(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】インターロイキン10の抗炎症効果を亢進するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/20 20060101AFI20221024BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221024BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221024BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221024BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20221024BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/74 20060101ALI20221024BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20221024BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20221024BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20221024BHJP
C07K 14/715 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
A61K38/20
A61K38/16
A61K48/00
A61P29/00
A61K35/76
A61K35/74
C12N15/86 Z
C12N15/74 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C07K14/54
C07K14/715
(21)【出願番号】P 2018555141
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(86)【国際出願番号】 US2017028755
(87)【国際公開番号】W WO2017184933
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-01
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516017477
【氏名又は名称】ザルード セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】XALUD THERAPEUTICS,INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】フォーサイス、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャベス、レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ワトキンス、リンダ
(72)【発明者】
【氏名】グレイス、ピーター
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/009955(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0044281(US,A1)
【文献】Milligan, E. D. et al.,Repeated intrathecal injections of plasmid DNA encoding interleukin-10 produce prolonged reversal of neuropathic pain,Pain,2006年,Vol.126,p.294-308,doi:10.1016/j.pain.2006.07.009
【文献】Sloane, E. et al.,Anti-inflammatory cytokine gene therapy decreases sensory and motor dysfunction in experimental Multiple Sclerosis: MOG-EAE behavioral and anatomical symptom treatment with cytokine gene therapy,Brain, Behavior, and Immunity,2009年,Vol.23, No.1,p.92-100,doi:10.1016/j.bbi.2008.09.004
【文献】Ding, Y. et al.,Differential IL-10R1 expression plays a critical role in IL-10-mediated immune regulation,The Journal of Immunology,2001年,Vol.167, No.12,p.6884-6892,doi:10.4049/jimmunol.167.12.6884
【文献】MacDonald, K. P. A. et al.,Resistance of rheumatoid synovial dendritic cells to the immunosuppressive effects of IL-10,The Journal of Immunology,1999年,Vol.163, No.10,p.5599-5607
【文献】Crepaldi, L. et al.,Up-regulation of IL-10R1 expression is required to render human neutrophils fully responsive to IL-10,The Journal of Immunology,2001年,Vol.167, No.4,p.2312-2322,doi:10.4049/jimmunol.167.4.2312
【文献】von Lanzenauer, S. H. et al.,Interleukin-10 receptor-1 expression in monocyte-derived antigen-presenting cell populations: dendritic cells partially escape from IL-10's inhibitory mechanisms,Genes and Immunity,2015年,Vol.16, No.1,p.8-14,doi:10.1038/gene.2014.69
【文献】Tamassia, N. et al.,Circulating neutrophils of septic patients constitutively express IL-10R1 and are promptly responsive to IL-10,International Immunology,2008年,Vol.20, No.4,p.535-541,doi:10.1093/intimm/dxn015
【文献】Mansouri, M., Berger, P. ,Strategies for multigene expression in eukaryotic cells,Plasmid,2014年,Vol.75,p.12-17,doi:10.1016/j.plasmid.2014.07.001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
A61K 35/00-35/768
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における炎症を処置するための治療用組成物であって、
インターロイキン10(IL-10)ペプチドおよび1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)ペプチドのコード
配列を含む1つまたは複数の細菌、ウイルス、ファージ、コスミドまたは人工染色体ベクターを含み、
対象における抗原提示細胞中で、前記1つまたは複数のベクターから、インターロイキン10(IL-10)ペプチドおよび1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)ペプチドが発現され、
前記1つまたは複数のベクターが、前記IL-10および/またはIL-10R1のコード配列に作動可能に連結された少なくとも1つの構成的プロモーターを含
み、
前記少なくとも1つの構成的プロモーターが、前記IL-10およびIL-10R1のコード配列の転写を推進する、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、IL-10シグナル伝達の下方制御を克服する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、抗原提示(IL-10R2陽性)細胞における構成的オートクリンシグナル伝達を達成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ベクターが、
細菌骨格またはウイルス骨格
;
任意選択で、IL-10コード配列および/またはIL-10R1コード配列の5’(上流)、3’(下流)もしくはその両方の、少なくとも1つの核ターゲティング配列;
内部リボソーム進入部位(IRES)もしくは自己切断型ペプチド
;ならびに
プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流制御ドメイン、複製起点、および内部リボソーム進入部位から選択される1つまたは複数の他の調節配列
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ベクターが、プラスミド骨格、カナマイシン耐性遺伝子、CMVプロモーター、β-グロビンイントロン、成長ホルモンポリA、および2つのAAV2 ITRをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗原提示細胞中で発現された前記IL-10ペプチドが、前記IL-10ペプチドのヒンジ領域中に突然変異を含む、請求項1および4~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記IL-10ペプチドが、IL-10野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリン、スレオニン、アラニンまたはシステインで置き換えられている突然変異を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリンで置き換えられている、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記IL-10およびIL-10R1が単一のベクターから発現される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記IL-10およびIL-10R1のコード配列が、単一のmRNAとして転写される、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
前記ベクターが、前記IL-10および前記IL-10R1のコード配列の間に内部リボソーム進入部位のコード配列をさらに含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記ベクターが、前記IL-10およびIL-10R1のコード配列の間に自己切断型2aペプチドのコード配列をさらに含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記炎症が神経障害性または慢性疼痛により引き起こされ、前記1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記炎症が多発性硬化症(MS)により引き起こされ、前記1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記炎症が自己免疫疾患により引き起こされ、前記1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記炎症が関節内に位置し、前記1つまたは複数のベクターが関節内注射により送達される、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記炎症が神経炎症である、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記抗原提示細胞が、単芽球、単球、星状細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、マクロファージ、B細胞、樹状細胞、泡沫細胞、リンパ芽球およびBリンパ球からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記抗原提示細胞が、処置される対象から除去され、in vitroで前記1つまたは複数のベクターを用いて形質導入され、前記対象に投与して戻される、請求項1または21に記載の組成物。
