(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の無細胞組織抽出物を乾燥させる方法、およびナノフィブリルセルロースと無細胞組織抽出物とを含む乾燥ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20221021BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20221021BHJP
A61K 38/30 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221021BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20221021BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K38/18
A61K38/30
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/38
A61K35/35
(21)【出願番号】P 2019554023
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(86)【国際出願番号】 FI2017050900
(87)【国際公開番号】W WO2018109282
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-10-22
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(73)【特許権者】
【識別番号】519217825
【氏名又は名称】エバーフィル オイ
【氏名又は名称原語表記】EVERFILL OY
【住所又は居所原語表記】c/o Yritysjuridiikka Oy Fredrikinkatu 25 A 17 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
(72)【発明者】
【氏名】ユリコミ,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】サルカネン,イェルッタ-リーナ
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-501566(JP,A)
【文献】特表2016-538339(JP,A)
【文献】特表2014-533296(JP,A)
【文献】特開2011-026202(JP,A)
【文献】Cryobiology, 2019, Vol.91, pp.137-145
【文献】THE JOURNAL of JAPANESE COLLEGE of ANGIOLOGY Vol. 46, 2006, pp.297-304
【文献】日本農芸化学会誌, 1998, Vol.72, No.2, pp.189-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 - 35/768
A61K 47/00 - 47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の無細胞組織抽出物を乾燥させる方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物を提供することと、
ポリエチレングリコールを提供することと、
トレハロースを提供することと、
ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコール、およびトレハロースを混合し、混合物を得ることと、
混合物を凍結乾燥させ、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル中に乾燥無細胞組織抽出物を得ることとを特徴とする方法。
【請求項2】
無細胞組織抽出物は、体から直接得られ
る組織
から得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
無細胞組織抽出物は、培養細胞から、たとえば馴化培地
中で培養された細胞から得られることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
無細胞組織抽出物は、脂肪組織抽出物、たとえば、ヒト脂肪組織抽出物であり、当該脂肪組織抽出物は、好ましくは、少なくとも、VEGF、FGF-2、およびIGF-1を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
混合物中の無細胞組織抽出物の乾物含有量は、混合物の総質量から計算して、0.01~10%(w/w)の範囲内、たとえば0.1~5%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
混合物は、混合物の総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコール、および/または0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ナノフィブリルセルロースは、水に分散されたとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば、少なくとも10000mPa・s、たとえば2000~20000mPa・sの範囲内にあるブルックフィールド粘度を提供することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、凍結乾燥前に、0.5~10%、たとえば2~8%、たとえば3~7%の範囲内にあることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロースおよび非変性ナノフィブリルセルロース、ならびにTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
凍結乾燥は、乾燥ヒドロゲルが、10%以下、たとえば、2~10%(w/w)、たとえば2~5%(w/w)の範囲内にある水分含有量を有するまで継続されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
セルロース系繊維原料から分離された1~100nmの範囲内にある数平均径を有するセルロース小繊維または小繊維束を含むナノフィブリルセルロースと、生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物と、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含有する凍結防止剤とを含むエアロゲルの形態の凍結乾燥ヒドロゲルであって、
生物活性物質の混合物は、タンパク質、ホルモン、因子、細胞外成分、細胞外線維および細胞外小胞から選択される生物活性物質を含み、凍結乾燥ヒドロゲルの水分含有量が10%(w/w)以下、たとえば2~10%(w/w)、たとえば2~8%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項12】
生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物は、脂肪生成因子および血管新生因子の混合物であることを特徴とする請求項11に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項13】
ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある数平均径を有する小繊維を含むことを特徴とする請求項11
または12に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項14】
ナノフィブリルロースセルは、水性媒体中で0.5重量%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって
22℃で測定された、1000~100000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度と、1~50Paの範囲内の降伏応力をもたらすことを特徴とする請求項11
~13のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項15】
無細胞組織抽出物の乾物含有量は、0.1~65%(w/w)の範囲内、たとえば、0.1~50%(w/w)の範囲内、たとえば1~25%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項11~1
4のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項16】
乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は、1~20%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、0.5~10%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項11~1
5のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項17】
無細胞組織抽出物は、体から直接得られ
た組織から得られることを特徴とする請求項11~1
6のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項18】
無細胞組織抽出物は、培養細胞から、たとえば馴化培地
中で培養された細胞から得られることを特徴とする請求項11~1
7のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項19】
無細胞組織抽出物は、脂肪組織抽出物、たとえばヒト脂肪組織抽出物であり、当該脂肪組織抽出物は、好ましくは、少なくとも、VEGF、FGF-2、およびIGF-1を含むことを特徴とする請求項11~1
8のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項20】
ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば、少なくとも10000mPa・s、たとえば2000~20000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を提供することを特徴とする請求項11~1
9のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【請求項21】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロースおよび非変性ナノフィブリルセルロース、ならびにTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする、請求項11~1
8のいずれか1項に記載の凍結乾燥ヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無細胞組織抽出物を含むナノセルロースを含むヒドロゲルであって、医療用途において医薬品として使用することができるヒドロゲル、および無細胞組織抽出物を含むそのようなヒドロゲルを調製し、乾燥する方法に関する。医療用途は、標的組織に生物活性剤を送達することを含む。
【背景技術】
【0002】
ナノフィブリルセルロースは、単離されたセルロース小繊維、またはセルロース原料に由来する小繊維束を表す。ナノフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性のヒドロゲルを形成する性質を有する。
【0003】
ナノフィブリルセルロース製造方法は、パルプ繊維の水性分散液の粉砕に基づく。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、通常約0.3~5%である。粉砕または均質化処理後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希釈された粘弾性ヒドロゲルである。
【0004】
ナノフィブリルセルロースは、そのナノスケール構造が原因で、従来のセルロースでは提供することができない機能を有効にする独特の特性を有する。しかしながら、同様の理由で、ナノフィブリルセルロースは、魅力的な材料である。たとえば、ナノフィブリルセルロースの、脱水または取扱いは、困難であろう。さらに、脱水後、脱水または乾燥前の元のナノフィブリルセルロースと等しい特性を有する材料を得るために、乾燥材料を再水和または再ゲル化することは、一般的に困難である。特に困難な脱水処理は、凍結乾燥である。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の無細胞組織抽出物を乾燥するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物を提供することと、
ポリエチレングリコールを提供することと、
トレハロースを提供することと、
ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコール、およびトレハロースを混合し、混合物を得ることと、
混合物を凍結乾燥し、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル中の乾燥無細胞組織抽出物を得ることとを含む方法を提供する。
【0006】
一実施形態は、上述の方法で得られた、ナノフィブリルセルロースと、生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物と、ポリエチレングリコールと、トレハロースとを含む乾燥ヒドロゲルを提供する。
【0007】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物と、ポリエチレングリコールと、トレハロースとを含む乾燥ヒドロゲルであって、当該ヒドロゲルの含水量が10%(w/w)以下、たとえば2~10%(w/w)の範囲内にある乾燥ヒドロゲルを提供する。
【0008】
主な実施形態は、独立請求項に特徴付けられている。様々な実施形態は、従属請求項に開示されている。従属請求項および実施形態に記載された実施形態は、特に明記しない限り互いに自由に組み合わせることができる。
【0009】
