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7162960圧延接合体及びその製造方法、並びに電子機器用の放熱補強部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】圧延接合体及びその製造方法、並びに電子機器用の放熱補強部材
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/38 20060101AFI20221024BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20221024BHJP
   B23K 20/24 20060101ALI20221024BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B21B1/38 L
B23K20/04 A
B23K20/24
B32B15/01 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018226838
(22)【出願日】2018-12-03
(65)【公開番号】P2020022992
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2018147973
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 哲平
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223657(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057665(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/152478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/22,1/38
B23K 20/04,20/24
B32B 15/01,15/18,15/20
C23G 5/00
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅層とステンレス層とからなる圧延接合体であって、
前記圧延接合体の厚みが0.02mm以上0.4mm以下であり、
前記銅層の硬度が70Hv以上であり、
前記ステンレス層の硬度が180Hv以上であり、
前記圧延接合体の180°ピール強度が6N/20mm以上である、
前記圧延接合体。
【請求項2】
前記銅層の厚みが0.01mm以上0.38mm以下であり、
前記ステンレス層の厚みが0.01mm以上0.38mm以下である、
請求項1に記載の圧延接合体。
【請求項3】
前記圧延接合体の180°ピール強度が8N/20mm以上である、
請求項1又は2に記載の圧延接合体。
【請求項4】
前記銅層と前記ステンレス層の2層からなる請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体。
【請求項5】
前記ステンレス層が部分的に除去された請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体。
【請求項6】
前記ステンレス層が部分的に除去され、前記除去された部分において前記銅層が露出している請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体。
【請求項7】
前記銅層が部分的に除去された請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体。
【請求項8】
前記銅層が部分的に除去され、前記除去された部分において前記ステンレス層が露出している請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の圧延接合体を含む電子機器用の放熱補強部材。
【請求項10】
銅層とステンレス層とからなる圧延接合体の製造方法であって、
銅板及びステンレス鋼板を準備する工程と、
前記銅板及び前記ステンレス鋼板の接合される面にスパッタエッチング処理を施す工程と、
前記スパッタエッチング処理後に、前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させロール圧接により前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接合する工程とを含み、
前記準備した銅板の硬度が80Hv以上であり、
前記銅板が、前記スパッタエッチング処理によって軟化し、及び/又は前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させた時の前記ステンレス鋼板からの入熱によって圧接直前時点で軟化し、
接合後の前記圧延接合体の厚みが0.02mm以上0.4mm以下であり、前記圧延接合体の銅層の硬度が70Hv以上であり、前記圧延接合体の180°ピール強度が6N/20mm以上である、前記圧延接合体の製造方法。
【請求項11】
前記準備した銅板が、前記スパッタエッチング処理によって硬度70Hv未満まで軟化するか、及び/又は前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させた時の前記ステンレス鋼板からの入熱によって圧接直前時点で硬度70Hv未満まで軟化する請求項10に記載の圧延接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延接合体及びその製造方法、並びに電子機器用の放熱補強部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は様々な分野で利用されており、例えば、モバイル電子機器等の電子機器における放熱補強部材(放熱を伴う電子部品を囲むシャーシ材)として用いられている。このような金属材料として、ステンレス鋼が広く用いられている。また、他の金属材料として、2種類以上の金属板又は金属箔を積層した圧延接合体(金属積層材、クラッド材)も知られている。圧延接合体は、単独の材料では得られない複合特性を有する高機能性金属材料であり、例えば、熱伝導性の向上を目的としてステンレス鋼と銅とを積層させた圧延接合体が検討されている。
