(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】触媒の診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20221021BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
F01N3/20 C ZAB
B01D53/94 280
B01D53/94 245
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2018072675
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 成慶
(72)【発明者】
【氏名】蘭 霖
(72)【発明者】
【氏名】李 先峯
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181526(JP,A)
【文献】特開2018-021473(JP,A)
【文献】特開2012-241594(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0169076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(1)の排気通路(9)に備えられた酸化機能を有する触媒(17)の診断を行う触媒の診断装置(50)において、
前記触媒(17)よりも上流側の排気通路(9)内の酸素濃度である上流側酸素濃度、及び、前記触媒(17)よりも下流側の排気通路(9)内の酸素濃度である下流側酸素濃度に基づいて
酸化効率を算出する効率算出部(63)と、
前記内燃機関(1)から排出される排気の流量に応じた第1の効率モデル、及び、前記排気の温度に応じた第2の効率モデルに基づいて、前記触媒(17)の異常判定の際に前記酸化効率と比較する閾値を設定する閾値設定部(65)と、
前記効率算出部(63)により算出された前記酸化効率と前記閾値設定部(65)により設定された前記閾値とを比較することにより前記触媒(17)の異常判定を行う判定部(67)
と、を備える、触媒の診断装置(50)。
【請求項2】
前記効率算出部(63)は、前記酸化効率の積算値を算出し、
前記閾値設定部(65)は、前記酸化効率のモデル値の積算値を、前記酸化効率の積算値と比較する閾値に設定し、
前記判定部(67)は、前記効率算出部(63)により算出された前記酸化効率の積算値と前記閾値設定部(65)により設定された前記閾値とを比較することにより前記触媒(17)の異常判定を行う、請求項1に記載の触媒の診断装置(50)。
【請求項3】
前記上流側酸素濃度は、ラムダセンサ(23)又は酸素濃度センサ(23)を用いて検出された値である、請求項
1又は2に記載の触媒の診断装置(50)。
【請求項4】
前記下流側酸素濃度は、前記触媒(17)よりも下流側に備えられたNO
Xセンサを用いて検出された値である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の触媒の診断装置(50)。
【請求項5】
内燃機関(1)の排気通路(9)に備えられた酸化機能を有する触媒(17)の診断を行う触媒の診断方法において、
前記触媒(17)よりも上流側の排気通路(9)内の酸素濃度である上流側酸素濃度、及び、前記触媒(17)よりも下流側の排気通路(9)内の酸素濃度である下流側酸素濃度に基づいて酸化効率を算出するステップ(S19)と、
前記内燃機関(1)から排出される排気の流量、及び、前記排気の温度の少なくとも一方に応じた効率モデルに基づいて、前記触媒(17)の異常判定の際に前記酸化効率と比較する閾値を設定するステップ(S21)と、
算出された前記酸化効率
と設定された前記閾値とを比較することにより前記触媒(17)の異常判定を行うステップ(S27)と、
を備える、触媒の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路には、酸化機能を有する触媒が備えられている。酸化機能を有する触媒の代表的な例としては酸化触媒が挙げられる。この他、酸化機能を有する触媒としては、NOX選択還元触媒及びNOX吸蔵触媒も知られている。
【0003】