驚くべきことに、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の無細胞組織抽出物の凍結乾燥処理において凍結防止剤としてポリエチレングリコールとトレハロースの両方を組み合わせて使用すると、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中において、組織抽出物の元の特性を保った形態に、再水和または再分散させることができる乾燥製品を得ることができた。つまり、乾燥製品は、再ゲル化することができた。そのような特性は、ゲル特性と無細胞組織抽出物の活性との両方を含み、当該無細胞組織抽出物は、ヒドロゲルからさらに制御可能に放出することができる。ポリエチレングリコールおよびトレハロースの両方を含むナノフィブリルセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲルは、凍結乾燥前と同様の均質ヒドロゲルに再ゲル化したが、ポリエチレングリコールまたはトレハロースの一方のみを含有する類似の凍結乾燥ヒドロゲルは、細い顆粒状に再ゲル化した。選択された凍結防止剤の存在は、ゲルからの生物活性剤の放出特性に影響を及ぼさなかった。ヒドロゲルを乾燥させることによって、医薬品のための非常に長い貯蔵寿命を得ることができる。特に、タンパク質および加水分解に敏感な物質のような湿潤条件で不安定な活性剤を含有するゲルは、水分をほとんどまたは実質的に含まず、したがって長期の安定性および貯蔵寿命を有する形態にうまく凍結乾燥することができる。このような凍結乾燥医療製品は、室温でさえも貯蔵することができ、使用前に液体、たとえば水または食塩水を添加することによって再ゲル化することができる。さらに、ポリエチレングリコールとトレハロースとの組み合わせは、溶液または分散液中のナノフィブリルセルロースの沈殿または沈降を防ぎ、この効果は、いずれかの凍結防止剤単独では得られなかった。
【0010】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルは、たとえば、活性治療薬または美容用薬剤として作用し得る多種多様な様々な分子の制御可能な放出を提供する材料として作用し得ることもまた見出された。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、活性剤の長期放出を提供することができ、その効果は様々な医療用途および美容用途に適用することができる。この効果は、広範囲のヒドロゲル濃度に沿って、異なるサイズおよび種類の広範囲の放出可能な分子について得られた。
【0011】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの特定の有利な特性には、柔軟性、弾力性および再成形性が含まれる。ヒドロゲルは、大量の水を含むので、分子の良好な透過性も示す。これらの特性は、ヒドロゲルが創傷を治療するための覆いとして使用される場合、または他の医療用途、たとえば治療薬もしくは美容用薬剤を送達するために使用される場合に有用である。
【0012】
柔軟性は、多くの用途、たとえば医療用途において望まれる特徴である。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルを含む可撓性貼付剤および包帯は、たとえば、創傷および他の損傷、または火傷などの外傷を覆うために皮膚に適用するために有用である。
【0013】
また、実施形態のヒドロゲルは、高い保水容量および分子拡散特性速度を提供し、この特性は、医療用途、たとえば創傷治癒などにおいて望ましい。大きなヒドロゲルは、広い面積を覆うために使用することができるように調製および/または成形されてもよい。
【0014】
本明細書に記載のヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織に接触している医療用途に有用である。ナノフィブリルセルロースが、たとえば皮膚上または損傷領域上に適用されると、独特な特性をもたらすことが見出された。本明細書に記載されたナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体組織との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果をもたらす。いかなる特定の理論にも縛られないが、非常に高い比表面積を有し、したがって高い保水能力を有する非常に親水性の高いナノフィブリルセルロースは、皮膚または他の組織に対して適用した場合、組織または創傷とナノフィブリルセルロースとの間に好ましい湿潤環境を提供すると考えられる。ナノフィブリルセルロース中の大量の遊離ヒドロキシル基は、ナノフィブリルセルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノフィブリルセルロースのゲル形成、および高い保水能力をもたらす。ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の大量の水が原因で、水のみが組織に接触していると考えられ、皮膚または創傷からヒドロゲルへ、またはヒドロゲルから皮膚または創傷への流体および/または薬剤の移動を可能にする。
【0015】
ヒドロゲルが、たとえば、それ自体、または他の製品の一部、たとえば、石膏、包帯、医療用貼付剤、または石膏、貼付剤、もしくは包帯の一部として、創傷または他の損傷もしくは外傷を覆うために使用される場合、いくつかの効果がもたらされる。損傷を受けることなく、たとえば引き裂かれることなく製品を容易に適用および除去することができるので、製品の使いやすさは良好である。創傷を覆うために使用された場合、ヒドロゲルは、創傷を感染から保護し、創傷が治癒されるように湿潤環境を保つ。ヒドロゲルは、治癒領域を損傷することなく除去することが非常に困難である従来材料のように、損傷を受けた皮膚または創傷に不可逆的に付着することはない。製品と皮膚との間の状態は、損傷領域の治癒を促進する。
【0016】
実施形態の医療用ヒドロゲルは、皮膚が様々な深さまで損傷を受けたか、もしくはさらに欠失した損傷した皮膚の治療において、または移植片、たとえば皮膚移植片の治療において特に有利である。ヒドロゲルは、損傷した領域、または移植片領域を覆うために使用することができ、保護層として機能する。
【0017】
また、ヒドロゲルは、たとえば、経皮経路によって、または他の経路によって、たとえば、損傷した皮下領域に直接に、生物活性剤、たとえば、無細胞組織抽出物を含む薬剤を、被検体、たとえば、患者または使用者に、制御可能に、かつ効果的に放出し、送達するために使用されてもよい。制御された放出は、たとえば、長期にわたって1つの薬剤もしくは複数の薬剤の、所望の放出速度、および/または特性を得ることを表し、これらは、ゲルの選択、たとえばゲルの割合もしくはゲルの厚さ、放出可能な薬剤の濃度もしくは形態、任意の補助剤の存在、または放出速度および/もしくは放出可能薬剤の活性に影響を与える他の条件、たとえば、pH、温度などによって影響を受け得る。以前に説明したように組織とヒドロゲルとの間の特別な条件と放出特性との組み合わせ効果は、生体組織への物質の効率的な送達を提供する。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、非毒性、生体適合性であり、生分解性でもある親水性マトリックスを提供する。たとえば、親水性マトリックスは、酵素的に分解されてもよい。一方、ヒドロゲルは、物理的条件下で安定である。
【0018】
本明細書中に開示される無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物は、たとえば軟組織再生医工学において使用され得る。軟組織再生医工学は、外傷、たとえば火傷および瘢痕のような、外科的切除または先天性奇形から生じる軟組織欠損のための交換部品を製造しようとしている。また、美容用途、たとえば顔のしわの充填は、再構成軟組織の重要な用途である。治療に特に好ましい標的は、脂肪含有皮下軟組織であり、これは、角皮下層、皮下組織、皮下結合組織層、または表在筋膜とも称され、脊椎動物の外皮系の最下層である。皮下組織が脂肪組織抽出物で処理されると、抽出物の生物活性物質は、皮下軟組織および皮膚の再生を促進する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルとも称される、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供する。ヒドロゲルは、他の物質または他の要素、たとえば、補強材料、被覆材料、活性剤、塩などをも含み得る製品として提供されてもよい。また、ヒドロゲルは、医療用ヒドロゲルまたは医療用製品として提供されてもよく、または呼ばれてもよい。
【0020】
より具体的には、本願は、ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコール、およびトレハロースを含むヒドロゲル中に生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物を開示している。
【0021】
本願は、ナノフィブリルセルロースと生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物とを含む医療用ヒドロゲルを開示している。そのようなヒドロゲルは、本明細書に記載された凍結防止剤の有無に関わらず、生物活性物質を被験体、たとえば患者に投与するために使用することができる。
【0022】
用語「医療用」は、製品、すなわち実施形態のヒドロゲルを含む製品が使用されるか、または医療目的に適している、製品または使用を表す。医療用製品は、滅菌されてもよく、またはたとえば、温度、圧力、湿気、化学物質、放射線もしくはそれらの組み合わせを用いることによって滅菌可能である。製品は、たとえば、オートクレーブ処理することができ、または高温を用いる他の方法を使用することができ、その場合、製品は、100℃を超える高温、たとえば、少なくとも121℃または134℃に耐えるべきである。一実施例では、製品は、121℃で15分間オートクレーブされる。そのような温度処理は、好ましくは、生物活性剤の変性を避けるために、生物活性剤を製品に加える前に実施されるべきである。また、医療用製品は、発熱物質を含まず、望ましくないタンパク質残基などを含まないことが望ましい。医療用製品は、好ましくは標的に対して毒性を示さない。紫外線殺菌も使用することができる。医療用製品は、たとえば、美容用途にも適していてもよい。
【0023】
実施形態のナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲル、たとえばアニオン性NFCヒドロゲルは、特に温度およびpHが一定の場合に、時間の関数として活性剤を制御可能に放出することができる。NFCヒドロゲルは、特定の賦形剤と共に凍結乾燥され、依然として再ゲル化され得ることが見出された。NFCヒドロゲルの凍結乾燥は、放出特性の他の点では同一である、非凍結乾燥試料と凍結乾燥および再ゲル化試料との間の放出特性に実質的に影響を及ぼさないことが実験的に確認された。この結果は、凍結防止剤としてPEGとトレハロースとを一緒に用いた凍結乾燥法が、使用済みNFCヒドロゲル、たとえばアニオン性ヒドロゲルの放出能力にほとんど影響を及ぼさないことを示している。アニオン性ヒドロゲルは、多くの用途について好ましい。たとえば、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、他のグレードとは異なり、容易に沈殿しない。アニオン性グレードはまた、ある種の活性剤を放出するために特に適している。
【0024】
本明細書において、パーセンテージ値は、他に具体的に示されない限り、重量(w/w)に基づいている。数値範囲が提供されている場合、その範囲には上限値および下限値も含まれる。
【0025】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含むヒドロゲル中に生物活性物質の混合物を含む凍結乾燥可能な無細胞組織抽出物を提供する。ポリエチレングリコールおよびトレハロースは、凍結防止剤として作用して相乗効果をもたらし、これによって凍結乾燥前のヒドロゲルと実質的に同一の特性を有する凍結乾燥製品が得られるようにナノフィブリルヒドロゲルを凍結乾燥することができる。ポリエチレングリコールまたはトレハロースを単独で使用した場合、それらは、それらがナノフィブリルセルロースヒドロゲル用の凍結防止剤として有効であること、またはたとえばナノフィブリルセルロースの沈殿を防ぐことを示唆し得る顕著な凍結防止効果を示さなかった。一実施例では、凍結乾燥可能なヒドロゲルは、ヒドロゲルの全質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコール、および0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、無細胞組織抽出物は、脂肪組織抽出物、たとえばヒト脂肪組織抽出物である。
【0026】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中で無細胞組織抽出物を乾燥させる方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物を提供することと、
ポリエチレングリコールを提供することと、
トレハロースを提供することと、
ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを混合して混合物を得ることと、
混合物を凍結乾燥し、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル中で無細胞組織抽出物を得ることとを含む方法を提供する。
【0027】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物とを含む医療用ヒドロゲルを提供する。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、生物活性物質および1つ以上の治療薬または美容用薬剤の混合物を含む無細胞組織抽出物とを含む医療用ヒドロゲルを提供する。医療用ヒドロゲルは、物質または薬剤を被験体に投与するために使用することができる。また、医療用ヒドロゲルは、本明細書中に記載されるように、他の成分、たとえばポリエチレングリコールおよびトレハロースを含んでもよい。被験体は、患者、または薬剤を必要とする他の任意の被験体、たとえばヒトまたは動物であってもよい。
【0028】
無細胞組織抽出物
組織抽出物は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルと組み合わせられる。組織抽出物は、セルフリー、または無細胞であり、この用語は互換的に使用されてもよい。無細胞組織抽出物は、生物活性物質の混合物を含み、これは組織抽出物が生物活性剤とも称される、1種類以上の生物活性物質を含むことを意味する。生物活性物質は、タンパク質、ホルモン、因子、たとえば、成長因子、分化因子、もしくは任意の他の生物活性因子、または任意の他の生物活性物質または分子であってもよい。また、生物活性物質は、細胞外成分、すなわち細胞外空間に存在する成分、たとえばタンパク質および非タンパク質物質、たとえば、DNA、RNA、もしくは脂質、または細胞外原線維、たとえば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、もしくは細胞外小胞、たとえば、生物活性タンパク質もしくは核酸を含み得る、微小胞もしくは他の小胞を含んでもよい。生物活性物質は、ソース細胞から得られ、組織または細胞培養物に由来してもよい。生物活性物質、または生物活性剤もしくは化合物は、生物、組織、または細胞に影響を与える物質である。無細胞組織抽出物は、別々に単離されたタンパク質または他の分子を表すのではなく、むしろ、起源細胞から一緒に得られる一群の物質を表し、一群の物質は、1種類または複数の種類であってもよい。生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物は、本明細書では無細胞組織抽出物とも称される。
