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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】主構造とブレースの接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20221021BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
E04B1/58 G
E04H9/02 311
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018168926
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020041319
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146905(JP,A)
【文献】特開2002-021192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04H 9/02
E04B 1/18,1/20,1/24,1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁により形成される主構造と、ブレースと、により構成される、主構造とブレースの接合構造であって、
前記主構造にはガセットプレートが取り付けられており、該ガセットプレートの両面にはそれぞれ、ガセット平面に対して垂直にフィンスチフナが取り付けられており、
前記ブレースと前記ガセットプレートがスプライスプレートを介してボルト接合されており、
前記フィンスチフナは、前記ブレースの長手方向に延設する第一フィンスチフナと、該第一フィンスチフナの端部から屈曲して前記梁側に延設する第二フィンスチフナと、を有し、
前記第一フィンスチフナと前記ガセットプレートは溶接接合されており、
前記第一フィンスチフナの長さは、前記第一フィンスチフナと前記ガセットプレートとの溶接部におけるせん断耐力が、前記ブレースから該第一フィンスチフナに作用する軸力以上となる溶接長さを充足する長さであることを特徴とする、主構造とブレースの接合構造。
【請求項2】
前記梁はH形鋼により形成されており、
前記第二フィンスチフナは、前記第一フィンスチフナの端部から前記梁もしくは該梁と前記柱を繋ぐブラケットの上方フランジに直交する方向に屈曲して該上方フランジとの交点にて交差し、前記梁もしくは前記ブラケットのウエブの側方には該交点から該上方フランジと下方フランジを繋ぐウエブスチフナが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の主構造とブレースの接合構造。
【請求項3】
前記ブレースは、
芯材と、該芯材の両面に沿って配設された一対の拘束材と、を有し、
前記一対の拘束材は、それぞれ前記芯材側が開口した溝形鋼と、該溝形鋼内に充填されたセメント系材料とにより形成され、
前記芯材の両側の表面において、該表面に垂直に突設するとともに、前記拘束材の両端から該芯材の長手方向に延設している補強リブが設けられ、前記ブレースの端部は該芯材と2つの該補強リブにより断面形状が十字状を成す座屈拘束ブレースであり、
前記芯材と前記ガセットプレートが第一スプライスプレートを介してボルト接合されるとともに、2つの前記補強リブと前記第一フィンスチフナが第二スプライスプレートを介してボルト接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の主構造とブレースの接合構造。
【請求項4】
前記芯材と前記第一スプライスプレートを接合するボルトの本数と、前記補強リブと前記第二スプライスプレートを接合するボルトの本数の比率が、前記芯材と前記補強リブの厚みの比率に応じて設定されていることを特徴とする、請求項に記載の主構造とブレースの接合構造。
【請求項5】
