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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】電着砥石及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20221024BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B24D3/00 310F
B24D3/00 330G
B24D3/06 B
B24D3/00 320B
B24D3/00 320A
B24D3/00 340
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020187129
(22)【出願日】2020-11-10
(65)【公開番号】P2022076650
(43)【公開日】2022-05-20
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000151357
【氏名又は名称】株式会社東京ダイヤモンド工具製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】津田 政明
(72)【発明者】
【氏名】岸本 淳
(72)【発明者】
【氏名】八木 健
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-358640(JP,A)
【文献】特開平10-329029(JP,A)
【文献】特開2004-306220(JP,A)
【文献】特開平02-145261(JP,A)
【文献】特開平11-000868(JP,A)
【文献】特開2000-153463(JP,A)
【文献】特開2005-022074(JP,A)
【文献】特開平06-114739(JP,A)
【文献】特開昭63-144965(JP,A)
【文献】特開昭63-144963(JP,A)
【文献】実開平02-090057(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159812(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき層と、
前記めっき層が上に設けられる基台と、
前記めっき層から突出する第1の砥粒と、
前記第1の砥粒の間に配置されるとともに、前記めっき層からの突出量が前記第1の砥粒の平均粒径より小さく、かつ、前記第1の砥粒より粒径が小さい平均粒径を有する第2の砥粒と、
を備え、
前記めっき層は、前記基台の上に設けられる第1のめっき層と、前記第1のめっき層の上に設けられる第2のめっき層とを備え、
前記第1の砥粒の複数の突出端により形成される第1の仮想面と、
前記第2の砥粒の複数の突出端により形成される第2の仮想面と
を備え、
前記第1の仮想面は、前記第2の仮想面に対して外側に位置し、
前記第1の仮想面と前記第2の仮想面との間の距離は、前記第1の砥粒の平均粒径、前記第2の砥粒の平均粒径、及び、前記めっき層の厚さに少なくとも基づいて設定される範囲以下であり、
前記範囲は、前記第1のめっき層の厚さが大きくなるにつれて大きくなる、電着砥石。
【請求項2】
前記第1の砥粒の粒径は、25μm以上300μm以下で、
前記第2の砥粒の粒径は、10μm以上120μm以下であり、
前記めっき層の厚さは、前記第1の砥粒の平均粒径の40%以上80%以下であり、
前記範囲は、6μm以上42μm以下である、請求項1に記載の電着砥石。
【請求項3】
前記第1の砥粒同士は、離間し、
前記第2の砥粒は、前記第1の砥粒同士の隙間に配置される、請求項1又は請求項2に記載の電着砥石。
【請求項4】
前記第1の砥粒同士の前記隙間の大きさは、20μm以上である、請求項3に記載の電着砥石。
【請求項5】
記第1の砥粒の下端は、前記基台と前記第1のめっき層との境界にあり、
前記第2の砥粒の下端は、前記第1のめっき層と前記第2のめっき層との境界にある、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電着砥石。
【請求項6】
