(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221021BHJP
H02M 7/487 20070101ALI20221021BHJP
【FI】
H02M7/48 K
H02M7/48 M
H02M7/487
(21)【出願番号】P 2019110273
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 和則
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-186171(JP,A)
【文献】特許第6513293(JP,B1)
【文献】特開2014-054138(JP,A)
【文献】特開平10-066385(JP,A)
【文献】特開2018-007334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0368143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/487
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力から交流電力を生成するインバータの直流側に設けられ、前記直流側の電圧を平滑化させる第1コンデンサと、
前記第1コンデンサの並列回路に設けられ、前記並列回路において第1抵抗に直列に接続される半導体スイッチング素子であって、前記並列回路に流れる放電電流を遮断する半導体スイッチング素子と、
前記半導体スイッチング素子の通電時間を規定するための閾値を調整する閾値調整部と、
前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の前記通電時間を決定し、決定された前記通電時間に基づいて前記半導体スイッチング素子の導通を制御する回生量制御部と、
を備え、
前記回生量制御部は、
回生エネルギーが前記インバータに供給される回生状態にあるか否かを示す情報と、前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の通電を制御して、
前記閾値は、前記インバータの直流側の電圧に関わる第1閾値VTH1と、前記第1閾値VTH1よりも大きい値の第2閾値VTH2とを含み、
前記回生量制御部は、
前記インバータの直流側の電圧の値が前記
第1閾値VTH1を超えて大きくなるほど、前記第1コンデンサからの放電電流を流す時間の単位時間当たりの比率が大きくなるように前記通電時間を調整する、
電力変換装置。
【請求項2】
直流電力から交流電力を生成するインバータの直流側に設けられ、前記直流側の電圧を平滑化させる第1コンデンサと、
前記第1コンデンサの並列回路に設けられ、前記並列回路において第1抵抗に直列に接続される半導体スイッチング素子であって、前記並列回路に流れる放電電流を遮断する半導体スイッチング素子と、
前記半導体スイッチング素子の通電時間を規定するための閾値を調整する閾値調整部と、
前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の前記通電時間を決定し、決定された前記通電時間に基づいて前記半導体スイッチング素子の導通を制御する回生量制御部と、
を備え、
前記回生量制御部は、
回生エネルギーが前記インバータに供給される回生状態にあるか否かを示す情報と、前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の通電を制御して、
前記閾値は、前記インバータの直流側の電圧に関わる第1閾値VTH1と、前記第1閾値VTH1よりも大きい値の第2閾値VTH2とを含み、
前記インバータの負荷は、電動機であり、
前記閾値調整部は、
前記インバータに前記回生エネルギーが供給されるときに変化する前記電動機の角速度の減速レート
の大きさに基づいて、前記第2閾値VTH2を調整する、
電力変換装置。
【請求項3】
前記閾値調整部は、
前記電動機の角速度の減速レートの値が大きくなるほど、前記第2閾値VTH2の値を大きくする、
請求項
2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
ダイ
オードコンバータをさらに備える、