前記柱がSRC柱である場合に、屈曲して前記第二フィンスチフナに移行する前記第一フィンスチフナの端部が前記SRC柱に干渉しない位置にあることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の主構造とブレースの接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁により形成される主構造とブレースの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の構造において、主構造を形成する柱と梁がピン結合構造の場合には、柱と梁にて形成される構面内にブレースが一般に配設される。柱と梁の接合部に取り付けられているガセットプレートに対して、ブレースがスプライスプレートを介してボルト接合等されることにより、主構造とブレースの接合構造が形成される。例えば、鋼構造接合部設計指針(日本建築学会)によれば、柱の軸心と梁の軸心の交点に対し、ブレースの軸心が一致する勾配にてブレースをガセットプレートに取り付けるのがよいとされている。構面内にブレースを配設することにより、地震時等における構面の面内剛性が高められる一方、ガセットプレートとこのガセットプレートに取り付けられているブレースの面外剛性が低いことから、特に地震時における主構造とブレースの接合構造の面外方向への振動や外力に対する耐力が懸念される。すなわち、地震時の振動に対してブレースがその性能を発揮する前に、主構造とブレースの接合構造が破損することが懸念される。
【0003】
そこで、ガセットプレートの面外剛性を高めるべく、ガセットプレートのガセット平面に対して垂直にフィンスチフナが取り付けられた構造が適用されている。鋼構造座屈設計指針(日本建築学会)によれば、ブレースが取り付けられるガセットプレートの面外剛性を高剛性にする方策として、単にガセットプレートにフィンスチフナを取り付けるのみならず、ガセットプレートの水平端部に水平サイドスチフナを取り付け、ガセットプレートの鉛直端部に鉛直サイドスチフナを取り付けることが提案されている。
【0004】
一方、鋼構造制振設計指針(日本建築学会)によれば、柱の軸心と梁の軸心の交点に対し、ブレースの軸心が一致する勾配にてブレースをガセットプレートに取り付けるとともに、この勾配上にフィンスチフナが配設されてガセットプレートに取り付けられるのがよいとされている。また、このようにフィンスチフナがガセットプレートに取り付けられる場合、ガセットプレートと接合される端部の断面形状が十字状を呈するブレースが適用される場合がある。このブレースは、芯材と、芯材の両面に沿って配設された一対の拘束材とにより構成される座屈拘束ブレースであり、芯材の両側の表面には該表面に垂直に突設する補強リブが設けられている。芯材とガセットプレートがスプライスプレートを介してボルト接合され、2つの補強リブとフィンスチフナが別途のスプライスプレートを介してボルト接合される。
【0005】
ところで、柱と梁の接合部に取り付けられているガセットプレートに対してフィンスチフナを取り付ける場合、柱と梁の接合部には様々な部材が突設し、あるいは配設されていることから、上記するように、柱の軸心と梁の軸心の交点に向かって延びるブレースの軸心に沿って柱と梁の接合隅角部までフィンスチフナを延ばせない場合が往々にしてある。特に、柱が被覆型(鉄骨周りがコンクリートにて被覆されるタイプ)もしくは充填被覆型(鉄骨の内部にコンクリートが充填されるとともに、鉄骨周りがコンクリートにて被覆されるタイプ)のSRC柱(Steel Reinforced Concrete:鉄骨鉄筋コンクリート)の場合、角形鋼管やH形鋼等による鉄骨柱の周囲に柱主筋が配筋され、柱主筋を包囲するようにせん断補強筋が配筋されるとともに、コンクリート打設用の型枠が柱筋の外周に配設される。そのため、少なくともこの型枠位置よりも柱と梁の接合隅角部側へはフィンスチフナを延ばすことができず、フィンスチフナの端部がガセットプレートの途中位置で止まってしまうことになり得る。従って、このような場合に、十分な長さを有しないフィンスチフナにより、ガセットプレートの面外剛性の補剛は不十分となる。また、柱と梁の隅角部から柱接合用のH形断面のブラケットを側方に延ばし、このH形断面のブラケットに対してH形鋼により形成される梁をスプライスプレートを介してボルト接合する場合においては、ブラケットと梁の上方フランジ同士を繋ぐスプライスプレートを上記する鉛直サイドスチフナが分断する可能性もあり、このような場合は、鉛直サイドスチフナにてガセットプレートを補剛することができなくなる。
【0006】