【請求項23】
前記抗原提示細胞が、前記1つまたは複数のベクターを用いて安定に形質転換され、培養中に維持される、請求項1または21に記載の組成物。
【請求項24】
前記炎症が、多発性硬化症(MS)、神経障害性疼痛、慢性疼痛、関節炎、神経炎症、または自己免疫疾患により引き起こされる、請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
インターロイキン10(IL-10)および1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)のコード
配列と、前記IL-10および/またはIL-10R1のコード
配列に作動可能に連結された
少なくとも1つの構成的プロモーターとを含み、
前記少なくとも1つの構成的プロモーターが、前記IL-10およびIL-10R1のコード配列の転写を推進する、単一のウイルスまたは細菌発現ベクター。
【請求項26】
前記ベクターが、前記IL-10およびIL-10R1ペプチドの転写を推進する単一の
構成的プロモーターを含むウイルスベクターであり、前記IL-10ペプチドのコード
配列および前記IL-10R1ペプチドのコード
配列の間に置かれた自己切断型2aペプチドをさらに含む、請求項25に記載の単一の発現ベクター。
【請求項27】
前記ベクターが、
細菌骨格またはウイルス骨格
;
任意選択で、IL-10コード配列および/またはIL-10R1コード配列の5’(上流)、3’(下流)もしくはその両方の、少なくとも1つの核ターゲティング配列;
自己切断型ペプチド
;ならびに
プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流制御ドメイン、複製起点、および内部リボソーム進入部位から選択される1つまたは複数の他の調節配列
を含む、請求項25または26に記載の単一の発現ベクター。
【請求項28】
前記ベクターが、プラスミド骨格、カナマイシン耐性遺伝子、CMVプロモーター、β-グロビンイントロン、成長ホルモンポリA、および2つのAAV2 ITRをさらに含む、請求項25または26に記載の単一の発現ベクター。
【請求項29】
抗原提示細胞中で発現された前記IL-10ペプチドが、前記IL-10ペプチドのヒンジ領域中に突然変異を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の単一の発現ベクター。
【請求項30】
前記IL-10ペプチドが、IL-10野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリン、スレオニン、アラニンまたはシステインで置き換えられている突然変異を含む、請求項25~29のいずれか一項に記載の単一の発現ベクター。
【請求項31】
前記野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリンで置き換えられている、請求項30に記載の単一の発現ベクター。
【請求項32】
前記構成的プロモーターが、ユビキチンプロモーター、CMVプロモーター、βアクチンプロモーター、ヒストンH4プロモーター、EF-1αプロモーター、PGK遺伝子プロモーター、RNAポリメラーゼIIにより調節されるプロモーター、RNAポリメラーゼIにより調節されるプロモーターエレメント、RNAポリメラーゼIIIにより調節されるプロモーターエレメント、U6プロモーター(U6-1、U6-8、U6-9)、H1プロモーター、7SLプロモーター、ヒトYプロモーター(hY1、hY3、hY4およびhY5)、ヒトMRP-7-2プロモーター、アデノウイルスVA1プロモーター、ヒトtRNAプロモーター、および5sリボソームRNAプロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物または請求項25に記載の単一の発現ベクター。
【請求項33】
前記構成的プロモーターが、CMVプロモーターである、請求項1に記載の組成物または請求項25に記載の単一の発現ベクター。
【請求項34】
前記ベクターが、プラスミドである、請求項1に記載の組成物または請求項25に記載の単一の発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン10(IL-10)ペプチドに加えて、1型IL-10受容体(IL-10R1)ペプチドを発現することにより、炎症性シグナル伝達の非活性化を減弱するための方法および組成物に関する。方法は、神経傷害性疼痛;多発性硬化症、脊髄傷害、ALS、神経炎症、関節炎および関節の他の疾患に関連する症状、ならびに自己免疫疾患を含むが、それに限定されない多様な状態を処置することにおける用途を有する。
【背景技術】
【0002】
以下の論述において、背景および導入目的のために、ある特定の物品および方法が記述される。本願明細書に含まれるものは、従来技術の「自認」として解釈されるべきでない。出願人は、適宜、本願明細書において言及される物品および方法が、適用法規条項に従って従来技術を構成しないことを実証する権利を明示的に有する。
【0003】
炎症は、疼痛亢進性の炎症誘発性サイトカインならびにH2O2およびNOのようなラジカルの放出に関連する。炎症および損傷を制限するために、インターロイキン10のような抗炎症性サイトカインも放出され;例えば、炎症組織において、IL-10は過剰の炎症を制限するために十分な濃度まで高められる。先の研究は、神経障害性疼痛(ワトキンス(Watkins)米国特許出願第14/066,581号参照)および多発性硬化症(MS)(ワトキンスら(Watkins et al.)米国特許出願第14/370,724号参照)のげっ歯類モデルにおいて髄腔内に注射された場合だけでなく、天然に存在する(イヌ)もしくは手術誘発性の(ウマ)骨関節炎(OA)のいずれかを有する大きな動物において関節内に注射された場合(チャベズら(Chavez et al.)米国特許出願第14/905,915号参照)に、ヒトインターロイキン10(hIL-10)のプラスミド依存性の発現が抗アロジニア性であることを示した。過去数年にわたって行われたINDを可能とする研究は、慢性疼痛の処置に対するこのアプローチがヒトにおいて安全かつ有効である可能性があるという説得力ある証拠を提供した。しかしながら、これらの研究の経過において、1ng/ml未満の濃度で存在する場合、IL-10は最大のシグナル伝達効率を示すこと、およびIL-10の濃度増加が、逆説的にIL-10の下方制御をもたらすことが明らかとなった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当分野では、IL-10シグナル伝達の下方制御を克服して、より強力な濃度非依存性のIL-10介在性炎症抑制を達成することのできる方法および組成物が必要とされている。本発明はこのニーズに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インターロイキン10(IL-10)ペプチドに加えて、1型IL-10受容体(IL-10R1)ペプチドを抗原提示細胞において発現することにより(本願明細書において「IL-10/IL-10R1発現ベクター」)、IL-10の用量依存性の下方制御を克服するための方法および組成物に関する。方法は、慢性または神経傷害性疼痛;多発性硬化症、脊髄傷害、神経炎症、ALSおよび関節炎ならびに関節の他の疾患に関連する症状および生理学的損傷;ならびに自己免疫疾患を処置することにおける用途を有する。
【0006】
よって、一実施形態では、本発明は、対象における抗原提示細胞中の1つまたは複数の細菌、ウイルス、ファージ、コスミドまたは人工染色体ベクターからのインターロイキン10(IL-10)ペプチドおよび1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)ペプチドの発現を含む、対象における炎症を処置するための方法を提供する。この実施形態の一部の態様では、抗原提示細胞中で発現されたIL-10ペプチドは、IL-10ペプチドのヒンジ領域中に突然変異を含み、一部の態様では、IL-10ペプチドは、IL-10野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリン、スレオニン、アラニンまたはシステインで置き換えられている突然変異を含む。一部の好ましい態様では、野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリンで置き換えられている。
【0007】
一部の実施形態では、IL-10およびIL-10R1ペプチドは、単一のベクターから発現され、一部の態様では、ベクターはウイルスベクターであり、ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルスベクターであるか、またはウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。一部の態様では、IL-10およびIL-10R1のコード配列は、単一のmRNAとして転写され、ベクターはIL-10およびIL-10R1のコード配列の間に内部リボソーム進入部位のコード配列またはIL-10およびIL-10R1のコード配列の間に自己切断型2aペプチドのコード配列を含む。
【0008】
一部の実施形態では、炎症は、神経障害性または慢性疼痛により引き起こされ、1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される。なお他の実施形態では、炎症は、MSにより引き起こされ、1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される。なお他の実施形態では、炎症は、自己免疫疾患により引き起こされ、1つまたは複数のベクターが髄腔内注射により送達される。さらなる実施形態では、炎症は、関節内に位置し、1つまたは複数のベクターが関節内注射により送達される。なお他の実施形態では、炎症は神経炎症である。
【0009】
一部の実施形態では、抗原提示細胞は、単芽球、単球、星状細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、マクロファージ、B細胞、樹状細胞、泡沫細胞、リンパ芽球およびBリンパ球の群から選択される。この実施形態の一部の態様では、抗原提示細胞は、処置される対象から除去され、in vitroで1つまたは複数のベクターを用いて形質導入され、対象に投与して戻されるが;一部の態様では、抗原提示細胞は、1つまたは複数のベクターを用いて安定に形質転換され、培養中に維持される。
【0010】
本発明のなお他の実施形態は、インターロイキン10(IL-10)および1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)のコード領域を含む、単一のウイルスまたは細菌発現ベクターを提供する。この実施形態の一部の態様では、ベクターは、IL-10およびIL-10R1ペプチドの転写を推進する単一のプロモーターを含むウイルスベクターであり、IL-10ペプチドのコード領域およびIL-10R1ペプチドのコード領域の間に置かれた自己切断型2aペプチドをさらに含む。
【0011】
本発明のこれらのおよび他の態様ならびに用途は、詳細な説明において記述される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】神経障害性疼痛の慢性絞扼傷モデルにおいて、ラットにAAV-9-hIL-10を注射したことから得られた結果についての、絶対閾値(g)対注射後の日数のプロットを示す図。
【
図2】神経障害性疼痛の慢性絞扼傷モデルにおいて、ラットにAAV9-hIL-10およびAAV9-hIL-10R1の1:1混合物を注射したことから得られた結果についての、絶対閾値(g)対注射後の日数のプロットを示す図。
【
図3】再発寛解型EAEラットにおいて、ラットにPLGA微粒子に被包されたIL-10(丸)を髄腔内注射したことから得られた結果についての、運動スコア対運動症状発症後の時間(日)のプロットを示す図。運動スコア:0=正常;1=尾端麻痺;2=完全な尾麻痺;3=後肢脱力;4=後肢麻痺;5=完全な後肢麻痺;6=部分的な前肢麻痺。一群あたりN=6。
【
図4】正常マウスおよびダウン症候群の炎症性マウスモデル(Dp16)の脳へのIL-10プラスミドのマイクロインジェクションの結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
別段の定義のない限り、本願明細書中で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本願明細書中で言及されるすべての刊行物、公開された特許出願および特許は、ここに記述された発明との関係で使用され得る装置、動物モデル、製剤および方法論を記載し、開示する目的のために、その全体として援用される。
【0014】
