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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】おろし金
(51)【国際特許分類】
   A47J 43/25 20060101AFI20221024BHJP
   B26D 3/24 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A47J43/25
B26D3/24 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019068707
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146425
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】317000821
【氏名又は名称】株式会社カスタム・クール・センター
(73)【特許権者】
【識別番号】595077382
【氏名又は名称】長野精工金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 政晴
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-130036(JP,A)
【文献】実開昭60-053230(JP,U)
【文献】実開昭60-027833(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第101785637(CN,A)
【文献】登録実用新案第3172843(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 43/25
B26D 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に多数の突起刃が形成されたおろし金であって、
前記突起刃は、略三角錐状に起立した爪と、この爪の間に形成された所定の高さの突堤刃を有し、
前記爪と突堤刃を交互に配列したことを特徴とするおろし金。
【請求項5】
前記突堤刃は、断面が略鋸刃状に形成され、前記金属板の表面に対して、一方の側面の傾斜角度を鈍角に形成し、他方の側面の傾斜角度を鋭角に形成した請求項1、2いずれかに記載のおろし金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の表面に、多数の突起刃を形成したおろし金に関する。
【背景技術】
【0002】
おろし金は、大根、ニンジン等の野菜や、生姜、わさび等の薬味をすり下ろす調理器具として用いられている。おろし金の種別や形態は、用途に応じて種々のものがあり、一般的な金属からなるおろし金は金属薄板を打ち抜くことで突起刃を目立てている。金属薄板として銅、アルミニウム、ステンレスが使用され、また、金属薄板に鍍金を施したものがある。
【0003】
特に、プロの料理人が愛用するおろし金は、銅の板に鏨(たがね)と呼ばれる道具と金槌を使い、手作業でひと目ずつ刃を掘り起こして作っている。このおろし金によって、例えば大根やわさび等をすり下ろすと、おろし金の目により切れ味が鋭くなることから、繊維を潰すのではなく細かく切ることができ、しかも、程よく水分を含むので、ふんわりするとともにみずみずしくでき上がると評価されている。
【0004】
このような、プロの料理人にも使用可能なおろし金として、特許第1246818号公報(特許文献1)、実用新案登録第3131845号公報(特許文献2)には、職人の手作業によらず、機械的な手段によって製造することが記載されている。特許文献1に開示されたおろし金の製造方法は、機械的に作動する爪付具をおろし金に対して進行と停止を繰り返すことにより、同列に並ぶ爪を個別に刻設するようにしている。一方、特許文献2に開示されたおろし金においても、銅を母材とした複合金属材のおろし面に、複数の突起刃を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第1246818号公報
