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特許7162402ポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20221021BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221021BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20221021BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20221021BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/22
C01F7/02
C01G9/02 B
C08J3/20 B CES
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021087353
(22)【出願日】2021-05-25
(62)【分割の表示】P 2018518266の分割
【原出願日】2017-05-12
(65)【公開番号】P2021155741
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2016098174
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016215555
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】中 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】谷池 俊明
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174607(JP,A)
【文献】特開2003-335905(JP,A)
【文献】特開2009-242779(JP,A)
【文献】国際公開第2010/026668(WO,A1)
【文献】特開2012-087019(JP,A)
【文献】特開2016-043298(JP,A)
【文献】特開平07-309911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C01F 1/00-17/38
C01G 1/00-23/08
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジアルキル亜鉛(但し、アルキル基は炭素数1~14であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(B)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を除去する工程、及び
(D)ポリオレフィン粉末を溶融加熱して酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得る工程、
を含む、
酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)、(D)の間に、
(C)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキル亜鉛部分加水分解物に水分を供給して前記部分加水分解物の加水分解を促進させる工程、
を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記部分加水分解物含有溶液は、ジアルキル亜鉛及び有機溶媒を含有する溶液に、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加して調製される、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ジアルキル亜鉛が下記一般式(2-1)で表される、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】
(式中、R10はメチル基、エチル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基又はtert-ブチル基を表し、2つのR10は同一又は異なってもよい。)
【請求項5】
前記ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオレフィン粉末がポリエチレン粉末、または、ポリプロピレン粉末である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ポリオレフィン粉末が、チーグラー・ナッタ触媒を用いて調製したポリオレフィン粉末である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
記酸化亜鉛粒子は平均粒子径が100nm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、酸化亜鉛粒子がポリオレフィン基材中に分散しているコンポジットである、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
(E)トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(F)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を乾燥除去する工程、及び
(H)ポリオレフィン粉末を溶融加熱して酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得る工程、
を含む、酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項12】
前記工程(F)、(H)の間に、
(G)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキルアルミニウム部分加水分解物に水分を供給して前記部分加水分解物の加水分解を促進させる工程、
を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記部分加水分解物含有溶液は、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物及び有機溶媒を含有する溶液に、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加して調製される、請求項11~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記トリアルキルアルミニウムが下記一般式(2-2)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、請求項11~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【化3】
(式中、R2はメチル基、エチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基又はn-オクチル基を表し、3つのR2は同一又は異なってもよい。)
【請求項15】
前記トリアルキルアルミニウムがトリエチルアルミニウムである、請求項11~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記トリアルキルアルミニウムがトリイソブチルアルミニウムである、請求項11~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ポリオレフィン粉末がポリエチレン粉末、または、ポリプロピレン粉末である、請求項11~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記ポリオレフィン粉末が、チーグラー・ナッタ触媒を用いて調製したポリオレフィン粉末である、請求項11~17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
記酸化アルミニウム粒子は平均粒子径が100nm未満である、請求項11~18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
酸化アルミニウム粒子の含有量が3重量%以上である、請求項11~19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、酸化アルミニウム粒子がポリオレフィン基材中に分散しているコンポジットである、請求項11~20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、水酸化アルミニウム粒子をさらに含有する請求項11~21のいずれかに記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルアルミニウム部分加水分解物を含有する溶液からなる酸化アルミニウム形成用の組成物と、その製造方法、並びに酸化アルミニウムの製造方法に関する。本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を用いれば、極性溶媒に耐性のない基材上に酸化アルミニウム薄膜を形成し、あるいは極性溶媒に耐性のない基材中に酸化アルミニウム粒子を含有させることができる。さらに本発明は、酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットおよびその製造方法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2016年5月16日出願の日本特願2016-98174号および2016年11月2日出願の日本特願2016-215555号の優先権を主張し、それらの全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
(第一の側面(aspect)の発明)
酸化アルミニウムは、高強度、高耐熱性、高熱伝導度、低熱膨張率、絶縁性等において優れた特性を有することから、各種用途に幅広く使用されている。
【0003】
酸化アルミニウム薄膜としては、電子材料用酸化アルミニウムシート、酸化アルミニウム膜の作成、触媒担体の作製、耐熱性付与、空気、水分に対するバリア性付与、反射防止効果付与、帯電防止効果付与、防曇効果付与、耐摩耗性等の付与、セラミック製造用バインダー等の用途に供されている。そのような酸化アルミニウム薄膜は高純度であることが求められている(非特許文献1)。具体的には、切削工具の保護膜、半導体、磁性体、太陽電池等の絶縁膜、表面デバイス、磁気ヘッド、赤外線センサー、食品、薬品、医療器材等の包装材料、光学部材等への応用が挙げられる。
【0004】
酸化アルミニウム粒子としては、セラミック原料、ゴム、プラスチックのフィラー、研磨剤等の用途に供されている。(非特許文献2)具体的には高熱伝導用樹脂用フィラー、屈折率、反射率、加工性、柔軟性等の樹脂調整用フィラー、ファインセラミックの焼結原料への応用が挙げられる。
【0005】
酸化アルミニウム薄膜の製造方法としては、スパッタ法、化学蒸着(CVD、Chemical Vapor Depositon)法、原子層蒸着(ALD、Atomic Layer Depositon)法等の方法で形成される。
【0006】
しかしながら、スパッタ法、CVD法、ALD法等は、大型の密閉容器を用いる必要があるため、酸化アルミニウム薄膜の製造コストが高くなる、材料使用効率が低下する等の問題があった。
【0007】
スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ダイコート法、スプレー塗布法等の塗布法は、上記の方法に比べ密閉容器を用いる必要がなく装置が簡便で、製膜速度が速く、低い製造コストで酸化アルミニウム薄膜を製造できるという利点がある。
【0008】
塗布法を用いて、アルミニウム酸化物薄膜の形成について種々の検討がなされている(特許文献1~4)。
【0009】
しかし、上記の特許文献1に記載の方法では、供に熱処理(焼成)してパッシベーション膜を製造する場合、バインダー樹脂、配位子等の残存有機物成分を焼成して脱脂する(除去する)必要がある。そのため、焼成に長い時間が必要である、又は、400~1000℃程度の高い温度での熱処理が必要であるという課題があった。
【0010】
さらには、透明性のある(可視光550nmの透過率が80%以上)酸化アルミニウムが低温での熱処理では得にくいという課題がある。透明性のある酸化アルミニウムを得たい場合、特に、300℃以上の焼成が必要な為プラスチック等の耐熱性のない基材には適用できないという課題があった。
【0011】
上記特許文献2に記載の方法では、添加物、溶媒が、カルボン酸、エーテル等の極性溶媒であるため、極性溶媒に耐性のない、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の基材には適用できないという課題があった。
【0012】
上記特許文献3及び4には、アルミナ薄膜形成方法及びアルミナ薄膜形成用組成物の記載がある。アルミナ薄膜形成用組成物に含まれるアルミニウム含有化合物として、メチルアルミノキサン等が記載されている。それを用いた酸化アルミニウム薄膜の製造例はなく、組成物溶液の記述も抽象的である。
【0013】
更に、上記特許文献3及び4には、ジブチルアルミニウムハイドライド溶液、トリ‐n‐オクチルアルミニウム溶液、トリ‐n‐ドデシルアルミニウム溶液を用いて薄膜を製造する実施例が存在する。しかし、溶媒乾燥除去時にジブチルアルミニウムハイドライド、トリ‐n‐オクチルアルミニウム、トリ‐n‐ドデシルアルミニウムが溶媒とともに気化し、アルミニウムの使用効率が大幅に減少する、特に大気中で製造した際の膜質の再現性が得にくいという課題もあった。
【0014】
(第二の側面(aspect)の発明)
ポリマー系ナノコンポジットとは、ポリマーに無機酸化物を通常1~100nmの超微粒子の形で分散させた複合材料である。従来の無機酸化物フィラー充填ポリマーに対し、無機酸化物添加量が少量である、無機酸化物の表面積が大幅に上昇する、等の特徴を有する。
【0015】
ポリマー系ナノコンポジットでは、上記特徴から、無機酸化物粒子間距離が非常に小さくなるため、マトリックスであるポリマーと無機酸化物の相互作用が非常に大きくなり、ポリマーの基本特性の向上、ポリマーへの機能性付与が期待される(非特許文献3)。
【0016】
酸化亜鉛を含有するポリマー系ナノコンポジットは、マトリックスであるポリマーの熱安定の向上、耐摩耗性の向上、屈折率の増加、紫外線に対する安定性の向上、等のポリマーの基本特性を向上させることが知られている。
【0017】
また、酸化亜鉛を含有するポリマー系ナノコンポジットは、導電性、紫外線吸収性、抗菌性、屈折率の調整等の機能性を付与することも知られている(特許文献5)。
【0018】
酸化アルミニウム粒子を含有するポリマー系ナノコンポジットにおいても、熱伝導性、耐摩耗性、屈折率の調整等の機能性を付与することが期待されている(特許文献6)。
