IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-脱穀装置 図1
  • 特許-脱穀装置 図2
  • 特許-脱穀装置 図3
  • 特許-脱穀装置 図4
  • 特許-脱穀装置 図5
  • 特許-脱穀装置 図6
  • 特許-脱穀装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】脱穀装置
(51)【国際特許分類】
   A01F 12/32 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
A01F12/32 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018238832
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099221
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小林 宜泰
(72)【発明者】
【氏名】中島 伸六
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雅行
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-177076(JP,A)
【文献】特開平8-228574(JP,A)
【文献】特開2007-174997(JP,A)
【文献】特開平7-31268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01F 12/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動する扱胴、及び、前記扱胴の下方に設けられた受網を有し、作物の全稈が投入されて作物を脱穀する脱穀部と、
前記脱穀部の下方に設けられ、前記受網から漏下してきた処理物から穀粒を選別する選別部と、を備え、
前記扱胴は、前記扱胴の周方向に間隔を空けて設けられた複数の扱歯支持部材と、前記扱歯支持部材から前記扱胴の駆動軸芯方向に間隔を空けた状態で突設された複数の扱歯と、を備えるとともに非ドラム状に構成され、
前記選別部に、揺動駆動することで処理物を搬送しながら処理物から穀粒を選別する揺動選別装置と、前記揺動選別装置に選別風を供給する唐箕と、前記揺動選別装置の下方に設けられ、一番物を回収する一番搬送機構と、前記揺動選別装置の下方において前記一番搬送機構よりも搬送方向下流側の位置に設けられ、二番物を回収する二番搬送機構と、前記二番搬送機構によって回収された二番物を前記揺動選別装置の前部に戻す還元搬送機構と、を備え、
前記扱胴の後端部は、前記揺動選別装置の後端部よりも搬送方向下流側まで延ばされており、
前記揺動選別装置に、複数のチャフリップを有するチャフシーブと、前記チャフシーブの下方において平面視で前記チャフシーブと重複する状態で設けられた網状のグレンシーブと、前記チャフシーブ及び前記グレンシーブを収容するシーブケースと、を備え、
前記グレンシーブは、前記一番搬送機構の真上と前記二番搬送機構の真上とに亘る状態で設けられ、
前記シーブケース内における前記チャフシーブと前記グレンシーブとの間の空間の搬送方向上流側の位置に、網状体によって構成され、前記チャフシーブから漏下してきた処理物を選別処理して、下方の前記グレンシーブに漏下させる選別部材を備えている脱穀装置。
【請求項2】
前記グレンシーブは、搬送方向下流側ほど前記チャフシーブに近づくように、搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢で設けられ、
前記選別部材は、搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢で設けられている請求項1に記載の脱穀装置。
【請求項3】
前記選別部材の傾斜角度は、前記グレンシーブの傾斜角度と同じに設定されている請求項2に記載の脱穀装置。
【請求項4】
前記選別部材は、前記空間における上下中央位置に設けられている請求項1~3の何れか一項に記載の脱穀装置。
【請求項5】