本願明細書中で使用されるとき、「抗原提示細胞」は、主要組織適合性クラスII複合体(MHC)と複合化した抗原をその表面上に表示し(抗原提示)、2型IL-10受容体(IL-10R2)を発現する、様々な細胞のいずれか1つを指す。本発明の抗原提示細胞は、星状細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、マクロファージ、B細胞、樹状細胞およびその前駆体を含むが、それに限定されない。
【0015】
本願明細書中で使用される用語「抗炎症性」は、神経、ニューロン、グリア細胞、内皮細胞、線維芽細胞、筋肉、免疫細胞または他の細胞タイプにより産生された1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインの作用または産生を減少させることを指す。
【0016】
本願明細書中で使用される用語「抗炎症性サイトカイン」は、神経、ニューロン、グリア細胞、内皮細胞、線維芽細胞、筋肉、免疫細胞または他の細胞タイプにより産生される1つまたは複数の炎症誘発性サイトカインまたはタンパク質の作用または産生を減少させるタンパク質を指す。炎症性サイトカインおよびタンパク質は、制限なく、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)などを含む。本発明における目的の抗炎症性サイトカインは、インターロイキン10(IL-10)、IL-10の完全長分子および断片だけでなく、抗炎症性サイトカインが治療効果のある限り、天然の配列に対する欠失、付加および(性質上、保存的または非保存的いずれかの)置換を有するものを含む、修飾されたIL-10ペプチドである。修飾は、部位特異的突然変異誘発を介する意図的なものであってもよく、またはタンパク質を産生する宿主の突然変異もしくはPCR増幅によるエラーを介するような偶発的なものであってもよい。したがって、活性タンパク質は、典型的に親配列に対して実質的に相同であり、例えば、タンパク質は、典型的に、親配列に対して70%超同一である。
【0017】
本願明細書中で使用される用語「自己免疫疾患」は、体内に正常に存在する物質および組織に対する体の異常な免疫応答から生じる病理学的状態を指す。
本願明細書中で使用される「慢性疼痛」は、特別なタイプの傷害または疾患の過程に関連する自然治癒の時間的経過よりも長く持続する疼痛を指す。
【0018】
用語DNA「調節配列」は、レシピエント細胞においてコード配列の複製、転写および翻訳をまとめて提供する、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流制御ドメイン、複製起点、内部リボソーム進入部位、エンハンサーなどをまとめて指す。選択されたコード配列が、適切な宿主細胞において複製され、転写され、翻訳されることが可能な限り、これらのタイプの調節配列のすべてが存在する必要はない。
【0019】
例えば、IL-10もしくはIL-10R1の「コード配列」、またはIL-10もしくはIL-10R1を「コードする」配列は、適切な調節配列の調節下に置かれた場合、in vivoで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、アミノ末端の開始コドンに相当するヌクレオチドおよびカルボキシ末端の翻訳終止コドンに相当するヌクレオチドにより決定される。
【0020】
本発明の方法において使用される治療用微粒子組成物の、用語「有効量」または「治療有効量」は、治療用微粒子組成物の、無毒性であるが、疼痛の減少、炎症の減少、炎症性疾患により引き起こされた症状の緩和および/または炎症性疾患による生理学的損傷の進行を予防すること、および/または例えば、MS、慢性疼痛、関節炎、神経炎症および自己免疫疾患により引き起こされた症状の緩和のような所望の応答を提供するために十分な量を指す。必要とされる本発明の治療用抗炎症組成物の正確な量は、対象の種、年齢および一般的状態、処置されている状態の重症度、送達される具体的なIL-10/IL-10R1発現ベクター、投与様式などに依存して、対象それぞれで変動するであろう。本方法のための用量パラメータが本願明細書に提供され;しかしながら、任意の個々のケースにおける適切な「有効」量の最適化は、本願明細書に上述した方法および日常的な実験を介して当業者により決定され得る。
【0021】
用語「賦形剤」は、治療用微粒子組成物の投与をさらに容易化するために、本発明の医薬組成物に添加された不活性物質を指す。賦形剤の例としては、制限なく、生理食塩水、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖および様々なタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、任意選択で界面活性剤とともに処方されたヒアルロン酸、Pluronic F68、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0022】
用語「in vitro」は、生物体内ではなく、人工的な環境中、例えば、試験管または反応容器中、細胞培養中などで起こる事象を指す。
用語「関節」は、骨を互いに接続するじん帯、筋肉を骨に取り付ける腱、関節包、滑液嚢および滑膜を含む、2つの骨が接触する解剖学的構造を指す。本願明細書の方法で処置され得る関節には、固定式、ヒンジ式、ピボット式またはボール・ソケット式関節が含まれる。
【0023】
用語「関節の炎症」または「関節痛」は、リウマチ関節炎、骨関節炎が最も一般的である、炎症により引き起こされるすべてのタイプの関節炎だけでなく、腱炎、滑液嚢炎、じん帯の炎症、滑膜炎、痛風および全身性エリテマトーデスを含む、関節炎により引き起こされる他の状態を指す。
【0024】
本願明細書中で使用されるとき、用語「多発性硬化症」または「MS」は、脱髄期間に機能回復期間が続く、再発/寛解形態において最も頻繁に発生する、中枢神経系の進行性の神経変性疾患を指す。回復期は、オリゴデンドロサイト前駆細胞またはオリゴデンドロサイト始原細胞の遊走および成熟による再ミエリン化を含む。しかしながら、疾患が進行すると、進行性の機能損失により再ミエリン化が失敗する。インタクトな軸索の再ミエリン化失敗についての可能性のある説明は、脱髄の部位へのオリゴデンドロサイト前駆細胞動員における欠陥またはオリゴデンドロサイト前駆細胞のミエリン化オリゴデンドロサイトへの分化における欠陥を含む。研究が、オリゴデンドロサイト前駆細胞の生物学の両方の面が、MSにおいて変化することを示しているにもかかわらず、成人中枢神経系内のこれらのプロセスを統合する分子メカニズムは、完全には理解されていないが、炎症を含むことが知られている。
【0025】
用語「核ターゲティング配列」は、細胞内の抗炎症性サイトカインの発現効率を改善するように機能する核酸配列を指す。
「作動可能に連結された」は、そのように記述される構成要素が、それらの通常の機能を発揮するように構成されている、エレメントの配置を指す。よって、コード配列に作動可能に連結された調節配列は、コード配列の発現をもたらすことができる。調節配列は、それらがその発現を導くように機能する限り、コード配列と隣接する必要はない。よって、例えば、転写された非翻訳介在配列が、プロモーター配列とコード配列の間に存在することができ、プロモーター配列はなおコード配列に「作動可能に連結されている」と考えられ得る。
【0026】
用語「プロモーター」は、本願明細書中で、DNA制御配列を含むヌクレオチド領域を指すために、その通常の意味で使用され、制御配列はRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することができる遺伝子に由来する。転写プロモーターは、(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、コファクター、制御タンパク質などにより誘導される)「誘導性プロモーター」、(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、コファクター、制御タンパク質などにより誘導される)「抑制性プロモーター」および「構成的プロモーター」を含み得る。
【0027】
本願全体を通じて、特別なヌクレオチド配列が別の配列に対して「上流」、「下流」、「3’」、「5’」に置かれていると記述される場合のような、特別な核酸分子中のヌクレオチド配列の相対的位置を記述するために、それが当分野で慣用的であると称されるDNA分子の「センス」または「コード」鎖中の配列の位置であることは理解されるべきである。
【0028】
本願明細書中で使用される用語「リサーチツール」は、他の薬学的および/または生物学的治療法の開発を含む、学術的または商業的いずれかの性質の科学研究のために治療用微粒子組成物を使用する本発明の任意の方法を指す。本発明のリサーチツールは、治療用であるかまたは規制上の承認に供されることを意図されず;むしろ、本発明のリサーチツールは、研究を容易化し、規制文書を裏付ける情報を生成する目的で実行される任意の活動を含む、そのような開発事業を支援することを意図される。
【0029】
本願明細書中で使用されるとき、用語「選択マーカー」は、細胞、特に本発明の関係においては、培養中の細胞に導入される、人為選択に適した特性を与える遺伝子を指す。一般的用途の選択マーカーは、当業者に周知である。
【0030】
用語「対象」、「個体」または「患者」は、本願明細書中で互換的に使用されることができ、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。
本願明細書中で使用される用語「治療用組成物」または「治療用抗炎症組成物」は、炎症性サイトカインの濃度および/または炎症反応を減少させる能力を有する、IL-10/IL-10R1発現ベクター組成物を指す。本発明の治療用組成物は、公知の動物モデルのいずれかにおいて測定されたときまたはヒトにおいて実行された評価により、例えば、MS、慢性疼痛、関節の炎症、神経炎症および自己免疫疾患を処置することにおいて有用である。
【0031】
「処置」または炎症を「処置すること」は:(1)炎症にかかりやすい可能性があるが、まだ症状を経験または表示していない対象において、炎症を減少させるかまたはより弱く炎症を起こさせること、(2)炎症を阻害すること、すなわち、炎症の発生を停止させるかまたは炎症により引き起こされた症状もしくは生理学的損傷を逆転させること、あるいは(3)炎症に起因する生理学的損傷を減少させるかまたは逆転させることを含む。
【0032】
「ベクター」は、別の異種DNAセグメントがそこへ挿入され得る、プラスミド、ファージ、ウイルス構築物、コスミド、細菌の人工染色体、ヒト由来の人工染色体または酵母の人工染色体のようなレプリコンである。本願明細書中で、ベクターは、形質導入し、IL-10およびIL-10R1ペプチドを発現するために使用される。
【0033】
本願明細書に記載の技術の実践は、別段の指示のない限り、当分野における実践者の能力内にある、有機化学、ポリマーテクノロジー、(組換え技術を含む)分子生物学、細胞生物学、生化学、およびシーケンシングテクノロジーの従来技術および記述を採用し得る。好適な技術の特定の例示は、本願明細書中の例を参照することにより得られ得る。しかしながら、他の等価な従来手順ももちろん使用され得る。そのような従来技術および記述は、そのすべてが、すべての目的のために全体として本願明細書に援用される、ルデュー(LeDoux)(Ed.)(2005)「運動障害の動物モデル(Animal Models of Movement Disorders)」(Academic Press);チョウら(Chow,et al.,)(2008),「生物医学研究において動物モデルを使用すること(Using Animal Models in Biomedical Research)」(World Scientific Publishing Co.);ウェイアーおよびブラックウエル(Weir and Blackwell)(Eds.),「実験免疫学のハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」Vols.I-IV(Blackwell Scientific Publications);クレイトン(Creighton)(1993)「タンパク質:構造および分子特性(Proteins:Structures and Molecular Properties)」(W.H. Freeman and Company);サンブルークおよびラッセル(Sambrook and Russell)(2006)「分子クローニングからの縮約プロトコール:実験室マニュアル(Condensed Protocols from Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」;ならびにサンブルークおよびラッセル(Sambrook and Russell)(2002)「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(両方ともCold Spring Harbor Laboratory Pressより);ストライヤー、L.(Stryer,L.)(1995)「生化学(Biochemistry)」Fourth Ed.(W.H.Freeman);ガイト(Gait)(1984)「オリゴヌクレオチド合成:実践的アプローチ(Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach)」(IRL Press);ネルソンおよびコックス(Nelson and Cox)(2000)「レーニンジャー、生化学の原理(Lehninger,Principles of Biochemistry)」Third Ed.(W.H.Freeman);ならびにベルグら(Berg et al.)(2002)「生化学(Biochemistry)」Fifth Ed.(W.H.Freeman)のような標準的な実験室マニュアル中に見出され得る。