【0019】
従来の無機酸化物フィラー充填ポリマーにおいても、平均粒子径が55μmでありミクロン単位の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等をフィラーとして含有したポリマーを形成し、熱伝導性を付与する検討も行われている(特許文献7)。
【0020】
一方、ポリマーの中でもポリオレフィンは、安価、高融点、易成形加工性、良好なリサイクル性を持つ優れた汎用プラスチックである。近年、ポリオレフィンと無機酸化物とをナノコンポジット化したポリオレフィン系ナノコンポジットによる無機材料やエンジニアリングプラスチックを代替する検討が盛んに実施されている。
【0021】
しかしながら、極性の乏しいポリオレフィンに無機酸化物を分散させることは容易ではなく、分散性向上のため、分散剤の添加や無機酸化物表面の化学修飾などが行われる。しかし、分散剤、化学修飾剤と工業用ポリオレフィンに含有される難燃剤、劣化防止剤、着色剤等の他添加材との相互作用による、他添加剤の改質効果の喪失、等の課題があった。
【0022】
さらに、特許文献5の製造方法では無機酸化物の凝集防止にチオール化合物、または、シランカップリング剤の分散剤の添加が必要となる。チオール化合物の使用による悪臭の発生、シランカップリング剤を使用することによるコストの増加、上記分散剤と他添加材との相互作用による、他添加剤の改質効果の喪失、等の課題があった。
【0023】
ナノコンポジットではなく、特許文献7のような無機酸化物フィラー充填ポリマーとして検討されることが多い。この場合、上記と同様に分散剤の添加が必要である、ナノコンポジットに比べるとポリマーと無機酸化物の相互作用が弱く、多量の無機酸化物フィラーが必要となりポリマーとしての特性が大幅に低下する、等の課題があった。
【0024】
さらには、特許文献5、7のポリマー系ナノコンポジット、無機酸化物フィラー充填ポリマーにおけるポリマーにポリオレフィンの記述がある。しかし、その製造方法の具体例はなく、また、実際には、極性の乏しいポリオレフィンを使用した場合、無機酸化物は凝集してしまうことが容易に推定される。
【0025】
特許文献6の製造方法は、分散剤を使用せず酸化アルミニウムを含有するポリオレフィン系ナノコンポジットを製造できるが、より一層の無機酸化物の分散向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】日本特公昭61-050903号公報
【文献】日本特許第5332743号公報
【文献】国際公開WO2012/053433号公報
【文献】国際公開WO2012/053436号公報
【文献】日本特表2009-510180号報
【文献】日本特開2016-124942号報
【文献】日本特開2015-117260号報
【非特許文献】
【0027】
【文献】矢坂 JETI.,10(2005)p134~140
【文献】内田et al 住友化学 技術誌.,1(2000)p45~49
【文献】中條澄「ポリマー系ナノコンポジットの技術動向」シーエムシー出版、p3、2001 特許文献1~7及び非特許文献1~3の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
前記特許文献1~4に記載の方法または材料を用いる場合、極性溶媒に耐性のない基材上に酸化アルミニウム薄膜を形成することはできず、また、極性溶媒に耐性のない基材中に酸化アルミニウム粒子を形成させることもできない。
【0029】
そこで本発明の第一の側面の目的は、エーテル、アルコール、ケトン、カルボン酸、エステル等の極性溶媒に耐性のない、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の基材上、基材中にも酸化アルミニウム薄膜、酸化アルミニウム粒子を形成することができる剤を提供することである。
【0030】
そこで本発明の第二の側面の目的は、分散剤を添加せずとも、ポリオレフィン基材中に酸化亜鉛粒子、酸化アルミニウム粒子を良好な分散状態で含有させ、酸化物濃度が3重量%以上でも平均粒子径が100nm未満の酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ナノコンポジット及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の第一の側面は以下の通りである。
[1]
トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数4~12であり、同一又は異なってもよい)及び非極性有機溶媒を含有する溶液に、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加してアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を得ることを含む、
アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液からなる、粒子状又は薄膜状酸化アルミニウム形成用組成物の製造方法。
[2]
前記トリアルキルアルミニウムが下記一般式(1)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、[1]に記載の製造方法。
【化1】
(式中、R1はイソブチル基、n-ヘキシル基又はn-オクチル基を表し、3つのR1は同一又は異なってもよい。)
[3]
前記トリアルキルアルミニウムがトリイソブチルアルミニウムである、[2]に記載の製造方法。
[4]
前記非極性有機溶媒が芳香族系炭化水素である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
前記芳香族系炭化水素が、トルエン及び/又はキシレンである、[4]に記載の製造方法。
[6]
前記非極性有機溶媒が脂肪族炭化水素である、[1]~[3]いずれか1項に記載の製造方法。
[7]
前記脂肪族炭化水素が、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン及びトリデカンから成る群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の製造方法。
[8]
アルキルアルミニウム部分加水分解物と非極性有機溶媒を含有する溶液からなる粒子状又は薄膜状酸化アルミニウム形成用組成物であって、
前記アルキルアルミニウム部分加水分解物のアルキル基は、同一又は異なってもよい炭素数4~12のアルキル基であり、アルミニウム原子に対するアルキル基のモル比が0.2~2の範囲であり、アルミニウム原子に対する酸素原子のモル比が1.4~0.5の範囲である、前記組成物。
[9]
前記アルキル基はイソブチル基、n-ヘキシル基およびn-オクチル基から成る群から選ばれる少なくとも1種である、[8]に記載の組成物。
[10]
前記非極性有機溶媒が芳香族系炭化水素である、[8]又は[9]に記載の組成物。
[11]
前記芳香族系炭化水素が、トルエン及び/又はキシレンである、[10]に記載の組成物。
[12]
前記非極性有機溶媒が脂肪族炭化水素である、[8]又は[9]に記載の組成物。
[13]
前記脂肪族炭化水素が、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカンおよびトリデカンから成る群から選ばれる少なくとも1種である、[12]に記載の組成物。
[14]
[8]~[13]のいずれか1項に記載の組成物を基板に塗布し、次いで非極性有機溶媒を除去して、酸化アルミニウム薄膜を形成することを含む、酸化アルミニウム薄膜の製造方法。
[15]
[8]~[13]のいずれか1項に記載の組成物を基材形成用バインダーと混合し、次いで非極性有機溶媒を除去して、前記バインダー中で粒子状酸化アルミニウムを形成することを含む、粒子状酸化アルミニウムを含有する基材の製造方法。
【0032】
本発明の第二の側面は以下の通りである。
[16]
ジアルキル亜鉛(但し、アルキル基は炭素数1~14であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液及びポリオレフィン粉末を用いることを特徴とする、
酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法。
[17]
(A)ジアルキル亜鉛(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(B)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を除去する工程、及び
(D)ポリオレフィン粉末を溶融加熱して酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得る工程、
を含む、[16]に記載の製造方法。
[18]
前記工程(B)、(D)の間に、
(C)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキル亜鉛部分加水分解物に水分を供給して前記部分加水分解物の加水分解を促進させる工程、
を含む、[17]に記載の製造方法。
[19]
前記部分加水分解物含有溶液は、ジアルキル亜鉛及び有機溶媒を含有する溶液に、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加して調製される、[16]~[18]のいずれか1項に記載の製造方法。
[20]
前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対する水のモル比が0.5~0.9の範囲である、[16]~[19]のいずれか1項に記載の製造方法。
[21]
前記ジアルキル亜鉛が下記一般式(2-1)で表される、[16]~[20]のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】
(式中、R10はメチル基、エチル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基又はtert-ブチル基を表し、2つのR10は同一又は異なってもよい。)
[22]
前記ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である、[16]~[21]のいずれか1項に記載の製造方法。
[23]
前記ポリオレフィン粉末がポリエチレン粉末、または、ポリプロピレン粉末である、[16]~[22]のいずれか1項に記載の製造方法。
[24]
前記ポリオレフィン粉末が、チーグラー・ナッタ触媒を用いて調製したポリオレフィン粉末である、[16]~[23]のいずれか1項に記載の製造方法。
[25]
ポリオレフィン基材及び酸化亜鉛粒子を含有し、分散剤を含有せず、前記酸化亜鉛粒子は平均粒子径が100nm未満であるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジット。
[26]
前記酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%以上である、[25]に記載のナノコンポジット。
[27]
前記酸化亜鉛粒子は、前記ポリオレフィン基材中に分散している、[25]又は[26]に記載のナノコンポジット。
[28]
トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物部分加水分解物含有溶液及びポリオレフィン粉末を用いることを特徴とする、酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法。
[29]
(E)トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(F)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を乾燥除去する工程、及び
(H)ポリオレフィン粉末を溶融加熱して酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得る工程、
を含む、[28]に記載の製造方法。
[30]
前記工程(F)、(H)の間に、
(G)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキルアルミニウム部分加水分解物に水分を供給して前記部分加水分解物の加水分解を促進させる工程、
を含む、[29]に記載の製造方法。
[31]
前記部分加水分解物含有溶液は、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物及び有機溶媒を含有する溶液に、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加して調製される、[28]~[30]のいずれか1項に記載の製造方法。
[32]
前記トリアルキルアルミニウムが下記一般式(2-2)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、[28]~[31]のいずれか1項に記載の製造方法。
【化3】
(式中、R2はメチル基、エチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基又はn-オクチル基を表し、3つのR2は同一又は異なってもよい。)
[33]
前記トリアルキルアルミニウムがトリエチルアルミニウムである、[28]~[32]のいずれか1項に記載の製造方法。
[34]
前記トリアルキルアルミニウムがトリイソブチルアルミニウムである、[28]~[33]のいずれか1項に記載の製造方法。
[35]
前記ポリオレフィン粉末がポリエチレン粉末、または、ポリプロピレン粉末である、[28]~[34]のいずれか1項に記載の製造方法。
[36]
前記ポリオレフィン粉末が、チーグラー・ナッタ触媒を用いて調製したポリオレフィン粉末である、[28]~[35]のいずれか1項に記載の製造方法。
[37]
ポリオレフィン基材及び酸化アルミニウム粒子を含有し、分散剤を含有せず、前記酸化アルミニウム粒子は平均粒子径が100nm未満であるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジット。
[38]
酸化アルミニウム粒子の含有量が3重量%以上である、[37]に記載のナノコンポジット。
[39]
酸化アルミニウム粒子は、ポリオレフィン基材中に分散している、[37]又は[38]に記載のナノコンポジット。
[40]
水酸化アルミニウム粒子をさらに含有する[37]~[39]のいずれかに記載のナノコンポジット。
【発明の効果】
【0033】
本発明の第一の側面によれば、極性溶媒を含有しないアルキルアルミニウム加水分解組成物溶液を用いて、極性溶媒に耐性のない基板上、基材中にも酸化アルミニウム薄膜、酸化アルミニウム粒子を形成することができる。
【0034】
