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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】赤血球系前駆細胞を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20221021BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221021BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20221021BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/10
C12N5/0789
C12N15/12
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2019572440
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018067833
(87)【国際公開番号】W WO2019002625
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】1756222
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512132491
【氏名又は名称】エタブリスモン フランセ ドュ サン
【氏名又は名称原語表記】ETABLISSEMENT FRANCAIS DU SANG
【住所又は居所原語表記】20 avenue du Stade de France, F-93218 La Plaine Saint Denis, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】518322621
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・エ・クレテイユ・ヴァル・ドゥ・マルヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ギヨノ‐ハルマン, ロランス
(72)【発明者】
【氏名】ギャルソン, ロイック
(72)【発明者】
【氏名】オラデ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】リバーギュ, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ルレクス, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ドゥエー, リュック
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511081(JP,A)
【文献】特表2011-528567(JP,A)
【文献】特表2016-525882(JP,A)
【文献】特表2013-520164(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101045914(CN,A)
【文献】国際公開第2014/181783(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159376(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/034073(WO,A1)
【文献】Differentiation, 2012, Vol.83, No.4, pp.220-230
【文献】Hematology, 2016, Vol.21, No.4, pp.225-233
【文献】Int. J. Mol. Sci., 2015, Vol.16, pp.4083-4094
【文献】Tohoku J. Exp. Med., Published online 2017.01.13, Vol.241, pp.35-43
【文献】J. Clin. Invest., 1976, Vol.57, pp.57-62
【文献】J. Biol. Chem., 1999, Vol.274, No.32, pp.22165-22169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球系前駆体を作製するためのインビトロのプロセスであって、オートファジーインデューサー及びグルココルチコイドホルモンを含む細胞培地に造血幹細胞を接触させることを含み、
前記オートファジーインデューサーは、低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)、SMER-10、及びSMER-18、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、プロセス。
【請求項2】
前記オートファジーインデューサーはSMER-28である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記グルココルチコイドホルモンは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記グルココルチコイドホルモンは、プレドニゾン、プレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群より選択される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンである、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記培地は、低酸素誘導因子(HIF)経路アクチベーターをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記造血幹細胞は、多能性幹細胞の分化によって得られる、又は、患者の血液サンプルから、臍帯血若しくは胎盤血から、若しくは骨髄サンプルから単離される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記造血幹細胞はヒト造血幹細胞である、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記造血幹細胞は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(B lymphoma Mo-MLVinsertion region 1 homolog、BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記造血幹細胞はHTERT遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記造血幹細胞はBMI1遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記造血幹細胞はHTERT遺伝子及びBMI1遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる、請求項1~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記造血幹細胞は、
- 1つ以上のコア赤血球ネットワーク(core erythroidnetwork、CEN)経路転写因子、及び/又は、
- 1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子を過剰発現するようにさらに遺伝子組み換えされる、請求項13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記造血幹細胞は、BCL-XL(B細胞リンフォーマ-エクストララージ)遺伝子を過剰発現するようにさらに遺伝子組み換えされる、請求項13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記造血幹細胞は、LMO2(LIMドメインオンリー2)遺伝子を過剰発現するようにさらに遺伝子組み換えされる、請求項13及び15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記EPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子からなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、1つ以上の構成的プロモーターの制御下におかれる、請求項1416のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記コア赤血球ネットワーク(CEN)経路転写因子遺伝子からなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる、請求項1417のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記造血幹細胞は不死化されている及び/又は自殺遺伝子を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記培地は、造血幹細胞の栄養要件に適応させた培地である、請求項1~19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記細胞は、前記培地において、少なくとも20日間培養される、請求項1~20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
(i)ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)遺伝子、及びBリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(B lymphoma Mo-MLVinsertion region 1 homolog、BMI1)遺伝子、並びに(ii)BCL-XL(B細胞リンフォーマ-エクストララージ)遺伝子、及び/又はLMO2(LIMドメインオンリー2)遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされた造血幹細胞。
【請求項23】
赤血球系前駆体及び/又は赤血球をインビトロにおいて作製するための、請求項22に記載の造血幹細胞の使用。
【請求項24】
赤血球を作製するためのインビトロのプロセスであって、
- 請求項1~21のいずれか1項に記載のプロセスによる赤血球系前駆体の作製、及び
- 前記赤血球系前駆体の成熟の誘導、を含む、プロセス。
【請求項25】
前記赤血球系前駆体の成熟は、前記前駆体を赤血球分化培地において培養することによって誘導される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させるとともに、グルココルチコイドホルモン、並びに低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)、SMER-10、SMER-18、及びそれらの組合せからなる群より選択されるオートファジーインデューサーを含む、細胞培地。
【請求項27】
- 0.01mM~0.1mMの濃度のグルココルチコイドホルモン、及び/又は、
- 2μM~30μMの濃度のオートファジーインデューサーを含む、請求項26に記載の細胞培地。
【請求項28】
前記オートファジーインデューサーはSMER-28である、請求項26又は27に記載の細胞培地。
【請求項29】
前記グルココルチコイドホルモンは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、及びそれら混合物からなる群より選択される、請求項2628のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項30】
前記グルココルチコイドホルモンは、プレドニゾン、プレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群より選択される、請求項2629のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項31】
前記グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンである、請求項2630のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項32】
前記培地は、低酸素誘導因子(HIF)経路アクチベーターをさらに含む、請求項2631のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項33】