【0034】
本願明細書中および添付の特許請求の範囲中で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈による明らかな別段の規定のない限り、複数の指示物を含むことに注意されたい。
【0035】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間にある各介在値および記述された範囲内の任意の他の記述された値もしくは介在値は、本発明に包含されると理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立してそのより小さな範囲に含まれることができ、本発明にも包含され、記述された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従う。記述された範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれた両限界のいずれかを除外する範囲も、本発明に含まれる。
【0036】
以下の説明において、本発明のより完全な理解を提供するために、多数の具体的細目が述べられる。しかしながら、これらの具体的細目の1つまたは複数なしに本発明が実践され得ることは当業者に明らかであろう。他の場合には、本発明をあいまいにすることを避けるために、周知の特徴および当業者に周知の手順は記述されていない。
【0037】
本発明の方法
本発明は、インターロイキン10(IL-10)コード配列および1型インターロイキン10受容体(IL-10R1)コード配列を発現するベクターを対象に投与することにより、炎症に関連する疾患および状態を処置するための方法を提供する。好ましい実施形態では、IL-10およびIL-10R1ペプチドは、単一の発現ベクターから発現されるが;代替的実施形態では、IL-10およびIL-10R1のコード配列は、異なる発現ベクターから発現される。一部の実施形態では、IL-10/IL-10R1発現ベクターは、例えば、(例えば、慢性疼痛、神経炎症、MSもしくは自己免疫疾患を処置するために)髄腔内投与を介して、または(関節の炎症を処置するために)関節内注射により対象に投与される。なお他の実施形態では、IL-10/IL-10R1発現ベクターは、細胞治療を介して対象に投与され;すなわち、対象から採取された抗原提示細胞を含む、抗原提示細胞を形質転換または形質導入するために、IL-10/IL-10R1発現ベクターが最初に使用され、次いで、抗原提示細胞が対象に投与される。本発明の方法は、炎症および慢性疼痛、MS、自己免疫疾患、神経炎症および関節の炎症を含むが、それに限定されない任意の疾患または状態に関連する炎症により引き起こされた生理学的損傷を処置するために使用され得る。
【0038】
抗炎症性サイトカインインターロイキン10(IL-10)の作用により、スペクトルの広い炎症メディエーターの顕著な抑制が達成可能であることが見出された。IL-10は、星状細胞およびミクログリア両方の自然の産物であり、これらの細胞によりもたらされた限局性の炎症反応のオートクリン制御を生じさせるこれらの細胞により発現される受容体に結合する。炎症の複雑性により、正常なミクログリア機能を再構築する能力を有する任意の作用物質が多くの異なるサブシステムを同時にターゲティングできなければならない。IL-10は、2つの受容体:IL-10R1およびIL-10R2とともに三分子複合体を形成し;主にIL-10R1に結合し(ディングら(Ding et al.)J.Immunol.,167(12):6884-92(2001))、次いで、この複合体がIL-10R2に係合する。IL-10R2は、IL-22およびその主要受容体とも複合体形成する、IL-10R1よりも豊富で無差別なシグナル伝達サブユニットである(コテンコら(Kotenko et al.)J.Biol.Chem.276(4):2725-32(2001))。IL-10R1は、抗原提示細胞の細胞膜に低レベルで存在し、IL-10シグナル伝達により、およびLPSのような炎症メディエーターにより上方制御される(レデボアーら(Ledeboer et al.)Eur.J.Neurosci.16(7):1175-85(2002))。上方制御は、JAK1、TYK2およびSTAT1およびSTAT3のような下流のエフェクター分子を活性化するIL-10R2受容体により、シグナル伝達を亢進し、PI3K-AKTにより間接的にシグナル伝達を亢進する。この協調的なシグナル伝達は、IL-10の抗炎症効果だけでなく、IgG産生およびB細胞増殖を刺激するその能力に関与するとともに、マクロファージおよびT細胞のような抗原提示細胞上の抗原提示を下方制御する。IL-10が標的細胞を過剰刺激する場合、サイトカインシグナル抑制因子(SOCS)と呼ばれる8つのタンパク質のクラスの2つのメンバーが誘導される(ディングら(Ding et al.)J.Immunol.170(3):1383-91(2003)、カージら(Kazi et al.)Cell Mol.Life Sci.,71(17):3297-3310(2014))。SOCS1およびSOCS3は、濃度依存性の方法でIL-10により誘導されるが、SOCS1はIL-10シグナル伝達を特異的に阻害し(ディングら(Ding et al.)2003、上記)、IL-10R1は、SOCS3、E3ユビキチンリガーゼによりユビキチン化され、それによって、プロテアソームターゲティングにより膜結合型IL-10R1を下方制御する(ウェイら(Wei et al.)J.Interferon Cytokine Res.26(5):281-90(2006))。本発明者らは、約0.5ng/mLを超える濃度において、IL-10が逆説的な方法で自身の活性を阻害することを見出した。いずれの理論にもとらわれるものではないが、この阻害は、髄腔内プラスミドIL-10が12週間以下の効果を提供する一方で、なぜウイルス介在性のIL-10発現が、構成的であるにもかかわらず比較的迅速に消えていく神経障害性疼痛に対する早期の治療効果を有するのかを説明することができる。すなわち、IL-10プラスミド注射後に見られるもっと低濃度の脳脊髄液IL-10(約150pg/mL)による疼痛へのより大きな効果とは対照的に、なぜアデノウイルスにより推進された非常に高レベルの脳脊髄液IL-10濃度(約10ng/mL)が、疼痛に対する治療効果をもたらさないのかを説明するのがこの現象である。よって、本発明は、IL-10をその主要受容体IL-10R1とともに同時発現することにより、IL-10の治療窓を劇的に拡張する第2世代の治療法を提供して、抗原提示(IL-10R2陽性)細胞における構成的オートクリンシグナル伝達を達成する。
【0039】
一般に、本発明は、炎症性疾患および状態だけでなく、炎症性疾患に関連する症状および生理学的損傷を処置するための方法および治療用抗炎症組成物を提供する。本発明は、本発明の治療用組成物と併せて「カクテル」中で使用され得る、医薬品、小分子および/または生物製剤を識別することを含む、炎症性疾患の研究における本発明の方法および治療用抗炎症組成物を使用することも提供する。方法は、IL-10コード配列およびIL-10R1コード配列を含むIL-10/IL-10R1発現ベクターを対象に投与する工程を含む。本発明のIL-10/IL-10R1発現ベクターは、一般に、希釈剤中に懸濁されて、治療用組成物を形成する。抗炎症治療用組成物は、IL-10およびIL-10R1のコード配列の両方を発現し、対象中の抗原提示細胞を形質転換もしくは形質導入することのできる単一の「裸の」細菌ベクターもしくはウイルスベクター、一方のベクターがIL-10ペプチドをコードし、ベクターがIL-10R1ペプチドをコードする、2つの細菌もしくはウイルスベクター、被包化ベクター、またはIL-10およびIL-10R1を発現する、形質導入された抗原提示細胞からなることができる。
【0040】
ベクターおよびベクター構成要素
本発明の方法の一部の実施形態で使用されるIL-10/IL-10R1発現ベクターは、細菌骨格(プラスミドDNA)またはウイルス骨格;IL-10コード配列;IL-10R1コード配列;任意選択で、IL-10コード配列および/またはIL-10R1コード配列の5’(上流)、3’(下流)もしくはその両方の、少なくとも1つの核ターゲティング配列;内部リボソーム進入部位(IRES)もしくは自己切断型ペプチド;ならびに少なくとも1つのプロモーターおよび1つまたは複数の他のDNA調節配列を含む。IL-10およびIL-10R1ペプチドが単一のベクターから発現される実施形態が好ましく、本願明細書中で詳述される実施形態であるが、IL-10ペプチドおよびIL-10R1ペプチドが別個のベクター上にコードされ、直接対象に、もしくは次いで対象に送達されるレシピエント抗原提示細胞に同時送達され得ることは理解されるべきである。任意選択で、IL-10/IL-10R1発現ベクターは、IL-10/IL-10R1発現ベクターの調製中に、またはレシピエント抗原提示細胞への送達後に形質転換細胞の選択を可能とするために、1つまたは複数のマーカー配列も含む。
【0041】
IL-10/IL-10R1発現ベクターは、少なくとも1つのIL-10コード配列を含む。IL-10は、野生型形態で使用されてもよく、またはIL-10は突然変異IL-10であってもよい。特に興味深い1つの突然変異IL-10は、野生型IL-10に比較してアミノ酸置換、付加または欠失をIL-10タンパク質の「ヒンジ」領域において引き起こす、1つまたは複数の突然変異を含有する。ヒトのIL-10タンパク質はホモダイマーであり、各モノマーが、その長さがそれぞれ21、8、19、20、12および23アミノ酸である、6個のアルファヘリックスA→Fを含む。1つのモノマーのヘリックスA→Dは、第2のモノマーのヘリックスEおよびFと非共有結合により相互作用して、非共有結合によるV形のホモダイマーを形成する。本発明による突然変異のためにターゲティングされる「ヒンジ」領域は、野生型IL-10の一方または両方のモノマーのDおよびEアルファヘリックスの間にアミノ酸を含む。例えば、突然変異ラットおよびヒトのIL-10タンパク質は、野生型配列の129位のフェニルアラニンがセリン残基で置き換えられていると記載されている(例えば、ソマーら(Sommer,et al)国際公開第WO2006/130580号およびミリガンら(Milligan,et al.)Pain 126:294-308(2006)を参照されたい)。結果として生じた突然変異IL-10は、IL-10F129Sと称される。アミノ酸位置129の野生型フェニルアラニンについての他の置換は、例えば、スレオニン、アラニン、またはシステインであり得る。よって、なお別の態様において本発明は、IL-10タンパク質のヒンジ領域内のアミノ酸位置129においてまたは他のアミノ酸において1つまたは複数の置換を包含する。
【0042】
IL-10R1(ヒトのNCBI参照配列:NP_001549.2)は、主に抗原提示細胞である、ある特定の細胞タイプの表面上に発現された単一の膜貫通ドメインを有する糖タンパク質である。IL-10R1は、IL-10を結合し、IL-10の生物学的活性に必須である。IL-10のその細胞表面受容体への結合は、JAK-STATシグナル伝達経路を活性化する。リガンド-受容体相互作用に続いて、受容体関連ヤヌスチロシンキナーゼ(JAK)ファミリーのメンバーである(IL-10R1に関連する)Jak1および(IL-10R2に関連する)Tyk2がリン酸化される。IL-10R1は、SOCS3によるユビキチン化後にプロテアソームによる分解に供される。
【0043】
一部の実施形態では、ベクターは、細菌、ファージまたはコスミドベクターであり得る。細菌ベクターは、当業者に公知の任意の細菌骨格を利用することができる。典型的に、骨格は、例えば、クローニングを容易にすることを可能とするために適切な制限部位を含有しまたは欠き、容易に産生され、単離されることができ、免疫原性でないなどのものから選択される。使用され得る代表的なベクターとしては、組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAに由来するものが挙げられるが、これに限定されない。例えば、pBR322、pUC 19/18、pUC 118、119のようなプラスミドベクターおよびベクターのM13 mpシリーズが使用され得る。バクテリオファージベクターは、λgt10、λgt11、λgt18~23、λZAP/RおよびバクテリオファージベクターのEMBLシリーズを含み得る。利用され得るコスミドベクターは、pJB8、pCV 103、pCV 107、pCV 108、pTM、pMCS、pNNL、pHSG274、COS202、COS203、pWE15、pWE16およびベクターのシャロミド9シリーズを含むが、これに限定されない。追加のベクターは、機能的稔性プラスミド(F-プラスミド)に基づく細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)およびP1バクテリオファージのDNA由来のDNA構築物(PAC)を含む。
