(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物及び活性型D-プロリンレダクターゼを生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20221021BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20221021BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20221021BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N9/02
C12P13/00
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2020520419
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 KR2018007914
(87)【国際公開番号】W WO2019013569
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2019-12-25
(31)【優先権主張番号】10-2017-0088632
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】パク ボソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヨンヨル
(72)【発明者】
【氏名】オ インソク
(72)【発明者】
【氏名】イ ナホム
(72)【発明者】
【氏名】ムン ジュンオク
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】Ute C. Kabisch et al.,The Journal of Biological Chemistry,1999年,Vol.274, No.13,p.8445-8454
【文献】Laurent Bouillaut et al.,Journal of Bacteriology,2013年02月,Vol. 195, No. 4,p. 844-854
【文献】Fonknechen et al.,BMC Genomics,2010年10月11日,Vol. 11, No. 555,p. 1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
prdAまたはprdAとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階;及び
prdBまたはprdBとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階;
を含む、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法であって、前記PrdHタンパク質が、PrdAタンパク質及びPrdBタンパク質をコードする遺伝子の間に存在する遺伝子ORFでコードされたタンパク質であり、前記PrdHタンパク質が、非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させる活性を有する、
製造方法。
【請求項2】
前記PrdAタンパク質が、配列番号3または配列番号19のアミノ酸配列を含む、請求項
1に記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項3】
前記PrdBタンパク質が、配列番号5または配列番号21のアミノ酸配列を含む、請求項
1又は2に記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項4】
前記PrdHタンパク質が、配列番号1または配列番号23のアミノ酸配列を含む、請求項
1~3のいずれかに記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項5】
さらにPrdD、PrdE及びPrdE2からなる群から選択される1つ以上のタンパク質の活性が強化された、請求項
1~4のいずれかに記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項6】
さらにPrdC、PrdG及びPrdFからなる群から選択される1つ以上のタンパク質の活性が強化された、請求項
1~4のいずれかに記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項7】
前記微生物が、エシェリキア属微生物である、請求項
1~6のいずれかに記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【請求項8】
前記微生物が、大腸菌である、請求項
1~6のいずれかに記載の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、PrdAタンパク質、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の活性が強化された、D-プロリンレダクターゼを発現する微生物及び当該活性型D-プロリンレダクターゼを生産する方法に関する。また、これを基にD-プロリン及びD-プロリン類似物質を還元する方法、及びPrdAタンパク質及びPrdBタンパク質と同時発現されて非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させる活性を有するPrdHタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
石油需給の不安及び枯渇に対する危機意識に加えて、環境にやさしい製品の開発トレンドにより、バイオプラスチック、バイオエネルギーなどのバイオマス由来の製品に対する研究開発が進められており、特にナイロンの場合、様々なバイオマス由来の単量体を適用するための様々な研究が進められている。一例として、バイオマス由来のプトレシン(putrescine)の適用を介したナイロン4,6の開発、バイオマス由来のカダベリン(cadaverine)の適用を介したナイロン6,6のヘキサメチレンジアミン(hexamethylene diamine、HMDA)を代替しうるナイロン5,6の研究が進められている。また、グルタミン酸(glutamic acid)を原料として、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(Glutamate decarboxylase)によって生産が可能な4-アミノ酪酸(またはガンマアミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid、GABA))を単量体として用いてナイロン4製品開発に対する研究も進められている。
【0003】
5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid)は、ナイロン5の単量体であって、プロリン(proline)からD-プロリンレダクターゼによって転換されることが知られている。しかし、前記D-プロリンレダクターゼの活性化のためには、PrdAタンパク質の正確な自己切断と同時にピルボイル基が導入されなければならない。しかし、これは技術的な限界とされており、活性型D-プロリンレダクターゼを製造することができる方法のニーズが増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】大韓民国特許公開第2015-0029526号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Bouillaut et al., J. Bacteriol., 2013, 195(4), 844-854
【文献】Kabisch et al., J. Biol. Chem., 1999, 274(13), 8445-8454
【文献】Bednarski et al., Eur. J. Biochem., 2001, 268, 3538-3544
【文献】Itoh et al., Science, 340(6128), 2013, 75-78
【文献】Su et al., Nucleic Acids Res., 2005, 33(8), 2486-2492
【文献】Pearson et al(1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math(1981)2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical research Foundation, pp. 353-358(1979)
【文献】Gribskov et al(1986)Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Jackson et al., J. Bacteriol., 2006, 188, 8487-8495
【文献】Fonknechten et al., BMC Genomics, 2010, 11, 555
【文献】Rudnick et al., Biochemistry, 1975, 14(20), 4515-4522
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、D-プロリンレダクターゼ(D-proline reductase)を活性型に生産可能な組換え発現システム及び菌株開発のために継続的に研究しており、これに加え、様々なD-プロリン類似の基質に対する適用可能性の研究を行った。このことから、PrdAタンパク質及びPrdBタンパク質と同時発現されて、非活性型D-プロリンレダクターゼ(D-proline reductase)を活性型D-プロリンレダクターゼに転換するPrdHタンパク質を最初に究明した。また、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物及びこれから生産されたD-プロリンレダクターゼの活性を成功的に証明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の一つの目的は、PrdAタンパク質、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の活性が強化された、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を提供することにある。
【0008】
本出願の他の目的は、前記微生物を培地で培養する段階、前記微生物または培地から活性型D-プロリンレダクターゼを回収する段階を含む、活性型D-プロリンレダクターゼを生産する方法を提供することにある。
【0009】
本出願の別の目的は、前記微生物または前記微生物が生産する活性型D-プロリンレダクターゼを用いて、アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid、GABA)及び5-アミノ-4-ヒドロキシペンタン酸(5-amino-4-hydroxypentanoic acid)からなる群から選択される1つ以上を生産する方法を提供することにある。
【0010】
本出願の別の目的は、PrdAタンパク質及びPrdBと同時発現されて、非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させるPrdHタンパク質を提供することにある。
【0011】
本出願の別の目的は、prdAまたはprdAとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階、prdBまたはprdBとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階を含む、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0012】
本出願で非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させうるポリペプチドを新たに提案し、既存のD-プロリンレダクターゼを構成するPrdAとPrdBの複合体と相互作用して発現する時、またはPrdオペロンと共に発現する時に活性型D-プロリンレダクターゼの活性が増加して新しい活性型D-プロリンレダクターゼを提供し、D-プロリンまたはその類似体の転換方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】D-プロリンレダクターゼの活性生産方法に対する概略図である。
【
図2】PrdAタンパク質の発現条件によるSDS-PAGE分析結果である。
【
図3】PrdAタンパク質の発現する時に攪拌の有無によるSDS-PAGE分析結果である。
【
図4】PrdBタンパク質の発現によるウェスタンブロット分析結果である。
【
図5】PrdHタンパク質によるPrdAタンパク質の自己切断に対するウェスタンブロット分析結果である。
【
図6】組換え発現されたD-プロリンレダクターゼの活性及びPrdDEE
2タンパク質の活性影響に対するTLC分析結果である。
【
図7】PrdHタンパク質の汎用的適用性に対するウェスタンブロット分析結果である。
【
図8】PrdCタンパク質によるD-プロリンレダクターゼの活性影響に対するTLC分析結果である。
【
図9】PrdGタンパク質によるD-プロリンレダクターゼの活性影響(A)及びPrdGタンパク質の特性分析(B)に対するTLC分析結果である。
【
図10】遺伝子組換え活性型D-プロリンレダクターゼ及び追加タンパク質の同時発現を介して、糖源から5-アミノ吉草酸を生産した内容に対するTLC分析結果である。
【
図11】活性型D-プロリンレダクターゼを介してD-プロリン類似物質に対する転換能を評価したTLC分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示された各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の任意の組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0015】