このように、フィンスチフナによりガセットプレートの面外剛性を高めるに当たり、柱と梁の接合部における様々な部材の存在による制約から、フィンスチフナを柱と梁の接合隅角部側へ十分に延ばすことができない場合においても、サイドスチフナ等を適用することなく、効果的にガセットプレートの面外剛性を高めることにより、主構造とブレースの接合構造における面外剛性を高める技術の開発が望まれている。
【0007】
ここで、ブレースを含む鉄骨架構の柱と梁との交差する角部に設けられたガセットプレートと制振ブレースの接合構造が提案されている。この接合構造では、開口端と閉口端を備え、開口端が対角側に向くようにガセットプレートに固着された円筒状のスリーブ管に、スリーブ管内径よりも小さな径の円柱状のロッドを両端に備えた制振ブレースのロッドが挿入嵌合され、スリーブ管とこれに嵌合されたロッドとにより形成されるスリーブ管内の空隙に、制振ブレース接合用の接合材が充填されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-109276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、フィンスチフナに関する記載がある。しかしながら、ガセットプレート上において柱と梁の接合隅角部までフィンスチフナを延ばせない場合に、どのようにしてガセットプレートの面外剛性を高めるかに関する記載は一切ない。
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、ガセットプレート上において柱と梁の接合隅角部までフィンスチフナを延ばせない場合においても、ガセットプレートの面外剛性を高めることのできる、主構造とブレースの接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による主構造とブレースの接合構造の一態様は、
柱と梁により形成される主構造と、ブレースと、により構成される、主構造とブレースの接合構造であって、
前記主構造にはガセットプレートが取り付けられており、該ガセットプレートの両面にはそれぞれ、ガセット平面に対して垂直にフィンスチフナが取り付けられており、
前記ブレースと前記ガセットプレートがスプライスプレートを介してボルト接合されており、
前記フィンスチフナは、前記ブレースの長手方向に延設する第一フィンスチフナと、該第一フィンスチフナの端部から屈曲して前記梁側に延設する第二フィンスチフナと、を有することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ブレースの長手方向に延設するフィンスチフナが途中で屈曲して主構造を構成する梁側に向かって延設することにより、ブレースの長手方向に延設する第一フィンスチフナは柱と梁の接合隅角部まで延びていなくても、第一フィンスチフナから屈曲して梁側まで延びる第二フィンスチフナを有することから、ガセットプレートの厚みを厚くすることなく、ガセットプレートの面外剛性を効果的に高めることができる。また、柱と梁の接合隅角部において配設されている様々な突起物(頭付きスタッド等)やSRC柱施工用の型枠等の干渉物がある場合においても、第一フィンスチフナが途中で屈曲して梁側に延びる第二フィンスチフナに移行することにより、これらの干渉物を効果的に回避することができる。ここで、「第一フィンスチフナの端部から屈曲して梁側に延設する第二フィンスチフナ」に関し、第二フィンスチフナが梁まで延びている形態と、例えば柱を構成するコラムコアから側方に張り出して梁に接合されるブラケットまで延びている形態の双方が含まれる。
【0013】
既述するように、鋼構造座屈設計指針(日本建築学会)では、ガセットプレートの面外剛性を高める方策として、フィンスチフナとは独立した位置にサイドスチフナを設ける構造が提案されている。これに対して、本態様では、ブレースの長手方向(軸心方向)に延びる第一フィンスチフナに連続するように屈曲した第二フィンスチフナを設けることから、第一フィンスチフナと第二フィンスチフナが分断されず、従ってフィンスチフナが分断される場合において分断箇所(フィンスチフナの存在しない箇所)が低剛性箇所になり、応力集中箇所になるといった課題は生じない。また、サイドスチフナを設ける場合は、ブラケットと梁の上方フランジ同士を繋ぐスプライスプレートをサイドスチフナが分断する可能性があるが、本態様では、梁側に延びている第二フィンスチフナが梁の上方フランジを繋ぐスプライスプレートを分断しないように第二フィンスチフナの軸線を設定することにより、このような課題も生じない。尚、ブレースは、その長手方向が柱の軸心と梁の軸心の交点に向かって配設される形態が好ましいが、構面の幅(ブレースが配設される左右の柱間の距離)と高さに応じて、柱の軸心と梁の軸心の交点からずれた位置にブレースの長手方向が配設される形態もある。
