(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】注射用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20221021BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20221021BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20221021BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221021BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20221021BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221021BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20221021BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61K9/19
A61K47/69
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/12
A61K39/39
A61P43/00 121
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020549451
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038223
(87)【国際公開番号】W WO2020067453
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2018185532
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】盛田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】都竹 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】吉永 裕子
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047797(WO,A1)
【文献】Pharm. Res., (1991), 8, [6], p.792-795
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WT1キラーペプチド、WT1ヘルパーペプチドおよびシクロデキストリンを含む凍結乾燥製剤であって、キラーペプチドとして、
【化1】
または
【化2】
を含み、
ヘルパーペプチドとして、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)
を含み、
シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン(α-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、およびこれらの薬学上許容される塩からなる群から選択される1または2以上であり、
キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.1~2.0重量部であり、シクロデキストリンが0.2~5.0重量部であり、
さらにpH調整剤を含有し、pHが2~3である、凍結乾燥製剤。
【請求項2】
キラーペプチドが、
【化3】
である、請求項1に記載の凍結乾燥剤。
【請求項3】
キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.5~1.0重量部であり、シクロデキストリンが0.5~2.0重量部である、請求項1または2に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項4】
キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.75重量部であり、シクロデキストリンが1.0重量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、またはその薬学上許容される塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
さらにアルギニンまたはメチオニンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
アルギニンまたはメチオニンの量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.01~1.0重量部である、請求項6に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項8】
アルギニンまたはメチオニンの量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.1~0.5重量部である、請求項6または7に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項9】
メチオニンとして、L-メチオニンを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項10】
さらに有機酸を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項11】
有機酸の量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.01~1.0重量部である、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
有機酸の量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.05~0.5重量部である、請求項10または11に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
有機酸が酒石酸および/またはコハク酸である、請求項10~12のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
さらにアジュバントを含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項15】
アジュバンドの量が、キラーペプチド1重量部に対し1~500重量部である、請求項14に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項16】
アジュバンドの量が、キラーペプチド1重量部に対し5~100重量部である、請求項14または15に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項17】
アジュバンドが、フロイントアジュバント、モンタナイドおよびW/Oエマルションの中から選ばれるいずれか一つである、請求項14~16のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項18】
アジュバントがモンタナイドである、請求項14~17のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項19】
pH調整剤の量が、キラーペプチド1重量部に対し0.001~1000重量部である、請求項1~
18のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項20】
pH調整剤が塩酸である、請求項1~
19のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌ペプチドワクチン療法に用いる2種以上の細胞傷害性T細胞誘導活性を有するWT1タンパク質由来癌抗原ペプチドを含有する凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療は日々進化を遂げており、その中で特に近年注目を浴びているのが癌免疫療法である。癌免疫療法の一つである癌ペプチドワクチン療法は、癌細胞に特有に高発現するタンパク質のペプチド断片(癌抗原ペプチド)を患者に投与し、患者自身の持っている免疫力を高めて癌細胞を攻撃させる癌の治療方法であり、癌細胞に高発現し、正常細胞には発現しないタンパク質を選択することで、癌細胞のみを選択的に殺傷し得ることから、高い有効性と安全性とを有した癌療法として期待されている。
【0003】
一方、癌ペプチドワクチン療法に用いられる癌抗原ペプチドとしては、様々なキラーペプチドやヘルパーペプチドが開発されているが、いずれも現段階では実験的には用いられているものの医薬品としては実用化に至っていないのが現状である(特許文献1、2、3、非特許文献1)。
【0004】
本発明者らはこれまでに、癌ペプチドワクチン療法としてキラーペプチドとヘルパーペプチドを含む癌抗原ペプチドワクチンを見出し、現在医薬品としての開発を進めている(特許文献4、5、6)。これらは、一剤の中に複数の癌抗原ペプチドを含むことで、異なる遺伝子多型のヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen。以下、「HLA」と称する)を持つ対象を一剤でカバーできるなど汎用性が高く、また複数のキラーペプチドと共にヘルパーペプチドを含有することで複数の細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T-cell、以下、「CTL」と称する。細胞傷害性Tリンパ球 Cytotoxic T-lymphocyteと同義)とヘルパーT細胞を同時に誘導可能であり、より強力なCTL誘導活性が得られる等の利点があった。
【0005】
しかしながら、ペプチド抗原に含まれるアミノ酸残基の種類によっては注射溶液への溶解が困難な場合もあり、ペプチド抗原を複数混合したカクテルワクチンの場合では、さらに多様なアミノ酸から組成された各ペプチド抗原が様々な物性(電荷による溶解特性等)を示すため、1つの注射溶液中に複数種のペプチドを溶解し効率良くそれらに対応するCTLを誘導する最適な製剤を開発することは、困難な場合が多かった。また、ペプチドは、アミノ酸組成によっては溶液中で不安定なものもあり、凍結乾燥製剤とする場合においても溶解により凝集など劣化が生じるリスクが考えられた。上記の複数種のキラーペプチドおよび/またはヘルパーペプチドの混合物から凍結乾燥製剤を調製した場合にも、水を添加して再溶解する際に溶解困難な凝集塊を形成し、またヘルパーペプチドに由来する類縁物質が発生、増加する等の問題があった。したがって、現状の技術では、キラーペプチドとヘルパーペプチドのそれぞれ凍結乾燥製剤を別々のバイアルに準備した上で、投与前にヘルパーペプチドの凍結乾燥製剤を注射用水で溶解するステップと、その溶液の一部を抜き取りキラーペプチドの凍結乾燥製剤に加え溶解するステップを経て、さらにこれに適宜アジュバントを加えて混合する方法を採用し、上記の問題を克服してはいた。しかしながら、この方法では、類縁体の発生を防止する一般的な観点から、あらかじめ溶液として調製しておかず用時調製をする必要がある中で、医療現場において複数ステップを経て投与液を用時調製することは非常に煩雑である等、問題があった。また、あらかじめ複数の凍結乾燥製剤の製造が必要になることや、溶解ステップでのロスを考慮し最初の溶解ステップではペプチドを過剰量充填しておく必要がある等、製造コストの面でも問題があった。さらに2つのペプチドを別々に凍結乾燥後に1つのバイアルに詰め直すことも、無菌状態での操作が必要なことを考慮すれば製造現場では大きな負担となることが予想された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第00/06602号
【文献】国際公開第00/18795号
【文献】国際公開第2007/063903号
【文献】国際公開第2014/157692号
【文献】国際公開第2010/123065号
【文献】国際公開第2016/047797号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Blood,2010;166(2);177-179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、癌ペプチドワクチン療法に用いる2つ以上のペプチドを含む投与液の調製を容易にし、これらペプチドに関し、長期保存中の類縁体の発生・増加を抑えた混合凍結乾燥製剤として製剤化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の背景技術でも述べたとおり、癌ペプチドワクチン療法に用いる2つ以上のペプチドを含有する水溶液を凍結乾燥し、一つの凍結乾燥製剤として調製した場合には、水を添加して再溶解した際に凝集塊が形成される、また複数のペプチドの混合凍結乾燥製剤では長期保存中の類縁体の発生・増加する等の問題点を有していた。また、前記混合凍結乾燥製剤を水溶液に溶解させるには長時間を要し、医療現場での負担が大きいと予想された。本発明者らは、この課題を解決するために鋭意検討した結果、シクロデキストリン(CD)を用いることに着目し、添加剤を種々検討したところ、製造工程における安定性を保ちながらも再溶解時の凝集塊の生成抑制と長期保存中の安定性を両立させ、さらには再溶解時間を短縮した癌ワクチン製剤を見出し、本発明を完成するに至った。特にヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を含む凍結乾燥製剤とすることで、再溶解時に凝集塊がほとんど発生せず、また再溶解時間を大幅に短縮できる凍結乾燥製剤を調製できることを見出した。さらに、適量のメチオニンを添加して凍結乾燥させることで、課題であった長期保存中の類縁物質の発生、増加を抑えることに成功した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
[項1]複数種のペプチドおよびシクロデキストリンを含む凍結乾燥製剤。
【0012】
[項2]複数種のペプチドが4種、3種または2種のペプチドを含む、項1に記載の凍結乾燥製剤。
【0013】
[項3]ペプチドが、癌抗原ペプチドである、項1または項2に記載の凍結乾燥製剤。
【0014】
[項4]癌抗原ペプチドが、WT1タンパク質由来の連続する7~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体からなるキラーペプチドおよび/またはヘルパーペプチドである、項3に記載の凍結乾燥製剤。
【0015】
[項5]部分ペプチドが、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドを含む、項4に記載の凍結乾燥製剤。
【0016】
[項6]キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.1~2.0重量部であり、シクロデキストリンが0.2~5.0重量部である、項5に記載の凍結乾燥製剤。
【0017】
[項7]キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.5~1.0重量部であり、シクロデキストリンが0.5~2.0重量部である、項6に記載の凍結乾燥製剤。
【0018】
[項8]キラーペプチドが、WT1タンパク質のアミノ酸配列において連続する8~10残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体である項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0019】
[項9]キラーペプチドが、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL (配列番号:2)、
CMTWNQMNL (配列番号:3)、
CYTWNQMNL (配列番号:4)、
ALLPAVPSL (配列番号:5)、
SLGEQQYSV (配列番号:6)、
RVPGVAPTL (配列番号:7)、
VLDFAPPGA (配列番号:8)、
C-CMTWNQMNL (配列番号:9)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、
C-CYTWNQMNL (配列番号:10)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)、
【化1】
【化2】
および
【化3】
から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、または配列番号:2~10および式(2)乃至(4)から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドである、項8に記載の凍結乾燥製剤。
【0020】
[項10]キラーペプチドが、
【化4】
または
【化5】
の化合物である、項9に記載の凍結乾燥製剤。
【0021】
[項11]ヘルパーペプチドが、WT1タンパク質のアミノ酸配列において連続する14~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体である項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0022】
