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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】視覚系診査装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
A61B3/10 800
A61B3/10 100
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020545125
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 FR2019000023
(87)【国際公開番号】W WO2019166704
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】1800175
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512079439
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ロレーヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】シュワン,ライムント
(72)【発明者】
【氏名】ルイ-ドール,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァイツァー,トーマス
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-087609(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0029463(US,A1)
【文献】特開2017-093984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜電図を含む視覚系の診査装置であって、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図された少なくとも1つの表示画面(11、12)を備える携帯型表示機器(1)を備えるものにおいて、
前記携帯型表示機器(1)は、少なくとも前記表示画面、または該表示画面(11、12)のうちの一方を包囲し、該表示画面(11、12)の正面で前記人の一方の眼または両方の眼の周囲で該人の皮膚に対して押し付けられるように意図されている自由縁を備える閉鎖リップ(2)を備え、前記自由縁は、電位を測定する少なくとも1つの電極(31、32、33)を備え、該電極は前記人の皮膚に対して押し付けられるように意図され、該診査装置は、前記電位を測定する少なくとも1つの自由電極(41、42)を備え、該自由電極は、接続ワイヤ(410、420)を用いて、前記携帯型表示機器(1)によって支持されるコネクタ(22)に、前記表示画面(11、12)のうちの一方と該表示画面(11、12)を包囲する前記閉鎖リップ(2)の前記自由縁との間において接続されることを特徴とする、診査装置。
【請求項2】
前記携帯型表示機器(1)は、前記人の前記眼のうちの一方の正面に配置されるように各々意図されている2つの表示画面(11、12)を備え、かつ、前記閉鎖リップ(2)は前記表示画面(11、12)の各々を包囲していることを特徴とする、請求項1に記載の診査装置。
【請求項3】
前記閉鎖リップ(2)は、前記表示画面(11、12)のうちの少なくとも一方の正面において光学レンズ(6)を保持する手段(23)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の診査装置。
【請求項4】
前記診査装置は、前記携帯型表示機器(1)のための保持ストラップ(5)を備え、該保持ストラップは前記人の頭部の後方に通されるように意図され、該保持ストラップは、前記電位を測定する少なくとも1つの電極を支持することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項5】
前記コネクタ(22)は、可変長のワイヤ(222)で前記携帯型表示機器(1)に支持されていることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項6】
前記診査装置は、前記電極(31、32、33)および前記自由電極(41、42)によって測定されるデータを、前記表示画面(11、12)によって生成される視覚的刺激と同期させることができる取得システムを備えることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項7】
