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特許7162568乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/12 20060101AFI20221021BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20221021BHJP
   F21V 33/00 20060101ALI20221021BHJP
   F21S 9/02 20060101ALI20221021BHJP
   F21V 23/00 20150101ALI20221021BHJP
【FI】
B66B23/12 Z
B66B31/00 D
F21V33/00
F21S9/02
F21V23/00 110
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019100398
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193093
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃司
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開平7-30272(JP,U)
【文献】米国特許第4413719(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/12
B66B 31/00
F21V 33/00
F21S 9/02
F21V 23/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの踏段のクリートに着脱可能に取り付けられ、且つ、乗降口に設けられて複数の前記クリートの間の溝であるクリート溝を梳くように隣接して配置されている櫛歯の間隙を通過可能な大きさを有する表示クリップである、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具。
【請求項2】
前記表示クリップは、前記踏段の前記クリートの色と識別可能な表示色を有する、請求項1に記載の乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具。
【請求項3】
前記表示クリップは、
点灯されて前記表示色を有する光を出射するLEDと、
外部充電回路によって充電可能な電源を含み、前記LEDを点灯駆動するLED駆動回路と、
を備える、請求項2に記載の乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具。
【請求項4】
前記表示クリップは、
前記クリートに取り付けられた状態で前記櫛歯を通過することを検出する検出信号を出力する検出部を備え、
前記LED駆動回路は、前記検出信号が出力された状態で前記LEDを点灯させる、請求項3に記載の乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道等の乗客コンベアは、一方側の乗降口と他方側の乗降口との間に設定された移動通路に沿って移動する複数の踏段に利用者を乗せて運搬する運搬装置である。
【0003】
特許文献1には、エスカレーターの保守作業においてトラス内の点検を行うには踏段を取り外す必要があることを述べている。踏段は、踏段のフレームの後部の左右両側において、踏段軸支持部を用いて踏段軸を挟持する構造であるので、踏段を取り外すには、踏段軸支持部による踏段軸の挟持を外して行われる。特許文献1は、従来技術の踏段軸支持部の構造として、特許文献2を引用している。特許文献2の踏段軸支持部は、フレームの後部両側にそれぞれ、略半円状の切欠きを有する水平突部、及び上下方向に回動自在に枢着され略半円状の切欠きを有する挟持部を設け、両切欠きの間に踏段軸を挟持し、水平突部と挟持部とをボルトとナットで固定している。
【0004】
本開示に関連する技術として、特許文献3には、クリップ型ライトとして、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-109281号公報
【文献】特開平5-085689号公報
【文献】特開2006-185755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乗客コンベアの保守作業として、複数の踏段を取り外してトラス内の点検等を行った場合には、取り外した複数の踏段を元の状態に戻す必要がある。踏段は、トラス内を移動する踏段軸に固定して取り付けられているので、復旧作業においては、1つ1つの踏段をそれぞれの対応する踏段軸に締付具を用いて固定する。
【0007】
複数の踏段を取り外した状態では、トラス内を覗ける空間があり、その空間から対応する踏段軸が確認できるので、その踏段軸に踏段を載せて、上記空間を利用して移動通路側から締付治具を用いて締付具を締結できる。取り外した踏段を順次取付固定してゆくと、最後の1つの踏段は、対応する踏段軸に載せることはできても、上記空間がないため移動通路側から踏段軸に締結固定することができない。その場合には、いずれかの乗降口の点検用マンホールを開いて、開いた空間から、対応する踏段軸に載ったままの状態の踏段を確認し、締結治具を用いて締結具を締結する。
【0008】
乗客コンベアの仕様によっては、踏段の上面に締結治具用の作業孔を設けることができる。この仕様の乗客コンベアの場合は、取り外した複数の踏段の全てについて、それぞれの対応する踏段軸に締結具を締結する作業を移動通路側から行うことが可能である。その場合でも、各踏段がそれぞれの踏段軸に締結具によって正しく締結されていることの確認は必要である。締結確認は移動通路側からでは不十分であるので、いずれかの乗降口の点検用マンホールを開き、開いた空間から、保守作業のために取り外した範囲の踏段のそれぞれについて締結状態の点検が行われる。
