(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック製床パネル
(51)【国際特許分類】
E04C 2/22 20060101AFI20221024BHJP
E04C 2/42 20060101ALI20221024BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20221024BHJP
E04F 15/024 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
E04C2/22
E04C2/42 C
E04B5/02 A
E04F15/024 601A
E04F15/024 601G
(21)【出願番号】P 2017184997
(22)【出願日】2017-09-26
【審査請求日】2020-09-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 嵩之
(72)【発明者】
【氏名】池端 正一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 昌信
(72)【発明者】
【氏名】森 俊之
(72)【発明者】
【氏名】岸邉 英伸
(72)【発明者】
【氏名】川越 大樹
(72)【発明者】
【氏名】越智 寛
(72)【発明者】
【氏名】関戸 俊英
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04730428(US,A)
【文献】特開2002-371717(JP,A)
【文献】特開2009-012801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 2/00- 2/54
E04B 5/02
E04F 15/00-15/22
B32B 3/00,3/02,5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突条を有する裏面を含む裏面層と、
前記裏面層の表側に設けられた表面層と、
前記裏面層と前記表面層との間に設けられた中間層とを備え、
前記中間層は、格子状に形成されたリブ部を含む、繊維強化プラスチック製床パネル。
【請求項2】
前記中間層は、前記リブ部間に形成されたコア部をさらに含む、請求項1に記載の繊維強化プラスチック製床パネル。
【請求項3】
前記表面層は、ガラス繊維強化プラスチック又は炭素繊維強化プラスチックを含み、
前記リブ部は、炭素繊維強化プラスチックを含み、
前記コア部は、発泡アクリルを含み、
前記裏面層は、炭素繊維強化プラスチックを含む、請求項2に記載の繊維強化プラスチック製床パネル。
【請求項4】
前記表面層の圧縮弾性係数をE、断面2次モーメントをIとし、前記裏面層の引張強度をσ、断面積をAとし、前記表面層の厚みをh
1
とし、前記裏面層の厚みをh
2
とし、前記表面層及び前記裏面層の幅をbとし、前記リブ部間の幅をL
r
とした時、
前記表面層の座屈荷重は、4×π
2
EI/L
r
2
(ただし、I=bh
1
3
/12)で表されるとともに、
前記裏面層の引張荷重は、σ×A(ただし、A=bh
2
)で表され、4×π
2
EI/L
r
2
>σ×Aである、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製床パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床パネルに関し、特に、繊維強化プラスチック製床パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物の材料として、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)が使用されている。繊維強化プラスチック(FRP)は、安価かつ軽量で、耐久性及び耐荷重性が良好であることから、住宅設備等の建築物において、広く使用されている。
【0003】
建築物に使用される材料には、変形性能が求められる。これは、建築物の構造体に外力が入力された際の構造体のエネルギー吸収量が、力と変形量との積で求められるためである。したがって、構造体のエネルギー吸収量を高めることで、材料の変形性能を高め、建築物の突然の破壊を防ぐことができる。
【0004】
しかしながら、FRP材料は、脆性材料であり塑性域がない。そのため、変形性能の低いFRP材料は、建築物の材料への適用範囲が限定される、という問題があった。
【0005】
そこで、FRPの脆性を補い、建築物の材料への適用範囲を広げるものとして、パネルに、補強部材を組み込んだ床パネルが、例えば、特開平9-170263号公報(特許文献1)に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の床パネルでは、FRP製の略平板状のパネル本体の内部に、周囲に折り返し部が形成された金属板が挟み込まれて、一体的に形成されている。
