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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】旋回制御システムおよび作業機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20221021BHJP
   A01B 69/02 20060101ALI20221021BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20221021BHJP
   A01B 63/08 20060101ALI20221021BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/02 A
A01C11/02 320A
A01C11/02 322Z
A01C11/02 330M
A01B63/08
A01B63/10 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019084491
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020178631
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之人
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-337031(JP,A)
【文献】特開2017-060504(JP,A)
【文献】特開平01-171402(JP,A)
【文献】特開2004-057012(JP,A)
【文献】特開2018-117561(JP,A)
【文献】特開平06-028032(JP,A)
【文献】特開平06-250737(JP,A)
【文献】特開平07-295630(JP,A)
【文献】特開2004-254543(JP,A)
【文献】特開平09-107717(JP,A)
【文献】特開昭63-084405(JP,A)
【文献】特開2007-110921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 63/00 - 63/12
A01B 69/00 - 69/08
A01C 11/02
G05D 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場において旋回走行を挟んで往復して作業走行し、前記作業走行中に作業装置により作業を行う作業機の旋回制御システムであって、
機体の走行距離を検出する走行距離検出部と、
機体の向きである機体方位を検出する方位検出部と、
前記旋回走行の開始および終了のタイミングと前記作業装置の動作終了および動作開始のタイミングとに対応する前記走行距離および前記機体方位を記憶する記憶部と、
前記走行距離および前記機体方位を前記記憶部に記憶させるティーチングモードと前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を行うティーチングターンモードとの切り替えを行うスイッチと、
前記ティーチングターンモード中に、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を制御する制御部とを備え
運転者に警告を報知する報知部を備え、
前記制御部は、前記ティーチングターンモード中に、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて、前記作業装置の動作および前記旋回走行のための操舵の少なくともいずれかを指示する前記警告を前記報知部に報知させる旋回制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて、前記作業装置の動作および前記旋回走行のための操舵の少なくともいずれかを自動制御する請求項1に記載の旋回制御システム。
【請求項3】
前記走行距離および前記機体方位を記憶した後、前記ティーチングターンモードでの前記旋回走行において、前記旋回走行の終了のタイミング,前記作業装置の動作終了のタイミングまたは前記作業装置の動作開始のタイミングの少なくともいずれかが不適切であった場合、前記ティーチングモードに切り替えられて前記走行距離および前記機体方位が再度記憶される請求項1または2に記載の旋回制御システム。
【請求項4】
前記ティーチングモードが、前記作業走行の両端をなす前記圃場の向かい合う2辺における前記旋回走行それぞれにおいて実施され、
前記記憶部は、それぞれの前記旋回走行毎に対応する前記走行距離および前記機体方位を個別に記憶し、
前記制御部は、それぞれの前記旋回走行において、対応する前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を制御する請求項1からのいずれか一項に記載の旋回制御システム。
【請求項5】
前記作業機が走行装置により走行し、前記走行装置を駆動する車軸を備え、
前記走行距離検出部は、前記車軸が一回転する間に複数回検出されるパルスの数を計測することにより前記走行距離を検出し、
前記制御部は、前記走行距離に対応する前記パルスの個数に基づいて、前記旋回走行を制御する請求項1からのいずれか一項に記載の旋回制御システム。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の旋回制御システムを備える作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回走行を挟んで圃場の走行経路を往復して作業を行う作業機と、作業機の旋回制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
旋回走行を挟んで圃場を往復して作業を行う作業機は、圃場の畔際において、作業状態の作業装置が非作業状態にされた状態で、機体が畦際で旋回する旋回走行が行われる。畦際での旋回走行が終了すると、作業機は、作業装置が作業状態にされ、再び作業走行が行われる。また、このような旋回走行における作業装置の状態変位を、走行距離や機体の旋回状態に応じて自動的に行うものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-86816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
