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特許71626183Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体
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  • 特許-3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体 図1
  • 特許-3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体 図2
  • 特許-3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体 図3
  • 特許-3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体 図4
  • 特許-3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】3Dバイオプリンティング及び薬物送達のための調整可能なレオロジーを有する架橋ずり減粘流体
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20221021BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20221021BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20221021BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20221021BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221021BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221021BHJP
   A61K 9/62 20060101ALI20221021BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221021BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221021BHJP
   C08B 37/06 20060101ALI20221021BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221021BHJP
   C08J 3/02 20060101ALI20221021BHJP
   C08L 5/06 20060101ALI20221021BHJP
   C12N 5/00 20060101ALN20221021BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/44
A61L27/52
A61L27/58
A61L27/38
A61K47/36
A61K9/62
A61P43/00 105
A61K35/12
C08B37/06
B33Y70/00
C08J3/02 CEP
C08L5/06
C12N5/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019562315
(86)(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018031290
(87)【国際公開番号】W WO2018208632
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】62/505,353
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】チャン,テレサ
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ホアユン
(72)【発明者】
【氏名】リンチャック,ベンジャミン レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,イン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,イン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,ユエ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047128(JP,A)
【文献】特開平01-240155(JP,A)
【文献】特開2004-231566(JP,A)
【文献】特開2009-067790(JP,A)
【文献】特表2005-513079(JP,A)
【文献】特表2002-501406(JP,A)
【文献】米国特許第06251424(US,B1)
【文献】Journal of Texture Studies,1980年,11,pp.247-256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
C08B 37/06
C08L 5/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価カチオンで架橋されたペクチン酸を含む水溶液を含む、ずり減粘流体であって、
前記水溶液がさらに細胞及び/又は治療剤を含み、
前記ペクチン酸が.5~.0%(w/v)の範囲の量で存在し、前記二価カチオンが.5mM~.0mMの濃度で存在し、前記ずり減粘流体の粘度が、剪断の低下にともなって増加する、ずり減粘流体。
【請求項2】
前記二価カチオンが.5mM~.0mMの濃度で存在する、請求項1に記載のずり減粘流体。
【請求項3】
前記二価カチオンがmMの濃度で存在する、請求項1に記載のずり減粘流体。
【請求項4】
前記ペクチン酸が.0~.5%(w/v)の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項5】
ペクチン酸が.6%(w/v)の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項6】
前記ペクチン酸が均一に架橋されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項7】
前記ペクチン酸がペクチン酸のナトリウム塩である、請求項1~6のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項8】
前記二価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、及びバリウムカチオンからなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項9】
前記二価カチオンがカルシウムカチオンである、請求項1~7のいずれか一項に記載のずり減粘流体。
【請求項10】
前記カルシウムカチオンがカルシウム塩によってもたらされる、請求項9に記載のずり減粘流体。
【請求項11】
前記カルシウム塩が、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びクエン酸カルシウムからなる群より選択される、請求項10に記載のずり減粘流体。
【請求項12】
剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、架橋したずり減粘流体の製造方法において、
ペクチン酸及び二価カチオンの水溶液を提供する工程であって、前記ペクチン酸が.5~.0%(w/v)の範囲の量で存在し、前記二価カチオンが0.5mM~.0mMの濃度で存在する、工程;及び
前記ペクチン酸を前記二価カチオンと架橋させ、それによって前記ずり減粘流体を生成するのに適した条件下で、前記水溶液を混合する工程であって、前記ずり減粘流体が、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、工程
を含み、
前記水溶液が、その架橋の前、最中、及び/又は後に添加された細胞及び/又は活性剤をさらに含む、方法。
【請求項13】
前記二価カチオンが.5mM~.0mMの濃度で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ペクチン酸が.0~.5%(w/v)の量で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ペクチン酸がペクチン酸ナトリウム溶液によってもたらされる、請求項1214のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ペクチン酸が前記二価カチオンと均一に架橋される、請求項1215のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記二価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、及びバリウムカチオンからなる群より選択される、請求項1216のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記二価カチオンがカルシウムカチオンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記カルシウムカチオンがカルシウム塩によってもたらされる、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2017年5月12日出願の米国仮特許出願第62/505,353号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、調整可能なレオロジーを有し、かつ、構造忠実性及び機械的安定性の改善のために剪断を低下させると粘度の上昇を示す、ペクチン酸の架橋ずり減粘(shear-thinning)流体、並びにその製造及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