[項12]ヘルパーペプチドが、以下のアミノ酸配列:
KRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:11)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号:12)、
RSDELVRHHNMHQRNMTKL (配列番号:13)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:14)、
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:15)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:16)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:17)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:19)、
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号:20)、
SGQARMFPNAPYLPSC (配列番号:34)、
SGQAYMFPNAPYLPSC (配列番号:35)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号:36)、
SGQAYMFPNAPYLPSCLES (配列番号:37)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:38)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:39)、および
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:40)、
から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、または配列番号:11~20および34~40から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチドである、項11に記載の凍結乾燥製剤。
【0023】
[項13]ヘルパーペプチドが、以下のアミノ酸配列:
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:15)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:16)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:17)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:19)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号:20)
から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである、項12に記載の凍結乾燥製剤。
【0024】
[項14]キラーペプチドとして、
【化6】
を含み、且つ
ヘルパーペプチドとして、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
を含む、項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0025】
[項15]キラーペプチドとして、
【化7】
を含み、且つ
ヘルパーペプチドとして、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
を含む、項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0026】
[項16]シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン(HE-β-CD)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CD)、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-CD)、およびこれらの薬学上許容される塩からなる群から選択される1または2以上である、項1~15のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0027】
[項17]シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン(α-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、およびこれらの薬学上許容される塩からなる群から選択される1または2以上である、項16に記載の凍結乾燥製剤。
【0028】
[項18]シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、またはこれらの薬学上許容される塩である、項17に記載の凍結乾燥製剤。
【0029】
[項19]キラーペプチドとして、
【化8】
を含み、且つ
ヘルパーペプチドとして、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
を含み、さらに
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を含む、項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0030】
[項20]キラーペプチドとして、
【化9】
を含み、且つ
ヘルパーペプチドとして、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
を含み、さらに
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を含む、項4~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0031】
[項21]さらにアルギニンまたはメチオニンを含む、項1~20のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0032】
[項22]アルギニンまたはメチオニンの量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.01~1.0重量部である、項21に記載の凍結乾燥製剤。
【0033】
[項23]アルギニンまたはメチオニンの量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.1~0.5重量部である、項22に記載の凍結乾燥製剤。
【0034】
[項24]メチオニンとして、L-メチオニンを含む、項21~23のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0035】
[項25]さらに有機酸を含有する、項1~24のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0036】
[項26]有機酸の量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.01~1.0重量部である、項25に記載の凍結乾燥製剤。
【0037】
[項27]有機酸の量が、ヘルパーペプチド1重量部に対し0.05~0.5重量部である、項26に記載の凍結乾燥製剤。
【0038】
[項28]有機酸が酒石酸および/またはコハク酸である、項25~27のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【0039】
[項29]さらにアジュバントを含有する、項1~28のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【0040】
[項30]アジュバンドの量が、キラーペプチド1重量部に対し1~500重量部である、項29に記載の凍結乾燥製剤。
【0041】
[項31]アジュバンドの量が、キラーペプチド1重量部に対し5~100重量部である、項29に記載の凍結乾燥製剤。
【0042】
[項32]アジュバンドが、フロイントアジュバント、モンタナイドおよびW/Oエマルションの中から選ばれるいずれか一つである、項29に記載の凍結乾燥製剤。
【0043】
[項33]アジュバントがモンタナイドである、項32に記載の凍結乾燥製剤。
【0044】
[項34]キラーペプチド5mgあたり、0.5~2mLの精製水で含有成分を溶解してから凍結乾燥して調製した、項4~33のいずれか一項に記載の凍結乾燥製剤。
【発明の効果】
【0045】
従来、キラーペプチドやヘルパーペプチド等の複数種のペプチド含むペプチドワクチンについては、溶解性の観点から、別々のバイアルに凍結乾燥製剤として製剤化し、使用時にそれぞれを水に溶解させて混合する必要があった。一方、本発明によれば、シクロデキストリンを添加して凍結乾燥させることで、単一のバイアルにおいて一製剤とすることができ、水に溶解する際も何ら困難なく投与液とすることができる。
さらに、適量のメチオニン等を添加して凍結乾燥させることで、ヘルパーペプチドに由来する類縁物質の発生、増加を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0047】
本発明は、2種以上の抗原ペプチドを含有するペプチドワクチン製剤に関する。
【0048】
本明細書において、「癌抗原ペプチド」とは、抗原提示細胞に提示され、CTL誘導活性を導くペプチドとして定義される。「WT1抗原ペプチド」とは、WT1タンパク質由来のアミノ酸配列を有し、MHCクラスIまたはMHCクラスIIに結合し、複合体として細胞表面に提示されることにより、キラーT細胞またはヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。本明細書において、MHCクラスIに結合し、キラーT細胞を誘導するWT1抗原ペプチドを「WT1キラーペプチド」、MHCクラスIIに結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを「WT1ヘルパーペプチド」と称する。WT1タンパク質は、限定はされないが、マウスまたはヒトWT1タンパク質が例示され、好ましくはヒトWT1タンパク質である。ヒトWT1タンパク質は、配列番号:1のアミノ酸配列を有する。
【0049】
WT1抗原ペプチドは、そのアミノ酸配列中のアミノ酸残基の一部または全部を修飾した修飾体であってもよい。そのような修飾体は、公知の方法にて修飾することができる。修飾体は、例えば、ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖中の官能基にエステル化、アルキル化、ハロゲン化、リン酸化、スルホン化、アミド化などを施したものであってもよい。また、ペプチドのN末端および/またはC末端に、種々の物質を結合させることができる。例えば、アミノ酸、ペプチド、それらのアナログ等を結合させてもよい。WT1抗原ペプチドにこれらの物質が結合している場合、これらの物質が例えば、生体内酵素により、あるいは細胞内プロセッシングなどの過程により処理され、最終的に当該WT1抗原ペプチドを生じるものであってもよい。これらの物質は、ペプチドの溶解性を調整するものであってもよく、耐プロテアーゼ作用等その安定性を向上させるものであってもよく、また例えば、所定の組織・器官に特異的にペプチドをデリバリーするようなものであってもよく、あるいはまた抗原提示細胞の取り込み効率を増強させる作用などを有するものであってもよい。これらの物質はまた、CTL誘導能を増大させるもの、例えば、当該WT1抗原ペプチド以外のキラーペプチドまたはヘルパーペプチドであってもよい。
【0050】
WT1抗原ペプチドは、炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、炭素-硫黄結合などのペプチド結合以外の結合によってアミノ酸残基が結合したものであってもよい。さらにWT1抗原ペプチドは、1またはそれ以上のD-アミノ酸を含んでいてもよい。
【0051】
上記のWT1抗原ペプチドの修飾体は例示であり、当業者であれば容易にそのバリエーションを想定し、製造し、効果を調べ、用いることができる。
【0052】
本発明における「アミノ酸残基」とは、ペプチドまたはタンパク質分子上で、ペプチドまたはタンパク質を構成しているアミノ酸の一単位に当たる部分を意味する。「アミノ酸残基」としては、天然もしくは非天然のα-アミノ酸残基、β-アミノ酸残基、γ-アミノ酸残基またはδ-アミノ酸残基が挙げられる。具体的には、天然のα-アミノ酸残基、オルニチン残基、ホモセリン残基、ホモシステイン残基、β-アラニン、γ-アミノブタン酸またはδ-アミノペンタン酸などが挙げられる。
【0053】
本発明における「アミノ酸残基」を略号で表示する場合、次の略号で記述する。
AlaまたはA:アラニン残基
ArgまたはR:アルギニン残基
AsnまたはN:アスパラギン残基
AspまたはD:アスパラギン酸残基
CysまたはC:システイン残基
GlnまたはQ:グルタミン残基
GluまたはE:グルタミン酸残基
GlyまたはG:グリシン残基
HisまたはH:ヒスチジン残基
IleまたはI:イソロイシン残基
LeuまたはL:ロイシン残基
LysまたはK:リジン残基
MetまたはM:メチオニン残基
PheまたはF:フェニルアラニン残基
ProまたはP:プロリン残基
SerまたはS:セリン残基
ThrまたはT:スレオニン残基
TrpまたはW:トリプトファン残基
TyrまたはY:チロシン残基
ValまたはV:バリン残基
Abu:2-アミノ酪酸残基(α-アミノ酪酸残基とも言う)
Orn:オルニチン残基
Cit:シトルリン残基
【0054】
本発明における「ペプチド」のアミノ酸配列は、常法に従って、N末端アミノ酸のアミノ酸残基が左側に位置し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基が右側に位置するように記述する。また「ペプチド」において、特に断りの無い限り、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基は水素原子と結合し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基は水酸基と結合している。ペプチドの二価基とは、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基およびC末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基を介して結合する基を意味する。本発明の化合物において、例えば式(1)~(3)で表される化合物において、その部分構造にあたるペプチドについても、特に断りの無い限り、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基は水素原子と結合し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基は水酸基と結合している。
【0055】
MHCは、ヒトではヒト白血球型抗原(HLA)と呼ばれる。MHCクラスI分子に相当するHLAは、HLA-A、B、Cw、FおよびGなどのサブタイプに分類される。本明細書において「MHCクラスI拘束性」とは、MHCクラスI分子と結合してキラー細胞を誘導する特性を意味する。「MHCクラスI拘束性」として、好ましくは、HLA-A拘束性、HLA-B拘束性またはHLA-Cw拘束性が挙げられる。
【0056】
HLAの各サブタイプについて、多型(対立遺伝子)が知られている。HLA-Aの多型としては、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A24などの27種以上が挙げられ、HLA-Bの多型としては、HLA-B7、HLA-B40、HLA-B44などの59種以上が挙げられ、HLA-Cwの多型としては、HLA-Cw0301、HLA-Cw0401、HLA-Cw0602などの10種以上が挙げられる。これら多型の中、好ましくは、HLA-A2やHLA-A24が挙げられる。
【0057】
一態様において、WT1抗原ペプチドは、MHCクラスIに結合し、キラーT細胞(細胞傷害性T細胞(CTL))を誘導する、WT1キラーペプチドである。WT1キラーペプチドは、MHCクラスIとの複合体として細胞表面に提示されることにより、WT1特異的キラーT細胞を誘導する。
【0058】
一態様において、WT1キラーペプチドは、配列番号:1に記載のヒトのWT1タンパク質のアミノ酸配列において連続する7~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体である。かかるWT1抗原ペプチドとして、これに限定されないが、例えば、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL (配列番号:2)、
CMTWNQMNL (配列番号:3)、
CYTWNQMNL (配列番号:4)、
ALLPAVPSL (配列番号:5)、
SLGEQQYSV (配列番号:6)、
RVPGVAPTL (配列番号:7)および
VLDFAPPGA (配列番号:8)
