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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】筒状編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018120932
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2020002487
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】下野 正裕
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-113350(JP,A)
【文献】特開2016-216842(JP,A)
【文献】特開平10-037048(JP,A)
【文献】特開2015-212439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B11/00-11/14
A41D19/00-19/04
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する少なくとも一組の針床、及びこれらの針床に編糸を給糸するヤーンフィーダーを有する横編機を用いて、前記針床上で隣接する第一筒部と第二筒部とを編幅方向に連結する筒状編地の編成方法において、
前記第一筒部と前記第二筒部とが互いに独立して前記針床に係止されている状態に対して、前記状態よりも筒径を小さくした前記第一筒部と前記第二筒部とをそれぞれ少なくとも1コース編成し、前記針床上において、筒径が小さくなった前記第一筒部と、筒径が小さくなった前記第二筒部と、で挟まれる段差領域を形成する工程Aと、
前記第一筒部の一部と、前記段差領域と、前記第二筒部の一部とにわたってコース方向に連続する編成を行い、その編成の際に前記段差領域では前記段差領域の全域にわたってゴム編みを行う工程Bと、
前記第一筒部と前記第二筒部とを一つにした一体筒部を編成する工程Cと、を備える筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Bの後で前記工程Cを行う前に、前記段差領域で少なくとも1回の袋編みを行う工程Dを備える請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程Dにおいて、徐々に筒径を小さくする複数回の袋編みを行う請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記工程Dにおいて、前記段差領域よりも編幅が小さい袋編みを複数回行い、各袋編みの編幅方向の位置を徐々に変える請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項5】
前記工程Bの後で前記工程Cを行う前に、前記段差領域で、前後の編針に交互に編目を形成する編目列編成を2回以上行う工程Eを備え、
各編目列編成における編幅方向の編目の形成位置は互いに異なる請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一筒部と第二筒部とを編幅方向に連結する筒状編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機を用いて、針床上で隣接する第一筒部と第二筒部とを連結する際、両筒部の繋ぎ目となる股部で、第一筒部の周方向に並ぶ複数の編目と、第二筒部の周方向に並ぶ複数の編目とを重ねて接合する股重ねを行うことがある。このような股重ねを行うには、編針に係止される編目を別の編針に移動させて編目同士を重ねたり、編目を移動させる機構が無い手袋編機などでは編目を編針に係止させた状態を維持する編目抑止杆(stitch holder)を利用したりする必要がある。
【0003】
特許文献1には、手袋編機を用いて、隣接する手袋の指袋を連結して股部(指股部)を形成する方法が開示されている。この特許文献1では、小指(第一筒部)と三本胴(第二筒部)とを編幅方向に並列させた状態で編成し、第一筒部と第二筒部との隣接箇所をゴム編みで繋いでから、四本胴(一体筒部)の編成を開始している。この編成によれば、隣接する第一筒部と第二筒部の編目同士を重ねることなく両筒部を連結することができる。つまり、編目抑止杆の使用を省略することができ、編目抑止杆の作用による編糸の損傷や、編目抑止杆によって誘発される編成不良を抑制できるといったメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4049673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の編成方法では、股部に厚く出っ張ったような部分ができ易い。