(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】コーティング剤、コーティング膜ならびにそれを用いた物品、および物品表面の着雪防止方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20221021BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20221021BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20221021BHJP
C09D 183/10 20060101ALI20221021BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221021BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221021BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221021BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20221021BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D183/04
C09D183/10
C09D7/20
C09D5/00 Z
B05D7/24 301S
B05D7/24 302P
B05D7/24 302Y
B05D5/00 G
B32B27/00 Z
(21)【出願番号】P 2018224876
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西井 健太郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-091468(JP,A)
【文献】特開2003-147257(JP,A)
【文献】特開2004-359857(JP,A)
【文献】特開2014-125598(JP,A)
【文献】特開2018-053095(JP,A)
【文献】特開平07-196988(JP,A)
【文献】特開2018-184536(JP,A)
【文献】特開2003-128991(JP,A)
【文献】特開平04-258675(JP,A)
【文献】特開2007-270071(JP,A)
【文献】米国特許第05545683(US,A)
【文献】国際公開第2009/047955(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0222452(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと、溶剤と、を含有する、コーティング剤
であって、
該熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィンからなる群より選択される1種以上であり、
該熱可塑性樹脂は、コーティング剤の全量を基準として、3.0~20%配合され、
該アクリルシリコーン化合物は、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合され、
該シリコーンオイルは、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合される、
前記コーティング剤。
【請求項2】
該アクリルシリコーン化合物が、
ポリジメチルシロキサン構造を含む、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
該溶剤が、ケトン類、エステル類、アルコール類、グリコールエステル類、グリコールエーテル類、アミド類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、およびこれらのハロゲン化物からなる群から選択される1種以上である、請求項1
または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと
、溶剤とを含有するコーティング剤の溶剤を揮発させてなるコーティング膜
であって、
該熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィンからなる群より選択される1種以上であり、
該熱可塑性樹脂は、該コーティング剤の全量を基準として、3.0~20%配合され、
該アクリルシリコーン化合物は、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合され、
該シリコーンオイルは、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合される、
前記コーティング膜。
【請求項5】
該アクリルシリコーン化合物が、
ポリジメチルシロキサン構造を含む、請求項
4に記載のコーティング膜。
【請求項6】
基材と、
熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと
、溶剤とを含有するコーティング剤の溶剤を揮発させてなり、該基材の表面を被覆するコーティング膜と、
を有する、物品
であって、
該熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィンからなる群より選択される1種以上であり、
該熱可塑性樹脂は、該コーティング剤の全量を基準として、3.0~20%配合され、