旋回走行における作業装置の状態変位を、より適切なタイミングで行う要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る旋回制御システムは、圃場において旋回走行を挟んで往復して作業走行し、前記作業走行中に作業装置により作業を行う作業機の旋回制御システムであって、機体の走行距離を検出する走行距離検出部と、機体の向きである機体方位を検出する方位検出部と、前記旋回走行の開始および終了のタイミングと前記作業装置の動作終了および動作開始のタイミングとに対応する前記走行距離および前記機体方位を記憶する記憶部と、前記走行距離および前記機体方位を前記記憶部に記憶させるティーチングモードと前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を行うティーチングターンモードとの切り替えを行うスイッチと、前記ティーチングターンモード中に、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を制御する制御部とを備え、運転者に警告を報知する報知部を備え、前記制御部は、前記ティーチングターンモード中に、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて、前記作業装置の動作および前記旋回走行のための操舵の少なくともいずれかを指示する前記警告を前記報知部に報知させる
【0006】
先行する旋回走行時に、ティーチングモードにて、旋回走行の開始および終了のタイミングと作業装置の動作終了および動作開始のタイミングとに対応させて、それぞれのタイミングにおける走行距離および機体方位を記憶させ、以降の旋回走行において、制御部は、記憶したタイミングで旋回走行を制御する。実際の圃場での旋回走行時に旋回走行のタイミングと作業装置の動作のタイミングとを記憶するため、圃場に適した適切なタイミングをティーチングすることができる。また、ティーチングモードに移行するのみで、旋回時の走行と作業装置の動作とのタイミングに対応させて走行距離と機体方位とを自動的に記憶することができるため、簡便にティーチングを行うことができる。さらに、以降の旋回走行においては、同じ圃場内で以前にティーチングしたタイミングで旋回走行を制御することができるため、旋回の前後において一定の位置に対して作業を行うことができる。
【0007】
【0008】
このような構成により、機体の操舵の過不足や操舵のタイミング、あるいは作業装置の操作のタイミングが警告として報知されるため、運転者は、適切なタイミングで、適切な操作を行い、適切な開始位置で作業を開始することができる。
【0009】
また、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記走行距離および前記機体方位に基づいて、前記作業装置の動作および前記旋回走行のための操舵の少なくともいずれかを自動制御することが好ましい。
【0010】
このような構成により、機体の操舵の過不足や操舵のタイミング、あるいは作業装置の操作のタイミングに応じて、旋回時の走行や作業装置の動作が自動制御されるため、適切な開始位置で作業を開始することができる。
【0011】
また、前記走行距離および前記機体方位を記憶した後、前記ティーチングターンモードでの前記旋回走行において、前記旋回走行の終了のタイミング,前記作業装置の動作終了のタイミングまたは前記作業装置の動作開始のタイミングの少なくともいずれかが不適切であった場合、前記ティーチングモードに切り替えられて前記走行距離および前記機体方位が再度記憶されることが好ましい。
【0012】
このような構成により、圃場内でのスリップ率の変化等により、走行距離に誤差が出た場合でも、ティーチングをやり直すことにより、旋回走行時に旋回走行のタイミングと作業装置の動作のタイミングとを最適化することができ、適切な開始位置で作業を開始することができる。
【0013】
また、前記ティーチングモードが、前記作業走行の両端をなす前記圃場の向かい合う2辺における前記旋回走行それぞれにおいて実施され、前記記憶部は、それぞれの前記旋回走行毎に対応する前記走行距離および前記機体方位を個別に記憶し、前記制御部は、それぞれの前記旋回走行において、対応する前記走行距離および前記機体方位に基づいて前記旋回走行を制御することが好ましい。
【0014】
圃場の形状によっては、旋回を行う圃場の外周辺が、作業走行を行う経路と直交しない場合がある。また、作業走行の開始位置と終了位置(両端)に対応する、圃場における向かい合う2辺が平行でない場合がある。そのため、圃場の外形辺ごとに必要な旋回走行の条件が異なる場合がある。この場合、旋回の前後において、作業装置の動作の開始位置と終了位置とを補正する必要がある。圃場における向かい合う外周辺ごとにティーチングを行うことにより、圃場の形状によらず、適切な開始位置で作業を開始することができる。
【0015】
また、前記作業機が走行装置により走行し、前記走行装置を駆動する車軸を備え、前記走行距離検出部は、前記車軸が一回転する間に複数回検出されるパルスの数を計測することにより前記走行距離を検出し、前記制御部は、前記走行距離に対応する前記パルスの個数に基づいて、前記旋回走行を制御しても良い。
【0016】
このような構成により、車軸が一回転する間の走行距離より短い距離を単位として、走行距離を設定することができるので、より厳密なタイミングで旋回走行を制御でき、より適切な開始位置で作業を開始することができる。
【0017】
また、前記作業装置は、施肥装置と苗植付装置とを有し、前記制御部は、前記苗植付装置の昇降、前記苗植付装置の植付動作の開始と終了、および、前記施肥装置による施肥の開始と終了を制御可能であっても良い。
【0018】
このような構成により、植付作業に付随する様々な装置の動作を、走行距離および機体方位に基づいて行うことができ、作業走行を行う負担が軽減される。
【0019】
また、前記作業装置は、施肥装置および左右のマーカーの少なくともいずれかと、苗植付装置とを有し、前記制御装置は、前記苗植付装置の昇降、前記苗植付装置の植付動作の開始と終了、前記施肥装置による施肥の開始と終了、および、前記左右のマーカーそれぞれの作用姿勢と格納姿勢との間での変位を制御可能であっても良い。
【0020】
このような構成によっても、植付作業に付随する様々な装置の動作を、走行距離および機体方位に基づいて行うことができ、作業走行を行う負担が軽減される。
【0021】
さらに、本発明の一実施形態に係る作業機は、前記旋回制御システムを備える。
【0022】
これより、旋回走行を挟んで圃場を往復して作業を行う作業機は、旋回走行に伴う作業の再開を、適切な開始位置で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】乗用型田植機の全体側面図である。
図2】右及び左の前輪の操向操作系、右及び左の前輪、右及び左の後輪への伝動系を示す平面図である。
図3】旋回制御の構成例を説明する図である。
図4】畦際での旋回走行を例示する平面図である。
図5】制御装置の構成例を説明する図である。
図6】旋回制御におけるティーチングモードのフロー例を説明する図である。
図7】旋回制御におけるティーチングターンモードのフロー例を説明する図である。
図8】畦際での旋回走行を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[全体構成]
図1に示すように、作業機の例である田植機は、右及び左の前輪1(走行装置に相当)、右及び左の後輪2(走行装置に相当)で支持された機体の後部に昇降自在に支持されるリンク機構3と、リンク機構3を昇降駆動する単動型の油圧シリンダ4と、リンク機構3の後部に支持される苗植付装置5(作業装置に相当)とを備える。水田(圃場に相当)は一般に下方の硬い耕盤G1の上に泥や水の層が形成されて、泥や水の層の最上面が田面G2となっており、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2が耕盤G1に接地する状態で田植機は走行する。
