(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221024BHJP
A61D 19/02 20060101ALN20221024BHJP
A01N 1/02 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
C12M1/00 A
A61D19/02 B
A01N1/02
(21)【出願番号】P 2019015547
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-02-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松澤 篤史
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528435(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059626(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004300(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3173617(JP,U)
【文献】特開2014-184056(JP,A)
【文献】Momozawa, Kenji, et al.,Efficient vitrification of mouse embryos using the Kitasato Vitrification System as a novel vitrification device,Reproductive Biology and Endocrinology,2017年,Vol. 15, No. 29,pp. 1-9,https://doi.org/10.1186/s12958-017-0249-2
【文献】Momozawa, Kenji, et al.,A new vitrification device that absorbs excess vitrification solution adaptable to a closed system for the cryopreservation of mouse embryos,Cryobiology,2019年04月26日,Vol. 88,pp. 9-14,https://doi.org/10.1016/j.cryobiol.2019.04.008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
A01N 1/00-3/04
A61D 19/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織を載置する載置部および該載置部に付設された把持部を少なくとも有する本体部材と、該本体部材の載置部を被包する被包部材とを有する細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具であって、前記した把持部は該被包部材を固定するためのテーパー構造部を有し、該テーパー構造部は
該被包部材の内壁と接し固定される部分
において、該テーパー構造部の外周と被包部材の内壁が接しない非接触部を有し、前記した被包部材の本体部材へ挿入する開口部はテーパー構造を有さず、該開口部の内径は前記した本体部材が有するテーパー構造部の最大径よりも小さく、更に該被包部材が結晶性高分子化合物により形成された部材であることを特徴とする、細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
【請求項2】
被包部材がポリエチレンテレフタレート樹脂あるいはポリプロピレン樹脂により形成された部材であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞又は組織を凍結保存する際に使用する、細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞又は組織の優れた保存技術は、様々な産業分野で求められている。例えば、牛の胚移植技術においては、胚を凍結保存し、受胚牛の発情周期に合わせて胚を融解し、移植することが行われている。また、ヒトの不妊治療においては、母体から卵子又は卵巣を採取後、移植に適したタイミングに合わせるために凍結保存しておき、移植時に融解して用いることがなされている。
【0003】
一般に、生体内から採取された細胞又は組織は、たとえ培養液の中であっても、次第に活性が失われたり、形質の変化が生じることから、生体外での細胞又は組織の長期間の培養は好ましくない。そのため、生体活性を保った状態で長期間保存するための技術が重要である。優れた保存技術によって、採取された細胞又は組織をより正確に分析することが可能になる。また優れた保存技術によって、より高い生体活性を保ったまま細胞又は組織を移植に用いることが可能となり、移植後の生着率が向上することが望める。さらには、生体外で培養した培養皮膚、生体外で構築したいわゆる細胞シートのような移植のための人工の組織を、順次生産して保存しておき、必要なときに使用することも可能となり、医療の面だけではなく、産業面においても大きなメリットが期待できる。
