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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】多層構造石英ガラス材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20221021BHJP
   C03B 19/08 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C03B20/00 A
C03B20/00 K
C03B20/00 G
C03B19/08 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019141698
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024750
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英昭
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀春
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-119650(JP,A)
【文献】特開平04-362036(JP,A)
【文献】特開平08-104540(JP,A)
【文献】特開昭63-282134(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00728709(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00,19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とを対向する面が所定間隔で略平行になるようにスペーサーを介して支持した仮組材を形成し、
(2)形成した仮組材の外周縁に、原料粉末投入部を有するシール材を配置し、仮組材及びシール材を上下から、下型及び上型で挟み込んで、原料粉末充填用の鋳型を形成し、
(3)前記シール材の原料粉末投入部が略上方に位置し、傾斜させた前記鋳型内の仮組材の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間に、鋳型に連続的又は断続的に振動を与えつつ不透明層用の原料粉末を連続的又は断続的に充填して、2枚のガラス板の間に原料粉末層を有する多層構造体を調製し、
(4)仮組材から多層構造体を取り出し、取り出した多層構造体を加熱して原料粉末を溶融させ、その後に冷却して、見掛け密度が2.0g/cm 3 以下である不透明石英ガラス層を有する多層構造石英ガラス材を得る、
ことを含む多層構造石英ガラス材の製造方法。
【請求項2】
仮組材の平面形状がリング状の場合、原料粉末充填用の鋳型は、仮組材のリング内の内周縁を密閉するシール材を設けた、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
スペーサーは、耐熱性材料及び可燃性材料の多層構造を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
鋳型の傾斜角度は、20~70°の範囲である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
原料粉末の充填は、振動フィーダーを用いて行う、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
仮組材から取り出した多層構造体は、原料粉末層の均一性を確認した後に、加熱溶融工程に付す、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
原料粉末は、シリカ粉末又はシリカ粉末及び窒化ケイ素粉末の混合粉末である請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
多層構造体の加熱は、多層構造体の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の外側から対向する向きに荷重を掛けつつ行う、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
