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特許7162490ワイヤ放電加工機、アニール処理方法及びプログラム
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  • 特許-ワイヤ放電加工機、アニール処理方法及びプログラム 図1
  • 特許-ワイヤ放電加工機、アニール処理方法及びプログラム 図2
  • 特許-ワイヤ放電加工機、アニール処理方法及びプログラム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機、アニール処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
B23H7/10 A
B23H7/10 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018194366
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2020062695
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000196705
【氏名又は名称】西部電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】塩川 晴生
(72)【発明者】
【氏名】坂谷 榮康
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028839(JP,A)
【文献】特開昭56-076338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール処理を行うワイヤ放電加工機であって、
放電加工時にテンションを与えるためのテンションローラと、定位置テンション制御部と、加熱部と、アニールハンドと、前記アニール処理のときにテンションを与える複数のアニールローラと、上ヘッダと、下ヘッダを備え、
前記定位置テンション制御部は、前記アニールハンドに対して、前記上ヘッドの上において、ワイヤ電極において前記アニール処理を行うワイヤ部分の下側を挟持させ、
前記定位置テンション制御部が、前記複数のアニールローラに対して、前記アニールハンドが挟持した後に、前記ワイヤ部分の上側において互いに密着させて、逆転駆動させて回転を停止し、停止した状態で前記加熱部が前記複数のアニールローラからアニール電流を供給することにより、テンションを与える位置を定位置にして、テンションのバラツキやワイヤ振動をなくすとともにアニール処理による損傷を避け、
前記定位置テンション制御部は、アニール処理が終了すると、前記アニールハンド及び前記アニールローラを開いてワイヤ供給を行うことができる状態にし、
前記アニール部分に対するアニール処理後のワイヤ電極は、前記上ヘッダから工作物に形成されたスタートホールを通して前記下ヘッダに自動結線処理がなされる、ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
記加熱部が前記ワイヤ部分に対する加熱を開始してから、前記定位置テンション制御部が前記複数のアニールローラに対して回転を停止する、請求項記載のワイヤ放電加工機。
【請求項3】
ワイヤ放電加工機におけるアニール処理方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、放電加工時にテンションを与えるためのテンションローラと、定位置テンション制御部と、加熱部と、アニールハンドと、アニール処理のときにテンションを与える複数のアニールローラと、上ヘッダと、下ヘッダを備え、
前記定位置テンション制御部が、前記アニールハンドに対して、前記上ヘッドの上において、ワイヤ電極において前記アニール処理を行うワイヤ部分の下側を挟持させるステップと、
前記定位置テンション制御部が、前記複数のアニールローラに対して、前記アニールハンドが挟持した後に、前記ワイヤ部分の上側において互いに密着させて、逆転駆動させて回転を停止し、停止した状態で前記加熱部が前記複数のアニールローラからアニール電流を供給することにより、テンションを与える位置を定位置にして、テンションのバラツキやワイヤ振動をなくすとともにアニール処理による損傷を避けるステップと、
前記定位置テンション制御部は、アニール処理が終了すると、前記アニールハンド及び前記アニールローラを開いてワイヤ供給を行うことができる状態にして、前記アニール部分に対するアニール処理後のワイヤ電極が、前記上ヘッダから工作物に形成されたスタートホールを通して前記下ヘッダに自動結線処理がなされるステップを含むアニール処理方法
