(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】微生物担体の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20060101AFI20221024BHJP
C02F 3/10 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101D
C02F3/10 Z
(21)【出願番号】P 2018137885
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】土井 知之
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】宍田 健一
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065013(JP,A)
【文献】特開2007-268408(JP,A)
【文献】特開2000-334490(JP,A)
【文献】特開2005-246171(JP,A)
【文献】特開2007-244932(JP,A)
【文献】特開2002-159245(JP,A)
【文献】特開2000-288582(JP,A)
【文献】特開2001-070981(JP,A)
【文献】特開平10-085783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
C02F 3/02- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素を含む原水が導入される嫌気性アンモニア酸化処理装置の内部に配置され、アンモニア性窒素を酸化する嫌気性アンモニア酸化反応に供する嫌気性アンモニア酸化細菌を担持させてなる微生物担体の洗浄方法であって、
前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内の原水中に吹き込む空気によって形成される気泡径1mm以上の粗大気泡を用いて、前記微生物担体を覆うように付着して前記嫌気性アンモニア酸化反応を阻害する阻害物質を除去する阻害物質除去動作を、
先の阻害物質除去動作と次の阻害物質除去動作との間の時間中に、先の阻害物質除去動作で原水中に溶け込んだ酸素の一部が原水から抜けるように間欠的に行った後、前記阻害物質除去動作を停止させる阻害物質除去動作停止時間を設けることを特徴とする微生物担体の洗浄方法。
【請求項2】
前記阻害物質除去動作を行う前の前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内の原水中の溶存酸素濃度と同じ溶存酸素濃度になるまで前記阻害物質除去動作を停止させることを特徴とする請求項1に記載の微生物担体の洗浄方法。
【請求項3】
前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入される原水の水量と、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入される前の原水に含まれる窒素濃度と、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入された原水に対し前記嫌気性アンモニア酸化反応により処理が施された後の処理水に含まれる窒素濃度とに基づいて窒素転換速度を算出し、算出された窒素転換速度が
0.5kg-N/m
3
-担体/日を下回らないように前記阻害物質除去動作を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物担体の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性アンモニア酸化細菌を担持させてなる微生物担体の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃水処理の分野において、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを、独立栄養性脱窒菌である嫌気性アンモニア酸化細菌(アナモックス菌)を担持させてなる微生物担体等を用いて、嫌気性アンモニア酸化反応(アナモックス反応)により窒素ガスに変換する処理が行われている。
【0003】
上記の嫌気性アンモニア酸化反応を利用した嫌気性アンモニア酸化処理装置において、特に、固定床式の微生物担体を用いた場合、微生物担体の表面に過剰に汚泥が付着すると、担体間が閉塞して装置内ではショートパスが生じ、処理機能が大きく低下することになる。さらに、閉塞部においては汚泥の腐敗が進行し、処理機能に悪影響を及ぼすことになる。
【0004】