【0004】
細胞又は組織の保存方法として、例えば緩慢凍結法が知られている。この方法では、まず、例えばリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に耐凍剤を含有させることで得られた保存液に、細胞又は組織を浸漬する。該耐凍剤としては、グリセロール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド等の化合物が用いられる。該保存液に、細胞又は組織を浸漬後、比較的遅い冷却速度(例えば0.3~0.5℃/分の速度)で、-30~-35℃まで冷却することにより、細胞内外又は組織内外の溶液が十分に冷却され、粘性が高くなる。このような状態で、該保存液中の細胞又は組織をさらに液体窒素の温度(-196℃)まで冷却すると、細胞内又は組織内とその外の周囲の微少溶液がいずれも非結晶のまま固化する現象であるガラス化が起こる。ガラス化により、細胞内外又は組織内外が固化すると、実質的に分子の動きがなくなるので、ガラス化された細胞又は組織を液体窒素中に保存することで、半永久的に保存できると考えられる。
【0005】
しかしながら、前記緩慢凍結法では、比較的遅い冷却速度で冷却する必要があるために、凍結保存のための操作に時間を要する。また、冷却速度を制御するための装置又は治具を必要とする問題がある。加えて、前記緩慢凍結法では、細胞外又は組織外の保存液中に氷晶が形成されるので、細胞又は組織が該氷晶により物理的に損害を受けるおそれがある。
【0006】
前記緩慢凍結法での問題点を解決するための方法として、ガラス化凍結法が提案されている。ガラス化凍結法とは、グリセロール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド等の耐凍剤を多量に含む保存液の凝固点降下により、氷点下であっても氷晶ができにくくなる原理を用いたものである。この保存液を急速に液体窒素中で冷却させると、氷晶を生じさせないまま固化させることができる。このように固化することをガラス化凍結という。また、耐凍剤を多量に含む保存液は、ガラス化液と呼称される。
【0007】
前記ガラス化凍結法の具体的な操作としては、耐凍剤を多量に含む保存液に細胞又は組織を浸漬させ、その後、液体窒素の温度(-196℃)で冷却する。ガラス化凍結法は、このような簡便かつ迅速な工程であるために、凍結保存のための操作に長い時間を必要としない他、温度制御をするための装置又は治具を必要としないという利点がある。
【0008】
ガラス化凍結法を用いると、原理的には、細胞内外のいずれにも氷晶が生じないために凍結時及び融解時の細胞への物理的障害(凍害)を回避することができるが、適切なガラス化凍結を成し得るためには、ガラス化に用いる保存液に含有される耐凍剤の濃度を高いものとしなければならない。一方で、保存液に含まれる高濃度の耐凍剤は細胞にとっての化学的毒性が高い。
【0009】
上記した背景から、細胞又は組織の凍結保存においては、保存液に含まれる高濃度の耐凍剤に由来する毒性を回避する観点から、細胞又は組織が保存液に暴露される時間(つまりは凍結されるまでの時間)が短時間であることが好ましく、操作者は迅速な操作が求められる。
【0010】
また、適切なガラス化凍結を成し得るために、凍結速度は速ければ速いほど好ましいことが知られている。さらに、凍結後の融解時においても、細胞又は組織中への再氷晶形成を抑制する観点で、融解速度は速ければ速いほど好ましいことが知られている。
【0011】
ガラス化凍結法を用いた細胞又は組織の凍結保存については、様々な方法で、様々な種類の細胞又は組織を用いた例が示されている。例えば、特許文献1では、動物又はヒトの生殖細胞又は体細胞へのガラス化凍結法の適用が、凍結保存及び融解後の生存率の点で、極めて有用であることが示されている。
【0012】
ガラス化凍結法は、主にヒトの生殖細胞を用いて発展してきた技術であるが、最近では、iPS細胞やES細胞への応用も広く検討されている。また、非特許文献1では、ショウジョウバエの胚の保存にガラス化凍結法が有効であったことが示されている。さらに、特許文献2では、植物培養細胞や組織の保存において、ガラス化凍結法が有効であることが示されている。このように、ガラス化凍結法は広く様々な種の細胞及び組織の保存に有用であることが知られている。
【0013】
特許文献3、特許文献4では、ヒトの不妊治療分野で使用されているいわゆるクライオトップ(登録商標)法という方法で、卵付着保持用ストリップとして短冊状の可撓性かつ無色透明なフィルムを使用した卵凍結保存用具を使用して、顕微鏡観察下で該フィルム上に極少量の保存液と共に卵子又は胚を載置し、凍結保存する方法が提案されている。この方法では作業者の操作によって、卵子や胚は少量の保存液と共にフィルム上に載置され、かかる手法は操作の難度が高いといった問題があるものの、高い生存率で卵子又は胚を凍結できることが知られている。また、特許文献3、特許文献4には、前記卵付着保持用ストリップを被包する目的で、液体窒素耐性材料により形成された筒状部材を有することが記載されている。
