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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】ドロー溶質及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20221021BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221021BHJP
   C08G 65/26 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
B01D61/00 500
C02F1/44 A
C08G65/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020539558
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033777
(87)【国際公開番号】W WO2020045525
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018162688
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 康司
(72)【発明者】
【氏名】三吉 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】稲田 飛鳥
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/150690(WO,A1)
【文献】特開2016-087504(JP,A)
【文献】特開2013-194240(JP,A)
【文献】特開2017-148724(JP,A)
【文献】特開2014-100692(JP,A)
【文献】特開2017-025834(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038402(WO,A1)
【文献】特開2016-190228(JP,A)
【文献】国際公開第2013/036111(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0016115(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0011544(US,A1)
【文献】国際公開第2017/136048(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156404(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C08G 65/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンイミン に、炭素数2~10のアルキレンオキサイドが付加重合されてなる付加重合体を含む、正浸透膜法用ドロー溶質。
【請求項2】
前記ポリエチレンイミンの重量平均分子量が100~5000である、請求項に記載のドロー溶質。
【請求項3】
前記付加重合体における前記アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0.5~10である、請求項1又は2に記載のドロー溶質。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のドロー溶質を含むドロー溶液。
【請求項5】
請求項に記載のドロー溶液を用いた水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロー溶質及びそれを用いた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正浸透膜法は、濃度の異なる2つの溶液を半透膜を介して接触させ、浸透圧の低い側から高い側へ溶媒が移動する現象を利用するものであり、溶液の成分の分離等に利用することができる。浸透圧に逆らって溶液に圧力をかけ強制的に液を膜透過させる逆浸透膜法に比べて、浸透圧を利用して膜濾過を行う正浸透膜法は省エネルギー化がしやすく、海水の淡水化等の水処理や発電への応用が期待されている。
【0003】
正浸透膜法を用いて水処理を行う場合、処理の対象となる溶液(処理対象溶液)よりも浸透圧の高い溶液(ドロー溶液)を用いて、処理対象溶液側から半透膜を通してドロー溶液側に溶媒(水)を移動させる。その後、ドロー溶液から溶媒を回収する必要があるため、ドロー溶液は、溶媒を容易に分離できる性質を有する必要があり、このようなドロー溶液を調製するための浸透圧誘導物質(ドロー溶質)が種々検討されている。例えば、特許文献1では、「基本骨格をグリセリン骨格とし、親水部としてのエチレンオキシド群と、疎水部としてのプロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドからなる群とを含むブロック共重合体」を温度感応性吸水剤(ドロー溶質)として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6172385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、今後の正浸透膜法の様々な技術への応用範囲を広げる点からは、プロセスに応じた最適なドロー溶液を選択することができるよう、ドロー溶質のバリエーションを増やすことが好ましい。