【0007】
係る床パネルでは、FRP製のパネルの内部に、金属板を挟み込んで一体化した構造とすることにより、FRP製のパネルを補強してその耐荷重性を良好なものとするとともに、長期使用によっても、折り返し部のアンカー効果並びに曲げ強度の向上効果によって、補強材とパネルとが剥離しにくく、かつ耐荷重性を備えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の床パネルでは、別部材として補強金属を組み込むものであって、繊維強化プラスチック(FRP)そのものの脆性的な破壊挙動を改善することについては、全く考慮されていない、という問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、別部材を必要とせず、繊維強化プラスチック(FRP)の脆性的な破壊挙動を改善することができ、建築物の材料への適用範囲を広げることのできる繊維強化プラスチック製床パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る繊維強化プラスチック製床パネルは、裏面に突条を有する、ことを特徴とする。
【0012】
上述のように、線維強化プラスチック(FRP)は、脆性材料であり塑性域がないため、変形性能に乏しい。そのため、例えば、線維強化プラスチックが床パネルに使用される場合、載荷荷重が床パネルに付与されると、通常、荷重が最大荷重に達した後、床パネルの裏面が完全に破断してしまい、荷重はそのまま低下するようになる。
【0013】
上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルによれば、裏面に突条を有するため、繊維強化プラスチック製床パネルに、載荷荷重が付与されると、線維強化プラスチックの繊維束が徐々に破断していく、逐次破壊が生じる。すなわち、載荷荷重の付与に対して、裏面の突条が、逐次破壊の起点となり、裏面の突条が初めに破壊される。そして、荷重が最大荷重に達した後でも、床パネルがある程度の変形性能を有するため、エネルギー吸収量を増加させることによって、床パネルの変形量を増加させることができる。
【0014】
すなわち、床パネルが裏面に突条を有することで、突条に逐次破壊が起こった後に、裏面の破断が起こることになるため、脆性材料でありながら、荷重低下をほとんど起こさずに、床パネルの変形量が増すことになる。
【0015】
その後、突条が完全に破断しても、パネルの裏面は破断を起こしていないため、剛性は低下するが、荷重は低下することなく、変形量がさらに増加していく。やがては、パネルの裏面も破断し、荷重が低下するが、通常の床パネルに比し、荷重が低下するまでの変形量は大きくなっている。
【0016】
その結果、別部材を必要とせず、繊維強化プラスチック材に変形性能を持たせることで、繊維強化プラスチック材の脆性的な破壊挙動を改善することができ、建築材料への適用範囲を広げることができる。
【0017】
また、突条によって裏面に形成された床下空間は、例えば、配管等を配置するスペースとして、活用することができる。
【0018】
本発明の他態様として、前記繊維強化プラスチック製床パネルは、二つの短辺と二つの長辺とで囲まれた四角形状を有し、前記突条は、前記長辺と平行に延びている、のが好ましい。
【0019】
上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルによれば、繊維強化プラスチック製床パネルは、二つの短辺と二つの長辺とで囲まれた四角形状を有し、突条は、長辺と平行に延びているため、載荷荷重が床パネルに付与されると、突条における逐次破壊が、長辺と平行に延びた突条に効率的に生じ、床パネルの長辺方向の脆性破壊を防ぐことができ、突条の逐次破壊が起こった後に、裏面の破断が生じるまでの裏面の長辺方向の変形量をさらに増加させることができる。
【0020】
本発明のさらに他の態様として、前記突条は、間隔をあけて複数個設けられている、のが好ましい。
【0021】
上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルによれば、突条は、間隔をあけて複数個設けられているため、突条における逐次破壊を、床パネルの全体に亘ってより効率的に生じさせることができ、裏面の破断が生じるまでの裏面の変形量をさらに増加させることができ、床パネルの脆性破壊を効率的に防ぐことができる。
【0022】
本発明のさらに別の態様として、前記繊維強化プラスチック製床パネルは、前記裏面を有する前記裏面層と、前記裏面層と間隔をあけて設けられた表面層と、前記裏面層と前記表面層との間に設けられた中間層と、を備え、前記中間層は、格子状に形成されたリブ部と、前記リブ部間に形成されたコア部と、を有する、のが好ましい。
