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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】蒸気タービン静翼
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20221021BHJP
   F01D 25/32 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
F01D9/02 103
F01D25/32 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020123594
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020219
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 泰洋
(72)【発明者】
【氏名】田畑 創一朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 亮
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-44728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 25/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞部を持つ蒸気タービン静翼であって、
前記空洞部を前縁側の与圧室と後縁側の排気室とに隔てる隔壁と、
前記与圧室と翼外部を接続する少なくとも1つの蒸気導入孔と、
前記与圧室と前記排気室とを連絡する少なくとも1つの圧力調整孔とを備え、
前記蒸気導入孔の総開口面積よりも前記圧力調整孔の総開口面積が小さいことを特徴とする蒸気タービン静翼。
【請求項2】
請求項1の蒸気タービン静翼において、前記蒸気導入孔が翼前縁に位置していることを特徴とする蒸気タービン静翼。
【請求項3】
請求項1の蒸気タービン静翼において、前記圧力調整孔が前記隔壁の翼根元側及び翼先端側に設けられていることを特徴とする蒸気タービン静翼。
【請求項4】
請求項1の蒸気タービン静翼において、前記排気室と翼外部を接続するスリットを備えていることを特徴とする蒸気タービン静翼。
【請求項5】
請求項1の蒸気タービン静翼において、前記排気室を復水器に接続する排気孔を備えていることを特徴とする蒸気タービン静翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン静翼に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、高圧段から低圧段に流れる蒸気のエネルギーが機械仕事に変換される過程で蒸気が減温し、蒸気の一部が凝縮して微細水滴が発生する。そのため、蒸気タービンを駆動する蒸気(気相)には、液相つまり微細水滴が同伴しており、低圧段ほど蒸気に同伴する微細水滴が増加する。蒸気タービンの低圧段(最終段又は最終の複数段)では微細水滴が静翼の翼面に付着し、これら微細水滴が気相に煽られて翼面を下流側に移動する過程で吸着し合って液膜化し、静翼後縁辺りに到達すると翼面から離脱して再び気相に同伴する。この静翼を離脱した水滴の粒径は相対的に大きく、一部は下流側の動翼等のエロージョンの要因となり得る。
【0003】
それに対し、板状の翼材で中空に製作した静翼において、翼面を構成する翼材に設けたスリットを介して静翼内部に水滴を吸引する構成が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-138487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の静翼によれば、翼面に付着した水滴を静翼内部にある程度吸引することはできる。しかし、長いスリットを翼長方向に連続して設けることもできず、スリットは翼長方向に部分的又は断続的に設けざるを得ない。静翼の翼面に付着する水滴の対策には更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、翼面に付着する水滴量を削減することができる蒸気タービン静翼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、内部に空洞部を持つ蒸気タービン静翼であって、前記空洞部を前縁側の与圧室と後縁側の排気室とに隔てる隔壁と、前記与圧室と翼外部を接続する少なくとも1つの蒸気導入孔と、前記与圧室と前記排気室とを連絡する少なくとも1つの圧力調整孔とを備え、前記蒸気導入孔の総開口面積よりも前記圧力調整孔の総開口面積が小さいことを特徴とする蒸気タービン静翼を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、静翼の翼面に付着する水滴量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン静翼が使用される蒸気タービン設備の一例を模式に表した図
