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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】バイオマス樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221024BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018064809
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172891
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-150599(JP,A)
【文献】特開2016-176052(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152189(WO,A1)
【文献】特開2008-195814(JP,A)
【文献】特開2001-335710(JP,A)
【文献】特開2011-236443(JP,A)
【文献】特開2012-246459(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093147(WO,A1)
【文献】特開2014-198820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂を含有し、
前記バイオマスフィラーのセルロース含有率が60~85質量%であり、且つ、
バイオマス比率が99質量%以上であり、
前記バイオマスフィラーが、亜麻、マニラ麻、ジュート及びサイザル麻よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマスフィラーであり、
前記バイオマスフィラーが、直径1μm未満の繊維を含む、バイオマス樹脂組成物。
【請求項2】
前記バイオマスフィラーが、前記直径1μm未満の繊維と、直径1μm以上の繊維の双方を含み、前記直径1μm未満の繊維と直径1μm以上の繊維の総量を100質量%として、前記直径1μm未満の繊維の含有量が5~80質量%である、請求項1に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項3】
前記直径1μm未満の繊維が独立して前記バイオマス樹脂中に分散している、請求項1又は2に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項4】
バイオマス樹脂組成物総量を100質量%として、前記バイオマスフィラーの含有量が5~80質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項5】
前記バイオマス樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマス樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物の製造方法であって、
前記バイオマスフィラー及び前記バイオマス樹脂を混練する混練工程
を備える、製造方法。
【請求項7】
前記バイオマスフィラーが、解繊処理が施されたバイオマスフィラーである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記解繊処理が1~2回施されている、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混練が有機溶媒中で行われる、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、オキシアルキレン基、ケトン基、エステル基及びスルフィニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、環状ケトン基、環状エステル基及びジアルキルスルホキシド基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が水酸基を有さない、請求項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒の沸点が50~250℃である、請求項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル化合物、脂肪族環状ケトン化合物、酢酸アルキル化合物、プロピオン酸アルキ化合物及び酪酸アルキル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項15】
前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー消費、化石資源の利用、二酸化炭素排出等の削減といった観点から、バイオマス資源が注目されている。ただし、バイオマス樹脂の代表格である、乳酸を重合することでプラスチックとして合成されるポリ乳酸であっても、ABS樹脂と比較すると強度や耐衝撃性に劣り、また、耐熱性も低いプラスチックであるため、ガラス繊維等の強化剤とともに使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、セルロースは、植物細胞の細胞壁及び植物繊維の主成分であり、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子であるため、環境負荷が小さい。このセルロース繊維は、基本となる単位である幅3~4nmのシングルセルロースナノファイバーが束となって細胞壁中での基本単位である幅10~20nmのセルロースナノファイバーを構成し、それがさらに太さ数10μm束となった構造となっている。セルロースナノファイバーは原料となるパルプやセルロースパウダーにヘミセルロース、場合によってはリグニンを含むため、セルロースナノファイバーがそれらの成分を伴うことが多いが、全重量に対してセルロース含有率は85質量%より大きい。
【0004】
