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特許7163117プロセス監視支援装置、プロセス監視支援システム、プロセス監視支援方法及びプロセス監視支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】プロセス監視支援装置、プロセス監視支援システム、プロセス監視支援方法及びプロセス監視支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
G05B23/02 301Y
G05B23/02 T
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018173057
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020046783
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】難波 諒
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/090937(WO,A1)
【文献】特開2018-120343(JP,A)
【文献】特開2013-93027(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073261(WO,A1)
【文献】特開2017-126258(JP,A)
【文献】特開2008-217617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0312851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象プロセスの状態を示すプロセス変数の時系列データを複数種取得するデータ取得部と、
複数種の前記プロセス変数に基づいて、前記監視対象プロセスの状態に異常が生じておらず健全である可能性を示す指標を算出する指標演算部と、
前記指標演算部によって算出される前記指標に関して、異常が生じておらず健全である可能性が高くなることに寄与した割合を示す寄与率を、複数種の前記プロセス変数毎に算出する寄与率演算部と、
前記寄与率の値が相対的に小さい複数のプロセス変数の時系列データと、前記指標の時系列データと、を同時に示す画像をユーザ端末の画面に表示するように表示情報を生成する表示制御部と、
を備えるプロセス監視支援装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記監視対象プロセスが正常に動作している場合に前記プロセス変数が取り得る値のパターンを示す常態パターンを、各プロセス変数に関する情報とともに表示するように表示情報を生成する、請求項1に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項3】
前記指標演算部は、Q統計量及びT^2統計量のいずれか一方又は双方を用いて前記指標を算出し、
前記寄与率演算部は、前記指標の算出に用いられた統計量に対する各プロセス変数の寄与量に基づいて前記寄与率を算出する、請求項1又は2に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項4】
前記寄与率演算部は、前記監視対象プロセスが正常に動作している場合に前記プロセス変数が取り得る値のパターンを示す常態パターンと、各プロセス変数の実測値と、の乖離の程度に基づいて前記寄与率を算出し、
前記指標演算部は、前記寄与率演算部によって算出された各プロセス変数の寄与率の統計値に基づいて前記指標を算出する、
請求項1に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記常態パターンからの乖離が所定の条件を満たしたプロセス変数のデータを他のデータと異なる態様で表示するように表示情報を生成する、請求項に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記監視対象プロセスの機器を含む画像であるフロー図をさらに表示し、前記フロー図において、前記寄与率の値が相対的に大きい一部のプロセス変数に関する前記機器の画像又は前記機器の画像の近傍において、他の機器の画像とは異なる態様の表示を行う、請求項1に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記寄与率の値が相対的に小さい一部のプロセス変数を示す寄与率画像をさらに表示し、前記寄与率画像に含まれる前記プロセス変数に対する操作に応じて、画面に表示されるプロセス変数の種別を変更する、請求項1に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項8】
前記ユーザ端末の画面に表示される、複数のプロセス変数の時系列データと、前記指標の時系列データとは、同じ期間の時系列データである、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス監視支援装置。
【請求項9】
監視対象プロセスの状態を示すプロセス変数の時系列データを複数種取得するデータ取得部と、
複数種の前記プロセス変数に基づいて、前記監視対象プロセスの状態に異常が生じておらず健全である可能性を示す指標を算出する指標演算部と、
前記指標演算部によって算出される前記指標に関して、異常が生じておらず健全である可能性が高くなることに寄与した割合を示す寄与率を、複数種の前記プロセス変数毎に算出する寄与率演算部と、
前記寄与率の値が相対的に小さい複数のプロセス変数の時系列データと、前記指標の時系列データと、を同時に示す画像をユーザ端末の画面に表示するように表示情報を生成する表示制御部と、
を備えるプロセス監視支援システム。
【請求項10】
監視対象プロセスの状態を示すプロセス変数の時系列データを複数種取得し、
複数種の前記プロセス変数に基づいて、前記監視対象プロセスの状態に異常が生じておらず健全である可能性を示す指標を算出し、
算出される前記指標に関して、異常が生じておらず健全である可能性が高くなることに寄与した割合を示す寄与率を、複数種の前記プロセス変数毎に算出し、
前記寄与率の値が相対的に小さい複数のプロセス変数の時系列データと、前記指標の時系列データと、を同時に示す画像をユーザ端末の画面に表示するように表示情報を生成する、
プロセス監視支援方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス監視支援装置としてコンピュータを機能させるためのプロセス監視支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プロセス監視支援装置、プロセス監視支援システム、プロセス監
視支援方法及びプロセス監視支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視対象となるプロセスから取得可能なデータをMSPC(Multivariate Statistical Process Control:多変量統計的プロセス管理)等の手法を用いて分析することで、監視対象プロセスの状態を識別するとともに、監視対象プロセスの状態に応じた支援情報をユーザに提供する技術が考案されている。しかしながら、実際の多くのプラントでは、上述した技術が適用されることなく、プロセス監視装置(SCADA:Supervisory Control And Data Acquisition)で収集したプロセスデータ(流量、温度、水質、操作量など)のトレンドグラフを表示することで監視を行うケースが圧倒的に多い。その理由の一つとして、従来から使いなれているトレンドグラフ等の表示の方がユーザにとって視認性が高いことが挙げられる。そのため、従来の技術では分析結果が有効に活用されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-241121号公報
【文献】特開2004-303007号公報