特に太い編糸を用いて第一筒部と第二筒部とを連結すると、股部の出っ張りが厚くなり、手袋を着用した際の股部のフィット感が損なわれる場合もある。また、厚く出っ張った部分の近傍に孔が空き易いという問題もある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明の目的の一つは、着用時のフィット感に優れる股部を形成できる筒状編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の筒状編地の編成方法は、
互いに対向する少なくとも一組の針床、及びこれらの針床に編糸を給糸するヤーンフィーダーを有する横編機を用いて、前記針床上で隣接する第一筒部と第二筒部とを編幅方向に連結する筒状編地の編成方法において、
前記第一筒部と前記第二筒部とが互いに独立して前記針床に係止されている状態に対して、前記状態よりも筒径を小さくした前記第一筒部と前記第二筒部とをそれぞれ少なくとも1コース編成し、前記第一筒部と前記第二筒部との隣接箇所に段差領域を形成する工程Aと、
前記第一筒部の一部と、前記段差領域と、前記第二筒部の一部とにわたってコース方向に連続する編成を行い、その編成の際に前記段差領域では前記段差領域の全域にわたってゴム編みを行う工程Bと、
前記第一筒部と前記第二筒部とを一つにした一体筒部を編成する工程Cと、を備える。
【0008】
本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Bの後で前記工程Cを行う前に、前記段差領域で少なくとも1回の袋編みを行う工程Dを備える形態を挙げることができる。
【0009】
工程Dを備える本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Dにおいて、徐々に筒径を小さくする複数回の袋編みを行う形態を挙げることができる。
【0010】
工程Dを備える本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Dにおいて、前記段差領域よりも編幅が小さい袋編みを複数回行い、各袋編みの編幅方向の位置を徐々に変える形態を挙げることができる。
【0011】
本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Bの後で前記工程Cを行う前に、前記段差領域で、前後の編針に交互に編目を形成する編目列編成を2回以上行う工程Eを備え、
各編目列編成における編幅方向の編目の形成位置は互いに異なる形態を挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒状編地の編成方法によれば、股部に厚く出っ張ったような部分が形成され難いので、股部が着用者にフィットし、着け心地に優れる筒状編地を編成できる。股部に出っ張りができ難いのは、第一筒部と第二筒部を連結する前の工程Aで第一筒部と第二筒部の筒径を小さくして、両筒部の間に敢えて段差を形成し、工程Bでその段差を埋めるようにゴム編みを行って両筒部を連結しているからである。
【0013】
本発明の筒状編地の編成方法において、工程Bの後に工程D又は工程Eを行うことで、股部に孔が空き難く、股部の見栄えを良くすることができる。また、股部に孔が空き難いことで、筒状編地をコーティング剤でコーティングする際、コーティング剤が股部の位置から筒状編地の内部に過剰に浸透することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る手袋(筒状編地)の概略構成図である。
図2】実施形態1の筒状編地の編成方法に係る編成工程図である。
図3】実施形態2-1の筒状編地の編成方法に係る編成工程図である。
図4】実施形態2-2の筒状編地の編成方法に係る編成工程図である。
図5】実施形態2-3の筒状編地の編成方法に係る編成工程図である。
図6】(A)は実施形態2-1の手袋の指股部、(B)は実施形態2-2の手袋の指股部、(C)は実施形態2-3の手袋の指股部の写真を示す図である。
図7】従来の手袋の指股部の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の筒状編地の編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
<実施形態1>