請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、電力変換装置から電力を電動機に供給して、電動機を動力源として駆動する。回転中の電動機を制動させるときに回生エネルギーが生じて、回生エネルギーが電力変換装置に流入する。電力変換装置は、その回生エネルギーによる過電圧が生じないように処理することが必要であるが、その回生エネルギーを容易に処理できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、回生エネルギーによる過電圧が生じないように処理することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様の電力変換装置は、第1コンデンサと、半導体スイッチング素子と、閾値調整部と、回生量制御部とを備える。第1コンデンサは、直流電力から交流電力を生成するインバータの直流側に設けられ、前記直流側の電圧を平滑化させる。半導体スイッチング素子は、前記第1コンデンサの並列回路に設けられ、前記並列回路において第1抵抗に直列に接続される半導体スイッチング素子であって、前記並列回路に流れる放電電流を遮断する。閾値調整部は、前記半導体スイッチング素子の通電時間を規定するための閾値を調整する。回生量制御部は、前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の前記通電時間を決定し、決定された前記通電時間に基づいて前記半導体スイッチング素子の導通を制御する。前記回生量制御部は、回生エネルギーが前記インバータに供給される回生状態にあるか否かを示す情報と、前記インバータの直流側の電圧と前記閾値とに基づいて、前記半導体スイッチング素子の通電を制御する。前記閾値は、前記インバータの直流側の電圧に関わる第1閾値VTH1と、前記第1閾値VTH1よりも大きい値の第2閾値VTH2とを含む。前記回生量制御部は、前記インバータの直流側の電圧の値が前記第1閾値VTH1を超えて大きくなるほど、前記第1コンデンサからの放電電流を流す時間の単位時間当たりの比率が大きくなるように前記通電時間を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】実施形態の正極電圧指令の調整について説明するための図。
【
図4】実施形態の回生制御の一例について説明するための図。
【
図5】変形例における正極電圧指令調整部263Pの変換特性の調整について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電力変換装置を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。
【0008】
図1は、実施形態の電力変換装置の構成図である。
図1に示す電力変換装置1は、整流器110と、リアクタンス120と、第1コンデンサ130と、インバータ150と、インバータ制御部160と、電圧検出部170P、170Nと、回生量調整部210と、回生量制御部260と、閾値調整部270とを備える。上記の整流器110と、インバータ150は、電力変換装置1の主回路190を形成する。
【0009】
整流器110は、交流電力を整流する。整流器110の入力端子は、変圧器Tを経て交流電力系統PSに接続され、整流器110の出力端子は、直流リンク180を介してインバータ150に接続されている。例えば、整流器110は、3レベル型で形成される。この場合、整流器110は、正極側ブリッジ回路110Pと負極側ブリッジ回路110Nを備える。直流リンク180は、正極母線PBLと、中性線Nと、負極母線NBLとを備える。正極側ブリッジ回路110Pと負極側ブリッジ回路110Nは、交流電力系統PSから変圧器Tを経て供給される電力を全波整流し、正極母線PBLと負極母線NBLとに供給する。なお、整流器110は、回生用回路を有していないコンバータ(ダイオードコンバータ)の一例である。整流器110と変圧器Tとを繋ぐ給電線には、ヒューズと変成器が設けられていることがある。
【0010】
第1コンデンサ130は、直流リンク180の電圧を平滑化するためのコンデンサである。例えば、第1コンデンサ130は、正極側第1コンデンサ130Pと、負極側第1コンデンサ130Nとを備える。正極側第1コンデンサ130Pは、直流リンク180の正極母線PBLと中性線Nとに接続される。負極側第1コンデンサ130Nは、直流リンク180の負極母線NBLと中性線Nとに接続される。上記の整流器110と第1コンデンサ130の組は、後述するインバータ150に電力を供給する電源の一例である。なお、正極側第1コンデンサ130Pには、放電用の並列回路PCPが設けられ、負極側回生量調整部210Nには、放電用の並列回路PCNが設けられている。
【0011】