例えば、ディーゼルエンジンの排気通路に備えられる酸化触媒は、排気ガス中の一酸化炭素(CO)及び一酸化窒素(NO)を二酸化炭素(CO2)及び二酸化窒素(NO2)へと酸化させて排気ガスの浄化効率を高めるために用いられる。また、ディーゼルエンジンの排気通路に備えられる酸化触媒は、パティキュレートフィルタの再生時に未燃燃料(HC)を酸化させて排気温度を上昇させるために用いられる。
【0004】
このような酸化触媒が劣化したり溶損によりその機能が失われたりすると、排気ガスの浄化効率が低下したり、パティキュレートフィルタの目詰まりによって内燃機関が故障したりするおそれがある。このため、内燃機関の排気通路に備えられた酸化触媒の劣化等の異常を診断する技術が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸化触媒の異常を診断する技術が開示されている。具体的に、特許文献1には、酸化触媒の温度が活性温度に達した場合に酸化触媒に未燃燃料を供給し、所定時間内に酸化触媒の出口の排気温度がパティキュレートの燃焼温度に達しない場合に、酸化触媒が故障していると判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸化触媒の出口の排気温度は、様々なパラメータによって変化し得る。このため、酸化触媒の出口の排気温度に基づいて酸化触媒の正常又は異常の切り分けを行うことは容易ではない。診断結果の信頼性を高めようとする場合、酸化触媒が正常な状態か、完全に機能していない状態かを切り分けるような診断方法に頼らざるを得ず、実際の酸化効率に基づいて酸化触媒の診断を行うことは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、内燃機関の排気通路に備えられた酸化機能を有する触媒の診断の信頼性を高めることが可能な触媒の診断装置及び診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、内燃機関の排気通路に備えられた酸化機能を有する触媒の診断を行う触媒の診断装置であって、触媒よりも上流側の排気通路内の酸素濃度である上流側酸素濃度、及び、触媒よりも下流側の排気通路内の酸素濃度である下流側酸素濃度に基づいて酸化効率を算出する効率算出部と、内燃機関から排出される排気の流量に応じた第1の効率モデル、及び、排気の温度に応じた第2の効率モデルに基づいて、触媒の異常判定の際に酸化効率と比較する閾値を設定する閾値設定部と、効率算出部により算出された酸化効率と閾値設定部により設定された閾値とを比較することにより触媒の異常判定を行う判定部とを備える、触媒の診断装置が提供される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、内燃機関の排気通路に備えられた酸化機能を有する触媒の診断を行う触媒の診断方法であって、触媒よりも上流側の排気通路内の酸素濃度である上流側酸素濃度、及び、触媒よりも下流側の排気通路内の酸素濃度である下流側酸素濃度に基づいて酸化効率を算出するステップと、内燃機関から排出される排気の流量に応じた第1の効率モデル、及び、排気の温度に応じた第2の効率モデルに基づいて、触媒の異常判定の際に酸化効率と比較する閾値を設定するステップと、算出された酸化効率と設定された閾値とを比較することにより触媒の異常判定を行うステップと、を備える、触媒の診断方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、内燃機関の排気通路に備えられた酸化機能を有する触媒の診断の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る触媒の診断装置を適用可能な内燃機関の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る触媒の診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る触媒の診断装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図4】同実施形態に係る触媒の診断装置の処理の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.内燃機関の構成例>
まず、
図1を参照しながら、本発明の実施の形態に係る触媒の診断装置を適用可能な内燃機関の構成例について説明する。
