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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】馬乳酒由来エクソソーム及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/20 20060101AFI20221021BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221021BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221021BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20221021BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
A61K35/20
A61P17/00
A61P29/00
A61P37/08
A61P43/00 111
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021070665
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521168494
【氏名又は名称】エルドン ボルド
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】エルドン ボルド
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056119(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem., (2017), 65, [6], p.1220-1228
【文献】Biochim. Open, (2017), 4, p.61-72
【文献】日本栄養・食糧 学会誌, (2002), 55, [5], p.281-285
【文献】ミルクサイエンス, (2015), 64, [1], p.53-62
【文献】Jpn. J. Lactic Acid Bact., (2011), 22, [3], p.153-161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
馬乳酒由来エクソソームを含有する皮膚処置用組成物。
【請求項2】
馬乳酒由来エクソソームを含有する抗炎症用組成物。
【請求項3】
馬乳酒由来エクソソームを含有するTARC産生抑制用組成物。
【請求項4】
馬乳酒由来エクソソームを含有するアトピー性皮膚炎処置用組成物。
【請求項5】
馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤。
【請求項6】
請求項5記載のTARC産生抑制剤を含有する疾患処置用組成物であって、前記疾患がTARC媒介性疾患である、組成物。
【請求項7】
請求項5記載のTARC産生抑制剤を含有する疾患処置用組成物であって、前記疾患がアトピー性皮膚炎である、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、馬乳酒に由来するエクソソーム及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、細胞から分泌される直径30~200nm(ナノメートル)の細胞外小胞であり、細胞に備わる情報分子である膜蛋白質、細胞内蛋白質、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)等が組み込まれており、他の細胞間との情報伝達を担うものと考えられている(非特許文献1)。近年では、このエクソソームを医薬品、化粧品、機能性食品などとして応用しようとする試みも盛んである。
【0003】
エクソソームの医薬品、化粧品等への応用に関しては、例えば、特許文献1には、間葉系幹細胞由来のエクソソームを含んでなる医薬組成物、および免疫介在性炎症性疾患を治療する方法におけるそれらの使用に関する発明が開示されている。また、特許文献2には、乳由来のエクソソームを有効成分として含有する抗炎症剤に関する発明が開示されている。また、特許文献3には、日本酒の酒母又はもろみ、あるいは味噌から抽出されたエクソソームに関する発明について開示されており、酵母(酒母、もろみ、味噌)由来のエクソソームはNK細胞から分泌される殺細胞因子であるグランザイムの発現量を増やすこと、また、酒母エクソソームの添加により老化した線維芽細胞におけるコラーゲンとエラスチンの遺伝子発現量が高められたことが記載されている(特許文献3の段落0055)。
【0004】
一方、白血球に対して走化性などを示すケモカインの1つとして、TARC(Thymus and activation-regulated chemokine)が知られている。例えば、アトピー性皮膚炎では、病変部の表皮角化細胞により産生されたTRACがリンパ球(CCR4を発現するTh2細胞)を局所に遊走させ、Th2優位の免疫応答により、IgE産生や好酸球の浸潤・活性化が惹起されてアレルギー症状が出現すると考えられている(非特許文献2)。
【0005】
また、例えば、特許文献4には、ヒトCCL17抗体に関する発明が開示されており、CCL17(「CCL17」は「TARC」の別名である)は、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎、特発性肺線維症、及び喘息などの様々な臓器に影響を及ぼすヒト疾患に関連するので、そのようなCCL17媒介性の炎症性疾患の治療のために有用であると記載されている(特許文献4の段落0004、0144)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kosaka N, Yoshioka Y, Fujita Y, Ochiya T.「Versatile roles of extracellular vesicles in cancer.」J Clin Invest. 2016 Apr 1; 126(4), pp1163-72.
【文献】常深 祐一郎「アトピー性皮膚炎診療における血清TARC値の活用」日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会雑誌 11(3); 2017, pp220-226.
