(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】プレキャスト部材の接合構造及び接合方法
(51)【国際特許分類】
E03F 3/04 20060101AFI20221021BHJP
E04B 1/06 20060101ALN20221021BHJP
E04B 1/04 20060101ALN20221021BHJP
E04B 1/61 20060101ALN20221021BHJP
【FI】
E03F3/04 A
E04B1/06
E04B1/04 F
E04B1/61 502K
(21)【出願番号】P 2018232550
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000186898
【氏名又は名称】昭和コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】越野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 辰也
(72)【発明者】
【氏名】岩井 哲也
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-134843(JP,U)
【文献】特開2009-191523(JP,A)
【文献】特開2002-309669(JP,A)
【文献】特開平09-268539(JP,A)
【文献】特開2002-235381(JP,A)
【文献】特開平10-212750(JP,A)
【文献】特開2003-103508(JP,A)
【文献】特開2011-069064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00-11/00
E04B 1/00- 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に連なる少なくとも2つのプレキャスト部材(2,3)の接合構造において、
前記少なくとも2つのプレキャスト部材が、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材(13)によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋(21)の端部を共通のスリーブ(22)内に充填したモルタル(23)を介して固定したモルタル充填継手(20)と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合されており、
前記せん断キーは
、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キー(31)と、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キー(32)との嵌合構造である、コンクリートせん断キー(30)
であり、
前記PC鋼材(13)は、前記台形の凸側せん断キー(31)と前記台形の凹側せん断キー(32)を貫いていることを特徴とするプレキャスト部材の接合構造。
【請求項2】
直列に連なる少なくとも3つのプレキャスト部材(2,2,3)の接合構造において、
直列方向の中間部にある少なくとも1つのプレキャスト部材(3)は、下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材であり、
前記少なくとも3つのプレキャスト部材が、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材(13)によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋(21)の端部を共通のスリーブ(22)内に充填したモルタル(23)を介して固定したモルタル充填継手(20)と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合されており、
前記せん断キーは
、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キー(31)と、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キー(32)との嵌合構造である、コンクリートせん断キー(30)
であり、
前記PC鋼材(13)は、前記台形の凸側せん断キー(31)と前記台形の凹側せん断キー(32)を貫いていることを特徴とするプレキャスト部材の接合構造。
【請求項3】
直列に連なる少なくとも3つのプレキャスト部材(2,2,3)を接合する方法において、
直列方向の中間部にある少なくとも1つのプレキャスト部材(3)は、下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材であり、
前記非自立プレキャスト部材(3)に下からの荷重支えを仮設しない状態で、前記少なくとも3つのプレキャスト部材を、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材(13)によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋(21)の端部を共通のスリーブ(22)内に充填したモルタル(23)を介して固定したモルタル充填継手(20)と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合すること
、
前記せん断キーを
、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キー(31)と、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キー(32)との嵌合構造である、コンクリートせん断キー(30)
