(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】迅速な複合材製造の高速度低ノイズインプロセスハイパースペクトル非破壊評価のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20221024BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01J3/18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018091925
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サファイ, モルテザ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージソン, ゲアリー イー.
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08072595(US,B1)
【文献】特表2015-519568(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119659(WO,A1)
【文献】米国特許第08947659(US,B1)
【文献】国際公開第2017/065257(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01J 3/00 - G01J 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材ワークピース(128)の表面(126)を
、各々が前記複合材ワークピース(128)の前記表面上のそれぞれの位置(120~124)に関連付けられた複数の電磁パルス(110~114)でスキャンすること、
前記複合材ワークピース(128)の前記表面(126)上のそれぞれの位置(120~124)ごとに、
前記複数の電磁パル
スのうちの一つ
(110)に対する、複数波長成分(134~136)を含む応答(132)を、マルチモードファイバ(160)において受け取ること、
前記応答(132)を前記マルチモードファイバ(160)に通
すことによ
り前記複数波長成分(134~136)を互いに対してタイムシフト
させて、
波長ビニングパルス(162)を生成すること、
前記複数波長成分(134~136)に対応する波長強度レベル(174~176)の組を決定するために、前記複数波長成分(134~136)に対応する時間間隔(314~316)で前記波長ビニングパルス(162)をサンプリングすること、及び
前記波長強度レベル(174~176)の組に基づいて、前記複合材ワークピース(128)の前記表面(126)上の前記それぞれの位置(120)における材料の種類又は状態(222、224、226、228)を識別すること
、並びに
前記複数の電磁パルスのソースの変調期間を、それぞれの位置ごとの前記波長ビニングパルスの継続期間と同期化すること
を含む方法。
【請求項2】
前記複合材ワークピースの前記表面上のそれぞれの位置ごとの前記材料の種類又は状態を示す、前記複合材ワークピースの前記表面の画像を生成すること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
それぞれの位置ごとの前記材料の種類又は状態に基づいて前記複合材ワークピースの前記表面上の異常を検出確認すること、及び前記異常の画像インジケータを前記複合材ワークピースの前記表面の可視画像に重ね合わせること
を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数波長成分をタイムシフトする前に、回折格子システムを使用して前記複数波長成分を空間的に分散させること、及び
前記複数波長成分の各々を、レンズを使用して前記マルチモードファイバに集束させること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複合材ワークピースの前記表面上の前記それぞれの位置における前記材料の種類又は状態を識別することが、
前記波長強度レベルの組を、事前選択された材料の種類又は状態に関連付けられた記憶済み波長強度レベルと比較すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複合材ワークピースの前記表面上のそれぞれの位置ごとに、前記材料の種類又は状態が汚染物質を含まない
と判定
することに応じて、前記複合材ワークピースに新規レイヤーを付加すること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
複合材ワークピース(128)の表面(126)上の一つの位置(120)に向けられた電磁パルス(110)に対する、複数波長成分(134~136)を含む応答(132)を受け取り、前記複数波長成分(134~136)を互いに対してタイムシフト
させて波長ビニングパルス(162)を生成するように構成されたマルチモードファイバ(160);
前記複数波長成分(134~136)に対応する波長強度レベル(174~176)の組を決定するために、前記複数波長成分(134~136)に対応する時間間隔(314~316)で前記波長ビニングパルス(162)をサンプリングするように構成された検出器(170)
;