(i)トランスフェリン、(ii)インスリン、(iii)ヘパリン、及び(iv)血清、血漿、血清プール、又は血小板ライセートをさらに含む、請求項2632のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項34】
幹細胞因子(SCF)、及びEPOをさらに含む、請求項2633のいずれか1項に記載の細胞培地。
【請求項35】
赤血球系前駆体を作製及び/又は増幅するための、請求項2634のいずれか1項に記載の細胞培地の使用。
【請求項36】
赤血球系前駆体及び/又は赤血球を作製するためのキットであって、
- 請求項26~34のいずれか1項に記載の細胞培地、
- 請求項22に記載の遺伝子組み換えされた造血幹細胞、及び、
- 任意的に、そうしたキットを使用するための指示を含む指導書を含む、キット。
【請求項37】
赤血球系前駆体及び/又は赤血球を作製するための、請求項36に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に該当する。より具体的には、本発明は赤血球系前駆体及び赤血球を作製するための新規のプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
組織への酸素常時供給を維持することは、多くの生体、特にヒトの生存に不可欠である。体内で血流を介して酸素を運搬するのは赤血球である。この輸送は、酸素に結合可能な赤血球に特異的なタンパク質のヘモグロビンによって行われる。赤血球が組織に達すると、酸素は毛細血管壁を介して拡散する。ゆえに、赤血球の役割は不可欠である。
【0003】
赤血球輸注は、緊急の場合(出血)及び病気(血液疾患、がんなど)の場合に必要である。2016年には、輸血の要求にこたえるため、世界で100万を超える血液バッグが集められ分配された。これらの50パーセントが、世界人口の15%に相当するのみである先進国に分配されている。開発途上国における輸血の問題は、輸血の供給と安全性とに関与し、先進国ではこれらの問題は良好に管理されている。しかしながら、慢性的な輸血に関連する免疫学的合併症(同種免疫)は、患者の将来に関わるような輸血効果の停滞をもたらし得る。
【0004】
現在のところ、輸血はドナーからの血液に限られている。
【0005】
成人では、赤血球産生又は赤血球生成はいわゆる造血髄にて行われ、これは扁平骨で長骨の端部に存在する。骨髄では、造血幹細胞と呼ばれる複能性幹細胞が、連続的に種々のタイプの赤血球系前駆体(BFU-E、CFU-E、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球)に分化する。赤芽球が骨髄を出ると、その核を失って網赤血球となり、そして成熟赤血球となる。
【0006】
赤血球をインビトロにおいて産生させる造血幹細胞用の分化培地は既知である。しかしながら、現行のプロセスは、大規模産生において、産生量を著しく制限する赤血球成熟への早すぎる進行、正常に脱核ステップを行うことができない細胞への分化などの重大な欠点がある(Akimov S et al.,2005, Stem cells, 23(9): 1423-1433; Hirose SI et al., 2013, Stem Cell Reports,1(6): 499-508; Huang X, 2013, Mol. Ther., 22(2): 451-463)。そして、他のプロセスでは、フィーダー細胞とともに共培養が使用され(Kurita R et al.,2013, PloS One, 8(3): e59890)、これは実施が複雑であるとともに費用がかかるものである。
【0007】
赤血球のインビトロにおける産生のための新規のプロセスの開発は、供給の要求を満たし、起こり得る伝染リスクを退け、免疫学的合併症を回避することができると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書に記載の本発明は、なかでも、これらの要求を満たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、デキサメタゾン、低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER28)、及び任意的にジメチルオキサリルグリシン(DMOG)を含む培地における造血幹細胞の培養が、これらの幹細胞を赤血球系前駆体に分化するだけでなく、この前駆体が最終的に赤血球に分化する能力を保ちながら、この前駆体の個体群を著しく増幅させる。こうして得られた赤血球系前駆体は、培養物において維持され、成熟脱核細胞、すなわち赤血球へと分化するその能力を失うことなく60日を超える間増幅することができる。
【0010】
第1の態様において、本発明は、赤血球系前駆体を作製するためのインビトロのプロセスに関し、該プロセスは、好ましくは造血幹細胞の栄養要件に適応させ、特に造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させるとともに、グルココルチコイドホルモン、及びオートファジーインデューサーを含む細胞培地に、造血幹細胞を接触させることを含む。
【0011】
好ましくは、グルココルチコイドホルモンは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、並びにそれらの誘導体、及び混合物からなる群より選択される。より特に好ましくは、グルココルチコイドホルモンは、プレドニゾン、プレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群から選択される。最も特に好ましくは、グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンである。
【0012】
好ましくは、オートファジーインデューサーは、低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)、SMER-10、及びSMER-18、並びにそれらの組合せからなる群より選択される。より特に好ましくは、オートファジーインデューサーは低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)である。
【0013】
特定の実施形態において、培地はまた、低酸素誘導因子(HIF)経路アクチベーター、好ましくはプロリルヒドロキシラーゼインヒビター、より好ましくはジメチルオキサリルグリシン(DMOG)を含む。
【0014】
造血幹細胞は、好ましくは、多能性幹細胞、特に胚性幹細胞(ES)若しくは誘導多能性幹細胞(iPS)の分化によって得られる、又は、動員有り又は無しで患者の臍帯血若しくは胎盤の血液サンプルから、若しくは骨髄サンプル若しくは採取物から単離される。好ましくは、造血幹細胞はヒト造血幹細胞である。
【0015】
造血幹細胞は、特に、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(B lymphoma Mo-MLVinsertion region 1 homolog、BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子を過剰発現するように、遺伝子組み換えされていてもよい。好ましくは、造血幹細胞は、HTERT遺伝子を過剰発現する、又はBMI1遺伝子を過剰発現するために遺伝子組み換えされていてもよい。また、造血幹細胞は、HTERT遺伝子及びBMI1遺伝子を過剰発現するために組み換えされていてもよい。
【0016】
ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、好ましくは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる。
【0017】
また、これらの造血幹細胞は、
- 1つ以上のコア赤血球ネットワーク(core erythroidnetwork、CEN)経路転写因子、好ましくはLIMドメインオンリー2(LIM domain only 2、LMO2)、及び/又は、
- 1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子、好ましくはB細胞リンフォーマ-エクストララージ(B-celllymphoma-extra large、BCL-XL)、を過剰発現するように遺伝子組み換えされていてもよい。
【0018】
好ましくは、造血幹細胞は、BCL-XL遺伝子を過剰発現する、又はLMO2遺伝子を過剰発現するために遺伝子組み換えされていてもよい。
【0019】
EPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子からなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、好ましくは、1つ以上の構成的プロモーターの制御下におかれる。
【0020】
コア赤血球ネットワーク(CEN)経路転写因子遺伝子からなる群より選択される1つ以上の遺伝子は、好ましくは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる。
【0021】
また、これらの造血幹細胞は不死化細胞であってもよい。
【0022】
好ましくは、細胞は、本発明の培地において、少なくとも20日間、より好ましくは少なくとも40日間、特に好ましくは少なくとも60日間培養される。
【0023】
第2の態様において、本発明は、赤血球系前駆体の作製及び/又は増幅のための本発明にかかる細胞培地の使用にさらに関する。
【0024】
第3の態様において、本発明は、上述のような遺伝子組み換えされた造血幹細胞、並びに赤血球系前駆体及び/又は赤血球をインビトロにおいて作製するためのこれらの造血幹細胞の使用に関する。
【0025】
第4の態様において、本発明は、赤血球を作製するためのインビトロのプロセスに関し、該プロセスは、
- 本発明のプロセスによる赤血球系前駆体の作製、及び
- 赤血球系前駆体の成熟の誘導、及び
- 任意的に、得られた赤血球の回収を含む。
【0026】
好ましくは、赤血球系前駆体の成熟は、赤血球分化培地において赤血球系前駆体を培養することによって誘導される。
【0027】
他の態様において、本発明は、造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させるとともに、グルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、及びオートファジーインデューサー、好ましくはSMER-28、及び任意的にHIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含む細胞培地にさらに関する。
【0028】
好ましくは、培地は、0.01mM~0.1mMの濃度のグルココルチコイドホルモン、及び/又は2μM~30μMの濃度のオートファジーインデューサー、及び/又は75μM~350μMの濃度のHIF経路アクチベーターを含む。
【0029】
オートファジーインデューサーは、好ましくは、低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)、SMER-10、及びSMER-18、並びにそれらの組合せからなる群より選択され、より特に好ましくはSMER-28である。
【0030】
グルココルチコイドホルモンは、好ましくは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、並びにそれらの誘導体、及び混合物からなる群より選択され、より特に好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群より選択され、最も特に好ましくはデキサメタゾンである。
【0031】
培地はまた、低酸素誘導因子(HIF)経路アクチベーターは、好ましくはプロリルヒドロキシラーゼ(PHIS)インヒビター、より好ましくはジメチルオキサリルグリシン(DMOG)である。
【0032】
また、培地は、(i)トランスフェリン、(ii)インスリン、(iii)ヘパリン、及び(iv)血清、血漿、血清プール、又は血小板ライセート、好ましくは血小板ライセート、並びに任意的に幹細胞因子(SCF)、EPO、及び/又はIL-3も含むことができる。
【0033】
本発明は、赤血球系前駆体を作製する及び/又は増幅するための本発明にかかる細胞培地の使用にさらに関する。
【0034】
第5の態様において、本発明は、赤血球系前駆体及び/又は赤血球の作製のためのキットにさらに関し、該キットは、
- 本発明にかかる培地、及び/又は
- 本発明にかかる遺伝子組み換えされた造血幹細胞、及び
- 任意的に、そうしたキットを使用するための指示を含む指導書を含む。
【0035】