図1は、内燃機関1の吸気系及び排気系の構成例を示す模式図である。なお、本実施形態では、内燃機関1がディーゼルエンジンである例を説明する。
【0015】
内燃機関1は、複数の気筒を有している。内燃機関1は、クランクシャフト5の回転数を検出するための回転数センサ15を備えている。回転数センサ15のセンサ信号は、制御装置(ECU:Electronic Control Unit)50に送信される。内燃機関1は、各気筒に供給される燃料を噴射する燃料噴射装置3を備えている。燃料噴射装置3は、例えば高圧燃料を吐出するポンプ、高圧の燃料を保持するコモンレール、及びコモンレールに接続された複数の燃料噴射弁等を含むコモンレールシステムであってよい。燃料噴射装置3は、制御装置50により制御される。
【0016】
内燃機関1の吸気通路7には、吸気弁11及びエアマスセンサ13が備えられている。吸気弁11は、制御装置50により制御され、吸気量を調節する。エアマスセンサ13は、吸気の流量の検出に用いられる。エアマスセンサ13のセンサ信号は、制御装置50に送信される。吸気弁11及びエアマスセンサ13は、従来公知のものであってよい。
【0017】
内燃機関1の排気通路9には、第1の酸素濃度センサ23、第2の酸素濃度センサ25、排気温度センサ21、酸化触媒17及びパティキュレートフィルタ19が備えられている。
【0018】
パティキュレートフィルタ19は、酸化触媒17よりも下流側に配置されている。パティキュレートフィルタ19は、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する。酸化触媒17は、排気ガス中に含まれる未燃燃料(HC)、一酸化炭素(CO)又は一酸化窒素(NO)等を酸化する。酸化触媒17は、活性温度以上になると酸化反応が活性化する特性を有している。
【0019】
制御装置50は、所定の時期にパティキュレートフィルタ19の再生制御を行い、パティキュレートフィルタ19に捕集されたPMを燃焼させる。例えば、制御装置50は、内燃機関1の運転中において、パティキュレートフィルタ19の上流側と下流側との圧力差を検出し、当該圧力差が所定の閾値に到達したときに再生制御を実行する。あるいは、制御装置50は、内燃機関1のイグニッションスイッチがオフにされた時に、所定時間再生制御を実行した後に、内燃機関1の停止許可を行ってもよい。
【0020】
パティキュレートフィルタ19の再生制御は、例えば燃料噴射装置3により内燃機関1にポスト噴射を行い、内燃機関1の排気ガス中に含まれる未燃燃料(HC)を増加させることにより行われる。これにより、酸化触媒17で未燃燃料(HC)が酸化する際に生じる酸化熱により排気温度が上昇し、パティキュレートフィルタ19に捕集されたPMを燃焼させることができる。
【0021】
なお、パティキュレートフィルタ19に捕集されたPMを燃焼させる方法は、上記の例に限られない。例えば、酸化触媒17よりも上流側で排気通路9内に燃料を噴射する燃料噴射装置を設け、制御装置50が、当該燃料噴射装置から燃料を噴射させることにより酸化触媒17に未燃燃料(HC)を供給してもよい。
【0022】
第1の酸素濃度センサ23は、酸化触媒17よりも上流側の排気通路9に設けられ、酸化触媒17よりも上流側での排気ガス中の酸素濃度(上流側酸素濃度)に応じたセンサ信号を出力する。第1の酸素濃度センサ23のセンサ信号は、制御装置50に送信される。第1の酸素濃度センサ23は、例えば酸素濃度センサ又はラムダセンサであってもよい。本実施形態では、第1の酸素濃度センサ23としてラムダセンサが用いられている。
【0023】
第2の酸素濃度センサ25は、酸化触媒17よりも下流側の排気通路9に設けられ、酸化触媒17よりも下流側での排気ガス中の酸素濃度(下流側酸素濃度)に応じたセンサ信号を出力する。第2の酸素濃度センサ25のセンサ信号は、制御装置50に送信される。第2の酸素濃度センサ25は、例えば酸素濃度センサ又はラムダセンサであってもよい。本実施形態では、第2の酸素濃度センサ25としてラムダセンサが用いられている。
【0024】
排気温度センサ21は、酸化触媒17よりも上流側の排気通路9に設けられ、酸化触媒17よりも上流側での排気ガスの温度に応じたセンサ信号を出力する。排気温度センサ21のセンサ信号は、制御装置50に送信される。なお、排気温度センサ21は、第1の酸素濃度センサ23よりも下流側に設けられていてもよい。