【0023】
上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルは、裏面を有する裏面層と、裏面層と間隔をあけて設けられた表面層と、裏面層と表面層との間に設けられた中間層と、を備え、中間層は、格子状に形成されたリブ部と、リブ部間に形成されたコア部と、を有するため、外曲げ荷重が、表面層から裏面層に向けて付与されると、リブ部及びコア部が、荷重を効率よく吸収するとともに、表面層から裏面層に、荷重を効率よく伝えることができ、床パネルの脆性破壊をさらにより効果的に防ぐことができる。
【0024】
本発明のさらに別の態様として、前記表面層は、ガラス繊維強化プラスチック又は炭素繊維強化プラスチックを含み、前記リブ部は、炭素繊維強化プラスチックを含み、前記コア部は、発泡アクリルを含み、前記裏面層は、炭素繊維強化プラスチックを含む、のが好ましい。
【0025】
上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルによれば、表面層は、ガラス繊維強化プラスチック又は炭素繊維強化プラスチックを含むため、安価かつ軽量で、耐久性及び耐荷重性が良好な床パネルを形成することができる。また、炭素繊維強化プラスチックに比し、ガラス繊維強化プラスチックは安価であるため、さらにコストを削減することができる。また、リブ部は、炭素繊維強化プラスチックを含むため、外曲げ荷重が、表面層から裏面層に向けて付与されると、リブ部が、曲げ荷重を効率よく吸収するとともに、表面層から裏面層に、曲げ荷重を効率よく伝えることができる。また、コア部は、発泡アクリルを含むため、コア部が曲げ荷重をより効率的に吸収するとともに、表面層から裏面層に、曲げ荷重をより効率的に伝えることができる。また、裏面層は、炭素繊維強化プラスチックを含むため、安価かつ軽量で、耐久性及び耐荷重性が良好な床パネルを形成することができる。
【0026】
本発明のさらに別の態様として、前記表面層の圧縮弾性係数をE、断面2次モーメントをIとし、前記裏面層の引張強度をσ、断面積をAとし、前記表面層の厚みをh1とし、前記裏面層の厚みをh2とし、前記表面層及び前記裏面層の幅をbとし、前記リブ部間の幅をLrとした時、前記表面層の座屈荷重は、4×π2EI/Lr
2(ただし、I=bh1
3/12)で表されるとともに、前記裏面層の引張荷重は、σ×A(ただし、A=bh2)で表され、4×π2EI/Lr
2>σ×Aである、のが好ましい。
【0027】
上述のように、炭素繊維強化プラスチックに比し、ガラス繊維強化プラスチックは安価であるため、さらにコストを削減することができる。上記構成の繊維強化プラスチック製床パネルにおいて、表面層の座屈荷重は、4×π2EI/Lr
2(ただし、I=bh1
3/12)で表されるとともに、裏面層の引張荷重は、σ×A(ただし、A=bh2)で表され、4×π2EI/Lr
2>σ×Aであるため、表面層の座屈荷重を、裏面層の引張荷重より大きくすることで、裏面層から逐次破壊を発生させることができ、表面層から破壊されることがない。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の繊維強化プラスチック製床パネルによれば、別部材を必要とせず、繊維強化プラスチック材の脆性的な破壊挙動を改善することができ、建築材料への適用範囲を広げることができる、といった優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルの分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルの比較対象として用いられた建築物の1階用の繊維強化プラスチック製床パネルの概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る建築物の2階用の繊維強化プラスチック製床パネルの概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルの構造性能確認試験で使用される測定装置の概略図である。
【
図6】
図3に示す建築物の1階用の繊維強化プラスチック製床パネルの構造性能確認試験における結果を示す図である。
【
図7】
図3に示す建築物の1階用の繊維強化プラスチック製床パネルの構造性能確認試験における破断状況を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る建築物の2階用の繊維強化プラスチック製床パネルの構造性能確認試験における結果を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る建築物の2階用の繊維強化プラスチック製床パネルの構造性能確認試験における破断状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルの概略について、添付図面を参照して説明する。