ところで、好気槽において好気性条件下で機能する微生物担体を用いて処理を行うような装置であれば、微生物担体の表面に付着した過剰な汚泥を、空気を用いて曝気洗浄することにより、過剰な汚泥を剥離除去して目詰まりを防止することができるが(特許文献1参照)、上記の嫌気性アンモニア酸化処理装置において、空気を用いて微生物担体を曝気洗浄した場合、嫌気性アンモニア酸化細菌の活性が低下してしまい(非特許文献1参照)、脱窒処理能力の低下を招くという問題点がある。
【0005】
そこで、上記の嫌気性アンモニア酸化処理装置において、微生物担体の表面に過剰に汚泥が付着した場合の対応方法として、窒素ガスを用いて曝気洗浄を行うことで装置内の目詰まりを防止するようにしている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-334490号公報
【文献】特許第5141967号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yuya KIMURA et.al.,Tolerance Level of Dissolved Oxygen to Feed into Anaerobic Ammonium Oxidation(anammox)Reactor,Journal of Water and Environment Technology,Vol.9,No.2,169-178,2011
【0008】
しかしながら、上記の特許文献2で開示されている微生物担体の曝気洗浄に窒素ガスを用いる洗浄方法では、別途窒素ガス供給装置を付帯する必要があり、イニシャルコストが増大するとともに、設置スペースを確保しなければならないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、曝気洗浄に空気を用いても嫌気性アンモニア酸化細菌の活性低下を抑制しつつ、微生物担体に付着した阻害物質を効果的に除去することができる微生物担体の洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明による微生物担体の洗浄方法は、
アンモニア性窒素を含む原水が導入される嫌気性アンモニア酸化処理装置の内部に配置され、アンモニア性窒素を酸化する嫌気性アンモニア酸化反応に供する嫌気性アンモニア酸化細菌を担持させてなる微生物担体の洗浄方法であって、
前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内の原水中に吹き込む空気によって形成される気泡径1mm以上の粗大気泡を用いて、前記微生物担体を覆うように付着して前記嫌気性アンモニア酸化反応を阻害する阻害物質を除去する阻害物質除去動作を、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内の原水中の溶存酸素濃度が飽和濃度に達するのを上限に所定時間行った後、前記阻害物質除去動作を停止させる阻害物質除去動作停止時間を設けることを特徴とするものである(第1発明)。
【0011】
本発明において、前記溶存酸素濃度が飽和濃度に達するのを上限に所定時間行われる前記阻害物質除去動作を間欠的に実施するのが好ましい(第2発明)。
【0012】
前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入される原水の水量と、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入される前の原水に含まれる窒素濃度と、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置内に導入された原水に対し前記嫌気性アンモニア酸化反応により処理が施された後の処理水に含まれる窒素濃度とに基づいて窒素転換速度を算出し、算出された窒素転換速度が所定値以上のときに、前記阻害物質除去動作を行うのが好ましい(第3発明)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微生物担体の洗浄方法によれば、微生物担体に付着した阻害物質の除去に気泡径1mm以上の粗大気泡を用いることによって原水中に溶け込む酸素量が抑えられるとともに、嫌気性アンモニア酸化処理装置内の原水中の溶存酸素濃度が飽和濃度に達するのを上限に阻害物質除去動作を所定時間行った後その阻害物質除去動作を停止させる阻害物質除去動作停止時間を設けることによって原水中に溶け込んだ酸素が阻害物質除去動作停止時間中に原水から自然に抜けて溶存酸素濃度が低められるので、曝気洗浄に空気を用いても嫌気性アンモニア酸化細菌の活性低下を抑制することができる。また、同洗浄方法によれば、粗大気泡によって微生物担体の周りに乱流が発生されるとともに、微生物担体に付着した阻害物質に対して粗大気泡との接触時に強いせん断応力が加えられるので、微生物担体に付着した阻害物質を効果的に除去することができる。