該アクリルシリコーン化合物は、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合され、
該シリコーンオイルは、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合される、
前記物品。
【請求項7】
該アクリルシリコーン化合物が、
ポリジメチルシロキサン構造を含む、請求項
6に記載の物品。
【請求項8】
該コーティング膜の、該基材側の面に対向する表側の面に、該シリコーンオイルが偏在する、請求項
6または7に記載の物品。
【請求項9】
基材の表面に、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと
、溶剤とを含有するコーティン剤の溶剤を揮発させてなるコーティング膜が施された物品の表面の着雪を防止する方法であって、
該熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィンからなる群より選択される1種以上であり、
該熱可塑性樹脂は、該コーティング剤の全量を基準として、3.0~20%配合され、
該アクリルシリコーン化合物は、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合され、
該シリコーンオイルは、該熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として、1.5~15.0%配合され、
該コーティング膜に接触した雪が滑落することにより、該コーティング膜上への着雪が防止される、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング剤、これを用いて形成したコーティング膜ならびにコーティング膜を備えた物品に関する。さらに本発明は、該コーティング膜により物品表面の着雪を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置する等して使用される物品は、汚れがつきやすいほか、雨や雪等が付くという問題がある。特に信号機、屋外灯等の屋外設置物や、自動車用ヘッドランプ・リアランプ等のような屋外使用物の表面に雪や氷が付着すると、視認性が低下し、危険性が増すおそれがある。近年、太陽光下で視認性を高めるものとして、これらのランプの光源に発光ダイオード(LED)が用いられるようになっている。その反面、LEDは、従来から用いられていた白熱電球と比較して発熱量が少ないため、これらの物品にはより雪や氷が付着しやすくなっている。そこで、このような物品の表面に被覆(コーティング膜)を施して、これらの物品の表面への着雪を防ぐ試みは広く行われている。
【0003】
特許文献1には、加水分解性シリル基を有する含フッ素重合体を必須成分とする、風力発電機のブレードの表面塗布用塗料組成物が開示されている。特許文献1の塗料組成物は、寒冷地に設置された風力発電機のブレードに雪や氷が付着して風の抵抗値の増加により風車効率や発電効率が低下することを防止するような被覆層を提供することができる。特許文献2の空気保持性塗膜は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などからなり、表面と液体との接触面積を小さくすることで表面に空気を保持させ、液体が転がるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-219653号
【文献】特開平8-268379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の塗料組成物から得られる被覆層は、不透明であるため、信号機やランプ等のように、光源を覆うための被覆層として用いるにはやや難がある。また特許文献2は、いわゆるロータス効果と呼ばれる超撥水加工を施したことを特徴とする空気保持性塗膜に関するものである。ロータス効果とは、塗膜の表面に微細な凹凸を設けて表面に空気を保持させて水滴を転がらせることにより、表面への水や雪の付着を防ぐ効果である。ロータス効果は、表面の凹凸を雪が覆い、これが凍結してしまうと、効果の発揮が期待できない。したがって、特許文献2の空気保持性塗膜を寒冷地の信号機や屋外灯の光源を覆う被覆層として用いるのは困難である。そこで、概して透明で、寒冷な環境下においても雪の付着や凍結を防ぎ、耐候性にも優れるコーティング膜の開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと、溶剤と、を含有する、コーティング剤である。
本発明の他の実施形態は、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含む、コーティング膜である。
本発明のさらに他の実施形態は、基材と、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含み、該基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する、物品である。