【0006】
そこで本発明は、正浸透膜法に好適に用いることができるドロー溶質及びこれを用いた水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[6]に示す発明を完成させた。
[1] アミン化合物に、炭素数2~10のアルキレンオキサイドが付加重合されてなる付加重合体を含む、正浸透膜法用ドロー溶質。
[2] アミン化合物がポリエチレンイミンである、[1]に記載のドロー溶質。
[3] ポリエチレンイミンの重量平均分子量が100~5000である、[2]に記載のドロー溶質。
[4] 付加重合体におけるアルキレンオキサイドの平均付加モル数が0.5~10である、[1]~[3]のいずれかに記載のドロー溶質。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のドロー溶質を含むドロー溶液。
[6] [5]に記載のドロー溶液を用いた水処理装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正浸透膜法に好適に用いることができるドロー溶質及びこれを用いた水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例の評価1における、実施例3の化合物についての評価結果を示す図である。
図2】実施例の評価1における、実施例9の化合物についての評価結果を示す図である。
図3】実施例の評価1における、比較例の化合物についての評価結果を示す図である。
図4】実施例の評価2における、実施例3の化合物についての評価結果を示す図である。
図5】実施例の評価2における、実施例9の化合物についての評価結果を示す図である。
図6】実施例の評価2における、比較例の化合物についての評価結果を示す図である。
図7】実施例における評価3に用いた装置図である。
図8】実施例における評価3の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
<ドロー溶質>
本実施形態のドロー溶質は、アミン化合物に、炭素数2~10のアルキレンオキサイドが付加重合されてなる付加重合体を含む。当該付加重合体は、アミン化合物におけるアミノ基における窒素原子に、アルキレンオキサイド由来のポリオキシアルキレン鎖が結合した構造を有する。ドロー溶質に含まれる付加重合体は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0012】
アミン化合物は、アルキレンオキサイドが付加し得るアミノ基、すなわち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンイミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エチレンジアミン等のポリアミンとアジピン酸等の多塩基酸を縮合したポリアミドポリアミン、モルホリン等が挙げられる。これらの中で、ポリエチレンイミンが好ましい。
【0013】
ポリエチレンイミンは、エチレンイミン由来の構造単位を複数含むものである。エチレンイミン由来の構造単位は、式-N(-Z)-CHCH-で表すことができる。なお、式中Zは、水素原子、アルキレンオキシド由来の単位、エチレンイミン由来の単位等を表す。また、アルキレンオキサイド由来の構造単位は、式-CH(-R)CH(-R’)-O-で表すことができる。なお、式中R及びR’はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。ただし、R及びR’におけるアルキル基の炭素数の総和は8以下である。
【0014】
ポリエチレンイミンとしては、特に限定されず、直鎖状のもの又は分岐鎖状のものを用いることができ、例えば、ジエチレントリアミン、エポミンSP-003、SP-006、SP-012、SP-018((株)日本触媒社製)、Lupasol G20、G35(BASF社製)等を好適に用いることができる。
【0015】
ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、100~5000であると好ましく、150~3000であるとより好ましく、200~2000であると更に好ましい。なお、本明細書中、「重量平均分子量」は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求められるものをいう。
測定機器:HLC-8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK-GEL GMHXL-Lと、TSK-GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0016】
ポリエチレンイミンのアミン価は、特に限定されないが、例えば5~40mmol/g.solid)とすることができる。
【0017】