【0014】
また、第2発明の構成を採用することにより、先の阻害物質除去動作と次の阻害物質除去動作との間の時間中に、先の阻害物質除去動作で原水中に溶け込んだ酸素の一部が抜け、原水溶存酸素濃度が所定値に達するまで行った阻害物質除去動作の総時間が、阻害物質除去動作を連続的に行った場合と比べて長くなり、微生物担体に付着した阻害物質をより多く効果的に除去することができる。
【0015】
また、第3発明の構成を採用することにより、微生物担体による嫌気性アンモニア酸化反応が、嫌気性アンモニア酸化細菌が回復可能な活性度で確実に行われることになり、嫌気性アンモニア酸化細菌を失活させることなく連続で安定した脱窒処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る微生物担体の洗浄方法が実施される窒素含有廃水処理システムのフローを示すブロック図である。
【
図2】同窒素含有廃水処理システムにおける嫌気性アンモニア酸化処理装置を示す図で、(a)は縦断面内部構造の模式図、(b)は横断面内部構造の模式図である。
【
図3】実施例1の実験結果を示す図で、(a)は空気洗浄時の廃水DO濃度推移を示すグラフ、(b)は空気洗浄前後の担体処理能力推移を示すグラフである。
【
図4】実施例2の実験結果を示す図で、(a)は空気洗浄時の廃水DO濃度推移を示すグラフ、(b)は空気洗浄前後の担体処理能力推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明による微生物担体の洗浄方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、固定床式の微生物担体を備える窒素含有廃水処理システムに本発明の洗浄方法が適用された例であるが、これに限定されるものではなく、流動床式の微生物担体を備える窒素含有廃水処理システムにも本発明の洗浄方法を適用することができる。
【0018】
<窒素含有廃水処理システムの概略説明>
図1に示される窒素含有廃水処理システム1は、廃水(原水)に含まれる高濃度のアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素へ変換する部分亜硝酸化工程と、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して窒素を除去する嫌気性アンモニア酸化工程とを組み合わせて処理するものであり、部分亜硝酸化工程の実施に供する分配装置2、亜硝酸化処理装置3および調整装置4と、嫌気性アンモニア酸化工程の実施に供する嫌気性アンモニア酸化処理装置5とを備えている。なお、廃水の性状によっては、有機物除去や浮遊物除去のため、高分子凝集剤等を用いた前処理工程を設ける場合がある。
【0019】
この窒素含有廃水処理システム1において、被処理水である廃水は、まず分配装置2に導入され、分配装置2に導入された廃水の一部が亜硝酸化処理装置3に導入される一方、分配装置2に導入された廃水の残部が調整装置4に導入される。
【0020】
亜硝酸化処理装置3内には、固定床担体装置6が設置されている。この固定床担体装置6は、好気性アンモニア酸化細菌を担持させてなる複数の微生物担体を所定の配置で垂設・固定してなるものである。固定床担体装置6において、亜硝酸化処理装置3に添加直後の微生物担体は、好気性アンモニア酸化細菌が全く付着固定していないことから、硝化菌含有の種汚泥を添加した状態で廃水を供給して、曝気ブロワ8および散気管7を備えた散気装置により曝気処理し、好気性アンモニア酸化細菌を付着固定させる立上げ運転を行う。
【0021】
上記立上げ運転後において、亜硝酸化処理装置3では、固定床担体装置6および活性汚泥中のアンモニア酸化細菌の働きにより、アンモニア性窒素の一部が亜硝酸性窒素に酸化される。この亜硝酸化処理装置3で処理された後の廃水は、調整装置4に導入される。
【0022】
調整装置4においては、分配装置2から分配された廃水と、亜硝酸化処理装置3で処理された後の廃水とが混合され、混合されたそれら廃水が、嫌気性アンモニア酸化処理装置5に導入される。
【0023】
嫌気性アンモニア酸化処理装置5内には、固定床担体装置10が設置されている。この固定床担体装置10は、
図2(a)に示されるように、複数の微生物担体11を所定の配置で垂設・固定してなるものであり、図示による詳細説明は省略するが、各微生物担体11は、嫌気性アンモニア酸化細菌を網状物や不織布等に担持させてなる長尺状担体が放射状に組まれて構成されている。なお、嫌気性アンモニア酸化処理装置5で使用される担体装置として、この固定床担体装置10に限定されるものではなく、流動床式の担体装置を採用することも可能であり、担体の形状としては例えば球形や四角形、円筒形等が挙げられ、担体として表面に微細孔を多く有するもの、内部中空であるスポンジ、表面に無数の凹凸を有するものが嫌気性アンモニア酸化細菌の付着固定が速く、短期間で高い脱窒性能が得られる。