架橋ヒドロゲルを含む架橋ポリマーゲル材料は、生物医学産業において幅広い用途及び可能性を有している。このようなゲル材料は、積層造形の一形態である3Dプリンティングを通じた組織工学足場の製造のために調査され、利用されている。理想的には、3D構造をプリントするシステムには、細胞材料の直接印刷が含まれる;このようなシステムにより、細胞を3D足場内に直接堆積させることが可能となる。加えて、このようなゲル材料は、カプセル化された薬物及び細胞の活性を調節することによって薬物及び細胞療法を高めるような放出制御製剤及び細胞のカプセル化のために、現在、調査され、利用されている。アルギン酸塩又はペクチン酸塩の架橋ヒドロゲルを含む従来技術の磁気マイクロキャリアが図1に概略的に示されている。従来技術のマイクロキャリアビーズ100は、複合コア110と、コアを完全に取り囲みカプセル化するコーティング120とを含んでいる。複合コア110は、外面112を画成する一体化した本体を備えている。コーティング120は、コア110の外面112と直接、物理的に接触している。複合コア110は、ポリマーマトリクス140全体に分散した多結晶の無機磁性材料の1つ以上の粒子130を含む、混合物である。コア110内のポリマーマトリクス140は、難消化性又は非溶解性ポリマー材料、若しくはそのようなポリマー材料の混合物を含む。コーティング120は、アルギン酸塩又はペクチン酸塩の架橋ヒドロゲルを含みうる。
【0004】
しかしながら、放出制御製剤、細胞のカプセル化、及び3Dプリンティングで使用するある特定のゲル材料の開発では、細胞の生存率を犠牲にしてゲル材料の機械的構造及び形状の忠実性に焦点が当てられた。例えば、このようなゲル材料の射出に伴う剪断力、又は3Dプリンティング中にこのようなゲル材料の液滴を基板上に駆動させることに伴う剪断力は、しばしば、このようなゲル材料中に分散した細胞に損傷をもたらす。逆に、制御放出製剤、細胞のカプセル化、及び3Dプリンティングで使用する代替ゲル材料の開発は、材料の機械的構造及び形状の忠実性よりも細胞の生存率を際立たせた。このような材料は、しばしば、3Dプリンティング中の射出又は分配後に架橋又は他の方法で固化される。しかしながら、このような射出可能なゲル材料は、送達後に不安定になることが知られている。同様に、このようなゲル材料は、プリンティング堆積とゲル材料の適切な形状の忠実性を提供するために必要な架橋工程との間の時間的な遅延に起因する、プリントした構造の幾何学形状並びに細胞及びマトリクスの組成の制御の欠如につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、放出制御製剤、細胞のカプセル化、及び3Dプリンティングに利用することができる代替材料及びその製造方法に対する継続的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される実施形態は、調整可能なレオロジーを有し、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体、並びにその製造及び使用方法に関する。ペクチン酸のこれらの架橋ずり減粘流体は、放出制御製剤、細胞のカプセル化、及び3Dプリンティングに利用することができる。ずり減粘に対する高い応答性と、剪断応力除去時に安定した高粘度の流体へと迅速に回復することにより、ペクチン酸のこれらの架橋ずり減粘流体は、構造忠実性/機械的安定性と細胞生存率との改善されたバランスを提供することができる。
【0007】
実施形態では、二価カチオンによって架橋されたペクチン酸の水溶液を含むずり減粘流体が開示される。ペクチン酸は約0.5~約3.0%(w/v)の量で存在してよく、二価カチオンは約0.5mM~約7.0mM~の濃度で存在してよい。二価カチオンによって架橋されたペクチン酸のずり減粘流体の粘度は、剪断の低下にともなって上昇する。
【0008】
他の実施形態では、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、架橋したずり減粘流体の製造方法が開示される。本方法は、ペクチン酸の水溶液と二価カチオンとを提供する工程を含む。ペクチン酸は約0.5~約3.0%(w/v)の量で存在してよく、二価カチオンは0.5mM~約7.0mMの濃度で存在してよい。本方法はさらに、ペクチン酸を二価カチオンと架橋させ、それによって、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示すずり減粘流体を生成するのに適した条件下で、水溶液を混合する工程を含む。
【0009】
前述の概要及び以下の詳細な説明はいずれも、さまざまな実施形態を説明しており、特許請求される主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図していることが理解されるべきである。添付の図面は、さまざまな実施形態のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれて、その一部を構成する。図面は、本明細書に記載されるさまざまな実施形態を例証しており、その説明とともに、特許請求の範囲の主題の原理及び動作を説明する役割を担う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】先行技術におけるアルギン酸塩又はペクチン酸塩の架橋ヒドロゲルを有する磁気マイクロキャリアの概略図
図2】低濃度のカルシウムイオンを含む又は含まないアルギン酸塩又はペクチン酸ベースの溶液の定常剪断速度掃引の結果を示すグラフ。(◆)は、カルシウムイオンを含まないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)の定常剪断速度掃引を示している。(▲)は、5mMのCaCOと11.2mMのグルコノデルタラクトンとを含むアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)の定常剪断速度掃引を示している。(□)は、カルシウムイオンを含まないペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#1)の定常剪断速度掃引を示している。(○)は、5mMのCaCOと11.2mMのグルコノデルタラクトンとを含むペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の定常剪断速度掃引を示している。
図3】高濃度のカルシウムイオンを有するアルギン酸塩又はペクチン酸ベースのヒドロゲルの動的剪断速度掃引の結果を示すグラフ。(x)は、12.5mMのCaCOと33.7mMのグルコノデルタラクトンとを含むアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#3)の動的剪断速度掃引を示している。(*)は、30mMのCaCOと67.4mMのグルコノデルタラクトンとを含むアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#4)の動的剪断速度掃引を示している。(+)は、12.5mMのCaCOと33.7mMのグルコノデルタラクトンとを含むペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#3)の動的剪断速度掃引を示している。(-)は、30mMのCaCOと67.4mMのグルコノデルタラクトンとを含むペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#4)の動的剪断速度掃引を示している。
図4】低濃度のカルシウムイオンを含む又は含まないアルギン酸塩溶液と、低濃度のカルシウムイオンを含むペクチン酸ベースの溶液との回復試験の結果を示すグラフ。カルシウムイオンを含まないペクチン酸溶液は、ニュートン流体の性質の理由から、試験には含めなかった。アルギン酸塩溶液及びペクチン酸溶液は、最初に30秒間、0.1秒-1の低剪断速度(点A)に曝露され、その後10秒間、100秒-1の高剪断速度(点B)に曝露された。次に、剪断速度を0.1秒-1の低剪断速度(点C)に戻した。高剪断速度(100秒-1)を取り除いた後に、回復を測定した。太い濃い線は、カルシウムイオンを含まないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)を示している。細い線は、5mMのCaCOと11.2mMのグルコノデルタラクトンとを含むアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)を示している。破線は、5mMのCaCOと11.2mMのグルコノデルタラクトンとを含むペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)を示している。
図5】本明細書に開示されるペクチン酸の架橋ずり減粘流体の実施形態と共に使用するための3-Dプリンティングシステムの実施形態の概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
特定の実施形態の以下の説明は、本質的に単なる例示であり、本開示、その用途、又は使用の範囲を制限することを決して意図するものではなく、当然ながら変化する可能性がある。本開示の実施形態は、本明細書に含まれる非限定的な定義及び用語に関連して説明される。これらの定義及び用語は、本開示の実施形態の範囲又は実施に対する制限として機能するようには設計されておらず、例示及び説明の目的のためだけに提示されている。組成物及び方法は、特定の材料又は個々の工程の特定の順序を使用するものとして説明されているが、材料又は工程は、本開示の実施形態の説明が当業者によって容易に認識されるように多くの方法で配置された複数の部分又は工程を含むことができるように、交換可能でありうることが認識される。