【0014】
特許文献5では、卵子又は胚を、耐凍剤を多量に含む保存液と共に保存液除去材の上に載置し、下部から吸引することで卵子又は胚の周囲に付着した余分な保存液を除き、優れた生存率で凍結保存させる方法が提案されている。なお、保存液除去材としては、金網、紙等の天然物や合成樹脂からなるフィルム状物で貫通孔を有したものが記載されている。また、特許文献5には、保存液吸収材を含む本体部を収納可能な鞘部が記載されており、該鞘部を金属製とすれば、熱伝導性に優れるため、鞘部に収納された動物の胚等を迅速にガラス化保存できる旨、記載されている。
【0015】
特許文献6では、生物試料を置くための試料載置部と、該試料載置部を収納しうる凍結保存容器からなる構造の生物学的試料保存用デバイスが提案されている。該生物学的試料保存用デバイスでは、生物学的試料を置くための試料載置部はバイアル内に収納されており、該バイアルを密閉するキャップはテーパー構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第3044323号公報
【文献】特開2008-5846号公報
【文献】特開2002-315573号公報
【文献】特開2006-271395号公報
【文献】国際公開第2011/070973号パンフレット
【文献】国際公開第2006/059626号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【文献】Steponkus et al.,Nature 345:170-172(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献3~6で提案されている凍結保存用治具は、ガラス化凍結保存で用いられるものであり、例えば液体窒素のような冷媒を用いて、極低温環境下で用いられる。また、これらの凍結保存用治具では、載置部に載置された細胞又は組織は、筒状部材や鞘部等の被包部材によって保護される。しかしながら極低温の液体窒素中において、細胞又は組織を載置する載置部を含む本体部材と、該載置部を被包するための被包部材を嵌合させるなどして固定する場合、極低温下における各部材の寸法変化や、各部材の柔軟性低下などに起因して、スムーズな嵌合が難しいといった問題、あるいは嵌合後に本体部材と被包部材を強固に固定することが難しいといった問題があった。
【0019】
本発明は、細胞又は組織の凍結保存作業を容易かつ確実に行うことが可能な、細胞又は組織の凍結保存用治具を提供することを主な課題とする。より具体的には、細胞又は組織の凍結作業において、細胞又は組織を載置した載置部を含む本体部材と、載置部を被包する被包部材を嵌合・固定する際に、破損等の不具合の生じないスムーズな嵌合と、嵌合後の強固な固定を両立することが可能な、細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する細胞又は組織の凍結保存用治具(本明細書中、「細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具」を、単に「ガラス化凍結保存用治具」、または「凍結保存用治具」ともいう)によって、上記課題を解決できることを見出した。
【0021】
(1)細胞又は組織を載置する載置部および該載置部に付設された把持部を少なくとも有する本体部材と、該本体部材の載置部を被包する被包部材とを有する細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具であって、前記した把持部は該被包部材を固定するためのテーパー構造部を有し、該テーパー構造部は該被包部材の内壁と接し固定される部分において、該テーパー構造部の外周と被包部材の内壁が接しない非接触部を有し、前記した被包部材の本体部材へ挿入する開口部はテーパー構造を有さず、該開口部の内径は前記した本体部材が有するテーパー構造部の最大径よりも小さく、更に該被包部材が結晶性高分子化合物により形成された部材であることを特徴とする、細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
(2)被包部材がポリエチレンテレフタレート樹脂あるいはポリプロピレン樹脂により形成された部材であることを特徴とする、前記(1)に記載の細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細胞又は組織を載置した載置部を含む本体部材と、載置部を被包する被包部材を嵌合・固定する際に、破損等の不具合の生じないスムーズな嵌合と、嵌合後の強固な固定を両立することが可能な、細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の凍結保存用治具の一例を示す全体図である。
【
図2】被包部材が本体部材に嵌合・固定された状態の一例を示す全体図である。
【
図3】
図2中の被包部材と本体部材の嵌合・固定された部分の拡大図である。
【
図4】本発明の凍結保存用治具の別の一例を示す全体図である。
【
図5】本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図である。