図2】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン静翼が使用される蒸気タービンの断面図であってタービンロータの回転中心線を通る平面で切断した断面図
図3図2に示した最終段のダイヤフラムの拡大図
図4図3中のIV-IV線による静翼の断面図
図5】比較例に係る蒸気タービン静翼の断面図
図6】乱流付着の説明図として示した図5中のVI部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
-蒸気タービン発電設備-
図1は本発明の一実施形態に係る蒸気タービン静翼が使用される蒸気タービン設備の一例を模式に表した図である。同図に示した蒸気タービン発電設備100は、蒸気発生源1、高圧タービン3、中圧タービン6、低圧タービン9、復水器11及び負荷機器13を備えている。
【0012】
蒸気発生源1はボイラであり、復水器11から供給された水を加熱し、高温高圧の蒸気を発生させる。蒸気発生源1で発生した蒸気は、主蒸気管2を介して高圧タービン3に導かれ、高圧タービン3を駆動する。高圧タービン3を駆動して減温減圧した蒸気は、高圧タービン排気管4を介して蒸気発生源1に導かれ、再度加熱されて再熱蒸気となる。
【0013】
蒸気発生源1で生成された再熱蒸気は、再熱蒸気管5を介して中圧タービン6に導かれ、中圧タービン6を駆動する。中圧タービン6を駆動して減温減圧した蒸気は、中圧タービン排気管7を介して低圧タービン9に導かれ、低圧タービン9を駆動する。低圧タービン9を駆動して更に減温減圧した蒸気は、ディフューザを介して復水器11に導かれる。復水器11は冷却水配管(不図示)を備えており、復水器11に導かれた蒸気と冷却水配管内を流れる冷却水とを熱交換させて蒸気を凝縮する。復水器11で凝縮された水は給水ポンプPにより再び蒸気発生源1に送られる。
【0014】
高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9のタービンロータ12は同軸に連結されている。負荷機器13は代表的には発電機であり、タービンロータ12に連結されて、高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9の回転出力により駆動される。
【0015】
なお、負荷機器13には、発電機に代えてポンプが採用される場合もある。また、高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9を備えた構成を例示したが、例えば中圧タービン6を省略した構成としても良い。高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9で同一の負荷機器13を駆動する構成を例示したが、高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9でそれぞれ異なる負荷機器を駆動する構成であっても良い。高圧タービン3、中圧タービン6及び低圧タービン9を2つのグループ(つまり2つのタービンと1つのタービン)に分け、グループ毎に各1つの負荷機器を駆動する構成としても良い。更に、蒸気発生源1としてボイラを備える構成を例示したが、ガスタービンの排熱を利用する廃熱回収蒸気発生器(HRSG)を蒸気発生源1として採用する構成としても良い。つまりコンバインドサイクル発電設備にも後述する蒸気タービン動翼を用いることができる。地熱発電や原子力発電に用いる蒸気タービンにも後述する蒸気タービン動翼は適用できる。
【0016】
-蒸気タービン-
図2はタービンロータ12の回転中心線を通る平面で切断した低圧タービン9の断面図、つまり子午面による断面図である。同図に示したように、低圧タービン9は、上記タービンロータ12と、これを覆う静止体15とを備えている。静止体15の出口にはディフューザが配置されている。なお、本願明細書では、タービンロータ12の回転方向を「周方向」、タービンロータ12の回転中心線Cの伸びる方向を「軸方向」、タービンロータ12の半径方向を「径方向」と定義する。本実施形態において回転中心線Cは水平方向に延びる。