多層構造体の加熱は、電気炉を用いて行う、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の平面形状が、矩形、円形、またはリング状である請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の平面形状がリング状であり、2枚のガラス板の間の内周縁を密閉した仮組材を用いる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
多層構造石英ガラス材は、500℃における熱伝導率が、1.1 W/(m・K)以下である、請求項1~11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造石英ガラス材の製造方法に関する。より詳細には、本願発明は、不透明層の両側に透明層を有する多層構造石英ガラス材の製造方法に関する。
【0002】
多層構造石英ガラス材は、断熱性が要求される分野への使用を主目的とした多層構造材料である。多層構造材料は、特に半導体製造用のベルジャー、拡散炉の炉芯管、ボート保持治具等を構成する熱処理用加熱炉の断熱材などに利用される。
【背景技術】
【0003】
シリコンウエハーの熱処理用加熱炉は、例えば図8に示すように、発熱体1と、炉芯管2と、シリコンウエハー3を支持するボート4と、保温筒5と、基台6とを有する。炉芯管2の下部にはフランジ9が設けられている。フランジ9は不透明石英ガラス製であり、透明ガラス製の炉芯管2と酸水素炎による溶接により一体に接合されている。フランジ9は熱遮断材として作用し、耐熱性に劣るパッキン7や基台6への熱の伝播を抑制している。またパッキン7を介してフランジ9 と基台6とのシールにより炉芯管内は所定の雰囲気に保たれる。
【0004】
フランジ部には、表面に透明部を有する不透明石英ガラス材が使用され、不透明部は均一に分散した気泡を含み、高温粘性及び熱遮断性に優れ、表面の透明部は、気泡由来の凹凸がない平滑な表面を有する。半導体製造における各種加熱処理装置の炉芯管のフランジ部材に適した不透明石英ガラス製リング材やその製造方法は、例えば特許文献1~4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-067456号公報
【文献】特開平07-300326号公報
【文献】特開平11-116265号公報
【文献】特開平11-209135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、このような半導体装置で用いられる不透明石英ガラス材途に対して、省エネルギー、加熱炉の温度分布の均一性の点から、加熱炉からの輻射や伝導による熱の遮断について、性能改善の要求がある。
【0007】
しかし、特許文献2~4に記載の透明部を有する不透明石英ガラス材料は、材料の熱伝導率が高く、上記要求に応える物ではなかった。また、熱伝導率が高いことで、エネルギー損失が大きく、運転コストが増加し、あるいは、熱を遮蔽するために材料の厚みが増し、装置コストが増加するという問題があった。
【0008】
特許文献1には、不透明石英ガラス板を2枚の透明石英ガラス板の間にバーナー火炎により溶着する多層石英ガラス板の製造方法が記載されている。この方法では、各ガラス板が数mm程度と薄ければ接合が容易であるが、板が厚くなると溶着不良を招き、透明層と不透明層との間に隙間ができる。このため、不純物の進入や昇温・降温過程での透明層と不透明層との剥離が起こる懸念がある。また、この方法で製造できる多層石英ガラス板の不透明層は、見掛け密度が高く、多層石英ガラス板の熱伝導率も高く、加熱炉からの輻射や伝導による熱を十分に遮断できる物ではなかった。さらに、長方形の多層構造石英ガラス材を製造するには有利であるが、 実際、半導体装置用途の場合は円形、リング形状が多く、製品化の際の歩留が低くなるという課題もある。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための多層構造石英ガラス材を提供することを目的として、2枚の透明石英ガラス板の間にシリカ粉末を充填し、その後加熱してシリカ粉末を溶融することで、透明石英ガラス板の間に不透明層を有する多層構造石英ガラス材を製造する方法を開発し、特許出願した。この方法によれば、見掛け密度が2.0g/cm3以下である不透明石英ガラス層を有する多層構造石英ガラス材を提供できた。
【0010】
本発明者らは、さらに、上記方法を用いて、大型の多層構造石英ガラス材の調製や円形やリング形状の多層構造石英ガラス材の直接調製を試みた。その結果、大型化したり、円形やリング形状の場合、2枚の透明石英ガラス板の間にシリカ粉末を均一に充填することは容易ではなく、シリカ粉末を均一に充填できないと、所望の性能を有する多層構造石英ガラス材が得られないことを見出した。