前記取得システムは、前記電極(31、32、33)および前記自由電極(41、42)によって測定される信号を増幅する手段と、前記信号をフィルタリングする手段と、前記信号をデジタル信号に変換する手段とを備えることを特徴とする、請求項6に記載の診査装置。
【請求項8】
前記診査装置は、前記人に指示を伝えるための音響出力を備えることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項9】
前記診査装置は、少なくとも1つの入力周辺装置を備えることを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項10】
前記診査装置は、前記携帯型表示機器(1)から離れた少なくとも1つのコンピュータと、前記携帯型表示機器(1)と前記コンピュータとの間で通信する手段とを備えることを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項11】
前記携帯型表示機器(1)は、前記人の少なくとも一方の眼(91)の正面に配置されるように意図されている少なくとも1つの半反射面と、該半反射面上の反射を用いる、前記眼の方向に向けられた、少なくとも1つの照明および/または画像取込デバイス(7)とを備えることを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項12】
前記半反射面は、前記表示画面(12)の表面によって形成されていることを特徴とする、請求項11に記載の診査装置。
【請求項13】
前記半反射面は、前記表示画面(12)の表面の正面に配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の診査装置。
【請求項14】
前記照明および/または画像取込デバイスはカメラ(7)であることを特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の診査装置。
【請求項15】
前記照明および/または画像取込デバイスは、レーザ発光器と、該レーザ発光器によって放出されるレーザビームの前記眼における反射を取り込む手段とを備えることを特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の診査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚系の診査を行うことを可能にする装置に関する。
【0002】
特に、本発明は、携帯型表示機器を実装するこの種の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
様々なタイプの視覚系の診査が既知である。上記診査は、人の異なる生理学的な眼の特性を検出するためにまたは人の中枢神経系を診査するために、眼科検査を行うために使用されることが多い。したがって、上記診査は、研究のために、または様々な症状の診断を可能にするために使用することができる。
【0004】
視覚系の上記診査の中でも特に、略記ERGで示されることが多い網膜電図(electroretinogram)が既知であり、これは、特に網膜のいくつかの機能的状態または中枢神経系の特定の疾患を診断するのを可能にする電気生理学的検査である。
【0005】
この種の検査は、網膜電位計として知られる装置を使用して、専門の臨床神経生理学または眼科学サービスにおいて行われる。
【0006】
人の瞳孔が検査を実施するために必要な散大状態になるために、術者が上記人の顔面に低電力照明を使用して検査に必要な電極を配置する前に、人は、20分間~30分間の調整期間、暗闇に配置される。上記電極は、角膜の上に、下瞼の皮膚の上に、結膜円蓋内に、または下瞼の下方に配置することができる、1つ以上の測定電極と、前額部上に、眼角上にかつ各耳たぶの上に通常配置される参照電極とを含む。
【0007】
上記電極が位置決めされた後、人は、網膜電位計の正面に配置される。網膜電位計は、閃光、または、可変形状を有する、好ましくは全視野の光刺激等の刺激の放出と、上記光刺激に対する網膜の電気生理学的反応を、様々な電極を介して測定することとを可能にする装置である。
【0008】
この種の検査は、費用がかかり、一般に、医療施設環境においてまたは専門センターにおいてのみ行われる。実際に、網膜電位計は、検査の持続時間全体にわたり暗闇に配置されなければならない、大型で高価な装置である。この検査を行うために、人を暗闇に慣らすために確保される部屋を提供することも必要である。加えて、上記網膜電位計を接続するために、特定の電気設備も組み込まなければならない。
【0009】
したがって、網膜電図は、特定の適応症にしか行われない。しかしながら、特定の網膜疾患、または実際には特定の神経学的若しくは心理学的疾患を、より早期にまたはより体系的に検出するのを可能にするために、これらの検査をより頻繁に実施することが有利である。
