IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツクス−プランク−ゲゼルシヤフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシヤフテン エー フアウの特許一覧 ▶ ルートヴィヒ−マクシミリアンズ−ウニヴェルズィテート ミュンヘンの特許一覧

特許7162611時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置
<>
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図1
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図2
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図3
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図4
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図5
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図6
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図7
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図8
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図9
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図10
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図11
  • 特許-時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】時間領域赤外分光法(電界分解振動分光法)による試料の分極応答の変化を測定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/35 20140101AFI20221021BHJP
   G01N 21/21 20060101ALI20221021BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20221021BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
G01N21/35
G01N21/21 Z
G01N21/65
G02F1/39
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2019552557
(86)(22)【出願日】2017-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2017056705
(87)【国際公開番号】W WO2018171869
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-01-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】512247223
【氏名又は名称】マツクス-プランク-ゲゼルシヤフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシヤフテン エー フアウ
【氏名又は名称原語表記】MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT ZUR FOeRDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
【住所又は居所原語表記】Hofgartenstrasse 8,80539 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(73)【特許権者】
【識別番号】307033855
【氏名又は名称】ルートヴィヒ-マクシミリアンズ-ウニヴェルズィテート ミュンヘン
【氏名又は名称原語表記】LUDWIG-MAXIMILIANS-UNIVERSITAET MUENCHEN
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,フェレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ファタヒ,ハニー
(72)【発明者】
【氏名】フーバー,マリヌス
(72)【発明者】
【氏名】プペツァ,ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ジグマン コールマイヤー,ミハエラ
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-88244(JP,A)
【文献】特開2016-173561(JP,A)
【文献】国際公開第2016/102056(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056522(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/74
G01J1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(1)の、特に生体試料の、分極応答を測定する方法であって、
- 一連の励起波(2)を生成する工程と、
- 前記試料(1)に前記一連の励起波(2)を照射する工程であって、試料主要パルスと試料グローバル分子フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の試料波(3)が生成されるように、前記励起波(2)と前記試料(1)との相互作用を伴う工程と、
- 参照試料(1A)に前記一連の励起波(2)を照射する工程であって、参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波(3A)が生成されるように、前記励起波(2)と前記参照試料(1A)との相互作用を伴う工程と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の双方に共通波寄与分から、前記試料波(3)と参照波(3A)の差分を、空間および/または時間において光学的に分離する工程と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の前記光学的に分離された差分を検出し、前記試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含む差分分子フィンガープリント(dMF)波(ΔEGMF)(4)の時間的振幅を決定する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
光学的に分離する前記工程は、前記試料波と参照波の干渉的合波(3、3A)で、前記共通の波寄与分から前記試料波(3)と参照波(3A)の前記差分を空間において光学的に分離することを含み、その結果、前記試料主要パルス参照主要パルスおよび前記試料と参照の双方にそれぞれ含まれる前記共通の波寄与分におけるGMF波寄与分干渉的相殺が生じ
- 前記dMF波は、前記試料波(3)と参照波(3A)の前記差分を電気光学サンプリングまたは光伝導サンプリングすることによって検出されるものである
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記干渉的相殺はマッハ・ツェンダー干渉計(40)を使用して得られるものであり、
- 前記励起波(2)は、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の入力ポート(41)に入力され、
- 調査対象の前記試料(1)は、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の干渉計アーム(42)に配置され、
- 前記参照試料(1A)は、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第2の干渉計アーム(43)に配置され、
- 前記dMF波は、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の出力ポート(44)に供給されるものである、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2の干渉計アーム(42、43)におけるビーム伝播経路長は、前記励起波(2)の搬送波波長の2分の1以内で等しく設定されるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記共通の波寄与分から前記試料波(3)と参照波(3A)の前記差分を時間において光学的に分離する前記工程は、前記参照波(3A)がそのフーリエ変換限界に向かって短縮されるように、前記試料(1)および前記参照試料(1A)を含むビーム経路における群遅延分散を設定することを含むものである、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記群遅延分散を設定する前記工程は、前記参照主要パルスの持続時間を短縮すること、および前記試料と参照の双方に含まれる前記共通の波寄与分の持続時間を短縮することを含むものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
- フーリエ変換限界パルス持続時間を有する前記励起波(2)を生成すること、および
- 前記励起波(2)および/または前記試料主要パルスおよび前記参照主要パルスに、前記ビーム経路に沿った任意の物質のパルス伸張効果を低減する分散補償を施すこと、
を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記分散補償は、
- 前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)に、負または正の分散を有する容器壁材を設けること、および/または
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)の前および/または後に、反射要素(52)によって負または正の分散を与えること
を含むものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ビーム経路に沿って導入された分散がパルス・チャープを補償するように、前記パルス・チャープを有する前記励起波(2)を生成することを含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項10】
前記パルス・チャープ補償は、
- 前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)に、前記パルス・チャープを相殺する分散を有する容器壁材を設けること、および/または
- 前記パルス・チャープが相殺されるように、前記試料(1)および前記参照試料(1A)の前および/または後に反射要素(52)による分散を与えること、
を含むものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)に反射防止被覆を設けることによって、および/または、前記試料(1)および前記参照試料(1A)を、前記励起波ビーム経路に対してブルースター角で配置することによって、前記試料(1)および前記参照試料(1A)を通るプローブ光透過率を最大化することを含む、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)は液体物質または固体物質を含み、
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)内での前記励起波(2)の相互作用長(l)は、l=2/25α乃至l=10/αの範囲で設定され、ここで、αは前記参照試料の吸収係数である、
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記試料波(3)および前記参照波(3A)、および/または前記dMF波(4)の光増幅を行う工程を含む、請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記光増幅はポンプ信号駆動型の光パラメトリック増幅を含むものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記試料(1)および前記参照試料(1A)における誘導ラマン散乱の検出を含む、請求項1乃至14のいずれかに記載の方法であって、
- 前記試料(1)には、一連の狭帯域ポンプ・パルス(7)および広帯域ストークス・パルス(2)または代替的に広帯域ポンプ・パルスおよび狭帯域ストークス・パルスが、同時に照射され、
- 前記励起波は前記広帯域ストークス・パルス(2)または代替的に前記広帯域ポンプ・パルスを含み、
- 前記試料GMF波および前記参照GMF波は、前記試料(1)および前記参照試料(1A)の振動ラマン応答によって増強された増強ストークス・パルス(8)、または代替的に前記試料(1)および前記参照試料(1A)の振動ラマン応答によって減少した前記ポンプ・パルスを含むものである、
方法。
【請求項16】
前記励起波(2)は、1ps以下の、特に300fs以下の、パルス持続時間を有するものである、請求項1乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記試料波(3)および前記参照波(3A)は電気光学サンプリングによってまたは光伝導サンプリングによって検出されるものである、請求項乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
試料(1)の、特に生体試料の、分極応答を測定する方法であって、
- 一連の励起波(2)を生成する工程と、