前記波長強度レベル(174~176)に基づいて、前記複合材ワークピース(128)の前記表面(126)上の前記位置(120)における材料の種類又は状態(222、224、226、228)を識別するように構成されたプロセッサ(182)
;及び
前記電磁パルスのソース
を備え、
前記ソースの変調期間が前記波長ビニングパルスの継続期間と同期化される、スペクトル感知システム(100)。
【請求項8】
前記プロセッサが更に、前記複合材ワークピースの前記表面上の前
記位置における前記材料の種類又は状態を示す前記複合材ワークピースの前記表面の画像を生成するように構成されている、請求項
7に記載のシステム。
【請求項9】
前記電磁パルスの
前記ソース
が、赤・緑・青(RGB)のレーザ源、白色光レーザ源、発光ダイオード光源、アーク灯、又はこれらの組み合わせを含む、請求項
7に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数波長成分を空間的に分散させるための回折格子システムを更に備える、請求項
7に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数波長成分を前記マルチモードファイバに集束させるように構成されたレンズ
を更に備える、請求項
7に記載のシステム。
【請求項12】
前記マルチモードファイバを用いて前記複合材ワークピースの前記表面上の追加の位置における材料の種類又は状態を識別するための追加の応答を前記マルチモードファイバが受け取ることを可能にするために、前記複合材ワークピースの前記表面をスキャンするように構成されたミラーシステム
を更に備える、請求項
7に記載のシステム。
【請求項13】
前記複合材ワークピースが航空機翼のプリプレグプライである、請求項
7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、概して複合材構造上の汚染検出確認に関し、具体的には、迅速な複合材製造のための高速度で低ノイズのインプロセスハイパースペクトル非破壊評価に関する。ハイパースペクトルカメラを効果的に使用して構造面のスペクトル応答を分析することができ、これにより、汚染物質、湿気、異物などの検出が可能である。これらハイパースペクトルカメラを含むシステムは、複合材構造のインプロセス評価のために、製造プロセスの間に使用できる。しかしながら、典型的なハイパースペクトルカメラは、複合材構造の表面上のすべてのピクセル又は点における極めて大量のスペクトルデータの収集を要する。大量のデータは、関連情報を取得するためにソート及び分析しなければならない。その結果、製造プロセスの間に撮像アレイから収集される三次元スペクトルデータに関連付けられる画像処理は遅くなり得る。
【0002】
画像処理に要する時間のために、典型的なハイパースペクトロスコピーシステム及び方法を利用しながら製造目標及び検査目標を維持することができない場合がある。更には、典型的な分析方法のために、複雑なハイパースペクトル撮像アレイを含む大きなコンピュータリソース及びカメラが要求される。ハイパースペクトルカメラはまた、周囲光及びその他のソースによって生成される信号ノイズの影響を受け易い。他の欠点も存在し得る。
【発明の概要】
【0003】
開示されるのは、上述の欠点の少なくとも一つを解決又は軽減するスペクトル感知システムである。一実施形態では、方法は、各々が複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置に関連付けられる複数の電磁パルスを用いて複合材ワークピースの表面をスキャンすることを含む。方法は更に、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとに、マルチモードファイバにおける複数の電磁パルスのうちの一つに対する、複数波長成分を含む応答を受け取ること、応答をマルチモードファイバに通して波長ビニングパルスを生成することにより、複数波長成分を互いに対してタイムシフトすること、複数波長成分に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングすること、及び波長強度レベルの組に基づいて、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置における材料の種類又は状態を識別することを含む。
【0004】
いくつかの実施形態では、方法は、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとの材料の種類又は状態を示す複合材ワークピースの表面の画像を生成することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、それぞれの位置ごとの材料の種類又は状態に基づいて複合材ワークピースの表面上の異常を検出確認すること、及び異常の画像インジケータを複合材ワークピースの表面の可視画像に重ね合わせることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、複数の電磁パルスのソースの変調期間を、それぞれの位置ごとの波長ビニングパルスの継続期間と同期化することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、複数波長成分をタイムシフトする前に回折格子システムを用いて複数波長成分を空間的に分散させること、及び複数波長成分の各々を、レンズを用いてマルチモードファイバに集束させることを含む。いくつかの実施形態では、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置における材料の種類又は状態を識別することは、事前選択された材料の種類又は状態に関連付けられる波長強度レベルを記憶するために波長強度レベルの組を比較することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとに、材料の種類又は状態が汚染物質を含まないとの判定に応じて、複合材ワークピースに新規レイヤーを付加することを含む。