【0025】
<2.診断装置(制御装置)>
次に、本実施形態に係る触媒の診断装置として機能する制御装置50の構成例について説明する。
図2は、制御装置50の構成例を示すブロック図である。なお、制御装置50は、1つの制御装置で構成されていてもよく、あるいは、複数の制御装置が互いに通信可能に接続されて構成されていてもよい。
【0026】
制御装置50は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサ、記憶素子及び電気回路等を備えて構成され、プロセッサがコンピュータプログラムを実行することにより種々の機能が実現される装置であってよい。なお、制御装置50の一部又は全部は、例えば、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよい。また、制御装置50の一部又は全部は、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
具体的に、本実施形態に係る制御装置50は、制御部60及び記憶部52を備えている。制御部60は、センサ情報取得部61、効率算出部63、閾値設定部65、判定部67及び燃料噴射制御部69を備えている。制御部60は、プロセッサ及び電気回路等を含む。制御部60の各部は、プロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。
【0028】
記憶部52は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の1つ又は複数の記憶素子を含む。記憶部52は、プロセッサにより実行されるコンピュータプログラム、演算に用いられる制御パラメータ、プロセッサによる演算結果、及び取得したセンサ値等を記憶する。記憶部52は、HDD(Hard Disk Drive)やストレージ装置等を含んでいてもよい。
【0029】
(センサ情報取得部)
センサ情報取得部61は、エアマスセンサ13、第1の酸素濃度センサ23、第2の酸素濃度センサ25及び排気温度センサ21のセンサ信号に基づいて各種の情報を取得する。具体的に、センサ情報取得部61は、エアマスセンサ13のセンサ信号に基づいて吸気量m_airの情報を取得する。センサ情報取得部61は、排気温度センサ21のセンサ信号に基づいて排気温度T_gasの情報を取得する。センサ情報取得部61は、回転数センサ15のセンサ信号に基づいて、内燃機関1の回転数Neの情報を取得する。
【0030】
センサ情報取得部61は、第1の酸素濃度センサ23のセンサ信号に基づいて上流側酸素濃度O2_usに相関する情報を取得する。センサ情報取得部61は、第2の酸素濃度センサ25のセンサ信号に基づいて下流側酸素濃度O2_dsに相関する情報を取得する。本実施形態では、第1の酸素濃度センサ23及び第2の酸素濃度センサ25としてラムダセンサが用いられており、センサ情報取得部61は、上流側酸素濃度に応じた上流側ラムダ値λ_usの情報及び下流側酸素濃度に応じた下流側ラムダ値λ_dsの情報を取得する。
【0031】
(効率算出部)
効率算出部63は、取得された上流側ラムダ値λ_us及び下流側ラムダ値λ_dsに基づいて酸化触媒17の酸化効率HC_cnvを算出する。本実施形態では、効率算出部63は、酸化触媒17による未燃燃料(HC)の酸化効率HC_cnvを算出する。
【0032】
(閾値設定部)
閾値設定部65は、酸化触媒17の異常判定の際に、効率算出部63で算出された酸化効率HC_cnvと比較する閾値HC_cnv_threを設定する。閾値設定部65は、例えば内燃機関1から排出される排気ガスの質量流量m_exh又は排気温度T_gasの少なくとも一方に基づいて閾値HC_cnv_threを設定する。
【0033】
(判定部)
判定部67は、効率算出部63で算出された酸化効率HC_cnvに基づいて、酸化触媒17の異常判定を行う。本実施形態では、判定部67は酸化効率HC_cnvを閾値設定部65で設定された閾値HC_cnv_threと比較することにより酸化触媒17の異常判定を行う。本実施形態に係る制御装置50の判定部67は、さらに、酸化触媒17の診断の要否の判定や診断に適した状態か否かの判定を行うように構成されている。
【0034】
