(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】引き出し機構のための後退デバイス
(51)【国際特許分類】
A47B 88/40 20170101AFI20221021BHJP
A47B 88/453 20170101ALI20221021BHJP
【FI】
A47B88/40
A47B88/453
(21)【出願番号】P 2019516623
(86)(22)【出願日】2017-09-18
(86)【国際出願番号】 EP2017073469
(87)【国際公開番号】W WO2018059987
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521244938
【氏名又は名称】ウーエスエム ウー.シェーラー ゼーネ アクチエンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】510288921
【氏名又は名称】アキュライド インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サトニー、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シェーラー、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ディーネス、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シュテックリ、カスパール
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-504905(JP,A)
【文献】登録実用新案第3127072(JP,U)
【文献】特表2002-527167(JP,A)
【文献】特表2011-505183(JP,A)
【文献】登録実用新案第3126876(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第101994758(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 88/00-88/994
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具キャビネットに装備するための固定レール要素と、前記固定レール要素に取り付けられた少なくとも1つの可動レール要素とを備えた引き出し機構(1)であって、家具の前進可能部分に定着される最も内側の可動レール要素である内部レール(4)を備え、引き出し機構(1)は、さらに、後退デバイス(10)を備え、前記後退デバイス(10)は、前記内部レール(4)の自由端部の領域に配設された要素(7)に一時的に連結するために、後退/前進方向に可動である、ばねで留められたスライド部(40)を有し、前記スライド部(40)は、ガイドの中で前記後退/前進方向に対して横断方向に可動である制止ラッチ・ボルト(21,22)によって、後退位置で制止させることができ、前記内部レール(4)の要素(7)に連結するための前記スライド部(40)は、前記後退/前進方向に対して垂直となるように、且つ、前記制止ラッチ・ボルト(21,22)の移動方向に対して垂直となるように方向付けられた軸の周りを枢動可能である、少なくとも1つの枢軸要素(45,46)を有し、前記枢軸要素(45,46)の形状は、前記内部レール(4)の自由端部の領域に配設された前記要素(7)の形状に適合する、引き出し機構(1)において、前記枢軸要素(45,46)及び前記ガイドが、制止位置にある前記制止ラッチ・ボルト(21,22)が前記枢軸要素(45,46)の枢動運動を制止するように配設されることを特徴とする、引き出し機構(1)。
【請求項2】
前記枢軸要素(45,46)が、前進運動において前記要素(7)と相互作用する保持部(45g,46g)を有し、前記枢軸要素(45,46)が、保持位置に対して解放位置にある前記保持部(45g,46g)が前記スライド部(40)の長手方向中心軸の方向に枢動する方法で、前記スライド部(40)に取り付けられることを特徴とする、請求項1に記載の引き出し機構。
【請求項3】
前記枢軸要素(45,46)が、偏心的に配設されたカム・ピン(45e,46e)を有し、前記カム・ピン(45e,46e)は、前記後退/前進方向の前記スライド部(40)の動きにおける前記枢動運動を制御するために、静止湾曲部(35,36)と相互作用することを特徴とする、請求項2に記載の引き出し機構。
【請求項4】
前記静止湾曲部(35,36)の一部(35a,36a)は、弾性の境界壁(35d,36d)であって、前記後退デバイス(10)の後退位置にある前記内部レール(4)が、挿入する力に打ち勝って、前記枢軸要素(45,46)の前記保持部(45g,46g)が一時的に枢動するように前記スライド部(40)に連結可能な、弾性の境界壁(35d,36d)を有し、前記カム・ピン(45e,46e)が、前記弾性の境界壁(35d,36d)を一時的に変形させることを特徴とする、請求項3に記載の引き出し機構。
【請求項5】
前記後退/前進方向に直線的に可動であるように前記スライド部(40)が取り付けられた、ガイド・レセプタクル(30)を備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項6】