そして、第6の態様において、本発明は、赤血球系前駆体及び/又は赤血球を作製するための本発明にかかるキットの使用にさらに関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、種々の培養プロトコルにおける14日目の表面マーカーCD117及びCD235aの発現プロファイルを示す。Aはプロトコル4、Bはプロトコル3、Cはプロトコル1、Dはプロトコル2である。
図2図2は、種々の培養プロトコルにおける、HTERT、BMI1、及びLMO2を過剰発現するように遺伝子組み換えされた細胞の24日目の表面マーカーCD117及びCD235aの発現プロファイルを示す。Aはプロトコル4、Bはプロトコル1、Cはプロトコル2である。
図3図3は、種々の培養プロトコルにおける、HTERT、BMI1、及びBCL-XLを過剰発現するように遺伝子組み換えされた細胞の24日目の表面マーカーCD117及びCD235aの発現プロファイルを示す。Aはプロトコル4、Bはプロトコル1、Cはプロトコル2である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明者らは、オートファジーインデューサー、すなわち低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER28)、及びグルココルチコイドホルモン、すなわちデキサメタゾンを含む培地における造血幹細胞培養が、デキサメタゾンのみを添加したコントロールの培地と比較して赤血球系前駆体作製を著しく増大させることを示した。こうして得られた赤血球系前駆体は、培養物において維持され、60日を超える間増幅することができる。また、発明者らは、これらの赤血球系前駆体が効果的に赤血球に分化可能であることを示した。
【0038】
このインビトロの培養プロセスは、簡単で経済的であるという利点を有するだけでなく、赤血球系前駆体、そして赤血球の産業的大規模産生への道を開くものである。これにより、輸血する患者の安全性を最適化しながら血液不足又は輸血効果停滞のリスクを減らす。
【0039】
このように、第1の態様において、本願は、赤血球系前駆体を作製するためのインビトロのプロセスに関し、該プロセスは、オートファジーインデューサー及びグルココルチコイドホルモンを含む培地に造血幹細胞を接触させることを含む。このプロセスの目的は、造血幹細胞の赤血球系前駆体への分化を誘導し、その後に赤血球へと分化するこの前駆体の能力を維持しながら、この前駆体個体群を増幅、すなわち増殖させることである。ゆえに、本発明におけるプロセスは、赤血球系前駆体の作製及び増幅のためのプロセスである。
【0040】
本明細書で使用するとき、「赤血球系前駆体」という用語は、赤血球生成時に造血幹細胞の分化によって得られる前駆体細胞を指す。これらの前駆体細胞は、分裂して後に脱核により赤血球へと分化する能力を有する有核細胞である。赤血球系前駆体は、好ましくは、マーカーであるCD117、CD34、CD41、CD71、及びCXCR4の発現によって特徴づけられるバースト形成単位E(BFU-E)、マーカーであるCD117、CD34、CD36、及びCD71の発現によって特徴づけられるコロニー形成単位-E(CFU-E)、マーカーであるCD117、CD71、CD36、及びCD235aの発現によって特徴づけられる前赤芽球、マーカーであるCD117、CD71、CD36、及びCD235aの発現によって特徴づけられる好塩基性赤芽球、及びマーカーであるCD36、CD71、及びCD235aの発現によって特徴づけられる多染性赤芽球、並びにそれらの混合物から選択される。
【0041】
本明細書で使用するとき、「造血幹細胞」又は「HSC」という用語は、白血球、赤血球、及び血小板などの血球及び免疫細胞に分化可能な複能性幹細胞を指す。造血幹細胞は、CD45、CD133、及び/又はCD34抗原を発現する。好ましくは、造血幹細胞は、CD45及びCD34抗原、任意的にCD133抗原を発現する。
【0042】
好ましい実施形態において、HSCはヒトHSCである。
【0043】
これらのHSCは、種々の由来から、当業者に周知の方法により得られる。特に、HSCは、例えば、特定の膜受容体の存在(例えばCD45、及び/又はCD45)に対する免疫磁気システム又はスクリーニングシステムを使用して、骨髄、細胞吸着、全血、又は臍帯血(若しくは胎盤血)から単離することができる。
【0044】
本明細書で使用するとき、「細胞吸着」という用語は、アフェレーシスによるHSCの血液からの除去を指す。アフェレーシスは、体外血液循環によって特定の血液成分を採取する技術である。採取される成分は遠心分離及び抽出によって分離される一方、採取されない成分はドナー又は患者に再注入される(治療的アフェレーシス)。
【0045】
また、HSCは、多能性幹細胞、特に胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞、好ましくは誘導多能性幹細胞の分化によって得られる。多能性幹細胞をHSCに分化させる技術は当業者に周知である。いくつかのプロトコル、特に、胚様体の中間段階とSCF、Flt-3リガンド、IL-3、IL-6、G-CSF、及びBMP-4のサイトカインの組合せとによる17日間の分化からなるLengerke C等によるプロトコル(2009, Ann N YAcad Sci, 1176:219-27)の記載がある。
【0046】
本明細書で使用するとき、「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊由来で、生殖系列細胞を含む身体のあらゆる組織の形成をもたらす(中胚葉、内胚葉、外胚葉)能力を有する細胞を指す。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4及びNANOGなどのマーカー、及びSSEA3/4、Tra-1-60及びTra-1-81などの表面マーカーの存在により評価することができる。胚性幹細胞は、例えばChung等によって記載される技術(Cell Stem Cell,2008, 2(2): 113-117)を使用して、由来する胚を破壊することなく得られる。特定の実施形態において、法的又は倫理的な理由から、胚性幹細胞は非ヒト胚性幹細胞である。他の特定の実施形態において、本発明で使用される胚性幹細胞は、好ましくは由来する胚を破壊することなく得られるヒト胚性幹細胞である。使用される胚は、好ましくは、現行法に従って規制において及び倫理的な承認を得た後の、不妊治療時に得られた余剰の胚である。
【0047】
本明細書で使用するとき、「誘導多能性幹細胞」(iPS)という用語は、分化体細胞の遺伝子リプログラミングによって得られるとともに、部分的に胚性幹細胞と類似する自己複製性及び多能性の形態及び潜在力を有する多能性幹細胞を指す。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼ染色及びタンパク質NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4の発現を含む多能性マーカーに対して陽性である。誘導多能性幹細胞を得るプロセスは、当業者に周知であり、特にYu等(Science, 2007,318 (5858): 1917-1920)、Takahashi等(Cell, 2007, 131(5): 861-872)、及びNakagawa等(Nat Biotechnol,2008, 26(1): 101-106)による文献に記載されている。
【0048】
また、本発明におけるプロセスで使用されるHSCは、その赤血球生成に関わる能力及び/又はその増幅能力を増大させるように遺伝子組み換えされたHSCであり得る。このように、特定の実施形態において、本発明におけるプロセスは、その赤血球生成に関わる能力及び/又はその増幅能力を増大させるようにHSCの遺伝子組換えを含み得る。これらの細胞を遺伝子組み換えする方法は当業者に周知であり、例えばレトロウイルス若しくはレンチウイルスによって導入遺伝子を細胞ゲノムに導入すること、遺伝子若しくはタンパク質導入の任意の他の形態に関与する。
【0049】
実施形態において、これらのHSCの増幅能力は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(HTERT)、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子を過剰発現することで向上する。
【0050】
特定の実施形態において、HSCはHTERTを過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0051】
他の特定の実施形態において、HSCは、HTERTと、BリンフォーマMo-MLVインサーションリージョン1ホモログ(BMI1)、c-MYC、l-MYC、及びMYBからなる群より選択される1つ以上の遺伝子とを過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0052】
好ましい実施形態において、HSCは、HTERT及び/又はBMI1、好ましくはHTERT及びBMI1を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0053】
赤血球生成経路に関わるHSCの能力は、EPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路、及び/又はコア赤血球ネットワーク(CEN)経路に関与する1つ以上の遺伝子を過剰発現することで向上させることができる。
【0054】
本明細書で使用するとき、「EPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路」という用語は、主要なタンパク質がエリスロポエチン(EPO)受容体、ヤヌスキナーゼ2(JAK2)、シグナル伝達兼転写活性化因子5(STAT5)、及びB細胞リンフォーマ-エクストララージ(BCL-XL)である細胞シグナル経路を指す。EPOは赤血球生成に必須であり、赤血球関与及び細胞生存を高める。EPOをその膜受容体に結合させることでEPO-Rを二量体化させ、これは、活性化されたときJAK2を誘導する。そして、JAK2は、EPO-Rの細胞質側末端におけるチロシン残基をリン酸化する。これらのリン酸化チロシンは、Srcホモロジー2(SH2)ドメインを含むタンパク質との相互作用を可能にし、これが種々のシグナル経路の活性化につながり、主要なものはSTAT5経路である。STAT5は、まず二量体化されて、リン酸化され、これにより、細胞増殖及び赤血球分化に関与する遺伝子を含む種々の遺伝子の転写を活性化させる核への移行を行う。
【0055】
実施形態において、HSCは、EPO-R/JAK2/STAT5P/BCL-XL経路の1つ以上の遺伝子、好ましくはEPO-R、JAK2、STAT5P、BCL-XL、及びBCL-2をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0056】
特定の実施形態において、HSCはBCL-XLをコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0057】
本明細書で使用するとき、「CEN経路」という用語は、赤血球のアイデンティティーを確立する又は維持するために必須の転写因子の群を指す。
【0058】
実施形態において、HSCは、1つ以上のCEN経路遺伝子、好ましくは、GATA1(DNA配列「GATA」に結合するジンクフィンガータンパク質ファミリーに属する転写因子)、TAL bHLH転写因子1(TAL1)、クルッペル様因子1(KLF1)、LIMドメインバインディング1(LDB1)、LIMドメインオンリー2(LMO2)、及び幹細胞白血病(SCL)をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0059】
特定の実施形態において、HSCはLMO2をコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0060】
特定の実施形態において、本発明におけるプロセスに使用されるHSCは、
(i) HTERT、BMI1、c-MYC、l-MYC、及びMYBをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子、好ましくはHTERT及び/又はBMI1、より特に好ましくはHTERT及びBMI1、並びに
(ii) 好ましくはEPO-R、JAK2、STAT5、BCL-XL、及びBCL-2をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子、より特に好ましくはBCL-XL、並びに/又は、
(iii) 好ましくはGATA1、TAL1、KLF1、LDB1、LMO2、及びSCLをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上のCEN経路遺伝子、より特に好ましくはLMO2、を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0061】