インバータ150は、例えば、同じく3レベル型で形成される。インバータ150は、整流器110から直流リンク180を経て供給される電力を、インバータ制御部160による制御に基づいて変換して、交流電力を生成する。インバータ150の出力端子には電動機20が接続されている。インバータ150は、変換した交流電力を電動機20に供給する。インバータ150と電動機20は、例えばU相V相W相を有する3相交流型であるが、これに制限されず、単相交流型であってもよく、他の相数の多相交流であってもよい。電動機20は、例えば誘導電動機であるが、これに制限されない。なお、電動機20は、負荷の一例である。
【0012】
例えば、インバータ150は、複数の半導体スイッチを備え、フルブリッジ型に形成されている。上記の複数の半導体スイッチには、それぞれフライホイールダイオードが設けられている。このようなインバータ150の場合には、電動機20を制動することによる回生エネルギーが生じると、インバータ150の直流側等に過電圧が生じることがある。なお、インバータ150が生成する3相交流電力の周波数(基本周波数)は、電動機20の回転速度の指令値(以下、速度指令という。)に合わせて調整されている。
【0013】
インバータ制御部160は、インバータ150に設けられた変成器などの検出結果に基づいて、インバータ150を制御する。インバータ150の制御方法は、PWM(Pulse Width Modulation)制御、ベクトル制御などを適宜選択してよい。なお、インバータ制御部160は、電動機20の角速度ωの検出結果、又は推定結果に基づいた角速度変化量Δωを算出する。
【0014】
電圧検出部170Pは、中性線Nと正極母線PBL間の電圧を検出する。電圧検出部170Nは、中性線Nと負極母線NBL間の電圧を検出する。電圧検出部170Pと電圧検出部170Nとを纏めて電圧検出部170と呼ぶことがある。
【0015】
回生量調整部210は、電圧検出部170の検出結果から、インバータ150の直流側等に過電圧が生じる状況になったことを検出し、電動機20からインバータ150に流入する回生エネルギーを消費して、インバータ150の直流側の電圧を低減させる。
【0016】
例えば、回生量調整部210は、正極側回生量調整部210Pと、負極側回生量調整部210Nとを備える。正極側回生量調整部210Pは、正極側第1コンデンサ130Pの並列回路PCPに設けられる。負極側回生量調整部210Nは、負極側第1コンデンサ130Nの並列回路PCNに設けられる。
【0017】
まず、正極側回路の正極側回生量調整部210Pについて説明する。
正極側回生量調整部210Pは、半導体スイッチング素子211Pと、半導体スイッチング素子212Pと、フリーホイールダイオード213Pと、フリーホイールダイオード214Pと、並列ダイオード215Pと、第2コンデンサ216Pと、抵抗217Pと、ヒューズ218Pと、を備える。なお、半導体スイッチング素子211Pと半導体スイッチング素子212Pとの組を、正極側アーム219Pと呼ぶ。半導体スイッチング素子211Pと半導体スイッチング素子212Pは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であり、カスケード接続されている。
【0018】
例えば、半導体スイッチング素子211Pを正極側に割りあて、半導体スイッチング素子212Pを中性点(中性線N)側に割りあてる。半導体スイッチング素子211Pのコレクタが、ヒューズ218Pを介して、直流リンク180の正極母線PBLに接続される。半導体スイッチング素子212Pのエミッタが、中性線Nに接続される。なお、ヒューズ218Pは、正極側アーム219Pに過電流が流れた場合に遮断する。
【0019】
半導体スイッチング素子211Pのコレクタ-エミッタ間には、フリーホイールダイオード213Pが設けられている。フリーホイールダイオード213Pは、半導体スイッチング素子211Pのコレクタ電流の方向に対して逆方向に向けられて、半導体スイッチング素子211Pに並列に接続されている。フリーホイールダイオード213Pは、半導体スイッチング素子211Pと一体で形成されていてもよい。以下同様である。
【0020】
半導体スイッチング素子212Pのコレクタ-エミッタ間には、フリーホイールダイオード214Pと並列ダイオード215Pとが設けられている。フリーホイールダイオード214Pと並列ダイオード215Pは、半導体スイッチング素子212Pのコレクタ電流の方向に対して逆方向に向けられて、半導体スイッチング素子212Pに並列に接続されている。並列ダイオード215Pは、フリーホイールダイオード214Pに流れる電流を分流して、熱損失を分散させている。この並列ダイオード215Pは、フリーホイールダイオード214Pとともに経路を冗長化して信頼度を高めている。
【0021】