前記静止湾曲部(35,36)が、前記ガイド・レセプタクル(30)に構成されることを特徴とする、請求項3又は4を引用する請求項5に記載の引き出し機構。
【請求項7】
前記枢軸要素(45,46)が、後退運動において前記要素(7)と相互作用する作動部(45h,46h)を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項8】
前記枢軸要素(45,46)が、前記制止位置において前記制止ラッチ・ボルト(21,22)と相互作用する制止部(45c,45d,46c,46d)を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項9】
前記制止部(45c,45d,46c,46d)は、前記制止位置において前記制止ラッチ・ボルト(21,22)の自由端部の後ろで係合する突出部(45d,46d)を備えることを特徴とする、請求項8に記載の引き出し機構。
【請求項10】
前記スライド部(40)が、前記制止位置において前記制止ラッチ・ボルト(21,22)と相互作用する制止面(49a,49b)を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項11】
前記スライド部(40)の後退状態における前記制止部(45c,45d,46c,46d)及び前記制止面(49a,49b)が、前記制止ラッチ・ボルト(21,22)のレセプタクルを連帯して形成し、前記レセプタクルには、前記スライド部(40)の長手方向中心軸の方向にテーパーが付いていることを特徴とする、請求項8又は9を引用する請求項10に記載の引き出し機構。
【請求項12】
前記枢軸要素(45,46)の前記保持部(45g,46g)が、前記内部レールに面した、前記スライド部(40)の第1の側に配設され、前記枢軸要素(45,46)の前記制止部(45c,45d,46c,46d)が、前記第1の側の反対側の、前記スライド部(40)の第2の側に配設されることを特徴とする、請求項2を引用する請求項8に記載の引き出し機構。
【請求項13】
2つの枢軸要素(45,46)が、前記スライド部(40)の前記長手方向中心軸に対して対称となるよう配設されることを特徴とする、請求項
2~4、6、9、11、及び12のいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項14】
前記スライド部(40)に受け取られる減衰要素(50)を備えることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか一項に記載の引き出し機構。
【請求項15】
前記減衰要素(50)のダンパ・ロッド(52)が、前記後退デバイス(10)の静止要素(33)と相互作用することを特徴とする、請求項14に記載の引き出し機構。
【請求項16】
前記静止要素(33)が、前記スライド部(40)の前記後退方向に配設されることを特徴とする、請求項15に記載の引き出し機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き出し機構のための後退デバイスであって、この引き出し機構の内部レールに一時的に連結するために後退/前進方向に可動である、ばねで留められたスライド部を有し、このスライド部が、ガイドの中で後退/前進方向に対して横断方向に可動である制止ラッチ・ボルト(blocking latch bolt)によって、後退位置で制止させることができ、内部レールに連結するためのスライド部が、後退/前進方向に対して垂直となるように、且つ、制止ラッチ・ボルトの運動方向に対して垂直となるように方向付けられた軸の周りを枢動可能である少なくとも1つの枢軸要素を有する、引き出し機構のための後退デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
家具キャビネットに装備するための固定レール要素と、前記固定レール要素に取り付けられた少なくとも1つの可動レール要素とを備えた、引き出し機構が知られている。最も内側の可動レール要素である内部レールは、家具の前進可能部分に定着される。引き出し機構の長さ及び前進長に応じて、さらなる可動レール要素を、固定レール要素と内部レールとの間に配設してもよく、前記さらなる可動レール要素は、入れ子方式で相互作用する。レール要素は、例えばボールガイド又はローラーガイドによって、互いに取り付けられる。
【0003】
一般的に、引き出し機構は、前進可能な家具パーツを取り付けることに適している。簡単にするために、前進可能な家具パーツは、以下では各ケースで「引き出し」という用語を使用する。しかし、説明される後退デバイスは、基本的に様々な前進可能な家具パーツに適している。通常は、各ケースで、1つの機構が1つの引き出しに配設される。
【0004】
引き出し機構の後退デバイスは、引き出しが挿入されるときに、引き出しをその最終位置まで自動的に誘導する。それによって、引き出しの動作の容易性が改善され、閉めるときの雑音の発生を最小限に抑えることができる。公知の後退デバイスは、内部レールを付けて、内部レールを、閉じる運動の距離の一部に沿って、後退デバイスの待機位置から閉めた状態に誘導する。
【0005】