本発明の第二の側面によれば、ポリオレフィン基材中に平均粒子径が100nm未満の酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子を含有させ、かつ分散剤を含有しない、ポリオレフィン系ナノコンポジットを提供することができる。さらに本発明のナノコンポジットは、酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子の含有量が3重量%以上であっても酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子は、ナノコンポジット中に良好な分散状態で含有される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】トリイソブチルアルミニウム加水分解組成物トルエン溶液を乾燥させたものの透過法によるIRスペクトル。
図2】トリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物トルエン溶液を乾燥させたものの透過法によるIRスペクトル。
図3】トリイソブチルアルミニウム加水分解組成物デカン溶液を乾燥させたものの透過法によるIRスペクトル。
図4】トリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物デカン溶液を乾燥させたものの透過法によるIRスペクトル。
図5】合成例1-1による酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図6】合成例1-1による酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図7】ガラス基板(コーニング社製、EagleXG)のATR法によるIRスペクトル。
図8】合成例1-1を用いた酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図9】合成例1-1を用いた酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図10】合成例1-1を用いた酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図11】合成例1-1を用いた酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図12】アクリル樹脂基板(三菱レイヨン社製、アクリライトEX)のATR法によるIRスペクトル。
図13】合成例1-4を用いた酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図14】合成例1-4を用いた酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図15】合成例1-4を用いた酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図16】合成例1-4を用いた酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図17】合成例1-5を用いた酸化アルミニウム薄膜の外観写真。
図18】合成例1-5を用いた酸化アルミニウム薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図19】実施例2-1で作製した酸化亜鉛5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットのFT-IRスペクトル(1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが実施例2-1のスペクトルである)。
図20】実施例2-1で作製した酸化亜鉛5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットのTEM像。
図21】実施例2-1で作製した酸化亜鉛5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットの粉末X線回折スペクトル。
図22】実施例2-2で作製した水蒸気処理した酸化亜鉛5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットのFT-IRスペクトル(1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが実施例2-2のスペクトルである)。
図23】実施例2-2で作製した水蒸気処理した酸化亜鉛5重量%を含有するナノコンポジットのTEM像。
図24】実施例2-2で作製した水蒸気処理した酸化亜鉛5重量%を含有するナノコンポジットの粉末X線回折スペクトル。
図25】実施例2-3で作製した酸化アルミニウム5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットのFT-IRスペクトル(1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが実施例2-3のスペクトルである)。
図26】実施例2-3で作製した酸化アルミニウム5重量%を含有するポリプロピレンナノコンポジットのTEM像。
図27】実施例2-4で作製した水蒸気処理した酸化アルミニウム5重量%を含有するナノコンポジットのFT-IRスペクトル(1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、1番下のスペクトルが実施例2-4のスペクトルである)。
図28】実施例2-4で作製した水蒸気処理した酸化アルミニウム5重量%を含有するナノコンポジットのTEM像。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の製造方法(第一の側面)]
本発明は、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数4~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物及び非極性有機溶媒を含有する溶液に、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加してアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を得ることを含む、
アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液からなる、粒子状又は薄膜状酸化アルミニウム形成用組成物の製造方法に関する。
【0037】
前記トリアルキルアルミニウムは、下記一般式(1)で表されるアルキルアルミニウム化合物であることが好ましい。
【化4】
(式中、R1はイソブチル基、n-ヘキシル基又はn-オクチル基を表し、3つのR1は同一又は異なってもよい。)
【0038】
一般式(1)で表される化合物の例としては、トリイソブチルアルミニウム、トリ‐n‐ヘキシルアルミニウム、トリ‐n‐オクチルアルミニウム、トリドデシルアルミニウム、トリテトラデシルアルミニウム等を挙げることができる。単位質量のアルミニウムに対する価格が安価であるという観点、化合物から調製される溶液のアルミニウム濃度、酸化アルミニウム換算濃度の観点から、トリイソブチルアルミニウム、トリn-ヘキシルアルミニウム、トリn-オクチルアルミニウムが好ましく、特にトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0039】
一般式(1)で表される化合物の例として、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムは、極性溶媒なく水との反応性を制御するのが容易ではなく、水の添加に特殊な装置を必要としコストがかかるという観点、特にトリメチルアルミニウムは単位質量のアルミニウムに対する価格が高価であるという観点から好ましくない。
【0040】
前記非極性溶媒の例としては、芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素を挙げることができる。
【0041】
芳香族系炭化水素の例としては、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、混合キシレン(キシレン)、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン、アミルベンゼン、o-シメン、m-シメン、p-シメン、混合シメン(シメン)、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、p-ジエチルベンゼン、混合ジエチルベンゼン(ジエチルベンゼン)、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等が挙げられる。
【0042】
価格が安価であるという観点、造膜性を高めるには沸点が適度に高い方が好ましいという観点から、特にトルエン、キシレンが好ましい。
【0043】
脂肪族炭化水素の例としては、ペンタン、メチルシクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ケロシン、デカリン、石油エーテル、石油ベンジン、ソルベントナフサ、ジペンテン、テレピン油、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、混合メンタン(メンタン)、リグロイン等が挙げられる。
【0044】
価格が安価であるという観点、造膜性を高めるには沸点が適度に高い方が好ましいという観点から、特にヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、トリデカンが好ましい。
【0045】
ここで挙げる非極性溶媒とは、上記の芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素であり、極性溶媒とは、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、メチル‐t-ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、へキシレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン、アルデヒド系溶媒;酢酸、ギ酸、等のカルボン酸、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸‐s‐ブチル、γ―ブチルラクトン等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、トリエチルアミン等の含窒素化合物系溶媒;エチレンカルボナート、プロピレンカルボナート等である。
【0046】
ここに挙げる極性とは、誘電率、双極子モーメント、溶解度パラメータ等で評価され、上記のように経験的に非極性溶媒と極性溶媒に分類される。
【0047】
アルキルアルミニウム化合物の部分加水分解は、前記アルキルアルミニウム化合物に対するモル比が0.5~1.4の範囲で、水を用いて行う。アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が0.5未満では、溶媒乾燥後も液状になり易く均一な酸化アルミニウム薄膜、粒子を形成することが困難である。均一な酸化アルミニウム薄膜、粒子を形成するという観点からは、アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が0.5以上が好ましく、0.8以上であることがより好ましい。一方、アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が1.4を超えると溶媒に不溶なゲル、固体が析出し、ゲル、固体による均一な酸化アルミニウム薄膜、粒子の形成が困難になることから1.4以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。析出したゲルや固体は、デカント、ろ過等で除去することも可能である。
【0048】
前記部分加水分解反応は、不活性ガス雰囲気下、前記アルキルアルミニウム化合物を前記非極性溶媒に、水を添加して行う。
【0049】
水を添加する前記アルキルアルミニウム化合物溶液中のアルキルアルミニウム化合物の濃度は、2~98質量%とすることができる。
【0050】
前記アルキルアルミニウム化合物溶液への水の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分~10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は-15~150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると-15~80℃の範囲であることが好ましい。
【0051】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記アルキルアルミニウム化合物と水の部分加水分解反応をさらに進行させるために、0.1~50時間熟成反応させることができる。熟成反応温度は-15~150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、熟成反応時間の短縮等を考慮すると25~150℃の範囲であることが好ましい。
【0052】
前記アルキルアルミニウム化合物、水、非極性溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0053】
上記部分加水分解反応により、上記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液が得られる。アルキルアルミニウム化合物がトリイソブチルアルミニウムである場合、部分加水分解組成物についての解析は古くから行われているが、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0054】
[酸化アルミニウム形成用組成物]
本発明は、酸化アルミニウム形成用組成物に関し、この組成物は、アルキルアルミニウム部分加水分解物と非極性有機溶媒を含有する溶液からなる粒子状又は薄膜状酸化アルミニウム形成用組成物であり、前記アルキルアルミニウム部分加水分解物のアルキル基は、同一又は異なってもよい炭素数4~12のアルキル基であり、アルミニウム原子に対するアルキル基のモル比が0.2~2の範囲であり、アルミニウム原子に対する酸素原子のモル比が1.4~0.5の範囲である。アルキル基は、好ましくは炭素数4~8であり、より好ましくはイソブチル基、n-ヘキシル基またはn-オクチル基である。
【0055】
本発明者らは、アルキル基が炭素数4~12のアルキル基であり、かつアルミニウム原子に対するアルキル基のモル比が0.2~2の範囲であり、アルミニウム原子に対する酸素原子のモル比が1.4~0.5の範囲である、アルキルアルミニウム部分加水分解物であれば、非極性有機溶媒であっても溶解することを見出した。
【0056】