【0010】
特許文献1は、網膜電図を含む一連の眼科検査を行うための拡張現実表示機器の使用を開示している。しかしながら、上記文献は、この種の検査を良好な条件下で実際に行うために実施すべき手段およびプロセスについて記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2017/0017083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来技術のこれらの欠点を克服することである。
【0013】
特に、本発明の目的は、視覚系の診査が、従来技術の解決法より容易な条件でかつ低コストで行われるのを可能にすることである。
【0014】
本発明の特定の目的は、網膜電図が調整されかつ完全に制御された条件で行われるのを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的、および以下により明確に浮かび上がる他の目的は、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図された少なくとも1つの表示画面を備える携帯型表示機器を備える視覚系の診査装置によって達成される。本発明によれば、上記表示機器は、少なくとも上記表示画面、またはこの表示画面のうちの一方を包囲し、この画面の正面で人の一方の眼または両方の眼の周囲で人の皮膚に対して押し付けられるように意図されている自由縁を備える閉鎖リップを備え、上記自由縁は、電位を測定する少なくとも1つの電極を備え、この電極は人の皮膚に対して押し付けられるように意図され、本装置は、電位を測定する少なくとも1つの自由電極を備え、この電極は、接続ワイヤを用いて、上記表示機器によって支持されるコネクタに、この表示画面のうちの一方とこの画面を包囲する閉鎖リップの上記自由縁との間において接続される。
【0016】
したがって、本発明による装置により、同時に、外部光から人の眼を完全に隔離し、上記眼の正面で光刺激を実施し、上記刺激に対する電気生理学的反応を測定することが可能になる。したがって、網膜電図を特に簡単な方法で行うことが可能になる。
【0017】
有利な実施の形態によれば、表示機器は、上記人の眼のうちの一方の正面に配置されるように各々意図されている2つの表示画面を備え、上記閉鎖リップは、上記画面の各々を包囲している。
【0018】
したがって、2つの眼に対して差異化された光刺激を行うことが可能であり、各眼は他方の眼に対して意図された刺激から隔離される。
【0019】
有利には、閉鎖リップは、上記画面のうちの少なくとも一方の正面において光学レンズを保持する手段を備える。
【0020】
したがって、視力の矯正を必要とする人の視覚系の観察を容易に行うことができる。
【0021】
本装置は、有利には、上記表示機器のための保持ストラップを備え、このストラップは上記人の頭部の後方に通されるように意図され、上記保持ストラップは、電位を測定する少なくとも1つの電極を支持する。
【0022】
したがって、網膜電図が実施されている間に、光刺激に対する後頭皮質の電気生理学的反応を容易に測定することができる。
【0023】
有利な実施の形態によれば、上記コネクタは、可変長のワイヤを用いて、上記表示機器によって支持されている。
【0024】
したがって、人への自由電極の設置、上記電極の表示機器への接続、および表示機器の設置を容易にすることができる。
【0025】
本装置は、好ましくは、電極によって測定されるデータを、上記画面(複数の場合もある)によって生成される視覚的刺激と同期させることができる取得システムを備える。
【0026】
上記取得システムは、電極によって測定される信号を増幅する手段と、上記信号をフィルタリングする手段と、上記信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する手段とを備える。
【0027】
有利な特徴によれば、本装置は、上記人に指示を伝えるための音響出力を備える。
【0028】
上記音響出力は、例えば、スピーカによって形成される。
【0029】
有利には、本装置は、少なくとも1つの入力周辺装置を備える。
【0030】
この種の周辺装置は、例えば、表示機器を装着している人によって所持される操作レバーによって、または、音声認識プログラムに関連付けられたマイクロフォンによって形成することができる。
【0031】
好ましい実施の形態によれば、本装置は、上記表示機器から離れた少なくとも1つのコンピュータと、上記表示機器と上記リモートコンピュータとの間で通信する手段とを備える。
【0032】
リモートコンピュータは、例えば、表示機器により収集されたデータの処理および分析を実施することができる。通信手段は、特に、無線または有線手段とすることができる。
【0033】