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2018-531979号公報
【文献】国際公開WO2016/039356号
【文献】国際公開WO2020/158930号
【文献】特表2016-537024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
種々の炎症性疾患の発症に関連しているTARCを抑制することができれば、それら疾患の治療薬等として有望であろうと考えられる。しかしながら、例えば、特許文献4に記載の抗体技術では、患者への投与形態や効果発現性などの実用面や面で汎用性があるとは言い難かった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、種々の炎症性疾患の発症に関連しているTARCを抑制することができ、例えばアトピー性皮膚炎の治療等に有用な、新たな素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、馬乳酒由来エクソソームには炎症反応を惹起した正常ヒト表皮角化細胞からのTARCの産生を抑制する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、第1に、馬乳酒由来エクソソームを含有する皮膚処置用組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、第2に、馬乳酒由来エクソソームを含有する抗炎症用組成物を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、第3に、馬乳酒由来エクソソームを含有するTARC産生抑制用組成物を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、第4に、馬乳酒由来エクソソームを含有するアトピー性皮膚炎処置用組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、第5に、馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、第6に、上記TARC産生抑制剤を含有する疾患処置用組成物を提供するものである。
【0017】
上記疾患処置用組成物においては、前記疾患がTARC媒介性疾患であることが好ましい。また、前記疾患がアトピー性皮膚炎であることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、第7に、馬乳酒を複数画分に分画する工程と、前記複数画分からエクソソームが富化された画分を回収する工程とを有することを特徴とする馬乳酒由来エクソソーム含有組成物の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、第8に、馬乳酒から得られ、前記馬乳酒に由来するエクソソームを富化してなるエクソーム富化画分を含有する馬乳酒由来エクソソーム含有組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により提供される馬乳酒由来エクソソームによれば、種々の炎症性疾患の発症に関連しているTARCを抑制することができ、例えばアトピー性皮膚炎の治療等に有用である。また、ヒト又は動物に投与する処置用組成物の配合成分して、好適に利用すること可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】調製例1において調製した馬乳酒由来エクソソームについて、ナノ粒子トラッキング解析システムで計測した結果を示す図表であり、図1(a)には粒子径分布のグラフを示し、図1(b)には観察視野像の一例を示す。
図2】試験例1において、正常ヒト表皮角化細胞にIL-10/TNF-α/IFN-γを作用させて炎症性を惹起し、このときに産生されるTARCの発現量(相対値)に与える馬乳酒由来エクソソームの影響について調べた結果を示す図表である。
図3】試験例1において、正常ヒト表皮角化細胞にIL-10/TNF-α/IFN-γを作用させて炎症性を惹起し、このときに産生されるTSLPの発現量(相対値)に与える馬乳酒由来エクソソームの影響について調べた結果を示す図表である。
図4】試験例1において、正常ヒト表皮角化細胞にIL-10/TNF-α/IFN-γを作用させて炎症性を惹起し、このときに産生されるMDCの発現量(相対値)に与える馬乳酒由来エクソソームの影響について調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「馬乳酒」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、馬乳を自然発酵させて得られるアルコール分1~3%で、馬乳に由来するミネラル・ビタミン等の栄養素を含む飲料である。搾りたての馬乳に調製済みの馬乳酒の残りを加えて攪拌を行うことなどによって得ることができる。馬乳酒は、モンゴル国を原産国にするものを用いることが好ましい。