【0025】
図1に示すように、苗植付装置5は、4個の植付伝動ケース6、植付伝動ケース6の後部の左右に回転駆動自在に支持された回転ケース7、回転ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、複数の接地フロート9、苗のせ台10等を備えて、8条植型式に構成されている。運転座席13の後側に、肥料を貯留するホッパー14及び2条単位の4個の繰り出し部15が備えられて、運転座席13の下側にブロア16が備えられている。接地フロート9に作溝器17が備えられて、繰り出し部15と作溝器17とに亘ってホース18が接続されている。
【0026】
図1及び図3に示すように、右及び左のマーカー19(作業装置に相当)が苗植付装置5の右及び左側部に備えられており、田面G2に接地して植付行程の指標を形成する作用姿勢(図1参照)、及び田面G2から上方に離れた格納姿勢(図3参照)に変更可能に構成されている。右及び左のマーカー19は上下に揺動可能に苗植付装置5に支持されたアーム部19aと、アーム部19aの先端部に自由回転可能に支持された回転体19bとを備えて構成される。右及び左のマーカー19を作用姿勢及び格納姿勢に操作する電動モータ21が備えられて、制御装置23により電動モータ21が操作される。
【0027】
[伝動系]
次に、図1図3を用いて、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2への伝動系について説明する。
【0028】
エンジン31の動力が伝動ベルト32を介して静油圧式無段変速装置33及びミッションケース34に伝達され、ミッションケース34の内部の副変速装置(図示せず)から、前輪デフ機構(図示せず)及び前車軸ケース35を介して、右及び左の前輪1に伝達される。副変速装置の動力が伝動軸36、後車軸ケース37の入力軸38、入力軸38に固定されたベベルギヤ38a、ベベルギヤ38aに咬合するベベルギヤ39a、ベベルギヤ39aが固定された伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ40を介して、右及び左の後輪2に伝達される。静油圧式無段変速装置33は中立位置Nから前進側Fo及び後進側Reに無段階に変速自在に構成されており、操縦ハンドル20の左横側に備えられた変速レバー45により静油圧式無段変速装置33を操作する。
【0029】
ミッションケース34の下部の縦軸芯P2周りに、平面視台形状の操向部材41が揺動可能に支持され、操縦ハンドル20により操向部材41が揺動操作されるように構成されており、操向部材41と右及び左の前輪1とに亘ってタイロッド42が接続されている。
操縦ハンドル20を操作することによって、右及び左の前輪1を直進位置A1から、右及び左の操向限度A3に亘って操向操作することができる。ミッションケース34の右の横側面に、ブラケット46が固定され、ブラケット46にポテンショメータ47が固定されて、操向部材41とポテンショメータ47の検出アーム(図示せず)とに亘って、連係ロッド48が前車軸ケース35の下側を通って接続されている。ポテンショメータ47により操向部材41を介して、右及び左の前輪1の操向角度(直進位置A1と右及び左の操向限度A3の範囲)を検出することができ、ポテンショメータ47の検出値は制御装置23に出力される。
【0030】
右及び左のサイドクラッチ40は摩擦多板式に構成されており、バネ(図示せず)により伝動状態に付勢されている。右及び左のサイドクラッチ40をバネに抗して遮断状態に操作する右及び左の操作軸43が、後車軸ケース37に下向きに支持されて、操向部材41と右及び左の操作軸43とに亘り、前車軸ケース35の下側を通って右及び左の操作ロッド44が接続されている。右及び左の操作ロッド44において右及び左の操作軸43との接続部分に、融通としての長孔44aが備えられている。
【0031】
右及び左の前輪1が直進位置A1、右及び左の設定角度A2の範囲で操向操作されていると、右及び左の操作ロッド44の長孔44aの融通によって、右及び左のサイドクラッチ40は伝動状態に操作される。これにより右及び左の前輪1、右及び左の後輪2(右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達された状態で、機体は前進(後進)する。
【0032】
図2及び図3に示すように、右及び左のサイドクラッチ40のクラッチケース(車軸に相当)に、外周部に小さな凹凸が多数形成されたリング部材49が外嵌される。また、近接センサー型式の右及び左の回転数センサー50が、リング部材49に対向するように後車軸ケース37の上部に固定される。右及び左の回転数センサー50は、リング部材49の各々の凹凸に対応するようにパルスを発信し、右及び左の回転数センサー50のパルスによって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。この場合、右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態に操作されていても遮断状態に操作されていても、右及び左の回転数センサー50によって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。右及び左の回転数センサー50の検出値(パルス)は制御装置23に出力される。
【0033】
図1及び図2に示すように、右及び左の前輪1が右の設定角度A2を越えて右の操向限度A3側に操向操作されると、右の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて右の操作ロッド44が引き操作されることになり、右の操作軸43により右のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、左の後輪2(旋回外側)(左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、右の後輪2(旋回中心側)(右のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は右に旋回する。
【0034】
右及び左の前輪1が左の設定角度A2を越えて左の操向限度A3側に操向操作されると、左の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて左の操作ロッド44が引き操作されることになり、左の操作軸43により左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、右の後輪2(旋回外側)(右のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、左の後輪2(旋回中心側)(左のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は左に旋回する。