【0014】
また、本発明による主構造とブレースの接合構造の他の態様において、前記梁はH形鋼により形成されており、
前記第二フィンスチフナは、前記第一フィンスチフナの端部から前記梁もしくは該梁と前記柱を繋ぐブラケットの上方フランジに直交する方向に屈曲して該上方フランジとの交点にて交差し、前記梁もしくは前記ブラケットのウエブの側方には該交点から該上方フランジと下方フランジを繋ぐウエブスチフナが設けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、ガセットプレートの面外剛性を高める第一フィンスチフナと第二フィンスチフナに加えて、第二フィンスチフナが交差するH形鋼からなる梁もしくは梁と柱を繋ぐH形断面のブラケットの上方フランジと下方フランジを繋ぐウエブスチフナが、梁もしくはブラケットのウエブの側方に設けられている。そのため、より一層高い面外剛性を有する、主構造とブレースの接合構造が形成される。
【0016】
また、本発明による主構造とブレースの接合構造の他の態様において、前記第一フィンスチフナと前記ガセットプレートは溶接接合されており、
前記第一フィンスチフナの長さは、前記第一フィンスチフナと前記ガセットプレートとの溶接部におけるせん断耐力が、前記ブレースから該第一フィンスチフナに作用する軸力以上となる溶接長さを充足する長さであることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、ブレースからボルトを介してスプライスプレートに伝達される軸力(ブレース軸力)を、スプライスプレートからボルトを介して第一フィンスチフナに伝達し、第一フィンスチフナから溶接部を介してガセットプレートに伝達して主構造に流すことができる。尚、ガセットプレートに対して第一フィンスチフナとこれに屈曲しながら連続する第二フィンスチフナも溶接部を介して接合されていることから、第一フィンスチフナからガセットプレートに軸力を伝達する溶接部は、ガセットプレートと第一フィンスチフナを接合する溶接部のみならず、ガセットプレートと第二フィンスチフナを接合する溶接部もある。しかしながら、第一フィンスチフナとガセットプレートとの溶接部におけるせん断耐力が軸力以上となる溶接長さを充足するように第一フィンスチフナの長さを設定することにより、高い安全率を有する第一フィンスチフナとガセットプレートとの溶接構造を形成できる。尚、第一フィンスチフナの長さを設定する際のブレース軸力は、ブレース軸力がガセットプレートと第一フィンスチフナの双方に分配されることから、第一フィンスチフナに分配される分配軸力に基づいて第一フィンスチフナの長さが設定される。
【0018】
また、本発明による主構造とブレースの接合構造の他の態様において、前記ブレースは、芯材と、該芯材の両面に沿って配設された一対の拘束材と、を有し、
前記一対の拘束材は、それぞれ前記芯材側が開口した溝形鋼と、該溝形鋼内に充填されたセメント系材料とにより形成され、
前記芯材の両側の表面において、該表面に垂直に突設するとともに、前記拘束材の両端から該芯材の長手方向に延設している補強リブが設けられ、前記ブレースの端部は該芯材と2つの該補強リブにより断面形状が十字状を成す座屈拘束ブレースであり、
前記芯材と前記ガセットプレートが第一スプライスプレートを介してボルト接合されるとともに、2つの前記補強リブと前記第一フィンスチフナが第二スプライスプレートを介してボルト接合されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、芯材と一対の拘束材により形成される座屈拘束ブレースが芯材の端部において2つの補強リブを有することにより断面形状が十字状を成し、芯材とガセットプレート、及び、2つの補強リブと第一フィンスチフナが、それぞれに固有のスプライスプレートを介してボルト接合されていることにより、より一層高い面外剛性を有する、主構造とブレースの接合構造となる。ここで、溝形鋼内に充填される「セメント系材料」には、モルタルとコンクリートが含まれる。
