(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】制御装置、制御システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F23N 1/02 20060101AFI20221024BHJP
F23N 5/00 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
F23N1/02 H
F23N5/00 L
(21)【出願番号】P 2018105897
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 修一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 利久
(72)【発明者】
【氏名】横森 剛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 卓也
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-57593(JP,A)
【文献】特開2002-267157(JP,A)
【文献】特開2002-147752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23N 1/02
F23N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分の組成が未知である混合ガスと前記混合ガスと混合される空気との総流量一定、かつ前記混合ガスと前記空気との等量比一定とした場合において、前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する流量算出部と、
前記流量算出部が算出した前記ガス流量に基づいて、ガス配管内を流れる前記混合ガスの流量を制御するガス流量制御部と、
前記混合ガスの成分比を示す
前記混合ガスの密度を測定する測定部が配置される前記ガス配管の経路上の測定位置から、前記ガス配管によって供給される前記混合ガスと空気配管によって供給される前記空気とを前記ガス配管と前記空気配管との接続部において混合するガス空気混合部までの距離に応じた遅れ時間と、前記流量算出部が算出した前記空気流量とに基づいて、前記空気配管内を流れる前記空気の流量を制御する空気流量制御部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記測定位置における前記密度に基づいて前記混合ガスの成分比を算出する成分比算出部をさらに備え、
前記流量算出部は、前記成分比算出部が算出した前記密度が示す前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ガス流量制御部が制御するガス流量調整バルブは、前記ガス配管において前記測定位置の下流に配置されており、
前記空気流量制御部は、前記測定位置から前記ガス流量調整バルブまでの距離に応じた伝達時間
と、前記遅れ時間と、前記流量算出部が算出した前記空気流量とに基づいて前記空気の空気流量を制御する
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記遅れ時間を、前記混合ガスの密度と前記
測定位置から前記ガス空気混合部までの距離とに基づいて算出する遅れ時間算出部
をさらに備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の制御装置と、
前記ガス配管の経路上に配置され、前記ガス配管を流れる前記混合ガスの流量を調整するガス流量調整バルブと、
前記空気配管の経路上に配置され、前記空気配管を流れる前記空気の流量を調整する空気流量調整バルブと
を備える制御システム。
【請求項6】
コンピュータに、
成分の組成が未知である混合ガスと前記混合ガスと混合される空気との総流量一定、かつ前記混合ガスと前記空気との等量比一定とした場合において、前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する流量算出ステップと、
前記流量算出ステップにおいて算出された前記ガス流量に基づいて、ガス配管内を流れる前記混合ガスの流量を制御するガス流量制御ステップと、
前記混合ガスの成分比を示す
前記混合ガスの密度を測定する測定部が配置される前記ガス配管の経路上の測定位置から、前記ガス配管によって供給される前記混合ガスと空気配管によって供給される前記空気とを前記ガス配管と前記空気配管との接続部において混合するガス空気混合部までの距離に応じた遅れ時間と、前記流量算出ステップにおいて算出された前記空気流量とに基づいて、前記空気配管内を流れる前記空気の流量を制御する空気流量制御ステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりにより、より低公害な燃焼を可能とする天然ガスが注目されている。天然ガスは、石油や石炭と比べて炭素/水素比が小さく、1モルの天然ガスを燃焼させたときの二酸化炭素の排出量が少ないことが知られている。また、輸送時に天然ガスを液化する際に、N成分、S成分が除去されるため、燃焼時のNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)の排出量も少ないことが知られている。
【0003】
天然ガスは、主成分はメタンであるが、そのほかにもエタン、プロパンなどの炭化水素などから構成される混合物である。それぞれの成分の比率は産地によって異なることが知られる。天然ガスの熱量は、各成分の存在比率によって決定される。したがって、異なる産地の天然ガスを用いた場合、発生する熱量も異なることになる。
【0004】
通常、天然ガスは、液化されてタンクなどに貯蔵された状態のものが使用される。タンク内の液化天然ガスの量が少なくなり、液化天然ガスの一部が気化すると、タンクの上部では比重の小さいメタンが多く存在しやすく、下部では比重の大きいプロパンが多く存在しやすくなることがある。このようなタンクから天然ガスを流出させる際、タンク内の液化天然ガスの量が少なくなると、気化した天然ガスに生じる対流が顕著になる。このようにタンク内部で天然ガスが対流する場合、天然ガスの組成が周期的に変化することがあった。その場合、天然ガスの組成比の変化に伴って、天然ガスの熱量が周期的に変化することがあった。これにより、熱量が急激に変化して火炎が長くなったり、失火したりすることが想定される。