また、判定部67は、酸化触媒17の診断を実行する際に、酸化触媒17で未燃燃料(HC)が酸化される状態にない場合には、燃料噴射制御部69に診断用の燃料噴射を実行させる。
【0035】
(燃料噴射制御部)
燃料噴射制御部69は、燃料噴射装置3の駆動を制御し、内燃機関1への燃料噴射制御を実行する。例えば、燃料噴射制御部69は、内燃機関1の回転数Ne及びアクセルペダルの操作量に基づいて目標噴射量を算出し、燃料噴射装置3を制御する。
【0036】
また、燃料噴射制御部69は、判定部67から診断用の燃料噴射を実行するよう指令が出された場合には、ポスト噴射を実行して、排気ガス中に未燃燃料が含まれるように制御する。なお、この場合、パティキュレートフィルタ19の再生時のように排気温度T_gasを500~600度以上に上昇させる必要がないため、ポスト噴射時の燃料量はパティキュレートフィルタ19の再生時のポスト噴射量よりも少なくてよい。
【0037】
<3.酸化効率の演算処理の概略>
次に、本実施形態に係る制御装置50による酸化効率の演算処理の一例を説明する。なお、以下の説明においては、ディーゼルエンジンの理論空燃比が14.5であるものとして説明する。
【0038】
酸化触媒17による未燃燃料(HC)の酸化効率HC_cnvは、酸化触媒17よりも上流側の未燃燃料(HC)の質量流量dm_HC_us及び下流側の未燃燃料(HC)の質量流量dm_HC_dsに基づき、下記式(1)を用いて算出することができる。
【0039】
【数1】
HC_cnv:酸化効率(%)
dm_HC_us:上流側HC質量流量(kg/h)
dm_HC_ds:下流側HC質量流量(kg/h)
Δdm_HC_oxi:酸化されたHC質量流量(kg/h)
【0040】
内燃機関1に供給された燃料噴射量m_inj_totと、燃焼した燃料量m_inj_cmbと、未燃燃料量m_inj_HCとの関係は、下記式(2)で表すことができる。
m_inj_tot=m_inj_cmb+m_inj_HC …(2)
m_inj_tot:燃料噴射量(mg/ストローク)
m_inj_cmb:燃焼した燃料量(mg/ストローク)
m_inj_HC:未燃燃料量(mg/ストローク)
【0041】
燃焼した燃料量m_inj_cmbと、第1の酸素濃度センサ23のセンサ信号に基づき取得される上流側ラムダ値λ_upと、内燃機関1への吸気量m_airとの関係は、下記式(3)で表すことができる。
【0042】
【数2】
λ_us:上流側ラムダ値
m_air:吸気量(mg/ストローク)
m_inj_cmv:燃焼した燃料量(mg/ストローク)
【0043】
上記式(3)より、燃焼した燃料量m_inj_cmbは、下記式(4)で表すことができる。
【0044】
【0045】
ここで、未燃燃料量m_inj_HCは、燃料噴射量m_inj_totから燃焼した燃料量m_inj_cmbを引いた値である。上記式(2)及び式(4)より、未燃燃料量m_inj_HCは、下記式(5)で表すことができる。
【0046】
【0047】
未燃燃料(HC)が酸化触媒17で酸化される際には酸素が消費される。このため、消費された酸素量を算出できれば酸化された未燃燃料量を算出することができる。
【0048】
上流側HC流量dm_HC_usと、内燃機関1の気筒数N_cylと、内燃機関1の回転数Neと、未燃燃料量m_inj_HCとの関係は、未燃燃料量m_inj_HCの単位をmg/ストロークからkg/hに単位換算して下記式(6)で表すことができる。
【0049】
【数5】
N_cyl:気筒数(個)
Ne:回転数(rpm)
【0050】
酸化触媒17において消費された瞬時酸素濃度ΔO2_oxiは、酸化触媒17よりも上流側での酸素濃度(上流側酸素濃度)O2_us及び酸化触媒17よりも下流側での酸素濃度(下流側酸素濃度)O2_dsを用いて、下記式(7)で表すことができる。
ΔO2_oxi=O2_us-O2_ds …(7)
【0051】
ここで、ディーゼルエンジンにおいて燃料を完全に燃焼させるための酸素の質量は、理論空燃比に基づき算出することができる。
A/F=14.5 …(8)
【0052】
酸素の質量流量dm_O2は、空気量Aに、空気中の酸素の体積密度をかけた値であることから、酸素の体積密度を0.2315とすると、空気量Aは下記式(9)で表すことができる。
【0053】
【数6】
dm_O
2:酸素の質量流量(kg/h)