前記第1の砥粒は、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒及び金属酸化物砥粒からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記第2の砥粒は、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の少なくとも一つを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電着砥石。
【請求項7】
前記めっき層は、ポリテトラフルオロエチレン及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電着砥石。
【請求項8】
複数の第1の砥粒の間に隙間が形成された状態で、複数の第1の砥粒を第1のめっきにより基台に固定し、前記第1の砥粒の複数の突出端により第1の仮想面を形成することと、
前記第1の砥粒の粒径より粒径が小さい第2の砥粒を前記隙間に配置することと、
前記第2の砥粒の突出量が前記第1の砥粒の突出量より小さい状態に、前記第1の砥粒及び前記第2の砥粒を、前記第1のめっきと異なる第2のめっきにより固定し、前記第1のめっき及び前記第2のめっきによりめっき層を形成するとともに、前記第2の砥粒の複数の突出端により第2の仮想面を形成することと、
を具備し、
前記第1の仮想面と前記第2の仮想面との間の平均距離を、前記第1の砥粒の平均粒径、前記第2の砥粒の平均粒径、及び、前記めっき層の厚さに少なくとも基づいて設定される範囲以下とし、
前記範囲を、前記第1のめっき層の厚さが大きくなるにつれて大きくする、製造方法。
【請求項9】
前記第1のめっきは電解めっきであり、かつ、前記第2のめっきは無電解めっきである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1の砥粒同士を離間し、
前記第2の砥粒を前記第1の砥粒同士の前記隙間に配置する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2のめっきは、ポリテトラフルオロエチレン及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一つ含むめっきである、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着砥石及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3では、電着砥石が開示されている。特許文献1の電着砥石では、平均粒径の大きい砥粒及び平均粒径の小さい砥粒がめっき層により固着される。そして、平均粒径の大きい砥粒を含む砥粒層の外側に、平均粒径の小さい砥粒を含む砥粒層が配置される。特許文献2の電着砥石では、単層状かつ均一分散された金属めっき層により、大径超砥粒及び小径超砥粒が基台に固着される。特許文献3の電着砥石では、大径超砥粒が無電解めっき層で支持されるとともに、無電解めっき層に小径超砥粒が均一分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-245561号公報
【文献】特開平2-145261号公報
【文献】特開平6-114739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の電着砥石では、研削時におけるめっき層の損傷が低減されることが求められている。また、電着砥石では、めっき層の損傷を低減する等して電着砥石の寿命を長くすることが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、寿命の長い電着砥石及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、電着砥石は、めっき層と、めっき層が上に設けられる基台と、めっき層から突出する第1の砥粒と、第1の砥粒の間に配置されるとともに、めっき層からの突出量が第1の砥粒の平均粒径より小さく、かつ、第1の砥粒より粒径が小さい平均粒径を有する第2の砥粒と、を備える。めっき層は、基台の上に設けられる第1のめっき層と、第1のめっき層の上に設けられる第2のめっき層とを備える。電着砥石は第1の砥粒の複数の突出端により形成される第1の仮想面と、第2の砥粒の複数の突出端により形成される第2の仮想面とを備える。第1の仮想面は、第2の仮想面に対して外側に位置する。第1の仮想面と第2の仮想面との間の距離は、第1の砥粒の平均粒径、第2の砥粒の平均粒径、及び、めっき層の厚さに少なくとも基づいて設定される範囲以下である。範囲は、第1のめっき層の厚さが大きくなるにつれて大きくなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、寿命の長い電着砥石及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る電着砥石の断面を示す概略図である。