【0012】
本明細書で使用される用語は、単に特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することは意図されていない。本明細書で用いられる場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容が特に明記しない限り、「少なくとも1つ」を含めた複数形を含むことを意図している。「又は」は、「及び/又は」を意味する。本明細書で用いられる場合、用語「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる組合せを含む。さらに、「含む」及び/又は「含んでいる」、若しくは「含有する」及び/又は「含有している」という用語は、本明細書で用いられる場合には、述べられている特徴、領域、整数、工程、動作、要素、及び/又は成分の存在を指定するが、それらの1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、動作、要素、成分、及び/又は群の存在又は追加を排除しないことが理解されよう。さまざまな実施形態の説明が「含む」及び/又は「含有する」という用語を使用する場合、当業者は、幾つかの特定の例では、「~から実質的になる」又は「~からなる」という言葉を使用して代替的に実施形態を説明できることを理解するであろうことをさらに理解されたい。「又はそれらの組合せ」という用語は、前述の要素の少なくとも1つを含む組合せを意味する。
【0013】
本明細書全体にわたって与えられるすべての数値範囲は、このような広い数値範囲内に入るすべての狭い数値範囲を、このような狭い数値範囲がすべて本明細書に明示的に書かれているかのように含むことが理解されるべきである。
【0014】
本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表現することができる。このような範囲が表現される場合、例は、その1つの特定の値から及び/又は他方の特定の値までを含む。同様に、例えば先行詞「約」の使用によって、値が近似値として表される場合、その特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。さらには、範囲の各々の端点は、他の端点に関連して、及び他の端点とは独立してのいずれにおいても重要であることが理解されよう。
【0015】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、その工程が特定の順序で実行されることを必要とすると解釈されることは、決して意図していない。したがって、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していないか、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが特許請求の範囲又は明細書に具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序も、推測されることは、決して意図していない。いずれか1つの請求項で列挙された単一又は複数の特徴又は態様は、任意の他の請求項で列挙された他の列挙された特徴又は態様と組み合わせるか、又は並べ替えることができる。
【0016】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されているような用語は、関連技術及び本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書に明示的に定義されていない限り、理想化された又は過度に形式的な意味で解釈されないことがさらに理解されよう。
【0017】
実施形態において、本開示は、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示すペクチン酸の架橋ずり減粘流体、並びにその製造及び使用方法を対象とする。流体は、剪断応力の増加にともなって流体の粘度が低下する場合、「ずり減粘」性である。図2に示されるように、二価カチオンの添加無しでは、ペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#1)は、低粘性のニュートン流体である。このペクチン酸溶液は、1秒-1の低剪断速度で約13mPa・sの粘度を有しており、剪断速度を上昇させても粘度の明確な変化は示さなかった。本発明者らは、ペクチン酸の水溶液が低濃度の二価カチオンと最小限に架橋できることを発見したが、これは流体の粘度を増加させ、ずり減粘挙動を有する安定した非ニュートン流体を形成するのに役立つ(図2)。少量のCa2+(5mM)をペクチン酸の水溶液に加えた後、最小限に架橋したペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)は、1秒-1の低剪断速度でおよそ20,800mPa・sの粘度を示し、二価カチオンを添加しないペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#1)と比較して、粘度が1600倍に増加した(図2)。さらには、最小限に架橋されたペクチン酸溶液は、同様に調製されたアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)と比較して高い粘度を示した。最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)は、1秒-1の低剪断速度でおよそ20,800mPa・sの粘度を示したが、同様に調製されたアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)は、1秒-1の低剪断速度でおよそ8,100mPa・sの粘度を示した。同様に調製されたアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)の負の勾配と比較した、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)のより急な負の勾配によって示されるように、意外にも、ペクチン酸の最小限に架橋したずり減粘流体は、同様に調製されたアルギン酸塩溶液と比較して、増加したずり減粘応答も示した(図2)。より具体的には、剪断速度が1から1000秒-1に増加すると、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、およそ20,800mPa・sからおよそ130mPa・sへの低下(およそ1/160の低下)を示した。対照的に、同様に調製されたアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)は、剪断速度が1から1000秒-1に増加すると、およそ8,100mPa・sからおよそ256mPa・sへの低下(およそ1/31の低下)を示した。さらには、最小限に架橋したペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、剪断速度が50秒-1を超えて増加すると、架橋のないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)よりも低くなった(図2)。
【0018】
図4に示されるように、ペクチン酸の最小限に架橋したずり減粘流体(表1のペクチン酸溶液配合物#2)は、剪断の低下にともなう粘度の上昇を示し、剪断応力の除去時に安定した高粘性の液体への迅速な回復を示す(図4)。この剪断からの強度の回復は、数分又は数秒で完了する場合がある。驚いたことに、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、同様に調製されたアルギン酸塩溶液よりも高く速い回復応答を示した(図4)。0.1秒-1の低剪断速度では(図4の点A)、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)は、対応するアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)及び架橋のないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)の両方よりも高い粘度を示した。100秒-1の高い剪断速度への曝露後(図4の点B)、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、低剪断速度(0.1秒-1)での曝露と比較して350倍低下した。さらには、より高い剪断速度(100秒-1)への曝露後、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、より高い剪断速度(100秒-1)への曝露後の対応するアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)及び架橋のないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)の両方よりも低い粘度を示した。これらの結果は、図2に示した定常状態の剪断速度掃引試験と一致し、最小限に架橋されたペクチン酸流体のより優れたずり減粘特性を裏付けている。加えて、高剪断が除去された後の回復中(図4の点C)、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、迅速に回復し、2秒で元の粘度の50%に達し、10秒で元の粘度のおよそ70%に達した(図4)。2秒未満で、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、すでに、対応するアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)及び架橋のないアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#1)の両方よりも高いレベルに上昇していた。10秒以内に、最小限に架橋されたペクチン酸溶液(表1のペクチン酸溶液配合物#2)の粘度は、すでに、対応するアルギン酸塩溶液(表1のアルギン酸塩溶液配合物#2)の粘度の3倍になった。したがって、図4のデータは、最小限に架橋されたペクチン酸溶液が、同様に調製されたアルギン酸塩溶液と比較して増加したずり減粘応答を示すことを裏付けており、さらに最小限に架橋されたペクチン酸溶液が、剪断応力の除去時に、同様に調製されたアルギン酸塩溶液よりも高く、より速い回復応答を示すことを示している(図4)。