【文献】実用新案登録第3131845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に開示されているおろし金は、いずれも、おろし金の表面に爪を同列に並べて刻設したものであって、従来から職人が手作業によって形成された爪を有するおろし金と同じである。このように、爪を同列に並べて刻設したおろし金は、実質的に鏨(たがね)と同等の爪付具を一方向または逆方向から刻設することにより爪が形成されているため、例えば大根やわさび等は、爪のみによってすり下ろされる。このため、すり下ろし効率がわるく、所望の量をすり下ろすまでの回数が多くなることから、使用者からおろし金を使用した場合は疲労感を感じてしまうといった苦情が多く聞かれていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属板の表面に起立した多数の爪と突堤刃からなる突起刃によって、すり下ろしの効率を高めるとともに、回数を減少させることが可能なおろし金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、金属板の表面に多数の突起刃が形成されたおろし金であって、前記突起刃は、略三角錐状に起立した爪と、この爪の間に形成された所定の高さの突堤刃を有し、前記爪と突堤刃を交互に配列したことを要旨としている。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1のおろし金において、前記突堤刃は、前記金属板の表面に複数列の横列と縦列とを交差させて形成し、横列と縦列が交差する位置に各々前記爪を形成している。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1、2に記載のおろし金において、前記爪の頂部の前記金属板の表面からの高さを前記突堤刃の頂部の高さよりも高くしている。
【0011】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、前記請求項1、2に記載のおろし金において、前記爪と前記突堤刃との間には隙間が形成されるように互いに離間させている。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1、2に記載のおろし金において、前記突堤刃は、断面が略鋸刃状に形成され、前記金属板の表面に対して、一方の側面の傾斜角度を鈍角に形成し、他方の側面の傾斜角度を鋭角に形成するようにしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属板の表面に、略三角錐状に起立させた爪と、この爪の間に所定の高さの突堤刃を交互に配列した多数の突起刃を形成しているので、略三角錐状に起立させた爪の切れ味が鋭いことから、例えば大根やわさび等をすり下ろすと、繊維を潰すのではなく細かく切ることができ、程よく水分が含まれたふんわりとした大根おろしをすり下ろすことが可能となる。しかも、爪の間には突堤刃が形成され、この突堤刃が大根等の繊維を潰すことなく肉薄にすり下ろすことから、すり下ろしの効率を高められるので、回数を減少させることが可能となり、使用者の疲労感を大幅に軽減させることができる。
【0014】
また、突堤刃を金属板の表面に複数列形成させて、横列と縦列とを交差させて形成するとともに、横列と縦列が交差する位置に各々爪を形成しているので、例えば大根やわさび等をすり下ろすとき、おろし金の前後方向のみならず、左右方向にすり下ろしても同等にすり下ろすことができることから、すり下ろしの効率が高められ、すり下ろし回数を減少させることが可能となる。
【0015】
さらにまた、爪と突堤刃との間を離間させて隙間を形成しているので、爪の鋭い切れ味と、突堤刃によるすり下ろし機能を独立させていることから、大根等の繊維を潰すことなく効率的にすり下ろすことが可能となる。
【0016】
また、突堤刃は、他方の側面の傾斜角度を鋭角に形成することにより、例えば大根やわさび等が肉薄にすり下ろされるので、大根等の繊維を潰すことなくすり下ろすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】 本発明によるおろし金を示す斜視図である。
図2】 おろし金に形成された突起刃を示す拡大斜視図である。
図3】 おろし金に形成された突起刃の爪と突堤刃を示す拡大斜視図である。
図4】 爪と突堤刃を示す断面図である。
図5】 (A)乃至(E)は、突起刃の形成工程を示す工程説明図である。
図6】 (A)(B)は、本発明による第2の実施例のおろし金の形成工程を示す工程説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
金属板の表面に多数の突起刃が形成されたおろし金は、前記突起刃が、略三角錐状に起立した爪と、この爪の間に形成された所定の高さの突堤刃を有し、前記爪と突堤刃を交互に配列している。
【0019】
以下、本発明によるおろし金について、図面により詳細に説明する。図1は、おろし金1を示し、このおろし金1に使用される金属板2は、一般的なおろし金として使用される銅、アルミニウム、ステンレスが使用される。この金属板2の板厚は、0.5mmから2.0mmとすることが好ましく、これらの金属板2は鍍金を施したものでも良い。さらに、おろし金1は、一般に使用されているおろし金と同様の形状に形成され、本体部1aの一端側に把持部1bが延設されている。そして、本体部1aの表面には、多数の突起刃3が形成されている。
