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特許71626281種類以上の蛍光シグナルをリアルタイムで検出するポリメラーゼ連鎖反応装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】1種類以上の蛍光シグナルをリアルタイムで検出するポリメラーゼ連鎖反応装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020034838
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2020198869
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】108120548
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】516067494
【氏名又は名称】クレド ダイアグノスティックス バイオメディカル プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 盈達
(72)【発明者】
【氏名】歐 育誠
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 俊▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 瑜▲うぇん▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 翰毅
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521072(JP,A)
【文献】国際公開第2017/112911(WO,A1)
【文献】特表2009-531064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0111287(US,A1)
【文献】特開2016-168043(JP,A)
【文献】特開2016-165276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00~3/10
C12Q 1/00~3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬容器における1種類以上の蛍光シグナルをリアルタイムで検出し、且つ定量するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置であって、前記試薬容器は、反応物、及び1種類以上の蛍光プローブ又は蛍光染料を含む反応試薬を含み、前記PCR装置は、
前記試薬容器を収容する試薬容器収容機構と、
前記試薬容器収容機構の一方側に位置しており、前記試薬容器に入射し、且つ蛍光を生成するように前記1種類以上の蛍光プローブ又は前記蛍光染料を励起するための光線を発する光源と、
前記試薬容器収容機構の一方側に位置しており、1種類以上の前記蛍光の蛍光シグナルを検出するように設けられる分光計と、
前記1種類以上の蛍光シグナルを定量するためのアルゴリズムがプリロードされており、前記試薬容器収容機構の昇温と降温の周期、及び前記光源のオン/オフの時点を制御する処理部と、を含み、
(イ)前記試薬容器収容機構は、第1凹面を有する第1基板、第2凹面を有する第2基板、第1導電性部材、及び第2導電性部材により構成され、前記第1導電性部材及び前記第2導電性部材は、前記第1基板の2つの異なる端部に設けられ、且つ前記第1基板と前記第2基板により挟持されており、前記第1凹面と前記第2凹面とは、前記試薬容器が収容される空間を形成するように対向しており、前記第1基板及び前記第2基板は耐熱性物質により構成され、前記耐熱性物質は金属又は非金属であり、或いは、
(ロ)前記試薬容器収容機構は、第基板、第基板及び絶縁シートにより構成され、前記第基板及び前記第基板は、耐熱性物質により構成され、所定の形状に湾曲され、前記耐熱性物質は金属であり、前記第基板と前記第基板とは鏡面対称になるように組み合わせられ、前記絶縁シートは、前記第基板と前記第基板との間に配置されている、PCR装置。
【請求項2】
前記試薬容器収容機構が通電により加熱を開始し、前記試薬容器が昇温し、
前記処理部が前記試薬容器収容機構の温度の第1温度範囲と第2温度範囲との間のサイクルを制御し、前記反応物と前記反応試薬とがPCRを行い、
前記分光計により検出された前記1種類以上の蛍光シグナルが前記処理部に伝送されて解析される、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項3】
放熱部と、
前記試薬容器収容機構の一方側に位置しており、前記試薬容器収容機構の温度を測定する温度センサと、をさらに含み、
前記試薬容器収容機構の温度が前記第1温度範囲を超えたと前記温度センサにより検出された場合、前記温度センサが前記処理部にフィードバックし、降温を行うように前記処理部が前記放熱部に第1信号を送信し、
前記試薬容器収容機構の温度が前記第2温度範囲よりも低いと前記温度センサにより検出された場合、前記温度センサが前記処理部に情報をフィードバックし、通電により加熱を開始するように前記処理部が前記試薬容器収容機構に第2信号を送信する、請求項2に記載のPCR装置。
【請求項4】
記試薬容器収容機構の温度は、リアルタイムで検出される、請求項3に記載のPCR装置。
【請求項5】
前記放熱部は、1つ以上のファン、1つ以上の熱電冷却器及びその組み合わせにより構成された群から選択されたものである、請求項3に記載のPCR装置。
【請求項6】
前記試薬容器収容機構と前記光源との間に位置しており、前記光線を前記試薬容器に導き、且つ蛍光を生成するように前記1種類以上の蛍光プローブ又は前記蛍光染料を励起する第1光学素子、をさらに含み、
前記第1光学素子及び前記光源は、前記試薬容器収容機構の下方に順次配置されている、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項7】
前記試薬容器収容機構と前記分光計との間に位置しており、蛍光を収集し、且つ前記蛍光を前記分光計に導く第2光学素子、をさらに含み、
前記第2光学素子及び前記分光計は、同一の水平面に位置する、請求項に記載のPCR装置。
【請求項8】