【0019】
図3に示されるように、ペクチン酸の安定した架橋ずり減粘流体は、追加量の二価カチオンによってさらに架橋されて、同様に調製されたアルギン酸塩ヒドロゲルよりも高い粘度を示すヒドロゲルを形成することができる。さらには、これらのペクチン酸ヒドロゲルは、細胞適合環境において低濃度のペクチナーゼ及びEDTAで溶解することができ、同様に調製されたアルギン酸ヒドロゲルよりも1.5倍速く溶解しうる(データ示さず)。
【0020】
このように、現在開示されているペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、放出制御製剤、細胞のカプセル化、及び3Dプリンティングに有利に利用することができる。このようなペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、構造忠実性/機械的安定性と細胞生存率との改善されたバランスを提供することができる。これらの材料は、一貫した制御された条件で治療剤又は細胞をカプセル化するために、改善された形状忠実性と機械的安定性を備えた高粘性で安定した流体を提供する。この高粘性で安定した液体の高いずり減粘応答により、これらの材料は、3Dプリンティング中に射出によって、カテーテルを介して、又はプリンタのヘッドから、細胞生存率の向上を伴って送達することができる。重要なことには、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、送達後に目的部位において高粘度の安定した流体へと迅速に戻り、射出後の安定性の改善と、3Dプリンティング後のプリントされた構造の幾何学形状並びに細胞及びマトリクスの組成の改善された制御とを可能にする。さらには、ペクチン酸の架橋されたずり減粘流体はさらに、このような送達後にさらに架橋されて、同様に調製及び試験されたアルギン酸塩ヒドロゲルと比較して驚くほど強力なヒドロゲルを提供することができる。例えば、ペクチン酸の架橋されたずり減粘流体は、体液中に存在するカルシウムイオンなどの二価カチオンの追加の供給源との接触によって、体内への射出後にヒドロゲルへとさらに架橋することができる。加えて、ペクチン酸の架橋されたずり減粘流体は、流体に追加の二価カチオンを供給することにより、3Dプリンティング後にヒドロゲルへとさらに架橋することができる。したがって、ペクチン酸の架橋剪断減粘流体のレオロジー特性は、液体に加えられる二価カチオンの量を調整することによって微調整することができ、同様に調製されたアルギン酸塩ベースの材料よりも優れたずり減粘及び回復特性を備えた高粘性流体を提供することができ、したがって、さまざまな射出及び3Dプリンティング条件において利用することができる。
【0021】
実施形態では、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体が開示される。幾つかの実施形態では、ずり減粘流体には、二価カチオンによって架橋されたペクチン酸又はその塩を含む水溶液が含まれる。ポリガラクツロン酸(PGA)としても知られるペクチン酸は、ほとんどがコロイド状ポリガラクツロン酸で構成され、メチルエステル基を本質的に含まない、又は有しないペクチン質である。ペクチン酸は、ペクチンのある特定のエステルの加水分解から形成されうる。ペクチンは、植物において構造的な役割を果たす細胞壁多糖類である。それらは、1,2-結合L-ラムノースによってランダムに中断された、1,4-結合アルファ-D-ガラクツロネート骨格に基づいた主に線状のポリマーである。平均分子量は約50,0000~約200,000でありうる。完全に脱エステル化されたペクチンは、ペクチン酸又はPGAである。
【0022】
ペクチンの2つの主な供給源は、例えば、柑橘類の皮(主にレモン及びライム)又はリンゴの皮であり、それらの抽出物から得ることができる。しかしながら、柑橘類とリンゴ以外にも、ペクチンは、ジャガイモ、グレープフルーツ、テンサイ、及びヒマワリ頭部から得られている。
【0023】
実施形態では、ペクチン酸は、その間の任意の値又は範囲を含めて、約0.5~約3.0%(w/v)の範囲の量で水溶液中に存在する。他の実施形態では、ペクチン酸は、その間の任意の値又は範囲を含めて、約1.0~約2.5%(w/v)の範囲の量で水溶液中に存在する。さらなる実施形態では、ペクチン酸は、約1.6%(w/v)の量で水溶液中に存在する。
【0024】
実施形態では、ペクチン酸は、ペクチン酸ナトリウム塩、ペクチン酸カリウム塩、ペクチン酸マグネシウム塩、及び/又はペクチン酸アンモニウム塩でありうる。
【0025】
実施形態では、水溶液のペクチン酸は、低濃度の多価カチオンと最小限に架橋されて、流体の粘度を上昇させ、ずり減粘挙動を有する安定した非ニュートン流体を形成する。ペクチン酸の架橋は、好ましくはイオン性架橋によって行われるが、これは、多価対イオンの存在下で架橋するペクチン助剤の能力に基づいている。ペクチン酸流体の粘度の増加は、多価カチオンとガラクツロン残基のブロックとの間の強い相互作用に起因する。多価カチオンを添加しない場合、ペクチン酸溶液は低粘性のニュートン流体である。しかしながら、本明細書に開示されるように低濃度の二価カチオンで最小限に架橋されると、流体の粘度は実質的に上昇し、ずり減粘挙動を有する安定した非ニュートン流体を形成する(図2)。意外にも、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、同様に調製されたアルギン酸塩溶液よりもずり減粘に対してより高い応答を示した(図2)。
【0026】
幾つかの実施形態では、水溶液のペクチン酸は均一に架橋される。均一に架橋されたとは、ランダムな分布又は均等な分布でありうる、実質的に非クラスター化された分布で広がる架橋を指すために用いられる。例として、限定はしないが、内部架橋/ゲル化法によって、均一な架橋を達成することができる。加えて、架橋されたペクチン酸を実質的に剪断することなく、溶液を緊密に混合することができる装置を使用して、均一な架橋を達成することができる。このような装置はホモジナイザーであってよく、動作速度は、その間の任意の値及び範囲を含めて、約5,000~50,000rpmの範囲であることが好ましい。均質化は、その間の任意の値及び範囲を含めて、30秒~5分間、行うことができる。
【0027】
したがって、剪断の低下にともなって粘度の増加を示すペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、低濃度の多価カチオン(例えば、二価カチオン)が存在する水溶液のペクチン酸を架橋又は均一に架橋することによって得ることができる。架橋は、ペクチン酸及び二価カチオンを含む水溶液を提供する工程、ペクチン酸を二価カチオンと架橋し、それによってずり減粘流体を生成するのに適した条件下で該水溶液を混合することによって達成することができ、該ずり減粘流体は、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す。
【0028】
例として、限定はしないが、ペクチン酸は内部イオンゲル化によって架橋されうる。内部ゲル化には、水不溶性カルシウム塩などの水不溶性二価塩を含むペクチン酸の水溶液が含まれる。水不溶性カルシウム塩を使用することにより、分散中に不均一な架橋を引き起こすことなく、ペクチン酸溶液内に均一に分散することができる。架橋は、酸の添加により開始され、ペクチン酸溶液のpHを低下させ、不溶性の塩から可溶性の二価カチオンを放出する。例としてであって限定はしないが、実施形態では、このような酸は、徐放性の酸である氷酢酸又はグルコノデルタラクトン溶液でありうる。内部ゲル化又は内部イオンゲル化と呼ばれているが、水溶液のペクチン酸は、低濃度の多価カチオンと最小限に架橋されて、本明細書に開示されているペクチン酸の高粘性の架橋ずり減粘流体を生成する。
【0029】
実施形態では、ペクチン酸は二価カチオンによって架橋される。幾つかの実施形態では、二価カチオンは、その間の任意の値又は範囲を含めて、約0.5mM~約7.0mMの濃度で水溶液中に存在する。他の実施形態では、二価カチオンは、その間の任意の値又は範囲を含めて、約2.5mM~約6.0mMの濃度で水溶液中に存在する。さらなる実施形態では、二価カチオンは約5mMの濃度で水溶液中に存在する。ペクチン酸を架橋するための二価カチオンには、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、及びマグネシウムが含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、二価カチオンは、架橋剤として幅広く使用されている不溶化するカチオンである、カルシウムカチオンである。
【0030】
幾つかの実施形態では、二価カチオンはカチオン塩である。二価カルシウムカチオン塩は、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、及びクエン酸カルシウムなどであるがこれらに限定されない、薬理学的に許容されるカルシウム塩でありうる。ある特定の実施形態では、カルシウム塩は水不溶性のカルシウム塩である。しかしながら、ペクチン酸のイオン架橋は、マグネシウム、ストロンチウム、亜鉛、バリウム、他の同様のカチオン、又はそれらの組合せなどの二価金属の塩を使用することによっても達成することができる。