【0031】
本実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルは、例えば、住宅、集合住宅、ホテル、ビル、病院、駅等に設置されるためのものである。
【0032】
本実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネルは、繊維強化プラスチック(FRP)を含有する。繊維強化プラスチックは、繊維束をプラスチック(樹脂)の中に入れて強度を向上させた複合材料であり、使用される繊維及び樹脂は、特に限定されない。
【0033】
使用される繊維として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等が挙げられる。なお、本実施形態においては、ガラス繊維又は炭素繊維を用いることが、好ましい。また、使用される樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0034】
図1(a),(b)及び
図2に示すように、本実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネル100は、裏面10aを有する裏面層10と、裏面層10と間隔をあけて設けられた表面層11と、裏面層10と表面層11との間に設けられた中間層12と、を備える。繊維強化プラスチック製床パネル100は、全長Lの長さを有する。
【0035】
表面層11及び裏面層10は、それぞれ、1層で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよいが、ガラス繊維強化プラスチック及び/又は炭素繊維強化プラスチックで形成された層を有していることが好ましい。表面層11及び裏面層10は、例えば、炭素繊維強化プラスチック層とガラス繊維強化プラスチック層とが交互に積層されてもよい。
【0036】
本実施形態において、表面層11は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)又は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含む。
【0037】
本実施形態において、裏面層10は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含む。
【0038】
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に比し、集中荷重に対する耐力が弱い。そのため、GFRPが、CFRPと同程度の耐久性及び耐荷重性を有するために、GFRPの厚みを大きくする必要がある。
【0039】
本実施形態において、表面層11がガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を含む場合、
図1に示すように、表面層11の厚みh
1は、裏面層10の厚みh
2より大きい。例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の厚みが2.4mm程度の場合、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の厚みを5mmとすることで、強度のバランスを取ることができる。
【0040】
本実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネル100は、裏面10aに突条13を有する。本実施形態において、突条13は、直線状に形成されている。
【0041】
突条13は、繊維強化プラスチック製床パネル100の一端100aから他端100bまで連続的に延びるように形成されている。より具体的には、本実施形態において、繊維強化プラスチック製床パネルは、二つの短辺14a,14bと二つの長辺14c,14dとで囲まれた四角形状を有し、突条13は、長辺14c,14dと平行に延びている。
【0042】
突条13は、間隔をあけて複数個設けられている。本実施形態において、突条13は、間隔をあけて二個設けられており、一方の長辺14cに沿って延びる第一の突条13aと、他方の長辺14dに沿って延びる第二の突条13bと、を有する。
【0043】
本実施形態において、突条13a,13bは、短辺14a,14b方向の端部に形成されている。
【0044】
中間層12は、格子状に形成されたリブ部12aと、リブ部12a間に形成されたコア部12bを有する。コア部12bは、発泡アクリル等の発泡体を含む。
【0045】
リブ部12aは、繊維強化プラスチックで形成されていることが好ましく、炭素繊維強化プラスチックで形成されていることがより好ましい。コア部12bは、断熱材を含む。
【0046】
