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<図1>
  • 特許-車両用シート 図1
  • 特許-車両用シート 図2
  • 特許-車両用シート 図3
  • 特許-車両用シート 図4
  • 特許-車両用シート 図5
  • 特許-車両用シート 図6
  • 特許-車両用シート 図7A
  • 特許-車両用シート 図7B
  • 特許-車両用シート 図8
  • 特許-車両用シート 図9
  • 特許-車両用シート 図10
  • 特許-車両用シート 図11A
  • 特許-車両用シート 図11B
  • 特許-車両用シート 図12
  • 特許-車両用シート 図13
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20221024BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20221024BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A47C31/02 B
B60N2/58
B68G7/05 C
B68G7/05 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019016967
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020124279
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 厚
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅之
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148742(JP,A)
【文献】特開2017-030698(JP,A)
【文献】実開昭53-68304(JP,U)
【文献】特開2016-19699(JP,A)
【文献】国際公開第2017/137821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B60N 2/58
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートであって、
前記トリムカバーは複数のトリムカバー部材が複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合されて形成されており、
前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫合された部分は、下糸として表面がホットメルトで覆われたホットメルト糸が用いられ、前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫合された部分の裏側の面と前記ウレタンパッドの表面の平坦な面とは、前記ホットメルト糸の前記ホットメルトを加熱して溶かすことにより接合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって、前記トリムカバーの前記複数のトリムカバー部材は、前記複数のトリムカバー部材のそれぞれの端部から1.5±1mmの部分を本縫いにより縫合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1記載の車両用シートであって、前記トリムカバーの前記複数のトリムカバー部材が前記環縫いにより縫合された部分は、前記複数のトリムカバー部材の端面同士をつき合わせて粘着テープで固定された状態で前記環縫いにより縫合されて形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
ウレタンパッドの表面を複数のトリムカバー部材を縫合して形成したトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートであって、
前記トリムカバーは、前記複数のトリムカバー部材を縫合した部分の裏側が、前記ウレタンパッドの表面の平坦な面に接着剤で接合されてフラットシームを形成し、
前記トリムカバーの前記フラットシームを形成した部分は、前記複数のトリムカバー部材が複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項記載の車両用シートであって、前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫製された部分は、下糸として表面がホットメルトで覆われたホットメルト糸が用いられ、前記フラットシームを形成する部分の接着剤として、前記ホットメルト糸の前記ホットメルトが用いられていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項記載の車両用シートであって、前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫合された部分には、前記複数のトリムカバー部材を重ねて縫い合わせた本縫いが施されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートであって、
前記トリムカバーは複数のトリムカバー部材の端部付近が本縫いされて接合されており、
前記トリムカバーは前記本縫いされて接合された部分を中心に前記複数のトリムカバー部材が左右に開いた状態で前記本縫いされて接合された部分に沿ってテープ材で覆われた状態で前記テープ材を含んで複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
請求項記載の車両用シートであって、前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫合された部分の裏側の面は、前記ウレタンパッドの表面の平坦な面に接着剤で接合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