【
図6】本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図の別の一例である。
【
図7】本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
【
図8】本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
【
図9】本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
【
図10】本体部材が有するテーパー構造部の側面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の凍結保存用治具は、細胞又は組織を凍結保存する際に用いられるものである。本発明において、細胞とは、単一の細胞のみならず、複数の細胞からなる生物の細胞集団を含むものである。複数の細胞からなる細胞集団とは単一の種類の細胞から構成される細胞集団でも良いし、複数の種類の細胞から構成される細胞集団でも良い。また、組織とは、単一の種類の細胞から構成される組織でも良いし、複数の種類の細胞から構成される組織でも良く、細胞以外に細胞外マトリックスのような非細胞性の物質を含むものでも良い。
【0025】
本発明において、本発明の凍結保存用治具を用いた凍結保存作業は、細胞又は組織を極低温の冷媒を用いて凍結させる凍結作業、細胞又は組織を極低温の冷媒中で貯蔵する保管作業、細胞又は組織を融解液中で解凍する融解作業の一連の操作を含むものとする。
【0026】
本発明の凍結保存用治具は、細胞又は組織のガラス化凍結保存作業に用いるものである。詳細には、本発明のガラス化凍結保存用治具は、保存液に浸漬された細胞又は組織を液体窒素等の冷却溶媒に浸漬し凍結させるためのものである。かかるガラス化凍結保存作業では、載置部上に載置された細胞又は組織を保護することを目的として、細胞又は組織を冷却媒体に浸漬する作業の前、あるいは細胞又は組織を冷却媒体に浸漬する作業の後に、本体部材が有する載置部に対して、被包部材を嵌合・固定する。また、該載置部上に載置された細胞又は組織を融解する際には、細胞又は組織が載置されたガラス化凍結保存用治具を冷却媒体から取りだし、冷却媒体下または室温環境下で被包部材を取り外し、本体部材が有する載置部上に載置した細胞又は組織を融解液中に浸漬させて融解する。本発明のガラス化凍結保存用治具を用いると、凍結作業の際に、本体部材と被包部材を、破損等が生じることなくスムーズに嵌合・固定することができ、凍結保存作業の操作性を向上させることができる。また、凍結保管する際に、載置部上の細胞又は組織を確実に被包・保護することができる。さらに、融解作業の際に、本体部材と被包部材の固定をスムーズに解除することが可能である。本発明のガラス化凍結保存用治具は、細胞又は組織の保存用具、細胞又は組織の凍結保存器具、細胞又は組織の保存用器具と言い換えることができる。
【0027】
本発明のガラス化凍結保存用治具(以下、本発明の凍結保存用治具とも記載)は、少なくとも本体部材と被包部材を有する。
【0028】
本発明の凍結保存用治具が有する本体部材は、細胞又は組織を載置することが可能な載置部と、該載置部に付設された把持部を有する。
【0029】
本発明の凍結保存用治具が有する載置部は、短冊状であることが好ましい。短冊状であると載置部を被包部材によって被包・保護することが容易である。
【0030】
本発明の凍結保存用治具が有する載置部としては、例えば、各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等が挙げられる。載置部は1種類の素材からなるものでも良いし、2種類以上の素材からなるものでも良い。中でも樹脂フィルムは、取り扱いの観点で好適に用いられる。樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。また、載置部の全光線透過率が80%以上であると、載置部に載置した細胞又は組織を、透過型顕微鏡を用いて容易に確認することができるため好ましい。
【0031】
本発明の凍結保存用治具が有する載置部として、温度伝導性に優れ、急速な凍結を可能にするという観点で金属板も好適に用いることができる。金属板の具体例としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。上記した各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等の厚さは10μm~10mmであることが好ましい。また目的に応じて、各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等の表面をコロナ放電処理のような電気的な方法や、化学的な方法により易接着処理することもでき、さらには粗面化することも可能である。
【0032】
本発明の凍結保存用治具が有する載置部として保存液吸収材を用いることもでき、例えば金網、紙等の天然物や合成樹脂からなるフィルム状物で貫通孔を有したものが例示される。その他の保存液吸収材としては屈折率が1.45以下の素材を用いて形成された多孔質構造体が例示される。これにより透過型の光学顕微鏡観察下において、細胞または組織の凍結作業および凍結後の融解作業を、容易にかつ確実に行うことができる。