【0009】
このように、点検用マンホールを開いて、踏段を踏段軸に締結し、あるいは踏段と踏段軸との締結状態を点検するためには、保守点検のために取り外した踏段がどれかを確認する必要がある。従来技術では、例えば、対応する踏段の上面に保守作業員が白チョークで大きな丸印等の目印を付すことが行われる。この場合、締結作業または点検作業が完了した場合に、例えば、踏段に広範囲に付された大きな目印をきれいに拭き取る作業が必要になり、復旧作業の作業性が低下する。そこで、拭き取る作業を省略して踏段の特定を可能とする乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具は、乗客コンベアの踏段のクリートに着脱可能に取り付けられ、且つ、乗降口に設けられて複数のクリートの間の溝であるクリート溝を梳くように隣接して配置されている櫛歯の間隙を通過可能な大きさを有する表示クリップである。
【0011】
上記構成によれば、特定すべき踏段のクリートに表示クリップが取り付けられる。踏段特定用の表示クリップは着脱可能であるので、従来技術の目印を用いる場合に必要な拭き取り作業を省略できる。また、踏段の上面の異物等を除去するために乗降口に設けられる複数の櫛歯の間を、クリートが取り付けられた状態のまま表示クリップは通過できる。これにより、乗降口において櫛歯から点検用マンホールの開口までの間が移動通路の一部で覆われていても、表示クリップは櫛歯を通ってくるので、点検用マンホールのところで特定すべき踏段を確認できる。
【0012】
本開示に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具において、表示クリップは、踏段のクリートの色と識別可能な表示色を有することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、従来技術の手書きの白チョーク目印に代えて、表示クリップは、識別可能な表示色を有しながら、踏段に着脱可能である。これによって、従来技術の目印を用いる場合に必要な拭き取り作業を省略できる。
【0014】
本開示に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具において、表示クリップは、点灯されて表示色を有する光を出射するLEDと、外部充電回路によって充電可能な電源を含み、LEDを点灯駆動するLED駆動回路と、を備えることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、表示クリップは点灯されて表示色を有する光を出射するLEDを備えるので、識別力を有する色に塗られたものに比べ、視認性が向上する。特に、踏段外し保守作業を暗い場所、あるいは夜間に行う場合には、発光による識別が効果的である。また、LED駆動回路は外部充電回路によって充電される電源を有する。LEDの点灯期間は取り外した踏段の復旧作業期間で足りるので、電源としては小容量のコンデンサを用いることができ、表示クリップの大型化が抑制される。
【0016】
本開示に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具において、表示クリップは、クリートに取り付けられた状態で櫛歯を通過することを検出する検出信号を出力する検出部を備え、LED駆動回路は、検出信号が出力された状態でLEDを点灯させることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、表示クリップのLEDは、表示クリップが取り付けられた踏段が櫛歯を通過したことを検出して点灯を開始し、締結作業または点検作業が行われる点検用マンホールの開口に現れる時点でも発光を継続している。したがって、LED駆動回路の電源はさらに小容量化できる。
【発明の効果】
【0018】
上記構成の乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具によれば、従来技術では必要であった目印拭取作業を省略して踏段の特定を可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具が用いられるエスカレーターの全体構成図である。
図2図1のII部の拡大図である。
図3図2のIII部の拡大図である。
図4】実施の形態に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具としての表示クリップ、クリップ着脱工具、及び、表示クリップが取り付けられる踏段のクリートの関係を示す図である。
図5】実施の形態に係る乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具としての表示クリップが踏段のクリートに取り付けられた状態を示す上面図である。
図6図5のVI-VI線に沿った断面図である。
図7図6の表示クリップと、表示クリップを充電する外部充電回路とを示す図である。図7(a)は、クリートに取り付けられる前の単体状態の表示クリップを示す図であり、(b)は、外部充電回路である。
図8図7における外部充電回路、及び、単体状態の表示クリップの回路図である。
図9】櫛歯通過検出のための検出板を有する表示クリップの例である。
図10図9の表示クリップの回路図である。
図11図9の表示クリップの作用を示す図で、クリートに取り付けられた表示クリップの位置が櫛歯の手前にある状態を示す図である。
