(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】B7タンパク質をコードする腫瘍溶解性アデノウイルス
(51)【国際特許分類】
C12N 15/34 20060101AFI20221024BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/21 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221024BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221024BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C12N15/34
C12N7/01 ZNA
C12N15/12
C12N15/21
C12N15/13
C12N15/861
A61P35/00
A61K35/761
A61K48/00
A61K39/395 U
(21)【出願番号】P 2021129196
(22)【出願日】2021-08-05
(62)【分割の表示】P 2017552966の分割
【原出願日】2016-04-29
【審査請求日】2021-09-01
(32)【優先日】2015-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2015-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515023121
【氏名又は名称】サイオクサス セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チャンピオン,ブライアン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ブロムリー,アリス クレアー ノエル
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特許第6931229(JP,B2)
【文献】特許第6928380(JP,B2)
【文献】特表2002-531133(JP,A)
【文献】特表2007-525949(JP,A)
【文献】PLOS ONE, 2017年,Vol.12, No.5,e0177810 (p.1-23),https:// doi.org/10.1371/journal.pone.0177810
【文献】Gene Therapy, 2006年,Vol.13,p.1010-1020
【文献】Clin. Cancer Res., 2006年,Vol.12, No.19,p.5859-5868
【文献】Molecular Therapy, 2005年,Vol.12, No.6,p.1052-1063
【文献】Gene Therapy, 2004年,Vol.11,p.142-151
【文献】J. Clin. Oncol., 2014年,Vol.32, No.15, Suppl.,3103
【文献】Annals of Oncology, 2014年,Vol.25, Supplement 4: iv361-372,1068P
【文献】J. Mol. Med, 2008年,Vol.86,p.363-377
【文献】Clin. Cancer Res., 2009年,Vol.15, No.8,p.2756-2766
【文献】Gene Therapy, 2000年,Vol.7,p.339-347
【文献】J. General Virology, 2008年,Vol.89,p.389-396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
A61P 35/00
A61K 35/761
A61K 48/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号20、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号101、配列番号102、および配列番号103から選択される配列を含む、複製可能な腫瘍溶解性B群アデノウイルス。
【請求項2】
配列番号20を含む、請求項1に記載の複製可能な腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか1項に記載の複製可能なウイルスと、薬学的に許容される添加剤と、を含む医薬組成物。
【請求項4】
治療における使用のための、請求項1または2に記載の複製可能なウイルス、または請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
癌の治療における使用のための、請求項1または2に記載の複製可能なウイルス、または請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、結腸直腸癌、肺癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、乳癌、および卵巣癌から選択される、請求項5に記載の複製可能なウイルスまたは医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくともB7タンパク質、例えば、CD80またはその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含む腫瘍溶解性アデノウイルス、それを含む組成物ならびに治療、特に癌治療へのウイルスおよび組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、患者とその家族の困難および苦痛のほかにも、患者の治療、ケアおよびサポートにかかる金銭的費用の高さの点で現在も大きな社会的負担となっている。現在、健常者では免疫系が日常的に癌性細胞を排除しているものと考えられている。一方、癌患者では、このような排除に関与する1つまたは複数の防衛機序がダウンレギュレートされたり、完全に停止したりする。
【0003】
現在、腫瘍は、自身が成長できるようその微小環境を変化させることが知られている。このことは、腫瘍が細胞外に放出するシグナルが、例えば腫瘍の血管新生を促進し、かつ/または局所的な免疫抑制もしくは免疫寛容を誘導することによって起こる。
【0004】
多数の様々な前臨床研究および臨床研究から、腫瘍内の微小環境が抗腫瘍免疫応答の発現および活性を抑制し得ることが明らかにされており、多岐にわたる機序が何らかの役割を果たしている可能性があることが示されている。特に、免疫抑制機序によってT細胞が腫瘍細胞に対する殺作用を最終的に媒介しなくなる。抑制機序としては、T細胞が腫瘍組織に侵入できないようにすること、実際に腫瘍に入るT細胞の活性化を阻害することのほか、腫瘍細胞タンパク質を調節してT細胞のそのタンパク質に対する認識能または応答能を低下させることを挙げることができる。腫瘍進行を支えるうえでこのような免疫抑制経路が重要であることは、2種類のそのような抑制経路の受容体に対する抗体であるCTLA4およびPD-1/PDL1が示す臨床効果によって具体的に明らかにされており、これにより、メラノーマをはじめとする癌の治療に対して両抗体の販売が承認されている。
【0005】
B7は、活性化抗原提示細胞(APC)にみられる表在性膜タンパク質の一種であり、T細胞上の表面タンパク質CD28またはCD152(CTLA-4)と対になると、それぞれ共刺激シグナルまたは共抑制シグナルを発生して、抗原提示細胞(APC)とT細胞との間のMHC-TCRシグナルの活性を増大または低下させ得る。B7は活性化APC上に存在することに加え、T細胞そのものにもみられる。
【0006】
抗原に対する免疫系の活性化にはいくつかの段階がある。最初にT細胞受容体が、その特異的ペプチド抗原(Ag)と主要組織適合複合体(MHC)表面タンパク質とが結合した複合体と相互作用しなければならない。T細胞表面上のCD4タンパク質またはCD8タンパク質がMHCと相互作用して、抗原結合鎖二量体(アルファ/ベータまたはガンマ/デルタ)とCD3シグナル伝達複合体(ガンマ鎖、デルタ鎖、イプシロン鎖およびゼータ鎖を含む)の両方を含むT細胞受容体複合体とMHC/Agとの相互作用を安定化させる。これは「シグナル1」とも呼ばれ、その主な目的は、最初のシグナル伝達を生じさせ、T細胞活性化の抗原特異性を確保することである。
【0007】
しかし、MHC結合のみではエフェクターT細胞の完全な分化および活性化を刺激するのに十分ではない。実際、さらなる刺激シグナルがないと、T細胞が反応不顕性になり得る。免疫応答を続行させるのに必要な共刺激シグナルは、B7-CD28相互作用およびCD40-CD40L相互作用から生じ得る。これ以外にも免疫応答に何らかの役割を果たす活性化シグナルがいくつかある。例えば、TNF分子ファミリーのうち、T細胞上のタンパク質4-1BB(CD137)はAPC上の4-1BBLと結合し得る。
【0008】
B7(CD80/B7-1および/またはCD86/B7-2)タンパク質はAPC表面上に存在し、T細胞表面上のCD28受容体と相互作用する。これが「シグナル2」の発生源の1つとなる(サイトカインはT細胞活性化にも寄与すると考えられ、「シグナル3」と呼ばれることがある)。この相互作用によって標的T細胞の生存、活性化およびエフェクター細胞への分化を促進する一連の下流シグナルが生じ、これがウイルス感染細胞または腫瘍細胞に対する殺作用および炎症細胞の動員などの免疫応答の諸相を媒介し得る。
【0009】
T細胞応答の開始には通常、抗原提示細胞によって刺激シグナルおよび共刺激シグナルがもたらされ、CD4 T細胞応答およびCD8 T細胞応答の両方が誘導される。しかし、エフェクターCD8 T細胞は、腫瘍細胞を含めたほとんどの有核細胞上に存在するMHCクラスI分子と結合したそのAgを認識する。それでも本発明者らには、T細胞を活性化するシグナルが同じ細胞または細胞型に由来するものである必要はないと考える理由がある。したがって、例えば癌細胞の表面上の免疫系に1つまたは複数のこれらのシグナル(すなわち、刺激性シグナルおよび/または共刺激シグナル)を供給するのが有用であると考えられる。
【0010】
PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)および/またはそのリガンドPDL1(B7-H1としても知られる)の活性が、例えば癌における免疫応答のダウンレギュレーションに重要な役割を果たしていると考えられることから、現在、この経路の阻害に大きな注目が集まっている。
【0011】
一方、CD80(B7-1)がT細胞上のCD28と結合することによってT細胞共刺激因子としての役割を果たすのみならず、例えば同じ細胞膜上に発現すると、PDL1に結合し、PDL1-PD1阻害シグナル伝達相互作用を阻止し得ることを示唆する研究もある。このように、CD80は、2つの異なる方法で作用することによって、ヒトT細胞の活性化を回復または増大させるのに有望でより有用な分子となる可能性を秘めていると思われる。このほか、可溶型CD80がPDL1-PD1を介するT細胞阻害を打ち消すことが可能であると思われ、例えば、Haileら,Soluble CD80 Restores T Cell Activation and Overcomes Tumor Cell Programmed Death Ligand 1-Mediated Immune Suppression,J Immunol 2013;191:2829-2836を参照されたい。これまでにCD80-Fc融合タンパク質が作製され、安全性および有効性の試験の段階にあり、Journal of Immunology,2014,193:3835-3841を参照されたい。
【0012】
本発明者らは、B7タンパク質またはその活性フラグメントを腫瘍溶解性ウイルスによって、例えば癌細胞の表面に送達して発現させれば、患者自身の免疫系を活性化させて癌と戦わせるのに有用であると考える。
【0013】
さらに、CD80などのB7タンパク質を単純に全身投与すれば、望ましくない方法で全身の免疫応答を刺激する可能性がある。本発明者らは、有益な治療効果が得られオフターゲット効果が最小限に抑えられる適切な治療域をもたらすには、これらのタンパク質をより洗練された形で送達する必要があるものと考える。
【発明の概要】
【0014】
したがって、癌細胞に対する選択性を有する腫瘍溶解性アデノウイルスであって、ウイルスに内在するプロモーターの制御下に導入遺伝子を含み、導入遺伝子が、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードするDNA配列を含む、アデノウイルスを提供する。これは、本開示による腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞に優先的に感染し、それにより癌が作り出した微小環境に侵入するため、有益なものである。癌細胞内に入ると、ウイルスがコードするB7タンパク質が、例えば細胞表面(すなわち、癌細胞表面)に発現し得る。このことは、B7タンパク質が生物学的な活性を示し得る所望の位置にあることから有利である。
【0015】
一実施形態では、コードされるB7タンパク質は、細胞表面のタンパク質に係留することが可能な配列、例えば膜貫通ドメイン配列、GPIアンカーなどを含む。
【0016】
したがって、一実施形態では、特に癌細胞表面でB7タンパク質またはB7分子を発現する本開示のウイルスを癌細胞に感染させ、ここでは、B7タンパク質は、少なくとも共刺激シグナル、すなわちシグナル2を発生させてT細胞を活性化するのに適しており、かつ/または局所微小環境の癌細胞をはじめとする細胞の表面に発現するPD-L1と結合してこの活性を阻害し得るものである。
【0017】
一実施形態では、B7配列は、B7タンパク質由来の膜貫通要素、例えば、特定のB7タンパク質に天然の膜貫通要素または具体的に発現するものとは「異なる」B7タンパク質由来の膜貫通ドメインを含む。
【0018】
B7タンパク質は表面発現タンパク質であり、ほかにも、例えば少なくともB7タンパク質の膜貫通ドメインを追加のタンパク質と結合させた場合、癌細胞表面に追加のタンパク質を運搬するのに用いることができる。
【0019】
したがって、一態様では、癌細胞に対する選択性を有する複製可能な腫瘍溶解性アデノウイルスであって、ウイルスに内在するプロモーターの制御下に導入遺伝子を含み、導入遺伝子が、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードするDNA配列を含む、ウイルスを提供する。
【0020】
このほか、請求項1に記載の複製可能な腫瘍溶解性ウイルスであって、B7タンパク質またはその活性フラグメントが、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5およびB7-H6を含む群より独立して選択され、特にB7タンパク質がB7-1(CD80)またはその活性フラグメントである、ウイルスを提供する。
【0021】
一実施形態では、複製可能な腫瘍溶解性ウイルスはB群アデノウイルスである。
【0022】
一実施形態では、複製可能な腫瘍溶解性ウイルスはキメラウイルスである。
【0023】
一実施形態では、複製可能な腫瘍溶解性ウイルスは、enadenotucirev(EnAdとも呼ばれる)である骨格を有する。
【0024】
一実施形態では、複製可能な腫瘍溶解性ウイルスは式(I):
5’ITR-B1-BA-B2-BX-BB-BY-B3-3’ITR
(I)
を有し、
B1は、E1A、E1BまたはE1A-E1Bを含み;
BAはE2B-L1-L2-L3-E2A-L4であり;
B2は、結合であるか、例えば内在性プロモーターまたは外来プロモーターの下にE3または導入遺伝子を含み;
BXは、結合であるか、制限部位、1つもしくは複数の導入遺伝子またはその両方を含むDNA配列であり;
BBはL5を含み;
BYは、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含み;
B3は、結合であるか、E4を含む。
【0025】
一実施形態では、請求項1~7のいずれか1項に記載の複製可能な腫瘍溶解性ウイルスにおいて、B7タンパク質またはその活性フラグメントが、膜貫通配列、例えばPDGF受容体由来の膜貫通ドメインまたは細胞膜内にタンパク質もしくはフラグメントを係留するのに適したGPIアンカーを含む。
【0026】
一実施形態では、複製可能な腫瘍溶解性ウイルスは、例えばサイトカイン、ケモカイン、アンタゴニスト抗体分子またはそのフラグメントおよびアゴニスト抗体分子またはそのフラグメントを含む群より選択されるポリペプチドをコードする、第二の導入遺伝子をさらに含む。
【0027】
一実施形態では、例えばサイトカイン、ケモカイン、抗体、例えばアンタゴニスト抗体分子もしくはそのフラグメントまたはアゴニスト抗体分子もしくはそのフラグメントなどを含む群より選択される2つの異なるポリペプチドをコードする、第二の導入遺伝子および第三の導入遺伝子。
【0028】
一実施形態では、第二の導入遺伝子または第三の導入遺伝子は、IL-2、IFNα、IFNβ、IFNγ、Flt3リガンド、GM-CSF、IL-15およびIL-12を含む群より選択されるサイトカインをコードする。
【0029】
一実施形態では、第二の導入遺伝子または第三の導入遺伝子は、MIP1α、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19およびCCL21を含む群より選択されるケモカインをコードする。
【0030】
一実施形態では、Mip1αとFlt3リガンドおよびMIP1αとIFNαを含む群より選択されるサイトカインとケモカインの組合せがウイルスによってコードされる。
【0031】
一実施形態では、ウイルスは、例えば、細胞膜係留型になるよう膜貫通配列またはGPIアンカーを含むか、例えばPDGF受容体由来の膜貫通ドメインを含む、抗体分子またはそのフラグメントをコードする。
【0032】
一実施形態では、抗体分子またはその結合フラグメントは抗ヒトCD3抗原結合ドメインを含む。
【0033】
一実施形態では、抗体分子は、例えば、血管新生因子の阻害物質、例えば抗VEGF抗体分子などおよびT細胞不活化因子の阻害物質、例えば抗CTLA-4抗体分子などを含む群より選択される、阻害物質である。
【0034】
一実施形態では、抗体分子は、例えばCD40、GITR、OX40、CD27および4-1BBを含む群より選択される1つまたは複数のものに対するアゴニストである。
【0035】
一実施形態では、ウイルスがコードする1つまたは複数の外来タンパク質は、癌細胞表面での発現に適した形態である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】T細胞による抗原提示細胞または腫瘍細胞の認識に関与する重要な分子の一部および応答T細胞内で誘導されるシグナル伝達事象の一部を示す図である。このほか、PDL1の構造およびPD1のIgVドメインとの相互作用が示されている。
【
図2】B7ファミリーリガンドおよびCD28ファミリー受容体の結合パートナーの一部を示す図である。
【
図3-1】ヒトCD80を発現するウイルス(
図3A)、ヒトIFNαおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3B)、OKT3 scFvおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3C)、ヒトFlt3L、ヒトMIP1αおよびヒトIFNαを共発現するウイルス(
図3D)、ヒトFlt3L、ヒトMIP1αおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3E)、ヒトIFNα、ヒトMIP1αおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3F)の導入遺伝子カセットの模式図ならびにオープンリーディングフレーム(ORF)またはOKT3 scFv(
図3G)の模式図である。
【
図3-2】ヒトCD80を発現するウイルス(
図3A)、ヒトIFNαおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3B)、OKT3 scFvおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3C)、ヒトFlt3L、ヒトMIP1αおよびヒトIFNαを共発現するウイルス(
図3D)、ヒトFlt3L、ヒトMIP1αおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3E)、ヒトIFNα、ヒトMIP1αおよびヒトCD80を共発現するウイルス(
図3F)の導入遺伝子カセットの模式図ならびにオープンリーディングフレーム(ORF)またはOKT3 scFv(
図3G)の模式図である。
【
図4】EnAd(ColoAd1)およびヒトCD80をコードするウイルスNG-330のHT-29腫瘍細胞(
図4A)およびA549腫瘍細胞(
図4B)での複製を示す図である。
【
図5】NG-330感染後の様々な時間におけるA549腫瘍細胞(
図5A)またはHT-29腫瘍細胞(
図5B)の膜でのCD80の発現を蛍光免疫染色によって示す図である。EnAdも未感染腫瘍細胞(UIC)も細胞膜にCD80の発現はみられなかった。
【
図6】HT-29細胞毒性アッセイでEnAdとNG-330の腫瘍溶解能が同程度であることを示す図である。したがって、NG-330は、その腫瘍溶解特性を保持すると同時に導入遺伝子も保有している。
【
図7】EnAdとCD80+IFNα発現NG-343ウイルスの腫瘍溶解能が同程度であること(
図7A)ならびにNG-343を感染させたHT-29腫瘍細胞およびA549腫瘍細胞による最大72時間にわたるIFNαの分泌を示す図である。
【
図8-1】感染から48時間後または72時間後のCD80発現および腫瘍細胞殺作用を抗CD8免疫染色および細胞生存染色を用いたFACS解析によって示す図である。NG-343処理細胞は生存細胞および死滅細胞ともに細胞表面にCD80を検出することができたが、EnAdまたは未感染対照(UIC)A549腫瘍細胞には検出することができなかった(
図8A~8D)。A549腫瘍細胞、HT-29腫瘍細胞ともに同程度のCD80発現がみられた(
図8E)。
【
図8-2】感染から48時間後または72時間後のCD80発現および腫瘍細胞殺作用を抗CD8免疫染色および細胞生存染色を用いたFACS解析によって示す図である。NG-343処理細胞は生存細胞および死滅細胞ともに細胞表面にCD80を検出することができたが、EnAdまたは未感染対照(UIC)A549腫瘍細胞には検出することができなかった(
図8A~8D)。A549腫瘍細胞、HT-29腫瘍細胞ともに同程度のCD80発現がみられた(
図8E)。
【
図9-1】EnAd、NG-343ともに腫瘍細胞(HT-29)および非腫瘍細胞(MRC5細胞、WI38細胞および気管支上皮細胞)でのウイルス複製が同程度であることを示す図であり、非腫瘍細胞では、複製のレベルがはるかに低く(
図9A)、NG-343感染後のIFNα分泌(
図9B)およびCD80発現(
図9C)はHT-29腫瘍細胞にのみ検出された。
【
図9-2】EnAd、NG-343ともに腫瘍細胞(HT-29)および非腫瘍細胞(MRC5細胞、WI38細胞および気管支上皮細胞)でのウイルス複製が同程度であることを示す図であり、非腫瘍細胞では、複製のレベルがはるかに低く(
図9A)、NG-343感染後のIFNα分泌(
図9B)およびCD80発現(
図9C)はHT-29腫瘍細胞にのみ検出された。
【
図10】NG-343を感染させたA549腫瘍細胞によって、PBMC共培養物のDC表面のCD80およびPD-L1の両方の表面レベルが、EnAd感染腫瘍細胞培養物または未感染腫瘍細胞培養物と比較して増大し得ることを示す図である。
【
図11-1】NG-347ウイルスを感染させたHT-29腫瘍細胞(
図11Aおよび11C)およびA549腫瘍細胞(
図11Bおよび11C)によるIFNαおよびCD80の発現を示す図である。
【
図11-2】NG-347ウイルスを感染させたHT-29腫瘍細胞(
図11Aおよび11C)およびA549腫瘍細胞(
図11Bおよび11C)によるIFNαおよびCD80の発現を示す図である。
【
図12】NG-345ウイルスを感染させたA549腫瘍細胞によるMIP1α(
図12A)、IFNα(
図12B)およびFlt3L(
図12C)の発現を示す図である。
【
図13】HT-29細胞傷害性アッセイでEnAdウイルス、NG-347ウイルスおよびNG-348ウイルスの腫瘍溶解能(
図13Aおよび13B)および感染力(
図13C)が同程度であることを示す図である。
【
図14-1】NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルスを感染させたA549腫瘍細胞の細胞表面には48時間後までにCD80が高発現するが、EnAdを感染させてもCD80はほとんどないし全く発現しないことを示す図である。
【
図14-2】NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルスを感染させたA549腫瘍細胞の細胞表面には48時間後までにCD80が高発現するが、EnAdを感染させてもCD80はほとんどないし全く発現しないことを示す図である。
【
図15-1】NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルスを感染させたDLD-1腫瘍細胞の細胞表面には48時間後までにCD80が高発現するが、EnAdを感染させてもCD80はほとんどないし全く発現しないことを示す図である。
【
図15-2】NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルスを感染させたDLD-1腫瘍細胞の細胞表面には48時間後までにCD80が高発現するが、EnAdを感染させてもCD80はほとんどないし全く発現しないことを示す図である。
【
図16】NG-348を感染させヒトCD3
+T細胞と共培養したEpCam
+A549細胞にはCD80が発現するが、EnAdを感染させた場合には発現しないことを示す図である。
【
図17-1】ヒトCD3
+T細胞をNG-348感染A549細胞と共培養するとCD25がアップレギュレートされるが、感染がEnAdによるものである場合(
図17A)、CD25
+細胞の割合(
図17B)も1細胞当たりのCD25発現レベル(
図17C)も増大しないことを示す図である。
【
図17-2】ヒトCD3
+T細胞をNG-348感染A549細胞と共培養するとCD25がアップレギュレートされるが、感染がEnAdによるものである場合(
図17A)、CD25
+細胞の割合(
図17B)も1細胞当たりのCD25発現レベル(
図17C)も増大しないことを示す図である。
【
図18-1】CD4
+およびCD4
-(主としてCD8)ヒトCD3
+T細胞サブセットをNG-348感染A549細胞と共培養すると、ともにCD25がアップレギュレートされるが、感染がEnAdによるものである場合はアップレギュレートされないことを示す図である。
【
図18-2】CD4
+およびCD4
-(主としてCD8)ヒトCD3