- 前記試料(1)に前記一連の励起波(2)を照射する工程であって、試料主要パルスと試料グローバル分子フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の試料波(3)が生成されるように、前記励起波(2)と前記試料(1)との相互作用を伴う工程と、
- 参照試料(1A)に前記一連の励起波(2)を照射する工程であって、参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波(3A)が生成されるように、前記励起波(2)と前記参照試料(1A)との相互作用を伴う工程と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の差分を検出し、前記試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含む差分分子フィンガープリント(dMF)波(ΔEGMF)(4)の時間的振幅を決定する工程と、
を含み、
- 前記試料波(3)および前記参照波(3A)、および/または前記dMF波は、光増幅されるものである、
方法。
【請求項19】
前記光増幅はポンプ信号駆動型の光パラメトリック増幅を含むものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
試料(1)の、特に生体試料の、分極応答を測定するための分光装置(100)であって、
- 一連の励起波(2)を生成するよう構成され、かつ、試料主要パルスと試料グローバル分子フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の試料波(3)が生成されるように、前記励起波(2)と前記試料(1)との相互作用を伴って、前記試料(1)に前記一連の励起波(2)を照射するよう構成され、かつ、参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波(3A)が生成されるように、前記励起波(2)と参照試料(1A)との相互作用を伴って、前記参照試料(1A)に前記一連の励起波(2)を照射するよう構成された、レーザ源装置(10)と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の双方に共通波寄与分から、前記試料波(3)と参照波(3A)の差分を、空間および/または時間において光学的に分離するよう構成配置された少なくとも1つの光学調整装置と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の前記光学的に分離された差分を検出し、前記試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含む差分分子フィンガープリント(dMF)波(ΔEGMF)(4)の時間的振幅を決定するよう構成配置された検出器装置(20)と、
を含む、分光装置。
【請求項21】
前記少なくとも1つの光学調整装置は、前記共通の波寄与分から前記試料波(3)と参照波(3A)の前記差分を空間において光学的に分離するよう配置され、およびマッハ・ツェンダー干渉計(40)を含み、
前記マッハ・ツェンダー干渉計は、
- 前記一連の励起波(2)が、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の入力ポート(41)に入力され、
- 調査対象の前記試料(1)が、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の干渉計アーム(42)に配置され、
- 前記参照試料(1A)が、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第2の干渉計アーム(43)に配置され、
- 前記dMF波が、前記マッハ・ツェンダー干渉計(40)の第1の出力(44)に供給される
ように構成され
前記検出器装置(20)は、電気光学サンプリングによってまたは光伝導サンプリングによって前記dMF波を検出するよう構成されているものである
請求項20に記載の分光装置。
【請求項22】
前記第1および第2の干渉計アーム(42、43)におけるビーム伝播経路長は、前記励起波(2)の搬送波波長の2分の1以内で等しく設定されるものである、請求項21に記載の分光装置。
【請求項23】
前記少なくとも1つの光学調整装置は、前記参照波(3A)がその前記フーリエ変換限界に向かって短縮されるように、前記試料(1)および前記参照試料(1A)を含むビーム経路における群遅延分散を選択するよう適合化されたものである、請求項20乃至22のいずれかに記載の分光装置。
【請求項24】
- 前記レーザ源装置(10)は、フーリエ変換限界パルス持続時間を有する前記励起波(2)を生成するよう構成され、
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)を含むビーム経路における群遅延分散が、前記ビーム経路に沿った任意の物質のパルス伸張効果が低減されるように選択される、
請求項23に記載の分光装置。
【請求項25】
- 前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)が、負または正の分散を有する容器壁材を有し、および/または
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)の前および/または後に負または正の分散を与えるよう構成された反射要素(52)が配置される、
請求項24に記載の分光装置。
【請求項26】
前記レーザ源装置(10)は、前記ビーム経路に沿って導入された分散がパルス・チャープを補償するように、前記パルス・チャープを有する前記励起波(2)を生成するものである、請求項23に記載の分光装置。
【請求項27】
- 前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)は、前記パルス・チャープを相殺する分散を有する容器壁材を有し、および/または
- 前記パルス・チャープが相殺されるように前記試料(1)および前記参照試料(1A)の前および/または後に分散を与えるよう構成された反射要素(52)が配置される、
請求項26に記載の分光装置。
【請求項28】
前記試料(1)の試料容器(51)および前記参照試料(1A)の参照容器(51A)に反射防止被覆が設けられ、および/または、前記試料(1)および前記参照試料(1A)は前記励起波ビーム経路に対してブルースター角で配置されるものである、請求項20乃至27のいずれかに記載の分光装置。
【請求項29】
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)は液体物質または固体物質を含み、
- 前記試料(1)および前記参照試料(1A)内での前記励起波(2)の相互作用長(l)は、l=2/25α乃至l=10/αの範囲で設定され、ここで、αは前記参照試料(1A)の吸収係数である、
請求項20乃至28のいずれかに記載の分光装置。
【請求項30】
前記試料波(3)および前記参照波(3A)のまたは前記dMF波(4)の光増幅を行うよう構成された光増幅装置を含む、請求項20乃至28のいずれかに記載の分光装置。
【請求項31】
前記光増幅装置はポンプ信号駆動型の光パラメトリック増幅装置(60)を含むものである、請求項30に記載の分光装置。
【請求項32】
前記試料(1)における誘導ラマン散乱を検出するよう構成されている、請求項20乃至31のいずれかに記載の分光装置であって、
- 前記レーザ源装置(10)は、前記試料(1)に、一連の狭帯域ポンプ・パルス(7)および広帯域ストークス・パルス(2)または代替的に広帯域ポンプ・パルスおよび狭帯域ストークス・パルスを、同時に照射するよう構成され、
- 前記励起波は前記広帯域ストークス・パルス(2)または代替的に前記広帯域ポンプ・パルスを含み、
- 前記試料GMF波および前記参照GMF波は、前記試料(1)および前記参照試料(1A)の振動ラマン応答によって増強された増強ストークス・パルス(3)、または代替的に前記試料(1)および前記参照試料(1A)の振動ラマン応答によって減少した前記ポンプ・パルスを含むものである、
分光装置。
【請求項33】
前記レーザ源装置(10)は、1ps以下の、特に300fs以下の、パルス持続時間を有する前記励起波(2)を生成するよう構成されているものである、請求項20乃至32のいずれか記載の分光装置。
【請求項34】
前記検出器装置(20)は電気光学サンプリングによってまたは光伝導サンプリングによって前記試料波(3)および前記参照波(3A)を検出するよう構成されているものである、請求項23乃至27のいずれかに記載の分光装置。
【請求項35】
試料(1)の、特に生体試料の、分極応答を測定するための分光装置(100)であって、
- 一連の励起波(2)を生成するよう構成され、かつ、試料主要パルスと試料グローバル分子フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の試料波(3)が生成されるように、前記励起波(2)と前記試料(1)との相互作用を伴って、前記試料(1)に前記一連の励起波(2)を照射するよう構成され、かつ、参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波(3A)が生成されるように、前記励起波(2)と参照試料(1A)との相互作用を伴って、前記参照試料(1A)に前記一連の励起波(2)を照射するよう構成された、レーザ源装置(10)と、
- 前記試料波(3)と参照波(3A)の差分を検出するよう構成配置された検出器装置(20)であって、差分分子フィンガープリント(dMF)波(ΔEGMF)の時間的振幅が、それぞれ前記試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含むよう決定される、検出器装置(20)と、
- 前記試料波(3)および前記参照波(3A)のおよび/または前記dMF波の光増幅を行うよう構成された光増幅装置(60)と、
を含む、分光装置。
【請求項36】
前記光増幅装置はポンプ信号駆動型の光パラメトリック増幅装置(60)である、請求項35に記載の分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光場励起(optical field excitation)に対する試料の分極応答(polarization response)、特に生体(生物)試料の分子の振動応答、および分極応答の変化を測定する方法に関する。その試料の分極応答は、時間領域における誘導試料分極によって放射される高速振動電界を直接サンプリングすることによって、電界(フィールド、場)分解分光法(field-resolved spectroscopy)によって測定される。さらに、本発明は、試料の、特に生体試料の、分極応答を測定するための分光装置に関する。
【0002】
本発明の適用例には、試料の物理的および化学的な特性/状態(条件)の変化の検出、特に生体試料の分子組成の変化の検出、が含まれる。可能な生体試料には、ヒトまたは動物の有機体に由来する気相、液相または固相の試料、特に生体有機体に由来する体液、組織および個々の細胞が含まれる。
【背景技術】
【0003】
分子は、生体有機体の最小の機能(官能)構成単位(ビルディング・ブロック)である。生物系には、非常に多様な分子の存在が必要である。それらの存在量は、有機体が適切に機能するための狭い範囲内で変化することが許容される。顕著な例として、細胞または血液は、数万個の様々な分子からなり、その濃度は身体の生理学的状態に依存する。従って、血液の個々の分子構成成分の存在量の実質的な変化は、異常な生理学の指標として役立つ。そのような変化は、病気の進行、治療に対するその反応および抵抗の検出およびその後の監視のための、および特定の障害に対する個人の感受性の評価のための、分子病理学の基礎として使用される。さらに、様々なタイプ(種類)の細胞の分子組成の相違は、細胞タイプ(例えば、幹細胞、等)を識別し、同じ1つの有機体に由来する複数の細胞を分類(選別、仕分け)するのに役立つ。
【0004】
濃度の相対的変化が最大である分子(新しく出現したものを含む)は、疾患のマーカとして適しており、または様々なタイプの細胞を互いに区別するのに適している。それらの僅かな一部は、抗体系(抗体ベース)のアッセイ(検定、解析)によって個々に識別できる。多数の分子を同時に検知するための通常の技術は、例えば、RNAシーケンシングおよび質量分析(個々の構成成分を検出する)および振動分光法(多数の検体からのグローバルな(全体的な、広範囲の)影響または効果の測定)である。これらの技術は、主に、観測されたシグナル(兆候)を支配する多量(高濃度)構成成分に敏感であり、多数の少量(低濃度)分子に対しては“無感である”(blind:分からない)。しかし、少量の分子の濃度の変化も非常に重要であり、その顕著な例は、例えばサイトカインであり、そのごく僅かな濃度変化でさえ広範な生理学的効果をもたらすことが知られている。少量の分子は、異常な生理機能によって生じる濃度の大きい相対的変化を伴う可能性ある多くの様々な分子の中の幾つかをたぶん組み込むであろう。従って、それらは、特に相関関係において、疾患マーキングまたは細胞識別/分類(選別)のいずれかに理想的に適している可能性があるであろう。これらの全ての潜在的な分子マーカは、これまでは分子病理学および細胞生物学にアクセスできなかった(近づけなかった)。結論として、これまでの分子病理学および細胞生物学における永続的な主要な課題は、複雑な混合物中の多量分子並びに少量分子の最小濃度変化の識別である。
【0005】
振動分光法によって、複数の原子核の平衡位置付近における複数の原子核の周期的振動によって誘導される複数の分子検体(標本)の分極応答に関連する情報が、捕捉される。何十年もの間、赤外分光法およびラマン分光法(以下で説明)は、これまでより広いスペクトル範囲にわたる分子振動の振幅応答を捕捉するために使用されてきた。対応する検体特有の情報は、慣例的に振動分子フィンガープリント(指紋)と称され、短く、分子フィンガープリントと称される。また、文献では、この名称は、特定の試料に一意的なフィンガープリント(スペクトル分極応答とも称される)を関連付けることを常に目的としているにもかかわらず、他の物理的観測物の文脈でも使用されてきたことに、留意されたい。複数の測定技術があるにもかかわらず、通常のフィンガープリント方法は、中程度の感度という弱点を有し、試料の分子組成の小さい変化の信頼性ある検出、および少量(低濃度)構成成分の信頼性のある検出を完全に妨げている。