【0023】
本明細書において「エクソソーム」とは、通常当業者に理解される意義と同義であり、具体的には、細胞から分泌される直径30~200nm(ナノメートル)の細胞外小胞であり、細胞に備わる情報分子である膜蛋白質、細胞内蛋白質、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)等が含まれる。
【0024】
馬乳酒からのエクソソームの調製については、例えば馬乳酒に豊富に含まれているタンパク質成分を除くために、馬乳酒を酢酸で処理してタンパク質を沈殿させ、その上澄み分を超遠心によって分離することで、高度に精製したエクソソームを得ることが可能である。
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、更に詳細に説明する。
【0026】
1.馬乳酒に由来するエクソソーム
馬乳酒に由来するエクソソームは、例えば、以下の工程を経ることにより得ることができる。
(a)原料とする馬乳酒を遠心ないしフィルターろ過の処理に供して夾雑物を除去する
(b)上記工程(a)を経て夾雑物を除去した試料を超遠心の処理に供する
(c)上記工程(b)の処理による沈殿物を回収する
【0027】
上記工程(a)における遠心力条件としては,エクソソームを沈殿させずに、エクソソーム以外の夾雑物を沈殿物として除去することができればよく、例えば、10,000~20,000×gであってよく、10,000~17,000×gであってよく、12,000~17,000×gであってよく、又は12,000~15,000×gであってよい。また、上記工程(a)における遠心時間としては、例えば、5~60分間であってよく、10~45分間であってよく、又は15~30分間であってよい。また、上記工程(a)における遠心温度としては,4℃~室温で行うことができる。上記工程(a)により得られた上清は、必要に応じてフィルターろ過(例えば、0.65μmフィルターによるろ過)することにより、更に夾雑物を除去することができる。遠心ないしフィルターろ過の処理は、必要に応じて2段階行ってもよい。また、遠心の処理とフィルターろ過の処理の順を変えてもよく、それらの処理を交互に行ってもよい。
【0028】
上記工程(b)における遠心力条件としては,エクソソームを沈殿物に回収することができればよく、例えば、50,000~210,000×gであってよく、70,000~200,000×gであってよく、70,000~200,000×gであってよく、又は100,000~180,000×gであってよい。また、上記工程(b)における遠心時間としては,例えば、50分間~4時間であってよく、60分間~4時間であってよく、又は70分間~4時間であってよい。また、上記工程(b)における遠心温度としては,4℃~室温で行うことができる。
【0029】
上記工程(c)においては、上記工程(b)の超遠心の処理による上清を取り除き、上記工程(b)の超遠心の処理による沈殿物にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の適当な溶媒を加えて懸濁させ、その沈殿物を回収する。回収したエクソソームは必要に応じて、PBS等で洗浄することができる。洗浄は沈殿物をPBSに懸濁後、上記工程(b)の条件による超遠心の処理を繰り返すことにより行うことができる。
【0030】
上記工程(a)では、原料となる馬乳酒を、エクソソームが除かれない程度の遠心ないしフィルターろ過の処理にかけて、夾雑物を除去することにより、後段の工程で富化されるエクソソーム画分に、その夾雑物が混入することが防がれる。
【0031】
上記工程(b)では、超遠心の処理により馬乳酒中に浮遊しているエクソソームを沈殿させて、馬乳酒中に浮遊、分散、又は溶解等しているエクソソーム以外の成分と分離することができる。
【0032】
上記工程(c)では、沈殿させたエクソソームをPBS等の適当な溶媒に懸濁させて、回収することができる。
【0033】
よって、工程(a)、工程(b)、及び工程(c)を経ることにより、馬乳酒に含まれるエクソソームが選択的に回収され、富化される。
【0034】