【0017】
タービンロータ12は、ロータディスク13a-13d及び動翼14a-14dを含んで構成されている。ロータディスク13a-13dは円盤状の部材であり、軸方向に重ねて配置されている。ロータディスク13a-13dはスペーサと交互に重ねて配置される場合もある。動翼14dはロータディスク13dの外周面に周方向に等間隔で複数設けられている。同様に動翼14a-14cはそれぞれロータディスク13a-13cの外周面に周方向に等間隔で複数設けられている。動翼14a-14dはロータディスク13a-13dの外周面から径方向外側に伸び、筒状の作動媒体流路Fに臨んでいる。作動媒体流路Fを流れる蒸気Sのエネルギーが動翼14a-14dにより機械仕事に変換され、回転中心線Cを中心にタービンロータ12が一体に回転する。
【0018】
静止体15は、ケーシング16及びダイヤフラム17a-17dを含んで構成されている。ケーシング16は低圧タービン9の外周壁を形成する筒状の部材である。このケーシング16の内周部にダイヤフラム17a-17dが取り付けられている。ダイヤフラム17a-17dは静翼の翼列を構成するセグメントであり、それぞれダイヤフラム外輪18、ダイヤフラム内輪19及び複数の静翼20を含んで一体に形成されている。ダイヤフラム17a-17dがそれぞれ周方向に複数配置されて環状をなし、複数段(図2では4段)の静翼20の翼列を構成する。
【0019】
ダイヤフラム外輪18はその内周面で作動媒体流路Fの外周を画定する部材であり、ケーシング16の内周面に支持されている。ダイヤフラム外輪18は周方向に複数配置されてリングを形成する。本実施形態において、ダイヤフラム外輪18の内周面は下流側(図2中の右方)に向かって径方向外側に傾斜している。ダイヤフラム内輪19はその外周面で作動媒体流路Fの内周を画定する部材であり、ダイヤフラム外輪18に対して径方向内側に配置されている。ダイヤフラム内輪19は周方向に複数配置されてリングを形成する。静翼20は、各段落において周方向に複数並べて配置され、径方向に延びてダイヤフラム内輪19及びダイヤフラム外輪18を連結している。
【0020】
なお、静翼20とその下流側に隣接する動翼とで1つの段落を構成する。本実施形態では、ダイヤフラム17aの静翼20と動翼14aとが第1段落(初段)を構成する。同様に、ダイヤフラム17bの静翼20と動翼14bが第2段落、ダイヤフラム17cの静翼20と動翼14cが第3段落、ダイヤフラム17dの静翼20と動翼14dが第4段落(最終段)を構成する。
【0021】
-蒸気タービン静翼-
図3は最終段のダイヤフラムの拡大図、図4図3中のIV-IV線による静翼の断面図である。これらの図においては代表として最終段のダイヤフラム17dが表してあるが、他段落のダイヤフラムの静翼にも同様の構成が適用できる。特に湿り蒸気が流通し得る低圧段、具体例としては低圧タービン9の最終の複数段の静翼に同様の構成を好ましく適用できる。図3及び図4に示した静翼20は、背側翼材W1、腹側翼材W2及び隔壁W3を含んで構成されている。また、静翼20には、蒸気導入孔H1、圧力調整孔H2、スリットH3、及び排気孔H4(図3)が流体の流通経路として少なくとも1つずつ設けられている。蒸気導入孔H1、圧力調整孔H2及び排気孔H4は例えば円形の小孔、スリットH3は長穴である。
【0022】
背側翼材W1と腹側翼材W2は金属製の板材を例えばプレスで曲げ加工したものである。背側翼材W1の表面は静翼20の背側面S1を構成し、図4のように径方向から見て背側面S1が凸状になるように背側翼材W1は湾曲している。腹側翼材W2の表面は静翼20の腹側面S2を構成し、同じく径方向から見て腹側面S2が凹状になるように腹側翼材W2は湾曲している。これら背側翼材W1と腹側翼材W2のコード長方向の両端部が、静翼20の翼前縁LE及び翼後縁TEとなる。翼前縁LE及び翼後縁TEつまり背側翼材W1と腹側翼材W2のコード長方向の両端部を重ね合わせて溶接により接合することで、静翼20は構成されている。これにより、静翼20の内部つまり背側翼材W1の裏面B1と腹側翼材W2の裏面B2との間に空洞部CBが形成されている。
【0023】