近年、これらのナノファイバーは、高弾性率、高強度、低線膨張係数、ガスバリア性等優れた特性を有することがわかり、且つ、ガラス繊維、炭素繊維、無機フィラー等と比較して軽量であるため、樹脂強化材、塗料添加剤、フィルム、増粘剤等様々な用途を想定して研究開発がなされている。
【0005】
ナノファイバーの製造方法としては、高圧分散装置、グラインダー等を用いた機械的に解繊する方法、パルプをカチオン化剤で化学的に親水化した後に混練機等を用いて機械的に簡易に解繊する方法、TEMPO触媒等を用いて部分的に酸化させて化学的に解繊し易くする方法等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-198820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
強度、耐熱性等が劣るバイオマスプラスチックについては、フィラーを入れて強化が試みられているが、特許文献1のようにガラス繊維を入れた場合には比重が重くなりバイオマス材料の特性を生かすことができない。
【0008】
このため、天然繊維をフィラーとして用いてバイオマス比率を上げて軽量化することが考えられるが、強度を維持するために複数の工程を有するバイオマスの前処理及び非バイオマス系の添加剤の添加が行われることが一般的であるが、生分解性やバイオガス精製の観点では、構成成分が100質量%バイオマス材料であることが好ましいとされている。
【0009】
ところで、ナノファイバーは単独で使用することは少なく、有機成分や有機溶媒と組合せて使用することも多いが、セルロースはグルコース分子の水酸基を多数有しているため強い親水性となり、細い径に解繊するほど水酸基同士の水素結合により強く凝集しやすく、疎水性である有機物との親和性に欠ける等の欠点があった。つまり、水中では安定に存在するが、水を多く含んだ状態のままでは疎水性の高分子や加水分解性の高分子との複合(特に溶融混練)が行いにくく、乾燥すると凝集して高分子中で異物となり特性を低下させるため、高分子中でナノファイバーの保有する特性を発揮させることが難しいという問題点があった。
【0010】
ナノファイバーを疎水化する方法も検討されているが、化学的にナノファイバーの水酸基に疎水基を置換させる方法が殆どである。その場合、コストがかかることと、水酸基の一部が置換されるにとどまるため、水素結合による凝集を抑えきれない等の問題点が残る。また、疎水化させるほど置換基が嵩高くなり、セルロースに対する質量比率が増し、耐熱性及び弾性率を損なう傾向がある。
【0011】
これらは、通常のセルロース繊維でも同様の課題があるが、特に質量に対して多くの水酸基が表面に露出しているセルロースナノファイバーで顕著に現れる課題である。
【0012】
そこで、本発明は、非バイオマスのフィラーを添加せずとも高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、セルロース含有率がバイオマスフィラーとバイオマス樹脂とを、バイオマス比率が99質量%以上となるように含有することで、上記課題を全て解決できることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂を含有し、
前記バイオマスフィラーのセルロース含有率が60~85質量%であり、且つ、
バイオマス比率が99質量%以上である、バイオマス樹脂組成物。
項2.前記バイオマスフィラーが、直径1μm未満の繊維を含む、項1に記載のバイオマス樹脂組成物。
項3.前記バイオマスフィラーが、直径1μm未満の繊維と、直径1μm以上の繊維の双方を含み、直径1μm未満の繊維と直径1μm以上の繊維の総量を100質量%として、前記直径1μm未満の繊維の含有量が5~80質量%である、項1又は2に記載のバイオマス樹脂組成物。
項4.前記直径1μm未満の繊維が独立して前記バイオマス樹脂中に分散している、項2又は3に記載のバイオマス樹脂組成物。
項5.バイオマス樹脂組成物総量を100質量%として、前記バイオマスフィラーの含有量が5~80質量%である、項1~4のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
項6.前記バイオマス樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマス樹脂である、項1~5のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
項7.前記バイオマスフィラーが、亜麻、マニラ麻、ジュート、ラミー、サイザル麻及び綿よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマスフィラーである、項1~6のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
項8.項1~7のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物の製造方法であって、
前記バイオマスフィラー及び前記バイオマス樹脂を混練する混練工程
を備える、製造方法。
項9.前記バイオマスフィラーが、解繊処理が施されたバイオマスフィラーである、項8に記載の製造方法。
項10.前記解繊処理が1~2回施されている、項9に記載の製造方法。
項11.前記混練が有機溶媒を添加した状態で行われる、項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
項12.前記有機溶媒が、オキシアルキレン基、ケトン基、エステル基及びスルフィニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する、項11に記載の製造方法。
項13.前記有機溶媒が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、環状ケトン基、環状エステル基及びジアルキルスルホキシド基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する、項11又は12に記載の製造方法。