炭素数2~10のアルキレンオキサイドとしては、特に限定されないが、エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)等の炭素数2~4のアルキレンオキサイドであると好ましい。これらは1種を単独で付加重合させてもよく、2種以上を併用して付加重合してもよい。また、付加重合は、ブロック重合であってもよく、ランダム重合であってもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0018】
上記付加重合体におけるアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、アミン化合物(特にポリエチレンイミン)に含まれる窒素原子1モルに対して、0.5~20モルであると好ましく、0.5~10モルであるとより好ましく、0.8~8モルであると更に好ましく、1~6.5モルであると特に好ましい。
【0019】
また、上記付加重合体において、アルキレンオキシド由来の構造単位に対するアミン化合物(特にポリエチレンイミン)由来の構造単位の質量比(アミン化合物由来の構造単位の質量/アルキレンオキサイド由来の構造単位の質量)は、0.1以上2以下であることが好ましい。
【0020】
上記付加重合体においては、2種以上のアルキレンオキサイドが付加重合されていることが好ましい。付加重合される2種以上のアルキレンオキサイドの組み合わせとしては、EO及びPOの組み合わせ、EO及びBOの組み合わせ、PO及びBOの組み合わせ、又はEO、PO及びBOの組み合わせであると好ましく、EO及びPOの組み合わせ、EO及びBOの組み合わせ、又はPO及びBOの組み合わせであるとより好ましく、EO及びBOの組み合わせであると更に好ましい。
【0021】
2種のアルキレンオキサイド(例えば、EO及びBO)を付加重合する場合の上記付加重合体における2種のアルキレンオキサイドのモル比は、例えば、9:1~1:9であると好ましく、8:2~2:8であるとより好ましく、6:4~4:6であると更に好ましい。
【0022】
アミン化合物に、アルキレンオキサイドを付加重合(アルコキシレート化)させる際の反応条件は、特に制限されず、例えばアミン化合物とアルキレンオキサイドをそのまま、あるいは必要に応じて溶剤により希釈して、好ましくは0~200℃、より好ましくは120~180℃で反応させることができる。この際、触媒として、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)のようなアルカリ触媒を使用してもよい。反応は、例えば、アミン化合物に触媒を加え、更にポリアルキレンオキサイドを反応系中にフィードすることにより行うことができる。2種以上のポリアルキレンオキサイドを付加重合させる場合には、これらを混合した後にフィードしてもよく、別々にフィードしてもよい。また、2種以上のポリアルキレンオキサイドを別々にフィードする場合には、これらを同時にフィードしてもよく、順次フィードしてもよい。なお、アルキレンオキサイドをフィード後、十分に反応するまで1~2時間熟成することで、より反応率を高めることができる。
【0023】
反応後は、酢酸等の酸を加えて中和し、減圧下、120~200℃、より好ましくは140~180℃で、付加重合体中に含まれる2,3-ブタジオン等の軽質不純物の除去を行なうことが好ましい。
【0024】
<ドロー溶液>
本実施形態のドロー溶液は、上記ドロー溶質を含む。ドロー溶質の含有量は、ドロー溶液全量に対して、20~100質量%であると好ましく、50~100質量%であるとより好ましく、75~100質量%であると更に好ましい。
【0025】
上記ドロー溶液は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、ドロー溶液を用いる正浸透膜法の条件等に応じて適宜選択すればよいが、水、メタノール、エタノール等から選ばれる溶媒を1種又は2種以上用いることができる。処理対象溶媒と同じ溶媒を含むことがより好ましい。溶媒の含有量は、ドロー溶液全量に対して、例えば80~0質量%とすることができる。
【0026】
上記ドロー溶液は、上記ドロー溶質以外のドロー溶質(その他のドロー溶質)を含んでいてもよいが、その含有量はドロー溶質全量に対して20質量%以下であると好ましい。ドロー溶液は、上記ドロー溶質、任意の溶媒、任意のその他のドロー溶質から構成されることが好ましく、上記ドロー溶質及び溶媒から構成されることがより好ましい。
【0027】
上記ドロー溶液は曇点(下限臨界溶液温度)を有することが好ましい。曇点とは、透明又は半透明な液体を温度変化させることにより相分離が起き、その結果不透明になる温度のことを意味する。曇点を有するドロー溶液は加熱することによりドロー溶質と溶媒とを相分離させることができる。
【0028】
上記ドロー溶液の曇点は、上記付加重合体の構成、例えばアミン化合物の構造、アルキレンオキサイドの種類及び付加モル数等を変更することにより、適宜調整することができ、適用する用途に合わせて適切な曇点のドロー溶液を選択することができる。
【0029】
例えば、工場の低温排熱を利用した水処理に正浸透膜法を適用する際には、正浸透膜処理を行う室温前後の温度ではドロー溶液が相分離せず、且つ工場の低温排熱程度の温度でドロー溶液が相分離することが好ましい。このような用途で用いられるドロー溶液の好適な曇点は、ドロー溶液におけるドロー溶質の濃度により変動するが、例えば、35~80℃であると好ましく、40~75℃であるとより好ましい。