前記目的を達成するための本出願の一つの様態は、PrdAタンパク質、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の活性が強化された、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を提供することである。
【0016】
本出願において、用語、「D-プロリンレダクターゼ(D-Proline reductase)」は、PrdAタンパク質及びPrdBタンパク質からなるタンパク質複合体を意味する。主な機能は、D-型のプロリン(D-Proline)が還元されて5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)に転換される過程に関与することが知られており、前記反応は嫌気菌株のエネルギー源(ATP)の供給のために活用されるスティックランド反応(Stickland reaction)の最終段階に該当することが知られている(非特許文献1)。
【0017】
前記スティックランド反応(Stickland reaction)は、スティックランド発酵(Stickland Reaction)とも呼ばれ、アミノ酸が有機酸に結合される間、酸化及び還元されることを含む反応を意味する。具体的には、電子供与体であるアミノ酸は、元のアミノ酸より短い1炭素原子の揮発性カルボン酸に酸化される。例えば、3つの炭素鎖を有するアラニンは、2つの炭素を有する酢酸に転換される。アミノ酸はスティックランド受容体(acceptor)、スティックランド供与体(doner)であってもよい。
【0018】
前記スティックランド反応(Stickland reaction)を有する代表的な菌株としては、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)、Peptoclostridium stiklandii(Clostridium stiklandii)、またはEubacterium acidaminophilumがあり、Lactobacillus salivariusのようなLactobacillus系の一部菌株もこれに該当すると知られている。したがって、前記菌株を用いて、本出願の活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物、非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させる活性を有するPrdHタンパク質、及び活性型D-プロリンレダクターゼを生産することができる。
【0019】
D-プロリンレダクターゼの主な機能は、D-プロリン(D-Proline)から5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)の転換過程に関与することが知られている。しかし、現在までにD-プロリンレダクターゼに対する明確な反応機序は知られていないが、次のような反応機序が提案されている。まず、alpha-PrdA、Beta-PrdA、及びPrdBタンパク質複合体からなるD-プロリンレダクターゼの構成タンパク質のうち、alpha-PrdAタンパク質のアミノ末端に位置しているピルボイル基(pyruvoyl group)と基質であるD-プロリンのアミン基との相互結合により基質の活性エネルギーが低くなる。次の段階で、PrdBタンパク質に位置しているセレノシステインによってD-プロリンのアルファ炭素とアミン基の間のC-N結合が切断されるようになり、その結果、D-プロリンから5-アミノ吉草酸への転換反応が起きるようになる(非特許文献2)。本出願において、用語、「活性型D-プロリンレダクターゼ」は、本出願の補助タンパク質であるPrdHにより、D-プロリンレダクターゼを構成するPrdAタンパク質及びPrdBタンパク質中、PrdAタンパク質が正確な自己切断によりalpha-PrdA及びbeta-PrdAに分離され、二重分離されたalpha-PrdA部分のアミノ末端側にピルボイル基が結合したalpha-PrdA、beta-PrdA及びPrdBタンパク質からなるタンパク質複合体を意味する。このような活性型D-プロリンレダクターゼは、ピルボイル基が結合したalpha-PrdAのピルボイル基が基質であるD-プロリン、またはD-プロリンと類似した基質との結合を介して前記基質を還元させうる状態の活性型酵素を意味する。例えば、前記活性型D-プロリンレダクターゼは、基質であるD-プロリンを5-アミノ吉草酸(5-aminovalerate)に転換させることができる。
【0020】
本出願において、用語、D-プロリンは、α-アミノ酸であるL-プロリンの光学異性体である。特に、L-プロリンの場合、非必須アミノ酸でL-グルタミン酸から合成することができ、ラセマーゼによってD-プロリンへと転換が可能である。
【0021】
本出願において、用語、「PrdAタンパク質」は、D-プロリンレダクターゼのタンパク質複合体を構成する一構成要素であって、前記PrdAタンパク質は自己切断過程を介してalpha-PrdAタンパク質(カルボキシル末端断片)及びbeta-PrdAタンパク質(アミノ末端断片)に分かれる。一般的な自己切断過程は、単純なペプチド結合の切断を介して起こるが、PrdAタンパク質の自己切断過程は、ペプチド結合の切断過程と同時にalpha-PrdAタンパク質のアミノ末端にピルボイル基(pyruvoyl group)が導入される特性がある。PrdAタンパク質が独立して存在する場合、タンパク質自体の不完全性により非特異的な切断/分解過程が伴われ、alpha-PrdAタンパク質及びbeta-PrdAタンパク質に完全に分離されない問題がある。
【0022】
前記ピルボイル基は、基質の活性エネルギーを下げる役割をするためD-プロリンレダクターゼの活性に不可欠な残基として知られている(非特許文献2)。しかし、一般的な加水分解反応を介して、タンパク質切断機序は、前記ピルボイル基が導入されていないため、これを解決するための様々な研究が進められてきた。PrdAタンパク質(pro-PrdAタンパク質)自体の構造的な不安定性に起因して起こる非特異的タンパク質分解過程を防止するために、アミノ末端が除去されたPrdAタンパク質断片を対象にNaBH4などの還元剤を添加して、人為的な切断過程を誘導した研究が行われたことがある。その結果、目的の位置特異的切断は確認されたが、ピルボイル基の導入は行われていないことが確認された(非特許文献3)。
【0023】
前記PrdAタンパク質は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができ、スティックランド反応(Stickland reaction)を有する菌株のPrdAタンパク質をコードする配列であれば制限なく用いられてもよい。代表的な例として、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)またはLactobacillus salivarius由来のPrdAタンパク質であってもよいが、これに制限されない。その例として、配列番号3のアミノ酸配列または配列番号19の配列によってコードされるアミノ酸配列であってもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、本出願の前記PrdAタンパク質は、配列番号3及び前記配列番号19と少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性または同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有しながら、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有するPrdAタンパク質も、本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0024】
本出願において、用語、「PrdBタンパク質」は、D-プロリンレダクターゼのタンパク質複合体を構成する一構成要素であって、前記PrdBタンパク質は、非天然アミノ酸(non-natural amino acid)であるセレノシステイン(selenocystein、Sec)を含んでいるセレノタンパク質である。セレノシステインは、別名21番目のアミノ酸と呼ばれる非天然アミノ酸であって、一般的なタンパク質合成機序を介してタンパク質内に導入されない特徴を有する(非特許文献4)。特に64個のコドンのうちUGAコドン、すなわち停止コドン(stop codon)を用いて導入が行われるため、セレノシステイン導入システムがない場合、前記停止コドンでタンパク質合成が中断される現象が現れる。また、前記セレノシステイン導入コドンを、一般的な停止コドンとして認識しないため、SECIS(SElenoCysteine Incorporation Sequence)と呼ばれる配列/構造特異的mRNAの二次構造がUGAコドン下に位置しなければならず、これと連携して、タンパク質内に導入するためのselシステム(SelABCD)が確保されなければならない(非特許文献5)。
【0025】
前記PrdBタンパク質は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができ、スティックランド反応(Stickland reaction)を有する菌株のPrdBタンパク質をコードする配列であれば制限なく用いられてもよい。代表的な例として、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)またはLactobacillus salivarius由来のPrdBタンパク質であってもよいが、これに制限されない。その例として、配列番号5のアミノ酸配列または配列番号21のポリペプチド配列によってコードされるアミノ酸配列であってもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、本出願の前記PrdBタンパク質は、配列番号5及び前記配列番号21と少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性または同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有しながら、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有するPrdBタンパク質も、本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0026】
本出願において、用語、「PrdHタンパク質」は、D-プロリンレダクターゼを構成するPrdAタンパク質及びPrdBタンパク質をコードする遺伝子の間に存在する遺伝子ORFを用いてコードされた新規タンパク質を意味する。本出願では、これをPrdHと命名した。また、D-プロリンレダクターゼ活性を有する菌株の種属または特性に応じて、前記PrdHタンパク質はPrdAまたはPrdBと一部重なって存在してもよく、PrdHの停止コドン(Stop codon)がPrdBの開始コドン(Start codon)の後に存在してもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0027】
前記PrdHタンパク質はPrdAタンパク質及びPrdBと同時発現されて、PrdAタンパク質の正確な自己切断及びピルボイル基の導入を誘導することにより、活性型D-プロリンレダクターゼで構成されるようにする。具体的には、前記PrdHタンパク質はスティックランド反応(Stickland reaction)を有する菌株のPrdHタンパク質をコードする配列であれば制限なく用いられてもよい。つまり、スティックランド反応(Stickland reaction)を有する菌株のPrdAタンパク質及びPrdBタンパク質をコードする遺伝子の間に存在する遺伝子ORFを含む配列であれば、制限なく用いられてもよい。代表的な例として、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)またはLactobacillus salivarius由来PrdHタンパク質であってもよいが、これに制限されない。Peptoclostridium difficile 630由来PrdHタンパク質とLactobacillus salivarius由来のPrdHタンパク質は、40%の相同性または同一性を有し、前記各2種の微生物由来のPrdAタンパク質及びPrdBタンパク質をコードする遺伝子の間に存在する遺伝子ORFという共通点を有する。より具体的な例では、前記のPrdHタンパク質は、配列番号1または配列番号23のアミノ酸配列からなるポリペプチド配列によってコードされるアミノ酸配列であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0028】
また、本出願の前記PrdHタンパク質は、配列番号1または配列番号23と少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性または同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有しながら、前記タンパク質に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有するPrdHタンパク質も、本出願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0029】
本出願において、相同性(homology)及び同一性(identity)は、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と関連する程度を意味し、パーセンテージで表示されてもよい。用語、相同性及び同一性は、多くの場合、相互交換的に用いられてもよい。