【0003】
従来の圧延接合体として、例えば、特許文献1及び2に開示されるものが知られている。特許文献1には、オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、Cu又はCu合金により形成され、前記第1層に積層される第2層と、オーステナイト系ステンレスにより形成され、前記第2層の前記第1層とは反対側に積層される第3層とが圧延接合されたクラッド材からなり、前記第2層の厚みは、前記クラッド材の厚みの15%以上であるシャーシとその製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ステンレス鋼により構成される第1層と、Cu又はCu合金により構成され、前記第1層に圧延接合された第2層と、を備え、JIS H 0501の比較法により測定される前記第2層の結晶粒度が、0.150mm以下であるクラッド材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5410646号公報
【文献】特許第6237950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の圧延接合体は、圧延接合時の密着力が弱く、ピール強度向上のため接合後に500℃以上での熱処理を施す必要があった。具体的には、上記特許文献1では、圧延接合を行った後に約1000℃の還元雰囲気下で、形成したクラッド材を拡散焼鈍させることが記載されている。また、特許文献2の実施例では、圧延後に950℃での拡散焼鈍を行っている。
【0007】
しかし、銅は、200℃以上の温度で再結晶化し軟質化してしまうため、上記熱処理によって銅が軟質化し、硬質な銅とステンレス鋼とからなる圧延接合体を得ることはできなかった。一方、最近では、通信の高速化や高機能化によって電子機器内の発熱量が増している。このような電子機器における放熱補強部材にはさらなる放熱性の向上が求められるが、銅及びステンレス鋼の圧延接合体を放熱補強部材として用いた場合、放熱性を高めるべく銅の比率を増加させると、軟質化した銅によって圧延接合体全体の強度が低下してしまうという課題があった。
【0008】
そこで本発明は、硬質な銅層を有し、放熱性と強度が両立した銅層及びステンレス層の圧延接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、銅の調質、接合前のエッチング条件、接合時の荷重等の各条件を特定の組み合わせとしたことで、銅層が硬質であり且つ十分な密着強度を有する圧延接合体を得ることが可能となった。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0010】
(1)銅層とステンレス層とからなる圧延接合体であって、
前記圧延接合体の厚みが0.02mm以上0.4mm以下であり、
前記銅層の硬度が70Hv以上であり、
前記圧延接合体の180°ピール強度が6N/20mm以上である、
前記圧延接合体。
(2)前記銅層の厚みが0.01mm以上0.38mm以下であり、
前記ステンレス層の厚みが0.01mm以上0.38mm以下である、
上記(1)に記載の圧延接合体。
(3)前記ステンレス層の硬度が180Hv以上である、
上記(1)又は(2)に記載の圧延接合体。
(4)前記圧延接合体の180°ピール強度が8N/20mm以上である、
上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(5)前記銅層と前記ステンレス層の2層からなる上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(6)前記ステンレス層が部分的に除去された上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(7)前記ステンレス層が部分的に除去され、前記除去された部分において前記銅層が露出している上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(8)前記銅層が部分的に除去された上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(9)前記銅層が部分的に除去され、前記除去された部分において前記ステンレス層が露出している上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の圧延接合体。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一つに記載の圧延接合体を含む電子機器用の放熱補強部材。
(11)銅層とステンレス層とからなる圧延接合体の製造方法であって、
銅板及びステンレス鋼板を準備する工程と、
前記銅板及び前記ステンレス鋼板の接合される面にスパッタエッチング処理を施す工程と、
前記スパッタエッチング処理後に、前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させロール圧接により前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接合する工程とを含み、
前記準備した銅板の硬度が80Hv以上であり、
前記銅板が、前記スパッタエッチング処理によって軟化し、及び/又は前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させた時の前記ステンレス鋼板からの入熱によって圧接直前時点で軟化し、