項14.前記有機溶媒が水酸基を有さない、項11~13のいずれか1項に記載の製造方法。
項15.前記有機溶媒の沸点が50~250℃である、項11~14のいずれか1項に記載の製造方法。
項16.前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル化合物、脂肪族環状ケトン化合物、酢酸アルキル化合物、プロピオン酸アルキ化合物及び酪酸アルキル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項11~15のいずれか1項に記載の製造方法。
項17.前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン及びジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項11~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非バイオマスのフィラーを添加せずとも高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図2】実施例1で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
図3】実施例2で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図4】実施例2で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
図5】実施例3で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図6】実施例3で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
図7】実施例4で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図8】実施例4で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
図9】実施例5で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図10】実施例5で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
図11】実施例6で得られたバイオマス樹脂組成物の光学顕微鏡像である。
図12】実施例6で得られたバイオマス樹脂組成物の偏光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0017】
本発明のバイオマス樹脂組成物は、バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂を含有し、前記バイオマスフィラーのセルロース含有率が60~85質量%であり、且つ、バイオマス比率が99質量%以上である。
【0018】
1.バイオマスフィラー
本発明で使用するバイオマスフィラーは、バイオマス由来で樹脂の強度及び耐熱性を向上させるために添加するものであり、高強度で高弾性のセルロース成分を含む。
【0019】
バイオマスフィラーのセルロース含有率は、バイオマスフィラーの総量を100質量%として、60質量%以上、好ましくは70質量%以上である。バイオマスフィラーのセルロース含有率が60質量%未満では、高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物が得られない。一方、セルロース含有率が大きいほど高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物が得られる傾向にあるが、セルロース含有率が85質量%より大きいセルロース繊維の場合はバイオマス樹脂と混練するとバイオマス樹脂単独と比較して強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が低下してしまう。このような観点から、バイオマスフィラーのセルロース含有率は、85質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0020】
なお、通常の広葉樹、針葉樹、バガス、竹、藁等の茎にはセルロースは35~50質量%含まれており、残りの主成分はヘミセルロース、リグニン等である。特にヘミセルロースが柔軟であり、ヘミセルロースの含有量が多いと強度を損なってしまう。一方、ヘミセルロース、リグニン等を除去するためにアルカリ、酸、塩素化合物、高温水等を用いた処理を行った場合にはセルロースの重合度、結晶性等を損なう虞がある。このため、本発明では、未処理のバイオマスフィラーが上記したセルロース含有率を有することが好ましい。このようなセルロース含有率を有するバイオマスフィラーとしては、例えば、亜麻、マニラ麻、ジュート、ラミー、サイザル麻、綿等が挙げられる。これらのバイオマスフィラーは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0021】
バイオマスフィラーの長さは特に制限されず、より高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を得る観点からは、0.5~20mmが好ましく、1~15mmがより好ましい。
【0022】