前記選別部材は、平面視で搬送方向に沿って延びるとともに搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢の線状体を横幅方向に複数並べて構成されている請求項1~4の何れか一項に記載の脱穀装置。
【請求項6】
前記シーブケース内で搬送方向下流位置に、処理後の茎稈を搬送方向下流側へ搬送するストローラックが備えられ、
前記シーブケースのうち搬送方向下流側の底部分が搬送方向下流側ほど高くなる傾斜形状に形成され、
前記底部分における搬送方向下流側部分の傾斜角度が、前記底部分における搬送方向上流側部分の傾斜角度よりも緩くなるように、前記底部分の中間部分に屈曲部が備えられ、
前記ストローラックは、前記屈曲部よりも搬送方向上流側の位置から前記屈曲部よりも搬送方向下流側の位置まで延ばされている請求項1~の何れか一項に記載の脱穀装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扱処理部と揺動選別部とを備えた脱穀装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の脱穀装置として特許文献1には、扱処理部として扱胴と受網とを備え、揺動選別部としてシーブケースに対しチャフシーブとグレンシーブとを備えた技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、刈り取った穀稈の全稈を扱室(扱処理部)に供給する普通型のコンバインを考えると、倒伏した穀稈を収穫する際には機体の走行速度を低下させても処理物に含まれる切れワラの量が増大することもあり、脱穀装置の選別性能の低下を招くことがあった。
【0005】
つまり、普通型のコンバインでの収穫作業で単位時間に収穫する穀稈の量が増大し、脱穀装置に供給される穀稈量が増大した場合には、脱穀装置のチャフシーブから漏下する処理物に含まれる切れワラが増大する現象に繋がるものであった。このようにチャフシーブにおいて多くの切れワラが漏下する場合には、切れワラがグレンシーブの上面に乗り掛かり、グレンシーブにおいて穀粒の漏下が阻害されるため、処理物に穀粒が混入した状態で脱穀装置から排出される不都合に繋がり、結果として選別性能の低下を招くものであった。
【0006】
このような理由から処理物が増大した場合でも、選別性能が低下することのない脱穀装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る脱穀装置の特徴構成は、回転駆動する扱胴、及び、前記扱胴の下方に設けられた受網を有し、作物の全稈が投入されて作物を脱穀する脱穀部と、前記脱穀部の下方に設けられ、前記受網から漏下してきた処理物から穀粒を選別する選別部と、を備え、前記扱胴は、前記扱胴の周方向に間隔を空けて設けられた複数の扱歯支持部材と、前記扱歯支持部材から前記扱胴の駆動軸芯方向に間隔を空けた状態で突設された複数の扱歯と、を備えるとともに非ドラム状に構成され、前記選別部に、揺動駆動することで処理物を搬送しながら処理物から穀粒を選別する揺動選別装置と、前記揺動選別装置に選別風を供給する唐箕と、前記揺動選別装置の下方に設けられ、一番物を回収する一番搬送機構と、前記揺動選別装置の下方において前記一番搬送機構よりも搬送方向下流側の位置に設けられ、二番物を回収する二番搬送機構と、前記二番搬送機構によって回収された二番物を前記揺動選別装置の前部に戻す還元搬送機構と、を備え、前記扱胴の後端部は、前記揺動選別装置の後端部よりも搬送方向下流側まで延ばされており、前記揺動選別装置に、複数のチャフリップを有するチャフシーブと、前記チャフシーブの下方において平面視で前記チャフシーブと重複する状態で設けられた網状のグレンシーブと、前記チャフシーブ及び前記グレンシーブを収容するシーブケースと、を備え、前記グレンシーブは、前記一番搬送機構の真上と前記二番搬送機構の真上とに亘る状態で設けられ、前記シーブケース内における前記チャフシーブと前記グレンシーブとの間の空間の搬送方向上流側の位置に、網状体によって構成され、前記チャフシーブから漏下してきた処理物を選別処理して、下方の前記グレンシーブに漏下させる選別部材を備えている点にある。
【0008】