接合後の前記圧延接合体の厚みが0.02mm以上0.4mm以下であり、前記圧延接合体の銅層の硬度が70Hv以上であり、前記圧延接合体の180°ピール強度が6N/20mm以上である、前記圧延接合体の製造方法。
(12)前記準備した銅板が、前記スパッタエッチング処理によって硬度70Hv未満まで軟化するか、及び/又は前記銅板と前記ステンレス鋼板とを接触させた時の前記ステンレス鋼板からの入熱によって圧接直前時点で硬度70Hv未満まで軟化する上記(11)に記載の圧延接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧延接合体は、銅層が硬質であり、高い強度と優れた放熱性とを兼ね備えている。この圧延接合体は、電子機器における放熱補強部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の圧延接合体の一実施形態を示す断面図である。
図2】圧延接合体の用途の一例としてのベイパーチャンバーの一形態を示す断面図である。
図3】圧延接合体の用途の一例としてのベイパーチャンバーの別の形態を示す断面図である。
図4】本発明の圧延接合体の別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の圧延接合体の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る圧延接合体1Aは、銅層10Aとステンレス層20Aの2層から構成される。
【0014】
圧延接合体としてより高い放熱性を求める用途においては、銅層10Aとして、銅以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下である銅の板材を用いることができる。具体的には、C1100、C1020等の板材を挙げることができる。また、圧延接合体としてより高い強度を求める用途においては、銅層10Aとして、銅以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%を超えるような銅の板材を用いることができる。具体的には、コルソン銅等の合金銅の板材を挙げることができる。
【0015】
また、ステンレス層20Aとしては、特に限定されずに、SUS304、SUS305、SUS201、SUS316、SUS316L及びSUS430等の板材を用いることができる。特に圧延接合体を電子機器用途に使用する場合は、SUS304、SUS305、SUS316、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼の板材を用いることが好ましい。
【0016】
圧延接合体1Aの厚みは、0.02mm以上0.4mm以下である。好ましくは0.03mm以上0.37mm以下である。厚みが0.02mm未満であると、圧延接合体を製造する際に皺や折れ等が発生する虞があるため不可である。また、厚みが0.4mmを超えると、重量の増加や電子機器内部の実装スペースを減少させる虞があるため好ましくない。また、0.4mmを超える厚さでは、圧延接合体の接合時における圧下力が不足し、十分なピール強度が得られない虞がある。
【0017】
なお、放熱補強部材や電子部材等のカバー、筐体、あるいは放熱部材(放熱部材として用いられる例として図4の圧延接合体1Cや図3の圧延接合体1B)等、より高い強度及び放熱性が求められる用途に用いる場合には、厚みの下限値としては0.09mm以上であることが好ましい。また、電子部材の放熱・電磁波シールド等の機能性部材等のように、より少スペース化を求められる場合(例えば、図2及び図3のベイパーチャンバー2A、2Bにおける圧延接合体1A)には、厚みの上限値は0.1mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.09mm以下、さらに好ましくは0.055mm以下である。本実施形態に係る圧延接合体1Aは、このようなごく薄い厚みであっても、銅層10Aの強度が従来に比べ硬質であるため、従来に比べて少スペース化を図ることができる。
【0018】
ここで、圧延接合体1Aの厚みとは、銅層10Aとステンレス層20Aの総厚みをいう。圧延接合体1Aの厚みは、圧延接合体1A上の任意の30点における厚みをマイクロメータ等で測定し、得られた測定値の平均値を指す。
【0019】
圧延接合体1Aにおける銅層10A及びステンレス層20Aのそれぞれの厚みは、圧延接合体1Aの用途等に応じて設定され、特に限定されるものではない。好ましくは、銅層10Aの厚みが0.01mm以上0.38mm以下であり、ステンレス層20Aの厚みが0.01mm以上0.38mm以下である。より好ましくは銅層10Aの厚みが0.015mm以上0.37mm以下であり、ステンレス層20Aの厚みが0.015mm以上0.35mm以下である。さらに好ましくは銅層10Aの厚みが0.05mm以上0.3mm以下であり、ステンレス層20Aの厚みが0.05mm以上0.3mm以下である。特に銅層が0.38mmを超える場合は、十分なピール強度を得られない虞がある。また、ステンレス層20Aが銅層10Aに対して厚過ぎると、圧延接合体1Aの放熱性が不足する虞がある。さらに、ステンレス層20Aが薄過ぎると圧延接合体1Aの強度が得られないため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。本実施形態によれば、銅層10Aが従来に比べて硬質であるため、圧延接合体1Aの放熱性を高めるために銅層10Aの厚み比率を大きくしても、全体の強度を確保できるという利点がある。したがって、電子機器用の放熱補強部材等の、従来と同じ用途に適用する場合には、銅層10Aの厚み比率を従来に比べて大きくすることができる。具体的には、圧延接合体1Aの厚みに対する銅層10Aの厚みの比率を、5%以上95%以下、好ましくは13%以上87%以下、さらに好ましくは15%以上85%以下とすることができる。ここで、圧延接合体1Aにおける銅層10A及びステンレス層20Aの厚みとは、圧延接合体1Aの断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真において任意の10点における銅層10A及びステンレス層20Aの厚みを計測し、得られた値の平均値をいう。なお、圧延接合体1Aの製造において、材料の銅板及びステンレス鋼板は所定の圧下率にて接合されるため、圧延接合体1Aの銅層10A及びステンレス層20Aの厚みは接合前の材料である銅板及びステンレス鋼板よりも通常薄くなるが、マイクロメータでの測定範囲では圧下率0%となり厚みが変わらないこともある。
