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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】印刷インキの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20221021BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C09D11/037
C09C1/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021147741
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2021-09-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】石井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】夏井 智之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 祐子
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196278(JP,A)
【文献】特開2005-329392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0176103(US,A1)
【文献】特開2020-002259(JP,A)
【文献】特開2014-227455(JP,A)
【文献】特開2015-196789(JP,A)
【文献】特開2001-253713(JP,A)
【文献】特開2006-169071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、有機溶剤又は水、並びに、着色剤として二酸化チタンからなる白色顔料を少なくとも含んでなる着色剤組成物である、白色の印刷インキを得るための製造方法であって、
二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物の廃棄物を原料に用い、該原料を500℃~800℃の温度で保持して焼成物を得、得られた焼成物を再生二酸化チタンとし、前記白色顔料を構成する二酸化チタンとして用いることを特徴とする印刷インキの製造方法。
【請求項2】
バインダー樹脂、有機溶剤及び着色剤として二酸化チタンからなる白色顔料を少なくとも含んでなる着色剤組成物である、白色の印刷インキを得るための製造方法であって、
二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物からのインキ塗膜層を含む脱離物である廃棄物を原料に用い、該原料を500℃~800℃の温度で保持して焼成物を得、得られた焼成物を再生二酸化チタンとし、前記白色顔料を構成する二酸化チタンとして用いることを特徴とする印刷インキの製造方法。
【請求項3】
前記二酸化チタンからなる白色顔料が、二酸化チタンの全量100質量部中に、前記再生二酸化チタンを5質量部以上100質量部以下の範囲で含む、請求項1又は2に記載の印刷インキの製造方法。
【請求項4】
前記二酸化チタンからなる白色顔料が、二酸化チタンの全量100質量部中に、前記再生二酸化チタンを5質量部以上30質量部以下の範囲で含む、請求項1又は2に記載の印刷インキの製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックフィルム印刷物が、基材フィルムの片面又は両面にインキが印刷された印刷物、裏刷り印刷後にシーラントが積層されてなるラミネート積層体である印刷物の少なくともいずれかを含む請求項1~のいずれか1項に記載の印刷インキの製造方法。
【請求項6】
前記プラスチックフィルム印刷物が、包装容器の表面に装着された、シュリンクラベル又は胴巻きラベルの少なくともいずれかである請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷インキの製造方法。
【請求項7】
前記再生二酸化チタンの吸油量が、18g/100g以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷インキの製造方法。
【請求項8】
印刷インキが、グラビア印刷用又はフレキソ印刷用又はオフセット印刷用のいずれかである請求項1~7のいずれか1項に記載の印刷インキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤組成物に関し、詳しくは、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物から得られる、白色顔料として機能する再生二酸化チタンを含んでなる着色剤組成物に関する。該着色剤組成物は、各種の印刷インキや塗料などの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
顔料は、塗料、インキ、樹脂成型品のプラスチック製品、ゴム、製紙、文房具、窯業、化粧品、建材、皮革等の幅広い工業製品に使用されており、中でも、二酸化チタンは白色顔料の中で最も広く用いられており、重要な地位を占めている。例えば、近年、飲料用を中心としてペットボトルの普及は目覚ましく、その使用量は膨大になっており、その表面に装着されるシュリンクラベルや胴巻ラベルの量も膨大なものになる。日本では、リサイクルを促進する目的で、無色透明なペットボトルが用いられている。これに対し、シュリンクラベル等を用いると、無色透明なペットボトルの表面に、斬新な独自のデザイン(意匠)を簡便に施すことができる。このため、特有の文字や絵柄でデザインされたシュリンクラベル等は、無色透明なペットボトル製品を差別化するという極めて重要な役割を担っており、ペットボトル製品等の容器において必須の部材になっている。
【0003】