【0020】
また、本発明による主構造とブレースの接合構造の他の態様は、前記芯材と前記第一スプライスプレートを接合するボルトの本数と、前記補強リブと前記第二スプライスプレートを接合するボルトの本数の比率が、前記芯材と前記補強リブの厚みの比率に応じて設定されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、ブレースの端部が補強リブを有して断面十字状を呈している形態において、ブレースの軸力が芯材の厚みと補強リブの厚みに応じて分配されながら、それぞれに対応するスプライスプレートを介して第一フィンスチフナとガセットプレートに伝達されることを適正に反映したボルト本数を設定することができる。例えば、芯材と補強リブの厚みの比率が1:1や3:2の場合は、芯材と第一スプライスプレートを接合するボルトの本数と、補強リブと第二スプライスプレートを接合するボルトの本数の比率も1:1や3:2とするのがよい。
【0022】
また、本発明による主構造とブレースの接合構造の他の態様は、前記柱がSRC柱である場合に、屈曲して前記第二フィンスチフナに移行する前記第一フィンスチフナの端部が前記SRC柱に干渉しない位置にあることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、第一フィンスチフナの端部から屈曲して第二フィンスチフナが梁側に延設していることから、柱がSRC柱である場合においては、SRC柱の表面や施工時の型枠を回避する位置にて第一フィンスチフナから第二フィンスチフナを梁側に屈曲させることにより、フィンスチフナとSRC柱の干渉を解消することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の主構造とブレースの接合構造によれば、ガセットプレート上において柱と梁の接合隅角部までフィンスチフナを延ばせない場合においても、ガセットプレートの面外剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る主構造とブレースの接合構造の一例の正面図である。
図2】接合構造を構成する座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図3】フィンスチフナが溶接接合されたガセットプレートのみを示す斜視図である。
図4】座屈拘束ブレースとフィンスチフナ及びガセットプレートの接合部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る主構造とブレースの接合構造について添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る主構造とブレースの接合構造]
図1乃至図4を参照して、実施形態に係る主構造とブレースの接合構造について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る主構造とブレースの接合構造の一例の正面図であり、接続構造の領域において柱のコンクリートを省略して内部を視認可能にした図である。また、図2は、接合構造を構成する座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図3は、フィンスチフナが溶接接合されたガセットプレートのみを示す斜視図である。さらに、図4は、座屈拘束ブレースとフィンスチフナ及びガセットプレートの接合部を示す斜視図である。尚、以下で示す「溶接」には、隅肉溶接と突合せ溶接のいずれか一方が適用されるが、溶接箇所に応じて好適な溶接形態が選定される。
【0028】
図1に示すように、主構造とブレースの接合構造100は、柱10と梁20により形成される主構造30と、ブレース60と、により構成される接合構造である。より詳細には、主構造30に溶接にて接合されているガセットプレート40とブレース60との接続構造に特徴を有する。
【0029】