連続運転している燃焼器において、天然ガスの熱量の周期的変動を抑制できる燃焼制御方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃焼に用いられる混合ガスの成分の組成が未知である場合がある。例えば、天然ガスがそれぞれ異なるタンクに貯蔵されて、一方のタンクから他方のタンクに切り替えて使用される際に、それぞれのタンクに貯蔵される天然ガスは、産地の異なる天然ガスが混ざっている場合があり、燃料組成が異なり得る。そのため、タンクの切り替えに伴い、天然ガスの燃料組成が変化する場合がある。その結果、天然ガスの燃料組成が変化し燃料組成が未知となり、安定して燃焼できない場合があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、成分の組成が未知である混合ガスを安定して燃焼させることができる制御装置、制御システム、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、成分の組成が未知である混合ガスと前記混合ガスと混合される空気との総流量一定、かつ前記混合ガスと前記空気との等量比一定とした場合において、前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する流量算出部と、前記流量算出部が算出した前記ガス流量に基づいて、ガス配管内を流れる前記混合ガスの流量を制御するガス流量制御部と、前記混合ガスの成分比を示す前記混合ガスの密度を測定する測定部が配置される前記ガス配管の経路上の測定位置から、前記ガス配管によって供給される前記混合ガスと空気配管によって供給される前記空気とを前記ガス配管と前記空気配管との接続部において混合するガス空気混合部までの距離に応じた遅れ時間と、前記流量算出部が算出した前記空気流量とに基づいて、前記空気配管内を流れる前記空気の流量を制御する空気流量制御部と、を備える制御装置である。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記の制御装置において、前記測定位置における前記密度に基づいて前記混合ガスの成分比を算出する成分比算出部をさらに備え、前記流量算出部は、前記成分比算出部が算出した前記密度が示す前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記の制御装置において、前記ガス流量制御部が制御するガス流量調整バルブは、前記ガス配管において前記測定位置の下流に配置されており、前記空気流量制御部は、前記測定位置から前記ガス流量調整バルブまでの距離に応じた伝達時間と、前記遅れ時間と、前記流量算出部が算出した前記空気流量とに基づいて前記空気の空気流量を制御する。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記の制御装置において、前記遅れ時間を、前記混合ガスの密度と前記測定位置から前記ガス空気混合部までの距離とに基づいて算出する遅れ時間算出部をさらに備える。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記の制御装置と、前記ガス配管の経路上に配置され、前記ガス配管を流れる前記混合ガスの流量を調整するガス流量調整バルブと、前記空気配管の経路上に配置され、前記空気配管を流れる前記空気の流量を調整する空気流量調整バルブとを備える制御システムである。
【0013】
また、本発明の一態様は、コンピュータに、成分の組成が未知である混合ガスと前記混合ガスと混合される空気との総流量一定、かつ前記混合ガスと前記空気との等量比一定とした場合において、前記混合ガスの成分比に基づいて、前記混合ガスのガス流量と前記空気の空気流量と、を算出する流量算出ステップと、前記流量算出ステップにおいて算出された前記ガス流量に基づいて、ガス配管内を流れる前記混合ガスの流量を制御するガス流量制御ステップと、前記混合ガスの成分比を示す前記混合ガスの密度を測定する測定部が配置される前記ガス配管の経路上の測定位置から、前記ガス配管によって供給される前記混合ガスと空気配管によって供給される前記空気とを前記ガス配管と前記空気配管との接続部において混合するガス空気混合部までの距離に応じた遅れ時間と、前記流量算出部が算出した前記空気流量とに基づいて、前記空気配管内を流れる前記空気の流量を制御する空気流量制御ステップと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成分の組成が未知である混合ガスを安定して燃焼させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御システムの一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る制御装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る3種類の気体からなる燃料の模擬燃料供給系の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る火炎高さの一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る模擬燃料ガスの成分比の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る模擬燃料ガスに含まれる各気体の流量の変化の方法の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る燃料流量一定条件の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る当量比一定条件の一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る遅れ時間の算出方法の一例を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るメタンの体積分率とガス密度計の出力値との関係の一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るガスマスフローコントローラーの補正値とメタンの体積分率との関係の一例を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るガス密度計を用いた燃料組成切り替え条件における各種変数の時間変化の一例を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る各条件における実験結果の一例を示す図である。
【
図14】本実施形態との比較のための当量比一定条件における実験結果の一例を示す図である。
【
図15】本実施形態との比較のための燃料流量一定条件における実験結果の一例を示す図である。
【
図16】本実施形態との比較のための空気流量制御における実験結果の第1の例を示す図である。
【
図17】本実施形態との比較のための燃料流量制御における実験結果の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る制御システムSの一例を示す図である。制御システムSは、天然ガス供給系R1と、ガス密度計3と、ガスマスフローコントローラー(MFC)4と、信号変換器5と、コンプレッサ6と、バルブV1と、空気マスフローコントローラー7と、制御装置8と、AD/DA変換ボード9と、バーナ10と、ガス配管GP1と、ガス配管GP2と、ガス配管GP3と、空気配管APとを備える。
【0017】
天然ガス供給系R1は、制御システムSに天然ガスG0を供給する。天然ガス供給系R1は、ガスタンク1と、ガスタンク2と、バルブV11と、バルブV12と、ガス配管GP0とを備える。天然ガス供給系R1は、ガス配管GP1を介してガス密度計3に接続される。
【0018】