上記した役割を担うデザインされたシュリンクラベル等では、ペットボトルに装着された場合に文字や絵柄がコントラストの高いくっきりと見えるものであることが望まれる。そのため、文字や絵柄が設けられているシュリンクラベル等は、視認する方向から見た場合に、シュリンクフィルム、着色インキ層、白インキ層の順に配置した状態になるように構成されている。例えば、シュリンクフィルムに絵柄等の着色画像の印刷を施してペットボトル用のシュリンクラベルを作製する場合には、上記した配置となるように、透明のシュリンクフィルムに着色インキで所望の絵柄等を印刷し、その後に着色インキ層の上に白インキを印刷して白インキ層を配置させている。このようにして印刷することで、作製されたシュリンクラベル等は、視認する方向から見た場合に、着色インキで印刷して形成した文字や絵柄の着色画像が白インキの印刷面上に印刷された状態になり、くっきりとしたクリアな色の着色画像が再現されたものになる。この結果、コントラストの高い、美麗なデザイン性に優れる印象深い印刷が施されたシュリンクラベル等が製造される。上記した印刷では大量の白インキが使用されるので、シュリンクラベル等の印刷物には、大量の二酸化チタンが含まれている。
【0004】
上記に挙げた例では、視認する方向から見た場合に、白インキの印刷面の上に着色画像が印刷された状態になっている。また、このような場合に限らず、シュリンクラベル等のデザインは多彩であり、例えば、着色した文字や絵柄が設けられていない部分にも白インキで絵柄を作製する場合や、色を合わせるために、使用する着色インキに白インキを混ぜて調色する場合などもある。いずれにしても、シュリンクラベル等の印刷物には、大量の二酸化チタンが含有されている。
【0005】
近年、大量に生産され、消費されるものについては、消費した後の廃棄物を単に廃棄するのではなく再利用することで、資源循環させることの社会的な要請が高まっている。そのような状況下、特にペットボトルについてはリサイクルが進んでいる。本発明者らは、リサイクルする際にペットボトル製品から分離する必要がある、装着されていた大量のシュリンクラベルや胴巻ラベル等の廃棄物についても、資源循環を実現できれば極めて有用であるとの認識をもった。そして、シュリンクラベル等に限らず、白インキは、プラスチックフィルム印刷物に大量に使用されていることから、これら印刷物の大量の廃棄物から白色顔料の原料である二酸化チタンを、簡便に顔料として機能できるように再生して、再利用することができれば、その効果は多大である。
【0006】
上記に対し、プラスチックフィルム印刷物のインキ塗膜層(インキ層)中に、白色インキの顔料として大量に用いられている二酸化チタンを再生し、白色顔料として再利用する試みはされていない。二酸化チタンの回収に関しては、特許文献1に、壁紙廃材や人造レザー製品廃材に代表される、炭酸カルシウム及び二酸化チタンを含む塩化ビニル系樹脂廃材から、光吸収剤等として有用な二酸化チタンを効率的に回収する方法についての提案がある。しかし、この技術は、塩化ビニル系樹脂廃材が炭酸カルシウム等を含むものであることを効果的に利用し、二酸化チタンと炭酸カルシウム等とを高濃度で含む特有の廃材から二酸化チタンを回収するものであり、塩化ビニル系樹脂廃材以外の廃棄物からの回収を目的としたものではない。この技術では、塩化ビニル系樹脂廃材に含まれる炭酸カルシウムが、該廃材処理に必要な加熱・脱塩化水素工程で、軟化・溶融した塩化ビニル系樹脂を吸収し、塩化ビニル系樹脂廃材の融着による塊状化を防止する作用を巧みに利用するとともに、炭酸カルシウムが、発生した塩化水素ガスと反応して放出塩化水素ガス量を低減し、自身は水溶性の塩化カルシウムに転換されるので、水性液洗浄によって加熱・脱塩化水素処理残渣から除かれて、これにより二酸化チタンを回収できるとしている。
【0007】
また、特許文献2に、酸化チタン含有プラスチック中の酸化チタンの回収方法が提案されている。具体的には、偽造に対する安全性の確保から廃棄され埋め立てられている一方で、使用済みのプリペイドカード等には、硬度付与のために10%程度の酸化チタンが含まれていることに着目し、その再利用についての検討がされている。そして、引用文献2では、プリペイドカード等の酸化チタン含有プラスチックを細片化し、800~1000℃で加熱処理することで、有機物成分を燃焼させ、燃焼残渣を湿式処理した後、メタチタン酸、水酸化チタンとして沈殿させ、沈殿物を濾別、乾燥後、800℃で焼成して酸化チタンを回収することが提案されている。
【0008】
特許文献2の実施例によれば、上記した燃焼残渣は白茶色の粉末状であることから、燃焼残渣を98%濃硫酸に入れて200℃で加熱処理して溶解し、茶色の残渣を分離して除去した後、硫酸を硫酸第一鉄として析出、分離し、煮沸して、メタチタン酸、水酸化チタンを沈殿させ、その後に焼成して酸化チタンを回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4628721号公報
【文献】特開2001-253713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、従来技術はいずれも、樹脂材料中に二酸化チタンが高濃度に練り込まれて含有されている特有の廃棄物から、二酸化チタンを、煩雑な手段で回収する技術であり、本発明者らが資源循環の実現が重要であると考えている、廃棄されたペットボトル等に装着されていた白色インキが多用されているシュリンクラベル等のような印刷物から、白色顔料の原料である二酸化チタンを、簡便な方法で白色の顔料として機能できるように再生して再利用することを、技術課題としたものではない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、大量に廃棄されているペットボトル製品等に装着されているシュリンクラベルや胴巻ラベル等のような、資源として有効活用されていない、二酸化チタン顔料を多く含んでいるプラスチックフィルム印刷物等を含む廃棄物を原料とし、簡便な手段で、上記廃棄物に含まれる二酸化チタンを白色の顔料として機能できるように再生し、印刷インキや塗料の材料として再利用することも可能な、資源循環の実現を可能にできる技術を開発することである。また、本発明の目的は、開発した技術を利用して、再生二酸化チタンを含む印刷インキや塗料製品の提供を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の着色組成物を提供する。