とすること、及び、
前記PC鋼材(13)で、前記台形の凸側せん断キー(31)と前記台形の凹側せん断キー(32)を貫くことを特徴とするプレキャスト部材の接合方法。
【請求項4】
前記プレキャスト部材は、ボックスカルバート(1)を分割して製造したものである請求項1又は2記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項5】
前記少なくとも3つのプレキャスト部材は、ボックスカルバート(1)の頂版部を分割して製造したものである請求項2記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項6】
前記少なくとも3つのプレキャスト部材は、ボックスカルバート(1)の頂版部を分割して製造したものである請求項3記載のプレキャスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材の接合構造及び接合方法に関するものである。なお、プレキャストコンクリートを単にプレキャストという。また、プレストレストコンクリートをPCと記す。
【背景技術】
【0002】
ボックスカルバートのような土中構造物は、地震時に周囲の地盤と一緒に挙動するため、地震の影響を受けにくいと考えられてきた。また、実際に、地震によるボックスカルバートの被害は少なかった。しかし、近年、従来型カルバートの適用範囲を超えるボックスカルバートの大型化が進んでいる。また、国の方針(i-Construction:ICT(情報通信技術)の全面的な活用等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図る取組)により、生産性向上を目的とするボックスカルバートのプレキャスト化が進んでいる。このように、大型化とプレキャスト化が進んだボックスカルバートの耐震性は、現状不明確である。
【0003】
大型のプレキャスト製品は、運搬時の利便性のために、複数のプレキャスト部材に分割して製造し、施工現場に運搬し、施工現場でプレキャスト部材を接合して組み立てる必要がある。例えば
図6は、ボックスカルバート51を、2つの上部L字部材52,52と1つの頂版部中間部材53と2つの下部L字部材54,54と1つの底版部中間部材55との、6体のプレキャスト部材に分割した例を示している。プレキャスト部材の接合方法としては、現場打ちコンクリート打設を伴う接合を除くと、主に次の2種類である。
【0004】
(1)複数のプレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材によるプレキャスト部材間の圧接によるPC接合(例えば特許文献1)。
【0005】
(2)隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋の端部を共通のスリーブ内に充填したモルタルを介して固定したモルタル充填継手による接合(例えば特許文献2)。
図6は、モルタル充填継手60による接合の例を示している。
【0006】
また、特許文献3には、ボックスカルバートの側壁部と頂版部とを連結する連結手段として、PC接合に加えて、モルタル充填継手による接合も行うことにより、複雑な配筋を用いることなく、信頼性が高く、高い強度の連結構造が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-315024号公報
【文献】特開平9-209334号公報
【文献】特開2009-191523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プレキャスト部材をPC接合してなる地中構造物は、大規模地震時のような正負交番荷重を受けると、接合部で目開きを起こす可能性が高いことが判明している。PC接合では、少数のPC鋼材が部材間で連続するが、各プレキャスト部材に埋設した多数の鉄筋が部材間で連続しないからである。
【0009】
プレキャスト部材をモルタル充填継手による接合してなる地中構造物は、大規模地震時でも上記のような目開きを起こさない。モルタル充填継手による接合では、各プレキャスト部材に埋設した多数の鉄筋がモルタル充填継手によって部材間で連続するからである。そのため、大規模地震を想定する場合、地中構造物のプレキャスト部材の接合方法は、モルタル充填継手による接合が主流になりつつある。
【0010】
しかし、モルタル充填継手による接合には次の課題がある。
モルタルが充填後に硬化するまでの期間は1日以上ある。この硬化期間中にプレキャスト部材間に荷重等による力がかかると、モルタルを流動させてスリーブと鉄筋とが相対変位し、プレキャスト部材間にズレが生じる。
【0011】
図6に示したボックスカルバートの例において、頂版部中間部材53は下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材である。よって、上記硬化期間中、頂版部中間部材53が荷重により下にズレないようにするため、頂版部中間部材53に下からの荷重支えを仮設する特殊対応が必要となる。
【0012】
例えば
図6(a)は、荷重支えとして台71を用いる例である。地面に仮設した台71で支えた頂版部中間部材53と地面に置いた上部L字部材52,52とをモルタル充填継手60により接合する一方、いずれも地面に置いた下部L字部材54,54と底版部中間部材55とをモルタル充填継手60により接合した後、上部L字部材52と下部L字部材54とをモルタル充填継手60により接合する。
【0013】
また、
図6(b)は、荷重支えとして支保工72を用いる例である。底版部中間部材55の上に仮設した支保工72で頂版部中間部材53を支えて、全プレキャスト部材(52,52,53,54,54,55)をモルタル充填継手60により接合する。
【0014】
かかる課題(期間と仮設コスト)があるため、モルタル充填継手による接合は、分割した頂版部に適用することができず、主に、分割した側壁部に適用されていた。