前記第1光学素子及び前記第2光学素子のそれぞれは、両凸レンズ、平凸レンズ、二重レンズ、非球面レンズ、色消しレンズ、収差消しレンズ、フレネルレンズ(Fresnel lens)、平凹レンズ、両凹レンズ、正/負メニスカスレンズ、アキシコン、屈折率分布型レンズ、マイクロレンズアレイ、レンチキュラーレンズ、回折光学素子、導波路素子(waveguide elements)、ホログラフィック光学素子、鏡、繊維及びプリズムにより構成された群から選択されたものである、請求項に記載のPCR装置。
【請求項9】
前記第1導電性部材及び前記第2導電性部材は、金属シート又はプリント回路基板(printed circuit boards:PCBs)である、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項10】
前記第1導電性部材及び前記第2導電性部材が金属シートである場合、前記第1基板及び前記第2基板のそれぞれの表層は導電性フィルムをさらに含み、前記導電性フィルムは、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、クロム、チタン、タンタル又は銅により構成された群から選択された材質により形成される、請求項9に記載のPCR装置。
【請求項11】
前記第1導電性部材及び前記第2導電性部材がプリント回路基板(printed circuit boards:PCBs)である場合、前記プリント回路基板は1つ以上の電熱素子をさらに含み、前記電熱素子は抵抗器又はPCB回路配線である、請求項9に記載のPCR装置。
【請求項12】
前記第1基板と前記第2基板とは、前記第1凹面と前記第2凹面とが水平面に略垂直な方向に結合面に沿って互いに結合して前記試薬容器収容機構を形成するように、互いに平行に配置されている、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項13】
前記第1基板は、蛍光シグナル出口窓を有し、
前記第1基板は、前記第2基板と前記分光計との間に位置する、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項14】
第1基板及び前記第2基板は、1つ以上の放熱孔を有し、
前記耐熱性物質は、金属であり、アルミニウム、、アルミニウム銅合金及び他の耐熱性金属により構成された群から選択されたものである、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項15】
前記耐熱性物質は、金属であり、
前記耐熱性物質の表層は、耐熱絶縁性物質を含み、
前記耐熱絶縁性物質は、酸化アルミニウム、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)及びポリイミド(polyimide)により構成された群から選択されたものである、請求項14に記載のPCR装置。
【請求項16】
前記耐熱性物質は、非金属であり、ガラス、プラスチック及びセラミックにより構成された群から選択されたものである、請求項に記載のPCR装置。
【請求項17】
前記アルゴリズムは、最小二乗法を用いるアルゴリズムである、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項18】
前記光源は、LED(light emitting diode)、レーザ光源、異なる波長を有する複数のLED、異なる波長を有する複数のレーザ光源及びその組み合わせにより構成された群から選択されたものである、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項19】
前記処理部は、前記光源が所定の時間間隔でオン又はオフになるように前記光源を制御し、
前記分光計は、前記光源のオン期間に同期して前記1種類以上の蛍光シグナルを検出する、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項20】
前記分光計の検出範囲は、340nm~850nmである、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記試薬容器収容機構と前記分光計との間に位置する光フィルタ、をさらに含み、
前記光フィルタは、前記1種類以上の蛍光シグナルの範囲を超えた波長を有する光を除去する、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項22】
340nm~850nmの波長を有する前記1種類以上の蛍光プローブ又は前記蛍光染料は、FAM、VIC、HEX、ROX、CY3、CY5、CY5.5、JOE、TET、SYBR、Texas Red、TAMRA、NED、Quasar705、Alexa488、Alexa546、Alexa594、Alexa633、Alexa643又はAlexa680である、請求項1に記載のPCR装置。
【請求項23】
前記第1温度範囲は85℃~130℃であり、
前記第2温度範囲は50℃~75℃である、請求項2に記載のPCR装置。
【請求項24】
前記処理部は、前記第1温度範囲及び前記第2温度範囲とは異なる第3温度範囲を有するように構成され
前記処理部は、前記試薬容器収容機構の温度を前記第1温度範囲、前記第2温度範囲及び前記第3温度範囲で繰り返し昇温/降温させるように制御する、請求項2に記載のPCR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリメラーゼ連鎖反応装置に関する。より具体的には、本発明は、1種類以上の蛍光シグナルをリアルタイムで定量するポリメラーゼ連鎖反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction。以下はPCRと略称する)はDNAを迅速に増幅する技術であり、その原理及び主な動作ステップは下記の(a)~(c)である。(a)変性(denature):90~95℃の育成(incubation)で二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離し、一本鎖DNAを複製のテンプレートとする。(b)プライマーアニーリング(primer annealing):温度が適切な温度まで低下すると、プライマーが正しい標的遺伝子位置に付着する。(c)プライマー伸長(primer extension):反応温度を72℃に調整し、DNAポリメラーゼがデオキシリボヌクレオチド三リン酸(deoxy-ribonucleotide triphosphate。以下はdNTPsと略称する)をプライマーに順次付着させて、もう1つの一本鎖の新たなDNAフラグメントを合成する。