本発明の別の実施形態は、基材の表面に、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含むコーティング膜が施された物品の表面の着雪を防止する方法であって、該コーティング膜に接触した雪が滑落することにより、該コーティング膜上への着雪が防止される、方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコーティング剤は紫外線や電離性放射線により硬化することなく、簡便にコーティング膜を形成することができる。本発明のコーティング膜は、変色や劣化が少なく、透明であり、被覆された物品への着雪を防止することができる。本発明のコーティング膜が施された物品に雪が付着すると、雪が当該コーティング膜上で滑って滑落することにより、当該物品への着雪が防止される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の一の実施形態は、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと、溶剤と、を含有する、コーティング剤である。
【0009】
本実施形態において、コーティング剤とは、常温下では液体状態で存在し、主に物品の表面の保護やつや出し等を目的としたコーティング膜を形成するために塗布される混合物のことである。すなわちコーティング剤は、主に塗料として使用され、施工される場所や物品に対応する種々の要求性能を満たす必要がある。本実施形態のコーティング剤から形成されるコーティング膜は、樹脂、プラスチック、金属等の物品の表面の被覆、加工、加飾のため用いられる。実施形態のコーティング膜は、物品表面上に密着して剥がれにくく、概して透明なものである。
【0010】
本実施形態のコーティング剤は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂とは、一般にはプラスチックとも呼ばれ、加熱により軟化する高分子化合物を指す。より詳細には、熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度または融点に達すると軟化する高分子のことである。加熱により軟化して流動性を示し、冷却してゴム状に戻る性質を有する「熱可塑性エラストマー」も、本明細書では熱可塑性樹脂の一種であるものとする。
【0011】
熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン;ポリ酢酸ビニル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリウレタンメタクリレート;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂等の合成ゴム類;アクリル樹脂;ポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリエステル;環状ポリオレフィン等を挙げることができる。これらの高分子化合物の中から1種以上を選択して熱可塑性樹脂として用いることができる。
【0012】
熱可塑性樹脂は、実施形態のコーティング剤からコーティング膜を形成したときに、マトリクス樹脂となる成分である。コーティング膜を施す物品の用途にもよるが、たとえば信号機や屋外灯等のような高原に施すコーティング膜のマトリクスとして好適な熱可塑性樹脂は、硬くて透明な樹脂である。実施形態のコーティング剤に用いる熱可塑性樹脂として、特にポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリエステルを好適に用いることができる。
【0013】
熱可塑性樹脂は、実施形態のコーティング剤の全量を基準として、1.0%~20%、好ましくは3.0%~15.0%、さらに好ましくは4.5%~10.5%配合することができる。ここで、「全量を基準として」とは、本実施形態のコーティング剤の全構成成分の合計重量を基準として、という意味である。熱可塑性樹脂の配合量が少なすぎると、コーティング膜の耐擦傷性が小さくなり傷がつきやすくなる。また熱可塑性樹脂の配合量が多すぎると、コーティング剤の粘度が高くなり、塗工性が悪くなる。
【0014】
本実施形態のコーティング剤は、アクリルシリコーン化合物を含む。アクリルシリコーン化合物とは、分子内に、-Si-O-からなるシロキサン結合を主骨格に有するシリコーン構造部分と、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが重合した(メタ)アクリル樹脂構造部分とを一分子内に併せ持つ化合物全般を指す。アクリルシリコーン化合物は、たとえば、シリコーンメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体のように、一分子内にシリコーン構造とアクリル樹脂構造とを有する。実施形態では、ポリジメチルシロキサン(ジメチルポリシロキサン、あるいはジメチコンとも称される。)構造を有するアクリルシリコーン化合物を用いることが好ましい。
【0015】
実施形態のコーティング剤において、アクリルシリコーン化合物は、コーティング膜の滑り性付与添加剤として用いられる。滑り性付与添加剤とは、実施形態のコーティング剤から形成されたコーティング膜の表面の摩擦係数を低下させることができる添加剤である。コーティング膜のマトリクスとなる熱可塑性樹脂は、それ自体平滑なコーティング膜を形成できるため、コーティング膜表面の摩擦係数は低いが、ここに滑り性付与添加剤であるアクリルシリコーン化合物を添加することにより、さらに摩擦係数を小さくすることができる。実施形態において、アクリルシリコーン化合物が滑り性付与添加剤として機能する仕組みは種々考察することができる。たとえば、物品にコーティング膜を施した際に、コーティング膜のうち、物品側の面に対向する側の面(大気側の面)により多くのアクリルシリコーン化合物(特にアクリルシリコーン化合物中のシリコーン構造部分)が偏在し、コーティング膜表面の滑り性が向上することが考えられる。シリコーンは、それ自体摩擦係数の小さい高分子被膜を形成することができる物質であるため、シリコーン構造部分を有するアクリルシリコーン化合物をコーティング膜のマトリクス内に存在させることで、コーティング膜の滑り性ならびに滑水性を向上させることができる。滑り性の高いコーティング膜が施された物品に、他の物品が接触したりぶつかったりした際に、物品の表面を当該接触した他の物品が滑るようになる。物品の表面を、当該接触した他の物品が滑ることにより、他の物品の接触による物品への傷つきも防止される。また、コーティング膜の滑水性を向上させると、コーティング膜が施された物品に、雪が付着した際に、物品の表面に接触した部分の雪が若干融解して水滴になり、雪が物品の表面を滑って滑落するようになる。そのため、物品表面に雪が付着してそのまま凍結してしまうことがなくなり、物品への着雪が防止される。