他の特定の実施形態において、本発明におけるプロセスに使用されるHSCは、
(i) HTERT、BMI1、c-MYC、l-MYC、及びMYBをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子、好ましくはHTERT及び/又はBMI1、より特に好ましくはHTERT及びBMI1、並びに
(ii) 好ましくはEPO-R、JAK2、STAT5P、BCL-XL、及びBCL-2をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子、より特に好ましくはBCL-XL、並びに、
(iii) 好ましくはGATA1、TAL1、KLF1、LDB1、LMO2、及びSCLをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上のCEN経路遺伝子、より特に好ましくはLMO2、を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0062】
好ましい実施形態において、HSCは、
(i) HTERTをコードする遺伝子、及び任意的にBMI1をコードする遺伝子、並びに
(ii) LMO2をコードする遺伝子及び/又はBCL-XLをコードする遺伝子、好ましくBCL-XLをコードする遺伝子、を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0063】
特に、HSCは、HTERTをコードする遺伝子及びBCL-XLをコードする遺伝子、及び任意的にBMI1をコードする遺伝子、を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0064】
他の好ましい実施形態において、HSCは、
(i) HTERT及びBMI1をコードする遺伝子、並びに
(ii) LMO2をコードする遺伝子及び/又はBCL-XLをコードする遺伝子、を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0065】
特に、HSCは、
(i) HTERT及びBMI1をコードする遺伝子、並びにLMO2をコードする遺伝子、又は
(i) HTERT及びBMI1をコードする遺伝子、並びにBCL-XLをコードする遺伝子、を過剰発現するように遺伝子組み換えすることができる。
【0066】
本明細書で使用するとき、「過剰発現」、「過剰発現する」、又は「過剰発現すること」という用語は、非遺伝子組換え細胞における遺伝子の発現レベルより高い、遺伝子組換え細胞における同じ遺伝子の発現レベルを指す。細胞が遺伝子組換え前に目的の遺伝子を発現しないが、遺伝子組換え後に発現するとき、この用語は、「発現」、「発現する」、又は「発現すること」に置き換えられ得る。
【0067】
HSCにおける遺伝子の過剰発現は、当業者に既知の任意の方法によって、特に、過剰発現される1つ以上の遺伝子を含む核酸、過剰発現される遺伝子の1つをそれぞれが含むいくつかの核酸をHSCに導入することによって、得ることができる。このように、1つ以上の核酸は同じ構築物又は個別の構築物に構成することができる。1つ以上の核酸は、当業者に既知の任意の方法によって、特に、ウイルス形質導入、微量注入法、遺伝子導入、エレクトロポレーション、及び遺伝子銃によって、HSCに導入することができる。
【0068】
本明細書で使用するとき、「構築物」という用語は発現カセット又は発現ベクターを指す。
【0069】
発現カセットにおいて、過剰発現される1つ以上の遺伝子は、その発現に必要な配列に作動可能に連結される。特に、過剰発現される1つ以上の遺伝子は、HSCにおいてそれらを発現させるプロモーターの制御下にあるとよい。一般的に、発現カセットは、転写を開始させるプロモーター、1つ以上の遺伝子、及び転写ターミネーターを含む、又はそれらからなる。「作動可能に連結される」という文言は、コード配列の発現が転写プロモーターの制御下にあるようにエレメントが組み合わせられていることを示す。典型的には、プロモーターの配列は、1つ以上の目的の遺伝子の上流(5´)に配置される。スペーサー配列は、コードするタンパク質の翻訳による発現を妨げないならば、調節因子と遺伝子との間に存在することができる。また、発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結された配列を活性化させる少なくとも1つの「エンハンサー」を含むことができる。
【0070】
発現ベクターは、1つ以上の核酸又は記載されるような発現カセットを含む。この発現ベクターは、宿主細胞を形質転換し、該細胞において目的の核酸を発現させるために使用可能である。ベクターは、当業者に周知の従来の分子生物学的技術によって構築することができる。
【0071】
有利には、発現ベクターは、目的の核酸を発現させる調節因子を含む。これらの因子は、例えば転写プロモーター、転写アクチベーター、ターミネーター配列、開始コドン及び終止コドンを含むことができる。これらの因子を選択する方法は当業者に周知である。
【0072】
ベクターは、環状又は線状、一本鎖又は二本鎖であってもよい。これは、プラスミド、ファージ、ファージミド、ウイルス、コスミド、及び人工染色体から有利に選択される。好ましくは、ベクターはウイルスベクターである。
【0073】
過剰発現される1つ以上の遺伝子は、同じ核酸に存在していなくても、同一又は異なる構成的プロモーター又は誘導的プロモーターの制御下におくことができる。
【0074】
HSCは、一時的に又は安定的に形質転換/遺伝子導入することができ、1つ以上の核酸、カセット、又はベクターはエピソームとして細胞に含まれる、又はHSCゲノムに組み込むことができる。これらは、同一又は別個の領域において真核生物細胞ゲノムに挿入することができる。
【0075】
目的の遺伝子の安定的又は一時的な発現を可能にする当業者に周知の数多くの技術が存在する。特に、目的の遺伝子は、標的発現系、特にCRISPR/Cas9系を使用するノックイン技術を使用して細胞のゲノムに組み込むことができる(例えばPlatt et al.Cell. 2014 Oct 9; 159(2):440-55又はLo et al. Biotechniques. 2017 Apr 1; 62(4):165-174を参照)。1つ以上の目的の遺伝子の単一コピーが所定の座位で細胞ゲノムに挿入可能なこの技術は、Cas9ヌクレアーゼをコードする遺伝子及び1つ以上の遺伝子が挿入される座位に特異的なガイドRNA(gRNA)の連携的発現を可能にする1つ以上のベクターの遺伝子導入に基づくものである。該1つ以上の目的の遺伝子又は該1つ以上の目的の遺伝子を含むカセットは、Cas9によって生じた切断の修復の結果として、挿入される。
【0076】
本願で使用するとき、「ガイドRNA」又は「gRNA」という用語は、Cas9と相互作用して標的染色体領域にガイドすることができるRNA分子を指す。
【0077】
核gRNAは、
- 標的染色体領域と相補的であり、内在性CRISPR系のcrRNAを模倣する、gRNAの5´末端における第1領域(通常「SDS」領域として呼称される)、及び
- トランス活性化crRNA(tracrRNA)と内在性CRISPR系crRNAとの間の塩基対相互作用を模倣し、3´末端における実質的に一本鎖の配列により二本鎖ステムループ構造を有する、gRNAの3´末端における第2領域(通常「ハンドル」領域として既知である)、の2つの領域を含むことができる。この第2領域はgRNA-Cas9結合に必須である。
【0078】
目的の遺伝子又は1つ以上の目的の遺伝子を含むカセットは、gRNAが標的とする切断部位の相同配列に隣接し、相同組換えによる切断修復によって遺伝子又はカセットを挿入することができる。
【0079】
構成的発現を可能にするプロモーターの例は、pEF1αロング、pCMV、及びpCAGを含むがこれらに限らない。
【0080】
本発明において使用可能な誘導的発現系は、Tet-On系であり、これは、大腸菌のテトラサイクリン制御因子(TetR)タンパク質をヘルペスウイルスのVP16タンパク質の活性ドメインに融合させて作製されたテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質(tTA)の使用に基づくものである。rtTAタンパク質は、テトラサイクリンと結合される場合のみ、特定のTetOオペレート配列におけるDNAに結合することができる。複数のTetO繰り返し配列がEF1αロングプロモーターなどのプロモーターの制御下におかれる。プロモーターに結合したTetO配列は、テトラサイクリン応答因子(TRE)と呼ばれ、プロモーターの制御下にある遺伝子の発現を増大させることでテトラサイクリントランスアクチベータータンパク質(tTA)結合に応答する。
【0081】
複数の遺伝子が過剰発現されると、同じプロモーター又は複数のプロモーターの制御下におかれ得る。
【0082】
特定の実施形態において、HSCは、HTERT、BMI1、c-MYC、l-MYC、及びMYBをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子、好ましくはHTERT及び/又はBMI1、より特に好ましくはHTERT及びBMI1を過剰発現するように遺伝子組み換えされ、この遺伝子又はこれらの遺伝子は1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる。
【0083】
特定の実施形態において、HSCは、好ましくはGATA1、TAL1、KLF1、LDB1、LMO2、及びSCLをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上のCEN経路遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされ、この遺伝子又はこれらの遺伝子は1つ以上の誘導的プロモーターの制御下におかれる。
【0084】
特定の実施形態において、HSCは、好ましくはEPO-R、JAK2、STAT5P、BCL-XL、及びBCL-2をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、より特に好ましくはBCL-XLである、1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされ、この遺伝子又はこれらの遺伝子は1つ以上の構成的プロモーターの制御下におかれる。
【0085】
好ましい実施形態において、HSCは、誘導的プロモーターの制御下においてHTERTをコードする遺伝子、及び構成的プロモーターの制御下においてBCL-XLをコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0086】
他の好ましい実施形態において、HSCは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下においてHTERT、BMI1、及びLMO2をコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0087】
他の好ましい実施形態において、HSCは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下においてHTERT及びBMI1をコードする遺伝子、及び1つ以上の構成的プロモーターの制御下においてBCL-XLをコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0088】
あるいは、又は上述の遺伝子組換えに加え、本発明におけるプロセスに使用されるHSCはまた、誘導的プロモーターの制御下において例えばHSV-TK遺伝子又はCasp9遺伝子などの自殺遺伝子を含むように遺伝子組み換えすることができる。本明細書で使用するとき、「自殺遺伝子」という用語は、対象の自殺遺伝子に対応して、さらなる分子(薬剤又は他のもの)の存在の有無で、これを発現する分裂可能細胞の死をもたらす任意の遺伝子を指す。一例として、HSV-TK遺伝子又はCasp9遺伝子を発現する細胞の細胞死は、それぞれガンシクロビル又はAP1003を添加することでなされる。
【0089】
特定の実施形態において、本発明におけるプロセスに使用されるHSCは不死化HSCである。これらの不死化細胞は、上述のようにさらに遺伝子組み換えすることができる。
【0090】
不死化HSCは、悪性細胞から株化された不死化細胞株から得られる。
【0091】
好ましくは、不死化HSCは、例えばiPSから(Kurita et al.PLoS ONE, 2013, 8, e59890)、臍帯血細胞から(Kurita et al. supra; Huang, X. et al. Mol. Ther.2014, 22, 451-463)、胚性幹細胞から(Hirose, S. et al.Stem Cell Rep. 2013, 1, 499-508)、又は骨髄から単離されたHSCから、細胞吸着から、若しくは末梢血全血から(Trakarnsanga etal., 2017, Nature Communications, Vol. 8, 14750)など、非悪性細胞から株化された不死化細胞株から得られる。