この特徴構成によると、脱穀装置では、脱穀部の受網から漏下した処理物が選別部に供給される。この選別部は、揺動選別装置に対しシーブケースにチャフシーブとグレンシーブとが上下に位置する関係で備えられ、チャフシーブとグレンシーブとの間には、処理物の搬送方向で上流側に選別部材を備えている。このため、選別部で選別が行われる際には、唐箕から選別風が供給される状態で、チャフシーブとグレンシーブと選別部材とが揺動する。特に、選別部材に供給された処理物に含まれる切れワラは、シーブケースの揺動力と、選別風の風圧とによって後方に搬送されるため、処理物に含まれる穀粒の多くをグレンシーブに供給できる。
【0009】
つまり、チャフシーブを漏下した処理物が、グレンシーブに対して直接的に供給される従来構成と比較すると、選別部材において処理物から穀粒が分離し、このように分離した穀粒が多く含む処理物をグレンシーブに供給できるため、グレンシーブの選別性能を低下させることがない。特に、チャフシーブのうち処理物の搬送方向上流側の領域に供給される処理物の量が、他の領域に供給される処理物より多い脱穀装置では、グレンシーブのうち処理物の搬送方向での上流側の領域での穀粒の選別性能を低下させず、良好な選別性能を維持できる。
従って、処理物が増大した場合でも、選別性能が低下することのない脱穀装置が構成された。
また、前記選別部材は、網状体によって構成されているため、選別部材の上面に処理物が供給された場合には、処理物に含まれる穀粒を選別して漏下させることで、グレンシーブの上面に処理物が供給される現象を抑制し選別性能の向上が可能となる。
【0010】
他の構成として、前記グレンシーブは、搬送方向下流側ほど前記チャフシーブに近づくように、搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢で設けられ、前記選別部材は、搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢で設けられても良い。
【0011】
これによると、選別部材とグレンシーブとの何れの上面に供給された処理物も、選別風の風圧と、シーブケースの揺動とによって搬送される際に、処理物の搬送方向下流側であるほど、上方への変位がチャフシーブで押さえ込まれ、浮き上がりが抑制される状態で積極的に漏下を可能にして穀粒の回収効率を高めることが可能となる。
【0012】
他の構成として、前記選別部材の傾斜角度は、前記グレンシーブの傾斜角度と同じに設定されても良い。
【0013】
これによると、選別部材とグレンシーブとの間に一定の空間を確保することが可能となり、例えば、この空間に処理物が入り込むことがあっても、排出を容易にしてグレンシーブでの穀粒の漏下性能を高く維持する。
【0014】
他の構成として、前記選別部材は、前記空間における上下中央位置に設けても良い。
【0015】
これによると、チャフシーブと選別部材との上下方向の間隔と、選別部材とグレンシーブとの上下方向での間隔を等しいため、選別部材の上側にある処理物と、選別部材の下側にある処理物との何れにも、選別風を偏りなく供給し、シーブケースの揺動を利用して良好な選別を可能にしている。
【0016】
【0017】
【0018】
他の構成として、前記選別部材は、平面視で搬送方向に沿って延びるとともに搬送方向下流側ほど高くなる傾斜姿勢の線状体を横幅方向に複数並べて構成されても良い。
【0019】
これによると、選別部材の上面に処理物が供給された場合には、処理物の一部が複数の線状体の間の空間から下方に落下するものの、処理物に含まれる穀粒の多くをグレンシーブの上面に供給し、選別性能の向上が可能になる。特に、複数の線状体で選別部材が構成されることにより選別風の作用による選別性能を向上させ、グレンシーブでの選別性能を一層高めることになる。
【0020】
他の構成として、前記シーブケース内で搬送方向下流位置に、処理後の茎稈を搬送方向下流側へ搬送するストローラックが備えられ、前記シーブケースのうち搬送方向下流側の底部分が搬送方向下流側ほど高くなる傾斜形状に形成され、前記底部分における搬送方向下流側部分の傾斜角度が、前記底部分における搬送方向上流側部分の傾斜角度よりも緩くなるように、前記底部分の中間部分に屈曲部が備えられ、前記ストローラックは、前記屈曲部よりも搬送方向上流側の位置から前記屈曲部よりも搬送方向下流側の位置まで延ばされても良い。
【0021】