【0031】
ペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、剪断の低下にともなう粘度の増加を示し、剪断応力の除去時に安定した高粘度の液体へと急速に回復することを示している(図4)。機械的剪断力を取り除くと、元の流体は、その剪断前の状態と同じであるか、又はそれに近い粘性状態へと回復する。幾つかの実施形態では、この剪断からの回復は、数分又は数秒以内に完了しうる。驚いたことに、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、同様に調製されたアルギン酸塩溶液よりも高い回復応答を示した(図4)。ペクチン酸の安定した架橋ずり減粘流体は、追加量の二価カチオンによってさらに架橋され、同様に調製されたアルギン酸塩ヒドロゲルよりも高い粘度を有するヒドロゲルを形成することができる(図3)。したがって、ペクチン酸の架橋されたずり減粘流体のレオロジー特性は、ペクチン酸流体に加えられる二価カチオンの量を調整することによって微調整することができ、アルギン酸塩ベースの材料よりも優れたずり減粘及び回復特性を備えた高粘性流体を提供することがでる。構造忠実性/機械的安定性と、高いずり減粘応答に起因する細胞生存率との改善されたバランスを提供することによって、このような材料は、細胞のカプセル化及び送達、徐放又は制御放出薬物送達システム、並びに組織工学における細胞含有材料又は細胞含有足場のための、例えば3Dプリンティングによって製造される、ビヒクルに利用することができる。
【0032】
したがって、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体の実施形態は、細胞及び/又は活性剤をさらに含む。実施形態では、細胞及び/又は活性剤を水溶液に含めることができる。実施形態では、細胞及び/又は活性剤は、ペクチン酸水溶液の架橋の前、最中、及び/又は後、かつ、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体が3Dプリント中に基板状に射出又はプリント/堆積される前に、水溶液に加えることができる。
【0033】
本明細書に記載されるペクチン酸の架橋ずり減粘流体に含めることができる、哺乳動物の細胞型を含めた細胞型の非限定的な例には、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞、分化幹細胞、組織由来細胞、及びそれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。細胞は、同系(すなわち、組織移植拒絶を最小限に抑えるように遺伝的に同一又は密接に関連する)、同種(すなわち、同じ種の非遺伝的に同一の成員由来)、又は異種(すなわち、異なる種の成員由来)でありうる。同系細胞には、自源性(すなわち、治療される被験体由来)のもの及び同系内(すなわち、遺伝的に同一であるが異なる被験体、例えば、同一双生児由来)のものが含まれる。細胞は、例えば、確立された細胞株又は細胞系に由来するドナー(生きている又は死体のいずれか)から得ることができ、あるいは遺伝子工学及び/又は操作を受けて表現型の所望の遺伝子型を達成した細胞でありうる。
【0034】
幾つかの実施形態では、細胞は、ヒト又は動物のいずれかの適切なドナーから、若しくは細胞が移植される被験体から得ることができる。細胞は、当該分野で知られている標準的な生検技術を使用してドナーから採取することができる。哺乳動物種には、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラットが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、細胞はヒト細胞である。他の実施形態では、細胞は、イヌ、ネコ、ウマ、サル、又は他の哺乳動物など、動物に由来しうる。
【0035】
ヒト細胞のさらなる供給源には、間葉系幹細胞(MSC)が含まれるが、これに限定されない。MSCは、患者から分離し、自家移植組織の代替物として使用するために容易に拡張できることから、再生医療の目的にとって魅力的である。ドナー同種移植片とは異なり、レシピエント由来のMSC自家移植片は、ヒトの間の疾病の伝播又は免疫介在性の組織拒絶のリスクがない。MSCのさらなる利点は、MSCの定着及びそれに続く骨格筋細胞への分化の重要な要因が特定されていることである。
【0036】
幾つかの実施形態では、1つ以上の活性剤を、ペクチン酸の架橋ずり減粘流体に含めてもよい。任意の適切な活性剤を(例えば、細胞の成長又は分化を促進する量で、若しくは疾患又は障害を治療する量で)使用することができる。例としては、形質転換成長因子アルファ(TGF-アルファ)、形質転換成長因子ベータ(TGF-ベータ)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子、軟骨由来因子、骨成長因子(BGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、肝細胞成長因子、グリア神経栄養成長因子(GDNF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、及び骨格成長因子が挙げられるが、これらに限定されない。間質由来因子(SDF)、サブスタンスP(SP)などのペプチド、アグリン、アデノシンなどの小分子、及びそれらの組合せ。
【0037】
ペクチン酸の架橋ずり減粘流体に含まれうる他の適切な活性剤としては、例えば、限定はしないが、薬理学的に活性な物質;無機化合物、有機化合物、及びそれらの塩などの小分子;診断薬;治療薬;核酸;ペプチド;ポリマー;小タンパク質;大タンパク質;及びそれらの組合せが挙げられうる。薬理学的に活性な物質には、ワクチンなどの免疫応答を誘発する物質が含まれる。活性剤の例としては、抗菌剤、抗微生物剤、抗寄生虫剤、抗生物質、抗ヒスタミン剤、充血除去剤、代謝拮抗剤、抗緑内障剤、抗癌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗炎症剤、抗糖尿病剤、麻酔剤、抗うつ剤、鎮痛剤、抗凝固剤、眼科薬、血管新生因子、免疫抑制剤、抗アレルギー剤、及びそれらの組合せが挙げられる。用いられる活性剤の量は、活性剤の種類、形態、及び性質に依存するであろう。
【0038】
したがって、実施形態は、被験体において細胞及び/又は治療剤の制御放出又は持続放出製剤を調製する方法を提供し、各方法は、本明細書に記載されるペクチン酸、及び細胞、治療剤、又はそれらの組合せを含む架橋ずり減粘流体を含有する組成物を患者に導入することを含む。さらなる実施形態は、担体又賦形剤の添加を含む。担体としては、当技術分野で知られているように、水、生理食塩水、緩衝水溶液、湿潤剤、エマルション、錠剤、及びカプセルなどの任意の薬学的に許容される担体が挙げられうる。存在する担体の量は、使用される細胞及び/又は治療剤、並びに配合物が送達される態様に依存する。
【0039】
例えば手術針による注入又はカテーテルを介した送達などによって体内に沈着した後、本明細書に記載されるペクチン酸の架橋ずり減粘流体は、インビボで二価カチオンによりさらに架橋されてヒドロゲルを形成しうる。理論に拘束されるものではないが、血液などの体液中のカルシウムイオンは、インビボでさらなる架橋をもたらし、ヒドロゲルを形成すると考えられている。ゲル化すると、ペクチン酸材料は、さらなる機械的支持体も提供するであろう。
【0040】
さらなる実施形態は、3D構造をプリントする方法を提供し、該方法は、3Dプリンタ又は3Dプリンティングシステムと、本明細書に記載のペクチン酸を含む架橋ずり減粘流体とを提供する工程を含む。本方法は、当技術分野で知られているように、3Dプリンタ又は3Dプリンティングシステムの使用を含む。例えば、3Dプリンタ又は3Dプリンティングシステムは、分配される材料を受け入れて方向付けるための1つ以上のマイクロ流体チャネル、プリントされる材料の流れを調整するためのマイクロ流体チャネルに対応する流体スイッチ、及び分配される材料を分配するための単一のオリフィスを含む、マイクロ流体処理装置でありうる、プリントヘッドを含みうる。3Dプリンタ又は3Dプリンティングシステムは、プリントヘッドによって分配された材料を受け入れるための受け面;及び、プリントヘッドを受け面の上の三次元空間内の位置に位置決めする、受け面に動作可能に結合された位置決めユニットを含みうる。
【0041】
図5は、例示的な3Dプリンティングシステムの概略斜視図を示している。図5の3Dプリンティングシステムは、マイクロ流体プリントヘッド200を備えている。プリントヘッド200は、少なくとも1つのプリントヘッドオリフィス214と、プリントヘッド200から分配される材料を受け入れるための少なくとも1つの入口とを含む。3D構造をプリントする方法の態様では、プリントヘッド200から分配される材料は、本明細書に記載されるペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体を含む。態様では、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体は、少なくとも1つの細胞をさらに含む。さらなる態様では、プリントヘッドから分配される材料は、シース流体をさらに含みうる。「シース流体」は、本明細書に開示されるペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体など、分配される材料を少なくとも部分的に包むため又は覆うために使用される液体である。態様では、シース流体は、本明細書に記載されるペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体を固体ヒドロゲルへとさらに固化させるのに適した化学架橋剤を含む。適切な架橋剤は前述の通りであり、二価カチオン、二価カチオン塩、及び水不溶性カルシウム塩が含まれるが、これらに限定されない。態様では、化学架橋剤を含むシース流体は、水又はグリセロールなどの水性溶媒をさらに含みうる。さらなる態様では、プリントヘッド200から分配される材料は、以下により詳細に説明されるように、3D足場を形成するために用いられる構造支持ポリマーをさらに含みうる。実施形態では、プリントヘッド200は、該プリントヘッド200から分配される2つ以上の材料を受け入れ、分配するように構成されうる。例えば、プリントヘッド200は、ペクチン酸を含む(及び、ある特定の態様では少なくとも1つの細胞をさらに含む)ずり減粘流体、分配中又は分配直後にペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体をさらに固化するのに適した化学架橋剤を含むシース流体、及び/又はプリントされた3D構造の3D足場の形成に使用される構造支持ポリマーを分配することができるように、2つ以上のプリントヘッドオリフィス214を備えることができる。