【0029】
本明細書で使用される組織は、任意の動物または植物組織を表す。一実施形態では、組織は、動物組織、たとえばヒト組織である。組織は、軟組織であってもよく、体の他の構造および器官を、結合する、支持する、または取り囲む組織を含む。一実施例では、組織は、硬い組織、たとえば骨を含まない。軟組織の例は、腱、靭帯、筋膜、皮膚、線維組織、脂肪組織、および滑膜(これらは結合組織である)、ならびに筋肉、神経、および血管(これらは結合組織ではない)が挙げられる。また、本明細書で使用される組織は、血液および他の細胞含有流体、たとえば、体液および細胞培養培地を含む。
【0030】
組織は、動物またはヒトの体から得られてもよい。無細胞組織抽出物は、小さな組織片または生存細胞から得られてもよい。一実施形態では、無細胞組織抽出物は、体、たとえば、体から単離された試料または組織、たとえば、生存可能な、すなわち生きている細胞から得られる。すなわち、細胞は、培養されない。組織小片は、供給源、たとえば体から得られた組織を表し、当該組織は、細かく切断されているが、均質化されていなくてもよい。無細胞組織抽出物は、起源細胞から得られる溶液、たとえば、細胞を破砕して全ての粒子状物質を除去することによって得られる溶液、または細胞を破砕または均質化せずに生細胞を溶液中で培養し、溶液から抽出物を回収することによって得られる溶液である。溶液は、水溶液、たとえば、食塩水、緩衝液、または細胞培養培地であってもよい。細胞が破砕または均質化されていない場合、分泌された細胞外物質のみが抽出されるので、されに限られた量の様々な物質が抽出物中にもたらされる。一実施例では、無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物は、脂肪吸引術によって体から得られる。脂肪吸引術によって得られる組織は、ホモジネート型の組織単離物の具体例であり、細胞は、実質的に破砕または分解していないが、細胞の少なくとも一部、好ましくは大部分が生存可能である。除去された組織、たとえば、生検、脂肪吸引術などから得られた細胞は、細胞外成分を含む場合がある。
【0031】
一実施形態では、無細胞組織抽出物は、培養細胞、たとえば馴化培地中で培養された細胞から得られる。馴化培地は、細胞によってすでに部分的に使用されている培地、たとえば、細胞が数時間または数日間培養されている培地である。いくつかの成分が枯渇しているが、細胞由来の物質、たとえば、少量のサイトカイン、成長因子などが豊富である。そのような細胞馴化培地は、はるかに低い密度での細胞の増殖を支援し、何らかの新鮮な培地と混合されてもよい。そのような場合、無細胞組織抽出物は、馴化培地であってもよく、または馴化培地に由来してもよい。
【0032】
一般に、組織抽出物は、細胞から回収された後に濾過されてもよい。これは、生物活性物質を含む溶液が通過することを可能にするが、細胞または細胞破片が濾紙を通過することを妨げるカットオフ値を有する濾紙を用いることによって実施されてもよい。細胞が抽出物に含まれていないことを確認するためのもう1つの選択肢は、抽出物を遠心分離して上清を回収することである。
【0033】
供給源細胞は、原核細胞または真核細胞であってもよい。たとえば、微生物細胞、たとえば、細菌細胞または酵母細胞が含まれてもよい。真核細胞は、植物細胞または動物細胞であってもよい。好ましくは、細胞は、動物細胞、より具体的にはヒト細胞である。細胞の例は、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、および完全分化細胞、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。真核細胞の例は、移植可能細胞、たとえば、幹細胞、たとえば、全能性細胞、多能性細胞、多分化能細胞、寡能性(oligopotent)細胞、または単能性細胞を含む。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、寄託された細胞株由来のものでもよく、または未受精卵、すなわち「単為生殖」卵から、もしくは単為生殖で活性化された卵子から作製されてもよい。いくつかの実施例において、細胞は、角膜実質細胞、角化細胞、線維芽細胞、上皮細胞、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細胞型を含む。いくつかの実施例では、細胞は、幹細胞、前駆細胞(progenitor cells)、前駆細胞(precursor cells)、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、平滑筋細胞、間質細胞、間葉系細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
一実施形態では、無細胞組織抽出物は、培養細胞から得られない。培養細胞は、体から直接得られる組織から得られる細胞とは異なる起源細胞型(source cell type)を示し、それらは異なる最終用途を有してもよい
【0035】
一実施形態では、無細胞組織抽出物は、脂肪組織抽出物、たとえばヒト脂肪組織抽出物である。脂肪組織抽出物を含有する製品は、細胞の増殖および分化に適した微小環境を提供するために使用されてもよく、したがって、細胞の外因性移植なしに脂肪組織の形成をもたらす。最適な微小環境は、周囲の組織からの脂肪幹細胞の移動を促進し、細胞を成熟脂肪細胞に分化させる。発生中の組織における血管新生は、壊死、瘢痕形成および移植組織の吸収を回避するために、ならびにいくつかの分化因子を分泌するために必要とされる。
【0036】
一実施形態は、少なくとも、VEGF、FGF-2、およびIGF-1を、好ましくは所定量で含む、無細胞脂肪組織抽出物を提供する。無細胞脂肪組織抽出物は、1つ以上の他の生物活性物質または本明細書に開示される他の物質をさらに含んでもよい。一実施形態では、抽出物は、1mgの総タンパク質あたり、少なくとも1pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF-2、および少なくとも50pgのIGF-1を含む。一実施形態では、総タンパク質1mgあたりのVEGF含有量は、少なくとも7pgである。抽出物は、軟組織の修復またはエンジニアリングにおいて、ならびに再生医工学、たとえば、創傷治癒における、火傷の治療における、および虚血状態の治療における血管形成の誘導において使用されてもよい。そのような使用の一具体例は、皮下軟組織喪失の治療である。
【0037】
一実施例では、無細胞脂肪組織抽出物、たとえば無細胞組織抽出物を調製する方法を提供する。本方法は、a)生存細胞を含む均質化されていない組織試料、たとえば脂肪組織試料を提供する工程、b)前記試料を溶液中で所定の時間にわたって培養する工程、およびc)溶液から抽出物を収集もしくは回収する工程、または抽出物として溶液を収集もしくは回収する工程を含む。また、本方法は、破砕された細胞または均質化された細胞を、最初に洗浄するか、またはそうでなければ除去して、生存細胞のみを含む、または生存細胞を大部分含む試料を提供することを含んでもよい。また、本方法は、抽出物を最後に濾過して、残っている細胞を抽出物から除去することを含んでもよい。さらなる実施例は、前記方法で得られる無細胞組織抽出物、たとえば無細胞脂肪組織抽出物を提供する。所定の時間は、5分~48時間、たとえば、1~24時間、0.5~2時間、1~2時間、0.5~6時間、0.5~12時間、1~12時間、2~12時間、または12~24時間の範囲内、たとえば、約1時間、約2時間、約24時間、または約48時間であってもよい。
【0038】
脂肪組織は、様々な分化状態の脂肪細胞、内皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞、ならびにいくつかの系統の細胞に分化することができる脂肪幹細胞および間葉幹細胞を含む。新規脂肪生成、すなわち新しい脂肪組織の形成は、軟組織再生医工学への有望なアプローチである。脂肪組織の使用は、細胞の増殖および分化に適した微小環境を提供することを試みる研究に基づいており、したがって細胞の外因性移植なしに血管および脂肪組織の形成をもたらす。最適な微小環境は、周囲の組織からの脂肪幹細胞の遊走を促進し、内皮細胞および脂肪細胞前駆細胞が、成熟脂肪細胞、遊離結合組織ならびに筋細胞および血管細胞に分化することを誘導する。発生中の組織における血管新生は、壊死および瘢痕形成を回避するために、すなわち機能的に成熟した脂肪組織を発生させることを可能にするために常に必要とされる。
【0039】
本明細書に記載の無細胞脂肪組織抽出物(ATE)は、細胞を投与せずに投与部位に脂肪組織および血管系の急速な形成を誘導する可能性を有する。ATEは、新規脂肪生成および血管新生に最適な微小環境を作り出すことができ、したがって軟組織修復および/または再生医工学において使用することができる。
【0040】
本明細書で使用される「脂肪組織抽出物」(ATE)という用語は、脂肪組織細胞、すなわち、様々な分化状態の脂肪細胞、内皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞、および脂肪幹細胞によって分泌された、生物活性物質、好ましくは、脂肪生成因子および血管新生因子の混合物を表す。脂肪組織抽出物は、たとえば、抽出物が小さな組織片または生存細胞から回収されるという点で、従来の馴化培地とは異なる。ATEの調製方法は、細胞培養を含まず、得られた抽出物は、馴化培地よりもはるかに濃縮されており、培養時間は短く、数分から数日まで変動する
【0041】
脂肪組織抽出物は、たとえば、脂肪吸引術または外科手術から得られた、脂肪または脂肪組織試料から調製されてもよい。必要であれば、組織試料は、細胞が実質的に生存可能であるように小片に切断される。脂肪吸引材料は、直接使用されてもよい。言い換えれば、組織試料の処理は、均質化を含まない。生物活性因子は、培養培地中、滅菌塩溶液中、リン酸緩衝食塩水中、または細胞もしくは組織片が培養の間に生物活性因子を液相中に放出する他の適切な等張水性緩衝溶液中において細胞を培養することによって抽出される。ATE、すなわち細胞を含まない液相は、続いて回収される。また、ATEは、抽出物を滅菌し、抽出物が無細胞液体であることを確実にするために使用前に濾過されてもよい。得られたATEは、タンパク質、たとえば、サイトカイン、および他の生物活性物質を含む無細胞混合物である。
【0042】
自己由来の脂肪組織だけではなく、同種異系の脂肪組織もATEの供給源として使用することができ、上述のような目的のために処理することができる。抽出物は、細胞を含まないので、免疫反応およびアレルギー反応は、同じ抽出物が数人の患者に使用される同種異系の使用においてさえ起こりそうもない。このことは、以前に行われた動物実験によって支持されており、ラットに移植されたヒトATE(異種移植片)は、炎症反応または他の合併症を引き起こさなかった。
【0043】
ATEは、脂肪組織の細胞によって発現される脂肪生成因子および血管新生因子の最適なサイトカイン混合物である。 ATEの生物活性物質は、当技術分野において公知の従来法(たとえばELISA)によって測定することができる。以前の研究では、様々なATEにおける120のサイトカインの発現が測定された。24時間以上などの長い培養時間は、さらに多くの血管形成性の抽出物をもたらしたが、短い培養時間と長い培養時間との両方において脂肪生成混合物が生成された。
【0044】
ATEは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)、およびインスリン様増殖因子(IGF1)を含む、所望の、または所定の量の脂肪生成因子および血管新生因子を含むように調整されてもよい。所望の組成は、使用目的に依存してもよい。現在の知識によれば、VEGFおよびFGF-2は、血管形成を刺激するための重要な因子と見なされているのに対して、FGF-2およびIGFは、脂肪生成を刺激するために重要である。したがって、一実施形態では、ATEは、総タンパク質1mgあたり、少なくとも1pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF-2、および少なくとも50pgのIGF-1を含む。そのようなATEは、たとえば、軟組織の修復およびエンジニアリングにおいて、脂肪組織を刺激するために特に適している。別の実施形態では、ATEは、総タンパク質1mgあたり、少なくとも7pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF-2、および少なくとも50pgのIGF-1を含む。この種類のATEは、たとえば、創傷治癒の誘導、ならびに虚血状態および火傷の治療における血管新生の刺激において特に有用である。様々な調整されたATEは、様々な量の他のいくつかのサイトカインをさらに含み得るが、それらは特定の用途にとって必ずしも重要ではない場合がある。一般に、ATEは、約2:1~約1:2のIGF-1、およびFGF-2、ならびに約1:100~約1:10のVEGFおよびFGF-2を含むべきである。
【0045】
脂肪組織抽出物の含有量は、ATEの調製において様々な培養時間および温度を使用することによって調整されてもよい。典型的には、培養時間は、数分から数時間の範囲内、たとえば一晩である。たとえば、約1時間の培養時間は、典型的には、1.7~2.5mg/mlの範囲内の総タンパク質含有量、200~1300pg/mlの範囲内のIGF-1含有量、200~1400pg/mlの範囲内のFGF-2含有量、および2~25pg/mlの範囲内のVEGF含有量をもたらす。言いかえれば、1時間の培養時間は通常、総タンパク質1mgあたり150~550pgの範囲内のIGF-1含有量、総タンパク質1mgあたり100~500pgの範囲内のFGF-2含有量、総タンパク質1mgあたり3~20pgの範囲内のVEGFをもたらす。この種類の抽出物は、脂肪生成性および血管新生性の両方である。しかし、特に高濃度のVEGF(200~1400pg/ml、つまりタンパク質1mgあたり25~500pgのVEGF)が抽出液において望ましい場合は、たとえば、特に所望の標的組織における血管新生誘導について、培養時間は、たとえば約24時間に延長されるべきである。24時間の培養時間は通常、総タンパク質1mgあたり60~200pgの範囲内のIGF-1含有量、総タンパク質1mgあたり130~500pgの範囲内のFGF-2含有量、および総タンパク質1mgあたり25~500pgの範囲内のVEGF含有量をもたらす。さらに、様々な培養温度、典型的には室温から約37℃までの範囲内の培養温度は、脂肪組織抽出物を変性するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、しかしながら、より低い温度、たとえば4℃を使用することができる。さらなる他の実施形態では、タンパク質が変性しない限り、より高い温度を使用することができる。