【0033】
上記した多孔質構造体の素材の屈折率は、例えば、アッベ屈折計(Na光源、波長:589nm)を用いてJIS K 0062:1992、JIS K 7142:2014に準じて測定できる。多孔質構造体を形成する屈折率が1.45以下の素材としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフロライド、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素樹脂やシリコン樹脂のようなプラスチック樹脂材料、二酸化ケイ素のような金属酸化物材料、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムのような無機材料が挙げられる。
【0034】
多孔質構造体の細孔径は5.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.75μm以下である。多孔質構造体の厚みは、10~500μmであることが好ましく、より好ましくは25~150μmである。多孔質構造体の空隙率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
【0035】
また、多孔質構造体は該構造体単独で載置部としても良く、また、多孔質構造体は前記した各種樹脂フィルム、ガラス板等と積層体を形成し、これを載置部とすることも可能である。この場合、樹脂フィルムやガラス板の全光線透過率は80%以上であることが好ましい。またこの積層体を形成するにあたり接着剤は好適に用いられ、該接着剤としては低温に強いシリコン系やフッ素系の接着剤を好適に用いることができる。
【0036】
本発明の凍結保存用治具が有する把持部は、把持のしやすさや、操作性の向上を目的として、角柱状であることが好ましい。
【0037】
本発明の凍結保存用治具が有する把持部は、耐液体窒素素材であることが好ましい。このような素材としては、例えばアルミ、鉄、銅、ステンレス合金などの各種金属、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素系樹脂や各種エンジニアプラスチック、更にはガラスなどを好適に用いることができる。
【0038】
本発明の凍結保存用治具は、本体部材に付設された載置部を被包可能な被包部材を有する。該被包部材は、一方の端部が開口部を有し、もう一方の端部が開口部を有さない筒状の被包部材であることが好ましく、作業性の観点から該被包部材は円筒形状であることが好ましい。
【0039】
本発明の凍結保存用治具は、結晶性高分子化合物により形成された被包部材を有する。結晶性高分子化合物とは、高分子鎖が規則正しく配列している所謂結晶状態を有する高分子化合物であり、結晶状態を有さず非晶状態のみからなる所謂、非晶性高分子化合物とは区別される化合物である。本発明において被包部材を形成する結晶性高分子化合物としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルテーテルケトン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、液晶ポリマー等が例示される。中でも破損等の不具合の生じないスムーズな嵌合と、嵌合後の強固な固定を両立することが可能であり、かつ被包部材への加工性に優れるとの観点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂により形成された被包部材は好適である。被包部材は、一種類の結晶性高分子化合物を含有してもよいし、複数種類の結晶性高分子化合物を含有してもよい。また、本発明の被包部材は、結晶性高分子化合物の他に、フィラーや可塑剤などの結晶性高分子化合物以外の成分を含有することができる。被包部材が該結晶性高分子化合物以外の成分を含有する場合には、結晶性高分子化合物に対する割合が10質量%を超えない範囲とすることが好ましい。
【0040】
本発明の凍結保存用治具が有する被包部材は透明性を有することが好ましい。被包部材が透明性を有する場合、凍結作業の際に、被包部材に被包された載置部の様子を確認でき、作業性が向上する。また、保管作業、融解作業の際にも、載置部材を本体部材に嵌合・固定したまま載置部の様子を確認することができる。本発明において透明性を有するとは、被包部材のヘイズが30%以下であることを意味し、より好ましくは15%以下である。かかる被包部材として、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂により形成された被包部材は好適である。
【0041】
本発明の凍結保存用治具が有する被包部材の厚み(被包部材の側面部を形成する部材の厚み)は、0.1~0.5mmであることが好ましい。より好ましくは、0.2~0.4mmである。被包部材の厚みが、0.1mmを下回る場合、液体窒素中で被包部材を嵌合した際、被包部材の強度が十分でない場合がある。一方、被包部材の厚みが0.5mmを超える場合には、液体窒素下で本体部材と被包部材を嵌合・固定した際に、強固な固定ができない場合がある。