【請求項4】
前記加熱部が前記ワイヤ部分に対する加熱を開始してから、前記定位置テンション制御部が前記複数のアニールローラに対して回転を停止する、請求項3記載のアニール処理方法。
【請求項5】
放電加工時にテンションを与えるためのテンションローラと、アニールハンド、複数のアニールローラ、上ヘッダ及び下ヘッダを備えるワイヤ放電加工機を制御するためのコンピュータを、請求項1記載の定位置テンション制御部及び加熱部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機、テンション付加方法及びプログラムに関し、特に、アニール処理を行うワイヤ放電加工機等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機では、ワイヤ電極はソースボビンに巻き上げられており、ソースボビンから送り出されるワイヤ電極を利用して放電加工を行う。ワイヤ電極には、巻き上がり、曲がり、残留応力、内部歪などのくせが存在する。アニール処理は、ワイヤ電極のくせをとって真直状態にするためのものである。
【0003】
特許文献1には、アニール処理を行うときに、ワイヤ電極の下端部を挟持部材で挟持し、上端側でアニールローラを逆転駆動させてワイヤ電極を緊張させた状態にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-197336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、アニール処理中にアニールローラを回転させるため、ローラの回転による影響(回転ムラや回転軸の振れなど)で、テンションのばらつきやワイヤ振動などが発生した。そのため、ワイヤ電極のくせをとることが不十分な場合があった。
【0006】
よって、本発明は、アニール処理においてローラを継続して回転させることに比較して、ワイヤの真直性を向上させることに適したワイヤ放電加工機等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、アニール処理を行うワイヤ放電加工機であって、アニール処理の対象となるワイヤ部分の両端において、アニール処理のためにテンションを与える位置を定位置にする定位置テンション制御部を備える。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点のワイヤ放電加工機であって、前記定位置テンション制御部は、アニール処理のためのテンションを与えてからアニール処理が終わるまで、前記ワイヤ部分の両端において定位置でテンションを与える。
【0009】
本願発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のワイヤ放電加工機であって、前記ワイヤ放電加工機は、固定部と、ローラ部を備え、前記定位置テンション制御部は、前記ワイヤ部分の一方端を前記固定部が固定し、前記ワイヤ部分の他方端において前記ローラ部を回転させて前記ワイヤ部分にテンションを与えて、前記ローラ部の回転を停止することにより、前記ワイヤ部分の両端において定位置でテンションを与える。
【0010】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点のワイヤ放電加工機であって、前記ワイヤ放電加工機は、加熱部を備え、前記加熱部が前記ワイヤ部分に対する加熱を開始してから、前記定位置テンション制御部が前記ワイヤ部分の両端において定位置でテンションを与えるように制御し、又は、前記定位置テンション制御部が前記ワイヤ部分の両端において定位置でテンションを与えるように制御してから、前記加熱部が前記ワイヤ部分に対する加熱を開始することにより、前記ワイヤ部分の両端において定位置でテンションを与えつつアニール処理を行う。
【0011】
本願発明の第5の観点は、ワイヤ放電加工機におけるアニール処理のためのテンション付加方法であって、定位置テンション制御部が、アニール処理の対象となるワイヤ部分の両端において、アニール処理のためにテンションを与える位置を定位置にするステップを含む。
【0012】
本願発明の第6の観点は、ワイヤ放電加工機を制御するためのコンピュータを、アニール処理の対象となるワイヤ部分に対して、アニール処理のためにテンションを与える位置を前記ワイヤ部分の両端において定位置にする定位置テンション制御部として機能させるためのプログラムである。
【0013】