【0020】
本実施形態の圧延接合体1Aにおいて、銅層10Aは硬質であり、70Hv以上の硬度を有する。好ましくは75Hv以上であり、より好ましくは80Hv以上である。硬度の上限は特に限定されるものではないが、例えば130Hv以下であって良い。銅層10Aが硬質であることにより、優れた放熱性と高い強度が両立した圧延接合体1Aを得ることができる。また、ステンレス層20Aについても十分な硬度を有することが好ましく、具体的には180Hv以上であることが好ましく、より好ましくは200Hv以上であり、さらに好ましくは250Hv以上である。なお、硬度Hvは、銅層に対してはマイクロビッカース硬度計(荷重50gf)を用いて、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験-試験方法)に準じて測定したものを指す。また、ステンレス層の硬度Hvに対しては、ステンレス層の厚みが0.1mm以上の場合はマイクロビッカース硬度計(荷重100gf)を用い、0.1mm未満の厚みの場合はマイクロビッカース硬度計(荷重50gf)を用いて、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験-試験方法)に準じて測定したものを指す。
【0021】
また、本実施形態に係る圧延接合体1Aは、銅層10Aとステンレス層20Aの密着強度の指標としてのピール強度(180°ピール強度、180°剥離強度ともいう)が、6N/20mm以上である。放熱補強部材等の用途に応じて、その加工工程における圧延接合体界面での剥離を抑制するためには、好ましくは8N/20mm以上であり、より好ましくは10N/20mm以上である。なお、ピール強度が顕著に高くなった場合、剥離せずに材料破断となるため、ピール強度の上限値はない。
【0022】
圧延接合体1Aのピール強度は、圧延接合体1Aから幅20mmの試験片を作製し銅層10Aとステンレス層20Aとを一部剥離後、厚膜層側又は厚みが同じ場合は硬質層側を固定する。その後、薄膜層側又は厚みが同じ場合は軟質層側を前記固定部と180°反対方向へ、引張速度50mm/分にて引っ張った際に引き剥がすのに要する力(単位:N/20mm)をテンシロン万能材料試験機RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用いて測定した値をいう。なお、同様の試験において、試験片幅が20mm以外の場合、試験片幅に応じてピール強度は変化する。そのため、試験片幅:10mmで測定したピール強度を試験片幅:20mmで測定したピール強度に換算するときは、試験片幅の倍率をかければ良いので、20mm/10mm、つまり約2倍とすれば良い。
【0023】
また、本実施形態の圧延接合体1Aは、幅が12.5mmの試験片について、引張試験による伸びが好ましくは3%以上50%以下であり、より好ましくは5%以上40%以下である。これにより、良好なプレス加工性が得られる。引張試験による伸びはJIS Z 2241に記載される破断伸びの測定に準じて、例えば後述する引張強度試験の試験片を用いて測定することができる。
【0024】
圧延接合体1は、試験片の幅が12.5mmの引張試験による最大引張荷重が、200N以上であることが好ましい。十分な強度を有するという観点から、より好ましくは250以上であり、さらに好ましくは300N以上である。なお、最大引張荷重から引張強度を算出することができ、引張強度とは引張試験における最大引張荷重を試験片の断面積で除した値を指す。最大引張荷重及び引張強度は、例えばテンシロン万能材料試験機RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用い、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準じて測定することができる。なお、上記試験片の幅12.5mmはJIS Z 2241における13B号の仕様に相当する。
【0025】
圧延接合体1Aにおける界面とは反対側の銅層10A及びステンレス層20Aの表面には、必要に応じて、導電性、放熱性等の機能を妨げない程度に、耐食性、酸化防止、変色防止等を目的として保護層を設けることができる。例えば、銅層10Aに対する保護層の例としては、化成処理層、Niめっき層等を挙げることができる。なお、本実施形態において、上述の圧延接合体1Aや各層の厚み、硬度等の値は、保護層を除いた、銅層10A及びステンレス層20Aのみからなる積層体についての値をいう。
【0026】
以上の圧延接合体1Aは、銅層10Aによる優れた放熱性を有すると同時に、銅層10Aが硬質であるため全体として高い強度を有している。このような圧延接合体1Aは、その特性を生かして、モバイル電子機器、PC等の各種電子機器における放熱補強部材(シャーシ材)、自動車等の輸送機器用電子部材、家電用電子部材等のカバー、筐体、放熱・電磁波シールド等の機能性部材等として利用することができる。なお、圧延接合体1Aを電子機器の部品として用いる場合、ステンレス層20Aが磁性を有すると、電波障害を生ずる可能性があるため、ステンレス層20Aの材料としては、オーステナイト系の非磁性材料を用いることが好ましい。
【0027】