A:空気量(kg/h)
【0054】
上記式(9)を式(8)に代入すると、式(8)は下記式(10)で表すことができる。
【0055】
【0056】
この式(10)より下記式(11)が得られる。
【0057】
【0058】
排気ガス中の酸素濃度O2は、排気ガス中の酸素の質量流量dm_O2を排気ガスの質量流量dm_exh_gasで割った値であり、下記式(12)で表すことができる。
【0059】
【数9】
O
2:酸素濃度(%)
dm_exh_gas:排気ガスの質量流量(kg/h)
【0060】
したがって、酸化触媒17中で酸化された未燃燃料(HC)の質量流量Δdm_HC_oxiを燃料量Fとして考えた場合に、酸化触媒17中で酸化された未燃燃料(HC)の質量流量Δdm_HC_oxiは上記式(11)及び式(12)に基づいて下記式(13)で表すことができる。
【0061】
【0062】
上記式(13)における酸素濃度O2を、酸化触媒17で消費される酸素濃度ΔO2_oxiに置き換えると、式(7)及び式(13)から、酸化触媒17中で酸化された未燃燃料(HC)の質量流量Δdm_HC_oxiは下記式(14)で表すことができる。
【0063】
【0064】
排気ガスの質量流量dm_exh_gasは、燃料噴射量dm_inj_totと吸気の質量流量dm_airとの和であり、下記式(15)で表すことができる。
dm_exh_gas=dm_inj_tot+dm_air …(15)
【0065】
上記式(15)を上記式(14)に代入すると、下記式(16)が得られる。
【0066】
【0067】
上記式(6)及び式(16)を式(1)に代入すると、基本的な酸化効率HC_cnvは下記式(17)で表すことができる。
【0068】
【0069】
さらに、本実施形態に係る酸化触媒17の診断方法では、酸化触媒17に吸着されている未燃燃料(HC)の燃焼に消費される酸素量HC_strと、排気ガス中のNOをNO2に酸化するために消費される酸素量NO_cnvを考慮する。この場合の酸化効率HC_cnv_corは下記式(18)で表すことができる。
【0070】
【数14】
HC_str:酸化触媒に吸着されている未燃燃料の燃焼に消費される酸素量
NO_cnv:排気ガス中のNOをNO
2に酸化するために消費される酸素量
【0071】
本実施形態に係る制御装置50は、上流側酸素濃度O2_us及び下流側酸素濃度O2_dsに応じた値である上流側ラムダ値λ_us及び下流側ラムダ値λ_dsに基づいて、上述した演算方法にしたがって酸化触媒17の酸化効率HC_cnvを算出する。
【0072】
<4.診断装置(制御装置)の処理動作例>
次に、
図3及び
図4を参照して、診断装置として機能する制御装置50の処理動作例を説明する。
【0073】
図3は、制御装置50の処理動作の一例を示すフローチャートである。
図4は、制御装置50による処理を具体的に示す説明図である。
図4において、点線で囲まれた範囲Xの処理を効率算出部63が実行し、点線で囲まれた範囲Yの処理を閾値設定部65が実行する。また、点線で囲まれた範囲Zの処理を判定部67が実行する。
【0074】
図3のフローチャートにおいて、まず、制御装置50の判定部67は、今回のドライビングサイクルにおいて酸化触媒17の診断処理が未完了であるか否かを判別する(ステップS11)。例えば、内燃機関1のイグニションスイッチあるいはスタートスイッチがオンにされてからオフにされるまでの期間を一ドライビングサイクルとしてもよい。ドライビングサイクルは、適宜設定することができる。
【0075】
今回のドライビングサイクルで、すでに酸化触媒17の診断処理が完了している場合(S11/No)、判定部67は本ルーチンを終了させる。この場合、再びスタートに戻ってステップS11からの処理を繰り返してもよく、今回のドライビングサイクル中の処理を禁止してもよい。
【0076】
一方、今回のドライビングサイクルで、酸化触媒17の診断処理が未完了である場合(S11/Yes)、判定部67は、排気温度センサ21のセンサ信号に基づき取得される排気温度T_gasが、酸化触媒17の活性温度を超えているか否かを判別する(ステップS13)。排気温度T_gasが活性温度を超えていない場合(S13/No)、判定部67は本ルーチンを終了させる。この場合、再びスタートに戻ってステップS11からの処理を繰り返す。
【0077】