【0035】
[苗植付装置等]
次に、図1図3を用いて、苗植付装置5及び繰り出し部15への伝動系について説明する。
【0036】
ミッションケース34において、副変速装置の直前から分岐した動力が、植付クラッチ26及びPTO軸25を介して苗植付装置5に伝達され、副変速装置の直前から分岐した動力が、施肥クラッチ27(施肥装置に相当、作業装置に相当)及び駆動ロッド30介して繰り出し部15に伝達されており、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動及び遮断状態に操作する電動モータ28が備えられている。
【0037】
植付クラッチ26が伝動状態に操作されると、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、回転ケース7が図1の紙面反時計方向に回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G2に植え付ける。植付クラッチ26が遮断状態に操作されると、苗のせ台10の往復横送り駆動及び回転ケース7の回転駆動が停止する。
【0038】
施肥クラッチ27が伝動状態に操作されると、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給され、作溝器17を介して肥料が田面G2に供給される。施肥クラッチ27が遮断状態に操作されると、繰り出し部15が停止して、田面G2への肥料の供給が停止する。
【0039】
次に、図3を用いて、苗植付装置5の昇降動作について説明する。
苗植付装置5の横軸芯P1周りに中央の接地フロート9の後部が上下に揺動自在に支持される。苗植付装置5は、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出するポテンショメータ22を備え、ポテンショメータ22の検出値が制御装置23に入力される。機体の進行に伴って中央の接地フロート9が田面G2に接地追従し、ポテンショメータ22の検出値により苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出することによって、田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さを検出することができる。
【0040】
油圧シリンダ4に作動油を給排操作する制御弁24が備えられており、昇降レバー11の手動操作あるいは制御装置23の制御により制御弁24が操作される。制御弁24により油圧シリンダ4に作動油が供給されると、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇し、制御弁24により油圧シリンダ4から作動油が排出されると、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降する。
【0041】
苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さ(田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さ)に基づいて、苗植付装置5が田面G2から設定高さに維持されるように(ポテンショメータ22の検出値(ポテンショメータ22と中央の接地フロート9との上下間隔)が設定値に維持されるように)、昇降レバー11の手動操作あるいは制御装置23の制御により制御弁24が操作され、油圧シリンダ4が伸縮作動して、苗植付装置5が昇降する。
【0042】
[レバー]
次に、図1及び図3を用いて、昇降レバー11について説明する。
運転座席13の右横側に昇降レバー11が備えられ、昇降レバー11は自動位置、上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に苗植付装置5を操作可能に構成されており、昇降レバー11の操作位置が制御装置23に入力されている。機体に対するリンク機構3の上下角度を検出するポテンショメータ29が備えられており、ポテンショメータ29の検出値が制御装置23に入力される。
【0043】
昇降レバー11を上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作した場合(昇降レバー11を自動位置に操作していない場合)、後述の操作レバー12の第1上昇位置U1及び第2上昇位置U2の機能、第1下降位置D1及び第2下降位置D2の機能は作動せず、操作レバー12の右マーカー位置R及び左マーカー位置Lの機能だけが作動する。
【0044】
昇降レバー11が上昇位置に操作されると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作される。さらに、昇降レバー11を上昇位置に操作すると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作される。加えて、昇降レバー11を上昇位置に操作すると、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。昇降レバー11を上昇位置に操作した状態で、苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0045】
昇降レバー11が下降位置に操作されると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作される。さらに、昇降レバー11が下降位置に操作されると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降する。苗植付装置5が下降して、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。
【0046】
昇降レバー11が中立位置に操作されると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作される。さらに、昇降レバー11が中立位置に操作されると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が停止する。このように、昇降レバー11が上昇位置、中立位置及び下降位置に操作されることにより、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させて停止させることができる。
【0047】
昇降レバー11が植付位置に操作されると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、自動昇降制御が作動し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が伝動状態に操作される。これによって、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って回転ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して、苗が田面G2に植え付けられる。この時、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給され、作溝器17を介して田面G2に供給される。