から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、並びに配列番号:2~8から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号:2~8から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号:2~8から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列からなり且つCTL誘導活性を有するペプチドが挙げられる。より好ましくは、配列番号:2~8から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。さらにより好ましくは、配列番号:2~6および8から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0059】
一態様において、WT1キラーペプチドは、配列番号:1に記載のヒトのWT1タンパク質のアミノ酸配列において連続する7~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体のN末端システイン残基にジスルフィド結合を介してシステイン残基を付加した化合物またはその薬学上許容される塩である。かかるWT1抗原ペプチドとして、これに限定されないが、例えば、以下のアミノ酸配列:
C-CMTWNQMNL (配列番号:9)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)または
C-CYTWNQMNL (配列番号:10)(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
のアミノ酸配列を含むペプチド、並びに配列番号:9または10のアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号:9または10のアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号:9または10のアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列からなり且つCTL誘導活性を有するペプチドが挙げられる。より好ましくは、配列番号:9または10のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。さらにより好ましくは、配列番号:10のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0060】
本明細書において「アミノ酸配列を含むペプチド」とは、通常のように、当該アミノ酸配列のN末端アミノ酸および/またはC末端アミノ酸に更なるアミノ酸が付加されたペプチドを意味する。
【0061】
本明細書において「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチド」は、「改変キラーペプチド」とも呼ばれる。当該改変キラーペプチドは、アミノ酸配列において、1個~数個、好ましくは1~3個、さらに好ましくは2個または1個のアミノ酸が、欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIに結合し、CTLを誘導するペプチドを意味する。置換されるアミノ酸の好ましい置換位置としては、特にこれに限定されないが、9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、1位(N末端)、2位、3位および9位等が挙げられる。付加(挿入も包含される)されるアミノ酸の数は好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。好ましい付加位置としては、C末端が挙げられる。欠失されるアミノ酸の数は好ましくは1である。改変において、付加されるアミノ酸または置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
【0062】
HLAのサブタイプの多型ごとに、HLA抗原に結合できるペプチドのアミノ酸配列の規則性(結合モチーフ)が存在することが知られている。例えば、HLA-A24の結合モチーフとして、8~11残基のアミノ酸からなるペプチドにおいて、2位のアミノ酸が、Tyr、Phe、MetまたはTrpであり、C末端のアミノ酸が、Phe、Leu、Ile、TrpまたはMetであることが知られている(J. Immunol., 152, p3913, 1994; J. Immunol., 155, p4307, 1994; Immunogenetics, 41, p178, 1995)。よって、例えば9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、2位がTyr、Phe、MetまたはTrpにより、および/または9位がPhe、Leu、Ile、TrpまたはMetにより、置換することが可能であり、当該置換がなされたペプチドが改変キラーペプチドとして好ましい。同様に、HLA-A2の結合モチーフとして、8~11残基のアミノ酸からなるペプチドにおいて、2位のアミノ酸が、LeuまたはMetであり、C末端のアミノ酸が、ValまたはLeuであることが知られていることから、例えば9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、2位がLeuまたはMetにより、および/または9位がValまたはLeuにより、置換することが可能であり、当該置換がなされたペプチドが改変キラーペプチドとして好ましい。
【0063】
改変キラーペプチドとしては、これに限定されないが、例えば、次のようなペプチドが挙げられる:
RMFPNAPYL (配列番号:2)の改変キラーペプチドである、
RYFPNAPYL (配列番号:21)(国際公開第03/106682号参照)、
FMFPNAPYL (配列番号:22)、
RLFPNAPYL (配列番号:23)、
RMMPNAPYL (配列番号:24)、
RMFPNAPYV (配列番号:25)および
YMFPNAPYL (配列番号:26)(国際公開第2009/072610号参照);
CMTWNQMNL (配列番号:3)の改変キラーペプチドである、
CYTWNQMNL (配列番号:4)(国際公開第02/79253号参照)、
Xaa-Met-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu (配列番号:27)、
(本配列中XaaはSerまたはAlaを表す)および
Xaa-Tyr-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu (配列番号:28)
(本配列中XaaはSer、Ala、Abu、Arg、Lys、Orn、Cit、Leu、PheまたはAsnを表す)(国際公開2004/026897号参照);
ALLPAVPSL (配列番号:5)の改変キラーペプチドである、
AYLPAVPSL (配列番号:29)(国際公開第2003/106682号参照);
SLGEQQYSV (配列番号:6)の改変キラーペプチドである、
FLGEQQYSV (配列番号:30)、
SMGEQQYSV (配列番号:31)および
SLMEQQYSV (配列番号:32)(国際公開第2009/072610号参照);並びに
RVPGVAPTL (配列番号:7)の改変キラーペプチドである、
RYPGVAPTL (配列番号:33)(国際公開第2003/106682号参照)。
【0064】
一態様において、改変キラーペプチドは、
式(1):
【化10】
[式中、XaおよびY
aは、単結合を表し、
癌抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL (配列番号:2)、
ALLPAVPSL (配列番号:5)、
SLGEQQYSV (配列番号:6)および
RVPGVAPTL (配列番号:7)
の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、癌抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のY
aと結合し、癌抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
R
1は、癌抗原ペプチドCを表し、
癌抗原ペプチドCは、癌抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL (配列番号:3)および
CYTWNQMNL (配列番号:4)
の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、癌抗原ペプチドCのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物もしくはその薬学上許容される塩、並びに式(1)の化合物中にアミノ酸残基の改変を含有する改変化合物からなり且つCTL誘導活性を有する化合物である。
かかる改変キラーペプチドとして、これに限定されないが、例えば、以下の化合物:
式(2):
【化11】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、または
式(3):
【化12】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
式(4):
【化13】
(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物、並びに式(1)~(4)から選択されるいずれかの化合物中にアミノ酸残基の改変を含有する改変化合物からなり且つCTL誘導活性を有する化合物が挙げられる。好ましくは、式(2)~(4)から選択されるいずれかの化合物が挙げられる。より好ましくは、式(3)または(4)から選択されるいずれかの化合物が挙げられる。さらにより好ましくは、式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
一態様において、WT1抗原ペプチドは、MHCクラスIIに結合し、ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)を誘導する、WT1ヘルパーペプチドである。WT1ヘルパーペプチドは、MHCクラスIIとの複合体として細胞表面に提示されることにより、WT1特異的ヘルパーT細胞を誘導する。WT1特異的ヘルパーT細胞は、各種サイトカイン(例えば、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、またはインターフェロン(IFN)など)を産生し、B細胞およびその他のT細胞のサブセットの増殖、分化、成熟を促進する。よって、WT1ヘルパーペプチドは、ヘルパーT細胞を活性化し、CTLの分化の誘導や維持およびマクロファージなどのエフェクター細胞の活性化作用を発揮するため、効率的な癌の治療または予防に使用可能である。
【0066】
MHCクラスII分子に相当するHLAは、HLA-DR、DQおよびDPなどのサブタイプに分類される。本明細書において「MHCクラスII拘束性」とは、MHCクラスII分子と結合してヘルパーT細胞を誘導する特性を意味する。「MHCクラスII拘束性」として、好ましくは、HLA-DR拘束性、HLA-DQ拘束性またはHLA-DP拘束性が挙げられる。
【0067】
一態様において、WT1ヘルパーペプチドは、配列番号:1に記載のヒトのWT1タンパク質のアミノ酸配列において連続する7~30残基、好ましくは14~30残基のアミノ酸からなる部分ペプチドまたはその改変体である。かかるWT1ヘルパーペプチドとしては、これに限定されないが、例えば、以下のアミノ酸配列:
KRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:11)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号:12)、
RSDELVRHHNMHQRNMTKL (配列番号:13)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:14)、
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:15)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:16)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:17)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:18)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:19)、
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号:20)、
SGQARMFPNAPYLPSC (配列番号:34)、
SGQAYMFPNAPYLPSC (配列番号:35)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号:36)、
SGQAYMFPNAPYLPSCLES (配列番号:37)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:38)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:39)、および
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:40)、
から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド、および配列番号:11~20および34~40から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号:11~20および34~40から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号:11~20および34~40から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列からなり且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチドが挙げられる。より好ましくは、配列番号:11~20および34~40から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドであり、さらにより好ましくは、配列番号:11~20から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0068】
本明細書において「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチド」は、「改変ヘルパーペプチド」とも呼ばれる。当該改変ヘルパーペプチドは、アミノ酸配列において、1個~数個、好ましくは1~3個、さらに好ましくは2個または1個のアミノ酸が、欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIIに結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。改変において、付加されるアミノ酸または置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
【0069】
改変ヘルパーペプチドとしては、これに限定されないが、例えば、次のようなペプチドが挙げられる:
SGQARMFPNAPYLPSCLES (配列番号:36)の改変ヘルパーペプチドである、
SGQAYMFPNAPYLPSCLES (配列番号:37)(国際公開第2007/120673号参照)、
SGQARMFPNAPYLPSC (配列番号:34)および
SGQAYMFPNAPYLPSC (配列番号:35);並びに
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:40)の改変ヘルパーペプチドである、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:38)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:39)、
KRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:11)、
CNKRYFKLSHLQMHSRK (配列番号:15)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH (配列番号:16)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG (配列番号:17)、
CWAPVLDFAPPGASAYGSL (配列番号:19)および
WAPVLDFAPPGASAYGSLC (配列番号:20)。
【0070】
WT1抗原ペプチド(キラーペプチドおよびヘルパーペプチド)としては、前記に挙げられているペプチドおよび化合物の他に、国際公開第2000/006602号、同第2002/079253号、同第2003/106682号、同第2004/026897号、同第2004/063903号、同第2007/063903号、同第2010/123065号、同第2014/157692号、同第2018/101309号、同第2005/053618号、同第2007/047764号、同第2007/120673号、同第2005/045027号、同第2010/037395号、同第2000/018795号、同第2002/028414号、同第2003/037060号および同第2004/100870号に記載される化合物も含まれる。