図12図11の状態から踏段が乗降口側に移動して櫛歯を通過することを検出する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、乗客コンベアとして、エスカレーターを述べるが、これは説明のための例示であり、動く歩道等の乗客コンベアであってもよい。以下で述べる形状、寸法、材質等は、説明のための例示であって、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具の仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具100が用いられる乗客コンベアであるエスカレーター10の全体構成図である。以下では、特に断らない限り、乗客コンベアであるエスカレーター10を、エスカレーター10と呼ぶ。また、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具100の実際の形態は表示クリップ100であるので、以下では、特に断らない限り、乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具100を表示クリップ100と呼ぶ。
【0022】
エスカレーター10は、建物12の上層階の乗降口14と下層階の乗降口16との間を移動する複数の踏段20に利用者を乗せて運搬する昇降運搬装置である。図1に、走行方向と上下方向と幅方向とを示す。走行方向は踏段20が移動して走行する方向であり、走行方向の両側を区別するときは、上層階に向かう方向を一方側と呼び、下層階側に向かう方向を他方側と呼ぶ。上下方向は、建物12について上方側か下方側かを区別する方向である。幅方向は、移動通路40について左右を区別する方向で、下層階の乗降口16から上層階の乗降口14を見たときに、右方が右側の方向であり、左方が左側の方向である。
【0023】
エスカレーター10において、利用者が乗る側、つまり上層階と下層階を結んで踏段20が移動する移動通路40には、欄干42と移動手摺44が両側に配置され、移動通路40の裏側、つまり建物12の構造体の内側にはトラス46が設けられる。
【0024】
トラス46は、建物12の構造体の内側において、上層階から下層階に渡って設けられ、踏段20の移動機構、移動手摺44の移動機構等が配置される空間である。トラス46は、上層階側水平部と下層階側水平部とその間を接続する傾斜部とで構成される。上層階側水平部には、上部機械室50が設けられ、駆動モータ52や駆動モータ52によって駆動される駆動スプロケット54が配置される。下層階側水平部には、下部機械室56が設けられ、従動スプロケット58が配置される。傾斜部には、駆動スプロケット54と従動スプロケット58の間に掛け渡されるステップチェーン60が配置される。ステップチェーン60は、各踏段20の踏段軸28(図2参照)に掛け渡され、各踏段20の踏段軸28の両端には駆動ローラ30が設けられ、駆動ローラ30は、トラス46に配置された駆動レール62の上を転動する。
【0025】
図1では、複数の踏段20を取り外してトラス46内の点検等の保守作業を行った後の復旧作業の内、時系列において異なる2つの段階をまとめて1つの図に示す。復旧作業の内、時系列で先の時期に行われる作業を、図1において一点鎖線で囲んだI部で示し、I部よりも時系列で後の時期に行われる作業を、図1において二点鎖線で囲んだII部で示す。
【0026】
一点鎖線で囲んだI部の作業は、取り外した複数の踏段20をそれぞれ対応する踏段軸28に載せて、移動通路40側から締結具を用いて締結する作業である。I部においては、複数の踏段20の内、移動通路40側からは締結できない最後の1つの踏段20aを保守作業員6が手に持って対応する踏段軸28に載せるだけの作業を行う様子が示される。踏段20aには、踏段軸28に締結が行われないことを示す目印として、表示クリップ100が取り付けられる。
【0027】
二点鎖線で囲んだII部の作業は、I部の作業の後で上層階の乗降口14に赴いた保守作業員8が、乗降口14の点検用マンホールの蓋を開き、上部機械室50の内部が視認できて乗降口14側から作業ができる開口空間51とする。一点鎖線で囲んだI部の作業において表示クリップ100が取り付けられている踏段20aが踏段軸28に載せられた状態の踏段20を、踏段20bとする。保守作業員8は、エスカレーター10を保守モードとし、踏段20bが開口空間51に現れるまで昇階させ、開口空間51に現れた踏段20bに表示クリップ100が取り付けられていることを確認し、締結工具を用いて踏段20bを踏段軸28に締結具で締結する。
【0028】
このように、エスカレーター10における踏段20の踏段外し保守作業においては、踏段軸28から取り外した踏段20を、元の踏段軸28に締結して固定する復旧作業が行われる。この復旧作業において、締結すべき踏段20bを開口空間51において識別するための表示クリップ100が用いられる。
【0029】
上記では、取り外した複数の踏段20について、移動通路40の他方側から一方側に向かって順次に移動通路40側から締結を行い、最後の1つの踏段20aに識別目印として表示クリップ100を取り付ける。開口空間51において、表示クリップ100が取り付けられた踏段20bについて締結を行う作業と共に、踏段20b以外の踏段20について締結が適切に行われていることを点検することが好ましい。この場合には、取り外した複数の踏段20の範囲を示すために、最初に締結した踏段20にも表示クリップ100を取り付けることがよい。エスカレーター10の仕様によっては、移動通路40側からすべての踏段20をそれぞれの踏段軸28に締結できる機種がある。その機種において、締結が適切に行われていることを乗降口14の開口空間51において点検する場合には、点検すべき複数の踏段20の範囲を示すために必要な個数の表示クリップ100を用いる。