【0048】
次に、図1及び図3を用いて、操作レバー12について説明する。
操縦ハンドル20の下側の右横側に操作レバー12が備えられ、操作レバー12が右の横外方に延出されている。操作レバー12は中立位置Nから上方の第1上昇位置U1、第2上昇位置U2,下方の第1下降位置D1、第2下降位置D2、後方の右マーカー位置R及び前方の左マーカー位置Lの十字方向に操作可能に構成されて、中立位置Nに付勢されており、操作レバー12の操作位置が制御装置23に入力されている。
【0049】
昇降レバー11を自動位置に操作した状態で、以下のように操作レバー12の機能が作動する。
【0050】
操作レバー12を第2上昇位置U2に操作すると(第2上昇位置U2に操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作されて、自動昇降制御が停止する。この時、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作される。さらに、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0051】
操作レバー12が第2下降位置D2に操作されると(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作すると)、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降する。苗植付装置5が下降して、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると、自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。操作レバー12が第2下降位置D2に操作された後(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作された後)、操作レバー12が再び第2下降位置D2に操作されると、自動昇降制御が作動した状態で、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が伝動状態に操作される。
【0052】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、操作レバー12が第1上昇位置U1に操作されると、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して、苗植付装置5が上昇する。操作レバー12を中立位置Nに操作すると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の上昇が停止する。
【0053】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、操作レバー12が第1下降位置D1に操作されると、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して、苗植付装置5が下降する。操作レバー12が中立位置Nに操作されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の下降が停止する。
【0054】
このように操作レバー12が第1上昇位置U1及び第1下降位置D1に操作されている間だけ、苗植付装置5を上昇及び下降させることができ、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させて停止させることができる。
【0055】
操作レバー12が右マーカー位置Rに操作されると(右マーカー位置Rに操作して中立位置Nに操作されると)、電動モータ21により右のマーカー19が作用姿勢に操作される。操作レバー12が左マーカー位置Lに操作されると(左マーカー位置Lに操作して中立位置Nに操作されると)、電動モータ21により左のマーカー19が作用姿勢に操作される。
【0056】
[旋回走行]
次に、図3及び図4を用いて旋回走行における作業装置の動作タイミングについて説明する。
【0057】
田植機は、複数の走行経路を順に走行する際、畦際において2つの走行経路を結ぶ旋回走行を行う。1つの走行経路での植付行程L01において植付走行(作業走行)が行われる。植付走行においては、左右のマーカー19のいずれか一方(ここでは右のマーカー19とする)が作用姿勢であり、苗植付装置5は下降状態であり、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27は伝動状態である。
【0058】
植付走行において、機体の前端が畦Bに到達すると(機体の後端が位置E1に到達)、変速レバー45が中立位置Nに操作されて、機体が停止する。機体が停止すると、作業装置が使用されない状態に変位される(動作終了する)。具体的には、電動モータ28の駆動により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27は遮断され、苗植付装置5は上昇される。その際、右のマーカー19も格納姿勢に変位される。
【0059】
作業状態の動作が終了されると、機体が所定の距離だけ後進される(後進行程L1)。
機体が後進された後、電動モータ21を駆動させて左のマーカー19が作用姿勢に変位される(作業装置の動作開始の一つ)。その後、機体の前端が位置E2まで前進される(前進行程L2)。機体の前端が位置E2に到達すると、操縦ハンドル20が右に操作されて右旋回する旋回走行が開始される。この旋回走行は機体の前端が位置E3に到達するまで行われ(旋回工程L3)、その後、機体の前端が位置E4に到達するまで直進走行が行われる(直進行程L4)。なお、直進行程L4は、旋回走行の態様や、旋回走行を挟んだ走行経路の位置関係によってその長さが決まり、直進行程L4がない旋回が行われても良い。機体が位置E4に到達すると、再び右旋回する旋回走行が行われる(旋回工程L5)。
【0060】
機体の前端が位置E5に到達するまで旋回走行が行われると、苗植付装置5が下降される(作業装置の動作開始の一つ)。この際、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27の遮断状態は維持される。そして、直進走行が行われる(直進行程L6)。
【0061】
直進走行により、機体の後端が位置E6に到達すると、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が伝動状態に移行される(作業装置の動作開始の一つ)。E6は、畦BからE6までの距離が、畦BからE1までの距離と同じになる位置である。この状態で走行経路を機体が走行することにより、植付行程L02が行われる。植付行程L02の終端においても旋回走行が行われるが、この旋回走行は左旋回となり、マーカー19の動作は左右逆となる。このように植付走行(作業走行)と旋回走行が繰り返されて圃場の植付作業が進められる。旋回走行において、下記に説明する旋回制御が行われる。