【0011】
そこで本発明では、2枚の透明石英ガラス板の間にシリカ粉末が均一に充填できる方法を見出し、2枚の透明石英ガラス板の間に均一に充填できたシリカ粉末を溶融することで、所望の性能を有する、大型の多層構造石英ガラス材の調製や円形やリング形状の多層構造石英ガラス材の直接調製を提供することを課題とする。
【0012】
所望の性能とは、見掛け密度が低い不透明層を有し、多層石英ガラス板の熱伝導率も低く、その結果、加熱炉からの輻射や伝導による熱を十分に遮断できる性能である。
【0013】
種々検討した結果、所定の角度に傾けた2枚の透明石英ガラス板の間に、2枚の透明石英ガラス板に振動を与えつつシリカ粉末を供給することで、シリカ粉末を2枚の透明石英ガラス板の間に均一に充填でき、このシリカ粉末を透明石英ガラス板の間で溶融することで、所望の性能を有する、大型の多層構造石英ガラス材の調製や円形やリング形状の多層構造石英ガラス材の直接調製を提供することを見出して、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の以下の通りである。
[1]
(1)第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とを対向する面が所定間隔で略平行になるようにスペーサーを介して支持した仮組材を形成し、
(2)形成した仮組材の外周縁に、原料粉末投入部を有するシール材を配置し、仮組材及びシール材を上下から、下型及び上型で挟み込んで、原料粉末充填用の鋳型を形成し、
(3)前記シール材の原料粉末投入部が略上方に位置し、傾斜させた前記鋳型内の仮組材の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間に、鋳型に連続的又は断続的に振動を与えつつ不透明層用の原料粉末を連続的又は断続的に充填して、2枚のガラス板の間に原料粉末層を有する多層構造体を調製し、
(4)仮組材から多層構造体を取り出し、取り出した多層構造体を加熱して原料粉末を溶融させ、その後に冷却して多層構造石英ガラス材を得る、
ことを含む多層構造石英ガラス材の製造方法。
[2]
仮組材の平面形状がリング状の場合、原料粉末充填用の鋳型は、仮組材のリング内の内周縁を密閉するシール材を設けた、[1]に記載の製造方法。
[3]
スペーサーは、耐熱性材料及び可燃性材料の多層構造を有する、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
鋳型の傾斜角度は、20~70°の範囲である[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
原料粉末の充填は、振動フィーダーを用いて行う、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
仮組材から取り出した多層構造体は、原料粉末層の均一性を確認した後に、加熱溶融工程に付す、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
原料粉末は、シリカ粉末又はシリカ粉末及び窒化ケイ素粉末の混合粉末である[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
多層構造体の加熱は、多層構造体の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の外側から対向する向きに荷重を掛けつつ行う、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
多層構造体の加熱は、電気炉を用いて行う、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の平面形状が、矩形、円形、またはリング状である[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の平面形状がリング状であり、2枚のガラス板の間の内周縁を密閉した仮組材を用いる、[10]に記載の製造方法。
[12]
多層構造石英ガラス材は、不透明石英ガラス層の見掛け密度が、2.0g/cm3以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