[1]バインダー樹脂、有機溶剤又は水、並びに着色剤を少なくとも含んでなる着色剤組成物であって、前記着色剤が二酸化チタンを含み、該二酸化チタンの全量を100質量部とした場合に、5質量部以上100質量部以下の量で再生二酸化チタンを含み、且つ、該再生二酸化チタンが、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料としてなるものであることを特徴とする着色剤組成物。
【0013】
上記の目的は、より好適な、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の着色組成物を提供する。
[2]バインダー樹脂、有機溶剤及び着色剤を少なくとも含んでなる着色剤組成物であって、前記着色剤が二酸化チタンを含み、該二酸化チタンの全量を100質量部とした場合に、5質量部以上100質量部以下の量で再生二酸化チタンを含み、且つ、該再生二酸化チタンが、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物からのインキ塗膜層を含む脱離物である廃棄物を原料としてなるものであることを特徴とする着色剤組成物。
【0014】
本発明は、上記した[1]又は[2]の着色組成物の好ましい形態として、下記の着色剤組成物を提供する。
[3]前記再生二酸化チタンが、前記廃棄物の焼成物である[1]又は[2]に記載の着色剤組成物。
[4]前記焼成物が、前記廃棄物を、500℃~800℃の温度で、120分以上保持してなるものである上記[3]に記載の着色剤組成物。
【0015】
[5]前記プラスチックフィルム印刷物が、基材フィルムの片面又は両面にインキが印刷された印刷物、裏刷り印刷後にシーラントが積層されてなるラミネート積層体である印刷物の少なくともいずれかを含む[1]~[4]のいずれかに記載の着色剤組成物。
[6]前記プラスチックフィルム印刷物が、包装容器の表面に装着された、シュリンクラベル又は胴巻きラベルの少なくともいずれかを含む[1]~[5]のいずれかに記載の着色剤組成物。
【0016】
[7]前記再生二酸化チタンの吸油量が、18g/100g以上である[1]~[6]のいずれかに記載の着色剤組成物。
[8]着色剤組成物が、グラビア印刷又はフレキソ印刷又はオフセット印刷のいずれかの印刷用インキであり、二酸化チタンの全量100質量部中に、前記再生二酸化チタンを、5質量部以上100質量部以下の量で含む[1]~[7]のいずれかに記載の着色剤組成物。
[9]着色剤組成物が塗料であり、二酸化チタンの全量100質量部中に、前記再生二酸化チタンを、5質量部以上100質量部以下の量で含む[1]~[7]のいずれかに記載の着色剤組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大量に販売されているペットボトル製品等に装着されているシュリンクラベルや胴巻ラベル等のような、インキ層に二酸化チタン顔料を多く含んでいるプラスチックフィルム印刷物等を含む、資源として有効活用されていない廃棄物を原料として、簡便な手段で、上記廃棄物に含まれる二酸化チタンを、顔料として機能できるように再生して、印刷インキや塗料の材料として再利用できる再生二酸化チタンを含む着色剤組成物を提供することが可能になる。本発明の簡便な手段によって提供される再生二酸化チタンは、白色度が高く、例えば、印刷インキに利用した場合に、白色顔料として新品の二酸化チタンを100%用いた印刷インキで得たインキ画像と比較して、大きな色差がないインキ画像を形成することが可能である。本発明者らの検討によれば、本発明の簡便な手段によって提供される再生二酸化チタンは、新品の二酸化チタンに比較して粗粒分が多い、粒度分布が広いものになる傾向がある。しかし、この点について何らの調整をしなくても、例えば、インキ中の全二酸化チタン100質量部中における再生二酸化チタンの使用量を20~30質量部と高くしても、この程度の使用量であれば、形成されるインキ画像は、100%新品の二酸化チタンを用いたインキ画像と比較して満足できる特性のものになることを確認した。なお、再生二酸化チタンを含むインキ画像の耐ブロッキング性は、むしろ、白色顔料に再生二酸化チタンを用いた場合の方が向上したものになる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明の着色剤組成物は、バインダー樹脂、有機溶剤又は水、並びに着色剤を少なくとも含んでなる着色剤組成物であって、前記着色剤が二酸化チタンを含み、該二酸化チタンの全量を100質量部とした場合に、5質量部以上100質量部以下の量で再生二酸化チタンを含み、且つ、該再生二酸化チタンが、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料としてなるものであることを特徴とする。
【0019】
<再生二酸化チタンの作製>
〔プラスチックフィルム印刷物〕
まず、本発明の着色剤組成物を特徴づける本発明を構成する再生二酸化チタンについて説明する。再生二酸化チタンは、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料として得られる。以下、原料となる二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物について説明する。
【0020】
先に説明したペットボトルの場合に限らず、ガラス瓶や他の種類のプラスチック製の瓶などの包装容器の表面には、一般的に、製品の差別化を目的として、先に述べたようにして着色インキと白色インキを用いて印刷された、くっきりとしたコントラストの高い文字や絵柄の着色画像や、白色画像を有するプラスチックフィルム印刷物であるシュリンクラベルや胴巻ラベルが容器表面に装着されている。特に、熱で縮むシュリンクフィルムを用いたシュリンクラベルは、様々な形状の容器の表面にぴったりと密着した状態で装着されるので、美しい包装が可能であると同時に、強度の高い包装も可能にできることから、近年、広く用いられている。一方、特に大容量のペットボトル等においては、プラスチック製の廃棄物を低減させるため、全体をシュリンクフィルムで覆うのでなく、比較的に小さい胴巻ラベルを装着させることが行われている。
【0021】