ガスタンク1は、第1の天然ガスを貯蔵する。バルブV11は、ガスタンク1とガス配管GP0との間に設けられる。バルブV11は、第1の天然ガスをガスタンク1からガス配管GP0へ一定の圧力において流入させる。
ガスタンク2は、第2の天然ガスを貯蔵する。ここで第2の天然ガスの組成比と、第1の天然ガスの組成比とは異なる。バルブV12は、ガスタンク2とガス配管GP0との間に設けられる。バルブV12は、第2の天然ガスをガスタンク2からガス配管GP0へ一定の圧力において流入させる。
バルブV11及びバルブV12は減圧弁である。
【0019】
天然ガスG0は、ガスタンク1またはガスタンク2から供給される。天然ガスG0は、ガスタンク1から供給される第1の天然ガス、または、ガスタンク2から供給される第2の天然ガス、または、ガスタンク1から供給される第1の天然ガスと、ガスタンク2から供給される第2の天然ガスとの混合ガスである。
ガス配管GP0は、位置Pを介してガス配管GP1に接続される。
以下では、天然ガスG0を、天然ガスG0が通るガス配管に応じて密度測定前ガスG1、密度測定後ガスG2、及び流量調整後ガスG3のように名称を変えて区別することがある。
【0020】
ガス密度計3は、ガス配管GP1から流入する密度測定前ガスG1の密度を測定する。ここで密度測定前ガスG1は、天然ガス供給系R1から供給される天然ガスG0である。
ガス密度計3は、一例として、振動式ガス密度計である。ガス密度計3には、薄肉円筒振動子(レゾネータ)が内蔵されており、その共振周波数は周囲を流れる密度測定前ガスG1の密度に依存して変化する。ガス密度計3は、この共振周波数を測定することにより密度測定前ガスG1の密度を測定する。
【0021】
ガス密度計3は、ガス配管GP2を介してガスマスフローコントローラー4に接続される。密度測定前ガスG1は、ガス密度計3により密度が測定され密度測定後ガスG2としてガスマスフローコントローラー4に流入する。密度測定後ガスG2が、ガス配管GP2を通ってガス密度計3からガスマスフローコントローラー4へ到達するのにかかる時間を伝達時間ttという。つまり、伝達時間ttとは、ガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置からガスマスフローコントローラー4までの距離に応じた時間である。
【0022】
一方、ガス密度計3は、出入力信号用の配線により信号変換器5に接続される。ガス密度計3は、測定した密度の値を示す電流を信号変換器5に出力する。
【0023】
ガスマスフローコントローラー4は、制御装置8の制御に基づいて密度測定後ガスG2の流量を制御する。ガスマスフローコントローラー4は、ガス配管の経路上に配置され、ガス配管を流れる天然ガスG0の流量を調整するバルブである。ガスマスフローコントローラー4は、ガス密度計3の下流に配置される。
ガスマスフローコントローラー4は、AD/DA変換ボード9を介して制御装置8により制御される。ガスマスフローコントローラー4は、出入力信号用の配線によりAD/DA変換ボード9に接続される。
【0024】
ガスマスフローコントローラー4は、ガス配管GP3を介して合流点βに接続される。密度測定後ガスG2は、ガスマスフローコントローラー4により流量を制御され流量調整後ガスG3として合流点βに流入する。流量調整後ガスG3が、ガス配管GP3を通ってガスマスフローコントローラー4から合流点βへ到達するのにかかる時間を遅れ時間tdという。また、ガス配管GP3の長さを長さLとする。長さLは、ガスマスフローコントローラー4から合流点βまでの距離に等しい。
【0025】
信号変換器5は、ガス密度計3が出力する電流の値を、電圧の値に変換する。信号変換器5は、変換した電圧の値をAD/DA変換ボード9に供給する。信号変換器5は、出入力信号用の配線によりAD/DA変換ボード9に接続される。
【0026】
コンプレッサ6は、空気ARを、バルブV1及び空気マスフローコントローラー7を介して合流点βに供給する。バルブV1は、コンプレッサ6と空気マスフローコントローラー7との間に設けられる。バルブV1は、空気ARをコンプレッサ6から空気マスフローコントローラー7へ一定の圧力において流入させる。バルブV1は減圧弁である。
【0027】
空気マスフローコントローラー7は、制御装置8の制御に基づいて空気ARの流量を制御する。空気マスフローコントローラー7は、空気配管APの経路上に配置され、空気配管APを流れる空気ARの流量を調整するバルブである。空気マスフローコントローラー7は、空気配管APを介して合流点βに接続される。空気マスフローコントローラー7により流量を制御された空気ARは、合流点βに流入する。
空気マスフローコントローラー7は、出入力信号用の配線によりAD/DA変換ボード9に接続される。
【0028】
制御装置8は、AD/DA変換ボード9を介して、ガスマスフローコントローラー4、及び空気マスフローコントローラー7を制御する。つまり制御装置8は、ガスマスフローコントローラー4から流出する流量調整後ガスG3の流量、及び空気マスフローコントローラー7から流出する空気ARの流量を制御する。
制御装置8は、出入力信号用の配線によりAD/DA変換ボード9に接続される。制御装置8は、一例として、PC(Personal Computer)である。
【0029】
AD/DA変換ボード9は、ガス密度計3が供給する密度測定前ガスG1の密度の値を、信号変換器5を介して取得する。AD/DA変換ボード9は、取得した密度測定前ガスG1の密度の値を制御装置8に供給する。
AD/DA変換ボード9は、制御装置8の制御に基づいて、ガスマスフローコントローラー4を制御するための制御信号を、出入力信号用の配線を介してガスマスフローコントローラー4に供給する。
AD/DA変換ボード9は、制御装置8の制御に基づいて、空気マスフローコントローラー7を制御するための制御信号を、出入力信号用の配線を介して空気マスフローコントローラー7に供給する。
【0030】
バーナ10は、合流点βから流入する空気混合ガスG4を燃焼させ、火炎を形成する。ここで空気混合ガスG4は、ガス配管GP3を通った流量調整後ガスG3と、空気配管APを通った空気ARとが混合されたガスである。
【0031】
次に、
図2を参照し制御装置8の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る制御装置8の構成の一例を示す図である。制御装置8は、密度取得部80と、成分比算出部81と、流量算出部82と、ガス流量制御部83と、遅れ時間算出部84と、記憶部85と、空気流量制御部86とを備える。
【0032】
密度取得部80は、ガス密度計3が測定した密度測定後ガスG2の密度の値を取得する。ここで密度取得部80は、信号変換器5及びAD/DA変換ボード9を介して密度測定後ガスG2の密度の値を取得する。ただし、
図2においては、信号変換器5及びAD/DA変換ボード9は省略されている。
密度取得部80は、取得した密度測定後ガスG2の密度の値を成分比算出部81に供給する。また、密度取得部80は、取得した密度測定後ガスG2の密度の値を遅れ時間算出部84に供給する。
【0033】
