(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
A61M25/00 530
A61M25/00 620
A61M25/00 630
(21)【出願番号】P 2019533809
(86)(22)【出願日】2017-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2017028140
(87)【国際公開番号】W WO2019026220
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2019-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111523
【氏名又は名称】高橋 良文
(72)【発明者】
【氏名】菅原 慧
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501613(JP,A)
【文献】特開2012-196275(JP,A)
【文献】特開2013-056092(JP,A)
【文献】特開2005-000553(JP,A)
【文献】特開2014-097088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻回された素線又は撚線により構成され、第一内径を有する第一部分を有する
コイル体と、
前記コイル体の前記第一部分の内周面を被覆するとともに軸方向に延びる中空部を有する内層と、前記コイル体の前記第一部分の外周面を被覆する外層と、を有するカテーテルシャフトと、
前記コイル体の前記第一部分、前記内層及び前記外層の遠位端に設けられ、前記内層の
前記中空部に連通する連通孔を有する樹脂製のチップと、
を備え、
前記コイル体は、更に、前記第一部分の遠位端に設けられ、前記第一内径から前記第一
内径よりも小さい第二内径へと縮径するテーパー部分を有し、
前記コイル体の前記テーパー部分は、前記チップの内部に配設されており、
前記テーパー部分では、隣接する前記素線の間に隙間が設けられており、
前記チップを構成する樹脂材料の融点は、前記内層を構成する樹脂材料及び前記外層を
構成する樹脂材料のいずれの樹脂材料の融点よりも低く、
前記チップは、前記外層の遠位端に接合されている外層接合部と、前記内層の遠位端に
接合されている内層接合部と、を有し、
軸方向において、前記テーパー部分の近位端は、前記内層の遠位端と同じ位置もしくは
、前記内層の遠位端よりも遠位側に設けられ、
前記内層の遠位端と前記外層の遠位端とは軸方向において略同一の位置に設けられ、
前記外層接合部と前記内層接合部は前記隙間を介して一体化され
、
前記チップの内部には前記内層が配設されておらず前記コイル体のうちの前記テーパー部分のみが配設されており、
前記テーパー部分は、前記内層の厚みに相当する長さだけ遠位方向に向かって縮径する、
カテーテル。
【請求項2】
請求項1に記載のカテーテルにおいて、
前記コイル体の前記テーパー部分の少なくとも一部を構成する素線の素線径は、前記第
一部分を構成する素線の素線径よりも小さい、
カテーテル。
【請求項3】
請求項1に記載のカテーテルにおいて、
前記コイル体の前記テーパー部分を構成する素線の素線径は、前記第一部分を構成する
素線の素線径よりも小さい、
カテーテル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のカテーテルにおいて、
前記コイル体は、更に、前記テーパー部分の遠位端に設けられ、前記第二内径を有する
第二部分を有し、
前記コイル体の前記第二部分では、隣接する前記素線の間に隙間が設けられている、
カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルシャフトと樹脂製のチップとを備えるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、螺旋状に巻回された素線又は撚線により構成され、所定の内径を有するコイル体と、コイル体の内周面を被覆するとともに軸方向に延びる中空部を有する内層と、コイル体の外周面を被覆する外層と、を有するカテーテルシャフトを備えるカテーテルが知られている(特許文献1を参照)。カテーテルは、血管、消化管及び尿管等の管腔部、並びに、胸腔及び腹腔等の体内組織に挿入されるため、カテーテルの遠位端部(遠位方向の端部)は高い柔軟性を有することが望ましい。このため、カテーテルシャフトの遠位端(遠位方向の端面)に樹脂製のチップを接合してカテーテルの遠位端部の柔軟性を向上させることが行われている。このようなカテーテルの一例として、
図12にカテーテル601を示す。矢印Pは近位方向を示し、矢印Dは遠位方向を示す。カテーテル601は、コイル体622と、内層624と、外層628と、を有するカテーテルシャフト620と、その遠位端に接合されたチップ630と、を備える。
図12に示すように、チップ630には、カテーテルシャフト620の中空部626と連通する連通孔632が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
(発明が解決しようとする課題)