なお、本願発明を、第6の観点のプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の各観点によれば、ワイヤ電極においてアニール処理を行う部分(ワイヤ部分)に対して、アニール処理のためのテンションを付加する位置を定位置とする。ローラの回転等を利用しないために、回転ムラや回転軸の振れなどは生じず、テンションのばらつきやワイヤ振動を防止して、ワイヤの真直性を向上させることができる。
【0015】
特に通電等により加熱してアニール処理を行う場合には、時間の経過とともに温度が高くなるためにワイヤ電極が傷つきやすくなる。そのため、従来は、ワイヤ電極を傷つけることなく、ローラの回転によりテンションを制御することが必要であった。本願発明によれば、定位置でテンションを与えるために、加熱によりワイヤ部分が伸びて、時間の経過とともにテンションが低下し、高温時の制御がシンプルになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の実施の形態に係るワイヤ放電加工機の具体的な構成の一例を示す図である。
図2図1のワイヤ放電加工機1を、実際のワイヤ放電加工機において実現した場合の一例を示す図である。
図3図1のワイヤ放電加工機1におけるアニール処理の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0018】
図1は、本願発明の実施の形態に係るワイヤ放電加工機の具体的な構成の一例を示す図である。
【0019】
ワイヤ放電加工機1は、ソースボビン3と、ローラ7、9、11、13及び15と、アニールローラ17(本願請求項の「ローラ部」の一例)と、供給パイプ19と、カッター21と、アニールハンド23(本願請求項の「固定部」の一例)と、上ヘッダ25と、下ヘッダ29と、ワイヤ誘導ガイドパイプ31と、巻取りローラ33と、回収部35と、エアシリンダ37と、制御部51を備える。制御部51は、定位置テンション制御部53(本願請求項の「定位置テンション制御手段」の一例)と、加熱部55(本願請求項の「加熱部」の一例)を備える。
【0020】
図2は、図1のワイヤ放電加工機1を、実際のワイヤ放電加工機において実現した場合の一例を示す。図2において、図1と同じものは、同じ符号を付した。図2(a)は、ソースボビン3と、ローラ7、9、11、13及び15と、アニールローラ17と、供給パイプ19と、カッター21と、アニールハンド23と、エアシリンダ37の部分を撮影したものである。図2(b)は、エアシリンダ37とアニールローラ17の部分を拡大して撮影したものである。図2(c)は、アニールハンド23の部分を拡大して撮影したものである。
【0021】
ソースボビン3から引き出されたワイヤ電極5は、各種ローラ9、11、13、15(例えば、放電加工時にテンションを与えるためのテンションローラ9など)、アニールローラ17、供給パイプ19、上ヘッダ25、下ヘッダ29、ワイヤ誘導ガイドパイプ31、及び、巻取りローラ33を順に通って、回収部35に至る。上ヘッダ25と下ヘッダ29の間のワイヤ電極5を利用して、工作物27に対する放電加工が行われる。
【0022】
ワイヤ電極5は、ソースボビン3に巻き上げられており、また、各種ローラを通るために、くせ(巻き上がり、曲がり、残留応力、内部歪など)が存在する。アニール処理は、ワイヤ電極5のくせをとって真直状態にするためのものである。
【0023】
図1では、アニール処理は、ワイヤ電極5のうち、アニールローラ17とアニールハンド23との間にある部分(アニールローラ17とアニールハンド23との間にあるワイヤ電極5を「ワイヤ部分」という。本願請求項の「ワイヤ部分」の一例。)に対して行う。
【0024】
以下では、アニール処理として、放電加工前に、ワイヤ電極5を自動的に供給するときに、ワイヤ部分に対して、アニールローラ17とアニールハンド23とによりテンションを与えた状態で通電して加熱する場合を例に説明する。
【0025】
図3は、図1のワイヤ放電加工機1におけるアニール処理の一例を示すフロー図である。図2を参照して、アニール処理の一例を説明する。
【0026】