【0030】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムによって決定され、用いられるプログラムによって確立されたデフォルトのギャップペナルティが一緒に利用されてもよい。実質的に、相同性(homologous)を有するか同一な(identical)の配列は、一般的に、配列全体または全長と少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%以上の中間または高い厳しい条件(stringent conditions)でハイブリッドしてもよい。ハイブリッド化はポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0031】
任意の2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、非特許文献6と同じデフォルトのパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを利用して決定してもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite、非特許文献7)(バージョン5.0.0またはそれ以降のバージョン)で実行されるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献8)を用いて決定してもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic AcidsResearch 12: 387(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA( Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403(1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994、及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて、相同性、類似性または同一性を決定してもよい。
【0032】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、非特許文献9に公知されたように、例えば、非特許文献8のようなGAPコンピュータプログラムを利用して配列情報を比較することによって決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち、より短いものからのシンボルの全体数で同様の配列されたシンボル(つまり、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を割った値として定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法の比較マトリックス(同一性のための1及び非同一性のための0の値を含有する)及び非特許文献10に開示されたように、非特許文献11の加重された比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップでの各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含んでもよい。したがって、本願で用いられるものとして、用語、「相同性」または「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示す。
【0033】
また、本願で「特定の配列番号に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質」と記載されていても、その配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一あるいは相応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本出願で用いることができるのは自明である。具体的には、当該配列番号のアミノ酸配列の前後にタンパク質の機能を変更していない配列の追加または自然的に発生しうる突然変異、保存的置換、あるいはその同義変異(synonymous mutation)を除外することなく、これらの配列の追加、あるいは突然変異を有する場合でも、本願の範囲内に属するのが自明である。
【0034】
本出願において、用語、「保存的置換(conservative substitution)」は、アミノ酸配列内の1つのアミノ酸を類似の構造的及び/または化学的性質を有する別のアミノ酸に置換させることを意味する。前記変異型は、1つ以上の生物学的活性を依然として保有しながら、例えば、1つ以上の保存的置換を有してもよい。これらのアミノ酸置換は、一般的に残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/または両親媒性(amphipathic nature)での類似性に基づいて発生することができる。例えば、陽に荷電された(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン、及びヒスチジンを含み;陰に荷電された(酸性)アミノ酸は、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含み;芳香族アミノ酸は、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含み;疎水性アミノ酸は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンを含む。通常的に、保存性置換は生成されたポリペプチドの活性にほとんど影響を与えないか、または影響を及ぼさない。前記配列番号1または配列番号23からなるアミノ酸配列を有するPrdHタンパク質をコードするポリヌクレオチドも、本発明の範囲内に属し、例えば、配列番号2または配列番号24の塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)により前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、コーディング領域から発現されるタンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内で、コーディング領域に多様な変形が行われてもよい。
【0035】
コドン縮退性(codon degeneracy)によって、前記配列番号1または配列番号23のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそれと相同性または同一性を有するタンパク質に翻訳されうるポリヌクレオチドも含まれるのは自明である。また、公知の遺伝子配列から調製されうるプローブ、例えば、前記塩基配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化し、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする配列であれば制限なく含まれてもよい。前記「厳しい条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al.,)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性が高い遺伝子同士、40%以上、85%以上、具体的には、90%以上、より具体的には、95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性または同一性を有する遺伝子同士でハイブリッド化する。そして、それより相同性または同一性が低い遺伝子同士はハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC 、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を挙げられる。
【0036】
混成化は、たとえ混成化の厳密度によって塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化が可能であるヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また、実質的に類似の核酸配列だけでなく、全体配列に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。
【0037】
具体的には、相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者によって適切に調節されてもよい。
【0038】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳密度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野でよく知られている(非特許文献12参照)。
【0039】
本出願において、用語、「活性の強化」は、酵素タンパク質の活性が導入されたり、微生物が有する内在的活性または変形前の活性に比べて活性が向上したことを意味する。前記活性の「導入」は、自然的あるいは人為的に微生物が本来有していなかった特定タンパク質の活性が現れるようになることを意味する。「内在的活性」は、自然的または人為的な要因による遺伝的変異で微生物の形質が変化する場合、形質変化前の親菌株が本来有していた特定タンパク質の活性をいう。
【0040】
例えば、前記活性強化は、外来のD-プロリンレダクターゼを宿主細胞に導入したり、導入して強化すること、または内在的D-プロリンレダクターゼの活性を強化することをすべて含んでもよい。
【0041】
具体的には、本出願において活性の増加は、
1)前記酵素を暗号化するポリヌクレオチドのコピー数の増加、
2)前記ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列の変形、
3)前記酵素の活性が増強されるように染色体上のポリヌクレオチド配列の変形、または
4)その組み合わせによって強化されるように変形する方法などにより行われてもよいが、これに制限されない。
【0042】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれに制限されないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることによって行なわれてもよい。また、コピー数の増加の一様態として、その酵素の活性を示す外来ポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入して行われてもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記酵素と同じ/類似した活性を示す限り、その由来や配列に制限されず用いられてもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行われてもよく、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現されることによって酵素が生成され、その活性が増加されてもよい。
次に、2)ポリヌクレオチドの発現が増加するような発現調節配列の変形は、特にこれに制限されないが、前記発現調節配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行うか、さらに強い活性を有する核酸配列に交替することによって行われてもよい。前記発現調節配列は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。具体的に、ポリヌクレオチド発現単位の上部には本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが連結されてもよいが、前記強力なプロモーターの例としては、CJ7プロモーター、lysCP1プロモーター、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceAあるいはaceBプロモーターなどがある。前記プロモーターとポリヌクレオチドが作動可能に連結されて前記酵素をコードするポリヌクレオチドの発現率を向上させることができるが、これに限定されない。
【0043】
また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の変形は、特にこれに制限されないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性をより強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで発現調節配列上の変異を誘導して実行するか、さらに強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に交替することによって行われてもよい。
【0044】
最後に、4)前記1)~3)の組み合わせによって強化されるように変形する方法は、前記酵素を暗号化するポリヌクレオチドのコピー数の増加、その発現が増加するように発現調節配列の変形、染色体上の前記ポリヌクレオチド配列の変形及び前記酵素の活性を示す外来ポリヌクレオチドまたはそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの変形の中の1つ以上の方法を一緒に適用して行なわれてもよい。
【0045】
本出願で用いられた用語、「ベクター」は、適合した宿主内で目的タンパク質を発現できるように、適合の調節配列に作動可能に連結された前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。前記調節配列は、転写を開始しうるプロモーター、このような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合のmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製されたり機能することができ、ゲノムそのものに統合されてもよい。