カテーテル601では、手技者の操作によるトルクがチップ630に伝達され難い(別言すれば、トルク伝達性が低い)という問題がある。即ち、通常、トルクはコイル体を介して遠位方向に伝達されるが、カテーテル601ではチップ630内にコイル体622が配設されていないため、トルクがチップ630まで伝達されない。そこで、
図13に示すように、コイル体722及び内層724を軸方向に沿ってチップ730内にまで延在させたカテーテル701が提案されている。カテーテル701の構成によれば、トルクがコイル体722を介してチップ730まで伝達されるため、トルク伝達性の低下を抑制することができる。
【0005】
一方で、カテーテルには、追従性を向上させるためにチップをダウンサイズ(典型的には、遠位方向に向かって縮径する形状)することが望まれている。チップのダウンサイズは、例えばチップを機械加工することにより行われる。しかしながら、カテーテル701のようにチップ730内にコイル体722及び内層724が配設された構成では、コイル体722及び内層724が配設されている部分におけるチップ730の厚さ(径方向の長さ)d3が比較的に小さいため、チップ730を十分にダウンサイズできない場合がある。
【0006】
上記問題を解決するため、チップ730内に配設されている内層724を除去し、除去された内層724の厚みに相当する長さだけチップ730内のコイル体722とチップ730とを縮径することにより、チップ730をダウンサイズすることが考えられる。この構成によれば、トルク伝達性の低下を抑制しながらチップ730をダウンサイズすることが可能になる。
【0007】
しかしながら、上記の構成では、カテーテルシャフトとチップとの接合強度が低下してしまう可能性がある。即ち、
図13に示すカテーテル701では、チップ730は、カテーテルシャフト720の外層728の遠位端728a及び内層724の遠位端724aに接合されている。一方、チップ730をダウンサイズするために内層724を除去した構成では、チップの近位端はカテーテルシャフトの外層の遠位端にしか接合されなくなる。このため、チップに遠位方向の引張り力が作用した場合、チップとカテーテルシャフトとの接合部においてチップがカテーテルシャフトから破断(脱離)してしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、トルク伝達性の低下を抑制しながらチップをダウンサイズし、且つ、チップとカテーテルシャフトとの接合強度をより高くすることが可能なカテーテルを提供することにある。
【0009】
(課題を解決するための手段)
本発明のカテーテルは、
螺旋状に巻回された素線又は撚線により構成され、第一内径を有する第一部分を有するコイル体と、前記コイル体の前記第一部分の内周面を被覆するとともに軸方向に延びる中空部を有する内層と、前記コイル体の前記第一部分の外周面を被覆する外層と、を有するカテーテルシャフトと、
前記コイル体の前記第一部分、前記内層及び前記外層の遠位端に設けられ、前記内層の前記中空部に連通する連通孔を有する樹脂製のチップと、
を備え、
前記コイル体は、更に、前記第一部分の遠位端に設けられ、前記第一内径から前記第一内径よりも小さい第二内径へと縮径するテーパー部分を有し、
前記コイル体の前記テーパー部分は、前記チップの内部に配設されており、
前記テーパー部分では、隣接する前記素線の間に隙間が設けられており、
前記チップは、前記外層の遠位端に接合されている外層接合部と、前記内層の遠位端に接合されている内層接合部と、を有し、前記外層接合部と前記内層接合部は前記隙間を介して一体化されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るカテーテルの模式図を示す。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図3】
図2のIII-III線における断面図を示す。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図6】本発明の第2実施形態の変形例に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図7】本発明の第3実施形態に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図8】
図7のVIII-VIII線における断面図を示す。
【
図9】本発明の第3実施形態の変形例1に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図11】本発明の第3実施形態の変形例2に係るカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図12】従来のカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【
図13】従来の別のカテーテルのカテーテルシャフトの一部及びチップを中心軸を含む平面で切断したときの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るカテーテル1について図面を参照しながら説明する。カテーテルは、可撓性を有する医療器具であり、血管、消化管及び尿管等の管腔部、並びに、胸腔及び腹腔等の体内組織に挿入され、ステント及び塞栓コイル等を血管の病変部に運搬し、薬液や造影剤を注入し、或いは、体液を排出する目的で使用される。