例えば、内部レールと相互作用するラッチが回転可能で配設されている可動スライド部を備える、後退デバイスが、DE112008001880T5(Accuride International Inc.)で知られている。
【0006】
互いに上下に配設された複数の引き出しを有する家具のアイテムの場合、具体的には複数の引き出された重い引き出しによって傾く危険、並びに使用者の体の一部が挟まれることによる怪我の危険を避けるために、複数の引き出しが同時に引き出されることを防止することが多い。これに関係して、制止ラッチ・ボルトが提供されることが知られており、この制止ラッチ・ボルトは引き出し機構に連結されて、1つの引き出しがすでに完全に、又は部分的に引き出されているときに、別の引き出しが引き出されるのを防ぐ。
【0007】
DE102012109751A1(Paul Hettich GmbH&Co.KG)では、後退デバイス又は放出デバイスがそれぞれ作動され得ることによって、位置換え可能に取り付けられた、エントレインメント要素(entrainment element)を含む、自動後退デバイス又は放出デバイスを有する引き出し機構を記載している。この目的のため、アクティベータが、エントレインメント要素と相互作用する。このアクティベータは、内部レールの表端部に差込み嵌合された、クロージャの止め具に配設される。更にエントレインメント要素は、互いの上に配設された複数の引き出しを係止、及び係止解除するための、係止ストリップに係合するピンを有する。
【0008】
この機構は、多くのパーツを有する複雑な構造を有する。機構のために準備された、予め定められた機構上の要件の場合、それに対応して高い製造コストとなる。この構造は、放出機能のない実施例には適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】DE112008001880T5
【文献】DE102012109751A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、最初に記述した技術分野に関連して、簡易な方法で構築され、且つ機械的に堅牢である後退デバイスを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
目的の実現は、請求項1の特徴によって定義される。本発明によれば、枢軸要素及びガイドが、制止位置の制止ラッチ・ボルトが枢軸要素の枢動運動を制止するような方法で配設される。
【0012】
必要な要素、具体的には制止ラッチ・ボルト及び枢軸要素の他には、別の構成要素は必要としない。そのために、簡単な構造となる。そこから、低コスト及び高い機械的な安定性がもたらされる。
【0013】
後退デバイスは、詳細には固定レール要素に装備される。スライド部に連結されたばね手段は、直線的に動く単一のコイルばねか、円弧に沿って180°曲げられたコイルばねか、又は平行に配設された複数のコイルばねであってよい。例えば、螺旋ばね又はトーションばねなど、他のばね手段も考えられる。
【0014】
内部レールと枢軸要素との間の相互作用は、詳細には、突起部、ピン、又は内部レールの自由端部の領域に配設された空隙などの要素によって実施される。枢軸要素の外形は、これらの要素の外形に適合される。内部レール上の要素は、この内部レールと一体化するよう、又はこの内部レールに固定若しくは解放可能に定着されるよう、構成することができる。
【0015】
すでに記述したように、枢軸要素は、後退/前進方向に対して垂直になるように、且つ、制止ラッチ・ボルトの運動方向に対して垂直になるように方向付けられた軸の周りを枢動可能である。すなわち、この枢動軸は、引き出し機構のレールの主面に対しても垂直である。
【0016】
制止ラッチ・ボルトは公知の方法で、詳細には制止バーに定着される。隣接する引き出しと相互作用する、別の制止ラッチ・ボルトは、制止バーの他方の端部に定着される。1つの引き出しが開かれたとき、この引き出しの後退デバイスと相互作用する制止ラッチ・ボルトは、後退デバイスから押し出され、それによって隣接する引き出しの後退デバイスの中に押し込まれるため、隣接する引き出しの前進が防止される。
【0017】
枢軸要素は、好ましくは保持部を有し、前進運動において内部レールと相互作用する。本明細書の枢軸要素は、保持位置に対して解放位置にある保持部が、スライド部の長手方向中心軸の方向に枢動するように、スライド部に取り付けられる。引き出しの後退手順の間の保持部は、次の引き出しを引き出す距離の一部に沿って、内部レールと後退/前進方向のスライド部との間を、ぴったりと連結させる。そのため、自動前進のためにスライド部に作用するばね力は、内部レールに伝達され、再び引き出しを開ける際に加えられる開ける力は、スライド部に伝達され、それによってばね手段は再び引っ張られる。距離の一部は、枢軸要素が解放位置に到達したときに終端する。この位置にあるスライド部は、公知の方法で、枢軸要素によって静止要素に係止される。このスライド部は、引き出しの挿入において枢軸要素が次に内部レールに接触すると、後退方向にしか再び動くことができない。
【0018】
記述したスライド部への枢軸要素の取り付けにより、特に制止ラッチ・ボルトが、枢動軸に対して保持部の反対側に位置された枢軸要素の領域と相互作用できるという点で、制止ラッチ・ボルトは、枢軸要素と簡易な相互作用することを可能にする。したがって、枢動軸の両側の枢軸要素の個々のレバー部は、比較的短く構成することができ、機械的な安定性に貢献する。