【0030】
工場の低温排熱は、従来活用困難であり、多くが廃熱とされていたことから、低温排熱を用いた水処理はエネルギー効率の観点から特に好ましい。
【0031】
<正浸透膜法>
正浸透膜法では、供給液(処理対象溶液)とドロー溶液とを半透膜を介して接触させ、浸透圧の低い供給液側から浸透圧の高いドロー溶液に溶媒が移動する。溶媒の移動に伴い、ドロー溶液の濃度は徐々に低下する。このため、正浸透膜法を継続して行うためには、ドロー溶液に含まれるドロー溶質と溶媒とを分離する必要がある。
【0032】
曇点を有する上記ドロー溶液によれば、加熱によりドロー溶質と溶媒とを相分離させることができる。
【0033】
このような曇点を有するドロー溶液を用いた正浸透膜法では、例えば、以下の処理を繰り返すことにより、正浸透膜法を継続して行うことができる。
・半透膜の一方の側に供給液、他方の側にドロー溶液を、それぞれ半透膜と接触するように配置して供給液側から半透膜を通してドロー溶液側へ溶媒を移動させる。
・濃度の低下したドロー溶液を取り出して加熱し、ドロー溶質と溶媒とを相分離させる。
・相分離させたドロー溶質を再び上記他方の側に循環させる。
・相分離させた溶媒を、例えばナノろ過膜(NF膜)を用いて、更に精製して、目的の処理物(精製水等)を得る。
【0034】
また別の方法として、ドロー溶質に酸性ガスを吸収させることで溶媒との相溶性を高めたドロー溶液を用い、供給液側からドロー溶液側に溶媒を膜透過させた後、ドロー溶質から酸性ガスを除去してドロー溶質と溶媒とを相分離させる方法を適用することもできる。
上記酸性ガスとしては、一酸化炭素、二酸化炭素等の炭素酸化物;一酸化硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物;一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素等の窒素の酸化物等が挙げられる。これらの中でも、上記酸性ガスは、二酸化炭素であることが好ましい。
【0035】
上記正浸透膜処理を行う温度は特に制限されないが、通常室温前後であり、例えば5~40℃とすることができる。
【0036】
正浸透膜法に用いる半透膜(Membrane)としては、従来公知のものを用いることができるが、膜としての強度を維持するために、膜の選択透過性を決定する緻密な活性層(Active layer)と多孔質の支持層(Support layer)と組み合わせて用いることが好ましい。活性層よりも支持層の方が汚れを吸着しやすいため、膜汚れ低減の観点から、一般的には、半透膜の活性層は供給液(被処理水)側に設けることが好ましい(図7参照)。
【0037】
上記ドロー溶液は、正浸透膜法を利用する種々の用途に適用することができる。中でも、水処理装置や発電装置は、正浸透膜法の利用が期待される用途であり、上記ドロー溶液はこれらの用途に好適に適用可能である。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0039】
(実施例1~10)
平均分子量600のポリエチレンイミン((株)日本触媒社製、商品名「エポミン(登録商標)SP-006」、アミン価:20mmol/g.solid)100gに50%KOHを16g加え、1.2Lオートクレーブ中において窒素雰囲気下で125℃へ昇温した。その後、減圧脱水を行い、反応系内の水分を除去した。次いで、表1に示す添加量のエチレンオキサイド(EO)をフィードして、ポリエチレンイミンにエチレンオキサイドを付加した。同様に、表1示す添加量のブチレンオキサイド(BO)330gをフィードして、更にブチレンオキサイドを付加した。80℃まで冷却し、68%酢酸を12g加えて中和した後、20ml/minの流量で窒素をバブリングしながら0.005MPa以下へ減圧し、120℃で1時間脱気し、軽質不純物を除去することで目的の化合物(付加重合体)を得た。
【0040】
なお、得られた化合物を水に溶解させ、2%水溶液及び40%水溶液を調製し、曇点(Cp)の評価を行った。具体的には、水溶液の温度を上げていった際に、相分離が起きて不透明となった温度を曇点(Cp)として評価した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかであるように、実施例1~10の化合物の2%水溶液及び40%水溶液における曇点は20~80℃程度であり、ドロー溶質として好適であることが分かる。
【0043】
(比較例)
特許第6172385号に記載のGE1000-BBB(A5)と同様の方法で、比較例の化合物(グリセロールエトキシレート(ブトキシ化))を得た。
【0044】
<評価>
実施例3及び9並びに比較例の化合物について、以下に示す評価1~3を行った。
【0045】
(評価1:相図作成)
上記化合物を約50%含む水溶液を調製し、スクリューバイアルに封入した。これを所定の温度の恒温槽に静置し、十分平衡に至らしめた後、上相(有機濃厚相)と下相(水濃厚相)をそれぞれシリンジで取り出した。各サンプルの有機濃厚相の水分量及び水濃厚相の有機物量について、それぞれハイブリッドカールフィッシャー水分計(MKH-700、京都電子工業社製)及び全有機炭素分析装置(TOC-VCSH、島津製作所)で測定した。3~5回測定を行い、その平均値を測定値とした。得られた水分量又は有機物量から溶質の重量百分率を算出し、平衡温度に対してプロットした。