ここで「富化」とは、調製した馬乳酒由来エクソソーム含有組成物中での濃度(例えば、個数基準であってもよく特定の蛋白質、核酸、脂質等のエクソソーム成分の含量基準であってもよい)が、原料とした馬乳酒に含まれるエクソソーム濃度に対して、好ましくは、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、500倍以上、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上、又は1,000倍以上、高められていることをいう。
【0035】
得られたエクソソーム富化画分に意図したエクソソームが含まれているかどうかは、例えば、エクソソームに特有の粒子径範囲にある粒子の測定を行ったり、エクソソームを特異的に認識する抗体を用いたELISA測定を行ったりすることなどにより、確認することができる。確認手段はこれらに限らないが、エクソソームに特有の粒子径範囲にある粒子は、例えば、個々の粒子のブラウン運動速度の違いをもとに粒子径を解析する、ナノ粒子トラッキング解析システムを用いて測定することができる。具体的には、市販の解析システム(商品名「Nanosignt」、Malvern Panalytical社製)などが利用可能である。また、馬、牛等の動物種に交差性を有する抗エクソソーム抗体を用いてELISA測定を行うことができる。具体的には、例えば、市販の測定キット「ミルクエクソソームELISAキット」(コスモ・バイオ社製)などが利用可能である。
【0036】
本発明により提供される馬乳酒由来エクソソームの平均粒子径としては、例えば、80~200nmであってよく、100~180nmであってよく、又は110~160nmであってよい。また、ピーク径として好ましくは、70~140nmであってよく、80~130nmであってよく、又は90~120nmであってよい。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。また、上記のとおり、馬乳酒からエクソソーム富化画分を調製し、これを利用しようとするものであるから、ある観点としては、本発明は、馬乳酒に由来するエクソソームを富化してなるエクソーム富化画分を含有する馬乳酒由来エクソソーム含有組成物を提供するものである。また、別の観点としては、馬乳酒を複数画分に分画する工程と、その複数画分からエクソソームが富化された画分を回収する工程とを有する、馬乳酒由来エクソソーム含有組成物の製造方法を提供するものである。
【0038】
2.馬乳酒由来エクソソームを含有する組成物(剤)
後述する試験例に示されるように、馬乳酒由来エクソソームによれば、炎症反応を惹起した正常ヒト表皮角化細胞が産生するTARCの産生を抑制する作用効果がある。
【0039】
よって、ある態様においては、本発明は、馬乳酒由来エクソソームを各種の組成物に配合してヒト又は動物に適用して利用するための該組成物を提供するものである。例えば、下記組成物が挙げられる。
(a)馬乳酒由来エクソソームを含有する皮膚処置用組成物
(b)馬乳酒由来エクソソームを含有する抗炎症用組成物
(c)馬乳酒由来エクソソームを含有するTARC産生抑制用組成物
(d)馬乳酒由来エクソソームを含有するアトピー性皮膚炎処置用組成物
(e)馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤
(f)馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤を含有する疾患処置用組成物
【0040】
皮膚処置用組成物としては、馬乳酒由来エクソソームに加えて、必要に応じて薬学的に許容される基材や担体を添加して、通常の製剤方法によって、例えば、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、スプレー剤、パック剤、貼付剤、チック剤、リニメント剤等の形態にして、これを皮膚に適用して処置する目的で用いられる組成物であることができる。
【0041】
抗炎症用組成物としては、炎症の症状を予防したり、改善したり、治療したりする等の目的で用いられる組成物であることができる。投与形態や投与剤形に特に制限はなく、上記皮膚処置用組成物と同様であってよく、あるいは、経口、静脈、腹腔、経皮、経肺、経鼻、口腔、経腸等、いずれの投与形態であってもよい。この場合、その各種の投与形態に適するように、適宜適当な製剤的基材等ともに、通常の製剤手段により、馬乳酒由来エクソソームを含有せしめるよう調製された形態をなしてもよい。例えば、錠剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、ゼリー状剤、トローチ剤、口腔内崩壊剤、注射剤、吸引剤、坐剤、塗布剤等の形態であってよい。
【0042】