図示例の柱10は、SRC柱であり、角形鋼管等により形成される鉄骨柱13が周囲のコンクリート体14にて被覆された被覆型のSRC柱であるが、角形鋼管内にもコンクリート体が形成された充填被覆型のSRC柱であってもよい。より詳細には、コラムコア11(パネルゾーン)の上下に通しダイアフラム12が溶接にて接合され、上下の通しダイアフラム12に対して上下階の鉄骨柱13が溶接にて接合される。そして、これらの周囲には柱の長手方向に延びる主鉄筋(図示せず)が配筋され、複数の主鉄筋を包囲するせん断補強筋(図示せず)が柱の長手方向に所定のピッチを置いて配筋される。さらに、これら主鉄筋及びせん断補強筋を埋設するコンクリート体14が鉄骨柱13の周囲に形成されることにより、柱10が構成される。図1において、柱10の軸心をL1で示している。尚、柱10は、図示例のSRC柱に限定されるものでなく、角形鋼管やH形鋼等の形鋼材のみからなる鉄骨柱であってもよい。
【0030】
一方、上下の通しダイアフラム12とコラムコア11の側面には、断面がH形のブラケット15が溶接にて接合されている。より詳細には、ブラケット15を構成する上方フランジ15bと下方フランジ15cがそれぞれ上下の通しダイアフラム12に接合され、ブラケット15を構成するウエブ15aがコラムコア11の側面に接合されている。尚、図示例は、コラムコア11の左側にブラケット15が接合されている形態を示しているが、コラムコア11の右側、紙面の手前側、紙面の奥側のいずれか一方もしくは全部に同様のブラケット15が溶接接合されていてもよい。実際には、コラムコア11にブラケット15が接合された状態で現場搬送される。
【0031】
ブラケット15には、同寸法のH形鋼により形成される梁20が接合される。より詳細には、ブラケット15の上方フランジ15bと梁20の上方フランジ20bがスプライスプレート82を介してボルト90にて接合されており、同様に、ブラケット15の下方フランジ15cと梁20の下方フランジ20cがスプライスプレート82を介してボルト90にて接合されている。さらに、ブラケット15のウエブ15aと梁20のウエブ20aがスプライスプレート81を介してボルト90にて接合されている。これらのボルト90は、例えばハイテンションボルトである。図1において、梁20の軸心をL2で示しており、軸心L2と柱10の軸心L1は、軸心交点Oにて交差している。
【0032】
鉄骨柱13とブラケット15の上方フランジ15bには、鋼板により形成されるガセットプレート40が溶接にて接合されている。すなわち、主構造30に対してガセットプレート40が接合されている。
【0033】
ガセットプレート40には、左右の柱10(図示例は右側の柱10のみ図示)と上下の梁20(図示例は下方の梁20のみを図示)により形成される構面の対角線に延びるブレース60の一端が接合されている。
【0034】
図2に示すように、ブレース60は、芯材61と、芯材61の両面に沿って配設された一対の拘束材64とを有する座屈拘束ブレースである。一対の拘束材64は、それぞれ芯材61側が開口した溝形鋼62と、溝形鋼62内に充填されたセメント系材料が硬化してなるセメント系部材63とにより形成されている。尚、このセメント系材料には、モルタルとコンクリートが含まれる。
【0035】
芯材61は帯状の細長い平鋼板にて形成され、平鋼板は、SN材(建築構造用圧延鋼材)やLY材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鉄鋼材料により製作される。芯材61のうち、拘束材64と対向する表面にはアンボンド材(図示せず)が貼り付けられてもよく、アンボンド材は、板状ないしシート状のブチルゴムや他の粘弾性体等から形成される。
【0036】
また、芯材61の両端部は、拘束材64の両端から突出しており、ガセットプレート40等と接合される接合部となる。この接合部を形成する芯材61の上下の広幅面の中央位置には、当該広幅面に対して垂直に突設するとともに、拘束材64の両端に開設されているスリット62aから外側に突出しながら、さらに芯材61の長手方向に延設している補強リブ65が溶接にて接合されている。そして、座屈拘束ブレース60の端部は、芯材61と2つの補強リブ65により断面形状が十字状を成している。芯材61と補強リブ65の双方の厚みは同じであっても異なっていてもよいが、厚みが異なる場合は芯材61の厚みが相対的に厚くなるように設定されている。そして、芯材61と補強リブ65には、双方の厚みに応じてブレース軸力が分配されるとする設計思想に基づいて、双方の厚みに応じた数のボルト孔61a、65aが開設されている。図示例では、芯材61の厚みt3と補強リブ65の厚みが例えば3:2に設定されていることに基づいて、ボルト孔61a、65aの数の比率も同様に3:2に設定されている。
