(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】雌豚用発情判定装置、雌豚の発情判定方法および雌豚の発情判定プログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
A01K29/00 D
(21)【出願番号】P 2021543770
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033004
(87)【国際公開番号】W WO2021045033
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019162720
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102728
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大城 祐介
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-37454(JP,A)
【文献】特表2009-501035(JP,A)
【文献】特開2005-21108(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を計測する計測部と、
設定された一定期間において前記計測部で繰り返し計測された複数の前記頻度に基づいて前記雌豚の発情を判定する判定部と
を備える雌豚用発情判定装置。
【請求項2】
前記計測部は、前記雌豚の起臥の状態として臥位、着座および起立のいずれであるかを認定し、認定したそれぞれの状態に対して予め設定されたスコアを累積加算した累積値を前記頻度とする請求項1に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項3】
前記計測部は、臥位、着座および起立のそれぞれの状態が継続された時間に基づいて前記スコアを補正する請求項2に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項4】
前記一定期間は、3日以上7日以下の期間であり、前記単位時間は、前記一定期間の間毎日設定される2時間以上6時間以下の時間である請求項1から3のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項5】
前記単位時間は、前記雌豚が餌を与えられて12時間経過後から次に餌を与えられる前までの期間内に設定される請求項1から4のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項6】
前記単位時間は、前記ストールが設置された環境が暗い状態から明るい状態へ変化する時間帯を含むように設定される請求項1から5のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項7】
前記単位時間は、前記ストールが設置された周辺環境に人が居ない期間内に設定される請求項1から6のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記一定期間において繰り返し計測された複数の前記頻度を用いて前記雌豚の発情を識別する、予め機械学習された識別器を用いて前記雌豚の発情を判定する請求項1から7のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項9】
前記識別器は、サポートベクターマシンである請求項8に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記一定期間における前記頻度が一旦低下し再度上昇する変化を示した場合に発情と判定する請求項1から9のいずれか1項に記載の雌豚用発情判定装置。
【請求項11】
設定された一定期間において、ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を繰り返して計測する計測ステップと、
前記計測ステップで繰り返し計測された複数の前記頻度に基づいて前記雌豚の発情を判定する判定ステップと
を有する雌豚の発情判定方法。
【請求項12】
設定された一定期間において、ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を繰り返して計測する計測ステップと、
前記計測ステップで繰り返し計測された複数の前記頻度に基づいて前記雌豚の発情を判定する判定ステップと