請求項記載の車両用シートであって、前記トリムカバーの前記複数のトリムカバー部材は、前記複数のトリムカバー部材のそれぞれの端部から1.5±1mmの部分を前記本縫いにより縫合されていることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係り、特に、縫製して形成したトリムカバーを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートは、クッション材であるウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆うように構成されているが、このトリムカバーは、複数のトリムカバー部材を縫製して形成されている。この複数のトリムカバー部材を縫製する方法として、例えば特許文献1には、縫い合わされる二枚のトリムカバー部材を重ね合わせ、この重ね合せた二枚のトリムカバー部材の縫合ラインに沿って並行して延びる複数列のシームによって縫い合せることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、二枚の布地を重ね合せ、更にテープ部材を重ね合わせた状態で縫い合わせる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-177993号公報
【文献】特開2016-19699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたようなトリムカバー部材を縫製する方法では、二枚のトリムカバー部材を重ね合せて複数列のシームによって縫い合せるために、この重ね合わせた部分に、衣服の縫製で用いられている、ファッション性のある環縫いを施すことが難しい。
【0006】
一方、特許文献2には、二枚の布地を重ね合せてフラットシーマという縫製方法で縫合することが記載されているが、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地を重ね合せて縫合する場合、ミシンの上下動する押さえ金具で重ね合わせた厚みのある生地を押さえることにより生地の端面が針先からずれて、縫製部に蛇行した隙間が生じて外観不良が発生してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことを可能にする車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明では、ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーは複数のトリムカバー部材が複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合されて形成されており、複数のトリムカバー部材の環縫いにより縫合された部分は、下糸として表面がホットメルトで覆われたホットメルト糸が用いられ、前記複数のトリムカバー部材の前記環縫いにより縫合された部分の裏側の面と前記ウレタンパッドの表面の平坦な面とは、前記ホットメルト糸の前記ホットメルトを加熱して溶かすことにより接合して形成した。
【0009】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、ウレタンパッドの表面を複数のトリムカバー部材を縫合して形成したトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーは、複数のトリムカバー部材を縫合した部分の裏側が、ウレタンパッドの表面の平坦な面に接着剤で接合されてフラットシームを形成し、トリムカバーのフラットシームを形成した部分は、複数のトリムカバー部材を複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合して形成した。
【0010】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーを複数のトリムカバー部材の端部付近を本縫いして接合し、トリムカバーは本縫いされて接合された部分を中心に複数のトリムカバー部材が左右に開いた状態で本縫いされて接合された部分に沿ってテープ材で覆われた状態で前記テープ材を含んで複数の針と複数の糸を用いて環縫いにより縫合して形成した。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことが可能になり、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようになった。
【0012】
また、本発明によれば、下地のクッション材であるウレタンパッドに凹面を形成することなく、ウレタンパッドの平坦な面上を縫合部に装飾性を持たせたトリムカバーで覆ったフラットシーム構造を有する車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施例1に係る車両用シートの斜視図である。
図2図2は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねる前の状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図3図3は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねた状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図4図4は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねた状態で端部付近を縫合した状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図5図5は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねて縫合した後に、重なりを剥がしてトリムカバー部材を広げた状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図6図6は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねて縫合した後に、重なりを剥がして広げたトリムカバー部材をアパレル用ミシンで縫製している状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図7A図7Aは、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材をアパレル用ミシンで縫製した状態を示す、トリムカバーの表面側の平面図である。