多層構造石英ガラス材は、500℃における熱伝導率が、1.1 W/(m・K)以下である、[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の角度に傾けた2枚の透明石英ガラス板の間に、2枚の透明石英ガラス板に振動を与えつつシリカ粉末を供給することで、シリカ粉末を2枚の透明石英ガラス板の間に均一に充填でき、このシリカ粉末を透明石英ガラス板の間で溶融することで、所望の性能を有する、大型の多層構造石英ガラス材の調製や円形やリング形状の多層構造石英ガラス材の直接調製を提供することができる。所望の性能とは、見掛け密度が低い不透明層を有し、多層石英ガラス板の熱伝導率も低く、その結果、加熱炉からの輻射や伝導による熱を十分に遮断できる性能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】平面形状が円形の仮組材における、第1及び第2の透明石英ガラス板並びにスペーサーの配置の例を示す。
図2】平面形状がリング状である仮組材の場合の第1及び第2の透明石英ガラス板並びにスペーサーの配置の例を示す。
図3】外周縁用シール材50を上面に配置した下型40の例を示す。
図4】外周縁用シール材50を上面に配置した下型40の外周縁用シール材50の内周縁51内に適合した平面形状の仮組材1を設置した例を示す。
図5】下型40の上面に外周縁用シール材50を配置し、さらに外周縁用シール材50の内周縁51内に仮組材1を設置した後に、上型60を設けた状態を示す。
図6】仮組材の2枚のガラス板の間に原料粉末を充填して、原料粉末層を有する多層構造体を調製する方法の説明図。
図7】原料粉末層の均一性の確認方法の例を示す。
図8】シリコンウエハーの熱処理用加熱炉の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<多層構造石英ガラス材製造方法>
本発明の多層構造石英ガラス材製造方法は、以下の(1)~(4)の工程を含む。
(1)第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とを対向する面が所定間隔で略平行になるようにスペーサーを介して支持した仮組材を形成し、
(2)形成した仮組材の周縁に、原料粉末投入部を有するシール材を配置し、仮組材及びシール材を上下から、下型及び上型で挟み込んで、原料粉末充填用の鋳型を形成し、
(3)前記シール材の原料粉末投入部が略上方に位置し、傾斜させた前記鋳型内の仮組材の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間に、鋳型に連続的又は断続的に振動を与えつつ不透明層用の原料粉末を連続的又は断続的に充填して、2枚のガラス板の間に原料粉末層を有する多層構造体を調製し、
(4)仮組材から多層構造体を取り出し、取り出した多層構造体を加熱して原料粉末を溶融させ、その後に冷却して多層構造石英ガラス材を得る。
【0018】
(1)仮組材の形成
この工程では、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とを対向する面が所定間隔で略平行になるようにスペーサーを介して支持した仮組材を形成する。
第1及び第2の透明石英ガラス板は、多層構造石英ガラス材の表面層(第1層、第3層)である透明石英ガラス層となる材料である。第1及び第2の透明石英ガラス板は、気泡を含まない透明性に優れたガラスからなる。第1及び第2の透明石英ガラス板の厚みは特に制限はないが、それぞれ独立に、例えば、1~10mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではなく、用途に応じて適宜決定できる。また、第1及び第2の透明石英ガラス板の密度は特に制限はないが、それぞれ独立に、例えば、2.0~2.5 g/cm3の範囲であることができる。
【0019】
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の平面形状は、矩形、円形、またはリング状であることができる。
【0020】
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とは、対向する面が所定間隔で略平行になるようにスペーサーを介して支持する。スペーサーは、耐熱性および剥離性に優れるという観点から炭素材料からなることが適当であり、例えば、炭素フェルトであることができる。スペーサーの高さは、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の間に投入する不透明層用の原料粉末量に応じて適宜決定する。スペーサーは、2つの透明石英ガラス板の間隔をほぼ一定に保つことができれば良く、第1及び第2の透明石英ガラス板の外周縁に複数箇所、例えば、3~12箇所、略等間隔に設けることができる。尚、第1及び第2の透明石英ガラス板の平面形状がリング状の場合、スペーサーは第1及び第2の透明石英ガラス板の外周縁のみならず、内周縁にも、複数箇所、例えば、3~12箇所、略等間隔に設けることができる。