【0042】
分配される材料は、プリント材料リザーバ210に保管され、プリントヘッド200とプリント材料リザーバ210との間の流体連通をもたらす、それぞれの第1の接続管222を介してプリントヘッドに送達される。図示される実施形態では、プリントヘッドオリフィスから材料を分配する手段は、圧力制御ユニット212であり、該圧力制御ユニット212は、それぞれの第2の接続管220によってプリント材料リザーバ210に流体的に結合される。当技術分野で知られているように、圧力制御ユニット212は、分配される材料を分配する力を提供する手段であり、それぞれの第1の接続管222を介してリザーバ210からプリントヘッド200内へと流体を押し出す。圧力制御ユニット212は、それぞれの第2の接続管220を介してプリント材料リザーバ210に圧力を供給する。しかしながら、図示される実施形態では、分配される材料を分配するための代替手段を使用できることが理解されるべきである。例えば、一連の電子的に制御されるシリンジポンプを使用して、プリントヘッドのオリフィスから材料を分配する力を提供することができる。
【0043】
さらに図5を参照すると、マイクロ流体プリントヘッド200は、当技術分野で知られている位置決めシステムに結合されている。例示的な位置決めシステムは、印刷される材料を受け入れるための表面209を含む、プリントベッド208の上の三次元空間にプリントヘッド200及びプリントヘッドオリフィス214を位置決めするための3つのアーム(202、203及び204)を含む3Dモータ駆動ステージを備えている。3Dモータ駆動ステージは、該3Dモータ駆動ステージのz軸に沿って延びる垂直アーム204を位置決めするように制御することができ、それによってプリントヘッドオリフィス214が下方に向けられる。第1の水平アーム202は、モータ駆動ステージのx軸に沿って延び、固定ベースプラットフォーム216に固定される。第2の水平アーム203は、モータ駆動ステージのy軸に沿って延び、第1及び第2の水平アーム202及び203の長手方向が互いに垂直になるように、第1の水平アーム202の上面に移動可能に結合される。本明細書でアームに関して使用される「垂直」及び「水平」という用語は、プリントヘッドが移動する方法を説明するものであり、必ずしもアーム自体の物理的方向を制限するものではない。
【0044】
図5の例示的な3Dプリンティングシステムをさらに参照すると、プリントベッド20はプラットフォーム218の上部に配置されている。プラットフォーム218は、第2の水平アーム203の上面に結合される。3Dモータ駆動ステージのアーム(202、203、及び204)は、それぞれ3つの対応するモータ(205、206及び207)によって駆動され、コンピュータなどのプログラム可能な制御プロセッサによって制御される。態様では、プリントヘッド200及びプリントベッド208は、3Dモータ駆動ステージによってデカルト座標系の3つの主軸のすべてに沿って集合的に移動可能であり、ステージの移動はコンピュータソフトウェアを使用して定められる。
【0045】
図5の例示的な3Dプリンティングをさらに参照すると、材料がプリントヘッドオリフィス214から分配されるとき(例えば、ペクチン酸(任意選択的に細胞を含む)を含む架橋されたずり減粘流体、シース流体、及び/又はプリントされた3D構造の3D足場の形成に用いられるポリマー)、位置決めユニットは、ソフトウェアによって制御されるパターンで移動し、それによって、受け面209上に分配された材料の層を生成する。分配された材料の追加の層は、材料の分配された層の最終的な3D構造が、概ね、ソフトウェアによって提供される3D形状設計の複製となるように、互いの上に積み重ねられる。3D設計は、典型的な3D CAD(コンピュータ支援設計)ソフトウェアを使用して作成されてもよく、あるいは当技術分野で知られているようにデジタル画像から生成されてもよい。さらには、特定の材料タイプを、層内、層間、又は層内と層間の両方を含む3Dプリントした構造内の異なる幾何学的位置に、任意の所望の形状又はパターンで割り当てることが可能である。
【0046】
その高いずり減粘応答及び迅速な回復により、本開示のペクチン酸を含む架橋ずり減粘流体は、細胞材料の直接プリンティングに使用することができる。したがって、幾つかの実施形態では、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体は、前述のように、細胞、治療剤、又はそれらの組合せをさらに含みうる。態様では、架橋されたずり減粘流体は、3D足場内に含まれる細胞含有構造として使用されてもよい。3D足場は、細胞含有構造(例えば、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体の細胞含有構造)を支持し、外部負荷又は崩壊から保護するための枠組みを提供する役割を果たす。態様では、3D足場は、以下に記載されるように、構造的支持体を提供するポリマーを含む。さらなる態様では、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体は、3D構造足場自体を含む細胞として機能することができる。さらに別の態様では、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体は、3D構造内の犠牲材料として使用することができる。「犠牲材料」とは、プリントされた3D構造から最終的に除去される材料である。犠牲材料は、細胞含有材料の機械的強度が低いことにより、そうでなければ製造中に崩壊するか、あるいはプリントされた形状を保持できないであろう、隣接する堆積した細胞含有材料を一時的に支持する役割を果たすことができる。追加的な実施形態では、ペクチン酸の架橋されたずり減粘流体(細胞、治療剤、又はそれらの組合せを添加した、又は添加していない)は、プリントされてよく、その後に又は同時に、前述のように、追加の多価カチオンを含むシース流体とさらに接触させることができる。追加の多価カチオンを含むこのようなシース流体は、カルシウムカチオンを含む溶液として提供することができ、3Dプリンタのプリントヘッド200から同時に又は分配後にペクチン酸の架橋されたずり減粘流体に加えることができる。例えば、プリントヘッド200は、ペクチン酸(及びある特定の態様では少なくとも1つの細胞をさらに含む)を含むずり減粘流体、並びに、ペクチン酸を含む架橋されたずり減粘流体を、それがプリントヘッド200から分配中又は分配直後に固体ヒドロゲルへとさらに固化するのに適した化学架橋剤を含むシース流体を分配できるように、2つ以上のプリントヘッドオリフィス214を備えることができる。この追加の架橋を用いてヒドロゲルを形成することができ、3D足場内の細胞含有構造として、3D足場自体として、あるいは3D構造内の犠牲材料として利用されるかどうかにかかわらず、ペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体に対するさらなる機械的支持を提供することができる。
【0047】
本明細書に記載されるペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体が3D足場内の細胞含有構造として、あるいは3Dプリントした構造内の犠牲ポリマーとして用いられる場合、ポリマーを使用して、3Dプリントした構造の3D足場を生成することができる。足場のためのこのようなポリマーは、生体分解性又は生体侵食性材料、及びインビボで安定又は不活性な材料を含む、3Dプリントした構造に構造的支持を提供する任意の適切な材料でありうる。例としては、ポリ(乳酸)ポリマー、ポリ(グリコール酸)ポリマー、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(ウレタン)、ポリ(シロキサン)又はシリコーン、ポリ(エチレン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ナイロン、ポリアミド、ポリ無水物、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリカプロラクトン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリビニルヒドロキシド、ポリ(エチレンオキシド)、及びポリオルトエステル、又はグループの少なくとも2つのメンバー成員から形成されたコポリマーが挙げられるがこれらに限定されない。構造支持ポリマーの追加の例には、化学的架橋又は光化学的架橋のための化学修飾を伴った他の天然材料、例えば、ゼラチン、フィブリノーゲン、ジェランガム、プルロニック(ポロキサマー)、アルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、及びコラーゲンが含まれるが、これらに限定されない。プリントヘッド200は、ペクチン酸(及びある特定の態様では少なくとも1つの細胞をさらに含む)を含むずり減粘流体、任意選択的に、本明細書に記載される化学架橋剤を含むシース流体、及び/又は3D足場の形成のためのポリマーをプリントヘッド200が分配できるように、2つ以上のプリントヘッドオリフィス214を備えることができる。