図2には、本実施形態に係る圧延接合体1Aの用途の一例として、ベイパーチャンバーの断面を示す。このベイバーチャンバー2Aは、銅層10Aとステンレス層20Aとからなる圧延接合体1Aを備え、銅層10A側に、カラム状の凸部31を有する銅板30と、ステンレス鋼板40がさらに積層されている。凸部31によって囲まれる領域Aには、純水等の作動液が封止されている。ステンレス鋼板40側に位置する熱源(図示せず)からの熱によって、領域A内の作動液が蒸発し、ステンレス層20A側からの放熱によって蒸気が凝縮して下部に還流され、その繰り返しによって熱を水平及び垂直方向に効率的に拡散させることができる。
【0028】
図3は、ベイパーチャンバーの別の形態を示す断面図である。このベイパーチャンバー2Bは、図2に示すベイパーチャンバー2Aの銅板30及びステンレス鋼鈑40に代えて、銅層10Bとステンレス層20Bとからなる本発明の圧延接合体1Bが積層されている。そして銅層10B側には、銅層60とステンレス鋼板70が積層されている。圧延接合体1Bは、図1の圧延接合体1Aを加工して製造することができる。銅層10Bは、エッチング等の手法を用いて部分的に除去され、図2と同様にカラム状の凸部31と、凸部31によって囲まれる領域Aが形成されている。領域Aには作動液が封止される。銅層60とステンレス鋼板70とは、図2と同様に本発明の圧延接合体1Aであってもよく、銅層が軟質な銅層であってもよく、銅層がめっき層から形成されていてもよい。よりベイパーチャンバー2B全体の強度を高めるという視点においては好ましくは、銅層60及びステンレス鋼板70は本発明の圧延接合体である。なお、図2及び図3に示すベイパーチャンバーの構造は一例であり、これに限定されるものではない。
【0029】
図4に、本発明の圧延接合体の別の実施形態の断面を示す。この実施形態に係る圧延接合体1Cは、銅層10Cとステンレス層20Cとの2層構造であり、さらに、ステンレス層20Cが部分的に除去され、その除去された部分Sにおいて銅層10Cが露出した構造を有している。銅層10Cが露出した部分Sには、図3に示すように、例えばヒートパイプ等の熱輸送デバイス50を埋め込むことができる。ステンレス層20Cが除去された部分Sを他のデバイスの実装スペースとして利用することで、全体として凹凸の少ない一体型の部品を得ることができる。また、このような構造とすることで熱輸送デバイス50を直接、銅層10Cと接触させることが可能となり、熱輸送デバイス50によって移動させた熱を銅層10Cに直接拡散することができ、全体的により高い放熱効果を得ることが可能となる。図4の圧延接合体1Cについてのその他の構成は、上記図1に示す実施形態と同様である。図4に示す実施形態では、ステンレス層20Cのうち、熱輸送デバイス50を実装する部分Sのみが除去されているが、これに限定されるものではない。
【0030】
また、メッシュ加工やパンチング加工を施したステンレス層(ステンレス層の一面にわたって多箇所が部分的に除去された状態に相当する)を銅層と積層させても良い。
【0031】
図4の実施形態では、ステンレス層20Cが部分的に除去され、その除去された部分Sにおいて銅層10Cが露出した構造であったが、必ずしも銅層10Cが露出するまでステンレス層20Cを除去する必要はなく、例えば、ステンレス層20Cの表面近傍のみが部分的に除去され、その除去された部分の深さはステンレス層20Cと銅層10Cとの界面までは達しない構造とすることができる。このような構造においてヒートパイプ等の熱輸送デバイス50を埋め込んだ場合には、熱輸送デバイス50と銅層10Cとの距離を短くすることで放熱性を向上させつつ、ステンレス層20Cの強度も一部担保することが可能となる。
【0032】
また、図4の実施形態とは異なり、銅層及びステンレス層からなる圧延接合体において、ステンレス層ではなく銅層が部分的に除去された構造を有していても良い。図3のベイパーチャンバー2Bにおける圧延接合体1Bは、銅層が部分的に除去された例である。銅層が除去された部分においては、ステンレス層が露出していても良く、露出していなくても良い。例えば、メッシュ加工やパンチング加工を施した銅層(銅層の一面にわたって多箇所が部分的に除去された状態に相当する)をステンレス層と積層させても良い。
【0033】
図1及び図4の実施形態では、圧延接合体が、銅層とステンレス層の2つの層から構成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3層以上の銅層及びステンレス層からなる圧延接合体であっても良い。例えば、銅層の両面にステンレス層を積層させ、ステンレス層/銅層/ステンレス層の3層構造の圧延接合体とすることができる。あるいは、銅層/ステンレス層/銅層の3層構造であっても良い。このように、銅層及び/又はステンレス層が複数の層から構成される場合、圧延接合体における銅層又はステンレス層の厚みとは、複数の銅層又はステンレス層のそれぞれの厚みの合計をいう。また、圧延接合体の180°ピール強度は6N/20mm以上であることを要するが、この条件は、全ての銅層及びステンレス層の界面について満たす必要がある。
【0034】
次に、本発明の圧延接合体の製造方法について説明する。圧延接合体を製造するに際しては、ステンレス鋼の板材と、銅の板材を準備し、これらを冷間圧延接合、温間圧延接合、表面活性化接合等の各種の方法により互いに接合して行うことができる。ただし、温間圧延接合は、熱を加えながら圧延接合する方法であり、銅層が熱によって軟化し易いため、70Hv以上の硬度を得るために、加熱温度、加熱時間、接合荷重等の条件の選択に留意するものとする。また、冷間圧延接合についても、接合後に密着強度を向上させるため通常は焼鈍処理が必要であり、銅層が軟化し易いため、銅層の硬度が70Hv以上になるよう接合条件等を適宜調節する必要がある。
【0035】
したがって、圧延接合体を製造する方法として、表面活性化接合により接合することが好ましい。具体的には、ステンレス鋼板と、銅板とを用意し、ステンレス鋼板及び銅板の接合される面にスパッタエッチング処理を施す工程と、スパッタエッチングした表面同士を接触させ、所定の圧下率となるように圧接して接合する工程とを含む方法によって製造することができる。
【0036】