【0062】
[旋回制御構成]
次に、図3及び図5を用いて、畦際で行われる旋回走行の制御に関する構造について説明する。
【0063】
図3及び図5に示すように、旋回制御を行う制御装置23は、走行距離検出部51、方位検出部52、記憶部53、制御部54及び旋回角度検出部55を備える。制御装置23は、畦際で旋回を行う旋回走行を制御する。具体的には、制御装置23は、圃場の走行経路を往復走行する際に、走行経路間で行われる旋回走行において、作業装置の動作のタイミング、あるいは作業装置の動作タイミング及び機体の旋回動作のタイミングをティーチングモードで記憶し、ティーチングターンモードに設定された際に、記憶したタイミングで以降の旋回走行を行うように制御する。以下の説明は、作業装置の動作タイミング及び機体の旋回動作のタイミングを記憶し、このタイミングでティーチングターンモードに設定された際に、記憶したタイミングで作業装置の動作及び機体の旋回動作(旋回時の走行)を自動で行う例が示される。
【0064】
なお、ティーチングモードへの設定及びティーチングターンモードへの設定は、切替スイッチ56(スイッチに相当)を用いて行われる。切替スイッチ56は、運転座席13(図1参照)の周辺の任意の位置に設けられる。切替スイッチ56は、例えば、作業装置の動作タイミングを微調整する調整ボリューム(図示せず)を流用できる。この場合、ティーチングモードへの設定は、調整ボリューム(図示せず)を右にいっぱいまで回した状態で調整ボリューム(図示せず)を押下することにより行われる。また、ティーチングターンモードへの設定は、調整ボリューム(図示せず)を左にいっぱいまで回した状態で調整ボリューム(図示せず)を押下することにより行われる。
【0065】
走行距離検出部51は、右及び左の回転数センサー50からパルスを受け取り、パルスの個数を積算することにより、後輪2が回転した回転数を積算して走行距離を算出する。
走行距離検出部51は、ティーチングモードに移行されことにより、走行距離の算出を開始する。算出された走行距離は制御部54に出力される。
【0066】
方位検出部52は、機体の向き(機体方位)を算出する。機体には、ジャイロセンサや地磁気センサー等の方位センサー57が設けられる。方位検出部52は、方位センサー57の検出結果を取得し、機体方位を算出する。算出された機体方位は、制御部54に出力される。
【0067】
記憶部53は、ティーチングモードにおいて取得された、作業装置の動作タイミングや機体の旋回動作のタイミングに対応する走行距離と機体方位とを記憶する。
【0068】
制御部54は、ティーチングモードでの旋回走行において、作業装置の動作タイミング及び機体の旋回動作(走行と操舵等)のタイミングに対応する走行距離と機体方位を取得して記憶部53に記憶させ、ティーチングターンモードにおいて、このタイミングに基づいて作業装置の動作及び機体の旋回時の走行を制御する。
【0069】
旋回角度検出部55は、ティーチングターンモードにおいて、機体の旋回を自動制御する場合に用いられる。制御部54は、旋回角度検出部55の検出値を確認することにより、機体の操向角度が適切か否かを判断する。旋回角度検出部55は、ポテンショメータ47の検出値を受け取り、前輪1(図1参照)の操向角度を算出して制御部54に操向角度を出力する。制御部54は、旋回角度検出部55の検出値を確認することにより、機体の操向角度が適切か否かを判断する。なお、ティーチングターンモードにおいて、旋回走行における機体の操向を制御しない場合は、旋回走行制御において旋回角度検出部55は不要である。
【0070】
[旋回制御工程]
次に、図3図7を用いて、畦際で行われる旋回走行の制御フローについて説明する。
以下では、ティーチングモードを右旋回時に行い、ティーチングターンモードの最初の旋回を左旋回で行う場合が例示される。以下の説明において、ティーチングモードを左旋回時に行う場合は、旋回方向およびマーカー19の左右が逆になる。ティーチングターンモードを右旋回時に行う場合は、旋回方向およびマーカー19の左右が逆になる。また、ティーチングターンモードにおいては、走行経路の作業走行を挟んで、左右の旋回が交互に行われる。
【0071】
まず、1つの走行経路に対して作業走行が行われる。この際、運転者は、左右のマーカー19のいずれか一方(ここでは右のマーカー19とする)を作用姿勢に操作し、苗植付装置5を下降状態に操作し、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動状態に操作する(図6のステップ#1)。
【0072】
作業走行において、機体の前端が畦Bに到達すると(図6のステップ#2)、運転者は機体を停止させる。この時、運転者は、切替スイッチ56を操作して、制御部54にティーチングモードでの制御を開始させる(図6のステップ#3)。
【0073】
次に、運転者は、作業装置を動作終了させる。具体的には、運転者は、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を遮断する操作を行い、昇降レバー11を操作して苗植付装置5を上昇させ、右のマーカー19を格納姿勢に変位させる操作を行う(図6のステップ#4)。
【0074】
この際、制御部54は、停止した際の機体の向きである機体方位を取得し、走行距離として「0」と共に、機体の前端が畦Bに到達した位置であることとひも付けて記憶部53に格納する(図6のステップ#5)。機体方位は、方位検出部52により算出される。方位検出部52は、ポテンショメータ47の検出値を取得し、機体の向きである機体方位を算出する。
【0075】
次に、運転者は、後進行程L1として、所定の距離だけ機体を後進させる(図6のステップ#6)。機体が後進された後、運転者は、左のマーカー19を作用姿勢に変位させる操作を行う(作業装置の動作開始の一つ)。この際、制御部54は、後進行程L1を開始してから停止するまでの機体の走行距離と、停止した際の機体の向きである機体方位を取得し、後進行程L1の停止位置であり、かつマーカー19を作用姿勢に変位させる位置であることとひも付けて、走行距離及び機体方位を記憶部53に格納する(図6のステップ#7)。
【0076】
走行距離は、ティーチングモードに移行されたことを契機として、制御部54からの指示により走行距離検出部51が算出する。走行距離検出部51は、回転数センサー50から検出したパルスの数を取得し、パルスの数から走行距離を算出する。前述のように、パルスの数から後輪2の回転数が算出され、後輪2の回転数から走行距離が算出される。また、パルスの数は左右の回転数センサー50の検出値の平均値としても良い。これにより、多少のスリップの影響が軽減されて、より正確な走行距離を算出することができる。なお、以降、ティーチングモードにおいて、走行距離は前進あるいは後進の方向が考慮された状態で積算される。例えば、後進行程L1は後進走行であるので、走行距離の符号はマイナスとなり、後進走行においては走行距離が減少する。そのため、走行距離は、位置E1からの絶対的な走行距離となる。
【0077】