近年、環境破壊の問題を低減するため、特にプラスチック製品の使用量の削減の重要性が指摘されており、資源循環を可能にするリサイクルの必要性が高まっている。プラスチック製品の中でもペットボトルのリサイクルは、使用済みのペットボトルの回収システムがほぼ確立しており、実施されている。また、ガラス瓶を分別回収することも行われている。容器本体の回収システムが進んできたことに応じて、容器表面に装着されているシュリンクラベルや胴巻ラベルを容器本体と分離しやすくする、様々な工夫がなされている。このため、最近は、使用済のペットボトル製品やガラス瓶製品などの容器表面から、シュリンクラベルや胴巻ラベルなどのプラスチックフィルム印刷物の部分を剥がし、分離して廃棄することが容易になっている。このため、ペットボトル等と同様、これらの廃棄されるプラスチックフィルム印刷物は、選択的に回収することが可能である。廃棄されているシュリンクラベルや胴巻ラベルは、デザイン性の高い、文字や絵柄がくっきりとしたコントラストの高い鮮やかな多色印刷がされたものが多い。そして、先述したように、このような印刷物を得るためには、白インキの使用が必須となっている。さらに、白インキは、白色の絵柄を作製したり、着色インキの調色に使用したり、着色した絵柄が無い部分を白色画像にしたりするため多用されており、白色インキの原料には、通常、二酸化チタン顔料が使用されている。このため、プラスチックフィルム印刷物の廃棄物には二酸化チタンが多く含まれている。
【0022】
本発明者らは、シュリンクラベルや胴巻ラベルなどのプラスチックフィルム印刷物に二酸化チタン顔料が多用されていることに着目し、廃棄物とされたこれらのプラスチックフィルム印刷物から、二酸化チタンを顔料として機能する状態に再生できれば、極めて有用であるとの認識をもった。さらに、プラスチックフィルム印刷物から、インキ塗膜層を脱離して、得られた脱離物からなる廃棄物を二酸化チタンの再生に利用できれば、廃棄物中における二酸化チタンの含有量を高めることができるので、より効率的に二酸化チタンの再生が可能になると考えた。プラスチックフィルム基材上のインキ塗膜層の脱離に関しては、脱離を容易にした構成の脱離インキに関する技術も含め、確立している技術がある。
【0023】
(プラスチックフィルム基材)
プラスチックフィルム印刷物を構成するインキ塗膜層(インキ層とも呼ぶ)を形成するための基材であるプラスチックフィルム(基材フィルムとも呼ぶ)としては、多様なものが使用されている。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルフィルム、ナイロン、ビニロンといった各種印刷用プラスチックフィルムが挙げられる。本発明では、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物の廃棄物を原料とし、後述するように、該原料を焼成して再生二酸化チタンを得ていることから、印刷物の基材フィルムは、500℃以下の焼成で分解される材料であることが好ましい。このため、上記原料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムや、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルフィルムや、ポリスチレン、ナイロン、ビニロンといった各種印刷用プラスチックフィルムに、二酸化チタン顔料を含む白インキの印刷がされた廃棄物であることが好ましい。中でも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂等の、シュリンクラベルに用いられるプラスチックフィルムに、二酸化チタン顔料を含むインキ層が印刷された印刷物を含む廃棄物を原料にするとよい。前記したように、シュリンクラベルや胴巻きラベルは、ペットボトル等から剥がしやすい工夫がされて装着されているので、分別された廃棄物とすることが可能であることから、これらは、本発明で原料に用いる廃棄物として好適である。
【0024】
(二酸化チタン顔料を含む印刷)
上記した基材フィルムに設けられている印刷を構成するインキ層は、二酸化チタン顔料を含む白色インキを用いて形成されているものであればよく、特に限定されない。シュリンクラベルや胴巻きラベル等の印刷は、先に説明したように、白色顔料を含む白インキを用いることで、着色インキで形成された文字や絵柄の着色画像のコントラストを高めることができるので、大量に用いられている。そして、白色顔料には、通常、二酸化チタンが用いられている。再生二酸化チタンを再度、印刷インキの原料に使用することを考慮すると、白色インキを構成する二酸化チタン顔料は、平均一次粒子径が0.2μm~0.3μm程度の二酸化チタン粒子を使用したものであることが好ましい。
【0025】
本発明で好適な原料とできる廃棄物の、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物に形成されているインキ塗膜層(インキ層)は、グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキによって印刷されたものであることが好ましい。また、本発明では、再生二酸化チタンを得るための原料に、二酸化チタン顔料を含む白インキで形成したインキ層の膜厚が0.3μm以上であるような、白インキが多用されている印刷が施されているプラスチックフィルム印刷物の廃棄物を利用することが好ましい。さらに、本発明で再生二酸化チタンを得るための原料に好適に利用できる、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物としては、下記のような構成の白インキを用いたものが挙げられる。白インキ中における「二酸化チタンの質量/二酸化チタン以外の成分の固形分の質量」の比が2以上である白インキが使用されている印刷物であれば、原料として好適に利用することができる。例えば、上記比が2~6程度である白インキが使用されている印刷物であれば、本発明において使用する原料として特に好ましい。
【0026】
(二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物)