図1は、本実施形態のカテーテル1の模式図を示す。カテーテル1は、血管挿入用のカテーテルである。
図1に示すように、カテーテル1は長尺部材であり、コネクタ10と、カテーテルシャフト20と、チップ30と、を備える。コネクタ10は、カテーテルシャフト20の近位端に接続されている。チップ30は、カテーテル1の遠位端部に位置している。なお、本実施形態では血管挿入用のカテーテル1を例示しているが、カテーテルの用途はこれに限られず、カテーテルシャフト20及びチップ30に相当するカテーテルシャフト及びチップを備えるカテーテルであればよい。
【0012】
コネクタ10は、手技者によって保持及び操作される。手技者がコネクタ10を操作することにより、手技者によるトルクが後述するコイル体22を介してチップ30まで伝達される。また、コネクタ10は、各種デバイス(例えば、三方活栓及びYコネクタ等)をカテーテルシャフト20と接続させる接続部材の役割を有する。
【0013】
図2は、カテーテル1の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト20の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示し、
図3は、カテーテル1の中心軸と直交する平面でカテーテルシャフト20を切断したときの断面図を示し、
図4は、カテーテル1の中心軸と直交する平面で、チップ30のうちテーパー部分22b(後述)が位置している部分を切断したときの断面図を示す。
図2及び
図3に示すように、カテーテルシャフト20は、コイル体22と、内層24と、外層28と、を有する。
【0014】
コイル体22は、8本の金属素線を螺旋状に巻回することにより構成されており、その中心軸は、カテーテル1の中心軸と一致している。各素線の素線径は、コイル体22の一端から他端に亘って一定であり、且つ、互いに等しい。本実施形態では、各素線を構成する金属材料としてステンレスが用いられるが、素線を構成する金属材料はこれに限られず、例えばNi-Ti合金が用いられてもよい。また、各素線は互いに異なる金属材料により構成されていてもよい。なお、コイル体22を構成する素線の本数は8本に限られず、コイル体22の形状及び大きさに応じて適宜決定され得る。また、コイル体22は、素線の代わりに複数本の素線を撚合してなる撚線を用いて構成されてもよい。
【0015】
図2に示すように、コイル体22は、略円筒形状の第一部分22aと、略円錐台形状のテーパー部分22bと、を有する。第一部分22aは、所定の内径d1を有する。第一部分22aでは、隣接する素線が軸方向(
図2参照)及び周方向(
図3参照)に互いに接触するように各素線が巻回されている。即ち、隣接する素線の間には隙間が設けられていない。一方、テーパー部分22bは、第一部分22aの遠位端に設けられており、遠位方向に向かって内径d1から内径d1よりも小さい所定の内径d2へと縮径している。なお、内径d1は「第一内径」の一例に相当し、内径d2は「第二内径」の一例に相当する。
【0016】
図2及び
図4に示すように、テーパー部分22bは、チップ30の内部に配設されている(後述)。テーパー部分22bでは、隣接する素線が軸方向(
図2参照)及び周方向(
図4参照)に互いに接触しないように各素線が巻回されている。即ち、隣接する素線の間には隙間50が設けられている。テーパー部分22bは、例えば、以下のようにして製造され得る。即ち、第一部分22aの遠位端から、内径d1を有し、軸方向に沿って遠位方向に延びる略円筒形状のコイル体を、当該コイル体の外部から径方向内側に加締め(かしめ)る。このとき、遠位方向に向かって加締め力を増大することにより、当該コイル体を、遠位方向に向かって縮径する略円錐台形状に成形する。これに加え、当該コイル体に遠位方向の力を加えて隣接する素線の間に隙間を形成する。その後、遠位端部の余分なコイル体を切断する。これにより、テーパー部分22bが製造される。
【0017】
なお、コイル体22の内径とは、コイル体22に内接する仮想の筒状部材をその軸方向に直交する平面で切断した断面(円)の直径を意味する。第一部分22aに内接する仮想の筒状部材は円筒形状を有しており、テーパー部分22bに内接する仮想の筒状部材は円錐台形状を有している。
【0018】
ここで、上述したように、本実施形態ではコイル体22は複数の素線によって構成されているため、「隣接する素線」とは、これら複数の素線のうち軸方向及び周方向に隣接している2本の素線を意味する。一方、コイル体が1本の素線によって構成されている場合、「隣接する素線」とは、一巻き分の素線を巻線と規定したときの「軸方向に隣接する巻線」を意味する。
【0019】
図2及び
図3に示すように、内層24は、樹脂製であり、所定の厚みでコイル体22の第一部分22aの内周面22a1を被覆しているとともに、径方向の中央に、軸方向に延びる筒状の中空部26を有する。内層24は、コイル体22の第一部分22aが中空部26に露出することがないように、第一部分22aの内周面22a1全体を被覆している。本実施形態では、内層24を構成する樹脂材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられるが、内層24を構成する樹脂材料はこれに限られない。
