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▶ 有限会社粉川の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】冷凍大根おろし
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/04 20060101AFI20221024BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20221024BHJP
【FI】
A23B7/04
A23L19/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018137787
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2020014390
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】500343050
【氏名又は名称】有限会社粉川
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粉川 正義
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-148197(JP,A)
【文献】特開2004-329006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/04
A23L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大根の根部のすりおろし物であって所定の水分を保持する大根おろしと、大根の粉末からなる吸水・吸油剤とを含み、
該吸水・吸油剤は、全量の20~40質量%の範囲の食物繊維と、45~50質量%の範囲の糖質と、0.5~2.5質量%の範囲の水分とを含み、0.45~0.55g/mLの範囲のカサ比重と、2~3000μmの範囲の粒子径とを備え、該吸水・吸油剤の全量に対し、5~10質量%の範囲の吸水率と0.5~1.5質量%の範囲の吸油率とを備えることを特徴とする冷凍大根おろし。
【請求項2】
請求項1記載の冷凍大根おろしにおいて、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を前記大根おろしに対して5~50質量%の範囲で含むことを特徴とする請求項1記載の冷凍大根おろし。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍大根おろしに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家族構成が伝統的な大家族から核家族化へと変化し、さらに独身者、単身赴任者等が増加するにつれ、食事の態様も変化してきている。例えば、家族が食卓を囲んで一斉に食事を摂ることは少なくなり、家族の銘々が各自の都合により別々の時間に食事を摂るようになっている。このような場合には、副食物は一家族分をまとめて調理するよりも、各自が食べる分量ずつ適宜準備できる方が便利であり、各種冷凍食品が利用されることが多い。
【0003】
前記副食物として、例えば大根おろしを考えると、大根おろしは、食料品店等で購入した大根を、葉部等の不要部分を切り落とし、皮をむいてすり下ろすことによって初めて食べることが可能になる。大根は1本丸ごと購入すると相当の重量であり、これを自宅に持ち帰り、前述のように調理することは、独身者、単身赴任者には負担が大きい。この点、前記冷凍食品は予め調理されているので、自然解凍或いは水冷解凍することにより、直ちに食べることができる。
【0004】
そこで、予め大根の根部をすりおろしたものを冷凍した冷凍大根おろしが提案されている。前記冷凍大根おろしは、従来、生産地で収穫された大根を工場に搬入し、葉部等の不要部分を除去した根部を洗浄、皮むき、殺菌の後、おろし機等を用いてすりおろした形状に加工される。前記大根の根部をすり下ろすと、該根部が繊維状の小片に細分化された所謂大根おろしが得られると共に、該細分化により破壊された細胞から細胞内の水分が外部に出て来る。
【0005】
前記水分の一部は前記大根おろしに保持されて食用に供されるが、保持しきれないものは余剰の水分として廃棄される。そこで、従来の冷凍大根おろしは、前記余剰の水分を廃棄した状態の大根おろしをそのまま袋詰めして凍結したものである。
【0006】
ところが、前記冷凍大根おろしは、解凍するとさらに水分が脱離して歩留りが低下すると共に、みずみずしさが失われて繊維分の割合が増加するために食感が損なわれるという問題がある。前記問題を解決するために、本出願人の出願になる冷凍大根おろしが知られている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1記載の冷凍大根おろしは、大根の根部をすりおろして得られ所定の水分を保持する大根おろしと、カルボキシメチルセルロースとを含み、解凍したときに水分が脱離しにくく、解凍後にも優れた食感を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3425932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、カルボキシメチルセルロースは、厚生労働省により使用が認められた食品添加物ではあるものの、アルカリを触媒としてセルロースとクロロ酢酸の反応により合成される化学合成品であるため、消費者によっては健康上の不安等から好まれないことがあるという不都合がある。
【0010】