【0092】
HSCは、当業者に既知の任意の技術によって、特にヒトパピローマウイルス16型発がん遺伝子E6及びE7(HPV16 E6/E7)を有するレンチウイルスベクターでの形質導入によって(Akimov et al.Stem Cells. 2005 Oct; 23(9): 1423-1433; Trakarnsanga et al. supra)、不死化可能である。任意的に、HSCはまた、HTERTをコードする遺伝子を有するレンチウイルスで形質導入することができる(Akimov et al., supra)。
【0093】
好ましい実施形態において、本発明におけるプロセスに使用される不死化HSCは、赤血球系前駆体の成熟脱核赤血球への成熟誘導後に死滅させるこができる自殺遺伝子を含む。
【0094】
本発明におけるプロセスは、上述のHSCを、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーに、より好ましくは造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させるとともにグルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーを含む培地に、接触させることを含む。
【0095】
本明細書で使用するとき、「オートファジー」、「自己融解」又は「自己貪食」という用語は同等であり、互換的に使用可能である。オートファジーは、それ自体のリソソームによる細胞における細胞質の一部の分解を指す。
【0096】
オートファジーは、特定のタンパク質(ウイルス性、異常なものなど等)を及び損傷した小器官を排除するために利用される生理学的なプロセスである。また、このプロセスは、細胞内病原体を排除することに関わり得る。いくつかのシグナル経路は、栄養欠乏から微生物浸入まで、様々なタイプの細胞ストレスを検出し、オートファジーを調節するように集中する。本明細書で使用するとき、「オートファジーインデューサー」という用語は、細胞においてオートファジーを誘導可能な分子を指す。
【0097】
特に、オートファジーインデューサーは、メトホルミン、ラパマイシン、ペリホシン、エベロリムス、レスベラトロール、若しくはタモキシフェンなどのmTOR経路インヒビター、化合物MG-132(26Sプロテアソームインヒビター)、化合物SAHA(全ヒストンデアセチラーゼインヒビター)、トリコスタチンA、若しくはバルプロ酸などの自己貪食空胞形成アクチベーター、又はSMER-28、SMER-10、若しくはSMER18などのmTOR経路と無関係に作用する低分子であってもよい。
【0098】
特定の実施形態において、オートファジーインデューサーは、好ましくは低分子エンハンサーのラパマイシン-28(SMER-28)、SMER-10、及びSMER18、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、mTOR経路と無関係に作用するインデューサーである。
【0099】
好ましい実施形態において、オートファジーインデューサーはSMER-28である。
【0100】
本明細書で使用するとき、「グルココルチコイドホルモン」、「グルココルチコイド」、「コルチコステロイド」、又は「コルチコイド」という用語は同等であり、互換的に使用可能である。これらの用語は、プレグナン核を有し、タンパク質及び炭水化物の代謝に作用する、天然又は合成のステロイドホルモンを指す。
【0101】
実施形態において、グルココルチコイドホルモンは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、並びにそれらの誘導体、及び混合物からなる群より選択される。
【0102】
特定の実施形態において、グルココルチコイドホルモンは、好ましくはプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチバゾール、並びにそれらの誘導体、及び混合物からなる群より選択される、合成ホルモンである。
【0103】
好ましい実施形態において、グルココルチコイドホルモンは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、並びにそれらの誘導体、及び混合物からなる群より、好ましくは、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群より選択される。
【0104】
特に好ましい実施形態において、グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンである。
【0105】
特定の実施形態において、オートファジーインデューサーは、SMER-28、SMER10、及びSMER18からなる群より選択され、好ましくはSMER-28であり、グルココルチコイドホルモンは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、及びデキサメタゾンからなる群より選択され、好ましくはデキサメタゾンである。
【0106】
特に特定の実施形態において、オートファジーインデューサーはSMER-28であり、グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンである。
【0107】
任意的に、HSCはまた、HIF経路のアクチベーターと接触させることができる。本明細書で使用するとき、「HIF経路」という用語は、EPO分泌を促進してEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路を活性化する低酸素誘導因子(HIF)によって開始されるシグナル経路を指す。
【0108】
好ましくは、本発明におけるHIF経路アクチベーターはプロリルヒドロキシラーゼ(PHIS)インヒビターである。
【0109】
本明細書で使用するとき、「プロリルヒドロキシラーゼ(PHIS)」及び「プロコラーゲン-プロリンジオキシゲナーゼ」という用語は同等であり、互換的に使用可能である。プロリルヒドロキシラーゼは、HIFのプロリル残基におけるHIFの水酸化酵素である。水酸化されると、HIFは阻害される。ゆえに、特定のプロリルヒドロキシラーゼのインヒビターは、プロリルヒドロキシラーゼを阻害してHIF経路を活性化させ、これがEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路を活性化させることができる分子である。
【0110】
好ましくは、プロリンヒドロキシラーゼインヒビターは、ジメチルオキサリルグリシン(DMOG)、N-オキサリルグリシン(NOG)、デスフェリオキサミン(DFO)、FG-4383、F-0041、FG-2216、FG-4592、S956711、エチル-3、4ジヒドロキシ-ベンゾアト(EDHB)、TM6089、TM655、TM6008、8-ヒドロキシキノリン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される。
【0111】
最も特に好ましくは、HIF経路アクチベーターはDMOGである。
【0112】
本発明におけるプロセスの実施時に、HSCは、造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させた培地において培養される。好ましくは幹細胞因子(SCF)、エリスロポエチン(EPO)、及び脂肪を添加したStemSpan SFEM(ステムセルテクノロジーズ)又はStemMACS HSC Expansion Media XF、ヒト(インビトロジェン)など、HSCの栄養要求に適応させた数多くの培地が当業者に知られており、市販されている。
【0113】
好ましくは、HSCは、200~10000cells/mL、好ましくは500~2000cells/mL、より好ましくは約1000cells/mLの濃度で培養される。
【0114】
好ましくは培地を約3日毎に変えて、細胞が約4000000cells/mLの濃度を超えないようにする。
【0115】
HSCは、培養の第1日目、又は培養の数日後、例えば10~15日後に、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーに接触させることができる。
【0116】
好ましくは、HSCは、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーにともに接触させる。
【0117】
あるいは、HSCは、まずグルココルチコイドホルモンに接触させ、そしてオートファジーインデューサーに接触させることができ、又はその逆でもよい。第2化合物の添加は、例えば、第1化合物との接触の数時間後に行うことができる。
【0118】
好ましくは、HSCは、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーにともに接触させる。より特に好ましくは、HSCは、培養の第1日目からグルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーにともに接触させる。
【0119】
接触は、HSC培地にグルココルチコイドホルモン及び/又はオートファジーインデューサーを添加すること、又はHSCをグルココルチコイドホルモン及び/又はオートファジーインデューサーを含む培地に配置することで行うことができる。
【0120】
グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーの濃度は、培養又は接触において、一定である又は変化させることができる。
【0121】
好ましくは、培地がグルココルチコイドホルモンを含むとき、これは、0.001mM~10mM、好ましくは0.01mM~1mM、より好ましくは0.01mM~0.5mM、特に好ましくは0.02mM~0.1mMの濃度で存在する。
【0122】
特定の実施形態において、培地がグルココルチコイドホルモンを含むとき、これは約0.1mMの濃度で存在する。
【0123】
好ましくは、培地がオートファジーインデューサーを含むとき、これは、0.1μM~100μM、好ましくは0.5μM~50μM、より好ましくは1μM~30μM、特に好ましくは2μM~30μMの濃度で培地に存在する。あるいは、培地がオートファジーインデューサーを含むとき、これは10μM~30μMの濃度で培地に存在することができる。
【0124】
特定の実施形態において、培地がオートファジーインデューサーを含むとき、これは約2μMの濃度で培地に存在する。
【0125】
本明細書で使用するとき、「約」という用語は、特定値の±5%、好ましくは特定値の±2%である値の範囲を指す。例として、「約20」は、20±5%、又は19~21を含む。
【0126】
同様に、HSCがHIF経路アクチベーターの存在下におかれる実施形態において、アクチベーターの濃度は、培養又は接触において、一定である又は変化させることができる。
【0127】
好ましくは、培地がHIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含むとき、これは、1μM~1000μM、好ましくは10μM~500μM、より好ましくは50μM~400μM、特に好ましくは75μM~350μMの濃度で培地に存在する。
【0128】
特定の実施形態において、HSCは、培養の10~15日後、グルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、及びオートファジーインデューサー、好ましくはSMER28の存在下におかれる。好ましくは、この実施形態において、グルココルチコイドホルモンの濃度は、0.01mM~0.5mMであり、より特に好ましくは0.02mM~0.1mMであり、オートファジーインデューサーの濃度は10μM~30μMである。
【0129】
他の特定の実施形態において、HSCは、培養の第1日目、又は培養の10日前から、グルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、及びオートファジーインデューサー、好ましくはSMER28の存在下におかれる。好ましくは、この実施形態において、グルココルチコイドホルモンの濃度は、0.01mM~0.5mMであり、好ましくは約0.1mMであり、オートファジーインデューサーの濃度は2μM~30μMであり、好ましくは約2μMである。
【0130】