【0003】
変性、プライマーアニーリング、及びプライマー伸長という3つのステップにより核酸の増幅を繰り返し、3つのステップの作動を1回だけ繰り返すと、標的核酸の数は2倍増加することができ、3つのステップの作動を40回繰り返すと、標的核酸の数は大体10倍増加することができ、PCRは大量の標的遺伝子フラグメントを取得することができる。このため、現在、PCR技術は、臨床的診断に広く使われている分子診断技術の1つとして、遺伝病の診断、病原体診断、癌腫瘍の診断予測評価、及び基礎的研究などのプロジェクトに適用されてもよい。
【0004】
近年、技術発展のニーズに応じて、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time polymerase chain reaction)が開発され、該技術は定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Quantitative real-time polymerase chain reaction。Q-PCRと略称する)とも称される(本明細書では全てreal-time PCRと称される)。Real-time PCR及び伝統的なPCRは、何れも熱のサイクルのステップを用いて標的遺伝子の微量のDNAを増幅することで増加の目的を達成するが、両者の相違点として、Real-time PCRは、PCR反応において非固有の蛍光物質又は固有の蛍光プローブを用い、毎回のPCR増幅のサイクルの後に、標的遺伝子DNAを増加させると共に蛍光シグナルを生成し、生成物の蛍光シグナルを検出、記録し、PCR反応が完了した後に、サイクル数(cycle number)及び蛍光シグナルを用いてグラフを作成することで、PCR反応における毎回のサイクルの生成物の状況を完全に表す反応曲線グラフを取得することができ、内蔵されたプログラムを用いてリアルタイム定量結果を解析することができる。
【0005】
SYBR Green Iは、一般的に用いられる非固有の蛍光染料であり、DNAの副溝(minor groove)と結合して蛍光を放出するため、PCRプロセスでは各サイクルのプライマー伸長のステップが完了した後に蛍光強度を測定すれば、各サイクルにおいて生成されたPCR産物を知ることができる。しかし、SYBR Green Iは、全ての二本鎖DNAと結合し、特異的な産物と非特異的な産物とを区別することができないため、産物に対する固有性が低く、偽陽性の検出結果を得る場合がある。
【0006】
TaqMan probeは、一般的に用いられる固有の蛍光プローブであり、標的遺伝子配列に対して固有性を有し、且つオリゴヌクレオチドの両端に異なる蛍光物質がそれぞれ標識された人工合成オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)であり、5’末端の分子はレポーター(reporter)と称され、3’末端の分子はクエンチャー(quencher)と称される。固有のプローブが自由な状態にある場合、レポーターとクエンチャーとが相互作用により互いに蛍光を遮蔽するため、蛍光は生成されない。一方、PCR産物が生成されると、該固有のプローブが水により分解した後に、クエンチャーはレポーターを遮蔽できなくなるため、レポーターの蛍光を検出することができる。この固有のプローブは、標的遺伝子に対して特異性を有する唯一のオリゴヌクレオチドであるため、他の非特異的な産物と結合しない。現在、TaqManプローブと組み合わせて使用される蛍光染料は、FAM、VIC、HEX、ROX、CY3、CY5、CY5.5、JOE、TET、Texas Red、TAMRA、NED、Quasar705、Alexa488、Alexa546、Alexa594、Alexa633、Alexa643、Alexa680を含む。
【0007】
これらの蛍光染料は、それぞれ最適な吸収波長範囲及び散乱波長範囲を有するが、上記の蛍光染料間の最適な吸収波長範囲及び散乱波長範囲は重複している。このため、同一の検査対象について同一の試験管で2つ以上の異なる標的遺伝子を同時に定量するために2つ以上の蛍光染料を用いる場合、実務上、高いレベルのシグナルクロストーク(crosstalk)が生じにくい蛍光染料を選択して組み合わせて使用し、伝統的な方法を用いて該取得されたデータを解析し、結果を早期判定するように区別可能な蛍光シグナルを取得する。他の方法としては、蛍光シグナルのクロストークによりデータを解析できないことを回避するために、一度に1つの試験管で該検査対象の1つの標的遺伝子を測定し、複数の試験管で同一の検査対象の異なる標的遺伝子を同時に測定し、その後に該検査対象の複数の検査標的の検出結果を合併する。前者の利点は、複数の標的遺伝子を検査しても、同一の試験管で行うことができ、消耗品の無駄が少なくなる。一方、その欠点は、蛍光シグナルのソースが複数あるため、シグナルクロストークの現象が生じることによりデータ解析のエラーが発生し、或いはシグナルクロストークのある部分の所在する標的遺伝子を有効に特定することができず、実験結果の誤判定に繋がりやすくなる。後者は、一度に1つの試験管で1つの標的遺伝子のみを測定して複数の測定結果を組み合わせて判断するため、シグナルクロストークの問題を効果的に解決することができ、シグナル判定の精度が前者よりも遥かに高いが、多くの消耗品を消費する可能性があり、必要な検査対象の量も多い。現在、実務上同一の検査対象について複数の標的遺伝子を同時に定量する場合、依然として後者の方法を採用する場合が多い。
【0008】
現在、実験室でよく使用されるreal-time PCR装置の殆どは、温度制御金属をヒーターとして用い、その急速な加熱及び冷却の特性を用いて、昇温と降温の操作を繰り返し行い、変性、プライマーアニーリング、及びプライマー伸長の3つのステップの反応温度を達成する。また、プラスチックからなる試薬容器を加熱することで、エネルギーが試験管内の試薬及び反応物(その中には標的遺伝子のフラグメントが含まれる)に伝達され、標的遺伝子シグナルの増幅及び蛍光シグナルの検出という効果を達成する。しかし、このような温度制御金属を用いて昇温と降温を繰り返し行う装置は、通常体積が大きく、温度を効果的に制御するために、温度制御システム全体が大きな体積及び比熱比を有する必要があり、従来の装置の設計により、殆どの時間が温度制御金属の反応温度への昇温/降温を待つために使用され、例えば従来の試験に必要なサイクル数が約30~35回である場合、従来の装置に必要な反応時間は約2~3時間であるため、反応時間を短縮することは困難であり、短期間で結果を取得するための試験に適用することはできない。