【0046】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界に知られている任意のベクターを用いてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然の状態であるか、組換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとして、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いてもよいが、これに制限されない。
【0047】
本出願で使用可能なベクターは、特に制限されるものではなく、公知の発現ベクターを用いてもよい。また、細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入させてもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換えによって行われてもよいが、これに限定されない。前記染色体に挿入されたかどうかを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわち目的核酸分子が挿入されたかどうかを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存したり他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選別できる。
【0048】
本出願において、用語、「形質転換」は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは宿主細胞内で発現することさえできれば、宿主細胞の染色体内に挿入され位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、これらをすべて含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、あらゆる形態で導入されるものであっても構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、それ自体で発現されるのに必要なすべての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含んでもよい。また、前記発現カセットの内部または外部には標的タンパク質の効率的な生産を助けることができる様々な因子が含まれてもよい。前記発現カセットは、それ自体の複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されない。前記形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するあらゆる方法も含まれており、宿主細胞に応じて当分野で公知のように適合した標準技術を選択して行ってもよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(Ca(H2PO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、 DEAEデキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウムDMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0049】
また、前記において、用語、「作動可能に連結された」というのは、本出願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と、前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は、当業界の公知の遺伝子組換え技術を利用して製造してもよく、部位特異的DNA切断及び連結は当業界の切断及び連結酵素などを用いて製作してもよいが、これに制限されない。
【0050】
また、本出願の一つの具体的な例は、前記PrdAタンパク質、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の活性が強化された活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物に、さらにPrdD、PrdE、及びPrdE2からなる群から選択される1つ以上のタンパク質の活性が強化された、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を提供する。
【0051】
また、本出願の一つの具体的な例は、PrdAタンパク質、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の活性が強化された活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物に、さらにPrdC、PrdG、またはPrdFからなる群から選択される1つ以上のタンパク質の活性が強化された、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を提供する。
【0052】
前記「PrdDタンパク質、PrdEタンパク質、PrdE2タンパク質、PrdCタンパク質、PrdGタンパク質、PrdFタンパク質」は、D-プロリンレダクターゼのPrdオペロンを構成するタンパク質を意味する。具体的には、D-プロリンレダクターゼを構成しているPrdA及びPrdBタンパク質のほかに、prdオペロンを構成しているタンパク質はPrdDEE2CGFRとして知られている。現在までに最もよく知られているprdオペロンはClostridium sticklandii菌株に存在し、前記タンパク質の名称はC. stricklnadiiのオペロン(NCBI GenBank:FP565809.1)の構成を基準とする(非特許文献13)。
【0053】
Prdオペロンを構成している各タンパク質の機能は明確に究明されていなかったが、PrdD、PrdE、及びPrdE2タンパク質はPrdAタンパク質と高い配列相同性または同一性を有している。このうち、PrdDタンパク質はbeta-PrdAタンパク質と高い相同性または同一性を示し、PrdE及びPrdE2タンパク質はalpha-PrdAタンパク質と高い相同性または同一性を示す。前記PrdD、PrdE、及びPrdE2タンパク質は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。本出願でPrdD、PrdE、及びPrdE2タンパク質は、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdD、PrdE、及びPrdE2タンパク質、具体的には、配列番号7、9、11のアミノ酸配列または配列番号8、10、12のポリヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0054】
PrdCタンパク質はNADHを用いてD-プロリンレダクターゼの電子伝達に関与することが報告されており(非特許文献14)、PrdGタンパク質は膜タンパク質として知られているが、その機能性について報告されたことはない。前記PrdCタンパク質は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。本出願でPrdC、PrdGタンパク質はPeptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdC、PrdGタンパク質、具体的には、配列番号13、15のアミノ酸配列または配列番号14、16のポリヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0055】
また、PrdFタンパク質はプロリンラセマーゼ(proline racemase)としてプロリンの光学異性体の形成に関与するタンパク質として知られており、PrdRタンパク質はPrdオペロンの活性化に関連する機能を有することが報告されている(非特許文献1)。前記PrdFタンパク質は公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。本出願でPrdFタンパク質はPeptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdFタンパク質、具体的には、配列番号17のアミノ酸配列または配列番号18のポリヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0056】
本出願において、用語、「活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物」とは、PrdAタンパク質の正確な自己切断を介して得られたピルボイル基(pyruvoyl group)が結合されたalpha-PrdAとbeta-PrdA及びPrdBで構成された活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を意味する。前記「微生物」は、活性型D-プロリンレダクターゼを生産しうる微生物であれば、原核微生物及び真核微生物いずれも含まれてもよい。例えば、Escherichia属、Erwinia属、Serratia属、Providencia属、Corynebacterium属、及びBrevibacterium属に属する微生物菌株が含まれてもよく、エシュリキア属の例として大腸菌であってもよいが、これに制限されない。
【0057】
本出願の前記D-プロリンレダクターゼ活性を有するポリペプチドを発現することができる活性型D-プロリンレダクターゼを生産するエシュリキア属微生物は、前記ベクターの導入以外にも、様々な公知の方法により前記ポリペプチドを発現することができる微生物のすべて含んでよい。
【0058】
本出願の別の様態は、前記活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を培地で培養する段階、及び前記微生物または培地から活性型D-プロリンレダクターゼを回収する段階を含む、活性型D-プロリンレダクターゼを生産する方法であってもよい。
【0059】
前記「活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物」については、前記説明した通りである。
【0060】
前記「培養」は、前記微生物を適当に調節された環境条件で生育させることを意味する。本願の培養過程は、当業界で知られている適当な培地と培養条件に応じて行われてもよい。このような培養過程は選択された菌株に応じて、当業者が容易に調整して用いてもよい。前記微生物を培養する段階では、特にこれに制限されないが、公知の回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行われてもよい。このとき、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例えば、リン酸または硫酸)を用いて、適正pH(例えば、pH5~9、具体的には、pH6~8、最も具体的には、pH6.8)を調節してもよい。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよく、また、培養物の好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気の状態を維持するために気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養温度は20~45℃、具体的には、25~40℃を維持してもよいが、これに制限されない。培養期間は目的の有用物質の生産量が収得されるまで続いてもよく、具体的には、約10~160時間培養してもよいが、これに制限されるものではない。また、用いられる培養用培地は、炭素供給源としては、糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例えば、大豆油、ヒマワリの種油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例えば、酢酸)などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆泊分及びウレア)、または無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、及び硝酸アンモニウム)などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに相応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。また、培地には他の金属塩(例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含んでもよい。
【0061】
前記活性型D-プロリンレダクターゼを生産する方法は、当業界に公知された最適化された培地及び培養条件で、当業者によって容易に決定されてもよい。前記活性型D-プロリンレダクターゼを回収する段階は、当該分野で公知の適切な方法を用いて行われてもよい。例えば、遠心分離、ろ過、蒸留、イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが用いられてもよいが、これに制限されるものではない。
【0062】
また、前記回収段階は精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の適切な方法を用いて行われてもよい。したがって、前記の回収された活性型D-プロリンレダクターゼは、精製された形態または活性型D-プロリンレダクターゼを含有した微生物発酵液であってもよい。
【0063】
本出願の別の様態は、前記活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物またはそれから生産された活性型D-プロリンレダクターゼを用いてD-プロリンまたはその類似体を還元方法によって転換させる方法であってもよい。
【0064】