【0005】
一実施形態では、方法は、マルチモードファイバにおいて、複合材ワークピースの表面上の一つの位置に向けられた電磁パルスに対する、複数波長成分を含む応答を受け取ることを含む。方法は更に、応答をマルチモードファイバに通して波長ビニングパルスを生成することにより、複数波長成分を互いに対してタイムシフトすることを含む。方法はまた、応答に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングすることを含む。方法は、波長強度レベルの組に基づいて複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別することを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、方法は、マルチモードファイバを使用して、複合材ワークピースの表面上の追加の位置における追加の材料の種類又は状態を識別すること、及びある位置における材料の種類又は状態を示す画像インジケータと追加の位置における追加の材料の種類又は状態を示す画像インジケータを含む複合材ワークピースの表面の画像を生成することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、電磁パルスのソースの変調期間を波長ビニングパルスの継続期間と同期化することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、複数波長成分をタイムシフトする前に回折格子システムを用いて複数波長成分を空間的に分散させること、及び複数波長成分の各々を、レンズを用いてマルチモードファイバに集束させることを含む。いくつかの実施形態では、複合材の表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別することは、事前選択された材料の種類又は状態に関連付けられる波長強度レベルを記憶するために波長強度レベルの組を比較することを含む。
【0007】
一実施形態では、スペクトル感知システムは、複合材ワークピースの表面上の一つの位置に向けられた電磁パルスに対する、複数波長成分を含む応答を受け取り、複数波長成分を互いに対してタイムシフトして波長ビニングパルスを生成するように構成されたマルチモードファイバを含む。システムは更に、複数波長成分に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングするように構成されている。システムはまた、波長強度レベルに基づいて複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別するように構成されたプロセッサを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロセッサは更に、複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を示す複合材ワークピースの表面の画像を生成するように構成されている。いくつかの実施形態では、システムは更に電磁パルスのソースを含み、このソースは赤・緑・青(RGB)のレーザ源、白色光レーザ源、発光ダイオード光源、アーク灯、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、電磁パルスのソースの変調期間は波長ビニングパルスの継続期間と同期化される。いくつかの実施形態では、システムは、複数波長成分を空間的に分散させるための回折格子システムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、複数波長成分をマルチモードファイバに集束させるように構成されたレンズを含む。いくつかの実施形態では、システムは、マルチモードファイバを用いて複合材ワークピースの表面上の追加の位置における材料の種類又は状態を識別するための追加の応答をマルチモードファイバが受け取ることを可能にするために、複合材ワークピースの表面をスキャンするように構成されたミラーシステムを含む。いくつかの実施形態では、複合材ワークピースは航空機翼のプリプレグプライである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】スペクトル感知システムの一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】スペクトル感知システムの一実施形態に使用されるルックアップテーブルの一実施形態を示す線図である。
【
図3】スペクトル感知システムの一実施形態に使用される電磁パルスのタイミング方式を示す線図である。
【
図4】製造段階における複合材ワークピースのブロック図である。
【