【0009】
従来の装置の問題を改善するために、研究者はマイクロ流体チップ技術に適用するreal-time PCRを開発した。この技術の利点は、マイクロ流体チップが試薬又は反応物の体積と全体の比熱比を低減できるため、反応時間及び試薬の消費量を削減できることである。しかし、この技術は依然として3つの異なる温度範囲において昇温と降温を行う必要があるため、昇温と降温の時間が極めて長いという問題が依然として存在している。
【0010】
別の開発されたreal-time PCRマイクロ流体チップは、ヒーターによる繰り返される昇温と降温の設定を有しておらず、特別に設計された駆動力を用いて流路内の反応物及び試薬を加圧することで、反応物及び試薬が特別に加工、設計された3つの異なる温度領域を有する流路内を流れ、標的遺伝子の増幅及びシグナルの検出という効果を達成する。この技術を用いてreal-time PCRを行う場合は、昇温/降温による時間の浪費を回避できるが、この技術のシステムは複雑な加圧システム及び液圧(hydraulic)駆動システムを含む必要がある。該液圧駆動システムが液体の体積及び粘度に関連するため、システム及び機器の製造、制御上の困難性に繋がるので、この技術の発展が間接的に制限されている。
【0011】
また、従来装置の高い静電容量比及び時間の浪費という問題を解決するために、研究者が熱対流サイクルを用いてreal-time PCRを行うという技術を開発した。このような技術は、2つの温度の異なる熱源を用いて、試薬及び反応物を含む密閉型の試験管の上端及び下端を加熱する。上端と下端の温度差により試験管内の試薬及び反応物が異なる温度領域を流れるように駆動することで該試薬及び反応物がreal-time PCR反応を行う。この技術は、加熱装置の繰り返しの昇温降温による時間の浪費という問題を解決し、且つ外部加圧という方法により試験管内の液圧の循環流動を駆動する必要はない。ヒーターが殆どブロック状の金属であり、且つ比熱比を低減できないため、装置の体積を小さくすることができない。また、複雑な温度制御メカニズム及び該金属加熱システムによる製造コストが依然として高い。
【0012】
同一の検査対象について複数の標的遺伝子又は標的を定量する場合、蛍光プローブ及び装置の組み合わせの上記の問題はより深刻になる。言い換えれば、信頼性の高い蛍光シグナル値を取得するには、実務上一度に1つの試験管で1つの標的遺伝子のみを測定し、複数の測定結果を組み合わせて判断する。この結果、各検査対象の測定について複数の試験管で測定する必要があり、上記の試験室で通常使われる装置、又は異なる温度範囲で昇温と降温を繰り返し行うマイクロ流体チップを利用する場合、測定時間が長いという問題が依然として存在し、消耗品の無駄及び必要な検査対象の量が多いという問題が存在する。流路を特別に設計したマイクロ流体チップ又は熱サイクルを用いてreal-time PCR検査を行うための装置で検査を行う場合であっても、測定時間が長いという問題を改善することはできるが、消耗品の無駄及び必要な検査対象の量が多いという問題を依然として解消することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の問題を鑑み、本発明は、従来の装置のサイズが大き過ぎるという問題、及び昇温と降温を繰り返し行うことによる時間の無駄を解決することができると共に、消耗品の無駄、及び必要な検査対象の量が多いという問題を解決することができる、ポリメラーゼ連鎖反応装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、1種類以上の蛍光シグナルをリアルタイムで検出するポリメラーゼ連鎖反応装置を提供する。該装置は耐熱性物質からなる試薬容器収容機構(又は部材)を含み、該耐熱性物質の表層は、耐熱絶縁性物質、若しくは導電性物質(conductive material)を塗布することで形成された導電性フィルムを含み、又は両者を含んでもよい。該試薬容器収容機構は、操作の利便性のために、試薬容器の外部輪郭及び温度制御条件に応じて異なる構成設計を有してもよいし、回路基板又は導電金属部材などの他の導電性部材を追加的に設けてもよい。該耐熱性物質は、金属又は非金属であってもよい。耐熱性物質は、金属である場合、アルミニウム、銅、その合金又は他の耐熱性金属であってもよい。耐熱性物質は、非金属である場合、ガラス、プラスチック又はセラミックであってもよい。耐熱性物質が金属である場合、該金属には酸化アルミニウム、ポリテトラフルオロエチレン、又はポリイミド(polyimide)などの耐熱絶縁性物質が塗布されてもよい。
【0015】
耐熱材料が金属であるか否かにかかわらず、特定の抵抗値を提供するために表層に導電性フィルムを塗布するか否かは、試薬容器収容機構の加熱機構の設計に依存する。該加熱機構が金属材料の導電性物質のみを含むように設計され、昇温のための他の加熱部材を有しない場合、本発明に係る装置は、耐熱性物質の表層に導電性フィルムを塗布する。該導電性フィルムが所定の抵抗値を有するため、該加熱機構が電流を受信した場合に昇温、加熱を開始してもよい。一方、該加熱機構には電熱部、例えば電熱素子が半田付された回路基板が含まれる場合、通電した後に試薬容器収容機構の加熱、昇温を開始することができるため、該耐熱性物質に導電性フィルムをさらに塗布する必要はない。本発明の導電性物質は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、クロム、チタン、タンタル又は銅であってもよく、本発明の電熱素子は、抵抗器又は回路配線(PCB(printed circuit board) layout)であってもよい。本発明に係る加熱機構の設計により、加熱機構の体積を大幅に低減することができ、従来のPCR装置に比べて、より多くの体積の利点及び派生性を有する。
【0016】
試薬容器収容機構と試薬容器とが接触する部分には少なくとも1つの温度センサが設けられ、その位置及び数は、試薬容器を試薬容器収容機構に実際に置く際に反応に影響を与えず、且つ温度の変化を検出しやすい位置に応じて決定されてもよく、温度センサは該部分の温度を監視、報告するために用いられる。