用いることができるステンレス鋼板は、成形加工性の観点から焼鈍材(BA材)、1/2H材等が好ましく用いられ、高強度を保持させる観点からは1/2H材や3/4H材、H材、さらにテンションアニール材等が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
接合前のステンレス鋼板の厚みは、接合後のステンレス層の厚みを考慮して適宜設定することができる。具体的には、0.01mm以上0.4mm以下の範囲内であることが好ましい。接合前のステンレス鋼板の厚みは、マイクロメータ等によって測定可能であり、ステンレス鋼板の表面上からランダムに選択した10点において測定した厚みの平均値をいう。
【0038】
ステンレス鋼板と接合させる銅板としては、スパッタエッチング処理によって軟化するか、及び/又は銅板とステンレス鋼板とを接触させた時のステンレス鋼板からの入熱によって圧接直前時点で軟化することが可能な原板を用いる必要がある。特に、圧接直前時点で硬度70Hv未満まで軟化することが好ましい。なお、スパッタエッチング処理によって軟化すれば、その軟化した硬度が維持されるため、圧接直前時点でも軟化した状態となる。圧接直前時点で十分に銅板が軟質化していない場合には、その後の圧接によって十分な密着強度(ピール強度)を得ることができない。ここで、スパッタエッチング処理や、銅板とステンレス鋼板とが接触した時のステンレス鋼板からの入熱(ステンレス鋼板もスパッタエッチングによって昇温している)によって銅板を軟質化させるためには、準備した銅板(軟質化する前の銅板)において80Hv以上の硬度を有することが好ましく、より好ましくは90Hv以上の硬度を有することが好ましい。調質としてはH材を用いることが好ましい。70Hv超80Hv未満の硬度では、エッチングやステンレス鋼板からの入熱による熱量では軟質化が困難になる傾向がある。したがって、1/4H材は好ましくない。この理由は以下のように推測される。すなわち、スパッタエッチングや接触時のステンレス鋼板からの入熱によって銅板を軟質化、つまり回復又は再結晶を起こすためには、ある程度の転位や歪が銅板内に含まれている必要があることが分かった。これに対し、硬度が70Hv超80Hv未満である銅板においては、この転位や歪が少なく、スパッタエッチングや接触時のステンレス鋼板からの入熱程度では十分に軟質化されないと考えられる。
【0039】
あるいは、銅板として、硬度が70Hv未満である焼鈍材(O材)を適用することができる。
【0040】
銅板の接合前における厚みは、接合後の銅層の厚みを考慮して適宜設定することができる。具体的には、0.01mm以上0.45mm以下の範囲内であることが好ましい。銅板の厚みが0.45mmを超える場合は接合後に十分な密着強度が得られない場合がある。この点に関し、接合時には、圧接荷重により、銅板の銅層全体が伸びる変形と、銅層の接合界面付近における変形とが起こる。十分な密着力を得るためには接合界面付近における変形が重要となるが、厚みが厚い程、銅層全体が伸びる変形が支配的になり、密着に必要な接合界面での変形は起こりにくくなる。そのため、銅板の厚みが厚くなると、十分な密着強度が得られにくくなるものと推測される。なお接合前の銅板の厚みは、前記のステンレス鋼板と同様にして測定することができる。
【0041】
スパッタエッチング処理は、例えば、ステンレス鋼板と、銅板を、幅100mm~600mmの長尺コイルとして用意し、接合面を有するステンレス鋼板及び銅板をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz~50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積を前記の他の電極の面積の1/3以下として行う。スパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防ぐことができる。
【0042】
スパッタエッチング処理では、真空中でステンレス鋼板と銅板の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、表面の吸着物を完全に除去し、且つ表面の酸化膜を除去する。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン等や、これらを少なくとも1種類含む不活性ガスの混合気体を適用することができる。
【0043】
ステンレス鋼板についてのスパッタエッチング処理は最低限度とし、ステンレス鋼板の温度が上昇し過ぎないようにすることが好ましい。銅板とステンレス鋼板の接触時に銅板が軟質化するだけで留まる程度の熱であれば良いが、接合後もステンレス鋼板の温度が高い場合には、ステンレス鋼板からの入熱で銅板の硬質化が妨げられるためである。具体的な処理条件としては、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1kWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、真空下で、例えば100W~10kWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、例えば1×10-5Pa~10Paであれば良い。スパッタエッチング処理において、ステンレス鋼板の温度は、5℃~300℃の温度範囲内に保たれることが好ましい。また、ステンレス鋼板のエッチング量は、例えば40nm~250nmとすることが好ましい。より好ましくは、50nm~150nmである。
【0044】