【0030】
図2は、図1のII部の拡大図で、特に、上層階の乗降口14と上部機械室50における複数の踏段20を示す詳細図である。図2において、ステップチェーン60及び駆動モータ52関連の図示を省略した。図3は、図2のIII部の拡大図で、特に、踏段20bを踏段軸28に固定する踏段軸支持部130の構成を示す詳細図である。
【0031】
踏段20は、ステップとも呼ばれ、無端ループ状のステップチェーン60に複数個取り付けられた利用者運搬用の移動段である。踏段20は、利用者が足を載せる踏板22と、蹴り出しに対応するライザー24とがフレーム26で一体化されたものである。踏板22には、利用者の足元のすべり止め等のために、走行方向に沿って延伸する複数のクリート70(図4参照)が設けられる。踏段軸28は、踏段軸支持部130を介してフレーム26に回動自在に支持され、ステップチェーン60に接続される軸であり、ステップチェーン60から突き出した先端に駆動ローラ30が取付けられる。駆動ローラ30は、踏段20の走行方向の一方側に設けられる。踏段20の走行方向の他方側には、従動ローラ32が設けられる。
【0032】
上部機械室50においては、ステップチェーン60が駆動スプロケット54の外周の歯部に噛み合う。ステップチェーン60は、駆動スプロケット54の回転駆動力によって移動駆動されるので、上部機械室50において、ステップチェーン60は駆動スプロケット54の回転軸の周りに回転駆動されるにつれて走行方向が反転する。これに伴い、ステップチェーン60に踏段軸28を介して接続される複数の踏段20も、上部機械室50において踏板22の法線方向が反転する。駆動ローラ30を案内する駆動レール62は、駆動スプロケット54の上方側では駆動ローラ30を踏板22の下方側で支える配置であるが、反転して駆動スプロケット54の下方側では駆動ローラ30を踏板22の上方側で支える駆動レール63となる。従動ローラ32の案内については、駆動スプロケット54の反転領域において、従動ローラ32を内回りで支える従動レール64と外回りで支える従動レール65とが一部重複して配置される。
【0033】
図2は、保守作業員8がII部の作業を行うために、上層階の乗降口14に開口空間51を形成した状態を示す。上層階の乗降口14は、走行方向に沿って他方側から一方側に向かって、上層階の床面に敷設される板部材で構成される。最も他方側に敷設される板部材は、他方側から一方側に向かって移動してくる踏段20の踏板22上の異物等を除去するために、踏板22のクリート70を梳くように隣接する複数の櫛歯74を先端に有する櫛板72である。踏板22のクリート70、櫛歯74、及び表示クリップ100の関係については後述する。
【0034】
櫛板72よりも一方側に敷設される板部材は、他方側から一方側に向かって順に、櫛板72が取り付けられる第一ランディングプレート76、第二ランディングプレート78、第三ランディングプレート80である。第三ランディングプレート80よりも一方側は建物12の上層階の床面となる。図2の例では、駆動スプロケット54の反転領域のほぼ真上に第二ランディングプレート78が敷設されるので、これを点検用マンホールとして、第二ランディングプレート78を開けて、開口空間51を形成する。保守作業員8は、この開口空間51を用いて、以下の手順でII部の作業を行う。
【0035】
保守作業員8は、エスカレーター10を保守モードとして、駆動スプロケット54をゆっくり回転させ、複数の踏段20を走行方向に沿って他方側から一方側に向かって移動させる。表示クリップ100が取り付けられた踏段20bの一方側の先端部を駆動スプロケット54の反転領域の最も上方側に移動させると、走行方向に沿って一方側に踏段20bよりも1つ先に配置される踏段20cは、踏段20bよりも下方側に向かう。これによって踏段20bと踏段20cとは一平面上の配置から互いに傾斜する配置関係になり、走行方向に沿って、踏段20bの一方側の先端側と、踏段20cの他方側の後端側との間に隙間ができ、踏段20bの踏段軸28が視認可能になる。
【0036】
そこで、保守作業員8は、開口空間51の一方側における第三ランディングプレート80の上面に膝を付ける等の保守作業に適した姿勢を取る。そして、表示クリップ100が取り付けられた踏段20bを確認し、踏段20bがステップチェーン60に接続された踏段軸28の上に載せられていることを確認する。そして、一方側の手で締結具であるボルト144を持ち、他方側の手で締結治具であるスパナ146を持ち、踏段20bの踏段軸支持部130に踏段軸28を合わせて、ボルト144をスパナ146で回転させて、踏段20bを踏段軸28に締結する。保守作業員8は、上部機械室50の内部に入らなくても済むので、まだ締結されていない踏段20bが何かの事情で落下する場合等に生じ得る危険を回避でき、安全が確保される。
【0037】
図3は、踏段軸支持部130の構成を示す図で、図3(a)は、図2のIII部の拡大図で、保守作業員8が踏段軸28を踏段軸支持部130で挟み、スパナ146を用いて踏段軸支持部130をボルト144で締結する作業を示す図である。図3(b)は、ボルト144で締結される前の踏段軸支持部130の構成を示す図である。図3(b)では、駆動ローラ30の図示を省略した。
【0038】
