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特許7162818抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物、及びこれを用いたマスク又はフィルター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物、及びこれを用いたマスク又はフィルター
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/12 20090101AFI20221024BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221024BHJP
   A61K 36/282 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20221024BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20221024BHJP
   D06M 13/00 20060101ALI20221024BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
A01N65/12
A01P1/00
A61K36/282
A61P17/00
A61P31/12
A61P31/16
A61P17/00 101
A41D13/11 M
A41D13/11 Z
D06M13/00
A61K127:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020196119
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084323
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】392007153
【氏名又は名称】株式会社山正
(73)【特許権者】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】押谷 優助
(72)【発明者】
【氏名】サイズ ルぺス
(72)【発明者】
【氏名】大島 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊勢川 裕二
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043213(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111297949(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111543441(CN,A)
【文献】国際公開第2015/155903(WO,A1)
【文献】特開2020-029639(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2012-0005686(KR,A)
【文献】特開2013-216606(JP,A)
【文献】特開2004-238299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/12
A61K 36/282
A61P 17/00
A61P 31/12
A61P 31/16
A01P 1/00
A41D 13/11
D06M 13/00
A61K 127/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎した ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)の抽出物を含む抗ウイルス作用を有する組成物。
【請求項2】
対象のウイルスが、インフルエンザウイルスである、請求項1に記載の抗ウイルス作用を有する組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の 抗ウイルス作用を有する組成物は、ヨモギを焙煎した後に抽出される、抗ウイルス作用を有する組成物の作製方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の 抗ウイルス作用を有する組成物を使用した、抗ウイルス作用を有するマスク又はフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物に関する。更に、本発明は、抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物を用いたマスク又はフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
人類の歴史の中で、ヒトの死につながる病気の原因の大半は、細菌、ウイルスおよび原虫に代表される病原微生物体の感染によるものであった。
近年でも、インフルエンザを中心とする風邪症候群は、日常生活において最も多い病気であり、老人や慢性疾患の患者へ致命的な影響を与えることもしばしばある。
インフルエンザは、発熱、頭痛、咳あるいはその他の全身症状が強く現れ、時には肺炎やその他の合併症を生じることもある。治療上特に重要視されている呼吸器ウイルス感染症であるが、現在はワクチンによる予防法が主な対抗手段であるため、これに代わる簡易的かつ有効な予防手段が求められている。
【0003】
ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)はキク科の多年草で、本州、四国、九州に自生している。夏には1メートル前後に成長し、秋にかけて多数の小さな花をつける。
ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)は、万能薬として古来より重宝されており、含有されるポリフェノール類には抗酸化作用や抗菌・静菌作用があることが知られている。
【0004】
特許文献1には、ヨモギを含む数種の植物から選択される少なくとも1種の抽出物等を用いた抗菌・消臭性繊維について開示されている。この発明によれば、植物抽出物と界面活性剤を混合させて使用することで、細菌に対する増殖抑制効果や消臭性能を効果的に発揮することが記載されている。しかしながら、ヨモギからの抽出組成物のみを用いてはおらず、抗ウイルス作用については言及されていない。
【0005】
特許文献2では、ヨモギや月桃、ウコン等に食用植物を混入したプラスチックの網体が開示されている。これら食用植物を混入し作製したプラスチックの網体を使用する、湿布シート、使い捨てマスク、使い捨て紙おむつ、生理用ナプキン等への用途が記載されている。しかしながら、これらは全て、プラスチックの網体をそれぞれに貼り付けて使用する方法を採用している。また、特許文献2の明細書中には、ヨモギの成分は脱臭・消臭・抗菌・殺菌・血液循環の促進・鮮度維持・香りによる爽快的気分等の効果があることが記載されているが、特許文献1と同様に、抗ウイルス作用については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-255518号公報
【文献】特開2001-39888号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sekizawa et al.,(2013)Relationship between polyphenol content and anti-influenza viral effects of berries. J Sci food Agric 93:2239-41.