まず、定位置テンション制御部53は、アニールハンド23でワイヤ部分の下端部を挟持して固定する(ステップST1)。アニールハンド23は、アニール処理において、ワイヤ部分の下端部の定位置を挟持する。続いて、定位置テンション制御部53は、エアシリンダ37でアニールローラ17に対して所定の圧力をかけた状態で閉じることにより、アニールローラ17からワイヤ電極5にアニール電流を流すために互いに密着させて電流が流れる状態にし、また、テンションをかけてもワイヤ電極5が滑らないように所定の圧力をかける(ステップST2)。続いて、定位置テンション制御部53は、アニールローラ17を一瞬逆転駆動させてワイヤ部分を緊張させた状態とし(ステップST3)、アニールローラ17を停止させる(ステップST4)。アニールローラ17を停止させるため、アニールローラ17は、ワイヤ部分の上端部の定位置でテンションを与える。加熱部55は、アニールローラ17が停止した状態で、ワイヤ部分に対して電流供給装置(図示省略)からアニール電流を供給し、アニール処理を行う(ステップST5)。アニールローラ17は、給電子(図示省略)を通じて電流を流すことができる。そして、アニール処理が終了すると、アニールハンド23及びアニールローラ17を開き、次の動作であるワイヤ供給を行うことができる状態にする(ステップST6)。
【0027】
本実施例では、アニールローラ17の回転を停止するため、アニール処理中にローラの回転ムラや回転軸の振れによるテンションのバラツキやワイヤ振動をなくすことができる。また、アニールローラ17とアニールハンド23は、ワイヤ部分の定位置でテンションを与えるため、発熱によりワイヤ部分が伸びて、時系列的に(時間の経過とともに)テンションが低下するため、発熱により傷つきやすい状態となるワイヤ部分に対して、アニール処理による損傷を避けることができる。
【0028】
続いて、従来のアニール処理においてアニールローラを回転させた場合(以下、「従来法」という。)と、本実施例のアニール処理において定位置でテンションを与えた場合(以下、「定位置法」という。)を比較する実験を説明する。
【0029】
ワイヤの真直性は、例えば自動結線率に大きく影響する。放電加工において、例えば新たに閉路を加工する場合には、カッター21でワイヤ電極5を切り、上ヘッダ25から工作物27に形成されたスタートホールを通して下ヘッダ29に自動結線処理を行い、新たな閉路を放電加工する。ワイヤのくせが、自動結線処理を失敗する大きな要因になる。
【0030】
従来法と定位置法とを比較するために、自動結線処理を実験した。ワイヤ径はφ0.2であり、スタートホールは無い状態とした。無トライ自動供給率(自動供給テスト回数のうち、成功した回数の割合)は、機械10台の平均である。
【0031】
従来法では、上下ヘッドノズル間(上ヘッドのワイヤ電極を送るノズルの下端と下ヘッドのワイヤ電極を受けるノズルの上端)の距離が60mmのとき、自動供給テスト回数300回のうち、供給が失敗したのは6回であった。そのため、無トライ自動供給率は98%であった。上下ノズル間の距離を100mmとすると、自動供給テスト回数30回のうち供給が失敗したのは15回であり、無トライ自動供給率は50%となった。
【0032】
他方、定位置法では、上下ノズル間の距離が60mmのとき、自動供給テスト回数300回のうち、供給が失敗したのは1回であり、無トライ自動供給率は99%であった。上下ノズル間の距離を100mmにしても、自動供給テスト回数300回のうち供給が失敗したのは1回であり、無トライ自動供給率は99%となった。
【0033】
表1は、従来法と定位置法について、上下ノズル間の距離と無トライ自動供給率を示す。上下ノズル間の距離が60mmのときの無トライ自動供給率は、従来法では98%であったのに対し、定位置法では99%となり、向上している。さらに、従来法では、上下ノズル間の距離が60mmから100mmとなると、無トライ自動供給率が極端に低下した。他方、定位置法では、上下ノズル間の距離が60mmから100mmと1.5倍以上となっても、無トライ自動供給率は変わらず安定している。φ0.15、φ0.10ワイヤでも同様の傾向が認められた。
【0034】
【表1】
【0035】
なお、図3では、ワイヤ部分へアニール処理のためのテンションを与えてからアニール電流を供給したが、アニール電流を供給してからワイヤ部分へアニール処理のためのテンションを与えてもよい。例えば、加熱部55によるアニール電流の供給は、アニールローラ17を一瞬逆転駆動させワイヤ部分を緊張させた状態(アニールローラを停止する前)から行ってもよく、逆転と同時に行ってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 ワイヤ放電加工機、3 ソースボビン、5 ワイヤ電極、7,9,11,13,15 ローラ、17 アニールローラ、19 供給パイプ、21 カッター、23 アニールハンド、25 上ヘッダ、27 工作物、29 下ヘッダ、31 ワイヤ誘導ガイドパイプ、33 巻取りローラ、35 回収部、37 エアシリンダ、51 制御部、53 定位置テンション制御部、55 加熱部
図1
図2
図3