TARC産生抑制用組成物としては、所望の細胞におけるTARCの産生を抑制する等の目的で用いられる組成物であることができる。投与形態や投与剤形に特に制限はなく、上記皮膚処置用組成物や抗炎症用組成物と同様であってよい。
【0043】
アトピー性皮膚炎処置用組成物としては、アトピー性皮膚炎の症状を予防したり、改善したり、治療したりする等の目的で用いられる組成物であることができる。投与形態や投与剤形に特に制限はなく、上記皮膚処置用組成物や抗炎症用組成物と同様であってよい。特には、アトピー性皮膚炎の患部の皮膚に適用して処置する目的で用いられる形態であることが好ましい。
【0044】
一方、本発明により提供される馬乳酒由来エクソソームは、所望の細胞におけるTARCの産生を抑制する目的で用いる原薬としてTARC産生抑制剤であることができる。すなわち、馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤であることができる。
【0045】
よって、例えば、上記馬乳酒由来エクソソームを有効成分とするTARC産生抑制剤は、TARC媒介性疾患の症状を予防したり、改善したり、治療したりする等の目的で用いられる組成物であることができる。投与形態や投与剤形に特に制限はなく、上記皮膚処置用組成物や抗炎症用組成物と同様であってよい。
【0046】
ここで、「TARC媒介性疾患」とは、TARCが疾患に関与している該疾患であり、例えば、アトピー性皮膚炎が代表としてあげられるが、それ以外にも、接触皮膚炎、貨幣状湿疹、うっ滞性皮膚炎、汗疱、アレルギー性接触皮膚炎、毛包炎、乾癬、皮膚の乾燥からくるかゆみ、蕁麻疹、皮脂欠乏性湿疹、脂漏性湿疹、異汗性湿疹、貨幣状湿疹、円形脱毛症、花粉症、喘息、動物アレルギーなどが挙げられる。更に、犬や猫等の動物については、マダニ・ノミ媒介性皮膚疾患などが挙げられる。
【0047】
上記各種の組成物にして利用する場合、その組成物中に含有せしめるエクソソームの含有量としては、調製したエクソソーム富化画分の質量換算でいえば、例えば、1~100質量%、2~100質量%、3~100質量%、4~100質量%、5~100質量%、10~100質量%、20~100質量%、30~100質量%、40~100質量%、又は50~100質量%とすることができる。また、エクソソームの個数換算でいえば、例えば、4×10~1×1014個/mL、5×10~1×1014個/mL、1×10~1×1014個/mL、1×1010~1×1014個/mL、1×1011~1×1014個/mL、又は1×1012~1×1014個/mLとすることができる。なお、エクソソームの個数換算で4×10個の場合、通常その質量換算ではおよそ20μgに相当する。
【0048】
本発明により提供される馬乳酒由来エクソソームをヒト又は動物に投与する場合、そのエクソソームの投与量としては、これを利用するための上記組成物の形態や目的に応じて適宜設定することができる。例えば,経口摂取用として摂取する場合,大人が1日数回,1回につき、調製したエクソソーム富化画分の質量換算でいえば、例えば,0.001mg~10gを摂取することができる。また、エクソソームの個数換算でいえば、例えば、2×10~2×1012個を摂取することができる。また、皮膚処置用として皮膚に塗布する場合、調製したエクソソーム富化画分の質量換算でいえば、例えば,0.0001mg~0.1g/cmを塗布することができる。エクソソームの個数換算でいえば、例えば、2×10~2×1010個/cmを塗布することができる。
【0049】
本発明により供される馬乳酒由来エクソソームを含有してなる組成物は、特定の症状の予防、改善、治療等の目的で用いられてもよく、あるいは、健常なヒト又は動物に適用されてもよい。例えば、その健常なヒト又は動物の健康を維持するために用いられてもよい。
【0050】
本発明により供される馬乳酒由来エクソソームを含有してなる組成物は、典型的に、例えば医薬品、医薬部外品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品、動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用機能性食品、動物用栄養補助食品、動物用サプリメント、動物用健康食品、飼料、飼料添加物など各種の製品形態で使用されることが可能である。あるいはそれら製品と組み合わせて使用されることが可能である。また各種の飲食品と組み合わせて使用してもよい。
【実施例
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
[調製例1]<馬乳酒由来エクソソームの調製>