踏段軸支持部130は、フレーム26に一体化されて設けられるクランプ支持台132と、クランプ支持台132に設けられた固定部材134と、固定部材134と向かい合って固定部材134に対し開閉可能な可動部材138とを含む。固定部材134は、下向きの半円弧状面を有し、一方側端部には固定用のめねじ部140が設けられる。可動部材138は、クランプ支持台132に設けられた回転軸136の周りに回転可能であり、上向きの半円弧状面を有し、一方側端部にはめねじ部140に噛み合うボルト144の軸部を通すボルト通し穴142が設けられる。図3(b)は、可動部材138の一方側端部が固定部材134の一方側端部に対し開放された状態で、踏段20bは固定部材134の下向きの半円弧状面を介して踏段軸28の上に載せられている。
【0039】
可動部材138を回転軸136の周りに回転させ、可動部材138の一方側端部を固定部材134の一方側端部と向かい合わせると、可動部材138の上向きの半円弧状面と固定部材134の下向きの半円弧状面とが向かい合って1つの円形断面空間を形成する。この円形断面空間の直径を踏段軸28の外径と同じ大きさに設定することで、可動部材138の上向きの半円弧状面と固定部材134の下向きの半円弧状面とで踏段軸28を挟みこんで支持できる。図3(a)は、固定部材134と可動部材138とを向かい合わせ、形成された円形断面空間で踏段軸28を挟んだ状態とし、固定部材134の一方側端部のめねじ部140に向かい合っている可動部材138のボルト通し穴142にボルト144を通す作業を示す。この後、保守作業員8は、スパナ146を用いて、ボルト144のおねじ部を固定部材134のめねじ部140に噛み合わせて締結する。これによって、踏段20bは、対応する踏段軸28に固定される。
【0040】
次に、図4から図6を用いて、表示クリップ100の構成、踏段20bにおける踏板22のクリート70に表示クリップ100を着脱自在に取り付ける方法、クリート70と櫛歯74と表示クリップ100の関係について説明する。
【0041】
図4は、表示クリップ100、クリップ着脱工具150、及び、踏段20bにおける踏板22のクリート70と表示クリップ100との関係を示す図である。図4(a)は、表示クリップ100の斜視図であり、図4(b)は、クリップ着脱工具150の斜視図であり、図4(c)は、踏段20における踏板22の複数のクリート70を示す斜視図である。
【0042】
表示クリップ100は、金属薄板をクリップ状に成形し、クリート70の色調と識別可能な表示色を施した部品である。クリート70の色調は黒色系であるので、表示クリップ100の表示色としては、黄色や白色、これらの蛍光色が好ましい。表示色を施す手段は、塗布、コーティング、浸漬、メッキ等の着色手段を用いることができる。表示色は、表示クリップ100の存在を識別するためのものであるので、着色範囲としては、踏板22に取り付けて視認される範囲で足りる。表示色の種類、着色手段、着色範囲は、表示色の説明のための例示であり、保守作業に応じて、適宜変更が可能である。
【0043】
表示クリップ100は、ダブルクリップとして市販されている部品から把持ピン部を除いたものと類似の形状と特性を有する。表示クリップ100は、上面部102、上面部102に接続されて下方側に折り曲げられた左右側面部104,106を有し、左右側面部104,106の端部は円筒状に成形された左右筒部108,110である。上面部102の幅方向の寸法W100は、クリート70の幅方向の寸法W70よりも広く設定される。自然状態において左右筒部108,110は互いに向かい合い、所定の弾性復元力で互いに押し付け合って当接する。かかる表示クリップ100としては、板バネ材を所定の形状に成形したものが用いられる。
【0044】
クリップ着脱工具150は、軸用スナップリングプライヤーとして市販されている工具に類似の形状と特性を有する。クリップ着脱工具150は、支点152で互いに回転可能に支持された2つのアーム部154,156を有する。2つのアーム部154,156は、それぞれ操作部158,160、及び、支点152を挟んで操作部158,160と反対側の先端部にそれぞれ操作ピン162,164を備える。操作ピン162,164の外径は、表示クリップ100の左右筒部108,110の内径に挿入可能な大きさに設定される。操作部158,160の間には付勢ばね166が設けられ、自然状態においては、操作部158,160は互いに離間した状態に、操作ピン162,164を備える左右先端部は互いに当接した状態に、それぞれ付勢される。
【0045】
クリップ着脱工具150を用いて踏段20bにおける踏板22のクリート70に表示クリップ100を着脱自在に取り付ける方法について、図1のI部における取付手順とII部における取り外し手順とに分けて説明する。
【0046】
図1のI部において、保守作業員6が踏段20aにおける踏板22のクリート70に表示クリップ100を取り付ける作業は、以下の手順で行われる。
【0047】
保守作業員6がクリップ着脱工具150の操作部158,160を片手の親指と人差し指等で把持し、操作ピン162,164を表示クリップ100の左右筒部108,110に挿入する。次に、保守作業員6は、付勢ばね166の付勢力に抗して操作部158,160の離間間隔を図4に示す白抜矢印の方向に縮める。これによって操作ピン162,164と、表示クリップ100の左右筒部108,110は、図4に示す矢印の方向に互いに離間する。図4では、左右筒部108,110の離間距離がW100となった状態を二点鎖線で示す。
【0048】
保守作業員6は、二点鎖線で示す状態の表示クリップ100を付けたままのクリップ着脱工具150を、左右側面部104,106のそれぞれを踏板22の隣接するクリート70の間のクリート溝71に入れながら下方側に下げる。クリップ着脱工具150を下げてゆき、表示クリップ100の上面部102がクリート70の上面に当接すると、保守作業員6は片手で表示クリップ100の上面部102をクリート70に押し付けて位置を固定する。そして、その状態で、クリップ着脱工具150の操作ピン162,164を表示クリップ100の左右筒部108,110から抜く。これによって、表示クリップ100の弾性復元力によって左右側面部104,106は自然状態に戻り、左右筒部108,110はそれぞれクリート70の左右壁面に当接し、所定の弾性復元力でクリート70を挟み込む。これによって表示クリップ100はクリート70に取付固定される。