図5】スペクトル感知方法の一実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明には様々な修正形態及び変形形態が可能であるが、特定の実施形態を例示として図面に示し、以下に詳細に説明する。しかしながら、本開示内容は、開示される特定の形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって規定される発明の精神及び範囲に含まれるすべての修正例、等価物、及び代替物を含む。
【0011】
本明細書に開示されるシステム及び方法は、複合材構成要素の製造環境に適用され得る。特に、開示されるシステム及び方法は、複合材翼構造を含む航空機の構成要素の製造の間に使用されて、複合材翼構造が組み立てられる際、硬化される前に、複合材翼構造のインプロセス非破壊評価を提供することができる。開示されるシステム及び方法への使用に適した例示的製造環境は、2012年5月15日出願の米国特許第8836934号「Contamination Identification System」に記載されており、この特許文献は参照によりその全体が本明細書に包含される。
【0012】
本発明の
図1に示すように、スペクトル感知システム100の一実施形態は、複合材ワークピース128の表面126に向けることのできる電磁波源102、ミラーシステム130、回折格子システム140、レンズ150、マルチモードファイバ160、検出器170、計算システム180、及びディスプレイ装置190を含む。
【0013】
電磁波源102は、複合材ワークピース128の表面126上の対象物質を識別するために十分な波長を生成することのできる任意の電磁波源を含み得る。例えば、電磁波源102は、限定しないが、赤・緑・青(RGB)レーザ源、白色光レーザ源、発光ダイオード(LED)光源、アーク灯、別の種類の電磁波源、又はこれらの組み合わせを含む。
【0014】
図1に示すように、電磁波源102は、複数の電磁パルス110~114を発するように調節することができる。電磁波源102は更に、複合材ワークピース128の表面126全体を方向116にスキャンするように構成することができる。電磁波源102がスキャンする際、電磁パルス110~114の各々は、複合材ワークピース128の表面126上の対応する位置120~124において表面126から反射される。例えば、第1の電磁パルス110は第1の位置120に関連付けられ、第2の電磁パルス111は第2の位置121に関連付けられ、第3の電磁パルス112は第3の位置122に関連付けられ、第4の電磁パルス113は第4の位置123に関連付けられ、第5の電磁パルス114は第5の位置124に関連付けられる。スペクトル感知の方法は、本明細書では第1の電磁パルス110と第1の位置120に関して説明されるが、記載される方法は、電磁パルス110~114の各々とそれに対応する位置120~124について実施され得ることを理解されたい。
【0015】
いくつかの実施形態では、複合材ワークピース128は航空機の構成要素を含む。表面126は、第1の位置120において、表面126の反射特性、吸収特性、及び透過特性と、表面126上に存在し得る汚染物質の特性とに基づいて決定される第1の電磁パルス110に対する応答132を生成する。
【0016】
応答132は、ミラーシステム130を通して方向付けることができる。ミラーシステム130は、任意の数のミラーを含むことができ、電磁波源102と連動して位置120~124をスキャンするように構成され得る。十分なミラーシステムの特定の実施例は米国特許第8836934号に記載があり、この特許文献は本明細書に包含される。
【0017】
いくつかの実施形態では、電磁波源102は、複合材ワークピース128の表面126全体をスキャンするために、ミラーシステム130を利用するように構成することもできる。いずれの場合も、ミラーシステム130は、電磁パルス110が位置120へと向けられている間に、電磁パルス110の応答132を回折格子システム140に向けるように構成され得る。
【0018】
応答132は、複数波長成分134~136を含み得る。例えば、応答132は第1の波長成分134、第2の波長成分135、及び第3の波長成分136を含む。応答132は、図では三つの長構成要素を含むが、当業者であれば、応答132が任意の数の波長成分を含み得るように、波長が連続的パラメータであることを理解するであろう。更に、応答は、周囲光又は複合材ワークピース128の生産環境内の他のソースに由来するものなどのノイズを含み得る。
【0019】
回折格子システム140は、波長成分134~136を互いから空間的に分散させるための、任意の数の回折格子を含むことができる。回折格子システム140は更に、スペクトル感知のために使用されない波長をフィルタするように機能することができる。例えば、いくつかの波長は、複合材ワークピース128の表面126上の材料及び汚染物質を識別するために必要でない。これら波長成分は、回折格子システム140によって無視されてよいか、又はそうでなくとも回折格子システム140を通過しなくてよい。回折格子システム140を通過した後、応答132の波長成分134~136は、互いから空間的に分散させることができる。レンズ150は、次いで、空間的に分散した波長成分134~136を、
図1に参照番号151で示すマルチモードファイバ160に集束させることができる。
【0020】