本実施形態では、手袋(筒状編地)10を編成する場合を例にして本発明の筒状編地の編成方法を説明する。手袋10の編成に使用する横編機は、対向する前針床(以下、FB)及び後針床(以下、BB)と、FB,BBの編針に編糸を給糸する複数のヤーンフィーダーとを備える手袋編機である。この手袋編機では、選針ドラムによって編針の選針が行われ、編針間で編目の移動を行うことはできない。この手袋編機には、股重ねを行うための複数の編目抑止杆が備わっている。
【0017】
図1の手袋10は、人指し指、中指、薬指、小指、及び親指にそれぞれ対応した指袋11,12,13,14,15を備え、紙面下側の指先側から紙面上側の手の挿入口に向って編成される。より具体的には、別個に編成した指袋11,12,13を編成し、これらを連結した三本胴16を編成する。その三本胴16と、三本胴16とは別に編成した指袋14とを連結し、四本胴17を編成する。その四本胴17と、四本胴17とは別に編成した指袋15とを連結し、五本胴18を編成する。最後に、五本胴18の終端部にリブ組織などを編成して、手袋10を完成させる。本例では、指袋11と指袋12との連結、指袋12と指袋13との連結、及び三本胴16と指袋14との連結には編目抑止杆を用いた股重ねを行う。これに対して、四本胴17と指袋15との連結には、本発明に係る筒状編地の編成方法を利用する。もちろん、四本胴17と指袋15との連結以外の連結に本発明に係る筒状編地の編成方法を適用することもできる。また、本例とは異なり、人差し指に対応した指袋11と中指に対応した指袋12とを編成した後、両指袋11,12を連結した二本胴を形成し、薬指に対応した指袋13をその二本胴に連結して三本胴16を形成することもできる。そうすることで、手袋10の指股の位置が、より一層、手の指股の位置に対応した位置になるので、手袋10のフィット性を向上させることができる。
【0018】
図2は、指袋15と四本胴17とを連結する手順を示す編成工程図である。図2の黒点はFB,BBの編針を示し、S+数字は編成工程の番号を示す。各工程で実際に編成が行われる部分は太線で示す。
【0019】
図2のS0には、FBとBBとに指袋15と四本胴17とが係止された状態が示されている。指袋15と四本胴17とはそれぞれ別々のヤーンフィーダーからの編糸で編成され、両者15,17は編幅方向に隣接してFB,BBに係止されている。FBの編針とBBの編針とは、FB,BBの長さ方向に0.5ピッチずれており、指袋15と四本胴17との間には2本の空針が設けられている。指袋15と四本胴17との間の空針の数は、1~3針程度とすることが好ましい。もちろん、指袋15と四本胴17との間に空針が無い状態としても構わない。以下、指袋15を第一筒部1と規定し、四本胴17を第二筒部2と規定し、説明を行う。
【0020】
S1では、第一筒部1と第二筒部2とが互いに独立して針床FB,BBに係止されている状態(S0)に対して、前記状態よりも筒径を小さくした第一筒部1と第二筒部2とをそれぞれ少なくとも1コース編成し、第一筒部1と第二筒部2との隣接箇所に段差領域3を形成する(工程A相当)。本例では、工程Aを行う直前の状態(S0)に対して、第一筒部1(第二筒部2)における第二筒部2(第一筒部1)側の端部よりも2目内側の位置で折り返す筒状編成によって、S0の第一筒部1(第二筒部2)よりも筒径が小さい、即ち周長が短い第一筒部1(第二筒部2)を編成する。ここで、第一筒部1(第二筒部2)の内側とは、FB,BB上で隣り合う筒部1,2の端部において、一方の筒部1(2)の端部が他方の筒部2(1)から離れる方向である。その結果、S0の時点よりも編幅方向に2目分筒径が小さい第一筒部1と第二筒部2とが編成される。また、S1で新たな編目を編成しなかった部分は、S1で編成した筒部1,2に対してウエール方向に1目分の段差が形成される。この段差ができた部分と、両筒部1,2の間にある空針とを含めた領域が段差領域3となる。
【0021】
ここで、本例の場合、第一筒部1と第二筒部2のコース数は1コースとすることが好ましいが、第一筒部1と第二筒部2を2コース以上編成しても良い。その場合、コース数に応じたウエール方向の段差が形成される。S1で編成する第一筒部1のコース数と第二筒部2のコース数とを異ならせることもできる。後述する実施形態2に示すように、段差領域3に追加の編成を行う場合、両筒部1,2のコース数を2コース以上とすることができる。
【0022】
S2では、第一筒部1の一部と、段差領域3と、第二筒部2の一部とにわたってコース方向に連続する編成を行い、その編成の際に段差領域3では段差領域3の全域にわたってゴム編みを行う(工程B相当)。本例では、第一筒部1の編成に使用したヤーンフィーダーを紙面右方向に移動させ、BBに係止される第一筒部1のウエール方向に続けて新たな編目を形成し、段差領域3でゴム編みを行った後、BBに係止される第二筒部2のウエール方向に続けて新たな編目を形成する。ゴム編みとは、FBの編針とBBの編針とに交互に編目を形成する編成のことである。空針に形成される編目(V字で示される編目)は、編針に編糸を引っ掛けた掛け目である。本例とは異なり、S1で第二筒部2を編成したヤーンフィーダーを用いてS2を実施することもできる。
