(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】フランジ継手部の漏出防止装置
(51)【国際特許分類】
F16L 23/04 20060101AFI20221021BHJP
F16L 23/02 20060101ALI20221021BHJP
F16L 23/18 20060101ALI20221021BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
F16L23/04
F16L23/02 D
F16L23/18
F16J15/10 N
F16J15/10 L
(21)【出願番号】P 2019033253
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】396020361
【氏名又は名称】株式会社水道技術開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 昂平
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100752(JP,A)
【文献】特開2000-337573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 23/04
F16L 23/02
F16L 23/18
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管のフランジ継手部を覆うように環状に配置される帯状のパッキンと、前記パッキンを介して前記フランジ継手部に外嵌装着される環状の取付具とを備えるフランジ継手部の漏出防止装置において、
前記パッキンが、周方向の
複数箇所に形成された分割部と、前記分割部で互いに接合される第1端部と第2端部とを有し、
前記第1端部には、径方向に対して傾斜し且つ径方向外側に面する第1傾斜面が形成されており、
前記第2端部には、径方向に対して傾斜し且つ径方向内側に面して、前記第1傾斜面に重なって密着する第2傾斜面が形成されて
おり、
前記第1端部が前記取付具に対して固定されておらず、前記第2端部が前記取付具に対して接着によって固定され、
前記パッキンは、周方向に沿って円弧状に延びた複数のパッキン片によって構成されており、
前記取付具が、複数の分割片を周方向に連接して構成されており、その複数の前記分割片の各々に前記パッキン片が取り付けられており、
前記第1端部が、周方向に隣接する前記分割片のうち一方の前記分割片の端部から突出して他方の前記分割片の径方向内側に配置されている
ことを特徴とするフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項2】
前記パッキンの内周面に、径方向内側に突出して周方向に延在する突条が設けられており、
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面が、それぞれ前記突条の端面を含んでいる請求項1に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項3】
前記第1傾斜面が、前記パッキンの内周面に対して鋭角をなすとともに、前記パッキンの外周面に対して鈍角をなし、
前記第2傾斜面が、前記パッキンの内周面に対して鈍角をなすとともに、前記パッキンの外周面に対して鋭角をなす請求項1又は2に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項4】
前記パッキンは前記取付具の分割数と同数に分割されている請求項1~3のいずれか1項に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項5】
前記パッキンの外周面と、前記パッキンの外周面に接する前記取付具の内周面との間に、相互に嵌合する凹凸部が形成されていて、前記取付具に対する前記パッキンの軸方向の位置ずれを防止できるように構成されている
請求項1~4のいずれか1項に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項6】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面との間に、相互に嵌合する凹凸部が形成されていて、前記第1端部に対する前記第2端部の軸方向の位置ずれを防止できるように構成されている
請求項1~5のいずれか1項に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【請求項7】
前記凹凸部として、前記第1傾斜面及び前記第2端部のうち一方に形成された凹部と、他方に形成された凸部とが形成されており、