成分比算出部81は、密度取得部80が取得した密度測定後ガスG2の密度の値から、密度測定後ガスG2の成分比を算出する。成分比算出部81は、算出した密度測定後ガスG2の成分比を流量算出部82に供給する。
【0034】
ここで密度取得部80が取得した密度測定後ガスG2の密度の値とは、ガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置における天然ガスG0の密度の値である。したがって、成分比算出部81は、天然ガスG0の成分比を示す密度を測定するガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置における天然ガスG0の密度に基づいて混合ガスの成分比を算出する。
【0035】
流量算出部82は、成分比算出部81が算出した密度測定後ガスG2の成分比に基づいて、ガスマスフローコントローラー4から流出する流量調整後ガスG3のガス流量と空気ARの空気流量とを算出する。ここで流量算出部82は、流量調整後ガスG3と空気ARとの総流量一定、かつ流量調整後ガスG3と空気ARとの等量比一定とした場合において、流量調整後ガスG3のガス流量と空気ARの空気流量とを算出する。
流量算出部82は、算出したガス流量を示すガス流量情報をガス流量制御部83に供給する。また、流量算出部82は、算出した空気流量を示す空気流量情報を空気流量制御部86に供給する。
【0036】
ここで流量調整後ガスG3と空気ARとの総流量一定とは、合流点βに流入する流量調整後ガスG3の流量と、合流点βに流入する空気ARとの流量とがそれぞれ一定であるという条件である。つまり、流量調整後ガスG3と空気ARとの総流量一定とは、合流点βから流出する空気混合ガスG4の流量が一定である条件である。
また流量調整後ガスG3と空気ARとの等量比一定とは、流量調整後ガスG3および空気ARの体積比を、理論混合比における燃料および空気の体積比で除した値を指し、式(1)により表される。
【0037】
【0038】
ここでQfuelは流量調整後ガスG3の体積を表し、Qairは空気ARの体積を表す。また、量論燃空比(F/A)stは、理論混合比における燃料および空気の体積比を表す。
流量調整後ガスG3と空気ARとの等量比一定とは、合流点βから流出する空気混合ガスG4の等量比が一定である条件である。
【0039】
上述したように、流量算出部82は、成分の組成が未知である天然ガスG0と、天然ガスG0と混合される空気ARとの総流量一定、かつ天然ガスG0と空気ARとの等量比一定とした場合において、天然ガスG0の成分比に基づいて、天然ガスG0のガス流量と空気ARの空気流量とを算出する。ここで天然ガスG0の成分比は、成分比算出部81が算出した天然ガスG0の密度が示す成分比である。したがって、流量算出部82は、成分比算出部81が算出した天然ガスG0の密度が示す天然ガスG0の成分比に基づいて、天然ガスG0のガス流量と空気ARの空気流量とを算出する。
【0040】
ガス流量制御部83は、ガス流量制御部83が供給するガス流量情報に基づいて、ガスマスフローコントローラー4を制御する。ガス流量制御部83は、ガスマスフローコントローラー4を制御することにより流量調整後ガスG3の流量を制御する。ここでガス流量制御部83は、AD/DA変換ボード9を介して、流量調整後ガスG3の流量を制御するための信号をガスマスフローコントローラー4に供給する。
上述したように、ガス流量制御部83は、流量算出部82が算出したガス流量に基づいて、ガス配管GP3内を流れる天然ガスG0の流量を制御する。
【0041】
遅れ時間算出部84は、ガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置から合流点βまでの距離に応じた遅れ時間TDTを算出する。遅れ時間TDTは、密度測定後ガスG2がガス密度計3からガス配管GP2を通ってガスマスフローコントローラー4へと流入し、ガスマスフローコントローラー4から流量調整後ガスG3として流出し、ガス配管GP3を通って合流点βへ到達するのにかかる時間である。したがって、遅れ時間TDTは、伝達時間ttと、遅れ時間tdとを加算した時間に等しい。
遅れ時間算出部84は、伝達時間ttと遅れ時間tdとをそれぞれ算出して、算出した伝達時間ttと遅れ時間tdとを加算し遅れ時間TDTとしてもよい。
【0042】
ここでは、遅れ時間算出部84が、遅れ時間TDTを算出するのに、予め算出された初期遅れ時間TDT0を補正するための補正値を算出する例を説明する。
遅れ時間算出部84は、密度取得部80が供給する密度測定後ガスG2の密度の値を取得する。遅れ時間算出部84は、記憶部85から遅れ時間情報850を取得する。ここで遅れ時間情報850とは、初期遅れ時間TDT0を示す情報である。初期遅れ時間td0は、ガス配管GP2の長さ、及びガス配管GP3の長さ(長さL)に応じて予め算出された遅れ時間TDTの値である。
【0043】
遅れ時間算出部84は、遅れ時間情報850が示す初期遅れ時間TDT0を、取得した密度測定後ガスG2の密度の値に基づいて補正することにより、遅れ時間TDTを算出する。つまり、遅れ時間算出部84は、予め算出された初期遅れ時間TDT0を補正するための補正値を算出する。
【0044】
ここで初期遅れ時間TDT0は、ガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、合流点βまでの距離に基づいて算出される時間である。したがって、遅れ時間算出部84は、遅れ時間TDTを、天然ガスG0の密度と、ガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、合流点βまでの距離とに基づいて算出する。
遅れ時間算出部84は、算出した遅れ時間TDTを空気流量制御部86に供給する。
記憶部85は、遅れ時間情報850を記憶する。
【0045】
空気流量制御部86は、遅れ時間算出部84が算出した遅れ時間TDTと、流量算出部82が算出した空気ARの空気流量とに基づいて空気配管AP内を流れる空気ARの流量を制御する。
【0046】
ここで遅れ時間算出部84が算出した遅れ時間TDTとは、密度測定後ガスG2の成分比を示す密度を測定するガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、ガス配管GP3によって供給される流量調整後ガスG3と空気配管APによって供給される空気ARとをガス配管GP3と空気配管APとの接続部において混合する合流点βまでの距離に応じた時間である。
したがって、空気流量制御部86は、天然ガスG0の成分比を示す物理量を測定するガス密度計3が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、ガス配管によって供給される天然ガスG0と空気配管によって供給される空気ARとをガス配管と空気配管APとの接続部において混合する合流点βまでの距離に応じた遅れ時間TDTと、流量算出部82が算出した空気流量とに基づいて、空気配管AP内を流れる空気ARの流量を制御する。ここで天然ガスG0の成分比を示す物理量とは、混合ガスの密度である。
【0047】