具体的には、前記活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物またはそれから生産された活性型D-プロリンレダクターゼを用いて、アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid、GABA)及び5-アミノ-4-ヒドロキシペンタン酸(5-amino-4-hydroxypentanoic acid)からなる群から選択される1つ以上を生産する方法であってもよい。
【0065】
前記D-プロリン類似体は、D-プロリンと類似した構造を有する物質であって、カルボキシル基とアルファ炭素、アミノ基が順次連結され、前記アルファ炭素とアミノ基を含むリング構造を有する物質であれば、リングのサイズに関係なく、本出願の活性型D-プロリンレダクターゼによって還元されうるすべての類似体を含む。具体的には、D-アゼチジン-2-カルボン酸(D-azetidine-2-carboxylic acid)、トランス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(trans-4-hydroxy-D-Proline)、シス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(cis-4-hydroxy-D-Proline)からなるグループから選択されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0066】
また、前記活性型D-プロリンレダクターゼによる還元は、D-プロリンまたはその類似体の構造でアルファ炭素とアミノ基との間の結合が切れて、リング構造が解ける転換反応を意味する。具体的には、D-プロリンは、活性型D-プロリンレダクターゼによって5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)に転換されうる。また、前記D-アゼチジン-2-カルボン酸(D-azetidine-2-carboxylic acid)の場合、D-プロリンに比べて一つの炭素が不足した正方形リング状の構造を有し、活性型D-プロリンレダクターゼによって転換反応が進行される場合、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid、GABA)が生成されうる。また、D-プロリンのリング構造にヒドロキシル基(-OH)が追加された形態のシス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(cis-4-hydroxy-D-Proline)またはトランス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(trans-4-hydroxy-D-Proline)は活性型D-プロリンレダクターゼによって転換反応が進行される場合、5-アミノ-4-ヒドロキシペンタン酸(5-amino-4-hydroxypentanoic acid )が生成されうるが、これに制限されない。
【0067】
本出願の別の様態は、PrdAタンパク質及びPrdBタンパク質と同時発現されて、非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換させる活性を有するPrdHタンパク質であってもよい。
【0068】
前記「PrdAタンパク質」、「PrdBタンパク質」、「PrdHタンパク質」、「活性型D-プロリンレダクターゼ」については、前記説明した通りである。
【0069】
本出願において、用語、「同時発現」は、2つ以上のタンパク質の発現または2つ以上のタンパク質をコードする遺伝子の発現が同時に示されることを意味する。前記遺伝子またはタンパク質の発現方法は、当業界に公知された方法の中から、当業者によって容易に決定してもよい。
【0070】
本出願において、用語、「非活性型D-プロリンレダクターゼを活性型D-プロリンレダクターゼに転換」とは、非活性状態であるD-プロリンレダクターゼが活性型D-プロリンレダクターゼの活性を有するように転換されることを意味する。非活性型D-プロリンレダクターがPrdAタンパク質の正確な自己切断を介して得られたピルボイル基(pyruvoyl group)が結合されたalpha-PrdAとbeta-PrdA及びPrdBで構成された活性型D-プロリンレダクターゼに転換されることを意味する。前記「非活性型D-プロリンレダクターゼ」はPrdAタンパク質が自己切断されないか、自己切断されてもピルボイル基(pyruvoyl group)が結合されていないalpha-PrdAとbeta-PrdAで構成されるか、PrdAまたはPrdBのタンパク質が発現されないか、または発現されても活性がない場合を意味してもよい。
【0071】
本出願の別の様態は、prdAまたはprdAとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階及びprdBまたはprdBとprdH遺伝子を含む発現カセットを宿主細胞に形質転換する段階を含む、活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物を製造する方法であってもよい。
【0072】
前記「PrdAタンパク質」、「PrdBタンパク質」、「PrdHタンパク質」、「発現カセット」、「活性型D-プロリンレダクターゼ」、「活性型D-プロリンレダクターゼを発現する微生物」については、前記説明した通りである。
【0073】
以下、本出願の実施例により詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれらの実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例1:PrdA及びPrdHタンパク質の発現
1-1:PrdAタンパク質の発現のための遺伝子の選定
PrdAタンパク質の発現のためにスティックランド反応(Stickland reaction)を有する代表的な菌株として知られているPeptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のD-プロリンレダクターゼPrdAタンパク質のアミノ酸配列(Q17ZY9、UniProtKB、配列番号3)を対象に実験を行った。前記D-プロリンレダクターゼPrdAタンパク質の遺伝子の塩基配列(CD630_32440、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号4)を用いて発現ベクターを構成した。
【0075】
1-2:PrdA発現ベクター(pETDuet_H6-prdA-H6)の製作
前記塩基配列を対象に、両末端にウエスタンブロット分析のための6×ヒスチジンタグ(H6)を追加し、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNdeI、XhoIの制限酵素配列を有する遺伝子を合成した。合成された遺伝子とpETDuet-1ベクターをNdeI/XhoI制限酵素を用いて特異的に切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保した後、T4リガーゼ酵素反応を介してPrdA発現ベクター(pETDuet_H6-prdA-H6)を構築した。
【0076】
1-3:PrdAタンパク質の自己切断の位置特異的変異の発現ベクター(pETDuet_H6-prdA(C421A)-H6)の製作
また、PrdAタンパク質の自己切断が起こる位置として知られている421番目のアミノ酸にアラニンスキャニング(alanine scanning)方法を適用した。421番目のアミノ酸であるシステインをアラニンに置換(C421A)するための位置特異的変異(site-directed mutagenesis)を行った。このため、前記構築されたpETDuet_H6-prdA-H6ベクターとC421A変異のために設計された配列番号25と26のプライマー(表1)をPfu PCRプレミックスに添加して遺伝子を増幅した。この際、PCR反応は、94℃で1分の変性、55℃で1分のアニーリング、及び72℃で10分間の伸長過程を30回繰り返した。このPCR結果にDpnI(37℃、3時間)を処理して大腸菌(DH5α)に形質転換させた。形質転換された大腸菌を培養して菌体を確保した後、プラスミドベクターを分離し、配列確認を介してpETDuet_H6-prdA(C421A)-H6ベクターを確保した。
【0077】
【0078】
1-4:PrdA及びPrdHタンパク質を同時に発現できる発現ベクター(pETDuet_PrdH_H6-prdA-H6)の製作
PrdAタンパク質の自己切断過程を誘導するためにPeptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のprdオペロンを構成するタンパク質のうち、構造タンパク質であるPrdA及びPrdBをコードする遺伝子の間に存在する遺伝子ORFを用いてコードされた新規タンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY5、UniProtKB、配列番号1/塩基配列:CD630_32430、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号2;以下PrdHタンパク質と命名する)の同時発現を試みた。このため、前記塩基配列を対象に、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNcoI/NotI組み合わせの制限酵素配列を有する遺伝子を合成し、合成されたprdH遺伝子と既に構築されたpETDuet_H6-prdA-H6ベクターをNcoI/NotI制限酵素を用いて特異的に切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保し、T4リガーゼ酵素反応を介してPrdAとPrdHタンパク質を同時に発現できる発現ベクター(pETDuet_PrdH_H6-prdA-H6 )を構築した。
【0079】
1-5:構築された3つの発現ベクターのPrdAタンパク質の発現有無及びPrdAの自己切断有無の確認
次の段階で、前記構築されたpETDuet_H6-prdA-H6、pETDuet_H6-prdA(C421A)-H6、またはpETDuet_PrdH_H6-prdA-H6発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換した後、アンピシリン抗生剤(0.1mg/ml)が含まれているLB培地(50ml)に接種して、37℃、200rpmの条件で培養を行った。
【0080】
目的タンパク質の過発現を誘導するためにOD600値が0.5~0.6に達した時に、0.1mMイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(Isopropylβ-D-1-thiogalactopyranoside、以下IPTG)を添加した。
【0081】
また、基質結合を介したPrdAタンパク質の自己切断を誘導する目的として、pETDuet_H6-prdA-H6ベクターで形質転換された大腸菌を培養した培養液には、基質であるD-プロリン(10mM)を添加または未添加して培養した。
【0082】
以後、30℃、200rpm攪拌条件または30℃、静置培養条件で、それぞれ16時間を追加で培養した。静置培養条件は発現されたPrdAタンパク質の非特異的分解現象を軽減するために攪拌過程を省略して行われた。
【0083】
組換え発現されたPrdAタンパク質の発現有無を確認するために、確保された菌体を破砕した後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分)を介して上澄み液を分離し、SDS-PAGE分析及びウエスタンブロット分析を行った。分析の結果、PrdAタンパク質の理論分子量と同じ67.6kDaの分子量を有する目的タンパク質の発現を確認した(
図2)。しかし、いずれも不活性のPrdAタンパク質が有する自己切断されていないpro-PrdAタンパク質の形態で発現され、これにより示される追加のタンパク質の生成(alpha-PrdA、21.9kDa及びbeta-PrdA、44.7kDa)も確認されなかった。また、ウェスタンブロットの結果で示された非特異的に分解されたタンパク質のバンドを確認することにより、自己切断されていないpro-PrdAタンパク質の構造的な不安定性によりタンパク質の分解が多く起こったことを確認した(
図2、lane 2))。また、自己切断が起こる位置として知られているPrdAタンパク質の421番目のシステイン配列をアラニンに置換したPrdA(C421A)変異タンパク質の発現パターン様相及び野生型PrdAの発現パターンが同じであることからPrdAタンパク質の独立した機序では自己切断が起こらないことを再確認した(
図2、lane 3)。また、基質結合を介してPrdAタンパク質の自己切断を誘導するためにD-プロリンを添加したり(
図2、lane 4)、PrdAタンパク質をPrdHタンパク質と同時に発現した場合も、PrdAタンパク質の自己切断は起こらないことを確認した(
図2、lane 5)。
【0084】
PrdAタンパク質を単独で発現した場合、発現されたタンパク質の非特異的分解現象を軽減するために攪拌過程なしに静置培養されたPrdAタンパク質の発現パターンを分析した。この場合、比較的低いレベルの発現量のため、タンパク質自体の分解現象が改善されたが、自己切断は起こらないことが確認された(
図3、lane 3,4)。具体的には、beta-PrdAタンパク質と同じようなサイズの切断タンパク質を確認することができたが、alpha-PrdAタンパク質の確認がされないことを介して非特異的切断によって生成された切断タンパク質であることが確認できた。これらの結果は、先行研究の結果(特許文献1;非特許文献3)と同じ結果であることが確認できた。
【0085】
実施例2:PrdBタンパク質の発現
2-1:PrdBタンパク質の発現のための遺伝子の選定
