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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】多層成形レンズ
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20221024BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018144995
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020019227
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000225740
【氏名又は名称】南部化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110744
【弁理士】
【氏名又は名称】藤川 敬知
(72)【発明者】
【氏名】東村 裕司
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065281(JP,A)
【文献】特開2016-215531(JP,A)
【文献】特開2013-107229(JP,A)
【文献】特開2001-191365(JP,A)
【文献】特開平05-192961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三層以上(N層)の多層成形レンズであって、
レンズ光軸と交差する一対のレンズ面と、
前記レンズ光軸の側方で前記一対のレンズ面同士の間に設けられるレンズ側面と、
を備え、
前記レンズ側面に、前記一対のレンズ面の一方の面から他方の面へ前記レンズ光軸方向に沿って順に位置し且つ前記レンズ光軸方向において同位置の場合は任意に割り振られた第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕が一体化したゲート痕群が形成されている多層成形レンズ。
【請求項2】
前記第1層のゲート痕は、前記N個のゲート痕のうち最大の断面積を有する、請求項1に記載の多層成形レンズ。
【請求項3】
前記第1層から前記第N層のうち所定の複数層のゲート痕が、前記レンズ側面の前記レンズ光軸と交差する所定の一方向である幅方向に並列配置されている、請求項1又は2に記載の多層成形レンズ。
【請求項4】
前記並列配置された前記所定の複数層のゲート痕は、第2層から第(N-1)層のうちのいずれか複数層のゲート痕である、請求項3に記載の多層成形レンズ。
【請求項5】
前記ゲート痕群の前記レンズ光軸方向における厚さは3~10mmである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多層成形レンズ。
【請求項6】
前記第N層の最大厚さは第(N-1)層の最大厚さより小さい請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多層成形レンズ。
【請求項7】
前記第N層の最大厚さは2~4mmである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多層成形レンズ。
【請求項8】
前記第N層の外表面に微細凹凸形状を有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多層成形レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形により多層成形された多層成形レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
多層成形は、例えば特許文献1に開示されているように、容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して各層を積層成形するものである。そして、第1層及び第N層のゲートはレンズ外周端面に設けられ、第2層から第(N-1)層までの各層のゲートはレンズ面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-107229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第2層から第(N-1)層までの各層のゲートはレンズ面に設けられているため、コールドスラッグやフローマーク、ジェッティングなどの成形不良に基づく溶融樹脂粘度の不規則な変化を次層の成形で溶融しきれず、光学特性を悪化させるモヤ状の異物として残存させてしまうことがある。また、スプルやランナを有しないのでホットランナから異物が直接キャビティへ流入することもある。