これによると、シーブケースのうち搬送方向下流側の底部分が搬送方向下流側ほど高くなる傾斜形状で形成され、この底部分が、屈曲部より搬送方向上流側の傾斜角度と比較して、屈曲部より搬送方向下流側の角度が緩くなっている。この構成では、シーブケースの底部分を決まった角度となる傾斜姿勢で形成するものと比較してシーブケースの底部分を搬送方向下流側に延長することも容易となり、搬送方向でチャフシーブの全長を長くすることや、ストローラックの位置を搬送方向下流側に偏位して配置することも可能となり、結果として選別性能を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】コンバインの左側面図である。
図2】コンバインの平面図である。
図3】脱穀装置の縦断側面図である。
図4】グレンシーブと選別部材との斜視図である。
図5】別実施形態(a)の揺動選別装置の縦断側面図である。
図6】別実施形態(a)のグレンシーブと選別部材との斜視図である。
図7】別実施形態(b)の揺動選別装置の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔コンバインの基本構成〕
図1図2に本実施形態の普通型コンバインの側面と平面とを示している。これらの図において[F]の方向が走行機体1の前方向、[B]の方向が走行機体1の後方向、[L]の方向が走行機体1の左方向、[R]の方向が走行機体1の右方向と定義する。
【0024】
図1図2に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ走行装置2で走行自在な走行機体1の右前部に運転部3を配置し、この運転部3に運転座席4が備えられている。運転部3には、運転座席4の上方にキャノピー5が設けられ、運転座席4の下側にエンジン6が設けられている。
【0025】
走行機体1には、脱穀装置7と袋詰部8とが左右に並列して設けられている。このコンバインでは、刈取搬送装置14が運転部3の左側部に配置され、この刈取搬送装置14の前端に刈取部15が連結している。
【0026】
また、刈取搬送装置14の基端部が横向き姿勢の揺動軸芯Yを中心に揺動自在に支持され、刈取搬送装置14と走行機体1の走行機体1との間に昇降シリンダ16が配置されている。この構成から昇降シリンダ16の伸縮作動により刈取部15と刈取搬送装置14とを、揺動軸芯Yを中心に一体揺動させ、刈取部15の刈取高さの調節を実現している。
【0027】
袋詰部8は、下部に3つのホッパー部を有する穀粒タンク18を備えており、これらのホッパー部の下部から吐出される穀粒を穀粒袋に詰める形態での穀粒の回収を可能にしている。尚、袋詰部8の上方にサンバイザー9が設けられている。
【0028】
刈取部15は、刈取部フレーム20を備えている。この刈取部フレーム20は、刈取搬送装置14の延出端部に連結する後壁フレーム部21と、左右の横側壁フレーム部22と、底部のデッキフレーム部23とで構成されている。また、デッキフレーム部23の前部にバリカン型の刈取装置24が備えられ、このデッキフレーム部23の上方には、横向き姿勢の駆動軸を中心に回転可能にオーガ25が備えられている。
【0029】
刈取装置24の前側の上方位置には複数のタイン27aを備えた回転リール27が設けられている。この回転リール27は、刈取部フレーム20から前向きに延出されたリール支持アーム26の前端側に横向き姿勢の軸芯を中心に回転可能に支持されている。また、左右の横側壁フレーム部22の前端部にデバイダ28が備えられている。
【0030】
このコンバインの収穫対象は、稲、麦、大豆などであり、収穫作業を行う場合には、刈取部15と刈取搬送装置14と脱穀装置7とを予め作動させておき、刈取部15の高さを、収穫物を収穫するに最適な値に設定して走行機体1を前進させる。この走行機体1の前進により、収穫対象の植立穀稈がデバイダ28によって刈取部フレーム20の内部に案内され、植立穀稈の各々の穂先側が回転リール27のタイン27aによって後方に引き寄せられつつ、株元が刈取装置24によって切断される。
【0031】
このように株元が切断され刈取部フレーム20の内部に案内された刈取穀稈(収穫物)は、株元から穂先までの全稈である。この刈取穀稈は、オーガ25が横方向に搬送することで刈取搬送装置14の前方箇所に集められ、刈取搬送装置14によって脱穀装置7に供給される。そして、脱穀装置7では、供給された収穫物を処理することで穀粒が回収され、回収された穀粒が袋詰部8の穀粒タンク18に貯留される。