【0071】
一態様として、本発明の製剤は、単一の癌抗原ペプチドを含む態様でも用いることができ、または複数の癌抗原ペプチドを含む態様でも用いることもできる。癌抗原ペプチドは、これに限定されないが、例えば、MAGE-A1、MEGA-A2、MEGA-A3、MEGA-A4、MEGA-A6、MEGA-A10、MEGA-A12、BAGE、DAM-6、DAM-10、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7B、GAGE-8、NA88-A、NY-ESO-1、NY-ESO-1a、MART-1/Melan-A、MC1R、Gp100、PSA、PSM、Tyrosinase、Proteinase 3、TRP-1、TRP-2、ART-4、CAMEL、CEA、Ep-CAM、Cyp-B、Her2/neu、VEGFR、hTERT、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-2、SART-3、AFP,βーCatenin、Caspase-8、CDK-4、ELF2、GnT-V、G250、HSP70-2M、HST-2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、Myosin、RAGE、TRP-2、707-AP、Survivin、Livin、SYT-SSXおよびWT1からなる群から選択される癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI癌抗原ペプチド、またはMAGE-A1MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A6、NY-ESO-1、MART-1/Melan-A、Gp100、PSA、Tyrosinase,CEA、HER-2/neu、hTERTMUC1、SART-3およびWT1からなる群から選択される癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドなどが挙げられ、好ましくはWT1タンパク質由来のMHCクラスI癌抗原ペプチドまたは/およびWT1タンパク質由来のMHCクラスII癌抗原ペプチドが好ましい。
【0072】
一態様として、本発明の製剤は、癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI抗原ペプチドまたは癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドのみを含む態様でも用いることができ、癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI抗原ペプチドまたは癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドのみを含む製剤を併用して用いることもできる。
【0073】
一態様として、本発明の製剤は、癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI抗原ペプチドおよび癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドの両方を含む態様、または複数の癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI抗原ペプチドもしくは癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドを含む態様でも用いることができ、前記癌抗原タンパク質由来のMHCクラスI抗原ペプチドまたは前記癌抗原タンパク質由来のMHCクラスII抗原ペプチドを含む製剤を併用して用いることもできる。
【0074】
一態様として、本発明の製剤は、WT1キラーペプチドまたはWT1ヘルパーペプチドのみを含む態様でも用いることができ、WT1キラーペプチドまたはWT1ヘルパーペプチドのみを含む製剤を併用して用いることもできる。
【0075】
一態様として、本発明の製剤は、WT1キラーペプチドおよびWT1ヘルパーペプチドの両方を含む態様、または複数種(具体的には、4種、3種、2種が好ましい)のWT1キラーペプチドもしくはWT1ヘルパーペプチドを含む態様でも用いることができ、前記WT1キラーペプチドまたはヘルパーペプチドを含む製剤を併用して用いることもできる。
【0076】
一態様として、本発明の製剤は、WT1キラーペプチドまたはWT1ヘルパーペプチドの一種類を含む態様でも用いることができ、前記WT1キラーペプチドまたはヘルパーペプチドを含む製剤を併用して用いることもできる。
【0077】
用いられるキラーペプチドの量は、1バイアルあたり、0.01mg~1000mgであり、好ましくは0.1mg~100mg、さらに好ましくは、1mg~50mgである。
【0078】
用いられるヘルパーペプチドの量は、1バイアルあたり、0.01mg~1000mgであり、好ましくは0.1mg~100mg、さらに好ましくは、1mg~50mgである。または、キラーペプチド1重量部に対し、ヘルパーペプチドが0.1~10重量部、好ましくは0.3~1.5重量部、さらに好ましくは、0.5~1.0重量部である。
【0079】
WT1抗原ペプチドは、通常のペプチド合成において用いられる方法に準じて製造することができる。製造方法としては、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis), Interscience, New York, 1966;ザ・プロテインズ(The Proteins), Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。例えば、Fmoc法もしくはBoc法を用いて固相合成機で製造する方法や、Boc-アミノ酸もしくはZ-アミノ酸を液相合成法で逐次縮合させて製造する方法が挙げられる(Fmocは9-フルオレニルメトキシカルボニル基、Bocはt-ブトキシカルボニル基、Zはベンジルオキシカルボニル基をそれぞれ表す)。
【0080】
WT1抗原ペプチドを製造するための中間体において、アミノ基、カルボキシ基、メルカプト基などの官能基は、必要に応じて保護、脱保護の技術を用い、適当な保護基で保護し、また脱保護することができる。好適な保護基、保護する方法、および脱保護する方法としては、「Protective Groups in Organic Synthesis 2nd Edition (John Wiley & Sons, Inc.;1990)」などに詳細に記載されている。たとえば、メルカプト基の保護基としてはアセトアミドメチル基またはトリチル基などが挙げられる。
【0081】
WT1抗原ペプチドがジスルフィド結合を有する場合、通常のペプチド化学に用いられる方法に準じて、システイン残基を含む異なる2つのペプチド間で、またはシステイン残基を含むペプチドとシステイン間で、当該ジスルフィド結合を形成することができる。ジスルフィド結合の形成方法は、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis), Interscience, New York, 1966; ザ・プロテインズ(The Proteins), Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。
【0082】
具体的には、ペプチドに含まれるシステイン残基が1個の場合、システイン側鎖上のメルカプト基の保護基を含むすべての保護基を除去した後、不活性溶媒中で酸化させることにより、ジスルフィド結合を有する化合物(ジスルフィド化合物)を製造することができる。また、メルカプト基を持つ2つの中間体を適当な溶媒中に混合し酸化することにより製造することができる。当該酸化の方法としては、通常のペプチド合成でジスルフィド結合を形成させる公知の方法を適宜選択すればよい。例えば、ヨウ素酸化、アルカリ条件下で空気酸化反応に付す方法、またはアルカリ性もしくは酸性条件下酸化剤を添加してジスルフィド結合を形成する方法などが挙げられる。ここで、酸化剤としては、ヨウ素、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェリシアン化カリウムなどが挙げられる。溶媒としては水、酢酸、メタノール、クロロホルム、DMFもしくはDMSOなど、またはこれらの混合液を用いることができる。酸化反応によりしばしば、対称、非対称性ジスルフィド化合物の混合物を与える。目的の非対称性ジスルフィド化合物は種々のクロマトグラフィー、または再結晶などで精製することによって得ることができる。あるいは活性化されたメルカプト基をもつ中間体とメルカプト基をもつ中間体を混合することにより選択的なジスルフィド結合を形成することができる。活性化されたメルカプト基をもつ中間体としては、Npys基(3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル基)が結合したメルカプト基などが挙げられる。あるいは、あらかじめ一方の中間体と例えば2,2'-ジチオビス(5-ニトロピリジン)を混合することによりメルカプト基を活性化した後、他方の中間体を加えることにより選択的なジスルフィド結合を形成することができる(Tetrahedron Letters. Vol.37. No.9, pp.1347-1350)。
【0083】
ペプチドに含まれるシステイン残基が2個以上の場合も、前記と同様の方法を用いることができる。この場合はジスルフィド結合様式が異なる異性体が得られる。システイン側鎖の保護基を特定の組み合わせにすることにより、目的のシステイン残基間でジスルフィド結合を形成した二量体を得ることができる。前記保護基の組み合わせとしては、MeBzl(メチルベンジル)基とAcm(アセトアミドメチル)基、Trt(トリチル)基とAcm基、Npys(3-ニトロ-2-ピリジルチオ)基とAcm基、S-Bu-t(S-tert-ブチル)基とAcm基などが挙げられる。例えばMeBzl基とAcm基の組み合わせの場合、まずMeBzl基とシステイン側鎖以外のその他の保護基を除去した後、ペプチド単量体を含む溶液を空気酸化反応に付して脱保護されたシステイン残基間にジスルフィド結合を形成し、次いでヨウ素による脱保護および酸化を行ってAcm基で保護されていたシステイン残基間にジスルフィド結合を形成する方法などが挙げられる。
【0084】
WT1抗原ペプチドは、キラーペプチドとヘルパーペプチド、または2つの異なるキラーペプチドもしくはヘルパーペプチドを、ジスルフィド結合を介して結合させたものであってもよい。かかるペプチドは、以下の工程(1)~(3)を含む方法により合成することができる。
【0085】
工程(1)においては、Fmoc-C(Mmt)A-SBnおよび第一の抗原ペプチドを用いて、C(Mmt)AのC末端アミノ酸のカルボニル基と第一の抗原ペプチドのN末端アミノ基が結合したペプチドを合成する。ここで、「Fmoc」は、9-フルオレニルメトキシカルボニル基を表す。「Mmt」は、モノメトキシトリチル基を表す。「SBn」は、チオベンジル基を表す。
【0086】
工程(2)においては、前記工程(1)で得られたペプチドおよびNpys基で保護された1つのシステイン残基がN末端に結合している第二の抗原ペプチドを用いて、前記工程(1)で得られたペプチド中の第一の抗原ペプチドのシステイン残基のチオエーテル基と第二の抗原ペプチドのN末端に結合しているシステイン残基のチオエーテル基が結合したペプチドを合成する。ここで、「Npys」は、3-ニトロ-2-ピリジルチオ基を表す。
【0087】
工程(3)においては、前記工程(2)で得られたペプチドおよびSPy基で保護されたシステイン残基を含む第三の抗原ペプチドを用いて、前記工程(2)で得られたペプチド中の第二の抗原ペプチドのN末端に結合しているシステイン残基のチオエーテル基と第三の抗原ペプチドのシステイン残基のチオエーテル基が結合したペプチドを合成する。ここで、「SPy」は、2-ピリジルスルフィド基を表す。
【0088】
得られたWT1抗原ペプチドは、当業者に公知の方法や通常のペプチド化学に用いられる方法に準じて精製することができる。例えば、種々のクロマトグラフィー(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、もしくは逆相クロマトグラフィー)、または再結晶などで精製することができる。例えば、再結晶溶媒としては、メタノール、エタノールもしくは2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ベンゼンもしくはトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミドもしくはアセトニトリルなどの非プロトン系溶媒、水、またはこれらの混合溶媒などを用いることができる。その他精製方法としては、実験化学講座(日本化学会編、丸善)1巻などに記載された方法などを用いることができる。
【0089】
ジスルフィド化合物の精製方法は、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis), Interscience, New York, 1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている。中でも、HPLCが好ましい。
【0090】
WT1抗原ペプチドにおいて、1つ以上の不斉点がある場合、通常の方法に従って、その不斉点を有する原料(アミノ酸)を用いることによって、製造することができる。また、WT1抗原ペプチドの光学純度を上げるために、製造工程の適当な段階で光学分割などを行ってもよい。光学分割法として例えば、WT1抗原ペプチドまたはその中間体を不活性溶媒中(例えばメタノール、エタノール、もしくは2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエンなどの炭化水素系溶媒、またはアセトニトリルなどの非プロトン系溶媒、およびこれらの混合溶媒)、光学活性な酸(例えば、マンデル酸、N-ベンジルオキシアラニン、もしくは乳酸などのモノカルボン酸、酒石酸、o-ジイソプロピリデン酒石酸もしくはリンゴ酸などのジカルボン酸、またはカンファースルフォン酸もしくはブロモカンファースルフォン酸などのスルホン酸)と塩を形成させるジアステレオマー法により行うことができる。WT1抗原ペプチドまたはその中間体がカルボキシ基などの酸性官能基を有する場合は、光学活性なアミン(例えばα-フェネチルアミン、キニン、キニジン、シンコニジン、シンコニン、ストリキニーネなどの有機アミン)と塩を形成させることにより光学分割を行うこともできる。
【0091】
塩を形成させる温度としては、室温から溶媒の沸点までの範囲から選択される。光学純度を向上させるためには、一旦、溶媒の沸点付近まで温度を上げることが望ましい。析出した塩を濾取する際、必要に応じて冷却し収率を向上させることができる。光学活性な酸、またはアミンの使用量は、基質に対し約0.5~約2.0当量の範囲、好ましくは1当量前後の範囲が適当である。必要に応じ結晶を不活性溶媒中(例えばメタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエンなどの炭化水素系溶媒、アセトニトリルなどの非プロトン系溶媒およびこれらの混合溶媒)で再結晶し、高純度の光学活性な塩を得ることもできる。また、必要に応じて光学分割した塩を通常の方法で酸または塩基で処理しフリー体として得ることもできる。
【0092】
本発明における「薬学上許容される塩」としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。例えば、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩などの有機酸塩が挙げられ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩などの有機塩基塩などが挙げられ、さらにはアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性あるいは酸性アミノ酸といったアミノ酸塩が挙げられる。
【0093】
本発明のWT1抗原ペプチドまたはその薬学上許容される塩の水和物、エタノール溶媒和物などの溶媒和物も、本発明に含まれる。さらに、本発明は、WT1抗原ペプチドのあらゆるジアステレオマー、エナンチオマーなどの存在し得るあらゆる立体異性体、およびあらゆる態様の結晶形も包含している。
【0094】
WT1抗原ペプチドのCTL誘導活性は、HLAテトラマー法(Int. J. Cancer: 100, 565-570 (2002))または限界希釈法(Nat. Med.: 4, 321-327 (1998))によりCTLの数を測定することにより確認することができる。あるいは、例えばHLA-A24拘束性のCTL誘導活性の場合、国際公開第02/47474号およびInt. J. Cancer: 100, 565-570 (2002)に記述されたHLA-A24モデルマウスを用いることなどにより調べることができる。WT1抗原ペプチドのヘルパーT細胞誘導活性は、例えばCancer Immunol. Immunother. 51:271(2002)に記載の方法などの公知の方法により調べることができる。
【0095】