マルチモードファイバ160は、異なる波長を有する信号をタイムシフトさせるその能力を含むモーダル分散特性に基づいて選択され得る。一般に、マルチモードファイバは、異なる速度でマルチモードファイバ160を通過する異なる波長に起因する、波長依存性のタイムシフトを引き起こす。波長成分の各々について光速は同じであるが、異なる屈折率により、波長の各々がマルチモードファイバ160を通って移動する距離は異なる。したがって、マルチモードファイバ160内部において波長間に起こるタイムシフトの量は、マルチモードファイバクラッディングの反射率、対象とする特定の波長、マルチモードファイバ160の直径、マルチモードファイバ160の長さ、及びマルチモードファイバ160のその他の特徴及び特性を含む複数の要因に依存する。システム100では、マルチモードファイバ160のこれら特徴の各々は、
図1に参照番号161で示される波長成分134~136を分散させるために選択され得る。
【0021】
例えば、マルチモードファイバ160は、応答132の波長成分134~136の各々が異なる速度でマルチモードファイバ160を通過する際に波長成分134~136を互いからタイムシフトさせる。その結果、経時的にソートされた波長成分134~136の各々を含む波長ビニングパルス162が拡大する。
【0022】
検出器170は、波長成分134~136を別々にサンプリングするようにタイミングをとることができる。例えば、波長成分134~136の各々がそれぞれの間隔をおいた後で検出器170に到達するとき、検出器170は到達する波長成分をサンプリングする。システム100では、検出器170は、波長成分134~136を検出することのできる任意の電磁検出器を含むことができる。例えば、検出器170は、限定しないが、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)検出器、電荷結合素子(CCD)検出器、別の種類の電磁波検出器、又はこれらの組み合わせを含む。
【0023】
いくつかのシステムは、分光イメージングの複合型検出器アレイを含むが、検出器170は、波長成分134~136の各々は異なる時間に検出器170に到達するため、それよりも少ない、又は単一の検出器を含んでもよい。電磁波源102の変調は、電磁パルス110~114が妨害性の波長ビニングパルスを生成することを防止するため、及び表面126のスキャン中に検出器170の連続的サンプリングを可能にするために、波長ビニングパルス162と同期させることができる。検出器170と電磁波源102のタイミング及び同期化については、
図3を参照して更に記載される。
【0024】
サンプリングに基づいて、検出器170は、波長成分134~136の各々に関連付けられる波長強度レベル174~176の組を生成し得る。例えば、波長強度レベル174は波長成分174に関連付けられ、波長強度レベル175は波長成分175に関連付けられ、波長強度レベル176は波長成分176に関連付けられる。波長強度レベル174~176の組は、集約的にシグネチャ172と呼ばれることもある。
【0025】
シグネチャ172は、計算システム180において分析され得る。例えば、計算システム180は、プロセッサ182とメモリ184を含む。一般に、メモリ184は、プロセッサ182によって実行されると、プロセッサ182に、波長強度レベル174~176の組に基づいて第1の位置120における材料の種類又は状態を識別させる命令を含むことができる。このプロセスについては、
図2を参照して以下で更に詳細に記載される。
【0026】
材料の種類又は状態が第1の位置120において識別された後、追加の材料の種類又は状態を、対応する電磁パルス111~114に対する応答を使用して残りの位置121~124で識別することができる。電磁波源102が複合材ワークピース128の表面126をスキャンする際に、位置120~124の各々を対応する材料の種類又は状態にマッピングする画像192が生成され得る。画像192はディスプレイ装置190へと送られて、オペレーターが見ることができる。オペレーターは、画像192に基づいて汚染物質又はその他異常を検出確認することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、汚染物質を含み得る異常が、プロセッサ182により画像192に基づいて自動的に検出確認される。プロセッサ182は、複合材ワークピース128の表面126の可視画像上に異常の画像インジケータを重ね合わせた別の画像194を生成することができる。別の画像194は、オペレーターが、複合材ワークピース128上に存在する異常を見つけて修正することができるように、ディスプレイ装置190に送られる。画像192、194の生成については、
図2を参照して更に記載される。
【0028】
システム100の利点は、検出器170による検出前の伝播信号中にある間に波長成分134~136をソート及びビニングすることにより、検出前に波長成分をソート及びビニングしないシステムと比較した場合に、より少ない計算リソースを使用して応答132についてのスペクトル分析を実施することができることである。更に、画像処理に掛かる時間の量が大幅に低減され、製造プロセスを実質的に遅らせることなくシステム100をインプロセス非破壊評価に適用することが可能となる。更に、ソート及びビニングされた波長成分134~136は一度に一つずつ検出器170に到達するため、十分な分光イメージングデータを蓄積するためにフルスペクトルの検出器アレイを含む他のシステムと比較して、単一の検出器170を利用するだけでよい。したがって、システム100は、他のスペクトル分析システムと比較した場合に大きく単純化され得る。
【0029】