【0006】
従来、分子フィンガープリントは、周波数領域において、自己相関(フーリエ変換分光法、FTS)によってまたはモノクロメータ/分光計の配置構成を用いることによってそのいずれかでスペクトル強度を(間接的または直接的に)捕捉して、測定される。試料をビーム経路に配置すると、試料の特定の特徴(特徴的性質)がこれらのスペクトル強度の変化に現れる。これによって次の2つの厳しい制約(制限)が生じる。第1に、発生源の強度ノイズによって、試料によって誘導される強度変化を検出するためのアプローチ(手法)/デバイス(装置)の能力が、損なわれる。第2に、高い強度は、その中でも小さい各変化を優先的に分解(解決)すべきものであり、高い(広い)ダイナミック・レンジを必要とし、その必然的に有限な値は電力規模(スケーリング、尺度、増減)に限界を設定する(を制限する)。その双方の効果は、試料の特性/状態の検出可能な最小の変化を制限するのに貢献する。
【0007】
ごく最近、赤外吸収分光法の検出限界について大きい進歩が達成された。それは、分子振動(またはより一般的には、構造ダイナミクス(動力学))の急激な(好ましくはフェムト秒の持続時間の)励起と、その急激な励起の結果として誘導偏光応答によって放出される高速に振動する電界の直接的な時間領域サンプリングとに基づいている。この電界サンプリングは、励起された振動の強度(振幅応答)と、外部トリガに反応するそれら(振動)の遅延(位相応答)との双方を捕捉し、電界分解分光法(FRS)と称されている。国際公開第2016/102056号に記載されているこの方式(スキーム)は、試料の特性/状態の、特に生体試料中の検体濃度の、小変化の検出感度を大幅に改善するが、多量な構成成分からの寄与分によって支配される信号を供給(配信)するという欠点に依然として悩まされており、さらに、その感度は、分子信号の前に検出器に入る超強力励起(excitation)パルスによって依然として損なわれる。以下では、FRSの基礎となる物理的原理が再検討され、本発明に有益な利点およびその限界が本発明によって解消(克服)されることが強調される。
【0008】
FRSの基礎となる物理的原理
国際公開第2016/102056号によるFRSでの分極応答の測定は同期(またはコヒーレンス)に基づくものであり、その同期を用いて、調査対象の試料1(図11、従来技術)の分子が、コヒーレント光励起波(excitation waves)2によって励起されたときに光波を放出し、それらの電界振動は時空間的に完全に同期している。結果として、同じタイプiの個々の分子からの放出は積極的に加えられ、その結果、電界Ei(t)を有する波が得られ、その強度は放射体(エミッタ、放出体)の数Niとともに増加する。試料1の全ての分子によって放射された波全体は、これらの部分波の全ての重合せであり、試料のグローバル分子フィンガープリント(GMF)と称されるものを、その電界の時間的変化の形態EGMF(t)で搬送する。“グローバル”という属性は、試料1のGMFが、全ての分子からの情報を原則として搬送するという事実を強調するものであり、その試料の構成成分の小さい部分集合に制限される、例えばバイオマーカに対するターゲット(標的を狙った)検索(targeted search)、とは対照的なものである(例えば、P. E. Geyer et al., "Cell Syst.", 2, 185 (2016)参照)。
【0009】
分子励起の存続時間(寿命)よりもはるかに短い急激な超短励起(excitation)波2(図11、A. Sommer et al., "Nature", 534, 86 (2016)も参照)で分子を衝撃的に励起すると、その結果として、次の2つの部分で構成される電界(試料波3)がその試料から得られる。その2つの部分は、試料の瞬間的な分極応答によって変調された励起(excitation)レーザ・パルス(以下、主要パルス2’と称する)と、試料の非瞬間的な分極応答から生じる(はるかに弱い)後続部分であって、図11にも示すように自由誘導減衰(FID)ともしばしば称される部分と、である(比較参照:Lanin et al., "Nature Scientific Reports", 4, 6670 (2014)、およびLauberau and Kaiser, "Rev. Mod. Phys.", 50, 607 (1978))。
【0010】
生体試料の場合、FID信号は試料のGMFを搬送し、これを、以下、GMF波(またはGMF信号)と称する。主要パルス2’の持続時間がGMF信号の持続時間よりも大幅に(実質的に)短い場合、後者(GMF信号)の直接的な時間領域の測定は、次のような(連続波)周波数領域分光法技術よりも基本的な利点を示す。GMF信号には、GMF信号の持続時間よりはるかに短い規模でピーク後の時間において指数関数的に減衰する主要パルス2’のおかげで、ノイズ(背景ノイズ)のない形態でアクセスできる。
【0011】
これによって、少量(低濃度)の検体によって生成された非常に弱い信号の測定が可能になり、例えば改善された感度が可能になる。振動分光法の周波数領域での実装とは対照的に、放射源の強度ノイズは、励起からの時間的分離のおかげで、検出可能な最小GMF信号に対して限界を構成しない。但し、放射源の強度ノイズはGMF信号の相対的な振幅ノイズに変換され(移転し)、GMF信号に寄与する分子構成成分の濃度の検出可能な最小変化に対して限界が設定される。
【0012】
技術的実装-従来技術
試料波3の測定は、国際公開第2016/102056号に開示されているように、図12の分光装置100で行われる。レーザ・パルス源10からの駆動パルス、例えばO・プロニン氏、他(O. Pronin et al.)によって“Nature Commun.”6, 6988, 2015に記載されたフェムト秒レーザを使用して、I・プペツァ氏、他(I. Pupeza et al.)によって“Nature Photon.”9, 721 (2015)に記載された励起パルス2が生成され、調査対象の試料1に照射され、また、電気光学検出器装置20で試料波3の電気光学サンプリング用のサンプリング・パルス5が供給される。電気光学サンプリングによって、200THzを超えるEGMF(t)を直接測定することができる(S. Keiber et al., "Nature Photonics" 10, p.159, 2016を参照)。励起パルス2が、例えば、非線形結晶(例えば、LiGaS結晶)において、パルス内周波数発生に基づいて生成される。試料波3の時間的振幅関数(対時間の振幅関数)は、試料1のスペクトル応答を直接生成するフーリエ変換を受ける。
【0013】
別の利点として、国際公開第2016/102056号の技術は、電界を測定し、本質的に全位相情報にアクセスし、例えば、ラニン氏、他(Lanin et al.)によって“Nature Scientific Reports”4, 6670 (2014)において行われた標準的な周波数領域分光法またはFID強度の時間領域測定とは対照的である。FID強度の時間領域測定に対する別の利点として、FRSにおいて、FID信号は、電界振幅の2乗値でではなく、電界振幅の減衰とともに線形にロールオフする。
【0014】
特に、図12による機器が線形応答を特徴とする場合、測定された試料波3は、励起(excitation)電界に対する試料の完全な電磁応答に対応する(試料を除去して同じ機器によって測定された)。このようにして、数フェムト秒(乃至、潜在的にサブフェムト秒まで)の時間分解能で、試料1の巨視的な分極(polarization)の全情報にアクセスできる。重要なこととして、駆動パルスのパワー(出力)を増大させると、妨害ノイズ(背景ノイズ)を増大させることなく、検出ノイズ・フロア(ノイズ・レベル)を超える有用なFID(以下、GMFと称する)信号が増強される。従って、国際公開第2016/102056号の方式は、発生源(放射源)に関して真にパワー・スケーラブル(増減可能、縮尺可能)であり、励起(excitation)パワーによってダイナミック・レンジが“使い果たされる”ことなく発生源(放射源)パワーを増幅(ブースト)することによって、(はるかに強い)励起から時間的に分離された分子信号を増大させることができ、これは周波数領域分光法の上述の限界とは対照的である。さらに、励起パルス2および試料波3の電気光学サンプリング(EOS)によって、低感度の赤外光子検出器の必要性がなくなる。それにもかかわらず、これらのサンプリング技術を用いたFRSの実装は、試料波に先行する強い励起パルスによって、最小GMF信号(即ち、最弱の試料波)を測定するためのこれらのサンプリング技術の感度が損なわれることをも、暗示する。
【0015】
国際公開第2016/102056号に開示されているFRS技術のプロトタイプ(原型、試作品)の実施形態を用いて、ごく最近のベンチマーク(標準的)実験が実施された。ベンチマーク実験では、水で希釈された一連のトレハロースがFRSとFTSの双方で調査された。後者(FTS)について、最新式のフーリエ変換分光計(MIRA-Analyzer、Micro Biolytics)が使用された。その実験によって、それぞれFRSで50秒およびFTSで45秒の測定時間で、0.001mg/mL未満および約0.01mg/mLの濃度検出限界が明らかにされた。これらの結果によって、弱いGMF信号の検出限界に関するFRSのはるかに優れた性能が確認された。
【0016】
誘導ラマン散乱の物理的原理
振動分光法の別の実装は、誘導ラマン散乱(SRS)に基づくものであり、誘導ラマン過程(プロセス)は、多数の分子系の時間的およびスペクトルの振動構造の研究に使用されてきた。SRSでは、ポンプ(励起)周波数ωとストークス周波数ωの2つの励起(excitation)場が同時に研究対象の試料に送られる。励起(excitation)ビームの差周波数Δω=ω-ωが試料の分子の振動周波数Ωと整合または一致する場合、分子遷移が増強または増進され、その結果、透過されたポンプ(励起)およびストークス強度の損失および利得がぞれぞれ得られる。これらの強度の誘導された変化は、試料の線形散乱または線形吸収と比較して、一般的に小さい。この欠点は、励起場のエネルギをスケーリング(増減)することによって(McCamant et al. , "Rev. Sci. Instrum.", 75(11), 4971 (2004))、または励起場の高周波変調によって(Freudiger et al., "Science", 322(5909), 1857 (2008))対処されてきた。しかし、第1の手法は、生物学的適用例には限定的な有用性しかなく、第2の手法は、複雑さおよび長い捕捉時間という弱点を有する。
【0017】
広帯域(近似的に1オクターブにわたる)ストークスまたはポンプ・パルスを使用すると、振動周波数のスペクトル全体にアクセスできる。この利点と高いスペクトル分解能とを組み合わせるには、2つのパルスの一方を狭帯域(そのスペクトル帯域幅が測定のスペクトル分解能を決定する)にし、その他方を広帯域にする必要がある。次いで、ここで、GMF信号は、国際公開第2016/102056号に記載されている共振赤外励起(excitation)パルスでの実装と同様に、広帯域および超短ポンプまたはストークス励起パルスの後に、その自己のスペクトル帯域においてノイズ(背景ノイズ)なし形態で、再び出現する。しかし、SRS測定は、国際公開第2016/102056号において対処されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2016/102056号
【非特許文献】
【0019】
【文献】P. E. Geyer et al., "Cell Syst.", 2, 185 (2016)
【文献】A. Sommer et al., "Nature", 534, 86 (2016)
【文献】Lanin et al., "Nature Scientific Reports", 4, 6670 (2014)
【文献】Lauberau and Kaiser, "Rev. Mod. Phys.", 50, 607 (1978)
【文献】O. Pronin et al., "Nature Commun.", 6, 6988, 2015
【文献】I. Pupeza et al., "Nature Photon.", 9, 721 (2015)
【文献】S. Keiber et al.,“Nature Photonics", 10, p.159, 2016
【文献】McCamant et al., "Rev. Sci. Instrum.", 75(11), 4971 (2004)
【文献】Freudiger et al., "Science", 322(5909), 1857 (2008)
【発明の開示】
【0020】
FRSの限界
(i)国際公開第2016/102056号に開示されているFRSは、関心の対象である分子GMF信号に対する感度について周波数領域振動分光法よりも優れていることが実証されているが、依然として幾つかの点で大幅な改善の余地が提示されている。第1に、EGMF(t)を測定する電気光学サンプラ(標本化器)の検出感度は、励起パルスがない場合に得られるであろう感度に比べて数オーダ(数桁)の大きさも小さい。その理由は、GMF波に先行する強い主要パルスによる損傷を回避するために、主要パルス2'とGMF波の双方を搬送する試料波3のビームをサンプラに対してなだらかに集束させることしかできないからである。励起パルスを除去すると、GMF/試料波をEOS検出器にはるかに強く集束させることができるようになり、その結果、それによって、関心の対象である弱いGMF/試料波の検出の感度がそれに対応して増大するであろう。
【0021】
(ii)さらに、分子病理学および細胞生物学において、これまで上述したように、主要な課題は、複雑な混合物中の少量の分子および多量の分子の濃度の最小変化を識別することにある。実際、これまでに説明したFRS方式(スキーム)において、少量の構成成分の濃度の大きい相対変化でさえ、多量の検体からの寄与分によって完全にマスク(隠蔽)される可能性があり、これらの潜在的なバイオマーカは気付かれないままにされる(それは、それらが複数の構成成分を検出できる他の全ての技術における限定されたダイナミック・レンジによって観測されないままにされるのと同様に、である)。