HSCは、好ましくは、少なくとも10日間、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサー、及び任意的にHIF経路アクチベーターを含む培地において維持される。より特に好ましくは、HSCは、少なくとも20、30、40、50、又は60日間、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーを含む培地において維持される。
【0131】
このステップ時に、細胞培養物はHSCだけでなく赤血球系前駆体も含むということが理解される。
【0132】
発明者らは、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーを含む培地の使用が、最終的な赤血球分化の経路に関わらない赤血球系前駆体の作製を著しく増幅させた、ということを示した。このように、本発明のプロセスにおいて、HSCは、少なくとも60、70、80、90、又は100日間、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーを含む培地において培養することができる。好ましくは、HSCは、最大70、80、90、又は100日間、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーを含む培地において培養される。
【0133】
HSC培養の期間、並びにグルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサー、及び任意的にHIF経路アクチベーターとの接触時間は、細胞個体群に存在する赤血球系前駆体の比率を評価することで当業者によって容易に決定可能である。好ましくは、HSCは、少なくとも90%の赤血球系前駆体、好ましくは少なくとも95%の赤血球系前駆体、より好ましくは少なくとも99%の赤血球系前駆体を含む個体群が得られるまで、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーに接触させる。
【0134】
培養は、成熟赤血球の成熟マーカーが現れるまで維持することができる。好ましくは、培養は、細胞が増幅されなくなる、及び/又は、その10%未満、好ましくは5%未満が膜受容体CD117を発現するとき、停止される。あるいは、培養は、培養物において細胞の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が多染性赤芽球段階に達する、又はさらに分化の進行段階にあるとき、停止させることができる。
【0135】
特定の実施形態において、プロセスは、培地がグルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサー、及び任意的にHIF経路アクチベーターを含む培養期と、培地がグルココルチコイドホルモン、オートファジーインデューサー、及び/又はHIF経路アクチベーターを含まない培養期とを交互にすることを含むことができる。
【0136】
グルココルチコイドホルモン、オートファジーインデューサー、及びHIF経路アクチベーターは、ともに又は連続的に培地に添加する又は培地から取り除くことができる。
【0137】
培地の組成を変える技術は当業者に周知である。特に、分子の添加又はその濃度の増大は既存の培地に直接的に行うことができ、分子の除去又はその濃度の減少は細胞の遠心分離及び新しい培地への再懸濁によって、又は培地の希釈によって行うことができる。
【0138】
本発明におけるプロセスは、得られた赤血球系前駆体を回収するステップをさらに含むことができる。このステップは、当業者に既知の任意の技術によって、特に培地の遠心分離及び除去によって行うことができる。また、本発明のプロセスは、細胞選別ステップ、特にマーカーCD117の発現に基づく細胞選択ステップを含むことができる。CD117+細胞は赤血球系前駆細胞の増幅を延長させるために選択することができる。一方、CD117-細胞は赤血球を作製するために選択することができる。
【0139】
また、本発明におけるプロセスは、得られた/回収された赤血球系前駆体を洗浄するステップを含むことができる。このステップは、当業者に既知の任意の技術によって、特に連続する遠心分離及び再懸濁のステップによって行うことができる。
【0140】
特定の態様において、本発明はまた、本発明のプロセスによって得られた赤血球系前駆体の個体群に関する。
【0141】
他の態様において、本発明はまた、赤血球作製のための、本発明のプロセスによって得られた赤血球系前駆体の使用に関する。
【0142】
本明細書で使用するとき、「赤血球(red blood cell)」、「成熟赤血球(mature red bloodcell)」、「赤血球(red blood cell)」、「赤血球(red corpuscle)」、「赤血球(erythrocyte)」、及び「成熟赤血球(matureerythrocyte)」という用語は同等であり、互換的に使用可能である。「赤血球(erythrocyte)」という用語は、赤血球成熟に特有のマーカーを有する脱核細胞を指す。これらは、特にグリコホリンA(CD235a)を発現するが、マーカーCD36を発現しない。
【0143】
このように、本発明は、赤血球を作製するためのインビトロのプロセスに関し、該プロセスは、
- 上述の本発明のプロセスによる赤血球系前駆体の作製、及び
- 赤血球系前駆体の成熟の誘導、を含む。
【0144】
本発明における赤血球系前駆体を作製するためのプロセスに関する上述の実施形態は、この態様においても考慮される。
【0145】
赤血球系前駆体の成熟は、CD235aなどの赤血球成熟マーカーの発現及び脱核によるものを含むことができる。
【0146】
また、本発明のプロセスは、細胞選別ステップ、特にCD117-細胞選択ステップを含むことができる。
【0147】
前駆体の成熟は、当業者に既知の任意の方法によって誘導することができる。特に、成熟は、赤血球分化培地、例えばエリスロポエチン及び任意的にSMER28を添加した培地にて赤血球系前駆体を培養することで誘導することができる。好ましくは、成熟は、幹細胞因子(SCF)又はデキサメタゾンを含まず、エリスロポエチン(約2.5IU/mL)及び任意的にSMER28(約2.5μM)を添加した培地にて赤血球系前駆体を培養することで誘導される。あるいは、成熟は、無血清培地に細胞を配置することで誘導される。好ましくは、前駆体成熟は、例えば培養物において5,000,000cells/mLを超える、高細胞濃度で誘導される。
【0148】
実施形態において、本発明における赤血球を作製するためのプロセスは、有核細胞を排除するステップをさらに含む。このステップにより、成熟赤血球のみを含む均質な個体群が得られる。
【0149】
本発明における赤血球系前駆体を作製するためのプロセスに使用されるHSCが誘導的自殺遺伝子を含む特定の実施形態において、この有核細胞を排除するステップは、この自殺遺伝子の発現を誘導することで行うことができる。
【0150】
赤血球を作製するためのプロセスは、得られた赤血球を回収するステップをさらに含むことができる。このステップは、当業者に既知の任意の技術によって、特に、培地の濾過、遠心分離及び除去によって行うことができる。
【0151】
また、本発明におけるプロセスは、得られた/回収された赤血球を洗浄するステップを含むことができる。このステップは、当業者に既知の任意の技術によって、特に連続する濾過、遠心分離及び再懸濁のステップによって行うことができる。
【0152】
他の態様において、本発明はまた、本発明のプロセスによって得られた赤血球の個体群に関する。
【0153】
他の態様において、本発明はまた、本発明のプロセスによって得られた赤血球系前駆体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0154】
また、本発明は、造血グラフトとして使用するための、本発明における赤血球系前駆体、又は本発明における赤血球系前駆体を含む医薬組成物に関する。本明細書で使用するとき、「造血グラフト」という用語は、対象の骨髄に投与するために用いられるとともに赤血球を作製することができる一式の細胞を指す。
【0155】
また、本発明は、貧血症の処置に使用するための、本発明における赤血球系前駆体、又は本発明における赤血球系前駆体を含む医薬組成物に関する。
【0156】
本明細書で使用するとき、「貧血症」という用語は、異常に低レベルの健康な赤血球によって特徴づけられる異常な血球数、及び対象の年齢に対して正常値より低い循環ヘモグロビンの減少を指す。一例として、貧血症は、一般的に、男性では13g/dL未満、女性では12g/dL未満、子供では11g/dL未満、及び新生児では14g/dL未満のヘモグロビンレベルによって特徴づけられる。
【0157】
貧血症には、様々な複数の原因があり得る。貧血症の例は、出血に関連する貧血症(例えば外傷又は手術による出血)、薬剤処置(例えば化学療法)又は毒性物質への暴露(例えば脂肪分解剤、酸化剤、鉛、毒液、若しくは毒物)により誘発された貧血症、赤血球膜の遺伝性障害による溶血性貧血症(例えば遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、若しくは遺伝性熱変形赤血球症)、赤血球膜の後天性障害による溶血性貧血症(例えば発作性夜間ヘモグロビン尿症若しくは有棘赤血球増加症)、自己免疫性溶血性貧血症(例えば輸血事故)、感染因子による貧血症(例えばマラリア、バベシア若しくはバルトネラ感染、トリパノソーマ症、内臓リーシュマニア症、敗血症、若しくはCMV感染)、遺伝性又は後天性鉄芽球性貧血、骨髄不全による貧血症(例えば骨髄抑制、ビタミンB12欠乏、脊髄形成異常症、若しくは悪性血液疾患(malignanthematopathy)による骨髄疾患侵入(白血病、リンパ腫、転移))、又は鎌状赤血球症若しくはサラセミア症候群に関与する貧血症を含むが、これらに限定されない。好ましくは、貧血症は、鎌状赤血球症又はサラセミア症候群に関連するものである。
【0158】
本発明は、貧血症に罹患する患者を処置するための方法に関し、該方法は、本発明のプロセスによって得られた赤血球系前駆体の治療有効量、又は本発明において得られた赤血球系前駆体を含む医薬組成物を、該患者に投与することを含む。
【0159】
また、本発明は、貧血症を処置する薬剤の、特に生物学的薬剤の調製のための、本発明において得られた赤血球系前駆体、又は該前駆体を含む医薬組成物の使用に関する。
【0160】
本明細書で使用するとき、「生物学的薬剤」という用語は、活性物質が生物学的由来のものによって産生される又は生物学的由来のものから抽出される医薬品を指す。
【0161】
好ましくは、この態様において、赤血球系前駆体は非遺伝子組換えHSCから得られる。
【0162】
本明細書で使用するとき、「対象」及び「患者」という用語は同等であり、互換的に使用可能である。これらの用語は、好ましくは、動物、特に哺乳動物、最も特に好ましくはヒト、特に胎児、新生児、子供、10代の子供、成人、又は高齢者を指す。本明細書で使用するとき、「胎児」という用語は妊娠8週を超える子宮内発育段階を指し、「新生児」という用語は12か月齢以下のヒトを指し、「子供」という用語は1~12歳のヒトを指し、「成人」という用語は12~60歳のヒトを指し、「高齢者」という用語は60歳以上のヒトを指す。
【0163】
患者は、好ましくは、輸血障害のある、多回輸血した、又は希な血液群を有する、患者である。好ましい実施形態において、この患者は、貧血症、特に鎌状赤血球症又はサラセミア症候群に関連する貧血症に罹患している。
【0164】
本明細書で使用するとき、「輸血障害」という用語は、有効ではない、及び/又は患者に病理学的合併症を誘発する輸血を指す。
【0165】
赤血球濃縮物(RCC)の輸注の24時間後、輸注効率が80%未満であるとき、赤血球輸注は有効ではないと考えられる。
【0166】
赤血球輸注効率(ETE)は以下の式によって計算される。
【数1】
【0167】
輸注されるHBの最小量は40gであり、観察される平均は50gである。TBVは全血液量を指す。
【0168】
輸血障害に関連する病理学的合併症は、数年後に発生し得るとともに患者の将来の輸血ができなくなる免疫性輸血(輸血同種免疫)の結果によるものであり得る。実際に、新しく輸血するとき、以前の免疫化が直接的な溶血の危機をまねく(抗体が十分な力価で存在する場合)か、又は、遅延性の溶血を引き起こす(抗体が低力価で存在する、又は新しく輸血するとき血清学的に検出不可能ですらある場合)ことがある。
【0169】
本明細書に使用するとき、「多回輸血」という用語は、複数の輸血を受けた患者、及び/又は既に輸血をして他にも輸血を受ける患者を指す。
【0170】
本明細書に使用するとき、「希な血液群」という用語は、仏国及び/若しくは欧州及び/若しくは世界人口における頻度が1/250未満の血液群、並びに/又はその血液群を保有する患者がO型で輸血できない血液群を指す。希な血液は供給が困難である。
【0171】