図2図2は、実施形態に係る製造方法の一例を段階的に示す概略図である。
図3図3は、実施形態の変形例に係る電着砥石の断面を示す概略図である。
図4図4は、実施形態の別の変形例に係る電着砥石の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のある実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、実施形態の電着砥石の断面を概略的に示す。電着砥石1は、基台2、めっき層3、第1の砥粒4及び第1の砥粒4と異なる第2の砥粒5を備える。基台2は、電着砥石1の基材(台金)であり、導電性を有する。基台2は、例えば、アルミ、鉄、ステンレス鋼等の金属、合金を含む材料から形成される。基台2の材質は、導電性を有すれば限定されるものではない。以下、実施形態の基台2の形状が、円盤状又は略円盤状であるとして説明する。なお、電着砥石1において、厚さ方向(矢印D1及びD2で示す方向)及び厚さ方向に交差する(垂直又は略垂直な)交差方向が規定される。また、基台2からめっき層3に向かう方向(矢印D1で示す方向)側を外側、外側とは反対に向かう方向(矢印D2で示す方向)側を内側として説明する。また、基台2の形状は、電着砥石1の用途、被研削材の種類等に基づいて適宜選択され得る。
【0010】
めっき層3は、基台2の上に設けられる。めっき層3は、第1の砥粒4及び第2の砥粒5を含む。めっき層3は、第1の砥粒4及び第2の砥粒5を保持する。めっき層3は、例えば、ニッケルを含む材料を用いて形成される。めっき層3の厚さは、基台2の外側表面(外面)からめっき層3の外側表面(外面)までの厚さである。ある一例では、めっき層3の厚さは、めっき層3の平均的な厚さである。めっき層3の厚さは、電着砥石1の用途、被研削材の種類等の加工条件に基づいて適宜選択され得る。ただし、後述するように、第1の砥粒4の少なくとも一部及び第2の砥粒5の少なくとも一部の両方が、めっき層3の外側表面から突出する(露出する)状態となるように、めっき層3の厚さが選択される。ある一例では、めっき層3の厚さは、砥粒4の平均砥粒径の40%以上80%以下であってよい。
【0011】
めっき層3は、第1のめっき層31、第1のめっき層31と異なる第2のめっき層32を備える。第1のめっき層31は基台2の上に設けられ、第2のめっき層32は第1のめっき層31の上に設けられる。すなわち、第2のめっき層32が、第1のめっき層31の上に積層される。ある一例では、第1のめっき層31及び第2のめっき層32は、ニッケルを含むめっき層である。第2のめっき層32は、摩擦係数が第2のめっき層32の摩擦係数よりも低い粒子を含んでもよい。粒子の平均粒子径は一般的な方法により測定可能であるが、例えば、レーザー回折式粒度分布測定器により測定できる。ある一例では、このような粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化黒鉛、炭化ケイ素、炭化ホウ素及びタングステンの少なくとも一つを含む。また、このような粒子は、ナノダイヤモンド粒子を含んでいてもよい。これにより、第2のめっき層32の摩擦係数が低下するため、第2のめっき層32が研削片により摩耗されにくくなる。その結果、電着砥石1の摩耗耐性が向上する。また、研削片による電着砥石1の目詰まりが抑制される。第2のめっき層32は、0.1μm以上1μm以下の平均粒子径を有するPTFEを含むことが好ましい。第2のめっき層32がホウ素又はタングステンを含む場合、第2のめっき層32の硬度(ビッカース硬度(Hv))が上昇する。
【0012】