【0032】
尚、刈取搬送装置14には排塵装置17を備えており、刈取搬送装置14で収穫物を搬送する際に発生する切れワラや、塵埃が運転部3と反対側に排出される。
【0033】
〔脱穀装置の構成〕
図3に示すように、脱穀装置7は、上部に脱穀部31が配置され、下部に選別部32が配置されている。選別部32は、揺動選別装置45と、この下側において一番物を回収して横方向に搬送する一番搬送機構47と、二番物を回収して横方向に搬送する二番搬送機構48とを備えている。
【0034】
脱穀部31は、扱室33に扱胴34を収容し、扱胴34の下部に受網39を配置している。扱室33は、前側の前壁35と、後側の後壁36と、左右の側壁と、上部を覆う天板38とで取り囲まれる空間として形成されている。扱室33のうち前壁35の下部位置には収穫物が供給される供給口33aが形成され、この供給口33aの下側に案内底板44が配置されている。また、扱室33のうち後壁36の下側に排塵口33bが形成されている。
【0035】
扱胴34は、前後向き姿勢の駆動軸芯Xと同軸芯で、前壁35と後壁36とに対して前後方向に貫通する回転支軸40と一体回転する。つまり、回転支軸40の前端が軸受を介して前壁35に回転自在に支持され、これと同様に回転支軸40の後端が軸受を介して後壁36に回転自在に支持されている。この脱穀部31では、回転支軸40の前端部に対して回転駆動機構41から駆動回転力が伝えられる。
【0036】
図3に示すように、扱胴34は、前端部の掻込部42と、掻込部42の後方位置の扱処理部43とが一体形成されている。掻込部42は、扱胴34の前端側ほど小径となる先細り状の基台部42aの外周部に2重螺旋の螺旋羽根42bを備えている。扱処理部43は、扱胴34の周方向に所定間隔で備えた複数の棒状の扱歯支持部材43aに対し、複数の扱歯43bを駆動軸芯Xに沿って所定間隔で突設している。
【0037】
天板38の内面(下面)には、プレート状の複数の送塵弁38aが、前後方向で設定間隔で設けられている。複数の送塵弁38aは、扱室33において扱胴34とともに回転する処理物に後側に移動させる力を作用させるように平面視で駆動軸芯Xに対して傾斜する姿勢で設けられている。
【0038】
受網39は、扱胴34を下側から両側部に亘る領域を取り囲むように円弧状で、前後方向で所定間隔で配置される複数の縦フレームと、各々の縦フレームに対して支持される前後向き姿勢の横フレームとを組み合わせることにより、処理物の漏下が可能となる間隙を形成した構成を有している。
【0039】
この脱穀装置7では扱室33に供給される刈取穀稈を収穫物と称し、この扱室33で扱処理された収穫物を処理物と称している。処理物には穀粒と切れワラ等とが含まれる。また、一番物とは、主として穀粒を含む処理物であり、二番物とは、単粒化が不充分な穀粒と、切れワラ等とを含む処理物である。
【0040】
脱穀部31では、刈取搬送装置14からの収穫物が供給口33aを介して扱室33に供給される。供給された収穫物は、掻込部42の螺旋羽根42bによって案内底板44に沿って扱胴34の後方に掻き込まれ、扱処理部43に供給される。扱処理部43では、扱胴34の回転に伴い収穫物が扱歯43b及び受網39によって扱き処理される結果、脱穀が行われる。
【0041】
このように脱穀が行われる際には、扱胴34と共に処理物が回転することにより、処理物が送塵弁38aに接触して扱室33の後部に搬送されつつ脱穀処理が行われる。脱穀処理によって得られた穀粒と短い切れワラ等が受網39を漏下して選別部32に落下する。これに対し、受網39を漏下できない処理物(穀稈や、長寸の切れワラ等)は、排塵口33bから扱室外に排出される。
【0042】
〔揺動選別部と穀粒の搬送構造〕
図3に示すように、選別部32は、唐箕46から選別風が供給される環境において揺動作動することで処理物から穀粒(一番物)を選別する揺動選別装置45を備えて構成されている。また、揺動選別装置45の下側に一番搬送機構47と、二番搬送機構48とが配置されている。
【0043】
唐箕46は、ファンケース46aの内部に複数の回転羽根46bを有する唐箕本体を収容して構成されている。ファンケース46aの上部には、選別風を下部グレンパン70の上面に沿って送り出すための上部吐出口46cと、選別風を後方に送り出すための後吐出口46dとが形成されている。
【0044】