【0017】
本発明は、電力供給部、放熱部、及び処理部をさらに含む。電力供給部は、試薬容器収容機構を昇温/降温させるための電力、及び装置全体に必要な電力のための電力を供給する。放熱部はシステムの降温のために用いられる。処理部は1種類以上の蛍光シグナルを定量、解析するためのアルゴリズムがプリロードされており、該アルゴリズムは最小二乗法を用いてパラメータを設定するアルゴリズムであってもよい。
【0018】
該処理部は、蛍光シグナルの解析に加えて、電力供給部の試薬容器収容機構の昇温、放熱部の起動、及びシステム光源のオン/オフのために電力を供給する時点を制御するために用いられてもよい。電力供給部は試薬容器収容機構に電気的に接続され、より具体的には、電力供給部の接点は試薬容器収容機構の表層の導電性フィルムに電気的に接続され、或いは試薬容器収容機構の他の電熱装置に電気的に接続されてもよい。電力供給部による電力供給が開始されると、試薬容器収容機構の昇温が開始され、所定温度に加熱され、この際に、試薬容器収容機構の温度センサが温度を検出し、処理部にフィードバックし、試薬容器収容機構の温度がシステムにより予め設定された最高温度に所定の期間内で維持したと温度センサにより検出された場合、所定の期間内で放熱部を起動し、システムにより予め設定された低温温度範囲に降温するように降温を開始する。放熱部の取り付け又は試薬容器収容機構に対する位置は限定されず、装置の温度を迅速、且つ効果的に下げることができればよい。本発明の温度設定によると、試薬容器収容機構の昇温の温度範囲は85℃~130℃であってもよく、試薬容器収容機構の低温(降温)の温度範囲は50℃~75℃であってもよい。
【0019】
本発明の好適な実施例では、放熱部はファンであってもよく、降温を迅速、且つ効果的に行うという効果を達成するために、熱電冷却器(TE cooler)又は1つ以上のファンを追加して放熱部と組み合わせて使用してもよい。また、放熱効果を加速するために、試薬容器収容機構の耐熱性物質は1つ以上の貫通した放熱孔を含んでもよい。
【0020】
本発明に係る装置は、少なくとも1つの光源、及び分光計を備える。光源は、蛍光染料又は蛍光プローブを励起し、検出可能な蛍光を生成するために用いられ、本発明に係る装置は、波長が異なる複数の励起光源に統合されてもよい。光源から発せられた光線は、特定の角度で光励起レンズを介して試薬容器に射出し、蛍光物質を励起して蛍光を生成することができる。該生成された蛍光は、蛍光出口を介して光検出レンズを通過した後に分光計に入る。該分光計は、該蛍光をスペクトルの形の蛍光シグナル(fluorescent signal in spectrum format)に変換するように処理し、解析のための処理部に該シグナルを送信する。本発明に用いられる光源は、LED(light emitting diode)、レーザ、又は蛍光染料若しくは蛍光プローブの波長に対応する波長を有する他の光源を含み、これらの光源も本発明に用いられてもよい。本発明に用いられる光励起レンズ及び光検出レンズは、両凸レンズ、平凸レンズ、二重レンズ、非球面レンズ、色消しレンズ、収差消しレンズ、フレネルレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、正/負メニスカスレンズ、アキシコン、屈折率分布型レンズ、マイクロレンズアレイ、レンチキュラーレンズ、導波路素子(waveguide elements)、回折光学素子、ホログラフィック光学素子、又は上記の各種のものの組み合わせであってもよい。処理部は、光源のオン/オフの時間を制御してもよいし、分光計が光源のオンの時に蛍光シグナルの検出を開始するか否かを制御してもよい。
【0021】
本発明に係る装置では、光源、分光計、光励起レンズ、光検出レンズ及び試薬容器収容機構の配置方式が特に限定されず、基本的には、光源及びその光線の射出経路、並びに光励起レンズが試薬容器収容機構の一方側に位置し、且つ光源から発せられた光が光励起レンズを介して試薬容器に導かれて試薬内の蛍光染料又は蛍光プローブを効果的に励起すればよい。また、該生成された蛍光は光検出レンズを介して分光計に伝送され、分光計により処理された後のスペクトルの形の蛍光シグナルは関連信号を解析するために処理部に送信される。本発明の好適な実施例では、光源及び光励起レンズは試薬容器収容機構の鉛直方向の下方に位置し、光検出レンズ及び分光計は仮想の直線となるように配置され、該直線は該光源及び光励起レンズにより形成された仮想の直線と垂直する。本発明の好適な実施例では、本発明に係る装置の操作を容易にするために、試薬容器収容機構には、蛍光が射出される経路に蛍光出口が設けられている。
【0022】
本発明に係る装置では、分光計の検出可能な蛍光シグナルの範囲は340nm~850nmである。本発明で使用可能な蛍光染料又は蛍光プローブの発光スペクトル(Emission Wavelength)も340nm~850nmであり、FAM、VIC、HEX、ROX、CY3、CY5、CY5.5、JOE、TET、SYBR、Texas Red、TAMRA、NED、Quasar705、Alexa488、Alexa545、Alexa594、Alexa633、Alexa643、Alexa680を含むが、それらに限定されない。340nm~850nmの発光スペクトルを有する他の蛍光染料も本発明に適用されてもよい。
【0023】
本発明に係る装置は、同一の試薬容器において複数の標的遺伝子又は標的を検出することができ、即ち同一の試薬容器に1種類以上の蛍光染料又は蛍光プローブを入れてreal-time PCRを行い、毎回の反応の蛍光シグナルを収集し、処理部にプリロードされたアルゴリズムにより蛍光シグナルを解析し、複数の標的遺伝子又は標的を定性、定量するという効果を達成することができる。1種類以上の蛍光染料又は蛍光プローブを入れると、これらの蛍光シグナルの間ではシグナルクロストークが生じる。従って、同一の試薬容器で2種類以上の蛍光シグナルを効果的にリアルタイムで検出、識別するために、まず使用する予定のある蛍光染料又は蛍光プローブについて、その標準蛍光スペクトルを処理部にプリロードされたアルゴリズムに入力し、装置で使用される励起光の光源の標準スペクトルを処理部に入力し、両者をアルゴリズムの対照標準値とし、アルゴリズム演算により測定された元の蛍光シグナルと標準スペクトルとを対比することで、その蛍光シグナル値を取得することができ、該蛍光シグナルの値は標的遺伝子の濃度に正比例する。