【0049】
図1のII部において、踏段20bを対応する踏段軸28に締結固定する作業が終了すると、目印としての役割を果たした表示クリップ100の取り外しは、I部における表示クリップ100の取付手順と同様な以下の手順で行われる。I部の取付作業と異なるのは、表示クリップ100の向い合う左右筒部108,110が互いに当接状態ではなく、左右筒部108,110がクリート70の幅方向の寸法W70で離間してそれぞれクリート70の左右側面に当接していることである。
【0050】
保守作業員8は、クリップ着脱工具150の操作部158,160を片手の親指と人差し指等で把持する。そして、操作部158,160の離間間隔を図4の白抜矢印の方向に縮め、操作ピン162,164の離間距離を左右筒部108,110の離間距離であるW70に合わせ、操作ピン162,164を左右筒部108,110に挿入する。挿入したら、図4の白抜矢印の方向に、操作部158,160の離間間隔をさらに縮める。これによって操作ピン162,164と、表示クリップ100の左右筒部108,110は、図4に示す矢印の方向に移動し、左右筒部108,110の離間距離がW70より広がり、クリート70の左右側面から離れる。その状態で、クリップ着脱工具150を上方側に移動させる。これによって、表示クリップ100はクリップ着脱工具150に付いたまま、クリート70から完全に離脱される。このようにして、踏段軸28に締結固定する作業が終了した踏段20bから、目印としての役割を果たした表示クリップ100が取り外される。
【0051】
図5図6は、クリート70と櫛歯74と表示クリップ100の関係を示す図である。図2で述べたように、走行方向に沿って他方側から一方側に向かって踏段20が移動する場合、踏段20における踏板22の複数のクリート70の間の溝であるクリート溝71を梳くように櫛歯74が設けられる。したがって、踏段20aが走行方向に沿って一方側に移動する場合、移動する踏段20aのクリート70に取り付けられた表示クリップ100は、櫛歯74に対し干渉せずに開口空間51まで移動する必要がある。
【0052】
図5は、上層階の乗降口14における櫛板72を上方側から見た上面図である。踏段20aの踏板22には、両脇に溝を有する立壁状突起であるクリート70が走行方向に平行に延伸して複数設けられる。櫛板72の先端には、櫛歯74が設けられる。櫛歯74は、走行方向に延伸して複数設けられる。図5に示すように、走行方向に垂直な幅方向に沿って、櫛歯74とクリート70とは、交互に配置される。クリート70は、踏板22の幅方向の全体に渡って複数配置され、同様に櫛歯74も櫛板72の幅方向の全体に渡って複数配置されるが、図5では、その内のごく一部を示す。
【0053】
図5において、クリート70に取り付けられた表示クリップ100を示す。図5の場合、踏段20aが走行方向に沿って一方側に移動し、表示クリップ100が櫛歯74の配置領域を通過して櫛板72の下部側に入った状態を示す。
【0054】
図6は、図5のVI-VI線に沿った断面図である。踏板22の複数のクリート70の幅方向に沿った配置ピッチP1は、櫛板72の櫛歯74の幅方向に沿った配置ピッチP2と同じである。クリート70は、高さH0、幅W1を有し、踏板22の上面から立設する立壁部で、隣接する立壁部の間は、溝幅W2のクリート溝71である。したがって、P1=(W1+W2)である。櫛歯74は、複数のクリート70の間の溝を梳くように、櫛板72の他方側端部に配置された櫛状部材である。踏段20aは、所定の走行速度で移動するので、隣接する櫛歯74の間には所定の速度でクリート70が通過する。踏段20aの走行においてクリート70と干渉しないように櫛歯74の形状が定められる。図5図6の例では、幅方向及び上下方向について、櫛歯74とクリート70の間隙を均等とした。図6において、隙間S1は、踏板22のクリート溝71の溝底と、櫛歯74の底面の間隔である。隙間S2は、踏板22のクリート70の上面と、櫛歯74の溝の天井面の間隔である。図5は、S1=S2=(H0/2)の例を示す。
【0055】
P1=P2、W1,W2,H0の寸法の一例を挙げると、W1は約2.5mm、W2は約7.5mm、P1=P2は約10mm、H0は約12mm、S1=S2=(H0/2)は約6mmである。これは説明のための例示であって、エスカレーター10の仕様によって適宜設定される。
【0056】
図6において、クリート70に取り付けられた表示クリップ100の断面図を示す。クリート70に取り付けられた状態において、上下方向に沿っては、表示クリップ100の上面部102の位置は、クリート70の上面の位置とほぼ同じ位置であり、櫛歯74の天井面との間にほぼS2の余裕空間を有する。また、左右筒部108,110の位置は、櫛歯74の底面の位置よりも上方側で、クリート溝71の底面との間にS1以上の余裕空間を有する。クリート70に取り付けられた状態において、幅方向に沿っては、左右筒部108,110の位置は、櫛歯74の側面とクリート70の側面とのほぼ中間位置にある。上記の寸法例の場合で、櫛歯74の側面とクリート70の側面との間隔は、{(W2-W1)/2}=2.5mmであるので、左右筒部108,110のそれぞれと櫛歯74の側面との間に約1.25mm程度の余裕空間を有する。このように、クリート70に取り付けられた表示クリップ100の大きさは、隣接する櫛歯74の間を通過可能に設定される。
【0057】