【0044】
代替的な実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。一般に、遺伝子治療において使用される5つの最も一般的に使用されるウイルスシステムのクラスは、そのゲノムが宿主細胞のクロマチンに組み込まれるか(オンコレトロウイルスおよびレンチウイルス)または大部分が染色体外エピソームとして細胞核中に存続するか(アデノ随伴ウイルス、アデノウイルスおよびヘルペスウイルス)によって2つの群に分類され得る。
【0045】
本発明のIL-10発現構築物とともに有用な1つのウイルス送達システムは、レトロウイルス科からのウイルスに基づくシステムである。レトロウイルスは、2つの独特な特徴により特徴付けられる一本鎖RNA動物ウイルスを含む。第一に、レトロウイルスのゲノムは、RNAの2つのコピーからなる二倍体である。第二に、このRNAは、ビリオン関連酵素逆転写酵素(virion-associated enzyme reverse transcriptase)により、二本鎖DNAに転写される。この二本鎖DNAまたはプロウイルスは、次いで、宿主ゲノムに組み込まれ、宿主ゲノムに安定に組み込まれた構成要素として親細胞から子孫細胞へ伝えられる。
【0046】
一部の実施形態では、形質導入された抗原提示細胞が、対象に投与される治療用抗炎症組成物である実施形態において特に、レンチウイルスが本発明における使用のためのレトロウイルス科の好ましいメンバーである。レンチウイルスベクターは、水泡性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)によりシュードタイプ化されることが多く、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体である、ヒト免疫不全ウイルス(HIV);ヒツジにおいて脳炎(ビスナ)または肺炎を引き起こす、ビスナマエディウイルス;自己免疫溶血性貧血および脳障害をウマにおいて引き起こす、ウマ感染性貧血ウイルス(EIA V);免疫不全をネコにおいて引き起こす、ネコ免疫不全ウイルス(FIV);リンパ節腫脹およびリンパ球増加症をウシにおいて引き起こす、ウシ免疫不全ウイルス(BIV);免疫不全および脳障害を非ヒト霊長類において引き起こす、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)に由来する。HIVに基づくベクターは一般に、親ゲノムの5%未満を保持し、ゲノムの25%未満が、複製を逆転することが可能なHIVの生成の可能性を最小化するパッケージング構築物に組み込まれる。長い末端反復配列の下流における制御エレメントの欠失を含有し、ベクター動員に必要とされるパッケージングシグナルの転写を排除する自己不活性化ベクターの開発により、バイオセイフティーはさらに増大した。レンチウイルスベクターの使用の主な利益は、遺伝子導入がほとんどの組織または細胞タイプにおいて持続的であることである。
【0047】
本発明の別の実施形態では、パルボウイルス科からのウイルスが利用される。パルボウイルス科は、およそ5000ヌクレオチド長のゲノムを有する、小さな一本鎖のエンベロープを有さないDNAウイルスのファミリーを含む。このファミリーメンバーには、アデノ随伴ウイルス(AAV)、定義上は、増殖性の感染サイクルを開始し維持するために別のウイルス(典型的に、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)との同時感染を必要とする依存性パルボウイルス(dependent parvovirus)が含まれる。そのようなヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは受容体介在性の結合および内部移行により標的細胞に感染または形質導入する能力がまだあり、非分裂細胞および分裂細胞の両方において核に侵入する。
【0048】
アデノウイルス(Ad)は、50超の血清型を含む比較的よく特徴付けされた均質なウイルス群である。例えば、PCT国際出願公開第WO95/27071号を参照されたい。アデノウイルスは、中程度のサイズ(90~100nm)の、エンベロープを有さない(外部脂質二重層を有さない)、ヌクレオカプシドおよび二本鎖線状DNAゲノムからなる正二十面体ウイルスである。ヒトでは57の記載されている血清型があり、これらは子供における上気道感染の5~10%に関与し、成人における多くの感染症も同様である。これらはボルチモア分類スキーム(Baltimore classification scheme)に従ってグループIに分類されており、これらのゲノムが二本鎖DNAからなり、エンベロープを有さない最大のウイルスであることを意味する。その大きなサイズにより、これらはエンドソームを通って輸送されることができる(すなわち、エンベロープ融合が必要でない)。ビリオンも独特の「スパイク」または宿主細胞の表面上のコクサッキー-アデノウイルス受容体を介する宿主細胞への付着を助ける、カプシドの各ペントンベースと結合した線維を有する。アデノウイルスゲノムは、ウイルスが理論上22~40個の遺伝子を保有することを可能とする、26から45kbの間の非分割型の線状二本鎖(ds)DNAである。これは、そのボルチモアグループの他のウイルスよりも顕著に大きいが、まだ非常に単純なウイルスであり、生存および複製のために宿主細胞に大きく依存している。ウイルスが宿主細胞中に進入したら、エンドソームが酸性化し、これがカプシド構成要素を解離させることによってウイルスのトポロジーを変化させる。細胞微小管の助けにより、ウイルスは核膜孔複合体に輸送され、ここでアデノウイルス粒子が解体する。その後、ウイルスDNAが放出され、これは、核孔を介して核に進入することができる。この後、DNAはヒストン分子と会合する。こうして、ウイルス遺伝子の発現が起こることができ、新しいウイルス粒子が産生され得る。
【0049】
レンチウイルスとは異なり、アデノウイルスDNAは、ゲノムに組み込まれず、細胞分裂の間に複製されない。組換えアデノウイルス由来のベクター、特に野生型ウイルスの組換えおよび産生能力の減少したものも、構築された。PCT国際出願公開第WO95/00655号および同第WO95/11984号を参照されたい。
【0050】
宿主細胞への組込みにより、in vivoでウイルスにコードされた導入遺伝子を安定に維持する、遺伝子欠損アデノウイルス-トランスポゾンベクター(ヤントら(Yant,et al.)Nature Biotech.20:999-1004(2002)を参照されたい);シンドビスウイルスもしくはセムリキフォレストウイルス由来のシステム(ペリーら(Perri,et al.)J.Virol.74(20):9802-07(2002)を参照されたい);ニューカッスル病ウイルスもしくはセンダイウイルス由来のシステム;または細菌DNA配列を欠くミニサークルDNAベクター(チェンら(Chen,et al.)Molecular Therapy.8(3):495-500(2003)を参照されたい)を含むが、それに限定されない、当業者に公知の他のウイルスまたは非ウイルスシステムも、本発明のIL-10/IL-10R1発現ベクターを対象に送達するために使用され得る。米国特許出願公開第2004/0214329号に記載のミニサークルDNAは、持続的に高レベルの核酸転写を提供するベクターを開示している。
【0051】
IL-10およびIL-10R1のコード配列に加えて、核ターゲティング配列が本発明のIL-10/IL-10R1発現ベクター中に存在し得る。核ターゲティング配列は、IL-10コード配列およびIL-10R1コード配列によりコードされたタンパク質の発現を促進する配列である。例えば、一態様では、核ターゲティング配列は、核輸送シャペロンタンパク質に結合して、細胞核によるプラスミドDNAの取り込みを容易化し得る。そのような配列は、転位因子のような散在性(または分散型)DNAリピートまたは反復配列、SV40のようなレトロウイルスゲノム上の末端反復配列(LTR)のようなフランキングまたはターミナルリピート、タンデムリピート、ならびにアデノ随伴ウイルスおよびアデノウイルスのようなウイルスゲノムの末端逆位配列(ITR)を含むが、これに限定されない。他の態様では、核ターゲティング配列は、エンハンサー配列のような、核への移入のための転写因子を結合するために作用する。
【0052】
ベクター骨格、IL-10およびIL-10R1のコード配列、ならびに任意選択で1つまたは複数の核ターゲティング配列に加えて、本発明のIL-10/IL-10R1発現ベクターは、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流制御ドメイン、複製起点、内部リボソーム進入部位などのような、レシピエント細胞中でのIL-10/IL-10R1コード配列の複製、転写および翻訳をまとめて提供する1つまたは複数のDNA調節配列を含む。適切な宿主細胞中でIL-10/IL-10R1コード配列が複製され、転写され、翻訳されることができる限り、これらの調節配列のすべてが常に存在する必要はない。
【0053】
特に、本発明のIL-10/IL-10R1発現ベクターは、IL-10およびIL-10R1のコード配列の転写を推進する、少なくとも1つのプロモーターを含む。好ましい実施形態では、このプロモーターは構成的プロモーターである。プロモーターに言及される場合、用語「構成的」は、そのプロモーターが特定の刺激(例えば、熱ショック、化学物質、光など)の非存在下で、作動可能に連結された核酸配列の転写を指示することを意味する。典型的に、構成的プロモーターは、実質的にいかなる細胞およびいかなる組織においてもコード配列の発現を指示することができる。IL-10/IL-10R1ペプチドを転写するために使用されるプロモーターは、好ましくは、RNAポリメラーゼIIにより調節されるユビキチン、CMV、ベータアクチン、ヒストンH4、EF-1アルファまたはPGK遺伝子のためのプロモーターのような構成的プロモーター、またはRNAポリメラーゼIにより調節されるプロモーターエレメントである。好ましい実施形態では、U6プロモーター(U6-1、U6-8、U6-9など)、H1プロモーター、7SLプロモーター、ヒトYプロモーター(hY1、hY3、hY4およびhY5)、ヒトMRP-7-2プロモーター、アデノウイルスVA1プロモーター、ヒトtRNAプロモーター、5sリボソームRNAプロモーターだけでなく、これらのプロモーターのいずれかの機能的ハイブリッドおよび組合せのような、RNAポリメラーゼIIIにより調節されるプロモーターエレメントが使用される。
【0054】
代替的な実施形態では、IL-10/IL-10R1コード配列は、抗生物質テトラサイクリンまたはドキシサイクリンのようなその誘導体の存在下で、転写が可逆的にオン(Tet-On)またはオフ(Tet-Off)される、テトラサイクリンにより調節される転写活性化のような誘導性プロモーターの調節下にあり得る。Tet-Offシステムにおいては、テトラサイクリン応答エレメントにより調節される遺伝子の発現が、テトラサイクリンおよびその誘導体により阻止され得る。テトラサイクリンは、テトラサイクリントランス活性化因子タンパク質に結合し、それをテトラサイクリン応答エレメント配列に結合不能とし、テトラサイクリン応答エレメントにより調節される遺伝子のトランス活性化を防止する。一方、Tet-Onシステムにおいては、テトラサイクリン転写活性化タンパク質が、テトラサイクリンにより結合された場合にのみ、発現を開始することができ;よって、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンの導入が、IL-10/IL-10R1ペプチドの転写を開始する。当分野で公知の別の誘導性プロモーターは、エストロゲン受容体条件遺伝子発現システムである。Tetシステムに比較して、エストロゲン受容体システムは厳密に調節されないが;Tetシステムは、標的遺伝子の転写およびその後の翻訳に依存するため、Tetシステムはエストロゲン受容体システムほど高速に作動しない。
【0055】
本発明の方法は、同じ抗原提示細胞におけるIL-10およびIL-10R1ペプチドの同時発現に引き寄せられる。これを達成するために、当業者は、2つもしくはそれ超のプラスミドの同時トランスフェクション、多方向もしくは二方向プロモーターの使用、または好ましくは、バイシストロニックもしくはマルチシストロニックベクターの創製を含む多くの技術を採用し得る。発現される各遺伝子について独特のmRNA転写物を創製するプロモーターとは異なり、マルチシストロニックベクターは2つもしくはそれ超の別個のペプチド、この場合、IL-10およびIL-10R1ペプチド、を同じmRNAから同時に発現する。真核生物における翻訳は、通常、各mRNAについて単一の翻訳事象のみが起こるように、5’capから始まる。しかしながら、一部のバイシストロニックベクターは、内部リボソーム進入部位(IRES)と呼ばれるエレメントを利用して、mRNAの内部領域からの翻訳の開始を可能とする。