次に、運転者は、前進行程L2として、所定の距離だけ(位置E2まで)機体を前進させる(図6のステップ#8)。この際、制御部54は、後進行程L1を開始してから停止するまでの機体の走行距離と、停止した際の機体の向きである機体方位を取得し、前進行程L2の停止位置であることとひも付けて、走行距離及び機体方位を記憶部53に格納する(図6のステップ#9)。
【0078】
次に、運転者は、旋回走行の操作を行う。旋回走行は、例えば、旋回走行(旋回工程L3)、直進走行(直進行程L4)、旋回走行(旋回工程L5)からなる。旋回工程L3,L5は、常に全開旋回として良い(図6のステップ#10)。旋回工程L5が終了すると、運転者は、作業装置の動作開始の一つとして、昇降レバー11を操作して、苗植付装置5を下降させる(図6のステップ#11)。
【0079】
この際、制御部54は、それぞれの行程の最終位置における、後進行程L1を開始してからの機体の走行距離と、機体の向きである機体方位を取得し、それぞれの行程の最終位置であることとひも付けて、走行距離及び機体方位を記憶部53に格納する。特に、制御部54は、旋回工程L5の最終位置については、旋回工程L5の最終位置であることと、苗植付装置5の下降位置であることとにひも付けて、走行距離及び機体方位を記憶部53に格納する(図6のステップ#12)。
【0080】
次に、運転者は、直進行程L6として、機体の後端が、機体の前端が畦Bに到達した際の機体の後端の位置に対応する位置に到達(機体の後端が位置E6に到達)するまで、機体を前進させる。この際、直進行程L6における走行距離は、前進行程L2におけるE1からE2までの距離と同じ距離とすることができ、操向方向を確認して旋回走行が終了したことを判別し、旋回走行が終了してからこの距離だけ自動的に走行するようにしても良い(図6のステップ#13)。直進行程L6が終了すると、運転者は、作業装置の動作開始の一つとして、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動状態にする操作を行う。
この時も、E1からE2までの距離と同じ距離走行した時点で自動的に植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が伝動状態にされる操作がなされても良い(図6のステップ#14)。
【0081】
この際、制御部54は、後進行程L1を開始してから直進行程L6が終了するまでの機体の走行距離と、終了した際の機体の向きである機体方位を取得し、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動状態にする位置であることとひも付けて、走行距離及び機体方位を記憶部53に格納する(図6のステップ#15)。そして、運転者は、切替スイッチ56を操作して、ティーチングモードを終了させる(図6のステップ#16)。これにより、旋回走行は終了であり、植付行程L02として、新たな走行経路における作業走行が行われる。以降の走行経路の畔際にて、ティーチングターンモードを用いて旋回走行が行われる。
【0082】
ティーチングターンモードを用いた旋回走行では、機体の前端が畦Bに到達すると(図7のステップ#17)、運転者は機体を停止させる。この時、運転者は、切替スイッチ56を操作して、制御部54にティーチングターンモードでの制御を開始させる(図7のステップ#18)。これに伴い、制御部54は、記憶部53に格納された情報を確認して、走行距離及び機体方位が、機体の前端が畦Bに到達して停止した位置であることとひも付けて記憶されたものと一致することを確認する。そして、制御部54は、作業装置の動作終了として、電動モータ28を操作して植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を遮断し、制御弁24を操作して苗植付装置5を上昇させ、電動モータ21を操作して右のマーカー19を格納姿勢に変位させる(図7のステップ#19)。
【0083】
次に、制御部54は、後進行程L1として、所定の距離だけ機体を後退させる(図7のステップ#20)。制御部54は、走行距離及び機体方位が、後進行程L1の停止位置であり、かつマーカー19を作用姿勢に変位させる位置であることとひも付けて記憶された値になるまで機体を後退させると、電動モータ21を操作して左のマーカー19を作用姿勢に変位させる(作業装置の動作開始の一つ)(図7のステップ#21)。
【0084】
次に、制御部54は、前進行程L2として、所定の距離だけ(位置E2まで)機体を前進させる(図7のステップ#22)。走行距離及び機体方位が記憶部53に記憶された値になると、制御部54は、自動走行で旋回走行を開始する。走行距離及び機体方位が対応する値になることに応じて、左旋回の旋回工程L3、直進行程L4、及び左旋回の旋回工程L5を行わせる(図7のステップ#23)。制御部54は、旋回工程L3、直進行程L4、及び旋回工程L5を、記憶部53に記憶された値に応じて、静油圧式無段変速装置33(図2参照)、ミッションケース34(図2参照)、操向部材41(図2参照)等を制御して行う。旋回走行の際、操向角度は、操縦ハンドル20を全開で操作した際と同等の、最大角度の操向角度としても良い。
【0085】
旋回走行が終了して、走行距離及び機体方位が、旋回工程L5の最終位置であることと、苗植付装置5の下降位置であることとにひも付けて記憶部53に記憶された値になると、制御部54は、作業装置の動作開始の一つとして、制御弁24を操作して、苗植付装置5を下降させる(図7のステップ#24)。
【0086】
次に、制御部54は、直進行程L6として、機体の後端が、機体の前端が畦Bに到達した際の機体の後端の位置と対応する位置に到達(機体の後端が位置E6に到達)するまで、機体を前進させる。機体の後端が位置E6に到達する位置は、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動状態にする位置であることとひも付けて記憶部53に記憶された走行距離及び機体方位から判断される(図7のステップ#25)。この際、制御部54は、作業装置の動作開始の一つとして、電動モータ28を制御して、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27を伝動状態に操作する(図7のステップ#26)。そして、運転者は、切替スイッチ56を操作して、ティーチングターンモードを終了させる(図7のステップ#27)。これにより、旋回走行は終了であり、植付行程L02として、新たな走行経路における作業走行が行われる(図7のステップ#28)。以降、全ての走行経路の作業走行が終了するまで、同様の走行が行われる。
【0087】
以上のように、先行する旋回走行時に、ティーチングモードにて、旋回時の走行の各動作の開始および終了のタイミングと作業装置の動作終了および動作開始のタイミングとに対応させて、それぞれのタイミングにおける走行距離および機体方位が記憶される。そして、以降の旋回走行において、制御部54は、記憶したタイミングで旋回走行を制御する。実際の圃場での旋回走行時に旋回走行のタイミングと作業装置の動作のタイミングとを記憶するため、制御装置23は、圃場に適した適切なタイミングをティーチングすることができる。また、ティーチングモードに移行するのみで、旋回走行と作業装置の動作とのタイミングに対応させて走行距離と機体方位とを自動的に記憶することができるため、簡便にティーチングを行うことができる。さらに、以降の旋回走行においては、同じ圃場内で以前にティーチングしたタイミングで旋回走行を制御することができるため、旋回の前後において一定の位置から作業を開始することができる。