【文献】特開2007-065883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ユーザが使い慣れた表示を維持しつつ、プロセスから得られたデータの分析結果をより有効に活用することを可能とするプロセス監視支援装置、プロセス監視支援システム、プロセス監視支援方法及びプロセス監視支援プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のプロセス監視支援装置は、データ取得部と、指標演算部と、寄与率演算部と、表示制御部と、を持つ。データ取得部は、監視対象プロセスの状態を示すプロセス変数の時系列データを複数種取得する。指標演算部は、複数種の前記プロセス変数に基づいて、前記監視対象プロセスの状態に異常が生じておらず健全である可能性を示す指標を算出する。寄与率演算部は、前記指標演算部によって算出される前記指標に関して、異常が生じておらず健全である可能性が高くなることに寄与した割合を示す寄与率を、複数種の前記プロセス変数毎に算出する。表示制御部は、前記寄与率の値が相対的に小さい一部のプロセス変数に関する情報をユーザ端末の画面に表示するように表示情報を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態のプロセス監視支援装置2の構成の具体例を示す図である。
図2】本実施形態のプロセス監視支援装置2によってユーザに提供される画面の具体例を示す図である。
図3】ユーザに提供される画面の具体例を示す図である。
図4】ユーザに提供される画面の具体例を示す図である。
図5】MSPCの通常の監視方法で提供される画面例を示す図である。
図6】常態パターン(一点鎖線)と実測値のデータ(実線)とを表示した場合の表示例である。
図7】第1実施形態のプロセス監視支援装置2の状態定義部21の処理の流れの例を示すフローチャートである。
図8】第1実施形態のプロセス監視支援装置2の状態演算部22及び表示制御部23の処理の流れの例を示すフローチャートである。
図9】第2実施形態のプロセス監視支援装置2aの機能構成を示すブロック図である。
図10】第2実施形態における表示制御部23aの動作によって表示される画面の具体例を示す図である。
図11】第2実施形態における表示制御部23aの動作によって表示される画面の具体例を示す図である。
図12】第2実施形態のプロセス監視支援装置2の状態定義部21aの処理の流れの例を示すフローチャートである。
図13】変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のプロセス監視支援装置、プロセス監視支援システム、プロセス監視支援方法及びプロセス監視支援プログラムを、図面を参照して説明する。なお、“a_b”は、“a”という文字の右下に小さい“b”が付されていることを示す。また、“a^b”は、“a”という文字の右上に小さい“b”が付されていることを示す。
【0008】
図1は、実施形態のプロセス監視支援装置2の構成の具体例を示す図である。図1は、プロセス監視支援装置2の監視対象が下水高度処理プロセス1である具体例を示している。下水高度処理プロセス1は、下水から窒素及びリンを除去することを目的としたプロセスである。下水高度処理プロセス1は、最初沈澱池101、嫌気槽102、無酸素槽103、好気槽104及び最終沈澱池105を有する。処理対象の下水(以下「被処理水」という。)は、最初沈澱池101、嫌気槽102、無酸素槽103、好気槽104、最終沈澱池105の順に送水され処理される。
【0009】
最初沈澱池101は、下水高度処理プロセス1に送られてくる被処理水の貯水池である。最初沈澱池101では、沈澱により比重の重い固形物が被処理水から分離される。嫌気槽102は、有機物を分解する微生物を被処理水に投入するための水槽である。嫌気槽102において、被処理水は空気が供給されない状態で攪拌される。これにより、微生物に体内のリンを吐き出させる。一般にこの処理をリン吐出という。無酸素槽103は、被処理水から窒素を除去するための水槽である。具体的には、無酸素槽103では、後段の好気槽104から戻された被処理水が嫌気槽102から送られてきた被処理水に混ぜられ、空気を供給されない状態で攪拌される。無酸素槽103では、微生物の働きにより被処理水中の硝酸が窒素に分解され、大気に放出される。一般にこの処理を脱窒という。
【0010】
好気槽104は、被処理水中の有機物の分解と、リンの除去及びアンモニアの硝化とを行うための水槽である。具体的には、被処理水に空気を供給して微生物を活性化させ、微生物に有機物を分解させるとともに、微生物に被処理水中のリンを吸収させる。嫌気状態でリンを吐出しその代りに有機物を蓄積した状態の微生物は活性化されることにより吐き出した以上のリンを吸収するため、被処理水中のリンが除去される。また、好気槽104では、被処理水に空気が供給されることによりアンモニアが硝酸に分解される。一般にこの処理を硝化という。
【0011】
最終沈澱池105は、リンの除去及びアンモニアの硝化が行われた被処理水の貯水池である。最終沈澱池105では沈澱によって被処理水に残存する固形物が分離され、上澄みの清澄水が処理済みの水として放流される。
【0012】
最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111は、最初沈澱池101から沈澱した汚泥を引き抜いて除去するポンプである。最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111は、引き抜いた汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0013】
ブロワ112は、好気槽104に酸素を供給する送風機である。ブロワ112は、供給した空気の流量を計測する流量センサを有する。
【0014】
循環ポンプ113は、被処理水を好気槽104から無酸素槽103に返送するポンプである。循環ポンプ113は、返送した被処理水の流量を計測する流量センサを有する。
【0015】
返送汚泥ポンプ114は、最終沈澱池105から沈澱した汚泥の一部を引き抜いて嫌気槽102に返送するポンプである。返送汚泥ポンプ114は、返送した汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0016】
最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115は、最終沈澱池105から沈澱した汚泥を引き抜いて除去するポンプである。最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115は、引き抜いた汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0017】
雨量センサ121は、下水高度処理プロセス1に流入する付近の雨量を計測するセンサである。下水流入量センサ122は、下水高度処理プロセス1に流入する下水(以下「流入下水」という。)の流量を計測するセンサである。流入TNセンサ123は、流入下水に含まれる全窒素量(TN)を計測するセンサである。流入TPセンサ124は、流入下水に含まれる全リン量(TP)を計測するセンサである。流入有機物センサ125は、流入下水に含まれる有機物量を計測するUV(吸光度)センサ又はCOD(化学的酸素要求量)センサである。
【0018】
ORPセンサ126は、嫌気槽102のORP(酸化-還元電位)を計測するセンサである。嫌気槽pHセンサ127は、嫌気槽102のpHを計測するセンサである。無酸素槽ORPセンサ128は、無酸素槽103のORPを計測するセンサである。無酸素槽pHセンサ129は、無酸素槽103のpHを計測するセンサである。リン酸センサ130は、好気槽104のリン酸濃度を計測するセンサである。DOセンサ131は、好気槽104の溶存酸素濃度(DO)を計測するセンサである。アンモニアセンサ132は、好気槽104のアンモニア濃度を計測するセンサである。MLSSセンサ133は、嫌気槽102、無酸素槽103又は好気槽104の少なくとも一箇所で活性汚泥濃度(MLSS)を計測するセンサである。
【0019】
水温センサ134は、無酸素槽103又は好気槽104の少なくとも一箇所で水温を計測するセンサである。余剰汚泥SSセンサ135は、最終沈澱池105から引き抜かれる汚泥の固形物(SS)濃度を計測するセンサである。放流SSセンサ136は、最終沈澱池105から放流される水のSS濃度を計測するセンサである。汚泥界面センサ137は、最終沈澱池105の汚泥界面レベルを計測するセンサである。下水放流量センサ138は、放流水の流量を計測するセンサである。放流TNセンサ139は、放流水に含まれる全窒素量を計測するセンサである。放流TPセンサ140は、放流水に含まれる全リン量を計測するセンサである。放流有機物センサ141は、放流水に含まれる有機物量を計測するUVセンサ又はCODセンサである。
【0020】