【0022】
(iii)最後に、特に、例えば生体試料のような複雑な分子混合物の場合、GMF信号は、少量と多量の双方で生じる多数の相異なるタイプの分子によって放射される複数の電界の重合せ、からなる。GMF信号の振幅が放射体の数(複雑な試料では非常に多い数)とともに増大するに従って、励起からGMF信号に伝達されるEGMF(t)の相対強度ノイズも増大する。その結果、放射源ノイズに起因する振幅変動は、試料の分子組成の小さい変化によって誘導される時間的(経時的)フィンガープリントをマスク(隠蔽)する。さらに、これらの変化は、測定系の不完全性から生じる可能性ある背景(ノイズ)を克服することを必要とする。
【0023】
発明の目的
本発明の目的は、試料の、特に生体試料の、時間的分極(またはスペクトル)応答を測定する改善された方法、および、通常の技術の限界を、特に上述のFRSの限界を、回避することができる試料の、特に生体試料の、時間的分極(またはスペクトル)応答を測定するための改良された分光装置を実現することである。その分極応答は、改善された感度および/または再現性で測定される。
【0024】
発明の概要
これらの目的は、それに対応して、それぞれ独立請求項の特徴を含む方法および分光装置によって解決される。本発明の好ましい実施形態および適用例は、従属請求項に記載されている。
【0025】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上述の目的は、以下の複数の工程(ステップ)を含む、試料の、特に生体試料の、分極応答を測定する方法によって、達成(解決)される。
【0026】
一連(1つのシーケンス)の励起(excitation)波が生成される。それらの励起波(通常のFRSでは、プローブ光と称される)はレーザ源装置で一列のレーザ・パルスとして生成され、各励起波は、一次的な時間的(経時的)形状、およびスペクトル成分(内容)、好ましくは赤外線スペクトル範囲に中心波長を有するスペクトル成分、を有する。好ましくは、励起波の強度半値全幅(full-width-at-half-intensity-maximum)のパルス持続時間は、1ps以下、特に300fs以下、である。調査対象の試料が、気相において、複数の鋭い振動帯域および数十psの範囲のFIDを有する場合、1ps以下で500fsを超えるパルス持続時間を有する狭帯域励起波を供給することができる。それ以外の場合、複数の広い振動帯域および1ps以下の範囲のFIDを有する液相における試料では、300fs以下のパルス持続時間を有する広帯域励起波を供給することができる。
【0027】
調査対象の試料に励起波が照射され、それが励起波と試料との相互作用を伴って、試料の瞬間的な分極応答(試料主要パルスと称される)と、励起波に対する試料の非瞬間的な分極応答から生じる(通常ははるかに弱い)後続部分(自由誘導減衰と称され、短くFID信号と称される)とまたは、特に生体試料の場合に試料グローバル・フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))(短くGMF波またはGMF信号と称される)と、の重合せを各々が含む一連の試料波(通常のFRSでは、変調プローブ光と称される)が生成されるようにされる。試料波の変調された時間的形状およびスペクトルは、試料の分極応答によって決定される特徴によって(それぞれ)励起波の一次の(主要な)時間的形状およびスペクトルから逸脱する。調査対象の試料は、特に生物由来の、固相、液相または気相の試料である。
【0028】
さらに、別の試料(固体、液相または気相)である参照試料(または比較参照試料)、特に生物学的性質のおよび/または合成的性質の別の試料である参照試料(または比較参照試料)が供給され、それ(参照試料)と調査対象の試料とが、そのGMFに関して比較される。その参照試料は、例えば、関心の対象である或る分子を含まない試料、または別の濃度を有する関心の対象である分子を含む別の試料(例えば、調査対象の試料のような同じ供給源からのより古い試料)を含んでいてもよい。合成参照試料は、周知の高い再現性の分子組成、特に試料の調査において関心の対象でない複数の分子を含む周知の高い再現性の分子組成、を有する参照試料である。参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波が生成されるように、励起波と参照試料との相互作用を伴って、参照試料に一連の励起波が照射される。
【0029】
本発明によれば、試料波と参照波の差分が、試料波と参照波の双方に共通するGMF波寄与分から、空間および/または時間において光学的に分離される。従って、調査対象の試料に固有でない共通GMF波寄与分から、試料を調査するために検出される試料波と参照波の差分を、空間的におよび/または時間的に分離する少なくとも1つの光学的調整装置が設けられる。
【0030】
試料波と参照波の差分が検出され、試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含む差分分子フィンガープリント(differential(示差、微分)molecular fingerprint)(dMF)波の時間的振幅関数(ΔEGMF)が求められ決定される。検出は、電気光学サンプリング(EOS)または代替的に光伝導サンプリング(PCS)を含むことが好ましい。dMF波は、直接検出(サンプリング)によって、または検出された試料波および参照波に基づいて計算することによって、求められる。それは、試料の分極応答(国際公開第2016/102056号において“スペクトル応答”と称される)を表す。特定のタイプの分極応答は、例えばIR吸収またはSRS測定に、適合化できる励起波の設計に依存する。
【0031】
本発明によれば、光学的に分離する工程のために、試料波および参照波は、検出工程の前に互いに空間的および/または時間的に分離される。試料波と参照波を分離することは、試料波と参照波の互いに対するターゲット(標的)調整を、特に試料波と参照波の空間的および/または時間的オーバラップ(重複)の低減を、含んでいる。試料波と参照波のオーバラップは、空間および/または時間領域において最小化されまたは除外されることが好ましい。換言すれば、試料波と参照波を分離することは、空間および/または時間領域におけるそれらのオーバラップの部分的なまたはさらには完全な低減を含んでいる。
【0032】
試料波と参照波の分離によれば、dMF波の空間的および/または時間的分離、即ち、任意の他の参加波(participating waves:関与波)からの試料および参照GMFに対応する電界の差分が、空間および/または時間において最大化される。これは、それに従って、空間および/または時間において互いに相対的に参加波(励起波、参照波および試料波)を調整することによって達成される。このようにして、本発明は、FRSのノイズ(背景ノイズ)なし検出を有利に利用して、改善された感度で参照試料と調査対象の試料の分子組成の差を直接反映する差分信号ΔEGMF(t)を測定する。
【0033】
以下において常に強調されるわけではないが、留意すべきこととして、励起波は、好ましくは1kHzを超える、特に好ましくは1MHzを超える、繰り返し率(周波数)で生成された一連のレーザ・パルスを含んでいる。従って、試料波および参照波は、同様に各一連(シーケンス)のレーザ・パルスである。励起波、参照波および試料波という用語は、それぞれ、参照試料および調査対象の試料を照射するのに使用される、または参照試料および調査対象の試料のスペクトル応答によってそれぞれ供給される、各一連の対応する波形を指す。
【0034】
本発明の第2の一般的な態様によれば、装置の特徴に関して、上述の目的は、レーザ源装置、光学調整装置、検出器装置、および任意に計算装置を含む、試料の分極応答、特に生体試料の分極応答、を測定するための分光装置、によって達成(解決)される。分光装置は、本発明の第1の一般的な態様による試料の分極応答を測定する上述の方法を実行するよう適合化されることが、好ましい。レーザ源装置は、一連の励起波を生成するよう適合化され、および、試料主要パルスと試料グローバル分子フィンガープリント(GMF)波(EGMF(sample)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の試料波が生成されるように、励起波と試料の相互作用を伴って、その一連の励起波を試料に照射するよう適合化され、および、参照主要パルスと参照GMF波(EGMF(ref)(t))の重合せをそれぞれ含む一連の参照波が生成されるように、励起波と参照試料の相互作用を伴って、一連の励起波を参照試料に照射するよう適合化される。光学調整装置は、試料波と参照波の双方に共通する波寄与分から、試料波と参照波の差分を、空間および/または時間において光学的に分離するよう構成配置される。検出器装置は、試料波と参照波の差分を検出し、その試料GMF波と参照GMF波の差分をそれぞれ含む差分分子フィンガープリント(dMF)波の時間的振幅関数(ΔEGMF(t))を求める(決定する)よう、構成配置される。
【0035】
本発明によれば、試料波と参照波の双方に共通する波寄与分から、試料波と参照波の差分を空間的および/または時間的に分離するための光学調整装置は、分光装置に含まれる調整装置である。“分離する”、“調整する”または“調整”という用語は、励起波(および任意に参照波)のターゲット(目標)操作、特にターゲット波形整形を指していて、参照試料と調査対象の試料の間の分子組成の相違に関する有用な情報を搬送する差分GMF、ΔEGMF(t)が、試料波の主要パルスの背後に時間において可能な限り遠くに配置されるようにされる。光学調整装置は、励起波および/または試料波の波形を整形する、例えば透過部品(素子)および/または反射部品(素子)および/または増幅部品(素子)のような、受動的および/または能動的な光学部品を含んでいる。発明者たちが発見したこととして、本発明による分離工程または調整装置によって、それぞれ、励起波によって形成されたノイズ(背景ノイズ)を大幅に抑制することができ、または差分GMFを検出する感度を大幅に増大させることができ、従って、FRS検出の感度を向上させることができる。
【0036】
dMF波は、取得する特徴的分極応答として出力することができる。任意に、検出された試料波および参照波に基づいてdMF波を計算するために、および/または検出されたdMF波を分析するために、例えばdMF波の時間的振幅関数のフーリエ変換に基づいて試料の分極応答を供給するために、および/または、調査対象の試料および/または参照試料を用いて求められたdMF波に基づいて試料組成の変化を分析するために、計算装置を設けることができる。
【0037】
本発明の好ましい適用例によれば、調査対象の試料は、ヒトまたは動物の有機体に由来する生体試料を含んでいる。その有機体に関する診断関連の情報を取得するために、試料のスペクトル応答、および/または、比較参照(参照)試料に対するそのGMFの差分、が測定される。“診断関連の情報”(diagnostically relevant information:診断的に関連する情報)という用語は、医療診断の提供または実証に使用できる、試料、特にその組成、参照試料と比較した差分、または試料の時間的変化、に関する任意の情報を指す。特に、本発明は、精密調査対象の試料(または細胞)と参照(または同じ有機体由来の参照細胞)(“比較参照”(control)とも称される)との直接比較によって、単一の測定で、通常の生理学からの逸脱を示し(マークし)得るまたは異なる細胞タイプを識別し得る分子組成の変化を、前例のない感度で検出することを、目指している。
【0038】
従って、本発明の好ましい実施形態において、測定方法は、診断関連の情報を取得するために、試料のスペクトル応答を評価する工程を含んでもよい。装置の特徴に関して、分光装置の好ましい実施形態は、スペクトル応答を処理し診断関連の情報を供給するよう適合化された計算装置を含むことが、好ましい。利点として、診断関連の情報は、本発明による技術のユーザに、例えば医師に対して、出力することができる。その後、ユーザは、診断関連の情報を考慮して診断を提供することができる。スペクトル応答評価を、国際公開第2016/102056号に開示されているように、実現することができる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、複数のフィンガープリントにおける差分、即ち、少数の多量の分子および少量の分子だけ異なる複数の試料の相異なるdMF波が、検知される。これは次の簡単な式で表すことができる。即ち、EGMF(sample)(t)が試料GMF信号であり、EGMF(ref)(t)が参照GMF信号である場合に、次のdMF信号が最高の可能な感度で検出される。
ΔEGMF(t) =ΔEGMF(sample)(t)-ΔEGMF(ref)(t)
【0040】
本発明の第1の変形例(本発明の第1の実施形態、実施形態(I))によれば、試料波と参照波の双方に共通する波寄与分からの試料波と参照波の差分の空間的分離の達成は、試料と参照試料に単一励起(excitation)パルス(共振IR吸収)または複数励起パルス(SRS)の同一レプリカ(複製物)を同時に当て(露光し、供給し)、試料と参照(試料)を透過した広帯域励起パルスとGMF波を両者間で180度位相シフトで干渉的に合波(combine:合成、結合)することによって、行われて、その2つの励起パルスが互いに大部分相殺し合ってそれぞれのGMF波が干渉的に合波して上述の差分が生じるようにされる。参照波と試料波の干渉相殺は、好ましくはゼロに達するものであり、dMF波を検出するのに等しい。従って、本発明の第1の実施形態は、差分分子フィンガープリント法(dMF)またはdMFの実施形態とも称される。
【0041】
この干渉計的合波から得られる信号から励起場を除去することによって、弱い差分GMF波ΔEGMF(t)を分光装置の検出装置に、好ましくはEOSまたはPCS検出器を含む検出装置に、最適に集束させる(焦点合せする)ことができ、それによって、国際公開第2016/102056号に開示されているようなFRSの上述の限界(i)が除去される。差分GMF波ΔEGMF(t)は、参照試料に対する調査対象の試料の差分グローバル分子フィンガープリントを生成し、それは、次式のように、異なるタイプ“i” の分子によって放射される波の相互間の複数の差分からなり、その強度はそれらの数ΔNと共に増減(スケール)し、その数ΔNは、調査対象の試料と参照試料におけるタイプ“i”の多数の分子の相互間の差分を記述するものである。