【0048】
さらなる実施形態では、本明細書に記載されるペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体は、3Dプリントした構造内の犠牲材料として使用することができる。前述のように、「犠牲材料」とは、プリントされた3D構造から最終的に除去される材料である。犠牲材料は、細胞含有材料の機械的強度が低いことにより、そうでなければ製造中に崩壊するか、あるいはプリントされた形状を保持できないであろう、隣接する堆積した細胞含有材料を一時的に支持する役割を果たすことができる。犠牲材料として用いられる場合、本明細書に記載されるペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体は、細胞含有構造(ヒドロゲル又はゲルでありうる)及び/又は3D足場とともに、又はそれらと並行して分配させることができる。ペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体は、3Dプリンタのプリントヘッドから分配される前又は分配時に、カルシウムカチオンを含む溶液などの追加の多価カチオンでさらに架橋されてもよい。この追加の架橋を使用して、ヒドロゲル犠牲材料を形成することができ、これは、犠牲材料が3D構造から除去されるまで、3Dプリントした構造内でさらなる機械的な支持を提供することができる。
【0049】
3D構造内の犠牲材料として使用される場合、架橋したずり減粘流体は、分配された3D構造を硬化した後(例えば、細胞担体組成物中のポリマーを、その堆積後に又は3D足場のポリマーが完全に硬化又は固化した後に、架橋した後)に除去される。非タンパク質分解酵素、並びに、任意選択的に、例えばペクチン酸ベースの犠牲材料を消化するのに適したEDTAなどのキレート剤を利用することができる。適切な非タンパク質分解酵素は、ペクチン分解酵素又はペクチナーゼを含むことができ、これらは、主に植物中に存在するペクチン質を加水分解する関連酵素の異種グループである。ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)は、複雑なペクチン分子をガラクツロン酸のより短い分子へと分解する酵素である。ペクチナーゼは、ポリガラクツロン酸由来のペクチンオリゴ糖(POS)の遊離を触媒する。ペクチナーゼは、菌類、酵母、細菌、原生動物、昆虫、線虫類、及び植物から産生される。ペクチナーゼの商業的に入手可能な供給源は、概して、アスペルギルス・アキュレアタス(Aspergillus aculeatus)の選択された株から産生されるペクチン分解酵素調製物であるNovozyme Pectinex(商標)ULTRA SPLなどの多酵素である。それには、主にポリガラクツロナーゼ(EC3.2.1.15)ペクチントランスエリミナーゼEC4.2.2.2)及びペクチンエステラーゼ(EC:3.1.1.11)が含まれている。**ペクチナーゼはペクチンを加水分解することが知られている。それらはメチルエステル化ペクチン又は脱エステル化ペクチンを攻撃することができる。ECの指定及び番号は、酵素が触媒する化学反応に基づく酵素についての酵素委員会の分類スキームである。
【0050】
前述のように、3Dプリンティングシステムからの材料の分配された層の3D構造は、概して、ソフトウェアによって提供される3D形状設計の複製であり、このような3D設計は通常、当該技術分野で知られているように、一般的な3D CAD(コンピュータ支援設計)ソフトウェアを使用して生成されるか、あるいはデジタル画像から生成される。さらには、特定の材料タイプ(例えば、細胞含有材料、犠牲材料、及び/又は3D足場のポリマー)を、層内、層間、又は層内及び層間の両方のさまざまな幾何学的位置に、任意の所望の形状又はパターンで割り当てることが可能である。したがって、犠牲材料として、ペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体を、3Dプリントした構造の層内、層間、又は層内及び層間の両方の特定の幾何学的位置に任意の所望の形状又はパターンで割り当ててプリントすることができる。したがって、ペクチン酸を含む架橋したずり減粘流体は、3Dプリントされた複合構造に、硬化された3D構造から犠牲材料を除去すると細孔、空洞、チャネル、ルーメンなどを含む開口部が生成されるように、プリントすることができる。開口部を使用して、栄養素を複合材料内に運び、複合材料から廃棄し、複合材料に活性化合物を出し入れすることができる。開口部は、層内、層間、又は層内及び層間の両方を相互接続する一連の相互接続細孔の形態でありうる。開口部は、(例えば、キャピラリベッドを形成する、異なる方向への分岐、収束する分岐、又は異なる方向へ向かい、その後接続した収束分岐として)互いに分岐する、細長いチャネルでありうる。開口部は、必要に応じて、3Dプリントした構造の層内、層間、又は層内及び層間の両方に形成することができる。
【0051】
前述の説明は、本開示の特定の態様の例示であるが、その実施時の制限である。さまざまな態様をより容易に理解できるようにするために、さまざまな態様を説明することを意図した以下の実施例を参照するが、それらの範囲を限定するものではない。
【実施例
【0052】
以下の実施例は、例示として与えられ、本開示の範囲を限定することを決して意図するものではない。
【0053】
実施例1
ペクチン酸溶液に均一なゲル化又は架橋を提供するために、内部ゲル化法を使用した。この方法では、炭酸カルシウム(CaCO)粒子を、Ca2+の不溶性供給源としてペクチン酸溶液中に分散させた。作りたてのグルコノデルタラクトン(GDL)溶液を、酸の供給源として上記の分散液に加えた。GDLの加水分解により、炭酸カルシウム粒子と反応してCa2+を放出し、ペクチン酸分子を均一に架橋するグルコン酸がゆっくりと生成した。GDLの加水分解とCa2+の放出に十分な時間を与えるために、すべてのサンプルをレオロジー試験の1日前に調製した。
【0054】
より具体的には、ペクチン酸のナトリウム塩溶液を、さまざまな容量のCaCO懸濁液及び作りたてのGDL溶液と混合した。すべての配合物のポリマー濃度を、水を使用して1.6%に調整した。得られた配合物中のCaCO及びGDLの濃度は表1に示した通りであった。アルギン酸ナトリウム溶液(水を使用してポリマー濃度を1.6%に調整)を、CaCO懸濁液及びGDL溶液と混合して、比較のために同じ量のカルシウムイオンを導入した。
【0055】
【表1】
【0056】
配合物のレオロジー特性は、1~1000秒-1の定常剪断速度掃引又は0.1~100秒-1の動的剪断速度掃引を使用して試験した。これらの試験は、異なる配合物からの異なるずり減粘応答を実証するために用いられる。配合物が高剪断にさらされた後に強度をどのように回復できるかを理解するために、選択された配合物に回復試験を行った。この試験は、これらの配合物がプリント又は射出後の形状の忠実性及び機械的安定性をどれだけ良好に維持できるかを実証するのに役立った。この試験では、配合物の初期粘度を0.1秒-1の剪断速度で30秒間測定し、その後、配合物を100秒-1の高剪断速度に10秒間曝露した。最後に、剪断速度を0.1秒-1に戻し、経時的な粘度の回復を監視した。
【0057】
3Dバイオプリンティングの犠牲材料として用いられるペクチン酸及びアルギン酸塩ベースのヒドロゲルの能力を評価するために、得られたヒドロゲルを250μlの容量でグリッド状のパターンとしてプリントし、過剰のCa2+を使用して完全に架橋した。溶出試験に供する前に、カルシウムを含まないDPBSバッファを使用して未結合のCa2+を除去し、トルイジンブルーO(TBO)を使用して、視覚化用にヒドロゲル構造を染色した。溶解のために、ヒドロゲル構造を20mMの5mM EDTA及び50U/mlのペクチナーゼ溶液に曝露した。構造の溶解に必要な時間を使用して、犠牲材料として使用した場合にそれらの材料をどれだけ容易に除去できるかを定量化した。
【0058】
実施例2
結果限定架橋
ペクチン酸及びアルギン酸塩ポリマーの配合物#1及び#2(表1)については、3Dプリンティング中の射出又は押出中に関連する、定常剪断下でのレオロジー特性を測定した。得られた剪断掃引の結果を図2に示す。
【0059】
図2を参照すると、アルギン酸塩溶液の配合物#1(Ca2+を含まない)の粘度は、1秒-1の剪断速度で約1350mPa・sであり、剪断速度が10秒-1を超えて増加すると低下し始めた。最後に、粘度は、1000秒-1の剪断速度で256mPa・sに低下した。このように、アルギン酸塩溶液の配合物#1は、ある程度のずり減粘挙動を示した。アルギン酸塩溶液の配合物#2では、少量のCa2+(5mM)を導入した後、その粘度はアルギン酸塩の配合物#1と比較して1秒-1の剪断速度で6倍上昇したが、剪断速度の増加にともなって低下し続けた。5mMのCa2+の添加を含むアルギン酸塩溶液の配合物#2の粘度は、剪断速度が100秒-1を超えると、Ca2+を含まないアルギン酸塩溶液(配合物#1)に匹敵するようになった。したがって、ずり減粘に対する応答が増加した。
【0060】