【0019】
或いは、枢軸要素は、解放位置にある保持部が外側に枢動されるように、すなわち、スライド部の長手方向中心軸から離れるように、スライド部に取り付けてよい。この場合、枢軸要素と制止ラッチ・ボルトとの間の相互作用は、保持部のレバー側か、又は制止ラッチ・ボルトの運動を逸らすための対応する機構によるか、のいずれかで実施される。
【0020】
枢軸要素は、有利には、偏心的に配設された(すなわち枢軸要素から離された)カム・ピンを有する。このカム・ピンは、スライド部の後退/前進方向の動きにおける、枢動運動を制御するために、静止湾曲部と相互作用する。本コンテキストにおける「静止」は、湾曲部がスライド部と連帯して動かないことを意味する。カム・ピンと湾曲部との間の相互作用は、枢軸要素を特に確実に、正しい位置の解放位置に到達させる。更にこの相互作用は、上述の静止要素上の係止にも役立つことがある。詳細には、後退位置から続く湾曲部は、回転しない枢軸要素が前進方向にスライド部と連帯して動かされる軸部と、解放位置への枢軸要素の回転が実施される傾斜部と、特に後退/前進方向に対して垂直に作動し、カム・ピンがスライド部を係止するために支持される部分を形成する係止部と、を有する。
【0021】
基本的に、枢軸要素の動きを制御することは、例えば(静止)ラック及び枢軸要素に連結されたピニオンによる、別の方法で実施されてもよい。
【0022】
静止湾曲部の一部は、好ましくは弾性の境界壁を有し、それによって、後退デバイスの後退位置にある内部レールは、挿入する力を上回ることによって、スライド部に連結することができる。これは、枢軸要素の保持部が一時的に枢動され、カム・ピンが、弾性の境界壁を一時的に変形させることができるためである。この機能は、何らかの理由で後退デバイスが後退位置にあるが、内部レールを有する引き出しが元々開いているときに、必要である。これは、組み立て時、又は誤った操作後に関する場合にあり得る。記述した手順のため、内部レールを、単に引き出しを挿入することによる想定された方法で、後退デバイスに再び連結させることが可能である。
【0023】
後退デバイスは、好ましくは後退/前進方向に直線的に可動であるようにスライド部が取り付けられた、ガイド・レセプタクルを備える。ガイド・レセプタクルは、固定レール要素と一体のパーツであってもよい。しかし、有利には、このガイド・レセプタクルは、例えばラッチ接続によって固定レール要素に定着できる、追加の構成要素である。詳細には、固定レール要素はU型の断面を有し、ガイド・レセプタクルは、固定レール要素のベースにおいて2つの脚部間に画定された空間内に受け取られる。
【0024】
静止湾曲部は、好ましくはガイド・レセプタクル上に構成される。それによって、簡単且つ機械的に安定した構造がもたらされる。
【0025】
枢軸要素は、有利には、作動部を有し、後退運動において内部レールと相互作用する。この作動部は、引き出しを挿入したときに、内部レール(又は、この内部レールにそれぞれ配設された接触要素)に接触し、それによってスライド部は、その軸方向の係止から解放される。枢軸要素の保持部は、内部レール(又はこの内部レールにそれぞれ配設された接触要素)と同時に係合し、それによって内部レールは(引き出しと連帯して)、スライド部と連帯したばね作用によって、後退方向に後退位置まで移動させられる。したがって、作動部及び保持部はレセプタクルを形成し、それらの間に、枢軸要素と相互作用する内部レールの要素は、後退運動の間に受け取られ、引き出されるときは記述した距離の一部に沿って受け取られる。
【0026】
或いは、このタイプの作動部は存在しない。この場合、開放は、例えば内部レールとスライド部との間の直接の接触によって生じる。
【0027】
枢軸要素は、好ましくは、制止位置において制止ラッチ・ボルトと相互作用する、制止部を有する。この制止部は、制止ラッチ・ボルトと、確実且つ機械的に信頼できる相互作用をもたらすよう、寸法が決められる。
【0028】
制止部は、有利には、制止位置において制止ラッチ・ボルトの自由端部の背部で係合する、突出部を備える。この突出部は、例えば制止ラッチ・ボルトに接続する制止バーの熱収縮によって生じ得るような、例えば制止機構内の材料公差によって、制止ラッチ・ボルトが外側に僅かにずらされたときでさえ、枢軸要素の枢動運動を妨げる。したがって枢動は、閉位置から続く第1の運動部分の間、制止ラッチ・ボルトが完全に挿入されていない場合でも、確実に防止される。これは、閉位置にある枢軸要素が、湾曲部の弾性の境界壁によって(又は他の理由で)、当初は連結されていない内部レールの導入を可能にするよう枢動可能である場合に、特に重要である。枢動運動が妨げられない場合、制止された後退デバイスの内部レールが、特定の力を上回ることによって、再びスライド部から解放されること、及びそれにかかわらず引き出しを開けることが可能となる。
【0029】
スライド部は、有利には、制止位置において制止ラッチ・ボルトと相互作用する、制止面を有する。したがって、制止ラッチ・ボルトを挿入することによって、スライド部が開く方向に動くのを防ぐ。
【0030】