【0021】
図1に平面形状が円形の仮組材における、第1及び第2の透明石英ガラス板並びにスペーサーの配置の例を示す説明図である。上側の図は平面図、下側の図はA-B断面図である。第1の透明石英ガラス板11と第2の透明石英ガラス板12とは、対向する面が所定間隔で略平行になるように複数のスペーサー20を介して支持される。図1の仮組材の例では、複数のスペーサー20は、第1及び第2の透明石英ガラス板11、12の外周縁に6箇所、略等間隔に設けられている。図2に平面形状がリング状である仮組材1aの場合の第1及び第2の透明石英ガラス板並びにスペーサーの配置の例を示す説明図である。上側の図は平面図、下側の図はA-B断面図である。第1の透明石英ガラス板11aと第2の透明石英ガラス板12aとは、対向する面が所定間隔で略平行になるように外周縁側の複数のスペーサー20a、内周縁側の複数のスペーサー20bを介して支持される。図2の仮組材の例では、第1及び第2の透明石英ガラス板11a、12aの外周縁6箇所にスペーサー20aが略等間隔に設けられ、第1及び第2の透明石英ガラス板11a、12aの内周縁6箇所にスペーサー20bが略等間隔に設けられている。
【0022】
スペーサーは、耐熱性材料及び可燃性材料の多層構造を有することができる。耐熱性材料は、例えば、炭素材料であることができ、可燃性材料は、例えば、有機高分子材料であることができる。耐熱性材料の厚みを、加熱溶融を経て形成される不透明層の所望の厚みに設定し、可燃性材料の厚みは、不透明層用の原料粉末の充填のし易さと、原料粉末の密度等を考慮して、適宜決定できる。可燃性材料は、加熱溶融時には揮発、飛散する。スペーサーは、2つの可燃性材料で耐熱性材料を挟んだサンドイッチ構造であることができる。
【0023】
(2)原料粉末充填用の鋳型の形成
工程(1)で形成した仮組材の外周縁に、原料粉末投入部を有する外周縁用シール材を配置し、仮組材及び外周縁用シール材を上下から、下型及び上型で挟み込んで、原料粉末充填用の鋳型を形成する。下型及び上型は、仮組材及び外周縁用シール材を覆うことができる形状及び寸法を有するものであることができる。図3に外周縁用シール材50を上面に配置した下型40の例を示す。上側の図は平面図、下側の図はA-B断面図である。外周縁用シール材50は、仮組材の外周縁の形状に適合した内周縁51を有し、かつ原料粉末投入部52を有する。図4に外周縁用シール材50を上面に配置した下型40の外周縁用シール材50の内周縁51内に適合した平面形状の仮組材1を設置した例を示す。上側の図は平面図、下側の図はA-B断面図である。外周縁用シール材50は、仮組材1と略同一の厚みを有する。原料粉末投入部52は、原料粉末を仮組材1に充填するときに利用される。原料粉末投入部52は、仮組材1の間口の1/2から同等程度の幅を有することが、原料粉末の投入が容易であり、かつ原料粉末の均質な充填が可能になることから適当である。仮組材の平面形状がリング状など内部に空間がある場合には、外周縁用に加えて、内周縁を密閉するシール材も用いる。即ち、仮組材の平面形状がリング状等の場合、原料粉末充填用の鋳型は、外周縁用シール材に加えて、仮組材のリング内部に内周縁を密閉する内周縁用シール材も設ける。内周縁用シール材は、仮組材のリングの内径に略同一の外径を有することが適当である。
【0024】
鋳型の上型及び下型は、平面形状には特に制限はなく、外周縁用シール材及び多層構造石英ガラス材の形状に応じて適宜決定することができる。限定する意図ではないが、鋳型の平面形状は、例えば、方形、円形、不定形などであることができる。下型は一定の厚みの平板部材であり、少なくとも上面は仮組材の第1の透明石英ガラス板を支持するために用いられるので、平坦であり、好ましくは平滑である。上型は、少なくとも下面が、仮組材の第2の透明石英ガラス板を支持するために用いられるために、平坦であり、好ましくは平滑である。下型40の上面に外周縁用シール材50を配置し、さらに外周縁用シール材50の内周縁51内に仮組材1を設置した後に、上型60を設ける。この状態を図5に示す。上側の図は平面図、下側の図はA-B断面図である。下型40と上型60とは、例えば、両型の周縁部において固定することがその後の原料粉末充填の便宜から適当である。両型の固定は例えば、ボルトなどを用いて行うことができるが、これに限定される意図ではない。
【0025】