【0005】
また、特許文献1の技術による成形工程によれば、各層の積算冷却時間は上位の層程短くなっている。すなわち第N層の冷却時間は他のどの層の冷却時間より短い。そしてレンズの外表面となる第N層の冷却を十分に行うことができないので、光学的に重要な第N層の表面がひけて微小な凹部が残存する。そのためレンズの光学特性が低下するのである。この問題を解消するには第N層の冷却時間を延長しなければならず、成形時間の遅延が避けられなかった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、異物混入のない低圧力損失の溶融樹脂を均等に射出・充填して得た光学特性の優れた多層成形レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、三層以上(N層)の多層成形レンズであって、レンズ光軸と交差する一対のレンズ面と、前記レンズ光軸の側方で前記一対のレンズ面同士の間に設けられるレンズ側面と、を備え、前記レンズ側面に、前記一対のレンズ面の一方の面から他方の面へ前記レンズ光軸方向に沿って順に位置し且つ前記レンズ光軸方向において同位置の場合は任意に割り振られた第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕が一体化したゲート痕群が形成されているというものである。
【0008】
この構成によれば、多層成形レンズは、一対のレンズ面を形成する第1層及び第N層を成形するキャビティと、レンズ内部を形成する第2層から第(N-1)層を成形するキャビティとに、サイドゲートからそれぞれ溶融樹脂が射出されることで成形され、レンズ側面の幅方向中央部に第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕が形成されている。よって、多層成形レンズは、そのキャビティの隅々へ異物混入のない低圧力損失の溶融樹脂が均等に流動して充填され、キャビティ内の溶融樹脂粘度が均一となって成形されているため、優れた光学特性を有しているという優れた効果を奏する。また、第1層から第N層の各層のサイドゲートが一体となった状態でゲートカットされて、N個のゲート痕が一体化したゲート痕群が形成されている。よって、第1層から第N層のN個のサイドゲートのカットが極めて容易であり、製造コストの低減が図れるという優れた効果を奏する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記第1層のゲート痕が、前記N個のゲート痕のうち最大の断面積を有するというものである。
【0010】
この構成によれば、比較的容積が大きくレンズ面を形成する第1層用のキャビティが極めて低い圧力損失の溶融樹脂で均等に充填されて成形されているので、レンズの光学特性がより一層向上するという優れた効果を奏する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記第1層から前記第N層のうち所定の複数層のゲート痕が、前記レンズ側面の前記レンズ光軸と交差する所定の一方向である幅方向に並列配置されているというものである。
【0012】
この構成によれば、所定の複数層のゲート痕が、レンズ側面の幅方向に並列配置されているので、ゲート痕群全体の厚さを小さく抑えることができ、サイドゲート群のカットが容易になって製造コストの低減が図れるという優れた効果を奏する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記並列配置された前記所定の複数層のゲート痕が、第2層から第(N-1)層のうちのいずれか複数層のゲート痕であるというものである。
【0014】
この構成によれば、レンズ内部を形成する第2層から第(N-1)層のうちのいずれか複数層のゲート痕が、レンズ側面の幅方向に並列配置されているので、レンズの外観品質と光学特性に直接影響する第1層及び第N層用のキャビティのサイドゲートをレンズ側面の可及的中心位置に配置することができ、レンズの外観品質と光学特性が向上するという優れた効果を奏する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、 前記ゲート痕群の前記レンズ光軸方向における厚さは3~10mmであるというものである。