上記したような二酸化チタンを含むインキ塗膜層が形成されている、本発明で再生二酸化チタンの原料とするプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物としては、特に限定されないが食品包装用容器の廃棄物が好ましい。先に説明したように、特に好ましい原料としては、廃棄される飲料用ペットボトル等の表面に巻かれた、シュリンクラベルや胴巻きラベル等の各種のラベルの廃棄物が挙げられる。後述するように、印刷物からインキ塗膜層を脱離して廃棄物とされる脱離物を再生二酸化チタンの原料にすれば、例えば、スナック菓子の袋のようなアルミ蒸着が施された印刷物の廃棄物も、原料として利用することができる。しかし、原料とする廃棄物としては、アルミ蒸着が施された印刷物よりは、アルミ蒸着層を有さない積層体の方が好ましい。また、特に好ましい原料としては、先に説明した着色インキ画像をくっきりとしたコントラストの高いものにする目的で設ける白インキ層や、白色の絵柄画像や、白色の無地画像などを、二酸化チタン顔料を含む白インキで印刷された印刷物を含む廃棄物が挙げられる。
【0027】
(二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物からの脱離物)
先に述べたように、プラスチックフィルム印刷物を構成している基材フィルムから、基材上に印刷して形成したインキ塗膜層(インキ層)を脱離して、その後、廃棄物とされる脱離物を二酸化チタンの再生に利用できれば、廃棄物中の二酸化チタンの相対的な量を高めることができるので、より効率的に二酸化チタンの再生を行うことが可能になる。上記した目的から、原料とする廃棄物のプラスチックフィルム印刷物は、そのインキ層が、公知の脱離インキによって形成されたものであることが特に好ましい。このようにすれば、より容易にインキ層をフィルム基材から脱離できるようになる。後述するように、本発明では、再生二酸化チタンを、原料とする上記した廃棄物を焼成することで得ている。このため、原料として利用する廃棄物として、基材フィルムからインキ層を脱離して得られた脱離物を利用すれば、再生二酸化チタンを得る際に、基材フィルムを燃焼させる必要がなくなるので有効である。また、この場合は、インキ層を脱離した後の基材フィルムも分別された状態になるので、基材フィルムを別途リサイクルすることも可能であり、より資源循環性に優れた再生二酸化チタンの提供技術が期待できる。
【0028】
インキ塗膜層の基材フィルムからの脱離方法としては、従来公知の方法がいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、シュリンクラベル等のプラスチックフィルム印刷物を、80℃程度の強アルカリ水溶液に浸漬し、数十分~数時間程度、撹拌して処理する方法が挙げられる。本発明において、再生二酸化チタンを得る原料に利用できる廃棄されているプラスチックフィルム印刷物には、例えば、脱離層が形成されている場合や、印刷インキそのものに脱離能が付与されている、いわゆる「脱離インキ」によって印刷されているものなど、種々のものが存在する。これらの構成を有する印刷物は、先に述べたような強アルカリを用いる方法によらず、基材フィルムからインキ層を容易に脱離することも可能である。このように、インキ層が基材フィルムから脱離する限りにおいて、プラスチックフィルム印刷物からのインキ塗膜層の脱離方法は、いずれの方法でも構わない。
【0029】
上記した「脱離インキ」とは、当該インキが印刷された印刷物に対して、脱離処理を行うことで、インキ層が印刷基材から容易に脱離(分離)する能力を持つインキをいう。例えば、「脱離インキ」で印刷されたインキ層である場合は、80℃の1重量%水酸化ナトリウム水溶液に、プラスチックフィルム印刷物を30分浸漬・撹拌することで、インキ塗膜層が良好な状態に容易に脱離する。
【0030】
〔再生二酸化チタンの製造〕
本明細書において、再生二酸化チタンとは、先に述べたプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料とし、該原料を由来として得られる二酸化チタンを意味する。具体的には、例えば、少なくとも一度はペットボトル製品等に顔料として使用され、その後に廃棄物となった二酸化チタンや、或いは、廃棄物となっているものの、最終製品に用いられることのなかった印刷物(例えば、失敗した印刷物など)に用いられていた二酸化チタンであって、白色顔料として再度使用できるものに再生されたものをいう。本発明では、再生二酸化チタンを、例えば、印刷インキ用の顔料として再利用することを目的としていることから、再生された二酸化チタンは、ルチル型であることが好ましい。また、本明細書において新品の二酸化チタンとは、鉱石原料から二酸化チタンとして製造された後、一度も印刷インキ等における白色顔料等として使用されたことのない二酸化チタンをいう。
【0031】
再生二酸化チタンは、前記したような二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料とし、該廃棄物を焼成することで容易に得ることができる。本発明者らの検討によれば、特に原料である廃棄物が、先に説明した、ペットボトル等の食品包装容器の表面に装着されている、白色インキ層を設けることで得られるコントラストのはっきりした文字や図柄や、白色画像が印刷されているシュリンクラベルや胴巻きラベル等や、これらのラベルから脱離したインキ層を含む脱離物であれば、高温で焼成することで再生二酸化チタンを簡便に得ることができる。本発明者らの検討によれば、後述するように、上記のようにして得た焼成物は、驚くべきことに、そのまま印刷インキや塗料の白色の二酸化チタン顔料として用いることが可能であることを見出した。
【0032】
以下、上記したような二酸化チタン顔料を含むインキ層が設けられたシュリンクラベルや胴巻きラベル等のプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物や、印刷物から脱離して廃棄物にされるインキ層の脱離物などを高温で焼成して再生二酸化チタンを得る方法について説明する。本発明者らは、上記に挙げた廃棄物の中から代表例として、相対的に廃棄物中における二酸化チタンの量が多いことが予想される、プラスチックフィルム印刷物からインキ塗膜層を脱離して得た脱離物を用いて検討した。具体的には、該脱離物を600℃に昇温した大気雰囲気の炉内に2時間以上置き、その後に自然冷却し、得られた焼成残渣についての検討を行った。その結果、まず、得られた焼成残渣は白色の微粉末であり、有機物は残存していないことがわかった。