銅板に対するスパッタエッチング処理は、表面の酸化膜が完全に除去されるような条件で行うことが好ましい。エッチングを十分に行って酸化膜を除去しなければ、ステンレス鋼板との密着強度が不足するためである。具体的には、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1kWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、100W~10kWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、1×10-5Pa~10Paであれば良い。また、銅板のエッチング量は、例えば5nm~200nmとすることが好ましい。より好ましくは20~150nmである。銅板の硬度が80Hv以上である場合は、銅のエッチング量を20nm以上、より好ましくは40nm以上とすることにより銅板の硬度を70Hv未満とするか、ステンレス鋼板との接触時におけるステンレス鋼板からの入熱によって銅板の硬度を70Hv未満とする必要がある。
【0045】
以上のようにしてスパッタエッチングしたステンレス鋼板及び銅板の接合面を互いに接触させ、例えばロール圧接により圧接してステンレス鋼板と銅板とを接合することにより、本発明の圧延接合体を得ることができる。
【0046】
接合時には、高い圧下力を加えて、180°ピール強度が6N/20mmとなるように密着強度を高めるとともに、圧下力によって硬度が70Hv以上となるように銅層を硬質化させる。圧下力が不十分であると、密着強度が不足し、又は銅層の硬質化が図れないため不可である。一方で圧下力が高過ぎると、形状修正工程を経ても低減が困難な反りが圧延接合体に発生する虞がある。
【0047】
ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されず、所定の密着強度及び銅層の硬度が得られるように適宜設定される。例えば、1.0tf/cm~10.0tf/cmの範囲に設定することができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm~250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、好ましくは1.5tf/cm~5.0tf/cmであり、より好ましくは2.0tf/cm~4.0tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や接合前のステンレス鋼板や銅板(特に銅板)の厚みが厚い場合等には、圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。
【0048】
圧延接合体の全体の圧下率は、マイクロメータによって測定され、好ましくは0%以上20%以下、より好ましくは0%以上15%以下である。圧延接合体の圧下率は、接合前の材料であるステンレス鋼板及び銅板の総厚みと、最終的な圧延接合体の厚みから求める。すなわち、圧延接合体の圧下率は、以下の式:(接合前のステンレス鋼板及び銅板の総厚み-最終的な圧延接合体の厚み)/接合前のステンレス鋼板及び銅板の総厚み、により求められる。
【0049】
接合時の雰囲気温度は、特に限定されずに、例えば常温~150℃である。
【0050】
接合は、ステンレス鋼板と銅板の表面への酸素の再吸着によって両者間の接合強度が低下するのを防止するため、エッチング時と同様に真空中や非酸化雰囲気中、例えばAr等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0051】
以上のようにしてステンレス鋼板と銅板を接合して得た圧延接合体については、硬質な銅層を維持するため、本発明では通常、熱処理は行わない。
【0052】
また、以上のようにしてステンレス鋼板と銅板を接合して得た圧延接合体は、電子機器用の放熱補強部材として好適である。電子機器内のどの部分に用いられるかによって、つまり用いられる部位によって求められる厚みは異なるが、前記圧延接合体の厚みが0.12mm以上0.4mm以下である場合、銅層の硬度としては70Hv以上、より好ましくは75Hv以上、さらに好ましくは80Hv以上、特に好ましくは85Hv以上であり、ピール強度としては6N/20mm以上であり、加工性の観点からより好ましくは8N/20mm以上である。さらに、最大引張荷重としては300N以上が好ましい。なお、硬度、ピール強度及び最大引張荷重は高い方が好ましいため、その上限は特に限定されるものではない。
【0053】
また、放熱補強部材用の圧延接合体の厚みが0.09mm以上0.12mm未満である場合、圧下時の伸び代が少ないため硬度が高くなりにくい。硬度を高くしようとすると厚みに対し非常に大きな圧下力が必要になり、そのような圧下力では大きな反りが生じるなど製造上困難を生じるため、銅層の硬度は70Hv以上、好ましくは110Hv以下であり、より好ましくは、下限が80Hv以上、上限が100Hv以下である。ピール強度は6N/20mm以上であり、さらに、ハンドリングや強度の観点から、最大引張荷重は200N以上であることが好ましい。なお、ピール強度、最大引張荷重は高い方が好ましいため、その上限は特に限定されるものではない。このような厚みの薄い圧延接合体を電子機器用に用いる場合には、電子機器内部での実装スペースを増やせるというメリットがより強調される。
【0054】
また、放熱補強部材用の圧延接合体の厚みが0.02mm以上0.09mm未満である場合、圧下時の伸び代が少ないためさらに硬度が高くなりにくい。硬度を高くしようとすると厚みに対し非常に大きな圧下力が必要になり、そのような圧下力では大きな反りや皺が生じる等、製造上困難を生じるため、銅層の硬度は70Hv以上、好ましくは110Hv以下であり、より好ましくは、下限値が75Hv以上、上限値が100Hv以下である。ピール強度は6N/20mm以上であり、さらに、ハンドリングや強度の観点から、最大引張荷重は150N以上であることが好ましい。なお、ピール強度、最大引張荷重は高い方が好ましいため、その上限は特に限定されるものではない。このような厚みの薄い圧延接合体を電子機器用に用いる場合には、電子機器内部での実装スペースをさらに増やせるというメリットがより強調される。
【実施例
【0055】
以下、実施例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1~9及び比較例1~17として、銅層及びステンレス層からなる2層の圧延接合体を作製した。接合する銅板(Cu)及びステンレス鋼板(SUS)のそれぞれの厚み、並びに調質及び種類(材種)を表1及び表2に示す。