隔壁W3は仕切り板であり、空洞部CBを翼前縁LE側の与圧室(前室)PCと翼後縁TE側の排気室(後室)ECとに区画し、与圧室PCと排気室ECとを隔てている。この隔壁W3は静翼20の根元側の端部から先端側の端部まで翼長方向に連続して延び、隔壁W3の幅方向(静翼の厚み方向)の両側の端面の全長が背腹の翼材の裏面B1,B2に接合されている。
【0024】
蒸気導入孔H1は、与圧室PCと翼外部(つまり作動媒体としての蒸気Sが流れる作動媒体流路Fであって静翼20の外側の空間)とを接続する孔である。蒸気導入孔H1は、必要に応じて流動解析をする等して可能な限り最大翼面圧力点に入口が臨むように設置することが好ましく、本実施形態では翼前縁LEに蒸気導入孔H1を配置した構成を例示している。蒸気導入孔H1の数は適宜変更可能であるが、本実施形態では、翼前縁LEにおける翼根元部に1つ、翼先端部に1つ、これらの中間部に1つの計3つの蒸気導入孔H1が設けてある(図3)。蒸気導入孔H1は、背側翼材W1と腹側翼材W2の接合後にドリル加工や放電加工で形成することができる。
【0025】
なお、蒸気導入孔H1を翼前縁LEに設ける場合には、例えば翼前縁LEにおいて背側翼材W1と腹側翼材W2との突き合せ部に溶接ビードの切れ目を意図的に作り、この溶接ビードの切れ目を蒸気導入孔H1とすることもできる。翼前縁LEにおける背側翼材W1と腹側翼材W2との対向端部の少なくとも一方に部分的に切り欠きを形成しておき、この切り欠きを塞がないように背側翼材W1と腹側翼材W2を接合することで、切り欠きによって蒸気導入孔H1を形成することもできる。
【0026】
圧力調整孔H2は、与圧室PCと排気室ECとを連絡する連絡孔である。圧力調整孔H2の数は適宜変更可能であるが、本実施形態では、隔壁W3における翼根元側に1つ、翼先端側に1つの計2つの圧力調整孔H2が設けられている(図3)。但し、蒸気導入孔H1から導入される蒸気による与圧室PCの圧力が上昇するように、蒸気導入孔H1の総開口面積よりも圧力調整孔H2の総開口面積は小さくしてある。蒸気導入孔H1の総開口面積と圧力調整孔H2の総開口面積との面積比は、静翼20の特に腹側面S2に沿って形成される乱流境界層よりも与圧室PCが高温となる程度まで与圧室PCの圧力を上昇させる観点で設定する。従って、蒸気導入孔H1の総開口面積と圧力調整孔H2の総開口面積との面積比は、蒸気導入孔H1の入口圧力や圧力調整孔H2の出口圧力、乱流境界層の温度等に基づいて決定される。与圧室PCの静庄が高いほど与圧室PCの内部の飽和蒸気温度は高くなる。
【0027】
スリットH3は、排気室ECと前述した翼外部とを接続する長穴であり、翼先端側の領域において翼長方向に延び、腹側翼材W2を貫通して設けられている。本実施形態では腹側にスリットH3を設けた構成を例に挙げて説明しているが、背側翼材W1にスリットH3を明けた構成としても良く、また背腹両側にスリットH3を設けた構成としても良い。いずれにしてもスリットH3は排気室ECと前述した翼外部とを接続するようにし、出入口とも与圧室PCに臨まないようにする。
【0028】
排気孔H4は、ダイヤフラム外輪18の内周壁及びダイヤフラム内輪19の外周壁に貫通して設けられている。ダイヤフラム外輪18の内部のキャビティC1及びダイヤフラム内輪19の内部のキャビティC2に、これら排気孔H4を介して排気室ECが連通している。キャビティC1,C2は排気管(不図示)を介して復水器11又はその他の吸引装置に接続している。このように、排気孔H4及びキャビティC1,C2を介して、復水器11又はその他の吸引装置に排気室ECが接続している。
【0029】
-比較例-
図5は比較例に係る蒸気タービン静翼の断面図であり、本実施形態における図4に対応する図である。同図に示した静翼も背側翼材X1及び腹側翼材X2を接合して中空に構成されている。スリットX3は背腹両側に設けてある。翼強度を確保するために背側翼材X1及び腹側翼材X2の間に板バネX4が介在しているが、翼内部の空洞部を仕切る隔壁は備わっていない。板バネX4は翼内部の空洞部を仕切り分けるものではなく、空洞部において板バネX4を境とする差圧は特に生じない。翼内部の空洞部は本実施形態の排気室ECと同じく例えば復水器に接続され、翼外部に対して圧力が低くなっている。図5の静翼では翼面に付着した水滴がスリットX3から翼内部に吸引される。
【0030】
-翼面への水滴の付着原理-
静翼の翼面に対する水滴の付着の仕方は、慣性付着、乱流付着及び壁面凝縮の三種類に大別される。慣性付着は、蒸気に同伴する微細水滴(一般に粒径2μm以下)が翼面に慣性衝突して付着する現象である。具体的には、図5に点線矢印で示したように、作動媒体としての蒸気Sは例えば回転中心線Cに沿う方向から静翼の翼列に流入し、翼面に沿って転向し隣接翼間を通過する。この際に蒸気Sに同伴する微細水滴Dの一部が慣性力で翼面に衝突し付着する。
