1可動部を弾性支持する第1弾性支持部と、前記静電駆動機構の前記各電極構造の前記固定電極および前記可動電極の少なくとも一方に形成された正・負極いずれか一方のエレクトレットと、前記静電駆動機構への電圧印加を制御する駆動制御部と、を備えるアクチュエータであって、前記アクチュエータには、前記エレクトレットに起因する静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う位置に、またはその近傍に設定された位置に、前記第1可動部が位置決めされる安定位置が複数設定されていて、前記第1弾性支持部の前記弾性力の大きさは、前記可動電極の前記固定電極に対する挿入量がゼロとなった位置において、前記エレクトレットによる静電力の大きさ未満であり、前記駆動制御部は、前記静電駆動機構の前記電極構造の一方に、前記固定電極および前記可動電極の一方に形成されたエレクトレットと逆極性の電圧を印加することにより該静電駆動機構の静電力を一時的に弱めて、前記第1弾性支持部の前記弾性力により前記第1可動部を任意の安定位置に移動させ、前記電極構造の他方に、前記固定電極および前記可動電極の一方に形成されたエレクトレットと逆極性の電圧を印加することにより該静電駆動機構の静電力を一時的に弱めて、前記第1弾性支持部の前記弾性力により前記第1可動部を任意の安定位置から他の安定位置へ移動させる。
本発明の第2の態様によると、第1の態様のアクチュエータにおいて、静電駆動機構は、固定電極としての固定櫛歯電極および可動電極としての可動櫛歯電極を備える櫛歯駆動部を少なくとも有するとともに、固定櫛歯電極に対する可動櫛歯電極の挿入量が変化する方向とスライド移動の方向とが一致し、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の少なくとも一方に、エレクトレットが形成されていることが好ましい。
本発明の第3の態様によると、第2の態様のアクチュエータにおいて、前記静電駆動機構の前記二組の前記電極構造の一方は、第1固定櫛歯電極、および該第1固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第1可動櫛歯電極を有する第1櫛歯駆動部と、を備え、前記静電駆動機構の前記二組の前記電極構造の他方は、前記第1固定櫛歯電極に対して間隔を空けて対向配置される第2固定櫛歯電極、および該第2固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第2可動櫛歯電極を有する第2櫛歯駆動部と、を備え、前記第1可動部は、前記第1固定櫛歯電極と前記第2固定櫛歯電極との間に配置されるとともに、前記第1可動櫛歯電極および第2可動櫛歯電極が設けられ、前記第1弾性支持部は、前記第1および第2固定櫛歯電極に対する前記第1および第2可動櫛歯電極の各挿入量が変化する方向にスライド移動可能なように前記第1可動部を弾性支持し、前記エレクトレットは、前記第1固定櫛歯電極および前記第1可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第1エレクトレットと、前記第2固定櫛歯電極および前記第2可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第2エレクトレットと、を有し、前記複数の安定位置として、前記第2可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで前記第1可動櫛歯電極が前記第1固定櫛歯電極に吸引されて、前記第1エレクトレットに起因する第1静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、前記第1可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで前記第2可動櫛歯電極が前記第2固定櫛歯電極に吸引されて、前記第2エレクトレットに起因する第2静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定され、前記駆動制御部は、前記第1櫛歯駆動部に前記第1静電力を弱める第1電圧を印加し、前記第1可動部を前記第1安定位置から前記第2安定位置へ移動させ、前記第2櫛歯駆動部に前記第2静電力を弱める第2電圧を印加し、前記第1可動部を前記第2安定位置から前記第1安定位置へ移動させることが好ましい。
本発明の第4の態様によると、第2の態様のアクチュエータにおいて、静電駆動機構は、第1可動部のスライド方向であって、該第1可動部を挟むように固定櫛歯電極とは反対側に設けられた固定電極板と、固定電極板と対向配置され、第1可動部に設けられた可動電極板と、をさらに備え、エレクトレットは、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第1エレクトレットと、対向配置された固定電極板および可動電極板の少なくとも一方に設けられた第2エレクトレットと、を備え、前記複数の安定位置として、可動櫛歯電極が固定櫛歯電極に挿入されるように吸引されて、第1エレクトレットに起因する第1静電力と第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、固定櫛歯電極に対する可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで可動電極板が固定電極板側に吸引されて、第2エレクトレットに起因する第2静電力と第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定され、駆動制御部は、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極との間に第1静電力を弱める第1電圧を印加して、第1可動部を第1安定位置から第2安定位置へ移動させ、固定電極板と可動電極板との間に第2静電力を弱める第2電圧を印加して、第1可動部を第2安定位置から第1安定位置へ移動させる、ことが好ましい。
本発明の第5の態様によると、第2の態様のアクチュエータにおいて、前記複数の安定位置として、挿入量が正であって、エレクトレットに起因する静電力と第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、挿入量がゼロであって、エレクトレットに起因する固定櫛歯電極のフリンジ電界による静電引力と弾性力とが釣り合い、かつ、第2電圧を印加時のフリンジ電界による静電力が弾性力よりも大きくなる安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定され、駆動制御部は、櫛歯駆動部の静電力を弱める第1電圧を印加して第1可動部を第1安定位置から第2安定位置へ駆動し、櫛歯駆動部の静電力を強める第2電圧を印加して第1可動部を第2安定位置から第1安定位置へ駆動する、ことが好ましい。
本発明の第6の態様によると、第2の態様のアクチュエータにおいて、静電駆動機構は、第1固定櫛歯電極および第1可動櫛歯電極を有する第1櫛歯駆動部と、第2固定櫛歯電極および第2可動櫛歯電極を有する第2櫛歯駆動部とを備え、第1固定櫛歯電極および第2固定櫛歯電極は、間隔を空けて対向配置され、第1可動部は、第1固定櫛歯電極と第2固定櫛歯電極との間に配置され、かつ、第1固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合するように第1可動櫛歯電極が設けられるとともに、第2固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合するように第2可動櫛歯電極が設けられ、第1弾性支持部は、第1および第2可動櫛歯電極の各挿入量が変化する方向にスライド移動可能なように第1可動部を弾性支持し、エレクトレットは、第1固定櫛歯電極および第1可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第1エレクトレットと、第2固定櫛歯電極および第2可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第2エレクトレットと、を有し、前記複数の安定位置として、第1エレクトレットに起因する第1静電力と第2エレクトレットに起因する第2静電力と第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置が複数設定されるように、第1固定櫛歯電極または第1可動櫛歯電極の櫛歯形状は、第1静電力の大きさが第1可動電極の挿入量に応じて複数段に変化するように構成され、駆動制御部は、第1櫛歯駆動部および第2櫛歯駆動部の少なくとも一方の印加電圧を制御して、第1可動部を複数の安定位置のいずれかに移動させる、ことが好ましい。
本発明の第7の態様によると、第6の態様のアクチュエータにおいて、第1固定櫛歯電極または第1可動櫛歯電極は、長さが異なる複数種類の櫛歯群または櫛歯配列方向の櫛歯幅寸法が異なる複数種類の櫛歯群を備えている、ことが好ましい。
本発明の第8の態様によると、第1乃至7のいずれか一態様のアクチュエータにおいて、静電駆動機構、第1可動部および第1弾性支持部のそれぞれは、同一シリコン基板を加工することにより形成されていることが好ましい。
本発明の第9の態様によると、第3の態様のアクチュエータにおいて、ベースに設けられ、第1可動部の移動方向と交差する方向に間隔を空けて対向配置された第3固定櫛歯電極および第4固定櫛歯電極と、第3固定櫛歯電極と第4固定櫛歯電極との間に配置され、第3固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第3可動櫛歯電極、および第4固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第4可動櫛歯電極が設けられた第2可動部と、交差する方向にスライド移動可能なように第2可動部を第1可動部に対して弾性支持する第2弾性支持部と、をさらに備え、エレクトレットは、第3固定櫛歯電極および第3可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第3エレクトレットと、第4固定櫛歯電極および第4可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第4エレクトレットと、をさらに有し、前記複数の安定位置として、第4固定櫛歯電極に対する第4可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで第3可動櫛歯電極が第3固定櫛歯電極に吸引されて、第3エレクトレットに起因する第3静電力と第2弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第3安定位置と、第3固定櫛歯電極に対する第3可動櫛歯電極の挿入量がゼロとなる位置まで第4可動櫛歯電極が第4固定櫛歯電極に吸引されて、第4エレクトレットに起因する第4静電力と第2弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第4安定位置と、がさらに設定され、駆動制御部は、第3固定櫛歯電極と第3可動櫛歯電極との間に第3静電力を弱める第3電圧を印加し、第2可動部を第3安定位置から第4安定位置へ移動させ、第4固定櫛歯電極と第4可動櫛歯電極との間に第4静電力を弱める第4電圧を印加し、第2可動部を第4安定位置から第3安定位置へ移動させる、ことが好ましい。
本発明の第10の態様によると、第6の態様のアクチュエータにおいて、ベースに設けられ、第1可動部の移動方向と交差する方向に間隔を空けて対向配置された第3固定櫛歯電極および第4固定櫛歯電極と、第3固定櫛歯電極と第4固定櫛歯電極との間に配置され、第3固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第3可動櫛歯電極、および第4固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する第4可動櫛歯電極が設けられた第2可動部と、交差する方向に移動可能なように第2可動部を第1可動部に対して弾性支持する第2弾性支持部と、をさらに備え、エレクトレットは、第3固定櫛歯電極および第3可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第3エレクトレットと、第4固定櫛歯電極および第4可動櫛歯電極の少なくとも一方に設けられた第4エレクトレットと、をさらに有し、第3エレクトレットに起因する第3静電力と第4エレクトレットに起因する第4静電力と第2弾性支持部の弾性力とが釣り合う複数の第2安定位置が設定されるように、第3固定櫛歯電極または第3可動櫛歯電極の櫛歯形状は、第3静電力の大きさが第3可動電極の挿入量に応じて複数段に変化するように構成され、駆動制御部は、第3固定櫛歯電極と第3可動櫛歯電極との間の印加電圧、および第4固定櫛歯電極と第4可動櫛歯電極との間の印加電圧の少なくとも一方を制御して、第2可動部を複数の第2安定位置のいずれかに移動させる、ことが好ましい。
本発明の第11の態様によると、シャッタ装置は、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して光路に挿脱され、光源からの光を通過状態および非通過状態のいずれかに切換えるシャッタ部材と、を備え、第1可動部が複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると通過状態とされ、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると非通過状態とされる。
本発明の第12の態様によると、シャッタ装置は、第6の態様のアクチュエータと、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して光路に挿脱され、第1可動部が複数の安定位置のいずれに移動されるかに応じて光路遮蔽率の異なる遮蔽部材と、を備え、駆動制御部により印加電圧を制御して第1可動部を複数の安定位置に移動させて、通過光量を制御する。
本発明の第13の態様によると、流体制御装置は、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、流路が形成された流路形成体と、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して流路を開閉する弁体と、を備え、弁体は、第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると流路を開き、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると流路を閉じる。