図3に示すように、一番搬送機構47は、一番物案内部75で案内される一番物(穀粒)を横方向に搬送する一番スクリューとして構成されている。二番搬送機構48は、二番物案内部76で案内される二番物を横方向に搬送する二番スクリューとして構成されている。
【0045】
穀粒の搬送構造として、一番搬送機構47で横方向に搬送された一番物(穀粒)を穀粒タンク18に揚送する位置にスクリュー式の揚送機構52が脱穀装置7の右壁の外部に配置されている。更に、二番搬送機構48で横方向に搬送された二番物を揺動選別装置45の前部に戻すスクリュー式の還元搬送機構53が脱穀装置7の右壁の外部に配置されている。
【0046】
揺動選別装置45は、受網39の下側に配置される。この揺動選別装置45は、偏心軸等を用いた揺動駆動機構49により前後方向に揺動作動するシーブケース65を備えている。このシーブケース65に対し、上部グレンパン66と、チャフシーブ67と、ストローラック68と、下部グレンパン70と、グレンシーブ71とを備えると共に、チャフシーブ67とグレンシーブ71との間の空間に選別部材72を備えている。
【0047】
つまり、上部グレンパン66より後側に複数のチャフリップを有するチャフシーブ67が配置され、このチャフシーブ67より後側にストローラック68が配置されている。尚、複数のチャフリップの各々は、後端側ほど斜め上方に向かう傾斜姿勢で配置されている。下部グレンパン70は、チャフシーブ67の前端部の下側に配置され、この後側に連なる位置に網状体で成るグレンシーブ71が配置されている。前述した選別部材72もグレンシーブ71と同様に網状体で構成されている。
【0048】
シーブケース65には、唐箕46の上部吐出口46cから供給される選別風を上部グレンパン66の上面に沿って供給する風路と、唐箕46の後吐出口46dから供給される選別風を下部グレンパン70の上面に沿って供給する風路とが形成されている。更に、揺動選別装置45の後端位置(図3では右端)には塵埃排出口50が形成されている。この塵埃排出口50の両側部には排出口カバー51が配置されている。
【0049】
この揺動選別装置45では、唐箕46からの選別風が機体前側から機体後側に供給され、揺動駆動機構49によってシーブケース65が揺動することにより、シーブケース65の内部の処理物を機体後方に搬送する。このような理由から、以下の説明では、揺動選別装置45において、処理物の搬送方向の上流側を前端あるいは前側と称し、下流側を後端あるいは後側と称している。
【0050】
選別部材72は、前後方向での全長を、グレンシーブ71の前後方向での全長の1/2程度の長さに設定しており、その前端を、グレンシーブ71の前端と一致させている。特に、選別部材72は、図4に示す構造のものを、図3に示すように搬送方向に沿って2つ並べて備えることにより、グレンシーブ71の前後方向での全長の1/2の長さの領域に選別部材72が配置される。
【0051】
このように選別部材72は、平面視においてグレンシーブ71の前側に重複して配置されている。尚、処理物の搬送方向で選別部材72の長さをグレンシーブ71の長さに一致させるように寸法関係を設定しても良い。また、単一の選別部材72を用いることや、3つ以上の選別部材72を用いることも考えられる。
【0052】
グレンシーブ71は、金属で成る複数の線材を網状に組み合わせた網状体として構成され、網目から穀粒を漏下させるように構成されている。更に、選別部材72は、グレンシーブ71と同様に、金属で成る複数の線材を網状に組み合わせて構成され、網目から穀粒を漏下させるように構成されている。このような構成において、選別部材72の網目の開口面積を、グレンシーブ71の網目の開口面積と等しくする、あるいは、グレンシーブ71の網目の開口面積より大きくすることも可能である。
【0053】
前述したようにチャフシーブ67は、水平となる領域に配置されている。これに対して、グレンシーブ71は、後端側ほど高くなる傾斜姿勢で配置されている、また、選別部材72は、グレンシーブ71と平行となる姿勢(後端側ほど高くなる姿勢)で配置されている。これにより、グレンシーブ71は後端側がチャフシーブ67に接近し、選別部材72も後端側がチャフシーブ67に接近する。このようにグレンシーブ71の傾斜角度と選別部材72の傾斜角度とは同じに設定されている。
【0054】