上記では、表示クリップ100は、塗布等の着色手段で表示色を施すものとした。着色に加えて、あるいは、着色に代えて、表示色を有する光を出射する自発光素子を表示クリップ100に取り付けてもよい。図7に、自発光素子としてLEDを用いる表示クリップ170の例を示す。図7(a)は、表示クリップ170の斜視図であり、(b)は、表示クリップ170に電力を供給する電源アダプタ190の斜視図である。
【0058】
表示クリップ170は、図4で述べた表示クリップ100の上面部102の上に、LEDブロック172を取り付けたものである。LEDブロック172は、直方体形状を有し、上面に2つのLED180,182が取り付けられ、幅方向の両側面に電源端子174,176が設けられる。LEDブロック172は、LED180,182に電力を供給する充放電可能な二次電池178(図8(b)参照)を内部に含む。電源端子174,176は、二次電池178が電源アダプタ190から充電電力を受け取るための電力入力端子である。
【0059】
表示クリップ170の上下方向の寸法は、表示クリップ100に比べてLEDブロック172の上下方向の寸法分だけ大きくなる。表示クリップ170は、踏段20aにおける踏板22のクリート70に取り付けられた状態で、櫛歯74に干渉しない大きさである必要がある。図6を参照すると、表示クリップ100の上面部102から櫛歯74の天井面までの余裕寸法はおよそS2であるので、LEDブロック172の上下方向の寸法は、S2よりも十分に小さく設定される。例えば、LEDブロック172の上下方向の寸法は、S2の半分の寸法に設定される。市販のLEDランプの大きさではこの寸法制限に入らない場合には、2つのLED180,182は、回路基板にLEDチップを実装して透光性樹脂で保護する方法を採ることがよい。
【0060】
電源アダプタ190は、略直方体の筐体192の内部に電源回路200を含む。電源アダプタ190は、LEDブロック172が嵌め込まれる切欠溝194を有し、切欠溝194の内壁面に、LEDブロック172の2つの電源端子174,176に接触する電力出力端子196,198が配置される。
【0061】
図8は、電源アダプタ190の電源回路200の回路構成と、LEDブロック172の回路構成とを示す図である。図8(a)は、電源回路200の回路構成を示す回路図である。電源回路200は、表示クリップ170のLEDブロック172に対する外部充電回路である。電源回路200は、内部に、電池ボックス202を有し、電池ボックス202の二端子は、電力出力端子196,198に接続される。電池ボックス202は、適当な端子電圧を有する乾電池を交換可能に収納できる電池ケースである。
【0062】
図8(b)は、LEDブロック172の回路構成を示す回路図である。LEDブロック172の回路は、外部充電回路によって充電される電源を有するLED駆動回路である。電源である二次電池178の両端子は、電源端子174,176にそれぞれ接続される。外部充電回路である電源アダプタ190の切欠溝194に表示クリップ170のLEDブロック172が挿入されると、電源アダプタ190の電力出力端子196,198がLEDブロック172の電源端子174,176に電気的に接触する。これにより、電池ボックス202から充電電力が二次電池178に供給される。表示クリップ170において、表示色を放射するLED180,182の点灯必要時間は、図1で述べたI部の作業で表示クリップ170を踏段20aに取り付けた時点から、II部の作業で踏段20bを確認する時点までの時間なので、長くても10分程度である。したがって、二次電池178の蓄電容量は比較的小さくて済む。かかる小容量の二次電池178としては、適当な小容量のコンデンサを用いることができる。二次電池178が小容量で済むのでLEDブロック172が小型となり、表示クリップ170の全体を小型にできる。
【0063】
LEDブロック172の回路図において、2つのLED180,182のそれぞれには、適当な電流制限抵抗184,186が直列に接続される。電流制限抵抗184,186は、2つのLED180,182に特性ばらつきがあっても2つのLED180,182の輝度をほぼ同じにする働きを有する。電流制限抵抗184が直列に接続されたLED180と、電流制限抵抗186が直列に接続されたLED182は、それぞれ二次電池178に並列に接続される。
【0064】
図8に示す電源アダプタ190の電源回路200の回路構成、及び、LEDブロック172の回路構成は、説明のための例示であって、表示クリップ170の仕様等に応じて適宜変更が可能である。例えば、LEDの数を2つ以外として、1つ、あるいは3つ以上としてもよい。また、充電中知らせ灯、電圧安定化回路、電流安定化回路等を設けてもよい。
【0065】
上記構成によれば、表示クリップ170は点灯されて表示色を有する光を出射するLED180,182を備えるので、識別力を有する色に塗られた表示クリップ100に比べ、視認性が向上する。特に、踏段外し保守作業を暗い場所、あるいは夜間に行う場合には、発光による識別が効果的である。
【0066】
表示クリップ170は、電源アダプタ190で充電を行って取り外した時点からLED180,182の発光が開始する。踏段20bの識別は、開口空間51に踏段20bが現れた時点で必要になるので、それまでの期間におけるLED180,182の発光を抑制することができれば、LED180,182の発光期間が適切化さる。これにより、LEDブロック172の電源である二次電池178をさらに小容量化できる。
【0067】
図9は、踏段20bが櫛歯74を通過したことを検出してLED駆動回路をオンとし、検出前の期間はLED180,182を消灯し、検出以降でLED180,182を点灯できる表示クリップ210の構成図である。