断熱材は、リブ部12aの空隙部に設けられており、断熱性能、遮音性能などを有していることが好ましく、また軽量であることが好ましい。断熱材として、例えば、発泡アクリル等の発泡体が用いられる。
【0047】
なお、表面層11の圧縮弾性係数をE、断面2次モーメントをIとし、裏面層10の引張強度をσ、断面積をAとし、
図1及び
図4に示すように、表面層11の厚みをh
1とし、裏面層10の厚みをh
2とし、表面層11及び裏面層10の幅をbとし、リブ部12a間の幅をL
rとした時、表面層11の座屈荷重は、4×π
2EI/L
r
2(ただし、I=bh
1
3/12)で表されるとともに、裏面層10の引張荷重は、σ×A(ただし、A=bh
2)で表され、4×π
2EI/L
r
2>σ×Aである。
【0048】
すなわち、4×π2Ebh1
3/12Lr
2>σ×bh2であり、表面層11の座屈荷重は、表面層11の厚みh1の3乗に比例する。これにより、強度の観点から、表面層11の圧縮弾性係数Eを高めるより、表面層11の厚みh1を厚くする方が、有効であることが分かる。なお、表面層11の座屈荷重及び裏面層10の引張荷重は、基本的に、繊維強化プラスチック製床パネル100の全長Lを用いて計算されるが、繊維強化プラスチック製床パネル100にリブ部12aを設ける場合、全長Lをリブ部12a間の幅Lrに代えて、計算されることができる。
【0049】
また、裏面層10は、薄い方が好ましく、全体の曲げ強度を低下させないために、裏面層10として、引張強度の高い材質を使用することが好ましい。
【0050】
さらに、中間層12のリブ部12aは、圧縮方向と垂直な方向に配置されることにより、表面層11の座屈荷重及び裏面層10の引張荷重を、リブ部12a間の幅Lrを用いて計算することができるため、表面層11の座屈荷重を大きくすることができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<繊維強化プラスチック製床パネルを用いた実大曲げ試験>
(試験目的)
繊維強化プラスチック製床パネル(以下「床パネル」)の構造耐力性能(自重と積載荷重の保持能力)を、実施品(試験体)による載荷試験により確認する。
【0053】
床パネルとして使用するためには、遮音性能、防耐火性能を初めとした各種の性能確認が必要であるが、本試験は、必要な構造耐力試験のうち最もベーシックな常時荷重に対する強度試験であり、実大試験と剛性・強度設計の相関関係を把握するためのデータを取得することが目的である。
【0054】
(試験体)
試験体として、
図3及び以下の表1に示す幅910mm、長さ1820mmの1階用床パネル200(厚さ100mmで一様)(以下、試験体1F(1)~(3)という)を3枚と、
図4及び以下の表1に示す同じ幅及び長さを有する2階用床パネル100(厚さ50mm+長辺方向の突条付き)(以下、試験体2F(1)~(3)という)3枚と、を用いた。なお、
図3及び
図4においては、便宜上、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製の表面層11等を除いた状態を示している。
【0055】
(試験方法)
図5に示す測定装置を用いて、JIS A 1414‐2「建築用パネルの性能試験方法」に準拠した曲げ試験(スパン1700mm、ロードスパン850mm)を実施し、載荷荷重と変位との確認を行った。具体的には、試験体1F(1)~(3),試験体2F(1)~(3)のそれぞれを、長さLの間隔で配置された支点ローラ上に載置し、載荷梁の上部から、支点ローラより長さL/4離れて配置された加力点ローラを介して、各試験体のそれぞれの中央に、2点曲げ荷重として、設計荷重(固定荷重相当+積載荷重相当)まで荷重を載荷した後に除荷し、その後、最大荷重まで載荷した。なお、変位は、スパン中央部3点、両支点3点ずつの計9点で測定した。試験結果を、以下の表1に示す。なお、試験体として、設計荷重時のたわみが10mm以下、かつ設計荷重時のたわみ/スパン≦1/300のものを採用した。
【0056】
(試験結果)
【0057】
【0058】
(試験体1F(1)~(3)の試験結果)
表1に示すように、試験体1F(1)~(3)では、設計荷重時のたわみが1.87mm~2.03mmであり、設計荷重時のたわみ/スパンが1/909~1/854であった。
【0059】
表1及び
図6に示すように、試験体1F(1)~(3)における最大荷重は、それぞれ、43.4kN,40.3kN及び47.0kNであった。
図6に示すように、初期剛性(
図6中の点線で示す)は、試験体2F(1)~(3)より高いが、載荷荷重が最大荷重に到達した直後に、
図7に示すように、裏面層10(裏面10a)が、完全に破断し、載荷荷重がそのまま低下していることが分かる。
【0060】
(試験体2F(1)~(3)の試験結果)