本発明は、かかる不都合を解消して、カルボキシメチルセルロースに代えて自然食品に由来する材料を含み、解凍したときに水分が脱離しにくく、解凍後にも優れた食感を得ることができる冷凍大根おろしを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明の冷凍大根おろしは、大根の根部のすりおろし物であって所定の水分を保持する大根おろしと、大根の粉末からなる吸水・吸油剤とを含み、該吸水・吸油剤は、全量の20~40質量%の範囲の食物繊維と、45~50質量%の範囲の糖質と、0.5~2.5質量%の範囲の水分とを含み、0.45~0.55g/mLの範囲のカサ比重と、2~3000μmの範囲の粒子径とを備え、該吸水・吸油剤の全量に対し、5~10質量%の範囲の吸水率と0.5~1.5質量%の範囲の吸油率とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の冷凍大根おろしにおいて、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤はその全量に対し、5~10質量%の範囲の吸水率と0.5~1.5質量%の吸油率とを備える。そこで、本発明の冷凍大根おろしは、カルボキシメチルセルロースに代えて、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を用いることにより、解凍したときに水分が脱離しにくく、解凍後にも優れた食感を得ることができる。
【0013】
大根は日本国内で一年を通して栽培、収穫される農作物であり産地や収穫時期等によって含有する水分量が大きく変動する。しかし、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤は、大根という自然食品に由来する材料からなるので、大量に用いても消費者が健康上の不安を感じることがなく、大根おろしの風味を損なうこともないという効果も得ることができる。
【0014】
本発明の冷凍大根おろしは、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を前記大根おろしに対して5~50質量%の範囲で含むことが好ましく、15~25質量%の範囲で含むことがさらに好ましい。
【0015】
本発明の冷凍大根おろしにおいて、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤の含有量が前記大根おろしに対して5質量%未満であるときには、解凍したときに水分が脱離しにくくなる効果を十分にえることができないことがある。また、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤の含有量が前記大根おろしに対して50質量%を超えると、解凍後の食感を損なうことがある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本実施形態の冷凍大根おろしは、耕作者と契約栽培した大根を工場に搬入した後、まず葉部、根部末端等の不要部分を除去した根部を洗浄し、皮をむいて、稀釈殺菌液(次亜塩素酸水溶液)に浸漬して殺菌する。次に、殺菌された根部をフードカッター(米国アーシャル社製、商品名:コミトロールヘッド)ですりおろし、小片に細分する。
【0018】
前記のようにすりおろした大根おろしは、季節、生産地等により多少変動があるが、約98%の水分を含んでいる。そこで、すりおろした大根おろしを水切りし、余剰の水分を除去する。この結果、全重量の約20%の水分が除去される。
【0019】
次に、水切りされた大根おろしを容器に収容し、全重量の5~50質量%、好ましくは15~25質量%の大根の粉末からなる吸水・吸油剤を添加し、混合する。
【0020】
前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤は、全量の20~40質量%の範囲の食物繊維と、45~50質量%の範囲の糖質と、0.5~2.5質量%の範囲の水分とを含み、0.45~0.55g/mLの範囲のカサ比重と、2~3000μmの範囲の粒子径とを備え、該吸水・吸油剤の全量に対し、5~10質量%の範囲の吸水率と0.5~1.5質量%の範囲の吸油率とを備えている。前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0021】
まず、耕作者と契約栽培した大根の葉部、根部末端等の不要部を除去した根部を洗浄したものを原料とし、該根部を乾燥機に投入し、40~65℃の範囲の温度、例えば50℃の温度に、10~15時間保持して乾燥させる。そして、乾燥した大根の根部を、例えばコーヒーミル等の粉砕器に投入することにより粉砕して、前記吸水・吸油剤とする。
【0022】
次に、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を添加した大根おろしを、所定量ずつ容器に収容し、常法に従って凍結させ、冷凍大根おろしを製造する。
【0023】
本実施形態では、大根の根部をすりおろし、水切りした後、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を添加するようにしているが、水切りを行なわずに前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を添加してもよい。
【0024】
次に、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を20質量%含む冷凍大根おろし(実施例)と、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を全く含まない冷凍大根おろし(比較例)と、カルボキシメチルセルロースを0.2質量%含む冷凍大根おろし(比較例)とについて、解凍時の保水作用と、解凍後の食感とを比較した。結果を表1に示す。
【0025】
尚、表1では、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を「大根粉末」と略記する。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から、本発明に係る前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を含む実施例の冷凍大根おろしは、解凍後の保水性に優れているので水分が脱離しにくく、解凍後にも優れた食感が得られ、従来のカルボキシメチルセルロースを0.2質量%含む冷凍大根おろし(参考例)と同等の効果を得ることができることが明らかである。
【0028】
尚、本実施形態では、前記水切りされた大根おろしに、前記大根の粉末からなる吸水・吸油剤を添加しただけであるが、さらにトウガラシまたはニンジンをすりつぶしたものを加えて所謂「もみじおろし」としてもよく、ユズの表皮をすりつぶしたものを加えて所謂「ゆずおろし」としてもよい。