【0057】
銅板及びステンレス鋼板を接合するにあたり、銅板及びステンレス鋼板に対してスパッタエッチング処理を施した。各実施例及び比較例におけるスパッタエッチング処理のプラズマ出力(W)及び処理時間(分)を表1及び表2に示す。また、銅板及びステンレス鋼板のエッチング量(nm)も併せて示す。なお、銅板のエッチング量は、予備実験の結果に基づき、700Wのプラズマ出力に対して、エッチングレートを6.0nm/minとして算出した。また、ステンレス鋼板のエッチング量については、文献「高津清一、“スパッタ”,テレビジョン、第17巻、第7号、44~50頁」を参照し、銅に対する鉄のエッチングレートに基づき、700Wのプラズマ出力に対してエッチングレートが3.0nm/minであるものとして算出した。
【0058】
なお、表1及び表2中、実施例5、6及び比較例10のRF処理条件の欄における「一時停止込」とは、スパッタエッチングを3分実施後、3分停止し、その後、再度3分スパッタエッチングを行った後に3分停止し、さらに1分スパッタエッチングしたことを意味する。
【0059】
スパッタエッチング処理後の銅板及びステンレス鋼板を、室温で、互いに接触させて圧延ロール径100~200mmにてロール圧接により接合し、圧延接合体を製造した。各実施例及び比較例における圧延線荷重(tf/cm)を表1及び表2に示す。
【0060】
比較例13~17については、表面活性化接合を行った後、700℃で10分間の熱処理を行った。
【0061】
実施例1~9及び比較例1~17で製造したそれぞれの圧延接合体について、180°ピール強度(N/20mm)、銅層及びステンレス層のビッカース硬度(Hv)、最大引張荷重(N)、引張強さ(N/mm)及び伸び(%)を測定した。180°ピール強度は、上述の手順に従い、テンシロン万能材料試験機RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用いて測定した。また、実施例8及び9以外の硬度は、銅層に対してはマイクロビッカース硬度計(荷重50gf)を用い、ステンレス層に対してはマイクロビッカース硬度計(荷重100gf)を用いて、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験-試験方法)に準じて測定した。実施例8及び9の硬度は、銅層に対してはマイクロビッカース硬度計(荷重50gf)を用い、ステンレス層に対してはマイクロビッカース硬度計(荷重50gf)を用いて、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験-試験方法)に準じて測定した。最大引張荷重、引張強度及び伸びは、圧延接合体を13B号試験片に加工し、上述の方法に従って、テンシロン万能材料試験機RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用い、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準じて測定した。また、ロール圧接により接合する際のロールに接触しない部分における銅板のビッカース硬度(圧接直前時点での銅板の硬度に相当する)を測定し、スパッタエッチング処理によって、及び/又は銅板とステンレス鋼板との接触時におけるステンレス鋼板からの入熱によって銅板が軟化したか否かを確認した。以上の測定結果を表1及び表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1及び表2に示すように、実施例1~9の圧延接合体は、いずれも6N/20mm以上のピール強度を有するとともに、銅層の硬度が70Hv以上であった。銅層が硬質であることから強度と放熱性が両立した圧延接合体が得られており、また十分な密着強度を有していた。
【0065】
比較例13~17では、最終的に得られた圧延接合体における銅層の硬度が低く、本発明の圧延接合体の水準には達しなかった。この結果は、接合後に700℃の熱処理を施したため、銅層が軟化したことによるものと考えられる。
【0066】
比較例1~5では、いずれもピール強度が小さく、放熱補強部材等に用いる圧延接合体としては不十分であった。この結果は、銅の厚みに対して線荷重が小さく(2tf/cm未満)、十分な密着強度が得られなかったためと推測される。
【0067】
また、比較例3~7及び11において圧延接合体のピール強度が低いが、銅板が1/4H材であり、銅板とステンレス鋼板の接触時のステンレス鋼板からの入熱によって軟質化せず、圧接しても密着強度が上がりにくかったためと考えられる。
【0068】
比較例8は、スパッタエッチング処理による銅板の軟化の度合いが小さいため、最終的な圧延接合体における密着強度が得られず、ピール強度が小さくなったものと考えられる。
【0069】
比較例9では、銅板に対するスパッタエッチング処理時間が短いため(3分)、銅板表面の酸化膜が十分に除去されず、そのため圧接によって密着強度が向上せず、ピール強度が小さくなった可能性がある。
【0070】
比較例10は、最終的に得られた圧延接合体における銅層の硬度が低かった。これは、ステンレス鋼板に対するスパッタエッチングの処理時間が長く(100分)、ステンレス鋼板が過剰に昇温したため、接合後にもステンレス層からの入熱によって銅層が軟化したことによるものと考えられる。
【0071】
比較例12は、銅板が厚いため(0.3mm)、2tf/cmの線荷重では不十分であり、十分なピール強度が得られなかったものと考えられる。
【符号の説明】
【0072】
1A、1B、1C 圧延接合体
2A、2B ベイパーチャンバー
10A、10B、10C 銅層
20A、20B、20C ステンレス層
30 銅板
31 凸部
40、70 ステンレス鋼板
50 熱輸送デバイス
60 銅層
A 領域
S 部分
図1
図2
図3
図4