【0033】
また、焼成残渣の粒度分布を測定したところ、新品の二酸化チタンに比べて10μm以上の粗大粒子が含まれる傾向があることがわかった。しかし、粗大粒子を分級して除去するような操作をせず、焼成残渣をそのまま新品の二酸化チタンに質量基準で10%の割合で含有させた場合では、その粒度分布は、新品の二酸化チタンの粒度分布と殆ど一致した状態であった。また、新品の二酸化チタンに焼成残渣を30%の割合まで含有させた場合においても、最大ピークが粒子の大きい側に若干移動し、若干ブロードな分布を示したものの、新品の二酸化チタンの粒度分布と同様の傾向のものになることを確認した。このことは、焼成残渣をそのまま製品原料として使用できる可能性を示している。
【0034】
次に、蛍光X線分析で、焼成残渣中の無機成分を測定したところ、二酸化チタン成分が88%以上含まれていた。そして、二酸化チタンの表面処理で用いられるシリカやアルミナ成分を含めると、焼成残渣中に二酸化チタン顔料の材料成分が95%以上含まれており、焼成残渣から再生二酸化チタン顔料が主成分として得られることがわかった。なお、焼成残渣中には、その他の無機成分として、酸化ストロンチウムや酸化カルシウムがわずかに含まれていた。
【0035】
ここで、特開2021-105087号公報によれば、インクジェットインキ用白色分散体の原料材料に使用される二酸化チタン粒子は、その吸油量が25~50g/100gであると、良好な分散性を得つつ、インクジェットインキの沈降抑制と白色度を両立することができるとしている。上記公報の記載によれば、吸油量が多いものほど白色度が高くなる傾向があるとしている。本発明の再生二酸化チタンは、インクジェットインキ用に特に限定されるものでない。したがって、本発明の再生二酸化チタンの吸油量は、用途にもよるが、15g/100g~100g/100gであることが好ましく、さらに好ましくは18g/100g~80g/100gである。例えば、一般的なグラビアインキ用途の二酸化チタンの吸油量は、18g/100g~30g/100g程度である。この範囲内であると、再生二酸化チタンは白色度に優れ、さらに、再生二酸化チタンを使用した着色剤組成物は、貯蔵安定性及び塗膜強度に優れたものになる。
【0036】
本発明者らは、次に、先の検討と同様に、インキ塗膜層を脱離した脱離物である廃棄物を原料に用いて、好適な焼成温度の範囲と、焼成時間について検討した。その結果、焼成温度としては、300℃以上、好適には400℃以上の温度であれば、有機物成分は完全に消失し、残渣中には存在しなくなることを確認した。一方、焼成温度を900℃超にすると、残渣物の白色度が低下する傾向があることを確認した。よって、焼成温度は、400℃以上800℃以下にすることが好ましい。より好ましくは、500℃~800℃、500℃~700℃、更には、550℃~650℃程度とすることが好ましい。500℃以上の温度で焼成すれば、インキ塗膜層に含まれる印刷インキを構成している多くの成分が焼失するので、白色顔料に再生二酸化チタンを用いた場合に、色味などに影響を及ぼすことがない。一方、上記範囲内の焼成温度であれば、本発明が再生させることを目的としている二酸化チタンが、原料である廃棄物を焼成したことで、焼失してしまうことはない。
【0037】
本発明者らの検討によれば、焼成する廃棄物の種類や、焼成温度にもよるが、焼成時間は、少なくとも2時間以上、より好ましくは12時間以内とすることが好ましい。廃棄物の焼成は、大気雰囲気で行えばよい。この結果、残渣を構成している多くの成分は、二酸化チタンと同様に、焼成物中に安定な酸化物として含まれることになる。
【0038】
再生二酸化チタンの原料となる、前記したプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物や、インキ塗膜層を脱離して得た廃棄物である脱離物が、水等の液体成分を含む場合には、上記したような条件で焼成する前に、これらに含まれる水等の液体成分を予め除去蒸発させることが好ましい。このような前処理をすれば、焼成時間を短くでき、且つ、温度コントロールが容易となる。例えば、水を含んだ廃棄物原料は、105℃以上の温度で、1時間以上保持することで、水分を揮発させることができる。
【0039】
上記で得られた焼成物は、例えば、先に述べたように、インキ塗膜層を含む脱離物を廃棄物原料として利用した場合は、焼成物をそのまま再生二酸化チタンとして、白色インキの白色顔料として使用することも可能である。しかし、例えば、焼成物中に含まれる粗大粒子を分級して除去することや、洗浄して、焼成によって生じた水溶性の反応物等を除去することも好ましい形態である。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例及び参考例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び参考例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0041】
[実施例1]
(再生二酸化チタンの作製)
廃棄物として、使用済みの飲料用のペットボトル容器を集め、集めたペットボトルの表面に装着されているシュリンクラベルや胴巻きラベルを剥がしたものを用意した。用意したラベルにはいずれもコントラストが高い美麗な文字或いは絵柄画像が形成されており、剥がしたラベルを背面から観察したところ、いずれのラベルも、着色インキの塗膜の下に白インキの塗膜が配置されていた。このことから、用意したラベルは、いずれも白色インキによる印刷がされているものであることが確認できた。ここで、シュリンクラベル等に印刷する白色インキには、通常、二酸化チタン顔料が用いられている。
【0042】
上記で用意したラベルを、液温を80~90℃に保持した1.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(脱離液)に浸漬し、撹拌しながら、インキ塗膜層が脱離するまで放置することで、基材フィルムからインキ塗膜層を脱離させた。次いで、基材フィルムから脱離させたインキ塗膜を脱離液から取り出した。そして、取り出したインキ塗膜を105℃の乾燥機で3時間乾燥させることで、乾燥したインキ塗膜を得、これを再生二酸化チタンの廃棄物原料である脱離物とした。この脱離物を10mm×10mm程度の大きさに破砕し、この破砕品を目皿の存在する直径50mmの石英縦型炉に入れ、大気雰囲気で、室温から600℃まで1時間で昇温し、その温度で12時間保持し、内容物を焼成した。