ΔEGMF(t)=ΔE(t)+ΔE(t)・・・+ΔE(t)+・・・。
【0042】
発明者たちは、生体試料における典型的な分子濃度に対して、ΔE(t)∝ΔNの関係が非常に良好な近似で成り立つことを発見した。従って、ΔEGMF(t)は、分子の存在量に関係なく、参照に対する分子の濃度変化のみに基づく分子に関する情報を含み、国際公開第2016/102056号に開示されているようなFRSの上述の限界(ii)が除去される。最後に特に、直接的な参照に起因して、EGMF(sample)(t)およびEGMF(ref)(t)によって搬送されるノイズは、双方とも共通の励起源(excitation source)のノイズによって決定されるものであり、大部分が相殺され、国際公開第2016/102056号に開示されているような上述のFRSの限界(iii)に効率的に対処することとなる。
【0043】
本発明の第2の変形例(本発明の第2の実施形態、実施形態(II))によれば、これ(変形例)は試料波と参照波の双方に共通する波寄与分から試料波と参照波の差分を時間的に分離することを含むものであり、試料および参照試料を含む(通る)ビーム経路の群遅延分散は、参照波が時間的に圧縮され、好ましくはそのフーリエ変換限界に向かって短縮(短く)されるように設定される。参照波の圧縮に起因して、dMF信号は、主に試料GMF波によって決定されて、国際公開第2016/102056号に開示されているFRSの上述の限界(i)乃至(iii)を除去することができる。
【0044】
本発明の第3の変形例(本発明の第3の実施形態、実施形態(III))によれば、これ(変形例)は、試料波と参照波の双方に共通する波寄与分から試料波と参照波の差分を時間的に分離することを含むものであり、試料および参照試料内での両励起波の相互作用長(l)が、l=2/25α乃至l=10/αの範囲に設定される。ここで、αは参照試料の吸収係数である。利点として、相互作用長を設定することによって、試料GMF波およびdMF波を最大化することができる。
【0045】
本発明の第4の変形例(本発明の第4の実施形態(IV))によれば、dMF信号または試料GMF信号は、検出前に光パラメトリック増幅を受け、その結果としてFRSの感度がさらに増大する。
【0046】
本発明の上述の第1乃至第4の実施形態は、単独でまたは任意の組合せで実現することができる。従って、本発明の特に好ましい実施形態によれば、直接干渉参照(I)から生じるdMF信号ΔEGMF(t)は、相互作用幾何学的配置(III)の最適化と組み合わせた慎重な分散設定(II)によって、および検出の前および/または後の光パラメトリック増幅(IV)によって、さらに増強することができる。代替的に、dMF波は、干渉参照(I)なしで検出できるが、分散設定(II)、相互作用幾何学的配置の最適化(III)、および/または光パラメトリック増幅(IV)で、検出できる。国際公開第2016/102056号に記載されている共振赤外励起(excitation)によるこれらの概念の実現は、完全な振動フィンガープリントの捕捉のための赤外活性およびラマン活性の振動モードの両モードにアクセスするために、励起機構である誘導ラマン散乱(SRS実施形態、実施形態(V))で補完することができる。
【0047】
電界分解振動分光法(FRS)を利用する差分分子フィンガープリント法(dMF)は、好ましくは先に挙げた革新技術で補完することができるものであり、各分子構成成分の存在量に関係なく、優れた特異性または選択性(前例のない多数の構成成分の相関変化の測定のおかげによる)および最高の感度(上述の進歩のおかげによる)での疾患マーキング(指標化、特徴づけ)のために、各分子構成成分の濃度の変化を直接測定することが期待できる。上述の第1乃至第3の実施形態の好ましい特徴は、以下で要約される。
【0048】
第1の実施形態の好ましい変形例によれば、マッハ・ツェンダー干渉計を使用して参照波の干渉相殺(減殺)が得られる。励起波はマッハ・ツェンダー干渉計の第1のポートに入力され、調査対象の試料はマッハ・ツェンダー干渉計の第1の干渉計アームに配置され、参照試料はマッハ・ツェンダー干渉計の第2の干渉計アームに配置され、dMF波はマッハ・ツェンダー干渉計の第1の出力ポート(差分出力ポート)において供給される。マッハ・ツェンダー干渉計は、変調プローブ光が、調査対象の試料および参照試料における透過において収集されるように、構成されることが好ましい。マッハ・ツェンダー干渉計を使用すると、干渉計アームを正確かつ安定的に調整することに関して、参照波と試料波に共通のフィンガープリントの抑制が容易になるという利点がある。
【0049】
マッハ・ツェンダー干渉計の第1および第2の干渉計アームにおけるビーム伝播経路長は、励起波の搬送波波長の半分以内、即ち励起波の中心波長の2分の1以内で、等しく設定されることが、好ましい。マッハ・ツェンダー干渉計の出力ポートの中の1つのポートにおいて時間的に平均化されたパワーを最小化する制御ループによって、両ビーム伝播経路長が等しく設定されることが、特に好ましい。
【0050】
本発明の第2の実施形態によれば、試料波および参照波の分離は、参照波からのdMF波の時間的な分離を形成することを含んでいる。群遅延分散を設定する工程は、参照主要パルスを短縮し、試料GMF波と参照GMF波の双方に共通に含まれるGMF波寄与分を短縮することを含んでいることが、好ましい。試料GMF波と参照試料GMF波の双方に共通に含まれるGMF波寄与分は、特に、試料および参照試料に等しく含まれる分子の分極応答を含み、例えば試料マトリックスのようなもの、溶媒のようなもの、および/または特定の調査の関心の対象でない分子、および/または試料および参照容器壁部の材料の分極応答を含んでいる。液体試料または気体試料用の試料容器は、波長(色)分散補償(chromatic dispersion compensation)との組合せで、以下で概説するように提示されることが、好ましい。第2の実施形態は、線形分光法方式と非線形分光法方式の双方に適用される。
【0051】
励起波はフーリエ変換限界パルス持続時間で生成され、励起波および/または試料および参照主要パルスは、各ビーム経路に沿った任意の物質のパルス伸張効果を低減する分散補償を受けることが、好ましい。これは、試料の試料容器と参照試料の参照容器に負または正の分散を有する容器壁材を設けることによって、および/または試料および参照試料の前および/または後に反射要素による負または正の分散を適用することによって、得られる。代替形態として、各ビーム経路に沿って導入された分散がパルス・チャープ(chirp)を補償するように、パルス・チャープで励起波が生成される。この実施形態において、試料容器および参照容器にはパルス・チャープを相殺する分散を有する容器壁材が設けられ、および/または、パルス・チャープが相殺されるように試料および参照試料の前および/または後の反射要素によって分散が加えられる(適用される)。
【0052】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、試料中を通るプローブ光透過の最大化が、試料の試料容器上のおよび参照試料の参照容器上の反射防止被覆(コーティング)によって、および/または励起波ビーム経路に対してブルースター角(ブリュースター角、偏光角)で試料または試料容器および参照容器を配置することによって、実現される。調整部品(コンポーネント)が、反射防止被覆および/またはブルースター角を設定する試料容器支持体(support)によって、実現される。この場合、本発明による波形の調整または波形の整形は、特に試料波の、振幅を増大させることを含んでいる。
【0053】
利点として、試料波またはdMF波を検出する感度の向上は、SRS測定の分野におけるFRS技術の新しい適用例を提供する。従って、本発明の別の好ましい実施形態(SRSの実施形態)によれば、本発明による、試料のスペクトル応答の測定は、試料における誘導ラマン散乱の電界検出を含んでいる。試料には、一連の同時的なポンプ(励起)パルスおよびストークス(Stokes)パルスが同時に照射される。ポンプ・パルスとストークス・パルスの一方は狭帯域パルスであり、他方は広帯域パルスである。狭帯域パルスは試料の単一の振動遷移を励起するよう適合化され、一方、広帯域パルスは試料の複数の振動遷移を励起するよう適合化される。励起(excitation)波は、広帯域ストークス・パルス(または代替的に広帯域ポンプ・パルス)によって供給される。試料波および参照波は、それぞれ試料および参照試料の振動ラマン応答によって増強されたストークス・パルスによって供給され、または代替的に試料および参照試料の振動ラマン応答によって減少したポンプ・パルスによって供給される。試料における誘導ラマン散乱の電界検出に適合化された分光装置に関して、レーザ源装置は、一連のポンプ・パルスおよびストークス・パルスを試料に同時に照射するよう構成され、検出装置は、試料の振動ラマン応答によって増強されたストークス・パルス(または代替的に、試料の振動ラマン応答によって減少したポンプ・パルス)を検出するよう適合化される。
【0054】
要約すると、コヒーレントな(可干渉性の)、例えば数サイクル・パルスのパルス源によって駆動される本発明によるFRSは、次の独特な利点を提供する。充分圧縮されたパルスを用いるFRSは、検出可能な最小分子信号に対する限界として励起(excitation)信号検出のノイズを除去することによって、周波数領域分光法に関する検出感度を向上させる(改善する)。FRSに基づくdMF検出は、次の幾つかの方法でFRSの検出感度を向上させることができる。
【0055】
・分子信号の技術的ノイズをその検出可能な最小変化の限界として除去することによる。その理由は、支配的であるはずの励起のノイズによって生じる分子信号における任意の変動が、試料アームと参照アームに等しく現れ、従って量子ノイズを除いて差分出力において相殺されるからである。
【0056】
・等しく重要なこととして、dMFは、FRS感度に深刻な影響を与え得る不完全性(例えば、スプリアス反射によって生じる励起パルスおよびサテライト(satellites)の非指数関数的ロールオフ)から生じ得る励起後のノイズ(背景ノイズ)をも効率的に除去する。
【0057】
・dMFによって、励起パルスの抑制後に、差分信号の直接的な光増幅が可能になる。選択的に増幅された差分GMF波は、励起波が存在する状態で誘導する場合(FRSにおける場合)よりも、励起波が抑制された状態で遥かに強いEOS検出信号を誘導することができる。その理由は、励起波が存在すると、有用な分子信号の非常に小さい電界強度でEOS結晶において光学的破壊(breakdown)を生じさせる傾向があるからである。増幅によって直接得られる感度向上に加えて、差分分子信号の充分強い光増幅によって、差分分子信号のEOS検出の感度が向上し得る。この向上は、検出電子機器のダイナミック・レンジに対する緩和された要件との組合せで生じる(それは、測定された差分GMFから主要パルスを除去することに起因する)。
【0058】
本発明で実現されるグローバル分子フィンガープリント法は、例えばプロテオミクス(proteomics)およびメタボロミクス(代謝学)(metabolomics)によって、非ターゲット(非標的)バイオマーキング検索/スクリーンと全く同じ目標を追求する。しかし、その手法は基本的に異なり、その“オミクス”(omics)の方法論は、複数組の分子構成成分の識別を目指し、その濃度変化(または新しい外観)は或る病理を明確に(一義的に)示すことができる。それとは際立って対照的に、FRSによって得られるGMFの変化は、推定上で膨大な数の既存の分子および可能性として多数の新たに出現した分子の極小の濃度変化の積分効果に起因する。これらの分子構成成分の多く(推定上その大部分(ほとんど))は、オミクス技術によって個々にアクセスできないが、電界分解分光法の優れたダイナミック・レンジのおかげで、分光GMFに明らかに貢献し得る。また、少量の分子の濃度の変化は、非常に重要であり、その顕著な例は、例えばサイトカインであり、その極めて小さい濃度変化でも広範な生理学的効果をもたらすことが知られている。
【0059】
電界分解分光法によるグローバル分子フィンガープリント法の概念は、適切に選択された参照のGMFからの任意の複雑な生体流体(biofluid:生体液)試料(例えば、ヒトの血液)のGMFの偏差に直接アクセスすること、および、それによって、測定によって直接供給される観測量における臨床分類子を検索すること、が期待できる。同じ1つの測定における2つの異なる試料のグローバル分子フィンガープリントの直接比較は、現在のレーザ分光法によって効率的に満たすことだけができる条件である、基礎となる物理的観測量の相互間のコヒーレンス(干渉性)に依存する。この固有の機能は、FRSの前例のないダイナミック・レンジと共に、オミクス技術(例えば、高圧液体クロマトグラフィー、HPLC)との組合せで、分子フィンガープリント法を前例のない感度およびスループットに進化させ、それによって早期検出およびスクリーニング(検査)への新しい道を開く、という可能性を秘めている。
【0060】
本発明の他の利点および詳細を、図面を参照して以下説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、本発明の第1の実施形態(dMF実施形態)による分光装置の概略図である。
図2図2および3は、本発明の第2の実施形態による、参照波と試料波の双方に共通のフィンガープリントからの差分GMFの時間的分離の概略図である。
図3】.
図4図4は、主要パルスおよびGMFの時間的分離の概略図である。
図5図5は、主要パルスを短縮するための分散補償の概略図である。
図6図6および7は、本発明の第3の実施形態による光パラメトリック増幅器を使用して試料波を増幅する概略図である。
図7】.
図8図8は、本発明の第1乃至第3の実施形態を組み合わせた分光装置の概略図である。
図9図9および10は、本発明のSRS実施形態による分光装置の概略図である。
図10】.
図11図11および12は、通常のFRS技術(従来技術)の概略図である。
図12】.