【0031】
乱流付着は、翼面に沿って形成される乱流境界層において翼面に沿って進行する微細水滴が渦に巻き込まれて翼面に付着する現象である。乱流付着の説明図として図5中のVI部の拡大図を図6に示す。
【0032】
図6に示したように、微細な渦Vが無数に存在する乱流境界層TLが静翼の翼面に沿って薄く形成される。翼面から離れた主流(同図では二点鎖線より翼面から遠い領域)において蒸気(気相)に同伴して翼面に沿って流れる微細水滴Dは通常、翼面に付着することはない。しかし、乱流境界層TLにおいては、微細な渦Vにより翼面側と主流側とで運動量の交換が起こり、微細水滴Dが翼面に向かって移送されて翼面に付着する。
【0033】
対して、壁面凝縮は、翼面付近を流れる蒸気が翼面で凝縮する現象である。図5の構成では、翼内部の空洞部が排気真空圧相当で翼外部に比べて低温である。図5及び図6に腹側翼材X2の厚み方向の熱量移動の向きをブロック矢印で表した通りである。低圧段において作動媒体流路Fを流れる蒸気Sは、全体として過冷却状態になる。空力加熱により蒸気温度が高くなる乱流境界層TLにおいても、特に静翼の腹側にあっては昇圧により飽和蒸気温度が高くなることから過冷却状態を脱しない。そのため、乱流境界層TLにおいて排気真空圧相当の空洞部で冷却された腹側面S2で蒸気の凝縮が起こり、翼面の水滴が成長する。そして、静翼の翼面に付着する水滴量のうち、壁面凝縮により翼面に顕現する水滴量の割合が存外に高いことが、本願発明者等の鋭意研究により今般新たに知見された。
【0034】
-実施形態の動作-
低圧タービン9の最終段を例に挙げて説明すると、前述した通り、慣性付着、乱流付着により静翼には主に腹側面S2に水滴が付着する。これらの水滴は蒸気(気相)のせん断力により翼面上を翼後縁TEに向かって移動し、スリットH3を介して排気室ECに吸引され、排気孔H4を介して例えば復水器11に導かれる。
【0035】
このとき、本実施形態においては、翼面圧力が高い翼前縁から蒸気導入孔H1を介して与圧室PCに高圧蒸気が流入する。蒸気導入孔H1の総開口面積に対して圧力調整孔H2の総開口面積が小さいので、与圧室PCは昇圧し翼外部(作動媒体流路F)を流れる主流の蒸気に相対して高温になる。図5に示した比較例と異なり、図4にブロック矢印で示した通り本実施形態においては高温側の与圧室PCから低温側の翼外部に向かって熱量が移動する。結果として与圧室PCにおいて翼材の裏面B1,B2に壁面凝縮が起こり、その凝縮潜熱が熱源に加わることで翼材は更に加熱される。こうして翼面が加熱されることで乱流境界層がその飽和蒸気温度より高温になり、翼面(例えば腹側面S2)における壁面凝縮の発生が抑制される。
【0036】
また、与圧室PCで壁面凝縮が起こることで、与圧室PC内の蒸気の体積が減少して蒸気導入孔H1から後続の加熱蒸気が与圧室PCに流入し、以上の与圧室PCの加圧、壁面凝縮の発生、凝縮潜熱による翼材の加熱の現象が連続して逐次起こっていく。
【0037】
なお、与圧室PCにおいて翼材の裏面B1,B2で凝縮した水滴は圧力調整孔H2を介して排気室ECに流出し、スリットH3から吸引された水滴と共に排気孔H4から排出される。
【0038】
-効果-
(1)上記の通り、蒸気導入孔H1から導き入れた蒸気により与圧室PCを加圧して翼材の裏面B1,B2で壁面凝縮を発生させ、その凝縮潜熱により翼材を加熱することで乱流境界層の温度を飽和蒸気温度よりも高くすることができる。これにより翼面における壁面凝縮の発生を抑えて翼面の水滴の成長を抑制でき、翼面に付着する水滴量を削減することができる。
【0039】
(2)与圧室PCから凝縮潜熱により翼材を介して乱流境界層を加熱することにより、翼面に乱流付着し得る微細水滴の一部を蒸発させ、乱流付着する水滴量が減少し得る。また、翼面の昇温により、慣性付着又は乱流付着により翼面に付着した水滴の一部も蒸発し得る。この点においても翼面に付着する水滴量の削減効果が期待できる。
【0040】
(3)加えて、図5の例では翼内の空洞部の圧力及び温度が排気室と同等であり、内部温度も排気室の飽和温度と同等の低温である。このため、周囲の構成要素(例えばダイヤフラム外輪、ダイヤフラム内輪、ケーシング)から静翼の空洞部に運転中は常に熱が捨てられる。
【0041】
それに対し、本実施形態においては与圧室PCが加熱されて断熱室として作用することから、周囲の構成要素の熱の浪費を抑制でき、エネルギー効率の向上効果が期待できる。
【0042】