をコンピュータに実行させる雌豚の発情判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌豚用発情判定装置、雌豚の発情判定方法および雌豚の発情判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜を飼育する施設にセンサを設置して家畜の異常行動を検出するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
養豚において雌豚の発情の見極めは、年間の産子数を増やす観点や繁殖サイクルを適正な間隔に維持する観点等から重要である。しかし、従来技術では、対象雌豚の異常行動を検出することができても、発情といった特定の状態を検出することはできない。経験や勘に頼らず、雌豚の発情を精度良く見極めたいという要望が、飼育者から多く挙げられている。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、雌豚の発情を精度良く見極める技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様における雌豚用発情判定装置は、ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を計測する計測部と、設定された一定期間において計測部で繰り返し計測された複数の頻度に基づいて雌豚の発情を判定する判定部とを備える。
【0007】
本発明の第2の態様における雌豚の発情判定方法は、設定された一定期間において、ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を繰り返して計測する計測ステップと、計測ステップで繰り返し計測された複数の頻度に基づいて雌豚の発情を判定する判定ステップとを有する。
【0008】
本発明の第3の態様における雌豚の発情判定プログラムは、設定された一定期間において、ストールで飼育されている雌豚の単位時間あたりの起臥の頻度を繰り返して計測する計測ステップと、計測ステップで繰り返し計測された複数の頻度に基づいて雌豚の発情を判定する判定ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、観察者の経験や勘に頼らずとも、雌豚の発情を精度良く見極めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る判定装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。
【
図2】判定装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】ストール内の雌豚の状態を説明する図である。
【
図4】雌豚の起臥の頻度を累積スコアに換算する手法を説明する図である。
【
図5】発情していない雌豚の累積スコアの推移を示す図である。
【
図6】発情している雌豚の累積スコアの推移を示す図である。
【
図8】計測時間帯の違いによる累積スコアの推移の違いを説明する図である。
【
図9】発情識別器を用いた発情判別の手法を説明する図である。
【
図10】累積スコアを計測する計測ステップの処理について説明する図である。
【
図11】対象となる雌豚の発情を判定する判定ステップの処理について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る判定装置200を採用した養豚環境の全体像を示す図である。養豚場では、観察対象となる雌豚101がストール102に収容されている。一つのストール102には一頭の雌豚101が収容されている。一つのストール102の大きさは、収容されている性成熟期の雌豚101が自力では旋回できない大きさであり、例えば幅80cm、奥行き200cm程度である。したがって、雌豚101の動作は、起き上がったり臥したりする動作に制限される。観察対象となる雌豚101が複数存在する場合には、それぞれが収容された複数のストール102が並設される。なお、ストール102の大きさは、観察対象となる雌豚の品種や個体差、飼育環境に応じて設定され得る。
【0013】
カメラユニット110は、観察対象となる雌豚101の全身を俯瞰して撮像できる撮像センサを備えており、撮像センサで撮像した画像を画像データに変換し、インターネット900を介してサーバ210へ送信する。観察対象となる雌豚101が複数存在する場合には、それぞれのストール102に対してカメラユニット110を一つずつ設置しても良いし、複数のストール102の群のそれぞれに対してカメラユニットを設置しても良い。複数のストール102の群のそれぞれに対してカメラユニットを設置する場合には、群を構成するストール102のそれぞれに収容された雌豚101を同時に観察できるように、カメラユニット110の画角を調整する。