なお、上記の最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115など機器のそれぞれは所定周期の制御で動作する。また、最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115の機器それぞれが有する流量センサを含む上記の各センサは、所定周期でセンシング対象を計測する。以下、最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115のそれぞれが有する流量センサを総称して操作量センサと称し、その他のセンサを総称してプロセスセンサと称する。各操作量センサ及び各プロセスセンサは、所定周期のセンシングによって得られた計測データをプロセスデータとしてプロセス監視支援装置2に送信する。
【0021】
次に、プロセス監視支援装置の2つの実施形態について説明する。まず、第1実施形態のプロセス監視支援装置2について説明する。
【0022】
[第1実施形態]
プロセス監視支援装置2は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、監視支援プログラムを実行する。プロセス監視支援装置2は、監視支援プログラムの実行によってデータ収集部201、データ保存部202、状態定義部21、状態演算部22及び表示制御部23を備える装置として機能する。なお、プロセス監視支援装置2の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、データ収集部201は、PLC(Programmable Logic Controller)を用いてプロセス監視支援装置2とは異なる筐体の装置として実装されてもよい。監視支援プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。監視支援プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0023】
データ収集部201は、各操作量センサ及び各プロセスセンサからプロセスデータを取得する。取得されるプロセスデータは、監視対象プロセスの状態を示す各プロセス変数の時系列データである。データ収集部201は、取得されたプロセスデータを、予め決められたフォーマットにしたがってデータ保存部202に記録する。
【0024】
データ保存部202は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。データ保存部202は、データ収集部201によって取得されたプロセスデータを記憶する。
【0025】
状態定義部21は、監視対象となっているプロセスの健全性に関するデータを定義する。状態定義部21は、データ保存部202に記録されているプロセス変数の過去の時系列データを読み出す。状態定義部21は、プロセスの健全性を判断するために用いられる指標(以下「プロセス健全性指標」という。)と、各プロセス変数がプロセス健全性指標に与える影響度を示す寄与率(以下「プロセス健全性寄与率」という。)と、を定義する。プロセス健全性指標は、監視対象プロセスの状態に異常が生じている可能性を示す指標である。プロセス健全性寄与率は、プロセス健全性指標に関して、異常が生じている可能性が高くなることに各プロセス変数が寄与した割合を示す値である。したがって、プロセス健全性寄与率はプロセス変数毎に算出される。状態定義部21は、プロセスの過去の通常状態における典型的な代表値や代表パターンデータ(以下「常態パターン」という。)を生成する。状態定義部21は、例えば所定の周期T0で動作する。
【0026】
状態演算部22は、データ保存部202に記録されているプロセス変数の監視時点の現在の時系列データを読み出す。状態演算部22は、状態定義部21における定義を用いて、プロセス健全性指標と各プロセス変数のプロセス健全性寄与率とを算出する。状態演算部22は、例えばプロセス健全性寄与率の低い順(異常度の高い順)で各プロセス変数に対して高い重要度を付与する。状態演算部22は、監視時点において重要度の高いものから順に所定数の上位のプロセス変数を抽出する。状態演算部22は、例えば所定の周期T1(<<T0)で動作する。
【0027】
表示制御部23は、状態演算部22で得られた情報に基づいて、重要度の高いものから順に所定数の上位のプロセス変数の時系列データを示す画像を生成する。このような画像は、例えばトレンドグラフとして生成されてもよい。表示制御部23は、プロセス健全性指標の時系列データと、重要度の高い各プロセス変数の時系列データと、を表示するためのデータ(表示情報)を生成し、ユーザ端末3に出力する。
【0028】
ユーザ端末3は、表示制御部23によって生成された情報に基づいて画像を表示する。ユーザ端末3は、表示された画像に対する操作を受け付ける。ユーザ端末3は、例えばプラントの管理者やオペレータ(運転員)などのユーザによって使用される。
【0029】
次に、プロセス監視支援装置2の各機能部についてより詳細に説明する。まず、状態定義部21について詳細に説明する。状態定義部21は、過去データ取得部211、指標定義部212、寄与率定義部213及び常態パターン生成部214として機能する。
【0030】
過去データ取得部211は、データ保存部202から各プロセス変数の所定期間(以下「過去所定期間」という。)の時系列データである過去データ(オフラインデータ)を読み出す。プロセス健全性指標をユニークに定義する場合は、ユーザがユーザ端末3を操作することによって過去所定期間を定義できてもよい。このような定義は、監視画面上のGUIで入力可能であることが好ましい。一方、多くの実プラントでは、プラント運用の変更や季節的な変化によりプラント状態も徐々に変化していく場合が多い。そのため、プロセス健全性指標を定義する過去所定期間を更新していく方が現実的である場合も多い。このような場合には、過去所定期間の長さが予め設定されており、所定のサイクルで過去所定期間の長さに応じた過去所定期間が更新されてもよい。この場合、過去データ取得部211は、データ取得の時点で定義されている過去所定期間の過去データをデータ保存部202から読み出す。例えば、過去所定期間の長さを1週間とした場合、1週間毎に過去1週間分のデータが過去所定期間のデータとして読み出されてもよい。このようにして過去データ取得部211によって取得された過去の時系列データをXと記載する。この時系列データXは、行方向にプロセス変数、列方向に過去所定期間にわたる時系列データを持つ行列である。以下の説明では、プロセス変数の数をn、時系列データ数をmとする。したがって、時系列データXはm×nの時系列データである。
【0031】
指標定義部212は、過去データ取得部211によって読み出された過去の時系列データXを用いて、プロセス健全性指標を定義する。例えば、指標定義部212は、多変量解析や機械学習技術を使用することによって、プロセス健全性指標を定義してもよい。プロセス健全性指標の定義手法はどのように実装されてもよい。プロセス健全性指標は、過去の時系列データXから生成されているため、n個のプロセス変数の情報を含んでおり、プロセスの健全性を計る指標が1つの指標に集約されている。
【0032】
プロセス健全性指標の具体例として、以下のようなものがある。アドバンストなプロセス監視診断技術であるMSPC(多変量統計的プロセス管理)と呼ばれる方法で用いられるQ統計量。HotellingのT^2統計量と呼ばれる異常検出用のデータ。品質工学の分野で用いられるタグチ法(MSPCと類似の技術)等で用いられるマハラノビス距離。なお、マハラノビス距離は、MSPCで用いられるT^2統計量と本質的に同等のものである。ただし、MSPCでは、次元削減(n’<<nの次元)を行った上でT^2統計量が定義されるが、マハラノビス距離を用いた方法では、n次元の空間上で距離が定義される。次元をそろえた場合、本質的にマハラノビス距離とT^2統計量とはほぼ同一のものであり、定数倍の差があるだけである。
【0033】
本実施形態では、プロセス健全性指標の具体例としてMSPCを用いる。MSPCで用いられる主成分分析(PCA)を用いると、時系列データXは以下の式(1)のように分解できる。
【0034】
【数1】
【0035】
T_aはサンプル数mと主成分数nとによるm×n行列であり、スコア行列と呼ばれる。P_aはn個のプロセス変数とn個の主成分との関係を示すn×n行列であり、ローディング行列と呼ばれる。Tは主成分をp(<<n)個で打ち切ったT_aの部分行列であり、通常はこのTをスコア行列と呼ぶのが一般的である。同様にPは主成分をp個で打ち切ったP_aの部分行列(n×p)であり、通常はこのPをローディング行列と呼ぶのが一般的である。また、Eはサンプル数mとプロセス変数の数nとによる誤差行列(m×n)であり、主成分をp個で打ち切った場合の誤差を表す。
【0036】