第2コンデンサ216Pは、正極側アーム219Pに並列に接続されている。つまり、第2コンデンサ216Pの端子は、半導体スイッチング素子211Pのコレクタと半導体スイッチング素子212Pのエミッタとにそれぞれ接続される。
【0022】
抵抗217Pは、半導体スイッチング素子212Pと、フリーホイールダイオード214Pと、並列ダイオード215Pとに並列に接続されている。
【0023】
上記の正極側の構成では、半導体スイッチング素子212Pを遮断状態にして、半導体スイッチング素子211Pを導通させることにより、正極側アーム219Pの順方向電流、つまり半導体スイッチング素子211Pのコレクタ電流が抵抗217Pに流れる。抵抗217Pに半導体スイッチング素子211Pのコレクタ電流が流れると、それを熱エネルギーに変換して、コレクタ電流による電力を消費させる。
【0024】
なお、半導体スイッチング素子212Pは、遮断状態にするような負電圧がそのゲートに常時印加されていて、遮断状態に維持される。なお、正極側アーム219Pは、少なくとも1つの半導体スイッチング素子211Pを備えるものであってもよい。
【0025】
次に、負極側回路の負極側回生量調整部210Nについて説明する。
負極側回生量調整部210Nは、半導体スイッチング素子211Nと、半導体スイッチング素子212Nと、フリーホイールダイオード213Nと、フリーホイールダイオード214Nと、並列ダイオード215Nと、第2コンデンサ216Nと、抵抗217Nと、ヒューズ218Nと、を備える。なお、半導体スイッチング素子211Nと半導体スイッチング素子212Nとの組を、負極側アーム219Nと呼ぶ。半導体スイッチング素子211Nと半導体スイッチング素子212Nは、上記と同様に例えばIGBTであり、カスケード接続されている。
【0026】
なお、上記の半導体スイッチング素子211Nと、半導体スイッチング素子212Nと、フリーホイールダイオード213Nと、フリーホイールダイオード214Nと、並列ダイオード215Nと、第2コンデンサ216Nと、抵抗217Nと、ヒューズ218Nとは、正極側回生量調整部210Pの半導体スイッチング素子211Pと、半導体スイッチング素子212Pと、フリーホイールダイオード213Pと、フリーホイールダイオード214Pと、並列ダイオード215Pと、第2コンデンサ216Pと、抵抗217Pと、ヒューズ218Pとに対応する。
【0027】
負極側回生量調整部210Nの説明として正極側回生量調整部210Pを参照する際には、正極側回生量調整部210Pにおける「正極」の説明を「負極」に置き換える。例えば、半導体スイッチング素子211Pを正極側に割りあて、半導体スイッチング素子212Pを中性点(中性線N)側に割りあてる。半導体スイッチング素子211Nのコレクタが、ヒューズ218Nを介して、直流リンク180の負極母線NBLに接続される。
また、上記の他、半導体スイッチング素子の「コレクタ」と「エミッタ」の説明を、互いに入れ替える。
【0028】
なお、半導体スイッチング素子212Nは、常に遮断状態に維持されている。上記の負極側の構成では、半導体スイッチング素子211Nを導通させることにより、負極側アーム219Nの順方向電流、つまり半導体スイッチング素子211Nのコレクタ電流が抵抗217Nに流れる。
【0029】
回生量制御部260と閾値調整部270については後述する。
【0030】
次に、
図2を参照して、実施形態の回生量制御部について説明する。
図2は、実施形態の回生量制御部の構成図である。
【0031】
回生量制御部260は、例えば、レベル検出部261と、レベル検出部262Pと、正極電圧指令調整部263Pと、論理積回路264Pと、スイッチ265Pと、スイッチ266Pと、PWM制御部267Pとを備える。レベル検出部262Pと、正極電圧指令調整部263Pと、論理積回路264Pと、スイッチ265Pと、スイッチ266Pと、PWM制御部267Pは、正極直流電圧の調整に利用される。
【0032】
さらに、回生量制御部260は、レベル検出部262Nと、負極電圧指令調整部263Nと、論理積回路264Nと、スイッチ265Nと、スイッチ266Nと、PWM制御部267Nと、絶対値回路268Nを備える。レベル検出部262Nと、負極電圧指令調整部263Nと、論理積回路264Nと、スイッチ265Nと、スイッチ266Nと、PWM制御部267Nと、絶対値回路268Nは、負極直流電圧の調整に利用される。レベル検出部262Nと、負極電圧指令調整部263Nと、論理積回路264Nと、スイッチ265Nと、スイッチ266Nと、PWM制御部267Nは、レベル検出部262Pと、正極電圧指令調整部263Pと、論理積回路264Pと、スイッチ265Pと、スイッチ266Pと、PWM制御部267Pにそれぞれ対応する。