PrdBタンパク質の発現のためにスティックランド反応(Stickland reaction)を有する代表的な菌株として知られているPeptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のD-プロリンレダクターゼPrdBタンパク質のアミノ酸配列(Q17ZY6、 UniProtKB、配列番号5)を対象に行い、前記タンパク質の遺伝子の塩基配列(CD630_32410、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号6)を用いて発現ベクターを構築した。
【0086】
2-2:PrdB発現ベクター(pCDFDuet_PrdB-H6)の製作
前記塩基配列を対象に、カルボキシル末端にウエスタンブロット分析のための6×ヒスチジンタグ(H6)を追加し、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNdeI、XhoIの制限酵素配列を有する遺伝子を合成した。合成された遺伝子とpCDFDuet-1ベクターをNdeI/XhoI制限酵素を用いて特異的に切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保した後、T4リガーゼ酵素反応を介してPrdB発現ベクター(pCDFDuet_PrdB-H6)を構築した。
【0087】
2-3:PrdBタンパク質内セレノシステイン導入用ベクターの作製
PrdBタンパク質はセレノタンパク質(selenoprotein)として知られている。つまり、PrdBタンパク質のアミノ酸配列のうちセレノシステインを含んでおり、前記セレノシステインは非天然アミノ酸であるため、一般的なタンパク質生合成過程を経て導入が難しい技術的な限界を持っている。したがって、本出願では、既公知技術であるselオペロンシステム(selABC)の導入(非特許文献5)を介してPrdBタンパク質のセレノシステインの導入を試みた。
【0088】
2-3-1:selAB導入ベクター(pACYCDuet_selB/pACYCDuet_selA_selB)
このため、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のSelAタンパク質(アミノ酸配列:Q182I2、UniProtKB/塩基配列:CD630_24950、NCBI GeneBank AM180355.1)とSelBタンパク質(アミノ酸配列:Q182I0、UniProtKB/塩基配列:CD630_24930、NCBI GeneBank AM180355.1)を用い、それぞれアミノ末端とカルボキシル末端にNcoI/NotI及びNdeI/XhoI組み合わせの制限酵素配列を有するように遺伝子を合成した。
【0089】
次の段階で市販ベクターであるpACYCDuet-1プラスミドベクター(Novagene)とselB遺伝子を対象にNdeI/XhoI組み合わせの制限酵素を処理してアガロースゲルを介して分離した後、T4リガーゼ反応を介してpACYCDuet_selBベクターを構築した。そして、前記ベクター(pACYCDuet_selB)を対象に、追加のNcoI/NotIの組み合わせの制限酵素反応を介してselA遺伝子を挿入して、最終的にpACYCDuet_selA_selBベクターを構築した。
【0090】
2-3-2:selC導入ベクター(pCDFDuet_prdB-H6_PselC-selC)
selC遺伝子はセレノシステイン特異的なtRNAであって、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のselC遺伝子(塩基配列:CDIF630_02727、NCBI GeneBank CP010905.1)とselC固有のプロモーター及びターミネーターを含むことできるようにアミノ末端から150個、カルボキシル末端から250個のヌクレオチドをさらに含み、最終的に両末端にXbaI制限酵素配列を添加して合成を行った。このように確保されたselC遺伝子と先に構築されたpCDFDuet_prdB-H6ベクターを対象にXbaI制限酵素処理した後、アガロースゲルを介して分離した後にT4リガーゼ反応を介して、最終的にpCDFDuet_PrdB-H6_PselC-selCベクターを構築した。
【0091】
2-4:構築された3つの発現ベクターのPrdBタンパク質の発現有無の確認
1)PrdBタンパク質単独の発現
前記実施例2-2で製作されたpCDFDuet_prdB-H6ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(スペクチノマイシン50μg/ml)が含まれているLB培地(50ml)で培養を行った(37℃ 、200rpm)。
【0092】
2)PrdBタンパク質及びselC同時発現
前記実施例2-3で製作されたpCDFDuet_prdB-H6-PselC_selCベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、培養方法は1)と同様に行った。
【0093】
3)PrdBタンパク質及びSelABタンパク質が同時発現された実施例2-2で製作されたpCDFDuet_prdB-H6及び実施例2-3で製作されたpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、培養方法は1)と同様に行った。
【0094】
4)PrdBタンパク質及びselABCの同時発現
実施例2-3で製作されたpCDFDuet_prdB-H6-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、培養方法は1)と同様に行った。
【0095】
目的タンパク質の過発現を誘導するためにOD600値が0.5~0.6に達した時に、0.1mM IPTGを添加した。また、セレノシステイン生合成及び導入に必要なセレンを供給するために、10μM亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)を供給または未供給した後、16時間をさらに培養した。獲得された大腸菌の菌体を破砕した後、遠心分離を介して上澄み液を分離してウェスタンブロット分析を行った。
【0096】
分析の結果、PrdBタンパク質を単独で発現した場合、セレノシステインの低い導入効率のために非常に低いレベルのPrdBタンパク質発現を確認し(
図4、lane 1、2)、PrdBタンパク質及びselC同時発現(
図4、lane 3、4)、またはPrdB及びSelABタンパク質の同時発現(
図4、lane 5、6)時にも、同じ結果を確認した(
図4)。しかし、PrdBタンパク質とselABC遺伝子が同時に発現された場合、PrdBタンパク質の発現量が格段に増加することを確認しており(
図4、lane 7)、これは、前記selオペロンを構成しているSelA及びSelBタンパク質とセレノシステイン特異的tRNAであるSelCの影響で非天然アミノ酸であるセレノシステインがPrdBタンパク質内に効率的に導入されたことを意味する。また、亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)を添加した場合(
図4、lane 8;最終濃度10μM)、添加していない場合(lane 7)と比較してPrdBタンパク質の発現量がさらに増加した結果を確認することができ、これを介してセレノシステインの効率的な導入システムの構築がPrdBタンパク質が発現量の増大に主要な要素であることを確認した。
【0097】
実施例3:PrdHタンパク質の機能性の検証及びPrdHタンパク質発現を含むD-プロリンレダクターゼの活性の評価
3-1:PrdH機能検証のためのD-プロリンレダクターゼタンパク質の発現
前記確認された情報をもとにD-プロリンレダクターゼの発現を試みており、そのために次のようなベクターの組み合わせを評価した。
【0098】
1)PrdA及びPrdBタンパク質の同時発現
既に構築されたPrdAタンパク質発現ベクター(pETDuet_H6-prdA-H6)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-H6-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地(50ml)で培養を進めた(37℃、200rpm)。
【0099】
2)PrdA、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の同時発現
既に構築されたPrdA及びPrdH同時発現ベクター(pETDuet_prdH_H6-prdA-H6)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-H6-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。培養方法は1)と同様に行った。
【0100】
3)PrdA(C421A)、PrdBタンパク質及びPrdHタンパク質の同時発現
既に構築されたPrdA(C421A)タンパク質とPrdHタンパク質の同時発現ベクター(pETDuet_prdH_H6-prdA(C421A)-H6)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-H6-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。培養方法は1)及び2)と同様に行った。
【0101】
目的タンパク質の過発現を誘導するために、培養液のOD600値が0.5~0.6に達した時に各培養液に0.1mM IPTGを添加し、10μMの 亜セレン酸ナトリウム供給した後、16時間を追加で培養した。
【0102】
3-2:PrdHタンパク質導入を介したPrdAタンパク質の自己切断確認-ウエスタンブロット分析
前記実施例3-1で得られた各培養液の大腸菌菌体を破砕した後、遠心分離を介して上澄み液を分離してウェスタンブロット分析を行った。
【0103】
分析の結果、PrdAタンパク質及びPrdBタンパク質だけを同時に発現した場合、PrdAタンパク質の自己切断現象は確認されなかった(
図5、lane 1)。しかし、PrdHタンパク質とPrdA及びPrdBタンパク質を同時に発現した場合、非活性形態のPrdAタンパク質(Pro-PrdAタンパク質)が消えると同時に、追加のタンパク質バンドが形成されたことを確認した(
図5、lane 2)。
【0104】
前記実験結果がPrdAタンパク質固有の自己切断メカニズムから起因されたことを確認するために、PrdAタンパク質の自己切断位置として知られている421番目のアミノ酸システインをアラニンに置換(C421A)してPrdB及びPrdHタンパク質と同時に発現した結果、Pro-PrdAタンパク質が維持されると同時に切断されたタンパク質は確認されなかった(
図5、lane 3)。これは追加で現れたタンパク質がPrdAタンパク質の421番目のシステインの位置で特異的に切断されたことを意味する。
【0105】
したがって、PrdHタンパク質がPrdAタンパク質の自己切断に不可欠なタンパク質であることを確認し、PrdAタンパク質の活性の確保に重要な機能をする補助タンパク質であることを確認した。
【0106】
これに加え、先行実施例を介してPrdAタンパク質とPrdHタンパク質を同時に発現したにもかかわらず、PrdAタンパク質の自己切断が起こらない結果(実施例1;
図2、lane 5)を介して、PrdAタンパク質の自己切断を誘導するためにはPrdHタンパク質だけでなく、PrdBタンパク質が同時に存在しなければならず、これはPrdAタンパク質とPrdBタンパク質が一定水準以上の複合体を優先的に形成した後、PrdHタンパク質によって切断される過程が進行されることを確認できた。
【0107】
3-3:PrdHタンパク質が同時発現されたD-プロリンレダクターゼ活性の評価 -TLC分析
3-1で獲得された大腸菌菌体を最終ODを50に補正して遠心分離を行った後、1次洗浄後1mLの0.1M リン酸緩衝液(pH8.0)に希釈した。次の段階で希釈された各サンプル200μlを分注して、DTT(最終濃度25mM)及びD-プロリン(最終濃度10mM)を添加し、6時間の反応後にTLC分析を行った。
【0108】
PrdA、PrdB及びPrdHタンパク質が同時発現された菌株の場合、TLC上で5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid、5-AVA)に対応するスポットが生成されることを確認しており(
図6、lane 1)、PrdHタンパク質が存在しない場合には活性が示されないことを確認した(
図6、lane 2)。これは、PrdHタンパク質の不在によりPrdAタンパク質の自己切断が起こらず、これによりD-プロリンレダクターゼの活性が示されないことを意味する。
【0109】
PrdA、PrdB及びPrdHタンパク質が同時発現された菌株をCC04-9007と命名し、2017年2月2日付けでブタペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託し、受託番号KCCM11963Pを与えられた。
【0110】
実施例4:PrdHタンパク質の汎用性の検証
4-1:PrdHタンパク質の汎用性検証のための菌株の選定
前記PrdHタンパク質がPrdAタンパク質の自己切断に汎用的に適用されうる必須の補助タンパク質であることを検証するために、Peptoclostridium difficile 630に加えて、スティックランド反応(Stickland reaction)を有する菌株として知られているLactobacillus salivarius由来のPrdA(以下LsPrdA)タンパク質の自己切断にPrdH(以下LsPrdH)タンパク質の関与有無を確認した。
【0111】
4-2:LsPrdA発現ベクター(pETDuet_H6-LsprdA-H6)の製作
LsPrdAタンパク質(アミノ酸配列:E1JLY6、UniProtKB、配列番号19/塩基配列:HMPREF9269_1797、NCBI GeneBank AEBA01000066.1、配列番号20)は、その遺伝子配列の両末端にウエスタンブロット分析のための6×ヒスチジンタグ(H6)を追加し、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNdeI、XhoIの制限酵素配列を有する遺伝子を合成した。pETDuet-1ベクターと前記合成された遺伝子を制限酵素NdeI/XhoI組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保してT4リガーゼ酵素反応を介してpETDuet_H6-LsprdA-H6発現ベクターを構築した。