第1の砥粒4及び第2の砥粒5は、被研削材及び電着砥石1の使用方法に応じて、適宜選択できる。ある一例では、第1の砥粒4及び第2の砥粒5は、炭化ケイ素系砥粒、アルミナ系砥粒、金属酸化物砥粒及び超砥粒から選択される少なくとも1つである。金属酸化物砥粒は、例えば、酸化ジルコニウムである。超砥粒は、例えば、ダイヤモンド砥粒、立方晶窒化ホウ素(CBN)砥粒である。第1の砥粒4及び第2の砥粒5の組み合わせは、例えば、ダイヤモンド砥粒同士、CBN砥粒同士、ダイヤモンド砥粒と金属酸化物砥粒、CBN砥粒と金属酸化物砥粒、又はCBN砥粒とダイヤモンド砥粒である。第1の砥粒4がCBN砥粒であり、第2の砥粒5がダイヤモンド砥粒であることが、好ましい。
【0013】
第2の砥粒5の粒径は、第1の砥粒4の粒径より小さい。第1の砥粒4(第2の砥粒5)の粒径は、例えば、第1の砥粒4(第2の砥粒5)の平均粒径である。第1の砥粒の粒径に対する第2の砥粒の粒径の比率は、例えば、0.4である。第1の砥粒4の粒径は、25μm以上300μm以下であってよい。第2の砥粒5の粒径は、10μm以上120μm以下であってよい。ある一例では、第1の砥粒4の粒径が25μmの場合、第1の砥粒4の砥粒の番手は600番に相当し、第1の砥粒4の粒径が300μmの場合、第1の砥粒4の番手は50番に相当する。また、別のある一例では、第2の砥粒5の粒径が10μmの場合、第2の砥粒5の番手は1500番に相当し、第2の砥粒5の粒径が120μmの場合、第2の砥粒5の番手は120番に相当する。第1の砥粒4の形状は、ブロッキー、セミブロッキー及びイレギュラーから選択される少なくとも1つであってよい。第1の砥粒4の形状は、セミブロッキーな形状であることが好ましい。砥粒がセミブロッキーな形状の場合、砥粒の結晶面に存在する劈開面の破砕により新たな切れ刃が創出されるため、電着砥石1の研削性の低下が抑制される。第2の砥粒5の形状は、ブロッキーな形状であることが好ましい。
【0014】
第1の砥粒4及び第2の砥粒5の両方は、めっき層3から突出する。すなわち、第1の砥粒4の少なくとも一部及び第2の砥粒5の少なくとも一部の両方は、めっき層3の表面(外側の表面)から、さらに外側へ突出する。第1の砥粒4の突出量は、第2の砥粒の突出量より大きい。突出量とは、砥粒がめっき層3の外側表面からさらに外側へ突出する平均的な高さである。図1に示すように、複数の第1の砥粒4(複数の第2の砥粒5)のそれぞれにおいて、基台2から最も外側に離れた端(位置)が第1の砥粒4の突出端41(第2の砥粒5の突出端51)である。すなわち、複数の第1の砥粒4の突出端41は、複数の第2の砥粒5の突出端51より、基台2(めっき層3の外側表面)から外側に離れて位置する。
【0015】
電着砥石1では、複数の突出端41により形成される第1の仮想面V1、及び、複数の突出端51により形成される第2の仮想面V2が規定される。複数の突出端41の突出量が複数の突出端51の突出量より大きいため、第1の仮想面V1は、第2の仮想面V2に対して外側に位置する。また、第1の仮想面V1と第2の仮想面V2との間の平均距離は、範囲R以下になることが好ましい。範囲Rは、第1の砥粒4の粒径、第2の砥粒5の粒径及びめっき層3の厚さに少なくとも基づいて、適宜設定され得る。範囲Rは、めっき層3の厚さが大きくなるにつれて、大きくなることが好ましい。範囲Rは、6μm以上42μm以下であることが好ましい。ある一例では、第1の砥粒4の番手が600番程度である場合、範囲Rが6μm程度であることが好ましい。別のある一例では、第1の砥粒4の番手が50番程度である場合、範囲Rが42μm程度であることが好ましい。後述するように、電着砥石1が範囲Rを満たすことにより、電着砥石1の寿命がより長くなる。
【0016】
複数の第1の砥粒4は、交差方向について、互いに対して離れてめっき層3に配置される。すなわち、交差方向に配置される複数の第1の砥粒4同士の隙間が、交差方向に形成される。また、第2の砥粒5は、複数の第1の砥粒4により交差方向について形成される隙間に配置される。ある一例では、第2の砥粒5は、交差方向について隣り合う第1の砥粒4により形成される交差方向の隙間に配置される。複数の第1の砥粒4の間に形成された隙間(間隔)の大きさは、20μm以上であることが好ましい。この場合、第2の砥粒5は、めっき層3のボンドコーティングとして機能する。これにより、電着砥石1の強度が向上するとともに、めっき層3における砥粒の保持力が向上する。そのため、電着砥石1からの砥粒の脱落が抑制される。また、研削片によるめっき層3の掘り起こしが抑制される。よって、電着砥石1の寿命が長くなる。
【0017】