非極性有機溶媒、特に、前述の芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素に良好に溶解し得るという観点からは、アルミニウム原子に対するアルキル基のモル比は、好ましくは0.2~2の範囲であり、より好ましくは0.8~1.8、さらに好ましくは1.0~1.5の範囲である。アルミニウム原子に対する酸素原子のモル比は、好ましくは1.4~0.5の範囲であり、より好ましくは1.4~0.7、さらに好ましくは1.3~0.9の範囲である。
【0057】
本発明の方法におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物は下記一般式(2)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0058】
【化5】
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、mは1~80の整数である。)
【0059】
上記部分加水分解反応終了後、固体等が析出している場合、ろ過等の方法により精製することで固体等を除去することができる。
【0060】
上記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液は、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整することができる。また、反応に使用した溶媒、反応に使用したものとは異なる非極性溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0061】
反応に使用したものとは異なる極性溶媒は、前記非極性溶媒と同じ溶媒を挙げることができる。
【0062】
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、用途に応じて適宜決定できる。含有量は、非極性溶媒の量を調整することで調整できる。アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、例えば、1~90質量%の範囲で適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、溶解性や粘度等を考慮すると、好ましくは、5~50質量%の範囲である。
【0063】
アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、材料の含有量が低く溶媒を多く含有することから乾燥しにくくなる、処理すべき溶媒の排出が多くなるという観点から5質量%以上が好ましく、粘度が高くなる、製造中に白色固体等が析出しやすくなるという観点から、50質量%以下が好ましい。但し、この範囲に限定される意図ではなく、アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、用途等に応じて適宜決定できる。
【0064】
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液に含有するアルミニウムが全て酸化アルミニウム(Al23)に変換されたと仮定したときの、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の質量に対する、酸化アルミニウム質量の百分率を酸化アルミニウム換算濃度と定義する。
【0065】
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の酸化アルミニウム換算濃度は、例えば、5~50質量%の範囲で適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0066】
[酸化アルミニウム薄膜の製造方法]
本発明の酸化アルミニウム薄膜の製造方法は、前記本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を基材に塗布して酸化アルミニウム薄膜を得る方法である。
【0067】
前記基材への塗布は、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、スリットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法、等の慣用の方法で行うことができる。
【0068】
前記基材への塗布は、不活性雰囲気下でも空気雰囲気下でも行うことができる。
【0069】
前記基材への塗布は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0070】
前記基材は、鉛ガラス、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、等のガラス;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、複合酸化物、等の酸化物;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン(COP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリウレタン、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)、セロファン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の高分子、等を挙げることができる。
【0071】
前記基材の形状は、粉、フィルム、板、又は三次元形状を有する立体構造物を挙げることができる。
【0072】
前記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を塗布した後、基材を所定の温度とし、溶媒を乾燥後、または乾燥と同時に所定の温度で焼成することにより酸化アルミニウム薄膜を形成させる。尚、塗布がスプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法による場合、塗布前に基材を所定の温度に加熱できるため、塗布と同時に溶媒を乾燥、または、乾燥と同時に焼成させることができる。
【0073】
前記溶媒を乾燥させるための所定の温度は、例えば、20~250℃の間で任意の温度を選択できる。前記溶媒を、例えば、0.5~60分かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0074】
前記酸化アルミニウムを形成させるための焼成させるための所定の温度は、例えば、50~550℃の間で任意の温度を選択できる。但し、基材の種類を考慮して、基材がダメージを受けない温度に設定することが適当である。焼成させる所定の温度が、溶媒を乾燥させる所定の温度と同一な場合、溶媒の乾燥と焼成を同時に行うことができる。溶媒乾燥した前駆膜を、例えば、0.5~300分かけて焼成させることができる。
【0075】
前記のようにして得られる酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、例えば、0.005~3μmであることができる。但し、この範囲に限定する意図ではない。酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、必要に応じ、前記の塗布、乾燥、焼成の工程を複数回繰り返すことにより大きくすることもできる。
【0076】
必要に応じて前記のようにして得られた酸化アルミニウム薄膜を、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、多量に水分が存在する水蒸気雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化アルミニウムの結晶性、緻密性を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理により得られた酸化アルミニウム薄膜中の残存有機物等を除去することができる。
【0077】
[粒子状酸化アルミニウム含有基材の製造方法]
本発明の粒子状酸化アルミニウム含有基材の製造方法は、前記本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を基材製造時に基材原料に混合して、基材中に粒子状酸化アルミニウムを含有する基材を得る方法である。
【0078】
基材製造において、基材原料と前記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液は、あらゆる慣用の方法に従って製造装置に導入できる。製造装置の圧力は制限されない。
【0079】
前記基材は、酸化アルミニウム薄膜の製造時と同じ基材を挙げることができる。基材原料は、これらの基材の原料と成り得る材料であり、好ましくは高分子材料である。
【0080】
本発明の酸化アルミニウム薄膜の製造方法において製造された酸化アルミニウム、及び粒子状酸化アルミニウム含有基材の製造方法において基材中に形成された粒子状酸化アルミニウムは、焼成、後処理条件等により異なるが、水和物であるギブサイト、バイヤサイト、ベーマイト、ダイアスポア、または、χ‐、γ‐、η‐、δ‐、θ‐、κ‐、α‐アルミナのいずれかの態になると推定される。上記水蒸気雰囲気下処理等される場合は、水酸化アルミニウムに変換される場合もある。
【0081】
本発明において500℃以下で製造された酸化アルミニウムは、通常、X線回折分析で明瞭なピークが観測されず、アモルファス状態である。
【0082】
[酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法(第二の側面の第一の態様)]
本発明の第二の側面の第一の態様は、ジアルキル亜鉛(但し、アルキル基は炭素数1~14であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液及びポリオレフィン粉末を用いることを特徴とする、酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法に関する。
【0083】
本発明の第二の側面の第一の態様は、より具体的には、
(A)ジアルキル亜鉛(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の亜鉛部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(B)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を除去する工程、
(D)ポリオレフィン粉末を溶融加熱する工程、
を含む。
【0084】
工程(A)
前記ジアルキル亜鉛は、下記一般式(2-1)で表されるジアルキル亜鉛であることが好ましい。
【化6】
(式中、R10はメチル基、エチル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基又はtert-ブチル基を表す。2つのR10は同一であっても、異なってもよい。)
【0085】
一般式(2-1)で表される化合物の例としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ-n-ブチル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジ-sec-ブチル亜鉛、ジ‐tert-ブチル亜鉛等を挙げることができる。単位質量の亜鉛に対する価格が安価であるという観点から、ジエチル亜鉛が好ましい。
【0086】
前記部分加水分解物含有溶液は、ジアルキル亜鉛及び有機溶媒を含有する溶液に、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対してモル比が0.5~1.4の範囲の水を添加して調製されることが好ましい。
【0087】
前記有機溶媒の例としては、芳香族系炭化水素、脂肪族炭化水素、活性水素を含有しないエーテル系溶媒、その他の有機溶媒を挙げることができる。
【0088】
芳香族系炭化水素の例としては、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、混合キシレン(キシレン)、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン、アミルベンゼン、o-シメン、m-シメン、p-シメン、混合シメン(シメン)、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、p-ジエチルベンゼン、混合ジエチルベンゼン(ジエチルベンゼン)、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等が挙げられる。
【0089】
脂肪族炭化水素の例としては、ペンタン、メチルシクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ケロシン、デカリン、石油エーテル、石油ベンジン、ソルベントナフサ、ジペンテン、テレピン油、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、混合メンタン(メンタン)、リグロイン等が挙げられる。
【0090】
活性水素を含有しないエーテル系溶媒の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、メチル-tert-ブチルエーテル、ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0091】
その他の溶媒の例としては、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸-s-ブチル、γ-ブチルラクトン等のエステル系溶媒、N-メチルピロリドン等である。
【0092】
ジアルキル亜鉛の部分加水分解は水を用いて行うことができる。ジアルキル亜鉛に対する水のモル比は特に制限されないが、0.5~1.4の範囲が好ましく、0.5~0.9がさらに好ましい。ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.5未満では、ジアルキル亜鉛の残存によりポリオレフィンに含浸、乾燥時に凝集し易くなりポリオレフィン中に平均粒子径が100nm以下の酸化亜鉛を形成することが困難である。一方、ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が過度に多い場合は溶媒に不溶なゲル、固体が析出することがある。ポリオレフィン中へ均一な酸化亜鉛粒子を形成させる観点から、析出したゲルや固体は、デカント、ろ過等で除去することが好ましい。
【0093】
前記部分加水分解反応は、不活性ガス雰囲気下、前記ジアルキル亜鉛を前記有機溶媒に、水を添加して行う。
【0094】
水を添加する前記ジアルキル亜鉛溶液中のジアルキル亜鉛の濃度は、例えば、5~98質量%とすることができる。
【0095】
水は、前記有機溶媒を用いて希釈し、水を含有する溶液として添加することもできる。
【0096】
水の添加は、シリンジ滴下、滴下漏斗等により添加できる。また、2流体スプレーノズル機構等を用いて加圧窒素等と接触させ、霧状の水滴にして添加することも可能である。