【0014】
管理施設には、観察対象となる雌豚101の発情を判定する判定装置200が設置されている。判定装置200は、サーバ210と、サーバ210に接続された表示モニタ220等によって構成され、サーバ210は、インターネット900と接続されている。サーバ210は、インターネット900を介してカメラユニット110から送られてくる画像データを受け取り、当該画像データから雌豚101の起臥の頻度を計測し、計測された頻度に基づいて雌豚101が発情しているか否かを判定する。サーバ210は、判定結果を表示モニタ220へ表示する。養豚場で作業する作業員から作業員端末120を介して判定結果を求められた場合には、インターネット900を介して、判定結果を作業員端末120の表示部へ表示する。作業員端末120は、例えば、タブレット端末やスマートフォンである。
【0015】
なお、カメラユニット110と判定装置200を接続する回線は、インターネット900に限らず、イントラネット等であっても良い。養豚場内に管理施設が設けられるような場合には、近距離無線通信が採用されても良い。
【0016】
図2は、判定装置200のハードウェア構成を示す図である。判定装置200は、上述のように主にサーバ210と表示モニタ220によって構成される。表示モニタ220は、例えば液晶パネルを備え、演算部230が生成する映像信号を視認可能な映像に変換して表示する。サーバ210は、主に、演算部230、画像処理部240、データ蓄積部250、メモリ260および通信ユニット270を備える。
【0017】
演算部230は、例えばCPUであり、メモリ260から読み込んだ各種プログラムを実行することにより、判定装置200の全体を制御したり諸々の演算処理を実行したりする。例えば、計測部231としての処理を実行する場合には、画像処理部240と協働して、対象となる雌豚101の単位時間あたりの起臥の頻度を計測する。判定部232としての処理を実行する場合には、計測部231の計測結果を用いて当該雌豚101の発情を判定し、表示モニタ220や作業員端末120へ出力する。具体的な処理については、後に詳述する。
【0018】
画像処理部240は、例えば画像処理用のASICであり、カメラユニット110から受け取った画像データから対象雌豚の画像領域を切り出した姿勢判定画像を生成するなどの画像処理を実行する。データ蓄積部250は、例えばHDD(Hard Disc Drive)であり、観察対処となる雌豚101の識別情報と、識別情報に紐付けられた累積スコアとを蓄積する。累積スコアは、予め定められた単位時間の間に観察された対象雌豚101の起臥状態を数値化して累積加算したものである。累積スコアは、対象雌豚101がストール102に収容されている間は日ごとにカウントされ、日付情報と共にその累積スコアがデータ蓄積部250に記録される。
【0019】
メモリ260は、例えばSSD(Solid State Drive)であり、判定装置200を制御するための制御プログラムや対象雌豚101の発情判定を行う発情判定プログラムの他にも、様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶している。特に、学習済みモデルである起臥識別器261と発情識別器262を格納している。起臥識別器261は、入力された姿勢判定画像に写る雌豚の起臥状態を識別する。発情識別器262は、入力された連日の累積スコアから対象となる雌豚が発情しているか否かを識別する。詳細については後述する。
【0020】
通信ユニット270は、例えば有線LANユニットである。演算部230は、通信ユニット270を介して、インターネット900に接続されたカメラユニット110へ画像データを要求し、これに呼応してカメラユニット110から送られてくる画像データを受信する。また、判定部232は、通信ユニット270を介して受信した作業員端末120からの要求に応じて、発情判定結果を当該通信ユニット270へ送信する。
【0021】
図3は、ストール102内の雌豚101の状態を説明する図である。本実施形態においては、観察対象となる雌豚101の起臥の状態を、臥位、着座および起立のいずれかの状態として認定する。
【0022】