本発明の第14の態様によると、流体制御装置は、複数の流路が形成された流路形成体と、複数の流路の各々に設けられた、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、複数の流路毎に設けられ、該流路に対応するアクチュエータの第1可動部と一体に移動して該流路を開閉する複数の弁体と、を備え、複数の弁体の各々は、該弁体と一体に移動する第1可動部が複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると流路を開き、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると流路を閉じる。
本発明の第15の態様によると、第13または14の態様の流体制御装置において、流路は、入口側の第1流路と出口側の第2流路とを有し、流路に対応した弁体には、第1流路と第2流路とを連通する連通部と、第1および第2流路の一方を塞いで非連通状態とする遮蔽部とが形成されていることが好ましい。
本発明の第16の態様によると、流体制御装置は、第1流路および複数の第2流路が形成された流路形成体と、複数の第2流路の各々に設けられた、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、複数の第2流路毎に設けられ、該第2流路に対応するアクチュエータの第1可動部と一体に移動して該第2流路と第1流路との連通および非連通を切り換える複数の弁体と、を備え、複数の弁体の各々は、該弁体と一体に移動する第1可動部が複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると対応する第2流路と第1流路とを連通状態とし、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると対応する第2流路と第1流路とを非連通状態とする。
本発明の第17の態様によると、スイッチは、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、高周波信号入力用の信号線が接続される第1接点と、入力された高周波信号を出力するための信号線が接続される第2接点と、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、第1接点と第2接点との間の導通および非導通を切り換える可動接点と、を備え、可動接点は、第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると第1および第2接点間が導通とされ、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると第1および第2接点間が非導通とされる。
本発明の第18の態様によると、スイッチは、第1乃至3のいずれか一態様のアクチュエータと、高周波信号入力用の第1信号線が接続される第1および第2接点と、入力された高周波信号を出力するための第2信号線が接続される第3接点と、入力された高周波信号を出力するための第3信号線が接続される第4接点と、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、第1および第3接点間の導通および非道通を切り換える第1可動接点と、アクチュエータの第1可動部と一体に移動して、第2および第4接点との導通および非道通を切り換える第2可動接点と、を備え、第1可動部が前記複数の安定位置の内の第1安定位置へ移動されると、第1および第3接点間が導通とされるとともに第2および第4接点間が非導通とされ、第1可動部が他の第2安定位置へ移動されると、第2および第4接点間が導通とされるとともに第1および第3接点間が非導通とされる。
本発明の第19の態様によると、2次元走査型センサ装置は、第9または10の態様のアクチュエータと、アクチュエータの第2可動部と一体に移動し、該第2可動部の移動範囲における物理量を検出するセンサと、を備え、第1可動部および第2可動部の少なくとも一方を各々の安定位置に移動することにより、センサを二次元的に移動させて物理量の検出を行う。
本発明の第20の態様によると、アクチュエータは、平面配置された固定櫛歯電極および前記固定櫛歯電極に挿脱可能に歯合する可動櫛歯電極を備える静電駆動機構と、前記可動櫛歯電極が設けられ、前記静電駆動機構により駆動される可動部と、前記可動部を弾性支持する弾性支持部と、前記静電駆動機構の前記固定櫛歯電極および前記可動櫛歯電極の少なくとも一方に形成された正・負極いずれか一方のエレクトレットと、前記静電駆動機構への電圧印加を制御する駆動制御部と、を備えるアクチュエータであって、前記アクチュエータには、前記エレクトレットに起因する静電力と前記弾性支持部の弾性力とが釣り合う位置に、またはその近傍に設定された位置に、前記可動部が位置決めされる安定位置が複数設定されていて、前記駆動制御部による前記静電駆動機構への電圧が印加されていない状態で、前記可動櫛歯電極の先端は前記固定櫛歯電極の先端から所定のギャップだけ離間され、ギャップが殆どゼロの位置においては、フリンジ電界による静電力が前記弾性支持部の弾性力よりも大きく設定され、前記駆動制御部は、前記静電駆動機構の前記固定櫛歯電極と前記可動櫛歯電極間に前記エレクトレットによる静電力を強める第1電圧を印加することにより前記可動部を前記固定櫛歯電極側に移動させ、前記可動櫛歯電極を前記固定櫛歯電極に挿入して任意の安定位置に移動させ、前記固定櫛歯電極に前記第1電圧と逆極性の第2電圧を印加することにより、前記固定櫛歯電極に形成されたエレクトレットによる静電力を一時的に弱めて、前記弾性支持部の前記弾性力により前記可動部を任意の安定位置から他の安定位置へ移動させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、可動部はエレクトレットの静電力により複数の安定位置に維持され、電圧印加により静電力を変えることで安定位置間を移動する。さらに、静電駆動機構の可動電極は、固定電極に対して面内でスライド移動する。その結果、省電力、薄型のアクチュエータ、シャッタ装置、流体制御装置、高周波スイッチおよび2次元走査型センサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明に係るアクチュエータの第1の実施の形態を示す図である。
【
図2】
図2は、櫛歯300,400における帯電状態を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、可動部5の変位xと、可動部5に作用する力との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、変位x=0から第1の安定位置へ可動部5を移動させる場合の動作説明図である。
【
図6】
図6は、第1の安定位置から第2の安定位置への変位を説明する図である。
【
図7】
図7は、弾性支持部6が座屈により撓んだ状態を示す図である。
【
図8】
図8は、座屈がある場合の変位と力との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、形成方法の第1のステップを示す図である。
【
図10】
図10は、形成方法の第2のステップを示す図である。
【
図11】
図11は、形成方法の第3のステップを示す図である。
【
図12】
図12は、形成方法の第4のステップを示す図である。
【
図13】
図13は、形成方法の第5のステップを示す図である。
【
図14】
図14は、形成方法の第6のステップを示す図である。
【
図15】
図15は、形成方法の第7のステップを示す図である。
【
図17】
図17は、櫛歯300,400にエレクトレットを形成する方法を説明する図である。
【
図20】
図20は、FSC方式におけるカラー化の概念を説明する図である。
【
図22】
図22は、弁体202と流路構造体204と示す図である。
【
図25】
図25は、三方切換弁210の切換動作を説明する図である。
【
図26】
図26は、流量制御弁220の正面側を示す図である。
【
図27】
図27は、流路構造体221の表面側を示す図である。
【
図30】
図30は、RFスイッチ230の一部を示す断面図である。
【
図31】
図31は、RFスイッチ230の導通状態を示す図である。
【
図32】
図32は、SPDT(Single Pole Double Throw)のRFスイッチ1とした場合の構成を示す図である。
【
図34】
図34は、本発明に係るアクチュエータの第2の実施の形態を示す図である。
【
図35】
図35は、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bの拡大図である。
【
図36】
図36は、V1=V2=0の場合における、変位xと可動部5に作用する力との関係を示す図である。
【
図37】
図37は、釣り合い位置C0にある可動部5を、釣り合い位置C1へ移動する場合の説明図である。
【
図38】
図38は、釣り合い位置C1にある可動部5を、釣り合い位置C2へ移動する場合の説明図である。
【
図39】
図39は、位置C0にある可動部5の位置C2への移動を説明する図である。
【
図40】
図40は、位置C0にある可動部5の位置C3への移動を説明する図である。
【
図41】
図41は、位置C0にある可動部5の位置C4への移動を説明する図である。
【
図42】
図42は、位置C0にある可動部5を位置C5へ移動させる場合の、説明図である。
【
図43】
図43は、位置C5にある可動部5を位置C4へ移動させる場合の、説明図である。
【
図44】
図44は、位置C5にある可動部5を位置C3へ移動させる場合の、説明図である。
【
図45】
図45は、位置C5にある可動部5を位置C2へ移動させる場合の、説明図である。
【
図46】
図46は、位置C5にある可動部5を位置C1へ移動させる場合の、説明図である。
【
図47】
図47は、位置C5にある可動部5を位置C0へ移動させる場合の、説明図である。
【
図48】
図48は、複数の安定位置が得られる櫛歯形状の他の例を示す図である。
【
図49】
図49は、変位xと弾性力L1、静電力L2,L3およびトータルの力L4を示す図である。
【
図50】
図50は、本発明に係るアクチュエータの第3の実施の形態を示す図である。
【
図51】
図51は、
図50のアクチュエータ13において、V1=V2=0の場合における変位xと可動部5に作用する力を示す図である。
【
図52】
図52は、xy平面における安定位置を示す図である。
【
図53】
図53は、2次元走査型赤外線検出装置51を示す図である。
【
図55】
図55は、櫛歯型電極と平行平板型電極とを備えたアクチュエータ110Aを示す図である。
【
図56】
図56は、アクチュエータ110Aにおける、弾性力、電極板3D,4Dによる静電力、電極3B,4Bによる静電力およびトータルの力を示す図である。
【
図57】
図57は、アクチュエータ110Aにおける、安定位置間の移動動作を説明する図である。
【
図59】
図59は、アクチュエータ110Bにおける、弾性力、静電力およびトータルの力の変化を示す図である。
【
図60】
図60は、アクチュエータ110Bにおいて、可動部5を安定位置C2から安定位置C1に移動させる動作を説明する図である。
【
図61】
図61は、挿入量≠0の構成の場合のラインL1,L2,L4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、本発明に係るアクチュエータの第1の実施の形態を示す図であり、アクチュエータの概略構成を模式的に示したものである。アクチュエータ1は、ベース2、第1固定電極3A、第2固定電極3B、第1可動電極4A、第2可動電極4B、可動部5、弾性支持部6、接続パッド部7a,7b,7c,7d、第1駆動部8A、第2駆動部8B、制御部223を備えている。
【0009】
ベース2は矩形枠形状を有しているが、矩形枠形状に限定されない。第1固定電極3Aは、ベース2の図示左側の辺に設けられている。一方、第2固定電極3Bは、第1固定電極3Aと対向配置されるようにベース2の図示右側の辺に設けられている。可動部5の左端には第1可動電極4Aが設けられ、可動部5の右端には第2可動電極4Bが設けられている。第1可動電極4Aおよび第2可動電極4Bが設けられた可動部5は、弾性支持部6によって弾性支持されている。各弾性支持部6の他端は、ベース2に固定されている。
【0010】
図1に示すように、第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aは櫛歯構造を有しており、第1固定電極3Aには複数の櫛歯300が形成され、第1可動電極4Aには複数の櫛歯400が形成されている。第1固定電極3Aと第1可動電極4Aとは、櫛歯300と櫛歯400とが互いに歯合するように配置されている。同様に、第2固定電極3Bには複数の櫛歯300が形成され、第2可動電極4Bには複数の櫛歯400が形成されている。第2固定電極3Bと第2可動電極4Bとは、櫛歯300と櫛歯400とが互いに歯合するように配置されている。
【0011】
このように、第1固定電極3Aと第1可動電極4A、また、第2固定電極3Bと第2可動電極4Bは、それぞれ櫛歯駆動部を構成しており、2つの櫛歯駆動部によりアクチュエータ1における静電駆動機構が構成される。各櫛歯駆動部において、第1固定電極3Aおよび第2固定電極3Bは固定櫛歯電極を構成し、第1可動電極4Aおよび第2可動電極4Bは可動櫛歯電極を構成している。櫛歯電極とは、
図1の第1固定電極3Aや第1可動電極4Aのように、複数の櫛歯300,400を並列配置したものであるが、本実施の形態では、櫛歯本数が最小の櫛歯駆動部としては、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の一方の電極に2つの櫛歯が形成され、その2つの櫛歯の間に挿入されるように他方の電極に1つの櫛歯が形成されている構成が対応する。このような構成であれば、以下に記載のような機能を有するアクチュエータを構成することができる。
【0012】
弾性支持された可動部5は、一対の可動電極4A,4Bと一体に図示左右方向にスライド移動することができる。
図1では図示を省略したが、歯合している櫛歯300,400の少なくとも一方には、櫛歯表面近傍にエレクトレットが形成されている。そのため、可動電極と固定電極とが歯合すると、すなわち、櫛歯300の間に櫛歯400が挿入された状態になると、静電力によって可動電極が固定電極側に引き込まれる。
【0013】
図2は、櫛歯300,400における帯電状態を模式的に示したものである。
図2は、櫛歯400のエレクトレットELをプラスに帯電させ、櫛歯300のエレクトレットELをマイナスに帯電させた場合を示す。なお、一方の櫛歯のみにエレクトレットELを形成する場合においては、歯合している他方の櫛歯には、逆極性の電荷が誘起される。
【0014】
図1では、第1可動電極4Aが第1固定電極3Aに引き込まれた状態を示しており、反対側の第2可動電極4Bの櫛歯400の先端は第2固定電極3Bの櫛歯300間から完全に抜け出ている。そのときの櫛歯300の先端と櫛歯400の先端とのギャップ寸法はΔdである。後述するように、
図1に示すアクチュエータ1の可動部5は、2つの安定位置の間でスライド移動される。