【0043】
上記で得られた焼成物は、白色の微粉末状であり、白色の程度は、新品の二酸化チタン顔料と大きく異なるものではなかった。また、焼成物について蛍光X線分析で定量分析を行ったところ、チタン元素を95%以上の高濃度で含有するものであることがわかった。また、その粒度分布を、粒度分布測定機のHORIBA LA-960(商品名:堀場製作所社製)にて測定した。得られた粒度分布は、10μm以上の大きな粒子が含まれていたが、白色顔料に用いられている新品の二酸化チタンと同様に、1~2μmの領域に大きなピークが見られた。また、吸油量は28g/100gであった。そこで、得られた焼成物を実施例1の再生二酸化チタンとし、該再生二酸化チタンが、印刷インキの白色顔料として利用可能であるか否かについて検討した。
【0044】
(実施例及び参考例の白インキの作製)
廃棄物の印刷物から得た、基材フィルムから脱離させたインキ塗膜を含む脱離物を原料とし、該原料を焼成して得た実施例1の再生二酸化チタンを白色顔料として用い、下記のようにして白インキを得た。具体的には、表1に示す配合の通りに原料を配合した後、ディゾルバーで混錬し、その混錬物を、ペイントシェーカー(ガラスビーズ1mm使用)を用い、30分間分散させ、白インキA~Eを得た。白インキAは参考例であり、白色顔料に新品の二酸化チタンを用いた従来品である。白インキEは、白色顔料に実施例1の再生二酸化チタンを100%用いた例である。また、白インキB~Dは、白色顔料の一部に実施例1の再生二酸化チタンを用い、新品の二酸化チタンと併用した例である。
【0045】
【0046】
表1中に示した白インキA~Eの配合材料には下記のものを用いた。
(1)セルロース樹脂:商品名「CAP482-20」(イーストマンケミカルジャパン社製)
(2)ポリウレタン樹脂ワニス:商品名「セイカボンドU-6501RB-1」(大日精化工業社製)
(3)溶剤:質量基準で、メチルエチルケトン/酢酸エチル/イソプロピルアルコール=4/4/2の混合溶剤
(4)滑剤:商品名「ハイワックス220P」(三井化学社製)
(5)二酸化チタン顔料:平均粒子径0.27μmの、新品の商品名「チタニックスJR-701」(テイカ社製)
【0047】
(白インキの作製と評価)
上記で得た白インキA~Eを、溶剤として商品名「ラミックSH NO.2」(大日精化工業社製)を用いて、ザーンカップ#3で18秒に希釈して、印刷用白インキA~Eをそれぞれ得た。そして、得られた印刷用白インキA~Eをそれぞれに用い、平台グラビア印刷機を使用して、下記の条件で印刷して印刷物A~Eを得た。印刷条件は、印刷版ヘリオ175線を用い、印刷基材(シュリンクPETフィルム;ヒシペットLX21S 40μm 三菱ケミカル社製)に印刷した。得られた印刷物A~Eについての試験項目は下記の通りであり、評価結果を表2にまとめて示した。
【0048】
[色差]
先に調製した5種類の印刷用白インキを用いて印刷して得た、塗膜の厚みが1.2μmの印刷物A~Eについて、それぞれ色差を測定して評価した。具体的には、再生二酸化チタンを用いない印刷用白インキAを用いて得た印刷物AのL*a*b*の測定値を参照とし、印刷物B~Eについてそれぞれ測定したL*a*b*の測定値との差を算出し、その結果を表2に示した。測定には、分光濃度・測色計のX-Rite eXact(商品名、エックスライト社製)を用いた。そして、表2に、各印刷物についてL*a*b*値を測定して得た測定値と、印刷物Aを参照値として算出して得た、色差ΔL、Δa、Δb、ΔE値をそれぞれ記載した。
【0049】
【0050】
表2に示したように、色味については、再生二酸化チタンを白色顔料の一部に或いは全部に用いた印刷用白インキB~Eによって形成される印刷物B~Eは、新品の二酸化チタン顔料を用いた印刷用白インキAによって形成した印刷物Aと比べて、大差のない白色画像が得られることがわかった。特に、印刷用白インキにおける二酸化チタン全量中の再生二酸化チタンの使用量が30%(印刷物D)、さらには、20%(印刷物C)程度までであれば、新品の二酸化チタン顔料を用いた印刷物Aと殆ど差がないことが確認できた。上記に加えて、印刷物A~Eについて、分光光度計としてHITACHI U-4100(商品名:日立製作所社製)を用いて、波長400~2500nmの範囲で反射率曲線を測定した。その結果、再生二酸化チタンの使用量が30%である印刷物Dの反射率曲線は、新品の二酸化チタン顔料を用いた印刷物Aの反射率曲線と、ほぼ同様になることが確認できた。
【0051】
[密着性(初期密着性、経時密着性)]
印刷物A~Eに形成されているインキ塗膜(インキ層)の密着性について、テープ試験を行って評価した。具体的には、12mm幅のセロハンテープ(セロテープ(登録商標):ニチバン社製)を用いてインキ層の剥離の程度を調べて、インキ層の密着性を確認した。具体的には、印刷初期の印刷面と、一日放置した後の印刷面について、それぞれテープ試験をして、その経時変化を調べた。そして、下記の5段階の評価基準で評価をした。表3に評価結果をまとめて示した。印刷初期の印刷面に対しての評価結果は、表3中の「初期密着性」の欄に記載し、一日放置した後の印刷面に対しての評価結果は、表3中の「経時密着性」の欄に記載した。
(評価基準)
5:インキ塗膜がセロハンテープに剥がし取られることは無し
4:インキ塗膜が約20%程度セロハンテープに剥がし取られる
3:インキ塗膜が約50%程度セロハンテープに剥がし取られる
2:インキ塗膜が約70%程度セロハンテープに剥がし取られる
1:インキ塗膜が全てセロハンテープに剥がし取られる
【0052】
[耐爪スクラッチ性]
印刷物のインキ塗膜の強度について、印刷物の上を爪にて往復20回スクラッチして傷の発生具合を、下記の5段階で評価をした。そして、表3に評価結果をまとめて示した。
(評価基準)
5:インキ塗膜に傷がつかない
4:インキ塗膜にやや傷がつく
3:インキ塗膜に傷がつく
2:インキ塗膜に大きな傷がつく