例えば、同一の試薬容器で6種類の異なる標的遺伝子又は標的を検出する場合、6種類の異なる蛍光染料又は蛍光プローブを用いる必要があるため、まず6種類の蛍光染料又は蛍光プローブの標準蛍光スペクトルを処理部にプリロードされたアルゴリズムに入力すると共に、励起光の光源の標準スペクトルを処理部にプリロードされたアルゴリズムに入力し、real-time PCRの実行を開始する。プログラムの操作が完了した後に、処理部は測定された元のスペクトルデータ(6種類の蛍光染料又は蛍光プローブの重畳蛍光シグナル(superimposed fluorescent signal))を受信し、背景値を除去した後に、該アルゴリズムを用いて各PCRサイクルの6種類の蛍光シグナルの蛍光スペクトルにおけるそれぞれの割合値を算出し、演算により各蛍光染料又は蛍光プローブのリアルタイムの蛍光シグナル値を分離して取得し、変換により6種類の異なる標的遺伝子又は標的の定性結果又は定量結果を取得することができる。
【0024】
本発明に係る装置が動作している際に、まず電力供給部を起動し、試薬容器収容機構が昇温するように導電性物質の通電を開始する。反応物及び試薬を含む試薬容器を試薬容器収容機構の収容空間に入れて、試薬容器収容機構の昇温と降温を迅速に繰り返し行うことで、反応物及び試薬が変性(denature)、プライマーアニーリング(primer annealing)及びプライマー伸長(primer extension)のステップを行う。所定の時点に、処理部が光源をオンにし、発せられた励起光が光励起レンズを介して試薬容器に入射してその中の蛍光物質を励起して蛍光を発し、生成された蛍光が光検出レンズを介して分光計により受信され、スペクトルの形の蛍光シグナルに変換され、該シグナルがシグナル解析のために処理部に送信され、最終的に試薬容器で検出されるべき標的遺伝子又は標的に対して定性又は定量の解析を行うことができる。
【0025】
本発明に係る装置は、導電性フィルム又は電熱素子を用いて、体積が小さい加熱機構により迅速の昇温/降温の機能を提供し、PCR反応時間を効果的に短縮する。また、内蔵されたアルゴリズムにより1つ以上の蛍光シグナルの蛍光値をリアルタイムで解析することができ、短期間で標的遺伝子を定性、定量するという機能を実現する。上記の目的を達成するために、本発明は以下の好適な実施例を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の好適な実施例に係る装置の部材の構成を示す図である。
図2-1】本発明の好適な実施例に係る試薬容器収容機構、放熱孔及び温度センサを示す図である。
図2-2】本発明の好適な実施例に係る試薬容器収容機構、放熱孔、及び温度センサを示す図である。
図2-3】本発明の好適な実施例に係る試薬容器収容機構の平面図である。
図2-4】本発明の好適な実施例に係る試薬容器収容機構の側面図である。
図2-5】本発明の好適な実施例に係る第1基板及び第2基板の層の平面図である。
図3】本発明の好適な実施例に係る元の蛍光シグナルを示す図である。
図4】本発明の好適な実施例に係る蛍光シグナルの解析結果を示す図である。
図5-1】本発明のもう1つの好適な実施例に係る試薬容器収容機構を示す図である。
図5-2】本発明のもう1つの好適な実施例に係る試薬容器収容機構の平面図である。
図6-1】本発明のもう1つの好適な実施例に係る試薬容器収容機構を示す図である。
図6-2】本発明のもう1つの好適な実施例に係る試薬容器収容機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下は図面を参照しながら本発明の好適な実施例の構成及び効果を詳細に説明する。なお、本明細書では、構造又はその部位の位置について、使用者が好ましい実施例を操作する時の空間的関係を「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」等で説明する。
【0028】
図1は本発明の好適な実施例に係る装置1の部材の構成を示す図である。図1に示すように、本発明の好適な実施例に係る装置1は、試薬容器収容機構10、第1光学素子30、光源40、第2光学素子50、分光計60、ファン70、熱電冷却器80、処理部90、及び電力供給部100を含む。試薬容器収容機構10は、試薬容器20を載置し、領域(図2-3に示す空間109)を提供し、該領域は試薬及び反応物を加熱、昇温するために用いられる。電力供給部100は試薬容器収容機構10に電気的に接続され、ファン70及び熱電冷却器80は、試薬容器収容機構10を降温するように電力供給部100に電気的に接続される。また、第1光学素子30及び第2光学素子50は、両凸レンズ、平凸レンズ、二重レンズ、非球面レンズ、色消しレンズ、収差消しレンズ、フレネルレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、正/負メニスカスレンズ、アキシコン、屈折率分布型レンズ、マイクロレンズアレイ、レンチキュラーレンズ、回折光学素子、導波路素子(waveguide elements)、ホログラフィック光学素子、鏡、繊維及びプリズムを含むが、これらに限定されない。
【0029】
図2-1乃至図2-5は本発明の好適な実施例に係る試薬容器収容機構10を示す図である。図2-1~図2-5に示すように、試薬容器収容機構10は、第1凹面1011を有する第1基板101、第2凹面1021を有する第2基板102、第1金属シート103、及び第2金属シート104を含む。第1基板101は、放熱のための第1放熱孔105及び第2放熱孔107を有し、第1基板101は第1蛍光出口106及び第1温度センサ108をさらに有し、第1温度センサ108は、試薬容器収容機構10の温度を測定し、処理部90に温度をフィードバックするために用いられる。第2基板102は、第1放熱孔105及び第2放熱孔107のみを有する。
【0030】