+T細胞サブセットをNG-348感染A549細胞と共培養すると、ともにCD25がアップレギュレートされるが、感染がEnAdによるものである場合はアップレギュレートされないことを示す図である。
【
図19】NG-348またはEnAdを感染させたA549細胞と共培養したヒトCD3
+T細胞のHLA-DR発現レベルが低いことを示す図である。
【
図20】生存CD3
+T細胞をNG-348感染A549細胞と共培養すると、その表面にCD107aの発現が誘導されるが、感染がEnAdによるものである場合は誘導されないことを示す図である。
【
図21-1】CD4
+およびCD4
-CD3
+T細胞サブセットをNG-348感染A549細胞と共培養すると、ともにその表面にCD107aの発現が誘導されるが、感染がEnAdによるものである場合は誘導されないことを示す図である。
【
図21-2】CD4
+およびCD4
-CD3
+T細胞サブセットをNG-348感染A549細胞と共培養すると、ともにその表面にCD107aの発現が誘導されるが、感染がEnAdによるものである場合は誘導されないことを示す図である。
【
図22】CD3
+T細胞をNG-348感染A549細胞と共培養すると、そのIL-2産生(
図22A)およびIFNγ産生(
図22B)が誘導されるが、感染がEnAdによるものである場合、IL-2産生は全くみられず、IFNγ産生は低レベルにとどまることを示す図である。
【
図23】CD4
+およびCD8
+CD3
+T細胞をNG-348感染A549細胞と共培養すると、ともにそのIFNγ産生が誘導される(
図22B)が、感染がEnAdによるものである場合、IFNγ産生は全くみられない(CD4
+細胞)か低値(CD8
+細胞)であることを示す図である。
【
図24】ヒトCD3
+T細胞をNG-347感染A549細胞と共培養した場合、感染がEnAdによるものである場合よりもCD69がアップレギュレートされることを示す図である。
【
図25】ヒトCD3
+T細胞をNG-347感染A549細胞と共培養すると、そのIFNγ産生が誘導されるが、感染がEnAdによるものである場合は誘導されないことを示す図である。
【
図26】NG-348A、NG-420およびNG-420Aの導入遺伝子カセットの模式図である。
【
図27】EnAd、NG-347およびNG-348のゲノム複製およびヘキソン遺伝子発現(mRNAレベル)をMRC-5線維芽細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図28】ウイルスNG-348のCD80および抗CD3-scFv導入遺伝子のmRNAならびにCD80導入遺伝子タンパク質(フローサイトメトリー)の発現をMRC-5線維芽細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図29】ウイルスNG-347のCD80導入遺伝子mRNAおよびCD80導入遺伝子タンパク質をMRC-5線維芽細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図30】ウイルスNG-347が産生したMIP1αおよびIFNαのmRNAおよび分泌タンパク質のレベルをMRC-5線維芽細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図31】精製ヒトT細胞培養物でのEnAd、NG-347およびNG-348のゲノム複製およびヘキソン遺伝子発現(mRNAレベル)を示す図である。
【
図32】ウイルスNG-348のCD80および抗CD3 scFv導入遺伝子のmRNAおよびタンパク質の発現(フローサイトメトリー)をヒトT細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図33】ウイルスNG-347のCD80導入遺伝子mRNAおよびCD80導入遺伝子タンパク質を精製ヒトT細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図34】ウイルスNG-347が産生したIFNα導入遺伝子およびMIP1α導入遺伝子のmRNAをT細胞とA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図35】NG-347およびNG-348のゲノム複製およびヘキソン遺伝子発現をヒトPBMCとA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図36】ウイルスNG-348が産生したCD80および抗CD3 scFvのmRNAをPBMCとA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図37】ウイルスNG-347が産生したCD80、IFNαおよびMIP1αのmRNAをPBMCとA549腫瘍細胞とで比較したものを示す図である。
【
図38】細胞表面でのCD14発現のダウンレギュレーションおよびCD80のアップレギュレーションによって測定されるEnAdウイルス粒子、NG-347ウイルス粒子およびNG-348ウイルス粒子によるヒト樹状細胞の活性化が同程度であることを示す図である。
【
図39】NG-348(A)またはNG-347(B)と培養したPBMCからの粒子媒介性MIP1αタンパク質およびIFNαタンパク質分泌がEnAdと比較して同程度であることを示す図である。
【
図40】NG-347またはNG-348のゲノム複製をMRC-5線維芽細胞との共培養物またはT細胞またはPBMCとA549腫瘍細胞との共培養物とで比較したものを示す図である。
【
図41】PBMCまたはT細胞とMRC-5線維芽細胞との共培養によって分泌されたINFγをA549腫瘍細胞およびEnAdまたはウイルスNG-348で処理した同細胞との共培養の場合と比較したものを示す図である。
【
図42】EnAdウイルス粒子、NG-347ウイルス粒子またはNG-348ウイルス粒子で処理したヒト樹状細胞によって分泌されたMIP1αおよびIFNαを示す図である。
【
図43】EnAd、NG-347またはNG-348を感染させたA549腫瘍細胞と共培養したJurkatDualレポーターT細胞でのNFκBレポーター遺伝子およびIFNレポーター遺伝子の活性化を示す図である。
【
図44】EnAd、NG-347、NG-348またはNG-420で処理したA549腫瘍細胞、HCT-116腫瘍細胞、DLD腫瘍細胞およびHT29腫瘍細胞と共培養したJurkatDualレポーターT細胞にNF-κB-ルシフェラーゼレポーター活性がみられることを示す図である。
【
図45】ウイルスNG-348およびウイルスNG-420を感染させたA549腫瘍細胞またはHT29腫瘍細胞と共培養したJurkatDual細胞に、添加したウイルス粒子数に応じてNF-κB-ルシフェラーゼレポーター活性がみられることを示す図である。
【
図46】EnAdおよびウイルスNG-348の血中薬物動態;EnAdまたはウイルスNG-348に曝露したときの血中サイトカインレベル;CD1マウスにIV投与してから6時間後または24時間後のEnAdウイルスまたはNG-348ウイルスの組織生体内分布を示す図である。
【
図47】皮下HCT-116腫瘍異種移植片を担持するCB17-SCIDマウスにIV投与したときのEnAdウイルス、NG-347ウイルスおよびNG-348ウイルスの血中薬物動態を示す図である。
【
図48】腫瘍担持CB17-SCIDマウスに静脈内投与してから6時間後のEnAdウイルス、NG-347ウイルスおよびNG-348ウイルスの組織内分布ならびにEnAd、NG-347およびNG-348の静脈内投与後または腫瘍内投与後第7日および第14日~21日のHCT-116腫瘍異種移植片内のウイルスゲノム数を示す図である。
【
図49】静脈内投与後または腫瘍内投与後第7日または第14日~21日にHCT-116腫瘍異種移植片内でEnAdウイルス、NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルスによって産生されたウイルスヘキソンmRNAを示す図である。
【
図50】ウイルスNG-348の静脈内投与後第7日または第21日のHCT-116腫瘍異種移植片のヘキソンおよびCD80導入遺伝子のmRNAレベルを示す図である。
【
図51】ウイルスNG-348のIV投与後第7日または第14日~21日のHCT-116腫瘍異種移植片の抗CD3 ScFvをコードする導入遺伝子およびCD80をコードする導入遺伝子のmRNAレベルを示す図である。
【
図52】ウイルスNG-347の静脈内投与後第7日または第14日~21日のHCT-116腫瘍異種移植片のMIP1α導入遺伝子およびIFNα導入遺伝子のmRNAレベルを示す図である。
【
図53】ウイルスNG-348の静脈内投与後第7日および第21日のHCT-116腫瘍異種移植片でのCD80タンパク質発現ならびにウイルスNG-347の静脈内投与後のHCT-116腫瘍でのMIP1αタンパク質およびCD80タンパク質の発現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
【0038】
(本開示の詳細な説明)
B7はタンパク質ファミリーの1つである。
【0039】
本開示の腫瘍溶解性ウイルス内でコードされるB7タンパク質は、そのタンパク質ファミリーのメンバーの細胞外ドメインが一般に生物学的機能を調節することから有用なものであり得、例えば、B7-1細胞外ドメインを用いてT細胞をプライムまたは刺激し得る。実際の生物学的機能は、所与の各B7タンパク質の細胞外ドメインに固有のものである(すなわち、一般にB7ファミリーのタンパク質メンバーによって機能が異なる)。B7-1および/またはB7-2などのB7タンパク質の機能としてはほかにも、CD28および/またはCTLA-4と結合する能力のほか、特に、関連する1つまたは複数のシグナル伝達カスケードにシグナルを伝達したり、これを活性化したりする能力を挙げることができる。
【0040】
上記のものに加えて、またはこれに代えて、B7タンパク質の膜貫通ドメインを用いて、例えば膜貫通ドメインと関連タンパク質のC末端とを融合することによって、本開示のウイルスがコードするタンパク質を癌細胞の表面に導くことができる。
【0041】
本明細書で使用されるB7タンパク質は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、B7ファミリーのタンパク質の完全長配列または同配列との類似性もしくは同一性が少なくとも95%(例えば関連配列全体との類似性または同一性が96%、97%、98%、99%または100%など)である配列を指す。B7ファミリーとしては、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6、B7-H7が挙げられる。完全長タンパク質を用いる場合、一般に、そのタンパク質の正常な生物学的機能が少なくとも1つ存在する。
【0042】
B7ファミリーに関して使用される完全長タンパク質は少なくとも細胞外ドメインを指し、これには、キメラB7タンパク質であって、キメラの配列がB7タンパク質の構造および機能を有し、キメラを構成する配列がB7ファミリーのタンパク質から選択されるものである、キメラB7タンパク質が含まれる。フラグメントまたは完全長のB7タンパク質中の要素は、同じB7タンパク質または異なるB7タンパク質に由来するものであり得る。したがって、一実施形態では、B7フラグメントまたはB7タンパク質はキメラである。
【0043】
本明細書で使用されるキメラB7タンパク質は、キメラを構成する実質的にすべての配列がB7タンパク質に由来するものを指し、例えば、キメラの配列の少なくとも98%が、互いに融合したB7タンパク質のフラグメントである。したがって、本明細書で使用されるキメラフラグメントは、2つ以上の異なるB7タンパク質に由来する配列を含むフラグメントを指す。
【0044】
一実施形態では、完全長B7タンパク質は細胞外ドメイン、例えば単一のB7-1および/またはB7-2などのB7タンパク質に由来する細胞外ドメインを含む。
【0045】
一実施形態では、完全長B7タンパク質は細胞外ドメインと膜貫通ドメイン、例えば同じB7タンパク質に由来する細胞外ドメインと膜貫通ドメイン、あるいはB7タンパク質(B7-1および/またはB7-2など)に由来する細胞外ドメインと、全く別のタンパク質に由来する膜貫通ドメインまたはこれに相当するもの、例えば脂質膜アンカーなどとを含む。
【0046】
一実施形態では、完全長キメラB7タンパク質は、あるB7タンパク質(B7-1および/またはB7-2など)の細胞外ドメインと、別のB7タンパク質に由来する膜貫通とを含み得る。
【0047】
一実施形態では、完全長B7タンパク質は細胞外ドメインと膜貫通ドメインと細胞内ドメイン、例えばすべて同じB7タンパク質に由来するものまたは2つ以上の異なるB7タンパク質に由来するものを含む。
【0048】
本明細書で使用されるB7タンパク質の活性フラグメントはB7タンパク質の機能、例えば癌細胞表面での発現を促進する機能をはじめとするB7タンパク質の生物学的機能を少なくとも1つ有するフラグメントを指す。
【0049】
一実施形態では、フラグメントは完全長タンパク質の少なくとも50%の活性、例えば完全長タンパク質の60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の活性を有する。
【0050】
一実施形態では、活性フラグメントは、B7細胞外ドメインまたは同ドメインとの類似性もしくは同一性が少なくとも95%、例えば96%、97%、98%、99%もしくは100%などである配列を含むか、これよりなるものである。
【0051】
一実施形態では、B7フラグメントは、B7タンパク質、特にB7-1などの本明細書に記載されるB7タンパク質に由来する膜貫通ドメインを含むか、これよりなるものである。後者を用いることは、細胞表面での発現に寄与するものと考えられる。
【0052】
一実施形態では、活性B7フラグメントは細胞外ドメインの一部分であり得る。
【0053】
活性フラグメント、例えば膜貫通フラグメントまたはより多くB7ドメインを含む大きいフラグメントを追加のタンパク質との融合タンパク質に用いて、例えば癌細胞表面での追加のタンパク質の発現を促進し得る。
【0054】
本明細書で使用される大きいフラグメントは、大きさまたは重量そのものを指すのではなく、配列情報のレパートリーが多く(すなわち、フラグメントが少なくとも2つのB7ドメインに由来する配列を含み)、それがより多くの機能をもたらし得ることを指す。
【0055】
一実施形態では、大きいフラグメントは、関連するB7タンパク質の一部の生物活性を含む。一実施形態では、活性B7フラグメントは、完全長タンパク質の基本的な生物活性、例えばT細胞をプライムまたは活性化する能力を保持しているフラグメントである。
【0056】
所与のタンパク質フラグメントの活性を関連するin vitroアッセイで、例えば本明細書の実施例に記載されるアッセイを用いて、例えば完全長タンパク質を対照に用いて分析し得る。活性フラグメントが膜貫通ドメインである場合、例えば本明細書の実施例に記載されるアッセイを用いて、膜貫通ドメインが結合している関連タンパク質の細胞表面での発現を分析することによって、活性を評価することができる。
【0057】
完全長B7タンパク質が融合タンパク質の一部分である場合、B7部分と追加のタンパク質とを、ある配列の終端と次のタンパク質配列の始端との間のアミド結合によって結合させるか、リンカーによって連結させ得る。リンカーの例はのちに記載する。
【0058】
膜貫通ドメインを含む完全長B7タンパク質を用いて、B7タンパク質の細胞外ドメインおよび同ドメインと融合または結合したタンパク質またはフラグメントを感染癌細胞の表面に提示させることができる。この実施形態では一般に、B7タンパク質が癌細胞の表面に結合し、「もう一方の」タンパク質がN末端および癌細胞表面の細胞外側にある。
【0059】
それでも、タンパク質は所望の通りに配置することができ、例えば、B7細胞外ドメインをN末端側とし、そのC末端側に次のタンパク質またはフラグメントを融合または結合させ、次いでそのC末端側に膜貫通ドメイン、例えばB7タンパク質由来の膜貫通ドメインを融合または結合させることができる。
【0060】
一般に、融合タンパク質に完全長B7タンパク質を用いる場合、B7タンパク質と追加のタンパク質はともに生物学的機能を有する。
【0061】
本明細書で使用される融合タンパク質は、互いに直接融合しているか、例えばリンカーによって互いに連結している、少なくとも2つのタンパク質もしくはフラグメントまたは少なくとも1つのタンパク質と少なくとも1つのフラグメントの組合せを指す。
【0062】
本明細書で使用される融合は一般に、あるポリペプチド(またはタンパク質/フラグメント)の終端と次のポリペプチド(またはタンパク質/フラグメント)の始端との間のアミド結合を指す。
【0063】
結合は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、2つの実態、例えば2つのポリペプチド配列などがリンカーを介して連結されていることを指す。リンカーとは、両ポリペプチドに天然には存在しない配列または両ポリペプチドに対してその特定の位置に存在しない配列のことである。
【0064】
一実施形態では、融合タンパク質はB7タンパク質またはその活性フラグメントを含む。本明細書では、B7フラグメントまたはB7タンパク質と追加のタンパク質とを含む融合タンパク質のことをキメラタンパク質とは呼ばない。本明細書で使用される融合タンパク質は一般に、B7タンパク質またはそのフラグメントと別の非B7タンパク質/フラグメントとの組合せを指す。
【0065】
本明細書では上記のように、異なるB7タンパク質に由来するフラグメントを含むタンパク質に限りキメラであると言う。
【0066】
一実施形態では、本開示の融合タンパク質は、B7タンパク質もその活性フラグメントも含まず、B7タンパク質またはそのフラグメントに加えて本開示のウイルスによってコードされる。
【0067】
したがって、本開示のウイルスは、B7タンパク質または活性フラグメントに加えていくつかの実態をコードし得るものであり、そのような実体としては追加のタンパク質が挙げられる。
【0068】
B7ファミリー
一実施形態では、B7は、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6、B7-H7、その活性フラグメントおよびこれらの組合せより独立して選択される。一実施形態では、B7タンパク質は、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)またはそのいずれかの活性フラグメントおよびこれらの組合せ、特にB7-1またはその活性フラグメントである。
【0069】
B7タンパク質としてはB7-1(CD80としても知られる:uniprot番号P33681)、B7-2(CD86としても知られる:uniprot番号P42081)が挙げられる。これらのタンパク質はCD28およびCTLA-4と結合する。
【0070】
一実施形態では、CD80は以下の配列:
MGHTRRQGTSPSKCPYLNFFQLLVLAGLSHFCSGVIHVTKEVKEVATLSCGHNVSVEELAQTRIYWQKEKKMVLTMMSGDMNIWPEYKNRTIFDITNNLSIVILALRPSDEGTYECVVLKYEKDAFKREHLAEVTLSVKADFPTPSISDFEIPTSNIRRIICSTSGGFPEPHLSWLENGEELNAINTTVSQDPETELYAVSSKLDFNMTTNHSFMCLIKYGHLRVNQTFNWNTTKQEHFPDNLLPSWAITLISVNGIFVICCLTYCFAPRCRERRRNERLRRESVRPV(配列番号11)
を有する。
【0071】
B7タンパク質としてはほかにも、B7-DC(PDCD1LG2およびPD-L2としても知られる:uniprot番号Q9BQ51)、B7-H1(PD-L1およびCD274としても知られる:Uniprot番号Q9NZQ7)が挙げられる。これらのタンパク質はともにPD-1と結合する。
【0072】
プログラムデスリガンド1(PD-L1)は40kDaの1型膜貫通タンパク質であり、免疫系の抑制に主要な役割を果たすと考えられている。PD-L1のアップレギュレーションによって癌が宿主免疫系を回避できるものと思われる。腎細胞癌患者の腫瘍検体196例の分析から、腫瘍にPD-L1が高発現することによって、腫瘍侵襲性が増大し死亡リスクが4.5倍になることがわかっている。卵巣癌では、PD-L1の発現が高い患者の方が発現の低い患者よりも予後が有意に不良であった。PD-L1発現は上皮内CD8+Tリンパ球数と逆相関があり、腫瘍細胞上のPD-L1が抗腫瘍CD8+T細胞を抑制する可能性が示唆されている。その作用は腫瘍のタイプによって異なると考えられ、非小細胞肺癌患者を対象にした研究では、PD-L1のタンパク質およびmRNAの発現が高いと、局所リンパ球浸潤が増大し生存期間が長くなることがわかっている。臨床試験では、いくつかの抗PDL1抗体が複数の癌の治療に利益があることが明らかにされている。
【0073】
一実施形態では、本開示のウイルスで使用するB7-DCタンパク質および/またはB7-H1タンパク質あるいはそのフラグメントは免疫抑制を刺激するものではなく、例えば、免疫抑制機能が除去されるよう変異している。
【0074】
あるいは、PD-L1のアップレギュレーションによって予後良好/予後改善が得られる肺癌などの場合、非変異型のB7-H1細胞外ドメインをコードするウイルスを用いてしかるべき癌を治療し得る。
【0075】
一実施形態では、少なくともB7-DCおよび/またはB7-H1の細胞質ドメイン(細胞内ドメイン)が欠失しているか非機能的である。理論に束縛されることを望むものではないが、細胞内ドメインを除去すると癌細胞の溶解に対する耐性が低下することを示唆する証拠がある(Blood 2008,April 1;111(7)3635-3643)。
【0076】
一実施形態では、B7-DCおよび/またはB7-H1の膜貫通ドメインフラグメントのみを用いる。一実施形態では、以下のタンパク質は、関連する生物活性を有する完全長タンパク質B7-DCおよびB7-H1として提供されない。
【0077】
B7タンパク質としてはほかにも、ICOSと結合するB7-H2(ICOSLG、B7RP1、CD275としても知られる:Uniprot番号O75144)、B7-H3(CD276としても知られる:Uniprot番号Q5ZPR3)、B7-H4(VTCN1としても知られる:Uniprot番号Q727D3)、B7-H5(VISTA、血小板受容体Gi24、SISP1としても知られる)、NKp30と結合するB7-H6(NCR3LG1、NR3L1としても知られる)、CD28Hと結合するB7-H7(HHLA2としても知られる)が挙げられる。
【0078】
一実施形態では、フラグメントは、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6およびB7-H7のいずれか1つの膜貫通ドメインのみを含む。
【0079】
個々のタンパク質には単一のタンパク質、すなわち、融合タンパク質(キメラタンパク質を含む)の一部分ではないタンパク質またはその活性フラグメントのほか、融合タンパク質も含まれる。一実施形態では、個々のタンパク質は単一のタンパク質(その活性フラグメントを含む)である。
【0080】
一実施形態では、B7タンパク質の細胞質ドメインが存在する。一実施形態では、細胞質ドメインは存在しない。細胞質ドメインが存在しないと癌細胞への細胞内シグナル伝達が減少または消失することがあり、このことは、のちに記載する1つまたは複数の実施形態に関連する。
【0081】
「膜貫通ドメイン」
一実施形態では、B7タンパク質に由来するもの以外の膜貫通ドメインを用いて、本開示のウイルスによってコードされたタンパク質(融合タンパク質を含む)を感染癌細胞の表面に発現させ、例えば、膜貫通ドメインを用いて、感染癌細胞の表面に活性B7タンパク質フラグメントまたは目的とする別のタンパク質を提示させることができる。あるいは、膜貫通ドメインを用いて、上記表面に融合タンパク質、例えばB7タンパク質またはその活性フラグメントを含む融合タンパク質を提示させることができる。一実施形態では、PDGF受容体またはそのフラグメントに由来する膜貫通ドメインを用いて、癌細胞表面にB7タンパク質および/または別のタンパク質を発現させる。
【0082】
一実施形態では、本開示で使用する膜貫通テザー配列または膜貫通アンカー配列は、PDGFR TMドメイン(例えば、ala513~arg561)、例えばAVGQDTQEVIVVPHSLPFKVVVISAILALVVLTIISLIILIMLWQKPR(配列番号2)などを含む。
【0083】
一実施形態では、本開示で使用するテザー配列またはアンカー配列はタグ、例えば、PDGF受容体またはそのフラグメント、例えばPDGFR TMドメイン、特に配列番号2などに結合したタグを含む。
【0084】
適切なタグとしては、Hisタグ、Flagタグ、c-mycタグなどが挙げられる。より具体的には、テザーまたはアンカーは、例えば配列番号106:EQKLISEEDLのc-mycタグを含んでよく、それに続いて配列番号2:AVGQDTQEVIVVPHSLPFKVVVISAILALVVLTIISLIILIMLWQKKPRなどに示すPDGFR TMドメインを使用する(例えば、ala513~arg561)。
【0085】
一実施形態では、c-mycタグは、例えばgsEQKLISEEDLn(配列番号107;小文字はスペーサーとしてタグに付加されているアミノ酸を表す)のように、3’末端および/または5’末端にスペーサーまたはスペーサーアミノ酸を含む。
【0086】
一実施形態では、使用するテザー配列またはアンカー配列はgsEQKLISEEDLnAVGQDTQEVIVVPHSLPFKVVVISAILALVVLTIISLIILIMLWQKKPR(配列番号108;小文字はアミノ酸スペーサーを表す)である。
【0087】
テザーまたはアンカーを結合させるタンパク質/ポリペプチドは一般に、停止コドンを含まない。
【0088】
本開示によるウイルスがコードする1つまたは複数の外来タンパク質は一般に、リーダー配列(シグナルペプチドとも呼ばれる)を含む。リーダー配列は、例えば、タンパク質またはポリペプチドのN末端に位置する長さ約5~30アミノ酸の配列である。
【0089】
一実施形態では、癌細胞表面に発現させるタンパク質のリーダー配列は、ヒトリーダー配列、例えばHuVHSSである。
【0090】
一実施形態では、ORFカセットの構造は以下の通りであり:
LS-POLY-TAG-TM_D
式中、
LSはリーダー配列、例えばヒトリーダー配列であり;
POLYは、目的のポリペプチドまたはタンパク質、特に本明細書に開示されるものをコードするポリヌクレオチドである;
TAGはタグ、例えば、c-myc、特に配列番号100または106などの本明細書に開示されるものであり;
TM_DはTMドメイン、例えばPDGFR TMドメイン、例えば配列番号2である。
【0091】
ポリペプチドがscFvである場合、ORFは以下のものであり得:
LS-VAR1-LINK-VAR2-TAG-TM_D
式中、
LSはリーダー配列、例えばヒトリーダー配列であり;
VAR1は、VH領域などの可変領域をコードするポリヌクレオチドであり;