【0033】
正極直流電圧の調整に係る構成について説明する。
レベル検出部261は、信号MOT_POWERの信号レベルを検出する。例えば、信号MOT_POWERの電圧が正であるときが、インバータ150が電動機20に電力(有効電力)を供給する力行状態であることを示し、負であるときが回生状態であることを示す。レベル検出部261は、信号MOT_POWERの信号レベルが正である場合に「0」を出力し、負である場合に「1」を出力する。
【0034】
レベル検出部262Pは、正極直流電圧が、第1閾値VTH1を超えるか否かを検出する。例えば、レベル検出部262Pは、正極直流電圧が、第1閾値VTH1を超えない場合に「0」を出力し、第1閾値VTH1を超える場合に「1」を出力する。第1閾値VTH1については後述する。
【0035】
正極電圧指令調整部263Pは、予め定められた所定の規則に従い、正極直流電圧に基づいて、正極電圧指令値を調整する。これについては後述する。
【0036】
スイッチ265Pの第1入力には、所定の電圧のバイアスレベル(-BIAS)が供給されていて、第2入力には、正極電圧指令調整部263Pから正極電圧指令値が供給されていて、制御端子には、後述の論理積回路264Pの出力信号が供給されている。例えば、スイッチ265Pは、論理積回路264Pの出力信号が「0」であれば、第1入力に供給されているバイアスレベル(-BIAS)を選択して出力し、同じく「1」であれば、正極電圧指令調整部263Pから正極電圧指令値を選択して出力する。
【0037】
論理積回路264Pは、レベル検出部261による信号MOT_POWERの信号レベルの検出結果と、レベル検出部262Pによる正極直流電圧の検出結果の論理積をとり、ともに「1」である場合に、「1」を出力し、他の場合には「0」を出力する。
【0038】
スイッチ266Pの第1入力には、所定の正極バイアス電圧が供給されていて、第2入力には、スイッチ265Pにより選択された信号が供給されていて、制御端子には、上位装置(不図示)から、回生量制御部260の有効化信号が供給される。有効化信号が無効「0」を示す場合に、スイッチ266Pは、第1入力に供給される所定の正極バイアス電圧を選択して出力する。有効化信号が有効「1」を示す場合に、スイッチ266Pは、第2入力に供給されるスイッチ265Pにより選択された信号を選択して出力する。スイッチ266Pが出力する信号を正極電圧指令と呼ぶ。
【0039】
PWM制御部267Pは、例えば所定の周期で繰り返す三角波を用いて、上記の正極電圧指令をPWM制御により変調したゲートパルスを、半導体スイッチング素子211Pのゲート駆動回路に供給する。これにより、半導体スイッチング素子211Pは、PWM制御部267Pから供給されたゲートパルスに応じて、導通状態になり、ゲートパルスが供給されない期間は遮断状態になる。なお、PWM制御部267Pは、バイアスレベル(-BIAS)と正極バイアス電圧に対しては、ゲートパルスを出力しない。
【0040】
以上が、正極直流電圧の調整の説明である。
【0041】
次に、負極直流電圧の調整について説明する。
負極直流電圧の調整は、基本的には前述の正極直流電圧の調整と同様であるが、電力変換装置1には絶対値回路268Nがあり、N側直流電圧の符号を反転する。電力変換装置1は、その符号が反転されたN側直流電圧に対して、上記の正極直流電圧の場合と同様に処理をする。上記の正極直流電圧の調整の説明における、「正極直流電圧」を、「N側直流電圧の絶対値」に置き換えるとよい。なお、スイッチ266Nが出力する信号を負極電圧指令と呼ぶ。
【0042】
PWM制御部267Nは、例えば所定の周期で繰り返す三角波を用いて、上記の負極電圧指令をPWM制御により変調したゲートパルスを、半導体スイッチング素子211Nのゲート駆動回路に供給する。これにより、半導体スイッチング素子211Nは、PWM制御部267Nから供給されたゲートパルスに応じて導通状態になることにより、正極直流電圧を下げるように作用する。半導体スイッチング素子211Nは、ゲートパルスが供給されない期間は遮断状態になることにより、正極直流電圧に影響を与えない。
【0043】
次に、閾値調整部270について説明する。
閾値調整部270は、正極電圧指令調整部263Pにおける予め定められた所定の規則の制限値、例えば、正極電圧指令調整部263Pで用いられる第1閾値VTH1と第2閾値VTH2とを調整する。閾値調整部270は、レベル検出部262Pで用いられる第1閾値VTH1と、上記の正極電圧指令調整部263Pで用いられる第1閾値VTH1とが互いに同じ値になるように予め調整する。実施形態における閾値調整部270は、第2閾値VTH2を、予め定められた所定の値に調整する。