第1基板101と第2基板102とは、第1凹面1011と第2凹面1021とが水平面に垂直な方向に互いに結合し、且つ試薬容器20を収容するための空間109を形成するように、互いに平行に配置され、試薬容器20の外壁は第1凹面1011及び第2凹面1021と熱伝導を行うように接触する。第1凹面1011及び第2凹面1021の外形は特に限定されず、試薬容器20に実質的に適合すればよく、本実施形態では、試薬容器20が試験管であるため、第1凹面1011と第2凹面1021とは、試薬容器20を収容するための空間109の外形を提供し、且つ試験管の外面の形状となるよう対向している。第1金属シート103及び第2金属シート104は第1基板101と第2基板102との間に挟持され、第1基板101及び第2基板102に平行となり、第1金属シート103及び第2金属シート104は第1基板101及び第2基板102の両側に位置する。第1金属シート103及び第2金属シート104は電力供給部100に接続されている。
【0031】
本実施例では、第1基板101及び第2基板102の基材はアルミニウムであり、基材はまず陽極酸化され、酸化アルミニウム(Aluminum Oxide)の層がめっきされ、導電性フィルムがめっきされる。本実施例に係る導電性フィルムの材質は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、クロム、チタン、タンタル又は銅であってもよい。本実施例に係る第1金属シート103及び第2金属シート104の材質は銅である。
【0032】
図1に示すように、本実施例では、光源40は、蛍光染料又は蛍光プローブを励起して検出可能な蛍光を生成するために用いられるレーザダイオードである。他の需要に応じて、光源40はレーザ光モジュール又はLEDに変更してもよい。第1光学素子30は、光源40からの光線を試薬容器20へ導く。本実施例では、試薬容器20は試薬容器収容機構10内に配置され、光源40及び第1光学素子30は試薬容器20の下方に位置し、試薬容器20と鉛直方向に配置され、第1光学素子30は光源40と試薬容器20の間に位置する。このような配置方式は、光源40から発せられた励起光が第1光学素子30により試薬容器20の底部に導かれ、試薬容器20内の蛍光染料又は蛍光プローブを励起することを確保することができる。
【0033】
図1に示すように、本実施例では、第2光学素子50は、生成された蛍光を分光計60に伝達する。該第2光学素子50は、試薬容器収容機構10と分光計60との間に位置する光フィルタ(optical filter)51をさらに含んでもよく、該光フィルタ51は、1つ又は複数の蛍光シグナルの範囲を超えた波長を有する光を除去してもよい。該分光計60は、該蛍光をスペクトルの形の蛍光シグナルに変換するように処理し、シグナル解析を行うために処理部90に該シグナルを伝送する。第2光学素子50及び分光計60は、試薬容器収容機構10の第1基板101に近い側に位置する。試薬容器20で励起された蛍光シグナルが第1蛍光出口106及び第2光学素子50を順次通過して直線状に出射し、且つ分光計60により検出されるように、第2光学素子50、分光計60及び第1蛍光出口106は可能な限り水平に配置される。本実施例では、第2光学素子50及び分光計60は、試薬容器収容機構10の一方側に位置し、第2光学素子50及び分光計60の配置により形成された仮想の線は、第1光学素子30及び光源40の配置により形成されたもう1つの仮想の線に垂直する。
【0034】
図1に示すように、本実施例では、ファン70は放熱部であり、熱電冷却器80に統合されて使用されるが、ファン70の位置は特に限定されず、本実施例では、ファン70は試薬容器収容機構10の第2基板102に近い側に位置し、熱電冷却器80はファン70の上方に位置し、装置1の降温が開始される際に、第1放熱孔105及び第2放熱孔107が協働して放熱を行う。本実施例では、装置1は、蛍光シグナルを解析するための最小二乗法を用いるアルゴリズムがプリロードされた処理部90を含む。本実施例では、後続のデータ解析のために、使用される蛍光染料又は蛍光プローブの標準スペクトル、及び光源40のスペクトルを予め入力する必要がある。
【0035】
処理部90は第1温度センサ108のシグナルを受信し、試薬容器収容機構10の温度がシステムにより設定された温度範囲を超えた場合、ファン70及び熱電冷却器80を起動して試薬容器収容機構10を降温する。一方、試薬容器収容機構10の温度がシステムにより設定された温度範囲よりも低い場合、電力供給部100は装置1を昇温する。本実施例では、昇温速度を制御するために、処理部90は、第1金属シート103及び第2金属シート104を同時に通電加熱するように制御してもよいし、第1金属シート103又は第2金属シート104を単独に加熱するように制御してもよい。
【0036】
本実施例では、装置1全体に必要な電力を提供するための電力供給部100を含んでもよい。電力供給部100が起動する際に、第1金属シート103及び第2金属シート104に電流を伝送し、第1金属シート103及び第2金属シート104の材質が銅であるため、第1基板101及び第2基板102と第1金属シート103及び第2金属シート104との接触部分に電流を伝導することができる。また、第1基板101及び第2基板102の表層101a、102aに導電性フィルム101b、102bが塗布され、所定の抵抗値を有するため、試薬容器収容機構10の温度が95℃~100℃の温度範囲に昇温し、この温度範囲は本実施例に係る昇温温度範囲である。また、本実施例では、試薬容器20内のreal-time PCR反応ステップを行うために、処理部90は、試薬容器収容機構10の温度がこの昇温温度範囲に約6秒~15秒間維持されるように設定する。次に、処理部90は、ファン70及び熱電冷却器80を起動し、試薬容器収容機構10の温度が60℃~62℃の温度範囲に降温し、この温度範囲は本実施例に係る低温温度範囲である。本実施例では、試薬容器20内のreal-time PCR反応ステップを行うために、処理部90は、試薬容器収容機構10の温度がこの低温温度範囲に約1秒~5秒間維持されるように設定する。効果的、且つ十分な反応時間及び温度を提供するために、処理部90は、反応が完了するまで試薬容器収容機構10の温度の昇温温度範囲と低温温度範囲との間でのサイクルを繰り返すように調整し、試薬容器収容機構10の温度がこのように安定的に昇温/降温する際に、試薬容器20内の反応物及び試薬の温度はreal-time PCRに必要な3つの温度範囲に達することができる。
【0037】
Real-time PCR反応が開始されると、試薬容器20と試薬容器収容機構10と隣接する試薬及び反応物は先に加熱される。試薬容器20に近い反応物及び試薬が95℃に加熱された場合、該部分の反応物及び試薬が変性(denature)のステップを実行し、試薬容器収容機構10の温度のサイクルがプライマーアニーリング(primer annealing)及びプライマー伸長(primer extension)の温度に達するように制御する。