前記第1傾斜面と前記第2端部とが互いに摺動できるように前記凹部に対して前記凸部のサイズを小さくしている請求項6に記載のフランジ継手部の漏出防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管のフランジ継手部における流体の漏出を防止するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体管のフランジ継手部では、地震などの外力や老朽化の影響により、フランジ同士の隙間から流体が漏出することがある。本出願人による特許文献1,2では、このような流体の漏出を未然に防止するため、あるいは既に発生している流体の漏出を防ぎ止めるための漏出防止装置が提案されている。この装置は、フランジ継手部を覆うように環状に配置される帯状のパッキンと、そのパッキンを介してフランジ継手部に外嵌装着される環状の取付具とを備える。パッキンは、その周方向端部を接着することによって環状に成形される(例えば、特許文献1の
図5参照)。
【0003】
しかし、そのようなパッキンの接着は施工現場で行う必要があるため、パッキンの取り付けに手間が掛かるという問題があった。しかも、一旦接着したパッキンの周方向端部は簡単に引き剥がせないため、熟練者でない作業者によってパッキンが歪んだ状態で接着されると、やり直しに難儀することになる。また、パッキンの接着作業が適切に行われたとしても、フランジの外径や厚みの寸法公差が比較的大きいこと、及び/又は、一対のフランジが径方向に互いに位置ずれした状態で接続されていることに起因して、フランジの外周面にパッキンが十分に密着せず、密封性が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-204636号公報
【文献】意匠登録第1305825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パッキンを簡単に取り付けることができ、しかも密封性に優れるフランジ継手部の漏出防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフランジ継手部の漏出防止装置は、流体管のフランジ継手部を覆うように環状に配置される帯状のパッキンと、前記パッキンを介して前記フランジ継手部に外嵌装着される環状の取付具とを備えるフランジ継手部の漏出防止装置において、前記パッキンが、周方向の少なくとも一箇所に形成された分割部と、前記分割部で互いに接合される第1端部と第2端部とを有し、前記第1端部には、径方向に対して傾斜し且つ径方向外側に面する第1傾斜面が形成されており、前記第2端部には、径方向に対して傾斜し且つ径方向内側に面して、前記第1傾斜面に重なって密着する第2傾斜面が形成されているものである。かかる構成によれば、パッキンの端部同士の接着を不要にできるので、パッキンを簡単に取り付けることができる。しかも、第1傾斜面及び第2傾斜面を互いに摺動させることで、フランジの寸法公差や径方向の位置ずれの影響を受けにくくなり、フランジの外周面にパッキンを密着させて密封性を高めることができる。
【0007】
前記パッキンの内周面に、径方向内側に突出して周方向に延在する突条が設けられており、前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面が、それぞれ前記突条の端面を含んでいることが好ましい。かかる構成によれば、第1端部における突条の端面と第2端部における突条の端面とが径方向に互いに重なって密着するため、密封性が向上する。
【0008】
前記第1傾斜面が、前記パッキンの内周面に対して鋭角をなすとともに、前記パッキンの外周面に対して鈍角をなし、前記第2傾斜面が、前記パッキンの内周面に対して鈍角をなすとともに、前記パッキンの外周面に対して鋭角をなすことが好ましい。これにより、第1及び第2傾斜面の接触面積を広く確保して、密封性を効果的に高めることができる。
【0009】
前記第1端部が前記取付具に対して固定されておらず、前記第2端部が前記取付具に対して固定されていることが好ましい。かかる構成によれば、取付具に対してパッキンを位置決めした状態で、第1傾斜面を第2傾斜面に重ねて密着できるとともに、その第2傾斜面に対して第1傾斜面を周方向に沿って摺動させることができる。
【0010】
前記取付具が、第1分割片と、前記第1分割片に隣接する第2分割片とを含む複数の分割片を周方向に連接して構成されており、前記第1端部又は前記第2端部が、前記第1分割片の端部から突出して前記第2分割片の径方向内側に配置されていることが好ましい。これにより、第2分割片の径方向内側において第1及び第2傾斜面を互いに堅固に密着させ、密封性を高めることができる。
【0011】