また、空気流量制御部86は、遅れ時間算出部84が算出した伝達時間ttに基づいて空気ARの空気流量を制御してもよい。ここで空気流量制御部86は、遅れ時間tdに加えて、伝達時間ttに基づいて空気ARの空気流量を制御してもよいし、伝達時間ttのみに基づいて空気ARの空気流量を制御してもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、遅れ時間算出部84が、予め算出された初期遅れ時間td0を補正するための補正値を算出する場合を一例として説明したが、これに限らない。遅れ時間算出部84は、密度測定後ガスG2の密度の値に基づいて遅れ時間TDTを算出してもよい。遅れ時間算出部84が、密度測定後ガスG2の密度の値に基づいて遅れ時間TDTを算出する場合、記憶部85に遅れ時間情報850は記憶されなくてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、密度取得部80が取得する混合ガスの密度の値が、ガス密度計3により測定される場合について説明するが、これに限らない。密度取得部80が取得する混合ガスの密度の値は、例えば、レーザを用いた光学式の方法や、ガスクロマトグラフィなどにより測定されてもよい。
【0050】
以下では、制御システムSの効果を説明するために、制御システムSが天然ガス供給系R1の代わりに、模擬燃料供給系R2を備え、成分比が既知である混合ガスの流量を制御する場合について説明する。
【0051】
図3は、本実施形態に係る3種類の気体からなる燃料の模擬燃料供給系R2の一例を示す図である。模擬燃料供給系R2は位置Pにおいて
図1に示した制御システムSに接続され、制御システムSに模擬燃料ガスG10を供給する。ここで模擬燃料ガスG10は、天然ガスを模擬するための混合ガスでありメタン、エタン、及びプロパンを含む。天然ガスの燃焼特性は、メタン、エタン、及びプロパンの3種類の混合ガスの燃焼特性とほぼ同様であることが知られている。模擬燃料ガスG10の成分比は既知である。模擬燃料ガスG10の成分比については
図5を参照し後述する。
【0052】
模擬燃料供給系R2は、メタンシリンダーC1、エタンシリンダーC2、及びプロパンシリンダーC3と、バルブV21、バルブV22、及びバルブV23と、ガスマスフローコントローラー21、ガスマスフローコントローラー22、及びガスマスフローコントローラー23と、バルブV3と、ガス配管GP10とを備える。
【0053】
メタンシリンダーC1は、メタンを貯蔵する。バルブV21は、メタンシリンダーC1とガスマスフローコントローラー21との間に設けられる。バルブV21は、メタンをメタンシリンダーC1からガスマスフローコントローラー21へ一定の圧力において流入させる。
エタンシリンダーC2は、エタンを貯蔵する。バルブV22は、エタンシリンダーC2とガスマスフローコントローラー22との間に設けられる。バルブV22は、エタンをエタンシリンダーC2からガスマスフローコントローラー22へ一定の圧力において流入させる。
プロパンシリンダーC3は、プロパンを貯蔵する。バルブV23は、プロパンシリンダーC3とガスマスフローコントローラー23との間に設けられる。バルブV23は、プロパンをプロパンシリンダーC3からガスマスフローコントローラー23へ一定の圧力において流入させる。
【0054】
ガスマスフローコントローラー21は、メタンの流量を制御する。ガスマスフローコントローラー22は、エタンの流量を制御する。ガスマスフローコントローラー23は、プロパンの流量を制御する。ガスマスフローコントローラー21、ガスマスフローコントローラー22、及びガスマスフローコントローラー23は、AD/DA変換ボード9を介して制御装置8により制御される。
【0055】
ガスマスフローコントローラー21から供給されるメタン、ガスマスフローコントローラー22から供給されるエタン、及びガスマスフローコントローラー23から供給されるプロパンの各気体は、合流点αにおいて合流し混合される。混合された各気体は、模擬燃料ガスG10としてガス配管GP10を通って位置Pへと流入する。
【0056】
バルブV3は、外気につながる流路に設置される。バルブV3は、ガスマスフローコントローラー21から供給されるメタン、ガスマスフローコントローラー22が供給するエタン、及びガスマスフローコントローラー23が供給するプロパンの流量に依存せずに模擬燃料ガスG10の流量を制御するためのバルブである。
【0057】
本実施形態においては、バーナ10において形成される火炎の安定性を調べるために火炎高さHを測定する。ここで
図4を参照し、火炎高さHについて説明する。
図4は、本実施形態に係る火炎高さHの一例を示す図である。火炎高さHは、バーナ10の出口から火炎の先端までの高さである。火炎高さHは、例えば、火炎の挙動を、イメージインテンシファイアを取り付けた高速度カメラを用いて撮影することにより測定される。
【0058】
次に模擬燃料ガスG10の成分比について説明する。
図5は、本実施形態に係る模擬燃料ガスG10の成分比の一例を示す図である。本実施形態では、メタン、エタン、及びプロパンの異なる5種類の成分比の模擬燃料ガスG10を用いる。ただし、以下では模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する場合を例にとって説明する。
【0059】
模擬燃料ガスG10に含まれる各気体の流量の変化の方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る模擬燃料ガスG10に含まれる各気体の流量の変化の方法の一例を示す図である。本実施形態では、ガスマスフローコントローラー21、ガスマスフローコントローラー22、ガスマスフローコントローラー23、及び空気マスフローコントローラー7を用いて、メタン、エタン、プロパン、及び空気ARの流量を制御し、模擬燃料ガスG10の成分比の過渡的な変化を実現する。
【0060】
模擬燃料ガスG10をある成分比から別の成分比へと切り替える際に、模擬燃料ガスG10に含まれる各気体の流量を線形に変化させた。ここで切り替えに要する時間を遷移時間tvとした。
制御装置8は、20msごとにガスマスフローコントローラー21、ガスマスフローコントローラー22、ガスマスフローコントローラー23、及び空気マスフローコントローラー7へ流量を制御するための信号を供給し、各気体の流量の切り替えを行う。
【0061】
次に
図7及び
図8を参照し、模擬燃料ガスG10の成分比の過渡的な変化における模擬燃料ガスG10及び空気の流量についての条件について説明する。
図7は、本実施形態に係る燃料流量一定条件の一例を示す図である。ここで総流量とは、模擬燃料ガスG10の流量と、空気ARの流量との合計である。燃料流量一定条件においては、模擬燃料ガスG10の流量、及び空気ARの流量を一定に保ち、模擬燃料ガスG10の成分比の切り替えが行われる。本実施形態の総流量は、一例として、バーナ10の出口における空気混合ガスG4の平均流速が0.8m/sとなる流量である。
【0062】
図8は、本実施形態に係る当量比一定条件の一例を示す図である。当量比一定条件においては、当量比が一定値となるように模擬燃料ガスG10の成分比の切り替えが行われる。本実施形態の当量比一定条件では、当量比は、一例として0.85の一定値である。
【0063】