【0056】
代替的に、マルチシストロニックベクター中のIRESエレメントの代わりに「自己切断型」2Aペプチドが使用され得る。自己切断型ペプチドは短く(約20アミノ酸)、同じ単一のmRNAから等モルレベルの複数の遺伝子を産生する。「切断」は、2つの異なるペプチドのコード領域の間に置かれた自己切断型ペプチドのC末端に見出されるグリシンおよびプロリン残基の間で起こる。一般的な2A自己切断型ペプチドは、ペプチドT2A、P2A、E2AおよびF2Aを含む。
【0057】
任意選択で、本発明のベクターは、抗生物質耐性をコードするもののような選択マーカー遺伝子も含む。本発明における使用に有用なマーカー遺伝子は、(米国特許第6,365,373号に記載されたような、モノクローナル抗体(MAb)により検出される)ヒト神経成長因子受容体;(MAbにより検出される)切断型ヒト成長因子受容体;突然変異ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR;蛍光MTX基質が利用可能);分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP;蛍光基質が利用可能);ヒトチミジレートシンターゼ(TS;抗がん剤フルオロデオキシウリジンに対する耐性を与える);ヒトグルタチオンS-トランスフェラーゼアルファ(GSTA1;グルタチオンを幹細胞選択的アルキル化剤ブスルファンにコンジュゲーションする;CD34+細胞における化学保護剤選択マーカー);造血幹細胞中のCD24細胞表面抗原;N-ホスホンアセチル-L-アスパラギン酸(PALA)に対する耐性を与えるためのヒトCAD遺伝子;ヒト多剤耐性-1(MDR-1;増大した薬剤耐性により選択可能であるかまたはFACSにより濃縮されるP糖タンパク質表面タンパク質);ヒトCD25(IL-2α;MAb-FITCにより検出可能);メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT;カルムスチンにより選択可能);およびシチジンデアミナーゼ(CD;Ara-Cにより選択可能)を含むが、それに限定されない。ピューロマイシン、ヒグロマイシン、ブラスチシジン、G418、テトラサイクリンのような薬剤選択マーカーも採用され得る。加えて、FACsソーティングを使用して、化学発光マーカー(例えば、Halotag)などのように任意の蛍光マーカー遺伝子が正の選択のために使用され得る。
【0058】
髄腔内または関節内注射を介する対象への直接のIL-10/IL-10R1発現ベクターの送達が企図される場合、IL-10/IL-10R1発現ベクターは、上記の通りウイルスに基づくことが好ましい。しかしながら、形質転換されたまたは形質導入された抗原提示細胞が以下により詳細に記載される通りに対象に投与される実施形態では、最適な抗原提示細胞が工学的に操作されて、IL-10およびIL-10R1ペプチドを発現するヒト人工染色体を産生することができることも企図される。完全に機能的なヒト人工染色体は、増大したペイロードサイズ、染色体外維持が宿主細胞の破壊を回避し、導入された遺伝子の転写サイレンシングおよび可能性のある免疫学的合併症が回避されるという事実を含む、ウイルスに基づく送達システムに対する数個の利点がある。現在、「トップダウン」法、「ボトムアップ」法、ミニ染色体を創製すること、および誘導性de novo染色体生成(induced de novo chromosome generation)を含む、ヒト人工染色体を工学的に操作するための数種の方法がある。人工染色体形成の「ボトムアップ」アプローチは、クローニングされたαサテライト配列による許容細胞株のトランスフェクションに続く細胞介在性de novo染色体形成に依存し、これは、テロメアおよびゲノムDNAとともにまたは伴わずに、典型的な宿主細胞に適切な動原体および選択マーカー遺伝子を含む。(これらの方法のプロトコールおよび詳細な説明については、例えば、へニングら(Henning,et al.)PNAS USA 96:592-97(1999);グリムスら(Grimes,et al.)EMBO Rep.2:910-14(2001);メジアら(Mejia,et al.)Genomics 79:297-304(2002);およびグリムスら(Grimes,et al.)Mol.Ther.5:798-805(2002)を参照されたい)。人工染色体を産生する「トップダウン」アプローチは、既存の染色体アームのランダムなおよび/またはターゲティングされた切断を連続して繰り返すことを含み、動原体、テロメアおよびDNA複製起点を含む、切り詰められた人工染色体をもたらす。(これらの方法のプロトコールおよび詳細な説明については、例えば、チュー(Choo)Trends Mol.Med.7:235-37(2001);バーネットら(Barnett,et al.)Nuc.Ac.Res.21:27-36(1993);およびカトウら(Katoh,et al.)Biochem.Biophys.Res.Commun.321:280-90(2004)を参照されたい)。「トップダウン」人工染色体は、天然に存在する発現された遺伝子を含まないように構築され、例えば、部位特異的DNAインテグラーゼにより仲介される標的DNA配列の切断型染色体への部位特異的組込みを許容するDNA配列を含有するように工学的に操作されることが最適である。
【0059】
当分野で公知の人工染色体を産生する第3の方法は、天然に存在するミニ染色体を工学的に操作することである。この産生方法は、典型的に、動原体機能を有するが、αサテライトDNA配列を欠き、非必須DNAを欠くように工学的に操作された機能的な、例えば、ヒト新生動原体を含有する染色体の照射により誘発されたフラグメンテーションを含む。(これらの方法のプロトコールおよび詳細な説明については、例えば、オーリッシェら(Auriche,et al.)EMBO Rep.2:102-07(2001);モラーリら(Moralli,et al.)Cytogenet.Cell Genet,94:113-20(2001);およびカリンら(Carine,et al.)Somat.Cell Mol.Genet.15:445-460(1989)を参照されたい)。人工染色体を生成するための他の方法と同様、工学的に操作されたミニ染色体は、IL-10およびIL-10R1配列のような標的DNA配列の部位特異的組込みを許容するDNA配列を含有するように工学的に操作され得る。人工染色体の産生のための第4のアプローチは、特定の染色体セグメントのターゲティングされた増幅による誘発性de novo染色体生成を含む。このアプローチは、末端動原体型染色体上に位置する動原体周囲の/リボソームDNA領域の大規模な増幅を含む。増幅は、リボソームRNAのような染色体の動原体周囲領域に特異的な過剰のDNAの、例えば、IL-10およびIL-10R1のコード配列の部位特異的組込みを可能とするDNAならびに染色体の動原体周囲領域に組み込まれる薬剤選択マーカーとの同時トランスフェクションにより引き起こされる。(これらの方法のプロトコールおよび詳細な説明については、例えば、ソンカら(Csonka,et al.)J.Cell Sci 113:3207-16(2002);ハドラツキーら(Hadlaczky,et al.)Curr.Opini.Mol.Ther.3:125-32(2001);およびリンデンバウムおよびパーキンスら(Lindenbaum and Perkins,et al.)Nuc.Ac.Res.32(21):el72(2004)を参照されたい)。このプロセスの間に、同時トランスフェクションされたDNAを用いる末端動原体型染色体の動原体周囲領域へのターゲティングが、複数の部位特異的な組込み部位を含有する「ブレイクオフ」サテライトDNAに基づく人工染色体をもたらす、大規模な染色体DNAの増幅、動原体配列の複製/活性化、ならびに引き続く二動原体染色体の破損および分解を誘発する。
【0060】
送達
IL-10/IL-10R1発現ベクターは、in vivoまたは(ex vivoとも呼ばれる)in vitroのいずれかで対象に導入され得る。in vivoの導入は、IL-10/IL-10R1発現ベクターを対象に直接投与することを含み、in-vitroの導入は、IL-10およびIL-10R1を同時発現するように工学的に操作されている抗原提示細胞を対象に投与することを含む。
【0061】
関節の炎症を処置するための好ましい送達の方法は、皮下針が患部関節に注入され、本発明の治療用抗炎症組成物の用量を送達する、関節注射(関節内注射)である。慢性または神経障害性疼痛、MS,神経炎症、または自己免疫疾患を処置することにおいて、髄腔内投与が好ましい。髄腔内注射は、治療用抗炎症組成物が脳脊髄液に到達するように、脊柱管またはクモ膜下腔への治療用抗炎症組成物の注射を含む。
【0062】
代替的に、in vitroで形質導入された場合、所望の抗原提示レシピエント細胞は、対象から除去され、IL-10/IL-10R1発現ベクターを用いて形質転換されまたは形質導入され、対象に再導入されることが好ましい(すなわち、抗原提示細胞は自己のものである)。しかしながら、代替的に、(IL-10/IL-10R1発現ベクターで安定に形質転換された樹立抗原提示細胞株由来のような)同系または異種抗原提示細胞が、対象における送達のために形質転換されまたは形質導入され得る。形質転換されまたは形質導入され得る抗原提示細胞またはその前駆細胞は、単芽球、単球、星状細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、マクロファージ、B細胞、樹状細胞泡沫細胞、リンパ芽球、およびBリンパ球を含む単球ファミリー由来の任意の細胞を含む。前駆抗原提示細胞は、形質導入され、未分化状態で培養され、次いで、対象への送達前にin vitroで分化し得る。
【0063】
IL-10/IL-10R1発現ベクターは、当分野で公知の任意の方法により工学的に操作される抗原提示細胞へ送達され得る。用語トランスフェクションおよび形質転換は、外来核酸、例えば、発現ベクター、の任意のコード配列が実際に発現されるか否かにかかわりなく、宿主細胞による取り込みを指す。例えば、アグロバクテリウム介在性形質転換、(ポリエチレングリコール(PEG)介在性形質転換、エレクトロポレーション、プロトプラスト融合、およびミクロ細胞融合を含む)プロトプラスト形質転換、脂質介在性送達、リポソーム、エレクトロポレーション、ソノポレーション、マイクロインジェクション、粒子銃および炭化ケイ素ウィスカー介在性形質転換ならびにその組合せ;リン酸カルシウムを使用する直接取り込み;ポリエチレングリコール(PEG)介在性DNA取り込み;リポフェクション;ミクロ細胞融合;脂質介在性担体システムによる多数のトランスフェクション方法;または他の好適な方法が当業者に公知である。成功したトランスフェクションは、一般に、トランスフェクトされた細胞内のIL-10/IL-10R1遺伝子転写物またはIL-10/IL-10R1ペプチドの存在の検出により、認識される。
【0064】
ウイルスベクターは本発明の好ましい実施形態であるため、抗原提示細胞はウイルスベクターを使用して形質導入されることが好ましい。ウイルス感染の使用は、その遺伝材料を細胞中に導入するウイルスの天然に存在する手段が、目的の核酸分子を細胞中に導入することに利用されることにおいて独特である。上記で論述された通り、改変され、そのような技術に適用されるウイルスの例としては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスが挙げられる。一般に、目的の核酸分子はウイルスゲノムへクローニングされ得る。ウイルスゲノムの複製およびパッケージングに際して、結果として生じるウイルス粒子は、目的の核酸をウイルス侵入メカニズムを介して細胞中に送達することができる。一般に、ウイルスゲノムは、目的の核酸の添加前に、核酸操作によって最初に複製欠損とされる。結果として生じるウイルスゲノムまたはウイルスベクターは、ウイルス粒子の構築および細胞からの放出を完了するために、ヘルパーウイルスまたはパッケージングシステムの使用を必要とする。
【0065】