【0046】
より一般的には、抽出物中のVEGFの濃度は、1~1400pg/mlの範囲内、好ましくは10~1000pg/mlの範囲内、より好ましくは7~700pg/mlの範囲内、最も好ましくは10~100pg/mlの範囲内であってもよい。抽出物中のFGF-2の濃度は、20~1500pg/mlの範囲内、好ましくは100~1300pg/mlの範囲内、より好ましくは150~1000pg/mlの範囲内、最も好ましくは150~1000pg/mlの範囲内であってもよい。IGF-1の濃度は、100~1500pg/mlの範囲内、好ましくは150~800pg/mlの範囲内、最も好ましくは200~500pg/mlの範囲内であってもよい。一方、抽出物の総タンパク質濃度は、0.75~3.5mg/mlの範囲であってもよい。好ましくは、総タンパク質濃度は、1.4~2.7mg/mlの範囲内、より好ましくは1.8~2.7mg/mlの範囲内、さらに好ましくは2~2.7mg/mlの範囲内、さらに好ましくは2~2.7mg/mlの範囲内、最も好ましくは2.1~2.5mg/mlの範囲内である。
【0047】
また、抽出物中の生物活性物質の濃度は、抽出物の総タンパク質濃度に関連して定義されてもよい。したがって、1mgの総タンパク質を含む抽出物中のVEGFの量(タンパク質1mgあたりの成長因子含有量)は、1~800pgの範囲内、好ましくは3.5~500pgの範囲内、より好ましくは7~300pgの範囲内、最も好ましくは20~100pgの範囲内であってもよい。約1mgの総タンパク質を含む抽出物中のFGF-2の量(タンパク質1mgあたりの成長因子含有量)は、1~1200pgの範囲内、好ましくは1~600pgの範囲内、さらに好ましくは70~500pgの範囲内、さらに好ましくは110~450pgの範囲内、最も好ましくは250~350pgの範囲内であってもよい。IGF-1の量(タンパク質1mgあたりの成長因子含有量)は、50~700pgの範囲内、好ましくは100~500pgの範囲内、さらに好ましくは100~300pgの範囲内、最も好ましくは110~230pgの範囲内であってもよい。
【0048】
ATEは、いくつかの他の生物活性物質または他の物質、たとえば、脂肪生成因子および血管新生因子、たとえば、成長因子、インターロイキン、補体系生成物、グルココルチコイド、プロスタグランジン、リポタンパク質、および遊離脂肪酸、ならびに細胞外マトリックス成分、たとえば、コラーゲンI、コラーゲンIVおよびコラーゲンVI、プロテオグリカン、エラスチン、調節タンパク質を含む微小胞のような小胞、ペプチドおよび/または核酸ならびにヒアルロナンを、天然に、またはATEをさらに調整するためにそれに添加して、さらに含んでもよい。
また、ATEは、任意の所望のさらなる薬物、または薬剤を補給することができる。ATE中に存在し得る物質の例は、アンギオゲニン、アディポネクチン、TIMP-1およびTIMP-2、MIF、IGFBP6、NAP2、レプチン、PDGFBB、GRO、IL6、MCP1、レプチン、CCL5、およびVEGFを含む。
【0049】
一方、ATEは、使用前に、単一成長因子またはサイトカインなどの物質を除去することによってさらに調整することができる。たとえば、ATEが主として血管形成を誘導するために、たとえば虚血性疾患の治療に使用される場合、血管形成の阻害剤、たとえば、TIMP-1およびTIMP-2、ならびに脂肪生成因子、たとえば、IGF-1、アディポネクチンおよび/またはレプチンは除去されてもよい。免疫吸収による成長因子の単離を含む、所望の物質を除去または単離する方法は、当技術分野において容易に利用可能である。
【0050】
ATEを調整することは、特定の用途に適したATEをもたらすために、濃縮(たとえば遠心分離によって)、または希釈(たとえば、培地、無菌の生理的食塩水または任意の他の緩衝等張溶液を用いて)をさらに含んでもよい。
【0051】
いくつかの実施例では、本明細書に記載のヒドロゲルに含まれるATEは、インビトロで脂肪生成または血管新生を研究するための、細胞培養培地または細胞培養培地サプリメントとして使用することができる。ATEは、細胞培養物中の分化した脂肪細胞の均一な分布をもたらし、したがって、ヒトにおけるインビボ条件を反映する、脂肪生成についての優れた細胞モデルを提供する。今日まで、脂肪生成分化のための適切な細胞モデルは存在しない。一実施例は、脂肪生成を誘導する方法、および血管形成を誘導する方法を提供する。本方法は、それを必要とする被検体に本明細書に記載のヒドロゲルまたは医療用製品を提供することを含む。
【0052】
細胞培養、特に臨床応用において、異種血清を交換する一般的な目的がある。ヒト血清は、非常に高価であるので、最適な解決策ではない。いくつかの実施例では、ATEは、細胞培養成分として、または細胞培養培地中の血清代替物として使用されてもよい。これは、費用対効果が高いだけでなく、特に動物由来の成分が適切でない場合に、再生医工学によるヒト構築物を生成するために有用である。
【0053】
組織抽出物、たとえば脂肪組織抽出物のヒドロゲル中の含有量は、様々であってもよい。組織抽出物含有量は、いくつかの非タンパク質性物質を含有していたとしても、タンパク質含有量として表現されてもよい。典型的には、ヒドロゲルは、300μg/ml~1.2mg/mlの範囲内、好ましくは600μg/ml~1mg/mlの範囲内、さらに好ましくは800~900μg/mlの範囲内のタンパク質を含んでもよい。
【0054】
無細胞抽出物を含むヒドロゲルを調製する場合、主な出発材料は、サブミクロン範囲内の直径を有するセルロースフィブリルを含むか、または当該セルロースフィブリルからなるナノフィブリルセルロースを含む。ナノフィブリルセルロースは、低濃度でも自己組織化ヒドロゲルネットワークを形成する。ナノフィブリルセルロースのこれらのゲルは、天然では高せん断減粘性および擬塑性である。
【0055】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から調製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。
【0056】
ナノフィブリルセルロースは、好ましくは植物材料から作製される。一実施例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、二次細胞壁から得られてもよい。そのようなセルロース小繊維のある豊富な供給源は、木質繊維である。ナノフィブリルセルロースは、木材由来の繊維原料を均質化することによって作製される。繊維原料は、化学パルプであってもよい。セルロース繊維は、数ナノメートルしかない直径を有する小繊維を製造するために分解されてもよく、直径は、最大で50nm、たとえば、1~50μmの範囲内にあり、小繊維の分散水溶液をもたらす。小繊維は、大部分の小繊維の直径がわずか2~20nmの範囲内にあるサイズに縮小することができる。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有する場合がある。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、さらに困難である場合がある。
【0057】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2~12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1~50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2~500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5~100nmの範囲内、たとえば10~50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、他の少量の木質成分、たとえばヘミセルロースまたはリグニンを含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0058】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さ、および直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非修飾)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前修飾とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10~100nm、または10~50nmの範囲内にある)、化学的に変性されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2~20nmの範囲内にある)。また、分布は、変性されたグレードについて狭い。特定の変性、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0059】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプに対する針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから調製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。変性されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから調製される。それらの変性されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に変性される。おそらく、変性は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに変性される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、変性された生成物は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0060】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度で形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0061】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性、または擬塑性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定された定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分けるので、グレードの分類を可能にする。
【0062】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナ、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ-ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0063】
一実施例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度で、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度とで回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0064】
ロータ-ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0065】
分解に適した装置の別の例は、ピンミル、たとえばマルチペリフェラルピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0066】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0067】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維は、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、様々な効果、たとえば、粉砕、破砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きに基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg、MWh/ton、またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0068】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表してもよく、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0069】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、前記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。比粘度は、本明細書に記載されたように、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースから区別する。
【0070】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合される。低い回転速度10rpmが使用される。
【0071】
本方法において出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度において測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。水に分散したとき、前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度範囲の例は、0.8%(w/w)および10rpmにおいて測定された、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、および15000~30000mPa・sを含む。