システム100の別の利点は、マルチモードファイバ160が波長に基づいて応答132をタイムシフトするため、応答内部の(例えば、周囲光又は他のソースからの)ノイズがビニングされた波長成分134~136から自動的に且つ実質的に除去され得ることである。したがって、システム100は、他のスペクトル分析システムと比較して、より少ないノイズ低減専用のリソースを含むことができる。システム100の他の利点が存在し得る。
【0030】
図2には、ルックアップテーブル210が示されている。ルックアップテーブル210は、メモリ184に記憶され、波長強度レベル174~176に基づいて、材料の種類又は状態を識別するために
図1のプロセッサ182によって使用され得る。いくつかの実施形態では、ルックアップテーブル210は、メモリ184とは別個のデータべースに記憶される。本明細書で使用する場合、ルックアップテーブルは、材料シグネチャを材料の種類にマッピングするあらゆるデータ構造又はデータシステムを含み得る。
【0031】
ルックアップテーブル210は、複数のシグネチャ又は波長強度レベル212~218の組に対応する記憶されたデータを含むことができる。記憶された波長強度レベル212~218の組の各々は、それぞれの材料の種類又は状態222~228に対応し得る。例えば、第1の波長強度レベルの組212は第1の材料の種類又は状態222に対応し、第2の波長強度レベルの組214は第2の材料の種類又は状態224に対応し、第3の波長強度レベルの組216は第3の材料の種類又は状態226に対応し、第4の波長強度レベルの組218は第4の材料の種類又は状態228に対応する。
【0032】
図示の実施形態では、第1の材料の種類又は状態222は正常であり、例えば、正常な状態において複合材ワークピース128を構築するために使用される複合材である。第2の材料の種類又は状態224はプラスチックである。第3の材料の種類又は状態226は不明であり、例えば、未知の汚染物質又は状態を示す。第4の材料の種類又は状態228は湿気、例えば、湿潤状態である。
図2は材料の四つの種類又は状態しか示さないが、ルックアップテーブル210に含まれるのは四つより多くても少なくてもよい。更に、プラスチック材料、不明な材料、及び湿気は汚染物質と考えられ、正常な材料は複合材ワークピース128の正常構造の一部である。
【0033】
ルックアップテーブル210は、波長強度レベル174~176の組と記憶された波長強度レベル212~218の組とを比較するために使用することができ、同強度レベルの組は次いで材料の種類又は状態にマッピングされる。例えば、波長強度レベル174~176の組は、第2の材料の種類又は状態224、即ちプラスチックにマッピングされ得る。複合材ワークピース128の表面126の各位置は、材料の種類又は状態を決定するためにスキャンされ得る。画像192が生成され、この画像は、位置の各々に存在する材料を示すために、濃淡又は色といった画像インジケータを含むことができる。例えば、プラスチック材料にマッピングされた位置は、不明な材料にマッピングされた位置とは異なる第1の濃淡232に陰影付けすることができ、不明な材料は第2の濃淡234に陰影付けされ得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、別の画像194を生成することにより更なる分析が行われる。別の画像194は、複合材ワークピース128の表面126の視画像250を含み得る。画像インジケータ242、244は、オペレーターに複合材ワークピース128上の異常の位置を示すために、視画像250の上に重ね合わせることができ、これによりオペレーターは製造プロセスを継続する前に異常を取り除くことができる。
【0035】
図3では、タイミング図が電磁パルス110と電磁パルス111を示している。この図は、電磁パルス110が電磁パルス111の前に生じるように、左から右への移動として概念化される。
図3では、電磁パルス110、111は、
図1の電磁波源102の変調を示す方形波として示されている。本明細書に記載するように、電磁パルス110が表面126の第1の位置120に向かい、電磁パルス111が表面126の第2の位置121に向かうように、電磁波源102は表面126をスキャンすることができる。
【0036】
電磁パルス110と表面126の間の接触は、応答132を生じさせ得る。同様に、それに続く電磁パルス111と表面126との間の接触は、応答332を生じさ得る。応答132は、複数波長成分134~136を含み得、応答332も複数の波長成分を含み得る。
図3に示すように、電磁パルス110、111及び応答132、332の各々は同じ継続期間310を有することができ、これは電磁波源102の変調期間312より短くてよい。
【0037】
応答がマルチモードファイバ160を通過した後、波長成分134~136の各々は、それらそれぞれの波長に基づいて互いに対してタイムシフトされ、波長ビニングパルス162を生成する。次いで個々の波長成分134~136が特定の波長成分に特異的な間隔でサンプリングされる。例えば、第1の波長成分134は第1の間隔314の後にサンプリングされ、第2の波長成分135は第2の間隔315の後にサンプリングされ、第3の波長成分136は第3の間隔316の後にサンプリングされる。間隔314~316の各々は、波長成分134~136が検出器170に到達するであろう時間に相当する。間隔314~316は、図では波長成分134~136の各々の中央まで延びているが、他の実施形態では、間隔314~316は対応する波長成分134~136内部のどの地点まで延びていてもよい。応答332も、マルチモードファイバ160を同様に通過し、同じようにサンプリングされ得る。第2の応答332の第1の波長成分334のみが