獣医学的用途の分野において、本発明の対象は、非ヒト動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、げっ歯動物、非ヒト霊長類、及び家禽類からなる群より選択される好ましくはペット又は家畜であってもよい。
【0172】
本明細書に使用するとき、「処置」という用語は、症状の改善若しくは排除、疾患進行の遅延、疾患進行の停止、又は疾患の排除を目的とした任意の行為を指す。この用語は、より具体的に、好ましくは対象の年齢に対する正常値に達するような、健康な赤血球及び循環ヘモグロビンのレベルの増加を指す。この用語は、予防的処置及び根治的処置の両方を含む。本明細書で使用するとき「治療有効量」という用語は、病態の少なくとも1つの症状における作用を奏するために、より具体的には処置する対象における健康な赤血球及び循環ヘモグロビンのレベルを増加させるために、十分な量を指す。
【0173】
本明細書に使用されるとき、「薬学的に許容される担体」及び「薬学的に許容されるサポート」という用語は同等であり、医薬組成物に存在する有効成分以外の任意の物質を指す。この添加は、特に、細胞の特性を変えることなく細胞の保存及び投与を容易にするために用いられる。本発明における赤血球又は赤血球前駆体を含む組成物の製剤化に使用される薬学的に許容される担体は、例えば、生理食塩水、ヒト血清アルブミン添加PBS溶液、及びそれらの混合物からなる群より選択することができる、又は赤血球及び/若しくは前駆体の保存に適する容積モル浸透圧濃度を有するとともに好ましくは対象に直接投与可能な任意の他の生理食塩水溶液であってもよい。また、赤血球を含む組成物の製剤化において、生理食塩水-アデニン-グルコース-マンニトール(SAGM)剤は、単独の、又は上述の他の薬学的に許容される担体と組み合わせて、薬学的に許容される担体として使用することができる。
【0174】
好ましくは、前駆体又はグラフト投与は、患者の骨髄にて又は静脈内注射によって行われる。
【0175】
好ましい実施形態において、赤血球系前駆体を作製するために使用される造血幹細胞は、ドナーのサンプル由来、又はドナーから得た細胞由来であり、赤血球系前駆体はレシピエントである患者に移植するために用いられる。ドナー及びレシピエントは、同じ個体(自家グラフト)又は異なる個体(同種間グラフト)であってもよい。好ましくは、ドナーとレシピエントとは同じ個体である。
【0176】
他の態様において、本発明は、本発明のプロセスによって得られた赤血球と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物又は薬剤、特に生物学的薬剤に関する。
【0177】
また、本発明は、貧血症に罹患する、すなわち赤血球の供給を必要とする患者の輸血のための、本発明のプロセスによって得られた赤血球、又は本発明において得られた赤血球を含む医薬組成物に関する。
【0178】
また、本発明は、貧血症に罹患する、すなわち赤血球の供給を必要とする患者を処置するための方法に関し、該方法は、本発明のプロセスによって得られた赤血球の治療有効量、又は本発明における赤血球を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0179】
また、本発明は、貧血症の処置に使用するための、本発明のプロセスによって得られた赤血球、又は本発明において得られた赤血球を含む医薬組成物に関する。
【0180】
好ましくは、貧血症は、鎌状赤血球症又はサラセミア症候群に関連する貧血症である。
【0181】
好ましくは、患者は輸血障害がある、多回輸血されている、又は希な血液型である。
【0182】
個別化医療の文脈において、投与される又は患者に投与される赤血球は、赤血球作製のためのインビトロのプロセスにおいて得られ、該プロセスは、
- 該患者のサンプルからHSCを得ること、
- 本発明のプロセスにおいて該HSCから赤血球系前駆体を得ること、及び
- 本発明のプロセスにおいて該赤血球系前駆体から赤血球を得ること、を含む。
【0183】
HSCは、患者の血液又は骨髄のサンプルから得られる。あるいは、HSCは、患者から得た分化体細胞の遺伝子リプログラミングによって得られるiPSCから取得される。
【0184】
HSCは、任意的に上述のように遺伝子組み換えすることができる。
【0185】
他の態様において、本発明は、
(i) HTERT、BMI1、c-MYC、l-MYC、及びMYBをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上の遺伝子、好ましくはHTERT及び/又はBMI1、より特に好ましくはHTERT及びBMI1、並びに
(ii) 好ましくはEPO-R、JAK2、STAT5P、BCL-XL、及びBCL-2をコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される、1つ以上のEPO-R/JAK2/STAT5/BCL-XL経路遺伝子、より特に好ましくはBCL-XL、並びに/又は、
(iii) 好ましくはGATA1、TAL1、KLF1、LDB1、LMO2、及びSCLをコードする遺伝子、並びにそれらの組合せからなる群より選択される1つ以上のCEN経路遺伝子、より特に好ましくはLMO2、を過剰発現するように遺伝子組み換えされたHSCにさらに関する。
【0186】
赤血球系前駆体を作製するためのプロセスに使用されるHSCに関わる実施形態は、この態様においても考慮される。
【0187】
好ましい実施形態において、HSCは、誘導的プロモーターの制御下においてHTERTをコードする遺伝子、及び構成的プロモーターの制御下においてBCL-XLをコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0188】
他の好ましい実施形態において、HSCは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下においてHTERT、BMI1、及びLMO2をコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0189】
他の好ましい実施形態では、HSCは、1つ以上の誘導的プロモーターの制御下においてHTERT及びBMI1をコードする遺伝子、及び構成的プロモーターの制御下においてBCL-XLをコードする遺伝子を過剰発現するように遺伝子組み換えされる。
【0190】
また、遺伝子組換えHSCは上述のような自殺遺伝子を含む、又は不死化させることができる。
【0191】
また、本発明は、特に上述の本発明のプロセスにおいて、好ましくはインビトロで赤血球系前駆体及び/又は赤血球を作製するための本発明における遺伝子組換えHSCの使用に関する。
【0192】
さらに他の態様において、本発明は、HSCの栄養要件に適応させ、特に造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させるとともに、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサー、及び任意的にHID経路アクチベーターを含む細胞培地に関する。
【0193】
赤血球系前駆体を作製するためのプロセスに使用される、グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサー、及び任意的にHID経路アクチベーターを含む培地に関する実施形態は、この態様においても考慮される。
【0194】
グルココルチコイドホルモン及びオートファジーインデューサーは本発明におけるプロセスについて上述のとおりである。好ましくは、グルココルチコイドホルモンはデキサメタゾンであり、及び/又はオートファジーインデューサーはSMER28であり、及び/又はHIF経路アクチベーターはDMOGである。
【0195】
造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させた細胞培地のベースは、HSC及び/又は赤血球系前駆体の要求を満たすように当業者に既知の任意のベースであってもよい。
【0196】
本明細書で使用するとき、「増殖」という用語は細胞の増殖を指す。「分化」という用語は、培養細胞による、初期に培地への播種に使用された細胞には存在しなかった特徴の取得を指す。この場合、この用語は、赤血球系前駆体の特徴の取得を指す。ゆえに、造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させた培地は、HSCの赤血球系前駆体への分化、並びにHSC及び赤血球系前駆体の増殖を可能にする培地である。この用語は、本明細書において赤血球系前駆体が赤血球となるとともに特に細胞の脱核に関与するプロセスを規定する「成熟」と混同しないようにすべきである。ゆえに、造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させた培地は、好ましくはこの成熟を誘発する任意の化合物を含まない。
【0197】
細胞培地のベースは、インスリン、トランスフェリン、幹細胞因子(SCF)、ヘパリン、IL-3、EPO、増殖因子、並びに/又は血清、血漿、血小板ライセート、及び/若しくは血清プールを添加した、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)又はHSCの栄養要求に適応させた同等の培地(例えばStemSpan SFEM(ステムセルテクノロジーズ)又はStemMACS HSC Expansion Media XF、ヒト(インビトロジェン))を含むことができる。培地に添加する化合物は、好ましくは組換え又は精製技術によって得られたヒト化合物である。これらの種々の化合物の濃度は、供給者の推奨又は技術常識に基づいて当業者によって容易に決定される。
【0198】
本明細書で使用するとき、「血清プール」という用語は、ウイルス減弱性のヒトAB血漿の混合物(100を超える異なる血漿の混合物であることが多い)を指す。これを行うために、輸血センターからのAB血漿を混合し、ウイルス減弱し、そして分取りする。そして、血清プールは新しいものが使用されるか、又は凍結することができる。
【0199】
本明細書で使用するとき、「血小板ライセート」という用語は、血小板濃縮物の溶解から得られる増殖因子が豊富である生成物を指す。これを行うために、輸血センターからの血小板濃縮物を混合後、溶解することができる。当業者に周知の種々の溶解方法が存在し、特に超音波溶解、溶媒及び/若しくは界面活性剤の使用、又は冷凍融解が存在する。血小板濃縮物は好ましくは冷凍融解によって溶解される。冷凍融解は、血小板を破壊させて、それらが含む増殖因子を血漿内に放出する、通常は2つのサイクルの凍結/回答サイクルからなる。任意的に、溶解の後、遠心分離及び/又は濾過を行うことができる。そして、血小板ライセートは新しいものが使用されるか、又は凍結することができる。
【0200】
好ましくは、本発明における培地のベースは、
- 約200μg/mL~約400μg/mL、好ましくは約300μg/mL~約350μg/mLの濃度、より好ましくは約330μg/mLの濃度のトランスフェリン、好ましくはヒトトランスフェリン、並びに/又は、
- 約1μg/mL~約50μg/mL、好ましくは約5μg/mL~約20μg/mLの濃度、より好ましくは約10μg/mLの濃度のインスリン、好ましくはヒトインスリン、並びに/又は、
- 約1%~約10%、好ましくは約3%~約7%の濃度、より好ましくは約5%の濃度の血清、血漿、若しくは血清プール、好ましくはヒトのもの、及び/若しくは約0.05%~約0.5%、好ましくは約0.1%~約0.5%の濃度、より好ましくは約0.3%の濃度の血小板ライセート、好ましくはヒト由来のもの、並びに/又は、
- 約0.5U/mL~約10U/mL、好ましくは約1U/mL~約5U/mLの濃度、より好ましくは約3U/mLの濃度のヘパリン、好ましくはヒトヘパリン、を添加した上述のようなIMDM又は同等の培地である。
【0201】
任意的に、特に造血株細胞の増殖及び/又は分化に適応させた培地では、培地はまた、
- 約1ng/mL~約20ng/mL、好ましくは約3ng/mL~約7ng/mLの濃度、より好ましくは約5ng/mLの濃度のIL-3、好ましくはヒトIL-3、
- 約10ng/mL~約200ng/mL、好ましくは約50ng/mL~約150ng/mLの濃度、より好ましくは約100ng/mLの濃度のSCF、好ましくはヒトのもの、及び/又は
- 約0.5IU/mL~約10IU/mL、好ましくは約1IU/mL~約5IU/mLの濃度、より好ましくは約2IU/mLの濃度のEPO、好ましくはヒトのもの、を添加することができる。
【0202】
特定の実施形態において、本発明における培地のベースは、好ましくは上述のようなIMDM又は同等の培地であり、トランスフェリン、インスリン、ヘパリン、及び、血清、血漿、血清プール、又は血小板ライセート、好ましくはトランスフェリン、インスリン、ヘパリン、及び、血清プール、又は血小板ライセート、より特に好ましくは、トランスフェリン、インスリン、ヘパリン、及び血小板ライセートを含む。これらの化合物は、好ましくは上述のような濃度で使用される。