【0015】
仮に、特許文献3のPC接合とモルタル充填継手による接合との併用を、分割した頂版部に行おうとしても、上記荷重支えの仮設は必要となるから、上記課題は解決しない。
【0016】
そこで、本発明の目的は、プレキャスト部材を短期間で且つ荷重支えを仮設することなく接合できるようにし、接合後のプレキャスト製品が大規模地震時に接合部で目開きを起こさないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)プレキャスト部材の接合構造
直列に連なる少なくとも2つのプレキャスト部材の接合構造において、
前記少なくとも2つのプレキャスト部材が、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋の端部を共通のスリーブ内に充填したモルタルを介して固定したモルタル充填継手と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合されており、
前記せん断キーは、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キーと、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キーとの嵌合構造である、コンクリートせん断キーであり、
前記PC鋼材は、前記台形の凸側せん断キーと前記台形の凹側せん断キーを貫いていることを特徴とする。
【0018】
(2)プレキャスト部材の接合構造
直列に連なる少なくとも3つのプレキャスト部材の接合構造において、
直列方向の中間部にある少なくとも1つのプレキャスト部材は、下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材であり、
前記少なくとも3つのプレキャスト部材が、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋の端部を共通のスリーブ内に充填したモルタルを介して固定したモルタル充填継手と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合されており、
前記せん断キーは、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キーと、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キーとの嵌合構造である、コンクリートせん断キーであり、
前記PC鋼材は、前記台形の凸側せん断キーと前記台形の凹側せん断キーを貫いていることを特徴とする。
【0019】
(3)プレキャスト部材の接合方法
直列に連なる少なくとも3つのプレキャスト部材を接合する方法において、
直列方向の中間部にある少なくとも1つのプレキャスト部材は、下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材であり、
前記非自立プレキャスト部材に下からの荷重支えを仮設しない状態で、前記少なくとも3つのプレキャスト部材を、全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材によるプレキャスト部材間の圧接と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋の端部を共通のスリーブ内に充填したモルタルを介して固定したモルタル充填継手と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キーとにより接合すること、
前記せん断キーを、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成されたコンクリートの台形の凸側せん断キーと、他方の端面に形成されたコンクリートの台形の凹側せん断キーとの嵌合構造である、コンクリートせん断キーとすること、及び、
前記PC鋼材で、前記台形の凸側せん断キーと前記台形の凹側せん断キーを貫くことを特徴とする。
【0020】
[作用]
以下において、前記PC鋼材によるプレキャスト部材間の圧接による接合を「PC接合」という。
(ア)PC接合とせん断キーとにより、モルタル充填継手の硬化期間中のプレキャスト部材間のズレが防止される。よって、分割した頂版部の接合であっても支保工等の荷重支えが不要であり、短期間の施工が可能となる。
【0021】
(イ)供用時の構造設計においてモルタル充填継手とPC接合の両者を考慮することで、モルタル充填継手による靭性とPC接合による軽量化及び高耐久性とを兼ね備えることができる。すなわち、モルタル充填継手による鉄筋の連続性により接合部の靱性が確保され、地震時に接合部で目開きを起こさない。せん断キーによるズレ防止機能は、施工時だけでなく、施工後も常時働き、地震時においても働く。また、PC鋼材によりプレキャスト部材にプレストレスが導入されるため、プレキャスト部材を軽量設計することができ、また、プレキャスト部材のひび割れ復元性があり、高耐久性の構造物となる。
【0022】
(ウ)また、例えばボックスカルバートにおいて頂版部を分割することが可能となリ、大スパンの内空幅を構築できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、プレキャスト部材を短期間で且つ荷重支えを仮設することなく接合することができ、接合後のプレキャスト製品がモルタル充填継手による靱性とPC接合による軽量化及び高耐久性とを兼ね備えることができ、大規模地震時に接合部で目開きを起こさないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は実施例のボックスカルバートを構成するプレキャスト部材の分解正面図である。
【
図2】