本実施形態の制御システムSでは、空気流量は遅れ時間TDTに基づいて算出される。制御システムSとは異なり、遅れ時間TDTに基づかずに空気流量が算出される場合、火炎高さHに時間変動やオーバーシュートが生じる。
ここで流量の変化は圧力伝搬により伝達する。したがって、流量の変化は音速で伝達する。一方、成分比の変化は対流速度において伝達する。流量の変化が伝搬する速度よりも、成分比の変化が伝達する速度の方が遅い。制御システムSにおいては、燃料流量の制御において、流量の変化の伝達にかかる時間は無視できる程度に短いが、成分比の変化の伝達に係る時間は無視できない程度に長い。火炎高さHにオーバーシュートが生じるのは、成分比の変化が生じた位置から合流点βまでの長さに応じて遅れ時間TDTが生じるためであると考えられる。
【0064】
本実施形態との比較のために
図14及び
図15を参照し、遅れ時間TDTに基づかずに空気流量が算出される場合の実験結果について説明する。
図14及び
図15では、合流点αにおける燃料流量、合流点βにおける燃料流量、空気流量、及び合流点βにおける当量比を示すグラフがそれぞれ示されている。ここで燃料流量とは、模擬燃料ガスG10の流量である。
【0065】
図14は、本実施形態との比較のための当量比一定条件における実験結果の一例を示す図である。
図14の例では、当量比一定条件において、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する。
【0066】
まず、合流点αにおいて模擬燃料ガスG10の成分比の変化、及び燃料流量の変化が遷移時間tvだけ生じる(時刻t11~時刻t12)。合流点αにおいて模擬燃料ガスG10の成分比の変化、及び燃料流量の変化が生じると、同時に空気流量が変化する(時刻t11~時刻t12)。
しかし、合流点βでは燃料流量は瞬時に変化する(時刻t11~時刻t12)が、成分比の変化が合流点αから合流点βに到達するまでには、模擬燃料ガスG10の流路の長さに応じた遅れ時間td(時刻t11~時刻t13)だけかかる。
したがって、成分比種類Aの模擬燃料ガスG10が、成分比種類Eの模擬燃料ガスG10に合わせた想定より小さい流量において流れることになり、当量比が当量比一定条件の想定よりも小さくなる。当量比が当量比一定条件の想定よりも小さくなるため、火炎高さHにオーバーシュートが生じると考えられる。
【0067】
図15は、本実施形態との比較のための燃料流量一定条件における実験結果の一例を示す図である。
図15の例では、燃料流量一定条件において、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する(時刻t21~時刻t22)。なお、燃料流量一定条件においては、空気流量は一定である。
まず、合流点αにおいて模擬燃料ガスG10の成分比の変化が遷移時間t
vだけ生じる。ここで模擬燃料ガスG10の成分比は、成分比種類Aが線形に減少し成分比種類Eが線形に増加することにより、成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する。合流点αにおいて模擬燃料ガスG10の成分比の変化が遷移時間t
vだけ生じると、合流点βでは模擬燃料ガスG10の成分比の変化は、遅れ時間t
d後に遷移時間t
vだけ生じる(時刻t23~時刻t24)。
【0068】
燃料流量一定条件では、空気流量の変化及び燃料流量の変化が生じないため、遅れ時間tdによる当量比の変化は生じず、バーナ10の出口に成分比の変化が到達する時刻が変化する。燃料流量一定条件では、火炎高さHの変化の大きさは、模擬燃料ガスG10の流路の長さに依存せず、流路の長さに応じて変化の開始時刻が異なる。
【0069】
次に
図16及び
図17を参照し、遅れ時間t
dを考慮し、合流点βにおける模擬燃料ガスG10の当量比を一定に保つ場合の実験結果について説明する。
図16は、本実施形態との比較のための空気流量制御における実験結果の第1の例を示す図である。
図16の例では、当量比一定条件において、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する(時刻t31~時刻t32)。ただし、
図16の例では、模擬燃料ガスG10の成分比の変化において模擬燃料ガスG10の燃料流量は、当量比一定条件において想定されるより小さい値となる。
【0070】
燃料流量が、当量比一定条件において想定されるより小さいため、空気流量が遅れ時間t
dの間だけ一時的に減少するよう制御されている。したがって、当量比は一定に保たれているが、総流量は一時的に減少する(時刻t31~時刻t34)。なお、
図16の例では、総流量は、模擬燃料ガスG10の成分比の変化の前後において、バーナ10の出口における空気混合ガスG4の平均流速が0.8m/sとなるように制御されている。
【0071】
図17は、本実施形態との比較のための燃料流量制御における実験結果の第2の例を示す図である。
図17の例では、当量比一定条件において、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する(時刻t41~時刻t42)。
合流点αにおける模擬燃料ガスG10の成分比の変化が生じてから遅れ時間t
dだけ経過するまでの間、燃料流量は成分比種類Aに対応する値に保たれる。これにより、合流点βに成分比の変化が到達するまで燃料流量は変化しない(時刻t41~時刻t43)。空気流量についても、合流点βに成分比の変化が到達するまで変化しない(時刻t41~時刻t43)。したがって、
図17の例では、当量比及び総流量が一定に保たれている。ここで総流量は、バーナ10の出口における空気混合ガスG4の平均流速が0.8m/sとなるように制御されている。
【0072】
図16及び
図17における遅れ時間t
dに基づく制御では、合流点αから合流点βまでの流路の長さLに応じた遅れ時間t
dを算出する必要がある。ここで
図9を参照し遅れ時間t
dの算出方法について説明する。
図9は、本実施形態に係る遅れ時間の算出方法の一例を示す図である。遅れ時間t
dは燃料流量に依存する。ここで、燃料流量は時間変化するため、遅れ時間t
dも時間変化する。そこで遅れ時間t
dに対応する模擬燃料ガスG10の容積を容積Vd(t)とすると、容積Vd(t)は式(2)を用いて表される。
【0073】
【0074】
ここで面積Achannelは合流点αから合流点βまでの流路の断面積である。一方、容積Vd(t)は、式(3)を用いて表すことができる。
【0075】
【0076】
ここで流量Q
fuel(t)は燃料流量である。したがって、式(2)及び式(3)から容積Vd(t)を消去し得られる遅れ時間t
dについての方程式を解くことにより、遅れ時間t
dが算出される。ただし、式(3)の積分は、
図9のように時間、及び流量Q
fuel(t)を離散値として扱い演算される。
【0077】
次に、
図10及び
図11を参照し、ガス密度計3により模擬燃料ガスG10の密度を測定し、制御装置8が模擬燃料ガスG10の成分比の変化を検出し、流量を制御する方法について説明する。
図10は、本実施形態に係るメタンの体積分率とガス密度計3の出力値との関係の一例を示す図である。グラフGR1は、定常状態における所定の模擬燃料ガスG10の成分比に対しての、メタンの体積分率とガス密度計3の出力値との関係を示す。