(3)原料粉末充填
仮組材の2枚のガラス板の間に原料粉末を充填して、原料粉末層を有する多層構造体を調製する。図6を参照しながら説明する。仮組材及び外周縁用シール材(リング状の場合は内周縁用シール材も)が鋳型の上型及び下型で固定された原料粉末充填用型70は、傾斜台80に設置される。粉末充填用型70は、外周縁用シール材の原料粉末投入部を略上方に位置させる。傾斜台80の傾斜角は、限定はないが、例えば、20~70°の範囲とすることができる。この角度に傾けた鋳型内の仮組材の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間に、原料粉末を供給する。原料粉末の供給は、鋳型に連続的又は断続的に振動を与えつつ、かつ不透明層用の原料粉末を連続的又は断続的に供給することで行う。図6の例では、傾斜台80は、振動台81の上に設置される。本発明では、鋳型内の仮組材を例えば、20~70°の範囲に傾け、かつ鋳型に連続的又は断続的に振動を与えつつ原料粉末を供給することで、原料粉末が均一に第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間に充填される。鋳型の傾きは、例えば、25~65°の範囲、30~60°の範囲、35~55°の範囲、であることができ、40~50°の範囲であることもできる。鋳型に加えられる振動は、例えば、1~250Hz、好ましくは、50~150Hzの範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。鋳型内の仮組材においては、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との対向面が所定間隔で平行になるように支持されており、この2つ透明石英ガラス板の間の空隙に不透明層用の原料粉末が充填される。
【0026】
原料粉末の充填は、例えば、振動フィーダーを用いて行うことができる。図6の例では、原料粉末は振動フィーダー82を介して、粉末充填用型70に供給される。原料粉末の供給速度に制限は無く、生産性の観点からは例えば、1kg/h以上とすることができる。ただし、供給速度が速すぎる(例えば10kg/h以上)と、原料粉末の種類によっては、粉末の供給が不安定となり充填にムラが生じる場合がある。
【0027】
原料粉末は、例えば、シリカ粉末であるか、又はシリカ粉末及び窒化ケイ素粉末の混合粉末であることができる。シリカ粉末が天然石英由来の結晶質粉末である場合、不透明層用の原料粉末は、シリカ粉末および窒化ケイ素粉末の混合粉末であることが適当である。シリカ粉末が非晶質粉末である場合、窒化ケイ素粉末を併用せず、シリカ粉末のみであっても良い。非晶質粉末の製法は特に制限は無く、例えば、特開平06-287012に記載されている方法(天然石英粉をプラズマ溶融)で製造することができる。
【0028】
シリカ粉末は溶融して石英ガラスとなり、窒化ケイ素粉末を含む場合、窒化ケイ素は、気泡形成の元となる。但し、非晶質シリカ粉末である場合は、石英の融点以上での溶融が必要でないため粉末自身の焼結度合いを制御することで気泡形成が可能である。混合粉末における窒化ケイ素粉末の含有量は、不透明層中の所望の気泡量を考慮して適宜決定することができる。例えば、混合粉末中の窒化ケイ素粉末の含有量は、0.002~0.5質量%の範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0029】
シリカ粉末の粒径は、充填の容易さや、溶融時に形成される気泡のサイズ等を考慮して適宜決定できる。例えば、10~500μmの範囲であることができ、好ましくは50~250μmの範囲、より好ましくは100~200μmの範囲である。
【0030】
窒化ケイ素粉末の粒径は、主に溶融時に形成される気泡のサイズ等を考慮して適宜決定できる。例えば、0.1~5μmの範囲であることができ、好ましくは0.2~3μmの範囲、より好ましくは0.5~1.5μmの範囲である。
【0031】
原料粉末が混合粉末の場合は、充填前にシリカ粉末と窒化ケイ素粉末とを常法により混合して調製することができる。
【0032】
(4)加熱溶融
原料粉末充填後は、原料粉末充填用型から仮組材の2つ透明石英ガラス板の間の空隙に不透明層用の原料粉末が充填された多層構造体を取り出し、次いで、取り出した多層構造体を加熱して原料粉末を溶融させる。その後、冷却して多層構造石英ガラス材を得る。
【0033】
鋳型から取り出した多層構造体は、原料粉末層の均一性を確認した後に、加熱溶融工程に付すことができる。原料粉末層の均一性の確認は、例えば図7に示す方法で、多層構造体面内での可視光の透過率の変動を測定することにより行うことができる。