図2は同プレキャスト部材を示し、(a)は上部L字部材の側面図、(b)は下部L字部材の側面図、(c)は上部L字部材の平面図、(d)は頂版部中間部材の平面図である。
【
図3】
図3は同プレキャスト部材の分解斜視図である。
【
図4】
図4は同プレキャスト部材を接合してなる実施例のボックスカルバートの正面図である。
【
図6】
図6は従来例のボックスカルバートの接合方法を示し、(a)は頂版中間部材を台で支えて行う方法を示す正面図、(b)は頂版中間部材を支保工で支えて行う方法を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.プレキャスト部材
プレキャスト部材は、プレキャスト製品を分割して製造したものである。プレキャスト製品としては、特に限定されないが、ボックスカルバート、シェッド用ブロック、水路用ブロック等を例示できる。
【0026】
特に本発明は、頂版部を有するボックスカルバート、シェッド用ブロック等に適している。
前記手段(2)(3)における少なくとも3つのプレキャスト部材は、ボックスカルバートの頂版部を分割して製造したものが好適である。
【0027】
2.モルタル充填継手とPC接合
構造計算におけるモルタル充填継手とPC接合の負担割合(モルタル充填継手:PC接合)は、特に限定されないが、モルタル充填継手による靭性とPC接合による軽量化及び高耐久性とのバランスが良い点で、また、施工時の非自立プレキャスト部材のPC接合に必要なPC鋼材の本数を確保できる点で、5:5~7:3が好ましく、5.5:4.5~6.5:3.5がより好ましい。
モルタル充填継手の数や鉄筋の強度、PC接合の数やPC鋼材の強度は、上記負担割合に応じて適宜決定することができる。
【0028】
3.せん断キー
せん断キーは、上記の内容から逸脱しない限り、せん断キーの材料、形状、寸法、プレキャスト部材端面における数や位置等は、特に限定されない。せん断キーとしては、前記コンクリートせん断キーのほか、参考例として鋼製せん断キー等を例示できる。
鋼製せん断キーは、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に埋め込まれた鋼製の凸側ジョイントと、他方の端面に埋め込まれた鋼製の凹側ジョイントとの嵌合構造である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について
図1~
図5を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、材料、形状及び寸法は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0030】
実施例のプレキャスト製品は、大型(例えば縦3000~10000mm、横4000~17000mm)のボックスカルバート1であって、底版部と頂版部をそれぞれ中間部と2つの端部とに分割し、2つの側壁部をそれぞれ上部と下部とに分割する設計により、
頂版部の端部と側壁部の上部とを構成する2つの上部L字部材2,2と、
頂版部の中間部のみを構成する1つの頂版部中間部材3と、
底版部の端部と側壁部の下部とを構成する2つの下部L字部材4,4と、
底版部の中間部のみを構成する1つの底版部中間部材5と
の6体のプレキャスト部材(2,2,3,4,4,5)に分割して製造されている。
【0031】
6体のプレキャスト部材のうち、頂版部中間部材3は、(使用状態において)下からの荷重支えが無い非自立プレキャスト部材である。
【0032】
2つの上部L字部材2,2と頂版部中間部材3とは横方向に直列に連なり、
2つの下部L字部材4,4と底版部中間部材5とは横方向に直列に連なり、
上部L字部材2,2と下部L字部材4,4とは縦方向に直列に連なると見ることができる。
これらの直列に連なる2つ又は3つのプレキャスト部材は、それぞれ、PC接合10(全プレキャスト部材を貫通して緊張したPC鋼材13によるプレキャスト部材間の圧接)と、隣接するプレキャスト部材に埋設した両鉄筋21の端部を共通のスリーブ22内に充填したモルタルを介して固定したモルタル充填継手20と、隣接するプレキャスト部材の両端面に設けたせん断キー30との併用により接合されている。構造計算におけるモルタル充填継手20とPC接合10の負担割合(モルタル充填継手20:PC接合)は、例えば6:4程度である。
【0033】
[PC接合10]
PC接合10は、直列に連なる2つの又は3つのプレキャスト部材にそれぞれ埋設された直列方向に延びるシース11と、直列方向の2つの端にあるプレキャスト部材にシース11の端と対応して設けられた定着板12と、これらのシース11を貫通した連続するPC鋼材13と、PC鋼材13を定着板12に締め付けて緊張させる締付具14とから構成されている。
【0034】
なお、PC鋼材13として、
図3等には当初から1本の(途中で継ぎの無い)ものを示したが、複数本をカプラ(図示略)で継いで1本にしたものでもよい。特に、縦方向に直列に連なる上部L字部材2と下部L字部材4とを接合するPC鋼材13は、2本をカプラで継いで1本にしたものが好ましい。下部L字部材4を地面に置いた後にPC鋼材13を通して締付具14で締め付けることは困難であるから、予め下部L字部材4に半分長のPC鋼材13を通してその下端部と上端部に締付具14とカプラを付けておくためである。
【0035】
[モルタル充填継手20]
モルタル充填継手20は、隣接するプレキャスト部材に埋設された両鉄筋21と、いずれか一方のプレキャスト部材の端面付近に埋設された共通のスリーブ22と、スリーブ22内に両鉄筋21の端部が進入した状態で、スリーブ22内の鉄筋21との隙間に充填され硬化したモルタル23とから構成されている。モルタル充填継手20をさらに詳述する。
【0036】
上部L字部材2,2においては、頂版部側の端面付近と側壁部側の端面付近とのそれぞれ外周面付近と内周面付近とにそれぞれ複数のスリーブ22が埋設されている。