図7B図7Bは、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバー部材をアパレル用ミシンで縫製した状態を示す、トリムカバーの裏面側の平面図である。
図8図8は、本発明の実施例1に係る車両用シートのトリムカバーでクッション材であるウレタンパッドの表面を覆った状態を示す、ウレタンパッドとトリムカバーの断面図である。
図9図9は、本発明の実施例2に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚つき合わせて部分を接着テープで接続した状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図10図10は、本発明の実施例2に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚つき合わせて部分を接着テープで接続した部分を、アパレル用ミシンで縫製している状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
図11A図11Aは、本発明の実施例2に係る車両用シートのトリムカバー部材をアパレル用ミシンで縫製した状態を示す、トリムカバーの表面側の平面図である。
図11B図11Bは、本発明の実施例2に係る車両用シートのトリムカバー部材をアパレル用ミシンで縫製した状態を示す、トリムカバーの裏面側の平面図である。
図12図12は、本発明の実施例2に係る車両用シートのトリムカバーでクッション材であるウレタンパッドの表面を覆った状態を示す、ウレタンパッドとトリムカバーの断面図である。
図13図13は、本発明の実施例3に係る車両用シートのトリムカバー部材を2枚重ねて縫合した後に、重なりを剥がして広げたトリムカバー部材の縫合した部分に沿ってテープ材を重ねた状態でアパレル用ミシンで縫製している状態を示す、トリムカバー部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーは複数のトリムカバー部材が環縫いにより縫合されて形成されており、複数のトリムカバー部材の環縫いにより縫合された部分の裏側の面は、ウレタンパッドの表面の平坦な面に接着剤で接合して形成することにより、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことを可能にして、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようにしたものである。
【0015】
また、本発明は、ウレタンパッドの表面をトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーは複数のトリムカバー部材の端部付近が本縫いされて接合されており、トリムカバーは本縫いされて接合された部分を中心に複数のトリムカバー部材を左右に開いた状態で本縫いされて接合された部分に沿って環縫いにより縫合して形成することにより、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことを可能にして、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようにしたものである。
【0016】
また、本発明は、ウレタンパッドの表面を複数のトリムカバー部材を縫合して形成したトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートにおいて、トリムカバーは、複数のトリムカバー部材を縫合した部分の裏側が、ウレタンパッドの表面の平坦な面に接着剤で接合されてフラットシームを形成し、トリムカバーのフラットシームを形成した部分は、複数のトリムカバー部材が環縫いにより縫合して形成することにより、下地のクッション材であるウレタンパッドに凹面を形成することなく、ウレタンパッドの平坦な面上を縫合部に装飾性を持たせたトリムカバーで覆ったフラットシーム構造を有する車両用シートを提供することができるようにしたものである。
【0017】
以下に、本発明の実施例を、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことを可能にして、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようにした車両用シートの第一の実施例について、図1乃至図8を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施例に係る車両用シート1の外観を示す。本実施例に係る車両用シート1は、搭乗者が着座するシートクッション2と、着座した搭乗者が背をもたれかけるシートバック3を備えている。
【0020】
シートクッション2の表面は、トリムカバー20で覆われており、トリムカバー20を形成するトリムカバー部材21と22とは、フラットシーム部23で縫合されている。シートバック3も同様にトリムカバー30を形成するトリムカバー部材31と32とで表面が覆われており、トリムカバー部材31と32とは、フラットシーム部33で縫合されている。
【0021】
図2には、縫合前のトリムカバー部材21(31)と22(32)とを示す。トリムカバー部材21(31)は、表面側の表皮層211(311)に、クッション性があるウレタン層212(312)が貼り合わせて形成されている。表皮層211(311)としては、皮革や編物、織物、不織布、樹脂などで形成されている。トリムカバー部材22(32)も同様に、表面側の表皮層221(321)に、クッション性があるウレタン層222(322)が貼り合わせて形成されている。表皮層221(321)としては、皮革や編物、織物、不織布、樹脂などで形成されている。