特に有利な実施の形態によれば、携帯型表示機器は、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図されている少なくとも1つの半反射面と、この半反射面上の反射を用いる、上記眼の方向に向けられた、少なくとも1つの照明および/または画像取込デバイスとを備える。
【0034】
したがって、上記照明および/または画像取込デバイスは、人の眼を観察するかまたはそこで検査を行うために、上記眼の画面に対する視界を損なうことなく、上記眼に向けることができる。
【0035】
上記半反射面は、有利には、上記画面の表面によって形成されている。
【0036】
別の有利な実施の形態によれば、上記半反射面は、上記画面の表面の正面に配置されている。
【0037】
有利には、上記照明および/または画像取込デバイスはカメラである。
【0038】
この場合、本装置は、眼の位置を有利に追跡することができる。
【0039】
別の有利な解決法によれば、上記照明および/または画像取込デバイスは、レーザ発光器と、このレーザ発光器によって放出されるレーザビームの眼における反射を取り込む手段とを備える。
【0040】
この場合、本装置は、光干渉断層撮影等の検査を有利に行うことができる。
【0041】
本発明の他の目的および利点は、単に単純な代表的かつ非限定的な例として与えられ、図が添付される、好ましい実施形態の以下の説明を読むことからより明確に浮かび上がるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】視覚系の診査を行うのに好適である表示機器を示す図である。
図2】特定の実施形態による表示機器の詳細図である。
図3図2の表示機器を装着している人の頭部の、水平面による概略部分断面図である。
図4】本発明の一変形形態による表示機器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、本発明の一実施形態による、視覚系の診査を行うのに好適な携帯型表示機器を示す。
【0044】
本明細書では、「携帯型表示機器」という用語は、人の顔面に装着することができ、上記人が、その人の動きとは無関係に、人の眼の正面の固定位置に配置された1つ以上の画面で画像を見ることができるようにする、機器を示す。したがって、この種の表示機器により、人の眼の各々により異なる画像、例えば、同じ仮想物体の異なる視野角を有する画像を見るのを可能にすることができる。この種の機器は、それ自体既知であり、ヘルメット、マスクまたは眼鏡に統合されることが多い。この種の機器は、仮想現実または3次元画像を見るのを可能にするために使用されることが多い。
【0045】
したがって、図1に示す装置は、視覚系の診査を行うのに特に適合されている携帯型表示機器を形成するマスク1を備える。上記マスク1は、人の右眼を覆うように位置決めされる右側表示画面11と、人の左眼を覆うように位置決めされる左側表示画面12とを備える。
【0046】
マスク1に、右側表示画面11の右側に、かつ左側表示画面12の左側に取り付けられるストラップ5は、人の顔面にマスク1を保持するのを可能にするように意図されている。上記ストラップ5は、有利には弾性ストラップとすることができ、顔面でのマスク1の良好な調整および良好な保持を可能にするために、その長さは、好ましくは、既知の方法に従って調整可能である。
【0047】
有利には、マスク1はまた、閉鎖リップ2も備え、閉鎖リップ2は、2つの表示画面11および12を包囲し、人の眼の周囲で人の皮膚に接して配置されるように意図されている。したがって、上記閉鎖リップ2により、表示画面11および12のうちの一方から生じていない寄生光または干渉光と通常称される全ての外部光から、人の眼を隔離することが可能になる。したがって、この視覚系の診査装置により、人がいる部屋の照明条件とは無関係に、人の眼が見ることができる光を完全に制御することが可能になり、これにより、完全に制御された条件での視覚系の診査が可能になる。
【0048】
有利には、閉鎖リップ2は中央梁21を有し、中央梁21は、人の前額部および鼻に接して配置されるように意図され、人の眼の各々を他方の眼の正面に配置された表示画面によって放出される光から隔離するのを可能にする。上記中央梁21により、人の眼の各々に達する光を完全に制御することが可能になり、これにより、各眼の刺激を実施する視覚系の診査を独立して実施することが可能になる。
【0049】
上記閉鎖リップが存在することにより、マスク1は、人がいる室内の照明レベルとは無関係に、人の眼を完全な暗闇に配置することができる。したがって、人が装着するマスク1により、上記人が暗くされた部屋に配置される必要が全くなしに、20分間~30分間、暗闇に対する上記人の調整が可能になり、次いで、網膜電図を行うことができる。
【0050】