【0020】
外層28は、樹脂製であり、所定の厚みでコイル体22の第一部分22aの外周面22a2を被覆している。外層28は、コイル体22の第一部分22aが外層28の外部に露出することがないように、第一部分22aの外周面22a2全体を被覆している。本実施形態では、外層28を構成する樹脂材料としてポリアミドエラストマが用いられるが、外層28を構成する樹脂材料はこれに限らず、ポリアミド、ポリエステル等が用いられる。
【0021】
図2に示すように、チップ30は、樹脂製であり、コイル体22の第一部分22a、内層24及び外層28の遠位端に設けられている。チップ30の外径は、近位端部(近位方向Pの端部)においては略一定であり、カテーテルシャフト20の外層28の遠位端における外径と略等しい。そして、チップ30の当該近位端部よりも遠位方向D側の部分は、遠位方向Dに向かって縮径しており、これにより、チップ30がダウンサイズされている。チップ30は、径方向の中央に、軸方向に延びる筒状の連通孔32を有する。連通孔32は、カテーテルシャフト20の内層24の中空部26に連通しており、連通孔32の近位端における直径は中空部26の遠位端における直径と略等しくなっている。連通孔32と中空部26とは同軸上に位置しており、これらの中心軸は、カテーテル1の中心軸と一致している。連通孔32と中空部26は、カテーテル1の内腔を構成している。
【0022】
チップ30には、内層24及び外層28を構成する樹脂材料よりも柔軟性が高く(即ち、ヤング率が低く)、融点が低い樹脂材料が用いられる。本実施形態では、チップ30を構成する樹脂材料としてポリウレタンが用いられるが、チップ30を構成する樹脂材料はこれに限られず、内層24及び外層28を構成する樹脂材料よりも柔軟性が高く且つ融点が低い樹脂材料を選択することができる。
【0023】
上述したように、カテーテルシャフト20のコイル体22のテーパー部分22bは、チップ30の内部に配設されており、当該テーパー部分22bでは、隣接する素線の間に隙間50が設けられている(
図2及び
図4参照)。チップ30のうち、テーパー部分22bの外周側に位置する部分30aは、カテーテルシャフト20の外層28の遠位端28aに接合されている。チップ30のうち、テーパー部分22bの内周側に位置する部分30bは、カテーテルシャフト20の内層24の遠位端24aに接合されている。このため、以下では、部分30aを「外層接合部30a」と称し、部分30bを「内層接合部30b」と称する。外層接合部30aと内層接合部30bは、隙間50を介して一体化されている。
【0024】
ここで、チップ30を構成する樹脂(ポリウレタン)を外層28の遠位端28a及び内層24の遠位端24aに接合する接合方法について説明する。チップ30を接合する前は、カテーテルシャフト20の外層28の遠位端28a及び内層24の遠位端24aからコイル体22のテーパー部分22bが軸方向に沿って遠位方向に突出している。なお、この時点では、コイル体22の径方向中央には、中空部26及び連通孔32と略等しい大きさを有する芯金が挿通されている。この状態で、芯金の直径よりも大きい内径を有する円筒形状のポリウレタンチューブをコイル体22の外周に嵌め込む。そして、ポリウレタンチューブの一端が外層28の遠位端28a及び内層24の遠位端24aの近傍に位置している状態で、当該ポリウレタンチューブをポリウレタンの融点以上、且つ、内層24及び外層28を構成する樹脂材料(PTFE及びポリアミドエラストマ)の融点未満の温度で加熱及び加圧すると、溶融したポリウレタン樹脂が外層28の遠位端28aに接合されるとともに、隙間50を介してテーパー部分22bの内周側に入り込み、内層24の遠位端24aに接合される。溶融したポリウレタン樹脂のうち、外層28の遠位端28aに接合されている部分が外層接合部30aであり、内層24の遠位端24aに接合されている部分が内層接合部30bである。このようにして、チップ30が外層28の遠位端28a及び内層24の遠位端24aに接合される。別言すれば、テーパー部分22bは、チップ30の内部に埋設される。上記の説明から明らかなように、外層接合部30aと内層接合部30bは一体化されており、両者の間には界面は存在していない。
【0025】
第1実施形態に係るカテーテル1の構成によれば、コイル体22の一部(テーパー部分22b)がチップ30の内部に配設されているため、手技者によるトルクがコイル体22を介してチップ30まで伝達される。このため、チップ30を設けることに起因してトルク伝達性が低下することを抑制できる。
【0026】
また、チップ30の内部には内層24が配設されておらずコイル体22のテーパー部分22bのみが配設されており、このテーパー部分22bは、内層24の厚みに相当する長さだけ遠位方向に向かって縮径する形状となっている。このため、テーパー部分22bが縮径している分だけチップ30をダウンサイズすることが可能になり、カテーテル1の追従性を向上させることができる。特に、カテーテル1は血管挿入用のカテーテル(即ち、ガイドワイヤに追従しながら血管内を進んでいくカテーテル)であるため、チップ30をダウンサイズすることにより、ガイドワイヤに対するチップ30の追従性を向上させることができる。