【0016】
アクリルシリコーン化合物は、熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として1.5~15.0%、好ましくは1.5~13.0%、さらに好ましくは2.0~10.5%配合することができる。アクリルシリコーン化合物の濃度が低すぎると、実施形態のコーティング剤から形成されるコーティング膜において滑水性を付与して着雪を防止する効果を充分に発揮させることができない。一方アクリルシリコーン化合物の濃度が高すぎると、アクリルシリコーン化合物が溶解せずにコーティング剤が白濁し、これを塗工すると、アクリルシリコーン化合物がコーティング膜表面にブリードアウトする等の影響があることが懸念される。
【0017】
本実施形態のコーティング剤は、シリコーンオイルを含む。シリコーンオイルとは、分子内に、-Si-O-からなるシロキサン結合を約2000以下程度主鎖に有するシリコーンのことである。シリコーンオイルは、常温で液体であり、表面張力が小さい不燃性の油である。実施形態のコーティング剤において、シリコーンオイルは、コーティング膜の滑水性を付与する添加剤として用いられる。滑水性を付与する、とは、コーティング膜の表面上を水が滑るように移動するような性質を、当該コーティング膜に与えることを云う。実施形態のコーティング剤から形成されるコーティング膜において、シリコーンオイルが滑水性付与剤として機能する仕組みは種々考察することができる。たとえば、物品にコーティング膜を施した際に、コーティング膜のうち物品側の面に対向する側の面(大気側の面)により多くのシリコーンオイルが偏在し、コーティング膜表面の滑水性が向上することが考えられる。シリコーンオイルは、それ自体摩擦係数の小さく、広く工学分野において潤滑剤として用いられる物質であるため、シリコーンオイルをコーティング膜のマトリクス内に存在させることで、コーティング膜の滑水性を向上させることができる。コーティング膜の滑水性を向上させると、コーティング膜が施された物品に、雪が付着した際に、物品の表面に接触した雪が若干融解して水滴になり、雪が物品の表面を滑って滑落するようになる。そのため、物品表面に雪が付着してそのまま凍結してしまうことがなくなり、物品への着雪が防止される。実施形態のコーティング剤から形成されるコーティング膜の表面に滑水性を効果的に付与することができるシリコーンオイルは、直鎖状のもので、かつ動的粘度が50~10000センチストークス、好ましくは100~1000センチストークス程度のものである。動的粘度が高すぎるシリコーンオイル(たとえば30000センチストークス等のもの)は、実施形態のコーティング剤の他の成分との相溶性が悪く、白濁したコーティング膜を与える可能性がある。
【0018】
シリコーンオイルは、熱可塑性樹脂の固形分重量を基準として1.5~15.0%、好ましくは1.5~113.0%、さらに好ましくは2.0~10.5%配合することができる。シリコーンオイルの濃度が低すぎると、実施形態のコーティング剤から形成されるコーティング膜において滑水性を付与して着雪を防止する効果を充分に発揮させることができない。一方シリコーンオイルの濃度が高すぎると、シリコーンオイルが溶解せずにコーティング剤が白濁し、これを塗工すると、シリコーンオイルがコーティング膜表面にブリードアウトする等の影響があることが懸念される。
【0019】
本実施形態のコーティング剤は、溶剤を含む。溶剤は、上記の熱可塑性樹脂とアクリルシリコーン化合物とを溶解させることができるものであればいかなるものを用いても良い。溶剤として、特にアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル、酢酸イソペンチル等のエステル類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルメトキシブタノール等のグリコールエーテル類;ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;およびこれらのハロゲン化物等を挙げることができる。これらの中から選択される一種以上の溶剤を適宜混合して用いることができる。特に、常温付近の空気中で揮発するメチルエチルケトン、イソプロパノール、酢酸ブチル等を用いると、簡単にコーティング膜を作製可能なコーティング剤を得ることができる。
【0020】