【0034】
多層構造体の加熱は、多層構造体の加熱は、電気炉を用いて行うことができ、多層構造体の第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の外側から対向する向きに荷重を掛けつつ行うことが好ましい。
【0035】
多層構造体は、例えば、電気炉内で加熱することで、原料粉末を溶融および発泡させる。その際、上型の重量により、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の外側から対向する向きに荷重を掛けることが適当である。これにより、大きな泡の形成を抑制して泡の大きさをコントロールしつつスペーサーの高さに応じた厚さの不透明層を形成することができる。上型の重量により加えられる荷重は、例えば、1~20g/cm2の範囲とすることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。溶融および発泡の際に、上型が上下に移動することができ、上型の重量と原料粉末の充填量や組成に応じた容量(厚み)の不透明層を容易に形成することができる。
【0036】
電気炉内での加熱温度は、原料粉末が溶融し、かつ発泡し得る条件であれば良く、例えば、1500~1850℃の範囲であることができる。加熱溶融時間には特に制限はなく、加熱温度や発泡の状況を考慮して適宜決定できる。例えば、10分から6時間の範囲で適宜決定できる。
【0037】
より具体的には、高温真空炉における熱処理条件は、1,500~1,650℃(非晶質粉末の場合)あるいは1,700~1,850℃(結晶質粉末の場合)の温度で、15分から3時間、成型荷重:10~20g/cm2、窒素雰囲気の熱処理によって不透明石英ガラス層を合成すると同時に、透明石英ガラス板を溶着し、多層構造石英ガラス材を製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法で得られる多層構造石英ガラス材は、不透明石英ガラス層の見掛け密度が、2.0g/cm3以下であることができる。見掛け密度が、2.0g/cm3以下であることで、不透明石英ガラス層の熱伝導率を所望の低い値(例えば、500℃において1.2 W/(m・K)以下)にすることができる。不透明石英ガラス層の見掛け密度は、より低い熱伝導率を得るという観点からは0.7以上、1.7g/cm3以下であることが好ましい。この範囲の見掛け密度を有する不透明石英ガラス層は、石英ガラス中に分散している微細な気泡が大きすぎず、かつ十分な量で含まれる。見掛け密度がこの範囲であることで、500℃における熱伝導率を1.1 W/(m・K)以下にすることができる。500℃における熱伝導率は、好ましくは0.2以上1.1 W/(m・K)以下である。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0040】
実施例1
1)仮組立材とセット工程
・透明石英ガラス板材は円柱形のインゴットもしくは直方体のインゴットを切断・板加工した。本実施例では円柱形のインゴットから円板状の透明ガラス板材(φ=300mm、t=1mm)を作製した。
・透明ガラス板材の2枚の間にスペーサーを取り付けて透明ガラス板同志を貼り合せ、調合粉末を充填する空間を有する仮組材を形成した。
・スペーサーは、基材(石英ガラス)とその両面に高分子材料を貼り合せた構造とした。
・スペーサーの厚さは、熱処理後、不透明層が設定厚さになるように、基材厚さと高分子材料厚みで調整した。本実施例では、5mmとした。
【0041】
・この仮組材を図3に示すシール材を設けた下型からなる粉末充填型に、図4に示すようにセットセットした。
・粉末充填型は一方向に調合粉末の供給口を設け、仮組立材の三方向を充填型付帯のシール材で封止し、さらに図5に示すように上型を固定した。
【0042】
2)調合粉末充填工程
・調合粉末として、天然石英粉末に対して0.06wt%の窒化珪素粉末を混合したものを使用した。
・粉末充填装置は、図6に示すように、調合粉末を入れるホッパー、弁、振動フィーダー(トラフ付き)、傾斜台及振動台から構成される。
・傾斜台80の角度を設定の角度(本実施例では45°)に固定し、その底部を振動台81によって振動させ、調合粉末の閉塞を防止しつつ充填した。
・充填型を傾斜台に固定し、底部の振動台を起動し、振動フィーダーから調合粉末を均等に広げながら連続的に安定供給できた。
振動台81の振動数:約120Hz
調合粉末供給時間:約40分