IL-10/IL-10R1発現ベクターが、例えば、髄腔内または関節内注射により直接対象に投与される場合、発現ベクターは、任意選択で、送達のために被包され得る。IL-10/IL-10R1発現ベクターを被包するための技術は、使用される微粒子のタイプによって変化し、そのような技術は、例えば、チャベツら(Chavez,et al.)米国特許出願第14/905,915号に記載されている。微粒子は、任意の生物分解性ポリマーからなることができる。本発明の調節された薬物送達製剤中の生物分解性ポリマーとしてうまく使用されるためには、材料は化学的に不活性であり、滲出性の不純物を含まないものでなければならない。理想的には、ポリマーは、適切な物理学的構造を有し、望ましくない劣化が最小限であり、容易に加工可能でもある。一部の材料は、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(メタクリル酸)を含む。本発明における特別な用途の生物分解性ポリマーは、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ラクチドグリコリド共重合体(PGLA)、ポリ無水物、ポリカプロラクトン、ポリ-3-ヒドロキシブチル酸、およびポリオルトエステルを含む。そのような生物分解性ポリマーは、広く特徴付けされ、当分野で公知の通り、所望の分解特性を示すように製剤化され得る(例えば、エドルンド&アルバートソン(Edlund&Albertsson)「分解性脂肪族ポリエステル(Degradable Aliphatic Polyesters)」pp.67-112(2002)、バーマンら(Barman,et al.)J. of Controlled Release 69:337-344(2000);コーエンら(Cohen,et al.)Pharmaceutical Res.(8):713-720(1991)を参照されたい)。
【0066】
本発明の特別な一実施形態では、ポリマーは、ラクチドグリコリド共重合体(PLGA)を含む。PLGAは、その生物分解性および生物的適合性のおかげでFDAにより承認された治療用装置の宿主において使用される共重合体である。重合化のために使用されるラクチド対グリコリドの割合によって、異なる形態のPLGAが得られることができ;これらは通常、使用されるモノマーの割合に関して識別される(例えば、PGLA75:25は、その組成が75%(モルパーセント)乳酸および25%(モルパーセント)グリコール酸である共重合体を識別する)。PLGAは、水の存在下でそのエステル結合の加水分解により分解する。PLGAの分解に必要とされる時間が、生産に使用されるモノマーの割合に関係し:グリコリド単位の含有量が高いほど、分解に必要とされる時間が短い。この規則の例外は、速い分解(約2か月)を示す50:50のモノマーの割合を有する共重合体である。加えて、(遊離のカルボン酸と対照的に)エステルでエンドキャップされたポリマーは、より長い分解半減期を実証する。代替的に、IL-10/IL-10R1発現ベクターは、異なる放出プロファイルを有する微粒子のバッチ中に被包されることができ;例えば、送達される発現ベクターの10%が、例えば、1日~4週間の放出プロファイルを有する微粒子中に被包されることができ;送達される発現ベクターの30%が、例えば、3週間~6週間の放出プロファイルを有する微粒子中に被包されることができ;送達される発現ベクターの30%が、例えば、6週間~10週間の放出プロファイルを有する微粒子中に被包されることができ;送達される発現ベクターの30%が、例えば、8週間~12週間の放出プロファイルを有する微粒子中に被包されることができる。そのような実施形態では、単一のタイプの生物分解性ポリマーが使用され得るが、異なる放出プロファイルを有する製剤中で使用され;代替的に、異なる放出特性を有する異なる生物分解性ポリマーが使用され得る。
【0067】
微粒子が得られると、それらは動物への投与のための治療用組成物を形成するために許容できる希釈剤に懸濁される。そのような希釈剤(または賦形剤)は、それ自体が組成物を受容する個体に有害な抗体の産生を誘発せず、過度の毒性なく投与され得る任意の医薬品を含む。薬学的に許容される希釈剤は、ソルビトール、ミョウバン、デキストラン、スルフェート、大きなポリマーアニオン、様々なTWEEN化合物のいずれか、および水、生理食塩水、グリセロールもしくはエタノールのような液体、油と水の懸濁液、またはフロイントアジュバントのようなアジュバントを含み得る。
【0068】
本発明の方法および治療用抗炎症組成物は対象において顕著に免疫応答または用量寛容を誘発しないため、治療効果のために必要に応じて使用および/または投与され得る。すなわち、治療用抗炎症組成物は、より短期の治療についての治療効果の必要に応じて、およそ30~90日毎に(または、例えば、ベクタータイプ(細菌、(組込み型であるか否かの)ウイルス、人工染色体)、および生物分解性ポリマーの分解プロファイルによる必要に応じて)送達され得る。例えば、より長期の治療が望ましい場合、治療用組成物は、1年超の治療効果;および必要であれば、対象の寿命の必要に応じて、およそ90日毎に送達され得る。
【0069】
本発明の方法において使用される治療用抗炎症組成物の用量範囲は、対象の種、年齢、および一般状態、処置されている状態の重症度および送達される特別なIL-10/IL-10R1発現ベクター、投与様式などに依存して、対象それぞれで変動する。例えば、用量範囲は、注射の所望の持続時間および解剖学的位置に依存して、1kgあたり10~1000μgのベクターDNA、1kgあたり20~500μgのベクターDNA,1kgあたり25~250μgのベクターDNA,または1kgあたり50~100μgのベクターDNAの治療有効用量を含む。
【0070】
本発明の方法において使用されるIL-10/IL-10R1発現ベクターまたはIL-10/IL-10R1発現ベクターを含有する微粒子は、グルココルチコイド;メトトレキサート;ヒドロキシクロロキン;スルファサラジン;レフノミド;エタネルセプト、インフリキシマブおよびアダリムマブのような抗TNF剤;アバタセプト;非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);酢酸ガラティラメルおよびインターフェロンB、ミトキサントロンおよびナタリズマブを含むが、それに限定されない、炎症を処置することにおいて有用な他の治療剤との「カクテル」中で同時投与され得る。加えて、本発明の方法において使用されるIL-10/IL-10R1発現ベクターは、IL-10/IL-10R1発現ベクターを発現するように生物工学的に操作された幹細胞のような細胞とともに同時投与され得る。一般に、当分野で公知の任意の方法が、臨床的および表現型指示薬の両方を含む、ヒトにおける処置の成功をモニターするために使用され得る。
【0071】
処置される状態
本発明の組成物および治療用抗炎症組成物は、IL-10の下方制御を克服して、ロバストなIL-10介在性の炎症抑制を達成するため、したがって、これらは多くの疾患および状態を処置することにおいて有効である。例えば、本発明の方法および治療用抗炎症組成物は、多発性硬化症(MS)により引き起こされた症状および損傷を処置するために使用され得る。MSは、中枢神経系の慢性の、衰弱させることの多い自己免疫疾患である。この疾患は、世界的におよそ250~300万人を苦しめ、米国では約400,000人、毎週200人が診断されている。発症時、約85%の患者が再発寛解型疾患(RRMS)、10%が一次進行型疾患(PPMS)、および5%が進行性再発型疾患(PRMS)を表す。通常、完全な神経学的回復がRRMSの最初のエピソード後に起こるが、これらの患者の約50%は、10年間にわたりその後の再発で持続性の神経障害がだんだん蓄積し、疾患の二次進行期に転換し、だんだんに身体障害性となる。MSの臨床症状は患者それぞれでばらつきが大きい。症状のリストは、認知障害、機能、失明、虚弱、痙縮、協調不全、不均衡、倦怠感、性的、腸および膀胱機能不全、知覚異常および疼痛を含む。臨床的に顕著な疼痛は、65%もの患者においてその疾患の経過にわたって経験され、最も身体障害性のものの一つであり、認識不足であって不適切に処置されることの多い症状である。通常、疼痛は神経障害性であり、関与する損傷されたニューロンに依存して性質が変わる。疼痛が、現行の治療法によって十分に処置されない、顕著なMS症状であることにも注意すべきである。
【0072】
MSに加えて、ミエリンの損失により仲介される他の状態が、本発明の方法および治療用抗炎症組成物を使用して処置され得る。これらの状態は、神経炎症(すなわち、トリソミー21により引き起こされる神経炎症)、虚血性脱髄状態、炎症性脱髄状態、小児白質ジストロフィー、ムコ多糖症、周産期上衣下出血(perinatal germinal matrix hemorrhage)、脳性麻痺、脳室周囲白質軟化症、放射線誘発状態、および様々な原因による皮質下白質脳症だけでなく、統合失調症のような精神疾患を含む。虚血性脱髄状態は、皮質性脳卒中、ラクナ梗塞、低酸素後白質脳症、糖尿病性白質脳症、および高血圧性白質脳症を含む、炎症性脱髄状態は、多発性硬化症、シルダー病、横断性脊髄炎、視神経炎、予防接種後の脳脊髄炎および感染後脳脊髄炎を含む。小児白質ジストロフィー状態は、リソソーム蓄積症(例えば、テイ・サックス病)、カナバン病、ペリツェウス・メルツバッハ病、およびクラッベグロボイドボディ白質ジストロフィー(Crabbe’s Globoid body leukodystrophy)を含む。ムコ多糖症の例は、スライ病である。放射線誘発状態は、放射線誘発白質脳症および放射線誘発脊髄炎を含む。皮質下白質脳症を引き起こす病因は、HIV/AIDS、頭部外傷、および多発梗塞性状態を含む。
【0073】
加えて、本発明の方法および治療用抗炎症組成物は、膝、肘、手首、足首、腰、肩または脊椎における関節の炎症を処置するためにも使用され得る。本発明の方法および治療用抗炎症組成物により処置可能な状態は、リウマチ関節炎および骨関節炎だけでなく、腱炎、滑液包炎、じん帯の炎症、滑膜炎、痛風および全身性エリテマトーデスを含む。
【0074】
本発明の方法および治療用抗炎症組成物のなお別の用途は、自己免疫疾患の処置である。自己免疫疾患は、決定的な機能損失と病理学的症状をもたらす、宿主組織中の特定の標的に対する宿主免疫系の攻撃を表す。この現象の古典的な例は、重症筋無力症の患者における神経筋接合部に存在するニコチン性アセチルコリン受容体に対する抗体の存在である。この受容体は、運動ニューロンから筋肉へのシグナルを伝達することにおいて非常に重要であるため、そのような抗体は、部分的な麻痺および他の神経筋欠損を引き起こす。なぜそのような自己抗体が生じるかは明らかでないが、なんらかの効果のある唯一の処置は、プラスマフェレーシス、すなわち、病的抗体の循環濃度を低減するための血液の血漿分画の交換であった。多くの場合において、特定の疾患の病理を説明する優位な抗体が同定されているが、そのような疾患を処置することにおける現実的な進歩はなかった。これは一部において、研究者らが、寛容性の欠如として自己免疫疾患を考えるよりも、病原性抗体およびその影響に焦点をあてることに固執したからかもしれない。
【0075】
免疫寛容は、抗原に対する抗体に関して先に血清陽性であった動物におけるその抗原の投与に対して削減された応答として定義される。適応免疫系は、所与の抗原の漸増用量に動物を曝露することにより、その抗原を無視するように教えられ得る。これは、脱感作と呼ばれ、主に、ヒトにおいて様々な種類のアレルギー、例えば、ピーナッツアレルギーを処置するために使用される。しかしながら、これは遅く、不確実な方法であり、効果のないことが多い。特別な抗原に対して免疫系がどれだけ反応性であるかは、反応性の細胞傷害性BおよびTリンパ球、ならびに最近発見された制御性BおよびT細胞の間のバランスにより部分的に推進される。IL-10によるこれらの細胞の刺激は、細胞傷害性から寛容性表現型への切り替えを誘発する。実際に、この切り替えは、制御性BおよびT細胞と呼ばれるこれらの同じ細胞からのIL-10の分泌をもたらす。よって、外来性IL-10へのTおよびB細胞の曝露は、抗原への寛容性を誘発すると予測される。しかしながら、実際のところは、外来性IL-10の濃度をこの移行をもたらすための正しい濃度とすることは困難である。これらの細胞におけるIL-10およびIL-10R1の併せた発現は、IL-10の濃度からいささか独立した表現型の切り替えを誘発すると予測される。
【0076】
本発明の方法および治療用抗炎症組成物により処置または寛解させられ得る自己免疫疾患は、心筋炎、ループス腎炎および他のループス障害、間質性膀胱炎、自己免疫性肝炎、円形脱毛症、後天性表皮水泡症、アジソン病、1型糖尿病、グレーブス病、セリアック病、クローン病、潰瘍性大腸炎、再生不良性貧血および他の貧血、強直性脊椎炎、フェルティ症候群、乾癬性関節炎、全身性ループス、シュニッツラー症候群、線維筋痛症、重症筋無力症、ギランバレー症候群、ランバート・イートン筋無力症候群、自己免疫性網膜症、コーガン症候群、グレーブス眼症、強膜炎、メニエール病、チャーグ・ストラウス症候群、川崎病、リウマチ性血管炎、および結節性多発動脈炎を含むが、それに限定されない。加えて、慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群、好酸球性食道炎、胃炎、POEMS症候群、レイノー現象、免疫不全症、および壊疽性膿皮症のような自己免疫疾患に共通する状態も本発明の方法および治療用抗炎症組成物により処置され得る。
【0077】
本発明の追加の対象、利益および新規特徴は、制限的であることを意図されない、その以下の例の試験に際して当業者に明らかとなるであろう。実施例において、推定的に実施化される手順は現在形で記述され、実験室で実行された手順は過去形で述べられる。