図3(A)は、雌豚101が起立状態である様子を示す。起立状態は、前肢および後肢ともに起き上がった姿勢の状態である。本実施形態においては、起立状態が観察された場合に、スコアα=1.0を与える。
図3(B)は、雌豚101が着座状態である様子を示す。着座状態は、前肢および後肢の一方が起き上がり他方が曲げられた姿勢の状態である。図は、雌豚101が後肢を曲げて臀部を接地させている様子を示している。本実施形態においては、着座状態が観察された場合に、スコアα=0.5を与える。
図3(C)は、雌豚101が臥位状態である様子を示す。臥位状態は、前肢および後肢を共に曲げたり側方へ投げ出したりして、脚に荷重が掛からない姿勢の状態である。図は、雌豚101が全脚を側方へ投げ出して側腹を接地させている様子を示している。本実施形態においては、臥位状態が観察された場合に、スコアα=0とする。
【0023】
カメラユニット110は、このように変化する雌豚101の様子を、計測部231からの制御に従って周期的に撮像する。計測部231は、カメラユニット110から送られてくる画像データを取得し、画像処理部240へ引き渡す。画像処理部240は、画像データから観察対象である雌豚101の領域を切り出し、予め設定された画像処理を施して姿勢判定画像を生成する。予め設定された画像処理は、画像サイズの調整や特定色(例えば対象雌豚の肌の色)周りの輪郭強調等である。計測部231は、メモリ260から起臥識別器261を読み出して、画像処理部240が生成した姿勢判定画像を入力する。起臥識別器261は、姿勢判定画像に写る雌豚の起臥状態が、起立状態、着座状態、臥位状態のいずれかを認定結果として出力する。計測部231は、認定結果に応じてスコアαを確定させる。
【0024】
起臥識別器261は、機械学習によって学習された学習済みモデルである。起臥識別器261は、事前に学習装置によって作成される。具体的には、学習装置は、姿勢判定画像とその正解(起立状態、着座状態、臥位状態のいずれか)のセットである教師データを多数与えられ、機械学習の一つである教師あり学習を実行する。ここでは、教師あり学習として、画像認識に好適なCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いる。教師あり学習によって学習を終えた起臥識別器261は、学習装置からメモリ260へ移され、上述の利用に供される。
【0025】
単位時間T0として例えば2時間を設定し、この2時間の間に対象雌豚101が起臥状態を何回変化させたかを評価する。すなわち、起臥の頻度を評価する。この評価の評価値として、上述のように、対象雌豚101が1回起立すればスコアα=1.0を与え、1回着座すればスコアα=0.5を与える。臥位している回数はスコアα=0なので、評価値としてはカウントしない。このようにして単位時間T0の間に累積した累積スコアは、計測日における対象雌豚101の起臥の頻度を表す評価値になり得る。
【0026】
本実施形態においては、評価値の精度をさらに高めるために、起立、着座および臥位のそれぞれの状態が継続された時間も考慮して評価値を計算する。つまり、臥位、着座および起立のそれぞれの状態が継続された時間に基づいて累積されるスコアを補正する手法を採用する。
図4は、本実施形態における、対象雌豚101の起臥の頻度を累積スコアに換算する手法を説明する図である。横軸は経過時間を表し、縦軸は起立(α=1.0)、着座(α=0.5)および臥位(α=0)に対応するスコアαを表す。
【0027】
図は、時刻tsに対象となる雌豚101の観察を開始し、単位時間T0が経過する時刻teまで観察を続けた観察結果の一例である。カメラユニット110は、例えば1フレーム/秒で雌豚101を撮像し、その画像データを判定装置200へ送信する。計測部231は、受信するそれぞれの画像データを用いて雌豚101が起立、着座、臥位のいずれの状態であるかを認定し、スコアαを確定させる。すなわち、1秒ごとに雌豚101の状態に応じたスコアαを確定させる。そして、時刻tsからの累積スコアに今回のスコアαを加算して累積スコアを更新する。この処理を単位時間T0が経過する時刻teまで続ける。
【0028】
計測部231は、このように累積スコアをカウントすることにより、起立、着座および臥位のそれぞれの状態が継続された時間を考慮した起臥の頻度を表す評価値を計算することができる。例えば、図において時刻tsから時刻t1までは起立状態(α=1.0)が継続しているが、時刻tsから時刻t1までの時間が1000秒だとすると、1秒ごとに1.0が加算されるので、1.0×1000=1000が累積スコアに加算される。