【0027】
加えて、チップ30は、カテーテルシャフト20の外層28の遠位端28aに接合されている外層接合部30aだけではなく、カテーテルシャフト20の内層24の遠位端24aに接合されている内層接合部30bをも有する。このため、チップ30をダウンサイズするためにチップ30から内層24を除去しても、チップ30とカテーテルシャフト20との接合部(即ち、外層接合部30aと外層28の遠位端28aとの接合部、及び、内層接合部30bと内層24の遠位端24aとの接合部)における接合強度を、従来のカテーテル601、701(
図12及び
図13参照)と同等の接合強度に維持することができる。但し、チップ30とカテーテルシャフト20との接合強度は、カテーテル1が以下に述べる構成を有することにより、従来のカテーテル601、701における接合強度よりも更に高くすることができる。
【0028】
即ち、チップ30の内部に埋設されているコイル体22(即ち、テーパー部分22b)は、遠位方向に縮径する略円錐台形状を有しており、テーパー部分22bを構成する各素線は、第一部分22aを構成する各素線と連続している。このため、チップ30に遠位方向Dの引張り力が作用した場合、内層接合部30bがテーパー部分22bに引っ掛かり、テーパー部分22bよりも遠位方向側に引張り出されることが抑制される。別言すれば、テーパー部分22bは、内層接合部30bがテーパー部分22bよりも遠位方向側に引張り出されることを抑制するためのアンカーとして機能する。内層接合部30bは、テーパー部分22bにおいて隣接する素線間に設けられた隙間50を介して外層接合部30aと一体化されている。このため、内層接合部30bがテーパー部分22bよりも遠位方向側に引張り出されることが抑制されることにより、チップ30がカテーテルシャフト20との接合部から破断(脱離)することが抑制される。これにより、従来のカテーテル601、701と比較して、チップ30とカテーテルシャフト20との接合強度をより高くすることができる。
【0029】
以上より、第1実施形態に係るカテーテル1の構成によれば、トルク伝達性の低下を抑制しながらチップ30をダウンサイズし、且つ、チップ30とカテーテルシャフト20との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0030】
また、仮にチップ30がカテーテルシャフト20との接合部においてカテーテルシャフト20から破断(脱離)したとしても、テーパー部分22bがアンカーとして機能することにより、内層接合部30bがテーパー部分22bに引っ掛かるため、チップ30がカテーテルシャフト20から完全に脱離することを抑制できる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、
図5を参照して本発明の第2実施形態に係るカテーテル101について説明する。以下では、第1実施形態に係るカテーテル1と同一の構成を有する部材には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。その他の実施形態及び変形例についても同様である。
【0032】
図5は、カテーテル101の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト120の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示す。
図5に示すように、本実施形態のカテーテル101は、コイル体122のテーパー部分122bを構成する各素線の素線径が第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さい点で、第1実施形態のカテーテル1と相違している。テーパー部分122bは、カテーテルシャフト120の外層28及び内層24にチップ30を接合する前に、第1実施形態のカテーテル1のテーパー部分22bを電解液に浸漬し、テーパー部分22bを構成する各素線を電解研磨により小径化することにより製造され得る。なお、厳密には、電解研磨による研磨量を考慮して、テーパー部分22bは、その近位端の内径を予めd1よりも僅かに小さくするとともに、その遠位端の内径を予めd2よりも僅かに小さくした状態で電解研磨される。これは、テーパー部分を電解研磨により小径化するその他の実施形態及び変形例においても同様である。これにより、電解研磨後のテーパー部分122bは、その近位端において内径d1を有し、その遠位端において内径d2を有する形状となる。或いは、テーパー部分122bは、第1実施形態のカテーテル1のテーパー部分22bを回転砥石により研磨することによっても製造され得る。
【0033】
この構成によっても、第1実施形態に係るカテーテル1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、チップ30の内部に配設されているコイル体122(即ち、テーパー部分122b)を構成する各素線の素線径が第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さいため、第1実施形態に係るカテーテル1と比較して、チップ30のトルク伝達性を良好に維持しながら、チップ30の柔軟性を向上させることができる。