【0044】
図3を参照して、実施形態の正極電圧指令の調整について説明する。
図3は、実施形態の正極電圧指令の調整について説明するための図である。
図3に示すグラフの横軸は、正極直流電圧を示し、縦軸がPWM制御の変調率を示す。
正極電圧指令調整部263Pは、
図3に示すような変調率を、正極直流電圧に基づいて導出して、それを出力する。
【0045】
例えば、正極電圧指令調整部263Pは、正極直流電圧が第1閾値VTH1未満の場合に、変調率の下限値(LLDUTY)を示す信号を出力して、パルス幅を調整可能な範囲内で、最小のパルス幅のゲートパルスを、PWM制御部267Nに出力させる。正極電圧指令調整部263Pは、正極直流電圧が第1閾値VTH1よりも大きな第2閾値VTH2を超える場合に、変調率の上限値(ULDUTY)を示す信号を出力して、パルス幅を調整可能な範囲内で最大のパルス幅のゲートパルスを、PWM制御部267Nに出力させる。
【0046】
上記の正極直流電圧における第1閾値VTH1は、変調率を下限値(LLDUTY)から下限値(LLDUTY)を超える値に代える変曲点を規定する。同じく第2閾値VTH2は、変調率を上限値(ULDUTY)未満の値から上限値(ULDUTY)に代える変曲点を規定する。
【0047】
正極電圧指令調整部263Pは、正極直流電圧が第1閾値VTH1から第2閾値VTH2までの大きさにある場合、変調率を、下限値(ULDUTY)から上限値(ULDUTY)までの間の値を出力する。例えば、正極電圧指令調整部263Pは、正極直流電圧が第1閾値VTH1から第2閾値VTH2まで大きくなるほど、変調率を大きくして、パルス幅を大きくしてもよい。上記のパルス幅を大きくする際には、単調に増加するようにするとよい。さらに、正極直流電圧の変化量と、これに対応する変調率の変化量の比が一定になるように、変調率の変換特性が規定されてもよい。
【0048】
例えば、回生量制御部260は、回生エネルギーがインバータ150に供給される回生状態にあるか否かを示す情報と、上記のインバータ150の直流側の電圧と上記の閾値とに基づいて、半導体スイッチング素子(211P,211N)の通電を制御してもよい。
【0049】
上記は、正極電圧指令調整部263Pの説明であるが、負極電圧指令調整部263Nについても同様である。例えば、上記の閾値は、インバータ150の直流側の電圧に関わる第1閾値VTH1と第2閾値VTH2とを含み、第2閾値VTH2は第1閾値VTH1よりも大きな値(絶対値)にする。
【0050】
正極電圧指令調整部263Pと負極電圧指令調整部263Nは、インバータ150に流入する回生エネルギーに起因する過電圧状態が生じないように制御する。
【0051】
図4は、実施形態の回生制御の一例について説明するための図である。
実施形態の回生制御では、例えば、下記の情報を利用する。
第1の情報は、電動機20が回生中の状態(回生状態)か否か識別するための情報(例えば、信号MOT_POWER。)である。
第2の情報は、直流リンクの直流電圧の検出値又は同検出値に基づいた情報である。例えば、第2情報は、直流電圧の検出値であってもよく、直流電圧の検出値から加工された情報であってもよい。
第3の情報は、電動機20の角速度ωの変化率に基づく情報角速度変化量Δωである。
【0052】
例えば、回生量制御部260は、第1の情報と第2の情報とに基づいて、場合分けして、回生制御による第1コンデンサ130からの放電を実施(単に「放電を実施」という。)するか否かを決定する。
【0053】
第1の場合は、第1情報(例えば、「回生状態」が0。)によって電動機20が回生中でないことが示され、つまり電動機20が稼働中か休止中にあることが示された場合である。この場合には、回生量制御部260は、第2情報(直流リンクの電圧)によらず、放電を実施させない。放電を実施させない場合には、回生量制御部260は、4つの半導体スイッチング素子(211P、212P、212N,211N)を遮断状態に保つような電圧の電圧指令VCOMPと電圧指令VCOMNを利用してPWM制御を実施するため、ゲートパルスが生成されない。
【0054】
第2の場合は、第1情報(例えば、「回生状態」が1。)によって電動機20が回生中であることが示され、かつ第2情報によって直流電圧の検出値が閾値電圧VTH1を超えないこと(例えば、過電圧が非検出であること。)が示された場合である。この場合にも、回生量制御部260は、4つの半導体スイッチング素子を遮断状態に保って、放電を実施させない。
【0055】