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の好ましい実施形態
本発明の好ましい実施形態の特徴は、例えばIR(赤外)吸収またはSRS測定(V)のための、干渉参照(interferometric referencing)(I)、参照波の分散補償(II)、相互作用幾何学的配置の最適化(III)、および/または差分フィンガープリントの光増幅(IV)、を含む差分分子フィンガープリント法を参照して、以下で説明する。特徴(I)乃至(IV)は、差分GMFの寄与分が参照波と試料波の双方に共通のフィンガープリントから空間的および/または時間的に分離されるように、参加波を互いに調整するための本発明による手段を実現する。例えば、特徴(I)は干渉手段によって励起(excitation)波および参照波からの差分GMFの空間的な分離を形成し、一方、特徴(II)は差分GMFの時間的な分離を導入する。機能(I)乃至(IV)は、単独でまたは任意の組合せで実現できる。例として、特徴(II)および/または(III)は、図9の誘導ラマン測定を含む特徴(I)の特別な場合にまたは、図12の通常のセットアップ(設定配置)であっても、図1に示されているように差分分子フィンガープリント法(I)のセットアップで実現できる。別の例として、光増幅が必要でない場合、例えば(I)差分分子フィンガープリント法のセットアップ(図1)において、特徴(IV)は省略できる。さらに、特徴(I)乃至(IV)は、液体もしくは固体材料でまたは気体試料で実現できる。
【0063】
差分分子フィンガープリント法(dMF)は、分子構成成分の濃度の変化を、即ち疾患マーキング(標識)に直接関係する量の変化を、可能な最高の感度で直接測定する。これによって、次の利点が支持され裏付けられる。
(a)別々の測定から推測可能な最小の変化を制限するEGMF(t)のノイズは、直接コヒーレント参照のときに(量子ノイズを除いて)相殺される(下記(I)を参照);
(b)EGMF(t)は、全ての参加波の主要パルス部分の大部分から効率的に分離でき、(i)Ein(t)の広帯域コヒーレント制御(下記(II)を参照)および(ii)相互作用幾何学的配置(以下を参照)の最適化、によって最大化できる; および
(c)差分フィンガープリントΔEGMF(t)は、電気光学サンプリングによって検出される前に、数オーダ(数桁)の大きさでパラメトリックに増幅できる(下記(IV)を参照)。
【0064】
本発明の好ましい実施形態を、fsレーザ源装置の特定の例および電気光学サンプリング(EOS)の適用例を例示的に参照して、以下、説明する。本発明は、記載された実施形態に限定されるものではないことを強調する。特に、レーザ源装置は、本明細書で特定されるプローブ光パルスを供給するように改変することができる。一例として、特に気体試料に対して、psレーザ源装置を使用することができる。さらに、EOS方法は、別の分光技術で、例えば光伝導アンテナまたはFTIR分光法を用いた電界サンプリングのような技術で、置換することができる。診断関連の情報を提供するための本発明の好ましい適用例が、例示的に参照される。本発明は、生体試料の調査に限定されることなく、むしろ、他の試料で、例えば環境試料で、実現できることを、強調する。
【0065】
(I)コヒーレント干渉参照を用いた差分分子フィンガープリント法(dMF)
図1は、本発明の好ましい実施形態による分光装置100の特徴を示し、これ(装置)は、試料波と参照波の双方に共通する波寄与分からの、特に励起波および参照波からの、dMF波の干渉分離(interferometric separation)に適合化される。分光装置100は、図12の通常のセットアップ(設定配置)に類似して構成される。従って、特に、レーザ源装置および検出器装置および特に電気光学検出原理に関する、通常の分光装置の特徴は、国際公開第2016/102056号に開示されているように実装することができ、国際公開第2016/102056号を本明細書に参照により組み込む。
【0066】
図1の分光装置100はレーザ源装置10を含み、レーザ源装置10は、一連の初期駆動パルスを生成するための可視または近赤外(NIR)フェムト秒源11と、駆動パルスに基づいて一連のMIR(中赤外)パルスを生成するためのMIR赤外(MIR)フェムト秒源13(例えば、LiGaS結晶を含む)と、(例えば、可視またはNIR源11からMIRパルスが生成される場合には遅延段を用いて、またはNIRおよびMIR源の繰返し率の同期化および調整を用いて)MIRパルスおよび駆動パルスを相互調整するための同期化および遅延ユニット12と、を含んでいる。励起波(excitation waves)2は、調査対象の試料1および参照試料1Aと相互作用させるために駆動パルスによって供給されるものであり、MIRフェムト秒源13から出力される。
【0067】
励起波2のパルスは、マッハ・ツェンダー干渉計40の第1の入力ポート41を形成する50:50MIRビーム・スプリッタ14で、マッハ・ツェンダー干渉計40の第1の干渉計アーム42と第2の干渉計アーム43に分割される。光学調整装置を形成するマッハ・ツェンダー干渉計40の機能を以下で説明する。第1の干渉計アーム42において、例えば水中に含まれる生体試料分子を含む、試料容器51を備えた試料1が供給または配置される。参照試料1Aは、第2の干渉計アーム43における同一の参照容器51Aに含まれている。試料容器および参照容器51、51Aは、(中)赤外領域全体(2μm乃至30μm)において低伝送(透過)損失に適合化されることが、好ましい。この目的のために、試料容器51、51Aの表面に反射防止被覆(コーティング)が設けられて、そのMIR透過率(伝達率)を増大させることができる。さらに、試料容器51、51Aは、干渉計アーム42、43に沿ったビーム経路に対してブルースター角で配置することができる。
【0068】
さらに、両方の干渉計アーム42、43の長さを相互調整するための概略的に示された遅延ユニット15が、第2の干渉計アーム43に配置される。遅延ユニット15は、マッハ・ツェンダー干渉計40の2つの干渉計アームの幾何学的長さの差が最小化されるように、制御ループ(図示せず)で制御することができる。干渉計の調整は、1つ以上の圧電トランスデューサ(PZT)で実行することができる。
【0069】
励起波2と調査対象の試料1および参照試料1Aとの相互作用によって、試料波3が第1の干渉計アーム42において生成され、参照波3Aが第2の干渉計アーム43において生成される。50:50MIRビーム・スプリッタ(分割器)/コンバイナ(合成器)16における試料波3と参照波3Aのコヒーレントな重合せによって、dMF波4が差分出力ポート44(第1の出力ポート)において生成され、参照波と試料波の双方に共通のフィンガープリントの積極的なコヒーレント重合せが、総和出力ポート45(第2の出力ポート)において生成される。ビーム・スプリッタ/コンバイナ16で、dMF波4が検出器装置20の第1の検出器チャネル21に出力され、試料波3と参照波3Aの重合せが検出器装置20の第2の検出器チャネル22に供給される。(例えば、光パラメトリック増幅(OPA)を用いた)dMF波4を光増幅して増幅dMF波4 ’を生成するための光パラメトリック増幅装置60は、第1の検出器チャネル21に配置される。光パラメトリック増幅装置60およびその機能の他の詳細を、図6および7を参照して、以下、説明する。
【0070】
検出器装置20は、それぞれ電気光学サンプリング・ユニット23、24を検出器チャネル21、22のうちの1つに含んでいる。フェムト秒源11で生成された複数の駆動パルスの複数の部分は、サンプリング・パルス5として、それぞれ、MIR-NIRビーム・コンバイナ17およびNIRビーム・スプリッタ18を介して、電気光学サンプリング・ユニット23、24に供給される。第1および第2の電気光学サンプリング・ユニット23、24は、それぞれ、増幅dMF波4Aおよび総和信号3/3Aの時間的振幅関数を検出する。
【0071】
計算装置30は、第1の検出チャネル21において検出された増幅dMF波4Aの時間的振幅関数のフーリエ変換に基づいて、調査対象の試料1のスペクトル応答を計算するコンピュータ(計算機)回路を含んでいる。第2の検出器チャネル22は、例えば監視または制御用の、本発明の任意の特徴であること、に留意されたい。
【0072】
実際には、分光装置100は、関心の対象である任意の気体または液体を測定するよう適合化される。さらに、適用される材料は、真空適合性があり(ガス用の試料容器、ガスセル)、硬質で頑丈であり(高圧が加えられても曲がらないであろう-液体用試料容器の場合)、および/または(水、酸および溶媒に対する)不溶性材料である。
【0073】
本発明の代替的実施形態によれば、分光装置100は、図9および10を参照して以下で説明するように、試料の誘導ラマン散乱に基づくSRS測定に適合化させることができる。
【0074】
以下、図1の分光装置100を用いた試料応答の測定について説明する。先に概説したように、差分分子フィンガープリントを測定すると、国際公開第2016/102056号に記載されている電界分解分光法の基礎となるプロセスのコヒーレントな性質から、(i)励起波における電界振動の時空間コヒーレンス、(ii)時空間的にコヒーレントな励起波による同期(コヒーレント)様式での試料体積全体における分子振動の励起、および(iii)励起分子の振動の完全な同期のおかげによる複数の励起分子によるコヒーレント放射(波)の再放出(試料波3、図11を参照)、という利益が得られる。
【0075】
(i)~(iii)の直接的な結果として、試料波3の電界振動は、励起波2の電界振動に完全に位相ロック(固定)される。このコヒーレンスの結果として、試料波3および参照波3Aは、同じ1つの励起波2(ΔEin(t))の2つのレプリカ(複製物)によって同時に励起された試料および参照EGMF(sample)(t)、EGMF(ref)(t)から出現し、互いに直接比較できる。換言すれば、関心の対象である試料からのGMF、EGMF(sample)(t)は、参照フィンガープリントのそれ(GMF)EGMF(ref)(t)を直接参照でき、単一の測定から直接、差分分子フィンガープリントΔEGMF(t)を生成する。
【0076】
電界分解赤外吸収分光法によるこの基本的概念の好ましい実現は、図1のセットアップで行われる以下の工程で構成される。
【0077】
1)フェムト秒中赤外(MIR)パルス(図1のMIRフェムト秒変換ユニット13で生成される)を50/50ビーム・スプリッタ14で2つの等しい部分に分離する(正確なバランス(平衡)の達成が、分割後の2つのビームのうちの一方における追加的な可変減衰器で行われてもよい)。
【0078】
2)MIR励起パルスの1つ(励起波2)を参照試料1Aに送る。調査対象の試料1を介して、他の同一のMIRパルスを送る。
【0079】
3)2つの透過MIRパルスを、測定前にビームの分割に使用されたのと同じビーム・スプリッタ16で再合波(結合)する(その結果、ビーム・スプリッタによって生じた波形の可能性ある小さい残留変化は、入力と出力の双方でビーム・スプリッタを通過するときに相殺される)。1)~3)で説明したセットアップはマッハ・ツェンダー干渉計40を形成し、それ(干渉計)の同じ2つのアーム42、43は、試料1および参照試料1Aを含んでいる(両方とも可能な限り同一の幾何学的配置に配置される)。その結果として、試料1/参照試料1Aと試料容器51、51Aの双方の分散および減衰は、分子組成の相違によって生じるEGMF(t)の変化を除いて、共に同じである。
【0080】
4)2つの干渉計アーム42、43におけるビーム伝播経路長は、励起波2(MIRパルス)の搬送波波長の2分の1以内で等しくなるよう設定されることが、好ましい。+(プラス)/-(マイナス)半波長以内での経路長差の微調整によって、干渉計40の出力ビーム・スプリッタ16に入射する2つのパルスは、それらの相違する分子組成に起因する試料と参照の間のEGMF(t)における差分に根差したそれらのGMF波における差分を除いて、互いに近似的に完全に相殺し合う。
【0081】
5)経路長の差を最小化するように設定すると、結果的に、試料中を透過し試料から放射された全放射エネルギの約99.9999%を搬送する励起パルスが近似的に完全に互いに相殺される。残りの約0.0001%のエネルギは、dMF信号4でそれぞれ搬送される。試料1および参照試料1Aの分子組成が仮に同じである場合、試料波3および参照波3Aは同じになり、それらも互いに完全に相殺されることであろう。試料1および参照試料1Aの分子組成が互いに異なる場合、試料波3および参照波3Aは、完全に相殺し合うことはないが、その結果、ΔEGMF(t)を直接生じる差分が得られる。
【0082】