【0016】
この構成によれば、レンズの外観品質と光学特性に直接影響するレンズ面を形成する第1層及び第N層用のキャビティのサイドゲートがレンズ側面の可及的中心位置に配置されるとともに、サイドゲート群のカットが容易になって製造コストの低減が図れるという優れた効果を奏する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記第N層の最大厚さが第(N-1)層の最大厚さより小さいというものである。
【0018】
この構成によれば、多層成形レンズは、第N層の最大厚さが第(N-1)層の最大厚さより小さいので、成形サイクル上で他の層と比較して冷却時間が最も短くなる第N層の冷却不足に基づくヒケなどの問題が軽減されて、レンズの光学特性が向上するという優れた効果を奏する。
【0019】
請求項7に記載の発明は、第N層の最大厚さが2~4mmであるというものである。
【0020】
この構成によれば、第N層の最大厚さが2~4mmであり、溶融樹脂がキャビティ内を容易に流動して第N層が成形されているので、レンズの光学特性が向上するという優れた効果を奏する。
【0021】
請求項8に記載の発明は、第N層の外表面に微細凹凸形状を有するというものである。
【0022】
この構成によれば、第1層用から第N層用のキャビティのうち、第N層用のキャビティ面のみに微細凹凸を設けて成形することによりレンズ面に微細凹凸形状を形成することができるので、ぼかし効果等の所望の光学的効果を有する多層成形レンズを比較的低コストで製造できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の多層成形レンズを図5のI-I矢視とともに示す斜視図である。
図2】多層成形レンズにおける第1層を中間成形体として示す斜視図である。
図3】多層成形レンズにおける第2層を第1層の中間成形体とともに第3層のための中間成形体として示す斜視図である。
図4】多層成形レンズにおける第3層を第1層及び第2層を含む中間成形体とともに第4層のための中間成形体として示す斜視図である。
図5】多層成形レンズにおける第4層を第1層、第2層及び第3層を含む中間成形体とともに完成成形体として示す斜視図である。
図6】第1層~第4層を含む多層成形レンズを各層同時に製造する成形装置と金型装置を図7及び図8のVI-VI矢視で示す部分断面の側面図である。
図7】金型装置における第二キャビティブロックの型合わせ面を示す正面図である。
図8】金型装置における第一キャビティブロックの型合わせ面を示す正面図である。
図9】金型装置の第2層成形用キャビティを図7及び図8のIX-IX矢視で示す断面側面図である。
図10】金型装置の第3層成形用キャビティを図7及び図8のX-X矢視で示す断面側面図である。
図11】金型装置の第4層成形用キャビティを図7及び図8のXI-XI矢視で示す断面側面図である。
図12】微細凹凸の形状を示すキャビティ面の部分拡大断面図である。
図13】微細凹凸の他の形状を示すキャビティ面の部分拡大断面図である。
図14】変形例の多層成形レンズを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分又は同様な機能を有する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。
【0025】
図1に示す多層成形レンズ5は、車両の前照灯などで好適に用いられ、必要とされる集光特性により最大肉厚が12mm以上の厚肉レンズとなるものである。そのような厚肉プラスチックレンズを従来の成形方法としての一層で成形する場合、最大肉厚部分に発生するひけ(微小凹部)が光学特性に大きな影響を与える。そのため多層成形を導入することにより、最大肉厚量を分割して各層に分配することができ各層の肉厚が減少して冷却時間が短縮され生産効率が向上することに加えひけの生成が抑制されて光学特性の良好な厚肉レンズ製造が実現できるのである。この効果は、三層(N=三)以上の多層成形において顕著となる。
【0026】