【0042】
前述したように、本発明の凍結保存用治具が有する被包部材は、本体部材が有するテーパー構造部と嵌合・固定が可能な側が開口部を有し、もう一方の端部が封止されている筒状の被包部材であることが好ましい。被包部材の一端が封止されていることによって、より効果的に細胞又は組織を保護することが可能となる。被包部材の一端を封止する際には、載置部を完全に外界と遮断することを目的として、例えば、熱処理等による二次加工を用いて完全に封止する他に、通気可能なフィルター部材を用いて封止することもできる。通気可能なフィルター部材を用いて封止すると、仮に、液体窒素下で凍結保管中の被包部材と本体部材が嵌合・固定された状態のガラス化凍結保存用治具が、不意な事故により室温下にさらされ、被包部内の空気の体積膨張が生じた際にも、被包部材の破裂・破損を防止することができるため、好ましい。
【0043】
本発明の凍結保存用治具が有する被包部材は、重りを有することが好ましい。被包部材が重りを有すると、液体窒素等の冷媒中で嵌合・固定作業をする際に、被包部材の浮上による作業性の低下を緩和できる。
【0044】
本発明の凍結保存用治具が有する本体部材は、被包部材を固定するためのテーパー構造部を有する。本発明の本体部材が有するテーパー構造部は、載置部側を最小径として、該載置部側とは反対側に向かって拡径する構造を有する。本発明において本体部材が有するテーパー構造部は、円錐台の側面状の形状の構造であっても良いし、円錐台の側面状の形状の構造に対して部分的に溝を切ったような構造であっても良い。
【0045】
本発明の凍結保存用治具が有する本体部材のテーパー構造部の拡径の程度[(径の拡張幅)/(テーパー構造部の嵌合方向の長さ)]は、0.01~0.25であることが好ましい。より好ましくは0.06~0.15である。拡径の程度が0.01を下回る場合には、極低温環境下での部材の寸法変化により、本体部材のテーパー構造部に被包部材をスムーズに嵌合することが困難な場合がある。一方で、拡径の程度が0.25を超える場合には、被包部材を強固に固定することが困難な場合がある。なお、本発明の凍結保存用治具が有する本体部材のテーパー構造部はその拡径構造が連続せずに、複数個所に分かれていても良い。
【0046】
本発明の凍結保存用治具は、被包部材の本体部材へ挿入する開口部はテーパー構造を有さず、該開口部の内径は本体部材が有するテーパー構造部の拡径した最大径よりも小さいことを特徴とする。被包部材の開口部の内径が本体部材のテーパー構造部の最大拡径部分の径よりも小さいことにより、極低温環境下において本体部材に被包部材を強固に嵌合させることができる。被包部材は、本体部材のテーパー構造部に追従する形で変形・拡張して嵌合されることにより、前記した強固な嵌合が可能となる。なお、被包部材の開口部の内径が本体部材のテーパー構造部の最小径より小さいと、被包部材が本体部材のテーパー構造部に嵌合できないため、被包部材の開口部の内径は本体部材のテーパー構造部の最小径以上である必要がある。
【0047】
以上、本発明における凍結保存用治具の構成について説明した。以下、本発明の凍結保存用治具を、図面に沿ってさらに詳細に説明する。
【0048】
図1は、本発明の凍結保存用治具の一例を示す全体図である。
図1において、凍結保存用治具9は、本体部材4と被包部材5から構成される。本体部材4は、細胞又は組織を載置する短冊状の載置部1とそれに付設された把持部3を有する。また、本体部材4は被包部材を嵌合・固定可能なテーパー構造部2を有する。なお、
図1では被包部材5の開口部の内径は、本体部材が有するテーパー構造部の最大径よりも小さくなっている。
【0049】
図2は、被包部材が本体部材に嵌合・固定された状態の一例を示す全体図である。
図2において、被包部材5は、その一端を、本体部材4が有するテーパー構造部2に嵌合・固定されている。このようにして、細胞又は組織が載置される載置部1は被包部材5に被包され、保護される。
【0050】
図3は、
図2中の被包部材と本体部材の嵌合・固定された部分の拡大図である。上述したように本発明では、元々の被包部材5の開口部の内径は、本体部材が有するテーパー構造部の最大径よりも小さくなっているが、被包部材5が本体部材4に嵌合・固定されると、
図3に示したように、本体部材4に嵌合・固定された被包部材5の開口部に強制拡径部分6が生じる。これにより嵌合した本体部材4と被包部材5は強固に固定される。
【0051】
図4は、本発明の凍結保存用治具の別の一例を示す全体図であり、被包部材5が本体部材4に嵌合・固定された状態を示している。
図4において凍結保存用治具9は、被包部材5の開口部と反対側の一端に封止部7を有する。封止部7を有することにより、細胞又は組織を載置した載置部1をより効果的に保護することができる。
【0052】
図5は、本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図
(参考例)である。テーパー構造部2の外周は、破線で示す被包部材5(実在しない仮の被包部材)の内壁と接することにより、強固に固定される。