馬乳酒(原産国:モンゴル国)を準備し、その50mLを低速遠心(2000×g、5分)にかけて細胞破砕物等の夾雑物を除去した。次いで、37℃に保温しつつ500μLの酢酸溶液を加えて転倒混和したのち、遠心機(12,000×g、10分、4℃)にかけて、その上清を新しいチューブに回収した。これを超遠心装置(ベックマン社製、100,000×g、70分、4℃)にかけて、その沈降画分を回収した。沈渣はPBS(-)に分散させ、同様の超遠心を繰り返し、洗浄、夾雑タンパク質を除去した。最終的にこれをPBS(-)に懸濁させて、以下の試験に用いた。
【0053】
最終産物についてエクソソーム粒子の確認のため、ナノ粒子トラッキング解析システム(商品名「Nanosignt」、Malvern Panalytical社製)によって評価した。その結果、図1に示されるように、馬乳酒エクソソームの粒子径の平均はおよそ107nmであった。また、原料の馬乳酒中に含まれる濃度に換算したときの濃度はおよそ4.0×10個/mLであった。すなわち馬乳酒には1ccあたり4億個のエクソソームが含まれていることが明らかとなった。
【0054】
(試験例1)<炎症モデル系における効果>
正常ヒト表皮角化細胞(商品名「正常ヒト表皮角化細胞(成人、単一ドナー):Normal Human Epidermal Keratinocytes (NHEK), adult donor, single donor」、PromoCell社製)を、常法に従い、ケラチノサイト専用培地(商品名「角化細胞増殖培地2キット:Keratinocyte Growth Medium 2 Kit」、PromoCell社製)を用いて、5%CO、37℃下に75cmの平底プレート培養容器でサブコンフルエントになるまで培養した。継代のため、新たな培養容器に40%コンフルエントの細胞濃度となるよう播種した後、更に、48時間培養後、6-ウエルプレートに80%コンフルエントの細胞濃度で播種した。24時間培養後、IL-10を終濃度10ng/mLとなるように、TNF-αを終濃度10ng/mLとなるように、IFN-γを終濃度10ng/mLとなるように、それぞれを添加し、更に、24時間培養した。そして、その24時間培養後の培養液に、馬乳酒由来エクソソームを終濃度2μg/mL又は10μg/mLとなるように添加した。
【0055】
48時間培養後、細胞をスクレーパーにより採取し、トータルRNA回収キット(商品名「NucleoSpin RNA」、タカラバイオ社製)を用いてRNAを回収し、mRNA定量用のDNA試料を調製した。この試料に対して、常法に従い、特異的プライマーによる定量的PCRを行って、TARC(Thymus and activation-regulated chemokine)、TSLP(Thymic Stromal lymphopoietin)、及びMDC(Macropage Derived Chemokine)のmRNA量を測定した。なお、TARCは白血球系細胞に対して走化性などを示すケモカインの1つとして知られ、アトピー性皮膚炎の発症に深く関与していることが知られているが、同様にTSLPも、Th2細胞(2型ヘルパーT細胞)の選択的な分化誘導及びその機能維持に関与してアレルギー性炎症の成立全般にかかわるマスター分子であることが知られている。また、MDC(別名:CCL22)もTARC同様に、白血球系細胞に対して走化性などを示すケモカインの1つであり、アトピー性皮膚炎患者の血清中に出現してその重症度をよく反映する分子であることが知られている。
【0056】
その結果、図2、3、4に示されるように、正常ヒト表皮角化細胞をIL-10/TNF-α/IFN-γで処理することにより、アトピー性皮膚炎患者で上昇がみられるTARC、TSLP、及びMDCの発現が誘導された。これに対して、これらのTARC、TSLP、MDCの発現誘導は、馬乳酒由来エクソソームの添加により有意に抑制された。
【要約】
【課題】種々の炎症性疾患の発症に関連しているTARCを抑制することができ、例えばアトピー性皮膚炎の治療等に有用な、新たな素材を提供する。
【解決手段】馬乳酒から得られ、前記馬乳酒に由来するエクソソームを富化してなるエクソーム富化画分を含有する馬乳酒由来エクソソーム含有組成物である。また、乳酒を複数画分に分画する工程と、前記複数画分からエクソソームが富化された画分を回収する工程とを有することを特徴とする馬乳酒由来エクソソーム含有組成物の製造方法である。この馬乳酒由来エクソソームは、TARC産生を抑制する作用効果を有しており、皮膚処置用組成物や抗炎症用組成物に配合する素材として有用である。また、アトピー性皮膚炎等のTARC媒介性疾患に対する処置剤としても有用である。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4