四層のものとして例示した多層成形レンズ5は、図6に示す成形装置と金型装置により好適に製造される。金型装置は、型合わせ面25で型合わせする第一キャビティブロック7及び第二キャビティブロック8からなり、四層(N=四)の多層成形レンズ5を積層成形する。第一キャビティブロック7及び第二キャビティブロック8は、型板を介して型締装置である固定盤6及び可動盤9にそれぞれ取り付けられる。可動盤9は固定盤6に対して進退自在に移動し、第一キャビティブロック7と第二キャビティブロック8とを型合わせ面25で当接させ、固定盤6と協働して圧諦する。第一キャビティブロック7の固定盤6側端面には射出装置27のノズル28が当接して、射出装置27で生成された溶融樹脂が金型装置内へ射出される。型締装置、金型装置及び射出装置27により射出成形機が構成される。
【0027】
図6図11に示すように、第一キャビティブロック7及び第二キャビティブロック8それぞれが型合わせ面25で型合わせしたときに、正五角形の各頂点に五対のキャビティが二個取りとして放射線上に形成される。そのため、図面での符号は外側のキャビティにのみ付して説明し、以降では内側のキャビティに関する説明は省略する。
【0028】
図7に示すように、第二キャビティブロック8はその型合わせ面25に、二のキャビティ面16を接続するランナ11r用溝の中心が正五角形の各頂点となるように配置されている。第二キャビティブロック8はモータ26とベルト10により矢印の方向へ成形サイクル毎に72度回転する。全てのキャビティ面16は同一の形状及び寸法で型合わせ面25に刻設されている。
【0029】
図8に示すように、第一キャビティブロック7は第二キャビティブロック8の各キャビティ面16と対向して型合わせできるように、キャビティ面17、キャビティ面18、キャビティ面18c及びキャビティ面19がこの順序で第二キャビティブロック8の回転方向に刻設・配設されている。但し、最上部に記載する第1層用キャビティ面は型合わせ面25で形成されるので刻設されていない。また、キャビティ面18cはキャビティ面18と形状及び寸法を同一にして刻設されており、冷却キャビティ用であってランナ13r及びゲート13g用の溝を有しない。
【0030】
キャビティ面17、キャビティ面18及びキャビティ面19の型合わせ面25からの深さは、この順序で段階的に深くなるように刻設されている。
【0031】
図6に示すように、第1層用キャビティ21はキャビティ面16と型合わせ面25とにより形成される。図7図9に示すように、第2層用キャビティ22は型合わせ面25とキャビティ面17とにより形成される。図7図8及び図10に示すように、第3層用キャビティ23はキャビティ面17とキャビティ面18とにより形成される。図7図8及び図11に示すように、第4層用キャビティ24はキャビティ面18とキャビティ面19とにより形成される。
【0032】
キャビティ21には、射出装置27のノズル28、ホットランナ29、スプル15用通路、ランナ11r用通路及びゲート11g用通路を経由して溶融樹脂が射出・充填される。その結果、図2に示す第1層1(太実線)としての中間成形体31が金型装置で成形される。
【0033】
中間成形体31が第二キャビティブロック8の回転により移送されて形成されたキャビティ22には、射出装置27のノズル28、ホットランナ29、スプル15用通路、ランナ12r用通路及びゲート12g用通路を経由して溶融樹脂が射出・充填される。その結果、図3に示す中間成形体31(細実線)及び第2層2(太実線)を含む中間成形体32が金型装置で一体に成形される。
【0034】
中間成形体32が第二キャビティブロック8の回転により移送されて形成されたキャビティ23には、射出装置27のノズル28、ホットランナ29、スプル15用通路、ランナ13r用通路及びゲート13g用通路を経由して溶融樹脂が射出・充填される。その結果、図4に示す中間成形体32(細実線)及び第3層3(太実線)を含む中間成形体33が金型装置で一体に成形される。
【0035】
中間成形体33が第二キャビティブロック8の回転により移送されて形成されたキャビティ24には、射出装置27のノズル28、ホットランナ29、スプル15用通路、ランナ14r用通路及びゲート14g用通路を経由して溶融樹脂が射出・充填される。その結果、図5に示す中間成形体33(細実線)及び第4層4(太実線)を含む完成成形体34が金型装置で一体に成形される。
【0036】
ホットランナ29は、そのなかに存在する溶融樹脂を図示しないヒータで保温して溶融状態に保つランナである。ホットランナ29は、それぞれの先端に設けられスプル15に当接するノズル部を機械的又は熱的に作動させる弁で開閉して溶融樹脂を流動又は遮断させるものである。ノズル部を機械的に開閉させる方式では、可動部分から異物が生ずる虞があるので、レンズ成形では熱的に開閉させる方式が好ましい。
【0037】