本発明の製剤は、有効成分としての上記WT1抗原ペプチドおよび/または免疫チェックポイント阻害剤以外に、特に限定されないが、例えば、薬学上許容される担体を含んでいてもよい。また本発明の製剤に含まれるWT1抗原ペプチドは、WT1特異的CTLおよび/またはヘルパーT細胞を誘導することから、その誘導効率を増強させるために、本発明の製剤は適当なアジュバントを含むか、あるいは適当なアジュバントと共に投与されてもよい。
【0096】
本発明の製剤は、細胞性免疫が効率的に成立するように、適当なアジュバントを含むか、アジュバントとともに投与することができる。アジュバントとしては、文献(Clin. Microbiol. Rev., 7: 277-289, 1994)に記載のあるものなどが応用可能であり、具体的には、菌体由来成分、GM-CSF、インターロイキン-2、インターロイキン-7もしくはインターロイキン-12などのサイトカイン、植物由来成分、海洋生物由来成分、水酸化アルミニウムの如き鉱物ゲル、リゾレシチン、プルロニックポリオールの如き界面活性剤、ポリアニオン、ペプチド、または油乳濁液(エマルジョン製剤)などを挙げることができる。菌体由来成分としては、リピドA(lipid A)、その誘導体であるモノホスホリルリピドA(monophosphoryl lipid A)、菌体(BCG菌などのMycobacterium属細菌が挙げられる)の死菌、細菌由来のタンパク質、ポリヌクレオチド、フロイント不完全アジュバント(Freund's Incomplete Adjuvant)、フロイント完全アジュバント(Freund's Complete Adjuvant)、細胞壁骨格成分(例えばBCG-CWSなどが挙げられる)、トレハロースジミコレート(TDM)などが挙げられる。
【0097】
また、アジュバントとして、沈降性アジュバントと油性アジュバントを挙げることができる。沈降性アジュバントは、ペプチドが吸着する無機物の懸濁剤を表す。沈降性アジュバントとしては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム(アラム、Alum)、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペス、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。油性アジュバントは、ペプチドを含む水溶液を鉱油で包みミセルをつくり乳化する油乳剤を表す。油性アジュバントとしては、具体的には、流動パラフィン、ラノリン、フロイントアジュバント(フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント)、モンタナイド、W/Oエマルション(WO2006/078059参照)等が挙げられるがこれに限定されない。モンタナイドとしては、好ましくはMontanide ISA51VGなどが挙げられる。
【0098】
本発明の製剤中に含まれるアジュバンドの量は、当該製剤に含まれるペプチド1重量部に対し、アジュバンドが1~500重量部、好ましくは5~100重量部である。
【0099】
本発明の製剤は、細胞性免疫が効率的に成立するように、適当な免疫調節剤を含むか、免疫調節剤とともに投与することができる。免疫調節剤としては、国際公開第2016/186177号に記載のあるものなどが応用可能である。
【0100】
本発明において「免疫調節剤」とは、抗原提示細胞によるT細胞活性化において抗原提示細胞上及び/またはT細胞上の補助刺激シグナルの伝達に関与する分子に相互作用することにより補助刺激シグナルの伝達を制御する、また、免疫機構において直接的または間接的に免疫寛容(免疫抑制)の成立に関与する分子の機能を制御するもの全てをいう。「免疫調節剤」は、抗体、核酸、タンパク質、ペプチドおよび低分子化合物から選択される薬剤であり得るが、これらに限定されない。「免疫調節剤」に関する記載において、「抗体」なる用語には抗体断片も含まれる。抗体断片としては、抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、Fd、sdFv、scFVなどが例示される。「免疫調節剤」に関する記載において、タンパク質は抗体を除くあらゆるタンパク質を意味する。「免疫調節剤」には、例えば、免疫チェックポイント阻害剤、共刺激分子アゴニスト剤、免疫活性化剤、および低分子阻害剤が含まれる。
【0101】
「免疫チェックポイント阻害剤」は、癌細胞や抗原提示細胞による免疫抑制作用を阻害する。免疫チェックポイント阻害剤としては、特に限定されないが、以下からなる群から選択される分子に対する薬剤が挙げられる:(1)CTLA-4(イピリムマブ、トレメリムマブなど);(2)PD-1(ニボルマブ、ペンブロリズマブ、AMP-224、AMP-514(MEDI0680)、ピディリズマブ(CT-011)など);(3)LAG-3(IMP-321、BMS-986016など);(4)BTLA;(5)KIR(IPH2101など);(6)TIM-3;(7)PD-L1(デュルバルマブ(MEDI4736)、アテゾリズマブ(MPDL3280A)、BMS-936559、アベルマブ(MSB0010718C)など);(8)PD-L2;(9)B7-H3(MGA-271など);(10)B7-H4;(11)HVEM;(12)GAL9;(13)CD160;(14)VISTA;(15)BTNL2;(16)TIGIT;(17)PVR;(18)BTN1A1;(19)BTN2A2;(20)BTN3A2(Nat Rev Drug Discov. 2013; 12: 130-146;日経メディカルCancer Review 2014; 9;Nat Rev Immunol. 2014; 14: 559-69);および(21)CSF1-R。
【0102】
「共刺激分子アゴニスト剤」は、T細胞上や抗原提示細胞上の共刺激分子を介した補助シグナルを伝達することにより、T細胞を活性化し、癌細胞や抗原提示細胞による免疫抑制作用を減弱させる。共刺激分子アゴニスト剤としては、特に限定されないが、以下の群から選択される分子に対する薬剤が挙げられる:(1)4-1BB(2)4-1BB-L;(3)OX40(4)OX40-L;(5)GITR;(6)CD28;(7)CD40;(8)CD40-L(9)ICOS;(10)ICOS-L;(11)LIGHT;および(12)CD27。
【0103】
「免疫活性化剤」は、T細胞や樹状細胞など免疫細胞を直接的あるいは間接的に活性化させることにより、リンパ節においてキラーT細胞を効率良く刺激する。免疫活性化剤としては、特に限定されないが、Toll様受容体(TLR)作動薬、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)作動薬、サイトカイン、またはヒートショックプロテイン(HSP)に対する薬剤が挙げられる。
【0104】
「Toll様受容体(TLR)作動薬」としては、特に限定されないが、例えば、TLR1/2作動薬、TLR2作動薬、TLR3作動薬(PolyI:Cなど)、TLR4作動薬(S型リポ多糖、パクリタキセル、リピドA、モノホスホリルリピドAなど)、TLR5作動薬(フランジェリンなど)、TLR6/2作動薬(MALP-2など)、TLR7作動薬(DSP-0509など)、TLR7/8作動薬(ガーディキモド、イミキモド、ロキソリビン、レシキモド(R848)など)、TLR7/9作動薬(ヒドロキシクロロキン硫酸塩など)、TLR8作動薬(モトリモド(VTX-2337)など)、TLR9作動薬(CpG-ODNなど)、TLR11作動薬(プロフィリン)などが挙げられる。
【0105】
「サイトカイン」としては、特に限定されないが、例えば、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(INF)-α、INF-β、INF-γ、SCF、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン、MIP(macrophage inflammatory protein)およびMCP(monocyte chemoattractant protein)などが挙げられる。
【0106】
「ヒートショックプロテイン(HSP)」としては、特に限定されないが、HSP70、HSP90、HSP90α、HSP90β、HSP105、HSP72、HSP40などが挙げられる。HSPに対する薬剤には、HSP阻害剤が含まれる。例えば、HSP90阻害剤として、特に限定されないが、タネスピマイシン(17-AAG)、ルミネスピブ(AUY-922、NVP-AUY922)、アルベスピマイシン(17-DMAG)塩酸塩、ガネテスピブ(STA-9090)、BIIB021(CNF2024)、オナレスピブ(AT13387)、ゲルダナマイシン、NVP-BEP800、SNX-2112(PF-04928473)、SNX-5422(PF-4929113)、KW-2478、XL888、VER-155008、VER-50589、CH5138303、VER-49009、NMS-E973、PU-H71、HSP990(NVP-HSP990)またはKNK437などが挙げられる。
【0107】
「低分子阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、ヒストン脱アセチル化阻害剤、ヒストン脱メチル化阻害薬、ヒストンアセチル化酵素阻害剤、ヒストンメチル化酵素阻害剤、DNAメチル基転移酵素阻害剤、アントラサイクリン系抗生物質、白金製剤、MAPK阻害剤、β-カテニン阻害剤、STAT3阻害剤、NF-kB阻害剤、JAK阻害剤、mTOR阻害剤、IDO阻害剤、COX-2阻害剤CXCR4阻害剤およびアルギナーゼ阻害剤などが挙げられる。
【0108】
「ヒストン脱アセチル化阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、ボリノスタット(SAHA、MK0683)、エンチノスタット(MS-275)、パノビノスタット(LBH589)、トリコスタチンA(TSA)、モセチノスタット(MGCD0103)、BG45、BRD73954、ベリノスタット(PXD101)、ロミデプシン(FK228、デシペプチド)、Domatinostat(4SC-202)、HPOB、LMK-235、CAY10603、タスキニモド、TMP269、Nexturastat A、Rocilinostat(ACY-1215)、RGFP966、RG2833(RGFP109)、Scriptaid、ツバスタチンA、Pracinostat(SB939)、CUDC-101、M344、PCI-34051、ダシノスタット(LAQ824)、ツバスタチンA塩酸塩、アベキシノスタット(PCI-24781)、CUDC-907、AR-42、フェニル酪酸ナトリウム、レスミノスタット、ツバシン、キシノスタット(JNJ-26481585)二塩酸塩、MC1568、ギビノスタット(ITF2357)、ドロキシノスタット、キダミド(C S055、HBI-8000)、CHR-2485、CHR-3996、DAC-060、FRM-0334(EVP-0334)、MGCD-290、CXD-101(AZD-9468)、CG200745、アルギニン酪酸塩、スルフォラファン、SHP-141、CUDC-907、YM753(OBPー801)、バルプロ酸ナトリウム、アピシジン(OSI2040)およびCI994(Tacedinaline)などが挙げられる。
【0109】
「ヒストン脱メチル化阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、GSKJ4 HCl、OG-L002、JIB-04、IOX1、SP2509、ORY-1001(RG-6016)、GSK J1、ML324、GSK-LSD1 2HClなどが挙げられる。
【0110】
「ヒストンアセチル化酵素阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、C646、MG149、Remodelin、およびAnacardic Acidなどが挙げられる。
【0111】
「ヒストンメチル化酵素阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、Pinometostat(EPZ5676)、EPZ005678、GSK343、BIX01294、Tazemetostat(EPZ6438)、3-deazaneplanocin A(DZNeP)HCl、UNC1999、MM-102、SGC0946、エンタカポン、EPZ015666、UNC0379、EI1、MI-2(Menin-MLL Inhibitor)、MI-3(Menin-MLL Inhibitor)、PFI-2、GSK126、EPZ04777、BRD4770、GSK-2816126およびUNC0631などが挙げられる。
【0112】
「DNAメチル基転移酵素阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、デシタビン、アザチジン、RG108、チオグアニン、ゼブラリン、SGI-110、CC-486、SGI-1027、ロメグアトリブおよびプロカイナミド塩酸塩などが挙げられる。
【0113】
「アントラサイクリン系抗生物質」は、DNA鎖間への挿入によって、DNAがほどかれることを阻害する。アントラサイクリン系抗生物質としては、特に限定されないが、例えば、ドキソルビシン、リポソーマルドキソルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、アムルビシン、アロインまたはミトキサトロンなどが挙げられる。
【0114】
「白金製剤」としては、特に限定されないが、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、サトラプラチン(JM-126)、オキサリプラチン(ELOXATIN)、四硝酸トリプラチンまたはそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0115】
「MAPK阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、SB203580、ドラマピモド(BIRB796)、SB202190(FHPI)、LY2228820、VX-702、SB239063、Pexmetinib(ARRY-614)、PH-797804、VX-745またはTAK-715などが挙げられる。
【0116】
「β-カテニン阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、XAV-939、ICG-001、IWR-1-endo、Wnt-C59(C59)、LGK-974、KY02111、IWP-2、IWP-L6、WIKI4またはFH535などが挙げられる。
【0117】
「STAT3阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、S3I-201、Stattic、ニクロサミド、ニフロキサジド、ナパブカシン(BBI608)、クリプトタンシノン、HO-3867、WHI-P154、FLLL32、STA-21、WP1066、DSP-0337またはSH-4-54などが挙げられる。
【0118】
「NF-kB阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、QNZ(EVP4593)、4-アミノサリチル酸ナトリウム、JSH-23、カフェイン酸フェネチル、サリチル酸ナトリウム、アンドログラホリドまたはSC75741などが挙げられる。
【0119】
「JAK阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、ルキソリチニブ(INCB018424)、トファシチニブ(CP-690550)クエン酸塩、AZD1480、フェドラチニブ(SAR302503、TG101348)、AT9283、チロホスチンB42(AG-490)、モメロチニブ(CYT387)、トファシチニブ(CP-690550、タソシチニブ)、WP1066、TG101209、ガンドチニブ(LY2784544)、NVP-BSK805 2HCl、バリシチニブ(LY3009104、INCB02850)、AZ960、CEP-33779、パクリチニブ(SB1518)、WHI-P154、XL019、S-ルキソリチニブ(INCB018424)、ZM39923 HCl、デセルノチニブ(VX-509)、Cerdulatinib(PRT062070、PRT2070)、フィルゴチニブ(GLPG0634)、FLLL32、ペフィシチニブ(ASP015K、JNJ-54781532)、GLPG0634 analogue、Go6976またはCurcumolなどが挙げられる。
【0120】
「mTOR阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、シロリムス(ラパマイシン)、デフォロリムス(AP23573、MK-8669)、エベロリムス(RAD-001)、テムシロリムス(CCI-779、NSC683864)、ゾタロリムス(ABT-578)、およびバイオリムスA9(ウミロリムス)、AZD8055、KU-0063794、Voxtalisib(XL765、SAR245409)、MHY1485、ダクトリシブ(BEZ235、NVP-BEZ235)またはPI-103、Torkinib(PP242)などが挙げられる。
【0121】
「IDO阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、NLG919、INCB024360アナログ、インドキシモド(NLG-8189)およびEpacadostat(INCB024360)などが挙げられる。
【0122】