【0053】
図6は、本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図の別の一例である。
図6においてテーパー構造部2の外周は破線で示す被包部材5の内壁と接し、固定されるが、テーパー構造部2
は、被包部材5の内壁と接し固定される部分において、テーパー構造部2の外周と被包部材5の内壁が接しない、非接触部8を有する。テーパー構造部2が非接触部8を有することにより、スムーズな嵌合と強固な固定を高いレベルで両立することができる。
【0054】
図7は、本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
図7に示すテーパー構造部2は、非接触部8を2カ所有する。
【0055】
図8は、本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
図8に示すテーパー構造部2は、非接触部8を4カ所有する。
【0056】
図9は、本体部材が有するテーパー構造部の垂直断面図のまた別の一例である。
図9に示すテーパー構造部2は、非接触部8を8カ所有する。
【0057】
図10は、本体部材が有するテーパー構造部の側面図の一例である。
図10に示す凍結保存用治具の本体部材が有するテーパー構造部2は、その拡径構造が連続しておらず、非連続的な2カ所の拡径構造を有する。前記構造とすることにより、スムーズな嵌合と強固な固定をより高いレベルで両立することができる。
【0058】
本発明の凍結保存用治具を用いて細胞又は組織を凍結保存する方法は特に限定されず、例えば、凍結作業を行う際には、まず保存液に浸漬した細胞又は組織を保存液と共に載置部上に滴下する。次いで、前記細胞又は組織を載置部に保持させたまま該凍結保存用治具の本体部材を液体窒素等の中に浸漬することにより、細胞又は組織を凍結することができる。次いで、被包部材を、液体窒素中で、本体部材のテーパー構造部に嵌合・固定する。この状態で、長期間、保管作業を行うことができる。保存液は、通常卵子、胚等の細胞の凍結のために使用されるものを使用でき、例えば、前述したリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に耐凍剤(グリセロール、エチレングリコール等)を含有する保存液や、グリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種耐凍剤を多量に(少なくとも保存液の全質量に対して10質量%以上、より好ましくは20質量%以上)含有する保存液を使用できる。融解作業の際は、液体窒素等の冷却溶媒中に該凍結保存用治具の載置部を浸漬したまま、本体部材のテーパー構造部と被包部材の嵌合・固定を解除する。その後、凍結された細胞又は組織を載せた載置部を融解液中に浸漬させ、細胞又は組織を回収する。
【0059】
本発明の凍結保存用治具を用いて凍結保存することができる細胞として、例えば、哺乳類(例えば、人(ヒト)、牛、豚、馬、ウサギ、ラット、マウス等)の卵子、胚、精子等の生殖細胞;人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の多能性幹細胞が挙げられる。また、初代培養細胞、継代培養細胞、及び細胞株細胞等の培養細胞が挙げられる。また、細胞は、一又は複数の実施形態において、線維芽細胞、膵ガン・肝ガン細胞等のガン由来細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、組織幹細胞、及び免疫細胞等の接着性細胞が挙げられる。さらに、凍結保存することができる組織として、同種又は異種の細胞からなる組織、例えば、卵巣、皮膚、角膜上皮、歯根膜、心筋等の組織が挙げられる。本発明は、特にシート状構造を有する組織(例えば、細胞シート、皮膚組織等)の凍結保存に好適である。本発明の凍結保存用治具は、直接生体から採取した組織だけでなく、例えば、生体外で培養し増殖させた培養皮膚、生体外で構築したいわゆる細胞シート、特開2012-205516号公報で提案されている三次元構造を有する組織モデルのような人工の組織の凍結保存についても、好適に用いることができる。本発明の凍結保存用治具は、上記のような細胞又は組織の凍結保存用治具として好適に用いられる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(
参考例1)
図1に示す形態で
参考例1のガラス化凍結保存用治具を作製した。
参考例1のガラス化凍結保存用治具の被包部材としては、押出成型によりポリプロピレン樹脂からなる筒状部材を作製し、被包部材とした。被包部材の内径は2.7mm、外径は3.2mmである。一方、本体部材については、射出成型したABS樹脂からなる把持部をポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムからなる載置部と連結させることで、本体部材を作製した。本体部材が有するテーパー構造部は、円錐台の側面状の形状であり、テーパー構造部の嵌合方向の長さ1.5mmに対し、外径2.5mmから最大拡径部分の外径2.8mmまで均一に拡径(径の拡張幅は0.3mm)する構造である。