6)電気光学サンプリング・ユニット23での、増幅ΔEGMF(t)信号4Aの電界のサンプリング。これは、図12における個々の生物医学(バイオメディカル)試料の通常の特性評価(特徴付け)に使用される同じEOSシステムによって実現できる。主要パルスなしで到来する差分分子信号によって、2つの重要な利点が提供される。第1に、EOS結晶に分子信号のはるかに高い電界を照射することができ、その電界では、通常の方式では(はるかに強い)励起波が結晶に不可逆的な損傷を与えることであろう(図12)。これによって、直接、結果的に、差分信号増幅から得られる感度に加えて、感度が向上する。第2に、EOS信号を処理する(デジタル)電子システムのダイナミック・レンジに対する要件が、大幅に緩和される。そのシステムは、関連する分子信号を検出するよう最適化することができ、はるかに強い付随信号を処理する必要がない。
【0083】
7)サンプリング(標本化)された時間的形状のフーリエ変換によって、試料1のスペクトル偏光応答が生成される。これは、例えば診断関連の情報を取得するために、計算装置30によってさらに処理することができる。偏光スペクトルのスペクトル特性は、偏光スペクトルをフィルタ(濾波)処理することによって得られる。ヒトの健康状態に特徴的な化合物の特定の帯域(バンド)を識別することができる。さらに、偏光スペクトルは、同じ有機体で以前に収集されたデータと、および/または、他の健康なまたは不健康な被験者で収集された参照データと、比較することができる。
【0084】
(II)参照波の分散補償
上述のように、GMF信号が主要パルスから効率的に分離される場合、GMF測定の感度を増大させることができる(これは参照波と試料波の双方に当てはまる)。これは、本明細書の最初の部分で説明した他の分光技術と比較して、国際公開第2016/102056号の電界分解分光法に典型的なノイズ(背景ノイズ)なしの検出による。参照波と試料波に共通のフィンガープリントが可能性ある最短の時間窓に制限される場合、それに応じて参加波の波長(色)分散を調整することによって、差分GMFに対してこの利点を拡張することができる。この場合、差分GMFは、試料波において(およびdMF実施形態の場合にはdMF信号において)主にそれぞれの波の終端部で出現し、参照波と試料波に共通のフィンガープリントからのそれ(差分GMF)の分離が最大化される。
【0085】
本発明のこの第2の実施形態によれば、それらの参加波の調整は、図2乃至5に示されているように参照波を圧縮するために、レーザ源装置10から検出器装置20までのビーム経路における波長(色)分散を設定することによって、試料波内での参照GMFからの差分GMFの時間的分離を含んでいる。参照GMF波からのdMF波の時間的分離は、例えば、図1の実施形態、図9のSRS測定、または図11の通常の電界分解分光法で、実現することができる。
【0086】
試料波内の参照GMFからの差分GMFの時間的分離は、図2A乃至2Cに概略的に示され図3A乃至3Fにさらに例示されるように、得られることが好ましい。
【0087】
図2A乃至2Cは、図1の干渉計セットアップのない本発明の第2の実施形態を示している。これらの図は、レーザ源装置10および検出器装置20を含む本発明による分光装置100の変形例を示しており、励起波2の唯一のビーム経路が設けられ、そこに試料または参照試料が配置され、試料波と参照波3Aの差分が、試料波と参照波の連続的測定とその後のその差分の計算によって、検出される。図2A乃至2Cは、参照試料1Aがビーム経路に配置される状況を示している。レーザ源装置10は、上述の構成要素(部品)11、12および13を含んでいる。検出器装置20は、NIRフェムト秒源11からのサンプリング・パルス5を使用して、試料波または参照波を電気光学サンプリングするよう適合化されている。
【0088】
図2Aは、試料1の後に配置された分散調整要素53(光学調整装置)の設備を示している。MIRフェムト秒源13で、フーリエ限界まで圧縮された励起波2が生成される。参照試料1Aによって、特に、参照容器51Aの壁材、および参照容器51Aに含まれる参照試料物質によって、参照主要パルスおよび参照波が引き伸ばされる(伸張される)。分散調整素子53の効果によって、参照波3Aは再び時間的に充分に圧縮される。従って、試料波と参照波の差分からdMF波を検出する感度が増大される。
【0089】
図2Bは、参照試料1Aの前に分散調整要素53を設ける代替的事例を示しており、一方、図2Cは、参照試料の代わりに、ビーム経路に試料1を有する同じ変形例を示している。この場合も同様に、参照波は、分散調整要素53の効果によって時間的に充分に圧縮される。その結果、参照パルスに対して調整された時間的な圧縮によって、試料波3の後流にdMF信号4が出現するようになる。注目すべきこととして、試料または参照試料との相互作用が線形である場合、図2Aおよび2Bの各変形例は均等または同等である。SRS測定の場合、それらは均等または同等ではないが、それでもその双方をSRS用に実装することができる。
【0090】
参照波の最適化された時間的圧縮のために、能動的でプログラム可能な分散調整要素53を使用することができる。複数の例には、音響光学プログラマブル分散フィルタ(またはダズラー(Dazzler)(AOPDF:音響光学分散フィルタ))および空間光変調器が含まれる。
【0091】
図3Aによれば、励起波2は、一般的に、ビーム経路に沿って検出器装置20に向けて圧縮される。これは、図3Bに概略的に示されているように、試料容器51の壁材によって形成される光学調整装置の効果によって、任意に、参照容器51A(図3C)の前にまたは参照容器51A(図3C(3D))の後に負または正の分散を導入する反射要素(素子)52の効果との組合せで、または、排他的に、参照容器51A(図3E)の前にまたは参照容器51A(図3F)の後に負または正の分散を導入する反射要素52によって、行うことができる。同じ分散設定構成要素(部品)は、試料容器(図示せず)を含むビーム経路を備えている。
【0092】
参照波3Aを短縮する分離効果は図4に概略的に示されており、曲線Aは、例えば、74fsの半値全幅(fwhm)帯域幅制限励起波2を、および曲線BおよびCは、通常のKCl試料容器壁材(それぞれ10mmおよび100mm)におけるパルスの拡大(broadening)を表している。曲線BおよびCは、曲線Dの試料GMFと強く重なり合い(オーバラップし)、従ってdMF波4の検出を劣化させる。参照波3Aの圧縮で、この重合いは最小化されまたは除外される。
【0093】
電界分解検出器において時間的に参照波3Aを最適に圧縮するために、次の2つの事例は際立って優れている。
【0094】
第1に、励起パルスは、分光装置100の測定部(区域、セクション)に入る前に、時間的に既に(先に)完全に圧縮される。これは、例えば、試料容器、ミラー(鏡)または他の光学部品のような、測定部の複数の構成要素(部品)が任意の追加的な分散を導入すべきでないこと、を意味するであろう。これは、次の3つの異なる設計方針(戦略)によって達成できる。
【0095】
設計1:任意の数の材料と、負および正の群速度分散とを組み合わる。それによって、個々の材料の厚さの選択が、各材料の導入された分散が相殺(減殺)される形態で行われる。材料は、関心の対象である試料を所定の位置に保つために、液体または気体セル用の窓として使用することもできる。透過率(透過性)を最大化するために、追加的な反射防止被覆を各窓に施す(塗布する、形成する)ことができる。
【0096】
設計1に基づく測定部の例は、10μmの中心波長で時間的に充分圧縮されたレーザ・パルス用の液体セル試料容器の設計を含み、また、試料容器用の壁として2つの5mmのゲルマニウム製の窓、および複数のゲルマニウム製の窓の1つと結合した1つの3mmのZnSeプレート(板)とを含んでいる。試料容器は、分散補償用のブルースター角で配置される。図5は、関心の対象である帯域幅にわたる導入された群速度分散を示している。10μmでは、合計のGVDは0に等しい。
【0097】
設計2:分散材料の総量を最小化する。これは、全ての透過窓の厚さを最小化するか、または関心の対象である液体試料の自由に流れる液体ジェット(噴射)を使用して完全にそれら(窓)なしで済ますことによって、達成できる。それによって、ビームの歪みおよび不所望な損失を回避するために、生成された液体膜は光学表面品質を有するべきである。その液体膜は、透過率(透過性)を最大化するために、ブルースター角で配置することもできる。光学的品質を有する液体膜は既に実証された(Tauber, M., et al., "Review of Scientific Instruments", 74.11 (2003): 4958-4960)。
【0098】
設計3:(条件に合うように)調整されたおよび/または調整可能な分散要素を導入して、窓材料、光学系、および/または関心の対象でない試料の成分によって、その導入された分散を補償する。これらの追加的な分散要素は、チャープ・ミラー(chirped mirrors)、空間光変調器(SLM)および/または音響光学プログラマブル分散フィルタ(Dazzler:ダズラ)のいずれかとすることができるであろう。
【0099】
第2に、測定装置に入る前に励起パルスがチャープされる。これは、電界分解検出器において時間的に充分圧縮されたパルスを確保するために、測定装置がこのチャープを補償する必要があること、を意味するであろう。事例1に類似して、これを達成するために設計1+3の僅かな変形例が適用可能である。
【0100】
設計1:任意の数の材料と、負および正の群速度分散とを組み合わる。それによって、個々の材料の厚さの選択が、各材料の導入された分散と、励起パルスのチャープとが相殺される形態で、行われる。それらの材料は、関心の対象である試料を所定の位置に保つために、液体または気体セル用の窓としても使用できる。透過率(透過性)を最大化するために、追加的な反射防止被覆を各窓に施す(塗布する)ことができる(要件2)。
【0101】
設計2:(条件に合うように)調整されたおよび/または調整可能な分散要素を導入して、窓材料、光学系、および/または関心の対象でない試料の成分によって、そのチャープおよび導入された分散を補償する。これらの追加的な分散要素は、チャープ・ミラー、空間光変調器(SLM)および/または音響光学プログラマブル分散フィルタ(Dazzler)のいずれかとすることができるであろう。一般的に、上述の列挙した設計の任意の組合せは、測定装置の要件1+2を満たすよう適合化可能である。
【0102】
容器壁の材料、容器壁の厚さおよび/または分散特性、例えば反射素子52の分散特性、の選択は、ビーム経路に沿った検出器装置20に向かう分散の数値シミュレーションに基づいて行うことができる。液体試料マトリックス中の試料用の試料容器は、例えば、分散制御用のZnSeプレートを有するGe壁部(高い透過率および効果的な圧縮の点で利点を有する)、分散制御用のZnSeプレートを有するSi壁部、またはGeプレートを有する臭化ヨウ化タリウム(Thalliumbromidiodide)(KRS-5)壁部を含んでもよい。試料マトリックスのない気体試料用の試料容器は、例えば、分散制御用のZnSeプレートを有するGe壁部、またはKI、RbIまたはCsI壁部、またはKBr、RBrまたはCBr壁部を含んでもよい。
【0103】
(III)相互作用幾何学的配置の最適化
試料GMFおよび/または差分GMFに最適にアクセスを行って、FRSのノイズ(背景ノイズ)なし検出特性を効率的に使用するための別の手法は、以下に記載するように、関心の対象である試料との相互作用長を最適化することによって、試料GMFを最大化すること、を含んでいる。
【0104】
強い吸収性の参照の場合、関心の対象である試料との最適な相互作用長l(小文字)は次式である。
【数1】
ここで、αは参照試料の吸収係数である。
【0105】
最適な相互作用長lは、所与の厚さxおよび電界ダイナミック・レンジDRに関する検索(retrieval:修正、回復)の次の相対誤差sαを最小化することによって、得られる。
【数2】
【0106】
相対誤差が最適な値と比較して係数10を超えて逸脱しない厚さの範囲は、次の通りである。
【数3】
【0107】
この等式の解は次の通りである。
【数4】
ここで、W(x)は積対数関数(product log function)である。
従って、最適な相互作用長lが、l=2/25α乃至l=10/αの範囲で得られる。
【0108】
さらに詳しくは、次の考慮事項に基づいて最適な相互作用長l=2/αが得られる。(参照試料を構成する)吸収試料マトリックスにおける試料の例は、強吸収性の液体中の分子種(molecular species)の低濃度溶液によって構成される。αを、強吸収性の緩衝(buffer)物質の吸収度(吸光度)とし、αを、試験対象の低濃度溶解分子種(solved molecular species)の吸収度とする。すると、或るスペクトル要素の強度は次の式で与えられる。
【数5】
また、“参照”の強度は、次式のように考えられる。
【数6】
電界が測定されるので、式(1)は次のように記述できる。
【数7】