「COX2阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、バルデコキシブ、ロフェコキシブ、カルプロフェン、セレコキシブ、ルミラコキシブ、トルフェナム酸、ニメスリド、ニフルム酸、Asaraldehyde、ロルノキシカム、メクロフェナミン酸ナトリウム、アンフェナックナトリウム水和物、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、ケトロラック、ナプロキセンナトリウム、インドメタシン、イブプロフェン、アスピリン、メフェナム酸、ブロムフェナクナトリウム、オキサプロジン、ザルトプロフェンおよびネパフェナックなどが挙げられる。
【0123】
「CXCR4阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、WZ811、Plerixafor(AMD3100)およびPlerixafor 8HCl(AMD3100 8HCl)などが挙げられる。
【0124】
本発明のWT1抗原ペプチドは、免疫調節剤と併用しても優れた抗癌作用を示すが、さらに幾つかの薬剤と複合的に併用(多剤併用)することにより、その効果がより一層増強され又は患者のQOLを改善させることができる。
【0125】
本願のWT1抗原ペプチドは、「ホルモン療法剤」、「免疫療法剤」、「生物学的製剤」、「細胞増殖因子」、「細胞増殖因子阻害剤」、「細胞増殖因子受容体阻害剤」、「放射線療法剤」、「補助剤」もしくは「化学療法剤」からなる群から選択される1又は複数の薬物と併用して用いることができる。好ましくは、本願のWT1抗原ペプチドは、上記群から選択される1乃至5の薬物と併用して用いることができる。さらに好ましくは、本願のWT1抗原ペプチドは、上記群から選択される1乃至3の薬物と併用して用いることができる。特に好ましくは、本願のWT1抗原ペプチドは、上記群から選択される1の薬物と併用して用いることができる。以下、本願のWT1抗原ペプチドおよび免疫調節剤と併用し得る薬物を併用薬物と略記する。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。
【0126】
「ホルモン療法剤」としては、副腎皮質ホルモン系薬剤(例えば、ステロイド系抗炎症薬、エストロゲン製剤、プロゲステロン製剤、アンドロゲン製剤など)、抗エストロゲン剤、エストロゲン調整剤、エストロゲン合成阻害剤、抗アンドロゲン剤、アンドロゲン調整剤、アンドロゲン合成阻害剤、LH-RHアゴニスト製剤、LH-RHアンタゴニスト製剤、アロマターゼ阻害剤、ステロイドラクトナーゼ阻害剤、ピル製剤、またはレチノイド及びレチノイドの代謝を遅らせる薬剤などが挙げられる。
【0127】
「ホルモン療法剤」としては、例えば、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、フルオキシメステロール、クロロトリアニセン、メチルテストステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパルトリシン、ラロキシフェン、オルメロキシフェン、レボルメロキシフェン、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェン、ヨードキシフェン、ピル製剤、メピチオスタン、テストロラクトン、アミノグルテチイミド、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリン、ロイプロリド、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、スルホン酸エチニルエストラジオール、エストラムスチン、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、テトラゾール、ケトコナゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタン、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミド、エンザルタミド、ミフェプリストン、フィナステリド、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、アビラテロン、リアロゾール、ベキサロテンまたはDN101などが挙げられる。
【0128】
「免疫療法剤」としては、例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン(IFN)-α、インターフェロン(IFN)-β、インターフェロン(IFN)-γ、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾール、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体またはTLR作動薬(例えば、TLR7作動薬、TLR8作動薬、TLR9作動薬)などが挙げられる。
【0129】
「生物学的製剤」としては、特に限定されないが、例えば、インターロイキン-2(Aldesleukin)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(フィルグラスチン)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(サルグラモスチム)、IL13-PE38QQR、バチルスカルメット-ゲラン、レバミゾール、オクトレオチド、CPG7909、Provenge、GVAX、Myvax、Favld、レナリドマイド、トラスツズマブ、リツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、アレムツズマブ、エンドスタチン、イブリツモマブチウキセタン、トシツモマブ、セツキシマブ、ザノリムマブ、オファツムマブ、HGS-ETR1、ペルツズマブ、M200、SGN-30、マツズマブ、アデカツムマブ、デノスマブ、ザルツムマブ、MDX-060、ニモツズマブ、MORAb-003、Vitaxin、MDX-101、MDX-010、DPC4抗体、NF-1抗体、NF-2抗体、Rb抗体、p53抗体、WT1抗体、BRCA1抗体、BRCA2抗体、ガングリオシド(GM2)、前立腺特異抗原(PSA)、α-フェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、黒色腫関連抗原(MART-1、gap100、MAGE1,3チロシン)、乳頭腫ウイルスE6およびE7断片、またはそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0130】
前記「細胞増殖因子」、「細胞増殖因子阻害剤」および「細胞増殖因子受容体阻害剤」における細胞増殖因子は、細胞増殖を促進する物質であれば、どのようなものでもよく、例えば、分子量が20,000以下のペプチドで、受容体との結合により低濃度で作用を発揮する因子が挙げられる。
【0131】
「細胞増殖因子」として、特に限定されないが、例えば、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-Like Growth Factor:IGF(例えば、インスリン、IGF-1、IGF-2など))、トランスフォーミング成長因子(Transforming Growth Factor:TGF(例えば、TGFーalpha、TGF-beta))、神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular Endothelial Growth Factor:VEGF)、コロニー刺激因子(Colony Stimulating Factor:CSF(例えば、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-Colony Stimulating Factor:G-CSF))、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-Macrophage-Colony Stimulating Factor:GM-CSF))、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor:FGF、(例えば、酸性FGF、塩基性FGF、KGK(Keratinocyte Growth Factor)、FGF-10など))、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:HGF)へレグリン、またはアンジオポエチンなどが挙げられる。なお、細胞増殖因子は、成長因子と同義である。
【0132】
「細胞増殖因子阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、上皮成長因子阻害剤(EGF阻害剤)、インスリン様成長因子阻害剤(IGF阻害剤)、神経成長因子阻害剤(NGF阻害剤)、脳由来神経栄養因子阻害剤(BDNF阻害剤)、血管内皮細胞増殖因子阻害剤(VEGF阻害剤)、コロニー刺激因子阻害剤(CSF阻害剤)、血小板由来成長因子阻害剤(PDGF阻害剤)、エリスロポエチン阻害剤(EPO阻害剤)、線維芽細胞増殖因子阻害剤(FGF阻害剤)、肝細胞増殖因子阻害剤(HGF阻害剤)、へレグリン阻害剤、またはアンジオポエチン阻害剤などが挙げられる。なお、細胞増殖因子阻害剤は、成長因子阻害剤と同義である。
【0133】
「細胞増殖因子受容体阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)、インスリン様成長因子受容体阻害剤(IGFR阻害剤)、神経成長因子受容体阻害剤(NGFR阻害剤)、脳由来神経栄養因子受容体阻害剤(BDNFR阻害剤)、血管内皮細胞増殖因子受容体阻害剤(VEGFR阻害剤)、コロニー刺激因子受容体阻害剤(CSFR阻害剤)、血小板由来成長因子受容体阻害剤(PDGFR阻害剤)、エリスロポエチン受容体阻害剤(EPOR阻害剤)、線維芽細胞増殖因子受容体阻害剤(FGFR阻害剤)、肝細胞増殖因子受容体阻害剤(HGFR阻害剤)、へレグリン受容体阻害剤、またはアンジオポエチン受容体阻害剤などが挙げられる。なお、細胞増殖因子受容体阻害剤は、成長因子受容体阻害剤と同義である。
【0134】
「放射線療法剤」として、特に限定されないが、例えば、放射性物質及び放射性増感剤などが挙げられる。
【0135】
「補助剤」は、抗癌剤による副作用や嘔吐を抑制するために用いられ、特に限定されないが、例えば、アプレピタント、オンダンセトロン、ロラゼパム、デキサメタゾン、ジフェンヒドラミン、ラニチジン、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、シメチジン、プロクリット、エポエチンアルファ、フィルグラスチム、オプレルベキン、ロイコボリン及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などが挙げられる。
【0136】
「化学療法剤」としては、特に限定されないが、例えば、アルキル化剤、白金製剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレータ、抗有糸分裂剤、抗癌性抗生物質、植物由来抗癌剤、エピゲノム薬、免疫調整薬、分子標的治療薬、新脈管形成阻害剤及びその他の化学療法剤などが用いられる。代表的な例を次に記載する。
【0137】
「アルキル化剤」としては、特に限定されないが、例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、クロラムブシル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、プロカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾジン、ピポブロマン、エトグルシド、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、ベンダムスチン、ウラムスチン、セムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン、メクロエタミン、ウラシルマスタード、トラベクテジン、クロルメチン、マンノスルファン、トリアジコン、プロカルバシン、カンホスファミド、ニトロソウレア及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0138】
「白金製剤」としては、特に限定されないが、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、サトラプラチン、オキサリプラチン、四硝酸トリプラチン及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0139】
「代謝拮抗剤」としては、特に限定されないが、例えば、葉酸代謝拮抗薬、ピリミジン代謝阻害薬、プリン代謝阻害薬、リボヌクレオチドレダクターゼ阻害薬及びヌクレオチドアナログが挙げられる。
【0140】
「代謝拮抗剤」としては、特に限定されないが、例えば、メルカプトプリン、6-メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、ペメトレキセド、エオシタビン、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5-FU系薬剤(例えば、フルオロウラシル、カルゾナール、ベンナン、ルナコール、ルナポン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフール、カペシタビンなど)、アミノプテリン、ネララビン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチン、ベンダムスチン、フロクスウリジン、ロイコボリン、ヒドロキシ尿素、チオグアニン、アスパラギナーゼ、ボルテゾミブ、ラルチトレキセド、クロファラビン、エノシタビン、サパシタビン、アザシチジン、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、Liproxstatin-1、D4476、Xanthohumol、Epacadostat(INCB024360)、Vidofludimus、P7C3、GMX1778(CHS828)、NCT-501、SW033291、Ro61-8048及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0141】
「トポイソメラーゼ阻害薬」としては、特に限定されないが、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アントラセンジオン、ミトキサントロン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカトマイシン、イリノテカン、カンプトテシン、ルビテカン、ベロテカン、エトポシド、テニポシド、トポテカン、アムサクリン及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0142】
「DNAインターカレータ」としては、特に限定されないが、例えば、プロフラビン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、サリドマイド及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0143】
「抗有糸分裂剤」としては、特に限定されないが、例えば、パクリタキセル、パクリタキセル誘導体(例えば、DHAパクリタキセル、ポリグルタメート化パクリタキセル、ナブパクリタキセル、パクリタキセルミセル、7α‐グルコシルオキシアセチルパクリタキセル、BMS-275183など)、ドセタキセル、ビノルレビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンゾリジン、エトポシド、テニポシド、イクサベピロン、ラロタキセル、オルタタキセル、テセタキセル、イスピネシブ、コルヒチン、ビンフルニン及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0144】
「抗癌性抗生物質」としては、特に限定されないが、例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、ミトラマイシンA、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸アルムビシン、ネオカルチノスタチン、ジノスタチンスチマラマー、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシン、リポソーマルドキソルビシン及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0145】
「植物由来抗癌剤」としては、特に限定されないが、例えば、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド、リン酸エトポシド、エリブリン、ソブゾキサン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、パクリタキセル注射剤、ドセタキセル、DJ-927、ビノレルビン、トポテカン及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0146】