一方、排気温度T_gasが活性温度を超えている場合(S13/Yes)、判定部67は、診断用の燃料噴射が必要であるか否かを判別する(ステップS15)。本実施形態に係る触媒の診断方法では、酸化触媒17で未燃燃料(HC)が酸化される状態にあることが前提とされる。このため、判定部67は、未燃燃料(HC)が排気ガスとともに排出されている状態か否かにより、診断用の燃料噴射が必要であるか否かを判別する。
【0078】
例えば、現在、内燃機関1において、噴射された燃料の一部が燃焼しないタイミングで燃料噴射が実行されている場合に、判定部67は、診断用の燃料噴射は不要であると判定してもよい。あるいは、酸化触媒17よりも上流側の排気通路9内に燃料を直接噴射する燃料噴射装置が備えられ、パティキュレートフィルタ19を再生させるために燃料が噴射されている場合に、判定部67は、診断用の燃料噴射は不要であると判定してもよい。
【0079】
なお、酸化触媒17の診断においては、パティキュレートフィルタ19の再生時のように排気温度T_gasを500~600度以上に上昇させる必要がない。このため、パティキュレートフィルタ19の再生時のポスト噴射量よりも少ない量のポスト噴射が行われている場合においても、判定部67は、診断用の燃料噴射が不要であると判定してもよい。
【0080】
診断用の燃料噴射が不要である場合(S15/No)、そのままステップS19に進む一方、診断用の燃料噴射が必要である場合(S15/Yes)、判定部67は、燃料噴射制御部69に、燃焼しないタイミングで内燃機関1への燃料噴射を行わせ(ステップS17)、その後にステップS19に進む。
【0081】
ステップS19では、効率算出部63は、酸化触媒17の酸化効率HC_cnv_corを算出する。本実施形態に係る制御装置50の効率算出部63は、上述した酸化効率HC_cnv_corの演算処理の概略にしたがって酸化効率HC_cnv_corを算出する。具体的に、
図4に示すように、効率算出部63は、上流側酸素濃度O
2_usから下流側酸素濃度O
2_dsを引いた値から、さらに排気温度T_gasに基づいて得られる酸化触媒17に吸着された未燃燃料(HC)を酸化するための酸素濃度HC_strを加算する。さらに、効率算出部63は、排気ガス中のNOをNO
2へと酸化するために使用される酸素濃度NO_cnvを加算する(得られた値をαとする)。これらの酸素濃度HC_str,NO_cnvの値は、従来公知の種々のモデルに基づいて算出される値であってよい。
【0082】
次いで、効率算出部63は、燃料噴射量m_inj_totに吸気量m_airを加算して得られる排気ガスの質量流量dm_exh_gasを、酸素濃度を加算して得られた値αにかけた後、3.3567で割る(得られた値をβとする)。また、効率算出部63は、得られた値βを、内燃機関1の気筒数N_cylに、内燃機関1の回転数Ne、燃焼した燃料量m_inj_com及び3,600をかけ、さらに120,000,000で割って得られた値で割ることにより、酸化効率HC_cnv_corを算出する。
【0083】
本実施形態において、効率算出部63は、酸化効率HC_cnv_corを複数回算出し積算する。積算は、酸化効率HC_cnv_corをあらかじめ設定された回数算出してから行ってもよく、酸化効率HC_cnv_corをあらかじめ設定された時間算出してから行ってもよい。本実施形態では、酸化効率HC_cnv_corをあらかじめ設定された時間算出してから積算を行う例を説明する。
【0084】
図3のフローチャートに戻り、ステップS19において、効率算出部63が酸化効率HC_cnv_corを算出した後、閾値設定部65は、酸化効率HC_cnv_corと比較する閾値(モデル値)HC_cnv_threを設定する(ステップS21)。具体的に、
図4に示すように、閾値設定部65は、排気ガスの質量流量dm_exh_gasに応じた第1の効率モデルに、排気温度T_gasに依存する酸化触媒17の温度に応じた第2の効率モデルをかけて、酸化効率のモデル値HC_cnv_modを算出する。
【0085】
本実施形態において、閾値設定部65は、モデル値HC_cnv_modを複数回算出し積算する。積算は、モデル値HC_cnv_modをあらかじめ設定された回数算出してから行ってもよく、モデル値HC_cnv_modをあらかじめ設定された時間算出してから行ってもよい。ただし、効率算出部63と同期間に積算が行われるようになっている。本実施形態では、モデル値HC_cnv_modをあらかじめ設定された時間算出してから積算を行う例を説明する。