第1のあり得る実施形態によれば、閉鎖リップ2は、可撓性ゴム、シリコン、または他の任意の適切な可撓性材料等、可撓性材料の壁によって形成することができる。上記壁は、好ましくは、濃い色であり、光の通過を阻止するのに十分な厚さである。使用中、上記壁の自由縁は、人の皮膚に接触し、上記人の顔面の形状に適合するために変形する。
【0051】
別のあり得る実施形態によれば、閉鎖リップは、好ましくは濃い色でありかつ光の通過を阻止するのに十分に厚い、可撓性フォームから形成される。上記フォームは、可撓性プラスチックフィルムまたは布地によって覆うことができる。使用中、上記リップの自由縁は、人の皮膚に接触し、上記人の顔面の形状に適合するために変形する。
【0052】
本発明の他のあり得る実施形態では、マスク1は、人の眼の両方を覆うように位置決めされた単一画面を有することができることが留意されるべきである。この場合、閉鎖リップ2は、中央梁なしに、単一画面を包囲することができる。中央梁が、上記画面を、各々が人の眼のうちの一方の正面に位置決めされる2つの部分に分離するために、上記画面の正面で延在することも可能である。
【0053】
好ましくは、人の皮膚と接触するように意図された閉鎖リップ2の部分は、1つ以上の参照電極31、32および33を備えることができる。上記電極は、有利には、乾式接触電極とすることができる。したがって、人がマスク1を装着すると、参照電極31、32および33は、マスク1とは別個に設置するかまたは接着する必要なしに、人の皮膚に直接接して配置される。図示する実施形態では、リップ2は、3つの参照電極31、32および33を備える。しかしながら、上記参照電極の数および位置は、本発明の他の実施形態では異なる場合がある。
【0054】
測定電極
網膜電図を行うのを可能にする、測定電極41および42または眼電極は、人の眼に接触してまたは人の眼に近接して配置されなければならない。好ましくは、良好な信号対雑音比を有する信号を得るために、上記電極は、眼に接触して、多くの場合は人の瞼のうちの一方の下に配置されなければならない。眼の上の上記配置が不可能であるかまたは複雑である場合、瞼の上、例えば人の下瞼の上に上記電極を配置することも可能である。上記電極は、マスク1が人の眼の上に位置決めされる前に、術者によって配置されなければならない。
【0055】
有利には、上記測定電極41および42は、それぞれワイヤ410および420によってマスク1に接続される。図1に示すように、電極42に接続されていないワイヤ420の端部は、プラグ421に接続されており、プラグ421の形状は、コネクタを形成するソケット22に対して相補的である。上記ソケット22は、マスク1内で、閉鎖リップ2の内側の空間に、すなわち、表示画面のうちの一方と上記画面を包囲する閉鎖リップ2の自由縁との間に位置決めされている。好ましくは、図1に示すように、上記ソケット22は、リップ2のうちの1つの内面に位置する。他の実施形態では、上記ソケットは、リップ2によって包囲されるゾーンにおいて画面11または12の側部に位置することができる。
【0056】
したがって、人がマスク1を装着するとき、上記ワイヤ420は、その人の皮膚と閉鎖リップ2との間を通過しない。リップ2には、外部光が人の眼に向かって進入するのを可能にし得る局所的な上昇部はない。したがって、電極42のこの特定の接続は、眼に達する光の完全な制御と、人の眼の診査のための条件とに寄与する。
【0057】
測定電極41のワイヤ410は、有利には、閉鎖リップ2の内側に位置する空間内に配置された好適なコネクタに、同一の方法で接続される。
【0058】
図2は、特定の実施形態に従って適合される、携帯型表示機器を形成するマスク1の詳細図である。したがって、上記図は、上記マスクの閉鎖リップ2の一部を示し、そこでは、ワイヤ222が通過するのを可能にするために、円筒状孔223があけられている。閉鎖リップによって画定される空間内部に位置する上記ワイヤの端部は、ソケット221を支持し、ソケット221は、ワイヤ420によって電極42に接続されたプラグ421を接続することができるコネクタを形成する。
【0059】
閉鎖リップ2によって画定される空間内部に位置するワイヤ222の長さにより、術者が人の眼の上に電極42を設置すると、かつ、マスク1が患者の顔面に位置決めされる前に、ソケット221内のプラグ421の接続をより容易に行うことが可能になる。上記接続が行われ、マスク1が患者の顔面に位置決めされると、ソケット221が、孔223の辺りで閉鎖リップ2の内面のソケットを受け入れるように意図された空間224内の位置にくるまで、マスク1の外側からワイヤ222を引き出すことができる。したがって、ワイヤ222は、閉鎖リップ2の内側に位置する空間内にとどまらず、マスク1の画面12に対する人の視界を損なわない。さらに、外部からの光が上記孔223を介してリップ2を通過することができないように、孔223は、有利には、ワイヤ222の直径に実質的に等しい直径である。