【0097】
前記ジアルキル亜鉛溶液への水、又は水を含有する溶液の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分~10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は-20~150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると-15~80℃の範囲であることが好ましい。
【0098】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記ジアルキル亜鉛と水の部分加水分解反応をさらに進行させるために、0.1~50時間熟成反応させることができる。熟成反応温度は-15~150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、熟成反応時間の短縮等を考慮すると25~150℃の範囲であることが好ましい。
【0099】
前記ジアルキル亜鉛、水、有機溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0100】
前記部分加水分解反応により、前記アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液が得られる。ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である場合、部分加水分解組成物についての解析は古くから行われている。しかし、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0101】
本発明の方法におけるアルキル亜鉛部分加水分解物は下記一般式(2-3)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0102】
【化7】
(式中、R10は一般式(2-1)におけるR10と同じであり、mは1~20の整数である。)
【0103】
上記部分加水分解反応終了後、固体等が析出している場合、ろ過等の方法により精製することで固体等を除去することができる。
【0104】
上記アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液は、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整することができる。また、反応に使用した溶媒、反応に使用したものとは異なる有機溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0105】
本発明のアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液におけるアルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、適宜決定できる。含有量は、有機溶媒の量を調整することで調整できる。アルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、例えば、5~90質量%の範囲で適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。アルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、溶解性や粘度等を考慮すると、好ましくは、5~50質量%の範囲である。
【0106】
アルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、材料の含有量が低く溶媒を多く含有することから乾燥しにくくなる、処理すべき溶媒の排出が多くなるという観点から5質量%以上が好ましい。粘度が高くなる、製造中に白色固体等が析出しやすくなるという観点から、50質量%以下が好ましい。
【0107】
アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液に含有する亜鉛が全て酸化亜鉛(ZnO)に変換されたと仮定したときのアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の質量に対する酸化亜鉛質量の百分率を、アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液における酸化亜鉛換算濃度と定義する。
【0108】
前記アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の酸化亜鉛換算濃度は、例えば、5~40質量%の範囲で適宜調整できる。
【0109】
前記ポリオレフィン粉末を構成するポリオレフィンの例として、エチレン単独重合体;エチレンと、プロピレン及び炭素数4~8のα―オレフィンから選ばれる少なくとも1種とを重合してなるエチレン共重合体;プロピレン単独重合体;プロピレンと、エチレン及び炭素数4~8のα―オレフィンから選ばれる少なくとも1種とを重合してなるプロピレン共重合体等を挙げることができる。前記ポリオレフィンは、第2、第3のコモノマーとしてジエン類、酢酸ビニル、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、スチレン誘導体等の芳香族モノマーを少量含有してもよい。本発明の前記エチレン単独重合体とエチレン共重合体をポリエチレン、前記ポリプロピレン単独重合体とプロピレン共重合体をポリプロピレンと定義する。
【0110】
本発明のポリオレフィン粉末の製造方法の例として、チーグラー・ナッタ法、メタロセン法、高圧ラジカル重合法等を挙げることができる。但し、上記方法に制限される意図ではない。ポリオレフィン粉末は、アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の含浸を容易に実施できるという観点から、多孔性であることが好ましい。多孔性のポリオレフィン粉末が得られるという観点から、ポリオレフィン粉末の製造方法はチーグラー・ナッタ法であることが好ましい。本発明で用いるポリオレフィン粉末は、チーグラー・ナッタ法で得られた粉末であることが好ましい。
【0111】
前記ポリオレフィンの形状は、アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の含浸が容易であるという観点から粉末であることが好ましい。さらに、粉末を構成する粒子の粒子径は、粒子内部までアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の含浸し、酸化亜鉛粒子が良好な分散状態で存在するナノコンポジットを得るという観点から、粒子の粒子径は比較的小さい方が好ましい。粉末を構成する粒子の粒子径は、平均粒子径として、例えば、0.1μm~1000μmの範囲であることが適当である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0112】
前記ポリオレフィン粒子は、アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の含浸が容易であるという観点から多孔性であることが好ましい。多孔性の尺度として密度(嵩密度)は、例えば、0.8~1.0g/cm3の範囲であることが適当である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0113】
前記ポリオレフィン粉末へのアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の含浸は、還元雰囲気、もしくは不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性の観点から窒素雰囲気下で行うことがさらに好ましい。
【0114】
前記ポリオレフィン粉末への含浸は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0115】
ポリオレフィン粉末中に均一に含浸させるために、0.1~50時間熟成させることができる。熟成温度は-15~100℃の間で任意の温度を選択できる。但し、熟成時間の短縮等を考慮すると25~100℃の範囲であることが好ましい。
【0116】
本工程において、後に述べる(D)溶融加熱工程におけるポリオレフィンの熱劣化を防止するために、ポリオレフィン粉末中に含浸させる部分加水分解物含有溶液に酸化防止剤を添加することができる。あるいは、部分加水分解物含有溶液と同時に酸化防止剤含有溶液をポリオレフィン粉末に含浸させることもできる。あるいは、部分加水分解物含有溶液を含浸した後のポリオレフィン粉末に酸化防止剤含有溶液ポリオレフィン粉末に含浸させることもできる。酸化防止剤含有溶液は、酸化防止剤を部分加水分解物含有溶液で例示した有機溶媒に溶解したものであることができる。酸化防止剤は、ポリオレフィン用酸化防止剤として公知のものを適宜使用できる。酸化防止剤のポリオレフィン粉末への添加量は、酸化防止剤の種類及びポリオレフィンの種類を考慮して、例えば、0.01~1質量%の範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0117】
酸化防止剤の例として、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、4,4’,4’ ’-(1-メチルプロパニル-3-イリジエン)トリス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、6,6’-ジ-t-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-t-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-2,4,6-トリメチルベンゼンなどのフェノール系酸化防止剤を使用することができる。
【0118】
(B)有機溶媒除去工程
工程(B)では、部分加水分解物含有溶液に含まれていた有機溶媒をポリオレフィン粉末から除去する。前記有機溶媒の除去は、工程(A)で得られたポリオレフィン粉末から有機溶媒を除去できる方法であれば特に限定はない。例えば、工程(A)で得られたポリオレフィン粉末を所定の温度で乾燥することで実施できる。例えば、20~100℃の間で任意の温度を選択でき、乾燥は常圧または減圧下で実施できる。溶媒を除去する前にポリオレフィンが溶融することを防止する観点から100℃以下であること及び減圧下であることが好ましい。前記溶媒を、例えば、0.5分~50時間かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0119】
(D)溶融加熱工程
有機溶媒の除去する工程を実施した後、各種ミキサー、押出機を用いてポリオレフィンの溶融温度以上の温度で含浸、乾燥除去されたポリオレフィン粉末を溶融混練する。溶融混練温度は、ポリオレフィンの種類により、その融点を考慮して適宜決定できる。例えば、ポリエチレンの場合120~150℃、ポリプロピレンの場合160~200℃が熱劣化を最小限に留めるという観点から好ましい。溶融混練は、例えば、1分~50時間かけて行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0120】
ポリオレフィン粉末を溶融加熱することで、酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得ることができる。本発明の製造方法で製造されるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットが含有する酸化亜鉛粒子の含有量(濃度)には特に限定はない。但し、酸化亜鉛粒子の含有量は、3重量%以上であることが好ましい。3重量%未満であると、酸化亜鉛の効果が発現されにくい。一方、上限は、例えば、40重量%を超えるとポリオレフィンの特性が損なわれ易く、酸化亜鉛量の増加によるコストが増加する傾向がある。このような観点から、前記酸化亜鉛粒子濃度は3~40重量%の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0121】
本発明においては、酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットの総質量に対する、含有された酸化亜鉛の質量の百分率をナノコンポジットにおける酸化亜鉛含有量(濃度)と定義する。
【0122】
溶融混練した後、所望により、さらに加熱、成形、又は造粒することで酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットを作製することかできる。形状はシート、フィルム、チップ等にすることができるが、特に限定はない。
【0123】
(A)、(B)及び(D)を経て、アルキル亜鉛部分加水分解物はポリオレフィン中で下記一般式(2-4)の反応により酸化亜鉛に変換されると推定される。
【化8】
(式中、R10は一般式(2-1)におけるR10と同じであり、mは1~20の整数である。)
【0124】
(C)水分供給工程
(B)有機溶媒除去工程と(D)溶融加熱工程の間に、(C)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキル亜鉛部分加水分解物に水分を供給して分解を促進させる工程、を含有させることができる。
【0125】
水分を供給する方法の例として、含浸、有機溶媒が除去されたポリオレフィン粉末を十分な時間大気中に暴露する方法、チャンバー等の容器内で前記ポリオレフィン粉末を水蒸気に接触させる方法、チャンバー等の容器内で前記ポリオレフィン粉末を湿潤空気に暴露させる方法、水を直接前記ポリオレフィン粉末に接触させる方法が挙げられる。
【0126】
水分供給時の水分との反応は、20~100℃で行うことが好ましい。水分の供給時間は、例えば、0.5分~50時間かけて行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0127】
[酸化亜鉛粒子含有ポリオレフィン系ポリマーナノコンポジット]
本発明は、ポリオレフィン基材及び酸化亜鉛粒子を含有し、分散剤を含有せず、前記酸化亜鉛粒子は平均粒子径が100nm未満であるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを包含する。このポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、上記本発明の製造方法により製造ことができる。ポリオレフィン中の酸化亜鉛粒子の平均粒子径は、好ましくは、1nm以上~100nm未満の範囲である。本発明のポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、酸化物粒子が分散しにくいポリオレフィン系ポリマーを基材とするにもかかわらず、かつ酸化亜鉛粒子の平均粒子径が100nm未満と微細であるにもかかわらず、分散剤を含有することなく(分散剤を酸化亜鉛粒子の分散助剤として用いることなく)、酸化亜鉛粒子が基材中に良好に分散したナノコンポジットである。