スライド部の後退状態における制止部及び制止面は、好ましくは、制止ラッチ・ボルトのレセプタクルを連帯して形成する。このレセプタクルは、スライド部の長手方向中心軸の方向にテーパーが付いている。このレセプタクルは、詳細には、実質的に三角形又は台形となるよう構成される。これによって、スライド部(及び枢軸要素)に作用する前進力を、後退/前進方向に対して横断方向に導かれて制止ラッチ・ボルトに作用する放出力に変換できる。
【0031】
枢軸要素の保持部は、有利には、内部レールに面したスライド部の第1の側に配設され、枢軸要素の制止部は、第1の側の反対側のスライド部の第2の側に配設される。スライド部は、詳細にはベース・プレートを備え、その上でスライド部の別の構成要素が配設され、任意で取り付けられる。枢軸要素の領域のベース・プレートは、枢軸要素を通して突出する枢軸要素の部分である、ブレイクアウト部(breakout)を備える。制止部の他に、カム・ピンも、詳細には静止湾曲部に面した第2の側に位置される。
【0032】
或いは、保持部並びに制止部の両方は、同じ側、詳細には内部レールに面した、スライド部の側にある。
【0033】
2つの枢軸要素は、好ましくは、スライド部の長手方向中心軸に対して対称となるよう配設される。そのため、より均一な力の伝達を実現することができ、この伝達された力は、空隙のある2つの接触面に更に分配される。スライド部、したがって後退デバイスに作用する、内部レールからの偏心的な作用力によるトルクは、対称的な配置によって互いに実質的に相殺される。
【0034】
或いは、1つのみの枢軸要素が存在する。2つより多い枢軸要素が提供されることも可能である。
【0035】
後退デバイスは、有利には、スライド部に受け取られる減衰要素を有する。減衰要素は、詳細には流体ダンパとして構成される。この減衰要素は、好ましくは、減衰を軸方向に細長い位置に動かす、ばねを有する。
【0036】
減衰要素は、比較的遅い後退運動を可能にする。完全な閉鎖の際の大きい衝撃、及びそれに関する雑音の発生が防止される。手の指を挟むことによる怪我の危険性が、同様に最小限に抑えられる。
【0037】
減衰要素のダンパ・ロッドは、好ましくは、後退デバイスの静止要素と相互作用する。これによって、簡単な構造が可能となる。静止要素は、詳細にはスライド部のガイド・レセプタクルであってもよい。
【0038】
静止要素は、有利には、スライド部の後退方向に配設される。したがって、ダンパは、1つの領域で静止要素と相互作用する。この静止要素は、内部レールとの相互作用領域の反対側にある。したがって、それぞれの相互作用は、互いに妨害しない。
【0039】
1つの好ましい実施例において、後退デバイスは以下を備える。
a)引き出し機構の内部レールと一時的に連結するスライド部。
b)後退/前進方向に直線的に可動であるようにスライド部が取り付けられたガイド・レセプタクル。
c)スライド部とガイド・レセプタクルとの間に配設され、スライド部に、ばねの力によって後退方向に作用する、ばね手段。
d)スライド部の長手方向中心軸に対して対称となるように、スライド部に配設され、後退/前進方向に対して垂直になるように、且つ、制止ラッチ・ボルトの運動方向に対して垂直になるように方向付けられた軸の周りを枢動可能な、2つの枢軸要素。
e)枢軸要素の枢動運動を制御するための1つのカム・ピンが、枢軸要素に偏心的に配設される各ケースにおいて、相互作用するためガイド・レセプタクルに構成される、2つの湾曲部。
【0040】
本明細書のスライド部は、制止位置にある制止ラッチ・ボルトが枢軸要素の枢動運動を制止するため、後退/前進方向に対して横断方向に位置調整可能な制止ラッチ・ボルトによって、後退位置において制止され得る。
【0041】
さらなる有利な実施例及び本発明の特徴の組み合わせが、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲の全体から導出される。
【0042】
例示的な実施例を説明するために図面を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】部分的に前進位置にある、本発明による後退デバイスを有する引き出し機構を示す図である。
【
図2】後退位置にある、引き出し機構を示す図である。
【
図3】後退位置にある、本発明による後退デバイスの背面図である。
【
図4】後退位置にある、本発明による後退デバイスの第1の断面図である。
【
図5】後退位置にある、本発明による後退デバイスの第2の断面図である。
【
図6】待機位置にある、本発明による後退デバイスの背面図である。
【
図7】待機位置にある、本発明による後退デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
基本的に、図中の同一のパーツには、同じ参照符号が提供される。
【0045】
図1は、部分的に前進位置にある、本発明による後退デバイスを有する引き出し機構を示す図である。
図2は、後退位置にある、引き出し機構を示す図である。引き出し機構1は、外側レール2、中央レール3、及び内部レール4を備え、これらのレールは互いに入れ子式となるよう取り付けられる。この目的のため、ローラー・ベアリング5、6が、外側レール2と中央レール3との間、並びに中央レール3と内部レール4との間に、公知の方法で配設される。したがって3つのレールは、少ない抵抗で直線的に、相互に位置を動かすことができる。3つのレールの全ては、板金から実質的にU型の輪郭で各々形成される。本明細書の中央レール3は、外側レール2の脚部間に完全に受け取られ、次に内部レール4は、中央レール3の脚部間に完全に受け取られる。