第3の場合は、第1情報によって電動機20が回生中であることが示され、かつ第2情報によって直流電圧の検出値が閾値電圧VTH1を超えたことが示された場合である。この場合は、回生量制御部260は、放電を実施させる。放電を実施させる場合には、回生量制御部260は、放電を実施させる極の半導体スイッチング素子を、所望の時間導通させるような電圧の電圧指令VCOMPと電圧指令VCOMNを生成する。例えば、正極側で過電圧が検出された場合には、半導体スイッチング素子211Pを導通させることで、放電を実施する。負極側で過電圧が検出された場合には、上記に代えて半導体スイッチング素子211Nを導通させる。正極側と負極側の両方で過電圧が検出された場合には、半導体スイッチング素子211Pと211Nの両方を導通させることで、放電を実施する。
【0056】
PWM制御部267PとPWM制御部267Nは、各半導体スイッチング素子を、所望の時間導通させるような電圧の電圧指令を受けると、この所望の時間に対応するパルス幅のゲート信号を半導体スイッチング素子211Pと211Nに供給する。なお、PWM制御部267PとPWM制御部267Nは、電圧指令VCOMPと電圧指令VCOMNにより指定される電圧に基づいて、半導体スイッチング素子211Pと211Nを導通させる時間を調整する。
【0057】
上記の場合分けに基づいて、回生量制御部260は、回生エネルギーがインバータ150に供給される回生状態にあるか否かを示す情報と、直流電圧の検出値とに基づいて、半導体スイッチング素子の通電を制御する。その際に、回生量制御部260は、回生エネルギーがインバータ150に供給される回生状態にあるか否かを示す情報を、直流電圧の検出値よりも優先させて、半導体スイッチング素子に通電するか否かを決定するとよい。
【0058】
上記の信号MOT_POWERは、インバータ150が回生状態にあるか否かを示す情報の一例であるがこれに代えて、インバータ150の出力側の電力の1周期中の平均値が正であれば力行、負であれば回生を示す情報であってもよく、連続値でなく量子化された結果であってもよく、上記を示すフラグ(1ビット)の情報でもよい。
【0059】
実施形態によれば、電力変換装置1の閾値調整部270は、半導体スイッチング素子(211P,211N)の前記通電時間を規定するための閾値を調整する。回生量制御部260は、インバータ150の直流側の電圧と、半導体スイッチング素子(211P,211N)の通電時間を規定するための閾値とに基づいて、半導体スイッチング素子(211P,211N)の通電時間を決定し、決定された通電時間に基づいて半導体スイッチング素子(211P,211N)の導通を制御する。なお、上記の正極直流電圧と負極直流電圧は、上記のインバータ150の直流側の電圧の一例である。これにより、電力変換装置1は、回生エネルギーによる過電圧が生じないように処理することができる。
【0060】
なお、回生量制御部260は、上記の物理量の値が閾値VTH1を超えて大きくなるほど、第1コンデンサからの放電電流を流す時間の単位時間当たりの比率が大きくなるように通電時間を調整するとよい。回生量制御部260は、上記の物理量の値が閾値VTH1を超えて大きくなるほど放電時間を長くすることで、直流リンクの電圧TDCの電圧の過度な上昇を抑制できる。
【0061】
(変形例)
図5を参照して実施形態の変形例について説明する。上記の実施形態では、正極電圧指令調整部263Pの変換特性が、予め規定されている事例について説明した。本変形例では、これに代えて、正極電圧指令調整部263Pの変換特性を、電動機20の動作状態又はインバータ150の制御状態に適応するように、稼働中に調整してもよい。
図5は、変形例における正極電圧指令調整部263Pの変換特性の調整について説明するための図である。以下、これについて説明する。
【0062】
ところで、電動機20を強く制動させる場合には、電動機20の回転に係る角速度ωの変化量(角速度変化量Δω)も大きくなる。このような場合には、回生エネルギーが大きくなるため、上記の回生制御が実施される可能性が高くなる。
【0063】
これに対し、変形例の閾値調整部270は、角速度変化量Δωに基づいて、正極電圧指令調整部263Pにおける予め定められた所定の規則の制限値を調整するとよい。ここでいう「予め定められた所定の規則の制限値」とは、例えば、上限値(ULDUTY)のことである。上記の角速度変化量Δω(絶対値)が大きくなるほど、上限値(ULDUTY)を連続的に大きくしてもよく、段階的に大きくしてもよい。
【0064】
例えば、
図5に示す手順に従い上記の制御を実施する。閾値調整部270は、角速度変化量Δωが予め定められた基準値を超えたか否かを判定する(ステップSA11)。角速度変化量Δωがその基準値を超えた場合には、閾値調整部270は、第2閾値VTH2をより大きな値に変更して(ステップS12)、一連の処理を終える。