【0029】
このようにして計算された累積スコアは、雌豚101の活動強度を表していると言える。すなわち、累積スコアが大きければ雌豚101は活発に活動していたと言え、累積スコアが小さければおとなしくしていたと言える。計測部231が一定期間に亘って毎日決められた時間帯に対象である雌豚101の累積スコアを計算し、その累積スコアを日ごとにデータ蓄積部250へ蓄積すれば、その間における雌豚101の活動強度の変化を知ることができる。
【0030】
雌豚の年間の産子数を増やす観点や繁殖サイクルを適正な間隔に維持する観点から、ストールに収容された雌豚の発情を精度良く見極めることは重要である。これまでは、雌豚が発情したか否かの判断は、熟練作業員の経験や勘に大きく依存していた。したがって、熟練作業員の経験や勘に頼らず、雌豚の発情を精度良く見極めたいという要望が、多くの飼育者から挙げられている。このような背景のもと、本願発明者は、研究を重ねた結果、雌豚の活動強度の変化と発情に相関があることを見出した。同時に、上述のような活動強度の評価手法を開発した。活動強度の変化と発情の関係を、上述の累積スコアを用いて説明する。
【0031】
図5は、発情していない雌豚の累積スコアの推移を示す図である。横軸は観察経過日数を表し、縦軸はそれぞれの観察日における累積スコアを表している。ここでは、4頭の雌豚(豚A、豚B、豚C、豚D)の観察結果をプロットしている。
【0032】
それぞれの雌豚には個性があり、もともと活発に活動する雌豚もいれば、おとなしい雌豚もいる。そこで、それぞれの雌豚にとって、他の観察日と比較して相対的に活発に活動していると考えられる累積スコアを示した観察日をそれぞれ1日目としてプロットした。そして、それに続く3日分の累積スコアをプロットして、合計4日分の累積スコアの変化を表した。
【0033】
図示するように、これら4頭の雌豚の累積スコアの推移は、右肩下がりか横ばいである。これら4頭の雌豚のいずれにも発情は認められなかった。ここでは4頭の例を示したが、発情が認められなかった他の雌豚の累積スコアの推移も、およそ同様の結果であった。
【0034】
図6は、発情している雌豚の累積スコアの推移を示す図である。
図5と同様に、横軸は観察経過日数を表し、縦軸はそれぞれの観察日における累積スコアを表している。ここでも、4頭の雌豚(豚E、豚F、豚G、豚H)の観察結果をプロットしている。
【0035】
図6の場合も
図5の場合と同様に、それぞれの雌豚にとって、他の観察日と比較して相対的に活発に活動していると考えられる累積スコアを示した観察日をそれぞれ1日目としてプロットした。そして、それに続く3日分の累積スコアをプロットして、合計4日分の累積スコアの変化を表した。
【0036】
図示するように、これら4頭の雌豚の累積スコアの推移は、いずれも、一旦下がってから回復するV字状を示している。これら4頭の雌豚のいずれにも発情が認められた。ここでは4頭の例を示したが、発情が認められた他の雌豚の累積スコアの推移も、およそ同様の結果であった。なお、本願発明者は、105頭の雌豚から得られた181個の累積スコアの推移データを用いて
図5および
図6の検証を行った。
【0037】
以上の検証結果から、本願発明者は、一定期間に亘る活動強度の変化がV字状となった場合にその雌豚は発情している可能性が高い、という知見を得た。すなわち、上述のように観察対象となる雌豚の累積スコアを毎日計測して蓄積しておき、発情の有無を知りたくなった時点で一定期間分の累積スコアを抽出してその変化を確認すれば、その雌豚が発情しているか否かの判定を行うことができる。
【0038】
計測部231が累積スコアを繰り返し計測する一定期間は、V字状を初めて認識し得る3日以上が必要であり、また、2日目、3日目、4日目が累積スコアの底値となる場合を考慮して、最大で7日以下程度とすることが好ましい。また、雌豚の起臥頻度を計測する上記の単位時間T0を、どれくらいの長さにして、一日のうちのいつ設定するかについても、判定の精度を高める上で重要である。まず、単位時間T0を一日のうちのいつ設定するかについて説明する。なお、以下の説明においては、単位時間T0を、起臥頻度を計測する時間として計測時間T0と称する場合がある。
【0039】
図7は、起臥頻度の計測時間帯を説明する図である。原則的には、観察対象となる雌豚が、外部からの影響ではなく自発的に起きたり臥したりする活動を計測すべきであるので、自然環境のリズムに即した静かな時間帯に計測時間T
0を設定することが好ましいと言える。
図7(A)は、雌豚に餌を与える給餌時間と計測時間T