【0023】
S3では、指袋15と四本胴17とを一体化した五本胴18(一体筒部4)を編成する(工程C相当)。具体的には、S2で使用したヤーンフィーダーを左方向に移動させ、FBに係止される第二筒部2、段差領域3及び第一筒部1の各編目のウエール方向に続く編目を編成し、そのヤーンフィーダーを右方向に移動させ、BBに係止される第一筒部1、段差領域3及び第二筒部2の各編目のウエール方向に続く編目を編成する筒状編成を行う。
【0024】
以上説明した筒状編地の編成方法では、指袋15と四本胴17とを連結する前のS1(工程A)で指袋15と四本胴17の筒径を小さくして、両者15,17の間に敢えて段差を形成し、S2(工程B)でその段差を埋めるようにゴム編みを行って両者15,17を連結している。そのため、指袋15と四本胴17との間の指股部に厚く出っ張ったような部分が形成され難い。その結果、指股部が着用者の手にフィットし、着け心地に優れる手袋10となる。また、本例の編成方法は編目抑止杆を使用することなく実施できるので、編糸に対する負荷を低減できる。
【0025】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1の編成に加えて段差領域3に追加の編成を行い、股部の近傍に孔が空き難くする筒状編地の編成方法を説明する。より具体的には、実施形態1の工程A,B(図2のS1,S2)を行った後、追加編成を行ってから、実施形態1の工程Cを行う。本実施形態2では、追加編成として3つ編成を例示する。
【0026】
≪実施形態2-1≫
第一の追加編成の手順を図3に示す。図3(後述する図4,5も同様)の見方は図2と同じである。本例では、工程B(図2のS2)の後で工程C(図2のS3)を行う前に、段差領域3で少なくとも1回の袋編みを行う(工程D相当)。袋編みの回数は、編糸の太さなどに応じて適宜選択することができる。
【0027】
S21では、FBに係止される第二筒部2のウエール方向に続く編目を編成し、更に段差領域3の全域にわたる袋編みを行う。袋編みとは、所定の領域内で筒状に編成を行うことである。S22では、S21よりも筒径を小さくした袋編みを行う。S23では更にS22よりも筒径を小さくした袋編みを行った後、BBに係止される第二筒部2の編目のウエール方向に続く編目を編成する。本例では、段差領域3の両端部で編目を形成しないことで、袋編みの筒径を小さくしている、即ち各工程の袋編みの編幅方向の中間位置を、S21~S23で同じとしている。つまり、各袋編みの編成範囲を、段差領域3の編幅方向の中央に向って徐々に狭めている。これに対して、各工程の袋編みの編幅方向の中間位置を、第一筒部1側又は第二筒部2側に移動させながら袋編みの筒径を小さくしても良い。つまり、各袋編みの形成範囲を徐々に段差領域3の編幅方向の端寄りの位置にしても良い。
【0028】
筒径を徐々に小さくする袋編みを複数回行うことで、ゴム編みされた部分(図2のS2に示す部分)の編目が適度に固定され、当該部分の編糸が過剰に引っ張られたりしても編目が歪むことがなく、指股部に孔が空き難くなる。
【0029】
実施形態2-1の別の形態として、N(自然数)番目の袋編みの筒径を、N-1番目の袋編みの筒径と同じにすることもできる。例えば、S21とS22の袋編みの筒径を同じとし、S23を行うことが挙げられる。その他、徐々に筒径を大きくする複数回の袋編みを行うこともできる。更には、徐々に筒径を大きくした後、筒径を小さくする、あるいは徐々に筒径を小さくした後、筒径を大きくする複数回の袋編みを行うこともできる。
【0030】
≪実施形態2-2≫
第二の追加編成の手順を図4に示す。本例では、工程Dの別の手順として、前記段差領域よりも編幅が小さい袋編みを複数回行い、各袋編みの編幅方向の位置を徐々に変える。
【0031】
S31では、段差領域3における第二筒部2側の2目分の幅の領域に対して袋編みを行う。続くS32では、袋編みの形成位置を第一筒部1側に1目分ずらして同様の袋編みを行う。S31の袋編みの形成領域とS32の袋編みの形成領域とは一部重複している。ここで、S31の袋編みの形成領域と、S32の袋編みの形成領域とが重複していなくても良いが、その場合、両袋編みの形成領域が隣接するようにし、両袋編みの形成領域の間に、袋編みされていない領域が形成されないようにする。
【0032】