図1は第1の安定位置を示している。第2の安定位置は、第2可動電極4Bが第2固定電極3Bに引き込まれた状態である。その場合には、第1可動電極4Aの櫛歯400の先端は櫛歯300間から完全に抜け出た状態となる。
【0015】
第1駆動部8Aは、第1固定電極3Aと第1可動電極4Aとの間に電圧を印加する装置であり、直列接続されたスイッチ9および直流電源10Aを備えている。
図2に示したように、第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aの少なくとも一方に設けられているエレクトレットは、第1固定電極3Aに対して第1可動電極4Aが高電位となるように荷電されている。第1駆動部8Aのプラス側は第1固定電極3Aの接続パッド部7aに接続され、第1駆動部8Aのマイナス側は第1可動電極4Aの接続パッド部7bに接続されている。
【0016】
第2駆動部8Bは、第2固定電極3Bと第2可動電極4Bとの間に電圧を印加する装置であり、直列接続されたスイッチ9および直流電源10Bを備えている。第2固定電極3Bおよび第2可動電極4Bの少なくとも一方に設けられているエレクトレットは、第2固定電極3Bに対して第2可動電極4Bが高電位となるように荷電されている。第2駆動部8Bのプラス側は第2固定電極3Bの接続パッド部7dに接続され、第2駆動部8Bのマイナス側は第2可動電極4Bの接続パッド部7cに接続されている。第1駆動部8Aおよび第2駆動部8Bは、制御部223からの指令により、スイッチ9のオンオフや直流電圧V1,V2の電圧調整等を行う。
【0017】
次に、アクチュエータ1の動作について説明する。
図1では、第1安定位置におけるアクチュエータ1を示したが、
図3は、可動部5の変位xがx=0の場合を示したものである。後述するように半導体基板をMEMS加工技術により加工した際のアクチュエータ1は、理想的には
図3に示すような状態、すなわち弾性支持部6が直線状になった状態に維持される。以下では、変位xは、可動部5がx=0よりも右側に変位した場合を正とする。
【0018】
変位x=0においては、弾性支持部6は左右どちらにも変形しておらず、弾性支持部6による図示左右方向の弾性力fはf=0となっているとする。また、弾性力を変位xの関数f(x)と表した場合、f(0)=0、x>0の場合にはf(x)<0、x<0の場合にはf(x)>0であるとする。なお、力の正負は、力の向きがx軸正方向の場合を正とした。以下では、弾性力f(x)がf(x)=-kxで近似できるものとして説明する。kはバネ定数である。
【0019】
図3に示すように、変位x=0では、第1固定電極3Aと第1可動電極4A、および第2固定電極3Bと第2可動電極4Bとは、それぞれ櫛歯300,400が歯合している。x=0における櫛歯300と櫛歯400との間の挿入深さd(以下では、dのことを挿入量と呼ぶことにする)は、電極3A,4A側と電極3B,4B側とで等しく設定されていると仮定する。櫛歯300と櫛歯400とが挿入状態にある場合には、電極3A,4A側の静電力FL(V1)、および電極3B,4B側の静電力FR(V2)は、次式(1),(2)で表される。なお、V1は第1駆動部8Aによる印加電圧であり、V2は第2駆動部8Bによる印加電圧であり、ε
0は真空の誘電率、gは櫛歯300,400間のギャップ寸法、bは櫛歯の厚み寸法(
図3の紙面に垂直な方向の寸法)、VeはエレクトレットELによる櫛歯間の電圧である。ここでは、電極3A,4A側のエレクトレットによる櫛歯間電圧と、電極3B,4B側のエレクトレットによる櫛歯間電圧とを同一であるとした。また、Nは、電極3A,4A側および電極3B,4B側の電極櫛歯の組数である。なお、x軸正方向の力を正とし、櫛歯300の厚み寸法と櫛歯400の厚み寸法とは等しいとした。
FL(V1)=-Nε
0b(Ve-V1)
2/g …(1)
FR(V2)=Nε
0b(Ve-V2)
2/g …(2)
【0020】
静電力FL(V1),FR(V2)は、可動電極を固定電極側に引き込む方向に作用し、電圧差(Ve-V1)、(Ve-V2)が一定である限り挿入量dに依らず一定である。そのため、V1=V2=0の場合、すなわち第1および第2電源部8A,8Bによる電圧印加が行われていない場合、
図3の状態では固定電極3A側への静電力と第2固定電極側への静電力とが等しく、静電力と弾性力とが釣り合う中立位置(x=0)で釣り合い状態となっている。
【0021】
図4は、V1=V2=0の場合の、可動部5の変位xと可動部5に作用する力との関係を示す図であり、縦軸は力、横軸は変位xである。
図4において、ラインL1は弾性支持部6による弾性力fを示している。上述したように、f(x)=-kxとする。ラインL2は、電極3A,4Aのエレクトレット電圧Veによる静電力FL(0)を示している。中立位置(x=0)における電極3A,4Aの挿入量はdなので、静電力FL(0)は変位xがx<dの範囲において発生し、x≧dにおいては電極3A,4Aによる静電力はゼロとなる。ラインL3は、電極3B,4Bのエレクトレット電圧Veによる静電力FR(0)を示している。中立位置(x=0)における電極3B,4Bの挿入量はdなので、静電力FR(0)はx>-dの範囲において発生し、x≦-dにおいては電極3B,4Bによる静電力はゼロとなる。
【0022】
可動部5に作用するトータルの力は、静電力と弾性力とを合わせたものであり、破線で示すラインL4となる。
図4に示す例では、FR(0)=-FL(0)のように設定されているので、-d<x<dの範囲においては、正方向の静電力FR(0)と負方向の静電力FL(0)とが打ち消し合い、トータルの力は弾性力と等しくなる。そのため、変位x=0が釣り合い位置となる。
【0023】
変位xがx≦-dの範囲では、第2可動電極4Bの櫛歯400は第2固定電極3Bの櫛歯300間から抜け出て、挿入量がゼロとなる。そのため、可動部5には、静電力FL(0)と弾性力f(x)=-kxとを合わせた力が作用することになる。その結果、x≦-dの範囲においては、ラインL4は座標(-d、ΔF)を通る傾き-kの直線となる。ΔFは次式(3)で表され、x=-dにおいてはマイナス値となる。
ΔF=-f(-d)+FL(0) …(3)
【0024】
図4に示す例では、x=-dにおいて「(弾性力の大きさ)<(静電力の大きさ)」が成立するように設定されており、ラインL4はx=-d-Δdにおいて横軸と交差する。すなわち、x=-d-Δdにおいて弾性力と電極3A,4Aによる静電力とが釣り合い、この変位x=-d-Δdにおいて安定状態となる。以下では、変位x=-d-Δdを第1の安定位置と呼ぶことにする。なお、x=-dにおいて「(弾性力の大きさ)≧(静電力の大きさ)」のように設定した場合、x<0においてラインL4は横軸と交差しないので、x<0において安定状態は生じないことになる。
【0025】
一方、変位xがx≧dの範囲では、第1可動電極4Aの櫛歯400は第1固定電極3Aの櫛歯300間から抜け出て、挿入量がゼロとなる。そのため、可動部5には、静電力FR(0)と弾性力f(x)=-kxとを合わせた力が作用することになる。x≧dの範囲においては、ラインL4は座標(d、ΔF)を通る傾き-kの直線となる。ΔFは次式(4)で表される。
ΔF=-f(d)+FR(0) …(4)
【0026】
ラインL4は、x=d+Δdにおいて横軸と交差する。すなわち、x=d+Δdにおいて弾性力と電極3B,4Bによる静電力とが釣り合い、この変位x=d+Δdにおいて安定状態となる。以下では、変位x=d+Δdを第2の安定位置と呼ぶことにする。なお、「(弾性力の大きさ)≧(静電力の大きさ)」のように設定した場合、x>0においてラインL4は横軸と交差しないので、x>0において安定状態は生じないことになる。
【0027】
本実施の形態では、可動部5を上述した第1の安定位置と第2の安定位置との間で移動させる。そのため、初期状態として、
図3に示す中立位置(x=0)から第1の安定位置または第2の安定位置へと可動部5を移動させておく必要がある。
図5は、
図3に示す中立位置(x=0)から第1の安定位置へ可動部5を移動させる場合の、動作説明図である。この場合、右側の電極3B,4Bに直流電源10Bの印加電圧V2を印加して、
図5に示すように-d-Δd<x≦0におけるトータルの力が負となるようにする。直流電源10Bの電圧V2は、V20<V2≦Veのように設定される。電圧V20はエレクトレットによる電圧Veと逆極性の電圧であり、「FL(0)+FR(V20)-kd=0」を成り立たせる電圧である。このような電圧V2を印加すると、領域x>-dにおけるラインL3,L4は、FR(0)-FR(V2)だけ下方に移動する。その結果、釣り合い位置はx=-d-Δdに変化し、可動部5はx=0からx=-d-Δd(第1の安定位置)へ移動する。その後、電圧V2の印加を停止すると、トータルの力を示すラインL4は、
図4に示した状態に戻る。すなわち、アクチュエータ1は
図1に示す状態となる。
【0028】
次に、
図4に示す第1の安定位置(x=-d-Δd)から、x=d+Δdの第2の安定位置へ変位させる場合について説明する。この場合、-d-Δd≦x≦d+Δdの範囲においてトータルの力(ラインL4)が正となるように、直流電源10Aによる外部電圧V1を電極3A,4Aに印加する。電圧V1はエレクトレットによる電圧Veと逆極性の電圧であり、V10<V1≦Veのように設定される。電圧V10は、「FL(V10)+FR(0)-kd=0」を満たす。電圧V1を印加すると、トータルの力を示すラインL4は、
図6に示すように上方に移動し、可動部5はx=-d-Δdからx=d+Δdへ移動する。その後、V1=0とすると、トータルの力を示すラインL4は、
図4に示した状態に戻る。
【0029】
なお、上述した説明では、弾性支持部6の弾性力がf(x)=-kxで表せる場合を例に説明した。しかしながら、後述するように半導体基板をMEMS加工技術により加工してアクチュエータ1を形成した場合、弾性支持部6に内部応力が生じ、実際には単純な弾性変形として扱えない場合がある。具体的には、圧縮応力が生じて、いわゆる座屈が生じた状態となる。そのため、加工後の静電力が無い状態においては座屈により弾性支持部6は撓み、可動部5は、
図3に示した変位x=0の状態から右側にxzまたは左側に-xzだけ若干偏った状態となっている。xz、-xzは座屈による変位である。
【0030】
図7は、弾性支持部6が座屈により撓んだ状態を示す。なお、この状態においても、左側の電極3A,4Aも右側の電極3B,4Bも挿入状態となっているとする。このように座屈が生じた場合の弾性支持部6による力f(x)は複雑になるが、単純にx>xz、x<-xzでは変位に比例すると仮定し、座屈領域-xz≦x≦xzの力の変化を直線で表すと、
図8のラインL5のようになる。その結果、トータルの力はラインL4のようになり、電圧V1,V2を印加しない場合には黒丸(4箇所)の位置で釣り合うことになる。
【0031】
図7に示す座屈状態から
図1に示す第1の安定位置へ可動部5を移動させるには、右側の電極3B,4Bに電圧V2を印加する。例えば、V2=VeとするとFR(V2)=0となるので、静電力FL(0)によって可動部5は左側に移動する。静電力FL(0)は、変位x=-dにおいて-FL(0)>f(-d)となるように設定されるので、右側の電極3B,4Bにおける挿入量がゼロとなった後も左側へ移動する。そして、
図1に示すように、x=-d-Δdにおいて、静電力と弾性力とが釣り合う。この状態は、スイッチ9をオフして印加電圧をゼロに戻しても、維持される。
【0032】
次に、
図1に示す第1の安定位置から第2の安定位置に可動部5を移動させる場合には、左側の電極3A,4Aに電圧V1=Veを印加する。その結果、左側に吸引していた静電力がFL(V1)=0となり、可動部5は弾性力により右側に移動する。
【0033】
なお、弾性支持部6による力はx<-xzにおいては正方向(右方向)に作用するが、
図7の座屈状態(変位x=-xz)から変位x=0までの範囲では、座屈によって負方向に力が作用する。また、変位x=0から右側に座屈した状態(変位=xz)までの範囲では、座屈によって正方向に力が作用する。変位x=xzからさらに右側に変位すると、負方向の力が作用する。
【0034】
ところで、可動部5が第1の安定位置から右側に移動した場合、
図7の座屈状態となる前に、右側の電極3B,4Bは挿入状態となる。そのため、変位xがx=-xzとなる前に正方向の静電力FR(0)が作用することになる。ここでは、正方向の静電力FR(0)は-xz<x<0における負方向の座屈力よりも大きく設定されているので、座屈力に抗しながらx=0まで移動する。変位がx=0を越えた瞬間に、可動部5は、弾性支持部6の右側への座屈によって変位=xzの位置まで一気に移動する。その後、可動部5はさらに右側に移動し、弾性支持部6の弾性力と静電力FR(0)とが釣り合う位置まで移動する。なお、詳細は省略するが、第2の安定位置から第1の安定位置へ移動させる場合には、上述の場合とは逆に、右側の電極3B,4Bに電圧V2を印加すれば良い。
【0035】
図4に示したように、弾性支持部6による弾性力fがf=-kxで表せる場合には、変位x=0が安定位置となったが、座屈が生じる場合には
図8に示すように安定位置が4箇所存在することになる。上述した説明では、このような場合であっても外側の安定位置(x=d+Δdとx=-d-Δd)の間で可動部5を移動させるようにしたが、内側の安定位置(x=xzとx=-xz)間で可動部5を移動させるようにしても良い。なお、アクチュエータ1をMEMS加工技術で形成する際に、最初から
図7に示すような形状に形成しても良い。この場合には、必ず座屈が存在することになる。
【0036】
(アクチュエータ1の形成方法)
次に、アクチュエータ1の形成方法の一例を、
図9~16を参照して説明する。なお、
図9~16では、
図1に示すアクチュエータ1のほぼ左側半分を示している。
図1に示すアクチュエータ1は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を用いて、一般的なMEMS加工技術により形成される。SOI基板は、上部Si層33、SiO
2層32および下部Si層31で構成され、2枚のSi単結晶板の一方にSiO
2層を形成し、そのSiO
2層を挟むように接合したものである。なお、Si基板では接続パッド部となる部分の金属への密着性向上や、導電性の改善のために、適宜ドーピングを行ったものが用いられる場合がある。このドーピングは、P型、N型いずれの特性であっても本件の発明においては問題はない。
【0037】
図9に示す第1のステップでは、CVDを用いてSi層33の上に窒化膜(Si
3N
4)34を成膜する。
図10に示す第2のステップでは、窒化膜34の上に、レジストを塗布し、フォトリソを用いて電極3A,4Aの接続パッド部7a,7b形成用のレジストパターン35A、35Bを形成する。その後、第3のステップでRIE等(例えば、ICP-RIE)を用いて基板表側からエッチングし、レジストパターン35A、35Bが形成された部分以外の窒化膜34を除去する(
図11)。
【0038】
図12に示す第4のステップでは、
図11に示す基板の上に、レジストを塗布し、フォトリソを用いて電極3A,4A、可動部5および弾性支持部6を形成するためのレジストパターン36a、36b、36c、36dを形成する。