LINKはリンカー、例えば、G4Sの単位に基づくリンカー、特に配列番号104:GGGGSGGGGSGGGGSなどの本明細書に開示されるリンカーであり;
VAR2は、VL領域などの可変領域をコードするポリヌクレオチドであり;
TAGはタグ、例えば、c-myc、特に配列番号100または106などの本明細書に開示されるものであり;
TM_DはTMドメイン、例えばPDGFR TMドメイン、例えば配列番号2である。
【0092】
本開示はほかにも、タグが膜の内側または外側に存在するようにポリペプチド鎖のN末端またはC末端にタグを含む諸実施形態、特に本明細書に具体的に記載されるものに及ぶ。したがって、膜の内側に位置するC末端タグは、ポリペプチドの結合にも機能にも干渉する可能性が低いため有利である。
【0093】
それでも、表面発現タンパク質のN末端にタグを発現させることは、そのタンパク質を発現する細胞の単離、同定および精製しやすくなり得ることを理由に有用な場合もある。
【0094】
一実施形態では、膜貫通ドメインと分泌シグナル配列の組合せを用いて、ウイルス(例えば、本明細書に記載されるもの)がコードするタンパク質を感染癌細胞の表面に発現させる。本発明者らは、コードされるタンパク質が腫瘍溶解性ウイルスによる感染を許容する細胞、すなわち癌細胞にのみ発現することを明らかにした。
【0095】
一実施形態では、感染癌細胞の表面にタンパク質を発現させるのに用いるフラグメント(膜貫通フラグメントなど)は、膜貫通αへリックスを形成する約20~25個の疎水性アミノ酸、例えば、PDGF受容体、インスリン様成長因子受容体、IL-6受容体、CD28、グリコホリン、LDL受容体、インフルエンザHAタンパク質、インスリン受容体、アシアロ糖タンパク質受容体、トランスフェリン受容体を含めたタンパク質から選択される。
【0096】
一実施形態では、感染癌細胞の表面にタンパク質を発現させるのに用いるフラグメント(膜貫通フラグメントなど)は、配列番号91、92、93、94または95で示されるTMドメイン配列(最小限の部分)を含む群より選択される:
【表2】
【0097】
一実施形態では、用いる膜貫通ドメインは、Gタンパク質共役受容体またはB型肝炎のS抗原に由来するものである。
【0098】
一実施形態では、B7タンパク質が癌細胞表面から遠位にある融合タンパク質末端に位置する、すなわち、細胞外空間に面している癌細胞の外側に位置するように、B7タンパク質またはB7フラグメントの完全長細胞外ドメインのほかにB7以外のタンパク質に由来する膜貫通ドメインも含む融合タンパク質を配置する。
【0099】
ウイルス
内在性プロモーターの制御下でB7タンパク質または活性フラグメントをコードするDNA配列を有することも、タンパク質が構成的に発現するのではなくウイルスの生活環に従って発現することから有利である。構成的に発現する場合、外来プロモーター、例えばCMVプロモーターのような強力なプロモーターの下で継続的に発現することによって、治療効果を得るのに必要とされる以上のB7タンパク質が産生され、オフターゲット効果が生じ得る。
【0100】
感染癌細胞の表面にタンパク質を発現させる膜貫通ドメインに代わるものとしては、細胞外のタンパク質またはフラグメントのC末端アミノ酸に結合した糖リン脂質アンカー(GPIアンカーとも呼ばれる)を用いる方法(Lowら,1986,Cross,1987,LowおよびSaltiel,1988,FergusonおよびWilliam,1988)が挙げられる。本開示に使用するのに適した糖リン脂質アンカーとしては、Thy-1、N-CAMおよびDAFに由来するものが挙げられる。
【0101】
一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性ウイルスはアデノウイルス、例えばB群アデノウイルスである。一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性ウイルスはキメラウイルス、例えばEnAdである。一実施形態では、アデノウイルスは複製可能なものである。
【0102】
一実施形態では、ウイルスは複製能が欠損しており、ウイルスベクターとして提供される。
【0103】
一実施形態では、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする配列は、アデノウイルス遺伝子L5の停止コドンおよびポリA認識部位と遺伝子E4の停止コドンおよびポリA認識部位との間に位置する。
【0104】
一実施形態では、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする配列は、例えば配列番号21に示されるようにEnAdゲノムの約29356bpと約29357bpとの間の位置またはそれに相当する位置にある。当業者は、位置の絶対値が番号を割る当てる方法によって変化し得ることを理解するであろう。ただし、挿入遺伝子の相対的位置は、用いる絶対値に関係なく同じままである。
【0105】
一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスは式(I)を有し:
5’ITR-B1-BA-B2-BX-BB-BY-B3-3’ITR (I)
式中、
B1は、結合であるか、E1A、E1BまたはE1A-E1Bを含み(特にE1A、E1BまたはE1A-E1B);
BAはE2B-L1-L2-L3-E2A-L4であり;
B2は、結合であるか、例えば内在性プロモーターまたは外来プロモーターの下にE3または導入遺伝子を含み;
BXは、結合であるか、制限部位、1つもしくは複数の導入遺伝子またはその両方を含むDNA配列であり;
BBはL5を含み;
BYは、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含み;
B3は、結合であるか、E4を含む。
【0106】
一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは式(Ia)を有し:
5’ITR-B1-BA-B2-BB-BY-B3-3’ITR (Ia)
式中、
B1は、結合であるか、E1A、E1BまたはE1A-E1Bを含み(特にE1A、E1BまたはE1A-E1B);
BAはE2B-L1-L2-L3-E2A-L4であり;
B2は、結合であるか、E3を含み;
BBはL5を含み;
BYは、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含み;
B3は、結合であるか、E4を含む。
【0107】
一実施形態では、式(I)および/または(Ia)の構築物中のウイルスゲノムはAd11またはEnAd、特にEnAdに由来するものである。
【0108】
一実施形態では、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードする導入遺伝子は内在性プロモーター、例えば主要後期プロモーターの制御下にある。
【0109】
調節エレメント
一実施形態では、BYは導入遺伝子カセットを含み、前記カセットは、B7タンパク質またはそのフラグメントをコードする導入遺伝子と、調節エレメントの組合せなどの調節エレメントとを含む。
【0110】
一実施形態では、調節エレメントはスプライスアクセプター配列である。
【0111】
一実施形態では、調節エレメントはコザック配列である。
【0112】
一実施形態、例えば導入遺伝子がポリシストロニックRNA分子をコードする実施形態では、調節エレメントはIRES配列である。
【0113】
一実施形態では、調節配列は、P2A、T2A、F2A、E2Aなどの高効率自己切断型ペプチド配列である。
【0114】
一実施形態では、調節配列はポリAテールである。
【0115】
一実施形態では、少なくとも2つの調節配列、例えば、スプライスアクセプターとコザック配列、スプライスアクセプターとポリAテール、スプライスアクセプターとIRES配列またはスプライスアクセプターとP2A配列が存在する。
【0116】
一実施形態では、少なくとも3つの調節配列、例えば、スプライスアクセプター配列とコザック配列とポリAテール、スプライスアクセプター配列とIRES配列もしくは2A配列とポリAテール;またはスプライスアクセプター配列とコザック配列とIRES配列もしくは2A配列が存在する。
【0117】
一実施形態では、少なくとも4つの調節配列、例えば、スプライスアクセプター配列とコザック配列とIRES配列または2A配列とポリAテールが存在し、特にL5とE4との間にスプライスアクセプター配列、コザック配列、IRESまたは2A配列、ポリAテールの順序で位置している。
【0118】
一実施形態では、導入遺伝子は、IRESおよび2A調節配列の両方を含むポリシストロニックRNA分子をコードする。
【0119】
ウイルスがコードするタンパク質
一実施形態では、本開示のウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するタンパク質を複数コードし、ここでは、少なくとも1つがB7タンパク質またはその活性フラグメントであり、例えば、癌細胞表面に発現するか、細胞外空間内に分泌される2つ、3つ、4つまたはそれ以上の異なるタンパク質、特に2つまたは3つのタンパク質がウイルスによってコードされている。この場合のタンパク質には融合タンパク質が含まれる。一実施形態では、本開示のウイルスは、例えばともに癌細胞表面に発現する2つの異なるB7タンパク質、その活性フラグメントまたはこれらの組合せをコードする。
【0120】
一実施形態では、本開示によるウイルスは、細胞表面に発現する1つまたは2つのタンパク質と、細胞表面に係留することができず、例えば、癌細胞とともに作用させることを目的としたり、その細胞から分泌/放出させたりする1つまたは2つのタンパク質とをコードする。
【0121】
一実施形態では、癌細胞の表面に発現するB7タンパク質または活性フラグメントが本開示のウイルスによってコードされるほか、その細胞から放出または分泌される可溶型の同じB7タンパク質または異なるB7タンパク質(活性フラグメントを含む)もそのウイルスによってコードされる。
【0122】
一実施形態では、少なくとも2つの異なるB7タンパク質または活性フラグメントが本開示のウイルスによってコードされる。
【0123】
一実施形態では、細胞表面に発現する少なくとも1つのタンパク質がB7タンパク質であり、少なくとも1つの非細胞係留タンパク質(例えば、分泌タンパク質)が非B7タンパク質である。
【0124】
一実施形態では、複数のタンパク質が、独立してプロセシングされ癌細胞膜に発現する別個のタンパク質として発現するようコードされ得る。癌細胞表面で複数のタンパク質が独立していれば、免疫活性化に良い方向に寄与し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、脂質の充填状態が癌細胞膜の脂質二重層の流動性(すなわち、粘度)に影響を及ぼす可能性がある。膜の粘度は膜内でのタンパク質をはじめとする生体分子の回転および配向に影響を及ぼし、それによりこれらの分子の機能に影響を及ぼす可能性がある。したがって、ウイルスによってコードされるタンパク質が別個の独立したタンパク質として感染癌細胞の膜内に存在すれば、脂質二重層の流動性によって、特に適した形式、例えば生物学的機能をもたらす天然の形式とほぼ同じともいえる分子の独立した動きが可能となる。
【0125】
一実施形態では、独立してプロセシングされ発現するタンパク質は、癌細胞膜の異なる位置、例えば物理的に離れた位置などにある(係留される)。
【0126】
一実施形態では、ウイルスによってコードされ感染癌細胞の表面に発現する1つまたは複数のタンパク質(例えば、全タンパク質)は融合タンパク質ではない。
【0127】
上記のように、いくつかの実施形態では、タンパク質は融合タンパク質として発現する。
【0128】
一実施形態では、本開示のウイルスは、細胞表面に発現する1つまたは複数の別個の独立したタンパク質および細胞表面に発現する1つまたは複数の融合タンパク質をもたらす。
【0129】
したがって、一実施形態では、本開示によるウイルスは、例えば表面または感染癌細胞に発現する前記複数のタンパク質をコードするDNA配列を含む。
【0130】
したがって、一実施形態では、本開示によるウイルスは、ウイルスゲノムの同じ位置または異なる位置に2つ以上の導入遺伝子を含む。ウイルスゲノムの同じ位置にある場合でもなお、癌細胞の表面では複数のタンパク質が独立して発現する。
【0131】
一実施形態では、複数のタンパク質(融合タンパク質を含む)がウイルスゲノム内の異なる位置、例えばE3、BXおよび/またはBYにコードされ、感染癌細胞の表面に別個に発現する。
【0132】
一実施形態では、例えば、コードされるタンパク質が融合タンパク質としてもたらされ、特に融合タンパク質がB7タンパク質またはその活性フラグメントを含む場合、複数のタンパク質(融合タンパク質を含む)がウイルスゲノム内の同じ位置にコードされ、感染癌細胞表面に一緒に発現する。
【0133】
一実施形態では、融合タンパク質中のB7タンパク質は、別の目的タンパク質またはその活性フラグメントと融合または結合した完全長のタンパク質、特にB7-1および/またはB7-2などの本明細書に記載されるタンパク質である。一実施形態では、融合タンパク質は、B7タンパク質由来の膜貫通を含む。一実施形態では、B7は、膜貫通ドメインを除く活性フラグメントである。後者の実施形態では、融合タンパク質が感染癌細胞の表面に確実に提示されるようB7タンパク質に由来するもの以外の膜貫通を用い得る。
【0134】
一実施形態では、複数のタンパク質がウイルス内の同じ位置にコードされ、感染癌細胞の表面に1つまたは複数の融合タンパク質として一緒に発現する。
【0135】
ウイルス内で目的のタンパク(1つまたは複数)をコードする遺伝子(1つまたは複数)の位置が同じである場合、その遺伝子は、例えばIRES配列または2Aペプチドによって結合していてよい。
【0136】
一実施形態では、本開示によるウイルスは、「第二の」導入遺伝子および任意選択で第三の導入遺伝子(すなわち、1つまたは複数の前記複数のタンパク質、例えばサイトカイン、ケモカイン、リガンドのほかアンタゴニスト抗体分子およびアゴニスト抗体分子などの抗体分子を含む群より選択されるポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む。
【0137】
一実施形態では、追加のタンパク質(1つまたは複数)は、CD3、CD28、CD80、CD86、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40およびその組合せと結合し、例えば癌細胞の表面に発現するのに適した形態の抗体、抗体フラグメントまたはタンパク質リガンドを含む群より独立して選択されるものである。
【0138】
一実施形態では、追加のタンパク質は、例えばムロモナブ-CD3(OKT3としても知られる)、オテリキシズマブ(TRX4としても知られる)、テプリズマブ(hOKT3γ1(Ala-Ala)としても知られる)またはビジリズマブより独立して選択される、抗CD3抗体である。
【0139】
一実施形態では、抗CD3抗体は、抗体フラグメント、例えば、別のタンパク質の膜貫通領域、例えばPDGF受容体または細胞表面型IgG由来の膜貫通ドメインとの融合タンパク質の一部分であるscFvの形態である。
【0140】
一実施形態では、抗体分子は、血管新生因子の阻害物質、例えば抗VEGF抗体分子などおよびT細胞不活化因子の阻害物質、例えば抗CTLA-4抗体分子、抗PD1抗体分子または抗PDL1抗体分子などを含む群より独立して選択される阻害物質(アンタゴニスト抗体)である。一実施形態では、抗体分子は、CD40、GITR、OX40、CD27および4-1BBに対する抗体を含む群より独立して選択されるアゴニストである。
【0141】
一実施形態では、追加の導入遺伝子は、IL-2、IFNα、IFNβ、IFNγ、GM-CSF、IL-15、IL-12およびfms関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)を含む群より選択されるサイトカインまたはその可溶性変異型をコードする。このグループの1つまたは複数のタンパク質を特に癌細胞から分泌される遊離タンパク質としてウイルスに発現させるのは、in vivoで癌細胞に対する免疫応答を刺激するのに特に適し得るという点で有利である。
【0142】
一実施形態では、追加の導入遺伝子は、MIP1α、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19およびCCL21を含む群より選択されるケモカインをコードする。このグループの1つまたは複数のタンパク質を癌細胞から分泌され得る遊離タンパク質としてウイルスに発現させるのは、in vivoで免疫細胞を誘引し癌細胞に対する免疫応答を刺激するのに特に適し得る点で有利である。
【0143】
一実施形態では、感染癌細胞の表面に少なくともB7タンパク質またはその活性フラグメントを発現させることに加え、ほかにも1つまたは複数の分子を表面に発現させ、かつ/または分泌させる。
【0144】
したがって、一実施形態では、ウイルスはB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せをコードする。
【0145】
したがって、一実施形態では、特にタンパク質が細胞表面に個々のタンパク質として発現する場合、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、同じく癌細胞表面に発現する抗CD3(アゴニスト)抗体または抗体結合フラグメント(scFvなど)をコードする。
【0146】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、同じく癌細胞の表面に発現するか、例えば分泌によってまたは感染癌細胞の溶解/死後に癌細胞から放出される抗VEGF(アンタゴニスト)抗体またはその結合フラグメントをコードする。
【0147】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、CD3、CD28、CD80、CD86、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40と結合し、同じく癌細胞表面に発現するか、例えば感染癌細胞の分泌または溶解/死後の放出によって癌細胞から放出される抗体、抗体フラグメントまたはタンパク質リガンドをコードする。
【0148】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、例えば、特に感染癌細胞の分泌または細胞溶解/死後の放出によって癌細胞から放出される、IL-2、IFNα、IFNβ、IFNγ、GM-CSF、IL-15、IL-12およびFLT3Lから選択されるサイトカインをコードする。
【0149】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、例えば、特に感染癌細胞の分泌または細胞溶解/死後の放出によって癌細胞から放出される、MIP1α、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19、CCL21から選択されるケモカインをコードする。
【0150】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、同じく癌細胞表面に発現する(特に、タンパク質が細胞表面に個々のタンパク質として発現する場合)抗CD3(アゴニスト)抗体または抗体結合フラグメント(scFvなど)をコードし、さらに、例えば、特に分泌によってまたは感染癌細胞の細胞溶解/死後に癌細胞から放出される、IL-2、IFNα、IFNγ、GM-CSF、IL-15、IL-12、FLT3L、MIP1α、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19、CCL21から選択されるサイトカインまたはケモカインをコードする。
【0151】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、同じく癌細胞表面に発現する(特に、タンパク質が細胞表面に個々のタンパク質として発現する場合)抗CD3(アゴニスト)抗体または抗体フラグメント(scFvなど)をコードし、さらに、同じく癌細胞表面に発現するか、例えば感染癌細胞の分泌または溶解/死後の放出によって癌細胞から放出される、CD28、CD80、CD86、4-1BB、GITR、OX40、CD27、CD40と結合する抗体、抗体フラグメントもしくはタンパク質リガンドまたは抗VEGF(アンタゴニスト)抗体をコードする。
【0152】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、例えば、特に感染癌細胞の細胞溶解/死後の分泌によって癌細胞から放出される、IL-2、IFNα、IFNβ、IFNγ、GM-CSF、IL-15およびIL-12、FLT3L、MIP1α、IL-8、CCL5、CCL17、CCL20、CCL22、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CXCL12、CCL2、CCL19、CCL21から選択される2つ異なるサイトカインまたはケモカインをコードする。
【0153】
したがって、一実施形態では、ウイルスは、感染癌細胞の表面に発現するB7-1、B7-2もしくはそのいずれか1つの活性フラグメントまたはこれらの組合せのほか、同じく癌細胞表面に発現する(特に、タンパク質が細胞表面に個々のタンパク質として発現する場合)抗CD3(アゴニスト)抗体または抗体結合フラグメント(scFvなど)をコードし、さらに、特に感染癌細胞の細胞溶解/死前の分泌および細胞溶解/死後の放出によって癌細胞から放出され得る、IL-2、IFNα、IFNγ、GM-CSF、IL-15およびIL-12より独立して選択されるサイトカインおよびまたはRANTES(CCL5)、MIP1α(LD78α(CCL3)またはLD78β(CCL3L1)アイソフォーム)、MIP1βから選択されるケモカインをコードする。
【0154】
特に上記のいずれかの実施形態と組み合わせ得る一実施形態では、ウイルスはさらに抗PD-1抗体(アンタゴニスト)をコードする。
【0155】
一実施形態では、導入遺伝子カセット内でコードされ細胞膜に発現するタンパク質(1つまたは複数)はほかにも、膜貫通ドメインと細胞外リガンド結合ドメインとの間にペプチドリンカーまたはスペーサーを含み得る。このようなリンカーまたはスペーサーは、細胞表面発現タンパク質に柔軟性を加え、タンパク質が例えば隣接する細胞上でその標的分子と相互作用する能力を増大させ得る。このようなリンカーまたはスペーサーはこのほか、ジスルフィド結合形成またはタンパク質間相互作用を介して細胞表面でのタンパク質の二量体化または三量体化を促進するよう設計または選択され得る。例えば、免疫グロブリン分子またはCD8のヒンジ領域を用いて、柔軟性および二量体化の両方を増大させ得る。
【0156】
一実施形態では、導入遺伝子カセット内でコードされるタンパク質(1つまたは複数)はほかにも、ペプチドタグを含み得る。ペプチドタグとしてはc-myc、ポリ-ヒスチジン、V5タグまたはFLAGタグが挙げられ、細胞内、細胞外を問わずポリペプチドのN末端またはC末端に位置していても、タンパク質内の例えば細胞外ループ内または膜貫通ドメインと細胞外ドメインとの間にコードされていてもよい。ペプチドタグは、異なるタンパク質ドメインの間、例えば膜貫通ドメインと細胞外ドメインの間のスペーサーまたはリンカーとして使用することができるほか、タンパク質またはタンパク質を発現する細胞の検出、精製または検出に使用することができる。
【0157】
一実施形態では、1つまたは複数の追加の導入遺伝子(B7タンパク質またはそのフラグメントをコードする遺伝子以外)は、外来プロモーターまたは内在性プロモーター、例えば内在性プロモーターの制御下にある。一実施形態では、E3領域(B2)内の導入遺伝子が外来プロモーターの制御下にある。
【0158】
一実施形態では、1つまたは複数の追加の導入遺伝子遺伝子は、アデノウイルスゲノムのE3領域とファイバーL5との間、例えば、式(I)の構築物の特に外来プロモーターの制御下にある位置BXにある。したがって、一実施形態では、BX内の導入遺伝子は外来の制御下にある。
【0159】
一実施形態では、1つまたは複数の追加の導入遺伝子遺伝子は、アデノウイルスゲノムのE4領域とファイバーL5との間、例えば、式(I)または(Ia)の構築物の特に主要後期プロモーターなどの内在性プロモーターの制御下にある位置BYにある。これは、領域BY内にコードされるB7タンパク質またはその活性フラグメントに追加されたものであり得る。
【0160】
一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスを含む組成物、例えば、特に希釈剤または担体などの薬学的に許容される添加剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0161】
一実施形態では、治療に使用する、特に癌の治療に使用する、本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスまたはそれを含む組成物を提供する。
【0162】
一実施形態では、必要とする患者を治療する方法であって、治療有効量の本開示による腫瘍溶解性ウイルスまたはそれを含む医薬組成物などの組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0163】
一実施形態では、癌、特に癌腫、例えば結腸直腸癌、肺癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、肝臓癌、頭頸部癌、乳癌または卵巣癌の治療のための薬剤の製造への本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスまたはそれを含む組成物の使用を提供する。
【0164】
一実施形態では、本開示によるウイルスの少なくとも50%(例えば、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)のゲノム配列と、B7タンパク質またはその活性フラグメント、例えばB7-1またはその活性フラグメントなどの本明細書に開示されるB7タンパク質をコードする配列とを含む、ポリヌクレオチドを提供する。一実施形態では、ポリヌクレオチド配列はプラスミドの形態である。
【0165】
一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性ウイルスまたは本開示によるポリヌクレオチド配列を含む、宿主細胞、例えばHEK293細胞またはその派生物などの哺乳動物細胞を提供する。
【0166】
一実施形態では、本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスを調製する工程であって、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードするポリヌクレオチドを腫瘍溶解性アデノウイルスに挿入する段階を含む工程を提供する。
【0167】