複数の第1の砥粒4が前述のように配置されることで、電着砥石1の切れ味が向上する。この理由について、本発明者は以下のように考えている。ある第1の砥粒4が被研削材を研削すると、被研削材は第1の砥粒4により切削、変形等される。複数の第1の砥粒4のそれぞれが互いに対して交差方向について離れている場合、被研削材が弾性回復した後に、他の第1の砥粒4が被研削材を研削する可能性が高い。これにより、被研削材に対する切削作用が増大するとともに、被研削材に対する摩擦が減少する。すなわち、電着砥石1と被研削材との接触面から電着砥石1に作用する研削抵抗が減少する。よって、電着砥石1による効率的な研削が実行可能となるとともに、電着砥石1の切れ味が向上する。また、研削抵抗の減少により、電着砥石1では、被研削材におけるバリの発生を抑制できる。
【0018】
第2の砥粒5が前述のように配置されることで、電着砥石1の寿命が長くなる。この理由について本発明者は以下のように考えている。第1の砥粒4が被研削材を研削すると、研削片が形成される。前述のように、第2の砥粒5のめっき層3からの突出量が第1の砥粒4の突出量よりも小さい場合、研削片が第2の砥粒5によりさらに小さい研削片に砕かれる。これにより、研削片によるめっき層3の損傷が減少する。また、研削片が小さくなるため、砥粒の間に挟まることが抑制される。よって、電着砥石1のめっき層3の掘り起こしが抑制され、電着砥石1の寿命が長くなる。
【0019】
次に、実施形態の電着砥石1の製造方法について説明する。図2は、実施形態に係る電着砥石1の製造方法の一例を段階的に示す。電着砥石1に用いられる基台2は、一般的な方法によって製造される。基台2の表面(外側の表面)は、ブラスト処理及びマスキング処理等によって処理されてもよい。ブラスト処理では、基台2の表面(電着加工面)へ粒子を噴射することにより、電着加工面を加工する。ある一例では、ブラスト処理において、アルミナ砥粒粒子が用いられる。マスキング処理では、電着加工面以外の部分が被覆される。ある一例では、耐水テープにより電着加工面以外の部分を被覆する。このような基台2の表面に、第1の砥粒4が散布される。次に、第1の砥粒4が付着した基台2の表面が、第1のめっきによりめっきされる(一次めっき)。第1のめっきは、例えば、電解めっきである。電解めっきとしては、例えば、電解ニッケルめっきが挙げられる。これにより、第1の砥粒4が基台2の表面に固定される。この際、第1の砥粒4の間に余分な第1の砥粒4が残留することがある。この場合、これらの余分な第1の砥粒4を基台2の表面から除去する。これにより、第1の砥粒4の交差方向の隙間(間隔)が、適切に維持される。余分な第1の砥粒4の除去方法は、例えば、ハンドスクラブである。なお、ブラスト処理の後、基台2を洗浄してから、第1の砥粒4の散布および一次めっきが行われてもよい。これにより、一次めっきと基台2との密着性が向上する。
【0020】
適切な状態で基台2に固定された第1の砥粒に対して、さらにめっきを行う(二次めっき)。二次めっきでは、一次めっきと同様のめっきを行えばよく、例えば電解ニッケルめっきを行う。前述の第1のめっき層31は、一次めっき及び二次めっきにより形成される。これにより、図2の上段に示すように、第1の砥粒4が、第1のめっき層31により基台2の表面に固定される。一次めっきの厚さ及び二次めっきの厚さの両方を足した総厚(平均総厚)は、第1の砥粒の粒径(平均粒径)を基準として適宜設定できる。平均層厚は、例えば、第1の砥粒4の粒径の20%程度であってもよく、第1の砥粒4の粒径の30%程度であってもよい。
【0021】
次に、図2の中段に示すように、第2の砥粒5を散布し、第1の砥粒4同士の交差方向の隙間に第2の砥粒5を配置する。第1のめっき層31、第1の砥粒4及び第2の砥粒5に対して、第2のめっきによりめっきを行う(三次めっき)。第2のめっきは、第1のめっきと異なる。第2のめっきは、例えば、無電解めっきである。無電解めっきとしては、例えば、無電解Ni-Pめっきが挙げられる。これにより、前述の第2のめっき層32が形成される。三次めっきの厚さは、二次めっきの厚さよりも小さいことが好ましい。三次めっきの厚さは、第1の砥粒4の粒径及び第2の砥粒5の粒径を基準として適宜設定できるが、例えば6μm以上72μm以下であってもよい。このようにめっき層3は、一次めっき、二次めっき及び三次めっきにより形成される。
【0022】