【0128】
尚、本発明において、ナノコンポジットが含有しない分散剤とは、酸化亜鉛粒子をポリオレフィン基材中に分散する目的で使用される薬剤を意味する。後述するナノコンポジットに事後的に添加することができる添加剤であって、無機粒子に対する分散作用を有するものは、ここで言う分散剤には含まない。あくまでも、ナノコンポジットの製造過程で、酸化亜鉛粒子をポリオレフィン基材中に分散する目的で分散剤は用いず、その結果、本発明のナノコンポジットは分散剤を含有しない、という意図である。
【0129】
ポリオレフィン中の酸化亜鉛粒子の含有量(濃度)は、特に限定はないが、例えば、3重量%以上とすることができる。本発明の酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットの総質量に対する、含有された酸化亜鉛の質量の百分率をナノコンポジットにおける酸化亜鉛含有量(濃度)と定義する。
【0130】
3重量%未満であると、酸化亜鉛の効果が発現されにくく、40重量%以上であるとポリオレフィンの特性が損なわれ易く、酸化亜鉛量の増加によるコストが増加する傾向がある。この観点から、前記酸化亜鉛濃度は3~40重量%の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0131】
必要に応じて前記のようにして得られたポリオレフィン中の酸化亜鉛を、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化亜鉛の結晶性、結晶状態を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理によっても酸化亜鉛の結晶性、結晶状態を向上させることもできる。
【0132】
本発明の酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットは、マトリックスであるポリマーの熱安定の向上、耐摩耗性の向上、屈折率の調整、紫外線に対する安定性の向上、等のポリマーの基本特性を向上させ、導電性、紫外線吸収性、抗菌性、屈折率の調整等の機能性を付与できる。したがって、熱安定性、耐摩耗性、屈折率増加、紫外線安定性、導電性、紫外線吸収性、抗菌性、屈折率の調整が求められる現行部品の材料の代替品が用途として期待される。
【0133】
本発明の酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットは、コンポジットに含まれる酸化亜鉛粒子の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤の例として、ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、有機リン系化合物等の可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物等の結晶角剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、その他として、滑材、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットに対して事後的に添加されるものであるが、例えば、前記ナノコンポジットの調製工程である(D)溶融加熱工程において、酸化亜鉛粒子がポリオレフィン基材中に分散後に、添加することもできる。
【0134】
[酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法(第二の側面の第二の態様)]
本発明の第二の側面の第二の態様は、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液及びポリオレフィン粉末を用いることを特徴とする、酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットの製造方法に関する。
【0135】
本発明の第二の側面の第二の態様は、より具体的には、
(E)トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1~12であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物含有溶液を、ポリオレフィン粉末に含浸させる工程、
(F)ポリオレフィン粉末に含有された有機溶媒を除去する工程、及び
(H)ポリオレフィン粉末を溶融加熱する工程、
を含む。
【0136】
(E)含浸工程
前記トリアルキルアルミニウムは、下記一般式(2-2)で表されるトリアルキルアルミニウムであることが好ましい。
【化9】
(式中、R2はメチル基、エチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基又はn-オクチル基を表す。3つのR2は同一であっても、異なってもよい。)
【0137】
一般式(2-2)で表される化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリドデシルアルミニウム、トリテトラデシルアルミニウム等を挙げることができる。単位質量のアルミニウムに対する価格が安価であるという観点から、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが好ましく、特にトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0138】
トリアルキルアルミニウムの部分加水分解物含有溶液は、前記トリアルキルアルミニウム及び有機溶媒を含有する溶液に、前記トリアルキルアルミニウム中のアルミニウムに対してモル比が0.5~1.4の範囲水を添加して調製されることが好ましい。トリアルキルアルミニウムに対する水のモル比が0.5未満では、トリアルキルアルミニウムの残存によりポリオレフィンに含浸、乾燥時に凝集し易くなりポリオレフィン中に平均粒子径が100nm以下の酸化アルミニウムを形成することが困難である。一方、トリアルキルアルミニウムに対する水のモル比が1.4を超えると溶媒に不溶なゲル、固体が析出し、ゲル、固体によるポリオレフィン中への均一な酸化アルミニウム粒子の形成が困難になることから1.4以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。析出したゲルや固体は、デカント、ろ過等で除去することも可能である。
【0139】
前記有機溶媒の例としては、前記酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットの製造時と同様の化合物を挙げることができる。
【0140】
前記部分加水分解反応は、不活性ガス雰囲気下、前記トリアルキルアルミニウムを前記有機溶媒に、水を添加して行うことができる。
【0141】
水を添加する前記トリアルキルアルミニウム溶液中のトリアルキルアルミニウムの濃度は、例えば、5~98質量%とすることができる。
【0142】
水は、前記有機溶媒を用いて希釈し、水を含有する溶液として添加することもできる。
【0143】
水の添加は、シリンジ滴下、滴下漏斗等の滴下法により添加できる。また、2流体スプレーノズル機構等を用いて加圧窒素等と接触させ、霧状の水滴にして添加することも可能である。
【0144】
前記トリアルキルアルミニウム溶液への水、又は水を含有する溶液の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分~10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は-20~150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると-15~80℃の範囲であることが好ましい。
【0145】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記トリアルキルアルミニウムと水の部分加水分解反応をさらに進行させるために、0.1~50時間熟成反応させることができる。熟成反応温度は-15~150℃の間で任意の温度を選択できる。
【0146】
前記トリアルキルアルミニウム、水、有機溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0147】
前記部分加水分解反応により、前記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液が得られる。アルキルアルミニウム部分加水分解組成物についての解析は古くから行われているが、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0148】
本発明の方法におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物は下記一般式(2-5)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0149】
【化10】
(式中、R2は一般式(2-2)におけるR2と同じであり、mは1~80の整数である。)
【0150】
上記部分加水分解反応終了後、固体等が析出している場合、ろ過等の方法により精製することで固体等を除去することができる。
【0151】
上記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液は、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整することができる。また、反応に使用した溶媒、反応に使用したものとは異なる有機溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0152】
アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、適宜決定できる。含有量は、有機溶媒の量を調整することで調整できる。アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、例えば、5~90質量%の範囲で適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、溶解性や粘度等を考慮すると、好ましくは、5~70質量%の範囲である。
【0153】
アルキルアルミニウム加水分解物の含有量は、材料の含有量が低く溶媒を多く含有することから乾燥しにくくなる、処理すべき溶媒の排出が多くなるという観点から5質量%以上が好ましく、粘度が高くなる、製造中に白色固体等が析出しやすくなるという観点から、70質量%以下が好ましい。
【0154】
アルキルアルミニウム加水分解物含有溶液に含有するアルミニウムが全て酸化アルミニウム(Al23)に変換されたと仮定したときのアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の質量に対する酸化アルミニウム質量の百分率を、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液における酸化アルミニウム換算濃度と定義する。
【0155】
前記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の酸化アルミニウム換算濃度は、例えば、5~40質量%の範囲で適宜調整できる。
【0156】
前記ポリオレフィン粉末の例として、前記酸化亜鉛粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットの製造時と同様のポリオレフィン粉末を挙げることができる。
【0157】
前記ポリオレフィンへ粉末のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の含浸は、還元雰囲気、もしくは不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性の観点から窒素雰囲気下で行うことがさらに好ましい。
【0158】
前記ポリオレフィン粉末への含浸は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0159】
ポリオレフィン粉末中に均一に含浸させるために、0.1~50時間熟成させることができる。熟成温度は-15~100℃の間で任意の温度を選択できる。但し、熟成時間の短縮等を考慮すると25~100℃の範囲であることが好ましい。
【0160】
本工程において、後に述べる(H)溶融加熱工程におけるポリオレフィンの熱劣化を防止するために酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤は、ポリオレフィン用酸化防止剤として公知のものを使用できる。
【0161】
前記酸化防止剤の例として、前記酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットの製造時と同じ酸化防止剤を挙げることができる。
【0162】
本発明の酸化アルミニウムを含有するポリオレフィンナノコンポジットの総質量に対する、含有された酸化アルミニウムの質量の百分率をナノコンポジットにおける酸化アルミニウム濃度と定義する。
【0163】
3重量%未満であると、酸化アルミニウムの効果が発現されにくく、40重量%以上であるとポリオレフィンの特性が損なわれ易く、酸化アルミニウム量の増加によるコストが増加する傾向がある。この観点から、前記酸化アルミニウム濃度は3~40重量%の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0164】
(F)有機溶媒除去工程
工程(F)では、部分加水分解物含有溶液に含まれていた有機溶媒をポリオレフィン粉末から除去する。前記有機溶媒の除去は、工程(E)で得られたポリオレフィン粉末から有機溶媒を除去できる方法であれば特に限定はない。例えば、工程(E)で得られたポリオレフィン粉末を所定の温度で乾燥することで実施できる。前記有機溶媒を除去させるための所定の温度は、例えば、20~100℃の間で任意の温度を選択でき、乾燥は常圧または減圧下で実施できる。溶媒を除去する前にポリオレフィンが溶融することを防止する観点から100℃以下であること及び減圧であることが好ましい。前記溶媒を、例えば、0.5分~50時間かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0165】
(H)溶融加熱工程
有機溶媒の除去工程を実施した後、各種ミキサー、押出機を用いてポリオレフィンの溶融温度以上の温度で含浸、乾燥除去されたポリオレフィン粉末を溶融混練する。溶融混練温度は、ポリエチレンの場合120~150℃、ポリプロピレンの場合160~200℃が熱劣化を最小限に留めるという観点から好ましい。溶融混練は、例えば、1分~50時間かけて行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0166】