【0024】
さらに、嫌気性アンモニア酸化処理装置内5には、複数の微生物担体11の下方に、微生物担体11に向けて上方に開口された比較的大径の多数の空気吹出孔を有する洗浄空気管15が配設されている。この洗浄空気管15には、前記曝気ブロワ8からの空気が送り込まれ、洗浄空気管15を通して多数の空気吹出孔から嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中に吹き出される空気によって粗大気泡が形成されるようになっている。ここで、粗大気泡とは、気泡径1mm以上の気泡を言い、ディフューザーやスパージャー、多孔管等で供給される。気泡径が大きくなると液相流速が大きくなり、せん断応力は大きくなる。せん断応力が大きくなると、微生物担体11の表面に対する洗浄効果が増大する。
【0025】
嫌気性アンモニア酸化処理装置5内においては、アンモニアを電子供与体、亜硝酸を電子受容体として窒素ガスへ変換する嫌気性アンモニア酸化反応(NH4
++NO2
-→N2↑+2H2O)が行われる。
【0026】
嫌気性アンモニア酸化処理装置5において、嫌気性アンモニア酸化反応を阻害する阻害物質が微生物担体11の表面を覆うように付着した場合には、付着した阻害物質を剥離除去する阻害物質除去動作が行われる。ここで、阻害物質としては、例えば、(1)微生物担体11の表面において過剰に増殖した汚泥(嫌気性アンモニア酸化細菌の集合体)や、(2)廃水とともに流入して微生物担体11の表面に付着した物質等があり、前記(1)のものは連続処理の時間の経過とともに発生するもので、処理を行なう上で必ず発生し、前記(2)のものは処理対象とする廃水の種類によって異なるが、廃水中に含まれる難溶解性成分や高分子の溶質、コロイド、微小固形物等が挙げられる。特に、前段に脱水工程がある場合は、脱水助剤として高分子凝集剤が添加される。運転条件にもよるが、添加率が高い場合には高分子凝集剤が脱水ろ液に残留することとなる。高分子凝集剤を含む脱水ろ液を固定床式の微生物担体11を用いた嫌気性アンモニア酸化処理装置5において処理する場合、微生物担体11の表面に高分子凝集剤が付着して処理機能に悪影響を及ぼすことになる。
【0027】
<阻害物質除去動作の説明>
阻害物質除去動作は、微生物担体11において、長尺状担体の表面洗浄や目詰まり防止のため、また隣り合う長尺状担体間の閉塞防止のために、洗浄空気管15を通して多数の空気吹出孔から嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中に吹き出される空気によって形成される気泡径1mm以上の粗大気泡を用いて、微生物担体11を覆うように付着した阻害物質(例えば過剰な汚泥や高分子凝集剤等)を剥離除去する動作であり、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中の溶存酸素濃度が飽和濃度に達するのを上限に阻害物質除去動作を所定時間行った後その阻害物質除去動作を停止させる阻害物質除去動作停止時間を設けるようにしている。これにより、曝気洗浄に空気を用いても嫌気性アンモニア酸化細菌の活性低下を抑制することができる。また、粗大気泡によって微生物担体11の周りに乱流が発生されるとともに、微生物担体11に付着した阻害物質に対して粗大気泡との接触時に強いせん断応力が加えられるので、微生物担体11に付着した阻害物質を効果的に除去することができる。こうして、過剰な汚泥や高分子凝集剤等を剥離除去し、汚泥量および性状を適正に保つことで処理性能を安定化させる。
【0028】
表1には、水中の飽和溶存酸素量と水温との関係が示されている。
【0029】
【0030】
水温と溶存酸素(DO)との関係は、一般的に、上記表1に示す関係にある。清水の場合、例えば水温30℃では、水中の飽和溶存酸素濃度は7.53mg/Lであり、清水以外の場合はこの濃度が多少変わってくるが、後述する実施例1,2での廃水ではそれほど大きく値が変わらない。したがって、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の被処理水である廃水の水温が30℃の場合には、廃水中の溶存酸素濃度が7.53mg/Lに達するのを上限に阻害物質除去動作が行われることになる。
【0031】