一実施形態では、本開示によるウイルスを複製する工程であって、複製に適した条件下、ウイルスの存在下で宿主細胞を培養する段階を含む工程を提供する。この方法は一般に、例えば上清から、または宿主細胞の溶解後にウイルスを回収するさらなる段階を含む。
【0168】
定義
本明細書で使用され癌細胞に対する選択性を有する腫瘍溶解性ウイルスは、例えば、癌細胞に優先的に感染することおよび/またはウイルス生活環が調節不全を起こしたp53、例えば癌細胞に過剰発現するp53などの遺伝子に依存することを理由に、癌細胞を優先的に死滅させるウイルスを指す。一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、例えばEnAdのように、癌細胞に優先的に感染し、次いでそのゲノムを複製し、キャプシドタンパク質を産生して新たなウイルス粒子を生じる。
【0169】
癌細胞に対する選択性(治療指数)は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2005/118825号に記載されている通りに試験することができる。
【0170】
本明細書で使用される導入遺伝子は、アデノウイルスのゲノム配列に挿入された遺伝子であって、ウイルスに非天然のもの(外来性)であるか、ウイルスの特定の位置に通常みられないものである遺伝子を指す。本明細書に導入遺伝子の例が記載されている。本明細書で使用される導入遺伝子にはこのほか、遺伝子の一部分であって、挿入して完全長遺伝子の機能またはその大部分、例えばその機能の50%以上を発揮させるのに適した部分である、遺伝子の機能的フラグメントが含まれる。
【0171】
本明細書では、導入遺伝子とコード配列は、ウイルスゲノムに挿入するという文脈において、文脈上そうでないことが明らかでない限り互換的に使用される。本明細書で使用されるコード配列は、例えば機能性RNA、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするDNA配列を意味する。コード配列は通常、目的とする機能性RNA、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする導入遺伝子のcDNAである。目的とする機能性RNA、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質についてはのちに記載する。
【0172】
一実施形態では、本明細書で使用される導入遺伝子は、ある生物体から単離され異なる生物体、すなわち本開示のウイルスに導入される遺伝子またはcDNA配列を含む、DNAのセグメントを指す。一実施形態では、この非天然のDNAセグメントは一般に、機能性RNA、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を産生する能力を保持している。使用される導入遺伝子は、例えば、単一タンパク質もしくはその活性フラグメント、キメラタンパク質または融合タンパク質をコードするものであり得る。
【0173】
ウイルスゲノムにDNAのコード配列が含まれているのは明らかである。ウイルスのゲノム配列に内在するもの(天然の遺伝子)は、本明細書の文脈内では、組換え技術によって改変されている場合、例えば非天然の位置または非天然の環境に存在する場合などを除き、導入遺伝子であるとは見なされない。
【0174】
したがって、一実施形態では、挿入する導入遺伝子はヒトまたはヒト化タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする。
【0175】
一実施形態では、導入遺伝子は、B7タンパク質またはその活性フラグメントをコードするDNA配列を含む。本開示は、B7タンパク質またはその活性化フラグメントが、融合タンパク質、単一B7タンパク質またはその活性フラグメントより独立して選択される1つまたは複数の形式で提供され得ることを提供する。
【0176】
本明細書で使用される単一B7タンパク質またはその活性フラグメントは、実質的に野生型タンパク質であるタンパク質、例えば、融合タンパク質の一部分ではなく、関連する既知のタンパク質、特に既知のヒトタンパク質と同一の配列または類似した配列を有するタンパク質を指す。このほか、関連するタンパク質の全長にわたってアミノ酸の10%が置換または欠失しているものが単一遺伝子に含まれる。
【0177】
本明細書で使用されるGPIアンカーは、翻訳後修飾時にタンパク質のC末端に付加され得る糖脂質を指す。GPIアンカーは、ホスファチジルイノシトール基が炭水化物含有リンカー(イノシトール残基とグリコシド結合したグルコサミンおよびマンノース)および成熟タンパク質のC末端のアミノ酸とのエタノールアミンリン酸(EtNP)架橋を介して結合したものからなる。疎水性ホスファチジル-イノシトール基内の2つの脂肪酸によってタンパク質が細胞膜に係留される。
【0178】
GPIアンカー化された(Glypiated)(GPIが結合した)タンパク質は一般に、シグナルペプチドを含み、そのため小胞体(ER)内に誘導される。C末端は、ER膜に挿入されて留まる疎水性アミノ酸からなる。次いで疎水性末端が切り離され、GPIアンカーに置き換わる。タンパク質が分泌経路を進む際には、それが小胞によってゴルジ装置まで運搬され、最終的には細胞外空間に到達し、そこで細胞膜の外膜に付着して留まる。GPIアンカー化(glypiation)はこのようなタンパク質が膜に付着する唯一の手段であるため、この基がホスホリパーゼに切断されることによって、膜からのタンパク質の解離が制御される。後者の機序はin vitroで利用される。すなわち、酵素アッセイで膜から解離する膜タンパク質は、GPIアンカー化されたタンパク質である。
【0179】
ホスホリパーゼC(PLC)は、GPIアンカー化タンパク質にみられるホスホ-グリセロール結合を切断することが知られている酵素である。PLCで処理することにより、細胞膜の外膜からGPI結合タンパク質が解離する。T細胞マーカーのThy-1およびアセチルコリンエステラーゼならびに腸および胎盤の両方のアルカリホスファターゼがGPI結合型であることが知られており、PLCで処理することによって解離する。GPI結合タンパク質は脂質ラフトに優先的に位置すると考えられており、細胞膜マイクロドメイン内に高レベルの組織化があることが示唆される。
【0180】
Essentials of Glycobiology第2版の第11章には、Ferguson、KinoshitaおよびHartが著したGPIアンカーに関する総説が掲載されている。
【0181】
ウイルス
本明細書の文脈における複製可能なウイルスは、in vitroおよびin vivoの細胞内で、すなわちパッケージング細胞系による補助がなくても複製するのに必要な機構をすべて備えているウイルスを指す。ウイルスベクター、例えば少なくともE1A領域が欠損し、補完的なパッケージング細胞系で複製可能なウイルスベクターは、本明細書の文脈では複製可能なウイルスではない。
【0182】
ウイルスベクターとは、複製に(導入遺伝子を含む)パッケージング細胞系を必要とする複製能欠損ウイルスのことである。
【0183】
本明細書で使用される複製可能なウイルスは、複製可能なウイルスまたは複製が癌細胞内の因子、例えばアップレギュレートされたp53もしくはこれに類似したものなどの因子に依存するウイルスを指す。
【0184】
一実施形態では、アデノウイルスはヒトアデノウイルスである。本明細書で使用される「アデノウイルス」、「血清型」または「アデノウイルス血清型」は、現時点で知られておりサブグループA~Fに分類される50を超えるアデノウイルス血清型のいずれかに割り振られ得る任意のアデノウイルスを指し、さらには、未だ同定も分類もされていないアデノウイルス血清型に及ぶ。例えば、表1に示すように、The Adenoviruses(Ginsberg)の「Adenovirus infections in humans」(Strauss),ea.,Plenum Press,New York,NY,pp.451-596(1984)およびFields Virology,第2巻,第4版(Knipe)の「Adenoviridae:The Viruses and Their Replication」(Shenk),35ea.,Lippincott Williams & Wilkins,pp.2265-2267(2001)を参照されたい。
【0185】
【0186】
アデノウイルスは、そのキャプシドに基づいて分類される。
【0187】
一実施形態では、アデノウイルスはB亜群、例えばAd3、Ad7、Ad11、Ad14、Ad16、Ad21、Ad34およびAd51を含むかこれよりなる群より独立して選択されるもの、例えばAd11、特にAd11p(Slobitski株)などである。一実施形態では、本発明のアデノウイルスはB亜群アデノウイルス、例えばAd11、特にAd11pなどのキャプシド、例えばヘキソンおよび/またはファイバーなどを有する。一実施形態では、アデノウイルスは、Ad11pなどのAd11であるか、そのファイバー、ヘキソンおよび/またはペントンを有するものである。
【0188】
一実施形態では、本開示のウイルスはA群ウイルスではない。
【0189】
一実施形態では、本開示のウイルスはアデノデスタンパク質(ADP)を含まない。
【0190】
一実施形態では、本開示のウイルスはC群ウイルスではない。
【0191】
一実施形態では、本開示のウイルスは、Ad5ウイルスのより多くの部分および一部分のフラグメントを含まない。
【0192】
enadenotucirev(EnAd)は、以前はColoAd1(国際公開第2005/118825号)として知られていたキメラ腫瘍溶解性アデノウイルスであり、Ad11p由来のファイバー、ペントンおよびヘキソンを有することから、B亜群ウイルスである。同ウイルスは、Ad11pおよびAd3由来のDNAを含むキメラE2B領域を有する。EnAdは、E3領域のほぼ全体とE4領域の一部が欠失している。このため、ゲノムには、追加の遺伝物質を収容すると同時に生存可能な状態が保たれるだけの大きなスペースがある。さらに、EnAdはB亜群アデノウイルスであるため、ヒトに免疫が既に存在する頻度は、例えばAd5よりも低い。Ad11のファイバー、ペントンおよびヘキソンを有するキメラ腫瘍溶解性ウイルスの例としてはほかにも、OvAd1およびOvAd2が挙げられる(国際公開第2006/060314号を参照されたい)。
【0193】
EnAdは、腫瘍細胞に優先的に感染し、その細胞内で急速に複製して細胞溶解を引き起こすものと思われる。次いで、これが炎症性免疫応答を生じさせ、それにより身体も癌と戦うよう刺激し得る。EnAdの成功の一部は、このウイルスのin vivoでの複製速度が速いことと関係があるものと考えられる。
【0194】
重要なのは、EnAdを(例えば、静脈内または腹腔内への注射または注入によって)全身投与し、次いで腫瘍細胞に選択的に感染させ、その中でタンパク質を発現させることが可能であることが臨床的に明らかにされていることである。EnAdのこの特性は、Ad11pをはじめとするB群アデノウイルス、特にAd11pのキャプシドタンパク質を発現するウイルス(本明細書に記載されるウイルスなど)にも共通してみられ得るものであり、この特性によって、導入遺伝子を腫瘍内に直接注射するという多くの癌で実現不可能なことを必要とせずに、癌細胞の表面にタンパク質を発現させることが可能になる。
【0195】
EnAdは腫瘍細胞を選択的に溶解させると同時に、さらなる有益な特性を導入すること、例えば、細胞シグナル伝達タンパク質もしくは抗体をコードする導入遺伝子または細胞シグナル伝達タンパク質(1つまたは複数)を刺激する実体をコードする導入遺伝子などの導入遺伝子をウイルスに備えさせることによって、その治療活性を増大させたり副作用を軽減したりすることが可能であり得る。
【0196】
癌細胞内で発現させることが可能な特定のタンパク質をコードするDNAをウイルスに備えさせるのは、例えば、細胞を免疫系に見えやすくしたり、治療遺伝子/タンパク質を標的腫瘍細胞に優先的に送達したりすることによって、身体そのものの防御力を用いて腫瘍細胞とより効率的に戦うことが可能となり得る点で有利である。
【0197】
一実施形態では、本開示の腫瘍溶解性アデノウイルスは、例えば癌が免疫応答を抑制する能力を低下させることによって、患者の免疫系が腫瘍を戦うのを刺激する。
【0198】
一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、同じ血清型、例えばAd11、特にAd11pに由来し、例えば、ヌクレオチドの位置をGenbank ID 217307399(アクセッション番号:GC689208)と比較して後者のゲノム配列の30812~31789位、18254~21100位および13682~15367位にみられる、ファイバータンパク質、ヘキソンタンパク質およびペントンタンパク質を有する。
【0199】
一実施形態では、アデノウイルスはenadenotucirev(EnAdおよび旧ColoAd1としても知られる)である。本明細書で使用されるenadenotucirevは配列番号21のキメラアデノウイルスを指す。同ウイルスは、野生型アデノウイルスよりも治療特性が増強された複製可能な腫瘍溶解性キメラアデノウイルスである(国際公開第2005/118825号を参照されたい)。EnAdは、Ad11pおよびAd3に由来するDNAを特徴とするキメラE2B領域を有するほか、E3/E4の欠失がある。enadenotucirevの構造を変化させることによって、Ad11pよりも約3.5kb小さいゲノムが得られ、それにより導入遺伝子を挿入するための追加の「スペース」が生じる。
【0200】
使用される抗体分子は、完全長の重鎖および軽鎖を有する完全な抗体分子、完全長抗体を含む二重特異性抗体フォーマットまたは特に限定されないが、上記のもののいずれかのFab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、単一ドメイン抗体(例えば、VH、VLもしくはVHH)、scFv、二価抗体、三価抗体、もしくは四価抗体、ビス-scFv、二特異性抗体、三特異性抗体、四特異性抗体およびエピトープ結合フラグメントを含めたいずれか1つのフラグメントを含み得る(例えば、HolligerおよびHudson,2005,Nature Biotech.23(9):1126-1136;AdairおよびLawson,2005,Drug Design Reviews-Online 2(3),209-217を参照されたい)。これらの抗体フラグメントを作出および製造する方法は当該技術分野で周知である(例えば、Vermaら,1998,Journal of Immunological Methods,216,165-181を参照されたい)。本発明で使用される抗体フラグメントとしてはほかにも、国際特許出願第2005/003169号、同第2005/003170号および同第2005/003171号に記載されているFabフラグメントおよびFab’フラグメントが挙げられる。多価抗体は、複数の特異性を備えたもの、例えば二特異性であっても、単一特異性であってもよい(例えば、国際公開第92/22853号、同第05/113605号、同第2009/040562号および同第2010/035012号を参照されたい)。
【0201】
本明細書で使用される抗体は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、完全長抗体を指す。
【0202】
抗体結合フラグメントは、抗体が結合する標的抗原に対する特異性を保持しているVHおよび/またはVLなどの結合ドメインを含むフラグメントのほか、例えば上記のもののいずれかのFab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、単一ドメイン抗体(例えば、VH、VLまたはVHH)、scFv、二価抗体、三価抗体、または四価抗体、ビス-scFv、二特異性抗体、三特異性抗体、四特異性抗体およびエピトープ結合フラグメントを指す。
【0203】
リンカー
本開示の融合タンパク質に使用するのに適したリンカーとしては以下のものが挙げられる:
【表4】
【表5】
配列37~41の(S)は任意選択である。
【0204】
固いリンカーの例としては、ペプチド配列GAPAPAAPAPA(配列番号75)、PPPP(配列番号76)およびPPPが挙げられる。
【0205】
【0206】
式(I)および(Ia)に関連する定義
結合は、あるDNA配列と別のDNA配列とを連結している共有結合、例えばウイルスゲノムのある区画と別の区画とを連結している共有結合を指す。したがって、本明細書の式(I)および(Ia)の可変物が結合を表す場合、その結合によって表される特徴または要素は存在しない、すなわち欠失している。
【0207】
アデノウイルスの構造は一般に類似しているため、以下の要素は、当業者に公知の構造要素およびそれを指すのに一般的に使用される命名法の観点から論じられる。本明細書である要素に言及する場合、それはアデノウイルスのその要素をコードするDNA配列またはその要素の同じ構造タンパク質をコードするDNA配列を指す。後者は、DNAコードに冗長性があることから重要なものである。最適な結果を得るため、コドン使用頻度に関するウイルスの選好性を考慮に入れる必要があり得る。
【0208】
本開示のウイルスに使用するアデノウイルスの構造要素はいずれも、天然の配列を含むか、これよりなるものであってよく、また少なくとも95%、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの所与の長さにわたる類似性を有するものであってもよい。元の配列を改変して、遺伝物質の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%を削除してもよい。当業者には、改変する際にウイルスのリーディングフレームが破壊されて構造タンパク質の発現が破壊されることがあってはならないことがわかる。
【0209】
一実施形態では、所与の要素は完全長配列、すなわち完全長遺伝子である。本明細書で使用される完全長遺伝子は、少なくとも遺伝子のコード配列全体を指すが、任意の付随する非コード領域、特にその遺伝子の機能に関連するものがこれに含まれ得る。
【0210】
一実施形態では、所与の要素は、完全長に満たず、かつ完全長配列と同じまたはこれに相当する機能を保持している。
【0211】
本開示の構築物において任意選択である所与の要素に関する一実施形態では、DNA配列は、完全長未満であり、かつ機能性のないものであってよく、例えば、E3領域が全部または一部欠失していてもよい。しかし、実質的にE3領域全体を欠失させると、導入遺伝子の挿入に利用できるスペースが最大になるため有用であると思われる。
【0212】
アデノウイルスの構造タンパク質または機能性タンパク質をコードする構造遺伝子は一般に、DNAの非コード領域によって結合している。したがって、本開示のウイルスに導入遺伝子を挿入するという目的には、目的の構造要素のゲノム配列を「切る」場所(特にその非コード領域)に関していくぶん柔軟性がある。したがって、本明細書の目的には、その要素は、目的にかなっており異物をコードしない限りは参照構造要素であると見なす。したがって、必要に応じて、例えばウイルスの天然の構造にみられるように、遺伝子に適切な非コード領域が付随する。
【0213】
したがって、一実施形態では、制限部位および/または導入遺伝子をコードするDNAなどのインサートをゲノムウイルスDNAの非コード領域、例えばイントロン配列または遺伝子間配列などに挿入する。それでも、アデノウイルスの非コード領域のなかには、例えば選択的スプライシング、転写調節または翻訳調節に何らかの機能を有するものもあり、このことを考慮に入れる必要があることもある。
【0214】
本明細書で明らかにされるL5領域に付随する部位は、複雑な実体、例えばRNAi、サイトカイン、抗体などの一本鎖タンパク質または多量体タンパク質などをコードする様々なDNA配列を収容するのに適したものである。
【0215】
本明細書で使用される遺伝子は、コード配列およびそれに付随する任意の非コード配列、例えばイントロンおよび付随するエキソンを指す。一実施形態では、遺伝子は不可欠な構造構成要素、例えばコード領域のみを含むか、これのみよりなるものである。
【0216】
以下でアデノウイルスの具体的な構造要素に関して論じる。
【0217】
逆方向末端反復配列(ITR)配列はあらゆる既知のアデノウイルスに共通するものであり(その対称性が理由でそう呼ばれる)、ウイルス染色体の複製起点となっている。この配列のまた別の特性としてヘアピン形成能がある。
【0218】
本明細書で使用される5’ITRは、アデノウイルスの5’末端に由来するITRの一部または全部であって、アデノウイルスのしかるべき位置に組み込めばITRの機能が保持されるものを指す。一実施形態では、5’ITRは、配列番号21の約1bp~138bpの配列またはその全長にわたって同配列と90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一の配列、特に配列番号21の約1bp~138bpからなる配列を含むか、これよりなるものである。
【0219】
本明細書で使用される3’ITRは、アデノウイルスの3’末端に由来するITRの一部または全部であって、アデノウイルスのしかるべき位置に組み込めばITRの機能が保持されるものを指す。一実施形態では、3’ITRは、配列番号21の約32189bp~32326bpの配列またはその全長にわたって同配列と90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一の配列、特に配列番号21の約32189bp~32326bpからなる配列を含むか、これよりなるものである。
【0220】
本明細書で使用されるB1は、アデノウイルス由来のE1Aの一部または全部をコードするDNA配列、アデノウイルスのE1B領域の一部または全部をコードするDNA配列ならびにアデノウイルスのE1A領域およびE1B領域の一部または全部を別々にコードするDNA配列を指す。
【0221】
B1が結合である場合、E1A配列およびE1B配列は、ウイルスから削除されることになる。一実施形態では、B1は結合であり、したがって、ウイルスはベクターである。
【0222】
一実施形態では、B1は導入遺伝子をさらに含む。E1領域は、E1領域を分断する形で(すなわち、配列の「中央」に)挿入され得る導入遺伝子を収容することが可能であること、あるいはE1領域の一部または全部を削除して遺伝物質を収容する余地を広げ得ることが当該技術分野で公知である。
【0223】
本明細書で使用されるE1Aは、アデノウイルスE1A領域の一部または全部をコードするDNA配列を指す。後者はここでは、ポリペプチド/タンパク質のE1Aを指す。必要に応じてこれを変異させ、E1A遺伝子によってコードされるタンパク質が、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換(例えば、全長でアミノ酸1個、2個、3個、4個または5個の置換、付加および/または欠失)を有し、野生型(すなわち、対応する非変異タンパク質)と同じ機能をもち;野生型タンパク質に比して機能が増大し;野生型タンパク質に比して機能が低下し、例えば機能がなくなり;または野生型タンパク質に比して新たな機能をもち、あるいはこれらを組み合わせが生じるようにしてもよい。
【0224】
本明細書で使用されるE1Bは、アデノウイルスE1B領域(すなわち、ポリペプチドまたはタンパク質)の一部または全部をコードするDNA配列を指し、必要に応じてこれを変異させ、E1B遺伝子/領域によってコードされるタンパク質が、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換(例えば、全長でアミノ酸1個、2個、3個、4個または5個の置換、付加および/または欠失)を有し、野生型(すなわち、対応する非変異タンパク質)と同じ機能をもち;野生型タンパク質に比して機能が増大し;野生型タンパク質に比して機能が低下し、例えば機能がなくなり;または野生型タンパク質に比して新たな機能をもち、あるいはこれらを組み合わせが起こるようにしてもよい。
【0225】
したがって、B1は、野生型E1領域、例えば野生型のE1Aおよび/またはE1Bなどに比して改変してもしなくてもよい。当業者であれば、E1Aおよび/またはE1Bが存在するか、(一部が)欠失または変異しているかどうかを容易に確認することができる。
【0226】
本明細書で使用される野生型は、既知のアデノウイルスまたは既知のアデノウイルスに由来する配列を指す。既知のアデノウイルスとは、配列情報が入手可能であるかどうかに関係なく、既に同定および命名されているアデノウイルスのことである。
【0227】
一実施形態では、B1は配列番号21の139bp~3932bpの配列を有する。
【0228】
本明細書で使用されるBAは、E2B-L1-L2-L3-E2A-L4領域をコードし、必要に応じて任意の非コード配列(特にアデノウイルス由来の天然の配列に対応するもの)を含む、DNA配列を指す。この配列は一般に導入遺伝子を含まない。一実施形態では、この配列は、既知のアデノウイルス、例えば表1に示される血清型、特にB群ウイルス、例えばAd3、Ad7、Ad11、Ad14、Ad16、Ad21、Ad34、Ad35、Ad51またはその組合せ、例えばAd3、Ad11またはその組合せなどに由来する連続する配列と実質的にほぼ同じであるか一致する。一実施形態では、E2B-L1-L2-L3-E2A-L4は、これらの諸要素のほかにもこの領域に付随する構造要素を含むことを表し、例えば、BAは一般に、例えばIV2A IV2a-E2B-L1-L2-L3-E2A-L4のように、タンパク質IV2aをコードする配列を含む。
【0229】
一実施形態では、E2B領域はキメラである。つまり、2つ以上の異なるアデノウイルス血清型、例えばAd3およびAd11pなどのAd11に由来するDNA配列を含む。一実施形態では、E2B領域は、配列番号21の5068bp~10355bpの配列またはその全長に対して同配列と95%、96%、97%、98%もしくは99%同一の配列を有する。
【0230】
一実施形態では、構成要素BAのE2Bは、配列番号22(国際公開第2005/118825号に開示される配列番号3に対応する)で示される配列を含む。
【0231】
一実施形態では、BAは配列番号21の3933bp~27184bpの配列を有する。
【0232】
本明細書で使用されるE3は、アデノウイルスE3領域(すなわち、タンパク質/ポリペプチド)の一部または全部をコードするDNA配列を指し、必要に応じてこれを変異させ、E3遺伝子によってコードされるタンパク質が、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換(例えば、全長でアミノ酸1個、2個、3個、4個または5個の置換、付加および/または欠失)を有し、野生型(対応する非変異タンパク質)と同じ機能をもち;野生型タンパク質に比して機能が増大し;野生型タンパク質に比して機能が低下し、例えば機能がなくなり;または野生型タンパク質に比して新たな機能をもち、あるいはこれらの組み合わせが起こるようにしてもよい。
【0233】