【0039】
図13に示す第5のステップでは、RIE等を用いてSi層33をエッチングし、その後、レジストパターン36a~36dを除去する。その結果、SiO
2層32上に、電極3A,4A、可動部5および弾性支持部6が形成される。
【0040】
図14に示す第6のステップでは、基板の裏側、すなわち、Si層31上にベース部形成用レジストパターン40を形成する。次いで、
図15に示す第7のステップでは、RIE等を用いてSi層31をエッチングし、ベース2を形成する。その後、露出しているSiO
2層32を、緩衝フッ化水素溶液を用いてエッチングすることにより、
図16に示すようなアクチュエータ1が完成する。
【0041】
(エレクトレットの形成方法)
櫛歯300,400へのエレクトレットの形成方法としては、例えば、日本国特開2013-13256号公報に記載の方法(Bias-Temperature法:B-T法)を応用すれば良い。
図17、
図18は、櫛歯300,400にエレクトレットを形成する方法を説明する図である。ここでは、Si層33から形成された櫛歯300,400の表面にK
+イオンを含むシリコン酸化膜(SiO
2)を形成し、これを帯電させることでエレクトレットとして用いる。
【0042】
図17において、試料165は、アクチュエータ1が形成された基板である。試料165が納められた酸化炉162には、KOH水溶液の蒸気を含む窒素ガスが供給される。このKOH水溶液の蒸気を含む窒素ガスは、純水にKOHを溶解したKOH水溶液164をホットバスで温め、窒素ガス(キャリアガス)161でバブリングすることにより得られる。ヒータ163により試料165を加熱するとシリコンが熱酸化され、櫛歯300,400を構成するSi層31の表面に、K
+イオンを含むSiO
2層が形成される。
【0043】
次いで、櫛歯400に形成された上記SiO
2層をプラスに帯電させるために、試料165を高温に加熱しつつ、櫛歯400と櫛歯300との間に電圧を印加する。
図18は、帯電処理を説明する図であり、帯電処理時の櫛歯300,400の一部を模式的に示したものである。なお、
図18に示す例では、櫛歯400のエレクトレットをプラスに帯電させる場合を示しており、櫛歯400側を高電位側としている。
【0044】
Si層33から形成された櫛歯300,400の表面付近には、K
+イオンを含むSiO
2層300K,400Kが形成されている。K
+イオンは、SiO
2層300K,400Kの全体に分布している。このような状態において、加熱しながら
図18に示すように電圧を印加するとK
+イオンに電場による力が作用し、K
+イオンは電場の方向に沿って移動する。その結果、櫛歯400のSiO
2層400Kにおいては、表面付近にK
+イオンが分布してプラスに帯電する。一方、櫛歯300の場合は逆であって、SiO
2層300Kの表面付近がマイナスに帯電することになる。
【0045】
なお、ここでは、エレクトレットを形成するためのイオンとしてK+イオンを使用した例を説明したが、K+イオン以外の正イオンであっても本発明によるエレクトレット構造を形成することができる。特に、イオン半径の大きいアルカリイオン(アルカリ金属のイオン、アルカリ土類金属のイオン)を用いると、エレクトレット形成後のイオン移動が少なく、従って表面電位の保持期間の長いエレクトレットとすることができる。この場合、上記で説明したウェット酸化においては、水酸化カリウム水溶液の代わりに、K+イオン以外のアルカリイオンを含む水溶液を用いる。
【0046】
上述したように、本実施の形態では、アクチュエータ1は、第2固定電極3Bに対する第2可動電極4Bの挿入量がゼロとなる位置まで第1可動電極4Aが第1固定電極3Aに吸引されて、電極3A,4Aのエレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う点が第1の安定位置(x=-d-Δd)に設定され、第1固定電極3Aに対する第1可動電極4Aの挿入量がゼロとなる位置まで第2可動電極4Bが第2固定電極3Bに吸引されて、電極3B,4Bのエレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う点が第2の安定位置(x=d+Δd)に設定されている。そして、第1駆動部8Aにより第1固定電極3Aと第1可動電極4Aとの間に静電力を弱める電圧V1を印加すると、可動部5が第1の安定位置から第2の安定位置へ移動する。逆に、第2駆動部8Bにより第2固定電極3Bと第2可動電極4Bとの間に静電力を弱める電圧V2を印加すると、可動部5が第2の安定位置から第1の安定位置へ移動する。
【0047】
このように、電極3A,3B,4A,4Bは、SOI基板の上部Si層33(
図9参照)から形成される。そのため、これらの電極が設けられた可動部5は、静電力によって上部Si層33と同一の面内でx軸方向(
図1参照)にスライド移動することになる。そのため、可動部5の移動量の大小に関係なく、双安定構造を有するアクチュエータの薄型化を図ることができる。さらに、本実施の形態のアクチュエータは、電極3A,3B,4A,4Bおよび可動部5が上述のような平面配置される構造であるため、
図9~16で説明したように、同一基板からMEMS加工技術により容易に形成することができる。その結果、特許文献1に記載のアクチュエータのように複数の基体を接合する必要がない。
【0048】
なお、櫛歯電極の場合、固定側櫛歯に対して可動側櫛歯がスライド移動する構成となるが、固定電極および可動電極のように複数の櫛歯で構成される電極全体の動きから考えると、
図1のx軸方向が可動電極の移動方向であり、この移動方向の電極3A,4A間の距離を電極間距離とみなすことができる。例えば、櫛歯300の先端面と、電極4Aにおいて櫛歯300の先端面が対向する面との距離を、電極間距離とする。すなわち、櫛歯電極の場合も平行平板側の電極の場合と同様に、可動電極は電極間距離が変化する方向にスライド移動することになる。
【0049】
なお、平行平板型の静電アクチュエータでは電極間距離が変化するように動くが、櫛歯型の静電アクチュエータでは、櫛歯の側壁で形成される電極の挿入量(櫛歯の挿入量)が変化するように動くので、櫛歯長さを長くして挿入量の範囲を広げることで、ストロークの大きなアクチュエータを容易に構成することができる。さらに、櫛歯構造とすることで、少ないスペースで電極面積(隣り合う櫛歯の対向する面の面積)を大きくすることが可能となり、平行平板型の静電アクチュエータ等に比べ、大きな静電力が可能となる。
【0050】
さらに、静電吸引力は櫛歯300、400の少なくとも一方に形成されたエレクトレットによって発生し、第1および第2駆動部8A,8Bによる電圧印加は、可動部5を2つの安定位置間で移動させる時にのみ行えば良い。すなわち、安定位置に保持するために電圧を印加する必要はない。そのため、変位状態(安定状態)を維持するために電圧を印加し続けるアクチュエータに比べて、省電力化を図ることができる。
【0051】
上述した実施形態では、可動部5の図示左右に櫛歯構造の電極3A,4Aと電極3B,4Bとを設けたが、
図55に示すアクチュエータ110Aのように、片方の櫛歯形電極を平行平板型電極に置き換えても同様の双安定構造とすることができる。
図55では、可動部5の左側に、電極板3D,4Dで構成される平行平板型電極を設けた。電極板3Dはベース2に固定され、第1駆動部8Aに接続されている。一方、電極板4Dは可動部5に固定されており、可動部5と一体に図示左右方向にスライド移動する。それによってギャップg1が変化する。電極板3D,4Dの互いに対向する領域には、エレクトレットが形成されている。なお、電極板3D,4Dのいずれか一方にエレクトレットを形成するようにしても良い。図示右側の電極3B,4Bは
図1に示した電極3B,4Bと同様の構造を有しており、変位x=0の時の挿入量はx0となっている。
【0052】
図55に示す電極板3D,4Dも、電極3B,4Bの場合と同様に、SOI基板の上部Si層33(
図9参照)から形成される。そのため、可動電極3Bおよび電極板3Dが設けられた可動部5は、静電力によって上部Si層33と同一の面内でx軸方向(
図55参照)にスライド移動することになる。
【0053】
図55に示すアクチュエータ110Aにおいても、変位xの時の弾性支持部6の弾性力は、バネ定数をkとして、-kxで近似することができる。また、櫛歯300と櫛歯400との挿入量がゼロとなる変位(x<-x0)においては、電極3B,4Bの静電力はゼロとなり、平行平板型電極である電極板3D,4Dの間の静電力のみが作用する。その静電力は次式(5)で表される。式(5)においてVe1はエレクトレットによる電圧である。V1は第1駆動部8Aにより印加される電圧であり、Ve1と逆極性であるため、静電力を弱める働きがある。そのため、Ve1と等しい値の電圧V1を印加すると、分子=0となって静電力はゼロになる。なお、Aは電極板3D,4Dの対向する面の面積(電極面積)である。
-ε
0A(Ve1-V1)
2/2(g1+x)
2 …(5)
【0054】
また、変位(-x0≦x)においては、式(5)に示した電極板3D,4Dの静電力に加えて、電極3B,4Bによる静電力が作用する。電極3B,4Bによる静電力は上述した式(2)と同様に表せるので、変位(-x0≦x)においては、次式(6)で表される静電力が働く。
Nε0b(Ve2-V2)2/g2-ε0A(Ve1-V1)2/2(g1+x)2…(6)
【0055】
図56は、印加電圧V1,V2がゼロの場合における、変位xに対する、弾性力(ラインL1)、電極板3D,4Dによる静電力(ラインL2)、電極3B,4Bによる静電力(ラインL3)およびトータルの力(ラインL4)を示す図である。ラインL4が横軸と交差する点C1,C2は安定な釣り合い点となっている。すなわち、
図55に示すアクチュエータ110Aは、双安定構造のアクチュエータになっている。
【0056】
図57は安定位置間の移動動作を説明する図であり、(a)は可動部5を安定位置C2から安定位置C1に移動させる場合を、(b)は安定位置C1から安定位置C2へ移動させる場合を示す。可動部5が安定位置C2にある場合には、x<-x0なので、式(5)でV1=0とした場合の静電力が作用しており、その静電力と弾性力とが釣り合っていることになる。そこで、安定位置C2から安定位置C1に移動させる場合には、電極板3D,4Dに電圧V1=Ve1を印加し、式(5)で表される静電力をゼロにする。その結果、トータルの静電力(ラインL4)は、
図57(a)の二点鎖線で示すものから破線で示すラインL4となり、可動部5には正方向(
図55の右方向)の力が作用し、可動部5はラインL4と横軸が交差する白丸の位置まで移動する。その後、電圧V1の印加を停止すると、トータルの力は二点鎖線で示すラインL4となるので、可動部5は白丸の位置から安定位置C1に移動することになる。
【0057】
一方、可動部5が安定位置C1にある場合には、式(6)でV1=V2=0とした場合の静電力が作用しており、その静電力と弾性力とが釣り合っていることになる。そこで、可動部5を安定位置C1から安定位置C2へ移動させる場合には、電極3B,4Bに電圧V2=Ve2を印加する。式(6)の第1項はゼロになるので、トータルの力は、弾性力と電極板3D,4Dのエレクトレットに起因する静電力の和となり、
図57(b)の破線で示すラインL4のようになる。その結果、可動部5には負方向(
図55の左方向)の力が作用し、可動部5は安定位置C2へ移動する。
【0058】
図1に示した実施形態では、可動部5の図示左右に櫛歯構造の電極3A,4Aと電極3B,4Bとを設けて、可動部5を図示左右方向に移動させるようにした。しかし、
図58に示すように、一組の櫛歯電極(第1固定電極3A,第1可動電極4A)を用いる構造であっても、双安定構造のアクチュエータ110Bとすることができる。
【0059】
図58(a)は、アクチュエータ110Bの可動部5が図示左側の安定位置(第1の安定位置)にある場合を示しており、
図58(b)は図示右側の安定位置(第2の安定位置)にある場合を示している。
図58においては、第2駆動部8Bは、マイナスの電圧(-V2)を可動電極4Aに印加するように構成されている。なお、
図58では、第1駆動部8A、第2駆動部8Bにおけるスイッチ9の図示を省略している。
【0060】
図59は、変位xに対する、弾性支持部6による弾性力(ラインL1)、印加電圧V1がゼロの場合の静電力(ラインL2)およびトータルの力(ラインL4)の変化を示す図である。Δdは、第2の安定位置における櫛歯300と櫛歯400とのギャップ寸法を示す(
図58(b)参照)。印加電圧V1がゼロの場合の静電力、すなわちエレクトレットによる静電力(ラインL2)は、櫛歯300と櫛歯400とがオーパーラップしている場合(すなわち、櫛歯挿入状態)の静電力を表す直線部L21と、櫛歯400が櫛歯300間から抜け出ている状態における静電力を表す曲線部L22とから成る。
【0061】
上述した第1の実施の形態では説明を省略したが、櫛歯300の先端部においては、
図58(b)のライン細線Fで示すようなフリンジ電界が、櫛歯300間からわずかに漏れ出ている。フリンジ電界Fは櫛歯300の先端から離れると急激に小さくなり、フリンジ電界による静電力L22も、変位x=-Δdから変位x=0にかけて急激に小さくなる。そのため、可動部5が変位x=0からマイナス方向に移動すると、最初は静電力よりも弾性力の方が大きくトータルの力はプラスとなっているが、櫛歯400と櫛歯300とのギャップがゼロ(変位x=-Δd)に近づくと、トータルの力がプラスからマイナスに変化する。すなわち、櫛歯400が櫛歯300間に引き込まれるような静電力が発生する。
【0062】
櫛歯400が櫛歯300間に挿入された状態となると、静電力は一定となるので、挿入量が大きくなるにつれて、トータルの力は直線状に上昇し、点C1において横軸とクロスする。
図59に示すようにトータルの力を表すラインL4は3箇所で横軸とクロスしているが、黒丸を付した点C1,C2が安定な釣り合い位置(安定位置)であって、ラインL42と横軸との交点は不安定な釣り合い点となる。すなわち、
図58(a)は安定位置C1の状態を示しており、
図58(b)は安定位置C2の状態を示している。
【0063】
図60は、可動部5を安定位置C2から安定位置C1に移動させる動作を説明する図である。先ず、第2駆動部8Bのスイッチ9(不図示)を閉じて、可動電極4Aにマイナスの電圧(-V2)を印加する。そうすると、電極間電圧は、エレクトレット電圧にさらに電圧V2が加算された値となるので、静電力は
図59に示したラインL21はラインL23に変化し、ラインL22はラインL24に変化する。その結果、トータルの力を示すラインL4は、太い破線で示すように変位x=0から白丸印で示す変位までマイナスとなり、可動部5がマイナス方向に移動して櫛歯300間に櫛歯400が挿入される。その後、電圧(-V2)の印加を停止すると、ラインL1,L2,L4は
図59に示す状態に戻り、可動部5は安定位置C1において釣り合い状態となる。
【0064】