【0022】
図2には、トリムカバー部材21(31)と22(32)の表面側の表皮層211(311)と221(321)とが互いに向き合うようにした状態を示す。この状態では、クッション性があるウレタン層212(312)と222(322)とは、互いに外向きになっている。この状態で、トリムカバー部材21を矢印の方向に移動させて、図3に示すように、表皮層211(311)と221(321)とが互いに接触するようにしてトリムカバー部材21と22とを重ねる。
【0023】
次に、図4に示すように、この重ね合わせたトリムカバー部材21(31)と22(32)との端部40に近い本縫い部分41を、端部40に沿って、1本の針を使って上糸とボビンから出される下糸とで縫い合わせる本縫いミシンを用いて本縫いして縫合する。
【0024】
ここで、端部40から本縫いを行う本縫い部分41までの寸法は、1.5mm±1mmに設定する。
【0025】
図5に、本縫いにより縫合したトリムカバー部材21(31)と22(32)とを、縫合した部分24(34)を中心に左右に開いた状態を示す。ここで、本縫い部分41から端部40までに距離が短すぎると、左右に開いたトリムカバー部材21(31)と22(32)とに少し強いテンションをかけたときに、縫合した本縫い部分41が破れてしまうおそれがある。
【0026】
図6には、縫合したトリムカバー部材21(31)と22(32)とを左右に開いた状態で、複数の針と複数の糸を用いてニット素材などを縫うロック(環縫)ミシンを用いて、縫合した部分24(34)を中心にして環縫いしている状態を示す。図6において、部品番号60は、ロックミシンの押さえ金具61と針62とを合わせた機構部を示している。なお、図6には針62を2本備えた構成を示したが、これに限られるものではなく、針62の数は複数本、例えば4本であっても良い。
【0027】
縫合した部分24(34)を中心に左右に開いたトリムカバー部材21(31)と22(32)とを図示していないロックミシンの送り機構で送り出しながら、押さえ金具61と2本の針62とを上下させることにより、下糸53、及び縦糸51,52とで、ファッション性のある環縫い(フラット-ダブルステッチ)を施すことができる。これにより、トリムカバー部材の縫合部分に装飾性を持たせることができる。ここで、下糸53として、ホットメルト糸を用いる。このホットメルト糸は、熱を加えると糸の中心部分を残してその外周部分が溶けるような材料で形成されている。
【0028】
ここで、本縫い部分41から端部40までの距離が長すぎると、本縫い部分41から先の端部40までが下側に長く突き出す形になる。このような状態で、縫合したトリムカバー部材21(31)と22(32)とを左右に開いて、アパレル用のミシンにセットすると、縫合した部分24(34)がその周辺のトリムカバー部材21(31)と22(32)の部分よりも高く突き出してしまうことになる。その結果、アパレル用のミシンによる環縫いが正常に行われなくなり、不良品となってしまう可能性が高くなる。
【0029】
このような状況の発生を防ぐには、端部40から本縫い部分41までの距離は、前記したように、1.5mm±1mmに設定するのが良い。これにより、環縫いした部分がその周辺部分に対して比較的平坦な、フラット-ダブルステッチ加工を施すことができる。
【0030】
図7Aに、縫合した部分24(34)に沿って、トリムカバー部材21(31)と22(32)とに環縫い50を施して、トリムカバー20(30)をフラット-ダブルステッチ加工した状態を、トリムカバー20(30)の表面の側から見た状態を示す。表面の側には、環縫い50した縦糸51と52が現れている。トリムカバー部材21(31)と22(32)とは、本縫い部分41で縫合された状態で、更に、環縫い50により縫合されている。これにより、トリムカバー部材21(31)と22(32)とは、トリムカバー20(30)として十分な強度を持って繋ぎ合わされた上で、ファッション性の高い環縫いが施された部分が、表面に現れることになる。
【0031】
図7Bには、フラット-ダブルステッチ加工したトリムカバー20(30)表面の側から見た状態を示す。縫合した部分24(34)から先の端部40を含む部分が、縦糸51,52と下糸53とで環縫い50が施されている状態が示されている。
【0032】
図8に、トリムカバー部材21(31)と22(32)とを縫合して形成したトリムカバー20(30)のうち、シートバック3の側のトリムカバー30を構成するトリムカバー部材31と32とをウレタンパッド80に重ねた状態の断面図を示す。縫合した部分34において、本縫い部分41から端部40までの距離が短いので、この縫合したトリムカバー部材31と32とをウレタンパッド80に重ねた場合、本縫い部分41から端部40までの突き出した部分がウレタンパッド80にとの干渉は無視できる程度に小さく、トリムカバー部材31と32とを縫合した部分34はほぼ平坦になる。したがって、縫合した部分34が当接するウレタンパッド80の側に溝を形成しなくても、トリムカバー部材31と32との縫合部分の突出が目立たなくなる。
【0033】
この状態で縫合した部分34を含むその周辺を加熱すると、下糸53のホットメルトが溶ける。この溶けたホットメルトを冷却することにより、下糸53と接触しているトリムカバー部材31のウレタン層312及びトリムカバー部材32のウレタン層322がウレタンパッド80と接着される。
【0034】
これにより、シートクッション2及びシートバック3に、それぞれウレタンパッド80に凹が形成されていなくてもトリムカバーを形成するトリムカバー部材21(31)と22(32)との縫合部分が平坦な形状を有する、フラットシーム部23及び33を形成することができる。
【0035】