図3に示されている。
【0038】
タイムシフトされた後、波長ビニングパルス162は、分散により、応答132の継続期間310より長い継続期間318を有し得る。変調期間312は、波長ビニングパルス162の第3の波長成分136が第2の電磁パルス111と関連付けられた第1の波長成分334を妨害しないように、波長ビニングパルス162の継続期間318と同期させることができる。
【0039】
図3に示されるタイミングは実寸に則していないことに注意されたい。各波長成分134~136の拡散幅は、
図3の実施例に示すものより大きくても小さくてもよい。更に、先述のように、三つの波長成分より多い又は少ない成分を応答132の一部として分析することができる。
【0040】
図3に示されるタイミングの利点は、変調期間 312を継続期間318と同期化することにより、第1の電磁パルス110に関連付けられた波長成分134~136が第2の電磁パルス111に関連付けられた波長成分334を妨害することがないことである。更に、応答132、332は、間に長い時間間隔を置かずに連続して分析され得る。他の利点及び長所が存在し得る。
【0041】
図4には、製造段階の間の複合材ワークピース128が示されている。一実施形態では、複合材ワークピースは、翼といった航空機の構成要素のプリプレグプライである。複合材ワークピース128は、複数層410を含み得る。各層は、堆積された後、次の層を堆積させる前に、汚染物質を含む異常について検査される。例えば、層404が別の層402の上に置かれた後、層404を含む複合材ワークピース128の表面126は、本明細書に記載される位置120~124の各々の材料の種類又は状態を決定するために、位置120~124の各々をスキャン及び分析することにより検査される。位置120~124の各々について、材料の種類又は状態が汚染物質を含まないことが判定された後で、層406が層404の上に置かれる。このように、複合材ワークピースは、その製造の間にインプロセス検査を受けることができる。
【0042】
図5には、スペクトル感知のための方法500の一実施形態が示されている。方法500は、502において、複合材ワークピースの表面上の一つの位置に向けられた電磁パルスに対する、複数波長成分を含む応答をマルチモードファイバで受け取ることを含む。例えば、マルチモードファイバ160は、複合材ワークピース128の表面126上の第1の位置120に向けられた第1の電磁パルス110に対する応答132を受け取る。
【0043】
方法500は更に、504において、応答をマルチモードファイバに通して波長ビニングパルスを生成することにより、複数波長成分を互いに対してタイムシフトすることを含む。例えば、波長成分134~136は、波長ビニングパルス162を生成するために、互いに対してタイムシフトされる。
【0044】
方法500はまた、506において、応答に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングすることを含む。例えば、波長ビニングパルス162は、波長強度レベル174~176の組を決定するために、間隔314、315、及び316で検出器170によってサンプリングされる。
【0045】
方法500は、508において、波長強度レベルの組に基づいて複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別することを含む。例えば、材料の種類又は状態(例えば、材料の種類及び状態212~218の一つ)が、波長強度レベル174~176の組に基づいて第1の位置120において識別される。
【0046】
更に、本開示は下記の条項による実施例を含む。
【0047】
条項1.
各々が複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置に関連付けられた複数の電磁パルスで、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとに、複合材ワークピースの表面をスキャンすること、マルチモードファイバにおいて、複数の電磁パルスのうちの一つに対する、複数波長成分を含む応答を受け取ること、応答をマルチモードファイバに通して波長ビニングパルスを生成することにより、複数波長成分を互いに対してタイムシフトすること、複数波長成分に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングすること、及び波長強度レベルの組に基づいて、複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置において材料の種類又は状態を識別することを含む方法。
【0048】
条項2.
複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとの材料の種類又は状態を示す複合材ワークピースの表面の画像を生成することを更に含む、条項1の方法。
【0049】
条項3.
それぞれの位置ごとの材料の種類又は状態に基づいて複合材ワークピースの表面上の異常を検出確認すること、及び異常の画像インジケータを複合材ワークピースの表面の可視画像に重ね合わせることを更に含む、条項2の方法。
【0050】
条項4.