キャビティ21への第1層1用の射出・充填、キャビティ22への第2層2用の射出・充填、キャビティ23への第3層3用の射出・充填、及びキャビティ24への第4層4用の射出・充填は同時に実行される。また、中間成形体31、中間成形体32及び中間成形体33の移送も第二キャビティブロック8の回転により同時に実行される。
【0038】
図5に示すように、第1層1、第2層2、第3層3及び第4層4を含む完成成形体34は、そのゲート11g、12g、13g及び14gがレンズ側面30において切断される。ゲート11g、12g、13g及び14gが切断された完成成形体34は、図5のI-I矢視によって、図1に示す多層成形レンズ5となる。多層成形レンズ5のレンズ光軸Lの側方に設けられたレンズ側面30にはゲート11g、12g、13g及び14gの切断痕であるゲート痕11t、12t、13t及び14tが現れる。第1層1の下面としての外表面及び第4層4の上面としての外表面は、レンズ光軸Lと交差するレンズ面50であって、それぞれレンズ側面30によって接続されている。すなわち、多層成形レンズ5は、図1に示すように、レンズ光軸Lと交差する一対のレンズ面50を備え、下面をなす第1層1側が平坦面であり、上面をなす第4層4側が曲面である平凸レンズである。また、レンズ光軸Lの側方で一対のレンズ面50同士の間に設けられるレンズ側面30は、レンズ光軸Lと平行な平坦面となっている。
【0039】
ランナ11r、ランナ12r、ランナ13r及びランナ14r、並びに、ゲート11g、ゲート12g、ゲート13g及びゲート14gは、断面形状が方形である。ゲート11g、ゲート12g、ゲート13g及びゲート14gは、レンズ側面30に垂直なサイドゲートである。
【0040】
サイドゲートであるゲート11g、ゲート12g、ゲート13g及びゲート14gに連結されたランナ11r、ランナ12r、ランナ13r及びランナ14rは、ホットランナ29から流入するコールドスラッグなどの異物をその中に留めることができる。そして、コールドスラッグなどの異物が多層成形レンズ5のキャビティ21、キャビティ22、キャビティ23及びキャビティ24に流入しないので、光学特性の良好な多層成形レンズ5が成形され得る。
【0041】
ランナ12r及びランナ13r、並びに、ゲート12g及びゲート13gは、レンズ内面層である第2層2及び第3層3用であり、レンズ側面30における幅方向中央部に並列配置されている。また、並列配置されたランナ12r及びランナ13r、並びに、並列配置されたゲート12g及びゲート13gは、レンズ側面30の厚さ方向でランナ11r及びランナ14r、並びに、ゲート11g及びゲート14gに隣接して積層状態となっている。
【0042】
ゲート11g及びゲート14gはレンズ外面層である第1層1及び第4層4用であり、並列配置されたゲート12g及びゲート13gに隣接してレンズ側面30の幅方向の中央部に配置され四者でゲート群を形成している。すなわち、レンズ側面30の幅方向中央部に、第1層から第4層の各層のサイドゲート11g、12g、13g、14gの痕跡であるゲート痕11t、12t、13t、14tが一体化したゲート痕群が形成されている。
【0043】
このように、レンズ側面30での幅方向中央部にゲート群を設けることにより、各レンズ層キャビティの隅々へ溶融樹脂を均等に流動させて充填することができ光学特性の優れた多層成形レンズ5を得ることができる。また、ゲート群を一体とすることにより、金型装置の構造を簡素化できるとともにゲートカットが一度で実施できゲートカット処理を簡素化することができる。
【0044】
レンズ側面30の幅方向中央部の幅方向に並列配置されているゲートは、ゲート12g及びゲート13gの二であるが、レンズ側面30での幅方向中央部にゲート群を配置するためには、この方向で並列配置されるゲートは三以内であることが好ましい。例えば、多層成形レンズが第1層から第5層の五層からなる場合、第2層~第4層のゲートの内、二又は三のゲートを並列配置するようにしてもよい。
【0045】