【0078】
定常状態における所定の模擬燃料ガスG10の成分比においては、メタンの体積分率毎に、メタンの体積分率とエタンの体積分率とプロパンの体積分率とが組になっている。ただし、定常状態における所定の模擬燃料ガスG10の成分比においては、エタンの体積分率とプロパンの体積分率との比率は、メタンの体積分率によらず5対1とした。
【0079】
グラフGR1から、メタンの体積分率とガス密度計3の出力値とは、該線形となっている。したがって、グラフGR1からガス密度計3の出力値からメタンの体積分率を算出することができる。さらに、メタンの体積分率から、定常状態における所定の模擬燃料ガスG10の成分比を用いて、模擬燃料ガスG10の成分比を算出することができる。
【0080】
次に、
図11を参照し模擬燃料ガスG10の成分比と、ガスマスフローコントローラー4が出力する気体の流量の関係について説明する。
【0081】
図11は、本実施形態に係るガスマスフローコントローラー4の補正値とメタンの体積分率との関係の一例を示す図である。ガスマスフローコントローラー4が出力する気体の流量は、流れる気体の種類に依存する。したがって、模擬燃料ガスG10の成分比が変化すると、ガスマスフローコントローラー4に同じ流量の指示値を与えていたとしても、出力される流量は変化してしまう。そこで、流量の指示値と実際の流量との校正を行う必要がある。
流量指示値Qinputに対して実流量
Qoutputを補正する係数kMFCを式(4)を用いて定義する。
【0082】
【0083】
グラフGR2は、ガスマスフローコントローラー4の補正係数である係数kMFCと、メタンの体積分率との関係を示す。グラフGR2は、2次関数により近似される。
【0084】
次に燃料流量をメタンの体積分率から算出する方法について説明する。当量比rは、上述した式(1)により表される。メタンの体積分率をΦCH4、エタンの体積分率をΦC2H6、プロパンの体積分率をΦC3H8とすると、式(1)の量論燃空比(F/A)stは式(5)を用いて表される。
【0085】
【0086】
したがって、量論燃空比(F/A)stはメタンの体積分率の関数として表される。ただし、空気中の酸素の体積分率は、国際標準大気の値を用いた。また、総流量Qtotalは、式(6)のように表される。
【0087】
【0088】
当量比一定条件、及び燃料流量一定条件の下では、式(1)、式(5)、及び式(6)により、メタンの体積分率がわかれば、流量Qfuel及び空気流量Qairを式(7)及び式(8)を用いて算出できる。
【0089】
【0090】
【0091】
ガス密度計3が設置された流路系において、ガス密度計3から出力された成分比をもつ模擬燃料ガスG10が、ガスマスフローコントローラー4へと到達するまでには、伝達時間ttだけかかる。また、ガスマスフローコントローラー4の出口から合流点βへと模擬燃料ガスG10が到達するまでには遅れ時間tdだけかかる。したがって、時刻tにおけるガスマスフローコントローラー4への指示値Qinputは、式(4)及び式(7)より式(9)により表される。
【0092】
【0093】
ここでΦinputは、ガス密度計3が測定する模擬燃料ガスG10の密度の値から得られたメタンの体積分率である。
【0094】
図12は、本実施形態に係るガス密度計3を用いた燃料組成切り替え条件における各種変数の時間変化の一例を示す図である。
図12では、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する。
【0095】
まず、合流点αにおける各気体の流量がそれぞれ遷移時間tvの間変化し(時刻t1~時刻t2)、合流点αにおける模擬燃料ガスG10の成分比が変化する。
次に、ガス密度計3が配置される位置における模擬燃料ガスG10の密度が変化する(時刻t3~時刻t4)。
【0096】
模擬燃料ガスG10の成分比の変化に応じて、ガスマスフローコントローラー4の係数kMFCが校正される(時刻t5~時刻t6)。ガスマスフローコントローラー4が配置される位置における燃料流量は、伝達時間ttと遅れ時間tdだけ遅れて制御される。ここで伝達時間ttは、ガス密度計3からガスマスフローコントローラー4まで模擬燃料ガスG10がガス配管GP2を伝搬するのにかかる時間である。遅れ時間tdは、ガスマスフローコントローラー4から合流点βまで模擬燃料ガスG10がガス配管GP3を伝搬するのにかかる時間である。
なお、伝達時間ttは、遅れ時間tdと同様に式(2)及び式(3)を用いて算出される。
【0097】
ガスマスフローコントローラー4により、伝達時間ttと遅れ時間tdだけ遅れて模擬燃料ガスG10の燃料流量が制御される(時刻t7~時刻t8)。流量の変化は圧力伝搬により伝達するため、合流点βにおける燃料流量は、ガスマスフローコントローラー4における燃料流量の変化とほぼ同時に変化する(時刻t7~時刻t8)。
【0098】
図13は、本実施形態に係る各条件における実験結果の一例を示す図である。
図13では、燃料流量一定条件、当量比一定条件、空気流量制御、燃料流量制御、及び密度計制御の5種類の条件における火炎高さHの時間変化がそれぞれ示されている。ここで
図13では、遷移時間t
vが1s、合流点αから合流点βまでの距離が1500mmのときの火炎高さHの時間変化が示されている。
図13では、模擬燃料ガスG10の成分比が成分比種類Aから成分比種類Eへと変化する。
【0099】
燃料流量一定条件、及び当量比一定条件においては、遅れ時間tdを考慮した制御が行われていない。空気流量制御、及び燃料流量制御においては、遅れ時間tdを考慮した制御が行われる。密度計制御では、制御装置8によりガス密度計3により測定される模擬燃料ガスG10の密度に基づいて、燃料流量及び空気流量が制御される。
【0100】
図13の5つの条件火炎高さHの変動を最も抑制できているのは燃料流量制御である。燃料流量制御では、火炎高さHの変動は模擬燃料ガスG10の成分比の切り替えによる発熱量流速の変化のみに起因する。燃料流量制御では、火炎高さHの最大値と最小値との差は約0.7mmである。
一方、空気流量制御では、空気流量の増減及びガスマスフローコントローラー4の応答の遅れによる火炎高さHの変動がみられた。空気流量制御では、火炎高さHの最大値と最小値との差は約2.6mmである。
【0101】
密度計制御では、火炎高さHの変動はTaylor拡散による模擬燃料ガスG10の密度分布の変化と、ガス密度計3の応答の遅れとに起因する。密度計制御では、火炎高さHの最大値と最小値との差は約1.4mmである。密度計制御では、燃料流量一定条件、及び当量比一定条件と比較すると火炎高さHの変動は抑制できている。また、密度計制御における火炎高さHの変動は、燃料流量制御における火炎高さHの変動に比べて著しく大きな値ではない。
したがって、ガス密度計3により測定される模擬燃料ガスG10の密度に基づいて制御装置8により制御される密度計制御では、火炎高さHの変動を抑制することができた。
【0102】
以上に説明したように、本実施形態に係る制御装置8は、流量算出部82と、ガス流量制御部83と、空気流量制御部86とを備える。