【0034】
(変形例)
次に、
図6を参照して本発明の第2実施形態の変形例に係るカテーテル201について説明する。
図6は、カテーテル201の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト220の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示す。
図6に示すように、本変形例のカテーテル201は、コイル体222のテーパー部分222bのうち、遠位端部を構成する各素線の素線径のみが第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さい点で、第2実施形態のカテーテル101と相違している。テーパー部分222bは、カテーテルシャフト220の外層28及び内層24にチップ30を接合する前に、第1実施形態のカテーテル1のテーパー部分22bの遠位端部を構成する各素線を電解研磨により小径化することにより製造され得る。或いは、テーパー部分222bは、第1実施形態のカテーテル1のテーパー部分22bの遠位端部を回転砥石により研磨することによっても製造され得る。
【0035】
この構成によっても、第1実施形態に係るカテーテル1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、テーパー部分222bのうち、遠位端部を構成する各素線の素線径が第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さいため、第1実施形態に係るカテーテル1の構成と比較して、チップ30のトルク伝達性を良好に維持しながら、テーパー部分222bの遠位端部近傍に位置する部分のチップ30の柔軟性を向上させることができる。
【0036】
なお、本変形例ではテーパー部分222bの遠位端部を構成する各素線が小径化されたが、テーパー部分222bの他の部分を構成する各素線の素線径が小径化されてもよい。即ち、テーパー部分222bの少なくとも一部を構成する各素線の素線径が第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さくされていればよい。この構成によれば、チップ30のトルク伝達性を良好に維持しながら、テーパー部分222bのうち、各素線が小径化されている部分の近傍に位置する部分のチップ30の柔軟性を向上させることができる。また、コイル体222が複数の素線によって構成されている場合においては、テーパー部分222bの少なくとも一部を構成する複数の素線全てが小径化されている必要はなく、複数の素線のうちの一部が小径化されている構成であってもよい。
【0037】
(第3実施形態)
次に、
図7及び
図8を参照して本発明の第3実施形態に係るカテーテル301について説明する。
図7は、カテーテル301の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト320の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示し、
図8は、カテーテル301の中心軸と直交する平面で、チップ30のうち第二部分322c(後述)が位置している部分を切断したときの断面図を示す。
図7に示すように、本実施形態のカテーテル301は、コイル体322が、テーパー部分22bの遠位端に設けられた第二部分322cを有する点で、第1実施形態のカテーテル1と相違している。第二部分322cは、軸方向に延びる略円筒形状を有しており、その内径はd2(即ち、テーパー部分22bの遠位端における内径と同一の値を有する内径)である。第二部分322cでは、隣接する素線が軸方向(
図7参照)及び周方向(
図8参照)に互いに接触しないように各素線が巻回されている。即ち、隣接する素線の間には隙間352が設けられている。第二部分322cは、上述した方法でテーパー部分22bを製造した後に、テーパー部分22bの遠位端側に位置するコイル体を軸方向に亘って一定の力で加締めるとともに、当該コイル体に遠位方向の力を加えて隣接する素線の間に隙間を形成し、その後、遠位端部の余分なコイル体を切断することにより製造され得る。
【0038】
この構成によっても、第1実施形態に係るカテーテル1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、テーパー部分22bの遠位端に第二部分322cが設けられていることによりトルクがチップ30の遠位端側まで好適に伝達されるようになるため、トルク伝達性を向上させることができる。また、第二部分322cにおいて隣接する素線の間に隙間352が設けられていることにより、チップ30に力が作用した際に第二部分322cにおいて隣接する素線同士が干渉し難くなる。このため、チップ30内に第二部分322cを配設したことに起因してチップ30の柔軟性が低下することを抑制することができる。
【0039】
(変形例1)
次に、
図9及び
図10を参照して本発明の第3実施形態の変形例1に係るカテーテル401について説明する。