【0037】
図1に戻り、座屈拘束ブレース60は、その軸心L3が軸心交点Oに交差する角度で構面内に配設され、ガセットプレート40に接合されている。ガセットプレート40の両ガセット平面には、フィンスチフナ50が溶接にて接合されており、フィンスチフナ50によってガセットプレート40の構面外への面外剛性が高められている。より詳細には、図1及び図3に示すように、フィンスチフナ50は、座屈拘束ブレース60の長手方向に延設する第一フィンスチフナ51と、第一フィンスチフナ51の端部51aから屈曲して主構造30を構成する梁20側に延設する第二フィンスチフナ52とを有する。
【0038】
図1から明らかなように、仮に第一フィンスチフナ51を屈曲させずに柱と梁の接合隅角部まで延ばそうとした場合、コンクリート体14の表面14aと第一フィンスチフナ51が干渉してしまい、柱と梁の接合隅角部まで延ばすことができない。また、コンクリート体14の施工段階においては、表面14aよりも構面の内側に型枠(図示せず)が組み付けられることから、第一フィンスチフナ51はこの型枠とも干渉する。
【0039】
第一フィンスチフナ51の端部が、柱と梁の接合隅角部まで延びずにガセットプレート40の途中位置で止まってしまう場合、第一フィンスチフナ51が十分な長さを有していないことや、ガセットプレート40の全体が第一フィンスチフナ51にてカバーされていないことから、ガセットプレート40の面外剛性の補剛が不十分となる。
【0040】
そこで、図1及び図3に示すように、第一フィンスチフナ51の端部51aを、柱と梁の接合隅角部に存在する干渉部材(図示するコンクリート体14や不図示の型枠等)と干渉しない位置において屈曲させ、第一フィンスチフナ51の端部51aに連続して梁20側に延設する第二フィンスチフナ52を設ける構成としている。図1に示すように、第二フィンスチフナ52は、梁20に接合されるブラケット15の上方フランジ15bに対して直交する態様で当接され、溶接にて上方フランジ15bの上面に接合される。尚、第二フィンスチフナ52と上方フランジ15bの交点を交点Pとする。
【0041】
座屈拘束ブレース60を構成する芯材61とガセットプレート40は、鋼製の第一スプライスプレート71を介してボルト90にて接合されている。また、座屈拘束ブレース60を構成する2つの補強リブ65と第一フィンスチフナ51は、鋼製の第二スプライスプレート72を介してボルト90にて接合されている。尚、第一スプライスプレート71と第二スプライスプレート72をまとめて、スプライスプレート70とする。
【0042】
また、図1に示すように、第二フィンスチフナ52と上方フランジ15bの交点Pが、ブラケット15の上方フランジ15bと梁20の上方フランジ20bを接続するスプライスプレート82を分断しない(交差しない)位置となるように第二フィンスチフナ52が配設されている。すなわち、フィンスチフナ50は、第一フィンスチフナ51がコンクリート体14と干渉しない位置で屈曲して第二フィンスチフナ52に移行するとともに、第二フィンスチフナ52がスプライスプレート82を分断しない位置で上方フランジ15bに接合されている。
【0043】
このように、ガセットプレート40にフィンスチフナ50を接合したことにより、フィンスチフナ50が第一フィンスチフナ51から屈曲して梁20側まで延びる第二フィンスチフナ52を有することから、ガセットプレート40の厚みを厚くすることなく、ガセットプレート40の面外剛性を効果的に高めることができる。また、第一フィンスチフナ51の端部51aから屈曲して第二フィンスチフナ52が連続していることから、第一フィンスチフナと第二フィンスチフナが分断されず、従ってフィンスチフナが分断される場合において分断箇所が低剛性箇所になり、応力集中箇所(ガセットプレート40における構造弱部)になるといった課題は生じない。
【0044】
図1に示すように、第二フィンスチフナ52は、第一フィンスチフナ51の端部51aから梁20側であって、H形断面のブラケット15の上方フランジに15bに直交する方向に屈曲し、上方フランジ15bと交点Pにて交差し、溶接により上方フランジ15bと接合される。そして、交点Pに対応する位置において、H形断面のブラケット15のウエブ15aの側方には、上方フランジ15bと下方フランジ15cを繋ぐウエブスチフナ53が溶接により接合されている。