前記パッキンの外周面と、前記パッキンの外周面に接する前記取付具の内周面との間に、相互に嵌合する凹凸部が形成されていて、前記取付具に対する前記パッキンの軸方向の位置ずれを防止できるように構成されているものでもよい。これにより、取付具に対するパッキンの軸方向の位置ずれに起因した密封性の低下を防止できる。
【0012】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面との間に、相互に嵌合する凹凸部が形成されていて、前記第1端部に対する前記第2端部の軸方向の位置ずれを防止できるように構成されているものでもよい。これにより、パッキンの端部同士の軸方向の位置ずれに起因した密封性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】フランジ継手部に取り付けた漏出防止装置の正面図
【
図7】分割部で互いに接合された第1端部及び第2端部を示す二面図
【
図8】分割部で互いに接合された第1端部及び第2端部を示す二面図
【
図9】分割部で互いに接合された第1端部及び第2端部を示す二面図
【
図10】漏出防止装置をフランジ継手部に取り付ける様子を示す斜視図
【
図11】漏出防止装置をフランジ継手部に取り付ける様子を示す斜視図
【
図12】別実施形態におけるパッキン及び取付具の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1~3は、流体管である水道管P1,P2が互いにフランジ接合されたフランジ継手部10を示す。水道管P1,P2は、例えばダクタイル鋳鉄で形成されている。フランジ継手部10では、水道管P1,P2の端部に形成された一対のフランジ11,12が固着具20によって締結されている。固着具20は、周方向の複数箇所(本実施形態では四箇所)に取り付けられている。
図3に示すように、一対のフランジ11,12の間には環状のガスケット13を介在させているが、これに限られるものではない。フランジ11,12の間には、径方向外側(外周側)へ向けて開口した隙間14が形成されている。
【0016】
固着具20は、フランジ11,12のボルト穴に挿通されたボルト21と、そのボルト21に螺合されるナット22とを備え、そのボルト21の頭部とナット22とでフランジ11,12が挟持されている。固着具20は、更に、ボルト穴の隙間を密封するシール材23a,23bと、それらに被さる金属製の止水リング24a,24bと、ボルト21及びナット22の位置調整に供されるスペーサ25a,25bとを備える。シール材23a,23bには、それぞれボルト穴に入り込むヒレ部が形成されている。固着具20の構成はこれに限られず、例えば、ナット22を袋ナット(キャップナット)に代えて、止水リング24b及びスペーサ25bを省略してもよい。
【0017】
このような水道管P1,P2のフランジ継手部10では、地震などの外力や老朽化の影響によってフランジ11,12が互いから離間した場合に、その隙間14から漏水することがある。そこで、隙間14からの漏水を未然に防止するため、あるいは既に発生している漏水を防ぎ止めるために、漏出防止装置1がフランジ継手部10に取り付けられている。フランジ11,12が互いから離間した場合は、それらのボルト穴からの漏水も懸念されるが、本実施形態においては、シール材23a,23bを備えた固着具20によって、そのようなボルト穴からの漏水を防ぎ止めることができる。
【0018】
漏出防止装置1は、フランジ継手部10を覆うように環状に配置される帯状のパッキン3と、そのパッキン3を介してフランジ継手部10に外嵌装着される環状の取付具4とを備える。パッキン3は、周方向に沿って隙間14を密封し、取付具4は、そのパッキン3をフランジ11,12の外周面に押し付ける。パッキン3は、ゴムなどの弾性材によって形成されている。取付具4は、パッキン3よりも硬質な材料によって、好ましくはダクタイル鋳鉄などの金属材料によって形成されている。
【0019】
図3,4に示すように、パッキン3は、取付具4の内周面(後述する底面41a)に対向する外周面と、フランジ11,12の外周面に対向する内周面とを有する。パッキン3の内周面には、径方向内側(内周側)に突出して周方向に延在する複数(本実施形態では三つ)の突条32~34が設けられている。取付具4の内周面には、周方向に沿って延在する溝部41が径方向内側に開口するように設けられている。溝部41は、底面41aと、その底面41aにおける軸方向の両端から径方向内側に延出した一対の内壁面41bとを有する。一対の内壁面41bは、それぞれ微小な隙間を設けてパッキン3の側面と対向しているが、これに限定されない。
【0020】