逆に、安定位置C1から安定位置C2に可動部5を移動する場合には、第1駆動部8Aのスイッチ9(不図示)を閉じて、固定電極3Aに電圧V1を印加する。この場合、電圧V1はエレクトレット電圧と逆極性となるため、電圧V1の印加により静電力を減少する。この場合、静電力FL(V1)がd「-f(Δd)≦FL(V1)<0」を満足するようにV1を設定する。
【0065】
上述したように、本実施の形態では、静電駆動機構は、固定電極として固定櫛歯電極(例えば、第1固定電極3Aや第2固定電極3B)や電極板3Dを備え、可動電極として可動櫛歯電極(第1可動電極4Aや第2可動電極4B)や電極板4Dを備えている。上述したように、これらの固定電極および可動電極は、同一の板状部材(例えば、
図9に示したSOI基板の上部Si層33)から形成される。可動電極は、第1弾性支持部により弾性支持されている可動部5に設けられ、静電力によって、固定電極に対して面内でスライド移動することになる。本実施の形態では、固定電極および可動電極の少なくとも一方にエレクトレットを形成したことにより、エレクトレットに起因する静電力と前記第1弾性支持部の弾性力とが釣り合う安定位置に、またはその近傍に設定された安定位置に、可動部5が位置決めされる安定状態を、アクチュエータに複数設定することができる。そして、静電駆動機構に電圧を印加することにより、可動部5を任意の安定位置から他の安定位置へ移動させることができる。
【0066】
このように、本実施の形態のアクチュエータでは、可動部5を安定位置管で移動させるときだけ電圧を印加すれば良いので、静電駆動機構における省電力化を図ることができる。また、静電駆動機構の可動電極は面内でスライド移動するので、アクチュエータの薄型化を図ることができる。
【0067】
図1に示すように固定電極3A,3Bはベース2に固定され、可動電極4A,4Bは弾性支持部6を介してベース2に固定されている。
図16に示したように、固定電極3Aおよび弾性支持部6は絶縁層であるSiO
2層32を介してベース2に固定されている。そのため、弾性支持部6とベース2、固定電極3Aとベース2はそれぞれ電気的に絶縁されている。
【0068】
また、
図58に示すアクチュエータ110Bのように、静電駆動機構を、櫛歯型の第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aを備える櫛歯駆動部を少なくとも有する構成としても良い。この場合、第1固定電極3Aに対する第1可動電極4Aの挿入量が変化する方向と上述したスライド移動の方向とが一致し、第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aの少なくとも一方にエレクトレットが形成されている構成とする。櫛歯駆動部の場合、第1可動電極4Aは挿入量が変化する方向にスライド移動し、スライド位置によらず静電力が同じなので、安定位置間のストロークを大きく設定することができる。
【0069】
また、
図58に示すアクチュエータ110Bでは、エレクトレットは、固定電極3Aおよび可動電極4Aの少なくとも一方に設けられる。アクチュエータ110Bは、挿入量が正であって、エレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、挿入量がゼロであって、エレクトレットに起因する固定電極3Aのフリンジ電界による静電引力と弾性力とが釣り合い、かつ、電圧印加時のフリンジ電界による静電力が弾性力よりも大きくなる安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、が設定可能となる。櫛歯駆動部の静電力を弱める電圧を印加すると可動部5は第1安定位置から第2安定位置へ移動し、櫛歯駆動部の静電力を強める電圧を印加すると可動部5は第2安定位置から第1安定位置へ移動する。
【0070】
また、
図1に示すように、静電駆動機構は、第1固定電極3Aと、それに挿脱可能に歯合する第1可動電極4Aを有する第1櫛歯駆動部と、第1固定電極3Aに対して間隔を空けて対向配置される第2固定電極3B、およびそれに挿脱可能に歯合する第2可動電極4Bを有する第2櫛歯駆動部とを備えるように構成されていても良い。第1可動電極4Aおよび第2可動電極4Bは可動部5に設けられており、その可動部5は、固定電極3A,3Bに対する可動電極3B,4Bの各挿入量が変化する方向にスライド移動可能なように、弾性支持部6により弾性支持されている。第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aの少なくとも一方、第2固定電極3Bおよび第2可動電極4Bの少なくとも一方には、エレクトレットが形成されている。その結果、アクチュエータは、第2可動電極4Bの挿入量がゼロとなる位置まで第1可動電極4Aが第1固定電極3Aに吸引されて、エレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、第1可動電極4Aの挿入量がゼロとなる位置まで第2可動電極4Bが第2固定電極3Bに吸引されて、エレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、を有する。
【0071】
さらにまた、
図55に示すように、静電駆動機構は、可動部5のスライド方向であって、可動部5を挟むように固定電極3Bとは反対側に設けられた固定側の電極板3Dと、電極板3Dと対向配置され、可動部5に設けられた可動側の電極板4Dと、をさらに備える構成でも良い。エレクトレットは、固定電極3Bおよび可動電極4Bの少なくとも一方、対向配置された電極板3D,4Dの少なくとも一方に設けられている。このような構成とすることにより、アクチュエータは、可動電極4Bが固定電極3Bに挿入されるように吸引されて、エレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第1安定位置と、固定電極3Bに対する可動電極4Bの挿入量がゼロとなる位置まで電極板4Dが電極板3D側に吸引されて、エレクトレットに起因する静電力と弾性支持部6の弾性力とが釣り合う安定位置、またはその近傍に設定された安定位置である第2安定位置と、を有する。
【0072】
以下では、上述したアクチュエータ1を用いた装置の実施例について説明する。なお、アクチュエータ1に代えて、
図55に示したアクチュエータ110Aや
図58に示したアクチュエータ110Bを用いても良い。
(第1実施例)
図19は、上述したアクチュエータ1を光シャッタの駆動機構として適用した場合を示す。
図19は、フィールド順次カラー(FSC)方式のディスプレイの一画素を示したものであり、画素の概略構成を示す分解斜視図である。各画素100は、光シャッタ101、バックライト102、および開口103Aが形成され遮光板103を備えている。
【0073】
光シャッタ101は、
図1に示したアクチュエータ1の可動部5をシャッタ板1Sとしたものであり、その他の構造は
図1に示した構造と同様である。光シャッタ101は、遮光板103を挟んでバックライト102と対向するように配置されている。シャッタ板1Sには開口100Aが形成されている。アクチュエータ1に設けられた2組の電極3A,4Aおよび電極3B,4B(
図19では省略)を駆動することにより、シャッタ板1Sを図示左右方向(矢印方向)に移動させることができる。なお、アクチュエータ1としては
図1、7のいずれに記載のものを用いても良い。シャッタ板1Sは、実線で示す第1の安定位置と、二点鎖線で示す第2の安定位置とに移動させることができる。
【0074】
シャッタ板1Sを実線で示す第1の安定位置に位置決めすると、開口100Aが遮光板103の開口103Aに対向する。一方、シャッタ板1Sを二点差線で示すように第2の安定位置に移動すると、シャッタ板1Sの非開口部が開口103Aに対向する。バックライト102には、LED(不図示)からのR(赤)光、G(緑)光およびB(青)光が入射される。シャッタ板1Sが第1の安定位置に駆動されると光シャッタは開状態とされ、シャッタ板1Sが第2の安定位置に駆動されると光シャッタは閉状態となる。FSC方式では、R,G,BのLEDが順次発光され、それに同期してシャッタ板1Sの開閉動作が行われる。例えば、R光が発光されたタイミングでシャッタ板1Sを開くと、その画素に赤(R)色が表示されることになる。逆に、シャッタ板1Sが閉じられると、その画素は非表示状態(すなわち、黒色表示に対応)となる。
【0075】
図20は、FSC方式におけるカラー化の概念を説明する図である。
図20は4つの画素111~114に関して示したものである。(b)は時刻t1,t2,t3のそれぞれにおける各画素111~114のシャッタ開閉状態を示しており、符号Oは開状態、符号Sは閉状態を示す。(a)はシャッタ開閉状態に応じた時刻t1~t3における表示状態を示す。(c)は時系列的な表示により再現されるカラー画像を示したものである。
【0076】
時刻t1では、R光がバックライト102に入射されると共に、画素111,112のシャッタ板1Sが開状態とされる。その結果、各画素111,112には赤色(R)に表示される。一方、他の画素113,114のシャッタ板1Sは閉状態となっており、非表示状態となっている。時刻t2では、G光がバックライト102に入射されると共に、画素111,114のシャッタ板1Sが開状態とされる。その結果、画素111,114には緑色(G)が表示される。時刻t3では、B光がバックライト102に入射されると共に、画素111,113のシャッタ板1Sが開状態とされる。その結果、画素111,113には青色(B)が表示される。
【0077】
短時間にこのような表示が行われると、残像効果により
図20の(c)に示すようなカラー画像が視認される。すなわち、画素111は白色(W)が表示されているように視認され、画素112,113,114にはそれぞれ赤色(R)、緑色(G)、青色(B)が表示されているように視認される。
【0078】
上述したように、本実施例に記載のシャッタ装置では、可動部としてのシャッタ板1Sはアクチュエータ1により2つの安定位置間で移動され、光路である開口103Aに挿脱される。その結果、シャッタ板1Sは、バックライト102からの光を通過状態および非通過状態のいずれかに切換える。上述したようにシャッタ板1Sを駆動するアクチュエータを非常に薄くできるので、光シャッタ、および光シャッタを組み込んだ表示装置の厚さ寸法を抑制することができる。また、シャッタ駆動用のアクチュエータ1は、開閉の瞬間にのみ電圧を印加する構造であるため、低消費電力の光シャッタが可能となる。
【0079】
(第2実施例)
図21は、本実施形態における第2の実施例を示す図である。
図21は、小型の流体装置に用いられる流路切換弁の概略構成を示す図である。
図21の流路切換弁201は、
図1に示したアクチュエータ1の可動部5に弁体202が形成されており、その他の構造は
図1に示したアクチュエータ1と同様である。弁体202の裏面側には、破線で示すような形状の溝203aが形成されている。弁体202の下部には流路構造体204が配置されている。アクチュエータ1のベース2は、流路構造体204の上面に固着される。
図21に示すように弁体202を上述した第1の安定位置に移動すると、弁体202は閉位置に位置決めされ、逆に、弁体202を第2の安定位置に移動すると弁体202は開位置(
図22参照)に位置決めされる。
【0080】
図22は弁体202と流路構造体204と示す図であり、(a)は平面図、(b),(c)はA-A断面図である。(a)において実線は弁体202が開位置にある場合を示しており、二点差線は弁体202が閉位置にある場合を示す。また、(b)は弁体202が開位置にある場合の断面図、(c)は弁体202が閉位置にある場合の断面図である。流路構造体204には独立した2つの流路205,206が形成されており、流路205は流路構造体204の上面に形成された開口205aと連通しており、流路206は流路構造体204の上面に形成された開口206aに連通している。なお、(b)における矢印は流体の流れを示す。
【0081】
流路構造体204は例えばシリコンにより形成され、図示していないが、流路構造体204の上面には絶縁コーティング処理(例えば、酸化膜形成)が施されている。なお、弁体202と流路構造体204との隙間からの流体漏れを防止するために、流路構造体204には電圧が印加される。電圧印加による静電力により、弁体202は流路構造体204側に吸引される。
【0082】
上述したように弁体202の裏面側(流路構造体204と対向する側)には、連通路を構成する溝203aが形成されている。
図22(a)の実線で示すようにアクチュエータ1により弁体202を開位置に移動すると、溝203aが開口205a,206a上に位置決めされ(
図22(b)参照)、流路205と流路206とが連通して導通状態とされる。一方、
図22(c)に示すように弁体202を閉位置に位置決めすると、流路206の開口206aは弁体202の下面203bによって塞がれ、非導通状態とされる。その結果、流路205と流路206とが弁体202によって遮断されることになる。なお、
図22に示す例では、非導通状態時に開口206aが塞がれる構成としたが、開口205aが塞がれる構成としても良い。
【0083】
図23は、第2実施例の変形例を示す図である。
図22に示す例では、流路構造体204に2つの流路205,206を形成し、流路205,206を弁体202の溝203aによって連通する導通状態と、弁体202の下面203bによる非導通状態とで切換えた。一方、
図23に示す変形例では、流路構造体204を貫通する流路205のみが形成され、弁体202には溝203aが形成されていない。
図23(b)のように弁体202を第2の安定位置に移動して、流路205の入口側開口205aを弁体202の下面203bで塞くことにより非導通状態とする。一方、
図23(a)に示すように、弁体202を第1の安定位置に移動して開口205aを開放すると、導通状態となる。もちろん、流路205の出口側を開閉する構成としても構わない。
【0084】
以上のように、本実施例においては弁体および弁体駆動機構を薄くできるので、開閉弁全体の小型化を図ることができる。特に、弁体および駆動機構を半導体基板から一括で形成できるので、小型流体装置への適用に適している。
【0085】
(第3実施例)
上述した第2実施例の流路切換弁はいわゆる開閉弁であったが、第3実施例ではアクチュエータを2組用いて三方切換弁とした。
図24,25は、アクチュエータ1を三方切換弁に適用した場合を説明する図である。
図24は三方切換弁210の平面図である。三方切換弁210においては、2組のアクチュエータ1A,1Bが流路構造体211上に設けられている。なお、駆動部8A,8Bおよび制御部223は図示を省略した。三方切換弁210の場合も、アクチュエータ1A,1Bが第1の安定位置とされるとそれぞれの弁体202は閉位置に位置決めされ、第2の安定位置とされるとそれぞれの弁体202は開位置に位置決めされる。
図24では、いずれの弁体202も閉位置に位置決めされている。
【0086】