搭乗者が車両用シート1への着席及び離席を繰り返すことにより、トリムカバー部材31及び32とウレタンパッド80との間にずれが生じて局所的なしわやだぶつきが生じてしまい可能性がある。しかし、本実施例においては、下糸53のホットメルトによりトリムカバー部材31のウレタン層312及びトリムカバー部材32のウレタン層322がウレタンパッド80と接着されているので、局所的なしわやだぶつきの発生を防止することができる。
【0036】
上記した実施例は、シートクッション2及びシートバック3に適用して例について説明したが、それ以外の部分、例えば図示していないヘッドレストやアームレストにも適用することができる。
【0037】
本実施例によれば、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことが可能になり、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようになった。
【0038】
また、本実施例によれば、下地のクッション材であるウレタンパッドに凹面を形成することなく、ウレタンパッドの平坦な面上を縫合部に装飾性を持たせたトリムカバーで覆ったフラットシームが形成された車両用シートを提供することができる。
【実施例2】
【0039】
実施例1においては、2枚のトリムカバー部材を重ね合せた状態で本縫いして2枚のトリムカバー部材を繋ぎ合わせた後に、ファッション性のある環縫いを施す例を示した。これに対して、本実施例においては、本縫いによる繋ぎ合わせを行わずに2枚のトリムカバー部材にファッション性のある環縫いを施す例について、図9から図12を用いて説明する。
【0040】
本実施例においては、先ず、図9に示すように、2枚のトリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)との先端部分をつき合わせ、このつき合わせた部分241(341)の両側において、裏面のウレタン層2121(3121)と2221(3221)とを接着テープ90で貼り合わせる。
【0041】
次に、図10に示すように、アパレル用のミシンを用いて、接着テープ90で貼り合わせた部分を環縫いする。図10において、部品番号60は、アパレル用のミシンの押さえ金具61と針62とを合わせた機構部を示している。接着テープ90で貼り合わせ状態のトリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)とを図示していないアパレル用ミシンの送り機構で送り出しながら、押さえ金具61と2本の針62とを上下させることにより、下糸253及び縦糸251,252とで、ファッション性のある環縫いを施すことができる。これにより、トリムカバー部材の縫合部分に装飾性を持たせることができる。ここで、下糸253として、ホットメルト糸を用いる。このホットメルト糸は、熱を加えると糸の中心部分を残してその外周部分が溶けるような材料で形成されている。
【0042】
図11Aに、つき合わせた先端部分に沿って、トリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)とに環縫い250を施してトリムカバー20-1(30-1)を形成した状態を、トリムカバー20-1(30-1)の表面の側から見た図を示す。トリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)とは、環縫い250により縫合されている。これにより、トリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)とは、トリムカバー20-1(30-1)を構成するトリムカバー部材として十分な強度を持って繋ぎ合わされた上で、ファッション性の高い環縫いが施された部分が、表面に現れることになる。
【0043】
図11Bに、環縫い250を施したトリムカバー20-1(30-1)を、裏面の側から見た図を示す。トリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)との、接着テープ90で貼り合わせた部分が、縦糸251,252と、下糸253とにより環縫い250が施されている状態を示している。
【0044】
図12に、この縫合したトリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)のうち、シートバック3の側のトリムカバー30-1を構成するトリムカバー部材31-1と32-1とをウレタンパッド80に重ねた状態の断面図を示す。縫合した部分331において、この縫合したトリムカバー部材31-1と32-1とをウレタンパッド80に重ねた場合、トリムカバー部材31-1と32-1とを縫合した部分331はほぼ平坦になる。したがって、縫合した部分331が当接するウレタンパッド80の側に溝を形成しなくても、トリムカバー部材31-1と32-1との縫合部分の突出が目立たなくなる。
【0045】
この状態で縫合した部分331を含むその周辺を加熱すると、下糸253のホットメルトが溶ける。この溶けたホットメルトを冷却することにより、下糸253と接触しているトリムカバー部材31-1のウレタン層3121及びトリムカバー部材32-1のウレタン層3221がウレタンパッド80と接着される。
【0046】
これにより、シートクッション2及びシートバック3に、それぞれウレタンパッド80に凹が形成されていなくてもトリムカバー部材21-1(31-1)と22-1(32-1)との縫合部分が平坦な形状を有する、フラットシーム(実施例1における図1の23及び33に相当)を形成することができる。
【0047】
搭乗者が車両用シート1への着席及び離席を繰り返すことにより、トリムカバー部材31-1及び32-1とウレタンパッド80との間にずれが生じて局所的なしわやだぶつきが生じてしまい可能性がある。しかし、本実施例においては、下糸253のホットメルトによりトリムカバー部材31-1のウレタン層3121及びトリムカバー部材32-1のウレタン層3221がウレタンパッド80と接着されているので、局所的なしわやだぶつきの発生を防止することができる。
【0048】