流量算出部82は、成分の組成が未知である混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)と混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)と混合される空気ARとの総流量一定、かつ混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)と空気ARとの等量比一定とした場合において、混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の成分比に基づいて、混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)のガス流量と空気の空気流量と、を算出する。
ガス流量制御部83は、流量算出部82が算出したガス流量に基づいて、ガス配管内を流れる混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の流量を制御する。
空気流量制御部86は、混合ガスの成分比を示す物理量(密度)を測定する測定部(ガス密度計3)が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、ガス配管によって供給される混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)と空気配管APによって供給される空気ARとをガス配管と空気配管APとの接続部において混合するガス空気混合部(合流点β)までの距離に応じた遅れ時間TDTと、流量算出部82が算出した空気流量とに基づいて、空気配管AP内を流れる空気ARの流量を制御する。
【0103】
この構成により、本実施形態に係る制御装置8では、遅れ時間TDTに基づいて空気ARの空気流量を制御できるため、成分の組成が未知である混合ガスを安定して燃焼させることができる。
【0104】
また、本実施形態に係る制御装置8は、成分比算出部81をさらに備える。本実施形態に係る制御装置8では、混合ガスの成分比を示す物理量とは、混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の密度である。
成分比算出部81は、混合ガスの成分比を示す物理量(密度)を測定する測定部(ガス密度計3)が配置されるガス配管の経路上の測定位置における混合ガスの成分比を示す密度に基づいて混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の成分比を算出する。
流量算出部82は、成分比算出部81が算出した密度が示す混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の成分比に基づいて、混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)のガス流量と空気ARの空気流量と、を算出する。
【0105】
この構成により、本実施形態に係る制御装置8では、混合ガスの成分比をクロマトグラフィなどを用いる場合に比べて短時間において算出できるため、混合ガスの組成が変化してもクロマトグラフィなどを用いる場合に比べて混合ガスを安定して燃焼させることができる。
【0106】
また、本実施形態に係る制御装置8では、ガス流量制御部83が制御するガス流量調整バルブ(ガスマスフローコントローラー4)は、ガス配管において測定部(ガス密度計3)が配置されるガス配管の経路上の測定位置の下流に配置されている。空気流量制御部86は、当該測定位置からガス流量調整バルブ(ガスマスフローコントローラー4)までの距離に応じた伝達時間ttに基づいて空気ARの空気流量を制御する。
【0107】
この構成により、本実施形態に係る制御装置8では、伝達時間に基づかない場合に比べてより安定して未燃調ガスを燃焼させることができる。
【0108】
また、本実施形態に係る制御装置8は、遅れ時間算出部84をさらに備える。遅れ時間算出部84は、遅れ時間TDTを、混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の密度と、測定部(ガス密度計3)が配置されるガス配管の経路上の測定位置から、ガス配管によって供給される混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)と空気配管APによって供給される空気ARとをガス配管と空気配管APとの接続部において混合するガス空気混合部(合流点β)までの距離とに基づいて算出する。
【0109】
この構成により、本実施形態に係る制御装置8では、予め決められた遅れ時間に基づく場合に比べて、より安定して未燃調ガスを燃焼させることができる。
【0110】
また、本実施形態に係る制御システムSは、制御装置8と、ガス流量調整バルブ(ガスマスフローコントローラー4)と、空気流量調整バルブ(空気マスフローコントローラー7)とを備える。
ガス流量調整バルブ(ガスマスフローコントローラー4)は、ガス配管の経路上に配置され、ガス配管を流れる混合ガス(天然ガスG0、模擬燃料ガスG10)の流量を調整する。
空気流量調整バルブ(空気マスフローコントローラー7)は、空気配管APの経路上に配置され、空気配管APを流れる空気ARの流量を調整する。
この構成により、本実施形態に係る制御システムSでは、遅れ時間TDTに基づいて空気ARの空気流量を制御できるため、成分の組成が未知である混合ガスを安定して燃焼させることができる。
【0111】
なお、上述した実施形態における制御装置8の一部、例えば、密度取得部80、成分比算出部81、流量算出部82、ガス流量制御部83、遅れ時間算出部84、及び空気流量制御部86をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、制御装置8に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における制御装置8の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。制御装置8の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0112】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0113】
S…制御システム、1…ガスタンク、2…ガスタンク、3…ガス密度計、4…ガスマスフローコントローラー、5…信号変換器、6…コンプレッサ、7…空気マスフローコントローラー、8…制御装置、9…AD/DA変換ボード、10…バーナ、R1…天然ガス供給系、R2…模擬燃料供給系、GP0、GP1、GP2、GP3、GP10…ガス配管、AP…空気配管、C1…メタンシリンダー、C2…エタンシリンダー、C3…プロパンシリンダー、V1、V11、V12、V21、V22、V23、V3…バルブ、21、22、23…ガスマスフローコントローラー、80…密度取得部、81…成分比算出部、82…流量算出部、83…ガス流量制御部、84…遅れ時間算出部、85…記憶部、850…遅れ時間情報、86…空気流量制御部