図25は、三方切換弁210の切換動作を説明する図であり、流路構造体211と2つの弁体202とを示す。流路構造体211には独立した3つの流路212,213,214が形成されている。流路212は途中で2つに分岐しており、各分岐流路の端部は流路構造体211の表面に設けられた開口212a,212bに連通している。他の流路213,214も、それぞれ流路構造体211の表面に設けられた開口213a,214aに連通している。
【0087】
図25(a)は、アクチュエータ1Aの弁体202が閉位置に位置決めされ、アクチュエータ1Bの弁体202が開位置に位置決めされた場合を示す。この場合、流路212と流路214とが連通され、流路212と流路213との間は遮断される。一方、
図25(b)に示す例では、アクチュエータ1Aの弁体202が開位置に位置決めされ、アクチュエータ1Bの弁体202が閉位置に位置決めされる。その結果、流路212と流路213とが連通され、流路212と流路214とは遮断される。
【0088】
なお、上述した例では、2つの弁体202を2つのアクチュエータ1A,1Bで駆動することで三方切換を行うようにしたが、
図54のような一組のアクチュエータ1および弁体202によって切換えるようにしても良い。弁体202を
図54(b)のように右側の安定位置へ移動すると、流路207と流路206とが弁体202の溝203aによって連通され、流路205の開口205aは弁体202の下面203bによって塞がれる。その結果、流路207から流路206へ流体が流れる。逆に、
図54(c)に示すように弁体202を左側の安定位置へ移動すると、流路207と流路205とが溝203aによって連通され、流路207から流路205へ流体が流れる。
【0089】
ところで、
図24,25の構成の場合、流路212から分岐した流路を3以上とし、各々の分岐流路にアクチュエータ1および弁体202を設けることで、多数の流路切換えを行う構成とすることができる。また、
図24では、弁体202が設けられたアクチュエータを個別に設けたが、アクチュエータと弁体とのセットを一枚の基板上に複数形成することで、アクチュエータと弁体とのセットが複数形成された弁構造体を一括で形成することができる。
【0090】
(第4実施例)
図26~28は、複数のアクチュエータを用いた流量制御弁220の一例を示す概略構成図である。
図26は、流量制御弁220の正面側を示す図である。流路構造体221の表面側には複数のアクチュエータ1Aa~1Ceがマトリックス状に配置されている。各アクチュエータ1Aa~1Ceに設けられた第1および第2駆動部8A,8Bは、制御部223によって制御される。
【0091】
図27は流路構造体221の表面側を示す図であって、各アクチュエータ1Aa~1Ceの位置を二点鎖線で示したものである。流路構造体221には、流体が供給される3つの流路222a~222cが形成されている。流路222aは、縦方向に並んだ5つのアクチュエータ1Aa~1Aeに対応して5つに分岐しており、分岐した各流路は、流路構造体221の表面側に形成された開口p11~p15に連通している。開口p11~p15に隣接するように、貫通孔q11~q15が形成されている。流路222bは、縦方向に並んだ5つのアクチュエータ1Ba~1Beに対応して5つに分岐しており、分岐した各流路は、流路構造体221の表面側に形成された開口p21~p25に連通している。開口p21~p25に隣接するように、貫通孔q21~q25が形成されている。流路222cは、縦方向に並んだ5つのアクチュエータ1Ca~1Ceに対応して5つに分岐しており、分岐した各流路は、流路構造体221の表面側に形成された開口p31~p35に連通している。開口p31~p35に隣接するように、貫通孔q31~q35が形成されている。
【0092】
図28は、
図27のB-B断面を示したものである。流路構造体221はシリコンで形成され、その表面側には絶縁コーティング処理として酸化膜(酸化シリコン)221aが形成されている。
図28に示す例では、アクチュエータ1Abおよび1Bbは弁体202が開位置に位置決めされ、アクチュエータ1Cbの弁体202は閉位置に位置決めされている。その結果、流路構造体221に供給された流体は、貫通孔q12,q22を介して流路構造体221の背面側から流出される。
【0093】
図26に示したように、流量制御弁220には15組のアクチュエータが設けられているので、15組のアクチュエータによる弁体202の開閉を個別に制御することで、一つの弁体202を開位置としたときの流量を1単位としたとき、1単位から15単位まで15段階で流量を制御することができる。また、15組のアクチュエータと弁体とのセットを、
図9~
図16に示したような形成方法で一枚の基板から一括して形成することで、多数の弁体およびアクチュエータを備えた弁構造体を容易に形成することができる。
【0094】
なお、本実施例の流量制御装置においても、
図23に示したような弁構造を用いることができる。その構成の場合、流体は流路構造体の一方側から他方側へと流れる。
【0095】
(第5実施例)
図29は第5実施例を示す図であり、上述したアクチュエータ1を、高周波信号の経路を切り替えるためのRFスイッチに適用したものである。
図29は、本実施の形態のアクチュエータをSPST(Single Pole Single Throw)のRFスイッチに適用した場合の原理図である。なお、ここではRFスイッチに適用した場合について説明するが、RFスイッチに限らず一般的なスイッチやリレー等にも同様に適用することができる。
【0096】
図29に示すRFスイッチ230においては、ベース2には固定接点231、232が設けられている。固定接点231には入力側の信号線233が接続され、固定接点232には出力側の信号線234が接続されている。一方、可動部5には、固定接点231,232に対向する位置に可動接点235が設けられている。固定接点231,232とベース2との間、および、可動接点235と可動部5との間は、それぞれ絶縁されている。例えば、RFスイッチ230をSOI基板から形成する場合には、
図30に示すように、固定接点231,232および可動接点235をSOI基板の下部Si層31から形成するようにしても良い。
【0097】
図29に示す状態においては、アクチュエータは第1可動電極4Aが第1固定電極3Aに吸引された第1の安定位置となっており、RFスイッチ230は開状態(非導通状態)となっている。そのため、信号線233から入力された信号は遮断され、出力側の信号線234からは信号が出力されない。
【0098】
一方、第1駆動部8Aのスイッチ9をオンして電極3A,4A間に電圧V1を印加すると、可動部5は右側に移動して
図31に示す第2の安定位置となる。その結果、可動接点235が固定接点231,232に接触し、信号線233に入力された信号は信号線234から出力されるようになる。前述したように、
図31の状態になったならば、電圧V1の印加は停止して良い。RFスイッチ230を再び開状態とするには、右側の電極3B,4Bに電圧V2を印加すれば良い。
【0099】
図32は、SPDT(Single Pole Double Throw)のRFスイッチ240とした場合の構成を示す。RFスイッチ240では、上述した固定接点231,232および可動接点235に加えて、電極3A,4A側に固定接点236,237および可動接点238を設けた。入力側の信号線233は固定接点231および236に接続されている。また、固定接点237には出力用の信号線239が接続されている。すなわち、RFスイッチ240は、信号線233から入力された信号を、信号線234または信号線239から選択的に出力することができる構成となっている。
【0100】
図32では、アクチュエータの可動部5は第1の安定位置にあり、可動接点238は固定接点236,237に接触している。信号線233に入力された信号は、信号線239から出力される。
図32に示す状態において電極3A,4Aに電圧V1を印加すると、可動部5が右側に移動して第2の安定位置に位置決めされる。その結果、可動接点238は固定接点236,237から離れ、可動接点235が固定接点231,232に接触する。そのため、信号線239からの信号出力は停止し、信号線234から信号が出力される。再び
図32の状態に戻すには、右側の電極3B,4Bに電圧V2を印加すれば良い。
【0101】
なお、
図31の構成において、可動接点235が固定接点231,232と接触する位置を、
図33に示すような変位x10に設定することで、可動接点235はF10の力で固定接点231,232に押しつけられることになる。この場合、正方向の変位に関して変位x10までしか移動できない構造となっているので、すなわち、電圧V1,V2を印加しない状態でその位置が維持される構成なので、変位x10を右側における安定位置(第2の安定位置)とみなすことができる。
図32に示す左側の安定位置についても同様に設定することができる。
【0102】
このように、2組の櫛歯電極を備え、2つの安定位置間で移動可能なRFスイッチ230,240においては、スイッチ切換時のみに電圧を印加すればよい。また、エレクトレットに起因する静電力によって、接点間の接触を確実に行わせることができる。さらに、櫛歯挿入方向のストロークを大きく構成することにより、接点間のギャップを大きくすることができる。
【0103】
従来、静電力を利用してスイッチングを行うRFスイッチとしては、平行平板型のアクチュエータを用いるものがある。その構成では、可動接点と固定接点との接触を維持するためには、昇圧回路を用いて数十Vの電圧を印加し続ける必要がある。一方、上述したRFスイッチ230,240では、エレクトレットが形成された櫛歯電極構造により形成される2つの安定位置をスイッチオン状態またはスイッチオフ状態としている。そのため、スイッチ切換時のみに電圧V1,V2を印加すれば良い。
【0104】
切換に必要な電圧V1,V2の大きさに関しても、
図33に示すような構成とすることにより従来の印加電圧(数十V)よりも低くすることができる。すなわち、櫛歯構造電極とすることにより、平行平板型に比べて同一電極スペースでより大きな電極面積を得ることができる。そのため、エレクトレット電圧Veを上述した従来の印加電圧よりもより低くすることができる。さらに、
図33においては、x=xzにおけるラインL4の高さはFR(0)/2であるので、式(2)から、印加電圧V2はエレクトレット電圧Veの30%程度の大きさで良いことが分かる。すなわち、電圧V1,V2の大きさを、上述した従来の印加電圧よりも30%以下に小さくすることができる。その結果、昇圧回路を必要としない構成とすることが可能となる。
【0105】
なお、小さな印加電圧で大きな移動距離が得られるという上記作用効果は、RFスイッチ230,240のみならず、上述および後述の全てのアクチュエータにおいて奏することができる。
【0106】
また、従来の平行平板型の場合には、接点同士の固着(スティッキング)の発生や、接点を押圧する力の変化による接触抵抗の変化等が懸念される。一方、本実施例においては、電極間ギャップが一定状態で櫛歯300間に櫛歯400が挿脱される構造であって、さらに、電圧V1またはV2を印加して反対側の電極の静電力により切換移動を行わせる構造なので、エレクトレットの静電力により接点は分離される。それにより、接点同士の固着が発生しにくい。なお、固着が発生した場合であっても、印加電圧V1,V2をVeまで大きくすることで、可動接点を固定接点から分離させる力を大きくすることができる。また、接点における押圧力は、エレクトレット電圧Veの静電力と弾性力との差なので、押圧力変化の懸念も解消できる。
【0107】
-第2の実施の形態-
図34は、本発明に係るアクチュエータの第2の実施の形態を示す図である。
図34に示すアクチュエータ11は、右側に設けられた第2固定電極3Cの櫛歯300の形状が
図1に示したアクチュエータ1と異なっている。その他の構造は、上述したアクチュエータ1と同様である。
【0108】
図35は、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bの拡大図である。第2固定電極3Cの櫛歯は長さの異なる4種類の櫛歯300~303で構成されている。第1櫛歯300は、変位x=0における挿入量はd2である。これに対し、第2櫛歯301は第1櫛歯300よりもXr1だけ短く、第3櫛歯302は第1櫛歯300よりもXr2だけ短く、第4櫛歯303は第1櫛歯300よりもXr3だけ短い。
【0109】
なお、
図34,35では、図示を簡略化するために各櫛歯300~303を一つしか記載していないが、実際には、各櫛歯300~303はそれぞれ複数形成されており、それらの本数を順にNR1、NR2、NR3、NR4とする。同様に、第1固定櫛歯3Aにおける櫛歯300の数をNLとする。また、
図34に示すように、電極3A,4Aおよび電極3C,4Bにおいて、櫛歯300と櫛歯400との間隔はg、櫛歯300,400の厚み寸法はbとする。さらに、変位x=0における櫛歯400の先端と固定電極との間隔は、第1可動電極4AではSL、第2可動電極4BではSRとする。
【0110】
次いで、
図36~47を参照して、アクチュエータ11の動作について説明する。
図36は、第1駆動部8A、第2駆動部8Bによる電圧V1,V2が印加されていない場合における、変位xと可動部5に作用する力との関係を示す図である。
図4の場合と同様に、縦軸は力、横軸は変位xである。ラインL1は弾性支持部6による弾性力、ラインL2は第1固定電極3Aと第1可動電極4Aとの間に作用する静電力である。ラインL3は第2固定電極3Cと第2可動電極4Bとの間に作用する静電力である。第2固定電極3Cは櫛歯300の長さが4種類であるため、ラインL3は変位xに応じて階段状に変化する。破線で示すラインL4は、可動部5に作用するトータルの力を示す。
【0111】
x≦-d2では、第2固定電極3Cの櫛歯300~303は全て櫛歯400間から抜け出ており挿入量=0となっているので、第2固定電極3Cと第2可動電極4Bとの間の静電力はゼロとなる。よって、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FL1(0)との和になる。静電力FL(0)は次式(7)で表される。なお、Veはエレクトレットによる電圧である。ラインL4は黒丸C0の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の弾性力と負方向の静電力FL(0)とが釣り合う。
FL(0)=-NLε0bVe2/g …(7)
【0112】
-d2<x≦-d2+Xr1では、第1櫛歯300は挿入量≠0となり、第2櫛歯301,第3櫛歯302および第4櫛歯303は挿入量=0が維持される。そのため、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bにおける静電力FR1(0)は次式(8)のようになる。よって、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FL(0)と静電力FR1(0)との和になる。ラインL4は黒丸C1の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の力(弾性力f(x)+静電力FR1(0))と負方向の静電力FL(0)とが釣り合う。