以下では、T_aとTとを明確に区別するため、T_aをスコア行列と称し、Tを主要スコア行列と称する。同様に、以下では、P_aとPとを明確に区別するため、P_aをローディング行列と称し、Pを主要ローディング行列と称する。これら各行列を用いればQ統計量Q(x(t))及びHotellingのT^2統計量T^2(x(t))は次の式(2)及び式(3)と定義される。
【0037】
【数2】
【数3】
【0038】
式(2)及び式(3)において、x(t)は過去の時系列データXのt番目の要素を表す。Iは適当なサイズの単位行列である。Λは主成分の分散を対角要素として持つ行列であり、分散の正規化を意味する。後述するオンラインの監視の際には、このx(t)が、オンラインで計測されてくるプロセスデータに置き換わって計算される。
【0039】
式(2)のQ統計量は、過去の時系列データXに含まれる各プロセス変数の関係性(相関)がどの程度維持されているか(又はどの程度くずれているか)を示す指標である。式(3)のHotellingのT^2統計量は、過去の時系列データXに含まれる各プロセス変数がどの程度変動しているかを正規化して表現した指標である。
【0040】
通常のMSPCでは、これら二つの統計量が異常検出用の指標として用いられる。しかし、寄与率定義部213で定義されるプロセス健全性寄与率の大小を各プロセス変数に対して一意に定義しておくことが好ましい。そのため、プロセス健全性指標も一つだけ定義されてもよい。
【0041】
例えば、Q統計量又はHotellingのT^2統計量のいずれか一つがプロセス健全性指標として定義されてもよい。一般的に、Q統計量の方が軽微な変動を示す(検出する)傾向がある。このような軽微な変動には、ユーザが一つのプロセス変数だけを見ているだけでは気づきにくい異常兆候も含まれる。そのため、このような軽微な変動を監視することを目的とする場合は、Q統計量をプロセス健全性指標とすることが好ましい。一方、HotellingのT^2統計量は、各プロセス変数の比較的大きな変動を検出する傾向がある。そのため、プロセスの明確な変動を監視したい場合にはHotellingのT^2統計量をプロセス健全性指標とすることが好ましい。また、プロセスの異常兆候を含むなんらかの変動は、Q統計量又はHotellingのT^2統計量のいずれかで検出される。そのため、Q統計量とHotellingのT^2統計量との大きな値を持つ方(すなわち異常度が高い方)がプロセス健全性指標として用いられてもよい。また、Q統計量とHotellingのT^2統計量との和(すなわち総合的な異常指標)がプロセス健全性指標として用いられてもよい。
また、健全度を0~1の範囲で定義し、“1”は完全に健全であることを示し、“0”は完全に異常であることを示すように定義されてもよい。この場合、Q統計量及びT^2統計量が、exp(-a×統計量)のような変換式で変換された値が健全度として定義されてもよい。この場合、“a”は調整パラメータであり、0より大きい値である。
【0042】
寄与率定義部213は、指標定義部212によって定義された指標に対する各プロセス変数のプロセス健全性寄与率を定義する。プロセス健全性指標が、Q統計量やHotellingのT^2統計量で定義されている場合は、各統計量に対する寄与率をプロセス健全性寄与率の定義とすればよい。Q統計量の寄与量と、HotellingのT^2統計量の寄与量とは、それぞれ以下の式(4)及び式(5)のように定義される。
【0043】
【数4】
【数5】
【0044】
式(4)及び式(5)において、x(t,n)はある時刻tにおける過去データx(t)のうちn番目のプロセス変数を表す。また、式(4)において、F(:,n)の記載は、行列Fからn列を抽出することを表す。同様に、式(5)において、P(:,n)の記載は、行列Pからn列を抽出することを表す。式(4)は、n番目のプロセス変数の軸に対するQ統計量の射影を表す式であり、式(5)によって各プロセス変数がQ統計量にどの程度寄与しているかを計算することができる。また、式(5)は、T^2統計量をn個の各プロセス変数成分の和に分解する式である。式(5)によって各プロセス変数がT^2統計量にどの程度寄与しているかを計算することができる。
【0045】
Q統計量とHotellingのT^2統計量とのうち大きい方がプロセス健全性指標として用いられる場合には、対応する大きい方の統計量に対する寄与量がプロセス健全性寄与率として用いられてもよい。一方、Q統計量とHotellingのT^2統計量との和がプロセス健全性指標として用いられる場合には、式(4)及び式(5)で得られたそれぞれの値の和がプロセス健全性寄与率として用いられてもよい。
【0046】
このように構成されることによって、ある時刻において各プロセス変数の監視データが入力されると、各プロセス変数のその時刻におけるプロセス健全性寄与率を順位づけることができる。
【0047】
なお、以上の処理は、通常のMSPCで行われている処理とほぼ同様である。プロセス健全性指標やプロセス健全性寄与率を一意に決定するために、Q統計量及びT^2統計量に若干の処理を加える場合がある点で異なる。
【0048】
常態パターン生成部214は、指標定義部212及び寄与率定義部213によってプロセス健全性指標及びプロセス健全性寄与率の定義に用いられた過去データを用いて、常態パターンを生成する。常態パターンとは、各プロセス変数の典型的な値や典型的なパターンを示す情報である。以下、常態パターン生成部214の詳細について説明する。
【0049】
常態パターン生成部214は、過去の時系列データXを用いて各プロセス変数の常態パターンを生成する。例えば、常態パターン生成部214は、過去の時系列データXの各プロセス変数の時系列データ(すなわちXのそれぞれの列ベクトル)毎の位置母数を常態パターンとして算出してもよい。位置母数は、例えば平均値、中央値、刈込平均値などの値である。過去の時系列データXに特別なパターンが認められない場合は、このようなシンプルな方法で常態パターンが得られてもよい。常態パターン生成部214は、常態パターンとして得られる典型値の周りにどの程度のばらつきがあるかを示す尺度母数をさらに常態パターンの値の一部として算出してもよい。尺度母数は、例えば標準偏差、中央値絶対偏差(MAD:Median Absolute Deviation)、四分範囲等の値である。
【0050】
常態パターン生成部214は、過去の時系列データXの中に何等かパターンが認められる場合には、単なる位置母数ではなく、各プロセスデータの典型的なパターンデータを生成してもよい。例えば下水処理プロセスにおいては、通常は人間の生活様式に応じて日単位の周期性を持つパターンが認められる。また、土日などの休日には平日と異なる挙動を示す事も多い。このような場合は、週単位の周期性を持つパターンが認められる。このような日単位や週単位のパターンが認められるデータは、下水処理プロセスだけでなく、浄水処理の水需要パターン、エネルギープラントのエネルギー需要パターン、自動車などの交通量の交通量パターン、等のように人間の生活様式と密接に関連するインフラ系のプラントでは特に顕著に認められる。このような特徴を過去の時系列データXが持つ場合には、常態パターン生成部214は、例えば所定時間単位(例えば1分単位、1時間単位)で位置母数を算出し、算出された値を所定期間分(例えば1日分、1週間分)繋げた時系列データを常態パターンとして生成してもよい。このような場合にも、常態パターンの一部として尺度母数が算出されてもよい。尺度母数の算出に際しては、常態パターンが生成された場合と同じ様に所定時間単位の尺度母数が算出されてもよい。また、一様に過去の時系列データXの列ベクトル毎の尺度母数が算出されてもよい。
【0051】
次に、状態演算部22について詳細に説明する。状態演算部22は、現在データ取得部221、指標演算部222、寄与率演算部223及び重要変数抽出部224として機能する。
【0052】
現在データ取得部221は、データ保存部202から各プロセス変数の現在データ(オンラインデータ)を読み出す。現在データとは、監視を行う時点(以下「監視時点」という。)における各プロセス変数のデータである。
【0053】
指標演算部222は、現在データ取得部221によって読み出された現在データと、指標定義部212によって定義されたプロセス健全性指標の定義式と、を用いた演算を行う。指標演算部222は、演算結果として、現在のプロセスの健全度を示す指標を取得する。以下、指標演算部222の処理の具体例について説明する。
【0054】
指標演算部222は、現在データ取得部221によって読み出された監視時点のデータに対し、必要に応じてアウトライア(外れ値)処理を行う。そして、指標演算部222は、アウトライア処理が行われたデータを用いて、指標定義部212によって定義されたプロセス健全性指標を算出する。