「エピゲノム薬」としては、特に限定されないが、例えば、DNAメチル化阻害薬、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素活性化剤、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤およびメチル化ヌクレオチドなどが挙げられる。
【0147】
「エピゲノム薬」としては、特に限定されないが、例えば、ボリノスタット、ベリノスタット、モセチノスタット(MGCD0103)、エンチノスタット(SNDX-275)、ロミデプシン、アザシチジン、デシタビン、GSK2879552 2Hl、SGC707、ORY-1001(RG-6016)、PFI-4、SirReal2、GSK2801、CPI-360、GSK503、AMI-1、CPI-169及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0148】
「免疫調整薬」としては、特に限定されないが、例えば、サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0149】
「分子標的治療薬」は、低分子化合物であっても抗体であってもよい。「分子標的治療薬」としては、特に限定されないが、例えば、キナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、モノクローナル抗体、mTOR阻害剤、TNF阻害薬、及びT細胞阻害薬などが挙げられる。
【0150】
「キナーゼ阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、チロシンキナーゼ阻害剤、セリン/スレオニンキナーゼ阻害剤、Rafキナーゼ阻害剤、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)阻害剤、及びMEK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)阻害剤などが挙げられる。
【0151】
具体的には、「キナーゼ阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、バンデタニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、レンバチニブ、ラパチニブ、ニンテダニブ、ニロチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ルキソリチニブ、トファシチニブ、イブルチニブ、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、パルボシクリブ、トラメチニブ、レゴラフェニブ、セジバニブ、レスタウルチニブ、バンデチニブ、バタラニブ、セリシクリブ、チバンチニブ、カネルチニブ、ペリチニブ、テセバチニブ、セジラニブ、モテサニブ、ミドスタウリン、フォレチニブ、カボザンテイニブ、セルメチニブ、ネラチニブ、ボラセルチブ、サラカチニブ、エンザスタウリン、タンデュチニブ、セマキサニブ、アルボシジブ、ICR-62、AEE788、PD0325901、PD153035、TK787、アムカセルチブ(BBI503)、E6201、E7050、アルボシジブ(DSP-2033)、TP-0903、TP-0184及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0152】
「プロテアソーム阻害剤」としては、特に限定されないが、例えば、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0153】
「モノクローナル抗体」としては、特に限定されないが、例えば、抗CD22抗体、抗CD20抗体、抗CD25抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD5抗体、抗CD52抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(EGFR抗体)、抗血管内皮細胞増殖因子抗体(VEGF抗体)、抗TNF-α抗体、抗IL-1レセプター抗体、抗IL-2レセプター抗体、抗IL-5レセプター抗体、抗IL-6レセプター抗体、抗HER2抗体、抗IgE抗体、抗IgG抗体、抗RSウイルス抗体、抗CCR4抗体、抗CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4、CD152)抗体、抗PD-1抗体、抗RANKL(receptor activator of nuclear factorκB ligand)抗体、抗c-Met抗体、抗CXCR4抗体などが挙げられる。
【0154】
具体的には、「モノクローナル抗体」としては、特に限定されないが、例えば、イブリツモマブチウキセタン、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、ブレンツキシマブ ベドチン、トシリズマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、オマリズマブ、メポリズマブ、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、パリビズマブ、ラニビズマブ、セルトリズマブ、オクレリズマブ、モガムリズマブ、エクリズマブ、ペルツズマブ、アレムツズマブ、イノツズマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、ゴリムマブ、アダリムマブ、ラムシルマブ、ニボルマブ、アナキンラ、デノスマブ、イピリムマブ、ペンブロリズマブ、マツズマブ、ファルレツズマブ、MORAb-004、MORA-b009及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0155】
「mTOR阻害剤」として、特に限定されないが、例えば、エベロリムス(RAD001)、ラパマイシン(シロリムス)、AZD8055、テムシロリムス(CCI-779、NSC683864)KU-0063794、Voxtalisib(XL-765、SAR245409)、MHY1485、ダクトリシブ(BEZ235)、PI-103、Torkinib(PP242)リダフォロリムス(デフォロリムス、MK-8669)、INK-128(MLN0128)、Torin1、オミパリシブ(GSK2126458、GSK458)、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ(GDC-0980、RG7422)、GSK1059615、ゲダトリシブ(PF-05212384、PKI-587)、WYE-132、PP121、WYE-354、AZD2014、Torin2、WYE-687、CH5132799、WAY-600、ETP-46464、GDC-0349、XL388、ゾタロリムス(ABT-578)、タクロリムス(FK506)BGT226(NVP-BGT226)、パロミド529(P529)、クリソファン酸及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0156】
「TNF阻害薬」として、特に限定されないが、例えば、エタネルセプト、レナリドミド(CC-5013)、ポマリドミド、サリドマイド、ネクロスタチン-1またはQNZ(EVP4593)などが挙げられる。
【0157】
「T細胞阻害薬」として、特に限定されないが、例えば、アバタセプトなどが挙げられる。
【0158】
「新脈管形成阻害剤」として、特に限定されないが、例えば、CM101、IFN-α、IL-12、血小板因子-4、スラミン、セマキサニブ、トロンボスポンジン、VEGFRアンタゴニスト、新脈管形成抑制ステロイドプラスヘパリン、軟骨由来新脈管形成阻止因子、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、バチマスタット、マリマスタット、アンギオスタチン、エンドスタチン、2-メトキシエストラジオール、テコガラン、トロンボスポンジン、αVβ3阻害剤、リノミド、ADH-1、E7820及びそれらのDDS製剤などが挙げられる。
【0159】
「その他の化学療法剤」としては、特に限定されないが、例えば、フィナステリド、ソブゾキサン、オバトクラックス、エファプロキシラール、チピファルニブ、ロナファルニブなどが挙げられる。
【0160】
本発明の製剤は、特に限定されないが、マンニトール、トレハロースおよびラクトース等の糖アルコール、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸およびリン酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニア水等のアルカリ、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム水和物、無水酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸二水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムおよびリン酸三ナトリウム等の塩、ポリソルベート20、ポリソルベート60およびポリソルベート80等の合成界面活性剤、並びにマクロゴールやポリエチレングリコール(PEG)(例えば、PEG4000等が挙げられる)等のポリエチレングリコール類から選択される、一般に医薬品製剤に用いられるpH調整剤、希釈剤、緩衝剤、懸濁剤、乳化剤、湿潤剤、可溶化剤、分散剤、保存剤および/または着色剤を含むこともできる。好ましくは、マンニトール、トレハロース、酒石酸またはコハク酸が挙げられる。さらに好ましくは、D-マンニトール、トレハロース水和物、酒石酸またはコハク酸が挙げられる。
【0161】
本発明の製剤中に含まれるpH調整剤、希釈剤、緩衝剤、懸濁剤、乳化剤、湿潤剤、可溶化剤、分散剤、保存剤または着色剤の量は、当該製剤に含まれるペプチド1重量部に対し、pH調整剤、希釈剤、緩衝剤、懸濁剤、乳化剤、湿潤剤、可溶化剤、分散剤、保存剤または着色剤が0.001~1000重量部、好ましくは0.01~10重量部、さらに好ましくは0.1~5重量部である。
【0162】
本発明の製剤は、安定化剤として、特に限定されないが、例えば、トレオニン、トリプトファン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、システイン、シスチン、メチオニン等のアミノ酸、前記アミノ酸の誘導体またはその薬学上許容される塩から選択される1つ以上のアミノ酸を含むことができる。前記アミノ酸は、L体、D体またはDL混合体のいずれも用いることができる。好ましくは、アルギニンおよび/またはメチオニンが挙げられ、さらに好ましくは、L-アルギニンおよびL-メチオニンが挙げられる。
【0163】
本発明の製剤中に含まれるアミノ酸の量は、当該製剤に含まれるペプチド1重量部に対し、アミノ酸が0.001~1000重量部、好ましくは0.01~10重量部、さらに好ましくは0.1~5重量部である。
【0164】
本発明の製剤は、特に限定されないが、シクロデキストリン(CD)等の環状オリゴ糖類を含むことができる。シクロデキストリンとしては、特に限定されないが、含有するペプチドにあわせて、例えば、α-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)等の天然型のシクロデキストリン、もしくはヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン(HE-β-CD)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CD)、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-CD)等のシクロデキストリン誘導体、またはこれらの薬学上許容される塩を用いることができる。好ましくは、β-CD、HP-β-CDもしくはγ-CD、またはこれらの薬学上許容される塩が挙げられる。さらに好ましくは、HP-β-CD、またはこれらの薬学上許容される塩が挙げられる。
【0165】
本発明の製剤中に含まれるシクロデキストリンの量は、当該製剤に含まれるペプチド1重量部に対し、シクロデキストリンが0.1~100重量部、好ましくは0.3~10重量部、さらに好ましくは0.5~5.0重量部である。
【0166】
本発明の製剤は、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤および、非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤、吸入剤、経鼻剤等として用いられる。経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。また錠剤には舌下錠、口腔内貼付錠、口腔内速崩壊錠などが含まれる。
【0167】
本発明の製剤は、注射剤として用いられる場合には、有効成分となる癌抗原ペプチドおよび/またはその他の成分を凍結乾燥製剤として、供与することができる。また、当該凍結乾燥製剤において、複数種の癌抗原ペプチドを含む場合には、当該複数種の癌抗原ペプチドを別々にまたは一緒に凍結乾燥して用いることができる。
【0168】
本発明の製剤は、各化合物または各塩に応じて適切な形態とすることにより、癌の細胞性免疫療法におけるCTL誘導剤、癌ワクチンの医薬組成物とすることができる。
【0169】
本明細書に記載のペプチド、式(1)~(4)で表される化合物、およびそれらの薬学上許容される塩、並びにこれらの組み合わせは、非薬剤療法と組み合わせてもよい。非薬剤療法としては、例えば、手術、放射線療法、遺伝子治療、温熱療法、凍結療法、レーザー灼熱療法などが挙げられ、これらを2種以上組み合わせることもできる。例えば、前記ペプチド、化合物、もしくはそれらの薬学上許容される塩、またはこれらの組み合わせは、手術等の非薬剤療法の前または後に、あるいは2または3種の非薬剤療法を組み合わせた治療前または後に使用することができる。
【0170】
本発明の製剤を用いて調製される癌ワクチンは、WT1遺伝子が発現している癌やWT1遺伝子の発現レベルの上昇を伴う癌の治療薬または予防薬(再発防止薬)として用いることができる。当該癌としては、例えば白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫もしくは悪性リンパ腫などの血液性癌、または胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肺癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌もしくは脳腫瘍などの固形癌が挙げられる。
【0171】
本発明の製剤中における化合物の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重などにより適宜調整することができるが、通常0.0001mg~1000mg、好ましくは0.001mg~1000mg、より好ましくは0.1mg~20mgである。
【0172】
本発明の製剤は、有効成分である癌抗原ペプチドを安定に保持することができることから、種々の投与形態を選択することができる。具体的には、経口、経鼻、経肺、経皮、皮内、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内等が挙げられ、上記の方法により、目的に応じて癌ワクチンを調製すればよい。一般に、癌ワクチンとして、免疫賦活をするのに好ましい投与経路としては、非経口投与が知られており、例えば、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈投与のほか、経鼻投与や経皮投与等が挙げられる。このうち、好ましくは、腹腔内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与などの注射的投与が挙げられる。さらに好ましくは、CTLを効率良く誘導する皮内投与や皮下投与が挙げられる。投与回数および投与間隔は、治療または予防目的の疾患、患者の個体差により適宜調整することができるが、通常複数回であり、数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
このような本発明の化合物を有効成分する製剤をWT1陽性の患者に投与することにより、癌を治療または予防するための方法を提供することができる。
【0173】
本発明において凍結乾燥は、キラーペプチド、ヘルパーペプチド、HP-β-CD、および適宜加えられるメチオニン、有機酸、その他製剤成分を精製水に溶解させて凍結乾燥させ、アジュバントに関しても、同じ溶解液に溶解させて凍結乾燥させてもよい。凍結乾燥は、無菌下一処方ごとにバイアルに充填した溶解液を、低温で凍結させ、通常の医薬製剤で用いる真空凍結乾燥機で溶媒を除去して、凍結乾燥ケーキを得る方法を意図する。
【実施例】
【0174】
以下、参考例および実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0175】
以下の参考例および実施例においては、「キラーペプチド」として、以下の式(3)で表される化合物:
【化14】
また「ヘルパーペプチド」として、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:18)を用いて行った。
【0176】
前記式(3)で表される化合物は、特許文献(国際公開第2014/157692号)に記載する方法で製造した。また、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:18)は特許文献(国際公開第2010/123065号)に記載する方法で製造した。