表1に示すように、試験体2F(1)~(3)では、設計荷重時のたわみが3.43mm~3.65mmであり、設計荷重時のたわみ/スパンが1/496~1/466であった。
【0061】
表1及び
図8に示すように、試験体2F(1)~(3)における最大荷重は、それぞれ、47.6kN,50.5kN及び39.9kNであった。
図8に示すように、初期剛性(
図8中の点線で示す)は、試験体1F(1)~(3)の1/2程度と低いが、靭性および最大荷重は高くなっている。載荷荷重が最大荷重に到達した後に、まず、裏面層10(裏面10a)の突条13で、FRPの繊維束が徐々に破断していく、逐次破壊が生じる。
【0062】
すなわち、載荷荷重の付与に対して、裏面層10(裏面10a)の突条13が、逐次破壊の起点となり、裏面層10(裏面10a)の突条13が初めに破壊される。そして、荷重が最大荷重に達した後でも、試験体2F(1)~(3)(床パネル100)がある程度の変形性能を有するため、エネルギー吸収量を増加させることによって、床パネル100の変形量を増加させることができる。
【0063】
すなわち、床パネル100が裏面層10(裏面10a)に突条13を有することで、突条13に逐次破壊が起こった後に、裏面層10(裏面10a)の破断が起こることになるため、脆性材料でありながら、荷重低下をほとんど起こさずに、床パネル100の変形量が増すことになる。
【0064】
その後、突条13が完全に破断しても、パネルの裏面層10(裏面10a)は破断を起こしていないため、剛性は低下するが、荷重は低下することなく、変形量がさらに増加していく。
図9に示すように、突条13は破断しているが、裏面層10(裏面10a)は一部が破断しているのみであり、変形性能が向上されているのが分かる。
【0065】
やがては、パネルの裏面層10(裏面10a)も破断し、荷重が低下するが、通常(1F(1)~(3))の床パネル200に比し、荷重が低下するまでの変形量は大きく、
図8における荷重変位曲線では、延性材料のような変形挙動を見せている。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る繊維強化プラスチック製床パネル100によれば、床パネルが裏面層10(裏面10a)に突条を有することで、突条13に逐次破壊が起こった後に、裏面層10(裏面10a)の破断が起こることになるため、脆性材料でありながら、荷重低下をほとんど起こさずに、床パネル100の変形量が増すことになる。
【0067】
その後、突条13が完全に破断しても、床パネル100の裏面層10(裏面10a)は破断を起こしていないため、剛性は低下するが、荷重は低下することなく、変形量がさらに増加していく。やがては、床パネル100の裏面層10(裏面10a)も破断し、荷重が低下するが、通常の床パネルに比し、荷重が低下するまでの変形量は大きくなっている。
【0068】
その結果、別部材を必要とせず、繊維強化プラスチック材に変形性能を持たせることで、繊維強化プラスチック材の脆性的な破壊挙動を改善することができ、建築材料への適用範囲を広げることができる。
【0069】
また、突条13によって裏面層10(裏面10a)に形成された床下空間は、例えば、配管等を配置するスペースとして、活用することができる。
【0070】
また、突条13における逐次破壊が直線状に効率的に生じるようになり、突条13の逐次破壊が起こった後に、裏面層10(裏面10a)の破断が生じるまでの裏面層10(裏面10a)の変形量をさらに増加させることができる。
【0071】
また、突条13における逐次破壊が、床パネル100の一端100aから他端100bまで全体に亘ってより効率的に生じるようになり、突条13の逐次破壊が起こった後に、裏面層10(裏面10a)の破断が生じるまでの裏面層10(裏面10a)の変形量をさらにより増加させることができる。
【0072】
また、突条13における逐次破壊が、長辺14c、14dと平行に延びた突条13に効率的に生じ、床パネル100の長辺14c、14d方向の脆性破壊を防ぐことができ、突条13の逐次破壊が起こった後に、裏面層10(裏面10a)が生じるまでの裏面層10(裏面10a)の長辺14c、14d方向の変形量をさらに増加させることができる。
【0073】
また、突条13における逐次破壊を、床パネル100の全体に亘ってより効率的に生じさせることができ、裏面層10(裏面10a)の破断が生じるまでの裏面層10(裏面10a)の変形量をさらに増加させることができ、床パネル100の脆性破壊を効率的に防ぐことができる。
【0074】
また、一方の長辺14cの周辺領域(端部)及び他方の長辺14dの周辺領域(端部)に亘って、突条13における逐次破壊を、より効率的に生じさせることができ、裏面層10(裏面10a)の破断が生じるまでの裏面層10(裏面10a)の長辺14c、14d方向の変形量をさらに増加させることができ、床パネル100の長辺14c、14d方向の脆性破壊をより効率的に防ぐことができる。
【0075】