バイオマスフィラーは、より高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を得る観点からは、直径1μm未満の繊維を含むことが好ましい。なお、バイオマスフィラーは、通常直径10μm前後であり、常法で解繊処理を施すことにより、一部の繊維の直径を1μm未満とすることが可能である。ただし、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)、分散性、繊維長、セルロースの重合度等の観点からは、バイオマスフィラーは完全に解繊されている必要はなく、要するに、直径1μm未満の繊維と、直径1μm以上の繊維の双方を含んでいることが好ましい。また、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)、分散性、繊維長、セルロースの重合度等の観点からは、直径1μm未満の繊維は独立して前記バイオマス樹脂中に分散していることが好ましい。例えば、本発明のバイオマス樹脂組成物を製造する際に、バイオマスフィラーとバイオマス樹脂とを後述の溶融混練を行うことで、直径1μm未満の繊維が独立して前記バイオマス樹脂中に分散した本発明のバイオマス樹脂組成物を得ることができる。直径1μm以下の繊維を作製するための解繊処理は、機械的処理及び化学的処理のいずれでもよく、高圧ホモジナイザー法、水中対抗衝突法、グラインダー法、ボールミル法、二軸混練法等の機械的解繊処理でもよく、TEMPO触媒、リン酸、二塩基酸、硫酸、塩酸等を用いた化学的解繊処理でもよい。なかでも、解繊処理による強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)補強効果とコストの観点から、機械的解繊処理によりせん断を加える方法が好ましい。このような解繊処理は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、このような解繊処理は、1回のみ用いることもできるし、複数回(例えば2~10回)繰り返すこともできる。なかでも、解繊処理による強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)補強効果と作業効率の観点から解繊処理を1~2回行うことが好ましい。
【0023】
なお、バイオマスフィラーの長さが5mm未満の場合は、解繊処理を1回以上施すことにより強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)をさらに向上させることができ、なかでも、解繊処理を1~2回以上施すことが好ましい。また、バイオマスフィラーの長さが5mm以上の場合は、解繊処理を1~2回施すことにより強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)をさらに向上させることができる。
【0024】
バイオマスフィラーが直径1μm未満の繊維を含む場合、その含有量は、より高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を得る観点からは、直径1μm未満の繊維と直径1μm以上の繊維の総量を100質量%として、バイオマスフィラーの長さが5mm未満の場合は5~80質量%(特に30~70質量%)が好ましく、バイオマスフィラーの長さが5mm以上の場合は30~70質量%が好ましい。
【0025】
2.バイオマス樹脂
バイオマス樹脂は、バイオマス由来の樹脂であれば使用することができ、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体等が挙げられる。酢酸セルロースのようにバイオマス材料を主成分に化学的変性を加えた樹脂であってもよい。これらのバイオマス樹脂は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なお、生分解又はバイオガス生成の観点では生分解性を有することが好ましく、長期的な耐久性の観点では生分解性を有さないことが好ましい。
【0026】
3.バイオマス樹脂組成物
本発明のバイオマス樹脂組成物は、より高強度な(引張強度、引張弾性率及び引張伸びが大きい)バイオマス樹脂組成物を得つつ流動性をより損なわない観点から、バイオマスフィラーの含有量は、バイオマス樹脂組成物総量を100質量%として、5~80質量%が好ましく、8~50質量%がより好ましい。また、バイオマス樹脂の含有量は、バイオマス樹脂組成物総量を100質量%として、20~95質量%が好ましく、50~92質量%がより好ましい。
【0027】
また、本発明のバイオマス樹脂組成物は、生分解性やバイオガス精製の観点から、バイオマス比率が99質量%以上、好ましくは99.5質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0028】
このような本発明のバイオマス樹脂組成物は、バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂を混練する混練工程を備える製造方法により得ることができる。
【0029】
バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂は上記したものを採用することができ、バイオマスフィラーについては、上記のように解繊処理を施したものを使用することもできる。好ましい条件についても同様である。
【0030】
混練方法は特に制限されず、乾式混練であってもよく、溶融混練(例えば有機溶媒中で行う溶融混練)であってもよい。特に、生産性、分散性及び強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)の観点から溶融混練が好ましい。なお、バイオマスフィラーの長さが5mm未満の場合は、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)の観点からは、解繊処理を1回以上施されたバイオマスフィラーを用いて乾式混練又は溶融混練を施すことが好ましく、解繊処理を1~2回施されたバイオマスフィラーを用いて溶融混練を施すことがより好ましい。また、バイオマスフィラーの長さが5mm以上の場合は、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)の観点からは、解繊処理を1~2回施されたバイオマスフィラーを用いて溶融混練を施すことが好ましい。
【0031】
溶融混練を採用する場合、使用する有機溶媒が混練時にバイオマスフィラーとバイオマス樹脂との親和性を高めた後、有機溶媒は除去されることが好ましい。この際の作業性に特に優れ、バイオマスフィラーが特に凝集しにくく、有機溶媒を特に除去しやすい観点から、有機溶媒の沸点は50~250℃が好ましく、70~230℃がより好ましい。
【0032】