ポリオレフィン粉末を溶融加熱することで、酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットを得ることができる。本発明の製造方法で製造されるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットが含有する酸化アルミニウム粒子の含有量には特に限定はない。但し、酸化アルミニウム粒子の含有量は、3重量%以上であることが好ましい。3重量%未満であると、酸化アルミニウムの効果が発現されにくい。一方、上限は、例えば、40重量%を超えるとポリオレフィンの特性が損なわれ易く、酸化アルミニウム量の増加によるコストが増加する傾向がある。このような観点から、前記酸化アルミニウム粒子含有量(濃度)は3~40重量%の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0167】
本発明においては、酸化アルミニウムを含有するポリオレフィンナノコンポジットの総質量に対する、含有された酸化アルミニウムの質量の百分率をナノコンポジットにおける酸化アルミニウム含有量(濃度)と定義する。
【0168】
溶融混練した後、さらに加熱、成形、又は造粒することで酸化アルミニウムを含有するポリオレフィンナノコンポジットを作製する。形状はシート、フィルム、チップ等にすることができる。
【0169】
(E)、(F)及び(H)工程を経て、アルキルアルミニウム部分加水分解物はポリオレフィン中で下記一般式(2-6)の反応により酸化アルミニウムに変換されると推定される。
【化11】
(式中、R2は一般式(2-2)におけるR2と同じであり、mは1~80の整数である。)
【0170】
(G)水分供給工程
(F)有機溶媒除去工程と(H)溶融加熱工程の間に、(G)ポリオレフィン粉末に含有された上記アルキルアルミニウム部分加水分解物に水分を供給して分解を促進させる工程、を含有させることができる。
【0171】
水分を供給する方法の例として、前記酸化亜鉛を含有するポリオレフィンナノコンポジットの製造時と同じ供給方法を挙げることができる。
【0172】
水分供給時の水分との反応は、20~100℃で行うことが好ましい。水分の供給時間は、例えば、0.5分~50時間かけて行うことができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0173】
[酸化アルミニウム粒子含有ポリオレフィン系ポリマーナノコンポジット]
本発明は、ポリオレフィン基材及び酸化アルミニウム粒子を含有し、分散剤を含有せず、前記酸化アルミニウム粒子は平均粒子径が100nm未満であるポリオレフィン系ポリマーナノコンポジット。
【0174】
このポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、上記本発明の製造方法により製造ことができる。ポリオレフィン中の酸化アルミニウム粒子の平均粒子径は、好ましくは、1nm以上~100nm未満の範囲である。本発明のポリオレフィン系ポリマーナノコンポジットは、酸化物粒子が分散しにくいポリオレフィン系ポリマーを基材とするにもかかわらず、かつ酸化アルミニウム粒子の平均粒子径が100nm未満と微細であるにもかかわらず、分散剤を含有することなく(分散剤を酸化アルミニウム粒子の分散助剤として用いることなく)、酸化アルミニウム粒子が基材中に良好に分散したナノコンポジットである。
【0175】
尚、本発明において、ナノコンポジットが含有しない分散剤とは、酸化アルミニウム粒子をポリオレフィン基材中に分散する目的で使用される薬剤を意味する。後述するナノコンポジットに事後的に添加することができる添加剤であって、無機粒子に対する分散作用を有するものは、ここで言う分散剤には含まない。あくまでも、ナノコンポジットの製造過程で、酸化アルミニウム粒子をポリオレフィン基材中に分散する目的で分散剤は用いず、その結果、本発明のナノコンポジットは分散剤を含有しない、という意図である。
【0176】
前記のようにして得られるポリオレフィン中の酸化アルミニウム粒子の含有量は、特に限定はないが、例えば、3重量%以上とすることができる。本発明の酸化アルミニウムを含有するポリオレフィンナノコンポジットの総質量に対する、含有された酸化アルミニウムの質量の百分率をナノコンポジットにおける酸化アルミニウム含有量(濃度)と定義する。
【0177】
3重量%未満であると、酸化アルミニウムの効果が発現されにくく、40重量%以上であるとポリオレフィンの特性が損なわれ易く、酸化アルミニウム量の増加によるコストが増加するという観点から、前記酸化アルミニウム濃度は3~40重量%の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0178】
必要に応じて前記のようにして得られたポリオレフィン中の酸化アルミニウムを、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化アルミニウムの結晶性、結晶状態を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理によっても酸化アルミニウムの結晶性、結晶状態を向上させることもできる。
【0179】
一般的に、酸化アルミニウムは、水和物であるギブサイト、バイヤサイト、ベーマイト、ダイアスポア、または、χ-、γ-、η-、δ-、θ-、κ-、α-アルミナ等のいずれかの態になることが知られている。
【0180】
本発明において製造されるポリオレフィン中の酸化アルミニウムは、アルミニウム元素と酸素元素とを含有する化合物であり、これらの2つの元素が酸化アルミニウムに占める割合が90%以上のものをいう。
【0181】
本発明における酸化アルミニウムの形態は、後処理条件等により異なるが、処理温度や条件に応じて前述の一般的に知られている酸化アルミニウムのいずれかの態になると推定される。また、上記水分供給処理工程(G)等に付される場合は、酸化アルミニウムの一部が水酸化アルミニウムに変換される場合もある。
【0182】
本発明において500℃以下で製造された酸化アルミニウムは、通常、粉末X線回折分析で明瞭なピークが観測されず、アモルファス状態である。
【0183】
本発明の酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットは、酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットにおいても、熱伝導性、耐摩耗性、屈折率の調整等の機能性を付与することができる。したがって、熱導電性、耐摩耗性、屈折率の調整が求められる現行部品の材料の代替品が用途として期待される。
【0184】
本発明の酸化アルミニウム粒子を含有するポリオレフィンナノコンポジットは、ナノコンポジットが含有する酸化アルミニウム粒子の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤の例として、ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、有機リン系化合物等の可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物等の結晶角剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、その他として、滑材、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤等を挙げることができる。
【実施例
【0185】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0186】
(本発明の第一の側面)
本発明のアルキルアルミニウム化合物含有溶液およびアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の調製は、窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0187】
<トリアルキルアルミニウムのモル数>
トリアルキルアルミニウムのモル数は以下の式より算出した。
[トリアルキルアルミニウムのモル数]
=[導入したトリアルキルアルミニウムの質量(g)]/[トリアルキルアルミニウムの分子量(トリイソブチルアルミニウムの場合198.33)]
【0188】
<物性測定>
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液は、溶媒をエバポレーターにより乾燥させたものを、FT-IR分光装置(日本分光社製「FT/IR-4100」)にて透過法によりIR測定を実施した。
【0189】
本発明の製造方法により作成された酸化アルミニウム薄膜は、FT-IR分光装置(日本分光社製「FT/IR-4100」)にてZnSeプリズムを用いたATR(Attenuated Total Reflection:全反射)法によりATR補正なしで相対的にIR測定を実施した。
【0190】
[合成例1-1]
トルエン10.00gに、トリイソブチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)12.90gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水1.289g([水]/[トリイソブチルアルミニウム]=1.1(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を得た。
【0191】
得られたトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液をエバポレーターを用いて40℃で30分かけて溶媒乾燥させたものを透過法によりIR測定したところ、図1のようなスペクトルが得られた。400から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、加水分解によるAl-O-Al結合の形成が確認できた。
【0192】
[合成例1-2]
トルエン10.00gに、トリイソブチルアルミニウム21.61gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水2.159g([水]/[トリイソブチルアルミニウム]=1.1(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を得た。
【0193】
[合成例1-3]
トルエン1.990gに、トリ‐n-ヘキシルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)15.00gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水1.052g([水]/[トリ‐n-ヘキシルアルミニウム]=1.2(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリ‐n-ヘキシルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を得た。
【0194】
[合成例1-4]
トルエン4.890gに、トリ‐n-オクチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)15.01gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水0.958g([水]/[トリ‐n-オクチルアルミニウム]=1.3(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を得た。
【0195】
得られたトリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液をエバポレーターを用いて40℃で30分かけて溶媒乾燥させたものを透過法によりIR測定したところ、図2のようなスペクトルが得られた。400から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、加水分解によるAl-O-Al結合の形成が確認できた。
【0196】
[合成例1-5]
デカン10.70gに、トリイソブチルアルミニウム12.18gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水1.326g([水]/[トリイソブチルアルミニウム]=1.2(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有デカン溶液を得た。
【0197】
得られたトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有デカン溶液をエバポレーターを用いて40℃で30分かけて溶媒乾燥させたものを透過法によりIR測定したところ、図3のようなスペクトルが得られた。400から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、加水分解によるAl-O-Al結合の形成が確認できた。
【0198】
[合成例1-6]
デカン4.890gに、トリ‐n-オクチルアルミニウム15.00gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水0.958g([水]/[トリ‐n-オクチルアルミニウム]=1.3(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してトリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物含有デカン溶液を得た。
【0199】
得られたトリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物含有デカン溶液をエバポレーターを用いて40℃で30分かけて溶媒乾燥させたものを透過法によりIR測定したところ、図4のようなスペクトルが得られた。400から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、加水分解によるAl-O-Al結合の形成が確認できた。
【0200】
[参考合成例1-1]
デトラヒドロフラン(以下THF)10.00gに、トリイソブチルアルミニウム12.09gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水1.208g([水]/[トリイソブチルアルミニウム]=1.1(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、トリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有THF溶液を得た。
[参考合成例1-2]