【0020】
突起刃3は、図2図3に示すように、爪3aと突堤刃3bから構成され、突堤刃3bは、金属板2の表面に複数列の横列と縦列とを交差させて形成されている。さらに、突堤刃3bの横列と縦列が交差する位置には、各々3a爪が形成されている。この爪3aは略三角錐状に起立形成され、頂部を鋭角に尖らせていて、図示のように、四角形の角に起立形成された爪3aは、各々外方を向くように若干傾斜させている。
【0021】
また、各々の爪3aの間に形成された突堤刃3bは、断面形状が鋸刃のように略三角形に形成されている。この三角形状は、金属板2の表面に対して、一方の側面の傾斜角度が鈍角に形成され、他方の側面の傾斜角度が鋭角に形成されている。さらに、2つの爪3aの間に形成されている突堤刃3bは、図5に示すように、隣接する各爪3aとの間を離間させて隙間Gを形成している。そして、図5に示すように、各々の爪3aの頂部の金属板2の表面からの高さH1は、突堤刃2bの頂部の高さH2よりも高くなるように形成されている。
【0022】
次に、おろし金1に形成される爪3aと突堤刃3bからなる突起刃3の形成方法について図5により説明する。おろし金1の母材となる金属板2は、銅、アルミニウム処理を施したアルミニウム、ステンレスから選択される。金属板2は、一般的なおろし金1と同等の板厚及び大きさを有し、図示しない加工装置に載置される。その後、図5に示すように、掘り起こし工具5により、爪3a及び突堤刃3bを起立形成する。
【0023】
掘り起こし工具5は、底面側の先端に移動方向と直角な刃部5aが形成されていて、その幅は、おろし金1に形成する突起刃3の幅に設定されている。また、この掘り起こし工具5は、金属材1の一方面に対して後端側が高くなるように所定の角度θ1で傾斜させて図示しない駆動装置に取り付けられる。この傾斜角度θ1は、概ね10度から30度に設定される。また、掘り起こし工具5の摺接面5bと移動方向との角度θ2は、概ね30度から80度に設定されている。
【0024】
まず、図5(A)に示すように、掘り起こし工具5の刃部5aを金属板2の突起刃3の突堤刃3bを形成する位置に当接させた後、掘り起こし工具5を駆動装置により所定の角度θ1で矢示の方向で金属板2に侵入させると、掘り起こし工具5の刃部5aが金属板2の一方面に食い込むことにより、突堤刃3bが起立形成される。この突堤刃3bの高さH2は、0.3mmから1.0mm程度が望ましい。
【0025】
次いで、掘り起こし工具5を原点位置まで復帰させるとともに、次の突堤刃3bを起立形成する位置まで金属板2を前進させ、その位置に掘り起こし工具5を当接させた後、図5(B)に示すように、掘り起こし工具5を駆動装置により所定の角度θ1で矢示の方向で金属板2に挿入させると、掘り起こし工具5の刃部5aが金属板2の一方面に食い込むことにより、図5(A)によって形成された突堤刃3bよりも離間した位置に、次の突堤刃3bが起立形成される。このように形成される2つの突堤刃3bの間隔は、概ね5mm~10mm程度とする。以後、掘り起こし工具5の原点復帰と金属板2の前進を、突起刃3を形成すべき長さに達するまで繰り返す。
【0026】
その後、多数条の突堤刃3bが起立形成した金属板2の向きを180度反転する。そして、上述した工程によって形成された突堤刃3bの中間位置に、図5(C)に示すように、逆方向の突堤刃3bを起立形成する。この突堤刃3bの起立形成の工程は、前述した図5(A)(B)による工程と同様である。このように、向きの異なる多数条の突堤刃3bは、各々の断面が略鋸刃状に形成される。さらに、突堤刃3bは、図示のように、金属板2の表面に対して、一方の掘り起こし工具5の摺接面5bに摺接した側面の傾斜角度が鈍角に形成され、他方の側面の傾斜角度が鋭角に形成される。
【0027】
このように、180度向きの異なる多数条の突堤刃3bを起立形成したのち、金属板2の向きを90度回転する。そして、図5(D)に示すように、突堤刃3bの直行する方向から、掘り起こし工具5を駆動装置により、角度θ1に傾斜させた矢示の方向で突堤刃3bと金属板2に侵入させることにより、突堤刃3bが起立して爪3aが起立形成される。さらに、金属板2の一方面に食い込むことにより、相寄る爪3aの間に突堤刃3bが起立形成される。これにより、爪3aの頂部の高さH1は、突堤刃3bの高さH1よりも高く形成される。以後、掘り起こし工具5により、所定間隔を隔てて爪3aの起立形成工程を繰り返す。
【0028】
次に、金属板2の向きを180度反転させ、図5(E)に示すように、突堤刃3bの直行する方向から爪3aを起立形成する。このとき、掘り起こし工具5によって爪3aを起立形成する位置は、図5(D)に示した前の工程によって起立形成された爪3aの中間位置としている。そして、突堤刃3bから爪3aを起立形成することにより、爪3aと突堤刃3bとの間には隙間Gが形成されるように互いに離間している。そして、爪3aの起立形成工程を繰り返すことにより、金属板2の表面には、図2に示すように、突堤刃3bが複数列の横列と縦列とを交差させて形成され、横列と縦列が交差する位置には、各々爪3aが起立形成される。