0の好ましい関係を示す図である。給餌時間は、発情の有無に関わらず雌豚が活発に活動する時間帯である。また、採餌後もしばらくの間は活発に活動する。したがって、計測時間T
0は、雌豚が餌を与えられて12時間経過後から次に餌を与えられる前までの期間内に設定されることが好ましい。図の例では、8時から9時の間が給餌時間に設定されており、9時から12時間後の21時から24時の3時間が計測時間T
0として設定されている。
【0040】
図7(B)は、養豚場付近の夜明け時間帯と計測時間T
0の好ましい関係を示す図である。ここでは養豚場には窓が設けられており、夜明けと共に場内が暗い状態から明るい状態へ変化することを想定している。雌豚は、一般的に、暗い状態では活動が停滞し、明るくなってくると徐々に活動を開始する。したがって、計測時間T
0は、ストールが設置された環境が暗い状態から明るい状態へ変化する夜明け時間帯を含むように設定されることが好ましい。図の例では、5時から5時半が夜明け時間帯である場合に、この時間帯を含む5時から7時までの2時間が計測時間T
0として設定されている。なお、養豚場に窓が存在せず、屋内の明るさが照明によって制御されているような場合には、計測時間T
0は、ストールが設置された環境が照明によって暗い状態から明るい状態へ変化する時間帯を含むように設定されると良い。
【0041】
図7(C)は、養豚場内で作業員が作業をする作業時間と計測時間T
0の好ましい関係を示す図である。作業時間は、作業員が養豚場内の掃除をしたり飼育されている雌豚の健康状態をチェックしながら周回したりする時間であり、発情の有無に関わらず雌豚が活発に活動する時間帯である。したがって、計測時間T
0は、ストールが設置された周辺環境に人が居ない期間内に設定されることが好ましい。図の例では、8時から10時と16時から18時が作業時間に設定されており、4時から8時の4時間が計測時間T
0として設定されている。
【0042】
計測時間T
0として、
図7(A)の例では3時間、
図7(B)の例では2時間、
図7(C)の例では4時間を設定したが、具体的にどれくらいの時間に設定するかについては、給餌時間など考慮すべき要因との関係で決定すると良い。いずれの場合にしても、計測時間T
0は、2時間以上6時間以下の時間であることが好ましいことが実験を通じて見出された。
【0043】
次に、計測時間帯の違いが累積スコアの推移にどのように現れるかについて説明する。
図8は、計測時間帯の違いによる累積スコアの推移の違いを説明する図である。横軸は観察経過日数を表し、縦軸はそれぞれの観察日における累積スコアを表している。ここでは、発情を示す特定の雌豚に対して、毎日5時から7時までの間に計測した累積スコアをプロットして結んだ推移と、毎日16時から18時までの間に計測した累積スコアをプロットして結んだ推移とを表す。
【0044】
5時から7時までは、
図7(A)から(C)のいずれにおいても好ましい時間帯であり、16時から18時までは、給餌の影響が残り、作業員の作業時間と被る時間帯である。16時から18時までの間に計測した累積スコアの推移も確かにV字状を成すが、5時から7時までの間に計測した累積スコアの推移に比べて変化が緩やかである。後述する判定手法においては、V字状の変化が顕著に現れるほど精度良く発情を判定できるので、計測時間T
0を、16時から18時までの時間帯に設定するよりは5時から7時までの時間帯に設定する方が好ましいと言える。
【0045】
計測部231が日々決められた時間帯に対象雌豚101の起臥状態を観察し、累積スコアを計算してデータ蓄積部250へ蓄積すれば、判定部232は、利用者の要求に従って、対象雌豚101の発情の有無を判定することができる。本実施形態において判定部232は、発情識別器262を利用して発情の有無を判定する。
図9は、発情識別器262を用いた発情判別の手法を説明する図である。
【0046】
判定部232は、メモリ260から発情識別器262を読み出して、データ蓄積部250に蓄積された一定期間分の累積スコアを入力する。ここでは、一定期間を4日間として、1日目の累積スコアx1、2日目の累積スコアx2、3日目の累積スコアx3、4日目の累積スコアx4の4次元ベクトル(x1,x2,x3,x4)を発情識別器262へ入力する。
【0047】
本実施形態の発情識別器262はサポートベクターマシン(SVM)であり、事前に学習装置で学習された学習済みモデルである。具体的には、一定期間分の累積スコアが「発情あり」または「発情なし」の正解ラベルと共に入力ベクトルとして与えられ、「発情あり」の空間と「発情なし」の空間を区分する識別関数が学習によって確定されている。このような学習を経て作成された発情識別器262は、学習装置からメモリ260へ移され、判定の利用に供される。