(4)高圧段で抽気した高温蒸気を抽気管により導入して静翼を加熱する構成も考えられるが、蒸気を導入する抽気管を別途敷設する必要がある。加熱装置を別途用意して静翼を加熱する場合も同様である。このような構成は成立性が低く高コストである。
【0043】
それに対し、本実施形態によれば翼前縁LEから与圧室PCに蒸気を導入する構成であるため、配管や加熱装置の追加設置を要することがなく、構造成立性が高く、しかも低コストである。
【0044】
(5)また、高圧段から抽気した蒸気を静翼に導く構成と異なり、与圧室PCに供給される加熱蒸気は与圧室PCの内部で壁面凝縮により水に相変化する蒸気流量相当量に制限され、与圧室PCの加圧に必要以上の蒸気を要しない。また、与圧室PCの内部で起こった壁面凝縮の凝縮潜熱も翼材の加熱源として有効に利用され、この点においてもエネルギー効率に優れる。
【0045】
(6)図5の構成では壁面凝縮が翼面で起こり、壁面凝縮により翼面に発生した水滴を翼内部に吸引することとなる。それに対し、本実施形態では壁面凝縮が翼内部で起こるため、壁面凝縮により発生した水滴を翼内部に吸引する仕事を要しない。これもエネルギー効率の改善に寄与し得る。
【0046】
(7)一般に最大翼面圧力点となる翼前縁LEに蒸気導入孔H1が位置しているため、蒸気導入孔H1を介して与圧室PCに効率的に蒸気を導入することができる。与圧室PCを効果的に加圧することができる。
【0047】
(8)静翼は周方向に複数並んで環状翼列を構成するため、回転中心線が水平な構成では、同一段落内に重力方向の下側に翼根元側がくる静翼もあれば重力方向の下側に翼先端側がくる静翼もある。本実施形態では、隔壁W3の翼根元側及び翼先端側の双方に圧力調整孔H2が設けられているので、翼先端側と翼根元側のどちらが重力方向の下側にあっても全ての圧力調整孔H2が浸水することはない。また、配置する周方向位置によって圧力調整孔H2の位置を変える必要がなく、同一段落内で静翼の形状を統一できる点もメリットである。
【0048】
なお、圧力調整孔H2は与圧室PCのドレン孔を兼ねるが、与圧室PC内に導入された蒸気が全て凝縮したとしても、凝縮水の体積は蒸気の1/1000程度である。従って、圧力調整孔H2の総開口面積は必要以上に大きく設定しなくても、翼根元側と翼先端側、又はどちらか一方に分散して配置すれば与圧室PCの圧力調整機能を考慮して決定した値で足りる。
【0049】
(9)排気室ECと翼外部を接続するスリットH3を備えているので、壁面凝縮による水滴発生の抑制に加え、慣性付着や乱流付着により翼面に付着した水滴も翼面から吸引除去することができる。
【0050】
(10)排気室ECを復水器11に接続する排気孔H4を備えている。別途用意した真空吸引装置に排気室ECを接続する構成も考えられるが、本実施形態の静翼が適用される蒸気タービン発電設備(図1)に装備された復水器11に排気室ECを接続することで、配管や設備の追加を要しない。
【0051】
-変形例-
蒸気導入孔H1を静翼の翼前縁LEに設置した場合を例に挙げて説明したが、蒸気導入孔H1は静翼周囲の高圧領域と与圧室PCとを接続し、与圧室PCに高圧蒸気を流入させる機能が確保できれば良い。従って、蒸気導入孔H1の位置は翼前縁LEに限らずタービン運転時に圧力が所要値以上に上昇する領域に入口が臨んでいれば良い。例えば静翼の腹側面S2やドレンキャッチャ(図2のZ部)に入口が臨むように蒸気導入孔H1を設置しても良い。
【0052】
スリットH3を腹側にのみ設けた構成を例示したが、前述した通りスリットH3を背側に設けた構成、又は背腹両側に設けた構成としても良い。また、スリットH3を翼先端側の領域に1列設けた構成を例に挙げて説明したが、翼長方向の全長に断続的にスリットH3を設けた構成やコード長方向に複数列スリットH3を設けた構成とすることもできる。また、静翼の空洞部CBに占める排気室ECの体積割合が小さい場合、スリットH3を省略することもできる。
【0053】
また、与圧室PCで発生したドレンは圧力調整孔H2を介して排気室ECに排出する構成を例示したが、与圧室PCの所要の加圧性能が確保できる限りにおいては、圧力調整孔H2に加えてドレン排出専用のドレン孔を与圧室PCに追加しても良い。
【符号の説明】
【0054】
11…復水器、20…蒸気タービン静翼、CB…空洞部、EC…排気室、H1…蒸気導入孔、H2…圧力調整孔、H3…スリット、H4…排気孔、LE…翼前縁、PC…与圧室、W3…隔壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6