図9は、カテーテル401の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト420の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示し、
図10は、カテーテル401の中心軸と直交する平面で、チップ30のうち第二部分422c(後述)が位置している部分を切断したときの断面図を示す。
図9に示すように、本変形例のカテーテル401は、コイル体422の第二部分422cにおいて、隣接する素線が軸方向(
図9参照)及び周方向(
図10参照)に互いに接触するように各素線が巻回されている、即ち、隣接する素線の間には隙間が設けられていない点で第3実施形態のカテーテル301と相違している。
【0040】
この構成によっても、第1実施形態に係るカテーテル1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、テーパー部分22bの遠位端に第二部分422cが設けられていることによりトルクがチップ30の遠位端側まで好適に伝達されるようになるため、トルク伝達性を向上させることができる。
【0041】
(変形例2)
次に、
図11を参照して本発明の第3実施形態の変形例2に係るカテーテル501について説明する。
図11は、カテーテル501の中心軸を含む平面でカテーテルシャフト520の遠位端部とチップ30とを切断したときの断面図を示す。
図11に示すように、本変形例のカテーテル501は、コイル体522のテーパー部分522b及び第二部分522cを構成する各素線の素線径が、コイル体522の第一部分22aを構成する各素線の素線径よりも小さい点で、第3実施形態のカテーテル301と相違している。テーパー部分522b及び第二部分522cは、カテーテルシャフト520の外層28及び内層24にチップ30を接合する前に、第3実施形態のカテーテル301のテーパー部分22b及び第二部分322cを構成する各素線を電解研磨により小径化することにより製造され得る。或いは、テーパー部分522b及び第二部分522cは、第3実施形態のカテーテル301のテーパー部分22b及び第二部分322cを回転砥石により研磨することによっても製造され得る。
【0042】
この構成によれば、第3実施形態に係るカテーテル301と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本変形例のカテーテル501のテーパー部分522b及び第二部分522cを構成する各素線の素線径は、第3実施形態のカテーテル301のテーパー部分22b及び第二部分322cを構成する各素線の素線径よりも小さい。このため、カテーテル301と比較してチップ30の柔軟性をより高めることができる。
【0043】
以上、実施形態及び変形例に係るカテーテルについて説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0044】
例えば、上記の実施形態及び変形例ではコイル体22を構成する各素線は連続的な一本の単線で構成されるが、材質の異なる複数の単線の端面同士を接合して一本の素線を構成してもよい。例えば、プラチナにより構成される単線の端面とステンレスにより構成される単線の端面とを接合して、一本の素線を構成してもよい。この場合、プラチナにより構成される部分をコイル体22の遠位端側に配設することにより、レントゲンの撮影時により鮮明にカテーテル1の先端部(遠位端部)を映し出すことができる。
【0045】
なお、複数の単線を接合して一方の素線を構成する場合、その接合部位が、第一部分22aとテーパー部分22bとの境界近傍位置に位置しないことが望ましい。接合部位が上記境界近傍位置に位置すると、その部分にてコイル体22が離断することによってカテーテルシャフト20からチップ30が破断(脱離)する虞があるからである。但し、上記接合部位の接合強度がチップ30の引張強度よりも高い場合には、上記接合部位が上記境界近傍位置に位置していてもよい。
【0046】
また、コイル体22が複数の素線により構成される場合、各素線の素線径は互いに異なっていてもよい。更に、テーパー部分22bでは、隣接する素線が軸方向及び周方向の何れかにおいて部分的に接触しており、当該部分においては隙間が設けられていない構成であってもよい。
【0047】
また、カテーテルシャフト20は、補強体としてのブレードをさらに備えていてもよい。ブレードは、略円筒形状の金属部材であり、その中心軸がカテーテル1の中心軸と一致するように内層24内に配設される。ブレードが配設されることにより、カテーテルシャフト20の中心軸と直交する平面における真円性を好適に確保することができる。なお、ブレードはチップ30の内部に配設されていてもよい。
【0048】
また、コイル体22の第一部分22aにおいても、隣接する素線の間に隙間が設けられてもよい。加えて、コイル体22は、金属製に限られず、樹脂製であってもよい。
【0049】
また、チップ30の外層接合部30aを構成する樹脂材料と内層接合部30bを構成する樹脂材料は、必ずしも同一でなくてもよい。例えば、内層接合部30bにはポリウレタンを用い、外層接合部30aにはポリウレタンにタングステン粉末を混錬した材料を用いてもよい。この場合も、外層接合部30aと内層接合部30bは、両者の間に界面を有することなく、隙間50を介して一体化されている。