通常、嫌気性アンモニア酸化細菌を利用する場合は空気を用いた曝気洗浄では空気曝露により嫌気性アンモニア酸化細菌の活性が低下するが、本実施形態では、曝気洗浄実施時の処理能力は微生物担体容積あたりの窒素転換速度が0.5kg-N/m3-担体/日以上、好ましくは1kg-N/m3-担体/日以上とすることで、微生物担体11による嫌気性アンモニア酸化反応が、嫌気性アンモニア酸化細菌が回復可能な活性度で確実に行われることになり、嫌気性アンモニア酸化細菌の活性を失わせることなく、連続で安定した脱窒処理を可能としている。なお、微生物担体容積あたりの窒素転換速度が0.5kg-N/m3-担体/日未満の場合は汚泥濃度が低く、空気曝露により嫌気性アンモニア酸化細菌が失活する恐れがある。必要汚泥濃度はMLSS換算で5000~10000mg/L程度である。
【0032】
ここで、窒素転換速度は、次の式より算出することができる。
窒素転換速度(kg-N/m3-担体/日)=
処理水量(m3/日)×{流入窒素濃度(mg-N/L)-処理水窒素濃度(mg-N/L)}÷担体容積(m3)×10-3
【0033】
上記の窒素転換速度の算出にあたっては、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内に導入される廃水の処理水量と、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内に導入される前の廃水に含まれる窒素(アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素)濃度と、前記嫌気性アンモニア酸化処理装置5内に導入された廃水に対し前記嫌気性アンモニア酸化反応により処理が施された後の処理水に含まれる窒素濃度とを測定する必要がある。
処理水量の測定方法としては、嫌気性アンモニア酸化処理装置5の上流側の流入管に流量計を設けて連続測定する、嫌気性アンモニア酸化処理装置5の上流側に流入堰を設けて適時流入量を確認する等の方法がある。
窒素濃度の測定方法としては、嫌気性アンモニア酸化処理装置5の上流側および下流側にそれぞれ濃度センサーを設置して連続測定する、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内に導入される前の廃水および嫌気性アンモニア酸化処理装置5内での嫌気性アンモニア酸化反応により処理が施された後の処理水のそれぞれを適時サンプリングして濃度を測定する等の方法がある。
【0034】
また、本実施形態においては、阻害物質除去動作での洗浄空気量を0.1~1.0m3/分/m2程度、洗浄時間を3~30分/回程度、洗浄の間欠間隔を0~10分程度とし、かつ洗浄空気量および洗浄時間を調整して洗浄空気量を1~5m3/m2/回とし、剥離汚泥量は全汚泥量の3.5%未満とすることで、嫌気性アンモニア酸化細菌の活性を失わせることなく連続で安定した脱窒処理が可能となる。なお、剥離汚泥量が3.5%以上の場合は嫌気性アンモニア酸化細菌の培加時間が11~20日程度であることを考慮すると、1日の嫌気性アンモニア酸化細菌の増殖量に対して剥離汚泥量が多く装置内の汚泥量が少なくなり失活する恐れがある。処理能力の低下を防止するため、剥離した汚泥は回収し必要に応じて破砕して嫌気性アンモニア酸化処理装置5内に戻しても良い。
【0035】
以上、本発明の微生物担体の洗浄方法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【実施例】
【0036】
次に、本発明による微生物担体の洗浄方法についてより具体的な実施例について説明するが、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
実際の嫌気性消化汚泥脱水ろ液を対象とした運転において、原水NH
4-N濃度450~500mg-N/Lの連続運転時、嫌気性アンモニア酸化処理装置5にて粗大気泡を用いて微生物担体11の曝気洗浄を実施した。嫌気性アンモニア酸化処理装置5内における微生物担体11が配置される領域を、
図2(b)に示されるように、第1区画21、第2区画22および第3区画23の3区画に分けて、第1区画21、第2区画22および第3区画23の順に曝気洗浄を実施した。洗浄空気量はそれぞれ0.15m
3/分/m
2程度とし、洗浄時間は3分/回/区画程度、洗浄の間欠間隔は3分程度とし、総洗浄空気量は1.35m
3/m
2/回とした。
【0038】
図3(a)のグラフに示されるように、曝気洗浄時、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内のDO濃度は、第1区画の曝気洗浄開始から3分後に1.5mg/Lまで上昇し、その後3分間停止させると、1.1mg/Lまで低下した。さらに、第2区画の曝気洗浄開始から3分後に2.2mg/Lまで上昇し、同様に3分間停止させると、1.8mg/Lまで低下した。さらに、第3区画の曝気洗浄開始から3分後に最大3.0mg/L付近まで上昇したが、曝気洗浄開始から15分後以降、阻害物質除去動作を停止させると、DO濃度は徐々に低下し約120分後には略0mg/L程度となった。剥離汚泥量は全汚泥量の0.5%程度であった。