【0029】
図6は、本発明による第2の実施例のおろし金1の形成工程を示し、前述したおろし金の実施例に対し、突起刃の突堤刃と爪を減少させている。このおろし金10に使用する金属板11は、前述した実施例と同じ銅、アルミニウム、ステンレスの金属板が使用される。最初に、図示しない加工装置に載置した後、図6(A)に示すように、前述した掘り起こし工具5により、爪12a及び突堤刃12bからなる突起刃12を起立形成する。
【0030】
まず、図6(A)に示すように、掘り起こし工具5の刃部5aを金属板2の突起刃3を形成する位置に当接させた後、掘り起こし工具5を駆動装置により、前述した実施例と同じ所定の角度で矢示の方向で金属板11に挿入させると、掘り起こし工具5の刃部5aが金属板2の一方面に食い込むことにより、突堤刃12bが起立形成される。この突堤刃12bの高さは、前述した実施例と同様に、0.3mmから1.0mm程度としている。
【0031】
次いで、掘り起こし工具5を原点位置まで復帰させた後、次の突堤刃12bを起立形成する位置まで金属板2を前進させ、その位置に掘り起こし工具5を当接させた後、掘り起こし工具5を駆動装置により所定の角度で矢示の方向で金属板2に挿入させると、掘り起こし工具5の刃部5aが金属板2の一方面に食い込むことにより、先に起立形成した突堤刃3bよりも離間した位置に、次の突堤刃12bが起立形成される。最初と次に起立形成される2つの突堤刃3bの間隔は、概ね5mm~12mm程度とするが、突堤刃12bと爪12aを減少させていることから、やや短い間隔にすることが望ましい。以後、掘り起こし工具5の原点復帰と金属板2の前進を、突起刃12を形成すべき長さに達するまで繰り返すことにより、金属板2の表面には、多数条の突堤刃3bが並列に起立形成される。
【0032】
その後、金属板2の向きを90度回転する。そして、図6(B)に示すように、突堤刃12bの直行する方向から、掘り起こし工具5を駆動装置により矢示の方向で突堤刃12bと金属板2に挿入させると、突堤刃12bが起立して爪12aが起立形成される。さらに、金属板2の一方面に食い込むことにより、相寄る爪12aの間にも突堤刃12bが起立形成される。このように形成された爪12aの頂部の高さは、突堤刃12bの高さよりも高く形成される。以後、掘り起こし工具5により、所定間隔を隔てて爪12aの起立形成工程を繰り返すことにより、起立形成した突堤刃12bは、横列と縦列が交差して形成され、横列と縦列が交差する位置には、各々爪12aが起立形成される。
【0033】
このように第2の実施例のおろし金10においても、前述した実施例と同様に、金属板2の表面には多数条の突起刃12が形成され、突起刃12は略三角錐状に起立した爪12aと、この爪12aの間に形成された所定の高さの突堤刃12bを有し、爪12aと突堤刃12bを交互に配列している。また、突堤刃12bは、金属板2の表面に複数列の横列と縦列とを交差させて形成し、横列と縦列が交差する位置には、各々爪12aが形成されている。さらに、爪12aの頂部の金属板2の表面からの高さは、突堤刃12bの頂部の高さよりも高くしている。さらにまた、爪12aと突堤刃12bとの間には隙間が形成されるように互いに離間させている。
【0034】
この第2の実施例のおろし金は、金属板2に対して、多数条の突堤刃12bを形成した後に、90度回転して爪12aを起立形成する2工程で製造することができるので、製造コストを低減させることが可能となる。一方、第2の実施例のおろし金は、前述した実施例と比較して、爪12aと突堤刃12bの数が少なく、効率が低下することもあるが、起立形成する突堤刃12bの間隔を狭くすることにより解消することが可能である。
【0035】
以上説明した本発明は、これら実施例に限定されることなく本発明を逸脱しない範囲において種々変更できる。前述した実施例においては、金属板の表面に、複数列の横列と縦列からなる突堤刃を直角に交差させているが、例えば、30度や60度の角度に交差させようにしても良い。また、起立形成する突堤刃と爪の高さは、すり下ろす対象物によって望ましい変化させても良い。また、爪の頂部が鋭利に尖り、使用者に危害を与える恐れがある場合は、頂部を押圧したり、或いは削ることにより、鈍らせても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 おろし金
2 金属板
3 突起刃
3a 爪
3b 突堤刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6