実施例3の化合物についての相図を図1に、実施例9の化合物についての相図を図2に、比較例の化合物についての相図を図3に、それぞれ示す。
【0046】
図1及び2の実施例3及び9の化合物を用いた場合は、80℃で分離させた場合の有機濃厚相における化合物の濃度がいずれも約80%と高い。一方、図3の比較例の化合物を用いた場合は、80℃で分離させた場合の有機濃厚相における化合物の濃度が75%と若干低い。有機濃厚相における化合物の濃度が高いことは、分離回収可能な化合物の量が増えることを意味するので好ましい。
【0047】
(評価2:浸透圧測定)
上記化合物の5~95%濃度の水溶液を調製した。約7mlの水溶液試料を専用のサンプルカップに移し、水分活性測定装置(AquaLab Series4 TDL)を用いて、各水溶液の25℃における水分活性を測定した。3~5回測定を行い、その平均値を水分活性測定値とした。得られた水分活性測定値から計算式及び単位換算により、浸透圧(bar)を算出し、仕込濃度に対してプロットした。
実施例3の化合物についての評価結果を図4に、実施例9の化合物についての評価結果を図5に、比較例の化合物についての評価結果を図6に、それぞれ示す。
【0048】
図4の実施例3の化合物を用いた場合は、濃度80%における浸透圧が約225barと非常に高い。一方、図5及び6の実施例9及び比較例の化合物を用いた場合は、濃度30%における浸透圧が約100barで同等である。同濃度での浸透圧がより高いと、正浸透膜をより通水しやすくなるので好ましい。
【0049】
(評価3:正浸透膜透水試験)
三酢酸セルロース製正浸透膜(FTS社製)を用いて、正浸透膜透水試験を行った。正浸透膜透水試験の装置図を図7に示す。供給液(FS)には超純水を約500g、駆動溶液(DS)には47.8%の実施例3の化合物又は46.5%の比較例の化合物の水溶液約50gを用い、AL-FSモード(正浸透膜の活性層側にFSが接液)にて60分間の透水試験を行った。FS及びDSを約0.5L/minでセルに循環供給した際のFS質量の経時変化を記録し、下記数式(1)を用いて水透過流束(Jw)を算出した。下記数式(1)中、Δwは供給液の体積変化量を、Amは有効膜面積を、Δtは正浸透膜透水試験時間を表す。結果を図8に示す。
【0050】
【数1】
【0051】
図8から明らかであるように、実施例3の化合物を用いた場合には比較例の化合物を用いた場合よりも2倍以上高い通水性を示す。
【0052】
(実施例11)
平均分子量300のポリエチレンイミン((株)日本触媒社製、商品名「エポミン(登録商標)SP-003」)100gに50%KOHを16g加え、1.2Lオートクレーブ中において窒素雰囲気下で125℃へ昇温した。その後、減圧脱水を行い、反応系内の水分を除去した。次いで、エチレンオキサイド(EO)450gをフィードして、ポリエチレンイミンにエチレンオキサイドを付加した。同様に、ブチレンオキサイド(BO)330gをフィードして、更にブチレンオキサイドを付加した。80℃まで冷却し、68%酢酸を12g加えて中和した後、20ml/minの流量で窒素をバブリングしながら0.005MPa以下へ減圧し、120℃で1時間脱気し、軽質不純物を除去することで目的の化合物(付加重合体)を得た(EOの平均付加量:4.4mol、BOの平均付加量:2.0mol)。
得られた付加重合体について、実施例1~10と同様に、2%水溶液及び40%水溶液を調製し、曇点(Cp)の評価を行ったところ、Cp[2%aq]及びCp[40%aq]はそれぞれ43℃及び44℃であった。
【0053】
(実施例12)
ジエチレントリアミン100gに50%KOHを16g加え、1.2Lオートクレーブ中において窒素雰囲気下で125℃へ昇温した。その後、減圧脱水を行い、反応系内の水分を除去した。次いで、エチレンオキサイド(EO)945gをフィードして、ポリエチレンイミンにエチレンオキサイドを付加した。同様に、ブチレンオキサイド(BO)525gをフィードして、更にブチレンオキサイドを付加した。80℃まで冷却し、68%酢酸を12g加えて中和した後、20ml/minの流量で窒素をバブリングしながら0.005MPa以下へ減圧し、120℃で1時間脱気し、軽質不純物を除去することで目的の化合物(付加重合体)を得た(EOの平均付加量:7.3mol、BOの平均付加量:2.5mol)。
得られた付加重合体について、実施例1~10と同様に、2%水溶液及び40%水溶液を調製し、曇点(Cp)の評価を行ったところ、Cp[2%aq]及びCp[40%aq]はそれぞれ64℃及び67℃であった。
【0054】
(実施例13)
ブチレンオキサイド(BO)のフィード量を700gに変更した他は、実施例12と同様にして、目的の化合物(付加重合体)を得た(EOの平均付加量:7.3mol、BOの平均付加量:3.3mol)。
得られた付加重合体について、実施例1~10と同様に、2%水溶液及び40%水溶液を調製し、曇点(Cp)の評価を行ったところ、Cp[2%aq]及びCp[40%aq]はそれぞれ40℃及び42℃であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8