【文献】Nagai et al.,(2017)Inhibition of influenza virus replication by adlay tea. J Sci food Agric doi:10.1002/jsfa.8671.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
叙上の通り、今までヨモギが持つ抗ウイルス効果については知られていなかった。
【0009】
ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)は日本国内の各地に自生し、古代から民間療法に利用されている。
本発明者らは、鋭意研究の結果、ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)から抽出した組成物が、抗ウイルス作用を有することを実験的に知得するに至った。
【0010】
従って、本発明は、ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)から抽出した抗ウイルス作用を有する組成物、及びこの組成物を用いたマスク又はフィルターを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、焙煎したヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)の抽出物を含む抗ウイルス作用を有する組成物に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、対象のウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1に記載の抗ウイルス作用を有する組成物に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の抗ウイルス作用を有する組成物は、前記ヨモギを焙煎した後に抽出される、抗ウイルス作用を有する組成物の作製方法に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に記載の抗ウイルス作用を有する組成物を使用した、抗ウイルス作用を有するマスク又はフィルターに関する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、焙煎したヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)の抽出物を含む抗ウイルス作用を有する組成物であることから、ウイルスによる感染予防等のために有効に利用できる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、対象のウイルスがインフルエンザウイルスであるため、特にインフルエンザウイルスによる感染予防に効果的である。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、請求項1又は2に記載の抗ウイルス作用を有する組成物は、ヨモギを焙煎した後に抽出され、焙煎することで、より強力な抗ウイルス作用が得られる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、請求項1又は2に記載の抗ウイルス作用を有する組成物を使用し作製したマスク又はフィルターであるので、ウイルス等による感染症予防のために好適に使用できる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態において、インフルエンザウイルスを感染させた細胞株に対するヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性を示すグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。 イヌ腎由来MDCK細胞株にA型インフルエンザウイルスを感染させ、培養培地中にヨモギ抽出組成物を添加し、更に24時間培養後に培養培地の上清を回収した。 Focus forming Reduction Assayにて、回収した上清のウイルス量を測定し、抗ウイルス活性をIC50値(50%阻害増殖濃度 mg/ml)で示した。
図2a】本発明の一実施形態において、図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた細胞株に対して、抽出前に焙煎をおこなわないヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図2b】本発明の一実施形態において、図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた細胞株に対して、抽出前に焙煎をおこなったヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図3a】本発明の一実施形態において、ヨモギ抽出組成物の濃度が0%の溶液をフィルターに含侵、乾燥させこのフィルターから再度組成物を抽出し、フィルター由来ヨモギ抽出組成物を作成した。図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた培養細胞に対してこのフィルター由来ヨモギ抽出組成物を加えたときの抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図3b】本発明の一実施形態において、ヨモギ抽出組成物の濃度が25%の溶液をフィルターに含侵、乾燥させこのフィルターから再度組成物を抽出し、フィルター由来ヨモギ抽出組成物を作成した。図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた培養細胞に対してこのフィルター由来ヨモギ抽出組成物を加えたときの抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図3c】本発明の一実施形態において、ヨモギ抽出組成物の濃度が50%の溶液をフィルターに含侵、乾燥させこのフィルターから再度組成物を抽出し、フィルター由来ヨモギ抽出組成物を作成した。図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた培養細胞に対してこのフィルター由来ヨモギ抽出組成物を加えたときの抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図3d】本発明の一実施形態において、ヨモギ抽出組成物の濃度が100%の溶液をフィルターに含侵、乾燥させ、このフィルターから再度組成物を抽出し、フィルター由来ヨモギ抽出組成物を作成した。図1と同様の方法で、インフルエンザウイルスを感染させた培養細胞に対してこのフィルター由来ヨモギ抽出組成物を加えたときの抗インフルエンザウイルス活性を示したグラフである。 グラフの横軸はヨモギ抽出組成物の添加濃度(mg/ml)を、縦軸はウイルス力価(FFU/ml)を示す。