【0072】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースである。非変性ナノフィブリルセルロースのドレナージは、たとえばアニオン性グレードよりも顕著に速いことが見出された。非変性ナノフィブリルセルロースは一般的に、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定された、2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0073】
分解された繊維性セルロース原料は、変性された繊維性原料であってもよい。変性された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。変性は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0074】
繊維に対する変性処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的変性において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的変性は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的変性において、アニオン性物質、カチオン性物質、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。変性処理は、酵素的であってもよい。
【0075】
繊維中のセルロースは、特に、変性後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的変性または物理的変性によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、変性後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を引き起こすための、最も一般的に使用される化学的変性方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、カチオン性基、たとえば4級アンモニウム基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0076】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、またはカチオン変性ナノフィブリルセルロースなどの化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。化学変性ナノフィブリルセルロースは、特定の活性剤の放出特性に影響を与えるために使用されてもよい。たとえば、アニオン性グレードは、延長された放出速度(a prolonged release rate)を得るために、カチオン性荷電分子を放出するために使用されてもよく、またはその反対であってもよい。
【0077】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO」と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化の程度が低ければ十分に効果的にフィブリル化されず、酸化の程度が高ければ機械的な破壊処理後にセルロースの分解をもたらすという知見について、セルロースは、電気伝導度滴定によって測定された、0.6~1.4mmol COOH/g パルプ、または0.8~1.2mmol COOH/g パルプ、好ましくは1.0~1.2mmol/g パルプの範囲内で酸化セルロースにおけるカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化されてもよい。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3~5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されたブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000~30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0078】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体、または任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく、同様に適用することに関する、全ての測定および操作を示すことが明らかである。
【0079】
一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。使用されたアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s、または18000~20000mPa・s、さらには25000mPa・sまでの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0080】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、低濃度で高い粘度、たとえば、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも20000mPa・s、さらには少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施例では、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、20000~30000mPa・s、たとえば25000~30000mPa・sの範囲内である。
【0081】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、そのような化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。
【0082】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、または粘度および平均径、たとえばブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度によって特徴付けられてもよい。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2~15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0083】
小繊維の直径は、顕微鏡などの様々な技術を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、たとえば低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0084】
一実施例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、狭ギャップベーン形状(直径28mm、長さ42mm)を直径30mmの円筒形サンプルカップ内に備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments社、英国)を用いて22℃で測定される。試料をレオメータに装填した後、測定を開始する前に試料を5分間放置する。定常状態の粘度は、徐々に増加するせん断応力(印加トルクに比例する)で測定され、せん断速度(角速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力における報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または最大2分後に記録される。1000s1のせん断速度を超えると、測定は停止される。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用されてもよい。
【0085】
一実施例では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散されると、水性媒体中で0.5重量%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、1000~100000Pa・sの範囲内、たとえば5000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(「小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」」)と、1~50Paの範囲内、たとえば3~15Paの範囲内の降伏応力とをもたらす。
【0086】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光が水の試料カラムを通るときの光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0087】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0088】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0089】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0090】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、90NTU未満、たとえば、5~60NTU、たとえば8~40NTUのような3~90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、200NTUを超えてもよく、たとえば10~220NTU、たとえば20~200NTU、たとえば50~200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、たとえば、少なくとも2000mPa・s、少なくとも3000mPa・s、少なくとも5000mPa・s、たとえば10000mPa・s、たとえば15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0091】
調製方法のための出発材料は通常、上記の繊維状原料のいくつかの崩壊から直接得られ、崩壊条件のために水中に均一に分布した比較的低い濃度で存在するナノフィブリルセルロースである。出発材料は、0.2~10%の濃度の水性ゲルであってもよい。
【0092】
一実施形態では、凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.5~10%、1~10%、たとえば2~8%または1~7%の範囲内である。ほとんどの用途に有用な好ましい範囲は、3~7%、4~7%または4~8%である。試験では、3%および6.5%の濃度がこれらの範囲の終わり近くの濃度を表すために選択された。凍結乾燥ゲルから凍結乾燥後に同じ濃度のヒドロゲルを回復することができる。より具体的には、乾燥ゲルは水中に再分散可能であり、水中に再分散させると、たとえば、0.1~10%(w/w)の範囲内、たとえば、0.5~2.0%(w/w)、または2~8%(w/w)、または3~7%(w/w)の範囲内の分散濃度、それが元々同じ分散濃度で有していた粘度特性と等しいか、または実質的に等しい粘度特性で得られる。
【0093】
ポリエチレングリコール
ポリエチレングリコール(PEG)は、その分子量に応じて、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られるポリエーテル化合物である。PEGの構造は一般に、H-(O-CH2-CH2)n-OHとして表される。一般に、ポリエチレングリコールは、エチレンオキシドの重合によって調製され、300g/mol~10000000g/molの広い範囲の分子量にわたって市販されている。ポリエチレングリコールは、水溶性であり、それは低い毒性を有する。
【0094】
一実施形態では、ポリエチレングリコールは、100~10000kDa、たとえば1000~10000kDaの範囲内の分子量を有する。一実施形態では、ポリエチレングリコールは、3000~8000kDa、たとえば5000~7000kDaの範囲内、たとえば約6000kDaの分子量を有する。本開示で使用される「分子量」は、数平均モル質量を表してもよい。一般に、重合体の数平均分子量は、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー、(Mark-Houwinkの式)による粘度測定、蒸気圧浸透圧法のような併合法、末端基定量法、またはプロトンNMRによって測定することができる。
【0095】
トレハロース
α,α-トレハロース;としても知られるトレハロース;α-D-グルコピラノシル-(1→1)-α-D-グルコピラノシド、ミオースまたはトレマロースは、2つのα-グルコースユニット間のα,α-1,1-グルコシド結合によって形成された天然のα結合二糖である。トレハロースは、栄養的にはグルコースと同等である。なぜなら、酵素トレハラーゼによって急速にグルコースに分解されるからである。トレハロースは、無水物または二水和物として存在する場合がある。一実施形態では、トレハロースは、D(+)-トレハロース二水和物であり、ナノフィブリルセルロースと共用することができる。一実施例では、トレハロースは、D-(+)-トレハロース二水和物である。トレハロースは、固体として、または水性媒体、たとえば水に溶解して提供されてもよい。
【0096】
凍結乾燥品の調製
本方法は、成分ナノフィブリルセルロースを、一般に水性懸濁液またはヒドロゲルとして、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコールおよびトレハロースに提供することを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中またはヒドロゲル中の唯一のセルロース系材料である。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中またはヒドロゲル中の唯一の高分子ゲル形成材料である。一実施例では、水性懸濁液またはヒドロゲルは、ある量の別の繊維材料、たとえば非ナノフィブリルセルロースを、たとえば繊維材料の乾燥重量の0.1~2%(w/w)の量を含む。
【0097】
本方法は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することを含む。ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.1~10%(w/w)、0.5~10%(w/w)、または1~10%(w/w)、たとえば2~8%(w/w)の範囲内であってもよい。大部分の用途に有用な好ましい範囲は、3~6.5%(w/w)、2.5~7%(w/w)、3~7%(w/w)、4~7%(w/w)または4~8%(w/w)である。
【0098】