【0038】
この際に、処理部90は光源40をオンにし、射出された励起光は第1光学素子30を通して試薬容器20に入り、試薬容器20内の蛍光物質を励起して蛍光を発する。生成された蛍光シグナルが第2光学素子50を介して分光計60により処理されて元の蛍光シグナルに変換され、該元の蛍光シグナルは処理部90に送信され、処理部90にプリロードされた最小二乗法を用いるアルゴリズムにより、背景光のシグナル値を除去した後に、データ及び予め入力された蛍光染料又は蛍光プローブの標準スペクトルに対して検証及び解析を行い、最終的に各蛍光シグナルの強度を取得し、変換により試薬容器20で検出される標的遺伝子又は標的に対して定性又は定量の解析を行うことができる。
【0039】
本実施例の設定により、濃度の異なる4種類の蛍光プローブが4つの試薬容器20に添加され、且つ各試薬容器20に4種類の同一濃度のFAM、VIC、Alexa594、及びAlexa647蛍光プローブが含まれている場合、装置1により、まず(図3に示す)4つの試薬容器20に混合された元の蛍光データを取得する。内蔵された最小二乗法の演算を用いるアルゴリズム及び解析により、(図4に示す)各蛍光プローブの4つの試薬容器20における濃度の解析結果を取得することができる。
【0040】
図5-1及び図5-2に示すように、もう1つの好適な実施例では、試薬容器収容機構10の代わりに他の試薬容器収容機構210を用いてもよく、装置の他の構成は上記実施例と同様である。試薬容器収容機構210は、第3基板201、第4基板202及び絶縁シート204を含む。第3基板201は温度センサ205を有し、温度センサ205は、試薬容器収容機構210の温度を検出し、温度を処理部90にフィードバックするために用いられる。第3基板201及び第4基板202は同一の耐熱性物質であり、特定の角度で折り曲げられた後に対称的に配置され、折り曲げられた部分は試薬容器収容部203を構成する。試薬容器収容部203の外形は特に限定されず、試薬容器220を収容できればよい。本実施例では、試薬容器220が試験管であるため、試薬容器収容部203は試薬容器220の外壁の形状である。第3基板201と第4基板202の間には絶縁シート204が含まれ、第3基板201と第4基板202はそれぞれ電力供給部100に接続される。
【0041】
本実施例では、第3基板201及び第4基板202の基材はアルミニウムであり、基材は陽極酸化され、酸化アルミニウム(Aluminum Oxide)の層がめっきされ、その上に導電性フィルムがめっきされる。本実施例の導電性フィルムの材質は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、クロム、チタン、タンタル又は銅であってもよい。電力供給部100はそれぞれ第3基板201及び第4基板202に電気的に接続され、第3基板201及び第4基板202はそれぞれ正電極及び負電極であり、絶縁シート204は正電極と負電極とが接触しないことを確保する。
【0042】
図6-1及び図6-2に示すように、もう1つの好適な実施例では、試薬容器収容機構10の代わりに他の試薬容器収容機構310を用いてもよく、装置1の他の部材及び構成は上記実施例と同様である。試薬容器収容機構310は、第3凹面3011を有する第5基板301、第4凹面3021を有する第6基板302、第1回路基板303、第2回路基板304を含む。第5基板301は、放熱のための第3放熱孔305及び第4放熱孔307を有し、第5基板301は第2蛍光出口306及び第2温度センサ308をさらに有し、第2温度センサ308は、試薬容器収容機構310の温度を測定し、処理部90に温度をフィードバックするために用いられる。第6基板302は、第3放熱孔305及び第4放熱孔307のみを有する。
【0043】
第5基板301と第6基板302とは、第3凹面3011と第4凹面3021とが水平面に垂直な方向に互いに結合し、且つ試薬容器20を収容するための空間を形成するように、互いに平行に配置され、試薬容器20の外壁(図6-1及び図6-2に図示せず)はそれぞれ第3凹面3011及び第4凹面3021と熱伝導を行うように接触する。第3凹面3011及び第4凹面3021の外形は特に限定されず、試薬容器20の外形に適合すればよく、本実施形態では、試薬容器20が試験管であるため、第3凹面3011及び第4凹面3021は、試薬容器20を収容するための空間を提供するように結合し、その外形は試験管の外面の形状である。第1回路基板303及び第2回路基板304は第5基板301と第6基板302との間に挟持され、第5基板301及び第6基板302に平行となり、第1回路基板303及び第2回路基板304はそれぞれ第5基板301及び第6基板302の両端に位置する。第1回路基板303及び第2回路基板304は、その正面及び背面にそれぞれ抵抗器309がはんだ付けされ、第5基板301及び第6基板302に接合される。第1回路基板303及び第2回路基板304は電力供給部100に接続されている。本実施例では、第5基板301及び第6基板302の基材はアルミニウムであり、基材はまず陽極酸化され、酸化アルミニウム(Aluminum Oxide)の層がめっきされる。
【0044】
電力供給部100が起動すると、電流を第1回路基板303及び第2回路基板304に伝送し、この際に、抵抗器309が通電後に昇温し、これに伴い、第5基板301及び第6基板302が昇温する。その結果、試薬容器収容機構310が95℃~100℃の温度範囲まで昇温すると、real-time PCR反応が開始され、第2温度センサ308が試薬容器収容機構310の温度を検出し、処理部90に温度をフィードバックする。温度がシステムにより設定された昇温温度範囲を超えた場合、第3放熱孔305及び第4放熱孔307がファン70及び熱電冷却器80と共に降温を加速することができる。real-time PCR反応により蛍光シグナルが生成された後に、該蛍光は第2蛍光出口306及び第2光学素子50を介して射出し、分光計60により検出される。
【0045】
本出願は、2019年6月13日に台湾特許庁に出願された特許出願108120548号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容を本出願に援用する。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】