溶剤は、上記の熱可塑性樹脂、アクリルシリコーン化合物およびシリコーンオイルからなる固形分重量を基準として、5倍~100倍、好ましくは5倍~50倍、さらに好ましくは5倍~30倍の量用いることができる。実施形態のコーティング剤をスプレー塗工できるものとするためには、固形分重量の15倍~40倍の量の溶剤を用いることが好ましく、バーコート法により塗布できるものとするためには5~20倍の量の溶剤を用いることができる。溶剤の量が少なすぎると、コーティング剤の粘度が高くなって塗工が難しくなり、特にスプレー塗工が困難となりうる。また溶剤の量が多すぎると、コーティング剤の粘度が小さくなって塗工しても表面から流れてしまうためコーティング膜に液垂れ跡が残ることがあり、さらにコーティング膜の厚みを増やすことができないため傷つき防止効果が発揮されない等の問題が生じうる。
【0021】
実施形態のコーティング剤は、熱可塑性樹脂、アクリルシリコーン化合物およびシリコーンオイルを混合し、これを溶剤に溶解することにより製造することができる。さらに実施形態のコーティング剤は、上記の成分のほか、コーティング剤に通常含まれている添加剤(たとえば染料、顔料、可塑剤、分散剤、防腐剤、つや消し剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防汚剤、アンチブロッキング剤、無機粒子)を適宜配合することができる。また、実施形態のコーティング剤は、コーティング剤自体および以降で説明するその他の実施形態に影響を及ぼさない限り、水を含んでいて良い。
【0022】
実施形態のコーティング剤は、適切な基材表面に塗布し、この上で溶剤を揮発させて、本発明の他の実施形態であるコーティング膜を形成することができる。本発明の他の実施形態は、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含む、コーティング膜である。実施形態のコーティング膜に用いられる熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン;ポリ酢酸ビニル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリウレタンメタクリレート;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂等の合成ゴム類;アクリル樹脂;ポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリエステル;環状ポリオレフィン等を挙げることができる。これらの高分子化合物の中から1種以上を選択することができる。実施形態のコーティング膜に用いられるアクリルシリコーン化合物は、一分子内にシリコーン構造とアクリル樹脂構造とを有する化合物であり、特にポリジメチルシロキサン(ジメチルポリシロキサン、あるいはジメチコンとも称される。)構造を有するアクリルシリコーン化合物を用いることが好ましい。実施形態のコーティング膜に用いられるシリコーンオイルは、直鎖状で、動的粘度が100~1000センチストークス程度の、常温で液体のシリコーンオイルを用いることが好ましい。
【0023】
実施形態のコーティング膜の厚さは、用途に応じて自由に変えることができるが、一般に1~30μm、好ましくは1~20μm、さらに好ましくは1~10μmとすることができる。実施形態のコーティング剤を塗布する基材として、ガラス、プラスチック、金属、布等の繊維製品等を挙げることができるが、実施形態のコーティング剤は、特にプラスチック上にて好適に広がり、別の実施形態のコーティング膜を形成することができる。好適な基材として、たとえばポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂を使用することができる。コーティング剤の基材表面への塗布は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング方法により適宜行うことができる。コーティング剤を塗布した基材を溶剤が十分揮発するまで常温付近の雰囲気下に放置するか、またはデシケータ等の乾燥雰囲気下に置いて、コーティング膜を形成することができる。実施形態のコーティング剤は、コーティング膜を形成するために加熱する必要がない。万一、早急に溶剤を揮発させる必要がある場合は、通常は20~50℃、好ましくは35~40℃程度に、穏やかに加熱することで溶剤を迅速に揮発させることが可能である。
【0024】
実施形態のコーティング膜は、コーティング膜に含まれているアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルに基づく滑り性と滑水性とを備えている。本明細書において「滑り性」とは、コーティング膜表面に接触した物体が滑る性質全般を指す。コーティング膜表面上に物体が接触したときに、当該物体がコーティング膜上を滑ることでコーティング膜への衝撃が緩和され、コーティング膜の傷つきが防止される。一方「滑水性」とは、物体が特に水である場合を指し、コーティング膜表面に接触した水が滑る性質のことを云う。一般に、滑り性の高い表面は滑水性も高いと考えられるが、滑り性は高いが滑水性はさほど高くない表面や、滑り性はさほど高くないが滑水性は高い表面等もありうる。実施形態のコーティング膜は、滑り性だけでなく滑水性も高い。このため、表面に雪が付着すると、コーティング膜に接触した雪の表面の水滴が滑ることによりコーティング膜表面上を雪が滑って滑落する。このようにして、コーティング膜への着雪が防止されることになる。
【0025】