本方法は、生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物を提供することを含む。無細胞組織抽出物の濃度は、好ましくは最終ヒドロゲルもしくは全ての成分を含む混合物中における、ヒドロゲルもしくは混合物中の抽出物の湿質量として、ヒドロゲルもしくは混合物中の無細胞組織抽出物の乾燥分として、またはヒドロゲルもしくは混合物中の乾燥タンパク質含有量として定義することができる。ヒドロゲル中または混合物中の無細胞組織抽出物の乾燥含量は、0.01~20%(w/w)の範囲内にあってもよい。無細胞組織抽出物の乾燥含量は、ヒドロゲルまたは混合物の全質量から計算して、0.01~10%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内にあってもよい。一実施形態では、ヒドロゲル中または混合物中の無細胞組織抽出物の乾燥含有量は、ヒドロゲルまたは混合物の総質量から計算して、0.1~5%(w/w)、たとえば、0.1~3%(w/w)、0.5~3.5(w/w)、または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。一実施形態では、無細胞組織抽出物の乾燥含有量は、無細胞組織抽出物の乾燥総タンパク質含量を表す。
【0099】
本方法は、ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを混合して混合物を得ることをさらに含む。成分を任意の順序で混合して、ナノフィブリルセルロース、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含有する水性混合物を得ることができる。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.1~0.5%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.5~1.5%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.1~0.5%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.5~1.5%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.3~0.4%(w/w)のトレハロースを含む。混合物は、ヒドロゲルの形態であり、ヒドロゲルと称される場合があり、より具体的には、ナノフィブリルセルロースと、好ましくは他の成分、たとえば、ポリエチレングリコール、トレハロースおよび/または他の成分、たとえば、無細胞組織抽出物、および本明細書に記載されたような任意の他の可能性のある活性剤とを含むヒドロゲルとも称される場合がある。一実施形態では、トレハロースは、5~100mmol、たとえば10~50mmolの範囲内で混合物中に存在する。混合は、任意の適切なミキサもしくはホモジナイザを使用して実施することができ、または実験室規模で実施された実験で行ったように、混合物を含有する2つのシリンジを接続してシリンジ間に混合物を繰り返し注入して、混合および/または均質化することによって成分を混合してもよい。
【0100】
ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースと凍結防止剤との比(重量でNFC:PEG:トレハロース)は、たとえば、約9.5:3:1から20:3:1であってもよく、この範囲が実験で使用された。いくつかの実施例では、ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースと凍結防止剤との比(NFC:PEG:トレハロース)は、重量で5~40:2~6:1、重量で9~22:2~5:1、または重量で9.5~20:2~5:1、または重量で9~22:2~4:1、または重量で9.5~20:2~4:1の範囲内にあり、たとえば、重量で約10:5:1、重量で約15:5:1、重量で約10:3:1、重量で約15:3:1、または重量で約20:3:1である。
【0101】
得られた混合物は、凍結乾燥可能であり、すなわち凍結乾燥処理は、乾燥ナノフィブリルゲルの物理的性質に顕著な影響を及ぼさない。混合物は、凍結乾燥可能なヒドロゲルと称されてもよい。そのような物理的性質の一例は、ヒドロゲルからの薬剤、たとえば、小分子または高分子、たとえば、無細胞組織抽出物中の物質、またはさらなる治療薬もしくは美容薬の放出特性である。比較的小さな有機分子、およびより大きなタンパク質を含む、様々な分子量を有する様々な分子が、同様の放出特性で制御されてヒドロゲルから放出され得ることが見出された。有用な分子量範囲は、非常に広く、たとえば、試験においては約170~70000g/mol(ダルトン)の範囲内の分子量を有する分子を制御可能に放出することができた。しかしながら、高分子量を有する分子は、低分子量を有する分子よりもゆっくりと放出された。
【0102】
一実施形態では、本方法は、1つ以上の治療薬をさらに提供することと、当該薬剤と、ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコール、およびトレハロースとを混合することと、すなわち、薬剤を混合物に添加することとをさらに含む。治療薬は、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコール、および/もしくはトレハロースと同時に添加することができ、または治療薬はその前後に添加されてもよい。
【0103】
一実施形態では、本方法は、1つ以上の美容用薬剤をさらに提供することと、当該薬剤を、ヒドロゲル、無細胞組織抽出物、ポリエチレングリコール、およびトレハロースに混合すること、すなわち薬剤を混合物に添加することとをさらに含む。美容用薬剤は、ポリエチレングリコールおよび/もしくはトレハロースと同時に添加されてもよく、または美容用薬剤は、ポリエチレングリコールおよび/もしくはトレハロースの添加前もしくは後に添加されてもよい。治療薬および美容用薬剤の組み合わせも使用されてもよい。
【0104】
混合物が得られた後、それを凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを得る。任意の適切な凍結乾燥方法を使用することができる。凍結乾燥(lyophilisation)とも称される凍結乾燥(freeze drying)は、急速冷却を用いて系内で熱力学的不安定性を生じさせ、相分離を引き起こす方法である。溶媒は、続いて、真空下で昇華させることによって除去され、以前に占めていた領域に空隙が残る。昇華とは、中間液相を通過せずに固体から気相に直接物質が転移することをいう。昇華は、物質の相図における三重点より低い温度および圧力で起こる吸熱相転移である。
【0105】
一実施形態では、たとえば、液体窒素を用いたとき、および混合物から水を除去するために、低い圧力を加えた後、凍結乾燥は、最初に混合物の温度を、少なくとも-30℃まで、たとえば少なくとも-40℃まで、たとえば-30~-100℃の範囲内まで、または-40~-100℃の範囲内まで、または約-200℃以下まで低下させることを含む。一般的に、混合物は、低い圧力を加える前に凍結されるべきである。一実施形態では、より低い圧力を加える間、および最も低い圧力を加えた後に温度が上昇し、たとえば、温度は、約-20℃、またはさらには約-10℃まで上昇する。温度は、低圧が加えられる前に高められてもよく、または低圧を加えている間に高められてもよい。
【0106】
一実施例では、凍結乾燥は、混合物を液体窒素で凍結することによって行われる。たとえば、混合物を含むバイアルを混合物が凍結するまで液体窒素に浸す。この後、混合物から水を除去するために混合物に低圧が加えられる。低圧は、水の昇華を得るために必要とされる真空を意味してもよい。水の昇華は、三重点の下で起こるので、必要とされる真空圧力は使用される温度に依存する。
【0107】
本明細書で使用される「乾燥」は、一般的に脱水を意味し、この用語は互換的に使用されてもよく、水はヒドロゲルから除去され、乾燥または脱水ヒドロゲルが得られる。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが所望の水分含有量を有するまで継続されるか、または凍結乾燥が最小水分含有量、好ましくは20%未満、またはより好ましくは10%未満、またはさらには5%未満、たとえば、1~20%、2~20%、または2~10%(w/w)の範囲内の水分含有量まで継続される。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが、2~8%、2~6%、2~5%、または1~5%(w/w)の範囲内の水分含有量を有するまで継続される。一般的に、2%未満の水分含有量を得ることは困難である。低い水分含有量が得られた後、乾燥製品は、真空中または保護ガス中で梱包されてもよい。これは、乾燥したヒドロゲルが周囲の水分を吸収するのを防ぎ、水分含有量が、たとえば、4~8%、または5~7%(w/w)の範囲内になる可能性がある。得られた乾燥ヒドロゲルは、水性液体、たとえば水を添加し、乾燥生成物を懸濁することによって再ゲル化することができる。再ゲル化または再懸濁されたヒドロゲルが得られ、当該ヒドロゲルは、乾燥前と同じ濃度および水分含有量を有し得る。このヒドロゲルは、乾燥前の元のヒドロゲルと実質的に等しい特徴を提供する。
【0108】
無細胞組織抽出物を含むナノフィブリルセルロースを含む、最終乾燥ヒドロゲル、より具体的には凍結乾燥ヒドロゲルは、本明細書に開示された実施形態の凍結乾燥法によって得られる。
【0109】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、生物活性物質の混合物を含む無細胞組織抽出物と、ポリエチレングリコールと、トレハロースとを含む乾燥ヒドロゲルであって、乾燥ヒドロゲルの水分含有量が、上述のように、10%(w/w)以下、または10%(w/w)未満、たとえば、1~20%(w/w)、または2~10%(w/w)の範囲内である乾燥ヒドロゲルを提供する。
【0110】
凍結乾燥ヒドロゲルは、エアロゲル、より具体的には凍結乾燥エアロゲルと称されてもよい。ある定義によれば、エアロゲルは、ゲルに由来する多孔性の超軽量材料であり、ゲルの液体成分が気体に置き換えられている。その名称にもかかわらず、エアロゲルは、それらの物理的性質においてゲルとは似ていない固体の、堅い、乾燥材料である。その名称は、エアロゲルがゲルから作られるという事実から来ている。
【0111】
一実施形態において、乾燥ヒドロゲルにおける無細胞組織抽出物の乾燥含有量は、0.1~65%(w/w)の範囲内、または0.1~50%(w/w)の範囲内、たとえば、1~25%(w/w)、または1~20%(w/w)、1~10%(w/w)、1~5%(w/w)、または20~65%(w/w)、10~65%(w/w)、5~65%(w/w)、10~50%(w/w)、5~50%(w/w)、5~25%(w/w)、5~20%(w/w)、または5~15%(w/w)の範囲内にある。これらの範囲は、任意の可能な治療薬を含んでもよい。
【0112】
一実施形態において、乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は、1~20%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、0.5~10%(w/w)の範囲内にある。一実施形態において、乾燥ヒドロゲル中におけるポリエチレングリコールの含有量は、5~15%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、3~4%(w/w)の範囲内にある。
【0113】
乾燥ヒドロゲルは、一般に所望の医療用途に好適な、シート、ブロック、または他の形状もしくは形態として提供されてもよく、続いて、使用前に再度濡らされ、標的、たとえば創傷に適用可能な医療用ゲルを得てもよい。乾燥ヒドロゲルは、粉末、または他の粉砕された形態として提供されてもよい。そのような場合において、製品の作製方法は、たとえば、凍結乾燥製品を粉砕または破砕することによって、粉末を形成する工程を含んでもよい。
【0114】
得られたヒドロゲルは、乾燥前後に、様々な用途、たとえば本明細書に記載された用途、たとえば物質を被検体に送達する方法において使用されてもよい。ヒドロゲルは、たとえば、医療用製品として提供されてもよい。
【0115】
医療用製品
ヒドロゲル中の組織抽出物を含む医療用製品は、いくつかの用途において使用されてもよい。ある特定の分野は、医療用途であり、材料は、生きている組織、たとえば皮膚に適用される。材料は、医療用製品、たとえば、貼付剤、包帯、絆創膏、フィルタなどにおいて使用されてもよい。また、医療用製品は、治療用製品、たとえば、薬剤を含む、治療用貼付剤またはゲルであってもよい。一般的に、ナノフィブリルセルロースを含む製品の表面は、使用中に皮膚に接触するであろう。ナノフィブリルセルロースの表面は、皮膚と直接接触するとき、有利な効果をもたらし得る。たとえば、皮膚の創傷または他の損傷の治癒を促進するか、または医療用製品から皮膚への物質の送達を促進することができる。
【0116】
本明細書において使用される用語「創傷」は、開放性創傷、または閉鎖性創傷を含む、皮膚などの組織の任意の、損傷、外傷、疾病、障害などを表し、創傷の治癒が望まれ、創傷の治癒は本明細書に記載された製品によって促進することができる。創傷は、清潔であってもよく、汚染、感染、またはコロニー化していてもよく、特に、後者の場合、抗菌薬などの治療薬が投与されてもよい。開放性創傷の例は、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を含む。閉鎖性創傷の例は、血腫、挫滅傷、縫合傷、移植片、および任意の皮膚の状態、疾病、または障害を含む。皮膚の、状態、疾病または障害の例は、ざ瘡、感染症、小水泡性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎および湿疹、疱疹、蕁麻疹(hives)、狼瘡、丘疹鱗屑性疾患、蕁麻疹(urticaria)および紅斑症、乾癬、酒さ(rosacea)、放射線関連障害、色素沈着、ムチン沈着症、角化症、潰瘍、委縮症および類壊死、血管炎、白斑症、疣贅、好中球疾患および好酸球疾患、先天性、腫瘍および癌、たとえば、表皮もしくは真皮のメラノーマおよび腫瘍、または表皮および真皮の他の疾病もしくは障害を含む。
【0117】