【0088】
また、制御部54は、走行距離を自動的に取得し、この走行距離に基づいて、自動的に作業装置等の動作を制御するため、回転数センサー50の性能を最大限に利用して、より精度の高い旋回制御を行うことができる。
【0089】
[別実施形態]
(1)上記旋回走行では、畦Bまで植付行程が行われ、後進行程L1を経て旋回工程(旋回工程L3等)が行われたが、植付行程は、畦Bから所定の距離手前で終了され、後進を経ずに旋回工程が行われても良い。
【0090】
例えば、まず、植付行程において、機体が畦Bから所定の距離手前に到達すると、機体が停止される。機体が停止した際、機体の後端は位置E1に到達しているとする。この時、電動モータ28の駆動により植付クラッチ26及び施肥クラッチ27は遮断され、苗植付装置5は上昇され、右のマーカー19も格納姿勢に変位される(作業装置の動作終了)。また、この位置での、走行距離としての「0」と機体方位と共に、作業装置の動作を終了させる位置であることがひも付けられて記録される。
【0091】
次に、電動モータ21が駆動されて左のマーカー19が作用姿勢に変位される(作業装置の動作開始の一つ)。その後、機体が次の走行経路上に至り、機体の向きがこの走行経路と平行となるまで旋回工程L3が行われる。この時、機体の前端の位置を位置E5とする。旋回工程L3が終了すると、苗植付装置5が下降される(作業装置の動作開始の一つ)。この際、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27の遮断状態は維持される。また、この位置での、走行距離と機体方位と共に、旋回工程L3が終了する位置であることがひも付けられて記録される。
【0092】
次に、機体の後端が位置E6に到達するまで直進走行が行われる(直進行程L6)。E6は、畦BからE6までの距離が、畦BからE1までの距離と同じになる位置である。直進走行により、機体の後端が位置E6に到達すると、植付クラッチ26及び施肥クラッチ27が伝動状態に移行される(作業装置の動作開始の一つ)。この位置での、走行距離と機体方位と共に、直進行程L6が終了する位置であることがひも付けられて記録される。
その後、植付行程が行われる。
【0093】
そして、この植付行程の終端においても旋回走行が行われるが、この旋回走行は左旋回となり、マーカー19の動作は左右逆となる。これ以降の旋回走行は、記録された走行距離と機体方位とに基づく旋回制御によって自動的に行われる。このように植付走行(作業走行)と旋回走行が繰り返されて圃場の植付作業が進められる。最後に、旋回走行が行われた圃場の周囲領域は、周回走行することによって作業走行が行われる。
【0094】
(2)制御装置23は、CPUやECU等のプロセッサを含んだハードウェアで構成され、1つの機能部で構成されても良いが、適宜複数の機能部に分散されて構成されても良い。また、走行距離検出部51、方位検出部52、制御部54及び旋回角度検出部55の少なくとも一部はソフトウェアで構成されても良い。この際、ソフトウェア(プログラム)は、記憶部53に格納され、任意のCPUやECU等のプロセッサで実行される。
【0095】
(3)圃場は様々な形状である場合があり、旋回を行う畦Bを成す、向かい合う2つの圃場の外周辺が平行でない場合がある。この場合、一方の外周辺でティーチングされた旋回走行を他方の外周辺で行うと、他方の外周辺で適切な旋回走行を行えない場合がある。
この場合、両方の外周辺それぞれで旋回走行がティーチングされ、それぞれの外周辺では、それぞれの外周辺においてティーチングされた旋回走行が行われても良い。これにより、各外周辺において、適切に旋回走行を行うことができる。
【0096】
(4)圃場の状態は、圃場状態で一定ではなく、一度ティーチングモードでティーチングを行い、ティーチングターンモードで旋回走行を繰り返すうちに、スリップ率の差異等で走行距離がずれ、作業装置の操作タイミング等が不適切になる場合がある。このような場合、再度ティーチングモードで旋回走行の再ティーチングが行われても良い。この場合、記憶部53に記憶された各動作状態に対応する走行距離及び機体方位は書き換えられる。これにより、圃場の状態が変化した場合であっても、適切に旋回走行を行うことができる。
【0097】
(5)ティーチングターンモードにおいて、旋回制御(操向操作)も自動的に行われても良いが、作業装置の動作制御のみが自動制御され、旋回時の走行の操作は手動で行われても良い。この場合、旋回のタイミングに基づいて、制御部54は、旋回の開始時期や終了時期、操向操作量の過不足を、報知部58に警告として報知させても良い。また、制御部54は、作業装置の動作を自動制御せず、動作のタイミングを指示する警告を報知部58に報知させても良い。
【0098】
(6)作業装置として、施肥装置(施肥クラッチ27)及び左右のマーカー19と苗植付装置5の動作を制御する構成が説明されたが、マーカー19を備えない作業機に対して旋回制御が行われることも可能であり、この場合、施肥装置(施肥クラッチ27)と苗植付装置5の動作が制御されても良い。
【0099】
(7)方位センサー57を設ける構成が例示されたが、方位センサー57を設けず、方位検出部52は、ポテンショメータ47を方位検出部として用い、ポテンショメータ47の検出値から機体方位を検出しても良い。
【0100】
(8)記憶部53に記憶された走行距離及び機体方位によって、制御部54は旋回走行における各動作の位置を取得するが、事前に取得されたマップデータ等によって、圃場のスリップ率等があらかじめ分かる場合、制御部54は、このマップデータに基づいて、スリップ率等が異なる領域における走行距離及び機体方位を補正しても良い。
【0101】
(9)旋回制御が行われる作業は苗の植え付けに限らず、様々な作業が対象とされる。
また、作業機は、圃場に限らず、様々な作業地の作業を行うことができる。この場合、作業機は、作業地の所定の範囲を、旋回走行挟んで往復走行することにより作業を行う。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、田植機をはじめ、直播機、トラクタ、コンバイン、管理機(散布機)、草刈り機、建設機械等旋回作業が必要な様々な作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 前輪(走行装置)
2 後輪(走行装置)
5 苗植付装置(作業装置)
19 マーカー(作業装置)
27 施肥クラッチ(施肥装置 作業装置)
51 走行距離検出部
52 方位検出部
53 記憶部
54 制御部
56 切替スイッチ(スイッチ)
58 報知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8