【0203】
好ましい実施形態において、この培地は、好ましくは上述のような濃度の、IL-3、SCF、及びEPOをさらに含む。
【0204】
あるいは、この培地は、好ましくは上述のような濃度の、SCF及びEPOを含むことができる。
【0205】
特定の実施形態において、本発明における培地のベースは、
- 300μg/mL~350μg/mLの濃度のトランスフェリン、好ましくはヒトトランスフェリン、
- 5μg/mL~20μg/mLの濃度のインスリン、好ましくはヒトインスリン、
- 3%~7%の濃度の血清、血漿、若しくは血清プール、好ましくはヒトのもの、及び/又は0.1%~0.5%の濃度の血小板ライセート、好ましくはヒト由来のもの、並びに、
- 1U/mL~5U/mLの濃度のヘパリン、好ましくはヒトヘパリン、
並びに任意的に、
- 3ng/mL~7ng/mLの濃度のIL-3、好ましくはヒトIL-3、
- 50ng/mL~150ng/mLの濃度のSCF、好ましくはヒトのもの、及び/又は
- 1IU/mL~5IU/mLの濃度のEPO、好ましくはヒトのもの、を含む。
【0206】
本発明における培地は、このベースに加えて、(i)オートファジーインデューサー、好ましくはSMER-28、(ii)グルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、及び任意的に(iii)HIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含む。
【0207】
特定の実施形態において、本発明における培地は、このベースに加えて、
- 0.001mM~10mM、好ましくは0.002mM~1mM、より好ましくは0.005mM~0.5mM、特に好ましくは0.01mM~0.1mMの濃度のグルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、及び、
- 0.1μM~100μM、好ましくは0.5μM~50μM、より好ましくは1μM~30μM、特に好ましくは2μM~30μMの濃度のオートファジーインデューサー、好ましくはSMER-28、及び、
- 任意的に、1μM~1000μM、好ましくは10μM~500μM、より好ましくは50μM~400μM、特に好ましくは75μM~350μMの濃度のHIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含む。
【0208】
特定の実施形態において、本発明における培地は、0.005mM~0.5mMのグルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、0.5μM~50μMのオートファジーインデューサー、好ましくはSMER-28、及び任意的に50μM~400μMのHIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含む。
【0209】
他の実施形態において、本発明における培地は、0.01mM~0.1mMのグルココルチコイドホルモン、好ましくはデキサメタゾン、2μM~30μMのオートファジーインデューサー、好ましくはSMER-28、及び任意的に75μM~350μMのHIF経路アクチベーター、好ましくはDMOGを含む。
【0210】
好ましくは、本発明における培地は、非ヒト由来の血清(例えばウシ胎仔血清)、トロンボポエチン、血管内皮増殖因子(VEGF)、IL-6、骨形成タンパク質(BMP)、FLT-リガンド、及び/又はヒドロコルチゾンを含まない。
【0211】
また、本発明は、特に上述の本発明のプロセスにおける、より具体的にはHSCの赤血球系前駆体への分化を促進、及び/又は赤血球系前駆体を増幅するように、赤血球系前駆体を作製及び/若しくは増幅する、並びに/又は赤血球を作製するための本発明における上述のような細胞培地の使用に関する。
【0212】
他の態様において、本発明はキットにさらに関し、該キットは、
- 本発明における細胞培地、及び/又は
- 本発明における遺伝子組換えHSC若しくは本発明における遺伝子組換えHSCを得るための遺伝子構築物、及び
- 任意的に、そうしたキットを使用するための指示を含む指導書を含む。
【0213】
また、本発明は、特に上述の本発明のプロセスにおいて、赤血球系前駆体及び/又は赤血球を作製するための本発明におけるキットの使用に関する。
【0214】
刊行物の記事若しくは要約、公開特許出願、登録特許、又は他の任意の引用例を含む、本願に記載のすべての引用例は、引用例に記載のあらゆる結果、表、図面、及び文言を含んで、言及することで本明細書に全体的に援用される。
【0215】
「含む」、「有する」、「包含する」、及び「からなる」という用語は、異なる意味を有するが、本発明の記載において相互置換可能である。
【0216】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の例示的で非限定的な実施例を閲覧することでより明らかになる。
【実施例
【0217】
[実施例1:臍帯血及び細胞吸着由来HSCからの赤血球系前駆体の増幅]
〔材料と方法〕
<使用培地>
トランスフェリン(330μg/mL)、インスリン(10μg/mL)、5%AB血清プール(EFS)、及びヘパリン(3U/mL)を添加したIMDM(バイオクロム)を使用した。0日目から7日目まで、培地にIL-3(5ng/mL)、SCF(100ng/mL)、及びEPO(2IU/mL)を添加した。7日目から赤芽球前駆体の増幅終了まで、培地にSCF(100ng/mL)及びEPO(2IU/mL)を添加した。
【0218】
<HSC>
ミルテニーより提供されるプロトコルに従ってCD34+ビーズを使用して磁気分離後に、HSCを取得した(ミルテニーバイオテックのCD34 MicroBeadKit, human参照)。
【0219】
<細胞メンテナンス>
0日目に、細胞を10,000cells/mLの濃度で播種し、4日目に、細胞を新しい培地に1/5希釈し、7日目に、細胞を洗浄して、新しい培地に100,000cells/mLで培養した。11日目に、細胞を100,000cells/mLに希釈し、新しい培地に播種した。14日目に、細胞を新しい培地に300,000cells/mLで再播種した。18日目に、細胞を0.5百万/mLに希釈した。21日目以降、細胞を各メンテナンス日(すなわち週2回)において計画的に百万/mLに戻した。
【0220】
<培養プロトコル>
プロトコル1:0日目から11日目まで、細胞を基本培地にて培養する。11日目に、使用する培地に253.9μMのDMOGを添加する。14日目に、333μMのDMOG、0.02mMのデキサメタゾン(DEX)、及び30μMのSMER28を使用する培地に添加する。18日目に使用する培地に、0.09mMのDEX及び20.1μMのSMER28を添加する。21日目に、0.10mMのDEX及び24.5μMのSMER28を、使用する培地に添加し、0.10mMのDEX及び17.4μMのSMER28を25日目のものに添加した。最後に、28日目から、培地に0.10mMのDEX及び13.8μMのSMER28を計画的に添加した。
【0221】
プロトコル2:0日目から培養終了まで、培地に0.1mMのDEX及び2.27μMのSMER28を添加する。
【0222】
プロトコル3:0日目から培養終了まで、培地に0.1mMのDEXを添加する。
【0223】
プロトコル4:このプロトコルはコントロールプロトコルであり、任意の因子を添加せずに基本培地で行われた。
【0224】
<フローサイトメトリー>
100,000細胞のサンプルを採取、洗浄して、供給者の指示に従ってCD235a及びCD117抗体に暴露させる。室温及び暗所において30分後、細胞をPBSで2回洗浄する。そして、細胞をサイトメトリー解析に対して準備状態になる。
【0225】
CD235a抗体は、成熟赤血球関与を示すグリコホリンAを特異的に認識する。
【0226】
CD117抗体は、細胞の未熟性、系統、及び自己複製能力を示す受容体c-キット(すなわち幹細胞因子受容体)を特異的に認識する。
【0227】
<細胞カウント>
細胞をトリパンブルー溶液において1/10に希釈し、必要なら細胞死亡率を評価できるようにする。
【0228】
〔結果〕
【表1】
表1は、種々のプロトコルによる培養後の細胞カウントを示す。
プロトコル1及び2では、赤芽球が対数増幅された。また、プロトコル1及び2で得られた増幅は、デキサメタゾン単独で得られたものより実質的に大きい(表1参照)。また、プロトコル1及び2が細胞吸着又は臍帯血由来のCD34+細胞から赤血球系前駆体を増幅させるということは注目すべきである。
【0229】
C-キットマーカーは、この条件で、コントロール条件よりも長く持続する(図1参照)。この膜マーカーは細胞の若さ及び増殖能力を示す。
【0230】
この作業は、本発明の培地におけるヒト造血幹細胞の培養により、
- 全赤血球関与の細胞、
- 赤血球系前駆体の対数的濃縮及び増幅、を得ることができるということを示した。
【0231】
特に、増幅を最大78日持続させることができる。
【0232】
[実施例2:HTERT、BMI1を誘導的に過剰発現し、BCL-XLを構成的に過剰発現する、又は、HTERT、BMI1、及びLMO2を誘導的に過剰発現する、細胞吸着由来の改変HSCからの赤血球系前駆体の増幅]
〔材料と方法〕
<使用培地>
トランスフェリン(330μg/mL)、インスリン(10μg/mL)、5%AB血清プール(EFS)、及びヘパリン(3U/mL)を添加したIMDM(バイオクロム)を使用した。0日目から7日目まで、培地にIL-3(5ng/mL)、SCF(100ng/mL)、及びEPO(2IU/mL)を添加した。7日目から赤芽球前駆体の増幅終了まで、培地にSCF(100ng/mL)及びEPO(2IU/mL)を添加した。
【0233】
<HSC>
ミルテニーCD34+ビーズを使用して磁気分離後に、HSCを細胞吸着から取得した。
【0234】
<細胞メンテナンス>
0日目に、HTERT、BMI1レンチウイルス上清及びBCL-XLレトロウイルス上清、又はHTERT、BMI1レンチウイルス上清及LMO2レンチウイルス上清で2つの連続感染のため、細胞を100,000cells/mLの濃度で播種し、3日目に、細胞を3回洗浄し、10,000cells/mLの濃度で再播種し、4日目に、細胞を新しい培地において1/5に希釈した。 7日目に、細胞を洗浄し、新しい培地において100,000cells/mLで培養した。11日目に、細胞を100,000cells/mLに希釈し、新しい培地に播種した。14日目に、細胞を新しい培地に300,000cells/mLで再播種した。18日目に、細胞を0.5百万/mLに希釈した。21日目以降、細胞を各メンテナンス日(すなわち週2回)において計画的に百万/mLに戻した。
【0235】
<培養プロトコル>
プロトコル1:0日目から11日目まで、細胞を基本培地にて培養する。11日目に、使用する培地に253.9μMのDMOGを添加する。14日目に、333μMのDMOG、0.02mMのデキサメタゾン(DEX)、及び30μMのSMER28を使用する培地に添加する。18日目に使用する培地に、0.09mMのDEX及び20.1μMのSMER28を添加する。21日目に、0.10mMのDEX及び24.5μMのSMER28を、使用する培地に添加し、0.10mMのDEX及び17.4μMのSMER28を25日目に添加した。最後に、28日目から、培地に0.10mMのDEX及び13.8μMのSMER28を計画的に添加した。
【0236】
プロトコル2:0日目から培養終了まで、培地に0.1mMのDEX及び2.27μMのSMER28を添加する。
【0237】
プロトコル3:0日目から培養終了まで、培地に0.1mMのDEXを添加する。
【0238】
プロトコル4:このプロトコルはコントロールプロトコルであり、任意の因子を添加せずに基本培地で行われた。
【0239】
〔結果〕
【表2】
表2は、種々のプロトコルによる培養後65日目の細胞カウントを示す。
プロトコル1及び2では、両方の改変HSCモデルで赤芽球が対数増幅される(表2参照)。また、プロトコル1及び2で得られた増幅は、デキサメタゾン単独で得られたものより実質的に大きい。
【0240】
C-キットマーカーは、この条件で、コントロールよりも長く持続する。この膜マーカーは細胞の若さ及び増殖能力を示す(図2及び図3参照)。プロトコル2では、両方のタイプの改変HSCで増幅が優れている。
【0241】
これらの増幅は、改変細胞が(臍帯血のCD34+と比較して)その小さい増幅率で知られる細胞吸着由来のCD34細胞であることから、格別なものである。
【0242】
これらの改変細胞プロトコルにより、細胞吸着由来のCD34細胞は、臍帯血由来のCD34細胞より大きい増幅能力を得る。

図1
図2
図3