実施形態のコーティング剤を対象物品の表面上に塗布して溶剤を揮発させて、別の実施形態であるコーティング膜を形成し、コーティング膜を含む物品を形成することができる。そこで本発明の他の実施形態は、基材と、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含み、該基材の表面の一部または全部を被覆するコーティング膜と、を有する、物品である。実施形態の物品の材料(すなわち基材)として、ガラス、プラスチック、金属、布等の繊維製品等を挙げることができる。実施形態の物品を被覆するコーティング膜に用いられる熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン;ポリ酢酸ビニル;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリウレタンメタクリレート;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂等の合成ゴム類;アクリル樹脂;ポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリエステル;環状ポリオレフィン等を挙げることができる。これらの高分子化合物の中から1種以上を選択することができる。実施形態の物品を被覆するコーティング膜に用いられるアクリルシリコーン化合物は、一分子内にシリコーン構造とアクリル樹脂構造とを有する化合物であり、特にポリジメチルシロキサン(ジメチルポリシロキサン、あるいはジメチコンとも称される。)構造を有するアクリルシリコーン化合物を用いることが好ましい。実施形態の物品を被覆するコーティング膜に用いられるシリコーンオイルは、直鎖状で、動的粘度が100~1000センチストークス程度の、常温で液体のシリコーンオイルを用いることが好ましい。コーティング膜は、物品の表面の少なくとも一部を被覆することができ、物品の全部をコーティング膜で被覆することもまた可能である。実施形態の物品は、当該物品の一部または全部を被覆するコーティング膜中に含まれているアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルに由来して、滑り性と滑水性とを備えている。この物品の表面に他の物品が接触したときに、当該物品の表面で他の物品が滑ることにより、当該物品への傷つきが防止される。また物品の表面に雪が付着したときには、雪の表面が融解して水滴になり、物品の一部または全部を被覆するコーティング膜表面上を雪が滑って滑落することになり、物品への着雪が防止される。
【0026】
本発明の別の実施形態は、基材の表面の一部または全部に、熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルとを含むコーティング膜が施された物品の表面の着雪を防止する方法であって、該コーティング膜に接触した雪が滑落することにより、該コーティング膜上への着雪が防止される、方法である。ここで、コーティング膜上への着雪が防止される、とは、物品の一部または全部を覆うコーティング膜表面に雪が付着しないあるいはごくわずかな雪が付着するのみである、ことを意味する。物品の一部または全部を被覆するコーティング膜に含まれているアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルに由来する滑水性により、物品に雪が接触しても、雪がコーティング膜上を滑って落ちることになり、物品へ雪がつきにくくなる。また物品の一部または全部を被覆するコーティング膜に含まれている熱可塑性樹脂は、概して透明で硬質なものであるため、物品の汚れや変色、ならびに劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0027】
(1)コーティング剤ならびにコーティング膜の作製
(1-1)コーティング剤の調製
熱可塑性樹脂として、熱可塑型サーモラックM-45C(アクリル系樹脂、溶剤:メチルエチルケトン、固形分濃度:45.5%、総研化学株式会社)を用意した。アクリルシリコーン化合物として、N-1128(シリコーンメタクリレート、メチルクリレートおよび4-ヒドロキシブチルアクリレートの50:40:10(重量比)の共重合体、溶剤:酢酸エチル、固形分濃度:30%、株式会社ネオス)を用意した。シリコーンオイルとして、KF-96-100cs(ストレートタイプのシリコーンオイル、信越化学)を用意した。溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)、および酢酸ブチル(AcOBu)を用意した。
熱可塑性樹脂と、アクリルシリコーン化合物と、シリコーンオイルと、溶剤とを、表1に記載する配合比で混合し、コーティング剤を調製した。表1中、熱可塑性樹脂およびアクリルシリコーン化合物の配合量は、それら成分を溶解させる溶剤も含んでいる。
【0028】
(1-2)コーティング膜の作製
各コーティング剤をポリメチルメタクリレート(PMMA)製の板にバーコート法にて塗工した。乾燥後の膜厚が1μmになるように塗工量を調節した。これを常温で3分間放置して、PMMA板上に膜厚1μmのコーティング膜を形成した。
【0029】
【0030】
なお、表中に記載された各化合物や略称などは、以下の意味を有する:
M-45C:熱可塑型サーモラックM-45C、総研化学(株)
N-1128: シリコーンメタクリレート、メチルクリレートおよび4-ヒドロキシブチルアクリレートの50:40:10(重量比)の共重合体、(株)ネオス
LC-96-100cs:シリコーンオイル、動的粘度100cs、信越化学(株)
MEK:メチルエチルケトン
AcOBu:酢酸ブチル
さらに表にも記載しているが、コーティング剤中に含まれている熱可塑性樹脂の固形分割合は、コーティング剤全量に対する重量割合を示しており、アクリルシリコーン化合物およびシリコーンオイルの固形分割合は、熱可塑性樹脂の量に対する重量割合を示している。
【0031】