本実施形態において、パッキン3は、外周面を含むベルト状の本体31と、隙間14を閉塞する中央の突条32と、その突条32の両側に配置されてフランジ11,12の外周面に密着する一対の突条33,34とを備える。突条32~34は、それぞれ半円形の断面形状を有する。中央の突条32の半円形の曲率半径は、両側の突条33,34の半円形の曲率半径よりも大きく、その突出量が相対的に大きい。即ち、突条32における厚みT1は、突条33,34における厚みT2よりも大きい。突条32と突条33,34との間には平坦部3fが形成されているため、パッキン3が強く挟圧されても突条同士の干渉が抑制される。パッキン3の幅W2は、フランジ継手部10の幅W1(
図3参照)よりも大きい。パッキン3の断面形状は、これに限られず、種々の変形例を採用できる。
【0021】
図5に示すように、取付具4は、分割片4A(第1分割片に相当)と、その分割片4Aに隣接する分割片4B(第2分割片に相当)とを含む複数の分割片を周方向に連接して構成されている。取付具4を構成する複数の(本実施形態では二つの)分割片4A,4Bは、分割部4Sに取り付けられた締結具42によって互いに連結されている。締結具42は、分割片4A,4Bの端部から
図5の左右方向に張り出した延設部45に挿通されるボルト43と、そのボルト43に螺合されるナット44とを有する。取付具4は、締結具42の締め付けに応じて縮径し、フランジ11,12の外周面に向けてパッキン3を押圧する。
【0022】
図2及び後述する
図10から看取されるように、分割片4Aの端部と、その分割片4Aの端部に対向する分割片4Bの端部とは、それぞれ櫛歯状に形成されており、それらが互いに嵌合しうる相補形状をなしている。これらの嵌合の具合(噛み合いの程度)は、フランジ11,12の径寸法や締結具42の締め付けに応じて変化する。かかる構成によれば、軸方向における分割片4Aと分割片4Bとの相対的な位置ずれを抑えることができる。また、分割片4A又は分割片4Bが逆向きになっていると、櫛歯状をなす端部同士が互いに嵌合せず、間違った組み合わせで連接できないように構成されている。
【0023】
パッキン3は、周方向の少なくとも一箇所に形成された分割部3Sと、その分割部3Sで互いに接合される端部3E1(第1端部に相当)と端部3E2(第2端部に相当)とを有する。本実施形態では、パッキン3の周方向の二箇所に分割部3Sが形成されており、取付具4の分割数に合わせてパッキン3が二分割されている。パッキン3は、周方向に沿って円弧状に延びた複数の(本実施形態では二つの)パッキン片3Pによって構成され、それらが周方向に連接されることで環状をなす(
図1参照)。端部3E1,3E2は、それぞれ周方向におけるパッキン片3Pの端部を構成する。端部3E1,3E2は、いずれも厚みを漸減させた先細り形状に形成されている。
【0024】
図5,6に示すように、端部3E1には、径方向に対して傾斜し且つ径方向外側に面する傾斜面3T1(第1傾斜面に相当)が形成されている。端部3E2には、径方向に対して傾斜し且つ径方向内側に面して、その傾斜面3T1に重なって密着する傾斜面3T2(第2傾斜面に相当)が形成されている。パッキン片3Pの端部3E1は、そのパッキン片3Pと隣接したパッキン片3Pの端部3E2に接合され、その際に傾斜面3T1が傾斜面3T2と径方向に重なる。締結具42を締め付けて取付具4を縮径させると、傾斜面3T1と傾斜面3T2とが互いに摺動しながらパッキン3が縮径し、フランジ11,12の外周面にパッキン3の内周面が強く押し当たる。
【0025】
かかる構成によれば、上記の如く端部3E1と端部3E2とが互いに堅固に接合されるため、パッキン3を環状に成形するための接着作業を不要にできる。したがって、傾斜面3T1及び傾斜面3T2のいずれにも接着剤を塗布する必要がなく、端部3E1,3E2を非接着により接合できる。その結果、施工現場でパッキン3の端部同士を接着する必要がなくなり、パッキン3が簡単に取り付けられる。しかも、傾斜面3T1及び傾斜面3T2の摺動によりパッキン3の内径を微調整できるので、フランジ11,12の寸法公差や径方向の位置ずれの影響を受けにくく、フランジ11,12の外周面にパッキン3を密着させて密封性を高めることができる。
【0026】
図7~9は、それぞれ分割部3Sで互いに接合された端部3E1及び端部3E2を示している。フランジ11,12の外周長さがパッキン3の有効長さと略同じである場合は、
図7のように傾斜面3T1と傾斜面3T2とが位置ずれせずに互いに突き合わせられる。端部3E1における突条32~34の端面は、それぞれ端部3E2における突条32~34の端面と合致する。また、パッキン片3Pの内周面は、それに隣接するパッキン片3Pの内周面と面一に(同一面内に)配置される。パッキン3の有効長さは、環状に成形されたパッキン3の設計上の内周長さであり、パッキン3を構成する各パッキン片3Pの内周長さの合計に相当する。