【0055】
例えば、プロセス健全性指標がQ統計量で定義された場合には、指標演算部222は、式(2)のX(t)に監視時点のデータを入力してQ統計量を算出することによってプロセス健全性指標を算出する。T^2統計量でプロセス健全性指標が定義された場合には、指標演算部222は、式(3)で定義されたT^2統計量のX(t)に監視時点のデータを入力してT^2統計量を算出することによってプロセス健全性指標を算出する。Q統計量とT^2統計量との大きい方(悪い方)でプロセス健全性指標が定義されている場合や、Q統計量及びT^2統計量の和でプロセス健全性指標が定義されている場合にも、式(2)及び式(3)を用いて演算が行われることによって、現時点でのプロセス健全性指標を算出することができる。
【0056】
寄与率演算部223は、現在データ取得部221によって読み出された現在データと、寄与率定義部213によって定義されたプロセス健全性指標に対する各プロセス変数のプロセス健全性寄与率の定義式と、を用いた演算を行う。寄与率演算部223は、演算結果として、現在の各プロセスのプロセス健全度寄与率を取得する。具体的には、寄与率演算部223は、式(4)及び式(5)を用いて演算を行う。Q統計量が採用されている場合には、寄与率演算部223は式(4)を用いてプロセス健全性寄与率を算出する。T^2統計量が採用されている場合には、寄与率演算部223は式(5)を用いてプロセス健全性寄与率を算出する。Q統計量及びT^2統計量の大きい方(悪い方)でプロセス健全性指標が定義されている場合や、Q統計量及びT^2統計量の和でプロセス健全性指標が定義されている場合には、式(4)及び式(5)を用いてプロセス健全性寄与率が算出される。
【0057】
重要変数抽出部224は、各プロセス変数のプロセス健全性寄与率が低い順(異常度の高い順)にソートする。重要変数抽出部224は、ソート結果に基づいて、予め設定された所定の数の上位のプロセス変数を抽出する。以下、重要変数抽出部224の処理の具体例について説明する。重要変数抽出部224は、各プロセス変数について、そのプロセス健全性寄与率が大きい順に大きな値の重要度を付与する。重要変数抽出部224は、重要度の大きいものから順に所定数(M個)のプロセス変数を抽出する。M個のプロセス変数の時系列監視データは、後述するようにユーザによって監視に用いられる画面(ユーザ端末の画面)に表示される。そのため、Mの値は、通常は高々10個程度までの値として設定されてもよい。
【0058】
表示制御部23は、状態表示制御部231及び監視データ表示制御部232として機能する。
【0059】
状態表示制御部231は、指標演算部222で演算されたプロセス健全性指標の所定の期間(所定の過去から現在まで:以下「対象期間」という。)の時系列データを表示するためのデータを生成する。
【0060】
監視データ表示制御部232は、重要変数抽出部224によって抽出された各プロセス変数の対象期間のプロセス監視データ(時系列データ)を表示するためのデータを生成する。
【0061】
次に、プロセス監視支援装置2の表示制御部23によってユーザに提示されるユーザインタフェースについて詳細に説明する。ユーザとシステムとが情報交換を行うインターフェイス部分に着目したことが本実施形態の特徴の一つである。ユーザインタフェースを、従来のプラント監視からの自然な延長・拡張な形で実現することに本実施形態の主眼の一つがある。そのため、従来の監視方法、MSPCによるアドバンストな監視方法、本実施形態の監視方法、の3つの監視方法を比較しながら本実施形態の作用について説明する。
【0062】
図2は、本実施形態のプロセス監視支援装置2によってユーザに提供される画面の具体例を示す図である。図3は、ユーザに提供される画面の具体例を示す図である。
【0063】
状態表示制御部231は、図2の上段41のように、指標演算部222によってリアルタイムで算出されたプロセス健全性指標の時系列データを表示するためのデータを生成する。プロセス健全性指標の時系列データは、例えば現在から所定期間の過去に遡った時系列データとして表示されてもよい。図2の例では、過去24時間分の時系列データが表示されているが、この表示期間はユーザの操作に応じて変更されてもよい。
【0064】
従来のプラント監視では、このようなプロセス健全性指標の表示は行われていなかった。一方で、従来のプラント監視では、MSPCによるアドバンスト監視方法によってQ統計量やT^2統計量を用いた監視が行われていた。MSPCではQ統計量及びT^2統計量という2種類の異常指標を区別して表示がなされていたのに対し、本実施形態では、一つのプロセス健全性指標として表示される。
【0065】
監視データ表示制御部232は、図2の下段42のように、重要変数抽出部224によって抽出されたM個(図2の例ではM=8)のプロセス変数の時系列データを表示するためのデータを生成する。監視データ表示制御部232は、上段41に表示されるプロセス健全性指標の時系列データと同じ期間の時系列データ(いわゆるトレンドグラフ)が表示されることが望ましい。この際、監視データ表示制御部232は、常態パターン生成部214によって生成された常態パターンのデータも併せて表示してもよい。図2の下段42の各時系列データのグラフのうち、実線で示された時系列データは、監視時点までに計測された実測値の時系列データを示す。図2の下段42の各時系列データのグラフのうち、一点鎖線で示された時系列データは、常態パターン生成部214によって生成された常態パターンを示す。常態パターンが一つの値として算出される場合には、時系列データのグラフにおいて、その値を示す一本の横棒として常態パターンが表示されてもよい。
【0066】
以上の一連の処理は、状態演算部22の処理の周期であるT1以上の長い周期である周期T2で繰り返し実行されて表示が行われてもよい。例えば、T1=1分の場合、T2=1時間であってもよい。
【0067】
このような本実施形態のプラント監視方法と従来のプラント監視方法とを比較すると以下の様な違いがある。従来のプラント監視方法では、画面に表示される各プロセスデータのトレンドグラフは、ユーザによって選択されていた。そのため、ユーザによって選択されなかったプロセスデータのトレンドグラフは画面に表示されなかった。これに対し、本実施形態では、重要変数抽出部224によって、重要度の高いM個のプロセス監視データが判断される。そして、判断されたM個のプロセス監視データがユーザ端末3の画面に表示される。
【0068】
また、本実施形態では、常態パターン生成部214によって生成された常態パターンがトレンドグラフに表示される。そのため、現在のトレンドグラフが典型的なパターン(常態パターン)からどの程度ずれているかという事が一見してわかる。これにより、必ずしもシステムによって異常や正常の判断を行わなくても、ユーザは監視時点の状況が典型的な状態からどの程度ずれているか視覚的、直観的に容易に把握することができる。例えば図2の具体例では、常態パターンと実測値の時系列データとを同時に表示しているが、図3に示すように、通常時の値の変動範囲(以下「通常変動範囲」という。)が表示されてもよい。通常変動範囲は、異常が生じていない状態で値が変動する範囲である。例えば過去所定期間における時系列データの尺度母数等に基づいて所定の基準で通常変動範囲が設定されてもよい。
【0069】
また、プロセス監視データが日変動や週変動などのパターンを持たない場合には、図4に示すように、平均値などの代表値と標準偏差などで定義した管理限界値が表示されてもよい。
【0070】
アドバンスト監視として知られる通常のMSPCと本実施形態との相違は以下のとおりである。図5はMSPCの通常の監視方法で提供される画面例を示す。MSPCでは、図5の下段に示すように、各プロセス変数のプロセス健全性寄与率が、寄与率プロットと呼ばれるバーグラフなどの形態で表示される。そして、どのプロセス変数に異常の兆候が認められるかについての判断は、ユーザに委ねられる。ユーザは、自身が確認する必要があると判断したプロセス変数について、そのトレンドグラフを表示するような操作を行い、画面に表示されたトレンドグラフを視認することによってプラント監視が行われる。ユーザは従来からプロセス監視データのトレンドグラフでプラント監視を行っているのに対し、MSPCでプロセス監視データの異常度(寄与率プロット)を監視する方法では、ユーザにとって直観的にわかりづらいという問題があった。さらに、ユーザが自ら異常と感じた際に自らそのトレンドグラフを開いて確認する必要があった。そのため、従来の監視方法との親和性が低い。すなわち、従来は正常な場合でも常時トレンドグラフが表示されていたが、MSPCはそのような構成との親和性が低い。