一実施形態では、E3領域は、表1に示されるアデノウイルス血清型またはその組合せ、特にB群血清型、例えばAd3、Ad7、Ad11(特にAd11p)、Ad14、Ad16、Ad21、Ad34、Ad35、Ad51またはその組合せ、例えばAd3、Ad11(特にAd11p)またはその組合せなどに由来するものである。一実施形態では、E3領域は配列番号23で示される配列を有する。
【0234】
一実施形態では、E3領域は一部が欠失している、例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%欠失している。
【0235】
一実施形態では、B2は結合であり、E3領域をコードするDNAが存在しない。
【0236】
一実施形態では、E3領域をコードするDNAが導入遺伝子によって置換または分断されていてよい。本明細書で使用される場合、本明細書で使用される導入遺伝子によって置換された「E3領域」は、E3領域の一部または全部が導入遺伝子に置き換わったものを含む。
【0237】
一実施形態では、B2領域は配列番号24の27185bp~28165bpの配列を含む。
【0238】
一実施形態では、B2は配列番号24の27185bp~28165bpの配列からなる。
【0239】
本明細書で使用されるBXは、BBのL5遺伝子の5’末端に近接するDNA配列を指す。本明細書で使用されるL5遺伝子の5’末端に近接または隣接するとは、L5遺伝子またはそれに本来付随する非コード領域の5’末端に隣接している(連続している)こと、すなわち、L5遺伝子またはそれに本来付随する非コード領域の5’プライム末端に隣接している、または連続していることを指す。あるいは、近接または隣接するとは、L5遺伝子に近い位置にあり、BX領域とL5遺伝子の5’末端との間にコード配列が存在しないことを指すこともある。
【0240】
したがって、一実施形態では、BXは、例えばL5遺伝子のコード配列の始まりを表す、L5の塩基と直接連結している。
【0241】
したがって、一実施形態では、BXは、例えば非コード配列の始まりを表すL5の塩基と直接連結しているか、L5に天然に付随する非コード領域と直接連結している。本明細書で使用されるL5に天然に付随する非コード領域は、L5遺伝子の一部であるかそれに連続しているが、別の遺伝子の一部ではない非コード領域の一部または全部を指す。
【0242】
一実施形態では、BXは配列番号24の配列を含む。この配列は人工非コード配列であり、例えば導入遺伝子(または導入遺伝子カセット)、制限部位またはその組合せを含むDNA配列をその中に挿入し得る。この配列は、導入遺伝子の正確な位置にいくぶん柔軟性を与えると同時にウイルスの安定性および生存能に対する破壊的作用を最小限に抑えるという点で緩衝的な役割を果たすため有利である。
【0243】
インサート(1つまたは複数)は、配列番号24内の5’末端、3’末端または1bp~201bpの間の任意の地点のいずれに存在してもよく、例えば、塩基対1/2、2/3、3/4、4/5、5/6、6/7、7/8、8/9、9/10、10/11、11/12、12/13、13/14、14/15、15/16、16/17、17/18、18/19、19/20、20/21、21/22、22/23、23/24、24/25、25/26、26/27、27/28、28/29、29/30、30/31、31/32、32/33、33/34、34/35、35/36、36/37、37/38、38/39、39/40、40/41、41/42、42/43、43/44、44/45、45/46、46/47、47/48、48/49、49/50、50/51、51/52、52/53、53/54、54/55、55/56、56/57、57/58、58/59、59/60、60/61、61/62、62/63、63/64、64/65、65/66、66/67、67/68、68/69、69/70、70/71、71/72、72/73、73/74、74/75、75/76、76/77、77/78、78/79、79/80、80/81、81/82、82/83、83/84、84/85、85/86、86/87、87/88、88/89、89/90、90/91、91/92、92/93、93/94、94/95、95/96、96/97、97/98、98/99、99/100、100/101、101/102、102/103、103/104、104/105、105/106、106/107、107/108、108/109、109/110、110/111、111/112、112/113、113/114、114/115、115/116、116/117、117/118、118/119、119/120、120/121、121/122、122/123、123/124、124/125、125/126、126/127、127/128、128/129、129/130、130/131、131/132、132/133、133/134、134/135、135/136、136/137、137/138、138/139、139/140、140/141、141/142、142/143、143/144、144/145、145/146、146/147、147/148、148/149、150/151、151/152、152/153、153/154、154/155、155/156、156/157、157/158、158/159、159/160、160/161、161/162、162/163、163/164、164/165、165/166、166/167、167/168、168/169、169/170、170/171、171/172、172/173、173/174、174/175、175/176、176/177、177/178、178/179、179/180、180/181、181/182、182/183、183/184、184/185、185/186、186/187、187/188、189/190、190/191、191/192、192/193、193/194、194/195、195/196、196/197、197/198、198/199、199/200または200/201の間に存在し得る。
【0244】
一実施形態では、BXは、27bpと28bpとの間または配列番号24の位置28192bpと位置28193bpとの間に対応する場所にDNA配列が挿入された配列番号24を含む。
【0245】
一実施形態では、BXは配列番号21の28166bp~28366bpの配列を有する。一実施形態では、BXは結合である。
【0246】
本明細書で使用されるBBは、L5領域をコードするDNA配列を指す。本明細書で使用されるL5領域は、文脈上必要に応じて、ファイバーポリペプチド/タンパク質をコードする遺伝子を含むDNA配列を指す。ファイバー遺伝子/領域は、アデノウイルスの主要なキャプシド構成要素であるファイバータンパク質をコードする。ファイバーは、受容体認識に機能し、アデノウイルスが細胞に選択的に結合し感染する能力に寄与する。
【0247】
本開示のウイルスでは、ファイバーは任意のアデノウイルス血清型由来のものであってよく、血清型の異なるアデノウイルスのファイバーを改変して得られるキメラのアデノウイルスも本開示で想定される。一実施形態では、ファイバーはB群ウイルス、特にAd11pなどのAd11に由来するものである。
【0248】
一実施形態では、BBは配列番号21の28367bp~29344bpの配列を有する。
【0249】
本明細書で使用されるBYに関連するDNA配列は、BBのL5遺伝子の3’末端に近接するDNA配列を指す。本明細書で使用されるL5遺伝子の3’末端に近接または隣接するとは、L5遺伝子またはそれに本来付随する非コード領域の3’末端に隣接している(連続している)こと、すなわち、L5遺伝子またはそれに本来付随する非コード領域(すなわち、L5に内在する非コード配列の全部または一部)の3’プライム末端に隣接している、または連続していることを指す。あるいは、近接または隣接するとは、L5遺伝子に近い位置にあり、BY領域とL5遺伝子の3’末端との間にコード配列が存在しないことを指すこともある。
【0250】
したがって、一実施形態では、BYは、コード配列の「終わり」を表すL5の塩基と直接連結している。
【0251】
したがって、一実施形態では、BYは、非コード配列の「終わり」を表すL5の塩基と直接連結しているか、L5に天然に付随する非コード領域と直接連結している。
【0252】
本来と天然には、本明細書では互換的に使用される。一実施形態では、BYは配列番号25の配列を含む。この配列は非コード配列であり、例えば導入遺伝子(または導入遺伝子カセット)、制限部位またはその組合せを含むDNA配列をその中に挿入し得る。この配列は、導入遺伝子の正確な位置にいくぶん柔軟性を与えると同時にウイルスの安定性および生存能に対する破壊的作用を最小限に抑えるという点で緩衝的な役割を果たすため有利である。
【0253】
インサート(1つまたは複数)は、配列番号22内の5’末端、3’末端または1bp~35bpの間の任意の地点のいずれに存在してもよく、例えば、塩基対1/2、2/3、3/4、4/5、5/6、6/7、7/8、8/9、9/10、10/11、11/12、12/13、13/14、14/15、15/16、16/17、17/18、18/19、19/20、20/21、21/22、22/23、23/24、24/25、25/26、26/27、27/28、28/29、29/30、30/31、31/32、32/33、33/34または34/35の間に存在し得る。
【0254】
一実施形態では、BYは、位置12bpと位置13bpとの間または配列番号21の29356bpおよび29357bpに対応する場所にDNA配列が挿入された配列番号25を含む。一実施形態では、インサートは制限部位インサートである。一実施形態では、制限部位インサートは1つまたは2つの制限部位を含む。一実施形態では、制限部位は、2つの制限部位を含む19bpの制限部位インサートである。一実施形態では、制限部位インサートは、1つの制限部位を含む9bpの制限部位インサートである。一実施形態では、制限部位インサートは、1つまたは2つの制限部位と少なくとも1つの導入遺伝子、例えば、1つ、2つまたは3つの導入遺伝子、例えば1つまたは2つの導入遺伝子などとを含む。一実施形態では、制限部位は、2つの制限部位と少なくとも1つの導入遺伝子、例えば1つまたは2つの導入遺伝子とを含む、19bpの制限部位インサートである。一実施形態では、制限部位インサートは、1つの制限部位と少なくとも1つの導入遺伝子、例えば1つまたは2つの導入遺伝子とを含む、9bpの制限部位インサートである。一実施形態では、(例えば、導入遺伝子カセット内で)2つの制限部位が1つまたは複数の導入遺伝子、例えば2つの導入遺伝子などを挟んでいる。一実施形態では、BYが2つの制限部位を含む場合、前記制限部位は互いに異なるものである。一実施形態では、BYの前記1つまたは複数の制限部位は、それが挿入されている特定のアデノウイルスゲノムには天然にみられないもの(独自のものなど)である。一実施形態では、BYの前記1つまたは複数の制限部位は、アデノウイルスゲノムのほかの場所に位置する別の制限部位とは異なるものである、例えば、天然の制限部位またはBXなどのゲノムの別の部分に導入された制限部位とは異なるものである。したがって、一実施形態では、制限部位(1つまたは複数)によって区画内のDNAを特異的に切り取ることが可能になる。
【0255】
一実施形態では、BYは配列番号21の29345bp~29379bpの配列を有する。一実施形態では、BYは結合である。
【0256】
一実施形態では、インサートは配列番号25の12bpの後ろにある。
【0257】
一実施形態では、インサートは配列番号21の約29356bpの位置にある。
【0258】
一実施形態では、インサートは、1つまたは複数の導入遺伝子、例えば、1つ、2つまたは3つ、例えば1つまたは2つなどの導入遺伝子を含む導入遺伝子カセットである。
【0259】
本明細書で使用されるE4は、アデノウイルスE4領域(すなわち、ポリペプチド/タンパク質領域)の一部または全部をコードするDNA配列を指し、必要に応じてこれを変異させ、E4遺伝子によってコードされるタンパク質が、保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換(例えば、アミノ酸1個、2個、3個、4個または5個の置換、付加および/または欠失)を有し、野生型(対応する非変異タンパク質)と同じ機能をもち;野生型タンパク質に比して機能が増大し;野生型タンパク質に比して機能が低下し、例えば機能がなくなり;または野生型タンパク質に比して新たな機能をもち、あるいはこれらを組み合わせが生じるようにしてもよい。
【0260】
一実施形態では、E4領域は一部が欠失している、例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%または5%欠失している。一実施形態では、E4領域は配列番号21の32188bp~29380bpの配列を有する。
【0261】
一実施形態では、E4は、欠失しているE4orf4領域以外が存在する。
【0262】
一実施形態では、B3は結合である、すなわちE4が存在しない。
【0263】
一実施形態では、B3は、配列番号21の32188bp~29380bpからなる配列を有する。
【0264】
本明細書で使用される数値範囲には端点が含まれる。
【0265】
当業者であれば、本明細書の式(I)、(Ia)などの式の要素は連続したものであり、非コードDNA配列のほか本明細書で言及される遺伝子およびコードDNA配列(構造的特徴)を具体的に表し得ることが理解されよう。1つまたは複数の実施形態では、本開示の式は、アデノウイルスゲノムに天然に存在する配列を記載することを試みるものである。この場合、その式は、ゲノムの関連する区画を特徴付ける主要な要素を表しており、DNAの一続きのゲノムを網羅的に表すことを意図するものではないことが当業者には明らかであろう。
【0266】
本明細書で使用されるE1A、E1B、E3およびE4はそれぞれ独立して、野生型のほか、各領域が本明細書に記載されるように変異または部分的に欠失したその同等物、特に既知のアデノウイルスに由来する野生型配列を指す。
【0267】
本明細書で使用される「インサート」は、5’末端もしくは3’末端に挿入されるか、所与のDNA配列の参照区画内にその参照配列を分断する形で挿入されるDNA配列を指す。インサートが位置する地点に対する参照地点として使用される参照配列。本開示の場合、インサートは一般に、配列番号24または配列番号25の中に存在する。インサートは、制限部位インサート、導入遺伝子カセットまたはその両方であり得る。ウイルスは、配列によって分断されてもなお元の配列を含んでいるが、それは一般に、インサートを挟む2つのフラグメントとして存在することになる。
【0268】
一実施形態では、導入遺伝子または導入遺伝子カセットは、バイアスのない挿入トランスポゾン、例えばTN7トランスポゾンまたはその一部分を含まない。本明細書で使用されるTn7トランスポゾンは、国際公開第2008/080003号に記載されているバイアスのない挿入トランスポゾンを指す。
【0269】
一実施形態では、導入遺伝子または導入遺伝子カセットは調節エレメントまたは調節配列をさらに含む。
【0270】
その他の調節配列
本明細書で使用される「遺伝子発現調節因子」(または調節因子/調節エレメント)は、通常は転写または翻訳を開始または増大させることによって、遺伝子発現に何らかの役割を果たす、プロモーター配列、エンハンサー配列またはスプライスアクセプター配列などの遺伝子要素を指す。
【0271】
本明細書で使用される「スプライスアクセプター配列」、「スプライスアクセプター」または「スプライス部位」は、スプライセオソーム複合体の核内低分子リボ核タンパク質によってmRNA分子が認識される時点を決定する調節配列を指す。スプライセオソームが会合すると、これがmRNA分子のスプライスアクセプター部位と上流のスプライスドナー部位との間のスプライシングを触媒し、翻訳されて単一のポリペプチドまたはタンパク質を生じ得る成熟mRNA分子が生じる。
【0272】
本発明には様々な大きさのスプライスアクセプター配列を用いてよく、これらは短いスプライスアクセプター(小)、スプライスアクセプター(中)および分岐スプライスアクセプター(大)と表され得る。
【0273】
本明細書で使用されるSSAは、通常はスプライス部位のみを含む、例えば4bpの短いスプライスアクセプターを指す。本明細書で使用されるSAは、通常は短いスプライスアクセプターとポリピリミジントラクトとを含む、例えば16bpのスプライスアクセプターを指す。本明細書で使用されるbSAは、通常は短いスプライスアクセプターとポリピリミジントラクトと分岐点とを含む、例えば26bpの分岐スプライスアクセプターを指す。
【0274】
一実施形態では、本開示の構築物に使用するスプライスアクセプターは、CAGGまたは配列番号3もしくは4である。一実施形態では、SSAは配列番号CAGGのヌクレオチド配列を有する。一実施形態では、SAは配列番号23のヌクレオチド配列を有する。一実施形態では、bSAはcaggのヌクレオチド配列を有する。一実施形態では、スプライスアクセプター配列は、tgctaatctt cctttctctc ttcagg(配列番号4)、tttctctctt cagg(配列番号3)およびcaggを含む群より独立して選択される。
【0275】
一実施形態では、スプライス部位のすぐ後にCCACCを含む共通のコザック配列が続く(すなわち、5’から3’方向に向かって続く)。一実施形態では、スプライス部位とコザック配列との間に最大100bp以下の間隔がある(隔てられている)。一実施形態では、コザック配列はCCACCのヌクレオチド配列を有する。
【0276】
通常、内在性プロモーターまたは外来プロモーター(例えば内在性プロモーターなど)の制御下にある場合、コード配列の直前にコザック配列がある。コード領域の始まりは開始コドン(AUG)によって示され、例えば配列(gcc)gccRccAUGg[配列番号105]の場合、コード配列の開始部分の始まりは、太字の塩基によって示される。小文字は、この位置によくみられる(ただし、異なる場合もある)塩基を表し、大文字は高度に保存された塩基を表し、すなわち、「AUGG」配列は不変であるか、仮に変化するとしてもまれである。「R」は、この位置には通常、プリン(アデニンまたはグアニン)がみられることを表し、括弧内の配列(gcc)は意義が明らかにされていない。したがって、一実施形態では、開始コドンAUGをコザック配列に組み込む。
【0277】
本明細書で使用される内部リボソーム進入DNA配列は、内部リボソーム進入配列(IRES)をコードするDNA配列を指す。本明細書で使用されるIRESは、mRNA配列内で始まる開始を含むメッセンジャーRNA(mRNA)配列の翻訳の開始を可能にするヌクレオチド配列を意味する。これは、カセットがポリシストロニックmRNAをコードする場合に特に有用である。IRESを使用するとポリシストロニックmRNAが生じ、これが複数の個々のタンパク質またはペプチドに翻訳される。一実施形態では、内部リボソーム進入DNA配列は配列番号6のヌクレオチド配列を有する。一実施形態では、ゲノム内で特定のIRESを1回のみ使用する。このことは、ゲノムの安定性の点で有益であり得る。
【0278】
本明細書で使用される「高自己切断効率2Aペプチド」または「2Aペプチド」は、翻訳後に効率的に切断されるペプチドを指す。適切な2Aペプチドとしては、P2A、F2A、E2AおよびT2Aが挙げられる。本発明者らは、所与の2Aペプチドをコードする特定のDNA配列を1回使用すると、2回目に同じ特定のDNA配列を使用してはいけないことに気付いた。しかし、DNAコードの冗長性を利用して、同じ2Aペプチドに翻訳されるDNA配列を作製し得る。2Aペプチドの使用は、カセットがポリシストロニックmRNAをコードする場合に特に有用である。2Aペプチドを使用すると単一のポリペプチド鎖が生じ、これが翻訳され、さらに翻訳後修飾を受けて複数の個々のタンパク質またはペプチドが生じる。
【0279】
一実施形態では、使用する被コードP2Aペプチドは配列番号7のアミノ酸配列を有する。一実施形態では、使用する被コードF2Aペプチドは配列番号8のアミノ酸配列を有する。一実施形態では、使用する被コードE2Aペプチドは配列番号9のアミノ酸配列を有する。一実施形態では、使用する被コードT2Aペプチドは配列番号10のアミノ酸配列を有する。
【0280】
一実施形態では、導入遺伝子がコードする1つのmRNAまたは各mRNAは、通常、mRNA配列の末端などに、例えば配列番号5に示されるポリアデニル化シグナル配列を含む。したがって、一実施形態では、導入遺伝子または導入遺伝子カセットは、ポリアデニル化シグナル配列をコードする配列を少なくとも1つ含む。
【0281】
本明細書で使用される「PolyA」、「ポリアデニル化シグナル」または「ポリアデニル化配列」は、通常、AATAAA部位を含み、転写された後、その新生mRNA分子を切断しポリアデニル化する多タンパク質複合体によって認識され得る、DNA配列を意味する。
【0282】
一実施形態では、ポリアデニル化配列は配列番号5のヌクレオチド配列を有する。
【0283】
一実施形態では、構築物はポリアデニル化配列を含まない。一実施形態では、遺伝子発現調節因子はスプライスアクセプター配列である。
【0284】
一実施形態では、抗体または抗体結合フラグメントなどのタンパク質/ポリペプチド/ペプチドをコードする配列は、ポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0285】
一実施形態では、本明細書に開示される配列を有するウイルスまたは構築物、例えば、NG-330(配列番号16);NG-334(配列番号17);NG-345(配列番号18);NG-346(配列番号19);NG-347(配列番号20)およびNG-348(配列番号96)から選択されるウイルスを提供する。
【0286】
一実施形態では、ウイルスはNG-347(配列番号20)またはNG-348(配列番号96)である。
【0287】
製剤
本開示はこのほか、本明細書に記載されるウイルスの医薬製剤に及ぶ。
【0288】
一実施形態では、本開示による複製可能な腫瘍溶解性の例えば注入または注射用の液体非経口製剤であって、ウイルス粒子の投与量が1投与体積当たり1×1010~1×1014個の範囲内にある製剤を提供する。
【0289】
非経口製剤は、GI管から送達しないように設計された製剤を意味する。典型的な非経口送達経路としては、注射、埋植または注入が挙げられる。一実施形態では、製剤をボーラス送達用の形態で提供する。
【0290】
一実施形態では、非経口製剤は注射剤の形態である。注射剤としては、静脈内注射剤、皮下注射剤、腫瘍内注射剤または筋肉内注射剤が挙げられる。本明細書で使用される注射は、シリンジから体内に液体を挿入することを意味する。一実施形態では、本開示の方法は腫瘍内注射を含まない。
【0291】
一実施形態では、非経口製剤は注入剤の形態である。
【0292】
本明細書で使用される注入は、点滴、注入ポンプ、シリンジポンプまたはそれに相当する装置によって比較的遅い速度で液体を投与することを意味する。一実施形態では、注入を1.5分~120分の範囲の時間、例えば約3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、65分、70分、65分、80分、85分、90分、95分、100分、105分、110分または115分にわたって実施する。
【0293】
一実施形態では、例えば、シリンジポンプによって投与する100ml未満、例えば30mlの製剤の1回用量。
【0294】
一実施形態では、注射を低速注射として例えば1.5~30分の時間にわたって実施する。
【0295】
一実施形態では、製剤は静脈内(i.v.)投与用のものである。この経路は、器官および組織の大部分に短時間で到達させることが可能であることから、腫瘍溶解性ウイルスの送達に特に効果的であるほか、転移、例えば確立された転移、特に肝臓および肺などの血管に富む領域にある転移の治療に特に有用である。
【0296】
治療剤は通常、製造および保管の条件下で無菌かつ安定である。組成物は、ヒトへの投与に適した液剤、マイクロエマルション剤、リポソーム剤をはじめとする非経口製剤として製剤することが可能であり、特に単回用量でシリンジまたはバイアルなどの予め充填した装置として製剤化してもよい。
【0297】
製剤は一般に、薬学的に許容される希釈剤または担体、例えば、ウイルスと適合性があり、中のウイルスが必要とされる期間にわたって安定である無毒性の等張な担体を含む。
【0298】
担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびその適切な混合物を含有する、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、分散剤または界面活性剤、例えばレシチンまたはポリソルベート80もしくはポリソルベート40などの非イオン性界面活性剤などの使用によって維持することができる。分散液中では、界面活性剤の存在によって、必要とされる粒子径の維持が補助され得る。等張剤の例としては、組成物中の糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトールなどまたは塩化ナトリウムが挙げられる。
【0299】
一実施形態では、使用する非経口製剤は、緩衝剤、例えば4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、リン酸緩衝剤および/またはトリス緩衝剤、糖、例えばデキストロース、マンノース、スクロースまたはこれに類似するもの、塩、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カリウムなど、界面活性剤、例えばbrij、PS-80、PS-40またはこれに類似するものなどの非イオン性界面活性剤などのうちの1つまたは複数のものを含み得る。製剤はこのほか、起こり得る分解の1つまたは複数の経路を阻害すると考えられるEDTAもしくはエタノールまたはEDTAとエタノールの組合せなどの保存剤を含み得る。
【0300】
一実施形態では、製剤は、精製された本開示による腫瘍溶解性ウイルス、例えば、1用量当たり1×1010~1×1014個のウイルス粒子、例えば1用量当たり1×1010~1×1012個のウイルス粒子を含む。一実施形態では、製剤中のウイルスの濃度は2×108~2×1014vp/mlの範囲内、例えば2×1012vp/mlなどである。
【0301】
一実施形態では、非経口製剤はグリセロールを含む。
【0302】
一実施形態では、製剤は、本明細書に記載される腫瘍溶解性アデノウイルスと、HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸)と、グリセロールと、緩衝剤とを含む。
【0303】
一実施形態では、非経口製剤は、本開示のウイルスと、HEPES(例えば、5mM)と、グリセロール(例えば、5~20%(v/v))と、塩酸(例えば、pHを7~8の範囲に調整するためのもの)と、注射用水とからなる。
【0304】
一実施形態では、濃度2×1012vp/mLの本開示のウイルス0.7mLを、5mM HEPES、20%グリセロールを用いて最終pH7.8で製剤化する。
【0305】
薬学的に許容される担体については、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing社、ニュージャージー州、1991)で徹底的に論じられている。