さらに図2を参照すると、ペクチン酸溶液の配合物#1(Ca2+を含まない)は、剪断速度が増加したときに粘度の明確な変化のない、典型的なニュートン流体挙動を示した。ペクチン酸溶液の粘度配合物#1は、すべての試験配合物の中で最低であり、約13mPa・sであり、配合物#1のアルギン酸塩溶液の1/100であった。ペクチン酸溶液の配合物#2では、少量のCa2+(5mM)の添加後に、材料は非ニュートン流体になり、1秒-1の低剪断速度で20810mPa・sの粘度を示した。これは、ペクチン酸溶液の配合物#1と比較して1500倍の増加である。粘度も、同じ剪断速度で対応するアルギン酸塩溶液よりもはるかに高かった。ペクチン酸溶液の配合物#2も、対応するアルギン酸塩溶液よりも高いずり減粘応答を示した。剪断速度が1から1000秒-1に増加すると、その粘度は130mPa・sに低下し、1/150に低減した。剪断速度が50秒-1を超えて増加した後、ペクチン酸溶液の配合物#2の粘度も、Ca2+を含まないアルギン酸塩溶液の配合物#1よりも低くなった。
【0061】
高度の架橋
さらなる架橋を伴うペクチン酸及びアルギン酸塩配合物の粘度を評価するために、両方のポリマー溶液に追加量のCaCO及びGDLを加えることによって追加のCa2+を導入した(表1の配合物#3及び#4)。ペクチン酸及びアルギン酸塩の両方の配合物#3には、12.5mMのCa2+が含まれ、一方、ペクチン酸とアルギン酸塩の両方の配合物#4には30mMのCa2+が含まれていた。これらの配合物はすべて、安定した剪断試験中に流動することができず損傷した固体ヒドロゲルを形成した。したがって、これらの配合のレオロジー特性を、動的剪断掃引を使用して測定した。結果を図3に示す。ペクチン酸及びアルギン酸塩ポリマーの配合物#3及び配合物#4の両方が、対数スケールで同様のずり減粘傾向を示した。しかしながら、アルギン酸塩ヒドロゲル配合物では、Ca2+が配合物#3の12.5mMから配合物#4の30mMに増加すると、粘度の増加が制限された。ペクチン酸の配合物#3及び配合物#4の両方が、アルギン酸塩配合物のいずれかよりも高い粘度を示し、アルギン酸塩配合物#3及び#4と比較して、Ca2+が配合物#3の12.5mMから配合物#4の30mMに増加した場合、ペクチン酸配合物でより大きな粘度の増加が観察された。
【0062】
回復試験
ペクチン酸及びアルギン酸塩の流体配合物(配合物#1及び#2)が高剪断に曝露された後に強度をどのように回復できるかを評価するために、これらの材料を回復試験に供した。ペクチン酸の配合物#1は、そのニュートン流体の性質の理由から、試験には含めなかった。回復試験の結果を図4に示す。この試験では、配合物の初期粘度を0.1秒-1の剪断速度で30秒間測定し、その後、配合物を100秒-1の高剪断速度に10秒間曝露した。最後に、剪断速度を0.1秒-1に戻し、経時的な粘度の回復を監視した。0.1秒-1の低剪断速度では(図4の点A)、カルシウム(5mM)が制限されたペクチン酸の配合物#2は、カルシウム(5mM)が制限された対応するアルギン酸塩配合物#2又はCa2+を含まない単独のアルギン酸塩溶液(配合物#1)よりも高い粘度を有していた。100秒-1の高剪断に曝露した後(図4の点B)、配合物#2のペクチン酸溶液の粘度は、試験した両方のアルギン酸塩配合物よりも350倍低く低下した。これらの結果は、上記の図2に示した剪断速度掃引試験と一致し、ペクチン酸ベースの配合物のより優れたせん断減粘特性を裏付けている。高剪断が除去された後の回復中(図4の点C)、配合物#2のペクチン酸溶液の粘度は迅速に回復し、2秒で元の粘度の50%、10秒で元の粘度の約70%に達した。2秒未満で、その粘度はすでに同じ時点で試験された両方のアルギン酸塩配合物よりも高く上昇した。10秒後、その粘度は、配合物#2の対応するアルギン酸塩溶液液のほぼ3倍になった。アルギン酸塩配合物#2では、高剪断の除去後に粘度にピーク値が存在したが、これは何らかの測定アーチファクトによって引き起こされた可能性がある。
【0063】
プリントした構造の溶解
ペクチン酸又はアルギン酸塩のヒドロゲルを、250μlの容量で格子状のパターンとしてプリントし、過剰のCa2+(67.4mM)を使用して完全に架橋させた。溶出試験に供する前に、カルシウムを含まないDPBSバッファを使用して未結合のCa2+を除去し、トルイジンブルーO(TBO)を使用して、視覚化用にヒドロゲル構造を染色した。溶解のために、ヒドロゲル構造を20mMの5mM EDTA及び50U/mlのペクチナーゼ溶液に曝露した。構造の溶解に必要な時間を使用して、犠牲材料として使用した場合にそれらの材料をどれだけ容易に除去できるかを定量化した。T溶解試験は、配合物#4アルギン酸塩ベースのヒドロゲルが同じ時点でその構造を維持しつつ、配合物#4の完全に架橋したペクチン酸ベースのヒドロゲルが1時間未満で溶解することを実証した(データ示さず)。実際、アルギン酸塩ヒドロゲルは完全に溶解するのに少なくとも1.5倍の時間が必要であった(データ示さず)。
【0064】
その広範な発明概念から逸脱することなく、上述の実施形態に変更を加えることができることは、当業者は認識するであろう。したがって、本開示は、開示された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本開示の精神及び範囲内にある修正を包含することを意図することが理解される。
【0065】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0066】
実施形態1
二価カチオンで架橋されたペクチン酸を含む水溶液を含む、ずり減粘流体であって、前記ペクチン酸が約0.5~約3.0%(w/v)の範囲の量で存在し、前記二価カチオンが約0.5mM~約7.0mMの濃度で存在し、前記ずり減粘流体の粘度が剪断の低下にともなって増加する、ずり減粘流体。
【0067】
実施形態2
前記二価カチオンが約2.5mM~約6.0mMの濃度で存在する、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0068】
実施形態3
前記二価カチオンが約5mMの濃度で存在する、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0069】
実施形態4
前記ペクチン酸が約1.0~約2.5%(w/v)の量で存在する、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0070】
実施形態5
ペクチン酸が約1.6%(w/v)の量で存在する、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0071】
実施形態6
前記ペクチン酸が均一に架橋されている、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0072】
実施形態7
前記ペクチン酸がペクチン酸のナトリウム塩である、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0073】
実施形態8
前記二価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、及びバリウムカチオンからなる群より選択される、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0074】
実施形態9
前記二価カチオンがカルシウムカチオンである、実施形態8に記載のずり減粘流体。
【0075】
実施形態10
前記カルシウムカチオンがカルシウム塩によってもたらされる、実施形態9に記載のずり減粘流体。
【0076】
実施形態11
前記カルシウム塩が、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びクエン酸カルシウムからなる群より選択される、実施形態10に記載のずり減粘流体。
【0077】
実施形態12
前記水溶液がさらに、細胞及び/又は治療剤を含む、実施形態1に記載のずり減粘流体。
【0078】
実施形態13
剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、架橋したずり減粘流体の製造方法において、
ペクチン酸及び二価カチオンの水溶液を提供する工程であって、前記ペクチン酸が約0.5~約3.0%(w/v)の範囲の量で存在し、前記二価カチオンが0.5mM~約7.0mMの濃度で存在する、工程;及び
前記ペクチン酸を前記二価カチオンと架橋させ、それによって前記ずり減粘流体を生成するのに適した条件下で前記水溶液を混合する工程であって、前記ずり減粘流体が、剪断の低下にともなって粘度の上昇を示す、工程
を含む、方法。
【0079】
実施形態14
前記二価カチオンが約2.5mM~約6.0mMの濃度で存在する、実施形態13に記載の方法。
【0080】
実施形態15
前記ペクチン酸が約1.0~約2.5%(w/v)の量で存在する、実施形態13に記載の方法。
【0081】
実施形態16
前記ペクチン酸がペクチン酸ナトリウム溶液によってもたらされる、実施形態13に記載の方法。
【0082】
実施形態17
前記ペクチン酸が前記二価カチオンと均一に架橋される、実施形態13に記載の方法。
【0083】
実施形態18
前記二価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、及びバリウムカチオンからなる群より選択される、実施形態13に記載の方法。
【0084】
実施形態19
前記二価カチオンがカルシウムカチオンである、実施形態18に記載の方法。
【0085】
実施形態20
前記カルシウムカチオンがカルシウム塩によってもたらされる、実施形態19に記載の方法。
【符号の説明】
【0086】
100 従来技術のマイクロキャリアビーズ
110 複合コア
112 外面
120 コーティング
130 粒子
140 ポリマーマトリクス
200 プリントヘッド
202,203,204 アーム
205,206,207 モータ
208 プリントベッド
209 受け面
210 プリント材料リザーバ
212 圧力制御ユニット
214 プリントヘッドオリフィス
216 固定ベースプラットフォーム
218 プラットフォーム
220 第2の接続管
222 第1の接続管
図1
図2
図3
図4
図5