【0027】
フランジ11,12の外径が相対的に小さく、そのフランジ11,12の外周長さがパッキン3の有効長さよりも小さい場合は、
図8のように端部3E1の先端が端部3E2の内周面に重なる部分X1、及び、端部3E2の先端が端部3E1の外周面に重なる部分X2が形成される。しかし、傾斜面3T1と傾斜面3T2とが互いに摺動しうることにより、これらの部分X1,X2で過度に圧縮される心配は少ない。また、取付具4によってパッキン3が径方向外側から圧縮されるため、これらの部分X1,X2が密封性(止水性)に悪い影響を及ぼすこともない。
【0028】
フランジ11,12の外径が相対的に大きく、そのフランジ11,12の外周長さがパッキン3の有効長さよりも大きい場合は、
図9のように端部3E1の先端が端部3E2の内周面に到達せずに肉薄となる部分Y1や、端部3E2の先端が端部3E1の外周面に到達せずに肉薄となる部分Y2が形成される。しかし、これらの部分Y1,Y2での肉薄の程度は微小であるため、取付具4で径方向外側からパッキン3が圧縮されることにより十分な密封性が得られる。とは言え、パッキン3の圧縮量を確保するうえでは、
図7や
図8に示した状態にあることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、傾斜面3T1及び傾斜面3T2が、それぞれ突条32~34の端面を含む。このため、分割部3Sでは、端部3E1における突条32~34の端面と、端部3E2における突条32~34の端面とが径方向に互いに重なって密着し、密封性が向上する。パッキン3の最大厚みT1(
図4参照)に対して傾斜面3T1及び傾斜面3T2の重なり部の厚みが占める割合は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、本実施形態のように100%であることが最も好ましい。また、厚みが増える場合は120%以下が好ましく、110%以下がより好ましい。傾斜面3T1は、パッキン3の外周面から内周面に亘って形成されていることが好ましい。傾斜面3T2も、これと同様である。パッキン3の最大厚みT1は、例えば15~25mmである。
【0030】
本実施形態において、傾斜面3T1は、パッキン3の内周面に対して鋭角をなすとともに、そのパッキン3の外周面に対して鈍角をなす。傾斜面3T2は、パッキン3の内周面に対して鈍角をなすとともに、そのパッキン3の外周面に対して鋭角をなす。角度θ1及び角度θ3は、いずれも90度未満であり、例えば15~45度である。また、角度θ2及び角度θ4は、いずれも90度超であり、例えば135~165度である。これにより、傾斜面3T1と傾斜面3T2との接触面積を広く確保して、密封性を効果的に高めることができる。各角度θ1~θ4は、平坦面上にパッキン3を載置して直線状に延ばした状態で測定される。
【0031】
本実施形態では、各パッキン片3において、端部3E1が取付具4に対して固定されておらず、端部3E2が取付具4に対して固定されている。端部3E2は、接着によって取付具4に固定されている。端部3E2の外周面、例えば端部3E2の先端を含んだ領域35に接着剤が塗布され、取付具4の溝部41の底面41aに貼付される。工場などで予めパッキン3を取付具4に接着しておけば、施行現場での手間を省ける。端部3E1は、接着されていないので、取付具4に対して自由に動ける。かかる構成によれば、取付具4に対してパッキン3を位置決めした状態で、傾斜面3T1を傾斜面3T2に重ねて密着できるとともに、その傾斜面3T2に対して傾斜面3T1を周方向に沿って摺動させることができる。
【0032】
既述の通り、取付具4は、分割片4Aと、それに隣接する分割片4Bとを周方向に連接して構成される。そして、パッキン3の端部3E1は、
図1及び
図5に示すように分割片4Aの端部から突出して分割片4Bの径方向内側に配置されている。より具体的に言えば、分割片4Aに装着されたパッキン片3Pの端部3E1は、分割部4Sを跨いで分割片4Bに到達し、その分割片4Bの溝部41内で端部3E2に接合されている。分割片4Bに装着されたパッキン片3Pの端部3E1も、これと同様である。このため、取付具4の分割部4Sではなく溝部41内で傾斜面3T1,3T2を互いに堅固に密着させ、密封性を高めることができる。端部3E2を突出させることも可能であるが、取り付け時の作業性に照らすと、端部3E1を突出させることが好ましい。
【0033】
既存のフランジ継手部10に発生している漏水を防ぎ止めるために、漏出防止装置1を取り付ける手順の一例について簡単に説明する。まずは、
図10に示すように、フランジ11,12から固着具20のボルト21を取り外し、隙間14から漏出する水の勢いを弱める。安全のため、ボルト21は一本だけ取り外すことが好ましい。次に、