レンズ側面30の幅方向中央部には、四層のうちで最大の断面積を有する第1層1のゲート痕11tがレンズ側面30の底辺に配置されている。ゲート痕11tのレンズ側面30の厚さ方向上辺には、第4層4のゲート痕14tより小さい断面積を有する第2層2のゲート痕12t及び第3層3のゲート痕13tが並列配置で隣接している。並列配置された第2層2のゲート痕12t及び第3層3のゲート痕13tのレンズ側面30の厚さ方向上辺には、それらの幅を合計した幅より小さい幅を有する第4層4のゲート痕14tが隣接配置されている。このように、ゲート痕11t、ゲート痕12t、ゲート痕13t及びゲート痕14tで形成されたゲート痕群は、レンズ側面30の形状に応じた形状(例えばピラミッド状)となっている。ゲート痕11t、ゲート痕12t(ゲート痕13t)及びゲート痕14tの厚さの総和Tgは3~10mmであることが好ましい。ゲート厚さの総和Tgが3mm未満であるときは、レンズ側面30の幅方向中央部に配置されるべきレンズ外面層用の二ゲート分に必要な厚さを確保できないため、キャビティへの射出・充填が困難となる。また、ゲート厚さの総和Tgが10mmを超えるときは、ゲートカットに大きな力が必要となり、過大なゲートカット装置が必要となる。
【0046】
レンズ外面層となる第1層1及び第4層4を断面積が比較的大きなサイドゲートで成形することにより、溶融樹脂の成形圧力をキャビティ内に低い圧力損失で均一に伝えることができる。そのため、外面層である第1層1及び第4層4においてそのキャビティ面の形状を忠実に転写して成形することができるので、光学特性の良好な多層成形レンズ5を成形することができる。また、第1層1は容積が比較的大きいので四層のうちで最大の断面積を有するゲート11gが効果的に用いられている。
【0047】
レンズ内面層となる第2層2及び第3層3は、断面積が比較的小さく、レンズ側面30における幅方向中央部の幅方向に並列配置されたサイドゲートにより成形されている。第2層2及び第3層3を並列配置するのは、レンズ外面層となる第1層1及び第4層4のゲート11g及びゲート14gをレンズ側面30の幅方向で可及的中央部に配置するためである。内面層においては、そのゲートの断面積が比較的小さいことやゲート位置がレンズ側面30の幅方向中央部から若干逸脱していることによる転写不良や溶融樹脂粘度の不均等は、次層の成形で溶融されるので問題とはならない。
【0048】
図11に示すように、第4層4用キャビティ24の最大厚さT4は第3層3用キャビティ23の最大厚さT3より小さくなるように構成されている。これにより第4層4(第N層)の最大厚さは第3層(第(N-1)層)の最大厚さより小さくなる。このように構成することにより、成形サイクル上で他の層と比較して冷却時間が最も短くなる第4層4の冷却不足に基づくひけなどの問題が軽減されて光学特性が優れた多層成形レンズ5を得ることができる。
【0049】
また、第4層4用キャビティ24の最大厚さT4は、溶融樹脂がキャビティ24内を容易に流動できる可及的に小さい値として2~4mmであることが好ましい。
【0050】
多層成形レンズ5が適用される車両等の前照灯において、所定配光パターン中の明暗境界線近傍の色にじみを改善したりぼかし効果を付与したりするため、レンズ表面に微細凹凸形状を設けるように要求される場合がある。第4層4の成形時に、溶融樹脂はキャビティ面19の微細凹凸20を転写して第4層4で成形されるレンズ表面に微細凹凸形状を形成させる。
【0051】
図12図13に示すように、微細凹凸20は、例えば断面視で半波整流波形状又は正弦波形状に類似した形状でなる数マイクロメートルから数ミリメートル程度の無数の凹凸で構成されたものである。一般にテクスチャと称される微細凹凸20は、第4層4用キャビティ面19の全面又はその一部分に設けられる。また、微細凹凸20は一個のみの第4層4用キャビティ面19に設けられ、製作費用は数百万円を要する。他方、第1層に微細凹凸を設ける金型装置の構成によれば、冷却キャビティを含めて全ての層用のキャビティ面に微細凹凸を設ける必要があるので、数百万円の5倍コストが掛ることになる。
【0052】
冷却キャビティは、キャビティ面18cとキャビティ面16とによって形成される。冷却キャビティは、中間成形体33を成形しキャビティ面18とキャビティ面16とによって形成されるキャビティと同一のものである。そのため、冷却キャビティは中間成形体33を冷却することができる。
【0053】
冷却キャビティは冷却時間が最も短い第4層4用に設けることが効果的である。しかしながら、第4層4に微細凹凸形状を設けるときには、微細凹凸形状が形成された完成成形体34を冷却キャビティで再度圧締することになり微細凹凸形状を変形させてしまう。それを回避するため、最終層の一層手前である第3層3に冷却キャビティを設けることが好ましい。その結果、第3層3の冷却が十分行われ、微細凹凸形状を変形させることなく層形状が安定することによりレンズの光学特性が向上する。
【0054】