トルエン17.41gに、トリエチルアルミニウム10.90gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、20℃で水1.891g([水]/[トリイソブチルアルミニウム]=1.1(モル比))を30分間かけてシリンジで滴下して加えた。しかし、滴下時に副生エタンガスの異常発生、白色塊の形成が起こり、スケールを大きくした場合製造困難になることが容易に想像された。さらに、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、多量の析出固体をデカント除去してトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を得た。水の活性水素2つが全てトリエチルアルミニウムと反応し、エタンを生成し、エタンガスはガスとして全て溶液より除去されると仮定した場合の、重量収率は62%であり、その他の合成例に比べて大きく低下した。
【0201】
[実施例1-1]
合成例1-1で得られたトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を、25℃、相対湿度約40%の空気雰囲気下、15mm角のガラス基板(コーニング社製、EagleXG)上に100μl滴下し、スピンコーターにより4000rpm、20秒間スピンして塗布した後、80℃で3分加熱することで薄膜を形成させた。
【0202】
図5のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図6のようなスペクトルが得られた。550から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、Al-O-Al結合の形成が確認できた。したがって、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。ガラス基板自体のATR法によるIRスペクトルは図7であり明らかに図6と異なる。
【0203】
[実施例1-2]
200℃で3分加熱する以外は実施例1-1と同様に薄膜を形成させた。
【0204】
図8のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図9のようなスペクトルが得られた。550から1500cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。
【0205】
[実施例1-3]
基板を、20mm角のアクリル基板(三菱レイヨン社製、アクリライトEX)、溶液を150μl滴下にした以外は実施例1-1と同様に薄膜を形成させた。
【0206】
図10のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図11のようなスペクトルが得られ、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。アクリル基板自体のATR法によるIRスペクトルは図12であり明らかに図11と異なる。
【0207】
[実施例1-4]
合成例1-4で得られたトリ‐n-オクチルアルミニウム加水分解組成物含有トルエン溶液を、25℃、相対湿度約40%の空気雰囲気下、15mm角のガラス基板(コーニング社製、EagleXG)上に150μl滴下し、スピンコーターにより4000rpm、20秒間スピンして塗布した後、80℃で3分加熱することで薄膜を形成させた。
【0208】
図13のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図14のようなスペクトルが得られ、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。
【0209】
[実施例1-5]
基板を、20mm角のアクリル樹脂基板(三菱レイヨン社製、アクリライトEX)、溶液を180μl滴下した以外は実施例1-4と同様に薄膜を形成させた。
【0210】
図15のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図16のようなスペクトルが得られ、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。
【0211】
[実施例1-6]
合成例1-5で得られたトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有デカン溶液を、25℃、相対湿度約40%の空気雰囲気下、20mm角のアクリル樹脂基板(三菱レイヨン社製、アクリライトEX)上に180μl滴下し、スピンコーターにより4000rpm、20秒間スピンして塗布し後、80℃で3分加熱することで薄膜を形成させた。
【0212】
図17のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、図18のようなスペクトルが得られ、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。
【0213】
[比較例1-1]
溶液を、参考合成例1-1で得られたトリイソブチルアルミニウム加水分解組成物含有THF溶液にした以外は実施例1-3と同様に薄膜を形成させた。
【0214】
溶液が接した部分の基板の溶解が見られ、基板の歪みも起こった。より大量に溶液を使用する工業化が難しいことが容易に想像され、フィルムのようなより薄い基材には適用できないことも明らかである。
【0215】
(本発明の第二の側面)
本発明のアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の調製は、窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0216】
<トリアルキルアルミニウムのモル数>
トリアルキルアルミニウムのモル数は以下の式より算出した。
[トリアルキルアルミニウムのモル数]
=[導入したトリアルキルアルミニウムの質量(g)]/[トリアルキルアルミニウムの分子量(トリエチルアルミニウムの場合114.17)]
【0217】
<物性測定>
本発明の酸化亜鉛を含有するポリプロピレンナノコンポジット、酸化アルミニウムを含有するポリプロピレンナノコンポジットは、FT-IR分光装置(日本分光社製「FT/IR-6100」)にて透過法によりIR測定を実施した。
【0218】
本発明の酸化亜鉛を含有するポリプロピレンナノコンポジットは、粉末X線回折装置(リガク社製「SmartLab」)にて粉末X線回折(以下XRD)測定を実施した。
【0219】
本発明の酸化亜鉛を含有するポリプロピレンナノコンポジット、酸化アルミニウムを含有するポリプロピレンナノコンポジットは、ダイヤモンドナイフが付属したミクロトームにより約100nmに切断し、透過電子顕微鏡(日立製作所製「H-7100」)にてTEM測定を実施した。
【0220】
[合成例2-1]
トルエン45.0gに、ジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)8.98gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、-15℃まで冷却し、-15℃で水を10重量%含有するテトラヒドロフラン(以後THF)溶液を7.857g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6(モル比))を60分間かけてシリンジで滴下して加えた。25℃まで昇温した後、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してエチル亜鉛部分加水分解物含有トルエン溶液を得た。
【0221】
[合成例2-2]
トルエン45.00gに、トリエチルアルミニウム21.61gを20℃で加え、十分撹拌した。その後、-15℃まで冷却し、-15℃で水を10重量%含有するTHF溶液を11.09g([水]/[トリエチルアルミニウム]=1.0(モル比))を60分間かけてシリンジで滴下して加えた。25℃まで昇温した後、25℃で3時間攪拌を続けることにより熟成反応を行った後、少量の析出固体をデカント除去してエチルアルミニウム部分加水分解物含有トルエン溶液を得た。
【0222】
[実施例2-1]
チーグラー―ナッタ触媒(TiCl4/MgCl2/フタル酸ジブチル型)を用いてプロピレンを重合した。得られたプロピレン単独重合体の密度は0.9g/cm3、重量平均分子量は2.6×105であった。
【0223】
前記プロピレン単独重合体粉末30gに1.0重量%に相当する酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブAO-50)0.3gを混合した。混合物を十分に撹拌した後、合成例1のエチル亜鉛部分加水分解物含有トルエン溶液15.79g([アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液における酸化亜鉛換算濃度(10wt%)]/100×[アルキル亜鉛部分加水分解物重量]=[ナノコンポジット総量(ポリプロピレン重量(30g)+変換された酸化亜鉛重量(アルキル亜鉛部分加水分解物重量の10wt%))]×[ナノコンポジットにおける酸化亜鉛濃度(5wt%)]/100より算出)を導入し十分に撹拌した。このようにして形成された混合物を窒素雰囲気下、50℃で12時間撹拌することにより、エチル亜鉛部分加水分解物含有トルエン溶液をプロピレン単独重合体粉末に含浸した。
【0224】
上記含浸したプロピレン単独重合体粉末を6時間真空乾燥させ、溶媒を除去した。
【0225】
溶媒除去したプロピレン単独重合体粉末を、ミキサーで180℃、100rpmの条件で15分溶融加熱して酸化亜鉛を含有するポリプロピレンナノコンポジットを作製した。さらに、シート成形機を用いて、230℃、6分加熱融解したナノコンポジットをプレス、クエンチすることによりシート状にした。
【0226】
IR測定したところ、図19のようなスペクトルが得られた。3900cm-1付近において、1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが本実施例2-1のスペクトルである。400から800cm-1付近にブロードなZn-O-Znの振動ピークが確認され、酸化亜鉛粒子の形成が確認された。
【0227】
TEM測定したところ、図20のようなTEM像が得られた。酸化亜鉛の存在が確認できた。像中の平均的な粒子20個の粒子径から平均粒子径を算出したところ、39nmであった。
【0228】
XRD測定したところ、図21のようなスペクトルが得られた。上側のスペクトルが本実施例2-1のスペクトルであり、下側のスペクトルはプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトルである。酸化亜鉛の回折ピークを確認できた。
【0229】
[実施例2-2]
溶媒乾燥除去工程と溶融加熱工程の間に水蒸気と80℃、24時間反応させる水分供給工程を導入した以外は実施例2-1と同様に酸化亜鉛を含有したポリプロピレンナノコンポジットを形成させ、さらに、実施例2-1と同様にシート状にした。
【0230】
IR測定したところ、図22のようなスペクトルが得られた。3900cm-1付近において、1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが本実施例2-2のスペクトルである。400から800cm-1付近にブロードなZn-O-Znの振動ピークが確認され、酸化亜鉛粒子の形成が確認された。
【0231】
TEM測定したところ、図23のようなTEM像が得られた。酸化亜鉛の存在が確認できた。像中の平均的な粒子20個の粒子径から平均粒子径を算出したところ、43nmであった。
【0232】
XRD測定したところ、図24のようなスペクトルが得られた。酸化亜鉛の回折ピークを確認できた。水分供給工程を含有しない実施例2-1に比べ回折ピークがよりシャープになり酸化亜鉛の結晶性が向上した。
【0233】
[実施例2-3]
合成例2-1のエチル亜鉛部分加水分解物含有トルエン溶液を、合成例2-2のエチルアルミニウム部分加水分解物含有トルエン溶液にした以外実施例2-1と同様に酸化アルミニウムを含有するポリプロピレンナノコンポジットを形成させた。
【0234】
IR測定したところ、図25のようなスペクトルが得られた。3600cm-1付近において、1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、2番目のスペクトルが本実施例2-3のスペクトルである。400から1000cm-1付近にブロードなAl-O-Alの振動ピークが確認され、酸化アルミニウム粒子の形成が確認された。
【0235】
TEM測定したところ、図26のようなTEM像が得られた。酸化アルミニウムの存在が確認できた。像中の平均的な粒子20個の粒子径から平均粒子径を算出したところ、72nmであった。
【0236】
[実施例2-4]
合成例2-1のエチル亜鉛部分加水分解物含有トルエン溶液15.79gを、合成例2-2のエチルアルミニウム部分加水分解物含有トルエン溶液15.79g([アルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液における酸化亜鉛換算濃度(10wt%)]/100×[アルキル亜鉛部分加水分解物重量]=[ナノコンポジット総量(ポリプロピレン重量(30g)+変換された酸化亜鉛重量(アルキル亜鉛部分加水分解物重量の10wt%))]×[ナノコンポジットにおける酸化亜鉛濃度(5wt%)]/100より算出)にした以外は実施例2-2と同様に酸化アルミニウムを含有するポリプロピレンナノコンポジットを形成させ、さらに、実施例2-1と同様にシート状にした。
【0237】
IR測定したところ、図27のようなスペクトルが得られた。3900cm-1付近において、1番上のスペクトルがプロピレン単独重合体粉末のみのスペクトル、1番下のスペクトルが本実施例2-4のスペクトルである。特に1600cm-1付近、3000~3700cm-1にブロードなAl-OHの振動ピークが確認され、水酸化アルミニウム粒子の形成が確認された。
【0238】
TEM測定したところ、図28のようなTEM像が得られた。水酸化アルミニウムの存在が確認できた。像中の平均的な粒子20個の粒子径から平均粒子径を算出したところ、75nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0239】
本発明の第一の側面の酸化アルミニウムは、放熱性付与、耐熱性付与、空気、水分に対するバリア性付与、反射防止効果付与、帯電防止効果付与、防曇効果付与、対磨耗性付与、高熱伝導用樹脂用フィラー、屈折率、反射率、加工性、柔軟性等の樹脂調整用フィラー、ファインセラミックの焼結原料等に供することができる。
【0240】
本発明の第二の側面のポリオレフィン系ナノコンポジットは、安定性、耐摩耗性、屈折率増加、紫外線安定性、導電性、紫外線吸収性、抗菌性が求められる現行部品の材料の代替品の用途、熱導電性、耐摩耗性、屈折率の調整が求められる現行部品の材料の代替品が用途等に供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22
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図28