1:インキ塗膜が完全に削れる
【0053】
[耐ブロッキング性]
各印刷用インキA~Eで形成した印刷物A~Eの各印刷面と、印刷をしていないシュリンクPET基材の裏面とを重ね合わせて、印刷物の裏面から7kg/cm2の荷重をかけた状態で、40℃、80%RHの恒温恒湿の環境にて20時間静置した。静置後、印刷面に重ね合わせることでくっついたシュリンクPET基材を剥がした。剥がした際に印刷面のインキ塗膜が基材にくっついて生じる剥がれの具合について目視で観察して、下記の5段階で評価した。表3に、評価結果をまとめて示した。
(評価基準)
5:インキ塗膜が基材に移し取られない/剥離抵抗無し
4:インキ塗膜が5%程度基材に移し取られる/剥離抵抗やや有り
3:インキ塗膜が20%程度基材に移し取られる/剥離抵抗有り
2:インキ塗膜が50%程度基材に移し取られる/剥離抵抗がやや強い
1:インキ塗膜が80%以上基材に移し取られる/剥離抵抗が強い
【0054】
[耐摩擦性]
各印刷用インキA~Eによって形成した印刷物A~Eについて、下記のようにして耐摩擦性を調べた。印刷物A~Eのそれぞれの印刷面の表面を、学振型耐摩擦堅牢度試験機AB-301(商品名、テスター産業社製)を用い、荷重500gで200回(往復)摩擦して、摩擦後の表面状態の変化を目視観察し、5段階で相対評価した。摩擦子には、黒金巾(JIS L 0803に準拠)を用いた。5段階評価は、摩擦後の表面状態における変化が最も少ないものを5とし、摩擦後の表面状態における変化の程度が最も大きいものを1とし、その中間の変化の程度を、順次4~2と評価した。表3に、評価結果をまとめて示した。
【0055】
[画像濃度]
各印刷用インキA~Eによって形成した印刷物A~Eについて、それぞれ印刷面の画像濃度を測定し、OD値で示した。OD値は、透過濃度計の「X-Rite 361T(V)」(商品名、X-Rite社製)にて測定した。OD値は、数値が大きいほど画像濃度が高いと評価できる。表3に、測定結果をまとめて示した。
【0056】
[グロス値]
各印刷用インキA~Eによって形成した印刷物A~Eについて、グロス値を、micro-TRI-gloss S(商品名、BYK社製)で、60°角にて測定した。グロス値は、数値が大きいほど光沢性に優れる。表3に、測定結果をまとめて示した。
【0057】
【0058】
表3に示したように、実施例1の再生二酸化チタンを白色顔料に用いた印刷用白インキB~Eによって形成された印刷物B~Eから、新品の二酸化チタン顔料を用いた参考の印刷用白インキAと比べて、いずれの特性についても大きくは異なることがない白色画像を得ることができることがわかった。特に、実施例1の再生二酸化チタンの使用量が30%、さらには20%程度であれば、新品の二酸化チタン顔料を用いた参考例の印刷用白インキAによって形成した印刷物Aと大きな違いがないことが確認できた。
【0059】
[実施例2]
本実施例では、再生二酸化チタンを作製するための原料となる廃棄物として、実施例1で原料としたインキ塗膜の脱離物を得るために用意した、廃棄物であるペットボトルの表面から剥がしたシュリンクラベルや胴巻きラベルを用いた。そして、この原料を10mm×10mm程度の大きさに破砕し、得られた破砕品を目皿の存在する直径50mmの石英縦型炉に入れ、大気雰囲気で室温から600℃まで1時間で昇温し、その温度で12時間保持し、内容物を焼成した。
【0060】
上記で得られた焼成物は、白色の微粉末状であり、白色の程度については、新品の二酸化チタン顔料と大きく劣るものではなかった。また、焼成物について蛍光X線分析で定量分析を行ったところ、実施例1の場合よりも若干劣るものの、チタン元素が93%以上の高濃度で含まれるものであることがわかった。得られた焼成物について粒度分布を測定したところ、実施例1の場合と同様に、10μm以上の大きな粒子が含まれていたが、白色顔料に用いられている新品の二酸化チタンと同様に、1~2μmの領域に大きなピークが見られた。また、吸油量は28g/100gであった。
【0061】
得られた焼成物を再生二酸化チタンとして、実施例1と同様に、白インキの白色顔料に用いて印刷用白インキを調製して評価した。その結果、実施例1の場合とほぼ同様の結果が得られた。このように、剥がしたシュリンクラベルや胴巻きラベルをそのまま原料として用いた場合も、当該原料の焼成物をそのまま、印刷用白インキの白色顔料として利用できることがわかった。ただし、本実施例の場合は、実施例1で得たと同じ量の焼成物を得るためには、より多くの原料を焼成する必要が生じるので、製造効率の点では劣る。
【0062】
[実施例3]
焼成物を得る際の保持温度を800℃とした以外は実施例1と同様にして、再生二酸化チタンを作製した。得られた再生二酸化チタンを二酸化チタン全量に対して20%使用して、実施例1と同様にして白インキの白色顔料に用いて印刷用白インキを調製した。そして、調製した印刷用白インキで印刷物を得たところ、得られた印刷物は、実施例1で得た印刷物と同じような傾向を示すものであった。
【0063】
[実施例4]
焼成物を得る際の保持温度を500℃とした以外には、実施例1と同様にして再生二酸化チタンを作製した。得られた焼成物を、実施例1と同様に印刷用白インキの白色顔料に用いて印刷用白インキを調製し、調製した印刷用白インキを用いて印刷物を得た。得られた印刷物は、実施例1で得た印刷物と同じような傾向を示すものであった。
【要約】
【課題】大量に廃棄されているペットボトル製品等に装着されているシュリンクラベルや胴巻ラベル等のような、資源として有効活用されていない、二酸化チタン顔料を多く含んでいるプラスチックフィルム印刷物等を含む廃棄物を原料とし、簡便な手段で廃棄物に含まれる二酸化チタンを白色の顔料として機能できるように再生し、印刷インキや塗料の白色顔料として再利用することも可能な、資源循環の実現を可能にできる技術の開発。
【解決手段】バインダー樹脂、有機溶剤又は水、並びに着色剤を少なくとも含んでなる着色剤組成物であって、前記着色剤が二酸化チタンを含み、該二酸化チタンの全量を100質量部とした場合に、5質量部以上100質量部以下の量で再生二酸化チタンを含み、且つ、該再生二酸化チタンが、二酸化チタン顔料を含むプラスチックフィルム印刷物を含む廃棄物を原料としてなるものである着色剤組成物。
【選択図】なし