なお、使用するバイオマス樹脂が加水分解性又はアルコリシスを起こすポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を使用する場合は、バイオマス樹脂との間で不要な反応を引き起こさないために、有機溶媒は水酸基を有さないことが好ましい。
【0033】
また、使用する有機溶媒はバイオマスフィラーと親和性が高いことが好ましい。バイオマスフィラーのセルロースとの親和性の観点から、有機溶媒はオキシアルキレン基、ケトン基、エステル基、スルフィニル基等の少なくとも1種を有することが好ましい。また、混練時に有機溶媒が原料同士の親和性を高めるという観点で、使用する有機溶媒がセルロースが大きく劣化しない程度の高温領域(例えば60~240℃)でバイオマス樹脂を溶解できることが好ましい。
【0034】
このような条件を満たす有機溶媒としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、環状ケトン基、環状エステル基、ジアルキルスルホキシド基等の少なくとも1種を含むことが好ましく、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル化合物、脂肪族環状ケトン化合物、酢酸アルキル化合物、プロピオン酸アルキ化合物及び酪酸アルキル化合物等が好適である。ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド等が特に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。ただし、有機溶媒はこれらに限定する必要はなく、使用するバイオマスフィラー及びバイオマス樹脂との親和性の観点で選択することが好ましい。
【実施例
【0035】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0036】
以下、実施例及び比較例において、バイオマスフィラー及びバイオマス樹脂の混合は溶融混練によって行った。具体的には、80℃で24時間乾燥させたバイオマス樹脂と、所定のバイオマスフィラーとを、二軸押出機((株)テクノベル製;スクリュー径15mmφ、スクリュープロセス長L/D= 30)を用いて溶融混練し、コンパウンドを得た。得られたコンパウンドは80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機((株)新興セルビック製;C, MOBILE-0813)を用いて、長さ75mm×平行部幅5mm×平行部長さ35mm×厚さ2mmのダンベル試験片に成形した。その試験片を、万能材料試験機(Instron 5567)を用いて雰囲気温度23℃、引張速度10mm/min、n= 5で引張試験を行い、引張強度、引張弾性率及び引張伸びを算出した。
【0037】
[実施例1:PLA+サイザル麻10mm, 解繊なし, DRY]
10mm長さに裁断されたサイザル麻20gと、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gとを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は73.1MPa、引張弾性率は1425MPa、引張伸びは6.7%であった。
【0038】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ、繊維が細かく分散していた。結果を図1に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維が全て約10μmの太さに開裂していた。結果を図2に示す。
【0039】
[実施例2:PLA+サイザル麻10mm, 解繊1PASS, WET]
グラインダー法で1回解繊され、水に湿潤した10mmサイザル麻20g(乾燥重量)にジエチレングリコールジメチルエーテル1000gを加え、80℃で減圧することにより、ジエチレングリコールジメチルエーテルに湿潤したサイザル麻を得た。この湿潤したサイザル麻と、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は77.2MPa、引張弾性率は1440MPa、引張伸びは7.1%であった。このように、実施例1と比較して、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が向上していた。
【0040】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ、細い繊維が単独で均一に分散しており、凝集は見られなかった。結果を図3に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維は、約10μmの太さの繊維(約30質量%)と1μm以下の繊維(約70質量%)とが混在しており、且つ、細い繊維が多く見られた。結果を図4に示す。
【0041】
[実施例3:PLA+サイザル麻2mm, 解繊なし, DRY]
2mm長さに裁断されたサイザル麻20gと、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gとを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は68.8MPa、引張弾性率は1404MPa、引張伸びは5.7%であった。
【0042】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ、繊維が細かく分散していた。結果を図5に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維が全て約10μmの太さに開裂していた。結果を図6に示す。
【0043】
[実施例4:PLA+サイザル麻2mm, 解繊1PASS, DRY]
グラインダー法で1回解繊され、130℃で24時間乾燥した2mmサイザル麻20gと、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gとを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は70.6MPa、引張弾性率は1433MPa、引張伸びは6.2%であった。