【0078】
実施例
以下の例は、本発明を作製し、使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するように提示され、発明者らがその発明であると考えるものの範囲を制限することも意図されず、また以下の実験が実施された実験のすべてであるか唯一のものであるかを表すかまたは暗示するものでもない。広く記載された本発明の精神または範囲から離れることのない特定の実施形態に示されるように、多数の変形および/または改変が本発明に対して行われ得ることが当業者に理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点において例示的であり、限定的でないと考えられるべきである。
【0079】
使用された数(例えば、量、温度など)に関して正確性を保証する努力が行われたが、いくつかの実験誤差および偏差が説明されるべきである。別段の指示のない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏であり、圧力は大気圧またはそれに近い。
【0080】
(実施例1)
発現ベクター
XT-250は、ラットIL-10 cDNAを含有する発現プラスミドであり、単にrIL-10がラットIL-10R1受容体と、ヒトIL-10(hIL-10)よりもかなりよく係合するために、これらの研究において使用される。そのhIL-10対応物、XT-150のように、XT-250は、D-マンノース中のDNAの溶液である。種にかかわらず、使用されたIL-10 cDNAのすべては、疼痛モデルにおいて顕著に長い効果の持続時間を生じさせることが見出された(ミリガンら(Milligan et al.)Pain 126(l-3):294-308(2006))アミノ酸変化F129Sを生じさせる点突然変異を含有する。プラスミド骨格は、カナマイシン耐性遺伝子、CMVプロモーター、β-グロビンイントロン、成長ホルモンポリAおよび2つのAAV2 ITRを含有する。このプラスミドは、AAV9ベクターを作製するためにも使用された。
【0081】
LV02は、hIL-10R1コード配列、それに続く2a、自己切断型ペプチド、およびhIL-10コード配列からなるCMVプロモーターの下流のcDNAとともに、上記制御エレメントを含有する、発現プラスミドである。HT-1080細胞の試験トランスフェクションは、IL-10R1の表面発現およびIL-10の培地への分泌(2.1ng/mL)を明らかにした。
【0082】
(実施例2)
裏付けデータ
IL-10が、種特異性に関していくつかの独自性を表示することは注意されるべきである。例えば、ヒトIL-10はマウスIL-10受容体に結合し、ヒトIL-10はラットIL-10受容体と弱く結合するにもかかわらず、マウスIL-10は、ヒトIL-10受容体と相互作用しない。この理由から、ラットIL-10(rIL-10)は一般にラット実験において使用され、ヒトIL-10(hIL-10)はマウス、イヌおよびウマの研究において使用されてきた。hIL-10が高濃度においてのみ、ラットIL-10受容体を活性化するという事実は、非常に有用な特徴であり、それは、標的ラット組織におけるヒトIL-10R1の同時発現は、ヒトIL-10に対する完全な応答をもたらすからである。送達を単純化するために、rIL-10、hIL-10またはhIL-10R1をコードするアデノ随伴ウイルスが構築された。髄腔内に注射されたときに非常によく分布し、自身がIL-10R1を発現する星状細胞のような抗原提示細胞を含む、広く多様な細胞に形質導入することから、血清型9を選択した。
図1に示される通り、AAV9-hIL-10は、神経障害性疼痛のラット慢性絞扼傷害(CCI)モデルにおいて抗アロジニア性であるが、効果は徐々に消えていく。しかしながら、IL-10およびIL-10R1の併せた発現がずっと高い髄腔内投薬を許容して、脊髄および白質路の至る所で炎症の広範な抑制を推進するという仮説と一致して、AAV9-hIL-10およびAAV9-hIL-10R1の1:1混合物は、このモデルにおけるアロジニアの安定した排除を指示する(
図2)。白丸=AAV9-hIL-10R1;黒丸=AAV9-hIL-10+XR-101;黒四角=AAV9-hIL-10Ra+AAV9-hIL-10。
【0083】
2つのcDNAの投与を単純化するために、その中でEF1αプロモーターがhIL-10R1およびhIL-10の発現を指示するバイシストロニックベクターが構築された。主要翻訳産物は、2a自己切断型ペプチドを含有する。このプラスミドが一過性にHT-180細胞にトランスフェクトされた場合、hIL-10はELISA(R&Dシステムズ(R&D Systems))により培地中でおよそ2ng/mLと容易に検出された。加えて、表面IL-10R1が、トランスフェクトされた細胞中で免疫蛍光により検出されたが、対照細胞では検出されなかった。
【0084】
IL-10のプラスミドに基づく遺伝子導入が、再発寛解型EAEラットにおいて有効であることが見出された(スローンら(Sloane et al.)Brain,Behavior and Immunity、23(1):92-100(2009))。この研究において、PLGA微粒子に被包されたプラスミドが、尾麻痺がすでに起こった場合に、髄腔内に一度に注射された(
図3)。驚くべきことに、IL-10が尾麻痺を逆転させ、MS様の病理を消滅させた。運動スコア:0=正常;1=尾端麻痺;2=完全な尾麻痺;3=後肢脱力;4=後肢麻痺;5=完全な後肢麻痺;6=部分的な前肢麻痺。一群あたりN=6。
【0085】
(実施例3)
運動障害を評価するためのIL-10/IL-10R1発現ベクターによる処置
軽度の再発寛解型MS様病態を誘発するためにMOGを用いて処置されたラットが、尾麻痺のような症状が目に見えるときにこのモデルにおいて有効であることが先に示された(スローンら(Sloane et al.)2009))IL-10プラスミドの用量を髄腔内に注射された。IL-10プラスミドに加えて、ラットの別のコホートが、その中のIL-10 cDNAが、LV02と名付けられたIL-10/IL-10R1カセットで置き換えられている、ほとんど同一のプラスミドの等量を投薬される。この30日間の実験の目標は、より高用量においてLV02がXT-250(IL-10発現のみ)よりもうまく働くかを確証することである。低いプラスミド用量(3μg)では、2つの製剤間でわずかな相違が予想される。しかしながら、XT-250効力の損失が見られる高用量(約100μg)では、LV02の持続した効力が予想される。
【0086】
不完全フロイントアジュバント中に乳化された0.01M 酢酸ナトリウム(pH3.0)(1;1の割合)中、35μgのMOGの髄腔内注射によりEAEを誘発するために、成体雄性Dark Agoutiラット(250~300g;エンヴィゴ社(Envigo))が使用され得る。注射のおよそ1週間後、最終的には安楽死させられる7のスコアまで導く尾麻痺(運動スコア=1)から始まる、進行性の運動障害(およびアロジニア)をラットがはっきりと示す。しかしながら、中間の期間では、動物は再発前に自然に改善する。ラット(一群あたりN=5)は、尾麻痺を表すときに(腰静脈を介して4/5;L4/5)XT-250またはLV02のいずれかを、およそ40μLの体積で髄腔内に注射される。5頭のラットの群が、PBS(対照)またはXT-250もしくはLV02のいずれかのDNA(1,3,7,10、30または100μg)を注射される。次の30日間、運動障害について動物が採点される。
【0087】
(実施例4)
脊髄上位病変の低減を評価するためのIL-10/IL-10R1発現ベクターを用いる処置
運動障害に関する有効性が維持されるが、脊髄上位病変が顕著に低減され(H&E)、脱髄が減少される(Luxol Fast Blue)、LV02の投与が達成される、投与量決定実験が行われる。LV02、XT-250またはPBSが、実施例3で実行した実験において有効であることが見出された最高用量でEAEラット(一群あたりN=5)に髄腔内に注射される。この実験の存命期(in-life phase)は、動物が0のスコア(正常)に戻るとき、通常は2週間未満で終わる。CSFの試料が未処置の動物、LV02投与時で灌流/固定の直前の同じ動物から取得される。動物がPBS、続いてPBS/4%パラホルムアルデヒドを用いて灌流される。脊髄および脳が、薄片作製の前に抗凍結剤(PBS中、30%スクロース)に移される。病変およびリンパ球浸潤を識別するために、脊髄(縦方向)および脳(冠状断)の切片(40ミクロン)がヘマトキシリン-エオシン(H&E)を用いて染色される。脱髄域を識別するために、隣接切片が、Luxol Blueを用いて染色される。切片は、ヒトIL-10R1(Millipore #06-1067)、Iba1(ミクログリア)、GFAP(星状細胞)、およびNeuN(ニューロン)についても染色される。MHC-II抗体を用いる同時染色は、抗原提示細胞の活性化を識別する。各レベルの脊髄(腰部、胸部、頸部)において、H&Eにより識別された縦方向切片中の病変がカウントされる。同様に、脳幹、小脳、後頭葉皮質および前頭皮質からの切片が、H&Eにより、病変の存在について点数化される。PBS対照に比較して、脊髄中のXT-250およびLV02両方において有意な(独立t-検定)病変の低減が予想される。脳幹および皮質白質路においてLV02がXT-250よりもうまく機能する場合、切片あたりの病変に有意な相違が検出されるはずである。
【0088】
(実施例5)
体内分布を評価するための、IL-10/IL-10R1発現ベクターを用いる処置
様々な用量のLV02において脳全体のプラスミドDNAの体内分布が評価される。この実験は、プラスミドが白質路および脊髄全体で経時的にどのように分布するかを理解するためにデザインされる。LV02の実行可能な最高用量(300μg)が、未処置マウスのL4/5を介して髄腔内に注射される(1つの時点あたりN=3)。注射の4時間、7および30日後に、脊髄(腰部、胸部、頸部)、脳幹、後頭葉皮質および前頭皮質から組織が単離される。これらの組織からDNAが抽出され、定量的PCRに供される。この実験は、脳全体にLV02がどのように分布するか、およびそれが長期にわたって持続するかを明らかにする。
【0089】
(実施例6)
統計解析
運動障害スコアおよび免疫組織化学的分析データのすべての統計比較が、統計ソフトウエアを用いて計算された。運動障害スコアは、Wilcoxonのノンパラメトリック順位和検定により分析した。反復測定ANOVA統計は、実験全体を通して試験した各時点でグループ効果を調べた。免疫組織化学マーカーが、両側t-検定統計により分析される。
【0090】
(実施例7)
ダウン症候群モデルマウスにおける神経炎症の検出
別の例において(
図4)、マウスIL-10F129Sをコードする発現プラスミドの、正常マウスおよびダウン症候群を模倣するように工学的に操作されたマウス(dp16)への注射が、発明者の実験室および公表された知見(例えば、ディングら(Ding,et al.)J Immunol 167(12):6884-6892(2001)を参照されたい)の両方からの他のデータの裏付けとして、IL-10の過剰発現が劇的にIL-10R1mRNAの発現を低減したことを示した。
図2は、IL-10(IL-10R1)のシグナル伝達受容体のためのmRNAのレベルを示す。注射なしの対照に比較して、pDNA-IL10処置は、野生型およびダウン症候群マウスの脳の両方において劇的にIL-10R1の遺伝子発現を抑制した。
【0091】
以上は本発明の原理を単に例示する。当業者は、明示的に記載または本願明細書に示されなくとも、本発明の原理を具体化し、その精神および範囲内に含まれる様々な取り合わせを考案することができるであろう。さらに、本願明細書に記載されたすべての例および条件文は、主に読者が本発明の原理および発明者が技術を進めることに寄与する概念を理解するのを助けることを意図され、そのような具体的に記載された例および条件に限定しないものとして理解されるべきである。さらに、本発明の原理、態様および実施形態だけでなく、その具体例を記載する本願明細書中のすべての陳述は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図される。加えて、そのような等価物が、現在公知の等価物および将来において開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を発揮する任意の開発された要素、の両方を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本願明細書に示され、記載された代表的実施形態に限定されることを意図されない。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲により具体化される。以下の特許請求の範囲においては、用語「手段」が使用されない限り、そこに記載された特徴または要素のいずれも米国特許法112条第6段落に準じるミーンズプラスファンクション限定と解釈されるべきでない。