【0046】
本発明による後退デバイス10は、外側レール2の自由端部に配設される。この後退デバイス10は、更に
図3~
図7に関連して詳細に説明する。2つの制止ラッチ・ボルト21、22は、引き出し機構1の主面における後退/前進方向に対して垂直に、直線的に移動できるよう後退デバイス10に取り付けられ、一方で後退デバイス10と相互作用する。後退デバイス10に面して、内部レール4の端部に配設された接触片7は、他方で後退デバイス10と相互作用する。この接触片は、プラスチック材料から作られ、ラッチ接続によって内部レール4の端部に配設される。この接触片は、外側レール2に面する側に2つの保持カム7a、7bを有する(
図5も参照)。
【0047】
以下で更に詳細に説明するように、後退デバイス10の後退位置における制止ラッチ・ボルト21、22は、それらの自由端部によって、後退デバイス10と係合し、且つ、後退デバイス10と相互作用する。制止ラッチ・ボルト21、22は反対側端部で、制止バーに固定して接続される。制止バーは、その他方の端部において、隣接する引き出しの後退デバイスと相互作用する別の制止ラッチ・ボルトに接続される。最上部又は最下部の引き出しは、それぞれすぐ下又はすぐ上の引き出しに面する側の1つの制止ラッチ・ボルトのみと、それぞれ相互作用する。制止ラッチ・ボルトを有する制止バーは、垂直に方向付けられ、直線ガイドに沿って自由に可動できる。それぞれの下方の後退デバイスが、後退位置に位置される限り、制止バーに接続された制止ラッチ・ボルトは、重力の影響で、後退デバイスの中に動くことになり、一方で同じ制止バーに装備された上方の制止ラッチ・ボルトは、それぞれの上方の後退デバイスから出される。
【0048】
図3~
図5は、後退位置にある、本発明による後退デバイスを示す。
図3は背面、
図4は引き出し機構の主面に平行な第1の断面、及び
図5はこの主面に平行な第2の断面を示す。本明細書の
図4による第1の断面は、制止ラッチ・ボルト21、22の面で切られている。
図5による第2の断面は、内部レール4の保持カム7a、7bと相互作用する枢軸要素の面で切られている。したがって第1の断面は、
図3に示す背面側と第2の断面との間で切られている。
【0049】
後退デバイス10は、ガイド・レセプタクルを形成し、U型の外側レール2の脚部間で受け取られるハウジング30を備える(
図4、
図5参照)。ハウジング30はポリマーから作られ、その弾力性により、クリップ嵌合接続によって外側レール2に保持される。ハウジング30は、側方開口部31、32を有し、側方開口部31、32は、ハウジング30が装備された状態において、外側レール2の2つの脚部における開口部2a、2bに対応する。開口部31、32はハウジング30の口部分に構成された後退デバイス10を、外側レール2の軸方向に更に固定する。
【0050】
ハウジング30は同様に、実質的にU型断面を有する。長手方向の溝は、ベースと、このベースから直交して突出する2つの脚部との間の推移部に構成される。スライド部40のガイド部分は、この長手方向の溝で直線的に可動であるよう取り付けられる。それによってスライド部40は、後退/前進方向でハウジング30に対して動くことができる。
【0051】
スライド部40は、減衰要素50(
図5参照)のレセプタクル41を備え、このレセプタクル41はスライド部40の中心線に沿って延びる。このレセプタクルは、矩形のベース領域、及びほぼ正方形の断面を有し、それによって円筒形の減衰要素50の主本体51を受け取ることができる。内部レールに面する端部におけるレセプタクル41は、支持面42を有し、その上で減衰要素50の主本体51の背面端部が支持される。反対側の端部におけるレセプタクル41は、通路開口部43を有し、通路開口部43を通して減衰要素50のダンパ・ロッド52が入ることができる。
【0052】
減衰要素50は、公知の流体ダンパであり、そのダンパ・ロッド52は、ばねによって前進位置まで予め張力を与えられる。組み立てられた位置にあるダンパ・ロッド52は、ハウジング30上の戻り止め部33と接触する。この戻り止め部33は、弧状のたわみ要素34の内側に構成される。両端部がスライド部40の定着ピン44a、44bに定着された、コイルばね60(
図5参照。より明確にするために破線によってのみ示す)が、このたわみ要素34の周りに延び、このコイルばね60は、たわみ要素34上をスライドするように取り付けられる。そのためスライド部40には、常に予め張力を与えられたコイルばね60によって、後退方向の力が作用する。
【0053】
2つの枢軸要素45、46が、後退デバイス10の主面に対して垂直に方向付けられた軸の周りを枢動できるよう、スライド部40のベース・プレートに取り付けられ、且つ、後退デバイス10の長手方向中心軸に対して対称となるよう配設される(
図4、
図5参照)。本明細書の後退/前進方向の軸は、制止ラッチ・ボルト21、22の中心軸の正面に、すなわち制止ラッチ・ボルト21、22よりも内部レール4に近づくように位置される。枢軸要素45、46は、枢動軸の前で、内部レール4に面して位置された正面部分45a、46aと、枢動軸の後ろで、対応する制止ラッチ・ボルト21、22に面して位置された背面部分45b、46bとを備える。正面部分45a、46aは、スライド部40のベース・プレートのブレイクアウト部に受け取られ、一方で背面部分45b、46bはベース・プレートの背面側に位置される。