検出器ノイズ制限感度(detector-noise limited sensitivity)(それは、参照パルスが、非常に短くて、GMFに関する重要な情報を失うことなく測定の時間窓から効率的にそれ(参照パルス)を除外できる場合、および、他のスペクトル要素における吸収体を介した強度と位相ノイズの結合が無視できる場合である)を仮定すると、最小検出可能吸収損失(MDAL)は次の通りである。
|E|-|E|>NEPE,att (3)
ここで、NEPE,attは、αを有する媒体を通した次式のような減衰の後のそれぞれのスペクトル要素におけるノイズ等価のパワー(電力、出力)である。
【数8】
【数9】
で近似し、
【数10】
と書くと、次式が得られる。
【数11】
従って、αにおいてMDALに達するのは、次の関数が最小値に達するときである。
【数12】
この値を見つけるために、次式のように、1次導関数が計算され、0に設定される。
【数13】
その解はx=2/αである。
【0109】
例えば、9.6μmにおいてα=600cm-1を有する緩衝物質として水を考えると、最適な液体セル厚33μmが得られる。電界測定のダイナミック・レンジを10と仮定すると、式(5)から、α=0.0163cm-1でのMDALが導出される。
【0110】
(IV)試料波の光増幅
差分GMF(試料1および参照試料1Aによって放出されるGMF波の電界の差分、図1参照)は、極めて弱い可能性がある。従って、電気光学サンプリング(または或る代替的な電界サンプリング技術)によって測定される前に、その増幅が望ましいであろう。図6および7によると、この目的のために光パラメトリック増幅(OPA)が使用される。効率的なOPAに要求されるのは、そのプロセスに関与する3つの全ての波の位相速度の整合、ポンプ波(pump wave:励起波)が増幅プロセスを駆動すること、および信号波(signal wave)とアイドラ波(idler wave)が増幅されること:k=k+kである(“信号”と“アイドラ”の属性は、従来、より高い周波数およびより低い周波数の増幅波に関連付けられる)。OPAによって増幅された波が超オクターブの帯域幅を有する場合、この波は、増幅波の歪みのない効率的な増幅のための必要条件として、その帯域幅全体にわたって上述の位相整合条件を合理的に(妥当に)充分に満たすことができるようにするために、最低周波数の“アイドラ”波であることが、好ましい。この位相整合条件が満たされ、ポンプ波および増幅される(アイドラ)波だけがOPA結晶において重なり合う場合、後者(増幅)波は、次のような(漸近的に)指数関数的な増大を経験する(受ける)。
(z)∝A(0)egz
ここで、Aは、OPA結晶におけるz方向に沿った伝播時の分子信号(アイドラ波)の振幅であり、gは、ポンプ波の振幅に比例するOPA利得係数である。OPAのこの最も単純な実装の主な欠点は、入力信号の振幅A(0)が非常に小さい場合、それ(振幅)が、この背景ノイズを支配するように増幅器媒体において自発的に出現する放射の振幅を充分に超えない可能性があることである。その場合、増幅された出力は、許容できないノイズに悩まされるであろう。増幅される存在する試料波3は実に非常に弱い可能性があるので、OPAプロセスをポンプ波でだけでなく同時に入力振幅A(0)の信号波ででも駆動することによって、後者の問題を洗練された形態でかつ効率的に回避することができる。それ(入力振幅)は、分子信号の振幅より数オーダ(数桁の)大きさだけ強いものであり得る、即ち、A(0)>>A(0)。これらの条件下で、再び完全な位相整合を仮定すると、次の式が得られる。
(z)∝As(0)egz
上述の関係を比較すると、この後者の場合の増幅後の分子信号の振幅は、次式によって増強される。
【数14】
Gは、分子波の初期振幅に応じて、容易に10~10の大きさにすることができる。
【0111】
従って、差分分子信号の増幅は、ポンプ信号駆動型の(ポンプ信号で駆動される)OPAを使用して実装すべきである。分子システムを照射するのに使用される中赤外波が同じプロセスで生成される場合、これは特に簡単(straightforward)である。この場合、OPAシステムから出るポンプ波および信号波は、上述の目的のために直接再循環させることが(リサイクル)できる。
【0112】
この増幅原理は、図1のセットアップの他の詳細を示す図6において示され、また、代替実施形態を示す図7において示されており、その増幅は検出器装置20に含まれている。図6によれば、試料波3(試料との相互作用の後のMIRパルスのビーム)は、光パラメトリック増幅装置60に送られる。その増幅された試料波3’は、MIR-NIRビーム・コンバイナ17を介してサンプリング・パルス5と合波(合成、結合)され、(図7および12に示されているように)電気光学結晶25、ウォラストン(Wollaston)プリズム26および平衡検出器27を含む電気光学サンプリング・ユニット23に送られる。電気光学サンプリング・ユニット23では、電気光学結晶25において総和周波数発生(SFG)信号の光増幅で、電気光学検出が行われる。SFG信号は、MIR信号(分子フィンガープリント信号)の実際の情報を搬送する。図7によれば、光パラメトリック増幅装置60は、電気光学サンプリング・ユニット23に含まれる。
【0113】
図8は、図1の干渉計セットアップ(実施形態I)と、分散セットアップ(実施形態II)および光増幅(実施形態IV)とを組み合わせた分光装置100の変形例を示している。この場合、分散調整要素53は干渉計40の前に配置され、光パラメトリック増幅装置60は第1の検出器チャネル21に配置される。
【0114】
(V)分光装置のSRSの実施形態
本発明の一実施形態によれば、SRS測定にFRS分光法が使用される。図9は、SRS測定の例を示している。本発明の実装は、この特定のセットアップに限定されるものではなく、代替的に改変変形例ででも可能であり、特に、ポンプ・パルスおよびストークス・パルスの供給、および参照試料の直列(シリアル)測定(図示のように)または並列測定( 図1に類似)に関する改変変形例でも可能である。
【0115】
図9によれば、SRS測定用の分光装置100は、レーザ・パルス源10、検出器装置20、および参照波の時間的圧縮のための分散設定構成要素(部品)(試料容器51の壁材または参照容器51A、図示せず)の設計によって具現化されるもの)を含んでいる。試料のスペクトル応答を計算するための計算装置(図1を参照)は、図9に示されていない。分光装置100の図示された実施形態は、参照波から試料波を時間的に分離するよう適合化される。本発明の代替実施形態によれば、図10の分光装置100は、例えば図1または8による、励起(excitation)波からの試料波の干渉(的)分離(interferometric separation)に適合化させることができる。
【0116】
レーザ・パルス源10は、例えば、出力エネルギ30μJ、繰返し率11MHz、中心波長1030nmおよびパルス持続時間500fsを有する、例えば駆動パルスを生成するYb:YAG薄ディスク・レーザのような、フェムト秒源11を含んでいる(D. Bauer et al., "Opt. Express" 20.9, p.9698., 2012、J. Brons et al., "Opt. Lett." 41.15, p.3567, 2016、H. Fattahi et al., "Opt. Express" 24.21, pp.24337-24346, 2016参照)。生成後、それらの駆動パルスは、それらのフーリエ変換限界まで圧縮される。それらのパルスを約20fsに時間的に閉じ込めることによって、より高い感度およびSN(signal-to-noise)比で分子自由誘導減衰(molecular free induction decay)(FID)を検出できる。フェムト秒変換ユニット19が、駆動パルスに基づいて、450nm乃至2000nmのスペクトルを有するCEP安定スーパーコンティニウムを生成するために設けられる。フェムト秒変換ユニット19は、例えば、石英のようなバルク材料において白色光の生成を含んでいる。フェムト秒変換ユニット12の出力の一部は、検出器装置20を用いた電気光学サンプリング用の一連のサンプリング・パルス5を供給するために、チャープ・ミラー圧縮器および遅延ユニットを含む第1の圧縮および遅延ユニット13Aへと偏向される(deflected)。
【0117】
誘導ラマン散乱の電界検出のために、試料1に、一連のパルス、例えば、共にフェムト秒変換ユニット12からの出力に基づいて生成された狭帯域ポンプ・パルス7および広帯域ストークス・パルス2(図10を参照)、を同時に照射する。励起波(excitation wave)は、第2の圧縮および遅延ユニット13Bを介して試料1に供給される広帯域ストークス・パルス2によって表される。狭帯域ポンプ・パルス7は、音響光学変調器71(MHzの周波数で変調する)、および、例えば中心波長1030nmおよびパルス持続時間1psを有する、エタロン(ethalon、フィルタ)72で生成される。試料1との相互作用の後、変調プローブ光は、試料1の振動ラマン応答によって増強されたストークス・パルス8、およびポンプ・パルスを含んでいる。検出装置20での電気光学サンプリングの前に、増強されたストークス・パルス8は、ポンプ光を抑制するロングパス・フィルタ(長波長通過フィルタ)73(例えば、1050nm)を通過する。増強ストークス・パルス8は上述の試料波3を表している。dMF測定を実現するために、試料1が参照試料によって置換され、参照試料において励起された増強ストークス・パルスを含む参照波が検出される。
【0118】
電気光学サンプリング用の検出器装置20は、上述のように設計される。第1の圧縮および遅延ユニット13Aによって供給されるサンプリング・パルス5は、試料波、例えば増強ストークス・パルス8、と重畳され、その双方は、電気光学結晶25(例えば、BBO結晶)、700nmショートパス・フィルタ(短波長通過フィルタ)およびλ/4プレート、ウォラストン・プリズム26を介して、平衡検出器27に同時に送られる(透過される)。
【0119】
代替実施形態では、広帯域ポンプ・パルスおよび狭帯域ストークス・パルスが生成され、励起(excitation)波は狭帯域ストークス・パルスを含み、プローブ光は広帯域ポンプ・パルスを含み、変調プローブ光は、試料の振動ラマン応答によって減少したポンプ・パルスを含んでいる。別の代替実施形態によれば、図9の分光装置100は、例えば図1による、参照波からの試料波(増強ストークス・パルス8)の干渉分離に適合化させることができる。特に、図1のマッハ・ツェンダー干渉計は、第1の干渉計アーム内の試料1と、第2の干渉計アーム内の参照試料とを含むように、設けることができる。ポンプ・パルスおよびストークス・パルスは、第1の干渉計アームと第2の干渉計アームの双方に分割される。
【0120】
図9によるストークス・パルスの電界検出は、新規なフェムト秒SRSスキーム(方式)を表している。本発明のこの実施形態における感度の増大は、数フェムト秒(fs)時間窓内の励起(excitation)ストークス・パルスの閉じ込めに起因する。ストークス利得は、数百fsから始まるピコ秒の時間枠で、その励起パルスの時間窓の外側で、分解できる。分子応答は時間とともに指数関数的に減衰するので、ノイズ(背景ノイズ)なしの測定によって、より高い感度が可能になる。
【0121】
フェムト秒(fs)のSRSにおいて、狭帯域幅psラマン・ポンプ・パルス7と広帯域の数サイクルのストークス・パルス2との同時の相互作用によって、試料において巨視的な分極が形成される。ポンプ・パルス7の狭帯域幅は、分子フィンガープリントの分解に必要な高いスペクトル分解能を与える。プロセス期間中に、鋭い振動利得の特徴が、ストークス・エンベロープ(包絡線)の上部に、また、同等に、数百psのオーダの指数関数的減衰が時間領域に、現れる。そのプロセスが図10に示されている。ストークス・パルスは、振動のディフェージング(dephasing:位相ばらつき)時間τvibで減衰する試料における分子の振動コヒーレンスを開始する。振動コヒーレンスのこの有限の持続時間の結果として、周波数領域において制限された帯域幅が得られ、誘導されたコヒーレント振動運動は、振動周波数において巨視的分極を変調する(Kukura, P. et al, "Annu. Rev. Phys. Chem." 58.1, pp.461-488, 2007)。試料のフィンガープリント領域全体は、時間領域において増強ストークス・パルス3を測定することによって、検出できる。
【0122】
以上の説明、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の各特徴は、個々にもまたは組合せまたは部分的組合せでも、本発明を様々な実施形態での実現のために、重要であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12