【0071】
また、各プロセス変数の常態パターンに相当する表示も行われていなかった。そのため、異常が生じた時の要因推定が困難であった。図6は常態パターン(一点鎖線)と実測値のデータ(実線)とを表示した場合の表示例である。通常のMSPCでは、図6のような状態は異常と判断される。もし常態パターンに相当する表示が無い場合には、なぜ図6のような状態で異常状態なのかを判断することは、特に経験の浅いユーザには難しい。このような時、常態パターンと実測値のデータとを併せて表示することによって、参照すべき動きが可視化されるため現状の把握が一層容易になる。
【0072】
図7は、第1実施形態のプロセス監視支援装置2の状態定義部21の処理の流れの例を示すフローチャートである。状態定義部21は、所定の周期T0のタイミングまでは待機する(ステップS101-NO)。所定の周期T0のタイミングが到来すると(ステップS101-YES)、過去データ取得部211は、過去データを取得する(ステップS102)。次に、指標定義部212は、取得された過去データを用いてプロセス健全性指標を定義する(ステップS103)。次に、寄与率定義部213は、取得された過去データを用いて、各プロセス変数についてプロセス健全性寄与率を定義する(ステップS104)。そして、常態パターン生成部214は、取得された過去データを用いて常態パターンを生成する(ステップS105)。このようにして得られたプロセス健全性指標、プロセス健全性寄与率及び常態パターンは、その後の状態演算部22の処理で使用される。
【0073】
図8は、第1実施形態のプロセス監視支援装置2の状態演算部22及び表示制御部23の処理の流れの例を示すフローチャートである。状態演算部22は、所定の周期T1のタイミングまでは待機する(ステップS201-NO)。所定の周期T1のタイミングが到来すると(ステップS201-YES)、現在データ取得部221は、現在データを取得する(ステップS202)。次に、指標演算部222は、取得された現在データを用いて、指標定義部212における最新の定義にしたがってプロセス健全性指標を算出する(ステップS203)。次に、寄与率演算部223は、取得された現在データを用いて、各プロセス変数について定義されたプロセス健全性寄与率の定義にしたがってプロセス健全性寄与率を算出する(ステップS204)。重要変数抽出部224は、各プロセス変数をプロセス健全性寄与率が低い順(異常度の高い順)にソートし、プロセス健全性寄与率が低いものから順に所定の数のプロセス変数を抽出する(ステップS205)。そして、表示制御部23は、ステップS202~S205の処理結果に基づいて表示情報を生成し、ユーザ端末3に出力する(ステップS206)。
【0074】
このように構成された本実施形態では、ユーザは、「プロセスデータのトレンドグラフによる監視」という従来のプラント監視の延長として、システムによって自動的に判断された「今見るべきプロセス変数」を確認することができる。そのため、プラント監視を効率よく行うことが可能となる。さらに、「今見るべきプロセス変数」の常態パターンが表示される場合には、監視時点までの実測値の時系列データが常態パターンから離れているか否か(異常であるか否か)を容易に判断することが可能となる。
【0075】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のプロセス監視支援装置2aについて説明する。図9は、第2実施形態のプロセス監視支援装置2aの機能構成を示すブロック図である。第2実施形態のプロセス監視支援装置2aは、状態定義部21、状態演算部22及び表示制御部23に代えて、状態定義部21a、状態演算部22a及び表示制御部23aを備える。第2実施形態では、表示制御部23aは、ユーザ端末3から表示内容を変更する指示を受け付け、指示に応じて表示を変更する。以下、第2実施形態のプロセス監視支援装置2aについて説明する。
【0076】
第2実施形態における状態定義部21aでは、まず常態パターン生成部214が各プロセス変数の常態パターンを定義する。次に、寄与率演算部223が、常態パターンを用いてプロセス健全性寄与率を定義する。そして、指標定義部212がプロセス健全性指標を定義する。以下、各機能について説明する。
【0077】
まず、過去データ取得部211が過去所定期間の時系列データXを取得する。
次に、常態パターン生成部214は、取得された時系列データXに基づいて常態パターンを生成する。以下では、説明のために、パターン(日変動パターンや週変動パターン)データや位置母数をμi(t)、i=1,2,・・・,nと記載する。また、パターンや位置母数の変動を表す尺度母数を、σi(t)、i=1,2,…,nと記載する。なお、μ及びσは、必ずしもそれぞれ平均及び標準偏差のみを表しているわけではない。μは、メジアンや刈り込み平均などその他のロバスト性を持った位置母数であってもよい。σは、標準偏差だけでなく、四分位点や、MADであってもよい。
【0078】
次に,寄与率定義部213は、プロセス健全性指標の各プロセス変数のプロセス健全性寄与率を以下の式(6)のように定義する。
【0079】
【数6】
【0080】
ここで,xi(t)は、過去の時系列データXのi列t行目の要素を示す。Zi(xi(t))は、i番目のプロセス変数の時刻tにおけるプロセス健全性寄与率を示す。監視の際には、このxi(t)が監視時点で計測されたプロセスデータに置き換わって計算される。
【0081】
式(6)は、μi(t)及びσi(t)が時間tに依存せずにそれぞれ平均値及び標準偏差で定義される場合には、SPC等で用いられるいわゆるZ値と呼ばれる統計量に対応する。この値は、平均値まわりのばらつきを標準偏差に対する倍率での評価を示す。
【0082】
次に、指標定義部212aは、式(6)で定義されたプロセス健全性寄与率を統合することによってプロセス健全性指標を定義する。統合する方法はどのような方法であってもよい。例えば、式(6)で計算されたプロセス健全性寄与率の総和又は平均がプロセス健全性指標と定義されてもよい。式(6)で計算されたプロセス健全性寄与率の最大値(すなわち最も異常に近いもの)がプロセス健全性指標として定義されてもよい。
【0083】
判定基準定義部215は、プロセスの異常と正常とを判定するための基準を設定する。なお、本実施形態は、異常を検出しアラーム発報することを主眼としたものでは無く、異常及び正常にかかわらずプラント監視の支援を目的としたものである。ただし、支援情報の一つとしてプラントの異常の有無を監視画面上に提示することは好ましいと考えられる。そのため、第2実施形態では、判定基準定義部215が異常の有無を示す情報を取得するための基準(以下「判定基準」という。)を設定する。
【0084】
判定基準は、プロセス健全性指標とプロセス健全性寄与率に関して定義される。式(6)でプロセス健全性寄与率が定義される場合には、SPCで用いられる異常判定しきい値の考え方が適用されてもよい。具体的には以下の通りである。通常のSPCでは2σ~3σ程度で管理限界が設定される。そのため、式(6)のしきい値を2~3程度の値で設定し、この設定値以下か設定値以上で異常と判断されてもよい。一方、プロセス健全性指標に対する異常は以下のように定義されてもよい。プロセス健全性指標がプロセス健全性寄与率の平均で定義された場合には、同じしきい値が判定基準として用いられてもよい。プロセス健全性指標がプロセス健全性寄与率の総和で定義された場合には、プロセス健全性寄与率に設定された基準のn(プロセス変数の数)倍で設定されてもよい。また、プロセス健全性寄与率の最大値でプロセス健全性指標が定義された場合は、同じしきい値が判定基準として用いられてもよい。このように、SPCの管理限界の概念が適用されることによって、プロセス健全性指標及びプロセス健全性寄与率の異常判定基準が設定される。
【0085】
なお第1実施形態で示されたMSPCが状態定義部21aに適用された場合、異常判定基準には通常のMSPCにおける異常判定基準が適用されてもよい。すなわち、例えばQ統計量とT^2統計量に対する以下の式(7)及び式(8)の理論しきい値を用いて異常判定基準が設定されてもよい。式(7)は、Q統計量の理論しきい値である。式(8)は、T^2統計量の理論しきい値である。
【0086】
【数7】
【数8】
【0087】
式(7)において、pはモデルの中に残されたプロセス変数の数である。c_αは、信頼区間の限界が1-αである場合の標準正規分布の標準偏差のずれである。例えば、α=0.01である場合、c_α=2.53である。例えば、α=0.05である場合、c_α=1.96である。また、λ_iはΛの対角要素である。つまり、Θ_iは、誤差項に含まれる各成分のi乗和である。