治療薬をさらに含む医療用製品であって、ナノフィブリルセルロースにおける組織抽出物を含むヒドロゲルが、1つ以上の治療薬、たとえば、生物活性剤、活性剤、薬剤、または薬物をさらに含む医療用製品を提供することができる。また、医薬品との用語は、治療薬との用語の代わりに互換的に使用されてもよい。そのような薬剤は通常、有効量で存在する、活性剤または有効剤である。治療薬は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、配合体、活性代謝産物、異性体、フラグメント、アナログなどの形態で提供されてもよい。治療薬は、被検体において全身作用、または局所作用をもたらしてもよい。そのような薬剤は、所定量で提供されてもよく、たとえば、所定の期間にわたって所望の薬剤量がもたらされるように構成された量、および/または、標的、たとえば、皮膚もしくは他の組織に所望の影響を与えるように構成された量で提供されてもよい。製品内の治療薬の含有量は、たとえば0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内であってもよい。一実施形態において、製品内の治療薬の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば0.1~3%(w/w)、0.5~3.5%(w/w)、または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。 特に、治療薬が含まれる場合、薬剤の、制御された、持続性の、または長期の放出をもたらすことができる。そのような場合において、ナノフィブリルセルロースは、薬剤の透過を可能にするためにある程度の水分を含んでもよい。治療薬は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくは乳濁液、または他の適切な形態で存在してもよい。
【0118】
本明細書に記載された医療用製品を用いることによって投与され得る治療薬、または生物活性剤の例は、好ましくは単離された、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸、もしくはそれらのフラグメント;抗菌薬、リドカインなどの鎮痛剤;オピオイド、たとえば、フェンタニルもしくはブプレノルフィン;ニコチン;ホルモン、たとえば、エストロゲン、避妊薬、もしくはアンドロゲン、たとえばテストステロン;ニトログリセリン;スコポラミン;クロニジン;抗うつ剤、たとえばセレギリン;ADHD薬、たとえばメチルフェデニデート;ビタミン、たとえばB12もしくはシアノコバラミン;5-ヒドロキシトリプトファン;アルツハイマー薬、たとえばリバスチグミン;ざ瘡薬;抗乾癬薬、グルココルチコイド、たとえばヒドロコルチゾン;抗アンドロゲン薬、たとえば、ビフルラノル(bifluranol)、シオクトール(cyoctol)、シプロテロン、デルマジノンアセテート、フルチミド、ニルタミド、およびオキセンドロン;抗エストロゲン剤、たとえば、デルマジノンアセテート、エタモキシトリフェトール、タモキシフェン、およびトレミフェン;抗菌薬;麻酔薬;鎮痛薬;抗炎症性化合物もしくは剤;抗ヒスタミン剤;ベータ阻害薬;成長因子;免疫調節薬;または皮膚の疾病もしくは疾患を治療するための薬剤をさらに含む。組織抽出物は、単独で、または1つ以上の治療薬とともに、たとえば、6、12、24、もしくは48時間までの数時間にわたって、貼付剤からの治療薬の、長期、持続性、または延長した放出をもたらすために、たとえば、健康な皮膚、もしくは損傷した皮膚に使用される医療用貼付剤中に含まれてもよい。
【0119】
「徐放」は、持続放出、持効性放出、または徐放性放出とも称され、長期間にわたって一回分の用量の薬物を送達するように設計された、薬物、または薬物を含浸させた担体に関連する。目的は、最大または所望の期間にわたって薬物濃度を治療濃度域内に維持することである。この用語は、一般的に経口投与製剤に関連して使用される。丸剤、カプセル剤および注射用薬物担体(追加の放出機能を有することが多い)に加えて、制御放出薬剤の形態には、ゲル、インプラントおよび装置、ならびに経皮吸収貼付剤が含まれる。欧州薬局方の定義は、次のように記載されている。「徐放製剤は、同じ経路で投与される従来の放出製剤よりもゆっくりとした活性物質の放出を示す放出調節製剤である。徐放は、特別な製剤設計および/または製造方法によって達成される。同義語:持続放出製剤。」
【0120】
一実施形態は、抗菌薬をさらに含む医療用製品を提供する。そのような製品は、創傷の治療に特に適しており、創傷治療特性は、創傷内の有害な微生物に起因する感染を防ぐ抗菌特性と組み合わされる。好適な抗菌薬の例は、特に、局所的抗菌薬、たとえば、バシトラシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシン、ムピロシン、テトラサイクリン、メクロサイクリン、スルファセタミド(ナトリウム)、過酸化ベンゾイル、およびアゼライン酸、ならびにそれらの組み合わせを含む。また、別の種類の抗菌薬、たとえば、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、およびアモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬;セファクロル、およびセファドロキシルなどのセファロスポリン系抗菌薬;テトラサイクリン、ドキシサイクリン、およびリメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬;ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬;エリスロマイシン、アジスロマイシン、およびクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬;クリンダマイシン;スルホンアミドおよびトリメトプリム;メトロニダゾールおよびチニダゾール;シプロフロキサン、レボフロキサン、およびノルフロキサンなどのキノロン系抗菌薬などの全身抗菌薬が提供される。
【0121】
アンドロゲンの例は、ボルデノン、フルオキシメステロン、メスタノロン、メステロロン、メタンドロステロン、17メチルテストステロン、17-アルファ-メチルテストステロン 3-シクロペンチルエノールエーテル、ノルエタンドロン、ノルメタンドロン、オキサンドロロン、オキシメステロン、オキシメトロン、プラステロン、スタンロロン、スタノゾロール、テストステロン、テストステロン17-クロラールヘミアセタール、テストステロン17-ベータ-シピオネート、テストステロンエナント酸、テストステロンニコチン酸、テストステロンフェニルアセテート、テストステロンプロピオネート、およびチオメステロンを含む。
【0122】
ヒドロゲルに含まれてもよい抗生物質の例は、アミノグリコシド(たとえば、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ネオマイシン、エリスロマイシンエストレート/エチルスクシナート、グルセプテート/ラクトビオネート/ステアレート)、βラクタム、たとえばペニシリン(たとえば、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、シクロオキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、カルベニシリン、メズロシリン、アズロシリン、およびピペラシリン)、セファロスポリン(たとえば、セファロチン、セファゾリン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフロキシム、セフォニシド、セフメタゾール、セフォテタン、セフプロジル、ロラカルベフ、セフェタメト、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフェピム、セフィキシム、セフポドキシム、およびセフスロジン)、フルオロキノロン(たとえば、シプロフロキサシン)、カルバペネム(たとえば、イミペネム)、テトラサイクリン(たとえば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン)、マクロライド(たとえば、エリスロマイシン、およびクラリスロマイシン)、モノバクタム(たとえば、アズトレオナム)、キノロン(たとえば、フレロキサシン、ナリジキシン酸、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシンおよびシノキサシン)、グリコペプチド(たとえば、バンコマイシン、テイコプラミン)、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ニトロフラントイン、リファンピンおよびムピロシン、ならびにポリミキシン、たとえば、PMB、オキサゾリジノン、イミダゾール(たとえば、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、オモコナゾール、ビフォナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾールおよびチオコナゾール)、トリアゾール(たとえば、フルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール、およびアルバコナゾール)、チアゾール(たとえば、アバフンギン)、ならびにアリルアミン(たとえば、テルビナフィン、ナフチフィン、およびブテナフィン)、エキノカンジン(たとえば、アニデュラファンギン、カスポファンギン、およびミカファンギン)を含んでもよい。他の抗生物質は、ポリゴジアル、安息香酸、シクロピロクス、トルナフテート、ウンデシレン酸、フルシトシン、または5フルオロシトシン、グリセオフルビン、およびハロプロジンを含んでもよい。
【0123】
抗菌薬は、ざ瘡を治療するために使用されてもよく、たとえば、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどである。また、他の薬剤、たとえば、過酸化ベンゾイル、サリチル酸、局所的レチノイド薬、たとえば、トレチノイン、アダパレン、もしくはタザロテン、アゼライン酸、またはアンドロゲン阻害剤、たとえばスピロラクトンが使用されてもよい。乾癬は、ステロイド薬、たとえば、コルチコステロイド、保湿用クリーム、カルシポトリオール、コールタール、ビタミンD、レチノイド、タザロテン、アントラリン、サリチル酸、メトトレキサート、またはシクロスポリンによって治療されてもよい。虫刺され、またはツタウルシ暴露は、薬剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、エミューオイル、アーモンドオイル、アンモニア、ビサボロール、パパイン、ジフェニルヒドラミン、ツリフネソウ抽出物、またはカラミンで治療されてもよい。これらの治療薬、または他の治療薬のいくつかは、美容用薬剤として分類されてもよい。
【0124】
ヒドロゲルに含まれてもよい抗菌剤の例は、銀粒子、特に銀ナノ粒子、銀イオンを放出する薬剤または化合物、グルコン酸クロルヘキシジン、およびポリヘキサメチレンビグアニドを含んでもよい。
【0125】
ヒドロゲル中に含めることができる麻酔薬の例は、プロカイン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメチオカイン、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、リドカイン、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、およびトリメカインを含んでもよい。 いくつかの実施形態では、麻酔薬は、リドカインとプリロカインとの組み合わせである。
【0126】
ヒドロゲルに含まれ得る鎮痛薬の例は、アヘン剤およびその類似体を含む。例示的なアヘン剤は、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロモルヒネ、ペチジン、ブプレノルフィン、トラマドール、フェンタニルおよびベンラファキシンを含む。
【0127】
ヒドロゲルに含めることができる抗炎症性化合物の例は、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、メドリソン、プレドニゾロン、フルランドレノニド、プレドニゾン、ホルシノニド、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ハルシノニド、フルドロコルチゾン、コルチコステロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、フルルビプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム、アセトサリチル酸、サリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸メチル、フェニルブタゾン、スリンダク、メフェナム酸、メクロフェナム酸ナトリウム、およびトルメチンを含んでもよい。
【0128】
ヒドロゲルに含まれ得る抗ヒスタミン薬の例は、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、ペルフェナジン、トリプロリジン、ピリラミン、クロルシクリジン、プロメタジン、カルビノキサミン、トリペレンナミン、ブロムフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、メクリジン、クロルプレナリン、テルフェナジン、およびクロルフェニラミンを含んでもよい。
【0129】
ヒドロゲル中に含まれ得る増殖因子の例は、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、NGF-ベータなどの神経増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子、たとえば、aFGFおよびbFGF、上皮成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子、腫瘍壊死因子、トランスフォーミング成長因子(TGF)、とりわけTGF-αおよびTGF-β、たとえば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5、インスリン様成長因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ならびに脳由来神経栄養因子(BDNF)を含んでもよい。
【0130】
ヒドロゲルに含まれ得る免疫調節剤の例は、シクロスポリンA、グアニルヒドラゾン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドおよびタクロリムスを含む。
【0131】
一実施形態は、本明細書に記載されたヒドロゲルを含む医療用製品、たとえば、包帯、貼付剤、またはフィルタを提供する。
【0132】
本明細書に記載された凍結乾燥ヒドロゲルは、インプラント、または被検体、たとえば、患者もしくはそれを必要とする任意の他の被検体の体に、導入されるように、もしくは埋め込まれるように構成された任意の他の適切な医療用装置、たとえば、送達装置として提供されてもよい。凍結乾燥医療用ヒドロゲルを含むインプラントは、ヒドロゲルが体液もしくは他の水性環境にさらされるように、組織内、体腔内、または他の位置に導入されてもよい。インプラントは、10~1000mm2の範囲内、たとえば300~600mm2の範囲内の表面積を有してもよい。インプラントは、適切な寸法および形態、たとえば円筒形状を有してもよい、一実施例において、円筒状インプラントの長さは、5~60mmの範囲内にあり、直径は、1.5~5mmの範囲内にある。インプラントは、埋め込み前に、水和もしくは湿らされるか、または埋め込み後、体内で水和されるように構成されてもよい。