FR1(0)=NR1ε0bVe2/g …(8)
【0113】
-d2+Xr1<x≦-d2+Xr2では、第1櫛歯300および第2櫛歯301は挿入量≠0となり、第3櫛歯302および第4櫛歯303は挿入量=0が維持される。そのため、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bにおける静電力FR2(0)は次式(9)のようになる。よって、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FL(0)と静電力FR2(0)との和になる。ラインL4は黒丸C2の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の静電力FR2(0)と負方向の力(弾性力f(x)+静電力FL(0))とが釣り合う。
FR2(0)=(NR1+NR2)ε0bVe2/g …(9)
【0114】
-d2+Xr2<x≦-d2+Xr3では、第1櫛歯300、第2櫛歯301および第3櫛歯302は挿入量≠0となり、第4櫛歯303は挿入量=0が維持される。そのため、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bにおける静電力FR3(0)は次式(10)のようになる。よって、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FL(0)と静電力FR3(0)との和になる。ラインL4は黒丸C3の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の静電力FR3(0)と負方向の力(弾性力f(x)+静電力FL(0))とが釣り合う。
FR3(0)=(NR1+NR2+NR3)ε0bVe2/g …(10)
【0115】
-d2+Xr3<x≦d1では、第1櫛歯300、第2櫛歯301、第3櫛歯302および第4櫛歯303の全てが挿入量≠0となる。そのため、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bにおける静電力FR4(0)は次式(11)のようになる。よって、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FL(0)と静電力FR4(0)との和になる。ラインL4は黒丸C4の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の静電力FR4(0)と負方向の力(弾性力f(x)+静電力FL(0))とが釣り合う。
FR4(0)=(NR1+NR2+NR3+NR4)ε0bVe2/g …(11)
【0116】
d1≦xでは、第1固定電極3Aの櫛歯300の先端が第1可動電極4Aの櫛歯400間から抜け出て、挿入量がゼロになる。そのため、第1固定電極3Aおよび第1可動電極4Aにおける静電力FL(0)はゼロとなり、トータルの力は、弾性力f(x)=-kxと静電力FR4(0)との和になる。ラインL4は黒丸C5の位置で横軸と交差し、その交差点において正方向の静電力FR4(0)と負方向の弾性力f(x)とが釣り合う。
【0117】
図36に示すように、トータルの力(ラインL4)は、変位x=-d2、-d2+Xr1、-d2+Xr2、-d2+Xr3およびd1において不連続に変化する。変化前の底部の値同士、および頂部の値同士を比較すると、変位x=-d2、-d2+Xr1、-d2+Xr2、-d2+Xr3およびd1の順に小さくなっているが、このような関係となるように櫛歯300~303および櫛歯400の寸法やd1,d2等を設定する。
【0118】
図37は、V1=V2=0において釣り合い位置C0にある可動部5を、釣り合い位置C1へ移動する場合の説明図である。この場合、左側の電極3A,4Aに対して、変位x=-d2におけるトータルの力(f(x)+FL(V11))が正となり、変位x=-d2+Xr1におけるトータルの力(f(x)+FL(V11)+FR1(0))が負となるような電圧V1=V11を印加する。
【0119】
それにより、
図37(a)に示すように、x<d1におけるラインL4は、差=FL(V11)-FL(0)の分だけ図示上方に移動する。その結果、白丸で示す釣り合い位置C0とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が正となり、可動部5は正方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V1の印加を停止すると、
図37(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C1まで移動する。
【0120】
図38は、
図37(b)に示す釣り合い位置C1にある可動部5を、釣り合い位置C2へ移動する場合の説明図である。この場合、左側の電極3A,4Aに対して、変位x=-d2+Xr1におけるトータルの力(f(x)+FL(V12)+FR1(0))が正となり、変位x=-d2+Xr2におけるトータルの力(f(x)+FL(V12)+FR2(0))が負となるような電圧V1=V12を印加する。
【0121】
それにより、
図38(a)に示すように、x<d1におけるラインL4は、差=FL(V12)-FL(0)の分だけ図示上方に移動する。その結果、白丸で示す釣り合い位置C1とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が正となり、可動部5は正方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V1の印加を停止すると、
図38(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C2まで移動する。
【0122】
なお、
図38では位置C1から位置C2に移動させる場合を示したが、
図39は、位置C0において印加電圧V1=V12を印加して、位置C0から位置C2へ移動させる場合を示す。この場合、
図39(a)に示すように可動部5は位置C0から黒丸の位置まで一気に移動する。その後、電圧V1の印加を停止すると、可動部5は釣り合い位置C2に移動する。
【0123】
図40は、位置C0にある可動部5の位置C3への移動を説明する図である。この場合、左側の電極3A,4Aに対して、変位x=-d2+Xr2におけるトータルの力(f(x)+FL(V13)+FR2(0))が正となり、変位x=-d2+Xr3におけるトータルの力(f(x)+FL(V13)+FR3(0))が負となるような電圧V1=V13を印加する。
【0124】
それにより、
図40(a)に示すように、x<d1におけるラインL4は、差=FL(V13)-FL(0)の分だけ図示上方に移動する。その結果、位置C0とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が正となり、可動部5は正方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V1の印加を停止すると、
図40(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C3まで移動する。
【0125】
図41は、位置C0にある可動部5の位置C4への移動を説明する図である。この場合、左側の電極3A,4Aに対して、変位x=-d2+Xr3におけるトータルの力(f(x)+FL(V14)+FR4(0))が正となり、変位x=d1におけるトータルの力(f(x)+FL(V14)+FR3(0))が負となるような電圧V1=V14を印加する。
【0126】
それにより、
図41(a)に示すように、x<d1におけるラインL4は、差=FL(V14)-FL(0)の分だけ図示上方に移動する。その結果、位置C0とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が正となり、可動部5は正方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V1の印加を停止すると、
図41(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C4まで移動する。
【0127】
図42は、位置C0にある可動部5を位置C5へ移動させる場合の、説明図である。この場合、左側の電極3A,4Aに対して、変位x=d1におけるトータルの力(f(x)+FL(V15)+FR4(0))が正となるような電圧V1=V15を印加する。それにより、
図42(a)に示すように、x<d1におけるラインL4は、差=FL(V15)-FL(0)の分だけ図示上方に移動する。その結果、位置C0とラインL4が横軸と交差する位置C5との間においては、トータルの力が正となり、可動部5は正方向に移動して位置C5で釣り合う。その後、電圧V1の印加を停止すると、
図41(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻る。
【0128】
図43は、位置C5にある可動部5を位置C4へ移動させる場合の、説明図である。この場合、右側の電極3C,4Bに対して、変位x=d1におけるトータルの力(f(x)+FR4(V21))が負となり、変位x=-d2+Xr3におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR4(V21))が正となるような電圧V2=V21を印加する。
【0129】
それにより、
図43(a)に示すように、x>-d2におけるラインL4は、差=FR(0)-FR(V21)の分だけ図示下方に移動する。その結果、位置C5とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が負となり、可動部5は負方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V2の印加を停止すると、
図43(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C4まで移動する。
【0130】
図44は、位置C5にある可動部5を位置C3へ移動させる場合の、説明図である。この場合、右側の電極3C,4Bに対して、変位x=-d2+Xr3におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR4(V22))が負となり、変位x=-d2+Xr2におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR3(V22))が正となるような電圧V2=V22を印加する。
【0131】
それにより、
図44(a)に示すように、x>-d2におけるラインL4は、差=FR(0)-FR(V22)の分だけ図示下方に移動する。その結果、位置C5とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が負となり、可動部5は負方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V2の印加を停止すると、
図44(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C3まで移動する。
【0132】
図45は、位置C5にある可動部5を位置C2へ移動させる場合の、説明図である。この場合、右側の電極3C,4Bに対して、変位x=-d2+Xr2におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR3(V23))が負となり、変位x=-d2+Xr1におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR2(V23))が正となるような電圧V2=V23を印加する。
【0133】
それにより、
図45(a)に示すように、x>-d2におけるラインL4は、差=FR(0)-FR(V23)の分だけ図示下方に移動する。その結果、位置C5とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が負となり、可動部5は負方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V2の印加を停止すると、
図45(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C2まで移動する。
【0134】
図46は、位置C5にある可動部5を位置C1へ移動させる場合の、説明図である。この場合、右側の電極3C,4Bに対して、変位x=-d2+Xr1におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR2(V24))が負となり、変位x=-d2におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR1(V24))が正となるような電圧V2=V24を印加する。
【0135】
それにより、
図46(a)に示すように、x>-d2におけるラインL4は、差=FR(0)-FR(V24)の分だけ図示下方に移動する。その結果、位置C5とラインL4が横軸と交差する黒丸の位置との間においては、トータルの力が負となり、可動部5は負方向に移動して黒丸の位置で釣り合う。その後、電圧V2の印加を停止すると、
図46(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻り、可動部5は釣り合い位置C1まで移動する。
【0136】
図47は、位置C5にある可動部5を位置C0へ移動させる場合の、説明図である。この場合、右側の電極3C,4Bに対して、変位x=-d2におけるトータルの力(f(x)+FL(0)+FR2(V25))が負となるような電圧V2=V25を印加する。それにより、
図47(a)に示すように、x>-d2におけるラインL4は、差=FR(0)-FR(V25)の分だけ図示下方に移動する。その結果、位置C5と位置C0との間においては、トータルの力が負となり、可動部5は負方向に移動して位置C0で釣り合う。その後、電圧V2の印加を停止すると、
図47(b)に示すように、ラインL4は
図36の場合と同様の状態に戻る。
【0137】
なお、
図43~47の動作説明では、電極3C,4Bに電圧V2を印加して電極3C,4B側の静電力を小さくすることで、可動部5を電極3A,4A側により近い安定位置へ移動させた。しかし、電極3C,4B側の静電力引力を小さくする代わりに、電極3A,4A側にエレクトレットと同一極性の電圧V1を印加して、電極3A,4A側の静電力を大きくしても良い。その結果、図示方向の力が大きくなり、
図43~47の場合と同様に、可動部5を電極3A,4A側により近い安定位置へ移動させることができる。また、電極3C,4Bと電極3A,4Aの両方に電圧を同時に印加することでも、安定位置を移動させることができる。その場合には、電圧V1,V2を移動に必要な電圧に調整する。