【0054】
図4に図示した面における枢軸要素45、46の背面部分45b、46bは、対応する制止ラッチ・ボルト21、22の自由端部のためのレセプタクル45c、46cを有する。レセプタクル45c、46cの外形は、制止ラッチ・ボルト21、22の外形と適合される。したがってレセプタクル45c、46cは、挿入された制止ラッチ・ボルト21、22の後ろに係合できる突出部45d,46dを含む凹型形状を有する。枢軸要素45、46の背面部分45b、46bが制止ラッチ・ボルト21、22と相互作用できる、同一面のスライド部40は、斜形の相互作用面49a、49bを有する。本明細書の、突出部45d、46d並びに相互作用面49a、49bの領域における、レセプタクル45c、46cの両方は、後退デバイス10の長手方向中心軸に対して45°の角度をもつ。
【0055】
正面部分45a、46aの領域における、背面側の枢軸要素45、46は、ガイド・ピン45e、46eを有する。このガイド・ピン45e、46eは、後退デバイス10のハウジング30に構成されたガイド湾曲部35、36と相互作用する。ガイド湾曲部35、36は、枢軸要素45、46及びガイド・ピン45e、46eと類似の方法で、後退デバイス10の長手方向中心軸に対して対称となるよう構成される。このガイド湾曲部35、36は、実質的に軸方向(したがって後退/前進方向)となるよう延びた、背面部35a、36aと、ガイド湾曲部35、36に正面で接合(したがって内部レール4の方向)して長手方向中心軸に向かって斜めにテーパーが付いた、部分35b、36bと、やはり正面に接合して長手方向中心軸を横断して延びた部分35c、36cと、を有する。背面部35a、36aの内側で側方の境界、したがって後退デバイス10の長手方向中心軸に近づく側方の境界は、弾力性のある内側の舌部35d、36dによって形成される。
【0056】
制止ラッチ・ボルト21、22は、実質的に矩形の断面を有する。自由端部の領域における制止ラッチ・ボルト21、22の幅は、枢軸要素45、46と相互作用する面で減少し、そのためこの領域で対称形の台形となる。枢軸要素45、46の後ろの面における制止ラッチ・ボルトは、更に内側に延び、その自由端部における制止ラッチ・ボルトはステップ形状を有し、それによって、制止ラッチ・ボルト及び制止バーに沿って作用する力は、後退デバイス10の一方の側から他方の側に伝達され得る(
図3参照)。
【0057】
スライド部40の主本体の前の面における枢軸要素45、46は、レセプタクル45f、46fを有する(
図5参照)。このレセプタクル45f、46fは、外側に向けて開いており、すなわち後退デバイス10の長手方向中心軸から離れるような方向に開いており、内部レール4に面する側において、保持部45g、46gによって境界を定められ、内部レール4から離れる側において、作動部45h、46hによって境界を定められる。
【0058】
図6は、本発明による後退デバイスの背面図である。
図6は、
図3のよる図に対応するが、デバイスは待機位置に位置されている。
図7は、待機位置にある本発明による後退デバイスの断面図である。この例示は、別の状況で
図5に対応している。後退デバイス10の機能は、
図3~
図7によって以下で説明する。
【0059】
図3~
図5において後退位置にある2つの枢軸要素45、46は、ガイド・ピン45e、46eと、ガイド湾曲部35、36との間の相互作用によって、枢軸要素45、46の正面部分45a、46aを介して外側に枢動し、内部レール4の保持カム7a、7bが、レセプタクル45f、46fの保持部45g、46gの後ろで受け取られる。次にそれぞれの引き出しが引き出されると、前進運動は内部レール4に直接伝達される。保持部45g、46gを介して内部レール4に固定して配設された保持カム7a、7bは、枢軸要素45、46、したがってハウジング30によって形成されたガイドに沿ったスライド部40を移動させる。本明細書のガイド・ピン45e、46eは、ガイド湾曲部35、36に誘導される。コイルばね60が引き出されるとき、より(更に)張力を与えられる。減衰要素50のダンパ・ロッド52は、減衰要素50に一体化されたばねによって、ダンパ・ロッド52の自由端部が戻り止め部33に各ケースにおいて再び影響を与えるまで、延ばされる。引き出しを急激に引き込む場合、ダンパ・ロッド52は断続的に戻り止め部33との接触を維持しなくなることがある。これは、前進運動に関しては関連しない。しかし、それぞれの配置によって、大きい力の発生が減衰要素に伝達されて、減衰要素を損傷させる可能性が避けられる。
【0060】
ガイド・ピン45e、46eが背面部35a、36aから離れ、中央部35b、36bに誘導されると直ぐに、枢軸要素45、46の枢動運動が、ガイド・ピン45e、46eのテーパーが付いた外形によってもたらされる。保持部45g、46gは、内側に、後退デバイス10の長手方向中心軸に向かって着実に枢動される。しかし、内部レール4の保持カム7a、7bの開放は、ガイド・ピン45e、46eが長手方向中心軸に対して横断して延びる部分35c、36cの中に、1度伝達されたときのみ実施される。内部レールは、保持カム7a、7bの開放によって、後退デバイス10から離される。それによって到達した、待機位置にあるガイド・ピン45e、46eは、横方向に延びる部分35c、36cの後方の面に保持される。したがって、コイルばね60は張力を保ち、スライド部40は到達した位置にとどまる。減衰要素50のダンパ・ロッド52は、細長い位置に位置され、ダンパ・ロッド52の自由端部は、後退デバイス10のハウジング30における戻り止め部33に接触する。