【0306】
一実施形態では、吸入を含めた局所投与用の製剤として製剤を提供する。
【0307】
適切な吸入製剤としては、吸入粉末剤、噴射ガスを含有する定量式エアゾール剤または噴射ガスを含まない吸入液剤が挙げられる。本開示による吸入粉末剤は一般に、本明細書に記載されるウイルスを生理的に許容される添加剤とともに含有する。
【0308】
このような吸入粉末剤は、単糖(例えば、グルコースまたはアラビノース)、二糖(例えば、ラクトース、サッカロース、マルトース)、オリゴ糖および多糖(例えば、デキストラン)、ポリアルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、塩(例えば、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム)または上記のもの同士の混合物を含み得る。ラクトースまたはグルコースなどの単糖または二糖は、限定されるわけではないが、特にその水和物の形態で使用するのに適している。
【0309】
肺に沈着させる粒子は、10ミクロン未満、例えば1~9ミクロン、例えば0.1~5μm、特に1~5μmなどの粒子径が必要である。ウイルスを運搬する粒子の大きさはもっとも重要なものであり、このため一実施形態では、本開示によるウイルスを粒子、例えば所与の大きさのラクトース粒子などの上に吸着または吸収させ得る。
【0310】
吸入エアゾール剤の調製に使用し得る噴射ガスは当該技術分野で公知である。適切な噴射ガスは、n-プロパン、n-ブタンまたはイソブタンなどの炭化水素のほか、ハロゲン化炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタンの塩素化誘導体および/またはフッ素化誘導体などのなかから選択される。上記の噴射ガスは単独で使用しても、その混合物として使用してもよい。
【0311】
特に適した噴射ガスは、TG 11、TG 12、TG 134aおよびTG227のなかから選択されるハロゲン化アルカン誘導体である。上記のハロゲン化炭化水素のうち、TG134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)およびTG227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)ならびにその混合物が特に適している。
【0312】
噴射ガス含有吸入エアゾール剤はほかにも、他の成分、例えば共溶媒、安定剤、界面活性剤、抗酸化剤、滑沢剤およびpH調整手段などを含有し得る。上記の成分はいずれも当該技術分野で公知のものである。
【0313】
本発明による噴射剤ガス含有吸入エアゾール剤は、活性物質を最大5重量%含有し得る。本発明によるエアゾール剤は、有効成分を例えば、0.002~5重量%、0.01~3重量%、0.015~2重量%、0.1~2重量%、0.5~2重量%または0.5~1重量%含有する。
【0314】
あるいは、肺への局所投与は、例えば、噴霧器などの装置、例えば圧縮機と接続した噴霧器(例えば、バージニア州リッチモンドのPari Respiratory Equipment社製のPari Master(登録商標)圧縮機と接続したPari LC-Jet Plus(登録商標)噴霧器)などを用いる、液状の液剤または懸濁剤の投与によるものであってもよい。
【0315】
本発明のウイルスを、例えば非経口製剤に関して既に上に記載したように、溶媒に分散させて、例えば溶液または懸濁液の形態で送達することができる。本発明のウイルスをしかるべき生理溶液、例えば、生理食塩水をはじめとする薬学的に許容される溶媒または緩衝溶液に懸濁させることができる。当該技術分野で公知の緩衝溶液は、pHが約4.0~5.0になるよう水1ml当たりエデト酸二ナトリウムを0.05mg~0.15mg、NaClを8.0mg~9.0mg、ポリソルベートを0.15mg~0.25mg、無水クエン酸を0.25mg~0.30mgおよびクエン酸ナトリウムを0.45mg~0.55mg含有するものであり得る。
【0316】
治療用の懸濁剤または液剤はほかにも、1つまたは複数の添加剤を含有し得る。添加剤は当該技術分野で周知のものであり、緩衝剤(例えば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤および炭酸水素緩衝剤)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトールおよびグリセロールがこれに含まれる。液剤または懸濁剤をリポソームまたは生分解性マイクロスフェアに封入することができる。製剤は一般に、無菌製造工程を用いて実質的に無菌の形態で提供される。
【0317】
これには、当業者によく知られた方法による、製剤に使用する緩衝溶媒/溶液のろ過による生産および滅菌、無菌緩衝溶媒溶液への抗体の無菌懸濁ならびに製剤の無菌の入れ物への分注が含まれ得る。
【0318】
本開示による噴霧製剤を、例えばホイル製の包装材料に包装した単回用量単位(例えば、密封したプラスチック製の容器またはバイアル)として提供し得る。各バイアルには、一定体積、例えば2mLの溶媒/溶液緩衝剤に単回用量を溶かしたものが含まれている。
【0319】
本開示はほかにも、例えば国際公開第2009/068877号および米国特許出願公開第2004/0153033号(ともに参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている装置を用いて鼻腔内に送達する、液状の液剤または懸濁剤に及ぶ。
【0320】
治療
さらなる態様では、本開示は治療、特に癌治療に使用するための本明細書に記載されるウイルスまたはその製剤に及ぶ。
【0321】
一実施形態では、治療方法は腫瘍の治療に用いるものである。
【0322】
本明細書で使用される腫瘍は、制御不能で進行性の過剰な細胞分裂によって生じ、新生物とも呼ばれる、異常な組織の塊を指すものとする。腫瘍は良性(非癌性)であっても悪性であってもよい。腫瘍にはあらゆる形態の癌および転移が包含される。一実施形態では、腫瘍は癌性である。
【0323】
一実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。固形腫瘍は局在性であっても転移性であってもよい。
【0324】
一実施形態では、腫瘍は上皮起源のものである。
【0325】
一実施形態では、腫瘍は悪性腫瘍、例えば結腸直腸癌、肝細胞癌、前立腺癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌または肺癌などである。
【0326】
一実施形態では、腫瘍は結腸直腸悪性腫瘍である。
【0327】
本明細書で使用される悪性腫瘍は癌性細胞を指す。
【0328】
一実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスを転移の治療または予防に用いる。
【0329】
一実施形態では、本明細書の方法または製剤を薬剤耐性癌の治療に用いる。
【0330】
一実施形態では、ウイルスをさらなる癌治療または癌治療法の実施と組み合わせて投与する。
【0331】
一実施形態では、癌治療、例えば上記の癌の治療のための薬剤の製造に使用する、本開示によるウイルスまたは製剤を提供する。
【0332】
さらなる態様では、癌を治療する方法であって、必要とする患者、例えばヒト患者に治療有効量の本開示によるウイルスまたは製剤を投与することを含む方法を提供する。
【0333】
一実施形態では、本明細書の腫瘍溶解性ウイルスまたは製剤を別の治療法と組み合わせて投与する。
【0334】
本明細書で使用される「組み合わせて」は、腫瘍溶解性ウイルスを癌治療または癌治療法の前に、これと同時に、かつ/またはこれの後に投与する場合を包含するものとする。しかし、一般に、併用療法(combination thera)の治療レジメン。
【0335】
癌治療法としては、外科手術、放射線療法、標的療法および/または化学療法が挙げられる。
【0336】
本明細書で使用される癌治療は、治療用化合物もしくは生物学的薬剤、例えば癌の治療を目的とする抗体による治療および/または癌の維持療法を指す。
【0337】
一実施形態では、癌治療は、化学療法剤;抗体薬物コンジュゲートなどの標的化抗癌剤;放射線療法、放射性同位体療法またはその組合せを含めた他の任意の抗癌療法から選択される。
【0338】
一実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスなどの本開示のウイルスを外科手術などの治療法の前治療として用いて(ネオアジュバント療法)、腫瘍を縮小させ、転移を治療し、かつ/または転移もしくはさらなる転移を予防し得る。腫瘍溶解性アデノウイルスを外科手術などの治療法の後に用いて(アジュバント療法)、転移を治療し、かつ/または転移もしくはさらなる転移を予防し得る。
【0339】
一実施形態では、本開示のウイルスまたは製剤を維持療法に用いる。
【0340】
本明細書で使用される同時とは、腫瘍溶解性アデノウイルス製剤と同時またはほぼ同時に追加の癌治療剤を投与することである。治療剤は、同じ製剤中に含まれるものであっても、別個の製剤として投与するものであってもよい。
【0341】
一実施形態では、ウイルスを化学療法剤の投与と組み合わせて投与する。
【0342】
本明細書で使用される化学療法剤は、悪性の細胞および組織を選択的に破壊する特異的な抗悪性腫瘍性の化学物質または薬物を指すものとする。例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤をはじめとする抗腫瘍剤。特異的化学療法剤の例としては、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル(5-FU)、パクリタキセル、カペシタビン、イリノテカンのほか、シスプラチンおよびオキサリプラチンなどのプラチンが挙げられる。用量は、治療する癌の性状に基づいて実施者が選択し得る。
【0343】
一実施形態では、治療剤は、免疫応答および/または腫瘍血管形成の制御を補助し得るガンシクロビルである。
【0344】
一実施形態では、本明細書の方法に用いる1つまたは複数の治療法は、低用量の抗癌薬による継続的治療または高頻度治療であり、ほかの治療方法と併用されることが多いメトロノミック療法である。
【0345】
B亜群腫瘍溶解性アデノウイルス、特にAd11およびEnAdなどのその派生物は、アポトーシスとはほぼ無関係な作用機序を有し、主として壊死性の機序によって癌細胞を死滅させると思われるため、特に化学療法剤との相乗効果を示し得る。さらに、化学療法実施時に起こる免疫抑制が、腫瘍溶解性ウイルスをさらに効率的に機能させ得る。
【0346】
本明細書で使用される治療用量は、適切な治療レジメンで用いて目的とする治療効果を得るのに適する、例えば、特に用量を制限する副作用を引き起こさずに、疾患の症状または状態を改善する、腫瘍溶解性アデノウイルスなどのウイルスの量を指す。ある用量について、そのウイルス粒子の数が腫瘍もしくは転移の成長の遅延もしくは停止、腫瘍もしくは転移の大きさの縮小の所見および/または患者の寿命の延長をもたらすのに十分なものである場合、それは癌または転移の治療における治療用量であると見なされ得る。適切な治療用量は一般に、治療効果と許容される毒性との間のバランス、例えば、治療法によって得られる利益を考慮に入れて副作用と毒性が許容される場合である。
【0347】
一実施形態では、単回治療サイクルで本開示による腫瘍溶解性アデノウイルスの非経口製剤を複数用量、全身に投与することを提供し、ここでは、例えば、投与毎に投与する総用量が1用量当たり1×1010~1×1014個のウイルス粒子の範囲内にある。
【0348】
一実施形態では、ウイルス粒子の送達速度が2×1010個/分~2×1012個/分の範囲内になるよう1用量または複数用量(例えば、各用量)のウイルスまたはそれを含む組成物を投与する。
【0349】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたは治療用構築物(これらを含む製剤を含む)を毎週投与する、例えば、第1週は第1日、第3日、第5日に投与し、その後、毎週1回投与する。
【0350】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたは治療用構築物(これらを含む製剤を含む)を2週間毎または3週間毎に投与する、例えば、第1週は第1日、第3日および第5日に投与し、第2週または第3週もその第1日、第3日および第5日に投与する。この投与レジメンを必要に応じて何度も繰り返してよい。
【0351】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたは治療用構築物(これらを含む製剤を含む)を例えば治療サイクルの中で、または維持療法として毎月投与する。
【0352】
一実施形態では、本開示のウイルスおよび構築物を組換え技術によって調製する。当業者であれば、ゲノムまたはそのゲノム全体の一部を含むプラスミドを完全に合成することを含めた他の技術的手段によって、武装アデノウイルスゲノムを製造することが可能であることが理解されよう。当業者であれば、ゲノムを合成する場合、制限部位ヌクレオチドはクローン化法を用いて遺伝子を挿入した際にアーチファクトとなることから、挿入領域にそれを含めてはならないことが理解されよう。
【0353】
一実施形態では、武装アデノウイルスゲノムを、例えば配列番号18、20、96、101、102、103の導入遺伝子カセットとともに用いた配列番号109のように、完全に合成により製造する。
【0354】
本明細書の開示はさらに、導入遺伝子または導入遺伝子カセットの挿入によって得られた、またはそれにより入手可能な式(I)またはその副次式のアデノウイルスに及ぶ。
【0355】
本明細書で使用される「is」はcomprisingを意味する。
【0356】
本明細書においては、「comprising」は「including」として解釈するべきである。
【0357】
特定の特徴/要素を含む本発明の実施形態はほかにも、当該要素/特徴「よりなる」またはそれ「より実質的になる」代替的実施形態に及ぶものとする。
【0358】
技術的に適切である場合、本発明の実施形態を組み合わせてもよい。
【0359】
特許および出願などの技術参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0360】
本明細書に具体的かつ明確に記載される実施形態はいずれも、単独で、または1つまたは複数のさらなる実施形態とともに、放棄の土台をなし得る。
【0361】
本明細書の見出しは、文書をいくつかの節に分けるために使用されるものであって、本明細書に記載される開示の意味の解釈に用いられることを意図するものではない。
【0362】
本発明について、以下の実施例で単なる説明を目的としてさらに記載する。
【0363】
実施例
実施例1:T細胞活性化抗原CD80を発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)をコードするカセットを直接挿入することによりプラスミドpNG-330を作製した。pNG-330カセットは、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG、ヒトCD80のcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)を含むものである。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Aに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認した。
【0364】
ウイルスの作製および特徴付け
本明細書でNG-330-00などのウイルスに言及する場合、それは単に特定の1回分にまとめた「00」のウイルスNG-330に言及したことになる。ほかのウイルスにも同様の命名法が使用され得る。プラスミドpNG-330を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-330(配列番号16)を作製した。消化したDNAをフェノール/クロロホルム抽出によって精製し、分子生物学グレードの95%超エタノール300μlおよび3M酢酸ナトリウム10μl中、-20℃で16時間沈殿させた。沈殿したDNAを14000rpmで5分間遠心分離することによってペレット化し、70%エタノール500μlで洗浄した後、再び14000rpmで5分間遠心分離した。清浄なDNAペレットを風乾させ、lipofectamineトランスフェクション試薬15μlを含有するOptiMEM 500μlに再懸濁させ、室温で30分間インキュベートした。次いで、集密度70%まで増殖させた293細胞の入ったT-25フラスコにトランスフェクション混合物を滴加した。細胞とトランスフェクション混合物を5%CO2、37℃で2時間インキュベートした後、細胞に細胞培地(グルタミンを含み2%FBSを添加した高グルコースDMEM)4mlを加え、フラスコを5%CO2、37℃でインキュベートした。
【0365】
トランスフェクトした293細胞を24時間毎にモニターし、48~72時間毎に追加の培地を補充した。細胞単層での顕著な細胞変性効果(CPE)を観察することによってウイルスの産生をモニターした。盛んなCPEが観察された後、3回の凍結融解サイクルによって293細胞からウイルスを回収した。ウイルスストックを増幅するため、回収したウイルスを用いて293細胞を再感染させた。細胞単層での顕著なCPEを観察することによって、増幅時の生存ウイルス産生を確認した。CPEが観察された後、3回の凍結融解サイクルによって293細胞からウイルスを回収した。増幅したストックを用いてさらに増幅した後、二重の塩化セシウムバンド形成によってウイルスを精製し、NG-330ウイルスストックを得た。
【0366】
実施例2:癌細胞系を用いてEnAdと比較したNG-330ウイルス活性の特徴付け
結腸癌細胞系HT-29および肺癌細胞系A549を用いてNG-330ウイルスまたはEnAdウイルスの複製(qPCRにより評価した)およびCD80の膜発現(フローサイトメトリーにより評価した)(
図4および5)を比較した。NG-330は、EnAdに由来し、EnAd後期遺伝子L5(ファイバー)の後にヒトT細胞活性化抗原CD80をコードする導入遺伝子カセットを含むウイルスである。挿入されているカセットの模式図を
図3Aに示す。NG-330ウイルスの作製については実施例1に詳述されている。A549癌細胞系またはHT-29癌細胞系を6ウェルプレートに7.5e5細胞/ウェル(A549細胞)または2.e6細胞/ウェル(HT-29細胞)の細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で18時間インキュベートした後、細胞にEnAdウイルス粒子またはNG-330ウイルス粒子を1細胞当たり100個(ppc)感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、48時間後または72時間後にアッセイを実施した。
【0367】
qPCRによるウイルス複製の評価
100ppcのEnAdまたはNG-330を24時間、48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞系およびA549細胞系をqPCRによるウイルスDNAの定量化に用いた。細胞上清を収集し、1200rpmで5分間遠心分離することによって清澄化した。Sigma Genelute DNA extraction Kitを製造業者のプロトコル通りに用いて上清10μlからDNAを抽出した。EnAdウイルス粒子(2.5e10~2.5e5vp)を用いた標準曲線も作成し、Sigma Genelute Kitを用いて抽出した。EnAd E3遺伝子特異的プライマー-プローブセットを用いたqPCRにより、各抽出試料または標準物質を分析した。
【0368】
検出された1細胞当たりのウイルスゲノム数の定量化から、NG-330ウイルスとEnAdウイルスの複製はHT-29細胞系(
図4A)、A549細胞系(
図4B)ともに同程度であることがわかった。未感染細胞にはウイルスゲノムを検出することができなかった(データ不掲載)。
【0369】
フローサイトメトリーによるCD80の細胞表面発現の評価
100ppcのEnAdまたはNG-330を24時間、48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞系およびA549細胞系を細胞表面でのCD80導入遺伝子発現の解析に用いた。トリプシン処理によって腫瘍細胞をプレート表面から剥がし、遠心分離した後、1%BSA/PBSに再懸濁させた。次いで、試料を緩衝液、Cy5とコンジュゲートしたマウスアイソタイプ対照抗体またはCy5とコンジュゲートした抗ヒトCD80抗体(クローン2D10)と5℃で1時間インキュベートした。生存細胞を識別するため、全試料にZombie Aqua live/deadによる共染色も実施した。試料を1%BSA/PBSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー(FACS、Attune)による細胞生存率および細胞表面のCD80タンパク質発現の解析に供した。解析では、A549細胞(
図5A)、HT-29(
図5B)細胞ともに、NG-330で処理した細胞の表面にはCD80を検出することができるが、EnAdで処理した細胞、未処理の細胞のいずれもCD80を検出することができないことがわかった。
【0370】
ウイルス腫瘍溶解能の比較
HT-29結腸癌細胞を2.5e4細胞/ウェルの細胞密度で96ウェルプレートに播いた。プレートを37℃、5%CO
2で4時間インキュベートした後、感染密度が1細胞当たり100~0.39粒子(ppc)の範囲のEnAdウイルス粒子またはNG-330ウイルス粒子を細胞に感染させた。感染から72時間後、Cell Titre 96MTS試薬(Promega社:G3581)を用いてHT-29細胞の生存率を評価した。各感染密度での細胞の生存%を定量化することにより、HT29細胞でのNG-330の腫瘍溶解能がEnAdと同程度であることが明らかになった(
図6)。
【0371】
実施例3:T細胞活性化抗原CD80およびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)およびヒトサイトカインのインターフェロンα(IFNα、配列番号12)をコードするカセットを直接挿入することによりプラスミドpNG-343を作製した。pNG-343カセットは、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;ヒトIFNαのcDNA;高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトCD80のcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)を含むものである。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Bに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認した。
【0372】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-343を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-343(配列番号17)を作製した。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-343を増幅し精製する。
【0373】
実施例4:FMS様チロシンキナーゼ-3リガンドの細胞外ドメイン、ケモカインMIP1αおよびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、可溶性変異型のFMS様チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L、配列番号13)、MIP1α(アイソフォームLD78β、配列番号14)およびIFNα(配列番号12)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-345を作製する。pNG-345カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;ヒトFlt3LのcDNA;高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトMIP1αのcDNA;高効率自己切断型T2Aペプチド配列(配列番号10);ヒトIFNαのcDNAおよび3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Dに示す。CDNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認する。
【0374】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-345を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-345(配列番号18)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-345を増幅し精製する。
【0375】
実施例5:T細胞活性化抗原CD80、ケモカインMIP1αおよびFlt3リガンドを発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1α、配列番号14)およびヒトFlt3リガンド(配列番号13)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-346を作製した。pNG-346カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;ヒトIFNαのcDNA;高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトMIP1αのcDNA(アイソフォームLD78β);高効率自己切断型T2Aペプチド配列(配列番号10);ヒトFlt3リガンドのcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Eに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認する。
【0376】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-346を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-346(配列番号19)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-346を増幅し精製する。
【0377】