【0133】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するために、および/または覆うために使用される無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物を含むヒドロゲルを提供する。一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するための、および/または覆うための、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤内のそのようなヒドロゲルを提供する。
【0134】
一実施形態は、皮下軟組織損傷、たとえば、創傷、他の損傷、または手術によって生じた皮下組織損傷を治療するため、および/または覆うために使用される無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物を含むヒドロゲルを提供する。
【0135】
一実施形態は、皮膚の創傷を、移植片、たとえば皮膚移植片によって、治療するため、および/または覆うために使用される、無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物を含むヒドロゲルを提供する。一実施形態は、移植片、たとえば皮膚移植片によって覆われた皮膚創傷を、治療するため、および/または覆うために、包帯、もしくは貼付剤として使用するための、または包帯もしくは貼付剤中において使用するための無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物を含むヒドロゲルを提供する。
【0136】
一実施形態は、さらなる治療薬、より具体的には1つ以上の治療薬を投与するために使用される無細胞組織抽出物、特に脂肪細胞抽出物を含むヒドロゲルを提供する。一実施例において、ヒドロゲルは、それ自体で、または貼付剤中に提供されてもよい。一実施例において、ヒドロゲルは、注入可能な形態で提供されてもよい。本明細書に記載されたヒドロゲル中に1つ以上の治療薬が含まれてもよく、たとえば含浸されてもよく、患者への投与は、たとえば、経皮、経皮膚性、または皮膚下であってもよい。
【0137】
一実施形態は、無細胞組織抽出物、特に脂肪組織抽出物を含むヒドロゲルを含む化粧品、たとえば、包帯、マスクまたは貼付剤を提供する。このような製品は、化粧品と称されてもよい。製品は、様々な形状で提供されてもよく、たとえば、マスクは、顔の上、たとえば、目の下、または顎、鼻もしくは額の上にフィットするように設計されてもよい。一実施形態は、化粧品として使用するためのヒドロゲルを提供する。製品は、1以上の美容用薬剤を使用者、たとえば使用者の皮膚に放出するために使用されてもよい。そのような化粧品は、1以上の美容用薬剤を含んでもよい。美容用薬剤は、そこから放出または送達される製品中に含まれてもよく、たとえば含浸されてもよい。製品中の美容用薬剤の含有量は、たとえば、0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内にあってもよい。一実施形態では、製品中の美容用薬剤の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば、0.1~3%(w/w)または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。美容用薬剤は、治療剤について上記で説明したのと同様に製品中に存在してもよく、または提供されてもよく、その逆も同様である。美容用途は、本明細書に記載された医療用途、特に治療薬の投与に類似していてもよい。美容用薬剤は、皮膚の疾患または障害、たとえば本明細書に記載されている疾患または障害を美容的に治療するために使用されてもよい。そのような化粧品は、たとえば、にきび、にきび肌、褐色斑、しわ、油性肌、乾燥肌、老化肌、くも状静脈、日焼け後の紅斑、黒丸などを治療するために使用されてもよい。美容用貼付剤の例は、皮膚クレンザ、たとえば、毛穴クレンザ、ブラックヘッドリムーバ、ストレッチストライプ、マスク様短期貼付剤、短期処理貼付剤、および一晩処置貼付剤を含む。
【0138】
美容用薬剤の例は、ビタミンの形態およびその前駆体、たとえば、ビタミンA;たとえば、レチンアルデヒド(レチナール)、レチノイン酸、パルミチン酸レチニル、ならびにレチノイン酸レチニル、アスコルビン酸、グリコール酸および乳酸などのα-ヒドロキシ酸などのレチノイド;グリコール;バイオテクノロジー製品;角質溶解薬;アミノ酸;抗菌薬;保湿用クリーム;顔料;抗酸化剤;植物抽出物;クレンジング剤またはメーキャップ除去剤;カフェイン、カルニチン、イチョウ、およびトチノキなどの抗セルライト剤;コンディショナー;アロマセラピー薬および香水などの芳香剤;尿素、ヒアルロン酸、乳酸、およびグリセリンなどの湿潤剤;ラノリン、トリグリセリド、および脂肪酸エステルなどの軟化剤;アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、トコフェロール(ビタミンE)、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビリルビン、リポ酸、尿酸、酵素擬態薬、イデベノン、ポリフェノール、セレニウム、フェニルブチルニトロン(PBN)などのスピントラップ剤、タンパク質メチオニン基、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、セレニウムペロキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼなどの、FR捕捉剤、一重項酸素捕捉剤、超酸化物捕捉剤、もしくは過酸化水素捕捉剤、またはそれらの組み合わせを含む。美容用薬剤は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくはエマルジョン、または別の好適な形態で存在してもよい。
【0139】
本明細書に記載された医療用または美容用ヒドロゲルは、装着用装置、たとえば、所望量のヒドロゲルを含む、シリンジ、アプリケータ、ポンプ、またはチューブ、たとえば、0.5ml~200ml、もしくはそれ以上のサイズのシリンジに組み込まれるか、または詰め込まれるように提供されてもよい。装置は、所望の厚さおよび幅および幾何学的形状でヒドロゲルの一定の流れを提供するためのマウスピースまたはノズルを含んでもよい。一実施例において、ヒドロゲルは、たとえば、針を通して、またはシリンジのマウスピースもしくはノズルを通して注入を可能にするような範囲の濃度および粘度を有する注入可能な形態である。凍結乾燥ヒドロゲルは、密封パッケージ、たとえば、真空パッケージもしくは保護気体を含むパッケージに包まれて提供されてもよい。ヒドロゲルは、特に凍結乾燥形態で、たとえば、医療用カプセルなどであるインプラントの形態であってもよい。ヒドロゲルは、湿らされた後、創傷、または他の標的に適用することができるシートなどの形態であってもよい。れらの「すぐに使える」装置は、包装され、殺菌され、貯蔵され、所望の時に使用される。これらの装着用装置は、すぐに使えるキットに組み込まれてもよい。凍結乾燥ヒドロゲル、またはそれを含む製品、たとえば、治療用薬剤を含む製品の水分含有量は、1~10%(w/w)、たとえば、2~10%(w/w)、2~8%(w/w)、1~5%(w/w)、2~5%(w/w)、または5~7%(w/w)の範囲内にあってもよい。一実施例において、たとえばパッケージは、本明細書に記載されたように、ゲルを所望の水分含有量に再水和するように構成された所定量の液体、たとえば、水、生理食塩水、緩衝溶液などの水性液体を含む別の容器を備える。液体は、たとえば、シリンジなどのアプリケータで提供されてもよく、またはパッケージは、乾燥ヒドロゲルを含む別の区画に接続され得る液体用の別個の区画を含んでもよく、たとえば、パッケージを押圧することによってシールなどを破り、液体と乾燥ゲルとを互いに接触させてもよい。
【0140】
一実施例は、皮膚を美容的に治療する方法であって、本明細書に記載の医療用製品、または美容用製品を皮膚に塗布することを含む方法を提供する。
【0141】
一実施形態は、別の包装に包装された、本明細書に記載の、医療用製品または美容用製品を提供する。別の充填物は、一連の充填物として提供されてもよい。そのような包装製品は通常、滅菌済みとして提供される。
【0142】
一実施形態は、本明細書に記載の医療用製品または美容用製品を含むキット、たとえば包装製品を提供し、当該キットは、1つ以上の包装製品を含んでもよい。また、キットは、他の材料または機器、たとえば、使用前に製品を前処理するための、水または他の水溶液、たとえば生理食塩水など、たとえば、再ゲル化製品の所望の水分含有量を得るための、所定量の水または他の水溶液を含む容器を含んでもよい。
【0143】
一実施例は、被検体に物質を送達または投与するための方法であって、無細胞組織抽出物と、任意に、1つ以上の他の物質、たとえば治療用物質または美容用物質または薬剤とを含む実施形態において記載されているような医療用ヒドロゲルを提供し、ヒドロゲルを被検体の皮膚に適用することを含む方法を提供する。被験体は、患者、または前記物質を必要とする他の任意の被験体、たとえば、ヒトまたは動物であってもよい。ヒドロゲルを皮膚に適用することによって、前記物質は、経皮的に、好ましくは、制御された、および/または延長された放出速度で送達される。
【0144】
一実施例は、被検体に物質を送達するための方法であって、実施形態に記載されたような医療用ヒドロゲルを提供することと、無細胞抽出物と、任意に、1つ以上の他の物質、たとえば、治療用物質、または、美容用物質、または薬剤とを含むことと、ヒドロゲルを被検体に注入することとを含む方法を提供する。注入、またはより正確には投与経路は、皮下または筋肉内であってもよい。
【0145】
一実施例は、皮膚の創傷、または他の損傷もしくは外傷を治療するための方法であって、創傷、損傷、または外傷に本明細書に記載された医療用製品を適用することを含む方法を提供する。ある特定の実施例は、移植片、たとえば皮膚移植片、たとえば、メッシュグラフトまたは全層移植片で覆われた皮膚の創傷を治療する方法であって、本明細書に記載された医療用製品を移植片に適用することを含む方法を提供する。
【0146】
移植は、組織自身の血液供給を体にもたらすことなく、体のある部位から別の部位に組織を移動させるか、または別の人間から組織を移動させるための外科的処置を表す。これに代えて、組織が置かれた後、新しい血液供給が増える。自家移植片および同系同種移植片は通常、外来物とはみなされないので、拒絶反応は誘発されない。同種異系移植片および異種移植片は、臓器受容者によって外来物と認識され、拒絶される。
【0147】
皮膚移植片は、多くの場合、創傷、火傷、感染、または外科的処置による皮膚の損失を治療するために使用される。損傷した皮膚の場合、その皮膚は取り除かれ、新たな皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、処置期間および必要な入院期間を短縮し、機能および外見を向上することもできる。皮膚移植片の2つの種類は、分層皮膚移植片(表皮+真皮の一部)と、全層皮膚移植片(表皮+真皮の全層)とである。
【0148】
メッシュグラフトは、排液および膨張のために開口部を設けられた、皮膚の、全層、または分層のシートである。メッシュグラフトは、体の多くの場所において有用である。なぜなら、メッシュグラフトは、平らでない表面に適合するからである。メッシュグラフトは、過度に動く場所に置くことができる。なぜなら、メッシュグラフトは、根底にある創傷床を縫合することができるからである。また、造窓術は、移植片の真下に集まり得る流体の排出口を提供し、排出口は、緊張と感染の危険との低下を、そして移植片の血管新生の向上を促進する。
【0149】
皮膚上に医療用製品を適用する前に、製品は、前処理、たとえば、一般的には水溶液を用いて、湿らされるか、または濡らされてもよい。加湿または湿潤は、たとえば、水、または通常、約308mOsm/lの浸透圧を有する0.90% w/wのNaCl溶液である、通常の生理食塩水溶液を用いることによって実施されてもよい。他の種類の水溶液、たとえば、異なる濃度を有する生理食塩水が使用されてもよい。材料の加湿または湿潤は、皮膚との接触と、材料シートの成形性とを向上させる。
【0150】
実施例
特に再分散段階で相乗効果が検出されたゆえに、ポリエチレングリコールおよびトレハロースが凍結防止剤として選択された。凍結防止剤として、ポリエチレングリコールのみを含む、トレハロースのみを含む、およびポリエチレングリコールとトレハロースとの両方を含む、NFCヒドロゲルを調製し、凍結乾燥した。同様の方法で全ての試料に水を添加したが、ポリエチレングリコールとトレハロースの両方を含むヒドロゲルのみが、適切なゲル形態、すなわち凍結乾燥前と同様の形態に再ゲル化された。これは、目視検査によって直ちに検出することができた。ヒドロゲルの沈降は、検出されなかった。ポリエチレングリコールのみまたはトレハロースのみを含むヒドロゲル試料は、均質なゲル形態に再ゲル化しなかったが、結果物は、薄片状および粒状であり、さらなる研究には適した材料ではなかった。さらに、試料をガラス瓶に一晩放置すると、凍結防止剤を含まないか、またはポリエチレングリコールのみ、もしくはトレハロースのみを含むボトル中でヒドロゲルが沈降してはっきりと見える水相が分離されたが、ポリエチレングリコールおよびトレハロースの両方を含むものでは分離されなかった。
【0151】
試験において、TEMPO酸化NFCヒドロゲルがうまく凍結乾燥され、ヒドロゲル形態に再分散され得ることが見出され、示された。使用された凍結防止剤、PEG6000およびトレハロースは共に、これらの凍結防止剤を含まない配合物とは対照的に、凍結乾燥後の再水和および再分散NFCヒドロゲルの貯蔵弾性率および損失弾性率を著しく改善した。賦形剤を含む凍結乾燥NFCヒドロゲルの粘度も再水和時に保存された。
【0152】
脂肪組織抽出物を、約3.2%および6%(w/w)のナノフィブリルセルロースゲルと混合し、本明細書中に記載されたように凍結乾燥した。 元の脂肪組織抽出物中に存在する生物活性を示す再分散可能な乾燥製品が得られた。
【0153】
これらの知見は、凍結防止剤が凍結乾燥処理中にNFC繊維の構造を保つのを支援したことを示している。NFCエアロゲルの作製は、したがってレオロジー特性を著しく変えなかった。さらに、生物活性化合物の生物活性物質放出特性は、凍結乾燥前後で同様であった。これは組織抽出物製剤にとって非常に望ましい特徴である。なぜなら、製品の有効期間は、加水分解に感受性の組織抽出物以外の場合にはエアロゲルの乾燥状態によって増加させることができるからである。エアロゲルは、必要に応じて容易に再水和し投与することができる。