選別部材72は、上下方向で、チャフシーブ67とグレンシーブ71との間の空間の中央位置に配置されている。
【0055】
〔選別部での処理形態〕
このような構成から、選別部32において受網39から漏下する処理物のうち、上部グレンパン66で受け止められたものは、シーブケース65の揺動に伴いチャフシーブ67の前端に供給される。また、シーブケース65は、受網39から漏下する処理物の多くを受け止める。
【0056】
チャフシーブ67では選別風による風選別と、揺動に伴う比重選別とにより処理物を後側に搬送すると同時に、処理物に含まれる穀粒を漏下させる。このような選別が行われた処理物のうち、切れワラ等の茎稈類はストローラック68に受け渡され、このストローラック68の後端からシーブケース65の後方に送り出され、更に、塵埃排出口50から脱穀装置7の外部に排出される。
【0057】
ここで、受網39から漏下する処理物の状態を考えると、扱室33に供給された収穫物のうち、穀粒や単粒化が不充分な穀粒、あるいは、ワラの小片は扱室33の内部で搬送される際に早期に受網39を漏下する。このような理由から受網39のうち搬送方向の上流領域での処理物の漏下量は、搬送方向での下流領域より多くなる傾向がある。また、前述したようにチャフシーブ67の前端には上部グレンパン66から処理物が供給されるため、このチャフシーブ67の前端を漏下する処理物の量は後端側と比較して多い。
【0058】
また、チャフシーブ67のうち前端側を漏下した処理物は、漏下直後に、その一部が選別風により後側に送られることにより取り除かれ、穀粒を多く含む処理物が選別部材72の上面で受け止められる。更に、選別部材72に供給された処理物に選別風の風圧と揺動力とが作用するため、処理物に含まれるワラ等は選別部材72の上面で後方に送られ、選別部材72を漏下する処理物には多くの穀粒が含まれる。このように選別部材72を漏下した処理物がグレンシーブ71の前端側の上面に供給される。
【0059】
グレンシーブ71では、選別部材72と同様に選別風の風圧と揺動力とが作用する状態で選別処理が行われる。特に、グレンシーブ71の前端側では、切れワラ等が少ない処理物から効率的に穀粒を漏下させ、一番物案内部75から一番搬送機構47に流下して回収され、揚送機構52によって袋詰部8の穀粒タンク18に貯留される。
【0060】
また、グレンシーブ71のうち選別部材72が配置された領域より後側の領域では、チャフシーブ67の後側の領域からの処理物と、選別部材72で漏下しなかった処理物とが供給されるものの、選別部材72で漏下しなかった処理物のうち切れワラ類は、選別風により後方に送られるため、グレンシーブ71の後側の領域での選別効率を大きく低下させることなく選別処理が行われる。
【0061】
更に、グレンシーブ71の最後端より前側で漏下した一番物(穀粒)は、一番物案内部75から一番搬送機構47に流下して回収され、揚送機構52によって袋詰部8の穀粒タンク18に貯留される。
【0062】
これに対し、グレンシーブ71の最後端の部位を漏下した処理物、あるいは、最後端から落下した処理物は、二番物案内部76から二番搬送機構48に流下して回収され、還元搬送機構53によって揺動選別装置45の前部に戻され単粒化が図られる。そして、選別処理によって発生した3番処理物としてのワラ屑などの塵埃が揺動選別装置45の後端から後方へ送られ、塵埃排出口50から外部に排出される。
【0063】
このように選別部32のチャフシーブ67とグレンシーブ71との間に選別部材72を配置したことにより、前述したようにチャフシーブ67の前端領域を漏下する処理物の量が他の領域より多い傾向があっても、グレンシーブ71の前端側には選別された処理物の供給を可能にし、処理物が集中する現象を抑制している。
【0064】
つまり、チャフシーブ67を漏下した処理物を、グレンシーブ71に直接的に供給する構成と比較すると、選別部材72において処理物から分離した穀粒が多く含む処理物をグレンシーブ71に供給することが可能となり、グレンシーブ71の選別性能を低下させることがない。これにより、グレンシーブ71のうち処理物の搬送方向での上流側の領域での穀粒の漏下性能を低下させず、良好な選別性能を維持できる。このように、処理物が増大しても選別性能が低下することのない脱穀装置7が構成されている。
【0065】