実施例6:T細胞活性化抗原CD80、ケモカインMIP1αおよびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1α、配列番号14)およびヒトサイトカインのインターフェロンα(IFNα、配列番号12)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-347を作製した。pNG-347カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;ヒトIFNαのcDNA;高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトMIP1αのcDNA(アイソフォームLD78β);高効率自己切断型T2Aペプチド配列(配列番号10);ヒトCD80のcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Fに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認する。
【0378】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-347を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-347(配列番号20)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-347を増幅し精製する。
【0379】
実施例7:T細胞活性化抗原CD80およびヒトCD3複合体のε鎖(CD3ε)に対する膜係留型一本鎖Fvフラグメント抗体を発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)および膜係留キメラ型の一本鎖Fv抗ヒトCD3e(配列番号15)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-348を作製した。pNG-348カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;膜係留型抗ヒトCD3e scFvのcDNA;高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトCD80のcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。挿入した導入遺伝子カセットの模式図を
図3Cに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認する。
【0380】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-348を酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-348(配列番号96)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-348を増幅し精製する。
【0381】
実施例8:2つの導入遺伝子;T細胞活性化抗原CD80およびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルス、NG-343の活性
癌細胞系を用いてEnAdと比較したNG-343ウイルス活性の特徴付け
結腸癌細胞系HT-29または肺癌細胞系A549を用いてNG-343ウイルスまたはEnAdウイルスの複製(qPCRにより評価した)、CD80導入遺伝子発現(フローサイトメトリーにより評価した)またはIFNα導入遺伝子発現(ELISAにより評価した)を比較した。NG-343は、EnAdに由来し、EnAd後期遺伝子L5(ファイバー)の後に位置するヒトT細胞活性化抗原CD80およびヒトサイトカインのインターフェロンα2bをコードする導入遺伝子カセットを含むウイルスである。挿入したカセットの模式図を
図3Bに示す。NG-343ウイルスの作製については実施例3に詳述されている。A549癌細胞系またはHT-29癌細胞系を12ウェルプレートに7.5×10
5細胞/ウェル(A549細胞)または1.4×10
6細胞/ウェル(HT-29細胞)の細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で18時間インキュベートした後、細胞にEnAdまたはNG-343を1細胞当たり100ウイルス粒子(ppc)で感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、48時間後または72時間後にアッセイを実施した。
【0382】
qPCRによるウイルス複製の評価
100ppcのEnAdまたはNG-343を24時間、48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞をqPCRによるウイルスDNAの定量化に用いた。細胞上清を収集し、1200rpmで5分間遠心分離することによって清澄化した。Sigma Genelute DNA extraction Kitを製造業者のプロトコル通りに用いて上清10μlからDNAを抽出した。EnAdウイルス粒子(2.5×1010~2.5×105vp)を用いた標準曲線も作成し、Sigma Genelute Kitを用いて抽出した。EnAd E3遺伝子特異的プライマー-プローブセットを用いたqPCRにより、各抽出試料または標準物質を分析した。
【0383】
検出された1細胞当たりのウイルスゲノム数の定量化から、NG-343ウイルスとEnAdウイルスの複製は、分析した全時点で同程度であることがわかった(
図7A)。未感染細胞にはウイルスゲノムを検出することができなかった(データ不掲載)。
【0384】
ELISAによるIFNα発現の分析
10ppcのEnAdまたはNG-343を24時間、48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞系またはA549細胞系の上清について、分泌IFNαの発現をELISAにより分析した。各ウェルから培養上清を取り出し、1200rpmで5分間遠心して細胞残屑を除去した。上清を5%BSA/PBSアッセイ緩衝液で希釈(1:2、1:50または1:100)し、Verikine Human IFN alpha Kit(Pbl assay science社)を製造業者のプロトコル通りに用いてELISAを実施した。
【0385】
標準曲線から内挿法により分泌IFNαの濃度を求めた。HT-29細胞系、A549細胞系ともに、感染の経過とともに細胞上清にIFNα発現の増大が検出された(
図7B)。
【0386】
フローサイトメトリーによるCD80の細胞表面発現の評価
10ppcのEnAdまたはNG-343を48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたA549細胞系を細胞表面でのCD80導入遺伝子発現の解析に用いた。感染後のしかるべき時点で、トリプシン処理によってA549細胞をプレート表面から剥がし、遠心分離した後、1%BSA/PBSに再懸濁させた。次いで、試料を緩衝液、Cy5とコンジュゲートしたマウスアイソタイプ対照抗体またはCy5とコンジュゲートした抗ヒトCD80抗体(クローン2D10)と5℃で1時間インキュベートした。生存細胞を識別するため、全試料にZombie Aqua live/deadによる共染色も実施した。試料を1%BSA/PBSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー(FACS、Attune)による細胞生存率および細胞表面でのCD80タンパク質発現の解析に供した。CD80発現対Live/dead染色の解析から、感染から48時間、72時間後ともに、NG-343で処理した細胞には細胞表面にCD80を検出することができるが、EnAd未感染対照(UIC)細胞には検出することができないことがわかった(
図8)。ウイルス処理から72時間後の細胞生存率は包括的なCD80発現解析を実施するのに十分なものではなかったが、NG-343で処理した細胞では生存細胞、死滅細胞ともに、この時点で高レベルのCD80を検出することができた(
図8D、下パネル)。
【0387】
次いで、100ppcで感染させてから48時間後のCD80タンパク質発現をHT-29細胞とA549細胞とで比較した。試料を回収し、上記の通りに染色した後、細胞生存率および細胞表面でのCD80タンパク質発現の解析に供した。生存細胞として染色された細胞のみこの時点でのCD80発現を解析したところ、NG-343で処理したHT-29細胞の約91%およびNG-343で処理したA549細胞の約98%の表面にCD80を検出することができるが、EnAdで処理した対照には検出することができないことがわかった。
【0388】
実施例9:癌細胞系、間質線維芽細胞系および上皮細胞系でのNG-343ウイルス活性および導入遺伝子発現の選択性。
NG-343ウイルスによってコードされるIFNαおよびCD80の導入遺伝子が、NG-343感染またはEnAd感染を許容する細胞にのみ選択的に発現することを示すため、EnAd感染を許容することが知られている癌細胞(HT-29)、許容性でないことが既に特徴付けられている線維芽細胞系(WI-38およびMRC-5)およびEnAd感染にごくわずかな許容を示す気管支上皮細胞系(BE)でのウイルス複製(qPCRにより評価した)、IFNα発現(ELISAにより評価した)およびCD80発現(フローサイトメトリーにより評価した)を測定した。簡潔に述べれば、12ウェルプレートに細胞を播き、播種から18時間後、WI38細胞、MRC5細胞またはBE細胞には100ppcのNG-343ウイルスまたはEnAdウイルスを感染させ、HT-29細胞には10ppcのNG-343ウイルスまたはEnAdウイルスを感染させた。細胞をウイルス粒子と4時間インキュベートした後、細胞から感染培地を除去し、新鮮な培地と交換した。4時間にわたる感染から1時間後または72時間後、細胞上清を回収してqPCR分析またはELISA分析に供し、細胞をトリプシンで処理してプレートから剥がし、フローサイトメトリーによる解析に供した。
【0389】
NG-343選択的およびEnAd選択的ウイルス複製
qPCRには、細胞上清を収集し、1200rpmで5分間遠心分離することによって清澄化した。Sigma Genelute DNA extraction Kitを製造業者のプロトコル通りに用いて上清10μlからDNAを抽出した。EnAdウイルス粒子(2.5×1010~2.5×105vp)を用いた標準曲線も作成し、Sigma Genelute Kitを用いて抽出した。EnAd E3遺伝子特異的プライマー-プローブセットを用いたqPCRにより、各抽出試料または標準物質を分析した。
【0390】
検出された1細胞当たりのウイルスゲノム数の定量化から、分析したいずれの細胞系も、NG-343ウイルスとEnAdウイルスの複製が同程度であることが明らかになった(
図9A)。
【0391】
NG-343選択的導入遺伝子発現
IFNα発現の検出には、細胞上清を収集し、1200rpmで5分間遠心分離することによって清澄化した。上清を5%BSA/PBSアッセイ緩衝液で希釈(1:2、1:50または1:100)し、Verikine Human IFN alpha Kit(Pbl assay science社)を製造業者のプロトコル通りに用いてELISAを実施した。
【0392】
標準曲線から内挿法により分泌IFNαの濃度を求めた。IFNα発現をNG-343感染HT-29細胞の上清にのみ検出することができたが、線維芽細胞系、気管支上皮細胞系には検出されなかった(定量下限値未満[<LLOQ])(
図9B)。
【0393】
CD80の細胞表面発現に関しては、次いで細胞を緩衝液、Cy5とコンジュゲートしたマウスアイソタイプ対照抗体またはCy5とコンジュゲートした抗ヒトCD80抗体(クローン2D10)と5℃で1時間インキュベートした。生存細胞を識別するため、全試料にZombie Aqua live/deadによる共染色も実施した。試料を1%BSA/PBSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー(FACS、Attune)による細胞生存率および細胞表面でのCD80タンパク質発現の解析に供した。IFNα発現データと同じく、HT-29細胞にのみCD80発現を検出することができ、線維芽細胞系、気管支上皮細胞系には検出可能な発現はみられなかった(
図9C)。
【0394】
以上のデータから、IFNα導入遺伝子およびCD80導入遺伝子ともに、EnAdウイルス感染を許容する細胞、すなわち癌細胞に選択的に発現し、導入遺伝子をコードすることによってNG-343ウイルスの選択性が親EnAdウイルスと比較して変化することはないことが明らかになった。
【0395】
実施例10:免疫細胞活性化に対するNG-343導入遺伝子発現の活性
腫瘍細胞をNG-343ウイルスで処理することによって自然免疫細胞応答が未処理またはEnAd処理と比較して増強されるかどうかを明らかにするため、新たに単離した末梢血単核球(PBMC)と、NG-343もしくはEnAdを感染させた腫瘍細胞または未感染の腫瘍細胞とを共培養した。自然免疫細胞集団のフローサイトメトリー解析または共培養上清のELISA分析により免疫細胞活性化を評価した。簡潔に述べれば、A549肺癌細胞を12ウェルプレートに4×10
5細胞/ウェルの密度で播いた。20時間後、細胞に10ppcのEnAdウイルスまたはNG-343ウイルスを感染させるか感染させずにおいた後、37℃、5%CO
2で24時間インキュベートした。次いで、健常ヒトドナーから密度勾配遠心分離により単離したPBMCを、PBMCとA549細胞の比が5:1になるようA549培養ウェルに加えた。PBMCの添加から48時間後、プレートから共培養上清を回収した。この時点での樹状細胞活性化を分析するため、細胞を緩衝液、Alexa Fluor 488、PE、PerCP/Cy5.5、BV605もしくはBV412とコンジュゲートしたマウスアイソタイプ対照抗体、Alexa Fluor 488とコンジュゲートした抗CD14抗体、PEとコンジュゲートした抗CD80抗体、PerCP.Cy5.5とコンジュゲートした抗HLA-DR、BV605とコンジュゲートした抗CD3またはBV421とコンジュゲートした抗PD-L1抗体と5℃で1時間インキュベートした。生存細胞を識別するため、全試料にZombie Aqua live/deadによる共染色も実施した。試料を1%BSA/PBSで3回洗浄した後、フローサイトメトリー(FACS、Attune)による解析に供した。染色がCD14、CD3ともに陰性であるが、HLA-DRが陽性である生存細胞を樹状細胞集団と定義した。この集団についてDC活性化マーカーのCD80およびPD-L1の発現を比較した(
図10)。以上の解析から、NG-343を感染させた腫瘍細胞は、DC表面でのCD80およびPD-L1の両方の表面レベルをEnAd感染腫瘍細胞培養物または未感染腫瘍細胞培養物よりも上昇させ得ることが明らかになった。
【0396】
実施例11:3つの導入遺伝子;T細胞活性化抗原CD80、ケモカインMIP1αおよびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルス、NG-347の活性
癌細胞系を用いてEnAdと比較したNG-347ウイルス活性の特徴付け
CD80導入遺伝子発現(フローサイトメトリーにより評価した)およびIFNαまたはMIP1α(CCL3)の導入遺伝子発現(ELISAにより評価した)を、結腸癌細胞系HT-29または肺癌細胞系A549をNG-347で処理したものとEnAdで処理したものとで比較した。NG-347は、EnAdに由来し、ヒトT細胞活性化抗原CD80、ヒトサイトカインのインターフェロンα2bおよびヒトケモカインMIP1α(LD78βアイソフォーム)をコードする導入遺伝子カセットを含むウイルスである。導入遺伝子の発現はウイルス内在性主要後期プロモーターの制御下にある。挿入したカセットの模式図を
図3Fに示す。NG-347ウイルスの作製については実施例6に詳述されている。A549癌細胞系またはHT-29癌細胞系を12ウェルプレートに7.5×10
5細胞/ウェル(A549細胞)または1.4×10
6細胞/ウェル(HT-29細胞)の細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で18時間インキュベートした後、細胞に1細胞当たり100個(ppc)のEnAdウイルス粒子またはNG-347ウイルス粒子を感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、48時間後または72時間後にアッセイを実施した。
【0397】
ELISAによるIFNα発現またはMIP1α発現の分析
100ppcのEnAdまたはNG-347を24時間、48時間または72時間感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞系またはA549細胞系の上清について、分泌IFNαまたは分泌MIP1αの発現をELISAにより分析した。
【0398】
実施例9で詳述した方法に従って培養上清を調製した。Verikine Human IFN alpha Kit(Pbl assay science社)を用いてIFNαに関するELISAを実施し、Human CCL3 Quantikine ELISA kit(R & D systems社)を用いてMIP1αに関するELISAを実施した。両アッセイとも製造業者のプロトコル通りに実施した。
【0399】
標準曲線から内挿法により分泌IFNαまたは分泌MIPαの濃度を求めた。HT-29細胞系、A549細胞系ともに、感染の経過とともに細胞上清中のIFNαおよびMIP1αの発現の増大が検出された(
図11Aおよび
図11B)。
【0400】
フローサイトメトリーによるCD80発現の解析
感染から48時間後のHT-29細胞およびA549細胞の表面でのCD80タンパク質発現を比較した。細胞を回収し、実施例9で詳述した方法に従って染色した。細胞を、細胞生存率および細胞表面でのCD80タンパク質発現についてフローサイトメトリーによって解析した。生存細胞のこの時点におけるCD80発現の解析から、NG-347で処理したHT-29細胞の約96%およびNG-347で処理したA549細胞の約99%の表面にCD80を検出することができるが、EnAd処理対照には染色が検出されないことがわかった(
図11C)。
【0401】
実施例12:3つの導入遺伝子;サイトカインFlt3リガンド、ケモカインMip1αおよびサイトカインIFNαを発現するEnAdウイルス、NG-345の活性。
癌細胞系を用いてEnAdと比較したNG-345ウイルス活性の特徴付け
Flt3リガンド導入遺伝子、IFNα導入遺伝子およびMIP1α導入遺伝子の発現(ELISAにより評価した)を、結腸癌細胞系HT-29または肺癌細胞系A549をNG-345で処理したものとEnAdで処理したものとで比較した。NG-345は、EnAdに由来し、可溶性変異型のヒトFlt-3リガンド、ヒトサイトカインのインターフェロンα2bおよびヒトケモカインMIP1α(LD78βアイソフォーム)をコードする導入遺伝子カセットを含むウイルスである。導入遺伝子の発現はウイルス内在性主要後期プロモーターの制御下にある。挿入したカセットの模式図を
図3Dに示す。NG-345ウイルスの作製については実施例4で詳述されている。A549癌細胞系またはHT-29癌細胞系を12ウェルプレートに7.5×10
5細胞/ウェル(A549細胞)または1.4×10
6細胞/ウェル(HT-29細胞)の細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で18時間インキュベートした後、細胞に1細胞当たり100個(ppc)のEnAdウイルス粒子またはNG-345ウイルス粒子を感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、48時間後または72時間後にアッセイを実施した。
【0402】
ELISAによるFLt-3リガンド、IFNαまたはMIP1αの発現の解析
100ppcのEnAdまたはNG-345を24時間、48時間または72時間、感染させるか感染させずにおいたHT-29細胞系またはA549細胞系の上清について、分泌Flt3-リガンド、分泌IFNαまたは分泌MIP1αの発現をELISAにより分析した。
【0403】
実施例9で詳述した方法に従って培養上清を調製した。Verikine Human IFN alpha Kit(Pbl assay science社)を用いてIFNαに関するELISAを実施し、Human CCL3 Quantikine ELISA kit(R & D systems社)を用いてMIP1αに関するELISAを実施し、Flt3L human ELISA kit(Abcam社)を用いてFlt3Lに関するELISAを実施した。いずれのアッセイも製造業者のプロトコル通りに実施した。
【0404】
標準曲線から内挿法により分泌IFNα、分泌MIPαまたは分泌FLt3Lの濃度を求めた。HT-29細胞系、A549細胞系ともに、感染の経過とともに細胞上清中のIFNα、MIP1αおよびFlt3Lの発現の増大が検出された(
図12A~12C)。
【0405】
実施例13.結腸癌細胞でのNG-347ウイルスおよびNG-348ウイルスの腫瘍溶解活性および感染力
ウイルスの腫瘍溶解能
HT-29結腸癌細胞を96ウェルプレートに2.5e4細胞/ウェルの細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で4時間インキュベートした後、感染密度が1細胞当たり100~0.39粒子(ppc)の範囲のEnAdウイルス粒子、NG-347ウイルス粒子またはNG-348ウイルス粒子を細胞に感染させた。感染から72時間後、Cell Titre 96 MTS試薬(Promega社:G3581)を用いてHT-29細胞の生存率を評価した。各感染密度での細胞の生存%を定量化することにより、NG-347およびNG-348の腫瘍溶解能がEnAdと同程度であることが明らかになった(
図13Aおよび13B)。
【0406】
ウイルス粒子の感染力
HT-29結腸癌細胞を12ウェルプレートに4e5細胞/ウェルの細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で24時間インキュベートした後、感染密度が1.6e7~2e6vp/mLの範囲のEnAdウイルス粒子、NG-347ウイルス粒子またはNG-348ウイルス粒子を細胞に感染させた。ウイルスタンパク質であるヘキソンの抗体染色によりHT-29細胞の感染を検出した。各被検希釈物について6つ組のウェルの1ウェル当たり6視野を手作業でカウントすることにより染色細胞を定量化した。ウイルス力価から各ウイルスの粒子/感染力比(P:I)を算出したところ、NG-347およびNG-348の両方は感染力比がEnAd参照対照と同程度であることが明らかになった(
図13C)。
【0407】
実施例14.NG-347感染癌細胞系およびNG-348感染癌細胞系におけるT細胞活性化抗原CD80の細胞表面発現
CD80導入遺伝子発現(フローサイトメトリーにより評価した)を、結腸癌細胞系DLD-1または肺癌細胞系A549をNG-347で処理したものとNG-348で処理したものとEnAdで処理したもので比較した。A549癌細胞系またはDLD-1癌細胞系を12ウェルプレートに7.5e5細胞/ウェルの細胞密度で播いた。プレートを37℃、5%CO
2で18時間インキュベートした後、細胞に1細胞当たり10個(ppc)のEnAdウイルス粒子、NG-348ウイルス粒子またはNG-347ウイルス粒子を感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、48時間後、72時間後または96時間後のA549細胞またはDLD-1細胞の表面でのCD80タンパク質発現を比較した。各時点で細胞を回収し、実施例9で詳述した方法に従って染色した。細胞を、細胞生存率および細胞表面でのCD80タンパク質発現についてフローサイトメトリーにより解析した。感染から72時間後のA549細胞におけるCD80発現の解析から、NG-347処理細胞またはNG-348処理細胞の95%超の表面にCD80を検出することができることがわかった(
図14Aおよび14B)。感染から96時間後、A549細胞の大部分がウイルス処理によって溶解していたため、FACS解析は実施しなかった。DLD-1細胞については、96時間後までに、NG-348による処理では50%超の細胞に、NG-347処理では70%超の細胞に発現を検出することができた(
図15Aおよび15B)。EnAdにも未処理対照にも染色は検出されなかった。
【0408】
実施例15.NG-348感染癌細胞系が媒介するT細胞の活性化および脱顆粒
NG-348ウイルス粒子またはEnAdウイルス粒子を感染させるか感染させずにおいたA549肺癌細胞と、ヒトPBMCドナーから単離したT細胞とを共培養した。A549細胞およびT細胞の両方の表面について、NG-348ウイルスがコードするCD80での発現の選択性をフローサイトメトリーにより評価した。細胞表面活性化マーカー(フローサイトメトリーによる)、脱顆粒のマーカーとしてのCD107a細胞表面発現(フローサイトメトリーによる)ならびに刺激性サイトカインであるIL-2およびIFNγの分泌(ELISAによる)を解析することによってT細胞活性化を評価した。
【0409】
A549細胞を12ウェルプレートに5e5細胞/ウェルの密度で播いた。プレートを37℃、5%CO2で18時間インキュベートした後、細胞に1細胞当たり10個(ppc)のEnAdウイルス粒子またはNG-348ウイルス粒子を感染させるか、感染させずにおいた。感染から48時間後、PBMC(MAC)からネガティブ選択によって単離したCD3+T細胞を、T細胞と腫瘍細胞の比が8:1になるようA549細胞単層に加えた。共培養を16時間実施し、その時点の後、ELISA分析用に細胞上清を収集し、フローサイトメトリー解析用に腫瘍細胞およびT細胞を回収した。
【0410】
共培養ウェルから非付着細胞を含む培地を取り出し、遠心分離した(300×g)。上清を慎重に取り出し、PBS/5%BSAで2倍に希釈し、ELISA分析用に保管した。付着細胞単層をPBSで1回洗浄した後、トリプシンを用いて分離させた。完全培地を用いてトリプシンを不活化し、培養上清から収集した細胞ペレットに細胞を加えた。細胞を遠心分離し(300×g)、上清を捨て、細胞ペレットをPBS 200μLで洗浄した。細胞を再び遠心分離した後、Live/Dead Aqua(Life tech社)を含有するFACs緩衝液(5%BSA/PBS)50μLに室温で15分間再懸濁させた。細胞をFACs緩衝液で1回洗浄した後、直接コンジュゲートした抗体のパネル、すなわち、BV605とコンジュゲートした抗CD3;BV421とコンジュゲートした抗CD25;FITCとコンジュゲートした抗CD107a;PEとコンジュゲートした抗EpCamまたはPEとコンジュゲートした抗CD4;およびPE/Cy5とコンジュゲートした抗CD80またはPE/Cy5とコンジュゲートした抗HLA-DRで染色した。ほかにも、各共培養条件で得られた細胞の試料を関連するアイソタイプ対照抗体で染色した。染色はいずれも、総体積50μL/ウェルのFACs緩衝液中、4℃で15分間実施した。次いで、細胞をFACs緩衝液(200μL)で洗浄した後、FACs緩衝液200μLに再懸濁させ、フローサイトメトリー(Attune)により解析した。