【0177】
1.凍結乾燥製剤の処方と再溶解時間
<使用原料または試薬>
【0178】
<参考例>
(1)凍結乾燥製剤の調製
下記の処方表の添加量(濃度)となるようにペプチドおよび各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整した。上記で調製した溶液を0.2μmの滅菌フィルターに通してろ過した後、ガラスバイアルに所定量(2~2.4mL)を充填し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行った。凍結乾燥工程は、-40℃付近で溶液を凍結させた後、庫内を真空に減圧すると同時に庫内を-20℃付近まで上昇させ、そのまま20時間程度乾燥を行った後、さらに庫内の温度を30℃付近に上昇させ、そのまま12時間程度乾燥させる条件により行った。
【0179】
(2)結果
キラーペプチドを含有する製剤またはヘルパーペプチドを含有する製剤のいずれであっても、シクロデキストリンを添加しない場合の再溶解時間は3分未満と比較的良好であった。
一方、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドを混合した製剤では、シクロデキストリンを添加しない場合の再溶解時間は10分以上になることが示された(下記実施例1を参照)。
これらの結果から、実施例1のようにキラーペプチドおよびヘルパーペプチドを混合した製剤が再溶解するまでに時間を要する原因は、キラーペプチドまたはヘルパーペプチドの溶解度が小さいことにあるわけではなく、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドが相互に凝集してしまうことにあると推測される。
【0180】
<実施例>
(1)凍結乾燥製剤の調製
下記の各処方表(a)~(g)の添加量(濃度)となるように各ペプチドおよび各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整した。上記で調製した溶液を0.2μmの滅菌フィルターに通してろ過した後、ガラスバイアルに所定量(1.2~4mL)を充填し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行った。凍結乾燥工程は、-40℃付近で溶液を凍結させた後、庫内を真空に減圧すると同時に庫内を-20℃付近まで上昇させ、そのまま20時間程度乾燥を行った後、さらに庫内の温度を30℃付近に上昇させ、そのまま12時間程度乾燥させる条件により行った。
【0181】
(2)凍結乾燥製剤の再溶解時間の測定および評価
各凍結乾燥製剤に所定量の注射用水(1mLまたは0.6mL)を加え、復水した時の溶解時間を測定した。
【0182】
【0183】
【0184】
(a-3)結果:
コハク酸を含まない製剤では、再溶解時間を10分以上要したのに対し、コハク酸を含有することで再溶解時間が大幅に短縮した。コハク酸を含有する凍結乾燥製剤のうち、HP-β-シクロデキストリンまたはγシクロデキストリンを有するものでは、さらに再溶解時間を短縮した。
したがって、これらの結果から、実施例に記載するキラーペプチドおよびヘルパーペプチドに対しては、コハク酸の添加およびシクロデキストリンとしてHP-β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンの添加が、再溶解時間の短縮に有効であることが示唆された。
【0185】
【0186】
【0187】
(b-3)結果:
コハク酸およびHP-β-シクロデキストリンを含有する凍結乾燥製剤のうち、D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニンの含有量の変化に対しては再溶解時間に顕著な差は認められなかった。
したがって、これらの結果より、上記コハク酸およびHP-β-シクロデキストリンを含む製剤では、D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニンの含有量は再溶解時間に影響しないことが示唆された。
【0188】
【0189】
【0190】
(c-3)結果:
HP-β-シクロデキストリン含有量による相違では、含有濃度2.5m/Lに比べ、6.25m/Lで再溶解時間の大幅な短縮が確認された。7.5m/L以上では再溶解時間の顕著な短縮が確認されたが、一方で再溶解時の激しい泡立ちが確認された。また、酒石酸の有無による再溶解性への影響は認められなかった。
したがって、これらの結果より、HP-β-シクロデキストリン含有量の多い方が再溶解時間の短縮に有効であることが示唆された。一方で、一定以上の濃度では再溶解時の泡立ちのため、製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが示唆された。また、HP-β-シクロデキストリン含有製剤では、コハク酸の添加が再溶解時間の短縮に有効であることが示唆された。
【0191】
【0192】
【0193】
(d-3)結果:
高濃度調製された凍結乾燥製剤では、コハク酸濃度による再溶解時間の差は認められなかった。また、実施例5または8と比較し、高濃度製剤(実施例22~25)では再溶解時間の短縮が確認された。一方、コハク酸または酒石酸処方におけるHP-β-シクロデキストリン濃度による変化では、HP-β-シクロデキストリン高濃度処方(実施例26または28)において再溶解時間の短縮が確認されたが、同時に再溶解時の泡立ちが確認された。
したがって、これらの結果より、高濃度製剤では再溶解時間はコハク酸濃度に依存しないこと、およびHP-β-シクロデキストリン高濃度処方では泡立ちのため製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが示唆された。
【0194】
【0195】
【0196】
(e-3)結果:
高濃度調製された凍結乾燥製剤では、HP-β-シクロデキストリン濃度によって、再溶解時間の明らかな差が確認された。一方、HP-β-シクロデキストリン濃度20m/L(実施例29)の場合には、再溶解時の泡立ちが確認された。
高濃度調製された凍結乾燥製剤では、D-マンニトールまたはトレハロース濃度による再溶解時間の差は見られなかった。
したがって、これらの結果より、再溶解時間はHP-β-シクロデキストリン濃度に依存するが、HP-β-シクロデキストリン高濃度処方では泡立ちのため製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが示唆された。
【0197】
【0198】
【0199】
(f-3)結果:
高濃度調製された凍結乾燥製剤では、メチオニン低濃度またはメチオニンなしの場合に再溶解時間の短縮が見られた。一方、HP-β-シクロデキストリンが20m/Lの場合(実施例44)には、再溶解時の泡立ちが見られた。
したがって、これらの結果より、再溶解時間とメチオニン濃度には負の相関があり、再溶解時間の短縮にはメチオニン濃度の低減が有効であることが示唆された。
【0200】
【0201】
【0202】
(g-3)結果:
D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニン等の賦形剤の比率による再溶解時間の影響はなかった。一方、L-メチオニンの非添加または低濃度での添加(1.25m/L)では、再溶解時間に差は見られなかった。
したがって、これらの結果より、再溶解時間は、D-マンニトールの濃度、およびトレハロースまたはL-メチオニンの有無には影響しないことが示唆された。
【0203】
(h-1)各処方液剤の調製
上記の各処方表(a)~(g)の添加量(濃度)となるように、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドの代わりに、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチド、および各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整する。上記で調製した溶液を0.2μmの滅菌フィルターに通してろ過した後、ガラスバイアルに所定量(1.2~4mL)を充填し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行う。凍結乾燥工程は、-40℃付近で溶液を凍結させた後、庫内を真空に減圧すると同時に庫内を-20℃付近まで上昇させ、そのまま20時間程度乾燥を行った後、さらに庫内の温度を30℃付近に上昇させ、そのまま12時間程度乾燥させる条件により行う。
【0204】
(h-2)結果:
上記実施例から、(a)実施例に記載するペプチドに対しては、コハク酸の添加およびHP-β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンの添加が、再溶解時間の短縮に有効であることが分かる。(b)コハク酸およびHP-β-シクロデキストリンを含む製剤では、D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニンの含有量は再溶解時間に影響しないことが分かる。(c)HP-β-シクロデキストリン含有量の多い方が再溶解時間の短縮に有効であることが示唆される一方で、一定以上の濃度では再溶解時の泡立ちのため、製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが分かる。また、HP-β-シクロデキストリン含有製剤では、コハク酸の添加が再溶解時間の短縮に有効であることが分かる。(d)高濃度製剤では再溶解時間はコハク酸濃度に依存しないこと、およびHP-β-シクロデキストリン高濃度処方では泡立ちのため製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが分かる。(e)再溶解時間はHP-β-シクロデキストリン濃度に依存するが、HP-β-シクロデキストリン高濃度処方では泡立ちのため製剤の調製工程の観点からは好ましくないことが分かる。(f)再溶解時間とメチオニン濃度には負の相関があり、再溶解時間の短縮にはメチオニン濃度の低減が有効であることが分かる。(g)コハク酸およびHP-β-シクロデキストリンを含む製剤では、D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニンの含有量は再溶解時間に影響しないことが分かる。
以上より、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチドとシクロデキストリンを含む製剤についても、同様に溶解時間の短縮が見られる。また、当該製剤についても同様に、コハク酸等の有機酸、D-マンニトール、トレハロースまたはL-メチオニン等の添加剤等を適宜含めることができる。
【0205】
2.製造工程中の不溶物抑制効果
以下の各処方について、製造工程中の不溶物抑制効果を確認した。
【0206】
【0207】
(1-1)各処方液剤の調製
処方表の添加量(濃度)となるように、各ペプチドおよび各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整した。上記の溶液を室温下で一晩(14~16時間)攪拌し、性状を確認した。
【0208】
【0209】
【0210】
(1-2)各処方液剤の静置後の性状評価
上記処方表を基に調製した液剤を一晩(14または16時間)静置し、溶液中の不溶物の有無を確認した。また、実施例57および59については、23時間後の溶液中の不溶物の有無を確認した。
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
(1-3)結果
実施例46~53において、HP-β-シクロデキストリン高濃度処方では不溶物の生成を抑制することができなかったが、実施例47のメチオニンの非添加により不溶物の生成を抑制することができた。
その他凝集抑制剤、溶解補助剤の添加によっても不溶物の生成を抑制することができなかったが、バルク濃度を1/2濃度とすることで不溶物の生成を抑制することができた。
したがって、これらの結果より、メチオニンの非添加またはバルク濃度の低減が、不溶物の生成抑制に効果的であることが示唆された。
【0215】
実施例58では、CMC-Naが溶解しなかったため、溶液調製できなかった。
その他、いずれも調製直後は澄明であったが、実施例54、55、56、60では14時間後に微粒子の発生および/または凝集物が確認された。PEG4000の添加では、23時間後において、微粒子の発生および凝集物が確認された。一方、バルク濃度を1/2濃度とした実施例57では23時間後の澄明な性状を維持していた。
したがって、これらの結果より、メチオニン非添加または低濃度の条件において、製造工程中の不溶物の生成が抑制されることが示唆された。また、バルク濃度が低濃度の場合には、さらに長時間の不溶物生成を抑制することが示唆された。
【0216】
(2-1)各処方液剤の調製
上記の各処方の添加量(濃度)となるように、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドの代わりに、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチド、および各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整する。上記の溶液を室温下で一晩(14~16時間)攪拌し、性状を確認する。
【0217】
(2-2)結果
上記実施例から、これらの結果より、メチオニンの非添加またはバルク濃度の低減が、不溶物の生成抑制に効果的であることが分かる。また、メチオニン非添加または低濃度の条件において、製造工程中の不溶物の生成が抑制されることが分かる。また、バルク濃度が低濃度の場合には、さらに長時間の不溶物生成を抑制することが分かる。
以上より、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチドとシクロデキストリンを含む製剤についても、同様に不溶物の抑制効果が見られる。また、当該製剤についても同様に、バルク濃度が一定の場合において長時間の不溶物生成を抑制することができる。
【0218】
3.凍結乾燥製剤の安定性の確認
【0219】
【0220】
(1-1)凍結乾燥製剤の調製
処方表の添加量(濃度)となるように各ペプチドおよび各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整した。上記で調整した溶液を0.2μmの滅菌フィルターに通してろ過した後、ガラスバイアルに所定量(4mL)を充填し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行った。凍結乾燥工程は、-40℃付近で溶液を凍結させた後、庫内を真空に減圧すると同時に庫内を-20℃付近まで上昇させ、そのまま20時間程度乾燥を行った後、さらに庫内の温度を30℃付近に上昇させ、そのまま12時間程度乾燥させる条件により行った。
【0221】
【0222】
(1-2)凍結乾燥製剤の安定性評価
以下、5℃、25℃または40℃の条件下、調製時、2週間保存後及び1ヶ月保存後の各凍結乾燥製剤を所定量の注射用水(1mL又は1.2mL)を加えて溶解し、類縁物質(RRT.0.875)の含有量を評価した。類縁物質(RRT.0.875)の含有量は、C18逆相カラム(2.1mm×100mm,1.7μm)を用い、純水、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸を移動相に用いた。逆相高速クロマトグラフィー法(検出波長:220nm)により測定した。以下の式により類縁物質(RRT.0875)の含有量を算出した。
【0223】
類縁物質(RRT.0875)の含有量(%)=類縁物質(RRT.0875)のピーク面積/DSR-131617のピーク面積×100
【0224】
【0225】
【0226】
(1-3)結果
メチオニン非添加の処方に比べ、メチオニン低濃度(1.25mg/mLまたは2.5mg/mL)の処方では、長時間保管における類縁物質の発生を抑制した。
したがって、これらの結果より、メチオニンの添加が長時間における類縁物質の発生抑制に寄与することが示唆された。
【0227】
(2-1)各処方液剤の調製
上記処方表の添加量(濃度)となるように、キラーペプチドおよびヘルパーペプチドの代わりに、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチド、および各製剤成分を注射用水に溶解させ、pH調節剤(1mol/L塩酸)でpHを2~3に調整する。上記で調整した溶液を0.2μmの滅菌フィルターに通してろ過した後、ガラスバイアルに所定量(4mL)を充填し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行う。凍結乾燥工程は、-40℃付近で溶液を凍結させた後、庫内を真空に減圧すると同時に庫内を-20℃付近まで上昇させ、そのまま20時間程度乾燥を行った後、さらに庫内の温度を30℃付近に上昇させ、そのまま12時間程度乾燥させる条件により行う。
【0228】
(2-2)結果
上記実施例から、これらの結果より、メチオニンの添加が長時間における類縁物質の発生抑制に寄与することがわかる。
以上より、1種または複数種の配列番号2~10、21~33のペプチドもしくは式(2)、(4)の化合物、または/および配列番号11~20、34~40のペプチドとシクロデキストリンを含む製剤についても、同様に類縁物質の発生を抑制することができる。
【配列表】