めっき層3が形成された後、電着砥石1を熱処理する。熱処理の方法は一般的な方法を適宜用いることができるが、例えば、350℃の熱処理を加える。これにより、図2の下段に示すように、実施形態の電着砥石1が形成される。以上のようにして電着砥石1を形成することにより、第1の仮想面V1及び第2の仮想面V2の距離(平均距離)を範囲R以内にできる。
【0023】
なお、第2のめっき層32が、摩擦係数が第2のめっき層32の摩擦係数よりも低い粒子を含む場合、三次めっきのめっき液が、0.1μm以上1μm以下の平均粒子径を有するPTFEを、めっき液全体を基準として5体積%以上40体積%以下含んでいてもよい。また、三次めっきとして、Ni-P-SiC分散めっき、硬質クロムめっき、無電解Ni-Pめっき、無電解Ni-Bめっき又は無電解Ni-W-Pめっきを実行してもよい。この場合、三次めっきを行った後、第2のめっき層32に熱を加えることで、第2のめっき層32を硬化させる。これにより、電着砥石1の摩耗耐性が向上する。
【0024】
前述のように、実施形態の電着砥石1では、第1の砥粒4は、厚さ方向について外側にめっき層3から突出する。第2の砥粒5は、交差方向について第1の砥粒の間に配置される。第2の砥粒5は、厚さ方向についてのめっき層3からの突出量が第1の砥粒4より小さく、かつ、第1の砥粒4より粒径が小さい。これにより、実施形態の電着砥石1は、前述のように研削片が砥粒の間に挟まることが抑制され、電着砥石1の寿命が長くなる。
【0025】
実施形態の電着砥石1では、第1の砥粒4は、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒及び金属酸化物砥粒からなる群から選択される少なくとも一つを含んでもよい。第2の砥粒5は、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の少なくとも一つを含んでもよい。これにより、実施形態の電着砥石1では、切り屑をより効率的に細かくできるため、電着砥石1の寿命がさらに長くなる。
【0026】
実施形態の製造方法では、複数の第1の砥粒4の間に交差方向についての隙間が形成された状態で、複数の第1の砥粒4を第1のめっきにより基台に固定する。実施形態の製造方法では、第1の砥粒4の粒径より粒径が小さい第2の砥粒5を交差方向についての隙間に配置する。実施形態の製造方法では、厚さ方向について第2の砥粒5の突出量が第1の砥粒4の突出量より小さい状態に、第1の砥粒4及び第2の砥粒5を第1のめっきと異なる第2のめっきにより固定する。これにより、寿命の長い電着砥石1が製造できる。
【0027】
(変形例)
図3に示すように、ある変形例では、電着砥石1において、めっき処理が完了した後に、被覆層33が形成されてもよい。この場合、電着砥石1において、めっき層3が、被覆層33をさらに備える。被覆層33の厚さは、図3に示すように、第1の砥粒4及び第2の砥粒5の両方が被覆層33から突出する状態であれば限定されるものではない。被覆層33の厚さは、例えば、0.1μm以上0.5μm以下であってもよい。ある一例では、被覆層33は、ニッケル溶液に還元剤を加えて無電解めっきすることにより形成される。別のある一例では、被覆層33は、ニッケル溶液に還元剤を加えて電解めっきすることにより形成される。電解めっきにおいて、めっき浴は、例えば、ワット浴、スルファミン酸浴である。ワット浴は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸が主成分である。スルファミン酸浴は、例えば、スルファミン酸ニッケル及びホウ酸が主成分である。
【0028】
また、第2のめっき層32と同様に、被覆層33は、摩擦係数が被覆層33の摩擦係数よりも低い粒子を含んでいてもよい。この場合、前述の三次めっきのめっき液が、被覆層33のめっき液として用いられる。このように電着砥石1に被覆層33が形成されることにより、電着砥石1の寿命がさらに長くなる。また、この場合であっても、電着砥石1では、第1の砥粒4の突出量は第2の砥粒5の突出量より大きい。よって、本変形例においても、前述の実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。
【0029】