【0411】
CD80の選択的発現
実施例14で示した結果と同じように、NG-348を感染させたEpCam
+A549細胞の80%超の表面にCD80発現を検出することができたが、EnAdを感染させた細胞にも未感染対照細胞にもCD80発現を検出することができなかった(
図16)。これに対し、CD3
+T細胞では細胞表面に検出可能なCD80の発現はみられず、少なくとも上記の実験条件下では、導入遺伝子発現が共培養した腫瘍細胞に選択性を示すことが示された。
【0412】
T細胞活性化マーカーのアップレギュレーション
T細胞活性化マーカーであるCD25およびHLA-DRの生存CD3
+単一細胞での発現によって、T細胞活性化のフローサイトメトリー解析を評価した。これらのデータから、CD25を発現するT細胞の数(
図17Aおよび17B)もT細胞表面でのCD25発現レベルの平均値(
図17C)も、NG-348を感染させたA549細胞と培養したT細胞の方がEnAdまたは未感染対照よりも有意に高いことがわかった。具体的には、未処理対照とEnAd(CD25発現T細胞はそれぞれ26.9%±3.4%および25.3±3.5%)との比較ではT細胞の活性化状態に差がみられなかったのに対し、NG-348と共培養した細胞の大部分にCD25のアップレギュレーションがみられた(83.2±1.5%)。CD4 T細胞およびCD8 T細胞のサブセットについても、そのCD4の発現に基づきCD3
+T細胞にゲートをかけることによりCD25発現を解析した。これらの解析から、NG-348で処理した共培養物中のCD4
+T細胞サブセット、CD4
_T細胞サブセットともに、EnAdおよび未感染対照と比較してCD25発現が有意にアップレギュレートされることがわかった(
図18)。
【0413】
CD25とは対照的に、HLA-DRを発現する細胞の数は、全被験条件で5%未満という低値であった(
図19A)。これは、共培養後にフローサイトメトリー解析を実施した時点が早かったことに起因するものと思われる。しかし、NG-348処理共培養物のCD3
+HLA-DR
+細胞のHLA-DR染色の平均蛍光強度は、対照と比較してわずかであるが有意な増大がみられた(
図19B)。
【0414】
T細胞脱顆粒の刺激
生存CD3
+T細胞表面でのCD107a発現の解析から、A549細胞にNG-348を感染させた場合(細胞の8.3%±1.7%)、脱顆粒したためにCD107aで染色されたT細胞の数がEnAd(細胞の0.6%±0.2%)または未処理対照(細胞の0.1%±0.02%)と比較して有意に増大することがわかった(
図20)。CD25のアップレギュレーションと同じく、CD4
+T細胞サブセット、CD4
_T細胞サブセットともに、EnAdまたはA549対照と比較してCD107a発現の有意な増大がみられた(
図21)。
【0415】
刺激性サイトカインであるIL-2およびIFNγの分泌
IL-2またはIFNγの発現の検出には、共培養上清を5%BSA/PBSアッセイ緩衝液で希釈し(1:100~1:1000の範囲)、Human IL-2 Ready Set go Kit(Affymetrix社)またはHuman IFN gamma Ready set go kit(Affymetrix社)を製造業者のプロトコル通りに用いてELISAを実施した。
【0416】
標準曲線から内挿法により分泌IL-2または分泌IFNγの濃度を求めた。IL-2の発現を、NG-348感染A549細胞を用いた共培養の上清にのみ検出することができ、EnAdおよび未処理対照には検出することができなかった(
図22A)。NG-348感染A549細胞の共培養上清にはIFNγの発現も極めて高レベル(300ng/mL超)で検出することができ、この値はEnAdまたは未処理対照よりも有意に高かった(
図22B)。
【0417】
実施例16.CD4 T細胞とCD8 T細胞の活性化はNG-348感染癌細胞系によって独立して媒介され得る
NG-348ウイルス粒子またはEnAdウイルス粒子を感染させるか感染させずにおいたA549肺癌細胞と、ヒトPBMCドナーから単離したCD4+T細胞またはCD8+T細胞とを共培養した。培養上清中への刺激性サイトカインIFNγの分泌によりT細胞活性化を評価した。
【0418】
実施例14で詳述した方法に従って、A549細胞を播き、NG-348ウイルス粒子またはEnAdウイルス粒子を感染させるか感染させずにおいた。感染から48時間後、PBMCドナーからネガティブ選択によって単離したCD4+T細胞またはCD8+T細胞を、T細胞と腫瘍細胞の比が8:1になるようA549細胞単層に加えた。16時間共培養した後、上清を回収し、実施例14で詳述した方法に従ってIFNγを評価した。
【0419】
CD4
+T細胞では、NG-348を感染させたA549細胞の共培養物の上清にのみIFNγ発現が検出され、EnAdにも未処理対照にもIFNγ発現を検出することができなかった(
図23A)。CD8
+T細胞では、NG-348を感染させたA549細胞の方がEnAdまたは未処理対照よりも有意に高いレベルでIFNγ発現が検出され(
図23B)、CD8細胞、CD4細胞ともに、腫瘍細胞系でのNG-348ウイルス活性によって活性化されIFNγを分泌できることが示された。
【0420】
実施例17.NG-347感染癌細胞系が媒介するT細胞活性化
NG-347ウイルス粒子またはEnAdウイルス粒子を感染させるか感染させずにおいたA549肺癌細胞と、ヒトPBMCドナーから単離したT細胞とを共培養した。細胞表面活性化マーカー(フローサイトメトリーによる)および刺激性サイトカインIFNγの分泌(細胞上清のELISA分析による)を分析することによりT細胞活性化を評価した。
【0421】
A549細胞を12ウェルプレートに5e5細胞/ウェルの密度で播いた。プレートを37℃、5%CO2で18時間インキュベートした後、細胞に1細胞当たり10個(ppc)のEnAdウイルス粒子またはNG-347ウイルス粒子を感染させるか、感染させずにおいた。感染から24時間後、PBMC(MAC)からネガティブ選択によって単離したCD3+T細胞を、T細胞と腫瘍細胞の比が5:1になるようA549細胞単層に加えた。共培養を48時間実施した後、実施例15で詳述した方法に従って、ELISA分析用に細胞上清を収集し、フローサイトメトリー解析用に腫瘍細胞およびT細胞を回収した。
【0422】
回収した細胞を、直接コンジュゲートした抗体、すなわち、BV605とコンジュゲートした抗CD3およびBV421とコンジュゲートした抗CD69で染色した。このほか、各共培養条件で得られた細胞の試料を関連するアイソタイプ対照抗体で染色した。染色はいずれも、総体積50μL/ウェルのFACs緩衝液中、4℃で15分間実施した。次いで、細胞をFACs緩衝液(200μL)で洗浄した後、FACs緩衝液200μLに再懸濁させ、フローサイトメトリー(Attune)により解析した。
【0423】
T細胞活性化マーカーCD69のアップレギュレーション
T細胞活性化マーカーCD69の生存CD3
+単一細胞での発現によって、T細胞活性化のフローサイトメトリー解析を評価した。これらのデータから、CD69を発現するT細胞の数は、NG-347を感染させたA549細胞と培養したT細胞の方がEnAdまたは未感染対照よりも有意に高いことがわかった(
図24)。
【0424】
刺激性サイトカインIFNγの分泌
IL-2またはIFNγの発現の検出には、共培養上清を5%BSA/PBSアッセイ緩衝液で希釈し(1:100~1:1000の範囲)、Human IFN gamma Ready set go kit(Affymetrix社)を製造業者のプロトコル通りに用いてELISAを実施した。
【0425】
標準曲線から内挿法により分泌IFNγの濃度を求めた。IFNγの発現を、NG-347感染A549細胞を用いた共培養の上清にのみ検出することができ、EnAdおよび未処理対照には検出することができなかった(
図25)。
【0426】
実施例18:T細胞活性化抗原CD80およびヒトCD3複合体のε鎖(CD3ε)に対する膜係留型一本鎖Fvフラグメント抗体を発現するEnAdウイルスの作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、ヒトT細胞活性化抗原CD80(配列番号11)およびC末端V5タグを有する膜係留キメラ型の一本鎖Fv抗ヒトCD3e(配列番号99)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-348Aを作製した。pNG-348カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列(配列番号2);膜係留型抗ヒトCD3e ScFvのcDNA;C末端V5タグ(配列番号100);高効率自己切断型P2Aペプチド配列(配列番号7);ヒトCD80のcDNA配列および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。NG-348A導入遺伝子カセットの模式図を
図26Aに示す。DNAシーケンシングによりプラスミドの構築を確認する。
【0427】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-348Aを酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-348A(配列番号101)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-348Aを増幅し精製する。
【0428】
実施例19:EnAdウイルスヒトCD3複合体のε鎖(CD3ε)に対する膜係留型一本鎖Fvフラグメント抗体の作製
プラスミドpEnAd2.4を用いて、C末端V5タグを有する膜係留キメラ型の一本鎖Fv抗ヒトCD3e(配列番号99)またはV5タグを有さない同Fv抗ヒトCD3e(配列番号15)をコードするカセットを直接挿入することによってプラスミドpNG-420およびpNG-420Aを作製した。pNG-420カセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列CAGG;膜係留型抗ヒトCD3e scFvのcDNAおよび3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。pNG-420Aカセットには、5’の短いスプライスアクセプター配列cagg;膜係留型抗ヒトCD3e ScFvのcDNA;C末端V5タグ(配列番号100)および3’ポリアデニル化配列(配列番号5)が含まれている。NG-420遺伝子導入カセットおよびNG-420A導入遺伝子カセットの模式図を
図26Bおよび26Cに示す。DNAシーケンシングにより各プラスミドの構築を確認する。
【0429】
ウイルスの作製および特徴付け
プラスミドpNG-420およびpNG-420Aを酵素AscIで制限消化することによって直線化し、ウイルスゲノムNG-420(配列番号102)およびNG-420A(配列番号103)を作製する。実施例1で詳述した方法に従ってウイルスNG-420およびNG-420Aを増幅し精製する。
【0430】
実施例20
A549ヒト肺癌細胞およびMRC5ヒト線維芽細胞をEnAdウイルス、NG-347ウイルスまたはNG-348ウイルス(10ppc)と培養して、これらの細胞型によるウイルスゲノム複製、ウイルスヘキソン発現および導入遺伝子発現を比較した。72時間培養した後、細胞を表面マーカーまたは上清のFACS解析用に染色し、ヘキソン発現または導入遺伝子発現のウイルスゲノム複製(qPCR)解析またはmRNA(RT-qPCR)解析用に細胞溶解物を調製した。
【0431】
ウイルスNG-347およびNG-348を有する2つの導入遺伝子のウイルスゲノム複製およびヘキソンmRNA発現は、親ウイルスのEnAdのものと同程度であった(
図27)。NG-348(
図28)については、A549腫瘍細胞でCD80導入遺伝子および抗ヒトCD3-scFv導入遺伝子のmRNA発現レベルが高く、非腫瘍MRC5細胞のシグナルは低レベルにとどまった。FACSによって評価した細胞表面でのCD80タンパク質発現は、NG-348で処理したA549細胞の大部分に検出されたが、MRC5細胞には検出することができず、処理せずにおいた細胞型にも、EnAdで処理した細胞型にもCD80は検出されなかった。同様に、NG-347処理後のCD80導入遺伝子のmRNAおよびタンパク質の発現は、A549腫瘍細胞に選択的に検出され、MRC5細胞には検出されなかった(
図29)。
【0432】
EnAdで処理した細胞培養物およびNG-347で処理した細胞培養物について、細胞溶解物中のMIP1αおよびIFNαのmRNAならびに上清中の分泌タンパク質のレベルをそれぞれRT-qPCRおよび特異的ELISA測定した。データ(
図30)から、両導入遺伝子ともA549腫瘍細胞に特異的に発現し、MRC5上清中にはMIP1αケモカインもIFNαサイトカインも検出することができないことがわかる。
【0433】
実施例21
単離CD3+T細胞を500ppcまたは5000ppcのEnAdウイルス、NG-347ウイルスおよびNG-348ウイルスと3日間培養することにより、各ウイルスのヒトT細胞に対する選択性/活性を評価した。選択性/活性は、a)CD69、CD4、CD80、CD25およびCD3を標的とする抗体で染色したT細胞のフローサイトメトリー解析、b)ヒトMIP1αタンパク質、IFNαタンパク質およびIFNγタンパク質の分泌に関するELISA分析、c)ウイルス複製のqPCR解析ならびにd)遺伝子発現のRT-qPCR解析によって評価した。
【0434】
図31からわかるように、いずれの被験ウイルスもT細胞がウイルスゲノム複製を支持することはなく、ウイルスヘキソンのRT-qPCRアッセイではバックグラウンドシグナルのみがみられた。A549腫瘍細胞は高レベルのヘキソンmRNA発現を支持した。T細胞による導入遺伝子mRNA発現のRT-qPCR解析では、NG-347、NG-348ともに、ウイルス曝露量が多い場合(5000ppc)でも、CD80のシグナルはバックグラウンドのみ(1コピー/細胞未満)がみられ、同様にNG-348でも抗CD3-ScFv mRNAの有意な発現はみられなかった。処理(10ppc)を実施したA549腫瘍細胞には、両導入遺伝子の高レベルな発現が検出された(
図32および33)。IFNα導入遺伝子およびMIP1α導入遺伝子のmRNA発現も、(EnAdではなく)NG-347(10ppc)で処理したA549腫瘍細胞に選択的に検出され、5000ppcで処理したT細胞には検出されなかった(
図34)。さらに、CD80の細胞表面タンパク質発現を、NG-347、NG-348ともにA549細胞でのみで検出することができ、T細胞では検出することができなかった(
図32および33)。いずれの細胞型でも、EnAd処理によってCD80が発現することはなく、A549細胞の死滅(色素取込みによる評価)は全3種類のウイルスで同じように高かったほか、実験に使用したウイルス粒子が極めて濃度であったため、いずれのウイルスでも低レベルの非特異的T細胞死が誘導された(
図32および33)。500ppcのウイルスを使用した場合も、導入遺伝子のmRNAおよびタンパク質の発現に関してほぼ同じデータが得られた(データ不掲載)。
【0435】
腫瘍細胞の不在下では、精製ヒトT細胞は、いずれのウイルスと培養しても、活性化されて活性化マーカーのCD25およびCD69をアップレギュレートすることはなかった(表5)。
【0436】
【0437】
実施例22
精製T細胞ではなく未分離ヒトPBMCを用いて同じ活性評価の実施を含むことにより、実施例21に記載したものと同様のウイルス選択性実験を実施した。実施例21のヒトT細胞の場合と同じく、この実験のデータ全体から、ヒトPBMCによるウイルス複製および導入遺伝子発現はみられなかったことがわかる。
図35~37には5000ppcのEnAd、NG-347またはNG-348を用いたデータが示されているが、500ppcを用いても同様のデータが得られた(不掲載)。
図35にはウイルスゲノム複製およびヘキソンmRNA発現が示されており、
図36および37には導入遺伝子のmRNA発現が示されている。アッセイのバックグラウンドは、培地に各ウイルスを添加した後、細胞溶解物試料の場合と同じように処理したアッセイで得られたシグナルに従って設定した。ウイルスを加えた上記のPBMC培養物はいずれも、CD3+T細胞、CD40+細胞(主としてB細胞)ともにCD80導入遺伝子の検出可能な発現はみられなかった(不掲載)。
【0438】
CD14発現のダウンレギュレーションのほか、HLA-DRおよび内因性細胞表面CD80ならびにMIP1αおよびIFNαの分泌のアップレギュレーションを示した
図38ならびに39からわかるように、PBMC培養物でNG-347ウイルス粒子およびNG-348ウイルス粒子が媒介する自然免疫細胞(単球、DC)の活性化は、EnAdのものと同程度であった(NG-347がそのゲノム内にこれらの分子を両方コードしているにもかかわらず、産生レベルが導入遺伝子をコードしていないEnAdおよびNG-348を上回ることはなかったことに注目されたい)。
【0439】
実施例23
この実施例は、実施例15~17、21および22の実験とほぼ同じデザインであるが、今回の実験では、ヒトPBMCまたは精製T細胞と、ウイルスで前処理した(48時間)A549腫瘍細胞またはMRC5線維芽細胞とを共培養した。A549細胞またはMRC5細胞を10ppcのEnAd、NG-347、NG-348で処理するか、処理せずにおき(UTC)、48時間培養して、ウイルス複製および任意の導入遺伝子発現が起こるのに十分な時間をとった。次いで、この培養物にPBMCまたはT細胞を加えて24時間または48時間放置し、ウイルス処理細胞がT細胞を活性化することができるかどうかを評価した。
【0440】
図40にはウイルスゲノム複製に関するデータが示されており、このデータから、PBMCまたはT細胞の両細胞型との共培養物中での3種類のウイルスの複製は同程度であり、複製レベルはA549腫瘍細胞で高く、MRC5線維芽細胞で低いことがわかる。
【0441】
CD25の表面発現およびCD8エフェクターT細胞脱顆粒のアップレギュレーションおよび細胞表面でのCD107aのアップレギュレーションによって測定されるT細胞活性化ならびに細胞内サイトカイン染色によって測定されるIFNγ産生はいずれも、NG-348で処理したA549細胞によって選択的にEnAdよりも刺激され、MRC共培養物では刺激の媒介はみられなかった(表6)。
【0442】
【0443】
このほか、共培養上清中へのIFNγ分泌をELISAにより定量化した。このデータ(
図41)からも同じく、NG-348で処理したA549腫瘍細胞と共培養したT細胞が選択的に活性化され、MRC5線維芽細胞ではアッセイに使用した精製T細胞もPBMCも活性化されないことがわかる。
【0444】
このほか、精製T細胞またはPBMCと、A549腫瘍細胞またはMRC5線維芽細胞との共培養物のT細胞のCD69レベルを測定することによって、NG-347がT細胞を活性化することができるかどうかを評価した。表Zからわかるように、A549腫瘍細胞をNG-347で処理することによって、EnAdと比較してCD69陽性T細胞がわずかに増強されたことがわかり、その増強自体がこの初期活性化マーカーのアップレギュレーションを引き起こす。MRC5共培養物ではこのような効果はみられなかった。T細胞にCD80発現は検出されなかった(不掲載)。
【0445】
【0446】
別の実験では、NG-347で処理しヒトCD3+T細胞と共培養したA549細胞により、T細胞上のCD69活性化マーカーのアップレギュレーションおよびIFNγの分泌が引き起こされた(
図24および25を参照されたい)。
【0447】
実施例24
CD14+単球細胞を抗体コート磁気ビーズによる分離によってPBMCから単離し、ヒトIL-4およびGM-CSFと培養して樹状細胞に分化させた。3日間培養した後、細胞を5000ppcのEnAd、NG-347またはNG-348で処理するか、処理せずにおいた。陽性活性化対照として、一部の細胞をLPSで刺激した。2日後、上清を採取してサイトカインELISAに供し、細胞に表面活性化マーカー発現をみる染色を実施してフローサイトメトリーにより解析した。表8に示されるように、いずれのウイルスも共刺激分子CD80およびCD86のアップレギュレーションを誘導し、上で確認された粒子媒介性自然免疫細胞活性化効果が、NG-347およびNG-348のゲノムに導入遺伝子を組み込むことによって変化することはないことがわかった。このほか、いずれのウイルスもMIP1αおよびIFNαの同レベルの分泌を刺激した(
図42)。
【0448】
【0449】
実施例25
1組の実験では、EnAdを陰性対照とし、NG-347ウイルス、NG-348ウイルスおよびNG-420ウイルスによる導入遺伝子発現の機能を評価するT細胞活性化レポーターアッセイとして、JurkatDual細胞を腫瘍細胞との共培養に用いた。JurkatDual細胞は、2つの異なるレポーター遺伝子、すなわち、T細胞受容体複合体を介するシグナル伝達に応答する分泌型ルシフェラーゼを産生するNFκBレポーター遺伝子およびIFNα応答性分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーター遺伝子を安定に発現する。A549細胞を10ppcのウイルスと2日間前培養した後、JurkatDual細胞を加えて一晩(18~24時間)共培養し、次いで、上清を収集してルシフェラーゼ活性およびSEAP活性のアッセイに供した。
図43に示されるように、NG-347を感染させたA549細胞は、そのIFNαの産生と一致するSEAP産生を選択的に誘導した(
図11を参照されたい)が、ルシフェラーゼ活性は誘導しなかった。これに対し、膜抗CD3-ScFvを発現してT細胞受容体複合体を活性化するNG-348は、ルシフェラーゼを誘導したが、SEAPは誘導しなかった。
【0450】
別の実験では、A549肺癌細胞ならびに結腸癌細胞HCT-116、HT-29およびDLDを10ppcのEnAdウイルス、NG-347ウイルス、NG-348ウイルスまたはNG-420ウイルスと48時間前培養した後、JurkatDual細胞と一晩共培養し、上清のルシフェラーゼのレベルを試験して、誘導された活性化のレベルを明らかにした。
図44に示されるように、細胞表面抗CD3-ScFvをコードするNG-348ウイルスまたはNG-420ウイルスと培養した腫瘍細胞型では4種類ともJurkatDual細胞が活性化されたのに対し、EnAdおよびNG-347では活性化されず、ルシフェラーゼのレベルは未感染腫瘍細胞対照(UIC)のものと同程度であった。
【0451】
また別の実験では、A549腫瘍細胞またはHT-29腫瘍細胞を量の異なるNG-348またはNG-420と前培養した後、JurkatDual細胞を加え、そのルシフェラーゼ分泌を測定した。
図45のデータから、JurkatDual細胞のNFκB活性の活性化は、腫瘍細胞の処理に用いたウイルスの量に依存することがわかる。
【0452】
実施例26
EnAdおよびNG-348を免疫適格CD1マウスにIV投与した後のin vivo薬物動態、生体内分布および粒子媒介性全身サイトカイン誘導活性を比較した。5×10
9個のEnAd粒子またはNG-348粒子をマウスの静脈内に投与し、投与から2分後、10分後、30分後、60分後および120分後に採血した。全血のDNAを抽出し、ウイルスゲノムのレベルをみるqPCRによって解析した(
図46)。両ウイルスの血液からのクリアランスはほぼ同じ動態を示した。同様に、MCP-1サイトカイン応答(肝クッパー細胞などの自然免疫の粒子媒介性活性化の尺度)の誘導も両ウイルスで同程度であり、組織生体内分布パターンもほぼ同じであった(
図46)。
【0453】
実施例27
CB17 SCIDマウスの皮下にHCT116細胞を移植し、腫瘍が70mm
3を超えてからEnAdウイルス、NG-347ウイルスもしくはNG-348ウイルス(ウイルス粒子数5×10
9個)または対照を腫瘍内(IT)または静脈内(IV)に注射した。IV投与マウスでは、IV投与から3分後、15分後および30分後に各グループ3匹のマウスから血液試料を採取し、DNAを抽出し、qPCRにより血中のウイルスゲノムレベルを評価した(薬物動態[PK]解析)。データ(
図47)から、NG-347とNG-348のPKはEnAd(および互い)に類似していることがわかる。6時間後、各グループ3匹のマウスから腫瘍、肝臓、肺および脾臓を摘出した。ホモジナイズした組織からDNAを抽出し、qPCRによりウイルスゲノムレベルを解析した(生体内分布解析)。データ(
図48A)から、ウイルスの組織生体内分布が3種類とも類似していることがわかる。7日または14~21日後、各グループ3匹のマウスから腫瘍を摘出し、ホモジナイズして腫瘍溶解物とし、これを用いてDNAおよびRNAの両方を調製した。抽出したDNAのqPCR解析によって、2つの時点での腫瘍中のウイルスゲノムレベルを測定した。データ(
図48B)から、IV投与マウス、IT投与マウスともに腫瘍のウイルスゲノムレベルが投与したウイルス量よりも高く、ウイルスが組織内で複製されたことがわかり、第7日のゲノムレベルはIV投与よりもIT投与の方が高いが、第14日~21日の時間枠ではともに同程度に高い。ウイルスは3種類とも同等のレベルまで複製された。
【0454】
同様に、RT-qPCRによって検出した腫瘍溶解物中のウイルスヘキソンmRNAのレベルは、試験したいずれの時点でも、EnAd、NG-347およびNG-348の間で差はみられなかった(
図49および50)。NG-348処理では両時点および両投与経路で抗CD3-ScFvおよびCD80のmRNAがほぼ同じレベルで検出され、EnAd投与ではアッセイバックグラウンドのみが読み取れた(
図50および51)。MIP1αおよびIFNαのmRNAレベルも、IT、IVを問わずNG-347を投与した場合に選択的に検出された(
図52)。
【0455】
特異的ELISAを用いて、NG-347、NG-348がともにコードするCD80タンパク質ならびにNG-347がコードするMIP1aタンパク質の腫瘍溶解物中のレベルを測定した。
図53のデータから、単回IVウイルス投与後、この2つのタンパク質も腫瘍抽出物中に選択的に検出されたことがわかる。同じマウスの血液試料にはいずれのタンパク質も検出されなかった。
【0456】
実施例28
in vivoのNG-348ウイルスの活性および腫瘍細胞依存性を評価するため、ヒトPBMC(5×107個)、A549ヒト腫瘍細胞(5×106個)およびEnAdまたはNG-348(5×109ppc)を様々に組み合わせて免疫不全SCIDベージュマウスの腹膜内に注射し、細胞を注射してから15分以内にウイルスまたは対照(生理食塩水)を投与した。3日後、腹膜腔を生理食塩水5mLで洗浄し、回収した細胞をT細胞活性化マーカーのパネル(CD25、CD69およびHLA-DR)を用いたフローサイトメトリー解析によって解析し、CD3+T細胞集団にゲートをかけた後のT細胞活性化のレベルを評価した。2つの独立した実験で得られたデータ(表9)から、NG-348がin vivoでヒトT細胞活性化を選択的に腫瘍細胞依存性に引き起こすことがわかる。
【0457】
【配列表】