【0048】
判定部232が4次元ベクトル(x1,x2,x3,x4)を発情識別器262へ入力すると、発情識別器262は、「発情あり」を表す「1」または「発情なし」を表す「-1」を出力する。判定部232は、発情識別器262の出力である判定結果を表示モニタ220や作業員端末120へ出力する。例えば、表示モニタ220には、「管理番号○○/発情あり」のように、対象雌豚101の管理番号と共に発情の有無が表示される。なお、ここでは、4日分の累積スコアを4次元ベクトルとして入力したが、累積スコアに加え他の特徴量も入力ベクトルに加えたSVMを作成することもできる。例えば、離乳日や気温を特徴量として入力するSVMを作成することができる。また、学習済みモデルは、「発情あり」と「発情なし」の二分判定の出力を行うSVMに限らず、例えば「発情確率80%」のように多段階判定の出力を行うものであっても良い。
【0049】
以上説明したように、本実施形態における判定装置200は、大きく分けて2つの処理ステップ、すなわち、累積スコアを計測する計測ステップと、対象となる雌豚の発情を判定する判定ステップとを実行する。そこで、それぞれの処理の流れを整理する。
【0050】
図10は、累積スコアを計測する計測ステップの処理について説明するフロー図である。フローは、観察対象となる雌豚101がストール102へ収容され、システムオペレータにより継続的な観察の開始指示がなされた時点から開始する。
【0051】
計測部231は、ステップS101で、現在時刻を確認し、予め設定されている計測開始時刻になったか否かを判断する。計測開始時刻になったと判断したらステップS102へ進み、そうでないと判断したらステップS107へ進む。ステップS102へ進んだ場合、計測部231は、撮像を指示する指示信号をカメラユニット110へ送信する。カメラユニット110は、当該指示信号を受信すると雌豚101の撮像を実行し、生成した画像データを計測部231へ送信する。
【0052】
計測部231は、カメラユニット110から画像データを受信すると、ステップS103へ進み、当該画像データを画像処理部240へ引き渡して姿勢判定画像を生成させ、生成された姿勢判定画像を起臥識別器261へ入力する。そして、起臥識別器261が起立状態、着座状態、臥位状態のいずれかを認定結果として出力したら、当該認定結果に応じてスコアαを確定させる。
【0053】
計測部231は、ステップS104で、それまでの累積スコアに今回確定したスコアαを加算して累積スコアを更新する。ステップS105へ進み、計測部231は、現在時刻を確認し、計測開始時刻から予め設定された単位時間T0が経過したか否かを判断する。位時間T0が経過したと判断したらステップS106へ進み、そうでないと判断したらステップS102へ戻って雌豚101の観察を継続する。なお、ステップS102へ戻って再びカメラユニット110へ撮像を指示する指示信号を送信する場合には、予め設定された撮像周期(例えば1秒)となるように、タイミングを調整する。
【0054】
計測部231は、ステップS106へ進むと、累積スコアを確定させて、雌豚101の識別情報および日付情報と共に、データ蓄積部250へ記録する。演算部230は、ステップS107で、一連の計測ステップ処理の終了指示が発生しているか否かを確認する。終了指示は、システムオペレータによるメニュー操作や、制御プログラムによる終了判定により発生する。終了指示が発生していなければステップS101へ戻って一連の処理を継続し、終了指示が発生していれば計測ステップの処理を終了する。
【0055】
図11は、対象となる雌豚の発情を判定する判定ステップの処理について説明する図である。判定ステップは、システムオペレータや作業員からの要求に応じて開始される。システムオペレータや作業員は、判定装置200や作業員端末120を操作して、発情の有無を知りたい対象となる雌豚を指定する。フローは、判定対象となる雌豚が確定した時点から開始する。
【0056】
判定部232は、ステップS201で、指定された雌豚の直近における一定期間分の累積スコアをデータ蓄積部250から読み出す。具体的には、一定期間が例えば4日と設定されている場合には、直近の4日分の累積スコアを読み出す。ステップS202へ進み、判定部232は、発情識別器262をメモリ260から読み出す。そして、ステップS203で、データ蓄積部250から読み出した一定期間分の累積スコアを、メモリ260から読み出した発情識別器262へ入力し、判定計算を実行する。判定計算の結果「発情あり」または「発情なし」の出力を得たら、ステップS204で、当該判定結果を表示モニタ220や作業員端末120へ出力し、一連の処理を終了する。