S32以降は、1目分ずつ袋編みの形成位置を異ならせることを繰り返す。S33では、最後の袋編みを行った状態が示されている。本例では、段差領域3と第一筒部1とに跨がるように袋編みを行っている。S34では、ヤーンフィーダーを左方向に移動させ、FBに係止される第一筒部1のウエール方向に続く編目を編成する。S34の後は、図2のS3に示すような一体筒部4の編成を行う。
【0033】
本例の追加編成によっても、ゴム編みされた部分(図2のS2に示す部分)の編目が適度に固定され、指股部に孔が空き難くなる。
【0034】
≪実施形態2-3≫
第三の追加編成の手順を図5に示す。本例では、工程B(図2のS2)の後で工程C(図2のS3)を行う前に、段差領域3で、編幅方向の編目の形成位置が互いに異なる少なくとも2種類の編目列編成を行う(工程E相当)。
【0035】
S41では、一旦、FB,BBに係止される全ての編目のウエール方向に続けて筒状編成を行う。これは、掛け目を編目に置き換えることで、後工程の編成を安定させるために行っている。このS41は行わなくても良い。
【0036】
S42では、ヤーンフィーダーを左方向に移動させ、FBに係止される第二筒部2のウエール方向に続く編目を編成し、段差領域3におけるFBの一つ置きの編目とBBの一つ置きの編目のウエール方向に続けて編目を形成する編目列編成を行う。S42では更に、FBに係止される第一筒部1のウエール方向に続く編目を編成する。
【0037】
S43では、ヤーンフィーダーを右方向に移動させ、BBに係止される第一筒部1のウエール方向に続く編目を編成し、段差領域3で編目列編成を行った後、BBに係止される第二筒部2のウエール方向に続く編目を編成する。S4の編目列編成では、S42の編目列編成で編目を形成しなかった位置に編目を編成する。ここで、本例では、段差領域3に対して2コースの編目列編成を行ったが、3コース以上の編目列編成を行っても良い。その場合でも、段差領域3の全ての編目のウエール方向に、いずれかの編目列編成の編目が連続し、かつ各編目列編成の編目の形成位置が、他の編目列編成の編目の形成位置に重複しないようにする。例えば、FBとBBの二つ置き(三つ置き)の編目のウエール方向に続けて編目を形成する3つ(4つ)の編目列編成を行うことが挙げられる。
【0038】
本例の追加編成によっても、ゴム編みされた部分(図2のS2に示す部分)の編目が適度に固定され、指股部に孔が空き難くなる。
【0039】
以上説明した実施形態2-1,2-2,2-3の追加編成を行って編成した手袋の指股部の拡大写真をそれぞれ、図6(A),(B),(C)に示す。また、比較として、特許文献1と同様の編成方法を用いて編成した手袋の指股部の拡大写真を図7に示す。これらの写真では、紙面上側が手の甲側、紙面下側が手の平側で、紙面左側で下向きに延びる部分が親指に対応した指袋15、紙面右側で右向きに延びる部分が四本胴17の人指し指側の部分である。
【0040】
図6に示すように、追加編成を行って編成した手袋10(図1)の指袋15と四本胴17との繋ぎ目である指股部には目立った孔は認められなかった。これに対して、特許文献1の編成方法で編成した手袋10の指股部には比較的大きな孔が形成されていた。指股部に大きな孔が形成されていない手袋は見栄えが良い。特に、指袋15と四本胴17との間の指股部は、手袋10をはめて作業する際に外部から見え易い部分であるので、この部分に大きな孔が無いことは、手袋10の見栄えを向上させることに大きく貢献する。また、作業時に孔から手袋10内にゴミなどが入って、着用者に不快感を与えることも少ない。更に、手袋10をコーティングする場合、指股部の位置からコーティング剤が手袋10の内側に過剰に浸透することを抑制できる。その結果、コーティング不良の発生率を低減できる。
【0041】
<実施形態3>
実施形態1,2で説明した筒状編地の編成方法は、選針機構を備え、異なる編針間で編目を移動させることができる汎用の横編機を用いて実施することもできる。本発明に係る筒状編地の編成方法では、編目の移動を行うことなく、第一筒部と第二筒部とを連結できるため、編目の移動に伴う編糸への負荷を低減できる。また、編目の移動のための横編機の動作、例えば針床のラッキングなどを省略できるので、筒状編地の生産性を向上させることができる。
【0042】
その他、本発明の筒状編地の編成方法は、編幅方向に隣接する筒部を連結した箇所を有する筒状編地の編成に適用でき、手袋の編成に限定されるわけではない。例えば、セーターなどの複数の筒部を繋げて構成されるニットウェアや、指袋付き靴下の編成に、本発明の筒状編地の編成方法を適用できる。
【符号の説明】
【0043】
10 手袋(筒状編地)
11,12,13,14,15 指袋
16 三本胴 17 四本胴 18 五本胴
1 第一筒部
2 第二筒部
3 段差領域
4 一体筒部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7