【0112】
4-3:LsPrdA及びLsPrdHタンパク質を同時に発現できるベクター(pETDuet_LsprdH_H6-LsprdA-H6)の製作
さらにLsPrdHタンパク質(アミノ酸配列:E1JLY7、UniProtKB、配列番号23/塩基配列:HMPREF9269_1798、NCBI GeneBank AEBA01000066.1、配列番号24)の遺伝子配列の両末端にNcoI/NotIの組み合わせの制限酵素配列を添加した後に合成を行い、前記構築されたpETDuet_H6-LsPrdA-H6発現ベクターを対象に制限酵素NcoI/NotIの組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保してT4リガーゼ酵素反応を介してpETDuet_LsprdH_H6 -LsprdA-H6発現ベクターを構築した。
【0113】
4-4:LsPrdB発現ベクター(pCDFDuet_LsprdB(U151C)-H6)の製作
Lactobacillus salivarius由来のPrdB(以下LsPrdB)タンパク質(アミノ酸配列:E1JLY8とE1JLY9、UniProtKB、配列番号21/塩基配列:HMPREF9269_1799とHMPREF9269_1800、NCBI GeneBank AEBA01000066.1、配列番号22;配列のデータベース上でLsPrdBタンパク質内に存在する停止コドン(stop codon、UAG)配列が、セレノシステインの導入のための配列ではなくタンパク質の発現停止コドンとして認識され、2つのタンパク質または塩基配列で表される。したがって、前記2つの塩基配列及び2つの塩基配列の間に存在する配列をすべてLsPrdBタンパク質の塩基配列と推定して発現ベクターを構築した)は、その遺伝子カルボキシル末端にウエスタンブロット分析のための6×ヒスチジンタグ(H6)を追加した。また、PrdBタンパク質の効率的な発現のために、セレノシステインが導入されるコドン(UGA)が停止コドンとして認識されないようにシステインコドン(UGT)に置換した後、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNdeI、XhoIの制限酵素配列を有する遺伝子を合成した。
【0114】
これを基に、pCDFDuet-1ベクターと前記合成された遺伝子を制限酵素NdeI/XhoI組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保してT4リガーゼ酵素反応を介してpCDFDuet_LsPrdB(U151C) - H6発現ベクターを構築した。
【0115】
4-5:LsPrdHタンパク質導入を介したLsPrdA自己切断の確認-ウエスタンブロット分析
前記のように構築されたLsPrdAタンパク質発現ベクター(pETDuet_H6-LsprdA-H6)とLsPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_LsprdB(U151C)-H6)の組み合わせ、またはLsPrdA及びLsPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_LsprdH_H6-LsprdA-H6)とLsPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_LsprdB(U151C)-H6)の同時発現を行った。前記2つの組み合わせの発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm )。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加した後、16時間をさらに培養した。獲得された大腸菌菌体を破砕した後、遠心分離を介して上澄み液を分離してウェスタンブロット分析を行った。
【0116】
実験の結果、LsPrdAタンパク質及びLsPrdB(U151C)タンパク質を同時発現した場合、切断されていない形態のLsPrdAタンパク質(Pro-LsPrdAタンパク質)とLsPrdBタンパク質が発現されており、同時にLsPrdAタンパク質の非特異的分解現象を確認した(
図7、lane 1)。一方、LsPrdHタンパク質と同時発現した場合、Pro-LsPrdAタンパク質が減少するとともに追加的なタンパク質バンドが確認された結果から、LsPrdAタンパク質の自己切断現象を確認することができた(
図7、lane 2)。 LsPrdHタンパク質は、既に確保されたPrdHタンパク質と約55%レベルのアミノ酸配列相同性を有するが、ゲノムの構造上にprdA遺伝子とprdB遺伝子の間に位置している遺伝子ORFにコードされるという同様の特性を有している。
【0117】
これを介して、比較的に低いレベルの配列相同性を有するが、ゲノム構造上、同じような位置に存在している2つのタンパク質(PrdH及びLsPrdHタンパク質)の機能が同一であることを確認しており、菌株の種類及び配列相同性とは関係なく、活性型D-プロリンレダクターゼの生産のために必要段階であるPrdAタンパク質の自己切断過程を誘導するPrdHタンパク質の汎用的な機能性を確認した。
【0118】
実施例5:D-プロリンレダクターゼオペロンが全体発現されたタンパク質の活性の評価-PrdDEE
2
タンパク質との同時発現
活性が確認されたD-プロリンレダクターゼを対象に、他のprdオペロン内タンパク質の影響を評価するために、さらに同時発現を行った。その最初の段階としてPrdDEE2タンパク質の同時発現を行った。
【0119】
5-1:PrdA、PrdH及びPrdDEE2タンパク質を同時発現できるベクター(pETDuet_PrdH_prdADEE2)の製作
Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdDタンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY7、UniProtKB、配列番号7/塩基配列:CD630_32400、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号8)、PrdEタンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY2、UniProtKB、配列番号9/塩基配列:CD630_32390、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号10)、及びPrdE2タンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY3、UniProtKB、配列番号11/塩基配列:CD630_32380、NCBI GeneBank AM180355. 1、配列番号12)の各遺伝子をPrdAタンパク質と同時に発現できるように、各遺伝子の間にリボソーム結合配列(ribosome binding site)を添加した後、両末端にNdeI/XhoI組み合わせの制限酵素配列を追加して合成(prdADEE2)を行った。具体的には、実施例1-4で既に構築されたpETDuet_prdH_H6-prdA-H6発現ベクターと合成されたprdDEE2遺伝子を制限酵素NdeI/XhoI組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保し、T4リガーゼ酵素反応を介してpETDuet_prdH_prdADEE2発現ベクターを構築した。
【0120】
5-2:PrdA、PrdB、PrdH及びPrdDEE2タンパク質の同時発現及びD-プロリンレダクターゼの活性増大の確認 -TLC分析
PrdADEE2及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdADEE2)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_PrdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。
【0121】
前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムを供給した後、16時間をさらに培養した。獲得された大腸菌菌体を最終的なODを50に補正して遠心分離を行った後、1次洗浄後、1mLの0.1M リン酸緩衝液 (pH8.0)に希釈した。
【0122】
次の段階で、希釈された各サンプル200μlを分注し、DTT(最終濃度25mM)及びD-プロリン(最終濃度10mM)を添加した後、6時間の反応の後にTLC分析を行った。
【0123】
その結果、PrdAHBタンパク質の組み合わせに比べてPrdAHBDEE
2組み合わせの場合でTLC上5-アミノ吉草酸のスポットサイズが相対的に大きいだけでなく、D-プロリンレダクターゼの初期反応速度も速いことを確認し(
図6、lane 3)、これらの結果を介してPrdDEE
2タンパク質がD-プロリンレダクターゼの活性増大を誘導するという事実を確認することができた。
【0124】
実施例6:追加のPrdCタンパク質の発現及びD-プロリンレダクターゼの活性増大の確認
次の段階でPrdCタンパク質の同時発現を行った。D-プロリンレダクターゼの場合NADHを消費して転換反応を進行することが知られており、PrdCの場合、前記NADHを介した電子伝達に関与することが知られている。したがって、PrdCタンパク質がD-プロリンレダクターゼの電子伝達に寄与することになるだろう。そこで、PrdCタンパク質の効果を確認するために還元剤であるDTTの有無による実験を行った。
【0125】
6-1:PrdCタンパク質発現ベクター(pACYCDuet_SelA-PrdC_SelB)の製作
Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdCタンパク質(アミノ酸配列:Q17ZZ2、UniProtKB、配列番号13/塩基配列:CD630_32470、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号14)の遺伝子を既存のD-プロリンレダクターゼ発現システムに添加するために、SelA及びSelBタンパク質と同時に発現できるようにベクターを製作した。selAとprdC遺伝子の間にリボソーム結合配列(ribosome binding site)を添加した後、両末端にNcoI/NotIの組み合わせの制限酵素配列を追加して合成(SelA-PrdC)を行った。既に構築されたpACYCDuet_selA_selB発現ベクターと合成されたselA-prdC遺伝子を制限酵素NcoI/NotIの組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保し、T4リガーゼ酵素反応を介してpACYCDuet_selA-prdC_selB発現ベクターを構築した。
【0126】
6-2:PrdA、PrdB、PrdH及びPrdCタンパク質の同時発現及びD-プロリンレダクターゼの活性増大の確認 - TLC分析
PrdADEE2及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdADEE2)とPrdB及びPrdCタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA-prdC_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。
【0127】
前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムを供給した後、16時間をさらに培養した。獲得された大腸菌菌体を最終的なODを50に補正して遠心分離を行った後、1次洗浄後、1mLの0.1Mリン酸緩衝液(phosphate buffer、pH8.0)に希釈した。その対照群では、実施例5のPrdADEE2及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdADEE2)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)が同時発現された大腸菌を用いた。次の段階で希釈された各サンプル200μlを分注し、D-プロリン(最終濃度10mM)を添加した後、DTT(最終濃度25mM)の有無に基づいて6時間反応の後にTLC分析を行った。
【0128】
反応の結果、DTTを添加した場合に比べて相対的に低い反応速度が確認されたが、PrdCタンパク質が存在する場合にのみ、DTTが添加されていない条件にもかかわらずD-プロリンが転換され、5-アミノ吉草酸が生産されることを確認しした(
図8、lane 2)。これにより、PrdCタンパク質がD-プロリンレダクターゼの電子伝達に寄与するという事実を確認し、追加の還元剤(DTT)の添加なしに細胞内NADHなどの還元力を活用して転換反応が可能であることを確認した。
【0129】
実施例7:追加のprdGタンパク質の発現及びD-プロリンレダクターゼの活性増大の確認
PrdGタンパク質は膜タンパク質であると推定されるが、正確な機能については現在までに報告されていない。
【0130】
7-1:PrdG及びPrdBタンパク質を同時に発現できるベクター(pCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC)の製作
Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のPrdGタンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY0、UniProtKB、配列番号15/塩基配列:CD630_32360、NCBI GeneBank AM180355.1;配列のデータベース上PrdGタンパク質と命名されてはいないがC. sticklandii PrdGタンパク質の相同性に基づいてPrdGタンパク質と命名、配列番号16)の塩基配列を対象に、アミノ末端とカルボキシル末端にそれぞれNcoI/NotI組み合わせの制限酵素配列を有する遺伝子を合成し、合成されたPrdG遺伝子と既に構築されたpCDFDuet_prdB-PselC_selCベクターをNcoI/NotI制限酵素を用いて特異的に切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保し、T4リガーゼ酵素反応を介してPrdGタンパク質とPrdBタンパク質を同時に発現できるベクター(pCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC)を構築した。
【0131】
7-2:PrdA、PrdB、PrdH及びPrdCGタンパク質の同時発現及びD-プロリンレダクターゼの活性増大の確認-TLC分析
PrdA及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdBタンパク質発現ベクターの組み合わせ(pCDFDuet_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA_selB)、またはPrdAとPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdB及びPrdCGタンパク質の同時発現ベクターの組み合わせ(pCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA-prdC_selB )の同時発現を行った。
【0132】
前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムを供給した後、16時間をさらに培養した。獲得された大腸菌菌体を最終的なODを50に補正して遠心分離を行った後、1次洗浄後、1mLの0.1Mリン酸緩衝液(phosphate buffer、pH8.0)に希釈した。
【0133】
PrdGタンパク質が膜タンパク質であることを考慮して、PrdAHB組み合わせとPrdAHBCG組み合わせを対象に、希釈されたそれぞれのサンプル200μlを分注し、D-プロリン(最終濃度10mM)を添加した後、DTT(最終濃度25mM)の有無、1%グルコースの有無に応じて前記前細胞の反応だけでなく、同じOD条件で培養菌体の破砕液及びこれを遠心分離して得られた上澄み液に対する追加反応を同様に行っており、6時間反応後にTLC分析を行った。
【0134】
実験の結果、PrdCタンパク質が追加されているPrdAHBCG組み合わせの場合、DTTの有無に関係なく活性が示されることを再確認し(
図9、wo、lane 4~6)、特異的に菌体破砕液の上澄み液を対象にDTTを添加して反応を進行した場合、PrdAHBCG組み合わせの場合でPrdAHB組み合わせに比べて相対的に低いレベルの活性を確認した(
図9、DTT、lane 6)。
【0135】
これにより、発現されたD-プロリンレダクターゼが遠心分離を介してかなりの部分除去されたことを確認でき、これは膜タンパク質の特性を有したPrdGタンパク質との結合のため、遠心分離時、沈殿後に削去されたことが分かる。また、DTTを基にした転換反応の場合、前細胞及び細胞破砕液からPrdAHB及びPrdAHBCG組み合わせの両方が同様のレベルの活性を示したが、DTTの添加なしにNADH供給を増大するために、1%グルコースのみ添加した場合、PrdAHBCG組み合わせの場合にのみ活性が確認された(
図9、1%グルコース)。PrdCタンパク質がNADH利用性と関係があるという実施例6の実験結果を基に、PrdGタンパク質はPrdCタンパク質との連携により細胞内NADHの活用が容易なD-プロリンレダクターゼ複合体の形成を誘導することが分かった。つまり、DTTのような還元剤を使用する場合、媒介タンパク質の有無に関係なく、D-プロリン還元酵素に直接的に電子伝達が可能であるが、外部から添加された還元剤なしに細胞内NADHを使用する場合は、電子伝達を助けることができる媒介タンパク質(PrdCタンパク質)が必要であり、効率的な電子伝達システムの構築のためにPrdGタンパク質がD-プロリンレダクターゼの集積度を高める機能を行うことにより、活性の改善効果を誘導すると考えられる。
【0136】
実施例8:補助タンパク質PrdHを用いてD-プロリンから5-アミノ吉草酸を生産する菌株の製造
8-1:5-アミノ吉草酸の生産菌株の製作
微生物が糖源から5-アミノ吉草酸を生産するためには、D-プロリンレダクターゼの基質であるD-プロリンが供給されなければならない。しかし、大腸菌の場合、D-プロリンを生産する生合成経路がないためL-プロリンをD-プロリンに転換した後、これを活用する方向で代謝経路を設計した。具体的には、プロリン異性体形成能を有するプロリンラセマーゼ(proline racemase)が同時に存在しなければならない。したがって、本出願では、既公知技術であるプロリンラセマーゼの導入(非特許文献15)を介して実験を行った。
【0137】
このため、Peptoclostridium difficile 630(Clostridium difficile 630)由来のプロリンラセマーゼタンパク質(アミノ酸配列:Q17ZY4、UniProtKB、配列番号17/塩基配列:CD630_32370、NCBI GeneBank AM180355.1、配列番号18)の遺伝子prdFを既存のD-プロリンレダクターゼ発現システムに添加するために、PrdGタンパク質と同時に発現できるように各遺伝子の間にリボソーム結合配列(ribosome binding site)を添加した後、両末端にNcoI/NotI組み合わせの制限酵素配列を追加して合成(prdGF)を行った。
【0138】
既に構築されたpCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC発現ベクターと合成されたPrdGF遺伝子を制限酵素NcoI/NotIの組み合わせで切断した後、アガロースゲル分離を介して各遺伝子の切断を確保し、T4リガーゼ酵素反応を介してpCDFDuet_PrdGF_PrdB-PselC_selC発現ベクターを構築した。
【0139】
8-2:活性D-プロリンレダクターゼによる5-アミノ吉草酸の生産の確認 -LC/MS及びTLC分析
PrdA及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdBCG(pCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA-prdC_selBベクター)の組み合わせ、そしてPrdA及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdBCGFタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdGF_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA-prdC_selBベクター)の組み合わせ発現を行った。前記2つの組み合わせの発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1Mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1MM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムと1%のグルコース(NADH強化)を供給した後、30℃、200rpmで24時間さらに培養した。遠心分離を介して取得した培養液を対象に、LC/MS及びTLC分析を行った。
【0140】
実験の結果、プロリンラセマーゼが存在する場合、約67.7ppmの5-アミノ吉草酸を確認し(
図10、lane 3)、プロリンラセマーゼが存在しない場合は、5-アミノ吉草酸が全く生産されないことを確認した(
図10、lane 1~2)。つまり、生産された5-アミノ吉草酸は添加された糖源から大腸菌内の代謝過程を経てL-プロリン生産された後、プロリンラセマーゼによってD-プロリン形態に転換され、最終的に導入された活性型D-プロリンレダクターゼによって5-アミノ吉草酸が生産されたことが確認できる。
【0141】
8-3:培養培地内に添加されたD-プロリンから5-アミノ吉草酸の生産
糖源から直接発酵を介して5-アミノ吉草酸を生産する工程に加えて、活性型D-プロリンレダクターゼを含む微生物の培養中に外部から追加されたD-プロリンを5-アミノ吉草酸に転換させるための実験を行った。
【0142】
具体的には、培養培地内に添加されたD-プロリンから5-アミノ吉草酸の生合成が可能であるかを確認するための実験を行った。このため、既に構築されたPrdA及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdBCGタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdG_prdB-PselC_selC及びpACYCDuet_selA-prdC_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1Mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムと1%のグルコースを供給した後、5mM D-プロリンの有無に基づいて、30℃ 、200rpmで24時間さらに培養した。遠心分離を介して取得した培養液を対象にLC/MS分析を行った。
【0143】
分析の結果、D-プロリンを添加していない場合、5-アミノ吉草酸は確認されなかったが、5mMのD-プロリンを添加した場合、HPLC(Shimadzu)分析を介して平均196.7ppm(1.68mM)の5-アミノ吉草酸の生産が確認された。
【0144】
実施例9:D-プロリンレダクターゼベースのD-プロリン類似基質の評価
構築された活性型D-プロリンレダクターゼの活性をさらに確認するために、プロリン以外の様々な基質を対象に転換反応を行った。本実施例では、D-プロリンレダクターゼの基質としては、D-プロリンと類似した構造を有するD-アゼチジン-2-カルボン酸(D-azetidine-2-carboxylic acid、D-Aze)、D-プロリンのリング構造にヒドロキシル基(-OH)が追加された形態のシス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(cis-4-hydroxy-D-Proline)、トランス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(trans-4-hydroxy-D-Proline)が用いられた。
【0145】
このため、既に構築されたPrdA及びPrdHタンパク質発現ベクター(pETDuet_prdH_prdA)とPrdBタンパク質発現ベクター(pCDFDuet_prdB-P
selC_selC及びpACYCDuet_selA_selBベクターの組み合わせ)の同時発現を行った。前記3種類の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、抗生剤(アンピシリン0.1Mg/ml、スペクチノマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール30μg/ml)が含まれているLB培地で培養を行った(37℃、200rpm)。そして目的タンパク質の過発現を誘導するために、OD600値が0.5~0.6に達した時に0.1mM IPTGを添加し、10μM 亜セレン酸ナトリウムを供給した後、16時間さらに培養した。獲得された大腸菌菌体を最終的なODを50に補正して遠心分離を行った後、1次洗浄後、1mLの0.1M リン酸緩衝液(pH8.0)に希釈した。次の段階で希釈された各サンプル200μlを分注し、DTT(最終濃度25mM)と、様々な基質(最終濃度10mM、
図11A)を添加した後、6時間反応の後にTLC分析を行った。D-アゼチジン-2-カルボン酸はD-プロリンに比べて1つの炭素が不足している正方形リング形態の構造を有し、D-プロリンレダクターゼによって転換反応が進行される場合、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid 、GABA)が生成される。反応の結果、D-アゼチジン-2-カルボン酸の場合、D-プロリンに比べて比較的に低い反応速度を示すが、TLC上で明確なGABAの生産を確認することができた(
図11B、lane 6)。
【0146】
シス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(cis-4-hydroxy-D-Proline)またはトランス-4-ヒドロキシ-D-プロリン(trans-4-hydroxy-D-Proline)は、転換反応が進行される場合は、5-アミノ-4-ヒドロキシペンタン酸(5-amino-4-hydroxypentanoic acid)が生成される。反応の結果、D-プロリンに比べて比較的に低い反応速度を示すが、ヒドロキシル基の異性体形状に関係なくTLC上での基質の減少に加え、新たに生成されたTLCスポットを確認することができた(
図11C、lane 5とlane 8)。
【0147】
これにより、発現された活性型D-プロリンレダクターゼの場合、既存に知られているD-プロリンだけでなく、リング構造の大きさが異なる基質だけでなく、追加の変形がなされた類似の基質に対しても転換反応が可能であることが確認できた。
【0148】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者は、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本出願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0149】
【配列表】