【0045】
このように、第一フィンスチフナ51を介し、第二フィンスチフナ52を介して流れてくるブレース軸力の分力が直接伝達される上方フランジ15bの位置(交点P)を、下方からウエブスチフナ53にて補剛することにより、ブレース軸力の分力に起因するブラケット15の局所的な破損を抑制でき、剛性の高い接合構造100を形成することができる。
【0046】
次に、第一フィンスチフナ51の長さの設定方法について説明する。図3に示すように、第一フィンスチフナ51の長さをt1、第二フィンスチフナ52の長さをt2とした際に、双方はともにガセットプレート40に対して溶接部Y1、Y2を介して接合されている。中でも、第一フィンスチフナ51の長さt1は、上記するように干渉部材を回避する長さであることに加えて、対応する溶接部Y1にて設計上必要となる溶接長さに基づいて設定される。
【0047】
具体的には、座屈拘束ブレース60から作用する軸力N(ブレース軸力)は、座屈拘束ブレース60を構成する芯材61の厚みと補強リブ65の厚みに応じた分力N1,N2となり、ガセットプレート40と第一フィンスチフナ51にそれぞれ伝達される。従って、第一フィンスチフナ51とガセットプレート40を接合する2本の溶接部Y1におけるせん断耐力が、第一フィンスチフナ51に伝達される軸力の分力N2以上となるように第一フィンスチフナ51の長さt1が設定されればよい。
【0048】
尚、ガセットプレート40に対しては、第一フィンスチフナ51のみならず、これに連続する第二フィンスチフナ52も溶接部Y2を介して接合されている。従って、第一フィンスチフナ51からガセットプレート40に軸力Nの分力N2を伝達する溶接部は、ガセットプレート40と第一フィンスチフナ51を接合する溶接部Y1のみならず、ガセットプレート40と第二フィンスチフナ52を接合する溶接部Y2もある。しかしながら、第一フィンスチフナ51とガセットプレート40との溶接部Y1におけるせん断耐力が、軸力Nの分力N2以上となる溶接長さを充足するように第一フィンスチフナ51の長さt1を設定することにより、高い安全率を有する第一フィンスチフナ51とガセットプレート40との溶接構造を形成できる。
【0049】
次に、芯材61とガセットプレート40を第一スプライスプレート71を介して接合するボルト90の本数と、補強リブ65と第一フィンスチフナ51を第二スプライスプレート72を介して接合するボルト90の本数の設定方法について説明する。図4に示すように、座屈拘束ブレース60を構成する芯材61とガセットプレート40の厚みはともにt3であり、座屈拘束ブレース60を構成する補強リブ65と第一フィンスチフナ51の厚みはともにt4であり、図示例では、例えばt3:t4=3:2に設定されている。この場合、座屈拘束ブレース60から作用する軸力Nは、その端部において芯材61と補強リブ65の厚みの比率に応じた分力N1,N2となってガセットプレート40と第一フィンスチフナ51に伝達されると考えるのが設計上合理的である。すなわち、図示例の場合、N1:N2=3:2となる。そこで、芯材61とガセットプレート40を第一スプライスプレート71を介して接合するボルト90の本数と、2つの補強リブ65と第一フィンスチフナ51を第二スプライスプレート72を介して接合するボルト90の本数の比率を3:2とするようにして各ボルトの本数を設定する。例えば、t3:t4=1:1の場合は、双方のボルト90の本数の比率も1:1とするのがよい。
【0050】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0051】
10:柱、11:コラムコア、12:通しダイアフラム、13:鉄骨柱、14:コンクリート体、15:ブラケット、20:梁、30:主構造、40:ガセットプレート、50:フィンスチフナ、51:第一フィンスチフナ、52:第二フィンスチフナ、53:ウエブスチフナ、60:座屈拘束ブレース(ブレース)、61:芯材、62:溝形鋼、63:セメント系部材、64:拘束材、65:補強リブ、70:スプライスプレート、71:第一スプライスプレート、72:第二スプライスプレート、81,82:スプライスプレート、90:ボルト、100:主構造とブレースの接合構造(接合構造)、L1:柱の軸心、L2:梁の軸心、L3:ブレースの軸心、O:軸心交点、P:交点(第二フィンスチフナと上方フランジの交点)
図1
図2
図3
図4