複数の電磁パルスのソースの変調期間を、それぞれの位置ごとの波長ビニングパルスの継続期間と同期化することを更に含む、条項1の方法。
【0051】
条項5.
複数波長成分をタイムシフトする前に回折格子システムを用いて複数波長成分を空間的に分散させること、及び複数波長成分の各々を、レンズを用いてマルチモードファイバに集束させることを更に含む、条項1の方法。
【0052】
条項6.
複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置における材料の種類又は状態を識別することは、事前選択された材料の種類又は状態に関連付けられる波長強度レベルを記憶するために波長強度レベルの組を比較することを含む、条項1の方法。
【0053】
条項7.
複合材ワークピースの表面上のそれぞれの位置ごとに、材料の種類又は状態が汚染物質を含まないとの判定に応じて、複合材ワークピースに新規レイヤーを付加することを更に含む、条項1の方法。
【0054】
条項8.
マルチモードファイバにおいて、複合材ワークピースの表面上の一つの位置に向けられた電磁パルスに対する、複数波長成分を含む応答を受け取ること、応答をマルチモードファイバに通して波長ビニングパルスを生成することにより、複数波長成分を互いに対してタイムシフトすること;応答に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングすること;及び波長強度レベルの組に基づいて、複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別することを含む方法。
【0055】
条項9.
マルチモードファイバを使用して、複合材ワークピースの表面上の追加の位置における追加の材料の種類又は状態を識別すること、及び前記一つの位置における材料の種類又は状態を示す画像インジケータと追加の位置における追加の材料の種類又は状態を示す画像インジケータを含む複合材ワークピースの表面の画像を生成することを更に含む、条項8の方法。
【0056】
条項10.
電磁パルスのソースの変調期間を波長ビニングパルスの継続期間と同期化することを更に含む、条項8の方法。
【0057】
条項11.
複数波長成分をタイムシフトする前に回折格子システムを用いて複数波長成分を空間的に分散させること、及び複数波長成分の各々を、レンズを用いてマルチモードファイバに集束させることを更に含む、条項8の方法。
【0058】
条項12.
複合材の表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別することは、事前選択された材料の種類又は状態に関連付けられる波長強度レベルを記憶するために波長強度レベルの組を比較することを含む、条項8の方法。
【0059】
条項13.
複合材ワークピースの表面上の一つの位置に向けられた電磁パルスに対する、複数波長成分を含む応答を受け取り、複数波長成分を互いに対してタイムシフトして波長ビニングパルスを生成するように構成されたマルチモードファイバ、複数波長成分に対応する波長強度レベルの組を決定するために、複数波長成分に対応する時間間隔で波長ビニングパルスをサンプリングするように構成された検出器、及び波長強度レベルに基づいて複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を識別するように構成されたプロセッサを備えるスペクトル感知システム。
【0060】
条項14.
プロセッサが更に、複合材ワークピースの表面上の前記一つの位置における材料の種類又は状態を示す複合材ワークピースの表面の画像を生成するように構成されている、条項13のシステム。
【0061】
条項15.
更に電磁パルスのソースを備え、ソースが赤・緑・青(RGB)のレーザ源、白色光レーザ源、発光ダイオード光源、アーク灯、又はこれらの組み合わせを含む、条項13のシステム。
【0062】
条項16.
電磁パルスのソースの変調期間が波長ビニングパルスの継続期間と同期化される、条項13のシステム。
【0063】
条項17.
複数波長成分を空間的に分散させるための回折格子システムを更に備える、条項13のシステム。
【0064】
条項18.
複数波長成分をマルチモードファイバに集束させるように構成されたレンズを更に備える、条項13のシステム。
【0065】
条項19.
マルチモードファイバを用いて複合材ワークピースの表面上の追加の位置における材料の種類又は状態を識別するための追加の応答をマルチモードファイバが受け取ることを可能にするために、複合材ワークピースの表面をスキャンするように構成されたミラーシステムを更に備える、条項13のシステム。
【0066】
条項20.
複合材ワークピースが航空機翼のプリプレグプライである、条項13のシステム。
【0067】
種々の実施形態を図示し、説明したが、本発明はそれらに限定されず、当業者に自明であろう修正例及び変形例をすべて含むと理解されたい。