【0057】
なお、ここではシステムオペレータや作業員からの要求に応じて判定ステップの処理を実行する例を説明したが、予め定められた条件を満たす場合に自動的に判定ステップの処理を実行しても良い。例えば、判定部232は、毎日決められた時間に観察対象のすべての雌豚に対して判定ステップの処理を実行し、「発情あり」と判定された雌豚グループと、「発情なし」と判定された雌豚グループを一覧にして表示モニタ220や作業員端末120へ出力しても良い。あるいは、日ごとの累積スコアがデータ蓄積部250へ記録されるタイミングで自動的に判定ステップの処理を実行し、「発情あり」と判定された場合に限ってシステムオペレータや作業員へ通知するようにしても良い。
【0058】
以上説明した本実施形態においてはSVMである発情識別器262を用いて発情を判定したが、発情識別器262はSVMに限らない。機械学習によって生成する識別器としては、他にもロジスティック回帰やランダムフォレストの手法も採用し得る。さらには、識別器を用いず、解析的に発情を判定する手法を採用しても良い。
【0059】
図12は、解析的に発情を判定する発情判定手法を説明する図である。横軸は観察経過日数を表し、縦軸はそれぞれの観察日における累積スコアを表している。ここでは、発情を示す特定の雌豚の1日目から5日目までの累積スコアをプロットして結んだ推移を表す。上述のように、発情している雌豚は一定期間に亘る活動強度の変化がV字状となるので、発情しているか否かの判定は、累積スコアの推移がV字状になっているか否かを分析すれば良い。
【0060】
そこで、一定期間(図の場合は5日間)の中間日(図の場合は2日目から4日目)に、累積スコアの最小値が存在するか否かを確認する。最小値が中間日に存在しない場合は、「発情なし」と判定する。最小値が中間日に存在する場合は、その最小値が計測された観察日よりも前を前期とし、後を後期とする。図の場合は、3日目の累積スコアが最小値であるので、1日目と2日目が前期であり、4日目と5日目が後期である。
【0061】
そして、前期の累積スコアの最大値である前期最大値と後期の累積スコアの最大値である後期最大値を決定する。図の場合は、1日目の累積スコアが前期最大値であり、5日目の累積スコアが後期最大値である。この前期最大値→最小値→後期最大値の変化が、「発情あり」と判定される程度のV字状であるか否かを分析する。具体的には、前期最大値から最小値への低下率Tαが、予め設定された基準低下率Tα0よりも大きく、最小値から後期最大値への上昇率Tβが、予め設定された基準上昇率Tβ0よりも大きい場合に、「発情あり」と判定する。そうでない場合には、「発情なし」と判定する。なお、基準低下率Tα0および基準上昇率Tβ0は、結果が既知の確定データを用いて設定される。
【0062】
以上いくつかの判定手法を説明したが、判定装置においていずれの判定手法を採用するかは、観察対象となる雌豚の頭数や品種、判定装置の規模、コスト、要求される判定精度等を踏まえて決定され得る。また、判定手法に限らず、起臥状態の計測手法も上記の手法に限らない。例えば、カメラユニット110の代わりに、ストール102に収容された雌豚101の頭部付近と臀部付近の高さを計測する距離センサを天井に設置し、計測部231は、当該距離センサの出力から起臥状態を認定しても良い。
【0063】
また、本実施形態においては、起立状態と臥位状態に加えて着座状態も起臥の頻度を計測する対象とし、着座状態に対してスコアα=0.5を与えた。しかし、スコアの数値は雌豚の品種や体重等を考慮して0.5以外の値に調整しても良く、また、着座状態も更に姿勢に応じて細分化して、それぞれに異なる値のスコアを与えても良い。逆に、脚が短い品種のような場合や、それほどの判定精度が必要でない場合には、着座状態を省いて起立状態と臥位状態の2つの状態のみで起臥の頻度を計測しても良い。
【符号の説明】
【0064】
101 雌豚、102 ストール、110 カメラユニット、120 作業員端末、200 判定装置、210 サーバ、220 表示モニタ、230 演算部、231 計測部、232 判定部、240 画像処理部、250 データ蓄積部、260 メモリ、261 起臥識別器、262 発情識別器、270 通信ユニット、900 インターネット