また、グレンシーブ71は、後端側ほど高くなる姿勢で配置され、このグレンシーブ71と選別部材72とは互いに平行となる関係(同じ傾斜角度)で配置されている。この構成により、選別部材72とグレンシーブ71との何れの上面に供給された処理物も、選別風の風圧と、シーブケース65の揺動とによって搬送される際に、処理物の搬送方向で下流側であるほど、上方への変位がチャフシーブ67で押さえ込まれ、浮き上がりが抑制される状態で積極的に漏下を可能にして穀粒の回収効率の向上を可能にしている。また、この構成ではグレンシーブ71と選別部材72とは互いに平行となるため、各々の間から切れワラ等の排出を容易に排出する。
【0066】
更に、選別部材72は、上下方向でチャフシーブ67とグレンシーブ71との中間の中央位置に配置されている。選別部材72の上側にある処理物と、選別部材72の下側にある処理物との何れにも、選別風を偏りなく供給し、シーブケース65の揺動を利用して良好な選別を可能にしている。
【0067】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0068】
(a)図5図6に示すように、選別部材72をシーブケース65の幅方向に延びるベース部材72aに対し、処理物の搬送方向の延びる複数の線状体72bの基端を支持したユニットとして構成する。この構成では複数の線状体72bの間を穀粒が通過できる程度の間隔で、複数の線状体72bを、後端側ほど高くなる傾斜姿勢で配置している。この別実施形態(a)では、2つのユニットを前後する位置関係でシーブケース65に備えた構成を示している。
【0069】
このように構成したものでは、網状体で形成したものと比較して、選別風を良好に流し、処理物の漏下を良好に行うことが可能となる。その結果として、選別部材72の下側のグレンシーブ71に切れワラ等の穀粒以外の処理物が供給される不都合を抑制して脱穀性能の向上が可能となる。
【0070】
この別実施形態(a)では、2つのユニットを構成する線状体72bの前後方向での長さを合わせた寸法(前後方向での選別範囲)が、グレンシーブ71の前後方向での全長の1/2程度の長さに設定されている。尚、別実施形態(a)では、線状体72bによる前後方向での選別範囲をグレンシーブ71の長さの1/2より大きい値、あるいは、小さい値に設定されるものでも良い。
【0071】
(b)図7に示すように、シーブケース65の後端に延出部65Tを形成することにより、実施形態のシーブケース65と比較してチャフシーブ67の全長を長くする。この別実施形態(b)では、シーブケース65のうち、後側(搬送方向下流側)の底部分65Bが、後側ほど高く成る傾斜姿勢で形成され、この底部分のうち前後方向での中間の屈曲部65Uを基準に、これより前部65Baの傾斜姿勢より、これより後部65Bbの傾斜姿勢を緩く設定している。
【0072】
また、チャフシーブ67の前端位置を実施形態と同じ位置にセットすることによりチャフシーブ67の後端を延長するものであるが、実施形態と同様にチャフシーブ67とグレンシーブ71との間に選別部材72を配置している。更に、この構成では、チャフシーブ67より後側にストローラック68を配置しており、このストローラック68の位置が全体的に後方にシフトする形態となる。
【0073】
このような構成から、グレンシーブ71での選別性能を向上させるだけでなく、チャフシーブ67の後端から処理物に混入する状態で無駄に排出されていた穀粒の回収を可能にして脱穀装置7の選別性能の向上を実現する。
【0074】
(c)この構成の脱穀装置7を、フィードチェーンで扱室33の穀稈を供給する自脱型コンバインに備える。このように自脱型コンバインに備えても脱穀装置は良好な脱穀性能を現出する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、扱処理部と揺動選別部とを備えた脱穀装置に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 走行機体(機体)
7 脱穀装置
31 脱穀部
32 選別部
34 扱胴
39 受網
45 揺動選別装置
46 唐箕
65 シーブケース
67 チャフシーブ
71 グレンシーブ
72 選別部材
72b 線状体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7