【0088】
式(8)において、pは選択された(モデルの中に残された)プロセス変数の数である。mは、全プロセス変数の数である。F(p,m-p,α)は、自由度が(p,m-p)であり、信頼限界をαとした場合のF分布を表す。なお、αには0.01又は0.05が用いられることが多い。
【0089】
プロセス健全性指標に用いられた統計量に応じて式(7)や式(8)を用いて異常判定しきい値を定めることができる。なお、統計量は、Q統計量、T^2統計量、Q統計量及びT^2統計量の総和、Q統計量及びT^2統計量の最大値などである。
【0090】
各プロセス変数のプロセス健全性寄与率については、各プロセス変数のプロセス健全性寄与率が統計量に占める割合(プロセス健全性寄与率/統計量)に対して、所定の範囲でのしきい値(例えば、20%~50%)を定め、プロセス健全性寄与率が大きいプロセス変数を異常と判定する基準を設けておくことができる。
【0091】
第2実施形態における現在データ取得部221、指標演算部222、寄与率演算部223及び重要変数抽出部224の動作は、第1実施形態の同機能部の動作とほぼ同じである。ただし、第1実施形態ではプロセス健全性指標やプロセス健全性寄与率の定義にMSPCが適用されたのに対し、第2実施形態では典型的なパターンからの乖離でプロセス健全性指標やプロセス健全性寄与率を定義されているため、その計算は異なる。
【0092】
第2実施形態における状態演算部22aは、異常データ抽出部225をさらに備える。異常データ抽出部225は、指標演算部222によって算出されたプロセス健全性指標と、寄与率演算部223によって算出された各プロセス監視データのプロセス健全性寄与率と、に対して、判定基準定義部215によって定義された基準に基づいて正常か否かを判定する。異常データ抽出部225は、判定結果を示すフラグを各値に付加する。例えば、正常の場合は“0”、異常の場合は“1”というフラグが付加されてもよい。
【0093】
第2実施形態における表示制御部23aは、監視ポイント表示制御部233及び寄与率表示制御部234をさらに備える。図10及び図11は、第2実施形態における表示制御部23aの動作によって表示される画面の具体例を示す図である。以下、図10及び図11を用いて表示制御部23aについて説明する。
【0094】
図10に示されるように、画面上段41には、プロセス健全性指標の時系列データの表示において、異常データ抽出部225によって異常というフラグが付加されたデータ(以下「異常データ」という。)についてはその他のデータ(例えば正常というフラグが付加されたデータ:以下「正常データ」という。)とは異なる態様で表示される。異常データは、例えば強調された態様で表示されてもよい。具体的には、異常データは正常データよりも目立つ色(例えば赤色)で表示されても良いし、目立つ線種(例えばより太い線)を用いて表示されてもよい。また、異常データの異常の程度の大きさに応じて異なる態様で表示が行われてもよい。例えば、異常の程度(乖離の程度)が所定の基準よりも大きいものはフリッカ表示されてもよい。また、異常の程度が大きいほどグラフの表示面積が大きく表示されてもよい。本実施形態の図面では、異常データは破線で示されており、正常データは実線で示されている。
【0095】
また、判定基準定義部215によって定義されたしきい値がプロセス健全性指標の時系列データにおいて表示されてもよい。例えば、しきい値は異常データ及び正常データとは異なる線種(例えば黄色)で表示されてもよい。
【0096】
図10に示されるように、画面下段42に表示される各プロセス変数の時系列データの表示においても、上段41の表示と同様に、異常データと正常データとが異なる態様で表示されてもよい。例えば、異常データが正常データに比べて強調された態様で表示されてもよい。このように強調した態様で表示されることによって、ユーザは異常の発生についてより容易に気がつくことが可能となるとともに、どのプロセス変数のどの日時のデータが異常状態であったかについて視覚的に判断することが可能となる。なお、強調表示がなされる際に音声によるアラームを発報するようにユーザ端末3を制御するように表示制御部23aが構成されてもよい。ことも可能であり,音声あるいは文字で同時にアラーム発報を行ってもよい。音声によるアラーム発報が行われる場合には、通常の音量よりも低い音量でアラーム発報が行われてもよい。このように構成されることによって、「異常」を強調しすぎず、アラームの洪水を避けて、ユーザのプラント監視を支援することが可能となる。
【0097】
監視ポイント表示制御部233は、トレンドグラフのようなプロセス変数の時系列データの表示では無く、プロセスフローのようにプラントに設置された機器を示す表示を制御する。図11は、監視ポイント表示制御部233によって制御される画面の具体例を示す図である。監視ポイント表示制御部233は、監視データ表示制御部232によって異常データが表示された場合に、異常データに関連する機器の画像の近傍で強調表示を行う。例えば、異常データが取得された機器の近傍において、異常データが取得されたプロセス変数の名称を表示してもよい。このとき、プロセス変数の名称は、監視データ表示制御部232によって行われる強調表示と同じ態様(例えば赤色)で表示されてもよい。図11において、“曝気風量”及び“MLSS”という文字列が、異常データが取得されたプロセス変数の名称の具体例として表示されている。
【0098】
また、監視ポイント表示制御部233は、異常データが取得された機器の近傍において、この機器の画像又は上述したプロセス変数の名称等の画像に対して、この画像にユーザが注目することを促す画像(以下「注目画像」という。)を表示してもよい。例えば、注目画像の具体例として、機器の画像又はプロセス変数の名称の画像に対して矢が向けられた矢印の画像が表示されてもよい。このとき、注目画像は、監視データ表示制御部232によって行われる強調表示と同じ態様(例えば赤色)で表示されてもよい。矢印の画像は注目画像の具体例に過ぎない。例えば、注目画像は“!”等の文字であってもよいし、星印の画像や、一般的に危険であることを示す画像であってもよい。図11において、“曝気風量”及び“MLSS”という文字列の左に、これらの文字列に矢が向けられた右向きの矢印の画像が注目画像の具体例として表示されている。
【0099】
監視ポイント表示制御部233によってこのような表示が行われる場合には、異常データが取得されたプロセス変数の時系列データを示す画像がさらに表示されてもよい。図11の例では、曝気風量及びMLSSについて異常データが取得されたためにプロセスフローにおいて注目画像などが表示されているが、さらにプロセスフローと供に異常データが取得された曝気風量及びMLSSの時系列データを示す画像が表示されている。
【0100】
また、図10に示される表示において、異常データが取得された時系列データをユーザが選択した場合に、監視ポイント表示制御部233は、選択されたプロセス変数の時系列データに関する機器を含む表示(例えばプロセスフロー)を図11に示されるように表示してもよい。
【0101】
このように時系列データとプロセスフロー上の位置との対応関係をとってプラント監視画面に表示することによって、ユーザは異常が発生した際にその要因を推測することが容易となる。
【0102】
寄与率表示制御部234は、各プロセス変数のプロセス健全性寄与率の値が大きいプロセス変数に関する表示を行う。寄与率表示制御部234は、例えば寄与率画像43を生成する。寄与率画像43には、プロセス健全性寄与率の値を示すグラフ(例えば棒グラフ)が表示される。寄与率画像43には、例えばプロセス健全性寄与率が高いものから順に所定数のプロセス変数の名称とプロセス健全性寄与率の値とが表示されてもよい。寄与率画像43には、プロセス健全性寄与率の値が高い順などの基準でソーティングされて棒グラフが表示されることが好ましい。寄与率画像43の各プロセス変数の並び方は、縦に並んでもよいし横に並んでもよい。
【0103】