また、リブ部12a及びコア部12bが、荷重を効率よく吸収するとともに、表面層11から裏面層10に、荷重を効率よく伝えることができ、床パネル100の脆性破壊をさらにより効果的に防ぐことができる。
【0076】
また、表面層11として、ガラス繊維強化プラスチックを使用すると、炭素繊維強化プラスチックに比し、ガラス繊維強化プラスチックは安価であるため、さらにコストを削減することができる。
【0077】
また、リブ部12aが、曲げ荷重を効率よく吸収するとともに、表面層11から裏面層10に、曲げ荷重を効率よく伝えることができる。
【0078】
また、コア部12bが曲げ荷重をより効率的に吸収するとともに、表面層11から裏面層10に、曲げ荷重をより効率的に伝えることができる。
【0079】
また、表面層11の座屈荷重を、裏面層10の引張荷重より大きくすることで、裏面層10から逐次破壊を発生させることができ、表面層11から破壊されることがない。
【0080】
尚、本発明の繊維強化プラスチック製床パネルは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更し得ることは勿論のことである。
【0081】
上記実施形態において、突条13は、直線状に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、曲線状に形成されてもよい。要は、載荷荷重が付与されると、突条13が逐次破壊の起点となり、突条13が破壊された後でも、裏面層10がある程度の変形性能を有し、床パネル100の脆性破壊を防ぐことができるような構成であればよい。
【0082】
上記実施形態において、突条13は、短辺14a,14b方向の端部に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、長辺14c,14d方向の端部に形成されていてもよい。或いは、突条13は、短辺14a,14b方向及び長辺14c,14d方向の端部に形成されていてもよい。要は、突条13は、載荷荷重が付与されると、突条13が逐次破壊の起点となり、突条13が破壊された後でも、裏面層10がある程度の変形性能を有し、床パネル100の脆性破壊を防ぐことができるような構成であればよい。
【0083】
上記実施形態において、繊維強化プラスチック製床パネル100は、二つの短辺14a,14bと二つの長辺14c,14dとで囲まれた四角形状を有しているが、これに限定されるものではない。例えば、繊維強化プラスチック製床パネル100は、円形形状、多角形形状等を有してもよい。
【0084】
その場合、突条13は、載荷荷重が付与されると、突条13が逐次破壊の起点となり、突条13が破壊された後でも、裏面層10がある程度の変形性能を有し、床パネル100の脆性破壊を防ぐことができるような構成であればよい。
【0085】
上記実施形態において、突条13は、長辺14c,14dと平行に延びているが、これに限定されるものではなく、突条13は、短辺14a,14bと平行に延びていてもよい。
【0086】
上記実施形態において、表面層11と裏面層10とは同じFRP材料で形成されてもよく、異なるFRP材料で形成されてもよい。例えば、種類の異なる炭素繊維を用いた複数のCFRP層と、種類の異なるガラス繊維を用いた複数のGFRP層とを有してもよい。表面層11と裏面層10とが異なるFRP材料で形成される場合、GFRP層の厚みが、CFRP層の厚みに比し、大きくすることで、強度のバランスを取ることができる。
【0087】
上記実施形態において、突条は、長辺14c,14dに沿って延びる二個の突条を有するが、これに限定されるものではなく、突条13は、短辺14a,14b及び/又は長辺14c,14dに沿って、1個又は3個以上形成されてもよい。
【0088】
中間層12は、格子状に形成されたリブ部12aを有し、リブ部12aは、その内部にコア部12bを有するが、リブ部12aの形状及び材質は、上記構成に限定されるものではない。
【0089】
要は、リブ部12aは、表面層11からの載荷荷重を効率よく吸収するとともに、表面層11から裏面層10に、載荷荷重を効率よく伝えることができ、床パネル100の脆性破壊をさらにより効果的に防ぐことができるような構成であればよい。また、コア部12bの形状及び材質も同様である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の繊維強化プラスチック製床パネルは、住宅、集合住宅、ホテル、ビル、病院、駅等の建物に配置された床パネルに有効に適用される。
【符号の説明】
【0091】
10 裏面層、10a 裏面、11 表面層、12 中間層、12a リブ部、12b コア部、13 突条、13a 第一の突条、13b 第二の突条、14a,14b 短辺、14c,14d 長辺、100 繊維強化プラスチック製床パネル、100a 一端、100b 他端。