上記した実施例は、シートクッション2及びシートバック3に適用して例について説明したが、それ以外の部分、例えば図示していないヘッドレストやアームレストにも適用することができる。
【0049】
本実施例によれば、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことが可能になり、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようになった。
【0050】
また、本実施例によれば、縫合部に装飾性を持たせたトリムカバーで覆うことにより、ウレタンパッドの表面に凹凸がない平坦なフラットシームが形成された車両用シートを提供することができる。
【実施例3】
【0051】
実施例1においては、2枚のトリムカバー部材を重ね合せた状態で本縫いして2枚のトリムカバー部材を繋ぎ合わせた後に、ファッション性のある環縫いによりフラット-ダブルステッチ加工を施した例を説明した。これに対して、本実施例では、本縫いして2枚のトリムカバー部材を繋ぎ合わせた部分に沿ってテープ材を重ねた状態でファッション性のある環縫いによりフラット-クワッドステッチ加工を行う例について説明する。
【0052】
本実施例において、2枚のトリムカバー部材を重ね合せた状態で本縫いして2枚のトリムカバー部材を繋ぎ合わせるまでの工程は、実施例1で図2乃至5を用いて説明した工程と同じである。
【0053】
実施例1において図6を用いて説明した環縫い50を施す工程に対応する工程として、図13に示すように、縫合したトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)とを左右に開いた状態で、縫合した部分に沿ってテープ材551を重ねる。このテープ材551と、縫合されて左右に開いたトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)とを、複数の針と複数の糸を用いてニット素材などを縫うロック(環縫)ミシンを用いて環縫いしている状態を示す。テープ材551は、皮革や編物、織物、不織布、樹脂などで形成されている。
【0054】
図13において、部品番号610は、ロックミシンの押さえ金具611と針621とを合わせた機構部を示している。なお、図13においては、針621を4本備えて構成を示したが、針621の本数はこれに限られるものではなく複数備えていれば良く、例えば2本であっても良い。
【0055】
縫合した部分を中心に左右に開いたトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)とを図示していないロックミシンの送り機構で送り出しながら、押さえ金具611と4本の針621とを上下させることにより、上糸531、下糸532、及び縦糸511、512、513、514とで、ファッション性のある環縫い(フラット-クワッドステッチ)を施すことができる。これにより、トリムカバー部材の縫合部分に装飾性を持たせることができる。ここで、下糸532として、ホットメルト糸を用いる。このホットメルト糸は、熱を加えると糸の中心部分を残してその外周部分が溶けるような材料で形成されている。
【0056】
縫合したトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)とを左右に開き、縫合した部分に沿ってテープ材551を重ねた状態で環縫い(フラット・クワッドステッチ)を施すことにより、トリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)との縫合した部分にうねりや曲がりが発生していてもテープ材551で隠すことができる。これにより、環縫い(フラット-クワッドステッチ)を施した部分の外観の品質を一定に保つことができる。
【0057】
ここで、本縫い部分41から端部40までの距離が長すぎると、本縫い部分41から先の端部40までが下側に長く突き出す形になる。このような状態で、縫合したトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)とを左右に開いて、アパレル用のミシンにセットすると、縫合した部分24(34:図5参照)がその周辺のトリムカバー部材2102(3102)と2202(3202)の部分よりも高く突き出してしまうことになる。その結果、アパレル用のミシンによる環縫いが正常に行われなくなり、不良品となってしまう可能性が高くなる。
【0058】
このような状況の発生を防ぐには、実施例1の場合と同様に、端部40から本縫い部分41までの距離は、1.5mm±1mmに設定するのが良い。これにより、環縫いした部分がその周辺部分に対して比較的平坦な、フラット-クワッドステッチ加工を施すことができる。
【0059】
上記した実施例は、シートクッション2及びシートバック3に適用して例について説明したが、それ以外の部分、例えば図示していないヘッドレストやアームレストにも適用することができる。
【0060】
本実施例によれば、車両用のトリムカバーのような厚みのある生地に、ファッション性のある環縫いを施すことが可能になり、トリムカバーの縫合部分に装飾性を持たせることができるようになった。
【0061】
また、本実施例によれば、下地のクッション材であるウレタンパッドに凹面を形成することなく、ウレタンパッドの平坦な面上を縫合部に装飾性を持たせたトリムカバーで覆ったフラットシームが形成された車両用シートを提供することができる。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・車両用シート 2・・・シートクッション 3・・・シートバック 20,30・・・トリムカバー 21,22,31,32、21-1、22-1、31-1,32-1・・・トリムカバー部材 23,33・・・フラットシーム部 41・・・本縫い部分 50,250・・・環縫い部分 60・・・ロックミシンの機構部 61、611・・・押さえ金具 62・・・針 80・・・ウレタンパッド 90・・・接着テープ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13