【0065】
角速度変化量Δωがその基準値を超えていない場合には、閾値調整部270は、角速度変化量Δωがその基準値を超えていない状態が所定時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS13)。角速度変化量Δωがその基準値を超えていない状態が所定時間以上継続した場合には、閾値調整部270は、第2閾値VTH2をより小さな値に変更して(ステップS14)、一連の処理を終える。
【0066】
閾値調整部270は、角速度変化量Δωがその基準値を超えていない状態が所定時間以上継続しない場合には、一連の処理を終える。
【0067】
上記のように、閾値調整部270は、第2閾値VTH2として2つの値を用いて、角速度変化量Δωの大きさに応じて選択することで、上限値(ULDUTY)を調整してもよい。
【0068】
或いは、これに制限されることなく、単調に大きくなるように上限値(ULDUTY)を規定するとよい。正極電圧指令調整部263Pは、これに応じた上限値(ULDUTY)まで、ゲートパルスの幅を広めることができる。
【0069】
なお、閾値調整部270は、角速度変化量Δωが所定値未満の状態が所定時間継続した場合に、上限値(ULDUTY)を初期値に戻してもよい。上記の所定時間は、予め定められていてもよい。
【0070】
このように、閾値調整部270は、インバータ150に回生エネルギーが供給されるときに変化する物理量の大きさに基づいて、上限値(ULDUTY)に係る第2閾値VTH2を調整してもよい。例えば、上記の物理量は、電動機20の角速度の減速レート、換言すれば角速度変化量Δωに基づき規定される。これによれば、第2閾値VTH2を物理量の値に基づいて調整することが可能になる。なお、上限値(ULDUTY)値は、閾値のうちでより大きい方の第2閾値VTH2に対応する。
【0071】
その場合、閾値調整部270は、上記の物理量の値が大きくなるほど、第2閾値VTH2の値を大きくしてよい。例えば、回生エネルギーが大きくなると、それに伴って物理量の値が大きくなる。そこで、検出された物理量が大きくなるほど第2閾値VTH2の値を大きくすることにより、第2閾値VTH2による規制を緩和することで、インバータ150に流入する回生エネルギーによる過電圧が生じないように処理することができる。
【0072】
上記の変形例によれば、角速度変化量Δωに基づいて、正極電圧指令調整部263Pにおける制限値を調整することができ、より回生エネルギーが大きいと角速度変化量Δωに基づいて推定されるときに、直流電圧の過電圧が生じにくくすることができる。
【0073】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、電力変換装置1は、第1コンデンサ130と、半導体スイッチング素子(211P、211N)と、閾値調整部270と、回生量制御部260とを備える。第1コンデンサ130は、直流電力から交流電力を生成するインバータ150の直流側に設けられ、直流側の電圧を平滑化させる。半導体スイッチング素子(211P、211N)は、第1コンデンサ130に並列になる並列回路(PCN、PCP)に設けられ、並列回路(PCN、PCP)において抵抗(217P,217N:第1抵抗)に直列に接続される半導体スイッチング素子(211P、211N)であって、並列回路(PCN、PCP)に流れる放電電流を遮断する。閾値調整部270は、半導体スイッチング素子(211P、211N)の通電時間を規定するための閾値を調整する。回生量制御部260は、インバータ150の直流側の電圧と上記の前記閾値とに基づいて、半導体スイッチング素子(211P、211N)の通電時間を決定し、決定された通電時間に基づいて半導体スイッチング素子(211P、211N)の導通を制御する。これにより、電力変換装置1は、回生エネルギーによる過電圧が生じないように処理することができる。
【0074】
上記の制御装置は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1…電力変換装置、110…整流器、120…リアクタンス、130…第1コンデンサ、150…インバータ、160…インバータ制御部、170…電圧検出部、210…回生量調整部、210P…正極側回生量調整部、211P、212P…半導体スイッチング素子、213P、214P…フリーホイールダイオード、217P…抵抗、260…回生量制御部、262P…レベル検出部、263P…正極電圧指令調整部、264P…論理積回路、265P、266P…スイッチ、267P…PWM制御部、268P…絶対値回路