【0068】
表示クリップ210は、表示クリップ170に対し、回動中心212周りに回動可能な検出板214を追加し、検出板214の回動を検出する回動検出スイッチ220(図10参照)を含むLEDブロック218を用いる構成を有する。
【0069】
検出板214は、図7における電源アダプタ190にLEDブロック218を挿入する際に干渉しないように、表示クリップ210の他方側に設けられる。図9において、走行方向における一方側と他方側、及び幅方向における右側と左側は、図4図7の場合と逆として示す。検出板214の回動中心212は、LEDブロック218の他方側の側面に設けられる。回動中心212に特別な付勢ばね等は設けない。
【0070】
検出板214の下方側に設けられる傾斜ストッパ216は、検出板214の初期状態を規定する部材である。傾斜ストッパ216の下面と、検出板214の一方側端面とがなす角度は、LEDブロック218の上面に突き当たる場合に、検出板214が上下方向に平行な垂直方向から所定の角度で一方側に向かって傾斜する状態となるように設定される。所定の角度は、検出板214に突き当たる櫛歯74の形状等に応じて設定されるが、一例を挙げると、約10度から20度の範囲の角度である。この場合、検出板214は、表示クリップ210の上下方向に対し一方側に向かって約10度から20度の範囲の角度で傾斜する。初期状態の検出板214に対し、一方側から他方側に向かう外力が働くと、初期状態から回動中心212周りに図9に一点鎖線で示すように回動して、自重で上下方向に平行な方向となり、LEDブロック218の他方側の側面に沿った状態になる。
【0071】
図10は、LEDブロック218の回路構成を示す回路図である。図8(b)で述べた表示クリップ170のLEDブロック172と比較すると、電流制限抵抗184,186が直列に接続されたLED180,182と二次電池178との電流経路中に回動検出スイッチ220が追加されることが相違する。回動検出スイッチ220は、通常状態はオフで、検出板214が初期状態から回動中心212周りに回動したことを検出した場合にオンする。
【0072】
図11図12を用いて、表示クリップ210の作用効果を示す。各図は、図2のII部における踏段20bの踏段軸28への締結固定作業が行われる以前の状況を示す図である。図11は、保守モードでエスカレーター10が走行方向に沿って他方側から一方側に向かって移動し、踏段20bに取り付けられた表示クリップ210が櫛歯74の先端側に差し掛かった時点の状態を示す。この段階では、表示クリップ210の検出板214は初期状態にあり、LED180,182は消灯している。図12は、図11の状態から踏段20bが走行方向に沿って一方側に向かってさらに移動し、踏段20bに取り付けられた表示クリップ210の検出板214が櫛歯74の立壁に突き当たって回動中心周りに回動した時点の状態を示す。検出板214が櫛歯74の立壁に突き当たる時点は、踏段20bが櫛歯74を通過することを検出した時点に相当する。この時点で、回動検出スイッチ220がオンして、LED180,182が点灯し、表示色を有する光222を放射する。回動検出スイッチ220は、踏段20bが櫛歯74を通過することを検出する検出部に相当する。表示色を有する光222は、図2で述べた踏段20bの踏段軸28への締結固定作業が終了して、表示クリップ210が踏段20bから取り外され、表示クリップ210の検出板214を初期状態に戻すまで放射が継続する。
【0073】
表示クリップ210を用いれば、LED180,182は、表示クリップ210が取り付けられた踏段20bが櫛歯74を通過することを検出して点灯を開始し、締結作業または点検作業が行われる開口空間51に現れる時点においても発光が継続される。これによって、踏段20bが櫛歯74を通過するまでの期間におけるLED180,182の発光を抑制してLED180,182の発光期間が適切化される。また、LEDブロック172の電源である二次電池178をさらに小容量化できる。
【符号の説明】
【0074】
6,8 保守作業員、10 エスカレーター(乗客コンベア)、12 建物、14,16 乗降口、20,20a,20b,20c 踏段、22 踏板、24 ライザー、26 フレーム、28 踏段軸、30 駆動ローラ、32 従動ローラ、40 移動通路、42 欄干、44 移動手摺、46 トラス、50 上部機械室、51 開口空間、52 駆動モータ、54 駆動スプロケット、56 下部機械室、58 従動スプロケット、60 ステップチェーン、62,63 駆動レール、64,65 従動レール、70 クリート、71 クリート溝、72 櫛板、74 櫛歯、76 第一ランディングプレート、78 第二ランディングプレート、80 第三ランディングプレート、100,170,210 表示クリップ(乗客コンベアにおける踏段外し保守作業の支援治具)、102 上面部、104,106 左右側面部、108,110 左右筒部、130 踏段軸支持部、132 クランプ支持台、134 固定部材、136 回転軸、138 可動部材、140 めねじ部、142 ボルト通し穴、144 ボルト、146 スパナ、150 クリップ着脱工具、152 支点、154,156 アーム部、158,160 操作部、162,164 操作ピン、172,218 LEDブロック、174,176 電源端子、178 二次電池、184,186 電流制限抵抗、190 電源アダプタ、192 筐体、194 切欠溝、196,198 電力出力端子、200 電源回路、202 電池ボックス、212 回動中心、214 検出板、216 傾斜ストッパ、220 回動検出スイッチ、222 表示色を有する光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12