以上詳述したことから明らかなように、三層以上(N層)の多層成形レンズ5は、レンズ光軸Lと交差する一対のレンズ面50と、レンズ光軸Lの側方で一対のレンズ面50同士の間に設けられるレンズ側面30と、を備え、レンズ側面30の幅方向中央部に、第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕11t~14tが一体化したゲート痕群が形成されている。
【0055】
多層成形レンズは、一対のレンズ面を形成する第1層及び第N層を成形するキャビティと、レンズ内部を形成する第2層から第(N-1)層を成形するキャビティとに、サイドゲートからそれぞれ溶融樹脂が射出されることで成形され、レンズ側面の幅方向中央部に第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕が形成されている。よって、多層成形レンズは、キャビティの隅々へ異物混入のない低圧力損失の溶融樹脂が均等に流動して充填され、キャビティ内の溶融樹脂粘度が均一となって成形されているため、優れた光学特性を有しているという優れた効果を奏する。また、第1層から第N層の各層のサイドゲートが一体となった状態でゲートカットされて、N個のゲート痕が一体化したゲート痕群が形成されている。よって、第1層から第N層のN個のサイドゲートのカットが極めて容易であり、製造コストの低減が図れるという優れた効果を奏する。
【0056】
尚、本発明は、当業者の知識に基づいて様々な変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものを含む。また、前記変更等を加えた実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りいずれも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0057】
例えば、レンズ側面30の幅方向中央部に並列配置されるゲートはレンズ内面層である第2層2及び第3層3(第(N-1)層)用のものとして説明したが、レンズ外面層である第1層1又は第4層4(第N層)用のゲートを含むように構成してもよい。
【0058】
また、レンズ側面30の幅方向中央部に並列配置されるゲートは二として説明したが、所定の複数層を並列配置したもの又は一であってもよい。例えば、多層成形レンズが第1層から第5層の五層からなる場合、第2層~第4層のゲートの内、二又は三のゲートを並列配置するようにしてもよい。
【0059】
また、多層成形レンズの形状は上述したものに限られず、如何なる形状でも構わない。例えば、上記実施形態では平凸レンズの例を示したが、一対のレンズ面50がともに曲面をなす両凸レンズでもよいし、凹レンズでもよい。さらに、レンズ側面30は平坦面として図示したが、曲面であってもよい。
【0060】
また、多層成形レンズは、レンズ面50の周囲に径方向外側へ鍔状に張り出すフランジ部を設け、フランジ部の外周面がレンズ側面30となっている形状であってもよい。図14は変形例の多層成形レンズ105を示す側面図であり、上記実施形態と同一部材には同一の符号を付している。この変形例におけるフランジ部40を有する多層成形レンズ105では、フランジ部40の外周面をなすレンズ側面30の幅方向中央部に、第1層から第N層の各層のサイドゲートの痕跡であるN個のゲート痕(11t~14t)が一体化したゲート痕群が形成されている。
【0061】
また、ゲート11g、ゲート12g、ゲート13g及びゲート14gは、レンズ側面30に垂直なものとして示したが、レンズ側面30の形状に応じて垂直とはならないことがある。
【0062】
また、ゲートの断面形状は方形として示したが、他のゲートと隣接しない面は平面ではなく、例えば曲面や台形面であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 第1層
2 第2層
3 第3層
4 第4層
5 多層成形レンズ(実施形態)
7 第一キャビティブロック
8 第二キャビティブロック
11g、12g、13g、14g ゲート
11r、12r、13r、14r ランナ
11t、12t、13t、14t ゲート痕
16、17、18、19 キャビティ面
20 微細凹凸
21、22、23、24 キャビティ
25 型合わせ面
30 レンズ側面
50 レンズ面
L 光軸
T3 第3層用キャビティの最大厚さ
T4 第4層用キャビティの最大厚さ
Tg ゲート厚さの総和
105 多層成形レンズ(変形例)
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