【0062】
(参考例2)
本体部材が有するテーパー構造部として、円錐台の側面状の形状であり、テーパー構造部の嵌合方向の長さ3mmに対し、外径2.5mmから最大拡径部分の外径2.8mmまで均一に拡径(径の拡張幅は0.3mm)する構造とした以外は、参考例1と同様にして、参考例2の凍結保存用治具を作製した。
【0063】
(参考例3)
被包部材として、押出成型によりポリエチレンテレフタレート樹脂からなる筒状部材を作製し、被包部材とした以外は、参考例2と同様にして、参考例3のガラス化凍結保存用治具を作製した。
【0064】
(参考例4)
被包部材として、押出成型により高密度ポリエチレン樹脂からなる筒状部材を作製し、被包部材とした以外は、参考例2と同様にして、参考例4のガラス化凍結保存用治具を作製した。
【0065】
(参考例5)
本体部材が有するテーパー構造部として、円錐台の側面状の形状であり、テーパー構造部の嵌合方向の長さ10mmに対し、外径2.5mmから最大拡径部分の外径2.8mmまで均一に拡径(径の拡張幅は0.3mm)する構造とした以外は、参考例1と同様にして、参考例5の凍結保存用治具を作製した。
【0066】
(実施例6)
本体部材が有するテーパー構造部として、円錐台の側面状の形状であり、テーパー構造部の嵌合方向の長さ3mmに対し、外径2.5mmから最大拡径部分の外径2.8mmまで拡径(径の拡張幅は0.3mm)する構造とし、さらに、
図8に示すように、4カ所の非接触部を有する構造とした以外は
参考例1と同様にして、実施例6の凍結保存用治具を作製した。
【0067】
(比較例1)
本体部材が有するテーパー構造部として、円錐台の側面状の形状であり、テーパー構造部の嵌合方向の長さ10mmに対し、外径2.5mmから最大拡径部分の外径2.7mmまで均一に拡径(径の拡張幅は0.2mm)する構造とした以外は、参考例1と同様にして、比較例1の凍結保存用治具を作製した。
【0068】
(比較例2)
被包部材として、押出成型によりポリ塩化ビニル樹脂からなる筒状部材を作製し、被包部材とした以外は、参考例2と同様にして、比較例2のガラス化凍結保存用治具を作製した。
【0069】
(比較例3)
押出成型によりポリプロピレン樹脂からなる、内径2.7mm、外径3.2mmの筒状部材を作製した。その後、前記筒状部材における本体部材へ挿入する側の端部に熱処理による拡径加工を行い、筒状部材の端部から嵌合方向1mmの領域に、内径2.7mmから内径2.8mmまで均一に拡径するテーパー構造を作製し、これを比較例3の被包部材とした。被包部材の作製以外は、参考例2と同様にして、比較例3のガラス化凍結保存用治具を作製した。
【0070】
参考例1~5、実施例6及び比較例1~3の凍結保存用治具について、その嵌合性を以下のように評価した。なお、各凍結保存用治具についての評価は、3回繰り返して実施した。
【0071】
<嵌合性の評価1>
参考例1~5、実施例6及び比較例1~3の凍結保存用治具の載置部上に、ガラスビーズ(直径100μm)を疑似細胞として、保存液0.1μlと共に滴下付着させた。なお、保存液は、シグマアルドリッチ社製 Medium199培地に、15容積%DMSO、15容積%エチレングリコール、17質量%スクロースが含まれる組成のものを用いた。その後、載置部を液体窒素に浸漬させた。次に、ピンセットを用いて、液体窒素下で被包部材と本体部材を嵌合・固定させた。この際に被包部材の破損などが生じるか否かを「嵌合性の評価1」として、以下の基準で評価し、結果を表1に示す。
【0072】
○:被包部材に破損が生じずスムーズな嵌合作業が可能であった。
×:被包部材に破損が生じることがあった。
【0073】
<嵌合性の評価2>
上記「嵌合性の評価1」に次いで、参考例1~5、実施例6及び比較例1~3の凍結保存用治具について、嵌合・固定した際の固定具合を「嵌合性の評価2」として、以下の基準で評価し、結果を表1に示す。
【0074】
◎:強固な固定が可能であった。
○:固定が可能であった。
×:固定が不十分な場合があった。
【0075】
【0076】
参考例1~5、実施例6の凍結保存用治具は、1日間の保管作業の後に、融解作業を行う際に液体窒素中でピンセットを用いて被包部材の固定を解除する際、スムーズな操作が可能であった。
【0077】
上記の結果から、本発明の凍結保存用治具は凍結作業時において、載置部を含む本体部材と、載置部を被包・保護するための筒状の被包部材を嵌合・固定する際に、破損等の不具合の生じないスムーズな嵌合と、嵌合後の強固な固定を両立する性能を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、牛等の家畜や動物の胚移植や人工授精、人への人工授精等の他、iPS細胞、ES細胞、一般に用いられている培養細胞、胚又は卵子を含む生体から採取した検査用又は移植用の細胞又は組織、生体外で培養した細胞又は組織等の凍結保存に用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 載置部
2 テーパー構造部
3 把持部
4 本体部材
5 被包部材
6 被包部材の強制拡径部分
7 封止部
8 非接触部
9 凍結保存用治具