【0060】
図4は、本発明の一変形形態による携帯型表示機器を形成するマスク1を示す。この変形形態によれば、リップ2の内面は、光学レンズ6または矯正レンズが画面11および12の正面で維持されるのを可能にする突出部23を備える。行われる変形形態では、画面11の正面に1つのレンズ6のみが配置されている。好ましくは、マスク1を使用する人、または術者は、上記人が画面11および12によって投影される画像を明瞭に見るために、人の眼に好適な矯正を有するレンズ6を突出部23内に配置することができる。
【0061】
特に有利な方法で、マスク1は、調整された矯正を測定するのを可能にする手段を備えることができる。したがって、マスク1は、提供される必要がある矯正を決定するために、屈折計を用いて人の眼の分析を行うのを可能にする手段を備えることができる。
【0062】
更に別の変形形態によれば、画面11および12は、人が上記画像を明瞭に見るために、必要な光学補正をシミュレートする画像を表示するように調整することができる。画面11および12のこうした調整は、それ自体、当業者には既知である。
【0063】
本発明による携帯型表示機器を使用して、有利に、従来技術の解決法の場合より簡単な方法で網膜電図を行うことが可能になる。
【0064】
上記テストを行うために、術者は、最初に、測定電極を、人の眼に接触してまたは人の下瞼と接触して位置決めしなければならない。上記測定電極を設置した後、上記術者は、マスク1内に位置するコネクタに上記電極のワイヤを接続し、実際に、測定電極のワイヤが閉鎖リップ内側に配置され、画面11および12に対する人の視界を損なわないことを確実にして、人の眼の上にマスクを位置決めすることができる。
【0065】
マスク1の上記設置中、閉鎖リップ2によって支持される参照電極31、32および33は、人の眼の周囲で人の皮膚と直接接触するように位置決めされる。
【0066】
マスク1が設置されると、人の眼は、外部光から人の眼を隔離するマスク、画面11および12並びに閉鎖リップ2によって暗闇で維持される。したがって、暗闇に適合するために20分間~30分間の期間、人を暗闇で維持することができ、その結果、安定した瞳孔散大がもたらされる。
【0067】
暗闇への調整の上記ステップに続き、人がマスクを取り外すかまたは位置を変える必要なしに、網膜電図自体が実施される。これを行うために、表示画面11および12は、視覚的刺激または閃光を表示する。上記刺激は、画面11または12のうちの一方を介して、単眼用であり、すなわち人の眼の一方のみに関連するか、または、画面11および12によって同時に行われる、両眼の同時刺激による両眼用とすることができる。マスク1が、人の眼の両方の正面に延在する単一の画面のみを有する実施形態では、例えば、人の眼のうちの一方の正面に不透明シールドを配置することにより、単眼用刺激を達成することができる。上記不透明シールドは、例えば、光学レンズを保持するために設けられた突出部23によって、保持することができる。
【0068】
上記視覚的刺激は、既知の検査プロトコルで使用されるものとすることができる。したがって、上記視覚的刺激は、人の眼から指定された距離で、安定したまたは可変の閃光または指定されたパターンの表示からなる場合がある。
【0069】
単眼用刺激の場合、画像と人の眼との間の距離は、画面に表示される画像のサイズを調整する手段によってシミュレートすることができる。両眼用刺激の場合、上記距離は、画像のサイズを調整する手段により、かつ、画面11および12に表示される画像の間で視野角をずらして立体視を可能にすることにより、シミュレートすることができる。
【0070】
有利には、多焦点網膜電図に対応する刺激プロトコルの状況内で、網膜の異なるゾーンを順次刺激するために、表示される画像は、増大する周期性で変化することができる。同様に、プロトコルは、異なる網膜神経細胞を刺激するために、白黒またはカラー画像から構成された視覚的刺激を実施することができる。同様に、携帯型表示機器を使用することにより、3次元画像の形態で光刺激を実施するプロトコルも可能になる。
【0071】
マスク1によって有利に支持される取得システムにより、有用な網膜電図測定値を得るために、電極によって測定されるデータを画面11および12によって生成される視覚的刺激と同期させることが可能になる。上記取得システムは、好ましくは、電極によって測定される信号を増幅する手段と、上記信号の無関係な成分を抑制するために上記信号をフィルタリングする手段と、上記アナログ信号をデジタル信号に変換する手段とを備える。
【0072】