以下、図10の表示に対するユーザの操作の具体例について説明する。ユーザは、まず図10のような画像が表示された画面を見て監視を行う。ユーザが、下段42に表示されている重要プロセス変数のいずれかのプロセスデータの表示データを、他のプロセスデータの表示に変更したい場合、ユーザ端末3の入力装置を操作することによって変更をプロセス監視支援装置2に指示する。例えば、ユーザが8つの監視対象の中の“全体エネルギー原単位”のプロセスデータを他のプロセスデータに変更して表示したい場合、監視画面上に表示されている“全体エネルギー原単位”のプロセスデータの時系列データのグラフを選択する。選択という作業は、マウスやキーボードやタッチパネル等の入力装置に対する操作として行われる。例えば、グラフにカーソルを合わせてクリックするという操作によって選択が行われてもよい。そして、ユーザは寄与率画像43に表示されたプロセス変数を選択する。監視データ表示制御部232は、ユーザによって選択されたプロセス変数の時系列データのグラフを、“全体エネルギー原単位”のプロセスデータが表示されていた領域に表示する。この際、プロセス健全性寄与率の大小が棒グラフで表示されている。そのため、ユーザはプロセス健全性寄与率の大きさを参考にしながら、表示させるプロセスデータを選択することができる。
【0104】
図12は、第2実施形態のプロセス監視支援装置2aの状態定義部21aの処理の流れの例を示すフローチャートである。状態定義部21aは、所定の周期T0のタイミングまでは待機する(ステップS301-NO)。所定の周期T0のタイミングが到来すると(ステップS301-YES)、過去データ取得部211は、過去データを取得する(ステップS302)。次に、常態パターン生成部214は、取得された過去データを用いて常態パターンを生成する(ステップS303)。次に、寄与率定義部213aは、取得された常態パターンと過去データとを用いて、各プロセス変数についてプロセス健全性寄与率を定義する(ステップS304)。そして、指標定義部212aは、算出されたプロセス健全性寄与率を用いてプロセス健全性指標を定義する(ステップS305)。このようにして得られたプロセス健全性指標、プロセス健全性寄与率及び常態パターンは、その後の状態演算部22aの処理で使用される。なお、状態演算部22aの処理は、第1実施形態と原則として変わらないため説明を省略する。
【0105】
以上のように構成された第2実施形態の状態定義部21aでは、特別な診断アルゴリズムを用いる事なく、単純に常態パターンとの乖離を基準に積み上げ式でプロセス健全性指標が定義される。このような処理は、異常兆候をユーザが監視するという観点においては、健全性の解釈が容易であるという効果がある。すなわち、特別な診断アルゴリズムが用いられていないため、健全度が悪い(異常度が高い)場合には、どこが悪いのか常態パターンと比較することで容易に判断できる。
【0106】
また、第2実施形態の表示制御部23aでは、異常データ抽出部225によって異常データであると判定されたデータは、通常データとは異なる態様で表示される。異常データは強調表示として表示されてもよい。このように構成されることによって、プラントに異常が発生した場合に、ユーザがその事象に気づきやすいプラント監視を実現することが可能になる
【0107】
また、第2実施形態の表示制御部23aでは、監視ポイント表示制御部233によって、異常データに関連する機器の画像の近傍で強調表示が行われる。そのため、プラントに異常が発生した場合に、ユーザはより容易に異常の発生個所や異常の要因を推定することが可能となる。
【0108】
また、第2実施形態では、寄与率画像43が表示される。そのため、寄与率画像43に基づいて、ユーザが画面に表示させたいトレンドグラフのプロセス変数を選択することが容易に可能となる。そのため、ユーザの意志を反映しやすいプラント監視の実現が可能になる。
【0109】
[変形例]
図13は、第2実施形態の変形例を示す図である。変形例では、第2実施形態においてプロセス監視支援装置2aとして実装されていた機能の一部が、ネットワーク4を介して離れた位置に設置された情報処理装置(プロセス監視支援サーバ)に実装されている。図13の例では、プロセス監視支援サーバ9と、プロセス監視支援装置2bとがネットワーク4を介して通信可能に接続されている。プロセス監視支援サーバ9及びプロセス監視支援装置2bとは、それぞれが備える通信部(通信部91、通信部24)が機能することによって通信可能に接続される。第2実施形態における状態定義部21a及び状態演算部22aの機能が、プロセス監視支援サーバ9に実装されている。プロセス監視支援装置2bのデータ収集部201は、所定のタイミングで、データ保存部202に記録されているデータをプロセス監視支援サーバ9に送信する。例えば、プロセス監視支援サーバ9の過去データ取得部211がデータを要求することを示す要求データを送信してきたタイミングであってもよいし、予め定められた周期のタイミングであってもよい。プロセス監視支援サーバ9の状態定義部21aは、過去データを受信すると、受信されたデータに基づいて処理を行う。また、プロセス監視支援装置2bのデータ収集部201は、所定のタイミングで現在データをプロセス監視支援サーバ9に送信する。プロセス監視支援サーバ9の状態演算部22aは、受信された現在データに基づいて処理を行う。状態演算部22aは、処理結果を示すデータをプロセス監視支援装置2bに送信する。プロセス監視支援装置2bの表示制御部23aは、受信されたデータに基づいて画面を表すデータを生成し、ユーザ端末3に表示させる。
【0110】
変形例の構成は図13の構成に限定されない。たとえば、プロセス監視支援サーバ9において表示制御部23aの機能も実装されてもよい。この場合、データ収集部201及びデータ保存部202がプロセス監視支援装置2bとは異なる装置としてプラントに設置されてもよい。この場合、データ収集部201がプロセス監視支援サーバ9と通信することによって、過去データ及び現在データを送信してもよい。この場合、プロセス監視支援装置2bそのものがユーザ端末として実装されてもよい。このような実装では、ユーザ端末はスマートフォンやタブレット等の携帯端末装置であってもよい。
【0111】
このように構成されることによって、第1実施形態や第2実施形態において示したプロセス監視支援装置2の機能をクラウドで実装し、ユーザが配置されたプラント等に支援サービスを提供することが可能となる。
【0112】
状態演算部22及び状態演算部22aは、必ずしも監視時点の時系列データ(現在データ)のみについて処理を行うように設計される必要は無い。例えば、ユーザによって指定された過去の時点の時系列データについて処理を行うように構成されてもよい。このように構成されることによって、過去のプラントの状態を振り返りたい場合に、任意の過去のデータに基づいてプロセス健全性指標やプロセス健全性寄与率の値に基づいた画面をユーザに提供することが可能となる。
【0113】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、表示制御部を持つことにより、現在広く行われているプラント監視と親和性の高いプラント監視方法を維持しながら、アドバンストな監視・診断システムをプラント監視に組み込むことが可能となる。その結果、効率的なプラント監視と、非定常時(異常時等)にその状態をユーザが見落とす可能性を低減させ、より迅速に対応することが可能なプラント監視を実現できる。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0115】
1…下水高度処理プロセス、101…最初沈澱池、102…嫌気槽、103…及び無酸素槽、104…好気槽、105…最終沈澱池、111…最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ、112…ブロワ、113…循環ポンプ、114…返送汚泥ポンプ、115…最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ、121…雨量センサ、122…下水流入量センサ、123…流入TNセンサ、124…流入TPセンサ、125…流入有機物センサ、126…ORPセンサ、127…嫌気槽pHセンサ、128…無酸素槽ORPセンサ、129…無酸素槽pHセンサ、130…リン酸センサ、131…DOセンサ、132…アンモニアセンサ、133…MLSSセンサ、134…水温センサ、135…余剰汚泥SSセンサ、136…放流SSセンサ、137…汚泥界面センサ、138…下水放流量センサ、139…放流TNセンサ、140…放流TPセンサ、141…放流有機物センサ、2…プロセス監視支援装置、201…データ収集部、202…データ保存部、21…状態定義部、22…状態演算部、23…表示制御部、211…過去データ取得部、212…指標定義部、213…寄与率定義部、214…常態パターン生成部、215…判定基準定義部、221…現在データ取得部、222…指標演算部、223…寄与率演算部、224…重要変数抽出部、225…異常データ抽出部、231…状態表示制御部、232…監視データ表示制御部、233…監視ポイント表示制御部、234…寄与率表示制御部
図1
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