【0044】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ実施例3より細い繊維が均一に分散している部分と凝集している部分とが見られた。結果を図7に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維は、約10μmの太さの繊維(約80質量%)と1μm以下の繊維(約20質量%)とが混在していた。結果を図8に示す。
【0045】
[実施例5:PLA+サイザル麻2mm, 解繊1PASS, WET]
グラインダー法で1回解繊され、水に湿潤した2mmサイザル麻20g(乾燥重量)にジエチレングリコールジメチルエーテル1000gを加え、80℃で減圧することにより、ジエチレングリコールジメチルエーテルに湿潤したサイザル麻を得た。この湿潤したサイザル麻と、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は75.5MPa、引張弾性率は1418MPa、引張伸びは6.3%であった。このように、実施例3及び4と比較して、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)がさらに向上していた。
【0046】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ、細い繊維が単独で実施例4より均一に分散しており、凝集は見られなかった。結果を図9に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維は、約10μmの太さの繊維(約50質量%)と1μm以下の繊維(約50質量%)とが混在しており、且つ、細い繊維が多く見られた。結果を図10に示す。
【0047】
[実施例6:PLA+サイザル麻2mm, 解繊3PASS, WET]
グラインダー法で3回解繊され、水に湿潤した2mmサイザル麻20g(乾燥重量)にジエチレングリコールジメチルエーテル1000gを加え、80℃で減圧することにより、ジエチレングリコールジメチルエーテルに湿潤したサイザル麻を得た。この湿潤したサイザル麻と、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は72.2MPa、引張弾性率は1394MPa、引張伸びは7.0%であった。
【0048】
得られたバイオマス樹脂組成物をプレスし、光学顕微鏡観察を行ったところ、細い繊維が実施例4及び5より均一に分散していた。結果を図11に示す。また、偏光顕微鏡観察を行ったところ、サイザル麻の繊維は、約10μmの太さの繊維(約15質量%)と1μm以下の繊維(約85質量%)とが混在しており、且つ、実施例5より細い繊維が多く見られたが、繊維長は実施例5より短かった。結果を図12に示す。
【0049】
[比較例1:PLA]
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)を二軸押出機を用いて溶融混練したものを80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機を用いてダンベル試験片に成形した。その試験片の引張強度、引張弾性率及び引張伸びを測定したところ、引張強度は60.9MPa、引張弾性率は1198MPa、引張伸びは5.7%であった。
【0050】
[比較例2:PLA+セルロース繊維, 解繊なし, DRY]
セルロース繊維(日本製紙(株)製W-50GK)20gと、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gとを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は58.8MPa、引張弾性率は1265MPa、引張伸びは5.2%であり、ポリ乳酸単独よりも強度が低下してしまった。
【0051】
[比較例3:PLA+セルロース繊維, 解繊1PASS, WET]
グラインダー法で1回解繊され、水に湿潤した10mmセルロース繊維(日本製紙(株)製W-50GK)20g(乾燥重量)にジエチレングリコールジメチルエーテル1000gを加え、80℃で減圧することにより、ジエチレングリコールジメチルエーテルに湿潤したセルロース繊維を得た。この湿潤したセルロース繊維と、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製テラマックTE-2000)180gを220℃で混練し、150gのバイオマス比率100質量%の樹脂組成物を得た。このバイオマス樹脂組成物の引張強度は57.3MPa、引張弾性率は1268MPa、引張伸びは6.4%であった。このように、比較例1及び2と比較して、強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)がさらに低下してしまっていた。
【0052】
比較例2~3のセルロース繊維(セルロース含有率が85質量%より多い)の場合は、ポリ乳酸と混合することで、ポリ乳酸単独と比較しても強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が低下してしまい、セルロース繊維を解繊するとさらに強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が低下してしまった。それと比較し、セルロース含有率が60~85質量%であるサイザル麻を使用した場合は、ポリ乳酸単独と比較すると強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が向上し、しかも、サイザル麻を解繊するとさらに強度(引張強度、引張弾性率及び引張伸び)が向上した。この結果はセルロース繊維を使用した場合とは相反しており、予期できない効果である。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12