図4a】本発明の一実施形態における、抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルターを縫い込んだマスクの斜視図を示す。
図4b】本発明の一実施形態における、抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルターを縫い込んだマスクの正面図を示す。
図4c図4bのA-A´断面図を示す。
図4d図4a及び図4bのマスク本体部の分解図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物、及びこれを用いたマスク又はフィルターの好適な実施形態について説明する。
【0021】
ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)は、キク科の多年草で人家近くから山野の草地にごく普通にみられ、地下茎を伸ばしてふえる。茎は高さ60~120cmで叢生し、有毛、総状円錐状に分岐する。中葉は楕円形で仮托葉があり、羽状に深~中裂し、長さ6~12cm、幅4~8cm、裂片は2~4対、長楕円状披針形で鈍~鋭先頭で更に裂け、上面緑色、下面に白毛を密生する。花期は8~10月。頭花は数多く、径1.5mmで淡褐色、長楕円形をしている。総包片は4列、長楕円~広卵形をしている。痩果は長さ1.5mm。本州、四国、九州、小笠原、朝鮮に分布する。
古来、その葉を止血、鎮痛薬として吐血、下痢、婦人の漏血などに用い、また果実を温補薬として用いている。また、Artemisia属の葉は諸民族が薬用としており、汎世界的な薬用植物である。漢方では他の生薬と配合し、収斂性止血薬として子宮出血、月経調節、腹痛、胃痛に用いる。また、単独で用いて抗菌、止痢の働きがある。民間では生薬をもんで虫さされや切傷につける。乾燥した葉を浴用にするか、タバコのように吸えば喘息に効くといわれている。またモグサの製造原料とする。
【0022】
ヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)の葉は精油約0.02%を含み、その主成分は1,8-cineol(=eucalyptol)50%、α-thujone、β-thujone、その他sesquiterpene類。また、adenine0.02%、acetyl choline、choline0.11%などを含む。
【0023】
この発明で使用するヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)は、日本産、中国産等特に限定するものではないが、日本産のものが望ましい。使用部位は、地上部、特に葉部、茎部が望ましい。
この発明で使用するヨモギ(Artemisia princeps Pampanini)は、生の状態でも使用できるが、乾燥体が望ましく、乾燥体を焙煎した材料を用いることが更に望ましい。
【0024】
抽出に用いる溶媒は、水道水、熱水、純水、超純水の他、メタノール、エタノール、DMSO、クロロホルム-メタノール等が挙げられるが、特に限定されない。
【0025】
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属し、エンベロープを持つマイナス鎖の一本鎖RNAウイルスであり、通常A、B、およびC型がある。
本発明における「インフルエンザウイルス」とは、特にA型、B型のものを指し、その中でもさらにヒトに感染するものを意味する。
【0026】
本発明における「抗インフルエンザウイルス活性がある」とは、A型インフルエンザウイルスに感染させた培養細胞の培養培地上清中におけるウイルス量を指標とした測定法により、ヨモギの抽出組成物を添加し、一定時間経過した後に、ウイルス量の減少が確認できたことを意味する。
【実施例
【0027】
以下、本発明の試験例及び実施例を説明することにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0028】
[試験例1]
<ヨモギ抽出組成物>
新潟県産のヨモギを粉末状にしたもの5gに対して50mlの超純水を加え、80℃で90分間成分の熱水抽出をおこなった。濾過した後に凍結乾燥させた。凍結乾燥後、0.45μmの滅菌ろ過用フィルターで滅菌処理し、実験に使用するまで-30℃の冷凍庫で保存した。後述する試験例2、試験例3についてはこのヨモギ抽出組成物を用いた。また、同様に熱水抽出をおこなった直後のヨモギ抽出組成物の原液を濃度100%とし水で希釈した50%、25%のサンプルと抽出組成物を含まない水のみのブランクを作成した。濃度別の各サンプルをフィルターに含侵、乾燥させた。このフィルター5gに対して50mlの超純水を加え、80℃で90分間成分の熱水抽出をおこなった。濾過した後に凍結乾燥させた。凍結乾燥後、0.45μmの滅菌ろ過用フィルターで滅菌処理し、実験に使用するまで-30℃の冷凍庫で保存した。後述する試験例4についてはこのブランクを含む4種のフィルター由来のヨモギ抽出組成物(ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度が0%、25%、50%、100%によって作成された4種類のフィルターから抽出したヨモギ抽出組成物)を用いた。
【0029】
[試験例2]
<ヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性測定>
単層培養したイヌ腎由来MDCK細胞株にA型インフルエンザウイルスを感染させ、液体培養培地中にヨモギから抽出した組成物を添加し、更に24時間培養後に培養培地の上清を回収した。
Focus forming Reduction Assayにて、回収した上清のウイルス量を測定し、抗ウイルス活性をIC50値(50%阻害増殖濃度 mg/ml)で示した。ヨモギ抽出組成物を、上述の方法によりA型インフルエンザウイルスに感染したイヌ腎由来MDCK細胞に暴露したところ、0.06mg/mlの濃度で抗インフルエンザウイルス活性が確認された(図1)。
また、クロロホルム・メタノールを用いて抽出をおこなったものでは、更に高い抗インフルエンザウイルス効果が確認された(図示せず)。
なお、抗インフルエンザウイルス効果を示す成分として、ポリフェノールの一部が報告されているが(非特許文献1参照)、本発明の発明者らにより、ヨモギのような茶葉の中には抗インフルエンザウイルス効果を示すポリフェノール以外の成分があることが確認された。(非特許文献2参照)。