図11に示すように、径方向外側から分割片4A,4Bをフランジ11,12に被せて、それらを締結具42によって連結し、取付具4をフランジ継手部10に外嵌装着する。その後、
図11に斜線領域で示したフランジ面を清掃し、ボルト21をボルト穴に挿通してナット22で固定する。
【0034】
取付具4を外嵌装着することにより、分割片4A,4Bの各々に保持されたパッキン片3Pがフランジ11,12の外周面に押し付けられる。その際、突出量が相対的に大きい中央の突条32がフランジ11,12のエッジに当接して隙間14の開口を閉塞し、それに続いて突条33,34の各々がフランジ11,12の外周面に密着する。また、パッキン片3Pの端部3E1が、そのパッキン片3Pに隣接するパッキン片3Pの端部3E2に接合され、それによってパッキン3が環状に成形される。端部3E1と端部3E2とは非接着により接合されるので、パッキン3を環状に成形するうえで接着剤は不要である。
【0035】
端部3E1が端部3E2に接合される際、分割片4Aの端部から突出した端部3E1が分割片4Bの溝部41に侵入し、傾斜面3T1と傾斜面3T2とが互いに重なって密着する。分割片4Bの溝部41に侵入した端部3E1は、一対の内壁面41bでガイドされるので、端部3E1が捻じれることなく端部3E2に接合される。また、端部3E2は取付具4に接着されているため、傾斜面3T2に対して傾斜面3T1を適切に摺動させることができる。これと同様に、分割片4Bの端部から突出した端部3E1が分割片4Aの溝部41に侵入し、傾斜面3T1と傾斜面3T2とが互いに重なって密着する。
【0036】
本実施形態と同様の構成を備えた漏出防止装置を用いて、漏水確認試験(水圧試験)を実際に行ったところ、パッキンの端部同士を接着していないにも関わらず、所定以上の高い水圧を付与しても、フランジ継手部から漏水が発生しないことが確認された。また、フランジに対してパッキンを軸方向に位置ずれさせたり、取付具の片方の分割部で締結具を敢えて緩めた状態(片締め状態)にしたりなど、種々の悪条件を設定して試験を行ったが、いずれにおいても良好な結果が得られた。
【0037】
本実施形態では、パッキン3の外周面及び取付具4の内周面が平坦に形成されているが、これに限られず、例えば
図12のように、パッキン3の外周面と、そのパッキン3の外周面に接する取付具4の内周面(底面41a)との間に、相互に嵌合する凹凸部を形成して、取付具4に対するパッキン3の軸方向の位置ずれを防止してもよい。
図12の例では、パッキン3の外周面に径方向外側に向けて突出した凸部36が形成され、底面41aに径方向外側に向けて窪んだ凹部46が形成されているが、これらの凹凸関係を反対にしてもよい。底面41aに凸部を設けている場合は、フランジ11,12に向けて突条32を押圧する効果も得られる。かかる凹凸部の断面形状は、三角形に限られない。
【0038】
本実施形態では、傾斜面3T1及び傾斜面3T2が平坦に形成されているが、これに限られず、例えば
図13のように、傾斜面3T1と傾斜面3T2との間に、相互に嵌合する凹凸部を形成して、端部3E1に対する端部3E2の軸方向の位置ずれを防止してもよい。
図13の例では、傾斜面3T1に径方向内側に向けて窪んだ凹部37が形成され、傾斜面3T2に径方向内側に向けて突出した凸部38が形成されているが、これらの凹凸関係を反対にしてもよい。また、例えば、凹部37に対して凸部38のサイズを小さくするなどして、傾斜面3T1,3T2の摺動を確保できるようにすることが望ましい。
【0039】
本実施形態では、取付具4が二つに分割されている例を示したが、これに限られず、三つ以上に分割されていてもよい。パッキン3は取付具4の分割数と同数に分割されていることが好ましく、それにより、パッキン3を構成するパッキン片の各々を、取付具4を構成する分割片の各々に取り付けることができる。また、本実施形態では、パッキン3の周方向の複数箇所に分割部が形成されている例を示したが、周方向の一箇所に分割部が形成された構成でもよい。
【0040】
本実施形態では流体管として水道管を例に挙げたが、これに限られるものではなく、水以外の各種の液体、気体などの流体に用いる流体管に適用できる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 漏出防止装置
3 パッキン
3P パッキン片
3E1 端部(第1端部)
3E2 端部(第2端部)
3S 分割部
3T1 傾斜面(第1傾斜面)
3T2 傾斜面(第2傾斜面)
4 取付具
4A 分割片
4B 分割片
4S 分割部
10 フランジ継手部
11 フランジ
12 フランジ
32 突条
33 突条
34 突条
41 分割部
42 締結具
P1 水道管(流体管の一例)
P2 水道管(流体管の一例)