調合粉末供給量:約700g
【0043】
・充填型に調合粉末を供給終了後、充填型の上型を取り外し、調合粉末が詰まった仮組材を取り出した。取り出した仮組材の調合粉末の充填状態を観察、確認した。
図7に充填状態の均一性の確認方法を示す。粉末を充填した仮組材の裏面側に緑色レーザー光源を、表面側に光量測定用のフォトダイオードを設置し、仮組材の面内を縦横に20mm間隔で移動させて、透過光の光量の分布を測定することで、充填状態の均一性を評価した。
・充填状態の均一性は、光量の平均値を100とし、平均値からのズレの大きさにより評価した。
・表1に各種条件で充填した場合の、光量差の例を示す。光量差は、平均値を100とした場合の最大値と最小値との差を意味する。光量差が10未満(条件1及び2)であればガラス化後の品質の均一性に問題がないことを確認した。条件1が本実施例の充填条件である。
【0044】
【表1】
【0045】
3)熱処理工程
・仮組材を熱処理用成形型にセットした。
・500℃以上で仮組材のスペーサーの高分子材料と接着剤が熱分解し、第1層と第3層の透明石英ガラスと調合粉末が接しながら熱処理過程が進行した。
・熱処理条件は本実施例では、高温真空炉において、1,750℃で15分とした。
【0046】
実施例2
透明石英ガラス板材をリング状(外径=300mm、内径=200mm、t=1mm)とした以外は実施例1と同様に透明ガラス板材を作製した。さらに実施例1と同様に調合粉末充填工程及び熱処理工程を経て多層構造石英ガラス材を製造した。得られた多層構造石英ガラス材の見掛け比重、熱伝導率、赤外線透過率を測定した結果を表2に示す。
【0047】
実施例3及び比較例1
原料粉末及び熱処理条件を表1に示す条件にした以外は実施例1と同様に多層構造石英ガラス材を製造し、実施例3及び比較例1とした。得られた多層構造石英ガラス材の見掛け比重、熱伝導率、赤外線透過率を測定した。表2に結果を示す。比較例1では、熱処理時間が長すぎたためガラス化が進行し、所望の物性値が得られなかった。
【0048】
実施例4及び5
原料粉末として天然石英粉末をプラズマ溶融した非晶質粉末を使用し、表2に示す熱処理条件で処理した以外は、実施例1と同様に多層構造石英ガラス材を製造した。得られた多層構造石英ガラス材の見掛け比重、熱伝導率、赤外線透過率を測定した結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
[評価方法]
(見掛け密度)
製造した多層構造石英ガラス材から30mm×30mmの評価用サンプルを切り出し、乾燥後、全重量を秤量した。ノギスを用いてサンプルの縦、横、厚さを計測した。切断した断面をマイクロスコープにより、第1層、第2層、第3層の厚さを計測した。
【0051】
透明石英ガラスの密度=2.2 g/cm3
透明層の重量g=縦cm×横cm×(第1層の厚さ+第2層の厚さ)cm× 2.2 g/cm3
不透明層の体積cm3:縦cm×横cm×第2層の厚さcm
不透明層の見掛け密度g/cm3:(全重量-透明層の重量)g/不透明層の体積cm3
【0052】
(熱伝導率)
不透明層から、直径10mm厚さ1mmの評価用サンプルを加工した。JISR1611に従って熱拡散率を計測し、500℃における熱伝導率を算出する。
熱伝導率W/(m・K)=熱拡散率熱m2/s×密度kg/m3×比熱J/(kg・K)
【0053】
(透過率)
不透明層を厚さ2mmに加工し、島津製作所製UV-3150を用いて、赤外線領域(波長1~3μm)の透過率を測定した。
【0054】
表1に示す結果から、熱処理条件は特に制限は無く、使用する粉末の物性や大きさ等により、適宜適正な条件で行うことが出来ることが分かる。
【0055】
・天然石英粉を用いる場合、気泡を生成させるため、石英粉に窒化珪素を添加。添加濃度は、要求される密度となるよう調製。石英粉の重量に対して、0.05~0.15wt%。熱処理温度は、1,700~1,850℃が適切。温度が低いと長時間を要する。温度が高いと泡が成長。
【0056】
・溶融シリカ粉を用いる場合、セラミックスの焼結機構と同様、焼結過程で粒界に気泡が残存するため、添加剤は不要である。熱処理温度は、1,500~1,650℃が適切。処理温度が低いと処理時間が長くなり生産性が劣る。高いと短く出来るが、溶融が促進され残存気泡のコントロールが困難となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
半導体向け部品製造に用いる素材に関連する分野に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8