(2)コーティング膜の評価
(2-1)コーティング膜の外観評価
各コーティング膜の外観について、白濁や液垂れ跡、ならびに異物が認められるかどうか目視で観察した。これらが認められないコーティング膜を「良好」と判定した。
【0032】
(2-2)コーティング膜の耐擦傷性の評価
一般に、物体に他の物体が接触したときに、当該物品の表面上を他の物品が滑ると、当該物品と他の物品との間の摩擦が軽減され、当該物品への傷つきが防止されると考えられる。すなわちコーティング膜の滑り性が高いと、コーティング膜の耐擦傷性も高くなると推測できる。各コーティング膜の耐擦傷性は、以下のように測定した。
表面性試験機HEIDON(新東科学株式会社)を用いた。面積1cm2の端子に取り付けた市販のガーゼに250g/cm2の荷重をかけ、速度5000mm/分で、各コーティング膜の表面を長さ100mmにわたって100往復擦り、コーティング膜の表面に傷がついているかどうか目視で観察した。評価は以下の基準で行った:
3:傷が認められない
2:数本の傷が認められる
1:多数の傷が認められる
【0033】
(2-3)コーティング膜の滑水性の測定
一般に、物体に雪が付着すると、物体に接触する部分の雪は融解し、水滴になる。この水滴(雪の表面水)が物体表面を滑りやすいと、物体から雪が除かれ、物体への雪の付着が防止されると考えられる。そこで、傾斜したコーティング膜上の水滴が滑落するかどうか(すなわちコーティング膜に滑水性があるかどうか)を観察することにより、コーティング膜の着雪防止効果を見積もることにした。
コーティング膜の表面に、30μLの水滴を置き、コーティング膜を徐々に傾けて、水滴が滑って落ちたときのコーティング膜の角度(転落角と呼ぶ。)を測定した。転落角が小さいほど、コーティング膜表面の滑水性が高い(すなわち着雪防止効果が高い)ことを意味する。
【0034】
(2-4)コーティング膜のリコート性の評価
コーティング膜のリコート性とは、コーティング膜形成後、再度コーティング剤を塗布して、被覆を重ねることができる特性である。信号機や屋外灯の被覆に用いるコーティング膜は、一年に一度、あるいは季節に一度等、定期的に塗り替えを行うものであるため、再被覆可能なコーティング剤であることが好ましい。
リコート性の評価は、コーティング剤を上記の(1-2)にしたがいコーティング膜を形成し、さらに同じコーティング剤を重ねて塗工して、新しい表面を有するコーティング膜を再形成することができるかどうかを目視で観察することにより行った。
【0035】
滑り性付与添加剤であるアクリルシリコーン化合物と、滑水性付与添加剤であるシリコーンオイルを含む実施例1~4のコーティング膜は、いずれも滑水性を有していた。これらのコーティング膜の外観には白濁等の不具合が認められなかった。またこれらのコーティング膜は、耐擦傷性も高いものであった。さらにこれらのコーティングはリコート可能なため、信号機や屋外灯等の設置物へのコーティング膜として優れていることがわかる。
【0036】
シリコーンオイルを含まないコーティング剤(比較例1)、およびアクリルシリコーン化合物を含まないコーティング剤(比較例2)から形成したコーティング膜は、充分な滑水性を有していなかった。比較例1のコーティング膜表面には、滑り性付与添加剤であるアクリルシリコーン化合物が偏析していると考えられるが、シリコーン構造そのものの濃度が低く、滑水性を向上させるには到っていないと考えられる。一方比較例2のコーティング膜表面にはシリコーンオイルが多少偏析していると考えられるが、熱可塑性樹脂自体に取り込まれてしまう分が多いか、あるいはブリードアウトしてしまうかのいずれかの理由により、コーティング膜表面の滑水性を向上させるには到っていないと考えられる。実施例1~4のコーティング膜と比較するとわかるとおり、コーティング膜中にアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルとが併存することにより、表面にシリコーン構造が偏析し、滑り性と滑水性とを兼ね備えることができると考えられる。
【0037】
アクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルとの配合量が少ない比較例3のコーティング膜は、充分な滑水性を有していなかった。比較例3のコーティング膜は、着雪防止コーティング膜として機能することは期待できない。またアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルとの配合量が多い比較例4のコーティング膜は、表面に白濁が見られた。比較例4のコーティング膜は、透明性が要求される、光源の被覆等の用途には適用しにくいと考えられる。実施例1~4のコーティング膜と比較するとわかるとおり、コーティング膜中にアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルとが適切な量ならびに割合で併存することにより、表面にシリコーン構造が偏析し、滑り性と滑水性とを兼ね備え、かつ透明なコーティング膜となると考えられる。
【0038】
本発明のコーティング剤は、スプレー法やバーコート法等の従来の塗工方法を用いて、金属やプラスチック、布帛などの基材に塗布することができる。コーティング剤は、硬化作業の必要がなく、溶剤を揮発させるだけでほぼ透明なコーティング膜を形成することができる。コーティング膜は向上した滑り性と滑水性とを有しており、雪が付着しにくく、また表面への接触などによる傷もつきにくい。このため、たとえば信号機や屋外灯等の屋外設置物や、ランプ等の光源等の物品表面の保護層として用いることができる。