増幅手段は、例えば、利得が高同相信号除去比(100dBを超える)で少なくとも80dBである計装および絶縁前置増幅器と、変換の前に利得が調整されるスケーリング増幅器とを含むことができる。フィルタリング手段は、連続したかつ非常にわずかに可変の成分を除去する、カットオフ周波数がおよそ0.2Hzであるハイパスフィルタと、300Hzを超える高周波数外乱を排除するローパスフィルタと、その領域の交流電流からもたらされる50Hzの電位を除去する、アナログデジタル変換の後に実装されるデジタルフィルタとを含むことができる。変換手段は、12ビット変換で8つのアナログ経路を有し、かつサンプリング周波数を4096サンプル/秒で固定することができる、アナログデジタル変換器を含むことができる。
【0073】
データは、取得システムによってこのように処理されているため、その後、上記データの解釈を行うことができる処理ソフトウェアにデータを送信することができる。好ましい実施形態によれば、上記処理ソフトウェアは、マスク1からリモートのコンピュータで実行される。この場合、マスク1は、マスク1が、取得システムによって測定および処理されたデータを処理ソフトウェアが実行されるコンピュータに送信することができるようにする、例えば無線を介する通信手段を備えることができる。
【0074】
有利には、ソフトウェアは、視覚系の診査を行うために必要な一連のステップを管理するために、マスク1内で、またはマスク1に接続されたコンピュータ内で実装することができる。したがって、上記ソフトウェアは、スピーカによって、ヘッドフォンによって、またはスピーカ若しくはヘッドフォンの接続を可能にするプラグによって形成される音響出力を管理することができ、音響出力は、診査を正確に行うための使用指示を、マスク1を使用している人に伝えることができる。上記ソフトウェアは同様に、情報の表示を、マスク1を装着している人に可視であるように画面11および12のうちの一方において、または、マスク1によって支持され、術者等、マスクを装着していない人に可視であるように位置決めされている別の画面において、制御することができる。
【0075】
有利な解決法によれば、マスク1を装着している人は、好適な入力周辺装置を介してソフトウェアとインタラクトすることができる。上記入力周辺装置は、接続ケーブルを介して、または、例えば、無線リンク、例えばBluetoothプロトコルを介してマスク1に接続することができる、例えば操作レバー(通常、ジョイスティックと称される)によって、形成することができる。上記入力周辺装置はまた、人の音声を取り込むことを可能にする、例えばマスク1内に配置されたマイクロフォンによっても形成することができる。この場合、ソフトウェアは、例えば、使用者からの単純な指示を認識するのを可能にする音声認識手段を備えることができる。
【0076】
上記ソフトウェアは、電極によって測定されたデータの一貫性を検証するために、取得システムによって収集および処理されたデータの予備分析も行うことができる。したがって、上記ソフトウェアは、あらゆる視覚的刺激の前に、電極が正確に位置決めされていることを示す、電極が信号を測定していることを確認することができる。そして、上記ソフトウェアは、一連の視覚的刺激を実施し、上記データが、人の眼または瞼の動き等の測定異常によって乱されていないことを確認するために、取得システムによって収集および処理されたデータを分析することができる。こうした異常が現れる場合、ソフトウェアは、上記刺激に対して、異常のない結果を得ようとするために、一連の刺激を繰り返すことができる。
【0077】
したがって、このソフトウェアは、術者による介入の必要なしに、一連のステップまたは検査の連続したまたは同時の実施を調整することができる。例えば、網膜電図の場合、ソフトウェアは、暗闇への調整のステップに続き、刺激ステップを自動的に開始することができる。
【0078】
本発明による携帯型表示機器は、有利には、視覚系または神経系の診査を目標とする他の検査を行うのを可能にするコンポーネントを備えることができる。
【0079】
例えば、特に有利な実施形態では、保持ストラップ5は、首筋のすぐ上方において、頭蓋の後部に位置する後頭葉の神経細胞の集団における電気生理学的電位を測定するように意図された、1つ以上の電極、例えば、2つの右側後頭部電極51および左側後頭部電極52を備えることができる。上記電極は、有利には、乾式接触電極とすることができる。上記後頭部電極51および52によって測定されたデータは、有利には、参照電極および眼電極から生じるデータを収集する取得システムによって収集および処理することができる。好ましくは、取得システムは、網膜によって知覚される光刺激に対する後頭皮質の反応を同期して測定するために、網膜電極41および42と後頭部電極51および52とから生じるデータを同時に収集する。
【0080】