【0061】
次に
図6及び
図7で設定された待機位置は、引き出しが再び閉じられるまで維持され、これに関連して保持カム7a、7bは、スライド部40の枢軸要素45、46と再び接触する。本明細書の保持カム7a、7bは当初、枢軸要素45、46の作動部45h、46hに接触している。当初スライド部40が軸方向にしっかり保持されている場合、枢軸要素45、46は外側に枢動し、それによってガイド・ピン45e、46eはガイド湾曲部35、36の中心部35b、36bに入り、枢軸要素の保持部45g、46gは、保持カム7a、7bの後ろで軸方向に再び係合する。ガイド湾曲部の中心部及び背面部35b、35a、36b、36aは、コイルばね60によって生じる、スライド部40の前進運動を可能にする。この前進運動において、内部レール、したがって引き出し機構全体が移動される。この運動は、スライド部40とハウジング30との間に配設された減衰要素50によって減衰させられる。この運動は、スライド部40の背面端部を介して、スライド部40がストローク終端面(stroke-termination face)61a、61b(
図4参照)の領域のハウジングに当たったときに終わる。枢軸要素45、46は、ガイド湾曲部35、36とガイド・ピン45e、46eとの間で相互作用することによって、後退位置にある枢軸要素45、46が枢動した位置まで、再び戻る。
【0062】
組み立て手順に関係した後退デバイス10、又は後退位置に位置されたが内部レールが後退デバイス10に接続されない、誤った操作後の後退デバイス10において、
図3~
図5による当初の状態が、簡単な方法で実現され得る。この目的のため、内部レールは(引き出しを挿入することによって)後退デバイス10に向かって動かされる。本明細書の保持カム7a、7bは、保持部45g、46gの正面側と接触する。保持部45g、46gは、保持部45g、46gが内側に押され、本明細書では、対応する枢軸要素45、46の枢動運動を、保持カム7a、7bが保持部45g、46gを通過するまで生じさせるような形状である。次に保持部45g、46gは、保持カム7a、7bが所望の方法でレセプタクル45f、46fに受け取られるよう、跳ね返る。この手順の場合の、枢軸要素45、46の対応する枢動運動は、ガイド湾曲部35、36の背面部35a、36aの内側において境界を定める、弾力性のある舌部35d、36dによって可能となる。更に、弾力性のある舌部35d、36dは、保持カム7a、7bが通過した後、保持部45g、46gを確実に跳ね返す。
【0063】
図3~
図5による後退位置にある制止ラッチ・ボルト21、22を、後退デバイス10の中に動かすことができる。制止ラッチ・ボルト21、22の正面端部は、当初は対応する枢軸要素45、46のレセプタクル45c、46cの中に受け取られる。制止ラッチ・ボルト21、22の各々は、基本的に直線的に自由に動くことができる。これは、互いの上にある複数の引き出しのうちのどれもが開いていない場合である。この場合、後退デバイス10に設けられた引き出しは、容易に開けることができる。当初は後退デバイスの中に動かされた制止ラッチ・ボルト、詳細には、後退デバイス10の上に重力によって配設された制止ラッチ・ボルト21は、中に入った位置に位置され、本明細書ではスライド部40の対応する相互作用面49a、49bが、着実に後退デバイス10から出される。
【0064】
したがって、制止ラッチ・ボルト21、22と制止バーとの、ステップ形状を介した効果的な方向での接続により、互いに上に配設された複数の引き出しのうちの1つだけが、いつでも開けられるようになる。別の引き出しの後退デバイスは、制止ラッチ・ボルト及び制止バーを介して制止され、それによって対応する別の引き出し機構はもはや引き出すことができない。
【0065】
すでに開けられている別の引き出しによって、制止ラッチ・ボルト21、22のうちの1つが制止位置に位置されたとき、制止ラッチ・ボルト21、22は、制止ラッチ・ボルト21、22の直線運動方向に動かすことはできない。後退デバイス10の前進運動、したがって保持カム7a、7bの開放は、制止ラッチ・ボルト21、22と対応する枢軸要素45、46との相互作用によって防止される。突出部45d、46dを介した枢軸要素45、46の形状によって、これは、制止ラッチ・ボルト21、22が、製造公差又は熱影響によって、レセプタクルの端部まで完全には到達しない場合でも確保される。この場合でも、制止ラッチ・ボルト21、22のテーパーが付いた領域は、任意でスライド部40の最小限の軸方向運動の後で、広い範囲にわたって突出部45d、46dの境界を定める面と相互作用し、いかなる枢動運動も防止する(さもなければ、これは基本的にはガイド湾曲部の弾力性のある舌部によって可能となる)。
【0066】
本発明は、示した例示的な実施例に限定されない。具体的には、後退デバイスの個々の要素の外形も、異なるように設計され得る。
【0067】
要するに、本発明が、簡単に構成されて機械的に堅牢である後退デバイスを実現することが、記載されている。