【0039】
図3(b)のグラフに示されるように、連続運転における嫌気性アンモニア酸化処理装置5への流入窒素負荷は2.5~2.8kg-N/m
3-担体/日に対し、洗浄前の窒素転換速度は2.4kg-N/m
3-担体/日であったが、洗浄後も窒素転換速度は2.5~2.6kg-N/m
3-担体/日と処理能力の低下はなかった。それ以後も処理能力は低下することなく安定した運転を維持した。
【0040】
<実施例2>
実際の嫌気性消化汚泥脱水ろ液を対象とした運転において、原水NH4-N濃度450~500mg-N/Lの連続運転時、嫌気性アンモニア酸化処理装置5にて粗大気泡を用いて微生物担体11の曝気洗浄を実施した。実施例1と同様に、第1区画21、第2区画22および第3区画23の順に曝気洗浄を実施した。洗浄空気量はそれぞれ0.30m3/分/m2程度、洗浄時間は3分/回/区画程度、洗浄の間欠間隔は3分程度とし、総洗浄空気量は2.70m3/m2/回とした。
【0041】
図4(a)のグラフに示されるように、曝気洗浄時、嫌気性アンモニア酸化処理内のDO濃度は、第1区画の曝気洗浄開始から3分後に4.0mg/Lまで上昇し、その後3分間停止させると、2.9mg/Lまで低下した。さらに、第2区画の曝気洗浄開始から3分後に6.3mg/Lまで上昇し、同様に3分間停止させると、4.4mg/Lまで低下した。さらに、第3区画の曝気洗浄開始から3分後に最大7.5mg/Lまで上昇して溶存酸素が略飽和状態に達したが、曝気洗浄開始から15分後以降、阻害物質除去動作を停止させると、DO濃度は徐々に低下し約120分後には略0mg/Lとなった。剥離汚泥量は全汚泥量の0.5%程度であった。
【0042】
図4(b)のグラフに示されるように、連続運転における嫌気性アンモニア酸化処理装置5への流入窒素負荷は2.5~2.7kg-N/m
3-担体/日に対し、洗浄前の窒素転換速度は2.4kg-N/m
3-担体/日であったが、洗浄後も窒素転換速度は2.3~2.4kg-N/m
3-担体/日と処理能力の低下はなかった。それ以後も処理能力は低下することなく安定した運転を維持した。
【0043】
実施例1および実施例2においては、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中に吹き込む空気によって形成される気泡径1mm以上の粗大気泡を用いて阻害物質を除去する阻害物質除去動作を、嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中の溶存酸素濃度が飽和濃度に達するのを上限に所定時間(本例では時刻0~3の3分間、時刻6~9の3分間および時刻12~15の3分間で、合計9分間)行った後、阻害物質除去動作を行う前の嫌気性アンモニア酸化処理装置5内の廃水中の溶存酸素濃度(本例では0mg/L)と略同じ溶存酸素濃度(0mg/L)になるまで阻害物質除去動作を停止させる阻害物質除去動作停止時間(本例では時刻15~135の120分間)を設けることにより、廃水中に溶け込む酸素量が抑えられるとともに、廃水中に溶け込んだ酸素が阻害物質除去動作停止時間中に廃水から自然に抜けて溶存酸素濃度が低められるので、曝気洗浄に空気を用いても嫌気性アンモニア酸化細菌の活性低下を抑制しつつ、微生物担体に付着した阻害物質を効果的に除去することができる。また、阻害物質除去動作を間欠的に行うことにより(本例では、時刻0~15の阻害物質除去動作間欠実施時間中において、時刻0~3、時刻6~9および時刻12~15の3回に分けて阻害物質除去動作を実施した。)、先の阻害物質除去動作と次の阻害物質除去動作との間の時間中に、先の阻害物質除去動作で廃水中に溶け込んだ酸素の一部が廃水から抜け、廃水溶存酸素濃度が所定値(実施例1では約3mg/L、実施例2では7.5mg/L)に達するまで行った阻害物質除去動作の総時間が、阻害物質除去動作を連続的に行った場合と比べて長くなり、微生物担体11に付着した阻害物質をより多く効果的に除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の微生物担体の洗浄方法は、曝気洗浄に空気を用いても嫌気性アンモニア酸化細菌の活性低下を抑制しつつ、微生物担体に付着した阻害物質を効果的に除去することができるという特性を有していることから、嫌気性アンモニア酸化反応が行われる嫌気性アンモニア酸化処理装置内の微生物担体の洗浄の用途に好適に用いることができ、産業上の利用可能性が大である。
【符号の説明】
【0045】
1 窒素含有廃水処理システム
5 嫌気性アンモニア酸化処理装置
10 固定床担体装置
11 微生物担体
15 洗浄空気管