ある一例では、第2のめっき層がPTFE及びタングステンの少なくとも一方を含むめっきにより形成される場合、第2のめっき層を第1の砥粒4及び第2の砥粒5を固定するために必要となる厚さまで形成できないことがある。この場合、第2のめっき層は、PTFE及びタングステンを含まないめっきにより形成される。これにより、第2のめっき層の厚さは、第2の砥粒5の固定に必要となる厚さまで形成できる。その後、被覆層33が形成される。この場合、被覆層33は、PTFE及びタングステンの少なくとも一方を含むめっきにより形成される。このように第2のめっき層及び被覆層33を形成することにより、第2のめっき層が十分に厚く形成できない場合であっても、電着砥石1は、PTFE及びタングステンの少なくとも一方を含む場合の効果を奏する。
【0030】
図4に示すように、ある変形例では、電着砥石1において、下地層7が形成されてもよい。この場合、電着砥石1は、下地層7をさらに備える。下地層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上1μm以下である。下地層7は、鉄系素材、アルミニウム、42アロイ、又は非金属系素材を少なくとも含む材料から形成される。鉄系素材は、例えば、ステンレス素材、鋳物素材等である。非金属系素材は、例えば、非鉄系素材及び樹脂系素材等である。非鉄系素材は、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。
【0031】
電着砥石1が下地層7を備える場合、第1の砥粒4が基台2に散布される前に、下地層7が形成される素材に対応しためっきを基台2に行う。ある一例では、基台2の表面がブラスト処理等された後、基台2が洗浄され、下地層7が基台2に形成される。この場合、めっきは、例えば、銅めっき、塩化ニッケルめっき等である。下地めっきは、めっき液による湿式めっきの替わりに、乾式めっきにより形成されてもよい。乾式めっきは、例えば、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)である。このように、下地層7が電着砥石1に形成されることにより、電着砥石1の寿命がさらに長くなる。また、この場合であっても、電着砥石1では、第1の砥粒4の突出量は第2の砥粒5の突出量より大きい。よって、本変形例においても、前述の実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。
【0032】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。
出願時の特許請求の範囲を以下に付記する。
[付記1]
めっき層と、
前記めっき層から突出する第1の砥粒と、
前記第1の砥粒の間に配置されるとともに、前記めっき層からの突出量が前記第1の砥粒より小さく、かつ、前記第1の砥粒より粒径が小さい第2の砥粒と、
を備える、電着砥石。
[付記2]
前記第1の砥粒は、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒及び金属酸化物砥粒からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記第2の砥粒は、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の少なくとも一つを含む、
付記1に記載の電着砥石。
[付記3]
前記めっき層は、ポリテトラフルオロエチレン及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一つを含む、付記1又は付記2に記載の電着砥石。
[付記4]
複数の第1の砥粒の間に隙間が形成された状態で、複数の第1の砥粒を第1のめっきにより基台に固定することと、
前記第1の砥粒の粒径より粒径が小さい第2の砥粒を前記隙間に配置することと、
前記第2の砥粒の突出量が前記第1の砥粒の突出量より小さい状態に、前記第1の砥粒及び前記第2の砥粒を、前記第1のめっきと異なる第2のめっきにより固定することと、
を具備する、製造方法。
[付記5]
前記第1のめっきは電解めっきであり、かつ、前記第2のめっきは無電解めっきである、付記4に記載の製造方法。
[付記6]
前記第2のめっきは、ポリテトラフルオロエチレン及びタングステンからなる群から選択される少なくとも一つ含むめっきである、付記4に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0033】
1…電着砥石、2…基台、3…めっき層、31…第1のめっき層、32…第2のめっき層、33…被覆層、4…第1の砥粒、5…第2の砥粒、7…下地層。
図1
図2
図3
図4