【0138】
上述の
図34に示したアクチュエータ11では、第2固定電極3Cに長さの異なる複数種類の櫛歯300~303を備えることで、複数の安定位置C0~C5が得られるようにしたが、第2可動電極側の櫛歯を複数種類の長さにしても良い。さらに、複数の安定位置が得られる構成としてはこれに限らず、例えば
図48に示すように、第2固定電極3Cの櫛歯300の幅を先端側から根元側にかけて階段状に変化させるようにしても良い。
【0139】
図48に示す例では、櫛歯300は幅の異なる先端部300a、中間部300bおよび底部300cから成る。先端部300aの幅寸法はw1、中間部300bの幅寸法はw2、底部300cの幅寸法はw3である(w1<w2<w3)。そのため、各幅w1,w2,w3に対応した櫛歯間のギャップ寸法をg11,g12,g13(g11>g12>g13)とすると、各変位xにおける、電極3C,4Bの静電力(正方向)は、次式(12)~(15)のようになる。なお、NRは櫛歯の総数を示し、印加電圧V2は停止した状態を考える。
x≦-d2
FR0=0 …(12)
-d2<x≦-d2+Xr1
FR1=NRε
0bVe
2/g11 …(13)
-d2+Xr1<x≦-d2+Xr2
FR2=NRε
0bVe
2/g12 …(14)
-d2+Xr2<x
FR3=NRε
0bVe
2/g13 …(15)
【0140】
図49は、変位xと弾性力L1、静電力L2,L3およびトータルの力L4を示す図であり、静電力L3の段数が
図36の4段から3段に変更された以外は、
図36に示したものと同様である。弾性力と静電力とが釣り合う安定位置はC0~C4の5箇所となる。安定位置間の移動動作は、段数が異なるだけで
図36の場合と同様なので、ここでは説明を省略する。
【0141】
なお、
図36に示した例では、可動部5は、電極4A,4Bの櫛歯400が電極3A,3Cの櫛歯300から完全に抜き出た状態(挿入量=0の状態)まで移動する構成としている。しかし、櫛歯形状を異ならせて複数の安定位置を形成する構成のアクチュエータの場合、挿入量≠0の状態で使用するような構成とすることも可能である。その場合、ラインL1,L2,L4は
図61に示すような状況となる。挿入量≠0の構成の場合には、少なくとも電圧V1,V2のいずれか一方を変化させることで、可動部5を、左方向および右方向のいずれの安定位置にも移動させることができる。ただし、電圧V1,V2は、エレクトレットと同一極性および逆極性のどちらも取り得るとする。もちろん、
図36に示す構成であっても、C0,C5で示す安定位置を使用しない構成に限定すれば、同様の動作をさせることができる。
【0142】
上述した
図34,35,48に示す例では、可動部5の左右に設けられた一対の固定電極3A,3Cの一方(固定電極3C)の櫛歯形状を
図35,48のように構成することで、3以上の安定位置が形成されるようにした。上述のように櫛歯形状を変えることで3以上の安定位置を形成する構成は、
図55や
図58に示したアクチュエータにも同様に適用することができる。
【0143】
以上説明したように、本実施の形態では、
図34に示すアクチュエータ11のように、右側の電極3C,4Bは、第2固定電極3Cと第2可動電極4Bとの間の静電力が、第2可動電極4Bの挿入量に応じて複数段に変化する構成となっている。そのため、第1の安定位置C0と第2の安定位置C5との間に、静電力と弾性力とが釣り合う複数の安定位置(第1中間安定位置)C1~C4が設定される。第1駆動部8Aは、可動部5を第2の安定位置C5へ移動させるための電圧に加えて、可動部5を複数の安定位置C1~C4へ移動させるための複数の電圧が印加可能に構成されている。
【0144】
このように、アクチュエータ11では、複数の安定位置間において可動部5を移動させることができる。そして、移動時のみに外部電圧V1,V2を印加すれば良く、エレクトレットによる静電力と弾性支持部6による弾性力との釣り合いによって、安定状態が維持される。応用例としては、例えば、センサを一次元方向に移動して検出を行う場合のアクチュエータとして用いることができる。
【0145】
また、
図19に示した光シャッタ101では、双安定構造のアクチュエータ1を用いることで光をオンオフする構成とした。しかし、アクチュエータ1に代えて、複数の安定位置間で可動部5を移動させることができるアクチュエータ11を用いることで、開口率の異なる複数の位置にシャッタ板1Sを位置決めすることができる。すなわち、アクチュエータ11の電極3A,4A間に印加される電圧を制御することで、シャッタ板1Sを複数の位置に移動させることで、光シャッタの通過光量を制御することができる。
【0146】
-第3の実施の形態-
図50は、本発明に係るアクチュエータの第3の実施の形態を示す図である。アクチュエータ13は、
図34に示した複数の安定状態を有するアクチュエータをx軸方向とy軸方向の両方に関して備えたことにより、可動部5の2次元的な移動を可能としたものである。
図50では制御部223の図示を省略した。なお、ここでは、
図34のアクチュエータを用いて2次元走査型のアクチュエータとしたが、
図1,48,55および58に示すアクチュエータを用いても良い。
【0147】
アクチュエータ13は、可動部5をx軸方向に駆動するための第1固定電極3A,第1可動電極4A、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bと、可動枠15をy軸方向に駆動するための第3固定電極13A、第3可動電極14A、第4固定電極13Cおよび第4可動電極14Bとを備えている。可動部5は、弾性支持部6aにより可動枠15に連結されている。すなわち、可動部5にとって可動枠15はベース部に相当するものであり、可動部5は可動枠15に対してx方向に移動可能に設けられている。一方、可動枠15は、弾性支持部6bによりベース2に連結されており、ベース2に対してy方向に移動可能に設けられている。
【0148】
第1固定電極3A,第1可動電極4A、第2固定電極3Cおよび第2可動電極4Bの間の関係は、
図34に記載した同一符号の電極の場合と同様の関係を有している。ただし、
図34の構成では、第2固定電極3Cには4種類の長さの櫛歯300~303が設けられていたが、
図50の場合は3種類となっているので、後述するようにx方向変位に関する安定位置の数は5箇所となる。また、第3固定電極13Aは第1固定電極3Aと同一構造であり、第3可動電極14Aは第1可動電極4Aと同一構造であり、第4固定電極13Cは第2固定電極3Cと同一構造であり、第4可動電極14Bは第2可動電極4Bと同一構造である。y方向変位に関する安定位置の数も5箇所となる。
【0149】
第1固定電極3Aおよび第2固定電極3Cは、可動枠15のx軸方向の辺に設けられている。一方、第3可動電極14Aおよび第4可動電極14Bは、可動枠15のy軸方向の辺に設けられ、それぞれ櫛歯が外側を向くように配置されている。第3固定電極13Aは、第3可動電極14Aと歯合するようにベース2上に設けられている。第4固定電極13Cは、第4可動電極14Bと歯合するようにベース2上に設けられている。
【0150】
図34の構成の場合と同様に、電極3A,4Aに対しては第1駆動部8Aが設けられ、電極3C,4Bに対しては第2駆動部8Bが設けられている。さらに、本実施の形態では、電極13A,14Aに対して第3駆動部8Cが設けられ、電極13C,14Bに対して第4駆動部8Dが設けられている。なお、第1駆動部8Aおよび第3駆動部8Cによる印加電圧はV1、第2駆動部8Bおよび第4駆動部8Dによる印加電圧はV2とする。また、可動枠15に設けられた電極3A,3C,14A,14Bは、それぞれ絶縁部15aによって電気的に絶縁されている。
図50に示す例では、SOI基板を加工して形成されたアクチュエータ13の可動枠15は、下部Si層31から形成された矩形枠上に、上部Si層33による電極3A,3C,14A,14Bを形成したものであり、絶縁部15aは上部Si層33をエッチングして形成されたギャップによって構成されている。
【0151】
第1駆動部8Aおよび第4駆動部8Dのマイナス側はグランド電位とされると共に、第4可動電極14Bの接続パッド部7bに接続されている。また、第1駆動部8Aのプラス側は第1固定電極の接続パッド部7aに接続され、第4駆動部8Dのプラス側は第4固定電極13Cの接続パッド部17dに接続されている。第2駆動部8Bおよび第3駆動部8Cのマイナス側はグランド電位とされると共に、第3可動電極14Aの接続パッド部17bに接続されている。また、第2駆動部8Bのプラス側は第2固定電極3Cの接続パッド部7dに接続され、第3駆動部8Cのプラス側は第3固定電極13Aの接続パッド部17aに接続されている。
図50から分かるように、第1~第4可動電極4A,4B,14A,14Bはグランド電位となっている。
【0152】
図51は、第1駆動部8A、第2駆動部8Bによる電圧V1,V2の印加が行われていない場合における、x方向の変位xと可動部5に作用する力を示す図である。本実施の形態では、第2固定電極3Cの櫛歯の長さが3種類であるため、静電力と弾性力とが釣り合う安定位置は5箇所(C0~C4)となる。一方、電極13A,14A,13C,14Bの構造は電極3A,4A,3C,4Bと同一なので、y方向の変位yと可動枠15に作用する力は、
図51と全く同様になる。そのため、アクチュエータ13における安定位置、すなわち可動部5の取り得る位置をxy平面に図示すると、
図52のようになる。可動部5は、C11~C44の25箇所に移動させることができる。
【0153】
図53は、アクチュエータ13を2次元走査型赤外線検出装置51に適用した場合を示す。
図53に示す赤外線検出装置はいわゆるスマートアクチュエータと呼ばれるものであり、アクチュエータ13の可動部5に赤外線検出素子52が搭載されている。可動部5を
図52に示す25箇所の安定位置に移動することで、赤外線検出素子52による2次元的な計測を可能にしている。例えば、C04,C14,C24,C34,C44,C02,C12,C22,・・・,C31,C41,C00,C10,C20,C30,C40のように、可動部5の位置を移動させる。なお、ここでは、赤外線検出素子52のような光検出センサを搭載した2次元走査型センサ装置について説明するが、光センサに限らず種々の物理量を検出するセンサに対しても同様に適用することができる。
【0154】
赤外線検出素子52としては、赤外線吸収帯が形成された受光部を、中空構造の基板に対して微細な梁で支持し、受光部の温度をサーモパイル等で検出する熱型赤外線センサ(例えば、特開2001-28106号公報等)や、誘電ボロメータ型赤外線センサなど、周知の赤外線センサを用いることができる。また、赤外線検出素子52は、アクチュエータ13の可動部5に直接形成しても良いし、アクチュエータ13とは別個に形成されたセンサチップを、可動部5上に搭載する構造であっても良い。なお、
図53においては、
図50に示すアクチュエータ13と異なり、接続パッド部7bにはセンサ出力線53が接続されている。
【0155】
以上のように、本実施の形態のアクチュエータ13では、下側の電極13A,14Aおよび上側の電極13C,14Bによってy方向に移動される可動枠15に、可動枠15の移動方向と交差する方向(x方向)に間隔を空けて第1固定電極3Aおよび第2固定電極3Cが対向配置されている。そして、第1固定電極3Aと第2固定電極3Cとの間には、第1固定電極3Aに挿脱可能に歯合する第1可動電極4A、および第2固定電極3Cに挿脱可能に歯合する第2可動電極4Bが設けられた可動部5が、可動枠15に対してx方向に移動可能なように弾性支持部6aによって弾性支持されている。
【0156】
さらに、アクチュエータ13は、第2固定電極3Cに対する第2可動電極4Bの挿入量がゼロとなる位置まで第1可動電極4Aが第1固定電極3Aに吸引されて、電極3A,4Aのエレクトレットによる静電力と弾性支持部6aの弾性力とが釣り合う第1の安定位置と、第1固定電極3Aに対する第1可動電極4Aの挿入量がゼロとなる位置まで第2可動電極4Bが第2固定電極3Cに吸引されて、電極3C,4Bのエレクトレットによる静電力と弾性支持部6aの弾性力とが釣り合う第2の安定位置と、を取るように設定されている。そして、電極3A,4A間の静電力を弱めるように電圧V1を印加し、可動部5を第1の安定位置から第2の安定位置へ移動させる第1駆動部8Aと、電極3C,4Bと間の静電力を弱めるように電圧V2を印加し、可動部5を第2の安定位置から第1の安定位置へ移動させる第2駆動部8Bと、を備える。
【0157】
その結果、可動部5を、二次元的に設定された複数の安定位置にスライド移動させることができる。本実施の形態では、4組の電極の構造を全て櫛歯電極とすることで、それらの構成が同一の平面上に配置され、薄型の2次元アクチュエータを構成することができる。また、そのような平面構造であるため、各電極および可動部5、可動枠15を同一の基板から形成することができ、加工工数が非常に少なくて済む。
【0158】
なお、
図50に示す例では、電極3A,3C,4A,4B,13A,13C,14A,14Bの各櫛歯にエレクトレットを形成したが、歯合する電極の一方の電極の櫛歯のみにエレクトレットを形成するようにしても良い。また、
図50のアクチュエータ13では、固定電極と可動電極との組み合わせとして、アクチュエータ11の電極3A,4Aおよび電極3C,4Bと同様の組み合わせをx方向およびy方向の両方に用いているが、xおよびy方向の一方を
図1に記載のアクチュエータ1と同様の電極構成としても良いし、xおよびy方向の両方をアクチュエータ1と同様の電極構成としても良い。
【0159】
また、
図50に示す例では、可動部5の移動方向と可動枠15の移動方向とが直交する構成としたが、可動枠15の移動方向に対して斜め方向に可動部5が移動する構成とすることもできる。
【0160】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0161】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2013年第165166号(2013年8月8日出願)
【符号の説明】
【0162】
1,11,13,110A,110B,201:アクチュエータ、1S:シャッタ板、2:ベース、3A:第1固定電極、3B,3C:第2固定電極、3D,4D:電極板、4A:第1可動電極、4B:第2可動電極、5:可動部、6,6a,6b:弾性支持部、8A:第1駆動部、8B:第2駆動部、8C:第3駆動部、8D:第4駆動部、13A:第3固定電極、13C:第3固定電極、14A:第3可動電極、14B:第4固定電極、15:可動枠、51:2次元走査型赤外線検出装置、52:赤外線検出素子、101:光シャッタ、102:バックライト、103:遮光板、201:流路切換弁、202:弁体、203a:溝、204,211,221:流路構造体、205,206,212:流路、210:三方切換弁、220:流量制御弁、223:制御部、230,240:RFスイッチ、300~303,400:櫛歯、EL:エレクトレット