【0086】
図3に戻り、効率算出部63は、積算を行った時間が十分であるか否かを判別する(ステップS23)。例えば、効率算出部63は、積算時間があらかじめ設定した所定の閾値に到達したか否かを判別してもよい。上述のように、効率算出部63は、積算時間の代わりに、積算回数を判別してもよい。なお、ステップS23の判別は、閾値設定部65が行ってもよく、判定部67が行ってもよい。
【0087】
積算時間が十分でない場合(S23/No)、ステップS19に戻って効率算出部63が酸化効率HC_cnv_corの算出を繰り返し、閾値設定部65が係数HC_cnv_modの算出を繰り返す。一方、積算時間が十分である場合(S23/Yes)、診断用の燃料噴射を実行させていた場合には、判定部67は、診断用の燃料噴射を終了させる(ステップS25)。
【0088】
次いで、判定部67は、酸化効率HC_cnv_corが閾値HC_cnv_threを上回っているか否かを判別する(ステップS27)。本実施形態では、酸化効率HC_cnv_corの積算値ΣHC_cnv_corと、閾値(モデル値)HC_cnv_modの積算値ΣHC_cnv_modとを比較し、酸化効率HC_cnv_corの積算値ΣHC_cnv_corが閾値(モデル値)HC_cnv_modの積算値ΣHC_cnv_mod以上であるか否かを判別する。
【0089】
酸化効率HC_cnv_corの積算値ΣHC_cnv_corが閾値(モデル値)HC_cnv_modの積算値ΣHC_cnv_mod以上である場合(S27/Yes)、判定部67は、酸化触媒17が正常であると判定し(ステップS29)、本ルーチンを終了させる。一方、酸化効率HC_cnv_corの積算値ΣHC_cnv_corが閾値(モデル値)HC_cnv_modの積算値ΣHC_cnv_mod未満の場合、判定部67は、酸化触媒17が異常であると判定し(ステップS31)、本ルーチンを終了させる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置50は、従来のように酸化触媒17の温度の上昇度合ではなく、上流側酸素濃度O2_us及び下流側酸素濃度O2_dsに基づいて算出される酸化触媒17の酸化効率HC_cnvに基づいて、酸化触媒17の診断を行う。このため、酸化触媒17の診断の信頼性を高めることができる。
【0091】
本実施形態に係る制御装置50は、酸化触媒17の酸化効率HC_cnvを、排気流量dm_exh_gas、及び排気温度T_gasに依存する触媒温度に応じた酸化効率のモデル値と比較することにより、酸化触媒17の診断を行う。このため、より正確に酸化触媒17の診断を行うことができる。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0093】
例えば上記実施形態では酸化機能を有する触媒として酸化触媒17を例に採って説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、NOX吸収触媒等の他の酸化機能を有する触媒の診断にも本発明を適用することができる。
【0094】
また、上記実施形態では、第1の酸素濃度センサ23及び第2の酸素濃度センサ25としてラムダセンサを用いる例を説明したが、第1の酸素濃度センサ23及び第2の酸素濃度センサ25はそれぞれ酸素濃度センサであってもよく、NOXセンサ等のセンサ値に基づいて酸素濃度を算出可能な他のセンサであってもよい。特に、内燃機関1の排気系に、窒素酸化物(NOX)を浄化するための排気浄化装置が備えられる場合に、排気通路に設けられるNOXセンサを第1の酸素濃度センサ又は第2の酸素濃度センサに置き換えて上記診断が行われてもよい。これにより、新たに酸素濃度センサを追加することなく本実施形態に係る触媒の診断方法を実行することができる。
【符号の説明】
【0095】
1・・・内燃機関、9・・・排気通路、13・・・エアマスセンサ、17・・・酸化触媒、19・・・パティキュレートフィルタ、50・・・制御装置(診断装置)、23・・・第1の酸素濃度センサ、25・・・第2の酸素濃度センサ、50・・・診断装置(制御装置)、63・・・効率算出部、65・・・閾値設定部、67・・・判定部