別のあり得る実施形態では、表示機器は、例えば網膜電図を実施する前に、人の視野を測定する手段を備えることができる。これを達成するために、画面11および12は、人の視野内および視野外で、連続した指定された位置であるが、人が予測することができない位置で光点を表示することができ、人は、例えば、操作レバーを用いて、または、マイクロフォンによって感知され表示機器のソフトウェアによって解釈される口頭指示を用いて、これらの点を知覚するか否かを示す。
【0081】
表示機器は、また、有利には、(通常、略語「OCT」で示される)光干渉断層法、網膜写真撮影(retinophotography)、網膜屈折率測定(retinorefractometry)または瞳孔測定を行うのを可能にする診査手段も備えることができる。したがって、瞳孔測定は、瞳孔が網膜電図を行うのに十分散大しているかを確認するために網膜電図の前に、かつ、散大が一定のままであることを確認するために網膜電図中またはその後に行うことができる。例えば、最適な検査条件の全体的な制御を確実にするために、眼および/または瞼の位置を検出すること(一般に、「アイトラッキング」と称される操作)も可能である。
【0082】
この種の検査または眼の位置の検出を行うために、人の眼に向けなければならない、照明システム、例えばレーザビーム、および/またはカメラ等の画像取込システムを使用することが知られている。しかしながら、携帯型表示機器では、人の眼の正面に1つ以上の画面が存在することにより、こうした照明システムまたは画像取込システムが人の眼の正面において適切な位置に配置されるのが阻止される。
【0083】
本発明の特に有利な特徴によれば、人の視野の外側にこうした照明システムまたは画像取込システムを配置し、人の一方または両方の眼の正面に配置された半反射面上における反射によってそれらを眼の上に向けることが考えられた。上記半反射面は、例えば、画面自体の表面、または画面の正面に配置された他の任意の半反射面によって形成することができる。必要な場合は、この反射面は、画面の向きとは異なる特定の向きを有することができる。上記半反射面は、画面の視界を損なわないが、例えば、画面が光を全くまたはほとんど放出しないとき、レーザビーム等の光ビームを眼の上に向けるために反射するか、または、眼の画像をカメラ上で撮り込むために反射することを可能にする。
【0084】
図2および図3は、この技術的解決法の一実施形態を示す。図2において、マスク1の閉鎖リップ2は、画面12の方に向けられている小型カメラ7を支持していることを見ることができる。上記カメラ7は図3でも可視であり、図3は、マスク1を装着している人の頭部9の一部を示す、水平面による概略断面である。カメラ7の指向を表す破線によって示すように、このカメラの指向により、半反射面を形成する画面12に反射される眼91の画像を取り込むことが可能になる。したがって、カメラ7は、例えば、眼の位置、瞳孔のサイズまたは瞼の位置を表す画像を取り込むことができる。
【0085】
このカメラは、例えば、画面12のスイッチが切られた瞬間に、または上記画面が、眼を照明するためには十分であるが眼の画像の反射を妨げない、弱くかつ均一な光のみを放出する瞬間に、または実際には、眼を照明するために、反射のために使用されない画面のゾーンのみが光を放出し、反射に使用される画面のゾーンはスイッチが切られている瞬間に、使用することができる。他の場合では、カメラの使用を可能にする照明は、画面と並んで配置されるエレクトロルミネッセンスダイオードを用いて達成することができる。
【0086】
他の実施形態では、画面の上、または画面の正面に配置された半反射面上の反射を用いて、眼の上にレーザビームを向け、同様に、上記レーザビームの眼による反射を取り込むことができる。
【0087】
眼の上に照明システムまたは画像取込システムを向けるための、こうした、半反射面として眼の正面に配置される画面の使用、または画面の正面に配置される半反射面の使用は、本出願に記載した表示機器の他の特徴とは無関係に、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図されている少なくとも1つの表示画面を備える、全てのタイプの携帯型表示機器において有利に実施することができることが留意されるべきである。
【0088】
したがって、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図されている少なくとも1つの表示画面を備え、人の少なくとも一方の眼の正面に配置されるように意図されている少なくとも1つの半反射面と、上記半反射面上の反射を用いる、眼の上に向けられた少なくとも1つの照明および/または画像取込デバイスとを備える携帯型表示機器は、特に有利である。
【0089】
この場合、半反射面は、有利に、画面自体の表面、または画面の正面に配置された半反射面の何れかとすることができる。
図1
図2
図3
図4