【0030】
[試験例3]
<焙煎の有無によるヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性比較>
本発明における「焙煎」とは、乾燥させたヨモギを更に120℃で約8時間炒り、加熱乾燥させることをいう。
熱水抽出をおこなう前に、ヨモギの焙煎したものとしていないものそれぞれの抽出組成物を、A型インフルエンザウイルスの感染細胞に暴露したところ、0.25mg/mlの濃度でヨモギ抽出組成物を添加したとき、焙煎の有無に関わらず高い抗インフルエンザウイルス活性を示した。また、焙煎をおこなったヨモギ抽出組成物は焙煎していないものと比較して、抗インフルエンザウイルス活性が上昇する傾向が確認された(図2a、図2b)
以上の結果より、焙煎により抗インフルエンザウイルス活性が上昇することがわかった。
【0031】
[試験例4]
<濃度別ヨモギ抽出組成物を含侵、乾燥させたフィルターから再抽出したフィルター由来ヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性比較>
試験例1におけるフィルター由来ヨモギ抽出組成物4種類の各サンプルをA型インフルエンザウイルスの感染細胞に暴露したところ、抗インフルエンザウイルス活性は、フィルターへの含侵濃度100%のとき最も高いことが確認された(図3a~図3d)。
以下の表1~3は、それぞれフィルターへの含侵濃度0%、25%、50%を基準とした場合のフィルター由来ヨモギ抽出組成物の抗インフルエンザウイルス活性の有意差を示したものである。

表1.ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度0%を基準とした場合の有意差
(p<0.001)

表2.ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度25%を基準とした場合の有意差 (p<0.001)

表3.ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度50%を基準とした場合の有意差 (p<0.01)

ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度0%と比較し、濃度25%、50%、100%では、抗インフルエンザウイルス活性に有意差が認められた。
また、ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度25%と50%では有意差が認められなかったが、25%と100%では有意差が認められた。
さらに、ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度50%と100%でも有意差が認められた。
以上の結果より、ヨモギ抽出組成物のフィルターへの含侵濃度が100%に近いほど抗インフルエンザウイルス活性が高いことが確認された。
今後、インフルエンザウイルス以外のウイルスに対しても、ヨモギ抽出組成物の抗ウイルス作用について検証することを予定している。
【0032】
[実施例]
図4a及び図4bは、本発明の一実施形態である、本体部(2)と耳掛け部(3)とを少なくとも備えたマスク(1)の一例を示す。
図4aは本発明の一実施形態であるマスクの斜視図を示し、図4bは、本発明の一実施形態であるマスクの正面図をそれぞれ表している。
図4c及び図4dに示すように、マスクの本体部(2)は、外側シート(5)と着用者側シート(6)の間にヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルター(4)を挟み込む構造をしている。
【0033】
マスク(1)の本体部(2)に用いられる素材、すなわち外側シート(5)及び着用者側シート(6)、特にヨモギ抽出組成物を含侵させるフィルター(4)に用いられる素材は、ヨモギの抽出組成物を保持させ、その抗ウイルス効果を持続させることが可能であるものが好ましい。不織布、綿、リネン、ポリエステル等特に限定されないが、例えば不織布が好適に用いられる。
本発明で用いた不織布は、液状のヨモギ抽出組成物を満たした槽中に浸漬させながら一定速度で通過させることでヨモギ抽出組成物を含侵させた。フィルターに用いる不織布は、エマルジョンの効果を保てるようにするため、ヨモギ抽出組成物の浸漬は速度SP20でおこない、その後ドライヤー(170℃)で乾燥させたものを用いた。
ヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルター(4)をマスク(1)に用いる際、例えば、マスク本体部(2)の全体又は一部分に縫い込む方法が挙げられるが、これに限定されない。ヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルター(4)の大きさは、少なくとも着用者の鼻及び口を覆うことが可能な部分に適用されていれば良く、少なくともマスクの本体部(2)の面積の3分の1以上、好ましくは、3分の2以上(図4a、図4b、及び図4dの二点鎖線で囲んだ範囲)、更に好ましくは、全体を覆うものが良い。
また、ヨモギ抽出組成物をマスクに用いる以外のフィルターに適用する場合も、マスクに用いたフィルター同様にヨモギ抽出組成物を含浸させる方法の他、フィルター自体に練り込む方法を用いてもよい。これらの方法は本明細書の実施例に限定されず、当業者に自明のものが当然採用される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る抗ウイルス作用を有するヨモギ抽出組成物は、ヒトの皮膚や粘膜へ直接付着するか、ドアノブや手すり等の物体を介して間接的に付着したウイルスを不活化することで感染を予防する。
また、この組成物を使用し作製したマスクは、使用者に対するウイルス感染予防に効果的である他、ウイルス感染者からの飛沫感染の予防にも有効である。
さらに、この組成物を使用し作成したフィルターは、前述のマスク以外にも、飛沫として空気中に飛散したウイルスを捕捉するための空気清浄機やエアコンのフィルター等として利用可能であり、ウイルスの空気感染を予防するための空調管理等にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 マスク
2 本体部
3 耳掛け部
4 ヨモギ抽出組成物を含侵させたフィルター
5 外側シート
6 着用者側シート
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d