図5に示すように、スリーブ22は、周壁の両端付近にモルタルの注入口24と排出口25が形成され、内周面に凹凸部が形成されている。鉄筋21は、途中に矩形部分21aと湾曲部分21bとを含んで頂版部側の端面付近から側壁部側の端面付近まで連続している。鉄筋21の両端部はスリーブ22内の中間部にまで進入している。鉄筋21には外周面に凹凸部(節)がある異形鉄筋が用いられている。スリーブ22の凹凸部と鉄筋21の凹凸部とが硬化したモルタル23を介して力を伝達する継手である。モルタル23には高強度且つ無収縮のモルタルが用いられている。
【0037】
下部L字部材4,4においては、底版部側の端面付近の外周面付近と内周面付近とにそれぞれ複数のスリーブ22が埋設されている。鉄筋21は、途中に矩形部分と湾曲部分とを含んで底版部側の端面付近から側壁部側の端面まで連続している。鉄筋21の下端部はスリーブ22内の中間部にまで進入している。鉄筋21の上端部は側壁部側の端面から突出し、上部L字部材2,2のスリーブ22内の中間部にまで進入してモルタル23を介して接合されている。その他は上部L字部材2,2と同様である。
【0038】
頂版部中間部材3においては、鉄筋21は、同部材の両端面間を直線的に連続している。鉄筋21の両端部は同部材の両端面から突出し、上部L字部材2,2のスリーブ22内の中間部にまで進入してモルタル23を介して接合されている。その他は上部L字部材2,2と同様である。
【0039】
底版部中間部材5においては、鉄筋21は、同部材の両端面間を直線的に連続している。鉄筋21の両端部は同部材の両端面から突出し、下部L字部材4,4のスリーブ22内の中間部にまで進入してモルタル23を介して接合されている。その他は上部L字部材2,2と同様である。
【0040】
[せん断キー30]
せん断キー30は、本実施例ではコンクリートせん断キーであり、隣接するプレキャスト部材の両端面のうち、一方の端面に形成された凸側せん断キー31と、他方の端面に形成された凹側せん断キー32との嵌合構造である。
【0041】
詳しくは、上部L字部材2,2と頂版部中間部材3との間においては、上部L字部材2,2の端面の中央部に台形の凸側せん断キー31が形成され、頂版部中間部材3の端面の中央部に台形の凹側せん断キー32が形成されている。
【0042】
上部L字部材2,2と下部L字部材4,4との間においては、上部L字部材2,2の下端面の正面寄り部と背面寄り部とに2つの台形の凸側せん断キー31が形成され、下部L字部材4,4の正面寄り部と背面寄り部とに2つの台形の凹側せん断キー32が形成されている。
【0043】
下部L字部材4,4と底版部中間部材5との間においては、下部L字部材4,4の端面の中央部に台形の凸側せん断キー31が形成され、底版部中間部材5の端面の中央部に台形の凹側せん断キー32が形成されている。
【0044】
以上のように構成された実施例のボックスカルバート1は、プレキャスト部材(2,2,3,4,4,5)を施工現場に運搬し、施工現場で次のようにプレキャスト部材を接合して組み立てられる。なお、複数のボックスカルバート1を路長方向に連結して水路、道路等を形成することについては、公知の通りである。
【0045】
(1)まず、
図1→
図3→
図4の変化で示すように、頂版部中間部材3に下からの荷重支えを仮設しない状態で、2つの下部L字部材4,4と底版部中間部材5とを、また、上部L字部材2,2と下部L字部材4,4とを、また、2つの上部L字部材2,2と頂版部中間部材3とを、PC接合10とせん断キー30とにより接合する。
【0046】
(2)次に、
図5に示すように、モルタル23を各スリーブ22の注入口24からスリーブ22内に注入し、排出口25から少し排出するまで行ってスリーブ22内に充填する。その後、注入口24と排出口25を止栓26で塞ぐ。この注入時もその後の硬化期間中も、頂版部中間部材3に下からの荷重支えを仮設しない状態で行う。モルタル23が硬化すれば、上記(1)の接合にモルタル充填継手20による接合も追加される。
【0047】
本実施例によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)PC接合10とせん断キー30とにより、モルタル充填継手20の硬化期間中のプレキャスト部材間のズレが防止される。よって、(使用状態において)下からの荷重支えが無い分割した頂版部中間部材3の接合であっても支保工等の荷重支えが不要であり、短期間の施工が可能となる。
【0048】
(イ)供用時の構造設計においてモルタル充填継手20とPC接合10の両者を考慮することで、モルタル充填継手20による靭性とPC接合10による軽量化及び高耐久性とを兼ね備えることができる。すなわち、モルタル充填継手20による鉄筋21の連続性により接合部の靱性が確保され、地震時に接合部で目開きを起こさない。せん断キー30によるズレ防止機能は、施工時だけでなく、施工後も常時働き、地震時においても働く。また、PC鋼材13によりプレキャスト部材にプレストレスが導入されるため、プレキャスト部材を軽量設計することができ、また、プレキャスト部材のひび割れ復元性があり、高耐久性の構造物となる。
【0049】
(ウ)また、ボックスカルバート1において頂版部を分割することが可能となリ、大スパンの内空幅を構築できる。
【0050】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ボックスカルバート
2 上部L字部材
3 頂版部中間部材
3 特許文献
4 下部L字部材
5 底版部中間部材
10 PC接合
11 シース
12 定着板
13 PC鋼材
14 締付具
20 モルタル充填継手
21 鉄筋
21a 矩形部分
21b 湾曲部分
22 スリーブ
23 モルタル
24 注入口
25 排出口
26 止栓
30 せん断キー
31 凸側せん断キー
32 凹側せん断キー